説明

建設機械の油圧駆動装置

【課題】油圧ポンプの吐出油を振り分けて複数の油圧アクチュエータを同時期に駆動する際に、負荷圧力の変動に伴う油圧アクチュエータの動作速度の変動を、エネルギ損失を低減しつつ、抑えることができる建設機械の油圧駆動装置を提供すること。
【解決手段】油圧シリンダ21,22(複数の油圧アクチュエータ)の負荷圧力を圧力センサ71〜74を用いて検出し、油圧シリンダ21,22の両方が動作中の場合、油圧シリンダ21,22のうち負荷圧力の低い方である低負荷シリンダに対応付けられた発電機65または66の回転に必要なトルクを制御装置40はインバータ67または68で制御し、低負荷シリンダに対応付けられた油圧モータ63または64の回転の抵抗を上昇させることで、低負荷シリンダに対応付けられた方向切換弁24または25の上流と下流の圧力差の変動を抑え、発電機65または66で生成された電気エネルギを蓄電装置80は蓄える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の油圧アクチュエータに油圧源として共用される油圧ポンプを備え、複数の油圧アクチュエータを同時期に駆動する際に、その油圧ポンプの吐出油をそれらの油圧アクチュエータに振り分ける建設機械の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の油圧駆動装置の従来のものには、複数の油圧アクチュエータのそれぞれと油圧ポンプとの間に、各油圧アクチュエータに対応付けられて設けられ、その油圧アクチュエータの動作速度を調節する絞り弁と、各油圧アクチュエータに対応付けられて設けられ、その油圧アクチュエータの負荷圧力の変動に伴いその油圧アクチュエータの動作速度が変動することを抑える圧力補償弁とを備えるものがある。
【0003】
このように構成された従来の油圧駆動装置においては、複数の油圧アクチュエータの動作中、それらの油圧アクチュエータのそれぞれの負荷圧力は、通常互いに異なる。各油圧アクチュエータのそれぞれに対応付けられた圧力補償弁は、この圧力補償弁と同じ油圧アクチュエータに対応付けられた絞り弁の上流と下流の圧力差が一定するよう負荷圧力に応じて挙動することによって、負荷圧力の変動に伴って油圧アクチュエータに供給される作動油の流量が変動すること、すなわち、油圧アクチュエータの動作速度が変動することを抑える。
【0004】
ここで述べた従来の油圧駆動装置については特許文献1を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−505270公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来の油圧駆動装置において、複数の油圧アクチュエータの負荷圧力のうち最高負荷圧力よりも低い負荷圧力は、最高負荷圧力との圧力差が大きくなるほど、その低い負荷圧力が作用する油圧アクチュエータに対応付けられた圧力補償弁での圧力損失、すなわちエネルギ損失を大きくする。
【0007】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、油圧ポンプの吐出油を振り分けて複数の油圧アクチュエータを同時期に駆動する際に、負荷圧力の変動に伴う油圧アクチュエータの動作速度の変動を、エネルギ損失を低減しつつ、抑えることができる建設機械の油圧駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために本発明に係る建設機械の油圧駆動装置は次のように構成されている。
【0009】
〔1〕 本発明に係る建設機械の油圧駆動装置は、油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油が供給されて駆動する複数の油圧アクチュエータと、これら複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応付けられて設けられ、その対応付けられた油圧アクチュエータに前記油圧ポンプから供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、を備える建設機械の油圧駆動装置において、前記複数の方向制御弁のそれぞれの上流と下流の圧力差の変動を抑える圧力補償手段と、前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれの負荷圧力を検出する複数の負荷圧力検出手段と、蓄電装置とを備え、前記圧力補償手段は、前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