説明

建設機械

【課題】防振マウントの緩衝機能を生かしながら、キャブをアッパーフレームから引き剥がす方向の外力に対してガード部材を有効に作用させる。
【解決手段】キャブ4が防振マウント9…を介して上部旋回体のアッパーフレーム3に取付けられた建設機械において、転倒時にキャブ4を防護するためのガード部材10をキャブ4の前面部と天井とに跨ってに取付ける。このガード部材10の、キャブ前面部を覆う前側部分11の下端部をアッパーフレーム3の前端部に対し、防振マウント9…によるキャブ4の上下及び水平方向の移動を許容する係止機構15によって止め付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械の転倒時にキャブを防護してキャブ内のオペレータ空間を確保するための構造を改良した油圧ショベル等の建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
油圧ショベルは、図7に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が地面に対して鉛直な縦軸Oまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体2のアッパーフレーム3の左右一側(一般的な左側の場合で説明する)にオペレータが搭乗する操縦室としてのキャブ4が設けられるとともに、このキャブ4の右側にブーム5を備えた作業アタッチメント6が起伏自在に取付けられて成っている。
【0004】
図7中、7はアッパーフレーム3の後端部に設けられたカウンタウェイトである。
【0005】
アッパーフレーム3は、図8に示すように左前部にキャブ取付部8を有し、キャブ4がこのキャブ取付部8に、キャブ底部の四隅に配置された緩衝用の防振マウント9…を介して搭載される。
【0006】
防振マウント9は、特許文献1,2に示されているように、防振ゴム等の弾性体によってキャブ4を上下方向の一定ストロークで上下及び水平方向に移動可能に弾性支持し、この防振マウント9…によってキャブ4の振動が緩和される。
【0007】
この油圧ショベルにおいて、機械の転倒(横転)時に、キャブ内にDLV(Deflection-Limiting Volume)と称されるオペレータ空間が確保されるようにキャブ4の変形を抑制し得ることがキャブ規格(ROPS)として定められている。
【0008】
このROPS規格をクリアするための構成として、キャブ4を補強するガード部材をキャブ4の要所(たとえば上半分)に取付けた構造(特許文献3参照)、またはガード部材を、キャブを囲う状態でアッパーフレーム3に取付けた構造(特許文献4参照)が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−189089号
【特許文献2】特許第3671790号
【特許文献3】特開2005−35316号
【特許文献4】特開2000−229548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、ガード部材をキャブ4のみに取付けた特許文献3の構成では、キャブ4そのものの補強効果はあるものの、転倒時にキャブ4がアッパーフレーム3から引き剥がされる方向の外力に対して無力となり、キャブ4がアッパーフレーム3から離脱するおそれがある。
【0011】
一方、ガード部材をアッパーフレームに取付けた特許文献4の構成では、上記キャブ4の離脱防止の点で有効となるが、図8に示すように防振マウント9を備えた機械においては同マウント9の緩衝機能がガード部材によって殺されてしまうという弊害が生じる。
【0012】
そこで本発明は、防振マウントの緩衝機能を生かしながら、キャブをアッパーフレームから引き剥がす方向の外力に対してガード部材を有効に作用させることができる建設機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、下部走行体上に上部旋回体が地面に対して鉛直な縦軸まわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体を構成するアッパーフレームの左右片側にオペレータが搭乗するキャブが、緩衝用の防振マウントを介して、同マウントの緩衝ストロークの範囲で上下及び水平方向に移動可能に設けられた建設機械において、機械の転倒時にキャブを防護するためのガード部材が、キャブの少なくとも前面部を覆う状態でキャブに取付けられ、このガード部材の、上記キャブ前面部を覆う前側部分の下端部が、上記アッパーフレームの前端部に対し、上記防振マウントによるキャブの上下及び水平方向の移動を許容する係止機構によって止め付けられたものである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、上記ガード部材は、上記前側部分の上端から後方に延びてキャブの天井を覆う後側部分を有し、これら前側及び後側両部分がキャブに取付けられたものである。