説明

建物

【課題】制振装置に不具合が発生した場合でも建物への影響を軽減可能にすることを目的とする。
【解決手段】制振装置のダンパと建物の固定を解除するフリー機構を設けると共に、フリー機構を作動させるソレノイドを設け、ダンパの荷重が予め定めた閾値以上となる異常なダンパを検出し(104)、異常なダンパのソレノイドを駆動することにより、ダンパと建物10の固定を解除する(106)。また、水平剛性バランス(捩れ)を演算して(108)、捩れが所定値以上の場合には(110)、他のダンパのソレノイドを作動して他のダンパと建物の固定を解除する(112、114)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物にかかり、特に、建物との固定を解除可能な制振装置を備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の地震等による揺れを低減させる技術として、ダンパやアクチュエータを用いて振動を減衰する種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、地震が発生して水平方向に沿って振動したときに、コントローラがアクチュエータのロッドの変位を制御して、振動を減衰することが提案されている。
【0004】
また、特許文献1に記載の技術では、アクチュエータに許容荷重以上の荷重が作用して、アクチュエータが破損しないように、アクチュエータに作用する荷重が許容荷重を超える前に、固定部分を摺動させるフェールセーフ機構を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−106880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、アクチュエータが破損しないように荷重を逃がすフェールセーフ機構を備えているので、アクチュエータが破損しないようにすることができるものの、アクチュエータに不具合が発生してしまった場合のフェールセーフについて考慮されていない。すなわち、アクチュエータに不具合が発生しているときに地震が発生した場合には、フェールセーフ機構は作動するものの、アクチュエータの許容荷重に近い荷重が建物の外壁に作用し続けることになるので、建物の外壁を破損する虞があり、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、制振装置に不具合が発生した場合でも建物への影響を軽減可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の建物は、建物内部に解除可能に固定され、固定された状態で地震による建物の振動を減衰して制振する制振装置と、前記制振装置と建物との固定を解除する解除機構と、前記解除機構によって前固定を解除すべき所定条件を検出する検出手段と、前記検出手段によって前記所定条件が検出された場合に、前記制振装置と建物との固定を解除するように前記解除機構を制御する制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、制振装置は、建物内部に解除可能に固定され、固定された状態で地震による建物の振動を減衰して制振し、解除機構は、制振装置と建物との固定を解除する。例えば、請求項4に記載の発明のように、制振装置は、建物と接続されるロッドを有する油圧ダンパを適用して、解除機構は、ロッドと建物との固定をアクチュエータ等を用いて解除する機構を適用することができる。
【0010】
また、検出手段では、解除機構によって固定を解除すべき所定条件が検出される。検出手段は、例えば、所定条件として、制振装置の異常、所定以上の制振装置への荷重、及び所定以上の制振装置のストロークの少なくとも1つを検出する。
【0011】
そして、制御手段では、検出手段によって所定条件が検出された場合に、制振装置と建物との固定を解除するように解除装置が制御される。
【0012】
すなわち、制振装置に異常が発生したり、所定値以上の荷重が作用したり、所定値以上のストロークとなったりした場合に、解除機構を制御して制振装置と建物との固定が解除されるので、制振装置に不具合が発生した場合でも建物への影響を軽減することができる。
【0013】
なお、請求項2に記載の発明のように、制振装置は、建物内部のそれぞれ異なる位置に複数設けられ、制御手段が、検出手段によって所定条件が検出された場合に、固定を解除すべき制振装置の位置に基づいて、建物の捩れが少なくなるように他の制振装置の固定を解除するように解除機構を制御するようにしてもよい。この場合には、請求項3に記載の発明のように、制御手段は、解除機構の固定の解除による建物の水平剛性変化に基づく偏心を考慮して、他の制振装置の固定を解除するように解除機構を制御するようにしてもよい。これによって、解除機構によって制振装置と建物の固定が解除されたときに、当該解除によって建物の水平剛性が変化して建物が捩れやすくなってしまう場合があるが、水平剛性の変化を小さくして建物の捩れを軽減することが可能となる。
【0014】
