説明

建設機械の排気ガス浄化システム

【課題】作動油や冷却水等の熱交換器を冷却する油圧駆動の冷却ファンを備えた建設機械において、強制再生時のエンジン負荷を最適に制御できる建設機械の排気ガス浄化システムを提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジンと、前記エンジンの排気口に連設されて、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタと、粒子状物質を焼却除去しフィルタを再生する再生装置と、エンジンによって駆動される可変容量型の第1及び第2の油圧ポンプと、第1及び第2の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出量を制御する機能と、再生装置を作動させる機能とを有する制御装置とを備えた建設機械の排気ガス浄化システムにおいて、制御装置は、再生装置が作動しているときに、第2の油圧ポンプの負荷を算出し、第1の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出量及び吐出圧力を制御することで、エンジンに掛かる負荷を所定の値に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械の排気ガス浄化システムに係り、特に、熱交換器を冷却する油圧駆動ファンを備えた建設機械の排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械には、その駆動源としてディーゼルエンジン(以下エンジンという。)を搭載しているが、このエンジンから排出される粒子状物質(PM:particulate matter,パティキュレートマター)の排出量の規制が年々強化されてきている。このような規制に対して、粒子状物質(PM)をディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter、以下DPFという。)と呼ばれるフィルタで補集して、外部へ排出される粒子状物質(PM)の量を低減する排気ガス浄化システムが知られている。
【0003】
DPFで補集された粒子状物質(PM)は、活性化された酸化触媒との酸化反応により燃焼させて除却し、フィルタを再生している。酸化触媒を活性化するためには、エンジンの排気ガスの温度が酸化触媒の活性温度よりも高くなければならず、そのために、例えば、エンジンに負荷をかけて、エンジンの排気ガス温度を強制的に酸化触媒の活性温度よりも高い温度に上昇させる強制再生と呼ばれる技術がある。DPFの入口側にエンジンの排気抵抗を検出する圧力検出器を設け、この検出値が所定値以上になったときに、エンジンによって駆動するメイン油圧ポンプの作動油の吐出流量を上昇させ、エンジンに負荷をかけて排気ガス温度を上昇させる油圧作業機械がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−166840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大型の建設機械において、エンジンのラジエータや作動油のオイルクーラなどの熱交換器を冷却する冷却ファンの駆動源として、油圧モータが使用される場合がある。この油圧モータは、例えば、ファン駆動用油圧ポンプからの圧縮された作動油によって駆動されるので、この作動油の吐出流量を制御することで、油圧モータと冷却ファンの回転数を可変できる。
【0006】
この冷却ファンの回転数制御は、例えば、ファン駆動用油圧ポンプの傾斜板の傾き角度を制御することによって、ファン駆動用油圧ポンプの作動油の吐出流量を変化させて行われる。一般的には、作動油や冷却水の温度を検出し、検出値が設定値に比べて高い場合には、冷却ファンの回転数を上げるべくファン駆動用油圧ポンプの作動油の吐出流量を増大させ、低い場合には、作動油の吐出流量を減少させている。
【0007】
このような大型の建設機械において、例えば、DPFの再生処理のために、メイン油圧ポンプの作動油の吐出流量を増加させているときに、作動油や冷却水を更に冷却する必要が生じると、ファン駆動用油圧ポンプの作動油の吐出流量も増加させなければならない。この結果、エンジンには、強制再生に必要な負荷以上の負荷がかかるため、エンジンの排気ガス温度は上昇し、強制再生は問題なく行われる。しかしながら、適切な油圧負荷以上の負荷がエンジンにかかるため、燃料消費量が増加する。