応付けられて設けられた発電機と、これらの発電機のそれぞれを駆動する複数の発電用油圧モータと、これらの発電用油圧モータのそれぞれの回転の抵抗を調節する抵抗調節手段と、これらの抵抗調節手段を制御する制御手段とを備え、前記発電用油圧モータは、前記複数の油圧アクチュエータのうちその発電用油圧モータと対応付けられた油圧アクチュエータに供給される圧油、またはその油圧アクチュエータから排出された圧油により駆動されるものであり、前記制御手段は、前記複数の油圧アクチュエータのうちのいずれか2つ以上が動作中である場合に、それら動作中の油圧アクチュエータのうち最高負荷圧力よりも低い負荷圧力が作用している油圧アクチュエータである低負荷アクチュエータに対応付けられた前記抵抗調節手段を制御し、その低負荷アクチュエータに対応付けられた前記発電用油圧モータの回転の抵抗を上昇させることで、その低負荷アクチュエータに対応付けられた前記方向切換弁の上流と下流の圧力差の変動を抑え、前記蓄電装置は、前記低負荷アクチュエータに対応付けられた前記発電機により生成された電気エネルギを蓄えることを特徴とする。
【0010】
この「〔1〕」に記載の建設機械の油圧駆動装置において、制御手段が低負荷アクチュエータに対応付けられた抵抗調節手段を制御し、その低負荷アクチュエータに対応付けられた発電用油圧モータの回転の抵抗を上昇させる。これによって、低負荷アクチュエータの負荷圧力を最高負荷圧力まで上昇させ、低負荷アクチュエータに対応付けられた方向切換弁の上流と下流の圧力差の変動を抑えることができる。したがって、油圧ポンプの吐出油を振り分けて複数の油圧アクチュエータを同時期に駆動する際に、負荷圧力の変動に伴う油圧アクチュエータの動作速度の変動を抑えることができる。
【0011】
さらに、「〔1〕」に記載の建設機械の油圧駆動装置において、蓄電装置は、低負荷アクチュエータに対応付けられた発電機により生成された電気エネルギを蓄える。これによって、負荷圧力の変動に伴う油圧アクチュエータの動作速度の変動を抑える際、エネルギ損失を低減することができる。
【0012】
〔2〕 本発明に係る建設機械の油圧駆動装置は、「〔1〕」に記載の建設機械の油圧駆動装置において、前記圧力補償手段の前記発電用油圧モータは、これと対応付けられた前記油圧アクチュエータから排出される圧油により駆動されるものであることを特徴とする。
【0013】
建設機械に備えられる作業装置には、ブームシリンダ(油圧シリンダ)により上下方向に回動されるブームを含むものがある。そのブームシリンダには作業装置の重力が作用し、この重力によりブームシリンダは作業装置を下方向に回動させながら収縮可能であり、その収縮に伴い圧油を排出する。「〔2〕」に記載の建設機械の油圧駆動装置においては、圧力補償手段の発電用油圧モータが油圧アクチュエータから排出される圧油により駆動されるものであるから、その油圧アクチュエータをブームシリンダに適用した場合、作業装置の重力によりブームシリンダが収縮して圧油が排出されたときに、その圧油によって油圧モータを駆動して発電機に発電させ、蓄電装置を充電することができる。つまり、作業装置の位置エネルギの一部を電気エネルギに変換して蓄えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る建設機械の油圧駆動装置によれば、前述のように、油圧ポンプの吐出油を振り分けて複数の油圧アクチュエータを同時期に駆動する際に、負荷圧力の変動に伴う油圧アクチュエータの動作速度の変動を、エネルギ損失を低減しつつ、抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る油圧駆動装置が採用される建設機械である油圧ショベルの左側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る油圧駆動装置を示す油圧回路図である。
【図3】図2に示した油圧駆動装置の圧力補償機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る油圧駆動装置について図1〜図3を用いて説明する。
【0017】
図1に示す油圧ショベル1は、履帯2aを駆動して走行する走行体2と、この走行体2に旋回可能に結合した旋回体3と、この旋回体3の前部に設けられたフロント作業装置4とを備えている。
【0018】
旋回体3は、フロント作業装置4の左側方に設けられたキャブ3aと、このキャブ3aの後方に設けられた機械室3bと、この機械室3bの後方に設けられて旋回体3の後端を形成しているカウンタウェイト3cとを備えている。この旋回体3は、図示してない旋回モータを駆動源としている。