また、解除機構は、請求項5に記載の発明のように、制振装置と建物との間に揺動可能に設けられた揺動部材を有し、該揺動部材を揺動することによって建物との固定を解除する構成を適用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、建物と制振装置との固定を解除すべき所定条件が検出された場合に建物と制振装置との固定を解除するように制御可能な構成を有するので、制振装置に不具合が発生した場合でも建物への影響を軽減可能にすることができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係わる建物の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係わる建物に設けられた制振装置の概略構成を示す図である。
【図3】ダンパに設けられたフリー機構の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係わる建物に設けられた制振装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係わる制振装置においてフェールセーフプログラムを実行した場合の処理の流れを表すフローチャートである。
【図6】(A)は建物に2つの制振装置が設けられた例を示し、(B)はダンパの異常によりフリー機構を作動した場合の剛心の移動を示し、(C)は他のダンパのフリー機構を作動して剛心を元に戻した例を示す図である。
【図7】ダンパに設けられたフリー機構の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係わる建物の概略を示す図である。
【0018】
本発明の実施の形態に係わる建物は、複数個(図1では8個)の建物ユニット12からなるユニット建物の住宅を一例として説明するが、ユニット建物に限定されるものではなく、他の構造の建物を適用するようにしてもよい。
【0019】
なお、説明の便宜上、建物ユニット12の各部材に名称付けをしておく。建物ユニット12は、4本の柱14と、互いに平行に配置された長短二組の天井大梁16、18と、これらの天井大梁16、18に対して上下に平行に配置された長短二組の床大梁20、22とを備えており、梁の端部を天井と床の仕口に溶接することによりラーメン構造として構成されている。但し、ユニット構成は上記に限られることなく、他の箱形の架構構造としてもよい。
【0020】
本実施の形態では、天井大梁16、18、及び床大梁20、22に、断面コ字形状のチャンネル鋼(溝形鋼)が用いられている。
【0021】
建物ユニット12は、矩形枠状に組まれた天井フレーム24と床フレーム26とを備えており、これらの間に4本の柱14が立設される構成となっている。天井フレーム24は四隅に天井仕口部(柱)27を備えており、この天井仕口部27に長さの異なる天井大梁16、18の長手方向の端部が溶接されている。
【0022】
同様に、床フレーム26は四隅に床仕口部(柱)28を備えており、この床仕口部28に長さの異なる床大梁20、22の長手方向の端部が溶接されている。
【0023】
そして、上下に対向して配置された天井仕口部27と床仕口部28との間に、柱14の上下端部が溶接により剛接合されて及びボルトにより仮固定されて建物ユニット12が構成される。
【0024】
次に、本発明の実施の形態に係わる建物10に備えた制振装置について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係わる建物10に設けられた制振装置の概略構成を示す図である。
【0025】
図1、2に示すように、本発明の実施の形態に係わる建物10に備えた制振装置30は、天井大梁16と床大梁22との間に設けられている。なお、床大梁20と天井大梁18との間に設けるようにしてもよい。
【0026】
本実施の形態の制振装置30は、以下に説明する、第1の延材32、ダンパ34、第2の延材36から構成されている。なお、制振装置30の構成は、一例として説明するが、これに限定されるものではなく、他の構成としてもよい。
【0027】
図2に示すように、床大梁22の上面には、制振装置30を構成する第1の延材32が設置されている。
【0028】
第1の延材32は、鉛直方向に伸びる鋼製の第1の柱部材38、及び第1の柱部材38に対して傾斜する第2の柱部材40を備えている。第2の柱部材40の上端は、第1の柱部材38の側面上側に溶接されている。なお、第1の延材32の形状は他の形状であってもよい。
【0029】
第1の柱部材32の下端には、床大梁22に取り付けるためのフランジ板42が溶接されている。なお、第2の柱部材40の下端にも同様にフランジ板42が溶接されている。
【0030】
なお、図2では省略するが、床大梁22の内部には、鋼板で形成された枠形のブラケットが挿入されており、ブラケットの上面は床大梁22の上側部分、ブラケットの下面は床大梁22の下側板部分に密着して床大梁を補強している。
【0031】
フランジ板42、床大梁22の上側板部分、及びブラケットの上部は、図示しないボルトで互いに連結されており、床大梁22の下側板部分、及びブラケットの下部は、基礎44に固定されたアンカーボルトで固定されている。
【0032】
