建築構造物用の振動低減装置
【課題】建築構造物に対してマス部材をゴムマウントで弾性支持せしめることにより副振動系を構成した振動低減装置において、温度変化等に起因して副振動系の主振動系に対する同調状態が変化した場合でも、安定した防振効果を得ることの出来る、新規な振動低減装置を提供すること。
【解決手段】建築構造物12の防振すべき振動に応じた最適質量を、全体の合計質量として与える複数の分割マス14を採用し、それら各分割マス14を、それぞれ、ゴムマウントにより、建築構造物12に対して、相互に独立的に弾性支持せしめて、複数の分割副振動系17を構成する。そして、それら各分割副振動系17に対して、異なる固有振動数を設定した。
【解決手段】建築構造物12の防振すべき振動に応じた最適質量を、全体の合計質量として与える複数の分割マス14を採用し、それら各分割マス14を、それぞれ、ゴムマウントにより、建築構造物12に対して、相互に独立的に弾性支持せしめて、複数の分割副振動系17を構成する。そして、それら各分割副振動系17に対して、異なる固有振動数を設定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築構造物に対する副振動系を構成して、主振動系たる建築構造物に対する動的吸振効果を発揮し得る振動低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般住宅等の建築構造物では、交通振動や風等の外力が加振力として作用することによって振動が発生する場合がある。特に、近年では、一般住宅でも2階建や3階建が多くなってきており、それらの住宅において、交通振動による微震動が、例えば就寝時における不快音や不快振動等の原因として問題となってきている。
【0003】
ところで、建築構造物の振動低減装置としては、従来、高層ビルやタワー等の高層建築物の揺れを軽減するためのダンパ装置が、幾つか提案されている。例えば、特開平3−74649号公報や特開平8−338467号公報には、付加質量を建築構造物に対して多段積層ゴムで弾性支持せしめた構造のダンパ装置が開示されている。これらのダンパ装置は、水平方向で一つの副振動系を構成することにより、建築構造物に惹起される水平方向の振動に対して低減効果を発揮するようになっている。
【0004】
ところが、これら従来のダンパ装置では、副振動系に設定された固有振動数と、主振動系としての建築構造物において防振すべき振動との間にずれがあると、有効な振動低減効果が発揮されなくなるという不具合があった。特に、ダンパ装置のバネ部材をゴム弾性体で形成すると、ばね定数が温度依存性を有するために、有効な制振効果を安定して得ることが難しく、例えば、一般住宅で屋根裏にダンパ装置を収容配置しようとすると、屋根裏の温度は零下数十度から60〜70℃もの間で変化するために、基準温度(例えば、20℃)でチューニングしても、目的とする制振効果を安定して得ることは、到底、望めなかったのである。
【0005】
なお、特開平5−149026号公報には、防振しようとする振動周波数と同一の固有振動数にチューニングした副振動系に加えて、それとは異なる固有振動数を有する副振動系を設けたスロッシングダンパ等の振動抑制装置が開示されている。しかしながら、かかる公報に開示された振動抑制装置は、高層ビル等の大型構造物の防振しか考慮されておらず、一般住宅等に設置されるゴムマウントでマス部材を弾性支持せしめた構造の振動低減装置について、必ずしも有効に適用され得るものではなかったのである。具体的には、例えば、かかる公報に記載の振動抑制装置では、複数の副振動系を設置するために、装置全体の総重量が大きくなることが避けられず、そのために、特に一般住宅等では、建築構造物自体の強度不足等から採用が難しい場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開平3−74649号公報
【特許文献2】特開平8−338467号公報
【特許文献3】特開平5−149026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、温度変化等によってチューニング周波数(同調)のずれがあった場合でも、建築構造物において防振すべき振動に対して良好な制振効果を安定して発揮し得る、新規な構造の振動低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体の記載および図面に記載の発明思想に基づいて認識されることが理解されるべきである。
【0009】
本発明の第一の態様は、防振すべき建築構造物に対して、マス部材を、複数のゴムマウントで弾性支持せしめることにより、副振動系を構成した振動低減装置において、前記マス部材を複数の分割マスによって構成し、かかる分割マスの全体の合計質量を、前記建築構造物の防振すべき振動に応じた最適質量に設定すると共に、それら各分割マスを前記ゴムマウントにより前記建築構造物に対して互いに独立して弾性支持せしめて、複数の分割副振動系を構成し、それらの分割副振動系に対して、互いに異なる固有振動数を設定する一方、該複数の分割副振動系の各固有振動数を、基準となる条件下で求められた前記建築構造物の防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方に、それぞれ位置するように設定し、更に、かかる分割副振動系の固有振動数のチューニング範囲を、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に対して上下にそれぞれ30%の周波数範囲内となるように設定すると共に、前記固有振動数が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差を、前記振動低減装置内の各分割副振動系においてそれぞれ異なるように設定したことを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に係る振動低減装置においては、複数の分割副振動系によって複数の固有振動数が設定されることにより、副振動系の防振すべき振動への同調が正確でなかった場合や、温度変化等に伴うチューニングのずれが発生した場合等でも、全体として良好なる制振効果が発揮され得るのである。しかも、そこにおいて、かかる振動低減装置においては、最適質量を分割して複数の分割副振動系が構成されることから、装置全体としての重量増大が有利に回避され得、建築構造物に対して有利に設置可能とされる。また、各分割マスは、ゴムマウントによって弾性支持されることから、独立して任意の場所に設置可能であり、建築構造物に対する装着場所の設定に関して大きな自由度が確保され得る。従って、かかる振動低減装置にあっては、例えば一般住宅等にも、有利に採用され得て、大きな温度変化に晒される場合でも、安定した防振効果を得ることが可能となるのである。
【0011】
なお、複数の分割マスからなるマス部材の最適質量は、例えば、主振動系たる建築構造物の運動方程式と副振動系たる分割副振動系の連立方程式において、主振動系の振幅と副振動系を構成するゴムマウントの振幅(主振動系と副振動系の相対変位の絶対値)を、それぞれ、要求される値以下にするという条件を与えることによって、主振動系の等価質量に対する質量割合として、決定することが出来るが、その際、建築構造物の耐荷重強度等も考慮されるべきである。
【0012】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る振動低減装置において、前記複数の分割副振動系の各固有振動数を、基準となる条件下で求められた前記建築構造物の防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方に、それぞれ位置するように設定したことを、特徴とする。これにより、より広範な原因による副振動系の主振動系に対するチューニング特性の変化に際しても、有効な振動低減効果を得ることが可能となる。なお、基準となる条件とは、例えば、最も頻繁に生ずる条件をいう。
【0013】
また、本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る振動低減装置において、前記複数の分割副振動系を構成する分割マスの少なくとも一つを、他の分割マスとは異なる質量とすると共に、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に最も近い固有振動数に設定した分割副振動系において、最も大きな質量の分割マスを採用したことを、特徴とする。このような本態様に係る振動低減装置では、最も大きな質量の分割マスを有する分割副振動系が、主振動系における防振すべき振動に略同調された、最も高い頻度で現出される状況下で、かかる最も大きな質量の分割マスを有する分割副振動系による制振効果が、より有効に発揮されるのである。即ち、チューニング誤差や温度変化等を考慮した多数の振動低減装置における長期間に亘る制振効果をトータルに捉えれば、本態様に従う構造を採用することによって、制振効果の向上が図られ得るのである。
【0014】
また、本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る振動低減装置において、前記分割副振動系を、何れも、一般住宅における最上階の天井部分に支持せしめて、屋根裏に収容配置したことを、特徴とする。このような本態様に係る振動低減装置においては、一般住宅における振動低減装置の設置スペースを有利に確保することが出来ると共に、振動モード的にも優れた制振効果を得ることが出来る。しかも、ゴムマウントの温度変化によるチューニングのずれに伴う制振効果の低下は、異なる固有振動数を設定した複数の分割副振動系によって軽減乃至は回避されることから、屋根裏の著しい温度変化に晒されても、安定した制振効果が発揮されるのである。なお、一般住宅とは、個人住宅や集合住宅であって、高層ビルに属しない1〜数階建の建築住宅をいい、一般に、木造,鉄骨,或いは鉄筋コンクリート等の各種構造を有するものを含む。
【0015】
また、本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に係る振動低減装置において、前記複数の分割副振動系の少なくとも一つを、他の分割副振動系とは異なる構造部材によって支持せしめたことを、特徴とする。本発明では、最適質量のマス部材を複数の分割マスに分割したことによって、複数の構造部材によってマス部材の荷重を分担支持させることが出来るのであり、それによって、本態様の振動低減装置においては、例えば一般住宅等において、建築構造物の耐荷重強度の制限内で、全体として大きな質量のマス部材を有利に装着することが可能となるのである。なお、構造部材としては、建築構造物の構造や種類等に応じて、建築構造物における各種の構成部材(強度部材)が採用され得る。具体的には、例えば一般住宅では、各種の梁やスラブ,桁,縁などの部材に対して、各分割マスを支持せしめることが出来る。
【0016】
また、本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れか一つの態様に係る振動低減装置において、前記副振動系におけるゴムマウントを、それぞれ、前記分割マスに対する取付方向を変更することによって、該分割副振動系における水平な弾性主軸方向のばね定数を調節することの出来る可変ゴムマウントを含んで構成し、各分割副振動系において、かかる可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を異ならせることによって、各分割副振動系に対して相互に異なる固有振動数を設定したことを、特徴とする。なお、本態様において、分割副振動系における弾性主軸とは、分割副振動系に対して、その軸に沿って荷重が入力された際に、荷重の入力方向と、ゴムマウントの弾性変形に伴うマス部材の変位方向とが一致し、且つ分割マスに回転乃至は角変位が生じないような軸をいう。
【0017】
このような第六の態様に係る振動低減装置においては、可変ゴムマウントの分割マスに対する取付方向を変更することによって、分割副振動系における水平な弾性主軸方向の固有振動数を調節することが出来る。それ故、例えば、複数の分割副振動系において、同一のゴムマウントを採用しても、各分割副振動系の固有振動数を異なる値に調節することが出来るのである。しかも、可変ゴムマウントの取付方向に応じて、分割副振動系のばね定数を設定可能であることから、建築構造物の防振しようとする振動に応じて、各分割副振動系の固有振動数を高精度にチューニングすることが出来、それによって、優れた制振効果を容易に得ることが可能となるのである。なお、可変ゴムマウントの取付方向を変更する場合には、分割副振動系全体としての水平方向における弾性主軸の方向が変化しないように、それら可変ゴムマウントの取付方向を変更することが、チューニング作業性および分割副振動系の動的安定性等の点から、より望ましい。
【0018】
なお、かかる第六の態様において採用される可変ゴムマウントの構造は、何等、限定されるものでない。具体的には、例えば、マス部材側に取り付けられる第一の取付部材と、建築構造物側に取り付けられる第二の取付部材を、ゴム弾性体によって弾性的に連結した構造のマウントであって、そのゴム弾性体に肉抜穴や貫通スリット等を設けることによって軸直角方向のばね特性に異方性を付与したり、ゴム弾性体で連結される第一の取付部材と第二の取付部材の対向面を傾斜させることによって軸直角方向の異方性を付与したり、特開平8−338467号公報等に記載されているような傾斜板をゴム弾性体内に埋設固着することによって軸直角方向の異方性を付与すること等によって、軸直角方向のばね特性を中心軸回りにおいて異方性としたゴムマウントを、その略中心軸方向に分割マスの重量が及ぼされる状態で装着せしめて、分割マスに対する取付方向を中心軸回りで変更することによって、分割マスにおける水平な弾性主軸方向でのばね定数を調節可能とした構造のゴムマウント等が採用可能である。或いはまた、軸直角方向のばね特性が、中心軸回りの全方向で同一とされたゴムマウントを用い、該ゴムマウントの分割マスへの取付角度を鉛直方向乃至は水平方向で変更することにより、分割マスにおける水平な弾性主軸方向でのばね定数を調節可能として可変ゴムマウントを構成することも可能である。
【0019】
また、本発明の第七の態様は、前記第六の態様に係る振動低減装置において、その分割副振動系に対して、前記可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を変更設定可能な調節手段を設けたことを、特徴とする。なお、本態様において採用される調節手段としては、例えば、ボルトによる位置決め穴等からなるゴムマウントの取付方向の設定可能位置を、マス部材と建築構造物の少なくとも一方の側に複数設けて、ゴムマウントの取付方向を多段階に調節可能とした構造等が採用可能であり、特に、鉛直方向に延びる中心軸回りの回転によって取付方向を設定する場合等においては、ゴムマウントのマス部材側と建築構造物側への取付部位に摺動プレート等を配設して、中心軸回りの回転により、ゴムマウントの取付方向を無段階に調節可能とした構造等も採用可能である。
【0020】
なお、かかる第七の態様においては、可変ゴムマウントのみで、副振動系のバネ部材を構成する必要はなく、可変ゴムマウントと、副振動系のばね定数の調節に寄与しないゴムマウントを組み合わせてバネ部材を構成することも可能である。また、可変ゴムマウントを複数用いる場合には、その全ての可変ゴムマウントの取付方向を変更する必要はなく、一部の可変ゴムマウントだけの取付方向を調節することによってチューニングすることも可能である。また、バネ部材は、前記特開平8−338467号公報にも記載されているように、ゴムマウントを多段的に積み重ねて構成することも可能であり、その場合には、一部の段階に配設されたゴムマウントだけを可変ゴムマウントとしても良い。
【0021】
