説明

建設機械のボトムガード

【課題】簡単な構造で低コストでボトムガードの剛性を向上できる。
【解決手段】油圧ショベルの上部旋回体の底部に設けた薄板平板状のボトムガード20に、粘度があって熱硬化性のエポキシ系接着剤21を塗布して焼結によって硬化させて補強部材21Aを得る。この補強部材21Aでボトムガード20の剛性を向上させた。エポキシ系接着剤21は例えば直線状に等間隔で複数条塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の車両部に設けたボトムガードに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械の油圧ショベルは概略で図8に示す構成を備えており、油圧ショベル1の下部走行体2の上に設けた旋回機構を介して上部旋回体3が旋回可能に支持されている。上部旋回体3の旋回フレーム4内には、例えば運転室5、運転室5の前方に設けたアームやバケット等の作業機6、運転室5の後方に設けたエンジン室7、エンジン室7の近傍に設けた燃料室8等が配設されている。そして、これら旋回フレーム4の底部には、例えばターンテーブル部分を除く部分の底部支持板としてボトムガード10が配設されている(図9参照)。
【0003】
一般に採石場等で使用するヘビーデューティタイプの油圧ショベルと比較して、スタンダードタイプの油圧ショベル1等では、車両部である上部旋回体3の底部に設けたボトムガード10は板厚1.2mm〜1.6mm程度の薄板で構成されている。そのため、油圧ショベル1の運転時に岩場等の突起物に接触したり衝突したりすると、ボトムガード10は剛性が小さいために上方に突き上げられて容易に凹む等の変形を生じることになる。
ボトムガードが岩等に突き上げられて変形するのを抑制するために、例えば図10に示すようにボトムガード10に所定間隔で凹凸形状のしぼり(ビーディング)11を形成して剛性を向上させていた。
また、特許文献1に記載された建設機械では、車両のキャビンの底部に配設したボトムガードの剛性を向上させるために、ボトムガードに補強用リブを形成したものが提案されている。
【特許文献1】特開2004−137832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、しぼり11を形成した従来のボトムガード10では、しぼり11をプレスで形成しているためにプレス用金型が必要であり、金型の製作や金型によるしぼり11のプレス成形等の手間がかかるために製造コストが増大する欠点があり、また、しぼり11を形成したボトムガード10は凹みが形成されているために外観上の見栄えが悪いという欠点もあった。
また、特許文献1に記載されたボトムガードでも、補強用リブをプレス成形で形成する場合には上述したものと同様の欠点がある。また、補強用リブを溶接等でボトムガードに形成する場合には、補強用リブの製造やボトムガードへの溶接等の手間がかかり、部品数が増えて製造コストが増大する欠点がある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みて、構成が簡単で製造が容易であって低コストであると共にボトムガードの剛性を向上できるようにした建設機械のボトムガードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による建設機械のボトムガードは、建設機械の車両の底部に設けたボトムガードに熱硬化性のエポキシ系接着剤を塗布して硬化させたことで、前記ボトムガードの剛性を向上させたことを特徴とする。
本発明によれば、車両の底部に配設したボトムガードにエポキシ系接着剤を塗布して硬化させたことで、簡単に製造できてボトムガードの剛性を向上できるから、建設機械の走行時に岩等にボトムガードが接触したり衝突しても変形を抑制できる。また、岩等に接触または衝突して突き上げられてボトムプレートが変形した場合でも硬化したエポキシ系接着剤による補強部材は追従して変形し、剥離したりしないから、変形後も剛性向上効果を維持できる。
【0007】
また、エポキシ系接着剤はボトムガードの内面に線状に塗布してもよい。
例えば一筆書きの要領でボトムガードの内面にエポキシ系接着剤を塗布できるので、塗布が容易であり、その後の焼結による硬化も焼結温度が低く硬化に要する時間が短くて済む。特にボトムガードの内面にエポキシ系接着剤を塗布して硬化後に補強部材とすることで、車両のフレームの一部として組み立て後に補強部材が外部に露出しないので、見栄えもよい。
また、線状のエポキシ系接着剤はボトムガードの内面に等間隔に複数条塗布するようにしてもよい。
これにより、ボトムガードに対する強度補強を均等に行え、ボトムガード全体に亘って補強効果を発揮できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明による建設機械のボトムガードによれば、ボトムガードにエポキシ系接着剤を塗布して硬化させるだけでボトムガードを補強できるから、構成が簡単である上に低コストで容易に製造することができ、しかもボトムガードの剛性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明するが、上述の従来技術と同一部分、部材には同一の符号を用いて説明する。