【0008】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的とするところは、作動油や冷却水等の熱交換器を冷却する油圧駆動の冷却ファンを備えた建設機械において、DPFの強制再生時のエンジン負荷を最適に制御することができる建設機械の排気ガス浄化システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、ディーゼルエンジンと、前記エンジンの排気口に連設されて、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタに堆積した粒子状物質を焼却除去し、前記フィルタを再生する再生装置と、前記エンジンによって駆動される可変容量型の第1及び第2の油圧ポンプと、作動油と冷却水を冷却する熱交換器と、この熱交換器を冷却する冷却ファンと、前記第2の油圧ポンプから吐出される圧油により回転し、前記冷却ファンを駆動する油圧モータと、前記第1及び第2の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出量を制御する機能と、前記再生装置を作動させる機能とを有する制御装置とを備えた建設機械の排気ガス浄化システムにおいて、前記制御装置は、前記再生装置が作動しているときに、前記第2の油圧ポンプの負荷を算出し、前記第1の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出量及び吐出圧力を制御することで、前記エンジンに掛かる負荷を所定の値に保つものとする。
【0010】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、前記作動油と冷却水の温度をそれぞれ検出する温度検出器を更に備え、前記制御装置は、前記温度検出器で検出した作動油と冷却水の温度信号を取込み、これらの信号に基づいて前記第2の油圧ポンプの負荷を算出するものとする。
【0011】
更に、第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記第1の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出圧力を検出する圧力検出器をさらに備え、前記制御装置は、前記圧力検出器で検出した圧油の圧力信号を取込み、この信号に基づいて前記第1の油圧ポンプの目標ポンプ容積を算出するものとする。
【0012】
また、第4の発明は、上記第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記第1の油圧ポンプの吐出管路には、方向切換弁を介した油圧アクチュエータが接続されると共に、前記方向切換弁のセンターバイパスに接続された管路には、制御弁を介して作動油タンクが接続され、前記制御装置は、前記再生装置が作動しているときには、前記制御弁を駆動して前記第1の油圧ポンプの吐出圧を上昇させるものとする。
【0013】
更に、第5の発明は、上記第1乃至第4の発明のいずれかにおいて、前記第1の油圧ポンプはメイン油圧ポンプであって、前記第2の油圧ポンプは、ファン制御用油圧ポンプであるものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、作動油や冷却水等の熱交換器を冷却する油圧駆動の冷却ファンの運転状態に関らず、エンジンに掛かる負荷が所定の値となるように、メイン油圧ポンプのトルクを制御するため、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)の強制再生運転を効率的に実行することができる。この結果、適切な燃料消費量での運転が可能となり、建設機械の生産効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の建設機械の排気ガス浄化システムの一実施の形態を備えた大型油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】本発明の建設機械の排気ガス浄化システムの一実施の形態を示す構成図である。
【図3】本発明の建設機械の排気ガス浄化システムの一実施の形態によるフィルタ再生制御の演算内容を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の建設機械の排気ガス浄化システムの実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の建設機械の排気ガス浄化システムの一実施の形態を備えた大型油圧ショベルを示す側面図である。この図1において、101は建設機械としての大型油圧ショベルを示している。102はその走行フレーム、103は走行フレームの左右両側に装設した無限軌道式走行装置、104は走行フレーム102の上部に旋回可能に搭載された旋回フレーム、105はこの旋回フレーム104上の前方部に上下方向に回動可能に(俯仰動可能に)取り付けられた多関節型のフロント装置、106は旋回フレーム104上の左側前方部に配設された運転室、107は旋回フレーム104上に配設されエンジン1等各種機器を収納する機械室、108は旋回フレーム104上の後方部に取り付けられたカウンタウエイトである。
【0017】
上述したフロント装置105は、基端部が旋回フレーム104に回動可能に接続されたブーム111と、このブーム111の先端部に回動可能に接続されたアーム112と、このアーム112の先端に回動可能に接続されたバケット113とを備えており、ブーム111、アーム112、及びバケット113は、それぞれブーム用油圧シリンダ114、アーム用油圧シリンダ115、及びバケット用油圧シリンダ116により動作する。