第1の柱部材38の上端付近の側面には、第1のダンパ取付部材46が固定されており、天井大梁16の下面には、第2の延材36が固定されている。
【0033】
なお、天井大梁16と、第1の柱部材38との間には、間隙が設けられているものとする。
【0034】
第1のダンパ取付部材46と第2の延材36との間にはダンパ34が水平に配置されており、ダンパ34は、一端がピン46Aを介して第1のダンパ取付部材46に連結され、他端が後述するダンパ34の固定をフリーにするためのフリー機構(詳細は後述)を介して第2の延材36に連結されている。
【0035】
ダンパ34は、第1のダンパ取付部材46と第2の延材36との相対変位(床大梁22の軸方向、及び天井大梁16の軸方向の相対変位であって、図2の矢印A方向の相対変位。)時に減衰力を発生する。例えば、ダンパ34は、ダンパ34内部に設けたオリフィスをオイルが通過することによって振動を減衰させるもの(自動車のショックアブソーバー等のオイルダンパ)を適用するようにしてもよいし、地震による揺れを回転運動に変換し、ダンパ34の内部に設けた回転体の周囲の粘性体(例えば、シリコーンオイル)の抵抗によって振動を減衰させるものを適用するようにしてもよい。なお、ダンパ34は、図2の矢印A方向の相対変位時減衰力を発生するものであれば、オイルダンパや粘弾性ダンパ等の周知のダンパ(例えば、速度依存型のダンパ等のダンパ)を用いることができる。
【0036】
なお、制振装置30は、建物10の建築後に後付可能としてもよい。例えば、制振パネルとしてパネル内に制振部材などの制振装置を設けてパネル交換等によって後付可能とすることができる。
【0037】
ところで、ダンパ34に不具合が発生して、伸縮不可能となった場合には、ダンパ34の接合部や周辺部材(例えば、大梁や基礎等)に損傷を生じる可能性があるため、ダンパ34の不具合による建物10の損傷を防ぐために、上述したように、ダンパ34の固定部分をフリー化してダンパ34と建物10との固定を解除するフリー機構を有している。図3は、ダンパ34に設けられたフリー機構の構成例を示す図である。
【0038】
フリー機構50は、図3に示すように、ダンパ34のロッド34A内に2つの球状部材35が設けられていると共に、当該球状部材35を第2の延材36方向(ロッド34Aの外側方向)に付勢するためのソレノイド80が設けられて構成されている。
【0039】
ソレノイド80は、ダンパ34に不具合が発生していない通常の状態では、2つの球状部材35を第2の延材36方向へ付勢することによって、第2の延材36の球状部材35の当接部分に設けられた窪み36Aに球状部材35が嵌合することによって、ダンパ34のロッド34Aが第2の延材36に固定されてダンパ34と建物10とが接続される。
【0040】
そして、ダンパ34に不具合が発生した場合には、ソレノイド80を駆動することにより、2つの球状部材35の第2の延材36方向への付勢が解除されることによって、2つの球状部材35がロッド34Aの中心方向へ移動して、第2の延材36の窪み36Aと球状部材35との嵌合が解除されることによって、ダンパ34がフリーとなり建物との固定が解除される。
【0041】
続いて、上述のように構成された建物10の制振装置30の制御系について説明する。図4は、本発明の実施の形態に係わる建物10に設けられた制振装置30の制御系の構成を示すブロック図である。
【0042】
制振装置30の制御系は、パーソナルコンピュータ(PC)52を含んで構成されている。PC52は、CPU54、ROM56、RAM58、及び入出力ポート60を備えている。これらがアドレスバス、データバス、及び制御バス等の各種バスを介して互いに接続されている、入出力ポート60には、各種の入出力機器として、ディスプレイ62、マウス64、キーボード66、ハードディスク(HD)68、及び各種ディスク(例えば、CD−ROMやDVD等)72から情報の読み出しを行うディスクドライブ70が各々接続されている。
【0043】
入出力ポート60には、上述のソレノイド80が接続されていると共に、ダンパ34に加わる荷重を検出する荷重センサ82が接続されている。荷重センサ82は、例えば、ダンパ34の両端等に設けられ、ダンパ34が作動したときにダンパ34に加わる荷重を検出して、検出結果をPC52へ出力する。すなわち、PC52では、荷重センサ82の検出結果からダンパ34の不具合を判断し、不具合が発生している場合にソレノイド80を駆動してダンパ34のフリー機構50を作動してダンパ34の固定をフリーにするように制御する。
【0044】
また、PC52のHDD68には、ソレノイド80を駆動して建物10への損傷を防止するためのフェールセーフプログラムがインストールされている。なお、フェールセーフプログラムをPC52にインストールするには、幾つかの方法があるが、例えば、フェールセーフプログラムをセットアッププログラムと共にCD−ROMやDVD等に記憶しておき、ディスクドライブ72にディスクをセットし、CPU54に対してセットアッププログラムを実行することによりHDD68にフェースセーフプログラムをインストールするようにしてもよいし、公衆電話回線やネットワーク74を介してPC52と接続される他の情報処理機器と通信することで、HDD68にフェールセーフプログラムをインストールするようにしてもよい。
