説明

建築物内外装飾部材およびその製造方法

【課題】 三次元構造の装飾部材の二次元面を簡便に任意形状にすることができる建築物内外装飾部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ステップS1の工程において、例えば発泡ポリスチレンから成る発泡樹脂材を加工造型して所望の二次元面形状を有する三次元構造物を作製する。ステップS2の工程において、上記三次元構造物の表面に、例えばアクリル系樹脂のエマルジョンとセメント材を含むセメント樹脂材の塗料を吹き付け塗装する。ステップS3の工程において、化学薬液の注入により、上記セメント樹脂層に覆われた発泡樹脂材を除去する。ステップS4の工程において、セメント樹脂層から成る造型物内部を液状固化材により充填する。そして、ステップS5の工程において、液状固化材を乾燥させ固形体にして建築物内外装飾部材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物材料、建築物の内装/外装用部材あるいは装飾品に使用される建築物内外装飾部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート部材のような強固で建築用に用いられる建築部材は、建築物の内面および外面の装飾部材、あるいはインテリア、エクステリアに用いられる装飾部材として多種多様のものが要求されている。そして、これ等の建築部材は、装飾部材としてその意匠性が強く要求されるようになってきている。このような中で、装飾部材の表面の意匠として、外観に審美的な感覚を与える模様、色彩等によって多彩に表現される方法が種々に提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。この従来の装飾部材は、基本構成として、型枠へのセメント等の充填素材の注入とその硬化の工程、およびその後の上記型枠の除去の工程を経て形成された構造物となっている。
【特許文献1】特開2002−59411号公報
【特許文献1】特表2002−502624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の三次元構造の装飾部材は、上述したような型枠とその脱型を製造の基本構成としていることから、その二次元面を簡便に任意形状にすることが難しかった。そして、形成できたとしても、その製造コストが高くなり高価なものになっていた。このため、建築用の装飾部材は、その多種多様性および低廉性を求めるニーズに充分に対応できるものではなかった。
【0004】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、建築用の三次元構造の装飾部材の二次元面を簡便に任意形状にすることができる建築物内外装飾部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明にかかる建築物内外装飾部材は、発泡樹脂材から成る三次元構造物の表面に形成され、セメントおよび樹脂を含むセメント樹脂材から成るセメント樹脂層と、前記発泡樹脂材が除去された後に、前記三次元構造物の表面を型取って形成される前記セメント樹脂層から成る造型物内に充填されて硬化した固形体と、を有し、前記固形体の表面が前記セメント樹脂層により形成されている構成になっている。
【0006】
上記発明において、前記セメント樹脂層は、アクリル系樹脂のエマルジョンとセメントペーストあるいはセメントモルタルにより形成され、前記固形体はセメント系固化材により形成されている。
【0007】
上記発明により、建築用の装飾部材は、多種多様性および低廉性を求める顧客ニーズに充分に対応できるようになる。また、このような建築物内外装飾部材は建築物オブジェとしても利用できる。
【0008】
そして、本発明にかかる建築物内外装飾部材の製造方法は、表面に意匠が施されている建築物内外装飾部材の製造方法であって、発泡樹脂材から成る三次元構造物を作製する工程と、前記三次元構造物の表面にセメントおよび樹脂を含むセメント樹脂材を塗装しセメント樹脂層を形成する工程と、前記セメント樹脂層を残して前記発泡樹脂材を除去し、前記セメント樹脂層から成る造型物を形成する工程と、前記造型物内に液状固化材を充填する工程と、前記充填した液状固化材を硬化させ固形体にする工程と、を有し、前記固形体と前記セメント樹脂層から成る装飾部材を形成する構成になっている。
【0009】
