説明

引張型免震支承装置

【課題】建築物や橋梁等の土木構造物の上部構造と下部構造間に配置される引張型免震支承装置において、構造物支承装置の薄型化、コンパクト化および低コスト化を達成し、地震時の上部構造の大きな慣性力に対してゴムの引張力により延伸性に注目して地震のエネルギーを減衰化することが可能な引張型免震支承装置を提供する。
【解決手段】構造物用支承装置1は、上部構造又は下部構造の一方に配置される第1部材11と、他方に配置される第2部材7と、第2部材7と第1部材11との間に水平方向に放射状に張設される放射状部13cを有する引張ゴム材からなる復元性を有する弾性材とを備え、構造物に付加される全水平方向の水平変位に対して弾性材に付加される引張力によりエネルギーを吸収するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物、橋梁等の土木構造物の上部構造と下部構造との間に設置される免震支承装置に関し、特に、引張ゴム材の引張力により水平方向の応力を吸収する引張型免震支承装置。
【背景技術】
【0002】
建築物や橋梁等の土木構造物の上部構造と下部構造との間に、上部構造の荷重を支持しつつその伸縮を吸収する支承装置が設けられる。1995年の兵庫県南部地震によって鋼製支承を有する多くの橋梁が被害を受けた結果、近年の橋梁にはゴム支承が多く採用されている。ゴム支承としては、ゴムと補強鋼板が交互に積層された積層ゴム支承で、高減衰性ゴムを用いた積層ゴム系の免震支承や鉛プラグ入り積層ゴム支承を用いて建築物や橋梁等の構造物の長周期化と高減衰化により地震力の低減と耐震性の向上を図る免震構造が一般的に採用されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−38418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高減衰性ゴムを用いた積層ゴム系の免震支承や鉛プラグ入り積層ゴム支承は、一般に割高であることから、免震支承としての適用が限定的であった。また、高減衰性ゴムを用いた積層ゴム支承や鉛プラグ入り積層ゴム支承は、圧縮方向に高い荷重性能を有しながら水平方向の変位に対してゴムの弾性変形で抵抗し、上部構造の慣性力を低減するものである。一般的にこのような支承装置においては、免震性能を向上するために積層ゴム支承の厚さを大きくしなければならい。その結果、支承装置の高さが高くなり、支承装置の小型化、コンパクト化が困難であるという問題を有するものであった。
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであって、構造物支承装置の薄型化、コンパクト化および低コスト化を達成し、地震時の上部構造の大きな慣性力に対してゴムの引張力により延伸性に注目して地震のエネルギーを減衰化することが可能な引張型免震支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の引張型免震支承装置は、前記課題を解決するために、建築物や橋梁等の土木構造物の上部構造と下部構造間に配置される構造物用支承装置において、上部構造又は下部構造の一方に配置される第1部材と、他方に配置される第2部材と、前記第2部材と前記第1部材との間に水平方向に放射状に張設される複数の復元性を有する弾性材と、を備え、構造物に付加される全水平方向の水平変位に対して前記弾性材に付加される引張力によりエネルギーを吸収することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の引張型免震支承装置は、前記弾性材を引張ゴムとすることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の引張型免震支承装置は、前記弾性材をコイルスプリングとすることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の引張型免震支承装置は、第1部材に凹部を形成し、凹部の内径より外径が小さい第2部材の一部を前記凹部内に位置させ、第1部材の凹部の内壁と前記第2部材の一部外周との間に複数の復元性を有する弾性材を水平方向に放射状に張設することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の構造物用支承装置は、前記第1部材の凹部の底面と前記第2部材の一部の上面との間に摩擦材を配置することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の構造物用支承装置は、前記第2部材が配置された構造部側に嵌合凹部を形成した鋼板を固定し、前記嵌合凹部内にその側面部が膨張可能なスペースを有し上下面が水平面なゴム層を配置し、前記嵌合凹部に前記第2部材の一部を前記ゴム層と接触するように嵌合し、前記鋼板又は前記第2部材の前記ゴム層と接する少なくとも一方の面に前記ゴム層の膨張を許容する貫通孔又は凹部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
建築物や橋梁等の土木構造物の上部構造と下部構造間に配置される構造物用支承装置において、上部構造又は下部構造の一方に配置される第1部材と、他方に配置される第2部材と、前記第2部材と前記第1部材との間に水平方向に放射状に張設される複数の復元性を有する弾性材と、を備え、構造物に付加される全水平方向の水平変位に対して前記弾性材に付加される引張力によりエネルギーを吸収することで、全水平方向の水平変位に対しても対応する弾性材に引張力が付加されるので、全水平方向の水平変位に対してのエネルギー吸収が可能となる。また、弾性材には上部荷重が付加されることが無く、水平方向の変位に対してのみ引張力が作用するので、水平方向の変位のエネルギーを効率良く吸収し免震効果を向上することが可能となる。
弾性材を引張ゴムとすることで、容易に入手可能な材料であり、取付作業を容易にすることが可能となる。
弾性材をコイルスプリングとすることで、容易に入手可能な材料であり、取付作業を容易にすることが可能となる。
第1部材に凹部を形成し、前記凹部の内径より外径が小さい第2部材の一部を前記凹部内に位置させ、前記第1部材の凹部の内壁と前記第2部材の一部外周との間に複数の復元性を有する弾性材を水平方向に放射状に張設することで、複数の弾性材が第1部材の凹部内に配置されるので高さを低く抑えることが可能となり、免震支承装置の小型化に貢献することが可能となる。
第1部材の凹部の底面と第2部材の一部の上面との間に摩擦材を配置することで、第1部材と第2部材の地震時の水平方向の変位に対する相対変位のエネルギーを摩擦力により減衰することが可能となる。
第2部材が配置された構造部側に嵌合凹部を形成した鋼板を固定し、前記嵌合凹部内にその側面部が膨張可能なスペースを有し上下面が水平面なゴム層を配置し、前記嵌合凹部に前記第2部材の一部を前記ゴム層と接触するように嵌合し、前記鋼板又は前記第2部材の前記ゴム層と接する少なくとも一方の面に前記ゴム層の膨張を許容する貫通孔又は凹部を形成することで、地震時の応力によりゴム層の側面部への膨出と、ゴム層の上下水平面のゴム膨張用凹部への膨出で大きな圧縮ひずみを得ることができ、その圧縮ひずみ分ゴム層で地震時の回転変位を吸収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の構造物用支承装置の実施形態を図により説明する。図1、図2は、本発明の構造物用支承装置を橋梁に用いた一実施形態を示す。
【0015】
構造物用支承装置1は、橋脚等の下部構造2と主桁等の上部構造3の間に設置される。下部構造2に下鋼板4が固定ボルト5により固定される。下鋼板4の中央部に嵌合凹部4aが形成される。嵌合凹部4aの底部にはゴム層6が配置される。ゴム層6の側面と嵌合凹部4aの内壁面との間にはゴム層6の側方への膨張を可能にするスペースを有する。
【0016】
ゴム層6が配置された嵌合凹部4aにその一部が嵌合される第2部材7は、大径部7aと大径部7aの中央から立設する小径部7bを備えている。大径部7aがゴム層6の配置された嵌合凹部7aに嵌合する。下鋼板4と第2部材7の大径部7aとの間に上楊力止め8が連結ボルト9で固定され、第2部材7の嵌合凹部7aから抜け落ちるのを防止する。
【0017】
ゴム層6と接する嵌合凹部4aの底面と大径部7aの下面の少なくとも1つにゴム層6の膨張を許容するゴム膨張用凹部4b、7c又は貫通穴(図示せず)を形成する。ゴム膨張用凹部4b、7cの機能については後述する。