【0018】
図2は、本発明の建設機械の排気ガス浄化システムの一実施の形態を示す構成図である。この図2において、1はエンジン、2はエンジン1の排気口に連設された排ガス浄化装置を示している。エンジン1には、建設機械における各種アクチュエータの駆動油圧源となる可変容量型の第1の油圧ポンプとしてのメイン油圧ポンプ3と、冷却ファンの回転数を制御する可変容量型の第2の油圧ポンプとしてのファン制御用油圧ポンプ4と、固定容量型のパイロット油圧ポンプ5とが、同軸の回転軸で連結されている。
【0019】
排ガス浄化装置2は、図2に示すように、エンジン1の排気系を構成する排気管1Bに配置され、排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ((DPF):以下フィルタと言う。)2Aと、フィルタ2Aの上流側に配置された酸化触媒2Bとを備えている。酸化触媒2Bで排気ガスを昇温し、フィルタ2Aに堆積した粒子上物質(PM)を焼却除去し、フィルタ2Aを再生する再生装置を構成する。
【0020】
メイン油圧ポンプ3からは、レギュレータ3Aにより吐出流量の制御された作動油が管路30を介して方向切換弁6に供給されている。方向切換弁6は、メイン油圧ポンプ3からの作動油を、後述する操作レバー15が操作された際に建設機械におけるアクチュエータである油圧シリンダ7に供給している。また、操作レバー15が中立状態の場合には、方向切換弁6のセンターバイパス部から圧力制御弁8を介して作動油タンク9やオイルクーラ10へ作動油を供給している。オイルクーラ10においては、管路31を介して上述した作動油が流入し、管路32を通して、作動油タンク9へ流出している。図2において、油圧シリンダ7は例えばブーム用油圧シリンダ114に対応する。図2では、その他の例えばアーム用油圧シリンダ115、及びバケット用油圧シリンダ116等に対応する油圧シリンダや、これらの油圧シリンダに対応する方向切換弁等の図示を省略している。
【0021】
ファン制御用油圧ポンプ4からは、レギュレータ4Aにより吐出流量の制御された作動油が管路40を介してファン駆動用油モータ11に供給されている。ファン駆動用油モータ11からの流出する作動油は、管路41を介して連結している管路31に流入している。ファン駆動用油モータ11の出力軸には、冷却用ファン12が取り付けられている。
【0022】
冷却用ファン12に対向する箇所には、オイルクーラ10と、エンジン1の冷却媒体であるクーラント(冷却水)の放熱器としてのラジエータ13とが配置されている。ラジエータ13は管路13a,13bによって、エンジン1の冷却系に連結されている。
【0023】
パイロット油圧ポンプ5からは、ポンプの吐出圧の最大値を制御するリリーフ弁14を通過したパイロット油が、管路50を介して操作レバー装置15と電磁切換弁16に供給されている。電磁切換弁16は、後述するコントローラ20からの電気信号によりポートが切換えられて、パイロット油を圧力制御弁8の操作部に供給する。この結果、上述した圧力制御弁8のポートがパイロット油で操作され、作動油の圧力が制御されている。
【0024】
操作レバー装置15からは、操作レバー上げ操作時に管路51を介して方向切換弁6のパイロット操作部6Aにパイロット油を供給し、操作レバー下げ操作時に管路52を介して方向切換弁6のパイロット操作部6Bにパイロット油を供給している。
【0025】
上述した作動油の温度、エンジン1の冷却系に供給される冷却水の温度、メイン油圧ポンプ3の吐出圧力をそれぞれ検出するために、作動油タンク9の底部には、作動油の温度を検出する作動油温度センサ18が取り付けられている。ラジエータ13の管路13aには、エンジン1の冷却系に供給される冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ19が取り付けられている。また、メイン油圧ポンプ3の吐出側の管路30には、作動油の圧力を検出する圧力センサ17が取り付けられている。
【0026】
コントローラ20は、予め各種設定値を記憶する記憶部(メモリ)201と、各種手順を実行する演算部(CPU)202と、入力部203と、出力部204とを備えるコントローラユニットで構成されている。
【0027】
コントローラ20の入力部203には、作動油温度センサ18と圧力センサ17と冷却水温度センサ19とが接続されていて、各センサからの検出信号が入力されている。また、コントローラ20の入力部203には、再生スイッチ22が接続されていて、排ガス浄化装置2における再生処理の起動停止信号が入力されている。
【0028】
