説明

建築構造物

【課題】剛性・耐力のコントロールを容易に行えるとともに、壁の架構の変更を容易に行える建築構造物を提供することを課題とする。
【解決手段】棒状構造体10を複数連接し、これら棒状構造体10同士を互いに緊結して一体化された緊結耐力組壁体5を備えたことを特徴とする。また、棒状構造体10を複数連接し、これら棒状構造体10同士を互いに緊結して一体化された緊結組柱7を備えてもよい。そして、棒状構造体10は、プレキャストコンクリート部材にて構成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の内部に耐力壁が設けられている場合、その耐力壁が必ずしも十分に効果を発揮しない場合がある。例えば、図7に示すように、建築構造物50の構造部材の平面配置の中で耐力壁51が偏在して配置されている場合がそうである。このような場合、柱52や耐力壁51からなる水平抵抗要素の中で水平剛性の差が大きすぎると水平剛性の大きい側に応力集中するため、水平耐力をより一層高める必要があり、さらに応力が集まってしまうといった悪循環を引き起こしてしまう。そのため、従来の建築構造物50では、応力が集中する耐力壁にスリットを設けて、剛性を下げる対策を施していた。なお、特許文献1には、耐力壁全体に複数のスリットを設け、耐力壁の剛性を自由にコントロールすることにより建築物全体としての耐力の向上を図った構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−36654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、耐力壁にスリットを設けた特許文献1の構成では、スリットの周囲の結合部分に応力が集中してしまうといった問題があった。また、前記構成では、建物の改装において、耐力壁の一部を取り除いたり追加したりする架構の変更が非常に困難である問題もあった。
【0005】
そこで本出願人は、このような問題を解決すべく、剛性・耐力のコントロールを容易に行えるとともに、架構の変更を容易に行える建築構造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、棒状構造体を複数連接し、これら棒状構造体同士を互いに緊結して一体化された緊結耐力組壁体を備えたことを特徴とする建築構造物である。
【0007】
本発明において、緊結耐力組壁体と隣り合う棒状構造体は、棒状構造体単体であってもよいし、前記緊結耐力組壁体と隣り合う緊結耐力組壁体を構成する棒状構造体であってもよい。このような構成によれば、緊結耐力組壁体とこれに隣り合う棒状構造体とが非緊結状態で接触しているので、構造的に分割された壁を設けることができる。したがって、壁が偏在して配置された建物であっても、設計条件に応じて緊結耐力組壁体の位置を適宜決定して、壁全体における緊結度合いを設定することで、壁の剛性および耐力を容易に制御することができる。また、複数の棒状構造体で壁を構成しているので、建物の改装工事において、壁の一部を取り除いたり追加したりする架構の変更を容易に行うことができる。さらには、棒状構造体を一定の形状に統一することで、構造設計が容易になる。また、形成された壁の外観は一体的であるが、構造的に分割された壁を形成することができる。
【0008】
また、本発明は、棒状構造体を複数連接し、これら棒状構造体同士を互いに緊結して一体化された緊結組柱を備えたことを特徴とする建築構造物である。このような構成によれば、柱の形状を適宜設定して多様化することができるので、構造設計の自由度を高めることができるとともに、デザイン性を高めることができる。
【0009】
さらに、本発明は、前記棒状構造体が、プレキャストコンクリート部材にて構成されていることを特徴とする。このような構成によれば、施工現場における施工手間と時間を低減させることができるとともに、施工精度を高めることができる。
【0010】
また、本発明は、前記棒状構造体が、連接方向に貫通する貫通孔を備えており、連接した複数の前記棒状構造体の前記貫通孔に棒状緊結材を挿通して締め付けることで、前記棒状構造体同士を緊結することを特徴とする。このような構成によれば、棒状構造体同士の緊結およびその解除を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、剛性・耐力のコントロールを容易に行えるとともに、建物の改修時に壁の架構の変更を容易に行えるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係る建築構造物を示した平面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る建築構造物の壁を示した水平方向断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る建築構造物の壁を示した鉛直方向断面図である。
