説明

建築構造物用の能動型制振装置および建築構造物の能動型制振方法

【課題】構造が簡単且つコンパクトであって、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合でも、目的とする能動的な制振効果を安定して得ることのできる、建築構造物用の新規な能動型制振装置および能動型制振方法を提供すること。
【解決手段】建築構造物における制振すべき振動周波数に対して動的吸振器12の固有振動数を低周波数側に外して設定する一方、加振手段14からマス部材18に及ぼされる加振力の反力が支持部材28を介して建築構造物に及ぼされるようにすると共に、加振力の周波数を加振制御手段52で制御することにより、動的吸振器12の固有振動数よりも高周波数域で且つ建築構造物における制振すべき振動周波数に相当する周波数の加振力をマス部材18に及ぼすようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅などの建築構造物に対する副振動系を構成して主振動系たる建築構造物における振動を抑える建築構造物用の制振装置および制振方法に係り、特に、マス部材に水平方向の加振力を及ぼすことによって、能動的な制振効果を得るようにした建築構造物用の能動型制振装置および能動型制振方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や事務所等の建築構造物では、交通振動等の外力が加振力として作用することによって水平方向の振動が発生する場合がある。特に、近年では、一般住宅等でも、木造や軽量鉄骨構造等によって二階建てや三階建てが多くなってきており、それらの住宅等では、構造上、二階や三階の振動が大きくなり易いために、交通振動による微振動が、例えば就寝時や就業時における不快振動や不快騒音等の原因として問題となってきている。
【0003】
ところで、建築構造物用の制振装置の一種である能動型の制振装置としては、特許文献1(特開平2−300478号公報)や特許文献2(特開平9−41714号公報)等において、建築構造物に対してリニアベアリング等の摺動機構を介して相対移動可能に支持せしめた付加マス部材を、電動モータで駆動せしめられるボールねじ機構等によって相対変位せしめる構造のものが提案されている。しかしながら、これら従来の建築構造物用の制振装置は、もともと高層建築物における地震時の揺れ低減の目的で開発されたものであり、非常に大掛かりで一般住宅や事務所などの小型の建築構造物用には適わなかった。特に、高層建築物における地震時の制振など、作動頻度が少ない場合はそれ程大きな問題とならないが、交通振動の制振など、略常時作動させると、摺動機構やボールねじ機構の疲労や摩耗が非常に大きな問題となり易いという問題もある。。
【0004】
そこで、本出願人は、先に、特許文献3(特許第3807169号公報)や特許文献4(特許第3752926号公報)において、一般住宅等の小型建築物に適合した能動型制振装置として、建築構造物に弾性支持せしめたマス部材に対して電磁式アクチュエータ等の加振手段で水平方向の加振力を及ぼす構造の建築構造物用の能動型制振装置を提案した。
【0005】
これら特許文献3,4で先に提案した能動型制振装置では、何れも、加振手段による加振力をマス部材に対して効率的に作用させることを目的として、マス部材とその弾性支持部材からなる振動系の固有振動数が、建築構造物において制振すべき振動の周波数に一致するようにチューニングされることが望ましいものと考えられていた。蓋し、マス部材を共振作用で大きく変位させることで、マス部材の変位に基づいて建築構造物に及ぼされる能動的制振効果の向上が図られるからである。
【0006】
ところが、本発明者が更なる実験と検討を重ねたところ、これら特許文献3,4で提案した能動型制振装置では、目的とする制振効果を十分に安定して且つ効率的に得ることが難しい場合があり、未だ改良の予知の存することが明らかとなった。特に、建築構造物で問題となる振動は、付近を走行する自動車の重量等の加振源の条件変化や、晴雨に伴う建築基礎強度や躯体強度等の振動体の条件変化などに伴って、その周波数が多少変化するが、そのような制振すべき振動周波数の変化があった場合に、たとえ加振手段でマス部材に及ぼす加振力を追従して変更調節しても、制振効果が大きく低下してしまう場合があったのである。
【0007】
【特許文献1】特開平2−300478号公報
【特許文献2】特開平9−41714号公報
【特許文献3】特許第3807169号公報