本発明の第一の実施形態による油圧ショベルのボトムガードを図1により説明する。
図1は本発明の一実施形態による油圧ショベルのボトムガードを示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は図(a)のB−B線拡大断面図である。
図1において、建設機械の車両部、例えば油圧ショベル1の上部旋回体3の底板として用いられるボトムガード20が示されている。図1に示すボトムガード20は例えば1.2mm〜1.6mm程度の厚みを有する薄板平板状に形成されている。ボトムガード20は旋回フレーム4の組み立て後に上部旋回体3の内側に位置する内面20aに、エポキシ系接着剤21が所定間隔で直線状に塗布されている。
直線状のエポキシ系接着剤21は粘性を有しているために、図1(b)及び(c)に示すように断面逆U字状に盛り上がった形状に保持される。エポキシ系接着剤21は焼結による硬化後に補強部材21Aを構成する。図に示す例では、補強部材21Aは所定間隔を開けて2条形成されているが、3条またはそれ以上形成してもよい。
ここで、補強部材21Aを構成するエポキシ系接着剤21は、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分として52〜56重量%含む合成樹脂からなる。
【0010】
次に本実施形態によるボトムガード20の製造方法について説明する。
図1に示すように塗装を施した薄板平板状のボトムガード20の一方の内面20aにエポキシ系接着剤21を例えば一筆書きの要領で直線状に塗布する。直線状のエポキシ系接着剤21は例えば所定間隔で2条塗布する。エポキシ系接着剤21は適度な粘度を有しているために図1(b)及び(c)に示すように断面逆U字状に盛り上がった形状に保持される。
そして、ボトムガード20を図示しない焼結炉に投入して、130〜180℃、好ましくは130〜150℃程度の低温で5〜10分程度焼結する。なお、ボトムガード20の塗装とエポキシ系接着剤21の塗布とを連続して行い、その後に焼結炉に投入して同一工程で一気に焼結することがより好ましい。
このようにして、エポキシ系接着剤21が比較的低温且つ短時間で焼結されて硬化してボトムガード20と一体化された線状の補強部材21Aを形成する。
【0011】
得られた補強部材21Aを備えたボトムガード20は、油圧ショベル1の上部旋回体3の旋回フレーム4の一部として底面に組み立てられる。
このようなボトムガード20を備えた油圧ショベル1を運転して、岩等にボトムガード20が接触または衝突した場合、補強部材21Aを設けないボトムガード20と比較して剛性が向上しているために変形を抑制できる。また、比較的強い負荷で岩等にボトムガード20が接触または衝突して突き上げられたとしても、補強部材21Aは接着強度が高いために変形するボトムガード20に追従して一体に変形し、剥離したりしない。そのため、高い剛性を維持できる。
【0012】
上述のように本実施形態による油圧ショベル1のボトムガード20によれば、ボトムガード20に簡単且つ容易にエポキシ系接着剤21を塗布して硬化させて補強部材21Aを形成することでボトムガード20の剛性を向上でき、しかも線状のエポキシ系接着剤21を所定厚み断面に盛り上げることによって制振性も向上する。また、従来技術のようにしぼりを形成したり補強用リブを取り付けたりする場合と比較して製造が簡単で製造コストが低廉であるから、コストをかけずにボトムガード20の強度を向上できる。
【0013】
次に、本実施形態によるエポキシ系接着剤21からなる補強部材21Aを設けたボトムガード20である実施例と、エポキシ系接着剤20の補強部材21Aを設けない薄板平板状のボトムガード20である比較例との強度比較試験を行った。
実施例で用いるエポキシ系接着剤20として、イイダ産業株式会社製の「OROTEX 4901」を用いた。「OROTEX 4901」はビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分として52〜56重量%含むエポキシ系接着剤である。物性は、せん断(shearing)強さ:27Mpa、引きはがし(peel)強さ:7.6KN/m、塗布温度(setting temperature):150℃×5min、粘度(viscosity):1100Pa・s である。
ボトムガード20の試験体として熱延鋼板(SPHC)を用い、縦320mm×横200mm×厚さ2.3mmの寸法を有する薄板平板状のものをテストピースとする。図2及び図3(a)〜(d)に示すように、このテストピースの片面に「OROTEX 4901」を縦方向に長さ320mmとなるように直線状に塗布する。