【0045】
次に、上述のフェールセーフプログラムを実行した場合の処理の流れについて説明する。図5は、本発明の実施の形態に係わる制振装置30においてフェールセーフプログラムを実行した場合の処理の流れを表すフローチャートである。なお、フェールセーフプログラムは、例えば、制振装置30を設置時に起動し、ダンパ34の異常を常時監視するものとして説明する。
【0046】
まず、ステップ100では、荷重センサ82の検出結果が取得されてステップ102へ移行する。すなわち、荷重センサ82によって検出されたダンパ34に加わる荷重の検出結果がCPU54に取り込まれる。
【0047】
ステップ102では、ダンパが作動したか否かがCPU54によって判定される。該判定は、荷重センサ82によって荷重が検出されたか否か等を判定し、該判定が否定された場合にはステップ116へ移行し、肯定された場合にはステップ104へ移行する。
【0048】
ステップ104では、異常ダンパ34があるか否かがCPU54によって判定される。該判定は、荷重センサ82の検出結果が予め定めた閾値以上のダンパ34があるか否かを判定し、該判定が否定された場合にはステップ116へ移行し、肯定された場合にはステップ106へ移行する。
【0049】
ステップ106では、異常のダンパ34のフリー機構50が作動されてステップ108へ移行する。すなわち、CPU54がソレノイド80に対して作動指示を出力することによって、ソレノイド80が作動し、フリー機構50の球状部材35がロッド34Aの中心側へ移動して、ダンパ34と建物の固定が解除されてダンパ34がフリー状態に制御される。
【0050】
ステップ108では、水平剛性バランスがCPU54によって演算されてステップ110へ移行する。すなわち、ダンパ34のフリー機構50を作動することによって、建物10の水平剛性バランスが崩れて剛心が移動し、建物10の捩れが大きくなる可能性があるので、建物10の水平剛性が演算される。水平剛性は、建物10の水平剛性を算出するための構造に関する情報や、予め算出した制振装置30(ダンパ34)の等価剛性をHDD68等に記憶しておき、フリーとしたダンパ34の等価剛性を0として、各通りの変位を算出し、偏心や捩れを数値化したりすることにより、水平剛性のバランスを演算する。
【0051】
ステップ110では、捻れが所定値以上か否かがCPU54によって判定される。すなわち、ステップ108で演算された水平剛性バランスが所定値以上か否かを判定し、該判定が否定された場合にはそのままステップ116へ移行し、肯定された場合にはステップ112へ移行する。
【0052】
ステップ112では、捩れを減少するためにフリー機構50を作動する他のダンパ34がCPU54によって演算によって求められてステップ114へ移行する。すなわち、フリー機構50を作動することによって建物10の捩れが小さくなるダンパ34を演算によって求める。なお、建物10の捩れが小さくなるダンパ34を求める際には、各ダンパ34のフリー機構50を作動した場合の各水平剛性を算出して、元の水平剛性に近くなる場合のフリー機構50を作動するダンパ34を求める。
【0053】
ステップ114では、対応するダンパ34のフリー機構50が作動されてステップ116へ移行する。すなわち、CPU54がステップ112で求めたダンパ34に対応するソレノイド80に対して作動指示を出力することによって、ソレノイド80を作動させることで、フリー機構50の球状部材35がロッド34Aの中心側へ移動し、ダンパ34がフリー状態に制御される。
【0054】
ステップ116では、システムがオフされたか否かがCPU54によって判定される。該判定は、フェースセーフプログラムの終了が指示されたか否かを判定したり、PC52の電源のオフが指示されたか否か等を判定し、該判定が否定された場合にはステップ100に戻って上述の処理が繰り返され、判定が肯定されたところでフェールセーフプログラムの処理を終了する。
【0055】
このように、本実施の形態に係わる建物10では、制振装置30のダンパ34に異常が発生した場合には、当該ダンパ34のフリー機構50が作動されて、ダンパ34と建物10との固定が解除されてダンパ34がフリー状態に制御される。これによって、ダンパ34の異常等による建物10の損傷を防止することができる。
【0056】
また、ダンパ34のフリー機構50を作動した場合には、水平剛性が崩れて剛心が移動して建物10の捩れが大きくなることがあるので、本実施の形態では、フリー機構50を作動することによる水平剛性の変化に基づく偏心を考慮して、捩れを減少させるために他のダンパ34のフリー機構50を作動するようにしている。これによって剛心のずれが抑制されて建物10の損傷を確実に防止することができる。
【0057】
例えば、図6(A)に示すように、2つの制振装置30が建物10に設けられていた場合には、一方の制振装置30のダンパ34に異常が発生して、異常のダンパ34のフリー機構50を作動したとすると、図6(B)に示すように、剛心が移動して異常のダンパ34が設けられた通りの変形が大きくなり、損傷が集中する可能性がある。そこで、本実施の形態では、他方のダンパ34のフリー機構50も作動して、図6(C)に示すように、剛心のずれを元に戻すように制御する。これによって、建物10の捩れを小さくなり、損傷が集中するのを防止することができる。
