説明

建築物の補強構造及びそれを含むコンクリート建築物

【課題】集合住宅のような中高層の建築物に対して適用可能であって、施工性に優れ、低コストで、施工時及び施工後における居住性を低下させることのない、耐震性等を高めるための建築物の補強構造を提供する。
【解決手段】建築物の補強構造1は、コンクリート建築物の柱2及び梁3を含む構造部分と、該構造部分で囲まれた補強対象面に形成された補強壁とからなる。補強壁は、繊維含有水硬性組成物からなるパネル4と、パネル4と柱2及び梁3を含む構造部分の間に現場打ちで打設された、繊維含有水硬性組成物からなる接合部5を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼繊維補強モルタルの如き繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネル(プレキャスト壁材)を用いた、既存のコンクリート建築物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内には、1960年代〜1970年代にかけての高度成長期に建てられ、現在、更新または補修の時期を迎えている集合住宅が数多く存在する。
これらの集合住宅は、1981年の新たな耐震基準の前に建築されているため、大地震に遭遇した場合、倒壊や、簡単な修復では済まない大きな損傷を受ける可能性がある。そのため、補強工事を予め行ない、大地震の遭遇時に受ける損傷の程度を小さく抑えることが望まれている。この際、居住者の経済的負担が小さく、施工時に居住性への影響が小さく、しかも施工後に補強壁等によって居住空間が狭くならないことが望まれる。
一方、これらの集合住宅は、居住空間が狭いため、主戸間の間仕切壁(構造壁)や床スラブの一部または全部を撤去するなどして、各住戸の居住空間を広く開放的に創り直すことができれば、リフォームによる快適な空間の創造を望む居住者を満足させうると考えられる。しかし、間仕切壁や床スラブを撤去した場合、建築構造上の強度の低下を避けるため、あるいは、もともと不足する耐震性をより高性能に向上させるために、何らかの補強を行う必要がある。
【0003】
このような状況下において、従来より、既存の建物を補強するための技術が、種々提案されている。
一例として、既存の柱・はりフレームの内側に壁を新規に配置して耐震壁を構築する既存構造物の補強構造において、柱・はりフレームの内周に、新設壁に作用するせん断力を柱・はりフレームに伝達するせん断力伝達部材を突設してあることを特徴とする既存構造物の補強構造が提案されている(特許文献1参照)。
この補強構造における耐震壁は、柱とはりで囲まれた空間に対して縦横に配筋した壁筋の両側に、コンクリートを吹き付けて、必要な厚さに構築されるものである。
【特許文献1】特開2000−234443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の文献の技術において、耐震壁は、壁筋を配設したうえで、この壁筋にコンクリートを吹き付けることによって構築される。そのため、施工作業が煩雑であり、かつ施工に長時間を要するなどの問題がある。
また、通常、鉄筋コンクリート壁の厚さが15〜20cm程度であることを考慮すると、集合住宅の各戸に、上記の耐震壁を設けるとすれば、耐震壁の合計の質量が非常に大きくなり、建築物の基礎を補強するために大掛かりな工事を行なう必要が生じるという問題もある。なお、上記の文献の技術における耐震壁は、1階部分が店舗や駐車場等になっているために柱ばかりで壁量の少ない、いわゆるピロティ形式の建築物の1階部分の耐震補強に適用されるものである。
そこで、本発明は、集合住宅のような中高層の建築物に対して適用可能であって、施工性に優れ、低コストで、施工時及び施工後における居住性を低下させることのない、耐震性等を高めるための建築物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、繊維含有水硬性組成物からなるパネルを用いて、既存のコンクリート建築物の特定の位置に補強壁を形成すればよいことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供するものである。
[1] コンクリート建築物の柱及び梁を含む構造部分と、該構造部分で囲まれた補強対象面に形成された補強壁とからなる建築物の補強構造であって、上記補強壁が、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネルと、該パネルと上記構造部分の間に形成された接合部とからなることを特徴とする建築物の補強構造。
[2] 上記柱及び梁を含む構造部分で囲まれた補強対象面に既存の壁を含み、かつ、上記補強壁が、上記既存の壁の片面側に隣り合って形成されている上記[1]の建築物の補強構造。
[3] 上記パネルを形成している繊維含有水硬性組成物の硬化体の圧縮強度が、100N/mm以上である上記[1]又は[2]の建築物の補強構造。
[4] 上記接合部が、繊維含有水硬性組成物を現場打ちで打設してなる硬化体を含む上記[1]〜[3]のいずれかの建築物の補強構造。
[5] コンクリート建築物の柱及び/又は梁と、補強壁とが、プレストレスを導入して圧着されている上記[1]〜[4]のいずれかの建築物の補強構造。
[6] 各階に2戸以上の居住部分及び共用通路部分を有する2階建て以上のコンクリート建築物であって上記[1]〜[5]のいずれかの建築物の補強構造を含むことを特徴とするコンクリート建築物。