また、上述の如く、分割マスに対する取付方向を、中心軸回りで変更することによって、分割副振動系の水平な弾性主軸方向のばね定数を調節する可変ゴムマウントにおいては、例えば、軸直角方向におけるばね定数の最小値と最大値を、互いに直交する軸直角方向に設定することが望ましい。このような構造の可変ゴムマウントを採用すれば、可変ゴムマウントの分割マスに対する中心軸回りの取付角度に応じた、特定方向でのばね定数を容易に且つ精度良く知ることが可能となることから、可変ゴムマウントの取付方向の調節による副振動系のチューニング作業が、一層容易となる。
【0022】
更にまた、本発明の第八の態様は、前記第七の態様に係る振動低減装置であって、前記調節手段を、前記可変ゴムマウントの取付方向を変更するためのアクチュエータ手段と、該アクチュエータ手段を作動制御して該可変ゴムマウントの取付方向を変更するコントロール手段とを含んで構成したことを、特徴とする。このような第八の態様に係る振動低減装置においては、可変ゴムマウントの取付方向の変更によるチューニング作業が一層容易とされるのであり、副振動系を建築構造物に装着した後に、可変ゴムマウントの取付方向を変更してチューニングしたり、再チューニングすることも、容易となる。特に、アクチュエータ手段を遠隔操作するリモートコントロール構造のコントロール手段を採用すれば、建築構造物の完成後や住宅の上棟後等にも、施主等が、容易にチューニング修正を行うことが可能となり、例えば、季節や温度等に応じたチューニングの変更を、手動によって、或いはセンサ等を用いて自動的に実施することにより、より高度な制振効果を得ることが可能となる。
【0023】
また、本発明の第九の態様は、前記第六乃至第八の何れか一つに記載の振動低減装置であって、前記分割副振動系において、前記分割マスの重心を通って水平方向に延びる2本の直交する対称軸を挟んで、それぞれ対称位置するように、前記可変ゴムマウントの複数個を配設すると共に、それらの可変ゴムマウントにおける取付方向を、かかる2本の対称軸を挟んで対称となるように設定したことを、特徴とする。このような本態様に係る振動低減装置では、各分割副振動系において、複数の可変ゴムマウントの取付方向の変更によるバネ部材全体としてのばね定数の調節が容易となると共に、それら複数の可変ゴムマウントの取付方向を変更,調節した場合でも、分割マスの静的及び動的安定性が有利に維持されることにより、目的とする制振効果を安定して得ることが出来る。
【0024】
なお、かかる第九の態様において、可変ゴムマウントのうち各対称軸を挟んで対称位置するもの同志は、互いに同一構造とすることが望ましい。一方、何れの対称軸に関しても対称関係を有しない可変ゴムマウント間では、ばね特性や構造が互いに異なっていても良い。また、可変ゴムマウントにおける取付方向を、2本の対称軸を挟んで対称とする設定は、例えば、何れの対称軸に関しても、その両側で対称位置に配された可変ゴムマウントを、該対称軸に対する傾斜角度が対称的に同じになるように配設することによって、有利に実現され得る。
【0025】
また、かかる第九の態様において、全ての分割副振動系における可変ゴムマウントの配設位置の対称軸としての2本の直交する対称軸は、好ましくはその少なくとも1本、より好ましくはそれらの2本の何れもが、建築構造物において防振すべき振動方向となるように設定される。更に、かかる第九の態様において、望ましくは、全ての分割副振動系において、可変ゴムマウントの配設位置の対称軸としての2本の直交する対称軸が、何れも、分割副振動系全体としての水平方向における弾性主軸として設定される。これにより、分割副振動系の安定性が更に向上されて、目的とする制振効果をより安定して得ることが可能になると共に、分割副振動系のチューニングも容易となる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本発明に従う建築構造物用の振動低減装置によれば、温度変化等に起因して、副振動系における当初のチューニング周波数が、主振動系たる建築構造物の防振すべき振動周波数からずれた場合でも、有効な振動低減効果を、安定して得ることが出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0028】
先ず、図1には、本発明に従う構造とされた建築構造物用の振動低減装置10を、一般の3階建住宅12に装着した状態の概略が示されている。かかる振動低減装置10は、それぞれ独立した複数個の分割マス14と、それら各分割マス14を互いに独立して弾性支持するゴムマウント16から構成されており、各分割マス14がそれぞれ複数個のゴムマウント16によって、住宅12に対して弾性支持されることによって、互いに独立した複数個の分割副振動系17を形成している。なお、本実施形態では、図示されているように、全ての分割副振動系17が、3階建住宅12における3階の天井を構成する構造部材18上に装着されている。
【0029】
より詳細には、各分割副振動系17を構成する分割マス14は、図2にも仮想線で示されているように、金属等の高比重材で形成されており、例えば鉄系や鉛系の金属等で形成されたものが好適に採用される。この分割マス14の形状は特に限定されるものでないが、一般に、板形状のものが好適に採用され、より望ましくは、矩形平板形状や多角形平板形状,円形平板形状等、幅寸法よりも高さ寸法が小さく且つ高さが一定の板形状であって、平面的に複数の対称軸を有する形状が望ましい。このような形状の分割マス14を採用することにより、振動低減装置10を最上階の天井裏20等のスペースに収容状態で有利に設置することが出来ると共に、水平方向の変位に際して各ゴムマウント16に生ぜしめられる角変位を抑えて安定した吸振作用を得ることが可能となる。特に、本実施形態では、高さ寸法が全体に亘って一定とされた、平面矩形の板形状を有する分割マス14が採用されている。
【0030】
また、この分割マス14の質量は、装着される主振動系たる住宅12の質量や振動状態、構造強度等を考慮して適宜に設定されるが、全ての分割副振動系を構成する分割マス14の合計質量が、防振すべき住宅12の防振すべき振動に応じた最適質量を与えるように設定される。具体的には、例えば、主振動系たる住宅12と一つの副振動系からなる2自由度系を考え、この系の運動方程式から主振動系の共振曲線を求めることにより、一般の動的吸振器における最適設計法に従って、最適質量を求めることが出来る。即ち、かかる2自由度系の運動方程式に基づいて、主振動系の振幅が要求される値以下になるように、且つ副振動系を構成するゴムマウント16の振幅(主振動系と副振動系の相対変位の絶対値)が許容値以下となるように、主振動系と副振動系の質量比(μ)を求めることによって、副振動系における分割マス14の最適質量を決定することが出来る。なお、その際、住宅12の耐荷重強度も考慮する必要があり、住宅12の耐荷重強度による制限から、分割マス14の最適質量が決定される場合もある。また、その際、分割マス14の最適質量は、全ての分割マス14の合計質量として与えられるものであることから、各分割マス14の荷重を異なる構造部材に分担支持させることによって、即ち、住宅12を構成する多数の構造部材のうちの異なる構造部材にそれぞれの分割副振動系17を装着して、各分割マス14を異なる構造部材で支持せしめることによって、分割マス14の荷重の集中的作用を回避して、住宅12の耐荷重強度上の理由による分割マス12の荷重制限を緩和することも可能である。因みに、一般的な軽量鉄骨や木造の軸組構造による2〜3階建の住宅の場合では、全ての分割副振動系における分割マス14の合計質量として、100〜1000kg程度、或いはそれ以上の質量が設定される。
【0031】
そして、このようにして求められた最適質量を全体として与えるように、複数の分割マス14の質量が設定されている。この複数の分割マス14への分割形態は、何等限定されるものでなく、例えば、分割数は、製造誤差や温度変化等に起因する考慮すべき主振動系と分割副振動系のチューニング周波数の相対的なずれ変動幅や、主振動系の振動形態(振幅の形態や共振曲線の形態等),要求される振動低減効果の程度等に応じて適宜に設定可能である。また、その際各分割マス14への質量分配の形態も、特に限定されるものでなく、例えば、統計的に防振すべき振動周波数に最も近くなるチューニング周波数を有する副振動系を構成する分割マスに対して最も大きな質量を設定したり、或いは、統計的に防振すべき振動周波数に最も近くなるチューニング周波数を有する副振動系程、質量が大きくなるように段階的に質量を設定することも可能である。特に、本実施形態では、製造の容易性やコスト等を考慮して、同一の材質と形状を有する複数の分割マス14が採用されており、各分割マス14によって、最適質量が等分割されている。
【0032】
また、これら各分割マス14は、それぞれ、複数個のゴムマウント16によって、住宅12の構造部材18に対して弾性支持されており、それによって、分割マス14の数だけ、互いに独立した分割副振動系17が構成されている。ここにおいて、これら複数の分割副振動系17においては、その固有振動数が互いに同一とはされておらず、複数種類の固有振動数が設定されている。なお、固有振動数が同一とされた分割副振動系17があっても良いが、好ましくは、全ての分割副振動系17に対して、互いに異なる固有振動数が設定される。
【0033】
この各分割副振動系17における固有振動数の設定値は、特に限定されるものでなく、製造誤差や温度変化等に起因する考慮すべき主振動系と分割副振動系のチューニング周波数の相対的なずれ変動幅や、主振動系の振動形態(振幅の形態や共振曲線の形態等),要求される振動低減効果の程度等に応じて適宜に設定可能であるが、好ましくは、主振動系たる住宅12において防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方において、それぞれ固有振動数が設定された分割副振動系17が存在するように設定されると共に、該住宅12において防振すべき振動周波数に対する適当な周辺周波数の範囲内に、全ての分割副振動系17の固有振動数が納まるように設定される。このような設定によって、一般住宅における通常の環境下で予想される主振動系(住宅12)と分割副振動系17とのチューニングずれ幅を、有利にカバーすることが出来る。また、望ましくは、特に一般住宅で10dB程度の振動低減効果を目標とする場合においては、複数の分割副振動系17において、固有振動周波数が互いに隣接するもの同士の固有周波数の差を、主振動系(住宅12)において防振すべき振動周波数の5〜30%、より望ましくは10〜20%に設定する。これにより、主振動系の広い周波数域に亘って、有効な振動低減効果を、一層効率的且つ有効に得ることが可能となる。なお、隣接する分割副振動系17,17間の固有振動周波数差が小さ過ぎると、主振動系と副振動系の広いチューニングずれ幅に亘って有効な振動低減効果を効率的に確保することが難しくなるからであり、また、隣接する分割副振動系17,17間の固有振動周波数差が大き過ぎると、それらの分割副振動系17,17の固有振動周波数の中間域で有効な振動低減効果が発揮され難くなるおそれがあるからである。
【0034】
より具体的には、例えば、一般住宅のモデルとして、主振動系の減衰比が1%で、要求される振動低減効果が10dB以上である場合に、主振動系に対する質量比が2%で、ばね部の損失係数が0.1とされた分割副振動系17を採用して、目的とする振動低減装置10を得ることを考えてみる。その結果、分割副振動系17の数に応じて、下記表1の如く、各分割副振動系17の固有振動数を設定することが有効であることを、計算によって確認することが出来た。なお、かかる計算では、主振動系の等価質量を30000kgとし、分割副振動系17の分割マス14の総質量を600kgとした。そして、この表1から分かることとしては、分割副振動系の数を例えば4個の場合で見ると、主振動系の防振すべき振動周波数に対する各分割副振動系の固有振動数比は、0.82、0.93、1.07、1.22であり、固有振動数(表1では固有振動数比で記載)が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差は、それぞれ0.11、0.14、0.15となっていることが分かる。即ち、固有振動数が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差は、それぞれ異なるように設定されている。
【0035】
【表1】
【0036】
そして、このように互いに異なる固有振動数を設定した複数の分割副振動系17によって構成された振動低減装置10における振動低減効果をシミュレーションによって求めた結果を、図3に示す。かかる図3からも、上述の如き構造とされた振動低減装置10においては、十分に広い周波数域に亘って、目的とする振動低減効果を有効に得ることが出来、それ故、例えば、ゴムマウント16の温度変化等に起因して、住宅12において防振すべき振動周波数に対して当初に同調されていた分割副振動系17の固有振動数がずれてしまった場合でも、複数の分割副振動系17の全体として、住宅12に対して有効な制振効果を得ることの出来ることが認められる。なお、複数の分割副振動系17の固有振動数のチューニング範囲は、図示されている如く、一般に、分割副振動系17の数が多い程、広く設定することが出来るが、余り広い範囲に亘って設定すると、防振に有効に寄与しない分割副振動系が存在することとなるおそれがあることから、かかる分割副振動系のチューニング範囲は、主振動系の振動形態や要求される制振効果等を考慮して、適当な範囲、例えば、上述の如き一般住宅の場合で、住宅12において防振すべき振動の周波数に対して上下にそれぞれ30%の周波数範囲内等に設定することが望ましい。
【0037】
ところで、このように複数の分割副振動系17に対してそれぞれ異なる固有振動数を設定するには、例えば、全ての分割副振動系17で、分割マス14の質量とゴムマウント16における防振すべき振動方向のばね定数との、少なくとも何れか一方を異ならせることによって、チューニングすることが可能である。ここにおいて、特に、本実施形態では、前述の如く、全ての分割副振動系17において、同一の分割マス14が採用されており、何れの分割副振動系17においても、それぞれ同一構造とされた複数のゴムマウント16によってバネ系が構成されて、分割マス14が弾性支持されている。
【0038】
かかるゴムマウント16は、何れも水平方向のばね定数が異方性とされており、鉛直方向に延びるマウント中心軸38の回りの各方向(中心軸に直交する各方向)によって、異なるばね特性を有している。なお、前記各分割副振動系17では、同一のゴムマウントを採用して、その装着数を異ならせることでも、水平方向の固有振動数を互いに異なる値に設定することが可能であるが、本実施形態では、何れの分割副振動系17においても、同じ数の同一構造のゴムマウント16によって、バネ系が構成されている。
【0039】
ここにおいて、かかるゴムマウント16は、図4及び図5に示されているように、第一の取付部材としての第一の取付金具22と、第二の取付部材としての第二の取付金具24が、互いに離間して対向配置されていると共に、それら第一の取付金具22と第二の取付金具24が、両金具22,24の対向面間に介装されたゴム弾性体26で弾性的に連結された構造を有している。第一の取付金具22は、断面が逆三角形のブロック形状を有しており、その上底面27の中央には、取付ボルト28が突設されている。また、第二の取付金具24は、矩形平板形状を有しており、中央に位置する平板部30を挟んだ長手方向両側が、第一の取付金具22側(図4中、上側)に斜めに立ち上げられて傾斜板部32,32とされている。また、第二の取付金具24における平板部30の中央には、下方(第一の取付金具22と反対側)に突出する取付ボルト34が固設されている。また、第一の取付金具22における両側の各傾斜面36,36と、第二の取付金具24における両側の各傾斜板部32,32は、マウント中心軸38を挟んだ両側において、該マウント中心軸38に対して略同一角度だけ傾斜した方向で、全面に亘って略一定の間隔を隔てて対向位置せしめられている。そして、これら傾斜面36と傾斜板部32の対向面間に、それぞれ、介装された一対の略矩形ブロック形状を有するゴムブロック40,40によって、第一の取付金具22と第二の取付金具24を弾性連結するゴム弾性体26が構成されている。更に、本実施形態では、第二の取付金具24において、平板部30の一方の側面から外方に向かって突出する位置決め片42が一体形成されている。そして、この位置決め片42には、位置固定用のボルト挿通孔44が形成されている。