【図4】壁にかかる荷重と変位の関係を示したグラフである。
【図5】本発明の第二実施形態に係る建築構造物を示した平面図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る建築構造物の柱を示した水平方向断面図である。
【図7】従来の建築構造物を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付した図面を参照しつつ、本発明の第一実施形態を説明する。本実施形態では、棒状構造体で壁を形成した場合について説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る建築構造物1は、建物内において耐力壁(以下、単に「壁」と称する場合がある)2が偏在して配置されている。このような場合、柱3や壁2からなる水平抵抗要素の中で水平剛性の差が大きすぎる(本実施形態では、壁2の水平剛性が柱3の水平剛性より大きい)と水平剛性の大きい側に応力集中したり、建築構造物全体にねじれが生じたりするため、壁2の剛性を下げている。
【0015】
図2および図3に示すように、本実施形態に係る建築構造物1では、壁2の剛性を下げるために、壁2は、棒状構造体10を長手方向に複数連接して構成されている。壁2は、隣り合う複数の棒状構造体同士10を互いに緊結して一体化された緊結耐力組壁体5が形成されるとともに、緊結耐力組壁体5とこれと隣り合う棒状構造体10とが非緊結状態で接触して構成されている。ここで、緊結耐力組壁体5と隣り合う棒状構造体10は、棒状構造体10単体であってもよいし、緊結耐力組壁体5と隣り合う緊結耐力組壁体5の一部を構成する棒状構造体10であってもよい。ここで、緊結耐力組壁体5を構成する棒状構造体10,10同士の隣接部分は緊結隣接部11(図3参照)を構成し、緊結耐力組壁体5と、これと隣り合う棒状構造体10との隣接部分は、非緊結隣接部12(図3参照)を構成する。
【0016】
本実施形態では、壁2は、緊結隣接部11が連続して並ぶ部分で構造的に一体化された棒状構造体10,10…からなる緊結耐力組壁体5を複数備えており、非緊結隣接部12を介して隣り合う緊結耐力組壁体5,5同士を構造的に分離するように構成されている。
【0017】
棒状構造体10は、壁2と比較して小断面のプレキャストコンクリート部材にて構成されており、主筋13aとフープ筋13bが設けられている。各棒状構造体10は、同一の形状に形成されており、断面正方形を呈している。棒状構造体10には、水平方向に貫通する貫通孔14が形成されている。棒状構造体10は、貫通孔14が連接方向に延在するように配置されており、棒状構造体10を連接したときに各貫通孔14,14…が直線状に連通するように構成されている。貫通孔14は、上下に隣り合うフープ筋13bの中間部に形成されて、上下方向に所定の間隔を隔てて配置されている。貫通孔14は、棒状構造体10の上端部と下端部にそれぞれ3段ずつ形成されている。なお、本実施形態で示した貫通孔14の高さ位置と個数は、一例であって、この構成に限定する趣旨ではなく、必要な壁2の剛性および耐力に応じて設定すればよい。例えば、貫通孔は、棒状構造体10の高さ方向全体に亘って形成してもよいし、応力が集中する部分にまとめて形成してもよい。
【0018】
連接した複数の棒状構造体10の貫通孔14内には、棒状緊結材15が挿通され、この棒状緊結材15を締め付けることで棒状構造体10同士が緊結されている。棒状緊結材15は、ボルト15aとナット15bにて構成されている。緊結する複数の棒状構造体10の長さに合わせた長さの胴部を備えたボルト15aを複数の貫通孔14,14…の一端から挿入して、貫通孔14,14…の他端から突出したボルト15aの先端部に形成されたおねじ部にナット15bを螺合させることで、棒状緊結材15が棒状構造体10を締め付ける。なお、棒状緊結材15は、ボルト15a、ナット15bに限定されるものではない。
【0019】