【0014】
図3において、直線状のエポキシ系接着剤「OROTEX 4901」を所定間隔で2本塗布したものを実施例1、等間隔で3本塗布したものを実施例2、等間隔で4本塗布したものを実施例3、等間隔で5本塗布したものを実施例4とする。なお、何れの実施例においても外側の直線状のエポキシ系樹脂からテストピースの縦方向端縁までの距離は同一寸法とする。図3(e)に示すように、このテストピースにエポキシ系接着剤「OROTEX 4901」を塗布しないものを比較例とする。
【0015】
試験方法として、図4に示すように、テスト基台30の上面にボトムガード20のテストピースの一端部を溶接やネジ締結等で固定し、他端部をテスト基台30から突出させた片持ち支持状態にして行う。基台30から突出するテストピースの長さ(片持ちスパン)は230mmとした。テストピースの他端にはテスト基台30から図中で上方に向けて荷重Fをかけてテストピースが基台30上面から上方向に湾曲して歪んだ垂直距離を変位量として測定する。
試験に際し、テストピースの変位量について0mmから5mm間隔で80mmになるまでの各変位量を予め設定し、各実施例1〜4と比較例で該当する変位量に達するまでの荷重Fの大きさ(単位:N)を測定した。荷重Fによってテストピースの他端を変位させる速度は10mm/minとし、高さ方向の変位量5mm間隔で荷重Fを測定した。試験は各変位量毎に5回行い、その平均荷重を割り出した。各変位量について、比較例の平均荷重を基準として各実施例1〜4の平均荷重の比を演算し、荷重比として算出した。
その結果は図5,6に示す通りになった。テストピースの最大変位量80mmに対する荷重の増加率は実施例1〜3で114%、実施例4では荷重比117%となった。ボトムガード20にエポキシ系接着剤21を塗布することで比較例に対して剛性が向上することを確認できた(図7参照)。
【0016】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく本発明の技術思想の範囲内で種々の変更を採用できることはいうまでもない。
例えば、上述の実施形態では、ボトムガード20に複数の直線状のエポキシ系接着剤20からなる補強部材21Aを平行に配設したが、エポキシ系接着剤20の塗布形状は任意である。例えば、エポキシ系接着剤20をX字形状や蛇行形状や渦巻き形状等のように非平行な形状に塗布してもよい。或いは線状に代えて面状にエポキシ系接着剤20を塗布して硬化させ、補強部材21Aを得るようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態によるボトムガードを示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はB−B線断面図である。
【図2】ボトムガードに直線状のエポキシ系接着剤を2条塗布した状態を示す平面図である。
【図3】試験に用いるボトムガードのテストピースを示すもので、(a)は実施例1、(b)は実施例2,(c)は実施例3、(d)は実施例4、(e)は比較例である。
【図4】テストピースの曲げ荷重試験方法を示す図である。
【図5】比較例、実施例1、実施例2の試験データを示す表である。
【図6】図5に関連して実施例3、実施例4の試験データを示す表である。
【図7】試験結果として、比較例、実施例1〜4のテストピースの変位量と荷重との関係を示すグラフである。
【図8】一般的な油圧ショベルの側面図である。
【図9】従来の油圧ショベルに装着する上部旋回体のボトムフレームを含む旋回フレームの側面図である。
【図10】従来のボトムガードを示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 油圧ショベル
3 上部旋回体
20 ボトムガード
21 エポキシ系接着剤
21A 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の車両部の底部に設けたボトムガードに熱硬化性のエポキシ系接着剤を塗布して硬化させたことで、前記ボトムガードの剛性を向上させたことを特徴とする建設機械のボトムガード。
【請求項2】
前記前記エポキシ系接着剤は前記ボトムガードの内面に線状に塗布したことを特徴とする請求項1に記載された建設機械のボトムガード。
【請求項3】
前記線状のエポキシ系接着剤は前記ボトムガードの内面に等間隔に複数本塗布したことを特徴とする請求項1または2に記載された建設機械のボトムガード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−262854(P2009−262854A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117220(P2008−117220)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】