[7] 鉛直方向の断面が格子状である柱及び梁の集合体を含み、かつ、該格子状である柱及び梁の集合体を構成する複数の区画に対して、市松模様の形態で交互に上記補強構造を形成させてなる上記[6]のコンクリート建築物。
[8] 上記居住部分と上記共用通路部分の間、または、上記共用通路部分の外側に、上記補強構造を形成させてなる上記[6]又は[7]のコンクリート建築物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の補強構造は、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネルを用いているので、従来の補強壁と比べて厚さ等を小さくして軽量化することができ、コンクリート建築物の内部に当該補強構造を多数形成させたとしても、建築物の基礎を補強するなどの工事を併せて行なう必要がないか、または、基礎を補強する場合でも、小規模な工事で行なうことができる。そのため、集合住宅のような中高層の建築物に対しても、本発明の補強構造を建築物全体に万遍なく形成させて、耐震性等を高めることができる。
本発明の補強構造は、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネルを用いているので、現場打ちで補強壁を形成する場合と比べて、施工が容易でかつ施工時間を短くすることができる。
本発明の補強構造は、大地震に備えて免震装置や制震装置を取り付ける場合と比べて、低コストであり、実用的な価値が高い。新耐震基準(1981年)の前に建築された集合住宅等においては、本発明の補強構造を有しない場合には、大地震の発生時に大きな損傷を受け、修復コストが非常に高くなり、結局は取り壊して建替えざるを得なくなる事態が想定される。この点、本発明の補強構造を採用した場合には、大地震の発生時に、簡単な修復で済む程度の損傷を受けるに留まると予想される。
【0007】
本発明の補強構造は、例えば、集合住宅における居住部分と共用通路部分の間の既存の壁に対して、共用通路側に積層させて形成することができる。
この場合、施工作業は、共用通路部分で行われるため、居住部分への作業者の立入り等が不要であり、施工期間中の居住性に影響を与えることがない。また、施工後には、補強壁の厚さ(3〜20cm程度)だけ共用通路部分の幅が狭まることになるものの、居住部分については、施工前と同じ居住空間を確保することができる。
また、この場合、集合住宅における鉛直方向の断面が格子状である柱及び梁の集合体を構成する複数の区画に対して、市松模様の形態で交互(一戸おき)に本発明の補強構造を形成したうえで、補強しない区画に袖壁補強を行えば、上記の集合住宅における必要な補強効果を得ることができる。つまり、市松模様の形態で本発明の補強構造を形成することによって、最大限の補強効果を確保しつつ、建物重量の軽減、施工の簡易化及びコストの削減を図ることができる。また、間仕切壁や床スラブを撤去して、開放的な居住空間を創り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の建築物の補強構造の種々の形態例を示す正面図、図2は、本発明の補強構造を形成するための部材であるパネルの種々の形態例を示す平面図、図3は、本発明の補強構造を形成する方法の一例を示すフロー図、図4は、集合住宅における本発明の補強構造の施工例を部分的に示す水平断面図、図5は、集合住宅における本発明の補強構造の施工例を全体的に示す鉛直断面図、図6は、コンクリート建築物の柱及び/又は梁と、補強壁とを、プレストレスを導入して圧着した状態の種々の形態例を示す断面図である。
本発明の建築物の補強構造は、図1の(A)〜(C)に示すように、コンクリート建築物の柱2及び梁3を含む構造部分と、該構造部分で囲まれた補強対象面に形成された補強壁とからなる建築物の補強構造であって、補強壁が、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネル4と、パネル4と構造部分(柱2及び梁3)の間に形成された接合部5とからなることを特徴とするものである。
なお、図1中の(A)は、補強対象面の全領域に補強壁を形成させた形態例であり、図1中の(B)及び(C)は、補強対象面の一部の領域に補強壁を形成させた形態例である。
コンクリート建築物の例としては、各階に2戸以上の居住部分及び共用通路部分(共用廊下)を有する2階建て以上のコンクリート建築物が挙げられる。このような複数階のコンクリート建築物の中でも、集合住宅やホテル等の中高層(4〜20階建)のコンクリート建築物は、本発明の対象物として特に好適である。
【0009】
コンクリート建築物の柱及び梁は、少なくともコンクリートを含む構造体であり、例えば、鉄筋コンクリート(RC)、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)等からなるものである。
本発明においては、コンクリート建築物の柱及び梁を含む構造部分で囲まれた面が、補強対象面となる。例えば、柱と、柱の上端から所定の方向に延びる上側の梁と、柱の下端から上側の梁と同じ方向に延びる下側の梁とによって囲まれた領域のうち、窓、ドア等の開口部分を除く、少なくとも柱を縁辺の一つとする領域が、補強対象面となる。
補強対象面の具体例としては、集合住宅における居住部分と共用通路部分の間の既存の壁に近接した面(特に、共用通路側の面)や、共用通路部分の外側や、ピロティ形式の建築物の1階部分等が挙げられる。この場合、補強壁は、既存の壁の片面に対して、積層または若干の距離を隔てて、平行に隣り合って形成されるか、あるいは、新たな壁として形成される。