互いに緊結された棒状構造体10,10…のうち、緊結耐力組壁体5の壁長さ方向端部に位置する棒状構造体10の貫通孔14の外側端部には、拡径部16が形成されている。拡径部16は、ボルト15aの頭部またはナット15bを収容するスペースであって、貫通孔14に繋がって形成されている。拡径部16には、棒状緊結材15を締め付けた後、モルタル17が充填される。
【0020】
ここで、隣接する棒状構造体10,10の隣接部分のうち、各貫通孔14,14間をボルト15aが延在して架け渡され、棒状構造体10,10が互いに締め付けられて押圧された部分が、緊結隣接部11となる。一方、隣接する棒状構造体10,10の隣接部分のうち、拡径部16,16同士が対向し、ボルト15aが架け渡されていない部分が非緊結隣接部12となる。非緊結隣接部12は、隣接する棒状構造体10,10同士が非緊結状態で構造的には接続されておらず、単に接触しているだけの部分である。
【0021】
なお、図2および図3では、3つの棒状構造体10,10,10が、棒状緊結材15によって一体的に緊結されて、壁2の一部を構成する緊結耐力組壁体5を形成しているが、これは一例であって、棒状構造体10の個数や緊結手段を限定する趣旨ではない。
【0022】
以上のような構成によれば、緊結隣接部11,11が連続して並ぶ部分で構造的に一体化された緊結耐力組壁体5が形成され、非緊結隣接部12を介して隣り合う緊結耐力組壁体5,5同士が構造的に分離されるので構造的に分割された壁2を設けることができる。したがって、壁2が偏在して配置された建物であっても、設計条件に応じて緊結隣接部11と非緊結隣接部12の位置を適宜決定し、緊結耐力組壁体5の位置および大きさを設定することで、壁2全体の緊結度合いを設定でき、これによって、壁2の剛性および耐力を容易に制御(コントロール)することができる。緊結度合いは、緊結隣接部11が多く非緊結隣接部12が少ないほど大きくすることができ、緊結隣接部11が少なく非緊結隣接部12が多いほど小さくすることができる。また、緊結度合いは、貫通孔14を上下方向に多く形成して棒状緊結材15による締め付けを多くするほど大きくすることができる。
【0023】
図4のグラフは、壁にかかる荷重と変位の関係を示したものである。グラフの曲線Aは、棒状構造体10を連接しただけで互いに緊結していない状態の壁を示し、曲線Bは、従来型の全体が一体的に形成された状態の壁を示している。そして、曲線Aと曲線B間に記した曲線C1〜C3が、本発明を適用した壁を示し、曲線C1が緊結度合いが大きい状態の壁を示し、曲線C3が緊結度合いが小さい状態の壁を示している。このグラフより、棒状構造体10,10同士の緊結度合いを大きくすると、荷重Qに対する変位δが小さくなることが解る。つまり、緊結度合いを大きくするほど、壁2の剛性および耐力を高めることができる。
【0024】
また、複数の棒状構造体10,10…で壁2を構成しているので、建物の改装工事において、壁2の一部を取り除いたり追加したりする架構の変更を容易に行うことができる。さらに、貫通孔14の拡径部16のモルタル17を除去して棒状緊結材15による締め付けを除去して、異なった場所で棒状緊結材15を設けることで、容易に構造的に一体に形成された緊結耐力組壁体5の位置および架構を変更することができ、剛性および耐力を調整することができる。また、棒状緊結材15は、ボルト15aとナット15bにて構成されているので、棒状構造体10,10同士の緊結およびその解除を容易に行うことができる。
【0025】
さらには、棒状構造体10が一定の形状に統一されているので、施工が容易になるとともに構造設計が簡単になる。また、本実施形態では、棒状構造体10をプレキャストコンクリート部材にて構成しているので、施工現場におけるコンクリート打設等の施工手間と時間を低減させることができるとともに、施工精度を高めることができる。
【0026】
また、形成された壁2の外観は面一な板状で一体的であるが、構造的には分割された壁2を形成することができるので、使い勝手が良く、外観に優れた壁2を備えた建築構造物1を得ることができる。
【0027】
次に、図5および図6を参照して、本発明の第二実施形態を説明する。本実施形態では、棒状構造体10で緊結組柱7を形成した場合を例に挙げて説明する。
【0028】
図5に示すように、本実施形態に係る建築構造物6は、建物内において適所に配置された緊結組柱7が、種々の形状に形成されている。図6に示すように、緊結組柱7は、棒状構造体10を複数連接し、これら棒状構造体10同士を緊結して構成されている。
【0029】
