説明

建設機械の油圧駆動装置

【課題】非操作状態から操作レバーが操作された際に、エンジンへの燃料の増量を招くことなくエンジンラグダウンを防止できる建設機械の油圧駆動装置の提供。
【解決手段】本発明は、非操作状態から操作レバー8aが操作されたことを検出する圧力センサ16を備えるとともに、圧力センサ16によって非操作状態から操作レバー8aが操作されたことが検出されたとき一時的に、操作レバー8aの操作によって油圧アクチュエータ5を駆動して実施される通常操作時の操作レバー8aの操作量に対する方向制御弁6の開口量の比に比べて、操作レバー8aの操作量に対する方向制御弁6の開口量の比が小さくなるように方向制御弁6の切り換え動作を制限し、その後のエンジン1の実回転数の上昇に伴って上述した制限を解除するメインコントローラ18及び比例電磁弁17を含む動作制御手段を備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械に備えられ、非操作状態から操作装置の操作レバーが操作されたときに一時的に生じるエンジンの実回転数の低下であるエンジンラグダウンを防止できる建設機械の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として、特許文献1に示されるものがある。この特許文献1に示される従来技術は、油圧ショベル等の油圧建設機械に備えられる油圧駆動装置である。この従来技術は、エンジンと、このエンジンによって駆動するメインポンプ及びパイロットポンプと、メインポンプから吐出される圧油によって駆動する油圧アクチュエータと、メインポンプから油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、パイロットポンプに接続され、方向制御弁を切り換え操作する操作レバーを有する操作装置とを備えている。また、この従来技術は、操作装置の操作レバーが操作されない状態、すなわち非操作状態では、油圧ポンプは最少傾転制御により最小傾転に保たれ、エンジンはハイアイドル回転数に保たれる。このような非操作状態に保たれている状態から操作レバーが操作されると、油圧ポンプの制御は、減トルク制御を実施し、所定時間減トルク状態を維持した後、定格トルク制御に移行するようになっている。
【0003】
非操作状態から操作レバーが操作されたとき、一般に一時的にエンジンの実回転数が低下する現象、すなわちエンジンラグダウンを生じようとするが、上述した従来技術では操作レバーが操作されたとき、油圧ポンプの傾転が減トルク制御により最小傾転を維持し、エンジン負荷が軽減された状態でエンジンの実回転数を目標回転数に近づけるためにエンジンへの燃料の供給が増量して出力を上げ、エンジンの実回転数を上昇させる。これによりエンジンラグダウンを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−154803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術は、非操作状態から操作装置の操作レバーが操作された際のエンジンラグダウンを防ぐことができるものの、ポンプの傾転制御のためのレギュレータ等の機器を備えなければならない。また、操作レバーの操作によって油圧ポンプに一時的にでも負荷が作用する状態となるので、大きな回転数の低下はないにしてもエンジン回転数の低下の可能性があり、これによりエンジンに燃料を増量供給する必要がある。したがって、この従来技術は、燃費の悪化を招き、排気ガスに黒煙を発生させやすい問題がある。
【0006】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、非操作状態から操作レバーが操作された際に、エンジンへの燃料の増量を招くことなくエンジンラグダウンを防止できる建設機械の油圧駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、 