補強壁は、補強壁の主体である、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネルと、該パネルとコンクリート建築物の柱及び梁を含む構造部分との間に形成された接合部とからなるものである。
以下、本発明の補強壁を構成するパネル及び接合部について、詳しく説明する。
【0010】
本発明の補強壁を構成するパネルは、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるものである。
パネルの材料である繊維含有水硬性組成物の好適な例としては、セメント、細骨材、補強用繊維、減水剤及び水を必須成分として含み、かつ、必要に応じて配合される成分として、ポゾラン質微粉末、平均粒径が1mm以下の繊維状粒子または薄片状粒子、その他の無機粉末、及び粗骨材を含むものが挙げられる。
セメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。
本発明において、組成物の早期強度を向上させようとする場合には、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましく、組成物の作業性を向上させようとする場合には、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
セメントのブレーン比表面積は、好ましくは2,500〜5,000cm/g、より好ましくは3,000〜4,500cm/gである。該値が2,500cm/g未満では、水和反応が不活性になって、硬化後の強度発現性が低下する等の欠点があり、5,000cm/gを超えると、セメントの粉砕時に時間がかかり、また、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、硬化後の強度発現性が低下する等の欠点がある。
【0011】
細骨材の例としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂またはこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
本発明においては、組成物の流動性や、硬化後の強度発現性及び耐久性等の観点から、最大粒径が2mm以下の細骨材を使用することが好ましく、最大粒径が1.5mm以下の細骨材を用いることがより好ましい。
細骨材の配合量は、組成物の作業性や、自己収縮や、硬化後の強度発現性及び耐久性等の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは50〜250質量部、より好ましくは80〜200質量部である。
【0012】
補強用繊維の例としては、金属繊維等が挙げられる。
金属繊維の例としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。中でも、鋼繊維は、強度に優れ、低コストで入手し易いことから、好ましく用いられる。
金属繊維の寸法は、組成物中における金属繊維の材料分離の防止や、硬化後の曲げ強度の向上等の観点から、直径が0.01〜1.0mm、長さが2〜30mmであることが好ましく、直径が0.05〜0.5mm、長さが5〜25mmであることがより好ましい。
金属繊維のアスペクト比(繊維の長さ/繊維の直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは40〜150である。
【0013】
金属繊維の形状は、直線状よりも、何らかの物理的付着力を付与する形状(例えば、螺旋状や波形)が好ましい。螺旋状等の形状にすれば、金属繊維とマトリックスとが引き抜けながら応力を担保するため、曲げ強度が向上する。
金属繊維の好適な例としては、例えば、直径が0.5mm以下、引張強度が1〜3.5GPaの鋼繊維からなり、かつ、120MPaの圧縮強度を有するセメント系硬化体のマトリックスに対する界面付着強度(付着面の単位面積当たりの最大引張力)が3MPa以上であるものが挙げられる。本例において、金属繊維は、波形や螺旋形の形状に加工することができる。また、本例の金属繊維の周面上に、マトリックスに対する運動(長手方向の滑り)に抵抗するための溝または突起を付けることもできる。また、本例の金属繊維は、鋼繊維の表面に、鋼繊維のヤング係数よりも小さなヤング係数を有する金属層(例えば、亜鉛、錫、銅、アルミニウム等から選ばれる1種類以上からなるもの)を設けたものとしてもよい。
【0014】
金属繊維の配合量は、組成物中の体積百分率で、好ましくは0.5〜4%、より好ましくは1〜3%である。該配合量が0.5%未満では、金属繊維による曲げ強度等の向上の効果を十分に得ることができない。該配合量が4%を超えると、流動性を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても金属繊維による補強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、組成物中でいわゆるファイバーボールを生じ易くなるので、好ましくない。
【0015】
減水剤の例としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。中でも、減水効果の大きな高性能減水剤または高性能AE減水剤を使用することが好ましく、ポリカルボン酸系の高性能減水剤または高性能AE減水剤を使用することがより好ましい。