【0040】
すなわち、本実施形態のゴムマウント16は、二つの独立したゴムブロック40,40の単体での弾性主軸が互いに傾斜していることから、図4において、マウント中心軸38に沿って延びる鉛直方向の弾性主軸と、紙面に垂直な方向に延びる水平方向の第一の弾性主軸と、図中の左右方向に延びる水平方向の第二の弾性主軸を有している。このような構造とされたゴムマウント16では、水平方向の第一の弾性主軸の方向で、荷重入力時におけるゴム弾性体26の主たる変形が剪断となって、水平方向におけるばね定数が最小となる一方、水平方向の第二の弾性主軸の方向で、荷重入力時におけるゴム弾性体26の主たる変形が圧縮/引張となって、水平方向におけるばね定数が最大となる。これにより、かかるゴムマウント16では、水平方向におけるばね定数の最小値と最大値が、互いに直交する方向に設定されている。なお、以下の説明では、ばね定数が最小値となる水平方向(図4において、紙面に垂直な方向)を、ゴムマウント16における水平基準方向という。
【0041】
そして、かかるゴムマウント16は、その第一の取付金具22が分割マス14に対して固着されている。なお、第一の取付金具22は、その取付ボルト28を分割マス14に対して直接に螺着固定しても良いが、第一の取付金具22の分割マス14に対する取付方向を容易に変更出来るように、例えば、ベアリング機構や摺接プレート機構等を介して、第一の取付金具22を分割マス14に取り付けても良い。また、本実施形態では、図2に示されているように、4個のゴムマウント16が、矩形平板形状の分割マス14における四隅部分に対して、それぞれ取り付けられている。また一方、ゴムマウント16の第二の取付金具24は、図1に示されているように、その取付ボルト34により、3階建住宅12の最上階の天井の構造部材18に対して、第一の取付金具22と同様、直接に、或いはベアリング機構や摺接プレート機構等を介して、取り付けられている。これにより、3階建住宅12の構造部材18に対して、分割マス14が、4個のゴムマウント16を介して、弾性的に取り付けられているのであり、以て、分割マス14をマス部材とし、4個のゴムマウント16をバネ部材とする一つの振動系が構成され、この振動系によって、3階建住宅12からなる主振動系に対する一つの副振動系として機能する分割副振動系17が構成され、更に、このような分割副振動系17が、住宅12に対して、並列的に互いに独立して複数個装着されることによって、振動低減装置10が構成されている。
【0042】
なお、かかる振動低減装置10の装着状態下では、何れの分割副振動系17においても、分割マス14が、水平方向に広がる状態で支持されていると共に、各ゴムマウント16は、何れも、そのマウント中心軸が鉛直方向に延びる状態で配設されている。
【0043】
また、各分割副振動系17を構成するゴムマウント16が取り付けられる、3階建住宅12の構造部材18には、図6に示されているように、それぞれのゴムマウント16における第二の取付金具24の取付部分に対してボルト穴46が設けられている。そして、第二の取付金具24の位置決め片42に挿通された位置決めボルト48が、このボルト穴46に螺着されることにより、ゴムマウント16の構造部材18および分割マス14に対する取付方向(マウント中心軸38回りの周方向位置)が、固定的に決定されるようになっている。ここにおいて、かかるボルト穴46は、マウント中心軸38の回りに略等間隔に複数個(本実施形態では、略90度の範囲に亘って5個)形成されている。これにより、ゴムマウント16をマウント中心軸38の回りに回転させて、位置決め片42に挿通された位置決めボルト48を何れかのボルト穴46に螺着することにより、ゴムマウント16の取付方向を、略22.5度の間隔をもって、任意に変更,設定することが出来るようになっている。
【0044】
要するに、本実施形態では、第二の取付金具24に設けられた位置決め片42と、構造部材18に設けられた複数のボルト穴46、および何れかのボルト穴46に螺着されて位置決め片42を構造部材18に位置決め固定する位置決めボルト48を含んで、ゴムマウント16の分割マス14および構造部材18に対する取付方向を変更,設定する調節手段が構成されているのである。なお、第二の取付金具24と分割マス14の間に加えて、或いはそれに代えて、第一の取付金具22と分割マス14の間に、同様な調節手段を設けても良い。
【0045】
さらに、各分割副振動系17における4個のゴムマウント16は、分割マス14において互いに直交して水平方向に延びる2本の対称軸X,Yを挟んで、それぞれ対称位置するように配設されている。なお、本実施形態では、分割マス14における2本の対称軸X,Yが、何れも、分割マス14の水平方向に延びる慣性主軸とされている。また、分割マス14と4個のゴムマウント16からなる弾性支持系において、その鉛直方向に延びる弾性主軸が、分割マス14の重心を通るように設定されている。具体的には、図2において、第一のゴムマウント16aと第二のゴムマウント16bおよび第三のゴムマウント16cと第四のゴムマウント16dが、第一の対称軸:Xに関して互いに対称位置せしめられていると共に、第一のゴムマウント16aと第三のゴムマウント16cおよび第二のゴムマウント16bと第四のゴムマウント16dが、第二の対称軸:Yに関して互いに対称位置せしめられている。
【0046】
また、これら4個のゴムマウント16a〜dは、その取付方向も、分割マス14の2本の対称軸X,Yを挟んで、それぞれ対称となるように設定されている。具体的には、図2において、第一の対称軸:Xに関しては、第一のゴムマウント16aの水平基準方向線50aの交角:θxaと第二のゴムマウント16bの水平基準方向線50bの交角:θxbが同一となると共に、第三のゴムマウント16cの水平基準方向線50cの交角:θxcと第二のゴムマウント16dの水平基準方向線50dの交角:θxdが同一となるように設定されている。また、第二の対称軸:Yに関しては、第一のゴムマウント16aの水平基準方向線50aの交角:θyaと第三のゴムマウント16cの水平基準方向線50cの交角:θycが同一となると共に、第二のゴムマウント16bの水平基準方向線50bの交角:θybと第二のゴムマウント16dの水平基準方向線50dの交角:θydが同一となるように設定されている。
【0047】
このように4個のゴムマウント16a〜dの取付方向が設定され、且つそれが維持されることにより、ゴムマウント16a〜dの取付方向を変更した場合でも、分割マス14と4個のゴムマウント16a〜dで構成された分割副振動系全体としての水平方向における弾性主軸の方向が、分割マス14における第一の対称軸:Xの方向と、第二の対称軸:Yの方向とに維持されるようになっている。そして、これら第一の対称軸:Xの方向と、第二の対称軸:Yの方向が、それぞれ、制振対称たる住宅12において防振すべき主たる振動の方向、例えば、平面矩形の枠体構造を有する住宅の場合には各辺に平行な方向となるように、振動低減装置10の住宅12に対する設置方向が設定される。これにより、振動低減装置10を構成する各分割副振動系17に対して、防振すべき2方向の振動が、何れも、該分割副振動系17における弾性主軸方向に入力されることとなり、それら2方向に入力される各振動に対して、何れも、有効な制振効果が発揮され得るのである。
【0048】
また、このような各分割副振動系17においては、上述の如く、水平方向のばね定数が異方性とされたゴムマウント16a〜dをバネ部材として採用したことにより、かかるゴムマウント16a〜dの取付方向を変更することによって、防振すべき振動の入力方向となる2つの弾性主軸方向(第一の対称軸:Xの方向および第二の対称軸:Yの方向)でのばね定数が、何れも、変更されるようになっている。具体的には、本実施形態では、各ゴムマウント16a〜dの第一の対称軸:Xに対する交角:θx の値が小さくなるに従って、分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向でのばね定数が小さく、第二の対称軸:Yの方向でのばね定数が大きくなる方向に変更される。その結果、各ゴムマウント16a〜dの第一の対称軸:Xに対する交角:θx の値を小さくすることによって、分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向の固有振動数を低周波側に、且つ第二の対称軸:Yの方向の固有振動数を高周波側に、それぞれ移行させることが出来、また、各ゴムマウント16a〜dの第一の対称軸:Xに対する交角:θx の値を大きくすることによって、分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向の固有振動数を高周波側に、且つ第二の対称軸:Yの方向の固有振動数を低周波側に、それぞれ移行させることが出来るのである。なお、このことから明らかなように、本実施形態では、何れのゴムマウント16も、可変ゴムマウントとされている。
【0049】
それ故、上述の如き構造とされた複数の分割副振動系17を備えた振動低減装置10においては、全ての分割副振動系17において、分割マス14とゴムマウント16の何れも、同一のものを採用し、単に、各分割副振動系17間でゴムマウント16の取付方向(設置方向)を相互に変更するだけで、それら複数の分割副振動系17における固有振動数を、相互にずらせて異なる値に設定することができるのである。
【0050】
しかも、各分割副振動系17における固有振動数も、それが装着される住宅12の種類や環境等を考慮し、各ゴムマウント16の取付方向を適当に設定することにより、問題となっている振動に応じてチューニング周波数を適宜に調節することも出来るのである。それによって、有効な制振効果を、容易に且つ高精度に、しかも低コストで得ることが可能となるのである。特に、本実施形態では、分割マス14を弾性支持するバネ部材が、異方性のゴムマウント16のみによって構成されていると共に、全てのゴムマウント16の取付方向を連動させて変更するようにしたことから、ゴムマウント16の取付方向の変更による分割副振動系17の固有振動数のチューニング幅が、より大きく確保されるといった利点もある。
【0051】
なお、上述の如く、一つのゴムマウント16を用い、その取付方向を変更することによって調節することの出来る、振動低減装置10の固有振動数の範囲は、使用するゴムマウント16が有するばね特性によって限界がある。そこで、各分割副振動系17において、より大きなチューニング自由度を得るためには、予め、互いに異なるばね特性を有するゴムマウント16を複数種類準備しておき、例えば住宅12の構造等を考慮して、その中から適当なばね特性を有するゴムマウント16を、分割副振動系17毎に、或いは振動低減装置10毎に、適宜に選択して採用することが望ましい。これにより、ゴムマウント16自体のばね特性の選択と、ゴムマウント16の取付方向の調節とを、互いに組み合わせて最適値を選定することにより、各分割副振動系17の固有振動数を極めて広い範囲で設定することが可能となり、以て、多種類の建築構造物に対して、有効な制振効果を発揮し得る振動低減装置10を、効率的に提供することが可能となるのである。
【0052】
因みに、前述の如き構造の分割副振動系17において、分割マス14として、400kgの質量を有する平面正方形状のものを採用すると共に、ゴムマウント16として、第一の弾性主軸方向(図4の紙面に垂直な方向)のばね定数:KIが、18000N/m,22000N/m,26000N/m,30000N/m,34000N/m,38000N/m,42000N/mとされた7種類を選択可能とした場合において、各ゴムマウント16の取付方向を変更することによって実現されるチューニング周波数(分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向での固有振動数および第二の対称軸:Yの方向での固有振動数)をシミュレーションした結果を、図7に示す。なお、かかるシミュレーションに際しては、ゴムマウント16として、何れも、第一の弾性主軸方向(図4の紙面に垂直な方向)のばね定数:KIと、第二の弾性主軸方向(図4の左右方向)のばね定数:KIIが、下式を満足するように設定されたものを採用した。また、各ゴムマウント16の取付方向については、第一の対称軸:Xに対する交角:θx (図2参照)を、0〜90度の範囲で変化させた場合について検討した。
KI:KII=1:3
【0053】
図7に示された結果から明らかなように、7種類のゴムマウント16を準備し、それらを選択的に採用すると共に、選択したゴムマウント16の取付方向を適当に調節することによって、分割副振動系17の固有振動数を、一般の2〜3階建住宅で問題となり安い3〜5Hzとその周辺周波数の十分な広さ範囲の略全体に亘って、十分に細かいチューニング精度で設定することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定されるものでない。
【0055】
例えば、ゴムマウントの数や配設形態等は、何等限定されるものでなく、また、かかるゴムマウントの幾つかは、水平方向のばね定数が不変のものであっても良い。
【0056】
また、例示の如き、鉛直軸回りの取付方向の変更によって水平方向のばね特性が変化する異方性のゴムマウントとしても、その具体的構造は、何等限定されるものでない。参考までに、本発明において採用され得る異方性のゴムマウントの別の具体例を、図8〜14に示す。図8に示されたゴムマウント60は、分割マス側に取り付けられる第一の取付金具62が、取付ボルト64が立設された平坦な中央部分66の長手方向両側に、それぞれ斜め下方に向かって延びる傾斜板部68,68が一体形成された屈曲板形状とされている一方、住宅の構造部材側に取り付けられる第二の取付金具70が、山形に屈曲して上方に突出せしめられた中央部分72の両側にボルト孔74を有する平板形状の取付板部76,76が一体形成された屈曲板形状とされている。そして、第一の取付金具62の傾斜板部68,68が、それぞれ、第二の取付金具70における中央部分72の両側斜面78,78に対して、離間して対向位置せしめられており、それらの対向面間に、ゴム弾性体としての一対のゴムブロック80,80が介装されている。このような構造のゴムマウント60においても、前記実施形態に係るゴムマウント(16)と同様に、図8において紙面に垂直な方向に延びる水平方向の第一の弾性主軸の方向で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図中の左右方向に延びる水平方向の第二の弾性主軸の方向で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント60も、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0057】
また、図9〜10に示されたゴムマウント82は、分割マス側に取り付けられる第一の取付金具84が、略逆円錐台形状とされている一方、住宅の構造部材側に取り付けられる第二の取付金具86が、大径の円筒形状とされている。そして、第一の取付金具84の中心軸上で鉛直下方に離間した位置に第二の取付金具86が配設されており、第一の取付金具84の外周面と第二の取付金具86の内周面との径方向対向面間に、中央部分が上方に向かって突出せしめられたテーパ付きの厚肉円環板形状を有するゴム弾性体84が介装されており、該ゴム弾性体84の内周面が第一の取付金具84の外周面に加硫接着されていると共に、ゴム弾性体84の外周面が第二の取付金具86の内周面に加硫接着されている。また、このゴム弾性体84には、第一の取付金具84を径方向一方向に挟んだ両側部分に、それぞれ軸方向に貫通する一対のスリット88,88が形成されている。このような構造のゴムマウント82においても、前記実施形態に係るゴムマウント(16)と同様に、図10中の上下方向で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図10中の左右方向で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント82も、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0058】