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、上記アッパーフレームの前端部にブラケットが前方に突出して設けられ、上記ガード部材の前側部分の下端部がこのブラケットに上記係止機構によって止め付けられたものである。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの構成において、上記係止機構は、アッパーフレーム側と上記ガード部材側とに跨って、かつ、ガード部材と一体に上下方向に移動可能に設けられた軸体と、アッパーフレーム側に係止して上記軸体の移動量を上記防振マウントの緩衝ストロークに相当する大きさに制限するように上記軸体の外周に設けられたストッパとによって構成されたものである。
【0017】
請求項5の発明は、請求項4の構成において、上記軸体は、ガード部材側に固定された雌ねじ体と、アッパーフレーム側からこの雌ねじ体にねじ込まれたねじ軸と、このねじ軸に外嵌されたスリーブとから成り、上記ねじ軸の締め込み力により上記スリーブを上記雌ねじ体に圧接させてねじ軸の弛み止めのための軸力を発生させるように構成されたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、キャブが防振マウントを介してアッパーフレームに取付けられた建設機械において、転倒時にキャブを防護するためのガード部材をキャブに取付けるとともに、このガード部材の、キャブ前面部を覆う前側部分の下端部をアッパーフレームの前端部に対し、防振マウントによるキャブの上下及び水平方向の移動を許容する係止機構によって止め付けたから、防振マウントの緩衝機能を生かしながら、キャブをアッパーフレームから引き剥がす方向の外力を係止機構によって受け止め、キャブの離脱を防止することができる。
【0019】
ここで、大強度を確保し易いガード部材とアッパーフレームとの間に係止機構を設けているため、キャブの離脱防止効果がより確実となる。
【0020】
この場合、請求項2の発明によると、ガード部材を、キャブ前面部と天井とに跨ってキャブに取付けたから、キャブとガード部材の双方が互いに補強し合い、キャブをアッパーフレームから引き剥がす方向の外力に対してキャブとガード部材が協働して高い抗力を発揮する。
【0021】
請求項3の発明によると、アッパーフレームの前端部にブラケットを前向きに突設し、ガード部材前側部分の下端部をこのブラケットに係止機構によって止め付けたから、アッパーフレームを前方に延長させるなどの大がかりな改造が不要となり、既存の機械にも簡単にアドオンすることができる。
【0022】
請求項4,5の発明によると、アッパーフレーム側とガード部材側とに跨って、かつ、ガード部材と一体に上下方向に移動可能に設けた軸体と、アッパーフレーム側に係止して軸体の移動量を防振マウントの緩衝ストロークに相当する大きさに制限するストッパとによって係止機構を構成したから、係止機構の構造が簡単で組み込みが容易となる。
【0023】
この場合、請求項5の発明によると、ガード部材側に雌ねじ体を固定し、ねじ軸をアッパーフレーム側からこの雌ねじ体にねじ込む構成であるため、係止機構の組み付けがきわめて簡単となる。
【0024】
また、ねじ軸の締め込み力により、ねじ軸に外嵌させたスリーブを雌ねじ体に圧接させて弛み止めのための軸力を発生させる構成としたから、振動等によるねじ軸の弛みを防止し、クリアランスを一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態にかかるアッパーフレームとキャブの分解斜視図である。
【図2】同組立状態の斜視図である。
【図3】同側面図である。
【図4】同正面図である。
【図5】図4のA部の拡大図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】本発明の適用対象例である油圧ショベルの概略斜視図である。
【図8】同ショベルのアッパーフレームとキャブの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を図1〜図6によって説明する。