図6に示した緊結組柱7は、4つの棒状構造体10,10…にて構成されており、棒状構造体10,10…はX軸方向(図6中、左右方向)に二列、Y軸方向(図6中、上下方向)に二列にそれぞれ配置されて、断面正方形を呈している。棒状構造体10同士は、X軸方向およびY軸方向の両方向で緊結されて、緊結組柱7全体が一体的に緊結されている。なお、ここでのX軸、Y軸は緊結方向を説明するために例示したものであって、実際の設計図上の通り芯とは関係ない。棒状構造体10には、X軸方向に延在する貫通孔14と、Y軸方向に延在する貫通孔14(図6中、破線にて示す)とが、緊結組柱7の設置状態での上下方向に交互に形成されている。なお、貫通孔14と棒状緊結材15の構成は、第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。互いに緊結された棒状構造体10,10同士の隣接部が緊結隣接部11を構成する。
【0030】
以上のような構成によれば、棒状構造体10を種々の方向に配置することができるので、緊結組柱7のデザインに変化をもたせることができ、意匠性を高めることができる。また、必要な緊結組柱7の強度に応じて、棒状構造体10の個数を設定して緊結すればよいので、剛性および耐力の制御を容易に行うことができる。
【0031】
なお、図6に示した緊結組柱7では、全ての棒状構造体10を緊結して、緊結組柱7全体が構造的に一体化されているが、このような構成に限定する趣旨ではなく、非緊結状態で接触する棒状構造体が設けられていてもよい。
【0032】
例えば、図5の左上および左下に示した緊結組柱7’のように、室内側を階段状に形成して意匠性を高めてもよい。この場合、4つの棒状構造体10を四角形状に配置(図6の緊結組柱7と同等)してコア部20を形成し、このコア部20の側部に外壁に沿って棒状構造体10,10を配置している。ここで、コア部20のみで緊結組柱7’に必要な剛性および耐力が得られる場合は、コア部20のみを緊結して、外側の棒状構造体10は非緊結状態で接触させればよい。すると、コア部20と外側の棒状構造体10との隣接部が非緊結隣接部12となる。
【0033】
このような構成にすれば、緊結組柱7’の構造上一体化された部分の形状は断面矩形(コア部20の形状)になるので、応力が局部に集中することがなく、構造計算が容易になり、剛性および耐力の制御を容易に行うことができる。
【0034】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では棒状構造体10はプレキャストコンクリート部材にて構成されているがこれに限定されるものではなく、鉄骨等、他の部材にて構成してもよい。
【0035】
また、前記実施形態では、壁2と緊結組柱7はそれぞれ別々に形成されているが、壁を構成する棒状構造体と緊結組柱を構成する棒状構造体同士を緊結して、壁と緊結組柱を一体的に形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 建築構造物
2 壁
5 緊結耐力組壁体
7 緊結組柱
10 棒状構造体
14 貫通孔
15 棒状緊結材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状構造体を複数連接し、これら棒状構造体同士を互いに緊結して一体化された緊結耐力組壁体を備えた
ことを特徴とする建築構造物。
【請求項2】
棒状構造体を複数連接し、これら棒状構造体同士を互いに緊結して一体化された緊結組柱を備えた
ことを特徴とする建築構造物。
【請求項3】
前記棒状構造体は、プレキャストコンクリート部材にて構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の建築構造物。
【請求項4】
前記棒状構造体は、連接方向に貫通する貫通孔を備えており、
連接した複数の前記棒状構造体の前記貫通孔に棒状緊結材を挿通して締め付けることで、前記棒状構造体同士を緊結する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の建築構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−132730(P2011−132730A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292573(P2009−292573)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】