【0018】
ソールプレート10が配置され主桁等の上部構造3に、第1部材11がセットボルト12により固定される。第1部材11の下面に凹部11aが形成される。第1部材の凹部11aの内径は第2部材7の小径部7bの外径より大きく、凹部11a内に小径部7bが位置する。小径部7bの上面には、表面を租面とした摩擦材14が固定され、第2部材7の摩擦材14が設置された上面と第1部材の凹部11aの底面とが接して摩擦減衰性の高い滑り面を構成する。摩擦材14を凹部11aの底面に配置しても良く、小径部7bの上面、凹部11aの底面を直接租面加工して摩擦力を高めても良い。
【0019】
第2部材7の小径部7bと第1部材11の凹部11aの内壁との間に、復元性を有する弾性材として複数の引張ゴム材13が水平方向に放射状に一定の張力を付されて張設される。この実施形態では、引張ゴム材13を所定厚みと所定幅を有するベルト状とし、ベルト状の引張ゴム材13の厚み方向が上面となる縦型に放射状に張設する。
【0020】
ベルト状の引張ゴム材13を第2部材7の小径部7bと第1部材11の凹部11aの内壁との間に一定張力を付して張設するための手段を説明する。引張ゴム材13は中央部13aから放射状部13cを複数一体に形成し、引張ゴム材13の中央部13aに第2部材7の小径部7bを挿入する中央貫通穴13bを形成する。引張ゴム材13の中央貫通穴13bに第2部材7の小径部7bを挿入して引張ゴム材13の中央部13aを第2部材7に固定する。第1部材11には、引張ゴム材13の放射状部13cを挿通するスリット(図示せず)と固定フランジ11bが形成される。引張ゴム材13の放射状部13cをスリットに挿通し、引張ゴム材13に一定張力を付与し、固定フランジ11bに押さえ板11dと固定ピン11cを介して引張ゴム材13の放射状部13cの端部を圧着固定する。引張ゴム材13を第1部材11の凹部11a内に位置するように配置する。
【0021】
図1、図2に示される実施形態では、引張ゴム材13の放射状部13cは4本であるが、引張ゴム材13の放射状部13cをより多く等間隔で張設しても良い。また、引張ゴム材13の第2部材7の小径部7bと第1部材11の凹部11aの内壁との間の固定手段としては、図1、図2に示される実施形態に限定されるものでは無く、例えば接着剤、熔着等の他の固定手段を用いても良い。
【0022】
このように構成された構造物用支承装置1の作用について説明する。地震時の水平全方向からの大きな変位に対して、第1部材11の凹部11aの底面と摩擦材14が設置され第2部材7の小径部7bとの摩擦力が大きい滑り面で水平方向に変位し、摩擦力により水平変位によるエネルギーを吸収する。第1部材11と第2部材7との間は、水平方向に放射状に延びる複数の引張ゴム材13が張設されており、第1部材11と第2部材7の水平方向の相対変位により、縦型に放射状に張設された複数の引張ゴム材13の放射状部13cの内の水平方向の変位に対応する引張ゴム材13に引張力が付加され伸張する。引張ゴム材13への引張力の付加による抵抗力で水平方向の変位のエネルギーが吸収される。全水平方向の水平変位に対しても対応する放射状部13cに引張力が付加されるので、全水平方向の水平変位に対してのエネルギー吸収が可能となる。引張ゴム材13には上部荷重が付加されることが無く、水平方向の変位に対してのみ引張力が作用するので、水平方向の変位のエネルギーを効率良く吸収し免震効果を向上することが可能となる。また、引張ゴム材13が第1部材11の凹部11aの内に位置するように縦型に配置されるので、緩む方向の引張ゴム材13の横方向の撓みを第1部材11の凹部11a内で許容することが可能となる。
【0023】
第1部材11と第2部材7との間に張設される放射状に延びる縦型の複数の引張ゴム材13は、第1部材11の凹部11a内に配置されるので高さを低く抑えることが可能となり、免震支承装置の小型化に貢献することが可能となる。
【0024】