また、図11〜12に示されたゴムマウント90は、分割マス側に取り付けられる第一の取付金具92が、大径円筒形状とされている一方、住宅の構造部材側に取り付けられる第二の取付金具94が、小径の円筒形状を有している。そして、第二の取付金具94の径方向外方に離間して、且つ鉛直方向(図11,12中の上下方向)に偏心して第一の取付金具92が配設されている。なお、第二の取付金具94には、外周面上において水平方向両側に突出する平板形状のリテーナ96,96が固設されている。そして、これら第一の取付金具92と第二の取付金具94の径方向対向面間に、全体として略厚肉の円板形状を有するゴム弾性体98が介装されており、該ゴム弾性体98の外周面が第一の取付金具92の内周面に加硫接着されていると共に、ゴム弾性体98の内周面が第二の取付金具94の外周面に加硫接着されている。また、このゴム弾性体98には、第二の取付金具94を鉛直方向に挟んだ両側部分に、それぞれ軸方向に貫通する一対のスリット100,102が形成されており、分割マスの重量作用時における引張応力が軽減されるようになっている。なお、図示された外力が及ぼされていない状況下では、上側のスリット100が大きく開口し、下側のスリット102が上下に潰れた形状となっているが、分割マスの重量が作用することにより、ゴム弾性体98の弾性変形に伴って、上下のスリット100,102が、略同じ大きさとなるようにされている。このような構造のゴムマウント90においても、前記実施形態に係るゴムマウント(16)と同様に、図12中の左右方向(マウント軸方向)で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図11中の左右方向(マウント軸直角方向)で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント90も、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0059】
また、図13〜14に示されたゴムマウント106は、それぞれ矩形平板形状を有し、互いに離間して対向配置された第一の取付金具108と第二の取付金具110を有していると共に、それら第一の取付金具108と第二の取付金具110の対向面間に矩形ブロック形状のゴム弾性体112が介装されている。そして、このゴム弾性体112の上下端面に、第一の取付金具108と第二の取付金具110がそれぞれ加硫接着されており、以て、第一の取付金具108と第二の取付金具110が本体ゴム弾性体112によって弾性的に連結されている。また、これら第一の取付金具108と第二の取付金具110には、各中央部分から上下外方に突出する取付ボルト114,116が固設されており、これらの取付ボルト114,116によって、第一の取付金具108が質量体側に取り付けられると共に、第二の取付金具110が住宅の構造部材側に取り付けられるようになっている。なお、かかるゴムマウント106は、そのマウント中心軸が略鉛直方向に延びる状態で装着せしめられ、装着状態下、第一の取付金具108と第二の取付金具110が、略鉛直方向で対向位置せしめられる。ここにおいて、本体ゴム弾性体112は、図14に示されているように、その水平方向の切断面において、辺長:aの短辺と辺長:bの長辺からなる長手矩形状を有している。このように隣接する2辺の長さが異なる本体ゴム弾性体112を採用したことによって、本実施形態のゴムマウント106においても、剪断変形に際して本体ゴム弾性体112に生ぜしめられる曲げ変形に対する変形し易さの違いから、図14中の上下方向(本体ゴム弾性体112における一対の長辺の対向方向)で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図14中の左右方向(本体ゴム弾性体112における一対の短辺の対向方向)で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント106も、前記実施形態のゴムマウント106と同様な特性を有しており、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0060】
さらに、本発明においては、上述の如き異方性のゴムマウントの他、マウント中心軸に直交する軸直角方向のばね定数が何れの方向でも略一定とされたゴムマウントを採用することも可能である。例えば、図15〜16に示されているように、それぞれ円板形状を有し、軸方向で互いに離間して対向配置された第一の取付金具120と第二の取付金具122を、それらの対向面間に介装された円形ブロック形状のゴム弾性体124によって弾性的に連結せしめた構造のゴムマウント126を採用することも可能である。そして、かかるゴムマウント126は、第一の取付金具120から軸方向外方(上方)に突設された第一の取付軸128が、質量体14に対して、水平方向に延びる回動軸130の回りに揺動可能に取り付けられていると共に、第二の取付金具122から軸方向外方(下方)に突設された第二の取付軸132が、住宅の構造部材18に固設されたブラケット134によって、ゴムマウント126における回動軸130回りの任意の回動状態においてボルト固定されるようになっている。要するに、ブラケット134には、回動軸130を中心とする円弧上に複数の位置決め孔136が貫設されており、何れかの位置決め孔136に挿通される固定ボルト138によって、ゴムマウント126の第二の取付軸132が固定的に支持されるようになっいる。そして、この第二の取付軸132のブラケット134に対するボルト固定位置を調節することによって、質量体14を構造部材18に対して弾性的に支持するゴムマウント126の中心軸140の鉛直線に対する傾斜角度:αが変更設定可能とされているのである。換言すれば、かかるゴムマウント126は、一つの鉛直面内で、回動軸130を中心として取付方向を調節可能とされているのである。
【0061】
すなわち、このような構造とされたゴムマウント126においては、その取付方向としての傾斜角度:αを変更することによって、副振動系における水平方向のばね定数を変更することが出来るのであり、αの値を小さくしてゴムマウント126の中心軸を鉛直方向に近づける程、質量体14の水平方向の変位に際してのゴム弾性体124の変形が剪断変形を主とするものとなって、水平方向のばね定数が小さくされる一方、αの値を大きくしてゴムマウント126の中心軸を水平方向に近づける程、質量体14の水平方向の変位に際してのゴム弾性体124の変形が圧縮/引張変形を主とするものとなって、水平方向のばね定数が大きくされる。それ故、このようなゴムマウント126も、前記実施形態において分割マス14を弾性支持するゴムマウントとして有利に採用され得るのである。
【0062】
なお、かくの如きゴムマウント126は、その取付方向の変更に際しても、副振動系における水平方向の弾性主軸が一定に維持されるようにすることが望ましい。そのために、望ましくは、複数個のゴムマウント126を、質量体14の重心:Oを通って水平方向に延びる2本の直交する対称軸としての弾性主軸:X,Yを挟んで、それぞれ対称位置するように配設すると共に、それらのゴムマウント126における取付方向を、かかる2本の弾性主軸:X,Yを挟んで対称となるように設定する。
【0063】
より具体的には、例えば、図16に示されているように、X軸を含む鉛直平面と平行な鉛直平面上でマウント中心軸の傾斜角度が変更調節可能とされた2対のゴムマウント126a〜dと、Y軸を含む鉛直平面と平行な鉛直平面上でマウント中心軸の傾斜角度が変更調節可能とされた2対のゴムマウント126e〜hを配設し、一方の対を為すゴムマウント126a〜dの傾斜角度を互いに同一に設定すると共に、他方の対を為すゴムマウント126e〜hの傾斜角度を互いに同一に設定することによって、副振動系における水平方向の弾性主軸を一定に維持しつつ、水平方向の各弾性主軸方向でのばね定数を有利に変更調節することが可能となる。特に、図16に記載のマウント配置形態を採用すれば、一方の弾性主軸:X方向でのばね定数と、他方の弾性主軸:Y方向でのばね定数を、互いに独立的に設定することが出来るといった利点がある。
【0064】
或いはまた、図17に示されているように、質量体14の重心:Oを通る2本の弾性主軸:X,Yを挟んで対称となるように、合計4個のゴムマウント126a〜dを配設し、各ゴムマウント126a〜dの質量体14に対する取付方向を、2本の弾性主軸:X,Yに対する傾斜角度の対象性を維持しつつ、鉛直方向および水平方向に調節することによって、両弾性主軸:X,Y方向のばね定数を同時に設定することも可能である。
【0065】
更にまた、図17に示されたゴムマウント126a〜dの配設形態を採用する場合でも、各ゴムマウント126a〜dを、Y方向には回転させないで(水平方向には傾斜角度を変化させないで)、X軸を含む鉛直平面上だけでマウント中心軸の傾斜角度を変更することによっても、副振動系における水平二方向(X軸方向とY軸方向)でのばね定数比率(固有振動数比)を変更チューニングすることが可能である。けだし、図15において、ゴムマウント126の傾斜角度(α)を鉛直面内で変化させた場合のばね定数の変化は、紙面に左右方向で大きく、紙面に垂直な方向では、ゴムマウント126のゴム弾性体124における弾性変形が剪断変形を主とするものであって、紙面に垂直な方向よりも小さいことから、ゴムマウント126の傾斜角度(α)を鉛直面内だけで変化させて大きくすることによって、副振動系における水平二方向(X軸方向とY軸方向)でのばね定数比率を大きくすることが可能となるのである。
【0066】
さらに、各分割副振動系17において、分割マス14の構造部材18に対する変位に際して減衰力を及ぼし得る減衰器も、必要に応じて採用可能である。
【0067】
また、振動低減装置10の配設位置も、例示の如き最上階の天井部分の他、床下部分等、建築構造物の構造や振動モード等を考慮して、適宜に変更可能である。更にまた、振動低減装置10を構成する各分割副振動系17を、それぞれ異なる箇所に設置することも可能である。
【0068】
加えて、本発明は、例示の如き3階建の住宅の他、1階建や2階建、或いは4階建以上の住宅、或いは倉庫やビル,タワー等、各種の建築構造物用の振動低減装置に対して、何れも適用可能であることは、言うまでもない。
【0069】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態としての振動低減装置の建築構造物(住宅)への装着状態を示す概略図である。
【図2】図1に示された振動低減装置を構成する一つの分割副振動系を示す平面概略説明図である。
【図3】本発明に従う構造とされた振動低減装置の防振効果をシミュレーションで求めた結果を示すグラフである。
【図4】図1に示された振動低減装置に採用されているゴムマウントを示す正面図である。
【図5】図4に示されたゴムマウントの斜視図である。
【図6】図1に示された振動低減装置におけるゴムマウントの構造部材に対する取付部位の構造を説明するための平面図である。
【図7】図2に示された分割副振動系における固有振動数のチューニング性を示すグラフである。
【図8】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの別の構造例を示す正面図である。
【図9】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を示す縦断面図である。
【図10】図8に示されたゴムマウントの平面図である。
【図11】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を示す正面図である。
【図12】図10に示されたゴムマウントの縦断面図である。
【図13】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を示す斜視図である。
【図14】図13に示されたゴムマウントの横断面図である。
【図15】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を、副振動系への装着状態で示す正面図である。
【図16】図15に示されたゴムマウントを採用して構成された分割副振動系の一具体例を示す平面概略説明図である。
【図17】図15に示されたゴムマウントを採用して構成された分割副振動系の別の具体例を示す平面概略説明図である。
【符号の説明】
【0071】
10 振動低減装置
12 住宅
14 分割マス
16 ゴムマウント
18 構造部材
42 位置決め片
46 ボルト穴
48 位置決めボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築構造物に対する副振動系を構成して、主振動系たる建築構造物に対する動的吸振効果を発揮し得る振動低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般住宅等の建築構造物では、交通振動や風等の外力が加振力として作用することによって振動が発生する場合がある。特に、近年では、一般住宅でも2階建や3階建が多くなってきており、それらの住宅において、交通振動による微震動が、例えば就寝時における不快音や不快振動等の原因として問題となってきている。
【0003】
ところで、建築構造物の振動低減装置としては、従来、高層ビルやタワー等の高層建築物の揺れを軽減するためのダンパ装置が、幾つか提案されている。例えば、特開平3−74649号公報や特開平8−338467号公報には、付加質量を建築構造物に対して多段積層ゴムで弾性支持せしめた構造のダンパ装置が開示されている。これらのダンパ装置は、水平方向で一つの副振動系を構成することにより、建築構造物に惹起される水平方向の振動に対して低減効果を発揮するようになっている。
【0004】
ところが、これら従来のダンパ装置では、副振動系に設定された固有振動数と、主振動系としての建築構造物において防振すべき振動との間にずれがあると、有効な振動低減効果が発揮されなくなるという不具合があった。特に、ダンパ装置のバネ部材をゴム弾性体で形成すると、ばね定数が温度依存性を有するために、有効な制振効果を安定して得ることが難しく、例えば、一般住宅で屋根裏にダンパ装置を収容配置しようとすると、屋根裏の温度は零下数十度から60〜70℃もの間で変化するために、基準温度(例えば、20℃)でチューニングしても、目的とする制振効果を安定して得ることは、到底、望めなかったのである。
【0005】
なお、特開平5−149026号公報には、防振しようとする振動周波数と同一の固有振動数にチューニングした副振動系に加えて、それとは異なる固有振動数を有する副振動系を設けたスロッシングダンパ等の振動抑制装置が開示されている。しかしながら、かかる公報に開示された振動抑制装置は、高層ビル等の大型構造物の防振しか考慮されておらず、一般住宅等に設置されるゴムマウントでマス部材を弾性支持せしめた構造の振動低減装置について、必ずしも有効に適用され得るものではなかったのである。具体的には、例えば、かかる公報に記載の振動抑制装置では、複数の副振動系を設置するために、装置全体の総重量が大きくなることが避けられず、そのために、特に一般住宅等では、建築構造物自体の強度不足等から採用が難しい場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開平3−74649号公報
【特許文献2】特開平8−338467号公報
【特許文献3】特開平5−149026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、温度変化等によってチューニング周波数(同調)のずれがあった場合でも、建築構造物において防振すべき振動に対して良好な制振効果を安定して発揮し得る、新規な構造の振動低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体の記載および図面に記載の発明思想に基づいて認識されることが理解されるべきである。
【0009】