減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して固形分換算で、好ましくは0.1〜4.0質量部、より好ましくは0.1〜1.0質量部である。該配合量が0.1質量部未満では、混練が困難になるとともに、組成物の作業性が極端に低下する等の欠点がある。該配合量が4.0質量部を超えると、材料分離や著しい凝結遅延が生じ、また、硬化後の強度発現性が低下することもある。
なお、減水剤は、液状と粉末状のいずれも使用することができる。
【0016】
水量は、セメント100質量部に対して、好ましくは10〜35質量部、より好ましくは12〜30質量部である。該量が10質量部未満では、混練が困難になるとともに、組成物の作業性が極端に低下する等の欠点がある。該量が35質量部を超えると、硬化後の強度発現性が低下する。
【0017】
ポゾラン質微粉末の例としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゲル、沈降シリカ等が挙げられる。
一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5〜25m/gであり、粉砕等をする必要がないので、好ましく用いられる。
ポゾラン質微粉末のBET比表面積は、好ましくは5〜25m/g、より好ましくは5〜15m/gである。該値が5m/g未満では、硬化後の強度発現性が低下する等の欠点があり、該値が25m/gを超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、硬化後の強度発現性が低下する等の欠点がある。
ポゾラン質微粉末の配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部である。該配合量が3質量部未満では、硬化後の強度発現性が低下する等の欠点がある。該配合量が50質量部を超えると、コンクリートの作業性の低下や、自己収縮の増大や、硬化後の強度発現性の低下等の欠点がある。
【0018】
平均粒度が1mm以下の繊維状粒子または薄片状粒子は、組成物の硬化後の靭性を高める観点から配合される。
ここで、粒子の粒度とは、その最大寸法の大きさ(特に繊維状粒子ではその長さ)である。
繊維状粒子の例としては、ウォラストナイト、ボーキサイト、ムライト等が挙げられる。
薄片状粒子の例としては、マイカフレーク、タルクフレーク、バーミキュライトフレーク、アルミナフレーク等が挙げられる。
繊維状粒子または薄片状粒子の配合量(これらの粒子を併用する場合はその合計量)は、組成物の作業性や、硬化後の強度発現性、耐久性及び靭性等の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは0〜35質量部、より好ましくは1〜25質量部である。
なお、繊維状粒子としては、硬化後の靭性を高める観点から、長さ/直径の比で表される針状度が3以上のものを用いることが好ましい。
【0019】
その他の無機粉末(具体的には、セメントと、ポゾラン質微粉末と、平均粒度が1mm以下の繊維状粒子または薄片状粒子のいずれにも属さない無機粉末)の例としては、スラグ、石灰石粉末、長石類、ムライト類、アルミナ粉末、石英粉末、フライアッシュ、火山灰、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。中でも、スラグ、石灰石粉末及び石英粉末は、コストや硬化後の品質安定性の観点から好ましく用いられる。
該無機粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2,500〜30,000cm/g、より好ましくは4,500〜20,000cm/gである。該値が2,500cm/g未満では、組成物の作業性の低下や、硬化後の強度発現性の低下等の欠点がある。該値が30,000cm/gを超えると、粉砕に手間がかかるため材料の入手が難しくなったり、組成物の作業性が低下する等の欠点がある。
該無機粉末の配合量は、組成物の作業性や、自己収縮や、硬化後の強度発現性及び耐久性の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは0〜55質量部、より好ましくは10〜50質量部である。該配合量が55質量部を超えると、硬化後の強度発現性が低下する等の欠点がある。
【0020】
本発明においては、その他の無機粉末として、ブレーン比表面積が異なる2種の無機粉末A(ブレーン比表面積が大きい粉末)および無機粉末B(ブレーン比表面積が小さい粉末)を併用することができる。
この場合、無機粉末Aと無機粉末Bは、同じ種類の粉末(例えば、石灰石粉末)を使用してもよいし、異なる種類の粉末(例えば、石灰石粉末及び石英粉末)を使用してもよい。
無機粉末Aのブレーン比表面積は、好ましくは5,000〜30,000cm/g、より好ましくは6,000〜20,000cm/gである。該値が5,000cm/g未満では、セメントや無機粉末Bとのブレーン比表面積の差が小さくなり、1種の無機粉末のみを用いる場合と比べて、組成物の作業性や、硬化後の強度発現性及び耐久性を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粉末を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。該値が30,000cm/gを超えると、粉砕に手間がかかるため、材料が入手し難くなったり、組成物の作業性が低下する等の欠点がある。