上記発明の好適な態様では、前記セメント樹脂材はアクリル系樹脂のエマルジョンとセメントペーストあるいはセメントモルタルを含んでいる。あるいは、前記セメント樹脂層は模様、色彩から成る意匠が施されている。そして、前記固形体はセメント系固化材から成る。
【0010】
上記発明により、建築用の装飾部材の製造において、部材表面を任意形状にすることが自在にしかも簡便にできるようになる。そして、その多種多様性が確保されると共に建築物内外装飾部材の製造コストが低減される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成により、三次元構造の建築物内外装飾部材は、その二次元面を簡便に自在な形状にすることができる。そして、その意匠の多様化が容易になると共にその低コスト化が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の建築物内外装飾部材の製造方法を示す工程流れ図である。図2,3は、本実施形態の建築物内外装飾部材の製造工程別の模式的な斜視図である。図4は、図3(c)のX−X矢視の断面図である。そして、図5は建築物内外装飾部材の製品の一例を示した斜視図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の建築物内外装飾部材の製造工程における主要手順では、初めのステップS1の工程において、発泡樹脂材を加工造型して所望の二次元面形状を有する三次元構造物を作製する。このようにして、例えば図2(a)に示すような三次元構造物11を形成する。簡便化のために図2では三次元構造物11は円柱状になっているが、種々の二次元曲面を有するように加工造型することができる。
【0014】
ここで、発泡樹脂材としては、発泡プラスチックが好ましく特に発泡ポリスチレンが好適に使用される。その他に使用できる発泡樹脂材としては、発泡ポリウレタン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリエステルなどが挙げられる。このような発泡樹脂材は軽量であり加工性に非常に優れている。例えば、上記発泡樹脂材は、電流を流して加熱した針金により極めて簡便に裁断ができ、任意の二次元曲面が自在に形成できる。
【0015】
そして、三次元構造物11が例えば直径20cm以上に大型化する場合には、図2(a)に示したように、三次元構造物11を貫通するテグス12の両端に取り付けられた固定具13が、後述されるが、三次元構造物11面に型取って形成されたセメント樹脂層を係止してその変形を防止するように設けられる。ここで、このような固定具13は、三次元構造物11面から少し離間して取り付けられ、三次元構造物11の大きさに合わせて複数の箇所に設けられてもよい。なお、上記セメント樹脂層が変形の生じない小型の場合には、固定具13の取り付けは不要になる。
【0016】
次に、ステップS2の工程において、三次元構造物11の表面にセメント樹脂材の塗料を例えばスプレーガンを用いて吹き付け塗装する。上記塗料には、砂のような細骨材が混入されていてもよい。このような骨材は、セメント樹脂材が固化における体積収縮を防止するのに有用である。このようにして、図2(b)に示すように三次元構造物11の表面にセメント樹脂層14を形成する。
【0017】
ここで、セメント樹脂材は、樹脂材とセメント材に水を加えウェットミックスにして混練した塗料である。上記樹脂材としては、エマルジョンにしたものが好ましく、特にアクリル系樹脂のエマルジョンが好適に使用できる。その他に使用できる樹脂としては、スチレン系ブロック共重合体、ポリウレタン系共重合などが挙げられる。そして、セメント材としてはセメントペースト、セメントモルタルなどを使用することができる。また、上記セメント樹脂材として、予め粉末樹脂とセメントあるいは砂等の細骨材をドライミックスしたものに水を加えて塗料にしたものを用いるようにしてもよい。
【0018】
上記吹きつけ塗装では、上記塗料に色相をもつ顔料を添加することができる。また、塗料を多層に積層した積層塗装にすることもできる。このようにして、厚さが例えば1mm〜20mm程度であり、審美的な感覚を与える模様、色彩等の意匠の施されたセメント樹脂層14が三次元構造物11表面に形成される。ここで、三次元構造物11が大型化するに従い、セメント樹脂層14は全体的に厚く形成される。
【0019】