コントローラ20の出力部204からは、例えば斜板式ピストンポンプで構成される可変容量型のメイン油圧ポンプ3とファン制御用油圧ポンプ4とのそれぞれの斜板の傾きを駆動制御するレギュレータ3A,4Aに電流信号を出力する。電流信号を受けたレギュレータ3A,4Aは、これら油圧ポンプの斜板をそれぞれ駆動制御することによって、吐出油流量を変化させる。この結果、メイン油圧ポンプ3及びファン制御用油圧ポンプ4のポンプ負荷がそれぞれ制御され、ファン回転用油圧モータ11の回転数すなわち冷却用ファン12の回転数も制御される。
【0029】
また、電磁切換弁16に励磁/非励磁の信号を出力することにより、圧力制御弁8を制御し、上述したように方向切換弁6のセンターバイパス部から作動油タンク9やオイルクーラ10へ流れる作動油の流量を絞ることにより、作動油の圧力を制御可能とする。
【0030】
コントローラ20は、例えば、シリアル通信23によってエンジンコントローラ21と接続されていて、エンジンコントローラ21にエンジン回転数指令を出力したり、エンジン回転数を入力したりする。
【0031】
エンジンコントローラ21は、エンジン1の動作状態をモニタリングすると共に、燃料噴射装置(図示せず)からエンジン1へ噴射される燃料の噴射量を制御する電子ガバナ1Aの制御を行う。具体的には、コントローラ20から伝送されるエンジン回転数指令に基づいて、必要な燃料噴射量を演算し、例えば、電子ガバナ1Aのアクチュエータを制御するサーボ機構に電流信号を出力することによって、エンジン1の回転数とトルクを制御する。なお、本実施の形態にあっては、冷却水温度センサ19からの冷却水温度検出信号は、エンジンコントローラ21にも入力されている。
【0032】
ところで、コントローラ20の記憶部201には、排ガス浄化装置2のフィルタ2Aを強制再生するときのエンジン回転数Naと、強制再生に必要な排気ガス温度を発生させるために必要なエンジントルクTe(kgf m)と強制再生の実行に必要な時間Tが、予め設定記憶されている。また、検出した作動油温度と冷却水温度から冷却ファンを駆動するファン制御用油圧ポンプ4の必要トルクTf(kgf m)を演算するための各種データが、予め記憶されている。
【0033】
コントローラ20とエンジンコントローラ21とは、上述した入力信号に基づいて、ファン制御用油圧ポンプ4のファントルクTf(kgf m)とメイン油圧ポンプ4のトルクTm(kgf m)を制御しつつ、フィルタ再生演算処理を行い、その演算結果に応じて電子ガバナ1aを制御する。
【0034】
次に、上述した本発明の建設機械の排気ガス浄化システムの一実施の形態の動作を図3に示すフィルタ再生制御の演算内容を示すフローチャート図を用いて説明する。
【0035】
まず、ステップ(S100)では、再生スイッチ22が投入されたかどうかを判断する。具体的には、コントローラの演算部202において、再生スイッチ22からの再生処理の起動停止信号のON/OFFにより判断し、ONであれば、YESと判断される。このステップ(S100)でYESと判断された場合には、ステップ(S102)に移り排ガス浄化装置2の再生演算のための処理が開始される。このステップ(S100)でNOと判断された場合には、スタートに戻る。
【0036】
ステップ(S102)では、エンジン1の回転数を所定回転数にNaに変更する制御がなされる。具体的には、コントローラ20から再生開始の信号がエンジンコントローラ21へ伝送される。エンジンコントローラ21では、排ガス浄化装置2のフィルタ2Aを再生するときのエンジン回転数Naが読み出され、エンジン回転数Naとなるように電子ガバナ1Aを制御する。この結果、エンジンコントローラ21において、エンジン1の目標回転数が、例えば図示しないエンジンコントロールダイヤルが指示する通常回転数から低速アイドル回転数よりもやや高い強制再生に適した所定の回転数Naに切り換り、エンジンコントローラ21が、この所定回転数Naとエンジン1の実回転数とに基づいて電子ガバナ1aの燃料噴射量をフィードバック制御し、エンジン1の回転数をその所定の回転数Naになるように制御する。強制再生に適した所定の回転数NaとエンジントルクTe(kgf m)とは、そのときの排気ガスの温度を酸化触媒2Bの活性温度よりも高い温度まで上昇させることができる回転数とトルクである。
【0037】
一方、コントローラ20からは、電磁切換弁16のソレノイド部に励磁信号が出力される。電磁切換弁16のポートが切り替わり、パイロット油圧ポンプ5からのパイロット油が、圧力制御弁8の駆動部に供給される。この結果、圧力制御弁8のポートが駆動し、方向切換弁6のセンターバイパス部を介して作動油タンク9やオイルクーラ10へ流れる作動油の流量を減少させ、メイン油圧ポンプ3の吐出圧を上昇させる。つまり、強制再生に際しては、メイン油圧ポンプ3の吐出圧を上昇させ、メイン油圧ポンプ3のトルクを増加させている。
【0038】