本発明の第一の態様は、防振すべき建築構造物に対して、マス部材を、複数のゴムマウントで弾性支持せしめることにより、副振動系を構成した振動低減装置において、前記マス部材を複数の分割マスによって構成し、かかる分割マスの全体の合計質量を、前記建築構造物の防振すべき振動に応じた最適質量に設定すると共に、それら各分割マスを前記ゴムマウントにより前記建築構造物に対して互いに独立して弾性支持せしめて、複数の分割副振動系を構成し、それらの分割副振動系に対して、互いに異なる固有振動数を設定する一方、該複数の分割副振動系の各固有振動数を、基準となる条件下で求められた前記建築構造物の防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方に、それぞれ位置するように設定し、更に、かかる分割副振動系の固有振動数のチューニング範囲を、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に対して上下にそれぞれ30%の周波数範囲内となるように設定すると共に、前記固有振動数が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差を、前記振動低減装置内の各分割副振動系においてそれぞれ異なるように設定したことを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に係る振動低減装置においては、複数の分割副振動系によって複数の固有振動数が設定されることにより、副振動系の防振すべき振動への同調が正確でなかった場合や、温度変化等に伴うチューニングのずれが発生した場合等でも、全体として良好なる制振効果が発揮され得るのである。しかも、そこにおいて、かかる振動低減装置においては、最適質量を分割して複数の分割副振動系が構成されることから、装置全体としての重量増大が有利に回避され得、建築構造物に対して有利に設置可能とされる。また、各分割マスは、ゴムマウントによって弾性支持されることから、独立して任意の場所に設置可能であり、建築構造物に対する装着場所の設定に関して大きな自由度が確保され得る。従って、かかる振動低減装置にあっては、例えば一般住宅等にも、有利に採用され得て、大きな温度変化に晒される場合でも、安定した防振効果を得ることが可能となるのである。
【0011】
なお、複数の分割マスからなるマス部材の最適質量は、例えば、主振動系たる建築構造物の運動方程式と副振動系たる分割副振動系の連立方程式において、主振動系の振幅と副振動系を構成するゴムマウントの振幅(主振動系と副振動系の相対変位の絶対値)を、それぞれ、要求される値以下にするという条件を与えることによって、主振動系の等価質量に対する質量割合として、決定することが出来るが、その際、建築構造物の耐荷重強度等も考慮されるべきである。
【0012】
また、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る振動低減装置において、前記複数の分割副振動系の各固有振動数を、基準となる条件下で求められた前記建築構造物の防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方に、それぞれ位置するように設定したことを、特徴とする。これにより、より広範な原因による副振動系の主振動系に対するチューニング特性の変化に際しても、有効な振動低減効果を得ることが可能となる。なお、基準となる条件とは、例えば、最も頻繁に生ずる条件をいう。
【0013】
また、本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る振動低減装置において、前記複数の分割副振動系を構成する分割マスの少なくとも一つを、他の分割マスとは異なる質量とすると共に、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に最も近い固有振動数に設定した分割副振動系において、最も大きな質量の分割マスを採用したことを、特徴とする。このような本態様に係る振動低減装置では、最も大きな質量の分割マスを有する分割副振動系が、主振動系における防振すべき振動に略同調された、最も高い頻度で現出される状況下で、かかる最も大きな質量の分割マスを有する分割副振動系による制振効果が、より有効に発揮されるのである。即ち、チューニング誤差や温度変化等を考慮した多数の振動低減装置における長期間に亘る制振効果をトータルに捉えれば、本態様に従う構造を採用することによって、制振効果の向上が図られ得るのである。
【0014】
また、本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る振動低減装置において、前記分割副振動系を、何れも、一般住宅における最上階の天井部分に支持せしめて、屋根裏に収容配置したことを、特徴とする。このような本態様に係る振動低減装置においては、一般住宅における振動低減装置の設置スペースを有利に確保することが出来ると共に、振動モード的にも優れた制振効果を得ることが出来る。しかも、ゴムマウントの温度変化によるチューニングのずれに伴う制振効果の低下は、異なる固有振動数を設定した複数の分割副振動系によって軽減乃至は回避されることから、屋根裏の著しい温度変化に晒されても、安定した制振効果が発揮されるのである。なお、一般住宅とは、個人住宅や集合住宅であって、高層ビルに属しない1〜数階建の建築住宅をいい、一般に、木造,鉄骨,或いは鉄筋コンクリート等の各種構造を有するものを含む。
【0015】
また、本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に係る振動低減装置において、前記複数の分割副振動系の少なくとも一つを、他の分割副振動系とは異なる構造部材によって支持せしめたことを、特徴とする。本発明では、最適質量のマス部材を複数の分割マスに分割したことによって、複数の構造部材によってマス部材の荷重を分担支持させることが出来るのであり、それによって、本態様の振動低減装置においては、例えば一般住宅等において、建築構造物の耐荷重強度の制限内で、全体として大きな質量のマス部材を有利に装着することが可能となるのである。なお、構造部材としては、建築構造物の構造や種類等に応じて、建築構造物における各種の構成部材(強度部材)が採用され得る。具体的には、例えば一般住宅では、各種の梁やスラブ,桁,縁などの部材に対して、各分割マスを支持せしめることが出来る。
【0016】
また、本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れか一つの態様に係る振動低減装置において、前記副振動系におけるゴムマウントを、それぞれ、前記分割マスに対する取付方向を変更することによって、該分割副振動系における水平な弾性主軸方向のばね定数を調節することの出来る可変ゴムマウントを含んで構成し、各分割副振動系において、かかる可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を異ならせることによって、各分割副振動系に対して相互に異なる固有振動数を設定したことを、特徴とする。なお、本態様において、分割副振動系における弾性主軸とは、分割副振動系に対して、その軸に沿って荷重が入力された際に、荷重の入力方向と、ゴムマウントの弾性変形に伴うマス部材の変位方向とが一致し、且つ分割マスに回転乃至は角変位が生じないような軸をいう。
【0017】
このような第六の態様に係る振動低減装置においては、可変ゴムマウントの分割マスに対する取付方向を変更することによって、分割副振動系における水平な弾性主軸方向の固有振動数を調節することが出来る。それ故、例えば、複数の分割副振動系において、同一のゴムマウントを採用しても、各分割副振動系の固有振動数を異なる値に調節することが出来るのである。しかも、可変ゴムマウントの取付方向に応じて、分割副振動系のばね定数を設定可能であることから、建築構造物の防振しようとする振動に応じて、各分割副振動系の固有振動数を高精度にチューニングすることが出来、それによって、優れた制振効果を容易に得ることが可能となるのである。なお、可変ゴムマウントの取付方向を変更する場合には、分割副振動系全体としての水平方向における弾性主軸の方向が変化しないように、それら可変ゴムマウントの取付方向を変更することが、チューニング作業性および分割副振動系の動的安定性等の点から、より望ましい。
【0018】
なお、かかる第六の態様において採用される可変ゴムマウントの構造は、何等、限定されるものでない。具体的には、例えば、マス部材側に取り付けられる第一の取付部材と、建築構造物側に取り付けられる第二の取付部材を、ゴム弾性体によって弾性的に連結した構造のマウントであって、そのゴム弾性体に肉抜穴や貫通スリット等を設けることによって軸直角方向のばね特性に異方性を付与したり、ゴム弾性体で連結される第一の取付部材と第二の取付部材の対向面を傾斜させることによって軸直角方向の異方性を付与したり、特開平8−338467号公報等に記載されているような傾斜板をゴム弾性体内に埋設固着することによって軸直角方向の異方性を付与すること等によって、軸直角方向のばね特性を中心軸回りにおいて異方性としたゴムマウントを、その略中心軸方向に分割マスの重量が及ぼされる状態で装着せしめて、分割マスに対する取付方向を中心軸回りで変更することによって、分割マスにおける水平な弾性主軸方向でのばね定数を調節可能とした構造のゴムマウント等が採用可能である。或いはまた、軸直角方向のばね特性が、中心軸回りの全方向で同一とされたゴムマウントを用い、該ゴムマウントの分割マスへの取付角度を鉛直方向乃至は水平方向で変更することにより、分割マスにおける水平な弾性主軸方向でのばね定数を調節可能として可変ゴムマウントを構成することも可能である。
【0019】
また、本発明の第七の態様は、前記第六の態様に係る振動低減装置において、その分割副振動系に対して、前記可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を変更設定可能な調節手段を設けたことを、特徴とする。なお、本態様において採用される調節手段としては、例えば、ボルトによる位置決め穴等からなるゴムマウントの取付方向の設定可能位置を、マス部材と建築構造物の少なくとも一方の側に複数設けて、ゴムマウントの取付方向を多段階に調節可能とした構造等が採用可能であり、特に、鉛直方向に延びる中心軸回りの回転によって取付方向を設定する場合等においては、ゴムマウントのマス部材側と建築構造物側への取付部位に摺動プレート等を配設して、中心軸回りの回転により、ゴムマウントの取付方向を無段階に調節可能とした構造等も採用可能である。
【0020】
なお、かかる第七の態様においては、可変ゴムマウントのみで、副振動系のバネ部材を構成する必要はなく、可変ゴムマウントと、副振動系のばね定数の調節に寄与しないゴムマウントを組み合わせてバネ部材を構成することも可能である。また、可変ゴムマウントを複数用いる場合には、その全ての可変ゴムマウントの取付方向を変更する必要はなく、一部の可変ゴムマウントだけの取付方向を調節することによってチューニングすることも可能である。また、バネ部材は、前記特開平8−338467号公報にも記載されているように、ゴムマウントを多段的に積み重ねて構成することも可能であり、その場合には、一部の段階に配設されたゴムマウントだけを可変ゴムマウントとしても良い。
【0021】
また、上述の如く、分割マスに対する取付方向を、中心軸回りで変更することによって、分割副振動系の水平な弾性主軸方向のばね定数を調節する可変ゴムマウントにおいては、例えば、軸直角方向におけるばね定数の最小値と最大値を、互いに直交する軸直角方向に設定することが望ましい。このような構造の可変ゴムマウントを採用すれば、可変ゴムマウントの分割マスに対する中心軸回りの取付角度に応じた、特定方向でのばね定数を容易に且つ精度良く知ることが可能となることから、可変ゴムマウントの取付方向の調節による副振動系のチューニング作業が、一層容易となる。
【0022】
更にまた、本発明の第八の態様は、前記第七の態様に係る振動低減装置であって、前記調節手段を、前記可変ゴムマウントの取付方向を変更するためのアクチュエータ手段と、該アクチュエータ手段を作動制御して該可変ゴムマウントの取付方向を変更するコントロール手段とを含んで構成したことを、特徴とする。このような第八の態様に係る振動低減装置においては、可変ゴムマウントの取付方向の変更によるチューニング作業が一層容易とされるのであり、副振動系を建築構造物に装着した後に、可変ゴムマウントの取付方向を変更してチューニングしたり、再チューニングすることも、容易となる。特に、アクチュエータ手段を遠隔操作するリモートコントロール構造のコントロール手段を採用すれば、建築構造物の完成後や住宅の上棟後等にも、施主等が、容易にチューニング修正を行うことが可能となり、例えば、季節や温度等に応じたチューニングの変更を、手動によって、或いはセンサ等を用いて自動的に実施することにより、より高度な制振効果を得ることが可能となる。
【0023】
また、本発明の第九の態様は、前記第六乃至第八の何れか一つに記載の振動低減装置であって、前記分割副振動系において、前記分割マスの重心を通って水平方向に延びる2本の直交する対称軸を挟んで、それぞれ対称位置するように、前記可変ゴムマウントの複数個を配設すると共に、それらの可変ゴムマウントにおける取付方向を、かかる2本の対称軸を挟んで対称となるように設定したことを、特徴とする。このような本態様に係る振動低減装置では、各分割副振動系において、複数の可変ゴムマウントの取付方向の変更によるバネ部材全体としてのばね定数の調節が容易となると共に、それら複数の可変ゴムマウントの取付方向を変更,調節した場合でも、分割マスの静的及び動的安定性が有利に維持されることにより、目的とする制振効果を安定して得ることが出来る。
【0024】
なお、かかる第九の態様において、可変ゴムマウントのうち各対称軸を挟んで対称位置するもの同志は、互いに同一構造とすることが望ましい。一方、何れの対称軸に関しても対称関係を有しない可変ゴムマウント間では、ばね特性や構造が互いに異なっていても良い。また、可変ゴムマウントにおける取付方向を、2本の対称軸を挟んで対称とする設定は、例えば、何れの対称軸に関しても、その両側で対称位置に配された可変ゴムマウントを、該対称軸に対する傾斜角度が対称的に同じになるように配設することによって、有利に実現され得る。
【0025】
また、かかる第九の態様において、全ての分割副振動系における可変ゴムマウントの配設位置の対称軸としての2本の直交する対称軸は、好ましくはその少なくとも1本、より好ましくはそれらの2本の何れもが、建築構造物において防振すべき振動方向となるように設定される。更に、かかる第九の態様において、望ましくは、全ての分割副振動系において、可変ゴムマウントの配設位置の対称軸としての2本の直交する対称軸が、何れも、分割副振動系全体としての水平方向における弾性主軸として設定される。これにより、分割副振動系の安定性が更に向上されて、目的とする制振効果をより安定して得ることが可能になると共に、分割副振動系のチューニングも容易となる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本発明に従う建築構造物用の振動低減装置によれば、温度変化等に起因して、副振動系における当初のチューニング周波数が、主振動系たる建築構造物の防振すべき振動周波数からずれた場合でも、有効な振動低減効果を、安定して得ることが出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0028】
先ず、図1には、本発明に従う構造とされた建築構造物用の振動低減装置10を、一般の3階建住宅12に装着した状態の概略が示されている。かかる振動低減装置10は、それぞれ独立した複数個の分割マス14と、それら各分割マス14を互いに独立して弾性支持するゴムマウント16から構成されており、各分割マス14がそれぞれ複数個のゴムマウント16によって、住宅12に対して弾性支持されることによって、互いに独立した複数個の分割副振動系17を形成している。なお、本実施形態では、図示されているように、全ての分割副振動系17が、3階建住宅12における3階の天井を構成する構造部材18上に装着されている。