【特許文献4】特許第3752926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、構造が簡単且つコンパクトとされて一般住宅等の小型建築物にも好適に採用され得ると共に、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合でも、目的とする能動的な制振効果を安定して得ることのできる、建築構造物用の新規な能動型制振装置および能動型制振方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様は、可能な限り任意の組み合わせで採用することが出来る。また、本発明の態様および技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0010】
すなわち、本発明の特徴とするところは、建築構造物にマス部材を弾性支持せしめることにより動的吸振器を構成すると共に、該建築構造物において制振すべき水平な振動方向で該マス部材に対して加振力を及ぼす加振手段を設けた建築構造物用の能動型制振装置において、前記建築構造物において制振すべき振動周波数に対して前記動的吸振器の固有振動数を低周波数側に外して設定する一方、前記加振手段を該建築構造物に支持せしめる支持部材を設けて、該加振手段によって前記マス部材に及ぼされる加振力の反力が該支持部材を介して該建築構造物に及ぼされるようにすると共に、該加振手段によって該マス部材に及ぼされる加振力の周波数を制御することにより、該動的吸振器の固有振動数よりも高周波数域で且つ該建築構造物において制振すべき振動周波数に相当する周波数の加振力を該マス部材に及ぼすように該加振手段を作動制御する加振制御手段を設けたことにある。
【0011】
このような本発明に従う構造とされた建築構造物用の制振装置においては、本出願人の先願である前述の特許文献3,4に記載のものと同様に、ゴム弾性体等の弾性支持手段でマス部材を弾性支持せしめた動的吸振器を採用すると共に、電磁加振器等の加振手段を採用することにより、一般住宅等の小規模建築物に好適な能動型制振装置が実現可能となる。それに加えて、本願発明では、それら特許文献3,4に記載の制振装置とは、基本的な技術思想を全く異にすることで、(1)制振すべき振動周波数が変化した場合にも追従して安定した制振効果を得ることを可能と為しつつ、(2)建築構造物に対して有効な制振効果を発揮し得る程に大きな相殺的加振力を効率的に作用せしめることを可能と為し得たのである。
【0012】
すなわち、従来の一般の能動型制振装置では、「動的吸振器の共振周波数を、建築構造物において制振すべき振動周波数に一致するようにチューニングする」ことを基本思想とする。これにより、制振すべき振動周波数域では、動的吸振器におけるマス−バネ系の共振作用を利用して、小さな加振力を動的吸振器に作用させるだけで、大きな加振力を建築構造物に及ぼして優れた制振効果を得ることが可能となるのである。ところが、このような従来構造の能動型制振装置では、前述の如く、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合には、制振効果が著しく低下したり、加振制御が不安定となってしまうという問題があった。かかる問題に対して、本発明者が鋭意研究したところ、位相の急激な変化が影響しているのであろうとの知見を得るに至った。
【0013】
具体的には、動的吸振器等のマス−バネ系からなる振動系では、その固有振動数(共振周波数)の付近において入力振動との位相反転のポイントが存在していることは良く知られている。建築構造物自体、固有振動数を有しており、建築構造物において問題となる振動がこの固有振動数に相当する周波数域であることは容易に想像できる。しかし、建築構造物において制振すべき振動周波数は、現実には、振動源となる付近を走行する自動車の重量や種類、速度等の相違に応じて、数Hz以下の小さな領域であるが変化することを、本発明者が確認した。このような制振すべき振動周波数に変化があった場合には、実際の建築構造物における振動状態を検出して得られた信号を参照信号とすることで動的吸振器に対して及ぼす加振力を能動制御する能動型制振装置において、振動周波数の変化に追従して加振力が変更制御されることとなる。
【0014】
しかしながら、上述の如く、もともと固有振動数域にチューニングされた動的吸振器では、僅かに周波数が変化しただけでも位相が大きく変化してしまうことから、加振器の位相制御が非常に難しくなる。そのような理由から、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合には、安定した加振制御ひいては動的吸振器の加振に基づいて建築構造物に及ぼされる相殺的な加振力が十分に得られ難くなって、目的とする制振効果が安定して発揮され難くなるのであろうと推定される。
【0015】