【0027】
実施形態では、背景技術の説明に合わせて油圧ショベルを適用対象としている。実施形態において、図7,8に示す部分と同一部分には同一符号を付して示し、その重複説明を省略する。
【0028】
アッパーフレーム3の左前部にキャブ取付部8が設けられ、キャブ4がこのキャブ取付部8に四隅で防振マウント9…で弾性支持された状態で取付けられる。
【0029】
キャブ4には、機械の転倒時にキャブ4を防護するためのガード部材10が取付けられている。
【0030】
このガード部材10は、キャブ前面部の左右両側を覆う前側部分11と、この前側部分11の上端から後方に延びてキャブ天井を覆う後側部分12とが連続する形状(側面視鉤形)に形成され、前側及び後側両部分11,12がキャブ4(具体的には前ピラーを含むキャブ骨組)にボルト止めされている。
【0031】
前側及び後側両部分11,12は、それぞれ左右両側フレーム11a,11a,12a,12a間に複数本の梁材が設けられた枠状に形成されている。
【0032】
ここで、前側部分11の下端部、すなわち、左右両側フレーム11a,11aの下端部間に梁材13が懸架固定される一方、アッパーフレーム3の前端部左右両側にブラケット14,14が前向きに突設され、このブラケット14,14と梁材13とが、防振マウント9…によるキャブ4の上下移動を許容する係止機構15,15によって止め付けられている。
【0033】
この左右両側の係止機構15,15は同一構成を備え、代表としてその一方の詳細を図5,6によって説明する。
【0034】
ブラケット14の上面部に貫通穴14a(図6参照)が設けられ、軸体16がこの貫通穴14aを貫通する状態でブラケット14と梁材13とに跨って設けられている。
【0035】
軸体16は、梁材13に鉛直に固定された雌ねじ体17と、ブラケット14側から貫通穴14aを貫通してこの雌ねじ体17にねじ込まれたねじ軸としてのボルト18と、このボルト18に外嵌されたリング状のストッパ19と、このストッパ19をボルト頭部に上方から押さえ固定する円筒状のスリーブ20とから成り、ストッパ19とブラケット14の上面部との間に、軸体16の上下移動量を防振マウント9…の緩衝ストロークに相当する大きさに制限するクリアランスcが形成される状態で、ボルト18が雌ねじ体17にねじ込まれて係止機構15が構成されている。
【0036】
こうして、ガード部材10の前側部分11が、係止機構15及びブラケット14,14を介してアッパーフレーム3の前端部に、クリアランスc(防振マウント9…の緩衝ストローク)の範囲で上下移動可能な状態で連結されている。
【0037】
この構成によると、防振マウント9…による緩衝機能を生かしながら、キャブ4をアッパーフレーム3から引き剥がす方向の外力を係止機構15によって受け止め、キャブ4のアッパーフレーム3からの離脱を防止することができる。
【0038】
ここで、係止機構15を、大強度を確保し易いガード部材10とアッパーフレーム3との間に設けているため、キャブ4の離脱防止効果がより確実となる。
【0039】
しかも、ガード部材10を、キャブ前面部と天井とに跨ってキャブ4に取付けているため、キャブ4とガード部材10の双方が互いに補強し合い、キャブ4をアッパーフレーム3から引き剥がす方向の外力に対してキャブとガード部材が協働して高い抗力を発揮する。
【0040】
また、アッパーフレーム3の前端部にブラケット14,14を前向きに突設し、ガード部材前側部分11の下端部をこのブラケット14,14に係止機構15によって止め付けたから、アッパーフレーム3を前方に延長させるなどの大がかりな改造が不要となり、既存の機械にも簡単にアドオンすることができる。
【0041】
加えて、アッパーフレーム側(ブラケット14)とガード部材側(梁材13)とに跨って、かつ、ガード部材10と一体に上下方向に移動可能に設けた軸体16と、アッパーフレーム側に係止して軸体16の移動量を防振マウント9の緩衝ストロークに相当する大きさに制限するストッパ19とによって係止機構15を構成したから、係止機構15の構造が簡単で組み込みが容易となる。
【0042】
とくにこの実施形態では、ガード部材側に雌ねじ体17を固定し、ストッパ19付きのボルト18をブラケット14側からこの雌ねじ体17にねじ込む構成であるため、係止機構15の組み付けがきわめて簡単となる。
【0043】
また、ボルト18を締め込むと、スリーブ20が雌ねじ体17に圧接して軸力(ボルト18を下向きに押す力)が発生するため、これによってボルト18の弛みが防止され、クリアランスc(軸体16の移動量)が一定に保たれる。