【0029】
より詳細には、各分割副振動系17を構成する分割マス14は、図2にも仮想線で示されているように、金属等の高比重材で形成されており、例えば鉄系や鉛系の金属等で形成されたものが好適に採用される。この分割マス14の形状は特に限定されるものでないが、一般に、板形状のものが好適に採用され、より望ましくは、矩形平板形状や多角形平板形状,円形平板形状等、幅寸法よりも高さ寸法が小さく且つ高さが一定の板形状であって、平面的に複数の対称軸を有する形状が望ましい。このような形状の分割マス14を採用することにより、振動低減装置10を最上階の天井裏20等のスペースに収容状態で有利に設置することが出来ると共に、水平方向の変位に際して各ゴムマウント16に生ぜしめられる角変位を抑えて安定した吸振作用を得ることが可能となる。特に、本実施形態では、高さ寸法が全体に亘って一定とされた、平面矩形の板形状を有する分割マス14が採用されている。
【0030】
また、この分割マス14の質量は、装着される主振動系たる住宅12の質量や振動状態、構造強度等を考慮して適宜に設定されるが、全ての分割副振動系を構成する分割マス14の合計質量が、防振すべき住宅12の防振すべき振動に応じた最適質量を与えるように設定される。具体的には、例えば、主振動系たる住宅12と一つの副振動系からなる2自由度系を考え、この系の運動方程式から主振動系の共振曲線を求めることにより、一般の動的吸振器における最適設計法に従って、最適質量を求めることが出来る。即ち、かかる2自由度系の運動方程式に基づいて、主振動系の振幅が要求される値以下になるように、且つ副振動系を構成するゴムマウント16の振幅(主振動系と副振動系の相対変位の絶対値)が許容値以下となるように、主振動系と副振動系の質量比(μ)を求めることによって、副振動系における分割マス14の最適質量を決定することが出来る。なお、その際、住宅12の耐荷重強度も考慮する必要があり、住宅12の耐荷重強度による制限から、分割マス14の最適質量が決定される場合もある。また、その際、分割マス14の最適質量は、全ての分割マス14の合計質量として与えられるものであることから、各分割マス14の荷重を異なる構造部材に分担支持させることによって、即ち、住宅12を構成する多数の構造部材のうちの異なる構造部材にそれぞれの分割副振動系17を装着して、各分割マス14を異なる構造部材で支持せしめることによって、分割マス14の荷重の集中的作用を回避して、住宅12の耐荷重強度上の理由による分割マス12の荷重制限を緩和することも可能である。因みに、一般的な軽量鉄骨や木造の軸組構造による2〜3階建の住宅の場合では、全ての分割副振動系における分割マス14の合計質量として、100〜1000kg程度、或いはそれ以上の質量が設定される。
【0031】
そして、このようにして求められた最適質量を全体として与えるように、複数の分割マス14の質量が設定されている。この複数の分割マス14への分割形態は、何等限定されるものでなく、例えば、分割数は、製造誤差や温度変化等に起因する考慮すべき主振動系と分割副振動系のチューニング周波数の相対的なずれ変動幅や、主振動系の振動形態(振幅の形態や共振曲線の形態等),要求される振動低減効果の程度等に応じて適宜に設定可能である。また、その際各分割マス14への質量分配の形態も、特に限定されるものでなく、例えば、統計的に防振すべき振動周波数に最も近くなるチューニング周波数を有する副振動系を構成する分割マスに対して最も大きな質量を設定したり、或いは、統計的に防振すべき振動周波数に最も近くなるチューニング周波数を有する副振動系程、質量が大きくなるように段階的に質量を設定することも可能である。特に、本実施形態では、製造の容易性やコスト等を考慮して、同一の材質と形状を有する複数の分割マス14が採用されており、各分割マス14によって、最適質量が等分割されている。
【0032】
また、これら各分割マス14は、それぞれ、複数個のゴムマウント16によって、住宅12の構造部材18に対して弾性支持されており、それによって、分割マス14の数だけ、互いに独立した分割副振動系17が構成されている。ここにおいて、これら複数の分割副振動系17においては、その固有振動数が互いに同一とはされておらず、複数種類の固有振動数が設定されている。なお、固有振動数が同一とされた分割副振動系17があっても良いが、好ましくは、全ての分割副振動系17に対して、互いに異なる固有振動数が設定される。
【0033】
この各分割副振動系17における固有振動数の設定値は、特に限定されるものでなく、製造誤差や温度変化等に起因する考慮すべき主振動系と分割副振動系のチューニング周波数の相対的なずれ変動幅や、主振動系の振動形態(振幅の形態や共振曲線の形態等),要求される振動低減効果の程度等に応じて適宜に設定可能であるが、好ましくは、主振動系たる住宅12において防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方において、それぞれ固有振動数が設定された分割副振動系17が存在するように設定されると共に、該住宅12において防振すべき振動周波数に対する適当な周辺周波数の範囲内に、全ての分割副振動系17の固有振動数が納まるように設定される。このような設定によって、一般住宅における通常の環境下で予想される主振動系(住宅12)と分割副振動系17とのチューニングずれ幅を、有利にカバーすることが出来る。また、望ましくは、特に一般住宅で10dB程度の振動低減効果を目標とする場合においては、複数の分割副振動系17において、固有振動周波数が互いに隣接するもの同士の固有周波数の差を、主振動系(住宅12)において防振すべき振動周波数の5〜30%、より望ましくは10〜20%に設定する。これにより、主振動系の広い周波数域に亘って、有効な振動低減効果を、一層効率的且つ有効に得ることが可能となる。なお、隣接する分割副振動系17,17間の固有振動周波数差が小さ過ぎると、主振動系と副振動系の広いチューニングずれ幅に亘って有効な振動低減効果を効率的に確保することが難しくなるからであり、また、隣接する分割副振動系17,17間の固有振動周波数差が大き過ぎると、それらの分割副振動系17,17の固有振動周波数の中間域で有効な振動低減効果が発揮され難くなるおそれがあるからである。
【0034】
より具体的には、例えば、一般住宅のモデルとして、主振動系の減衰比が1%で、要求される振動低減効果が10dB以上である場合に、主振動系に対する質量比が2%で、ばね部の損失係数が0.1とされた分割副振動系17を採用して、目的とする振動低減装置10を得ることを考えてみる。その結果、分割副振動系17の数に応じて、下記表1の如く、各分割副振動系17の固有振動数を設定することが有効であることを、計算によって確認することが出来た。なお、かかる計算では、主振動系の等価質量を30000kgとし、分割副振動系17の分割マス14の総質量を600kgとした。そして、この表1から分かることとしては、分割副振動系の数を例えば4個の場合で見ると、主振動系の防振すべき振動周波数に対する各分割副振動系の固有振動数比は、0.82、0.93、1.07、1.22であり、固有振動数(表1では固有振動数比で記載)が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差は、それぞれ0.11、0.14、0.15となっていることが分かる。即ち、固有振動数が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差は、それぞれ異なるように設定されている。
【0035】
【表1】
【0036】
そして、このように互いに異なる固有振動数を設定した複数の分割副振動系17によって構成された振動低減装置10における振動低減効果をシミュレーションによって求めた結果を、図3に示す。かかる図3からも、上述の如き構造とされた振動低減装置10においては、十分に広い周波数域に亘って、目的とする振動低減効果を有効に得ることが出来、それ故、例えば、ゴムマウント16の温度変化等に起因して、住宅12において防振すべき振動周波数に対して当初に同調されていた分割副振動系17の固有振動数がずれてしまった場合でも、複数の分割副振動系17の全体として、住宅12に対して有効な制振効果を得ることの出来ることが認められる。なお、複数の分割副振動系17の固有振動数のチューニング範囲は、図示されている如く、一般に、分割副振動系17の数が多い程、広く設定することが出来るが、余り広い範囲に亘って設定すると、防振に有効に寄与しない分割副振動系が存在することとなるおそれがあることから、かかる分割副振動系のチューニング範囲は、主振動系の振動形態や要求される制振効果等を考慮して、適当な範囲、例えば、上述の如き一般住宅の場合で、住宅12において防振すべき振動の周波数に対して上下にそれぞれ30%の周波数範囲内等に設定することが望ましい。
【0037】
ところで、このように複数の分割副振動系17に対してそれぞれ異なる固有振動数を設定するには、例えば、全ての分割副振動系17で、分割マス14の質量とゴムマウント16における防振すべき振動方向のばね定数との、少なくとも何れか一方を異ならせることによって、チューニングすることが可能である。ここにおいて、特に、本実施形態では、前述の如く、全ての分割副振動系17において、同一の分割マス14が採用されており、何れの分割副振動系17においても、それぞれ同一構造とされた複数のゴムマウント16によってバネ系が構成されて、分割マス14が弾性支持されている。
【0038】
かかるゴムマウント16は、何れも水平方向のばね定数が異方性とされており、鉛直方向に延びるマウント中心軸38の回りの各方向(中心軸に直交する各方向)によって、異なるばね特性を有している。なお、前記各分割副振動系17では、同一のゴムマウントを採用して、その装着数を異ならせることでも、水平方向の固有振動数を互いに異なる値に設定することが可能であるが、本実施形態では、何れの分割副振動系17においても、同じ数の同一構造のゴムマウント16によって、バネ系が構成されている。
【0039】
ここにおいて、かかるゴムマウント16は、図4及び図5に示されているように、第一の取付部材としての第一の取付金具22と、第二の取付部材としての第二の取付金具24が、互いに離間して対向配置されていると共に、それら第一の取付金具22と第二の取付金具24が、両金具22,24の対向面間に介装されたゴム弾性体26で弾性的に連結された構造を有している。第一の取付金具22は、断面が逆三角形のブロック形状を有しており、その上底面27の中央には、取付ボルト28が突設されている。また、第二の取付金具24は、矩形平板形状を有しており、中央に位置する平板部30を挟んだ長手方向両側が、第一の取付金具22側(図4中、上側)に斜めに立ち上げられて傾斜板部32,32とされている。また、第二の取付金具24における平板部30の中央には、下方(第一の取付金具22と反対側)に突出する取付ボルト34が固設されている。また、第一の取付金具22における両側の各傾斜面36,36と、第二の取付金具24における両側の各傾斜板部32,32は、マウント中心軸38を挟んだ両側において、該マウント中心軸38に対して略同一角度だけ傾斜した方向で、全面に亘って略一定の間隔を隔てて対向位置せしめられている。そして、これら傾斜面36と傾斜板部32の対向面間に、それぞれ、介装された一対の略矩形ブロック形状を有するゴムブロック40,40によって、第一の取付金具22と第二の取付金具24を弾性連結するゴム弾性体26が構成されている。更に、本実施形態では、第二の取付金具24において、平板部30の一方の側面から外方に向かって突出する位置決め片42が一体形成されている。そして、この位置決め片42には、位置固定用のボルト挿通孔44が形成されている。
【0040】
すなわち、本実施形態のゴムマウント16は、二つの独立したゴムブロック40,40の単体での弾性主軸が互いに傾斜していることから、図4において、マウント中心軸38に沿って延びる鉛直方向の弾性主軸と、紙面に垂直な方向に延びる水平方向の第一の弾性主軸と、図中の左右方向に延びる水平方向の第二の弾性主軸を有している。このような構造とされたゴムマウント16では、水平方向の第一の弾性主軸の方向で、荷重入力時におけるゴム弾性体26の主たる変形が剪断となって、水平方向におけるばね定数が最小となる一方、水平方向の第二の弾性主軸の方向で、荷重入力時におけるゴム弾性体26の主たる変形が圧縮/引張となって、水平方向におけるばね定数が最大となる。これにより、かかるゴムマウント16では、水平方向におけるばね定数の最小値と最大値が、互いに直交する方向に設定されている。なお、以下の説明では、ばね定数が最小値となる水平方向(図4において、紙面に垂直な方向)を、ゴムマウント16における水平基準方向という。
【0041】
そして、かかるゴムマウント16は、その第一の取付金具22が分割マス14に対して固着されている。なお、第一の取付金具22は、その取付ボルト28を分割マス14に対して直接に螺着固定しても良いが、第一の取付金具22の分割マス14に対する取付方向を容易に変更出来るように、例えば、ベアリング機構や摺接プレート機構等を介して、第一の取付金具22を分割マス14に取り付けても良い。また、本実施形態では、図2に示されているように、4個のゴムマウント16が、矩形平板形状の分割マス14における四隅部分に対して、それぞれ取り付けられている。また一方、ゴムマウント16の第二の取付金具24は、図1に示されているように、その取付ボルト34により、3階建住宅12の最上階の天井の構造部材18に対して、第一の取付金具22と同様、直接に、或いはベアリング機構や摺接プレート機構等を介して、取り付けられている。これにより、3階建住宅12の構造部材18に対して、分割マス14が、4個のゴムマウント16を介して、弾性的に取り付けられているのであり、以て、分割マス14をマス部材とし、4個のゴムマウント16をバネ部材とする一つの振動系が構成され、この振動系によって、3階建住宅12からなる主振動系に対する一つの副振動系として機能する分割副振動系17が構成され、更に、このような分割副振動系17が、住宅12に対して、並列的に互いに独立して複数個装着されることによって、振動低減装置10が構成されている。
【0042】
なお、かかる振動低減装置10の装着状態下では、何れの分割副振動系17においても、分割マス14が、水平方向に広がる状態で支持されていると共に、各ゴムマウント16は、何れも、そのマウント中心軸が鉛直方向に延びる状態で配設されている。
【0043】
また、各分割副振動系17を構成するゴムマウント16が取り付けられる、3階建住宅12の構造部材18には、図6に示されているように、それぞれのゴムマウント16における第二の取付金具24の取付部分に対してボルト穴46が設けられている。そして、第二の取付金具24の位置決め片42に挿通された位置決めボルト48が、このボルト穴46に螺着されることにより、ゴムマウント16の構造部材18および分割マス14に対する取付方向(マウント中心軸38回りの周方向位置)が、固定的に決定されるようになっている。ここにおいて、かかるボルト穴46は、マウント中心軸38の回りに略等間隔に複数個(本実施形態では、略90度の範囲に亘って5個)形成されている。これにより、ゴムマウント16をマウント中心軸38の回りに回転させて、位置決め片42に挿通された位置決めボルト48を何れかのボルト穴46に螺着することにより、ゴムマウント16の取付方向を、略22.5度の間隔をもって、任意に変更,設定することが出来るようになっている。
【0044】
要するに、本実施形態では、第二の取付金具24に設けられた位置決め片42と、構造部材18に設けられた複数のボルト穴46、および何れかのボルト穴46に螺着されて位置決め片42を構造部材18に位置決め固定する位置決めボルト48を含んで、ゴムマウント16の分割マス14および構造部材18に対する取付方向を変更,設定する調節手段が構成されているのである。なお、第二の取付金具24と分割マス14の間に加えて、或いはそれに代えて、第一の取付金具22と分割マス14の間に、同様な調節手段を設けても良い。
【0045】