エンジンと、このエンジンによって駆動するメインポンプと、メインポンプから吐出される圧油によって駆動する油圧アクチュエータと、上記メインポンプから上記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、上記方向制御弁を切り換え操作する操作レバーを有する操作装置とを備えた建設機械の油圧駆動装置において、非操作状態から上記操作レバーが操作されたことを検出する操作検出手段を備えるとともに、上記操作検出手段によって非操作状態から上記操作レバーが操作されたことが検出されたとき一時的に、上記操作レバーの操作によって上記油圧アクチュエータを駆動して実施される通常操作時の上記操作レバーの操作量に対する上記方向制御弁の開口量の比に比べて、上記操作レバーの操作量に対する上記方向制御弁の開口量の比が小さくなるように上記方向制御弁の切り換え動作を制限し、その後の上記エンジンの実回転数の上昇に伴って上記制限を解除する動作制御手段を備えたことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明は、非操作状態から操作レバーが操作されたことが操作検出手段で検出されると一時的に、動作制御手段によって、操作レバーの操作量に対する方向制御弁の開口量の比が、通常操作時に比べて小さくなるように制限される。すなわち、方向制御弁の切り換え量が小さく抑えられる。これに伴って油圧ポンプに加わる負荷が操作レバーの非操作時と同等あるいは略同等となるように小さく保たれ、非操作状態から操作レバーが急に操作された際にエンジンに急激に過大な負荷が作用することがないのでエンジン出力の増加を一時的に抑えることができる。したがって、非操作状態から操作レバーが操作されたときに、一時的なエンジンの実回転数の低下、すなわちエンジンラグダウンを生じさせることがなく、また、エンジンへの燃料の増加を招くことがない。その後のエンジンの実回転数の上昇に伴って、方向制御弁の切り換え動作の制限が解除され、操作レバーの操作量に応じた通常操作時の方向制御弁の開口量が確保される。これにより、油圧ポンプから方向制御弁を介して油圧アクチュエータに圧油が供給され、油圧アクチュエータを操作レバーの操作量に応じて作動させ、所望の作業を実施することができる。
【0009】
また本発明は、上記発明において、パイロットポンプと、上記エンジンの目標回転数を指示する回転数指示器と、上記エンジンの実回転数を検出する回転数センサとを備え、上記操作装置が上記パイロットポンプの圧油に基づいて、操作量に応じた操作信号としてパイロット操作圧を生成するものから成り、上記方向制御弁が上記パイロット操作圧により制御されるパイロット式方向制御弁から成り、上記動作制御手段は、上記回転数指示器から出力される上記エンジンの目標回転数と上記回転数センサから出力される上記エンジンの実回転数との回転数偏差の絶対値が、予め設定され非操作状態から上記操作レバーが操作されたときに生じ得ると見做される上記回転数偏差の絶対値である所定の絶対値以上のときに、上記操作レバーの操作に応じて上記方向制御弁の制御室に導かれるパイロット操作圧の上限値を、上記通常操作時のパイロット操作圧の上限値に比べて低くする制御処理を行うものから成ることを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明は、非操作状態から操作レバーが操作されたことが操作検出手段で検出されると一時的に、回転数指示器によって指示されるエンジンの目標回転数と回転数センサから出力されるエンジンの実回転数との回転数偏差の絶対値が所定の絶対値以上となる。このとき、動作制御手段の制御処理によって、方向制御弁の制御室に導かれるパイロット操作圧の上限値が通常操作時に比べて小さくなる。したがって、方向制御弁の切り換え量が小さく抑えられ、油圧ポンプに加わる負荷が操作レバーの非操作時と同等あるいは略同等となるように小さく保たれ、非操作状態から操作レバーが操作された際のエンジン出力の増加が一時的に抑えられる。
【0011】
また本発明は、上記発明において、上記動作制御手段は、メインコントローラと、このメインコントローラから出力される制御信号に応じて、上記パイロット操作圧の上限値を、上記通常操作時のパイロット操作圧の上限値に比べて低くする比例電磁弁とを含み、上記メインコントローラは、上記回転数指示器によって指示される上記エンジンの目標回転数と上記回転数センサから出力される上記エンジンの実回転数との回転数偏差を演算する演算部と、予め回転数偏差とパイロット操作圧の上限値との関係が設定され、上記演算部で演算された回転数偏差の絶対値が上記所定の絶対値以上のときに、パイロット操作圧の上限値を低くする信号を出力する第1関数設定部と、予めパイロット操作圧の上限値と上記制御信号の出力値との関係が設定され、上記第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値に応じた出力値の制御信号に基づき、上記比例電磁弁への制御信号を出力する第2関数設定部と、上記第1関数設定部と上記第2関数設定部との間に配置され、上記操作検出手段から出力される信号に基づいて判定処理を行うものであって、上記操作検出手段から出力される信号に基づいて上記操作装置が非操作状態であると判定したときには、上記第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値を上記第2関数設定部に出力させず、上記操作検出手段から出力される信号に基づいて非操作状態から上記操作レバーが操作されたと判定したときには、上記第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値を低くする信号を上記第2関数設定部に出力させる処理を行う判定処理部とを含むことを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明は、非操作状態から操作レバーが操作されたことが操作検出手段で検出されると、メインコントローラの演算部で回転数指示器によって指示されるエンジンの目標回転数と回転数センサから出力されるエンジンの実回転数との回転数偏差が演算される。この演算された回転数偏差の絶対値は一時的に所定の絶対値以上となる。これに応じて、メインコントローラの第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値は、通常操作時におけるパイロット操作圧の上限値よりも低い値となる。
【0013】
一方、メインコントローラの判定処理部では、操作検出手段から出力される信号に基づいて、非操作状態から操作レバーが操作されたと判定される。
【0014】
この判定処理部の判定に応じて、第1関数設定部から出力される低い値のパイロット操作圧の上限値が第2関数設定部に出力される。この第2関数設定部からは、低い値のパイロット操作圧の上限値に相応する出力値の制御信号が比例電磁弁に出力される。これに応じて比例電磁弁が、方向制御弁の制御室に供給されるパイロット操作圧の上限値を通常操作時に比べて低くするように作動する。したがって、方向制御弁の切り換え量が小さく抑えられ、油圧ポンプに加わる負荷が操作装置の非操作時と同等あるいは略同等となるように小さく保たれ、非操作状態から操作レバーが操作された際のエンジン出力の増加が一時的に抑えられる。
【0015】
また本発明は、上記発明において、上記第1関数設定部における設定は、上記演算部で演算された回転数偏差の絶対値がゼロのときに、パイロット操作圧の上限値が、上記通常操作時に得られるパイロット操作圧の上限値となる設定と、上記回転数偏差の絶対値が上記所定値の絶対値と上記ゼロの間にあっては、上記回転数偏差の絶対値が上記ゼロに近づくに従ってパイロット操作圧の上限値を次第に高くする設定とを含むことを特徴としている。
【0016】
このように構成した本発明は、一時的にエンジン出力が抑えられた後、エンジンの実回転数の上昇に伴って演算部で演算される回転数偏差の絶対値が所定値の絶対値よりも小さくなって、方向制御弁の切り換え動作の制限が解除され、やがてエンジンの実回転数がエンジンの目標回転数に一致することにより、回転数偏差の絶対値はゼロとなる。回転数偏差の絶対値がゼロとなったときには、第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値は、通常操作時に得られるパイロット操作圧の上限値となる。このパイロット操作圧の上限値が判定処理部を介して第2関数設定部に送信され、この第2関数設定部から通常操作時に相応する出力値の制御信号が比例電磁弁に出力される。これに応じて比例電磁弁が、方向制御弁の制御室に供給されるパイロット操作圧の上限値を通常操作時のパイロット操作圧の上限値とするように作動する。したがって、操作レバーの操作に応じた通常操作時の方向制御弁の開口量が確保される。