また、ゴム層6と接する嵌合凹部4aの底面と大径部7aの下面の少なくとも1つにゴム層6の膨張を許容するゴム膨張用凹部4b、7c又は貫通穴(図示せず)を形成することで、地震時の応力によりゴム層6の側面部への膨出と、ゴム層6の上下水平面の少なくとも何れかが、ゴム膨張用凹部4b、7cに弾性変形して膨出することで、大きな圧縮ひずみを得ることができ、その圧縮ひずみ分ゴム層6で地震時の回転変位を吸収することが可能となる。この結果、ゴム層6の厚みを薄くすることが可能になり、さらにゴム層6が下鋼板4の嵌合凹部4aに配置されるため、支承装置の薄型化及び小型化に貢献することが可能になる。
【0025】
図3、図4は、本発明の構造物用支承装置を橋梁に用いた他の実施形態を示す。
【0026】
構造物用支承装置1は、橋脚等の下部構造2と主桁等の上部構造3の間に設置される。下部構造2に下鋼板4が固定ボルト5により固定される。下鋼板4の中央部に嵌合凹部4aが形成される。嵌合凹部4aの底部にはゴム層6が配置される。ゴム層6の側面と嵌合凹部4aの内壁面との間にはゴム層6の側方への膨張を可能にするスペースを有する。
【0027】
ゴム層6が配置された嵌合凹部4aにその一部が嵌合される第2部材7は、大径部7aと大径部7aの中央から立設する小径部7bを備えている。大径部7aがゴム層6の配置された嵌合凹部7aに嵌合する。下鋼板4と第2部材7の大径部7aとの間に上楊力止め8が連結ボルト9で固定され、第2部材7の嵌合凹部7aから抜け落ちるのを防止する。
【0028】
ゴム層6と接する嵌合凹部4aの底面と大径部7aの下面の少なくとも1つにゴム層6の膨張を許容するゴム膨張用凹部4b、7c又は貫通穴(図示せず)を形成する。
【0029】
ソールプレート10が配置され主桁等の上部構造3に、第1部材11がセットボルト12により固定される。第1部材11の下面に凹部11aが形成される。第1部材の凹部11aの内径は第2部材7の小径部7bの外径より大きく、凹部11a内に小径部7bが位置する。小径部7bの上面には、表面を租面とした摩擦材14が固定され、第2部材7の摩擦材14が設置された上面と第1部材の凹部11aの底面とが接して摩擦力によりエネルギ吸収性の高い滑り面を構成する。摩擦材14を凹部11aの底面に配置しても良く、小径部7bの上面、凹部11aの底面を直接租面加工して摩擦力を高めても良い。
【0030】
第2部材7の小径部7bと第1部材11の凹部11aの内壁との間に復元性を有する弾性材として複数の引張ゴム材13が水平方向に放射状に一定の張力を付されて張設される。この実施形態では、引張ゴム材13を所定厚みと所定幅を有するベルト状とし、ベルト状の引張ゴム材13の幅方向が上面となる横型に放射状に張設する。
【0031】
ベルト状の引張ゴム材13を第2部材7の小径部7bと第1部材11の凹部11aの内壁との間に一定張力を付して張設するための手段を説明する。引張ゴム材13は中央部13aから放射状部13cを複数一体に形成し、引張ゴム材13の中央部13aに第2部材7の小径部7bを挿入する中央貫通穴13bを形成する。引張ゴム材13の中央貫通穴13bに第2部材7の小径部7bを挿入して引張ゴム材13の中央部13aを第2部材7に固定する。第1部材11には、引張ゴム材13の放射状部13cを挿通する横方向の貫通穴(図示せず)と固定フランジ11bが形成される。引張ゴム材13の放射状部13cを横方向の貫通穴に挿通し、引張ゴム材13に一定張力を付与し、固定フランジ11bに押さえ板11dと固定ピン11cを介して引張ゴム材13の放射状部13cの端部を圧着固定する。横型のベルト状の引張ゴム材13は、第1部材11の凹部11aとの間に前記ベルト状の引張ゴム材13の撓みを許容する上下のスペースを確保して配置する
【0032】
図3、図4に示される実施形態では、引張ゴム材13の放射状部13cは4本であるが、引張ゴム材13の放射状部13cをより多く等間隔で張設しても良い。また、引張ゴム材13の第2部材7の小径部7bと第1部材11の凹部11aの内壁との間の固定手段としては、図3、図4に示される実施形態に限定されるものでは無く、例えば接着剤、熔着等の他の固定手段を用いても良い。
【0033】