【0019】
フロント作業装置4は、旋回体3の前部に上下方向に回動可能に結合されたブーム5と、このブーム5に回動可能に連結されたアーム6と、このアーム6に回動可能に連結されたバケット7とを備えている。ブーム5、アーム6およびバケット7はそれぞれ片ロッド式の複動シリンダから成る油圧シリンダ、いわゆるブームシリンダ8、アームシリンダ9およびバケットシリンダ10のそれぞれにより駆動されるようになっている。
【0020】
図2に示すように、本実施形態に係る油圧駆動装置20は、複数の油圧アクチュエータ、例えば2つの油圧シリンダ21,22(例えばブームシリンダ8、バケットシリンダ10に適用される)と、これら油圧シリンダ21,22に供給される圧油を吐出する油圧ポンプ23と、油圧シリンダ21に対応付けられて設けられ、油圧ポンプ23からその油圧シリンダ21に供給される圧油の流れ(流れの方向および流量)を制御する方向制御弁24と、油圧シリンダ22に対応付けられて設けられ、油圧ポンプ23からその油圧シリンダ22に供給される圧油の流れ(流れの方向および流量)を制御する方向制御弁25とを備えている。
【0021】
方向制御弁24は、クローズドセンタ式の3位置弁であり、4つのポート、すなわちAポート24a、Bポート24b、Pポート24c、Rポート24dを備える。Aポート24aは油圧シリンダ21のボトム室21aに通じたポートであり、Bポート24bは油圧シリンダ21のロッド室21bに通じたポートである。Pポート24dは油圧ポンプ23の吐出油を導入するポートであり、Rポート24dは油圧シリンダ21から排出され作動油、すなわち戻り油を作動油タンク26側に導くポートである。
【0022】
方向制御弁25も方向制御弁24と同じく、クローズドセンタ式の3位置弁であり、4つのポート、すなわちAポート25a、Bポート25b、Pポート25c、Rポート25dを備える。Aポート25aは油圧シリンダ22のボトム室22aに通じたポートであり、Bポート25bは油圧シリンダ22のロッド室22bに通じたポートである。Pポートロ25cは油圧ポンプ23の吐出油を導入するポートであり、Rポート25dは油圧シリンダ22から排出された作動油、すなわち戻り油を作動油タンク26側に導くポートである。
【0023】
油圧ポンプ23と方向制御弁24のPポート24cは、油圧ポンプ23が圧油を吐出する幹管路27と、この幹管路27から分岐した枝管路28とを介して接続されている。油圧ポンプ23と方向制御弁25のPポート25cは、幹管路27と、この幹管路27から分岐した枝管路29とを介して接続されている。つまり、油圧ポンプ23の吐出油は、枝管路28を通じて油圧シリンダ21に導かれる分と、枝管路29を通じて油圧シリンダ22に導かれる分とに振り分けられるようになっている。
【0024】
油圧駆動装置20はさらに制御装置40を備えている。この制御装置40は、制御プログラムが書き込まれたROMと、その制御プログラムに従って情報処理を行うCPUと、そのCPUによる情報処理の作業領域であるRAMとを備え、油圧ショベル1の動作に係る種々の情報処理、および種々の制御対象物の制御を行うものである。前出の方向制御弁24および前出の方向制御弁25は、制御装置40の制御対象物であり、制御装置40から電力を供給されて動作するようになっている。制御装置40には、油圧シリンダ21に対応付けられて設けられた操作レバー装置51と、油圧シリンダ22に対応付けられて設けられた操作レバー装置52とが電気的に接続されている。操作レバー装置51は、操作レバー51aの中立位置からの傾倒操作量を方向制御弁24の弁位置の指令相当する指令信号(電気信号)に変換して制御装置40に出力するものである。操作レバー装置52は、操作レバー52aの中立位置からの傾倒操作量を方向制御弁25の弁位置を指令に相当する指令信号(電気信号)に変換して制御装置40に出力するものである。制御装置40は、操作レバー装置51からの指令信号を電力に変換して方向制御弁24に供給するよう設定されており、また、操作レバー装置52からの指令信号を電力に変換して方向制御弁25に供給するよう設定されている。
【0025】