これにより、油圧ポンプから方向制御弁を介して油圧アクチュエータに圧油が供給され、油圧アクチュエータを操作レバーの操作量に応じて作動させて所望の作業を実施することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、油圧アクチュエータを操作する操作装置の操作レバーが非操作状態から操作されたことを検出する操作検出手段を備え、この操作検出手段によって非操作状態から操作レバーが操作されたことが検出されたとき一時的に、操作レバーの操作によって油圧アクチュエータを駆動して実施される通常操作時の操作レバーの操作量に対する方向制御弁の開口量の比に比べて、操作レバーの操作量に対する方向制御弁の開口量の比が小さくなるように方向制御弁の切り換え動作を制限し、その後のエンジンの実回転数の上昇に伴って上述の制限を解除する動作制御手段を備えた構成にしてある。この構成に伴って本発明は、非操作状態から操作レバーが操作された際に、方向制御弁の切り換え量が小さく抑えられ、油圧ポンプに加わる負荷が操作レバーの非操作時と同等あるいは略同等となるように小さく保たれ、エンジン出力の増加が一時的に抑えられる。これにより、エンジンへの燃料の増量を招くことなく、エンジンラグダウンを防止できる。したがって本発明は、従来技術に比べて燃費を低減でき、また排ガスにおける黒煙の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る建設機械の油圧駆動装置の一実施形態を示す油圧・電気回路図である。
【図2】本実施形態に備えられるメインコントローラの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る建設機械の油圧駆動装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0020】
本発明に係る油圧駆動装置の一実施形態は、建設機械例えば油圧ショベルに備えられるものである。本実施形態は、図1に示すように、エンジン1と、このエンジン1によって駆動されるメインポンプ2及びパイロットポンプ3と、パイロットポンプ3のリリーフ圧を規定するパイロットリリーフ弁4とを備えている。
【0021】
また本実施形態は、メインポンプ2から吐出される圧油によって駆動するブームシリンダ、アームシリンダ等の油圧アクチュエータ5と、メインポンプ2から油圧アクチュエータ5に供給される圧油の流れ(流量、方向)を制御する方向制御弁6とを備えている。この方向制御弁6は、例えばパイロット式方向制御弁から成り、センタバイパス通路を有している。すなわち中立時には、メインポンプ2から吐出された圧油の全部をタンク7に戻すように機能する。
【0022】
また本実施形態は、パイロットポンプ3に接続され、方向制御弁6を切り換え操作する操作レバー8aを有する操作装置8と、操作レバー8aの操作に伴って発生した二次圧、すなわちパイロット操作圧を方向制御弁6の一方の制御室6aに導くパイロット管路12と、パイロット操作圧を方向制御弁6の他方の制御室6bに導くパイロット管路13と、これらのパイロット管路12,13のパイロット操作圧を選択的に取り出すシャトル弁14とを備えている。
【0023】
また本実施形態は、エンジン1を制御するエンジンコントローラ9と、エンジン1の目標回転数を指示する回転数指示器10と、エンジン1の実回転数を検出する回転数センサ11とを備えている。
【0024】
また本実施形態は、非操作状態から操作レバー8aが操作されたことを検出する操作検出手段、例えばシャトル弁14とタンク7とを連絡する管路15に導かれるパイロット操作圧が、非操作状態から操作レバー8aが操作されたと見做される所定圧以上になったことを検出し、検出信号を出力する圧力センサ16を備えている。
【0025】
また本実施形態は、圧力センサ16によって非操作状態から操作レバー8aが操作されたことが検出されたとき一時的に、操作レバー8aの操作によって油圧アクチュエータ5を駆動して実施される通常操作時の操作レバー8aの操作量に対する方向制御弁6の開口量の比に比べて、操作レバー8aの操作量に対する方向制御弁6の開口量の比が小さくなるように方向制御弁6の切り換え動作を制限し、その後のエンジン1の実回転数の上昇に伴って上述した制限を解除する動作制御手段を備えている。
【0026】