それに加えて、前述の如き動的吸振器の固有振動数を建築構造物において制振すべき振動周波数(建築構造物の固有振動数)に合致させるチューニングを施した従来構造の能動型制振装置では、もともと動的吸振器の共振作用を利用して、加振手段によって及ぼされる小さな加振力を大きな加振力に増幅して、建築構造物に相対的加振力を及ぼすことにより、目的とする制振効果を得ることを目的としているが故に、建築構造物において制振すべき振動周波数が動的吸振器の固有振動数から外れてしまった状態では、動的吸振器の共振作用に基づく加振力の増幅効果が大幅に低下してしまうことが避けられない。そのために、建築構造物に対して有効な制振作用を発揮する程に大きな相対的加振力を及ぼすことが出来なくなってしまうことも、前述の如き従来構造の能動型制振装置における制振効果の低下や不安定さの原因の一つであると考えられる。
【0016】
ここにおいて、本願発明に係る能動型制振装置では、「建築構造物において制振すべき振動周波数に対して動的吸振器の固有振動数を低周波数側に外して設定した構成」を採用すると共に「動的吸振器の固有振動数よりも高周波数域で且つ建築構造物において制振すべき振動周波数に相当する周波数の加振力をマス部材に及ぼすように加振手段を作動制御する加振制御手段」を設けたことにより、たとえ建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合にも、位相の大きな変化が回避される。それ故、建築構造物において制振すべき振動周波数の変化に追従して、加振手段から動的吸振器に及ぼす加振力を安定して作動制御することが出来る。しかも、もともと固有振動数を外れた位置で動的吸振器を利用していることから、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合にも、制振効果の大幅な落ち込みが問題となるようなこともない。
【0017】
加えて、本願発明に係る能動型制振装置では、「加振手段を建築構造物に支持せしめる支持部材」を設けて、「加振手段によってマス部材に及ぼされる加振力の反力が支持部材を介して建築構造物に及ぼされる」構成を採用したことにより、上述の如く固有振動数を外れた位置で動的吸振器を利用していることで共振倍率の効果を得難い構成であるにも拘わらず、加振手段による加振力を建築構造物に対して効率的に作用せしめて優れた制振効果を得ることが可能となるのである。
【0018】
もう少し詳しく説明すると、本発明に係る能動型制振装置においては、マス部材がゴムマウント(弾性支持部材)等を介して建築構造物に弾性支持されることにより、弾性支持されたマス部材によって建築構造物に対する副振動系として作用する一つの振動系(動的吸振器)が構成される。また、この一つの振動系には、加振手段による加振力が及ぼされることとなるが、この加振手段による加振力は、建築構造物に対して固定的に設けられた支持部材と、建築構造物に対して弾性支持されたマス部材との間に、作用せしめられる。これにより、支持部材には、動的吸振器のマス部材に及ぼされる加振力の反力が及ぼされることとなる。ここにおいて、かかるマス部材は、建築構造物に対して弾性支持されていることから、この弾性支持部材の弾性変形に伴う位相差に起因して、加振手段によってマス部材に及ぼされる加振力と支持部材に及ぼされる反力のとの間に位相差が発生する。しかも、特徴的な事実として、この位相差は、マス部材によって構成された動的吸振器における固有振動数を超えた周波数域では、略同位相となり、相加的に建築構造物に対する相殺的加振力として作用せしめられるということであり、加えて、マス部材によって構成された動的吸振器(副振動系)の共振周波数を超えた周波数域では、確かに加振手段から動的吸振器を通じて建築構造物に伝達される加振力のレベルが低下するものの、それと反対に、加振手段から支持部材を通じて建築構造物に伝達される(マス部材の加振反力としての)加振力のレベルが増大するということである。それ故、前述の如く、建築構造物において制振すべき振動周波数に比して低い固有振動数を設定した動的吸振器を採用した構成と組み合わせて支持部材を採用してなる本発明においては、たとえ動的吸振器の共振現象に基づく大きな加振力を利用することが難しくても、加振手段によって及ぼされる加振力を制振対象たる建築構造物に対して効率的に且つ安定したレベルで伝達作用せしめることが出来るのであり、その結果、建築構造物において目的とする能動的乃至は相殺的な制振効果を有効に且つ安定して得ることが可能となるのである。
【0019】
要するに、本発明では、「建築構造物において制振すべき振動周波数に対して動的吸振器の固有振動数を低周波数側に外して設定した」動的吸振器に係る構成と、「加振手段を建築構造物に支持せしめる支持部材を設けた」支持部材に係る構成とを、互いに組み合わせて採用したことにより、建築構造物に対して優れた制振効果を発揮し得るに十分な大きさの相殺的な加振力を、安定して且つ効率的に発揮することを可能と為し得、以て、振動周波数が変化した場合でも優れた制振効果を安定して奏せしめ得る新規な構造の能動型制振装置を実現せしめ得たのである。
【0020】
ところで、本発明に係る能動型制振装置においては、例えば、前記加振制御手段において、前記加振装置により前記マス部材に及ぼされる加振力の周波数fが、前記動的吸振器の固有振動数f0 に対して、下式に満足するように設定されることが望ましい。