さらに、各分割副振動系17における4個のゴムマウント16は、分割マス14において互いに直交して水平方向に延びる2本の対称軸X,Yを挟んで、それぞれ対称位置するように配設されている。なお、本実施形態では、分割マス14における2本の対称軸X,Yが、何れも、分割マス14の水平方向に延びる慣性主軸とされている。また、分割マス14と4個のゴムマウント16からなる弾性支持系において、その鉛直方向に延びる弾性主軸が、分割マス14の重心を通るように設定されている。具体的には、図2において、第一のゴムマウント16aと第二のゴムマウント16bおよび第三のゴムマウント16cと第四のゴムマウント16dが、第一の対称軸:Xに関して互いに対称位置せしめられていると共に、第一のゴムマウント16aと第三のゴムマウント16cおよび第二のゴムマウント16bと第四のゴムマウント16dが、第二の対称軸:Yに関して互いに対称位置せしめられている。
【0046】
また、これら4個のゴムマウント16a〜dは、その取付方向も、分割マス14の2本の対称軸X,Yを挟んで、それぞれ対称となるように設定されている。具体的には、図2において、第一の対称軸:Xに関しては、第一のゴムマウント16aの水平基準方向線50aの交角:θxaと第二のゴムマウント16bの水平基準方向線50bの交角:θxbが同一となると共に、第三のゴムマウント16cの水平基準方向線50cの交角:θxcと第二のゴムマウント16dの水平基準方向線50dの交角:θxdが同一となるように設定されている。また、第二の対称軸:Yに関しては、第一のゴムマウント16aの水平基準方向線50aの交角:θyaと第三のゴムマウント16cの水平基準方向線50cの交角:θycが同一となると共に、第二のゴムマウント16bの水平基準方向線50bの交角:θybと第二のゴムマウント16dの水平基準方向線50dの交角:θydが同一となるように設定されている。
【0047】
このように4個のゴムマウント16a〜dの取付方向が設定され、且つそれが維持されることにより、ゴムマウント16a〜dの取付方向を変更した場合でも、分割マス14と4個のゴムマウント16a〜dで構成された分割副振動系全体としての水平方向における弾性主軸の方向が、分割マス14における第一の対称軸:Xの方向と、第二の対称軸:Yの方向とに維持されるようになっている。そして、これら第一の対称軸:Xの方向と、第二の対称軸:Yの方向が、それぞれ、制振対称たる住宅12において防振すべき主たる振動の方向、例えば、平面矩形の枠体構造を有する住宅の場合には各辺に平行な方向となるように、振動低減装置10の住宅12に対する設置方向が設定される。これにより、振動低減装置10を構成する各分割副振動系17に対して、防振すべき2方向の振動が、何れも、該分割副振動系17における弾性主軸方向に入力されることとなり、それら2方向に入力される各振動に対して、何れも、有効な制振効果が発揮され得るのである。
【0048】
また、このような各分割副振動系17においては、上述の如く、水平方向のばね定数が異方性とされたゴムマウント16a〜dをバネ部材として採用したことにより、かかるゴムマウント16a〜dの取付方向を変更することによって、防振すべき振動の入力方向となる2つの弾性主軸方向(第一の対称軸:Xの方向および第二の対称軸:Yの方向)でのばね定数が、何れも、変更されるようになっている。具体的には、本実施形態では、各ゴムマウント16a〜dの第一の対称軸:Xに対する交角:θx の値が小さくなるに従って、分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向でのばね定数が小さく、第二の対称軸:Yの方向でのばね定数が大きくなる方向に変更される。その結果、各ゴムマウント16a〜dの第一の対称軸:Xに対する交角:θx の値を小さくすることによって、分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向の固有振動数を低周波側に、且つ第二の対称軸:Yの方向の固有振動数を高周波側に、それぞれ移行させることが出来、また、各ゴムマウント16a〜dの第一の対称軸:Xに対する交角:θx の値を大きくすることによって、分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向の固有振動数を高周波側に、且つ第二の対称軸:Yの方向の固有振動数を低周波側に、それぞれ移行させることが出来るのである。なお、このことから明らかなように、本実施形態では、何れのゴムマウント16も、可変ゴムマウントとされている。
【0049】
それ故、上述の如き構造とされた複数の分割副振動系17を備えた振動低減装置10においては、全ての分割副振動系17において、分割マス14とゴムマウント16の何れも、同一のものを採用し、単に、各分割副振動系17間でゴムマウント16の取付方向(設置方向)を相互に変更するだけで、それら複数の分割副振動系17における固有振動数を、相互にずらせて異なる値に設定することができるのである。
【0050】
しかも、各分割副振動系17における固有振動数も、それが装着される住宅12の種類や環境等を考慮し、各ゴムマウント16の取付方向を適当に設定することにより、問題となっている振動に応じてチューニング周波数を適宜に調節することも出来るのである。それによって、有効な制振効果を、容易に且つ高精度に、しかも低コストで得ることが可能となるのである。特に、本実施形態では、分割マス14を弾性支持するバネ部材が、異方性のゴムマウント16のみによって構成されていると共に、全てのゴムマウント16の取付方向を連動させて変更するようにしたことから、ゴムマウント16の取付方向の変更による分割副振動系17の固有振動数のチューニング幅が、より大きく確保されるといった利点もある。
【0051】
なお、上述の如く、一つのゴムマウント16を用い、その取付方向を変更することによって調節することの出来る、振動低減装置10の固有振動数の範囲は、使用するゴムマウント16が有するばね特性によって限界がある。そこで、各分割副振動系17において、より大きなチューニング自由度を得るためには、予め、互いに異なるばね特性を有するゴムマウント16を複数種類準備しておき、例えば住宅12の構造等を考慮して、その中から適当なばね特性を有するゴムマウント16を、分割副振動系17毎に、或いは振動低減装置10毎に、適宜に選択して採用することが望ましい。これにより、ゴムマウント16自体のばね特性の選択と、ゴムマウント16の取付方向の調節とを、互いに組み合わせて最適値を選定することにより、各分割副振動系17の固有振動数を極めて広い範囲で設定することが可能となり、以て、多種類の建築構造物に対して、有効な制振効果を発揮し得る振動低減装置10を、効率的に提供することが可能となるのである。
【0052】
因みに、前述の如き構造の分割副振動系17において、分割マス14として、400kgの質量を有する平面正方形状のものを採用すると共に、ゴムマウント16として、第一の弾性主軸方向(図4の紙面に垂直な方向)のばね定数:KIが、18000N/m,22000N/m,26000N/m,30000N/m,34000N/m,38000N/m,42000N/mとされた7種類を選択可能とした場合において、各ゴムマウント16の取付方向を変更することによって実現されるチューニング周波数(分割副振動系17における第一の対称軸:Xの方向での固有振動数および第二の対称軸:Yの方向での固有振動数)をシミュレーションした結果を、図7に示す。なお、かかるシミュレーションに際しては、ゴムマウント16として、何れも、第一の弾性主軸方向(図4の紙面に垂直な方向)のばね定数:KIと、第二の弾性主軸方向(図4の左右方向)のばね定数:KIIが、下式を満足するように設定されたものを採用した。また、各ゴムマウント16の取付方向については、第一の対称軸:Xに対する交角:θx (図2参照)を、0〜90度の範囲で変化させた場合について検討した。
KI:KII=1:3
【0053】
図7に示された結果から明らかなように、7種類のゴムマウント16を準備し、それらを選択的に採用すると共に、選択したゴムマウント16の取付方向を適当に調節することによって、分割副振動系17の固有振動数を、一般の2〜3階建住宅で問題となり安い3〜5Hzとその周辺周波数の十分な広さ範囲の略全体に亘って、十分に細かいチューニング精度で設定することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定されるものでない。
【0055】
例えば、ゴムマウントの数や配設形態等は、何等限定されるものでなく、また、かかるゴムマウントの幾つかは、水平方向のばね定数が不変のものであっても良い。
【0056】
また、例示の如き、鉛直軸回りの取付方向の変更によって水平方向のばね特性が変化する異方性のゴムマウントとしても、その具体的構造は、何等限定されるものでない。参考までに、本発明において採用され得る異方性のゴムマウントの別の具体例を、図8〜14に示す。図8に示されたゴムマウント60は、分割マス側に取り付けられる第一の取付金具62が、取付ボルト64が立設された平坦な中央部分66の長手方向両側に、それぞれ斜め下方に向かって延びる傾斜板部68,68が一体形成された屈曲板形状とされている一方、住宅の構造部材側に取り付けられる第二の取付金具70が、山形に屈曲して上方に突出せしめられた中央部分72の両側にボルト孔74を有する平板形状の取付板部76,76が一体形成された屈曲板形状とされている。そして、第一の取付金具62の傾斜板部68,68が、それぞれ、第二の取付金具70における中央部分72の両側斜面78,78に対して、離間して対向位置せしめられており、それらの対向面間に、ゴム弾性体としての一対のゴムブロック80,80が介装されている。このような構造のゴムマウント60においても、前記実施形態に係るゴムマウント(16)と同様に、図8において紙面に垂直な方向に延びる水平方向の第一の弾性主軸の方向で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図中の左右方向に延びる水平方向の第二の弾性主軸の方向で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント60も、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0057】
また、図9〜10に示されたゴムマウント82は、分割マス側に取り付けられる第一の取付金具84が、略逆円錐台形状とされている一方、住宅の構造部材側に取り付けられる第二の取付金具86が、大径の円筒形状とされている。そして、第一の取付金具84の中心軸上で鉛直下方に離間した位置に第二の取付金具86が配設されており、第一の取付金具84の外周面と第二の取付金具86の内周面との径方向対向面間に、中央部分が上方に向かって突出せしめられたテーパ付きの厚肉円環板形状を有するゴム弾性体84が介装されており、該ゴム弾性体84の内周面が第一の取付金具84の外周面に加硫接着されていると共に、ゴム弾性体84の外周面が第二の取付金具86の内周面に加硫接着されている。また、このゴム弾性体84には、第一の取付金具84を径方向一方向に挟んだ両側部分に、それぞれ軸方向に貫通する一対のスリット88,88が形成されている。このような構造のゴムマウント82においても、前記実施形態に係るゴムマウント(16)と同様に、図10中の上下方向で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図10中の左右方向で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント82も、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0058】
また、図11〜12に示されたゴムマウント90は、分割マス側に取り付けられる第一の取付金具92が、大径円筒形状とされている一方、住宅の構造部材側に取り付けられる第二の取付金具94が、小径の円筒形状を有している。そして、第二の取付金具94の径方向外方に離間して、且つ鉛直方向(図11,12中の上下方向)に偏心して第一の取付金具92が配設されている。なお、第二の取付金具94には、外周面上において水平方向両側に突出する平板形状のリテーナ96,96が固設されている。そして、これら第一の取付金具92と第二の取付金具94の径方向対向面間に、全体として略厚肉の円板形状を有するゴム弾性体98が介装されており、該ゴム弾性体98の外周面が第一の取付金具92の内周面に加硫接着されていると共に、ゴム弾性体98の内周面が第二の取付金具94の外周面に加硫接着されている。また、このゴム弾性体98には、第二の取付金具94を鉛直方向に挟んだ両側部分に、それぞれ軸方向に貫通する一対のスリット100,102が形成されており、分割マスの重量作用時における引張応力が軽減されるようになっている。なお、図示された外力が及ぼされていない状況下では、上側のスリット100が大きく開口し、下側のスリット102が上下に潰れた形状となっているが、分割マスの重量が作用することにより、ゴム弾性体98の弾性変形に伴って、上下のスリット100,102が、略同じ大きさとなるようにされている。このような構造のゴムマウント90においても、前記実施形態に係るゴムマウント(16)と同様に、図12中の左右方向(マウント軸方向)で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図11中の左右方向(マウント軸直角方向)で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント90も、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0059】
また、図13〜14に示されたゴムマウント106は、それぞれ矩形平板形状を有し、互いに離間して対向配置された第一の取付金具108と第二の取付金具110を有していると共に、それら第一の取付金具108と第二の取付金具110の対向面間に矩形ブロック形状のゴム弾性体112が介装されている。そして、このゴム弾性体112の上下端面に、第一の取付金具108と第二の取付金具110がそれぞれ加硫接着されており、以て、第一の取付金具108と第二の取付金具110が本体ゴム弾性体112によって弾性的に連結されている。また、これら第一の取付金具108と第二の取付金具110には、各中央部分から上下外方に突出する取付ボルト114,116が固設されており、これらの取付ボルト114,116によって、第一の取付金具108が質量体側に取り付けられると共に、第二の取付金具110が住宅の構造部材側に取り付けられるようになっている。なお、かかるゴムマウント106は、そのマウント中心軸が略鉛直方向に延びる状態で装着せしめられ、装着状態下、第一の取付金具108と第二の取付金具110が、略鉛直方向で対向位置せしめられる。ここにおいて、本体ゴム弾性体112は、図14に示されているように、その水平方向の切断面において、辺長:aの短辺と辺長:bの長辺からなる長手矩形状を有している。このように隣接する2辺の長さが異なる本体ゴム弾性体112を採用したことによって、本実施形態のゴムマウント106においても、剪断変形に際して本体ゴム弾性体112に生ぜしめられる曲げ変形に対する変形し易さの違いから、図14中の上下方向(本体ゴム弾性体112における一対の長辺の対向方向)で水平方向におけるばね定数が最小となる一方、図14中の左右方向(本体ゴム弾性体112における一対の短辺の対向方向)で水平方向におけるばね定数が最大となる。従って、このようなゴムマウント106も、前記実施形態のゴムマウント106と同様な特性を有しており、前記実施形態において有利に採用され得る。
【0060】