この動作制御手段は、回転数指示器10によって指示されるエンジン1の目標回転数と回転数センサ11から出力されるエンジン1の実回転数との回転数偏差ΔNの絶対値が、予め設定され非操作状態から操作レバー8aが操作されたときに生じると見做される回転数偏差の絶対値である所定値Fの絶対値以上のときに、操作レバー8aの操作に応じて方向制御弁6の制御室6aまたは6bに接続されるパイロット管路12または13を流れるパイロット操作圧の上限値を、通常操作時のパイロット操作圧の上限値P1に比べて低い上限値P2とする制御処理を行うものから成っている。
【0027】
上述した動作制御手段は、例えば回転数指示器10によって指示されるエンジン1の目標回転数に相応する信号と、回転数センサ11から出力されるエンジン1の実回転数に相応する検出信号と、圧力センサ16から出力される検出信号が入力されるメインコントローラ18と、このメインコントローラ18から出力される制御信号に応じて、パイロット操作圧の上限値を、通常操作時のパイロット操作圧の上限値に比べて低くする比例電磁弁17とを含んでいる。
【0028】
この比例電磁弁17は、シャトル弁14とタンク7とを連絡する管路15の圧力センサ16が取り付けられている部分よりも下流に位置する部分に配置されており、管路15を遮断して、この管路15からタンク7への油の流れを阻止する位置Aと、管路15を連通させて、シャトル弁14からタンク7への油の流れを許容する位置Bとを有しており、一A〜位置Bの間でその切換量が比例的に制御されるものである。
【0029】
上述したメインコントローラ18は、図2に示すように、回転数指示器10によって指示されるエンジン1の目標回転数と回転数センサ11から出力されるエンジン1の実回転数との回転数偏差ΔNを演算する演算部18aと、予め回転数偏差ΔNとパイロット操作圧の上限値との関係が設定され、演算部18aで演算された回転数偏差ΔNの絶対値が所定の絶対値F以上のときに、パイロット操作圧の上限値を低い上限値P2とする信号を出力する第1関数設定部18bとを含んでいる。第1関数設定部18bにおける設定は、演算部18aで演算された回転数偏差ΔNの絶対値がゼロのときに、パイロット操作圧の上限値が、通常操作時に得られるパイロット操作圧の上限値P1(>P2)となる設定と、回転数偏差ΔNの絶対値が所定の絶対値Fとゼロの間にあっては、回転数偏差ΔNの絶対値がゼロに近づくに従ってパイロット操作圧の上限値を次第に高くする設定とを含んでいる。
【0030】
また、同図2に示すように、メインコントローラ18は、第2関数設定部18dを含んでいる。この第2関数設定部18dは、予めパイロット操作圧の上限値と比例電磁弁17に出力される制御信号の出力値の関係が設定され、第1関数設定部18bから出力されるパイロット操作圧の上限値に応じた出力値の制御信号を比例電磁弁17に出力する。また、第2関数設定部12dは、パイロット操作圧の上限値が低い上限値P2であるときに高い出力値S1の制御信号を出力し、パイロット操作圧の上限値が通常操作時の高い上限値P1であるときに低い出力値S2の制御信号を出力する。また、パイロット操作圧の上限値が、低い上限値P2から高い上限値P1に変化する間、高い出力値S1から低い出力値S2に例えば直線的に減少する値の制御信号を出力する。
【0031】
また、同図2に示すように、メインコントローラ18は、判定処理部18cを含んでいる。この判定処理部18cは、第1関数設定部18bと第2関数設定部18dとの間に配置され、圧力センサ16から出力される信号に基づいて判定処理を行う。すなわち、パイロット管路12,13のパイロット操作圧が所定圧に満たず、圧力センサ16から検出信号が出力されず、これに応じて操作装置8が非操作状態であると判定したときには、第1関数設定部18bから出力されるパイロット操作圧の上限値を第2関数設定部18dに出力させず、パイロット管路12,13のパイロット操作圧が所定圧以上となって圧力センサ16から検出信号が出力され、これに応じて非操作状態から操作レバー8aが操作されたと判定したときには、第1関数設定部18bから出力されるパイロット操作圧の上限値を第2関数設定部18dに出力させる処理を行う。
【0032】
また、コントローラ18は、操作レバー8aが操作されず、圧力センサ16からパイロット操作圧信号が所定時間入力されないときには、エンジン1の目標回転数を所定の低回転数に設定する制御信号をエンジン1に出力し、エンジン1が所定の低回転数で運転されているときに、操作レバー8aが操作された場合は、回転数指示器10によって指示される目標回転数に基づく制御信号をエンジン1に出力して、エンジン1がその目標回転数で運転されるように指令する。