次のステップ(S104)では、検出した作動油の温度と冷却水の温度からファン制御用油圧ポンプ4のトルクTf(kgf m)を計算する。具体的には、コントローラ20の演算部202において、まず、記憶部201から検出した作動油温度と冷却水温度から冷却ファンを駆動するファン制御用油圧ポンプ4の必要トルクTf(kgf m)を演算するための各種データが読み出される。次に、入力した作動油温度の検出値と冷却水温度の検出値から、冷却用ファン12の必要回転数を算出し、この回転数でファン回転用油圧モータ11を回転させるべくファン制御用油圧ポンプ4のレギュレータ4aへの電流信号が算出される。算出された電流信号は、コントローラ20の出力部204からレギュレータ4aへ出力され、ファン制御用油圧ポンプ4の斜板が駆動することによって、吐出油流量が変化する。一方、ファン制御用油圧ポンプ4の必要トルクTf(kgf m)は、ファン制御用油圧ポンプ4の吐出流量から算出することができる。算出されたこのファン制御用油圧ポンプ4の必要トルクTf(kgf m)は、記憶部201に一時的に記憶される。
【0039】
次のステップ(S106)では、エンジン1のトルクTe(kgf m)が所定の値になる負荷としてのメイン油圧ポンプ3のトルクTm(kgf m)を計算する。具体的には、コントローラ20の演算部202において、まず、記憶部201から強制再生に必要な排気ガス温度を発生させるエンジントルクTe(kgf m)と、前のステップ(S104)で一時的に記憶されたファン制御用油圧ポンプ4の必要トルクTf(kgf m)とが読み出される。その後、次の式(1)に従ってメイン油圧ポンプ3のトルクTm(kgf m)を算出する。
Tm=Te−Tf・・・・(1)
算出されたこのメイン油圧ポンプ3の必要トルクTm(kgf m)は、記憶部201に一時的に記憶される。
【0040】
次のステップ(S108)では、メイン油圧ポンプ3のトルクが必要トルクTm(kgf m)になるように、ポンプ流量を制御するメイン油圧ポンプ3のトルク制御が行われる。具体的には、コントローラ20の演算部202において、まず、記憶部201から前のステップ(S106)で一時的に記憶されたメイン油圧ポンプ3の必要トルクTm(kgf m)が読み出される。次に、圧力センサ17から検出されたメイン油圧ポンプ3の吐出圧力P(kgf/cm2)の値とTm(kgf m)の値を次の式(2)に導入してメイン油圧ポンプ3の目標ポンプ容積q(cc/rev)を算出する。
q=Tm×200×π÷P・・・・(2)
算出されたこのメイン油圧ポンプ3の目標ポンプ容積q(cc/rev)から、このポンプ容積q(cc/rev)となるようにメイン油圧ポンプ3のレギュレータ3aへの電流信号が算出される。算出された電流信号は、コントローラ20の出力部204からレギュレータ3aへ出力され、メイン油圧ポンプ3の斜板が駆動することによって、吐出油流量が変化する。この結果、メイン油圧ポンプ3で所定のトルクTm(kgf m)が得られるトルク制御が実行される。
【0041】
このように、メイン油圧ポンプ3のトルクTm(kgf m)が制御されていることから、ファン制御用油圧ポンプ4の必要トルクTf(kgf m)が、作動油の温度や冷却水の温度の変化によって変わったとしても、エンジン1に掛かるトルクは、予め定めているエンジントルクTe(kgf m)が確保されることになる。
【0042】
エンジンコントローラ21としては、エンジン1が、所定回転数Naと所定トルクTe(kgf m)を保つように電子ガバナ1aの燃料噴射量をフィードバック制御している。
【0043】
次のステップ(S110)では、再生が開始される。強制再生の開始処理では、まず、タイマーを起動して強制再生の実行に必要な時間Tの計測を開始すると共に、例えばエンジン1の筒内噴射後の膨張行程において、再度燃料を噴射する副噴射を行う。この結果、排気管1Bで未燃燃料を酸化触媒2Bに供給し、その未燃燃料を酸化触媒2Bによって酸化させ、そのときに得られる反応熱をフィルタ2Aに送り込み、フィルタ2Aに蓄積したPMを焼却除去する。
【0044】
次のステップ(S112)では、所定の強制再生の実行に必要な時間Tが経過して、タイマーが停止すると、強制再生を終了させる。
【0045】
次のステップ(S114)では、エンジン1を強制再生制御から通常の制御に復帰させる。具体的には、強制再生の際の副噴射を停止し、エンジン1の目標回転数を、図示しないエンジンコントロールダイヤルが指示する通常回転数に切換えると共に、電磁切換弁16のソレノイド部への励磁信号を取りやめ、メイン油圧ポンプ3の一連のトルク制御を終了させる。このような通常の制御にエンジン1を復帰させた後、先のステップ(S100)に戻る。
【0046】
上述した本発明の一実施の形態によれば、作動油や冷却水等の熱交換器を冷却する油圧駆動の冷却ファンの運転状態に関らず、エンジン1に掛かる負荷が所定の値となるように、メイン油圧ポンプ3のトルクを制御するため、フィルタ2Aの強制再生運転を効率的に実行することができる。この結果、適切な燃料消費量での運転が可能となり、建設機械の生産効率が向上する。
【0047】
また、上述の一実施の形態によれば、強制再生の状態においても、作動油や冷却水を冷却する冷却ファンの回転数制御がなされているので、オーバーヒート等が発生する虞がない。
【0048】