0 +0.5(Hz)≦f(Hz)≦f0 ×2(Hz)
【0021】
このような周波数チューニングを施すことにより、建築構造物において制振対象となる振動周波数の変化に際しても、より安定した加振力(即ち、能動的制振効果)をより効率的に建築構造物に対して作用せしめることが可能となる。なお、建築構造物において問題となる振動は、建築構造物や支持基板等の構造等によって相違するが、一般に、10Hz以下の比較的低い周波数域に生ぜしめられる。
【0022】
また、本発明に係る能動型制振装置においては、例えば、加振手段を複数用い、互いに異なる水平方向で該加振手段による加振力が前記マス部材に及ぼされ得るようにした構成も、好適に採用され得る。このように複数の加振手段を採用することにより、各加振手段による加振力の作用方向や、或いはそれら複数の加振手段による加振力の合力作用方向でも、建築構造物における制振効果を効率的に得ることが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る能動型制振装置においては、例えば、建築構造物の振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段で検出された建築構造物の振動に対応した参照信号に基づいて加振手段の作動制御信号を生成する制御信号生成手段とを、含んで構成された加振制御手段が、好適に採用される。このような加振制御手段を採用することにより、建築構造物の周波数の変化等に対して速やかに対応することが可能となる。
【0024】
また、本発明は、建築構造物にマス部材を弾性支持せしめた動的吸振器を用い、該動的吸振器のマス部材に加振力を及ぼすことにより、該建築構造物に対する能動的な制振効果を得るに際して、前記マス部材に及ぼされる加振力の反力が前記建築構造物に作用せしめられるようにした状態下で、前記建築構造物において制振すべき振動周波数であって且つ前記動的吸振器の固有振動数よりも高周波数域の加振力を前記マス部材に対して及ぼす建築構造物の能動型制振方法も、特徴とする。
【0025】
このような能動型制振方法に従えば、前述の本発明に従う構造とされた能動型制振装置において詳述したことから理解できるように、建築構造物に対して優れた制振効果を発揮し得るに十分な大きさの相殺的な加振力を、安定して且つ効率的に発揮することが可能となり、以て、振動周波数が変化した場合でも優れた相殺的乃至は能動的な制振効果を安定して得ることが可能となるのである。
【0026】
なお、かくの如き本発明に従う能動型制振方法に際しては、例えば、動的吸振器の固有振動数f0 に対して、f0 +0.5Hz以上で且つf0 ×2Hz以下の周波数領域で、前記マス部材に及ぼされる加振力の周波数を、前記建築構造物において制振すべき振動周波数に応じて調節することが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0028】
先ず、図1及び図2には、本発明の第一の実施形態としての一般住宅用の能動型制振装置10の全体概略構成が、側面図および平面図として示されている。かかる能動型制振装置10は、それ自体が建築構造物(主振動系)に対する副振動系を構成する動的吸振器12と、加振力を及ぼすことで能動的制振効果を発揮する加振手段としての電磁加振器14とを、含んで構成されている。そして、電磁加振器14から動的吸振器12に対して、建築構造物において制振すべき振動に対応した加振力を及ぼすことにより、全体として、建築構造物における振動を相殺的乃至は干渉的に能動低減するようになっている。
【0029】
なお、このような能動型制振装置10の基本構造は、前述の特許文献4等に示されているように公知であるが、簡単に説明する。即ち、動的吸振器12は、建築構造物としての一般住宅の構造材に対して、マス部材としての本体マス18が、弾性支持部材としての複数のゴムマウント20で弾性支持されることによって構成されている。
【0030】
本体マス18は、鉄系金属等の高比重材で形成されており、本実施形態では全体として矩形ブロック形状を有している。具体的には、矩形平板形状の金属マスプレート16を、適当な枚数だけ重ね合わせて、図示しないボルトやリベット、溶接等で一体的に固定することによって本体マス18が構成されている。この本体マス18では、重ね合わせる金属マスプレート16の数や板厚を調節することにより、制振対象となる建築構造物のマスの大きさに容易に対応することが可能となっている。具体的には、有効な制振効果を得るためには、制振対象である建築構造物の質量に対して5%程度の本体マス18の質量を設定することが望ましいが、それ以下であっても制振効果は期待できる。
【0031】