操作レバー装置51により出力される指令信号の指令値と、制御装置40から方向制御弁24に供給される電力と、方向制御弁24の開度との関係は、操作レバー51aの中立位置の近傍と操作レバー51aの傾倒操作の限界位置近傍とを除き、中立位置からの操作レバー51aの傾倒操作量が大きくなるほど第1方向制御弁の開度が大きくなるよう設定されている。これと同様に、操作レバー装置52により出力される指令信号の指令値と、制御装置40から方向制御弁25に供給される電力と、方向制御弁25の開度との関係は、操作レバー52aの中立位置の近傍と操作レバー52aの傾倒操作の限界位置近傍とを除き、中立位置からの操作レバー52aの傾倒操作量が大きくなるほど第2方向制御弁の開度が大きくなるよう設定されている。また、方向制御弁24の開度が大きくなるほど、油圧ポンプ23から油圧シリンダ21に供給される作動油の流量が増加し、油圧シリンダ21の動作速度は速くなる。これと同様に、方向制御弁25の開度が大きくなるほど、油圧ポンプ23から油圧シリンダ22に供給される作動油の流量が増加し、油圧シリンダ22の動作速度は速くなる。
【0026】
油圧駆動装置20はさらに、油圧シリンダ21,22のそれぞれに対応付けられて設けられた発電装置61,62のそれぞれを備える。
【0027】
発電装置61は方向制御弁24のRポート24dから作動油タンク26に延びた戻り管路31に設けられており、戻り管路31上に設けられて方向制御弁24のRポート24dからの作動油により駆動される発電用油圧モータ63と、この発電用油圧モータ63に伝動可能に結合した発電機65とを備えている。つまり、油圧シリンダ21から排出された圧油により発電用油圧モータ63が駆動され、この発電用油圧モータ63により発電機65が駆動されて、発電がなされるようになっている。
【0028】
発電装置62は方向制御弁25のRポート25dから作動油タンク26に延びた戻り管路32に設けられており、戻り管路32上に設けられて方向制御弁25のRポート25dからの作動油により駆動される発電用油圧モータ64と、この発電用油圧モータ64に伝動可能に結合した発電機66とを備えている。つまり、油圧シリンダ22から排出された圧油により発電用油圧モータ64が駆動され、この発電用油圧モータ64により発電機66が駆動されて、発電がなされるようになっている。
【0029】
発電機65の回転の抵抗、すなわち発電用油圧モータ63の回転の抵抗となるトルクT1は、インバータ67によって制御されるようになっている。つまり、発電機65とインバータ67は発電用油圧モータ63の回転の抵抗を調節する抵抗調節手段を構成している。これと同様に、発電機66の回転の抵抗、すなわち発電用油圧モータ64の回転の抵抗となるトルクT2は、インバータ67によって制御されるようになっている。つまり、発電機66とインバータ68は発電用油圧モータ64の回転の抵抗を調節する抵抗調節手段を構成している。
【0030】
前出の制御装置40はインバータ67,68を制御する制御手段である。この制御装置40は、ボトム圧センサ71、ロッド圧センサ72、ボトム圧センサ73およびロッド圧センサ74からの検出信号(電気信号)に基づき、インバータ67,68を制御するよう設定されている。ボトム圧センサ71は、油圧シリンダ21のボトム室21a内の圧力Pb1を検出信号に変換して制御装置40に出力するものである。ロッド圧センサ72は、油圧シリンダ21のロッド室21b内の圧力Pl1を検出信号に変換して制御装置40に出力するものである。ボトム圧センサ73は、油圧シリンダ22のボトム室22a内の圧力Pb2を検出信号に変換して制御装置40に出力するものである。ロッド圧センサ74は、油圧シリンダ22のロッド室22b内の圧力Pl2を検出信号に変換して制御装置40に出力するものである。
【0031】
発電機65により発電された電力はインバータ67を介して蓄電装置80に充電されるようになっており、発電機66に発電された電力はインバータ68を介して蓄電装置80に充電されるようになっている。
【0032】
図3に示すように、制御装置40は、ROMに書き込まれた制御プログラムにより設定された手段として、最高負荷圧力判定手段41と、目標トルク指令手段42とを備えている。
【0033】
最高負荷圧力判定手段41は、操作レバー装置51からの指令信号と操作レバー装置52からの指令信号が同時期に入力された場合に、油圧シリンダ21,22のそれぞれのどの室が油圧ポンプ23の圧油の供給先となるかを判定する供給先判定手段41aと、この供給先判定手段41aにより判定された油圧シリンダ21,22のそれぞれの室内の圧力(負荷圧力)を示す、ボトム圧センサ71、ロッド圧センサ72、ボトム圧センサ73およびロッド圧センサ74のいずれかからの検出信号の検出値を取得する負荷圧力取得手段41bと、この負荷圧力取得手段41bにより取得された2つの負荷圧力の高い方を最高負荷圧力に決定する最高負荷圧力決定手段41cとを備えている。なお、ボトム圧センサ71、ロッド圧センサ72、ボトム圧センサ73およびロッド圧センサ74と、供給先判定手段41aと、負荷圧力取得手段41bは、油圧シリンダ21,22のそれぞれの負荷圧力を検出する負荷圧力検出手段を構成している。