このように構成された構造物用支承装置1の作用について説明する。地震時の水平全方向からの大きな変位に対して、第1部材11の凹部11aの底面と摩擦材14が設置され第2部材7の小径部7bとの摩擦力の大きい滑り面で水平方向に変位し、摩擦力によりエネルギーを吸収する。第1部材11と第2部材7との間は、水平方向に放射状に延びる複数の引張ゴム材13が張設されており、第1部材11と第2部材7の水平方向の相対変位により、縦型に放射状に張設された複数の引張ゴム材13の放射状部13cの内の水平方向の変位に対応する引張ゴム材13に引張力が付加され伸張する。引張ゴム材13への引張力の付加による抵抗力で水平方向の変位のエネルギーが吸収される。全水平方向の水平変位に対しても対応する放射状部13cに引張力が付加されるので、全水平方向の水平変位に対してのエネルギー吸収が可能となる。引張ゴム材13には上部荷重が付加されることが無く、水平方向の変位に対してのみ引張力が作用するので、水平方向の変位のエネルギーを効率良く吸収し免震効果を向上することが可能となる。また、横型のベルト状の引張ゴム材13が、第1部材11の凹部11aとの間に前記ベルト状の引張ゴム材13の撓みを許容する上下のスペースを確保して配置されるので、引張ゴム材13が撓んで他の物体に接触するのを防止することが可能となる。
【0034】
第1部材11と第2部材7との間に張設される放射状に延びる横型の複数の引張ゴム材13は、第1部材11の凹部11a内に配置されるので高さをより低く抑えることが可能となり、免震支承装置の小型化に貢献することが可能となる。
【0035】
また、ゴム層6と接する嵌合凹部4aの底面と大径部7aの下面の少なくとも1つにゴム層6の膨張を許容するゴム膨張用凹部4b、7c又は貫通穴(図示せず)を形成することで、地震時の応力によりゴム層6の側面部への膨出と、ゴム層6の上下水平面の少なくとも何れかが、ゴム膨張用凹部4b、7cに弾性変形して膨出することで、大きな圧縮ひずみを得ることができ、その圧縮ひずみ分ゴム層6で地震時の回転変位を吸収することが可能となる。この結果、ゴム層6の厚みを薄くすることが可能になり、さらにゴム層6が下鋼板4の嵌合凹部4aに配置されるため、支承装置の薄型化及び小型化に貢献することが可能になる。
【0036】
図5、図6は、本発明の構造物用支承装置を橋梁に用いた別の実施形態を示す。
【0037】
構造物用支承装置1は、橋脚等の下部構造2と主桁等の上部構造3の間に設置される。下部構造2に下鋼板4が固定ボルト5により固定される。下鋼板4の中央部に嵌合凹部4aが形成される。嵌合凹部4aの底部にはゴム層6が配置される。ゴム層6の側面と嵌合凹部4aの内壁面との間にはゴム層6の側方への膨張を可能にするスペースを有する。
【0038】
ゴム層6が配置された嵌合凹部4aにその一部が嵌合される第2部材7は、大径部7aと大径部7aの中央から立設する小径部7bを備えている。大径部7aがゴム層6の配置された嵌合凹部7aに嵌合する。下鋼板4と第2部材7の大径部7aとの間に上楊力止め8が連結ボルト9で固定され、第2部材7の嵌合凹部7aから抜け落ちるのを防止する。
【0039】
ゴム層6と接する嵌合凹部4aの底面と大径部7aの下面の少なくとも1つにゴム層6の膨張を許容するゴム膨張用凹部4b、7c又は貫通穴(図示せず)を形成する。
【0040】
ソールプレート10が配置され主桁等の上部構造3に、第1部材11がセットボルト12により固定される。第1部材11の下面に凹部11aが形成される。第1部材の凹部11aの内径は第2部材7の小径部7bの外径より大きく、凹部11a内に小径部7bが位置する。小径部7bの上面には、表面を租面とした摩擦材14が固定され、第2部材7の摩擦材14が設置された上面と第1部材の凹部11aの底面とが接して摩擦力によりエネルギ吸収性の高い滑り面を構成する。摩擦材14を凹部11aの底面に配置しても良く、小径部7bの上面、凹部11aの底面を直接租面加工して摩擦力を高めても良い。
【0041】
第2部材7の小径部7bと第1部材11の凹部11aの内壁との間に復元性を有する弾性材として複数のコイルスプリング15が水平方向に放射状に一定の張力を付されて張設される。
【0042】
図5、図6に示される実施形態では、コイルスプリング15は4本であるが、コイルスプリング15をより多く等間隔で張設しても良い。
【0043】