【0033】
このように構成した本実施形態は例えば、エンジン1が起動し、回転数指示器16からエンジン1の高い目標回転数が指示されている状態で、操作装置8の操作レバー8aが操作されず中立に保たれている所望の作業停止時には、エンジン1は所定の低回転数(アイドル回転数)に保たれる。このとき、パイロット管路12,13にパイロット操作圧が供給されず、方向制御弁6は中立位置に保たれる。したがって、油圧ポンプ2から吐出される圧油は、方向制御弁6のセンタバイパス通路を介してタンク7に戻される。また、管路15の圧力は操作レバー8aが操作されたと見做される所定圧よりも低い圧力に保たれ、圧力センサ16から検出信号は出力されない。したがって、メインコントローラ18の判定処理部18cは、圧力センサ16の検出信号を入力せず、これによって第1関数設定部18bで求められるパイロット操作圧の上限値を第2関数発生部18dに送信しない。これに伴って図1に示す比例電磁弁17は、ばねの力により位置Aに保たれる。これにより、管路15は遮断されてタンク7との連通を阻止される。
【0034】
このような非操作状態から、操作レバー8aが操作され、その操作が圧力センサ16によって検出されると一時的に、メインコントローラ18と比例電磁弁17とを含む動作制御手段によって、操作レバー8aの操作量に対する方向制御弁6の開口量の比が、通常操作時に比べて小さくなるように制限される。すなわち、方向制御弁6の切り換え量が小さく抑えられる。今の場合、例えば切り換え量がゼロに抑えられる。
【0035】
すなわち、非操作状態から操作レバー8aが操作されると、パイロット管路12あるいは13にパイロット操作圧が供給され、パイロット操作圧がシャトル弁14を介して管路15に導かれる。このパイロット操作圧が、操作レバー8aが操作されたと見做される所定圧以上となると、圧力センサ16からメインコントローラ18に検出信号が出力される。メインコントローラ18の判定処理部18cは、圧力センサ18から出力される検出信号に応じて、操作レバー8aが操作されたと判定し、第1関数設定部18bから第2関数設定部18dにパイロット操作圧の上限値を送信可能な状態となる。
【0036】
このとき、図2に示すメインコントローラ18の演算部18aで、回転数指示器10から出力されるエンジン1の目標回転数と回転数センサ11から出力されるエンジン1の実回転数との回転数偏差ΔNが演算される。この場合、エンジン1の実回転数は所定の低い回転数(アイドル回転数)であり、今はエンジン1の目標回転数は高い回転数であることから、回転数偏差ΔNは所定値F以下となる。すなわち、回転数偏差ΔNの絶対値は、所定値Fの絶対値以上となる。これに応じて、メインコントローラ18の第1関数設定部18bから出力されるパイロット操作圧の上限値は、値の低い上限値P2となり、この上限値P2が判定処理部18cを介して第2関数設定部18dに送信される。第2関数設定部18dでは、値の低い上限値P2に応じて値の大きい出力値S1が求められ、この出力値S1に相応する制御信号が比例電磁弁17に出力される。これに応じて比例電磁弁17は、ばねの力に抗して位置Aから位置Bに切り換えられる。これにより管路15はタンク7に連通する。すなわち、管路15、シャトル弁14を介して、パイロット管路12,13がタンク7に連通する。したがって、操作レバー8aを操作したにもかかわらず、方向制御弁6の制御室6aあるいは6bにパイロット操作圧が供給されない状態となり、方向制御弁6の切り換え量は小さく抑えられる。今の場合は、切り換え量がゼロに抑えられる。これにより方向制御弁6の開口量は、操作レバー8aが操作されないときの開口量と同等に保たれる。これに伴って、油圧ポンプ2に加わる負荷が操作レバー8aの非操作時と同等に保たれ、非操作状態から操作レバー8aが操作された際のエンジン出力の増加が一時的に抑えられる。そして、方向制御弁6の切り換え量が小さく抑えられてエンジン1に負荷が作用しない状態で、エンジン1の回転数が目標回転数に向けて上昇する。
【0037】