また、ゴムマウント20は、ゴムブロック26から構成されており、図面上に明示はされていないが、ゴムブロック26の上下両端部に上下の取付金具が固着されている。そして、下端の取付金具がベースプレート22上に載置されてボルト等で固定される一方、上端の取付金具が本体マス18の下面に重ね合わされてボルト等で固定されている。これにより、複数個のゴムマウント20により協働して、一つの本体マス18が、ベースプレート22上で略水平に且つ弾性的に支持されている。
【0032】
なお、ベースプレート22は、剛性の高い金属等の平板とされており、本体マス18よりも一回り大きな矩形平面形状を有している。そして、本実施形態では、本体マス18が、その四隅近くに配設された4個のゴムマウント20,20,20,20によって、ベースプレート22上に弾性支持されている。
【0033】
また、本実施形態では、ゴムマウント20として、ゴムブロック26の高さ方向で相互に離隔して複数の中間金属プレート24が埋設固着された複合構造体が採用されている。このような中間金属プレート24を採用することにより、ゴムマウント20の水平方向のばね特性が著しく低下(高ばね化)することを回避しつつ、鉛直方向の支持ばね剛性を大きく設定することが出来る。その結果、本体マス18の質量が数百kgに及ぶ場合でも、対応できる支持ばね剛性を容易に確保できるようになっている。
【0034】
さらに、ベースプレート22の端縁部(図1,2中の右側端縁部)には、上方に向かって突出する支持部材としての支持壁28が固設されている。この支持壁28は、本体マス18の外周面に対して水平方向で離隔して対向位置せしめられている。そして、これら支持壁28と本体マス18の対向部位において、電磁加振器14が装着されている。
【0035】
かかる電磁加振器14は、能動型制振装置に用いられる電磁アクチュエータとして、例えば前述の特許文献3にも示されているが、簡単に構造を説明する。即ち、この電磁加振器14は、同一中心軸上で軸方向に相互に対向位置して配設された、大径円形ブロック形状の基台部材30と小径円形ブロック形状の出力部材32を備えており、これら基台部材30と出力部材32が円環ブロック形状の連結ゴム38で弾性的に連結されている。また、基台部材30には、中心軸上を貫通してガイド孔34が形成されており、出力部材32から中心軸上に突設されたガイドロッド36が、このガイド孔34に対して摺動可能に挿通されている。更に、基台部材30が鉄等の強磁性材で形成されていると共に、基台部材30には、出力部材32側端面に開口する環状凹溝40が形成されており、この環状凹溝40の周壁面に永久磁石44が固設されることによって、環状凹溝40に磁気ギャップを形成するヨークが構成されている。また、この環状凹溝40には、その開口側から差し入れられてコイル42が軸方向に変位可能に配設されており、このコイル42が伝動部材50によって出力部材32に固定されている。かくの如き構造とされた電磁加振器14は、コイル42に通電することで、基台部材30に対して出力部材32を軸方向に変位駆動させることが出来るようになっており、コイル42へ通電する脈流や交流の大きさや周波数を調節することで、発生する駆動力の大きさや周波数を制御することが出来るようになっている。
【0036】
そして、この電磁加振器14は、支持壁28に貫設された装着孔46に対して基台部材30が圧入等で固定される一方、本体マス18に対して出力部材32が固定ボルト48で固定されることにより、駆動軸方向(中心軸方向)を水平方向に向けて装着されている。かかる装着状態下、電磁加振器14のコイル42に通電することにより、支持壁28に対して本体マス18を水平方向で駆動変位せしめる加振力が生ぜしめられるようになっている。
【0037】
而して、上述の如き構造とされた能動型制振装置10は、そのベースプレート22が、一般住宅等の小型建築構造物の構造材に対して図示しないボルト等で固定されることによって、該ベースプレート22が水平状態となるようにして、且つ電磁加振器14の駆動軸の方向(図1,2の左右方向)が建築構造物において制振すべき振動方向となる状態で取り付けられる。特に、一般住宅等では、水平方向の振動が大きくなる最上階の押し入れや屋根裏等に設置することが望ましく、それによって、制振効果をより効果的に得ることが出来る。
【0038】
また、かかる装着状態下、図3に概要が示されているように、電磁加振器14の加振制御手段としての制御装置52が設けられている。この制御装置52は、振動検出手段としての振動センサ54を含んで構成されている。かかる振動センサ54は、例えば加速度センサが採用され、建築構造物の構造躯体(例えば、能動型制振装置10のベースプレート22等でも良い)に取り付けられることにより、建築構造物において制振すべき振動を電気信号として検出するようになっている。
【0039】