【0034】
目標トルク指令手段42は、最高負荷圧力判定手段41による判定の結果に基づき、発電機65の目標トルクの指令値Si1と、発電機66の目標トルクの指令値Si2とを算出し、これらの指令値Si1,Si2のそれぞれを示す指令信号をインバータ67,68のそれぞれに出力するものである。ここで、最高負荷圧力が作用している油圧シリンダを最高負荷アクチュエータと言い換え、最高負荷圧力よりも低い負荷圧力が作用している油圧シリンダを低負荷アクチュエータと言い換えて、目標トルクの指令値Si1,Si2の具体的な制御について説明すると、最高負荷アクチュエータに対応付けられたインバータに対する指令値は0(ゼロ)に設定されるようになっており、低負荷アクチュエータに対応付けられたインバータに対する指令値は、低負荷アクチュエータの負荷圧力を最高負荷圧力まで上昇させる値に設定されるようになっている。
【0035】
また、目標トルク指令手段42は、ボトム圧センサ71、ロッド圧センサ72、ボトム圧センサ73およびロッド圧センサ74のうち最高負荷圧力を検出した圧力センサの検出値を、指令値(>0)から減算して偏差を求め、その偏差を解消するための目標トルクの指令値を算出するよう設定されている。つまり、目標トルク指令手段42は、低い方の負荷圧力を最高負荷圧力まで上昇させる際に、フィードバック制御を行うようになっている。
【0036】
ボトム圧センサ71、ロッド圧センサ72、ボトム圧センサ73およびロッド圧センサ74と、最高負荷圧力判定手段41と、目標トルク指令手段42と、インバータ67と、発電装置61(発電用油圧モータ63、発電機65)は、油圧シリンダ21に対応付けられて設けられ、油圧シリンダ21に対応付けられた方向制御弁24の上流と下流の圧力差の変動を抑える圧力補償手段を構成している。ボトム圧センサ71、ロッド圧センサ72、ボトム圧センサ73およびロッド圧センサ74と、最高負荷圧力判定手段41と、目標トルク指令手段42と、インバータ68と、発電装置62(発電用油圧モータ64、発電機66)は、方向制御弁24,25の上流と下流の圧力差の変動を抑える圧力補償手段を構成している。
【0037】
なお、操作レバー装置51,52は、前出のキャブ3a内に設けられてオペレータにより操作されるものである。油圧ポンプ23、方向制御弁24,25、発電装置61,62、インバータ67,68、蓄電装置80は、前出の旋回体3の機械室3bに収容されている。
【0038】
油圧駆動装置20における圧力補償機能、すなわち、油圧シリンダ21,22の負荷圧力の変動に伴って油圧シリンダ21,22に供給される作動油の流量が変動するのを抑える機能について、油圧シリンダ21,22の両方が同時期に伸長する場合であって油圧シリンダ21の負荷圧力が油圧シリンダ22の負荷圧力も高い場合の油圧駆動装置20の動作を例に挙げ、次に説明する。
【0039】
操作レバー装置51が油圧シリンダ21を伸長させる方向に傾倒操作され、これと同時期に操作レバー装置52が油圧シリンダ22を伸長させる方向に傾倒操作される。
【0040】
このとき、制御装置40の最高負荷圧力判定手段41において、まず、供給先判定手段41aは油圧シリンダ21,22のそれぞれについて、圧油の供給先となる室を判定する。今回は、油圧シリンダ21についてボトム室21aと判定するとともに、油圧シリンダ22についてボトム室22aと判定する。次に、それらの供給先の判定の結果(ボトム室21a,22a)に基づき、負荷圧力取得手段41bは、ボトム室21a内の圧力Pb1(油圧シリンダ21の負荷圧力)を検出するボトム圧センサ71と、ボトム室22a内の圧力Pb2(油圧シリンダ22の負荷圧力)を検出するボトム圧センサ73とのそれぞれからの検出信号に示された検出値を取得する。次に、の最高負荷圧力決定手段41cは、負荷圧力取得手段41bにより取得された2つの負荷圧力Pb1,Pb2の検出値のうち高い方を最高負荷圧力に決定する。今回は負荷圧力Pb1が最高負荷圧力に決定される。言い換えると、油圧シリンダ21が最高負荷圧力が作用している最高負荷アクチュエータに決定され、最高負荷圧力よりも低い負荷圧力が作用している油圧シリンダ22が低負荷アクチュエータに決定されたことになる。
【0041】