このように、一時的にエンジン出力が抑えられた後、エンジン1の実回転数が上昇すると、エンジン1の目標回転数とエンジン1の実回転数との回転数偏差ΔNの絶対値が所定値Fの絶対値よりも小さくなって、方向制御弁6の切り換え操作の制限が解除され、回転数偏差ΔNの絶対値がゼロとなったときには、第1関数設定部18bから出力されるパイロット操作圧の上限値は、通常操作時に得られる値の高い上限値P1となる。この値の高い上限値P1が判定処理部18cを介して第2関数設定部18dに送信される。第2関数設定部18dではパイロット操作圧の上限値P1に応じて値の小さい出力値S2が求められ、この出力値S2に相応する制御信号が比例電磁弁17に出力される。これに応じて比例電磁弁17は、ばねの力により再び位置Aに切り換えられる。これにより、管路15は遮断され、管路15とタンク7との連通は阻止される。したがって、パイロット管路12あるいは13に操作レバー8aの操作に応じたパイロット操作圧が供給されて、方向制御弁6が切り換えられる。すなわち、操作レバー8aの操作量に応じた通常操作時の方向制御弁6の開口量が確保される。これにより、油圧ポンプ2から方向制御弁6を介して油圧アクチュエータ5に圧油が供給され、油圧アクチュエータ5を操作レバー8aの操作量に応じて作動させて、所望の作業、例えば土砂の掘削作業等を実現させることができる。
【0038】
このように構成した本実施形態にあっては、上述したように、非操作状態から操作レバー8aが操作されたことが圧力センサ16で検出されると一時的に、操作レバー8aの操作量に対する方向制御弁6の開口量の比が、通常操作時に比べて小さくなるように制限される。すなわち、方向制御弁6の切り換え量が小さく、例えばゼロとなるように抑えられる。これに伴って油圧ポンプ2に加わる負荷が操作レバー8aの非操作時と同等となるように保たれ、非操作状態から操作レバー8aが操作された際のエンジン出力の増加を一時的に抑えることができる。したがって、操作装置8が非操作状態から操作されたときに、一時的なエンジン1の実回転数の低下、すなわちエンジンラグダウンを生じさせることがなく、またエンジン1への燃料の増加を招くことが無い。したがって本実施形態によれば、燃費を低減でき、また排ガスにおける黒煙の発生を抑えることができる。
【0039】
また本実施形態は、一般に複雑な制御となりやすいポンプ制御やエンジン制御を実施することなく、操作系による制御を実施させるだけで済むので簡単な構成とすることができ、既存の構成の油圧駆動装置への組み込みが容易であり、実用性に優れている。
【0040】
なお、上記実施形態では、非操作状態から操作レバー8aが操作されたことを検出する操作検出手段として、パイロット管路12、あるいは13を流れるパイロット操作圧が、非操作状態から操作レバー8aが操作されたと見做される所定圧以上になったことを検出し、検出信号をメインコントローラ18に出力する圧力センサ16を設けた構成にしてあるが、本発明は、操作検出手段を圧力センサ16によって構成することには限られない。例えば、この操作検出手段を、非操作状態から操作されたと見做される所定操作量以上に操作レバー8aが操作されたことを検出し、検出信号をメインコントローラ18に出力するスイッチから成る構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 エンジン
2 メインポンプ
3 パイロットポンプ
4 パイロットリリーフ弁
5 油圧アクチュエータ
6 方向制御弁
6a 制御室
6b 制御室
7 タンク
8 操作装置
8a 操作レバー
9 エンジンコントローラ
10 回転数指示器
11 回転数センサ
12 パイロット管路
13 パイロット管路
14 シャトル弁
15 管路
16 圧力センサ(操作検出手段)
17 比例電磁弁
18 メインコントローラ
18a 演算部
18b 第1関数設定部
18c 判定処理部
18d 第2関数設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンによって駆動するメインポンプと、上記メインポンプから吐出される圧油によって駆動する油圧アクチュエータと、上記メインポンプから上記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向制御弁と、上記方向制御弁を切り換え操作する操作レバーを有する操作装置とを備えた建設機械の油圧駆動装置において、
非操作状態から上記操作レバーが操作されたことを検出する操作検出手段を備えるとともに、