さらに、コントローラ20とエンジンコントローラ21との制御により、エンジン1に掛かる負荷が所定の値となることから、排気ガス温度が適正に保たれ、いつでも同じ条件の下で適切な強制再生を実施することができる。
【0049】
なお、本実施の形態においては、エンジン1の筒内噴射後の膨張行程において、再度燃料を噴射する副噴射を行う排気ガス浄化装置について説明したが、これに限らない。例えば、エンジン1と酸化触媒2Bとの間に再生用燃料噴射装置を設けていて、ここで燃料噴射を行う排気ガス浄化装置であっても良い。
【0050】
また、制御装置として、コントローラ20とエンジンコントローラ21を別置した場合について説明したが、これらを同一のコントローラとして構成しても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 ディーゼルエンジン
1a 電子ガバナ
2 排ガス浄化装置
2A フィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ)
2B 酸化触媒
3 メイン油圧ポンプ
3A レギュレータ
4 ファン制御用油圧ポンプ
4A レギュレータ
5 パイロット油圧ポンプ
6 方向切換弁
8 圧力制御弁
9 作動油タンク
10 オイルクーラ
11 ファン駆動用油モータ
12 冷却用ファン
13 ラジエータ
14 リリーフ弁
15 操作レバー装置
16 電磁切換弁
17 圧力センサ
18 作動油温度センサ
19 冷却水温度センサ
20 コントローラ
21 エンジンコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンと、
前記エンジンの排気口に連設されて、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタに堆積した粒子状物質を焼却除去し、前記フィルタを再生する再生装置と、
前記エンジンによって駆動される可変容量型の第1及び第2の油圧ポンプと、
作動油と冷却水を冷却する熱交換器と、この熱交換器を冷却する冷却ファンと、
前記第2の油圧ポンプから吐出される圧油により回転し、前記冷却ファンを駆動する油圧モータと、
前記第1及び第2の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出量を制御する機能と、前記再生装置を作動させる機能とを有する制御装置とを備えた建設機械の排気ガス浄化システムにおいて、
前記制御装置は、前記再生装置が作動しているときに、前記第2の油圧ポンプの負荷を算出し、前記第1の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出量及び吐出圧力を制御することで、前記エンジンに掛かる負荷を所定の値に保つ
ことを特徴とする建設機械の排気ガス浄化システム。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械の排気ガス浄化システムにおいて、
前記作動油と冷却水の温度をそれぞれ検出する温度検出器を更に備え、
前記制御装置は、前記温度検出器で検出した作動油と冷却水の温度信号を取込み、これらの信号に基づいて前記第2の油圧ポンプの負荷を算出する
ことを特徴とする建設機械の排気ガス浄化システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の建設機械の排気ガス浄化システムにおいて、
前記第1の油圧ポンプから吐出される圧油の吐出圧力を検出する圧力検出器をさらに備え、
前記制御装置は、前記圧力検出器で検出した圧油の圧力信号を取込み、この信号に基づいて前記第1の油圧ポンプの目標ポンプ容積を算出する
ことを特徴とする建設機械の排気ガス浄化システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の建設機械の排気ガス浄化システムにおいて、
前記第1の油圧ポンプの吐出管路には、方向切換弁を介した油圧アクチュエータが接続されると共に、前記方向切換弁のセンターバイパスに接続された管路には、制御弁を介して作動油タンクが接続され、
前記制御装置は、前記再生装置が作動しているときには、前記制御弁を駆動して前記第1の油圧ポンプの吐出圧を上昇させる
ことを特徴とする建設機械の排気ガス浄化システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の建設機械の排気ガス浄化システムにおいて、
前記第1の油圧ポンプはメイン油圧ポンプであって、前記第2の油圧ポンプは、ファン制御用油圧ポンプである
ことを特徴とする建設機械の排気ガス浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38464(P2011−38464A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186054(P2009−186054)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】