【0021】
無機粉末Bのブレーン比表面積は、好ましくは2,500〜4,500cm/gである。該値が2,500cm/g未満では、組成物の作業性の低下や、硬化後の強度発現性の低下等の欠点がある。該値が4,500cm/gを超えると、ブレーン比表面積の数値が無機粉末Aに近づくため、1種の無機粉末のみを用いる場合と比べて、組成物の作業性や、硬化後の強度発現性及び耐久性を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粉末を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差は、好ましくは100cm/g以上、より好ましくは200cm/g以上である。該値が好ましい数値範囲内であると、組成物を構成する粒子の充填性が向上し、組成物の作業性や、硬化後の強度発現性及び耐久性を向上させることができる。
【0022】
無機粉末Aの配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部、より好ましくは5〜45質量部である。無機粉末Bの配合量は、セメント100質量部に対して、好ましくは3〜40質量部、より好ましくは5〜35質量部である。無機粉末A及び無機粉末Bの配合量が前記の好ましい数値範囲外では、1種の無機粉末のみを用いる場合と比べて、組成物の作業性や、硬化後の強度発現性及び耐久性の向上の効果が小さくなるばかりか、2種の無機粉末を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
なお、無機粉末Aと無機粉末Bの合計量は、セメント100質量部に対して、好ましくは6〜55質量部、より好ましくは10〜50質量部である。
【0023】
粗骨材の例としては、川砂利、海砂利、砕石等が挙げられる。
粗骨材の最大粒径は、組成物の作業性や、硬化後の強度発現性及び耐久性等の観点から、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下、特に好ましくは10mm以下である。
粗骨材の配合量は、組成物の作業性や、自己収縮や、硬化後の強度発現性及び耐久性の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは0〜30質量部、より好ましくは0〜10質量部である。
【0024】
パネルの材料である繊維含有水硬性組成物の硬化体の圧縮強度は、好ましくは100N/mm以上、より好ましくは120N/mm以上である。該値が100N/mm未満では、強度を確保するためにパネルの厚さが大きくなり、施工後に建築物の基礎を補強することが必要になるなどの問題が生じうるので、好ましくない。
パネルの材料である繊維含有水硬性組成物の硬化体の曲げ強度は、好ましくは15N/mm以上、より好ましくは20N/mm以上である。該値が15N/mm未満では、強度を確保するためにパネルの厚さが大きくなり、施工後に建築物の基礎を補強することが必要になるほか、補強用鉄筋が多数必要となり、施工が煩雑になるなどの問題が生じうるので、好ましくない。
【0025】
次に、本発明で使用するパネルの製造方法について説明する。
本発明で使用するパネルは、上記材料を混練してなる繊維含有水硬性組成物を所定の型枠に投入して成形し、硬化させることによって得ることができる。
繊維含有水硬性組成物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(1)水、減水剤以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水及び減水剤を、ミキサに投入し、混練する方法、(2)粉末状の減水剤を用意し、水以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材及び水をミキサに投入し、混練する方法、(3)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法等を採用することができる。
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでもよく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
繊維含有水硬性組成物の成形方法は、特に限定されるものではなく、例えば、振動成形等を行えばよい。
繊維含有水硬性組成物の養生方法は、特に限定されるものではなく、例えば、気中養生、湿空養生、水中養生、加熱促進養生(蒸気養生、オートクレープ養生)等の慣用手段またはこれらを併用したものを行えばよい。
【0026】
本発明で使用するパネルの厚さは、好ましくは3〜20cmである。厚さが3cm未満では、パネルの強度や耐久性が低下するので、コンクリート建築物の補強効果が低下する。厚さが20cmを超えると、パネルの質量が大きくなり、またコストも増大するので好ましくない。
本発明の補強構造の形成と共に、居住空間のリフォーム(例えば、仕切壁や床等の既存の部材の撤去)を行う場合には、既存の部材の撤去によって生じる強度の低下を補うために、パネルの厚さを5〜20cmとすることが好ましい。
本発明で使用するパネルの寸法は、パネルの運搬時の作業性や、コンクリート建築物の柱及び梁に対する接合工事の作業性等の観点から、厚さが3〜10cmの場合は、縦1〜3m×横1〜3mとするのが好ましく、厚さが10cmを超え、20cm以下の場合は、縦0.2〜1.5m×横0.2〜1.5mとするのが好ましい。