次に、ステップS3の工程において、図2(c)に示すように、所定箇所のセメント樹脂層14を除去し開口15を形成し、この開口15から上記発泡樹脂材を溶解する酸、アルカリ、有機溶剤などの化学薬液16を注入し、セメント樹脂層14に覆われた発泡樹脂材を除去する。そして、三次元構造物11の表面形状を型取り固化したセメント樹脂層14から成る造型物17が形成される。ここで、発泡樹脂材が発泡ポリスチレンからなる場合には、化学薬液としてエステル、芳香族欄炭化水素などからなる有機溶剤が好適に使用できる。ここで、化学薬液16は、発泡樹脂材を選択的に溶解し、セメント樹脂層14およびテグス12等に対して蝕刻などの損傷を与えないものが選択される。
【0020】
次に、ステップS4の工程において、図3(a)に示すように、造型物17の開口15から例えばセメント系の液状固化材18を注入し、セメント樹脂層14から成る造型物17内部を液状固化材18により充填する。ここで、液状固化材18としては、その固化により体積が収縮あるいは膨張しないように砂利等から成る粗骨材あるいは砂等から成る細骨材を混入させることが好ましい。また、上記液状固化材18の注入あるいはその固化において、セメント樹脂層14が変形したり破損したりすることがないように、セメント樹脂層14の強度あるいはその厚さが設定される。更に、上述した固定具13が、液状固化材18の固化によるセメント樹脂層14の変形を防止するように作用する。なお、液状固化材18の注入に先立ち、造型物17を洗浄するようにしても構わない。
【0021】
次に、ステップS5の工程において、液状固化材18が固化するまで例えば空気中に保管する。そして、図3(b)に示すように、セメント樹脂層14内部に液状固化材18が硬化した固形体19が形成される。そして、テグス12の裁断と共に固定具13を除去する。このようにして、図3(c)に示すように、セメント樹脂層14および固形体19により形成された所望の建築物内外装飾部材20が完成する。なお、テグス12および固定具13の除去後は、建築物内外装飾部材20表面のセメント樹脂層14の洗浄、バリなどの除去を行うとよい。
【0022】
以上のような製造手順により、図3(c)に示した建築物内外装飾部材20が得られる。ここで、図4に示すように、出来上がった建築物内外装飾部材20は、例えばコンクリートのような固形体19の表面がセメント樹脂層14で被覆された三次元構造物になる。ここで、固形体19とセメント樹脂層14は接着して一体の三次元構造物になっている。そして、上述したようにセメント樹脂層14には種々の模様あるいは色彩からなる意匠が施されている。
【0023】
このようにして、この三次元構造物である建築物内外装飾部材20の表面の装飾は多種多様に形成できるようになる。また、最終的に建築物内外装飾部材20表面となるセメント樹脂層14の形状は、上述したように発泡樹脂材により初めに形成した三次元構造物11の二次元面を型取っている。ここで、発泡樹脂材の加工は極めて簡単であり複雑な二次元面形状が容易に得られる。このために、それを型取って形成されたセメント樹脂層14の表面も複雑で自在な形状にすることができる。
【0024】
図5は、このような自在な形状のセメント樹脂層14を有する建築物内外装飾部材の製品の一例を概略的に示している。図5(a)は、例えば大樹の幹部を模擬して作製された建築物内外装飾部材20の一例である。ここで、建築物内外装飾部材20の表面は樹皮に擬された色彩および微細な凹凸が形成される。このような表面の凹凸は、図2(b)で示した塗装の工程において、塗料の厚さを変化させることにより容易に形成できる。また、図5(b)は、例えばドーム状に形成される建築物内外装飾部材20の例を示す。この例は、建築物内外装飾部材20が半中空になる三次元構造物の場合を示す。このような半中空構造物の形成にあっても、その表面は所望の意匠が施されたセメント樹脂層14で被覆することができる。
【0025】
本実施形態では、建築物内外装飾部材の製造において、初めに加工性に優れた発泡樹脂材を加工造型した三次元構造物11を作製する。そして、それを型取ったセメント樹脂層14を形成する。ここで、セメント樹脂層14には所望の意匠が随意に施される。そして、このセメント樹脂層14から成る造型物17内に固形体19を形成する。このようにして、強固で重量があり安定して固定される建築物内外装飾部材20が簡便にしかも安価に製造できる。
【0026】