そして、この振動センサ54で検出された電気信号を参照信号として、能動型制振装置10の電磁加振器14の作動制御信号を生成して、コイル42への駆動電力を制御する制御信号生成手段56を含んで、制御装置52が構成されている。なお、参照信号に基づくコイル42への駆動電力の制御信号の生成は、例えば、適応制御等の公知の手法によって、制振すべき振動に対応してリアルタイムで加振力の周波数や位相を制御すること等によって実現可能である。この技術は、例えば自動車用の能動型防振装置の制御装置として良く知られている。簡単に例示すると、制振すべき建築構造物の振動状態を検出した振動センサ54の検出信号に基づいて、その振動に対して有効な制振効果を発揮し得るように、検出信号に対応した駆動電流を電磁加振器14のコイル42に出力するものであって、例えば、実験等に基づいて予め設定されたデータにより、検出信号の大きさに対応した大きさの駆動電流を、検出信号に対して所定の位相差で給電することによりフィードフォワード的に制御するものや、或いは、検出信号に含まれる建築構造物の振動値を可及的に零にするように駆動電流の大きさ等をフィードバック制御するもの等が採用可能である。また、換言すれば、本実施形態においては、制御装置52が振動センサ54と制御信号生成手段56とを含んで構成されていると共に、振動センサ54により検知された建築構造物の制振すべき振動周波数に基づいて、制御信号生成手段56により電磁加振器14の作動制御信号が生成されることによって、本体マス18に及ぼされる加振力の周波数が制御されるようになっている。
【0040】
ここにおいて、上述の能動型制振装置10においては、本体マス18の全体質量やゴムマウント20のばね特性を調節することによって、動的吸振器12における水平方向の固有振動数(共振周波数):f0 が、建築構造物において制振を目的とする周波数領域よりも低周波数となるように設定されている。
【0041】
具体的には、建築構造物において制振を目的とする周波数のうちで主となるものとして、建築構造物における制振すべき振動方向における固有振動数(共振周波数)をfとしたときに、下記の式(1)を満足するように設定されている。
式(1): f0 +0.5(Hz)≦f(Hz)≦f0 ×2(Hz)
【0042】
これにより、建築構造物の制振すべき振動周波数が変化した場合でも、能動型制振装置10の動的吸振器12における固有振動数よりも高い周波数域に制振すべき振動が存在するように設定される。その結果、建築構造物において制振すべき振動周波数で加振力が動的吸振器12に及ぼされるように電磁加振器14が制御されるに際して、制振すべき建築構造物の振動と動的吸振器12の振動との位相差の著しい変化(反転など)が回避され得るのであり、これにより、電磁加振器14の加振制御ひいては動的吸振器12の加振変位の安定性が向上されることとなる。それ故、動的吸振器12の本体マス18に加振力を及ぼすことで建築対象物に作用する能動的な制振効果が、安定して発揮され得ることとなるのである。
【0043】
因みに、上述の如き構造とされた能動型制振装置10を用いて、制振効果としての建築構造物への伝達力の周波数特性を実測した結果を、図4に示す。なお、図4中の伝達力は、ベースプレート22から、該ベースプレート22が固定された建築構造物に対して及ぼされる水平方向の伝達力を測定したものである。図4(a),(b)に示す結果からも、能動型制振装置10における動的吸振器12の固有振動数である略3.5Hz付近で位相が反転して大きく変化していることが認められる。
【0044】
また、この共振周波数域(図中の領域Y)を低周波側に外れた領域(図中の領域X)では、位相が同相となっており、且つ位相の変化も比較的大きく存在していることが認められる。これに対して、動的吸振器12の共振周波数を高周波側に外れた領域(図中の領域Z)では、位相が逆相となっており、位相の変化が領域Xに比して小さい(周波数の広い領域に亘って略一定である)ことが認められる。
【0045】
加えて、上述の能動型制振装置10においては、電磁加振器14の基台部材30が、支持壁28を介して、ベースプレート22に対して固定的に支持されている。これにより、電磁加振器14によって動的吸振器12の本体マス18に及ぼされた水平方向の加振力の反力が、ベースプレート22に作用せしめられることとなる。
【0046】
すなわち、図5に力の伝達を示す説明図が表されているように、電磁加振器14によって動的吸振器12に及ぼされる水平方向の加振力PAとその反力PBは、何れも、ベースプレート22から建築構造物に伝達されることとなる。ここにおいて、上述の如く、電磁加振器14の加振力を動的吸振器12に及ぼして能動的制振効果を得る周波数域では、その加振周波数が、動的吸振器12の共振周波数よりも高周波領域Zに設定されている。
【0047】
従って、図4に示されているように、電磁加振器14によって動的吸振器12に及ぼされる水平方向の加振力PAとその反力PBは、略同相の加振力としてベースプレート22に伝播することとなり、それら両方の力PAとPBが略相加的な加振力PCとして、ベースプレート22から建築構造物に作用せしめられるのである。