【0027】
本発明で使用するパネルは、鉄筋等の接合用または補強用の部材を含むことができる。
パネルの形態例を図2に示す。なお、図中の点線は、パネル内の筋の位置を示す。
図2中の(A)は、平板状のモルタル成形体15の周縁から外方に所定の長さだけ突出部分を有するように、複数の短尺の接合用筋16をモルタル成形体15に所定の深さだけ貫入させてなる矩形のパネル11を示す平面図である。
図2中の(B)は、(A)のパネルに対して更に複数の明り取り用孔17を穿設してなる矩形のパネル12を示す平面図である。
図2中の(C)は、平板状のモルタル成形体15の周縁から外方に所定の長さだけ突出部分(接合用筋)を有するように、複数の長尺の鉄筋18をモルタル成形体15に貫通させてなる矩形のパネル13を示す平面図である。なお、長尺の鉄筋18は、接合用と補強用の機能を併せ持つものである。
図2中の(D)は、筋を全く含まない矩形のパネル14を示す平面図である。
本発明においては、(A)〜(D)の他、種々の形態を有するパネルを用いることができる。
【0028】
本発明の補強構造を構成する接合部は、繊維含有水硬性組成物を現場打ちで打設してなる硬化体を含むものである。
接合部の材料となる繊維含有水硬性組成物の例としては、上記のパネルの材料と同じ材料からなる組成物が挙げられる。なお、接合部の材料は、粗骨材を含まないモルタルまたはペーストであることが好ましい。
接合部は、コンクリート建築物の柱及び梁を含む構造部分の内周縁に突出部分として形成された複数のアンカー筋と、パネルの外周縁に突出部分として形成された接合用筋とを重ね継手としたものを含むことができる。重ね継手を含むことによって、柱及び梁を含む構造部分とパネルとの接合力を高めることができる。
本発明においては、パネルの外周縁や、コンクリート建築物の柱及び/又は梁にシアキーまたは目粗らしを設けることが好ましい。シアキーまたは目粗らしを設けることによって、補強効果をより高めることができる。
【0029】
次に、本発明の補強構造を形成するための方法について説明する。
本発明の補強構造を形成するための方法は、(a)コンクリート建築物の柱及び梁を含む構造部分で囲まれた補強対象面に対して、該補強対象面内に収まる形状を有する繊維含有水硬性組成物からなるパネルを配設する工程と、(b)柱及び梁を含む構造部分とパネルの間に、繊維含有水硬性組成物を現場打ちで打設して、柱及び梁を含む構造部分とパネルを接合し、パネルを主体とする補強壁を形成する工程を含むものである。
この方法の実施形態例としては、図3に示すように、(a−1)コンクリート建築物の柱2及び梁3に対して、複数のアンカー筋21を所定の深さだけ打ち込み、柱2及び梁3を含む構造部分から、該構造部分で囲まれた空間内の補強対象面に向けて、複数のアンカー筋21が所定の長さだけ突出した露出部分であるアンカー部分21を形成させる工程(図3の(A)参照)と、(a−2)上記の補強対象面内に収まる形状を有し、かつ外周縁から外方に向けて所定の長さだけ突出した複数の接合用筋16を有する、繊維含有水硬性組成物からなるパネル11(図2中の(A)参照)を用意する工程と、(a−3)アンカー部分21とパネル11の接合用筋16を重ね継手として、柱2及び梁3を含む構造部分で囲まれた補強対象面に、パネル11を配設する工程(図3の(B)参照)と、(b−1)柱2及び梁3を含む構造部分とパネル11の間に、上述の重ね継手が埋設された状態となるように、繊維含有水硬性組成物を現場打ちで打設して充填し、柱2及び梁3を含む構造部分とパネル11を一体的に接合する工程(図3の(C)参照)とを含むものが挙げられる。
【0030】
本発明の補強構造は、例えば、集合住宅における居住部分と共用通路部分の間に形成させることができる。図4は、本発明の補強構造を施した集合住宅30を水平方向に切断した状態を示す断面図である。図4中、各戸の居住部分31は、柱34と、強度の大きい構造壁35と、共用通路部分32の側に位置する強度の小さい非構造壁36と、ドア37と、ベランダ39側に位置するガラス戸40等によって形成されている。なお、共用通路部分32の縁には、転落防止用の柵33が設けられている。
図4に示すような構造を有する集合住宅は、構造壁35の延びる方向に働く外力には強いが、構造壁35に対して垂直方向に働く外力には弱いという性質がある。そこで、共用通路部分32側の非構造壁36の外側の面(共用通路部分32側の面)に、本発明の補強構造(補強壁38)を構築すれば、集合住宅の強度を効果的に向上させることができる。
また、この場合、図5に、鉛直方向に切断した模式的な断面図として示すように、地盤41上に建築された集合住宅30に対して、本発明の補強構造(補強壁38;図中、斜線で示す。)を1戸おきに構築して、集合住宅30全体として市松模様状に補強を行ったうえで、それ以外の区画に袖壁42による補強を行えば、上記集合住宅に必要な補強効果を得ることができる。
【0031】
本発明においては、コンクリート建築物の柱及び/又は梁と、補強壁とをプレストレスを導入して圧着した補強構造とすることができる。プレストレスを導入して圧着することにより、柱及び梁を含む構造部分とパネルとの接合力をより一層高めることができ、補強効果を高めることができる。
図6は、プレストレスを導入した補強構造の形態例(A)、(B)を模式的に示す図であり、より具体的には、コンクリート建築物の梁と、補強壁とを、プレストレスを導入して圧着した状態を示す断面図である。なお、図6中、同一の名称を有する各部には、同一の符号を付している。