【0044】
なお、クリアランスcは、スリーブ20の長さ寸法を変えることによって任意にかつ簡単に選択、調節することができる。
【0045】
他の実施形態
(1) アッパーフレーム3の前端部を前方に延長し、この延長部分とガード部材10とを係止機構15によって止めつけてもよい。
【0046】
(2) ガード部材10の後側部分12をキャブ背面側まで延長させ、この延長部分をもキャブ4に固定してもよい。
【0047】
あるいは、ガード部材10を、上記実施形態の前側部分11のみで構成してもよい。
【0048】
(3) 係止機構15に関して、上記実施形態では軸体16を、ねじ軸(ボルト)18と、雌ねじ体17と、ストッパ19と、スリーブ20とで構成したが、下端部にストッパとしての頭部を備えた軸を、ブラケット14の貫通穴14aを貫通する状態で、かつ、上記実施形態と同様にブラケット上面部との間にクリアランスが形成される状態でブラケット14と梁材13とに跨って配置し、この軸の上端側を梁材13に固定してストッパ付きの軸体を構成してもよい。
【0049】
(4) 本発明は油圧ショベルに限らず、油圧ショベルを母体として構成される解体機や破砕機を含めて、キャブがアッパーフレームに防振マウントを介して搭載される建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 アッパーフレーム
4 キャブ
8 アッパーフレームのキャブ取付部
9 防振マウント
10 ガード部材
11 ガード部材の前側部分
11a,11a 前側部分の左右両側フレーム
12 後側部分
12a,12a 後側部分の左右両側フレーム
13 前側部分の梁材
14 ブラケット
14a 貫通穴
15 係止機構
16 軸体
17 雌ねじ体
18 ボルト(ねじ軸)
19 ストッパ
20 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体が地面に対して鉛直な縦軸まわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体を構成するアッパーフレームの左右片側にオペレータが搭乗するキャブが、緩衝用の防振マウントを介して、同マウントの緩衝ストロークの範囲で上下及び水平方向に移動可能に設けられた建設機械において、機械の転倒時にキャブを防護するためのガード部材が、キャブの少なくとも前面部を覆う状態でキャブに取付けられ、このガード部材の、上記キャブ前面部を覆う前側部分の下端部が、上記アッパーフレームの前端部に対し、上記防振マウントによるキャブの上下及び水平方向の移動を許容する係止機構によって止め付けられたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
上記ガード部材は、上記前側部分の上端から後方に延びてキャブの天井を覆う後側部分を有し、これら前側及び後側両部分がキャブに取付けられたことを特徴とする請求項1記載の建設機械。
【請求項3】
上記アッパーフレームの前端部にブラケットが前方に突出して設けられ、上記ガード部材の前側部分の下端部がこのブラケットに上記係止機構によって止め付けられたことを特徴とする請求項1または2記載の建設機械。
【請求項4】
上記係止機構は、アッパーフレーム側と上記ガード部材側とに跨って、かつ、ガード部材と一体に上下方向に移動可能に設けられた軸体と、アッパーフレーム側に係止して上記軸体の移動量を上記防振マウントの緩衝ストロークに相当する大きさに制限するように上記軸体の外周に設けられたストッパとによって構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の建設機械。
【請求項5】
上記軸体は、ガード部材側に固定された雌ねじ体と、アッパーフレーム側からこの雌ねじ体にねじ込まれたねじ軸と、このねじ軸に外嵌されたスリーブとから成り、上記ねじ軸の締め込み力により上記スリーブを上記雌ねじ体に圧接させてねじ軸の弛み止めのための軸力を発生させるように構成されたことを特徴とする請求項4記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−26914(P2011−26914A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176176(P2009−176176)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】