【0048】
これにより、電磁加振器14から動的吸振器12に及ぼされる水平方向の加振力だけでなく、その反力として支持壁28に及ぼされる水平方向の反力も、有効な加振力として、建築構造物に対して及ぼされることとなる。それ故、たとえ動的吸振器12の共振作用を利用することができなくても、電磁加振器14による加振力を効率的に建築構造物に及ぼして有効な制振効果を得ることが可能となるのである。
【0049】
このことは、図4に示した実験結果でも確認することができる。即ち、動的吸振器12の共振周波数域Yを低周波側に外れた領域Xでは、ベースプレート22から建築構造物に及ぼされる加振力が小さいのに比して、動的吸振器12の共振周波数域Yを高周波側に外れた領域Zでは、ベースプレート22から建築構造物に対して比較的に大きな加振力が伝達されているのである。しかも、かかる領域Zでは、この伝達力の値が、周波数の変化によってそれ程大きく変化することも無いのである。なお、かかる実験に際して、ベースプレート22から建築構造物に及ぼされる水平方向の加振力は、図5に示されているように、ベースプレート22と建築構造物との間に3軸ロードセル58を装着し、この3軸ロードセル58に作用せしめられる水平方向の力を検出することによって行った。
【0050】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた能動型制振装置10においては、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合でも、動的吸振器12における位相の大きな変化が回避されるのであり、大きな加振力を安定して建築構造物に作用せしめて、目的とする能動的な制振効果を効果的に得ることが出来るのである。
【0051】
しかも、前記の式(1)で特定される周波数チューニングを施すことによって、かかる効果をより効果的に享受することが出来る。即ち、建築構造物における制振すべき振動方向(加振方向となる水平方向)における固有振動数fが、動的吸振器12の固有振動数f0 に対して0.5Hzより小さな差しかなくなると、僅かな周波数の変化に際して位相の変化が大きくなって安定性が低下する傾向になる。一方、建築構造物における固有振動数fが、動的吸振器12の固有振動数f0 に対して2倍より大きな差になると、加振力を効率的に得難くなる傾向になる。
【0052】
特に、支持壁28を設けて電磁加振器14による動的吸振器12の加振反力を利用することに基づいて発揮される、上述の如き加振力の建築構造物への効率的な伝達効果を一層有効に得るにも、上記の式(1)で特定される周波数チューニングを採用することが望ましい。このことは、本発明者によって実験でも確認されている。即ち、図6(a)〜(c)に示されているように、動的吸振器12の固有振動数に相当する3.5Hzの周波数域での加振状態(図6の(b))に比して、それよりも低周波領域では、図6の(a)に示されているように、加振力PAが比較的に大きいピークを有しているに拘わらず、総合的にベースプレート22から建築構造物に伝達される加振力PCが小さい。これに対して、動的吸振器12の固有振動数よりも高周波領域では、図6の(c)に示されているように、加振力PAのピーク値そのものは(a)に示された低周波領域と殆ど変わらないものの、反力としての伝達力PBが大きいピークを持ち、その結果、総合的にベースプレート22から建築構造物に伝播される加振力PCを大きく得ることが出来る。具体的には、図6(a)と(c)のデータを比較すると、低周波領域の(a)の場合に比して、高周波領域の(c)の場合では、2倍以上の大きさのピークをもった加振力PCが発揮されることが認められる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0054】
例えば、図7に平面図が示される本発明の別の実施形態としての能動型制振装置70のように、複数の電磁加振器14を採用し、それらの電磁加振器14によって、同一水平方向の加振力を動的吸振器12に作用させたり、或いは異なる水平方向(図示の場合では、互いに直交する水平方向)の加振力を動的吸振器12に作用させたりすることも可能である。
【0055】
特に、複数の電磁加振器14によって同一方向の加振力を動的吸振器12に作用させることにより、本体マス18の回転変位を押さえて並進性を向上させることができ、本体マス18の変位の安定化ひいてはそれによって発揮される制振効果の更なる安定化が図られ得る。また、互いに異なる方向の加振力を動的吸振器12に作用させることにより、複数の水平方向で、それぞれ能動的制振効果を得ることが可能となる。なお、複数の水平方向で制振効果を得るに際しては、各ゴムマウント20における水平方向のばね特性を異ならせることで、全体として動的吸振器12における水平方向のばね成分を各水平方向で異なるように設定する。これにより、各水平方向で異なる周波数域の制振効果が要求される場合に、各周波数毎に動的吸振器12の固有周波数を異ならせて設定することが可能となり、能動的制振効果を一層有利に得ることが可能となる。