図6中の(A)及び(B)の各々において、プレストレスを導入した補強構造は、PC鋼材挿入用の貫通孔を有する一対の梁3と、梁3の貫通孔と略同一の内径を有するシース管45を備えたパネル46と、梁3の貫通孔とパネル46のシース管45とに亘って嵌挿されたシース管47と、シース管47の内部に挿通され、かつ、梁3の外表面から所定の長さだけ露出した螺刻部分を両端部に有するPC鋼材48と、PC鋼材48の螺刻部分と螺合して梁3に締着された締着具49と、梁3とパネル46の間に介在する接合部5とから構成されている。
【0032】
プレストレスを導入した補強構造を形成する方法について説明する。
プレストレスを導入した補強構造を形成するための方法は、例えば、(a)補強対象面のコンクリート構築物の柱2及び/又は梁3の所定の箇所に、PC鋼材挿入用の貫通孔を形成する工程と、(b)補強対象面に対して、PC鋼材挿入用のシース管45を有する繊維含有水硬性組成物からなるパネル46を、柱2及び/又は梁3のPC鋼材挿入用の貫通孔の位置とパネル46内のシース管45の位置が合致する(直線となる)ように配設する工程と、(c)柱2及び/又は梁3のPC鋼材挿入用の貫通孔と、パネル46内のシース管45とに亘って、シース管46を嵌挿する工程と、(d)柱2及び梁3を含む構造部分とパネル46間に、繊維含有水硬性組成物を現場打ちで打設する工程と、(e)現場打ちで打設した繊維含有水硬性組成物が所定の強度を発現した段階で、PC鋼材48及び締着具49を用いて、プレストレスを導入する工程を含むものである。
なお、パネル46の製造の際に、シース管45をパネル本体から突出するように形成した場合には、上記(c)の工程を省略することができる。
なお、プレストレスを導入した補強構造においては、図2に示す接合用筋16や、図3に示すアンカー筋21を使用してもよいし、使用しなくてもよい。接合用筋やアンカー筋を使用する場合には、図3に示す方法と同様にして施工すればよい。
【実施例】
【0033】
[1.使用材料]
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント;低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製;ブレーン比表面積:3,200cm/g)
(2)ポゾラン質微粉末;シリカフューム(平均粒径:0.25μm、BET比表面積:11m/g)
(3)石英粉末A(ブレーン比表面積:7,500cm/g)
(4)石英粉末B(ブレーン比表面積:3,500cm/g)
(5)細骨材;珪砂(最大粒径0.6mm)
(6)繊維状粒子;ウォラストナイト(平均長さ:0.3mm、長さ/直径の比:4)
(7)減水剤;ポリカルボン酸系高性能減水剤
(8)水;水道水
(9)金属繊維;鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:15mm)
【0034】
[金属繊維含有水硬性組成物の調製例1]
低熱ポルトランドセメント100質量部、シリカフューム30質量部、石英粉末Aを32質量部、細骨材120質量部、ウォラストナイト24質量部、鋼繊維2%(組成物中の体積割合)、高性能減水剤1.0質量部(固形分換算)、水22質量部を二軸ミキサに投入し混練して、組成物を調製した。この組成物の0打フロー値は、250mmであった。
調製した組成物を鋼製の型枠(φ50×100mm)に流し込み、20℃で48時間静置後、90℃で48時間蒸気養生した。得られた硬化体の圧縮強度(3本の試験体の平均値)は、230N/mmであった。
調製した組成物を鋼製の型枠(4×4×16cm)に流し込み、20℃で48時間静置後、90℃で48時間蒸気養生した。得られた硬化体の曲げ強度(3本の試験体の平均値)は、45N/mmであった。
【0035】
[金属繊維含有水硬性組成物の調製例2]
低熱ポルトランドセメント100質量部、シリカフューム30質量部、石英粉末Aを23質量部、石英粉末Bを9質量部、細骨材120質量部、ウォラストナイト24質量部、鋼繊維2%(組成物中の体積割合)、高性能減水剤1.0質量部(固形分換算)、水22質量部を二軸ミキサに投入し混練して、組成物を調製した。この組成物の0打フロー値は、270mmであった。
調製した組成物を鋼製の型枠(φ50×100mm)に流し込み、20℃で48時間静置後、90℃で48時間蒸気養生した。得られた硬化体の圧縮強度(3本の試験体の平均値)は、235N/mmであった。
調製した組成物を鋼製の型枠(4×4×16cm)に流し込み、20℃で48時間静置後、90℃で48時間蒸気養生した。得られた硬化体の曲げ強度(3本の試験体の平均値)は、45N/mmであった。
【0036】
[実施例1]
図7に示すように、鉄筋コンクリートからなる2つの柱51と、鉄筋コンクリートからなる2つの梁52の間に、図3に示す方法を用いて、パネルと接合部とからなる補強壁53を形成させて、試験体を完成させた。
パネルとしては、調製例1の金属繊維含有水硬性組成物を材料として使用した、図2中の(C)に示す形態を有するものであって、幅が1760mm、高さが1100mm、厚さが30mmであり、長尺の鉄筋を200mm間隔で配設したものを用いた。
接合部は、柱51及び梁52と、パネルとの隙間に、調製例1の金属繊維含有水硬性組成物を現場打ちで打設し、形成させた。
試験体に対して、図7中に2つの矢印で示す位置にて軸力Fを作用させ、試験体が破壊されるまでの最大耐力を測定した。