【0058】
続いて、ダンパ34のフリー機構の他の構成例について説明する。図7は、ダンパ34に設けられたフリー機構の他の構成例を示す図である。
【0059】
図7の例のフリー機構51では、第2の延材36に対して揺動部材84がピン86によって軸支されており、第2の延材36に対して揺動部材84がピン86を回転中心に揺動可能に設けられている。また、揺動部材84には、ダンパ34のロッド34Aが固定ピン88によって固定されている。
【0060】
また、第2の延材36には、ダンパ34と反対側への揺動部材84の揺動を阻止するためのストッパ部材90が設けられている。
【0061】
ストッパ部材90は、モータ等のアクチュエータ92によって、図7矢印B方向へ移動可能とされている。すなわち、ストッパ部材90による揺動部材84の揺動阻止と、当該阻止の解除が可能とされている。
【0062】
このようにフリー機構51を構成してもダンパ34をフリー化させることができる。すなわち、アクチュエータ92を駆動してストッパ部材90を揺動部材84の揺動を阻止する位置に移動することにより、揺動部材84が制止されてダンパ34が制振装置30として機能し、ダンパ34に異常が発生した場合にCPU54の指示によりアクチュエータ92を作動して、ストッパ部材90による揺動部材84の揺動の阻止を解除することによって、ダンパ34をフリー化させることが可能となる。
【0063】
なお、上記の実施の形態では、荷重センサ82によってダンパ34に作用する荷重を検出するようにしたが、これに限るものではなく、例えば、歪みセンサをダンパ34のロッド34A等に設けてダンパ34に作用する荷重によるロッド34Aの歪みを検出することによってダンパ34へ作用する荷重を検出するようにしてもよいし、他のセンサを用いるようにしてもよい。
【0064】
また、上記の実施の形態では、ダンパ34に作用する荷重が予め定めた値以上か否かを判断してダンパ34の異常を検出し、ダンパ34の異常を検出した場合に、フリー機構50を作動するように制御するようにしたが、これに限るものではなく、例えば、ダンパ34のストロークを検出するセンサ等を設けて、所定値以上のストロークを検出した場合に、フリー機構50を作動するように制御してもよい。また、制振装置30の異常は、荷重以外の物理量(例えば、ダンパ34の温度等)を検出して判断するようにしてもよい。さらには、制振装置30の異常の検出、予め定めた値以上の荷重の検出、及び予め定めた値以上のストロークの検出の少なくとも1つが検出された場合に、フリー機構50を作動するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 建物
30 制振装置
34 ダンパ
50、51 フリー機構
52 パーソナルコンピュータ
80 ソレノイド
82 荷重センサ
84 揺動部材
90 ストッパ部材
92 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内部に解除可能に固定され、固定された状態で地震による建物の振動を減衰して制振する制振装置と、
前記制振装置と建物との固定を解除する解除機構と、
前記解除機構によって前固定を解除すべき所定条件を検出する検出手段と、
前記検出手段によって前記所定条件が検出された場合に、前記制振装置と建物との固定を解除するように前記解除機構を制御する制御手段と、
を備えた建物。
【請求項2】
前記制振装置は、建物内部のそれぞれ異なる位置に複数設けられ、
前記制御手段は、前記検出手段によって所定条件が検出された場合に、前記固定を解除すべき制振装置の位置に基づいて、建物の捩れが少なくなるように他の制振装置の前記固定を解除するように前記解除機構を制御する請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記制御手段は、前記解除機構の前記固定の解除による建物の水平剛性変化に基づく偏心を考慮して、前記他の制振装置の前記固定を解除するように前記解除機構を制御する請求項2に記載の建物。
【請求項4】
前記制振装置は、建物と接続されるロッドを有する油圧ダンパからなり、前記解除機構は、前記ロッドと建物との固定を解除する請求項1〜3の何れか1項に記載の建物。
【請求項5】
前記解除機構は、前記制振装置と建物との間に揺動可能に設けられた揺動部材を有し、該揺動部材を揺動することによって前記固定を解除する請求項1〜4の何れか1項に記載の建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−127087(P2012−127087A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278175(P2010−278175)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(504093467)トヨタホーム株式会社 (391)
【Fターム(参考)】