次に、目標トルク指令手段42は、最高負荷圧力判定手段41により判定された最高負荷圧力Pb1に基づき、発電機65の目標トルクの指令値Si1と、発電機66の目標トルクの指令値Si2とを算出し、これらの指令値Si1,Si2のそれぞれを示す指令信号をインバータ67,68のそれぞれに出力する。今回は、最高負荷アクチュエータである油圧シリンダ21に対応付けられたインバータ67に対する指令値Si1は0(ゼロ)に設定され、低負荷アクチュエータである油圧シリンダ22に対応付けられたインバータ68に対する指令値Si2は、油圧シリンダ22の負荷圧力Pb2を最高負荷圧力(=圧力Pb1)まで上昇させる値(>0)に設定される。
【0042】
インバータ67は、目標トルク指令手段42からの指令信号(指令値Si1=0)に基づき、発電機65による発電電流I1を、0A(アンペア)に設定する。これに伴って発電機65の回転に必要なトルクは最小に設定される。つまり、発電装置61は発電しない状態に制御される。この結果、戻り管路31において、発電用油圧モータ63が戻り油の流れに与える抵抗は最小の状態となる。一方、インバータ68は、目標トルク指令手段42からの指令信号(指令値Si2>0)に基づき、発電機66による発電電流I2を0Aよりも大きな値に設定する。これに伴って発電機66の回転に必要なトルク、すなわち発電用油圧モータ64の回転に必要なトルクは最小よりも大きく設定される。つまり、戻り管路32において、発電用油圧モータ64が油圧シリンダ22の戻り油の流れに抵抗を与えるため、油圧シリンダ22の負荷圧力Pb2は上昇し、最終的に負荷圧力Pb1に達する。
【0043】
また、目標トルク指令手段42は、指令値Si2の指令信号をインバータ68に与えた後、ボトム圧センサ73からの検出信号を入力し、この検出信号の検出値、すなわち油圧シリンダ22のボトム室22aの圧力Pb2の検出値を指令値Si2(>0)から減算して偏差を求め、その偏差が解消されるよう目標トルクの指令値Si2を調節する。つまり、発電用油圧モータ64の回転の抵抗のフィードバック制御を行う。つまり、発電用油圧モータ64の回転の抵抗のフィードバック制御を行う。
【0044】
前述とは別の動作の例を挙げて、油圧駆動装置20における圧力補償機能について説明する。その別の動作の例とは、「ブームシリンダ」としての油圧シリンダ21がフロント作業装置4の重力により収縮し、これと同時期に油圧シリンダ22(バケットシリンダ10に相当する)が収縮する場合の動作の例である。
【0045】
操作レバー装置51が油圧シリンダ21を収縮させる方向(ブーム5を下げる方向)に傾倒操作され、これと同時期に操作レバー装置52が油圧シリンダ22を収縮させる方向に傾倒操作される。
【0046】
このとき、制御装置40の最高負荷圧力判定手段41において、まず、供給先判定手段41aは油圧シリンダ21,22のそれぞれについて、圧油の供給先となる室を判定する。今回は、油圧シリンダ21についてロッド室21bと判定し、油圧シリンダ22についてロッド室22bと判定する。次に、それらの供給先の判定の結果に基づき、負荷圧力取得手段41bは、ロッド室21bの圧力Pl1(油圧シリンダ21の負荷圧力)を検出するロッド圧センサ72と、ロッド室22bの圧力Pl2(油圧シリンダ22の負荷圧力)を検出するロッド圧センサ74とのそれぞれからの検出信号に示された検出値を取得する。次に、最高負荷圧力決定手段41cは、負荷圧力取得手段41bにより取得された2つの圧力Pl1,Pl2の検出値のうち高い方を最高負荷圧力に決定する。今回、油圧シリンダ21(ブームシリンダ8)はフロント作業装置4の重力により収縮しているので圧力Pl1の検出値は0(ゼロ)となる。したがって、圧力Pl2の検出値0よりも大きければ、油圧シリンダ22の負荷圧力Pl2が最高負荷圧力に決定される。今回は、油圧シリンダ22の負荷圧力Pl2が最高負荷圧力に決定されたとする。つまり、油圧シリンダ22が最高負荷圧力が作用している最高負荷アクチュエータに決定され、最高負荷圧力よりも低い負荷圧力が作用している油圧シリンダ21が低負荷アクチュエータに決定されたとする。
【0047】
次に、目標トルク指令手段42は、最高負荷圧力判定手段41により判定された最高負荷圧力Pl2に基づき、発電機65の目標トルクの指令値Si1と、発電機66の目標トルクの指令値Si2とを算出し、これらの指令値Si1,Si2のそれぞれを示す指令信号をインバータ67,68のそれぞれに出力する。今回は、最高負荷アクチュエータである油圧シリンダ22に対応付けられたインバータ68に対する指令値Si2は0(ゼロ)に設定され、低負荷アクチュエータである油圧シリンダ21に対応付けられたインバータ67に対する指令値Si1は、油圧シリンダ21の負荷圧力Pl1を最高負荷圧力(=圧力Pl2)まで上昇させる値(>0)に設定される。
【0048】