さらに、本発明においては、上述の如き異方性のゴムマウントの他、マウント中心軸に直交する軸直角方向のばね定数が何れの方向でも略一定とされたゴムマウントを採用することも可能である。例えば、図15〜16に示されているように、それぞれ円板形状を有し、軸方向で互いに離間して対向配置された第一の取付金具120と第二の取付金具122を、それらの対向面間に介装された円形ブロック形状のゴム弾性体124によって弾性的に連結せしめた構造のゴムマウント126を採用することも可能である。そして、かかるゴムマウント126は、第一の取付金具120から軸方向外方(上方)に突設された第一の取付軸128が、質量体14に対して、水平方向に延びる回動軸130の回りに揺動可能に取り付けられていると共に、第二の取付金具122から軸方向外方(下方)に突設された第二の取付軸132が、住宅の構造部材18に固設されたブラケット134によって、ゴムマウント126における回動軸130回りの任意の回動状態においてボルト固定されるようになっている。要するに、ブラケット134には、回動軸130を中心とする円弧上に複数の位置決め孔136が貫設されており、何れかの位置決め孔136に挿通される固定ボルト138によって、ゴムマウント126の第二の取付軸132が固定的に支持されるようになっいる。そして、この第二の取付軸132のブラケット134に対するボルト固定位置を調節することによって、質量体14を構造部材18に対して弾性的に支持するゴムマウント126の中心軸140の鉛直線に対する傾斜角度:αが変更設定可能とされているのである。換言すれば、かかるゴムマウント126は、一つの鉛直面内で、回動軸130を中心として取付方向を調節可能とされているのである。
【0061】
すなわち、このような構造とされたゴムマウント126においては、その取付方向としての傾斜角度:αを変更することによって、副振動系における水平方向のばね定数を変更することが出来るのであり、αの値を小さくしてゴムマウント126の中心軸を鉛直方向に近づける程、質量体14の水平方向の変位に際してのゴム弾性体124の変形が剪断変形を主とするものとなって、水平方向のばね定数が小さくされる一方、αの値を大きくしてゴムマウント126の中心軸を水平方向に近づける程、質量体14の水平方向の変位に際してのゴム弾性体124の変形が圧縮/引張変形を主とするものとなって、水平方向のばね定数が大きくされる。それ故、このようなゴムマウント126も、前記実施形態において分割マス14を弾性支持するゴムマウントとして有利に採用され得るのである。
【0062】
なお、かくの如きゴムマウント126は、その取付方向の変更に際しても、副振動系における水平方向の弾性主軸が一定に維持されるようにすることが望ましい。そのために、望ましくは、複数個のゴムマウント126を、質量体14の重心:Oを通って水平方向に延びる2本の直交する対称軸としての弾性主軸:X,Yを挟んで、それぞれ対称位置するように配設すると共に、それらのゴムマウント126における取付方向を、かかる2本の弾性主軸:X,Yを挟んで対称となるように設定する。
【0063】
より具体的には、例えば、図16に示されているように、X軸を含む鉛直平面と平行な鉛直平面上でマウント中心軸の傾斜角度が変更調節可能とされた2対のゴムマウント126a〜dと、Y軸を含む鉛直平面と平行な鉛直平面上でマウント中心軸の傾斜角度が変更調節可能とされた2対のゴムマウント126e〜hを配設し、一方の対を為すゴムマウント126a〜dの傾斜角度を互いに同一に設定すると共に、他方の対を為すゴムマウント126e〜hの傾斜角度を互いに同一に設定することによって、副振動系における水平方向の弾性主軸を一定に維持しつつ、水平方向の各弾性主軸方向でのばね定数を有利に変更調節することが可能となる。特に、図16に記載のマウント配置形態を採用すれば、一方の弾性主軸:X方向でのばね定数と、他方の弾性主軸:Y方向でのばね定数を、互いに独立的に設定することが出来るといった利点がある。
【0064】
或いはまた、図17に示されているように、質量体14の重心:Oを通る2本の弾性主軸:X,Yを挟んで対称となるように、合計4個のゴムマウント126a〜dを配設し、各ゴムマウント126a〜dの質量体14に対する取付方向を、2本の弾性主軸:X,Yに対する傾斜角度の対象性を維持しつつ、鉛直方向および水平方向に調節することによって、両弾性主軸:X,Y方向のばね定数を同時に設定することも可能である。
【0065】
更にまた、図17に示されたゴムマウント126a〜dの配設形態を採用する場合でも、各ゴムマウント126a〜dを、Y方向には回転させないで(水平方向には傾斜角度を変化させないで)、X軸を含む鉛直平面上だけでマウント中心軸の傾斜角度を変更することによっても、副振動系における水平二方向(X軸方向とY軸方向)でのばね定数比率(固有振動数比)を変更チューニングすることが可能である。けだし、図15において、ゴムマウント126の傾斜角度(α)を鉛直面内で変化させた場合のばね定数の変化は、紙面に左右方向で大きく、紙面に垂直な方向では、ゴムマウント126のゴム弾性体124における弾性変形が剪断変形を主とするものであって、紙面に垂直な方向よりも小さいことから、ゴムマウント126の傾斜角度(α)を鉛直面内だけで変化させて大きくすることによって、副振動系における水平二方向(X軸方向とY軸方向)でのばね定数比率を大きくすることが可能となるのである。
【0066】
さらに、各分割副振動系17において、分割マス14の構造部材18に対する変位に際して減衰力を及ぼし得る減衰器も、必要に応じて採用可能である。
【0067】
また、振動低減装置10の配設位置も、例示の如き最上階の天井部分の他、床下部分等、建築構造物の構造や振動モード等を考慮して、適宜に変更可能である。更にまた、振動低減装置10を構成する各分割副振動系17を、それぞれ異なる箇所に設置することも可能である。
【0068】
加えて、本発明は、例示の如き3階建の住宅の他、1階建や2階建、或いは4階建以上の住宅、或いは倉庫やビル,タワー等、各種の建築構造物用の振動低減装置に対して、何れも適用可能であることは、言うまでもない。
【0069】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態としての振動低減装置の建築構造物(住宅)への装着状態を示す概略図である。
【図2】図1に示された振動低減装置を構成する一つの分割副振動系を示す平面概略説明図である。
【図3】本発明に従う構造とされた振動低減装置の防振効果をシミュレーションで求めた結果を示すグラフである。
【図4】図1に示された振動低減装置に採用されているゴムマウントを示す正面図である。
【図5】図4に示されたゴムマウントの斜視図である。
【図6】図1に示された振動低減装置におけるゴムマウントの構造部材に対する取付部位の構造を説明するための平面図である。
【図7】図2に示された分割副振動系における固有振動数のチューニング性を示すグラフである。
【図8】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの別の構造例を示す正面図である。
【図9】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を示す縦断面図である。
【図10】図8に示されたゴムマウントの平面図である。
【図11】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を示す正面図である。
【図12】図10に示されたゴムマウントの縦断面図である。
【図13】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を示す斜視図である。
【図14】図13に示されたゴムマウントの横断面図である。
【図15】図1に示された振動低減装置に採用され得るゴムマウントの更に別の構造例を、副振動系への装着状態で示す正面図である。
【図16】図15に示されたゴムマウントを採用して構成された分割副振動系の一具体例を示す平面概略説明図である。
【図17】図15に示されたゴムマウントを採用して構成された分割副振動系の別の具体例を示す平面概略説明図である。
【符号の説明】
【0071】
10 振動低減装置
12 住宅
14 分割マス
16 ゴムマウント
18 構造部材
42 位置決め片
46 ボルト穴
48 位置決めボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振すべき建築構造物に対して、マス部材を、複数のゴムマウントで弾性支持せしめることにより、副振動系を構成した振動低減装置において、
前記マス部材を複数の分割マスによって構成し、かかる分割マスの全体の合計質量を、前記建築構造物の防振すべき振動に応じた最適質量に設定すると共に、それら各分割マスを前記ゴムマウントにより前記建築構造物に対して互いに独立して弾性支持せしめて、複数の分割副振動系を構成し、それらの分割副振動系に対して異なる固有振動数を設定する一方、該複数の分割副振動系の各固有振動数を、基準となる条件下で求められた前記建築構造物の防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方に、それぞれ位置するように設定し、更に、かかる分割副振動系の固有振動数のチューニング範囲を、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に対して上下にそれぞれ30%の周波数範囲内となるように設定すると共に、前記固有振動数が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差を、前記振動低減装置内の各分割副振動系においてそれぞれ異なるように設定したことを特徴とする建築構造物用の振動低減装置。
【請求項2】
前記複数の分割副振動系を構成する分割マスの少なくとも一つを、他の分割マスとは異なる質量とすると共に、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に最も近い固有振動数に設定した分割副振動系において、最も大きな質量の分割マスを採用した請求項1に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項3】
前記分割副振動系を、何れも、一般住宅における最上階の天井部分に支持せしめて、屋根裏に収容配置した請求項1又は2に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項4】
前記複数の分割副振動系の少なくとも一つを、他の分割副振動系とは異なる構造部材によって支持せしめた請求項1乃至3の何れか一つに記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項5】
前記副振動系におけるゴムマウントを、それぞれ、前記分割マスに対する取付方向を変更することによって、該分割副振動系における水平な弾性主軸方向のばね定数を調節することの出来る可変ゴムマウントを含んで構成し、各分割副振動系において、かかる可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を異ならせることによって、各分割副振動系に対して相互に異なる固有振動数を設定した請求項1乃至4の何れか一つに記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項6】
前記分割副振動系において、前記可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を変更設定可能な調節手段を設けた請求項5に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項7】
前記分割副振動系において、前記分割マスの重心を通って水平方向に延びる2本の直交する対称軸を挟んで、それぞれ対称位置するように、前記可変ゴムマウントの複数個を配設すると共に、それらの可変ゴムマウントにおける取付方向を、かかる2本の対称軸を挟んで対称となるように設定した請求項5又は6に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項1】
防振すべき建築構造物に対して、マス部材を、複数のゴムマウントで弾性支持せしめることにより、副振動系を構成した振動低減装置において、
前記マス部材を複数の分割マスによって構成し、かかる分割マスの全体の合計質量を、前記建築構造物の防振すべき振動に応じた最適質量に設定すると共に、それら各分割マスを前記ゴムマウントにより前記建築構造物に対して互いに独立して弾性支持せしめて、複数の分割副振動系を構成し、それらの分割副振動系に対して異なる固有振動数を設定する一方、該複数の分割副振動系の各固有振動数を、基準となる条件下で求められた前記建築構造物の防振すべき振動周波数よりも低周波側と高周波側の両方に、それぞれ位置するように設定し、更に、かかる分割副振動系の固有振動数のチューニング範囲を、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に対して上下にそれぞれ30%の周波数範囲内となるように設定すると共に、前記固有振動数が互いに隣接するもの同士の固有振動数の差を、前記振動低減装置内の各分割副振動系においてそれぞれ異なるように設定したことを特徴とする建築構造物用の振動低減装置。
【請求項2】
前記複数の分割副振動系を構成する分割マスの少なくとも一つを、他の分割マスとは異なる質量とすると共に、前記建築構造物の防振すべき振動周波数に最も近い固有振動数に設定した分割副振動系において、最も大きな質量の分割マスを採用した請求項1に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項3】
前記分割副振動系を、何れも、一般住宅における最上階の天井部分に支持せしめて、屋根裏に収容配置した請求項1又は2に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項4】
前記複数の分割副振動系の少なくとも一つを、他の分割副振動系とは異なる構造部材によって支持せしめた請求項1乃至3の何れか一つに記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項5】
前記副振動系におけるゴムマウントを、それぞれ、前記分割マスに対する取付方向を変更することによって、該分割副振動系における水平な弾性主軸方向のばね定数を調節することの出来る可変ゴムマウントを含んで構成し、各分割副振動系において、かかる可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を異ならせることによって、各分割副振動系に対して相互に異なる固有振動数を設定した請求項1乃至4の何れか一つに記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項6】
前記分割副振動系において、前記可変ゴムマウントの前記分割マスに対する取付方向を変更設定可能な調節手段を設けた請求項5に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【請求項7】
前記分割副振動系において、前記分割マスの重心を通って水平方向に延びる2本の直交する対称軸を挟んで、それぞれ対称位置するように、前記可変ゴムマウントの複数個を配設すると共に、それらの可変ゴムマウントにおける取付方向を、かかる2本の対称軸を挟んで対称となるように設定した請求項5又は6に記載の建築構造物用の振動低減装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−46450(P2007−46450A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271235(P2006−271235)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【分割の表示】特願平10−373941の分割
【原出願日】平成10年12月28日(1998.12.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【分割の表示】特願平10−373941の分割
【原出願日】平成10年12月28日(1998.12.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
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