そして、この建築用の装飾部材は、その二次元面を従来になく自在な形状にすることが可能になり、しかも適宜な意匠を施すことができることから、その多種多様性および低廉性を求めるニーズに充分に対応できる。また、上記建築物内外装飾部材は建築物オブジェとしても利用できる。
【0027】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0028】
例えば、セメント樹脂層14から成る造型物17に充填する固形体19として、ある程度の重量のある材質であればよく、セメント系固化材の他に粘土材のような安価なもので形成しても構わない。ここで、この固形体19は、必ずしもセメント樹脂層14に内部で接着して充填されていなくてもよい。セメント樹脂層14と固形体19に間隙がある箇所が存在しても構わない。
【0029】
また、上記セメント樹脂層14は、模様、色彩のない無地のものになっていても構わない。
【0030】
そして、本実施形態で説明したセメント樹脂層14および固形体19から成る建築用の装飾部材は、その一面が外観されるように用いられるものとなっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態にかかる建築物内外装飾部材の製造方法を示す工程流れ図である。
【図2】本実施形態の建築物内外装飾部材の製造工程別の模式的な斜視図である。
【図3】図2に続く製造工程を模式的に示した斜視図である。
【図4】図3のX−X矢視の断面図である。
【図5】建築物内外装飾部材の製品の一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
11 三次元構造物
12 テグス
13 固定具
14 セメント樹脂層14
15 開口
16 化学薬液
17 造型物
18 液状固化材
19 固形体
20 建築物内外装飾部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂材から成る三次元構造物の表面に形成され、セメントおよび樹脂を含むセメント樹脂材から成るセメント樹脂層と、
前記発泡樹脂材が除去された後に、前記三次元構造物の表面を型取って形成される前記セメント樹脂層から成る造型物内に充填されて硬化した固形体と、
を有し、
前記固形体の表面が前記セメント樹脂層により形成されていることを特徴とする建築物内外装飾部材。
【請求項2】
前記セメント樹脂層は、アクリル系樹脂のエマルジョンとセメントペーストあるいはセメントモルタルにより形成され、前記固形体はセメント系固化材により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の建築物内外装飾部材。
【請求項3】
表面に意匠が施されている建築物内外装飾部材の製造方法であって、
発泡樹脂材から成る三次元構造物を作製する工程と、
前記三次元構造物の表面にセメントおよび樹脂を含むセメント樹脂材を塗装しセメント樹脂層を形成する工程と、
前記セメント樹脂層を残して前記発泡樹脂材を除去し、前記セメント樹脂層から成る造型物を形成する工程と、
前記造型物内に液状固化材を充填する工程と、
前記充填した液状固化材を硬化させ固形体にする工程と、
を有し、前記固形体と前記セメント樹脂層から成る装飾部材を形成することを特徴とする建築物内外装飾部材の製造方法。
【請求項4】
前記発泡樹脂材は、発泡ポリスチレンから成ることを特徴とする請求項3に記載の建築物内外装飾部材の製造方法。
【請求項5】
前記セメント樹脂材は、アクリル系樹脂のエマルジョンとセメントペーストあるいはセメントモルタルを含んでいることを特徴とする請求項3又は4に記載の建築物内外装飾部材の製造方法。
【請求項6】
前記セメント樹脂層は、模様、色彩から成る意匠が施されていることを特徴とする請求項3、4又は5に記載の建築物内外装飾部材の製造方法。
【請求項7】
前記固形体は、セメント系固化材から成ることを特徴とする請求項3ないし6のいずれか一項に記載の建築物内外装飾部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−119988(P2008−119988A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307585(P2006−307585)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(502419476)株式会社アジャクス (3)
【Fターム(参考)】