これによって、インバータ68は発電機66による発電電流I2を、0A(アンペア)に設定する。これに伴って発電機66の回転に必要なトルクは最小に設定される。つまり、発電装置62は発電しない状態に制御される。この結果、戻り管路32において、発電用油圧モータ64が油圧シリンダ22からの戻り油の流れに与える抵抗は最小の状態となる。一方、インバータ67は発電機65による発電電流I1を、指令値Si1に基づき0Aよりも大きな値に設定する。これに伴って発電機65の回転に必要なトルク、すなわち発電用油圧モータ63の回転に必要なトルクは最小よりも大きく設定される。つまり、戻り管路31において、発電用油圧モータ63が油圧シリンダ21からの戻り油の流れに抵抗を与えるため、油圧シリンダ21の負荷圧力Pl1は上昇し、最終的に負荷圧力P12に達する。
【0049】
また、目標トルク指令手段42は、指令値Si1の指令信号をインバータ67に与えた後、ロッド圧センサ72からの検出信号を入力し、この検出信号から油圧シリンダ21のロッド室21bの圧力Pl1の検出値を得て、この検出値を指令値Si1(>0)から減算して偏差を求め、その偏差が解消されるよう目標トルクの指令値Si1を調節する。つまり、発電用油圧モータ63の回転の抵抗のフィードバック制御を行う。
【0050】
本実施形態に係る油圧駆動装置20によれば次の効果を得られる。
【0051】
本実施形態に係る油圧駆動装置20においては、制御装置40が低負荷アクチュエータ(油圧シリンダ21,22のうち負荷圧力の低い方)に対応付けられた抵抗調節手段(インバータ67と発電機65、またはインバータ68と発電機66)を制御し、その低負荷アクチュエータに対応付けられた発電用油圧モータ63または64の回転の抵抗を上昇させる。これによって、低負荷アクチュエータの負荷圧力を最高負荷圧力まで上昇させ、低負荷アクチュエータに対応付けられた方向切換弁24または25の上流と下流の圧力差の変動を抑えることができる。したがって、油圧ポンプ23の吐出油を振り分けて油圧シリンダ21,22を同時期に駆動する際に、負荷圧力の変動に伴う油圧シリンダ21,22の動作速度の変動を抑えることができる。
【0052】
本実施形態に係る油圧駆動装置20において、蓄電装置80は、低負荷アクチュエータに対応付けられた発電機により生成された電気エネルギを蓄える。これによって、負荷圧力の変動に伴う油圧シリンダ21,22の動作速度の変動を抑える際、エネルギ損失を低減することができる。
【0053】
油圧シリンダ21のブームシリンダ8にはフロント作業装置4の重力が作用し、この重力によりブームシリンダ8は収縮可能であり、その収縮に伴い圧油を排出する。本実施形態に係る油圧駆動装置20においては、発電用油圧モータ63が油圧シリンダ21から排出される圧油により駆動されるものであるから、前述のように油圧シリンダ21をブームシリンダ8に適用した場合、フロント作業装置4の重力によりブームシリンダ8が収縮して圧油が排出されたときに、その圧油によって発電用油圧モータ63を駆動して発電機65に発電させ、蓄電装置80を充電することができる。つまり、フロント作業装置4の位置エネルギの一部を電気エネルギに変換して蓄えることができる。
【0054】
なお、前述の実施形態に係る油圧駆動装置20は、発電用油圧モータ63を油圧シリンダ21の戻り管路31に備え、発電用油圧モータ64を油圧シリンダ22の戻り管路32に備えたものである、すなわち、発電用油圧モータを油圧アクチュエータから排出される圧油により駆動するものであるが、本発明は、発電用油圧モータを油圧アクチュエータに供給される圧油により駆動するものであってもよい。この場合、図2を用いて説明すると、発電用油圧モータ63,64はそれぞれ、枝管路28,29のそれぞれに設けられることになる。
【0055】
前述の実施形態に係る油圧駆動装置20において、抵抗調節手段は、発電用油圧モータ63,64の回転の抵抗の調節を、発電機65,66を回転させるのに必要なトルクをインバータ67,68により制御することによって行うものであったが、本発明における抵抗調節手段はそれに限定されるものではなく、発電用油圧モータ63,64を可変容量型油圧モータとして容量を制御することによって行うものであってもよい。つまり、可変容量型油圧モータにおいて容量を可変にしている可変機構を抵抗調節手段としてもよい。
【0056】
前述の実施形態に係る油圧駆動装置20は、複数の油圧アクチュエータが2つの油圧シリンダ21,22であったが、本発明における油圧アクチュエータの数は2つに限定されるものではなく、2つより多くてもよい。この場合、複数の油圧アクチュエータのうちのいずれか2以上が動作中である場合に、それら動作中の油圧アクチュエータのうち最高負荷圧力が作用している油圧アクチュエータが最高負荷アクチュエータとして扱われ、最高負荷圧力よりも低い負荷圧力が作用している油圧アクチュエータが低負荷アクチュエータとして扱われることになる。