上記操作検出手段によって非操作状態から上記操作レバーが操作されたことが検出されたとき一時的に、上記操作レバーの操作によって上記油圧アクチュエータを駆動して実施される通常操作時の上記操作レバーの操作量に対する上記方向制御弁の開口量の比に比べて、上記操作レバーの操作量に対する上記方向制御弁の開口量の比が小さくなるように上記方向制御弁の切り換え動作を制限し、その後の上記エンジンの実回転数の上昇に伴って上記制限を解除する動作制御手段を備えたことを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の油圧駆動装置において、
パイロットポンプと、
上記エンジンの目標回転数を指示する回転数指示器と、上記エンジンの実回転数を検出する回転数センサとを備え、
上記操作装置が上記パイロットポンプの圧油に基づいて、操作量に応じた操作信号としてパイロット操作圧を生成するものから成り、
上記方向制御弁が上記パイロット操作圧により制御されるパイロット式方向制御弁から成り、
上記動作制御手段は、上記回転数指示器から出力される上記エンジンの目標回転数と上記回転数センサから出力される上記エンジンの実回転数との回転数偏差の絶対値が、予め設定され非操作状態から上記操作レバーが操作されたときに生じ得ると見做される上記回転数偏差の絶対値である所定の絶対値以上のときに、上記操作レバーの操作に応じて上記方向制御弁の制御室に導かれるパイロット操作圧の上限値を、上記通常操作時のパイロット操作圧の上限値に比べて低くする制御処理を行うものから成ることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械の油圧駆動装置において、
上記動作制御手段は、メインコントローラと、このメインコントローラから出力される制御信号に応じて、上記パイロット操作圧の上限値を、上記通常操作時のパイロット操作圧の上限値に比べて低くする比例電磁弁とを含み、
上記メインコントローラは、
上記回転数指示器から出力される上記エンジンの目標回転数と上記回転数センサから出力される上記エンジンの実回転数との回転数偏差を演算する演算部と、
予め回転数偏差とパイロット操作圧の上限値との関係が設定され、上記演算部で演算された回転数偏差の絶対値が上記所定の絶対値以上のときに、パイロット操作圧の上限値を低くする信号を出力する第1関数設定部と、
予めパイロット操作圧の上限値と上記制御信号の出力値との関係が設定され、上記第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値に応じた出力値の制御信号に基づき、上記比例電磁弁への制御信号を出力する第2関数設定部と、
上記第1関数設定部と上記第2関数設定部との間に配置され、上記操作検出手段から出力される信号に基づいて判定処理を行うものであって、上記操作検出手段から出力される信号に基づいて上記操作装置が非操作状態であると判定したときには、上記第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値を上記第2関数設定部に出力させず、上記操作検出手段から出力される信号に基づいて非操作状態から上記操作レバーが操作されたと判定したときには、上記第1関数設定部から出力されるパイロット操作圧の上限値を低くする信号を上記第2関数設定部に出力させる処理を行う判定処理部とを含むことを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の建設機械の油圧駆動装置において、
上記第1関数設定部における設定は、上記演算部で演算された回転数偏差の絶対値がゼロのときに、パイロット操作圧の上限値が、上記通常操作時に得られるパイロット操作圧の上限値となる設定と、上記回転数偏差の絶対値が上記所定値の絶対値と上記ゼロの間にあっては、上記回転数偏差の絶対値が上記ゼロに近づくに従ってパイロット操作圧の上限値を次第に高くする設定とを含むことを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100883(P2013−100883A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245629(P2011−245629)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】