その結果、正加力時の最大耐力は725kN、負加力時の最大耐力は−683kNであった。
【0037】
[実施例2]
パネルとして図2中の(B)に示すものを用いた以外は実施例1と同様にして実験した。なお、パネルの材料及び寸法は、実施例1と同様である。
その結果、正加力時の最大耐力は716kN、負加力時の最大耐力は−697kNであった。
[実施例3]
パネル及び接合部の材料として、調製例2の金属繊維含有水硬性組成物を使用した以外は実施例1と同様にして実験した。
その結果、正加力時の最大耐力は718kN、負加力時の最大耐力は−700kNであった。
【0038】
[参考例1]
パネルとして、圧縮強度が24N/mm2の普通コンクリートを材料として使用した、図2中の(C)に示す形態を有するものであって、幅が1760mm、高さが1100mm、厚さが60mmであり、長尺の鉄筋を50mm間隔で配設したものを用いた以外は、実施例1と同様にして実験した。
その結果、正加力時の最大耐力は837kN、負加力時の最大耐力は−820kNであった。
本発明(実施例1〜3)の補強構造によれば、参考例1の補強構造と比べて、補強壁の厚さを半分にしても、参考例1と大差ない優れた強度が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の補強構造の種々の形態例を模式的に示す正面図である。
【図2】本発明の補強構造を形成するための部材であるパネルの種々の形態例を示す平面図である。
【図3】本発明の補強構造を形成する方法の一例を示すフロー図である。
【図4】集合住宅における本発明の補強構造の施工例を部分的に示す水平断面図である。
【図5】集合住宅における本発明の補強構造の施工例を全体的に示す鉛直断面図である。
【図6】コンクリート建築物の柱及び/又は梁と、補強壁とを、プレストレスを導入して圧着した状態の種々の形態例を示す断面図である。
【図7】実施例における実験装置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 本発明の補強構造
2 柱
3 梁
4 パネル
5 接合部
11,12,13,14 パネル
15 モルタル成形体
16 接合用筋
17 明り取り用孔
18 長尺の鉄筋
21 アンカー筋
22 アンカー部分
30 集合住宅
31 居住部分
32 共用通路部分
33 柵
34 柱
35 構造壁
36 非構造壁
37 ドア
38 補強壁
39 ベランダ
40 ガラス戸
41 地盤
42 袖壁
45 シース管
46 パネル
47 シース管
48 PC鋼材
49 締着具
51 柱
52 梁
53 補強壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート建築物の柱及び梁を含む構造部分と、該構造部分で囲まれた補強対象面に形成された補強壁とからなる建築物の補強構造であって、上記補強壁が、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネルと、該パネルと上記構造部分の間に形成された接合部とからなることを特徴とする建築物の補強構造。
【請求項2】
上記柱及び梁を含む構造部分で囲まれた補強対象面に既存の壁を含み、かつ、上記補強壁が、上記既存の壁の片面側に隣り合って形成されている請求項1に記載の建築物の補強構造。
【請求項3】
上記パネルを形成している繊維含有水硬性組成物の硬化体の圧縮強度が、100N/mm以上である請求項1又は2に記載の建築物の補強構造。
【請求項4】
上記接合部が、繊維含有水硬性組成物を現場打ちで打設してなる硬化体を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の建築物の補強構造。
【請求項5】
コンクリート建築物の柱及び/又は梁と、補強壁とが、プレストレスを導入して圧着されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の建築物の補強構造。
【請求項6】
各階に2戸以上の居住部分及び共用通路部分を有する2階建て以上のコンクリート建築物であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の建築物の補強構造を含むことを特徴とするコンクリート建築物。
【請求項7】
鉛直方向の断面が格子状である柱及び梁の集合体を含み、かつ、該格子状である柱及び梁の集合体を構成する複数の区画に対して、市松模様の形態で交互に上記補強構造を形成させてなる請求項6に記載のコンクリート建築物。
【請求項8】
上記居住部分と上記共用通路部分の間、または、上記共用通路部分の外側に、上記補強構造を形成させてなる請求項6又は7に記載のコンクリート建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−32192(P2007−32192A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220399(P2005−220399)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年6月1日 社団法人日本コンクリート工学協会発行の「コンクリート工学年次論文集 第27巻(2005)」に発表
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)
【Fターム(参考)】