【0057】
前述の実施形態に係る油圧駆動装置20は、複数の油圧アクチュエータが2つの油圧シリンダ21,22であったが、本発明における複数の油圧アクチュエータは油圧シリンダに限定されるものではなく、油圧モータのみ、油圧シリンダと油圧モータの混合であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 油圧ショベル
2 走行体
2a 履帯
3 旋回体
3a キャブ
3b 機械室
3c カウンタウェイト
4 フロント作業装置
5 ブーム
6 アーム
7 バケット
8 ブームシリンダ
9 アームシリンダ
10 バケットシリンダ
20 油圧駆動装置
21,22 油圧シリンダ
21a,22b ボトム室
21b,22b ロッド室
23 油圧ポンプ
24,25 方向制御弁
24a,25a Aポート
24b,25b Bポート
24c,25c Pポート
24d,25d Rポート
26 作動油タンク
27 幹管路
28,29 枝管路
31,32 戻り管路
40 制御装置
41 最高負荷圧力判定手段
41a 供給先判定手段
41b 負荷圧力取得手段
41c 最高負荷圧力決定手段
42 目標トルク指令手段
51,52 操作レバー装置
51a,52a 操作レバー
61,62 発電装置
63,64 発電用油圧モータ
65,66 発電機
67,68 インバータ
71 ボトム圧センサ
72 ロッド圧センサ
73 ボトム圧センサ
74 ロッド圧センサ
80 蓄電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油が供給されて駆動する複数の油圧アクチュエータと、これら複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応付けられて設けられ、その対応付けられた油圧アクチュエータに前記油圧ポンプから供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、を備える建設機械の油圧駆動装置において、
前記複数の方向制御弁のそれぞれの上流と下流の圧力差の変動を抑える圧力補償手段と、前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれの負荷圧力を検出する複数の負荷圧力検出手段と、蓄電装置とを備え、
前記圧力補償手段は、前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応付けられて設けられた発電機と、これらの発電機のそれぞれを駆動する複数の発電用油圧モータと、これらの発電用油圧モータのそれぞれの回転の抵抗を調節する抵抗調節手段と、これらの抵抗調節手段を制御する制御手段とを備え、
前記発電用油圧モータは、前記複数の油圧アクチュエータのうちその発電用油圧モータと対応付けられた油圧アクチュエータに供給される圧油、またはその油圧アクチュエータから排出された圧油により駆動されるものであり、
前記制御手段は、前記複数の油圧アクチュエータのうちのいずれか2つ以上が動作中である場合に、それら動作中の油圧アクチュエータのうち最高負荷圧力よりも低い負荷圧力が作用している油圧アクチュエータである低負荷アクチュエータに対応付けられた前記抵抗調節手段を制御し、その低負荷アクチュエータに対応付けられた前記発電用油圧モータの回転の抵抗を上昇させることで、その低負荷アクチュエータに対応付けられた前記方向切換弁の上流と下流の圧力差の変動を抑え、
前記蓄電装置は、前記低負荷アクチュエータに対応付けられた前記発電機により生成された電気エネルギを蓄える
ことを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の油圧駆動装置において、
前記圧力補償手段の前記発電用油圧モータは、これと対応付けられた前記油圧アクチュエータから排出される圧油により駆動されるものである
ことを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−159123(P2012−159123A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18261(P2011−18261)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】