【0056】
なお、本発明は、一階建てや二階建て以上の一般住宅の他、集合住宅や事務所、倉庫、ビル、タワー等、各種の小形乃至大形の建築構造物用の能動型制振装置として、何れも適用可能であることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態としての能動型制振装置を示す正面図。
【図2】図1に示された能動型制振装置の平面図。
【図3】図1に示された能動型制振装置を構成する電磁加振器の装着状態を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図1に示された能動型制振装置の加振力の周波数特性の実測値を示すグラフ。
【図5】図1に示された能動型制振装置における加振力の伝播状態を説明するための説明図。
【図6】図1に示された能動型制振装置の加振力の周波数特性の実測値を示すグラフ。
【図7】本発明の別の実施形態としての能動型制振装置を示す平面図。
【符号の説明】
【0058】
10:能動型制振装置,12:動的吸振器,14:電磁加振器,18:本体マス,20:ゴムマウント,28:支持壁,52:制御装置,54:振動センサ,56:制御信号生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物にマス部材を弾性支持せしめることにより動的吸振器を構成すると共に、該建築構造物において制振すべき水平な振動方向で該マス部材に対して加振力を及ぼす加振手段を設けた建築構造物用の能動型制振装置において、
前記建築構造物において制振すべき振動周波数に対して前記動的吸振器の固有振動数を低周波数側に外して設定する一方、前記加振手段を該建築構造物に支持せしめる支持部材を設けて、該加振手段によって前記マス部材に及ぼされる加振力の反力が該支持部材を介して該建築構造物に及ぼされるようにすると共に、該加振手段によって該マス部材に及ぼされる加振力の周波数を制御することにより、該動的吸振器の固有振動数よりも高周波数域で且つ該建築構造物において制振すべき振動周波数に相当する周波数の加振力を該マス部材に及ぼすように該加振手段を作動制御する加振制御手段を設けたことを特徴とする建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項2】
前記加振制御手段において、前記加振装置により前記マス部材に及ぼされる加振力の周波数fが、前記動的吸振器の固有振動数f0 に対して、f0 +0.5Hz以上で且つf0 ×2Hz以下に設定されるようになっている請求項1に記載の建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項3】
前記加振手段を複数用い、互いに異なる水平方向で該加振手段による加振力が前記マス部材に及ぼされ得るようにした請求項1又は2に記載の建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項4】
前記建築構造物の振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段で検出された該建築構造物の振動に対応した参照信号に基づいて前記加振手段の作動制御信号を生成する制御信号生成手段とを、
含んで前記加振制御手段が構成されている請求項1乃至3の何れか一項に記載の建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項5】
建築構造物にマス部材を弾性支持せしめた動的吸振器を用い、該動的吸振器のマス部材に加振力を及ぼすことにより、該建築構造物に対する能動的な制振効果を得るに際して、
前記マス部材に及ぼされる加振力の反力が前記建築構造物に作用せしめられるようにした状態下で、
前記建築構造物において制振すべき振動周波数であって且つ前記動的吸振器の固有振動数よりも高周波数域の加振力を前記マス部材に対して及ぼすことを特徴とする建築構造物の能動型制振方法。
【請求項6】
前記動的吸振器の固有振動数f0 に対して、f0 +0.5Hz以上で且つf0 ×2Hz以下の周波数領域で、前記マス部材に及ぼされる加振力の周波数を、前記建築構造物において制振すべき振動周波数に応じて調節する請求項5に記載の建築構造物の能動型制振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−223282(P2008−223282A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60909(P2007−60909)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】