このように構成された構造物用支承装置1の作用について説明する。地震時の水平全方向からの大きな変位に対して、第1部材11の凹部11aの底面と摩擦材14が設置され第2部材7の小径部7bとの摩擦力の大きい滑り面で水平方向に変位し、摩擦力によりエネルギーを吸収する。第1部材11と第2部材7との間は、水平方向に放射状に延びる複数のコイルスプリング15が張設されており、第1部材11と第2部材7の水平方向の相対変位により、複数のコイルスプリング15の内の水平方向の変位に対応するコイルスプリング15に引張力が付加され伸張する。コイルスプリング15への引張力の付加による抵抗力で水平方向の変位のエネルギーが吸収される。全水平方向の水平変位に対しても対応するコイルスプリング15に引張力が付加されるので、全水平方向の水平変位に対してのエネルギー吸収が可能となる。コイルスプリング15には上部荷重が付加されることが無く、水平方向の変位に対してのみ引張力が作用するので、水平方向の変位のエネルギーを効率良く吸収し免震効果を向上することが可能となる。
【0044】
第1部材11と第2部材7との間に張設される放射状に延びるコイルスプリング15は、第1部材11の凹部11a内に配置されるので高さをより低く抑えることが可能となり、免震支承装置の小型化に貢献することが可能となる。
【0045】
また、ゴム層6と接する嵌合凹部4aの底面と大径部7aの下面の少なくとも1つにゴム層6の膨張を許容するゴム膨張用凹部4b、7c又は貫通穴(図示せず)を形成することで、地震時の応力によりゴム層6の側面部への膨出と、ゴム層6の上下水平面の少なくとも何れかが、ゴム膨張用凹部4b、7cに弾性変形して膨出することで、大きな圧縮ひずみを得ることができ、その圧縮ひずみ分ゴム層6で地震時の回転変位を吸収することが可能となる。この結果、ゴム層6の厚みを薄くすることが可能になり、さらにゴム層6が下鋼板4の嵌合凹部4aに配置されるため、支承装置の薄型化及び小型化に貢献することが可能になる。
【0046】
以上のように、本発明の引張型免震支承装置1によれば、全水平方向の水平変位に対しても対応する復元性を有する弾性材に引張力が付加されるので、全水平方向の水平変位に対してのエネルギー吸収が可能となる。また、第1部材と第2部材間の摩擦力が大きい滑り面での相対変位により摩擦力によるエネルギー吸収を図ることが可能となる。また、復元性を有する弾性材には上部荷重が付加されることが無く、水平方向の変位に対してのみ引張力が作用するので、水平方向の変位のエネルギーを効率良く吸収し免震効果を向上することが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1:構造物用支承装置、2:下部構造、3:上部構造、4:下鋼板、4a:嵌合凹部、4b:ゴム膨張用凹部、5:固定ボルト、6:ゴム層、7:第2部材、7a:大径部、7b:小径部、7c:ゴム膨張用凹部、8:上楊力止め、9:連結ボルト、10:ソールプレート、11:第1部材、11a:凹部、11b:固定フランジ、11c:固定ピン、11d:押さえ板、12:セットボルト、13:引張ゴム材、13a:中央部、13b:中央貫通穴、13c:放射状部、14:摩擦材、15:コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物や橋梁等の土木構造物の上部構造と下部構造間に配置される引張型免震支承装置において、
上部構造又は下部構造の一方に配置される第1部材と、
他方に配置される第2部材と、
前記第2部材と前記第1部材との間に水平方向に放射状に張設される複数の復元性を有する弾性材と、
を備え、
構造物に付加される全水平方向の水平変位に対して前記弾性材に付加される引張力によりエネルギーを吸収することを特徴とする引張型免震支承装置。
【請求項2】
前記弾性材を引張ゴムとすることを特徴とする請求項1に記載の引張型免震支承装置。
【請求項3】
前記弾性材をコイルスプリングとすることを特徴とする請求項1に記載の引張型免震支承装置。
【請求項4】
前記第1部材に凹部を形成し、前記凹部の内径より外径が小さい前記第2部材の一部を前記凹部内に位置させ、前記第1部材の凹部の内壁と前記第2部材の一部外周との間に複数の復元性を有する弾性材を水平方向に放射状に張設することを特徴とする請求項1に記載の引張型免震支承装置。
【請求項5】
前記第1部材の凹部の底面と前記第2部材の一部の上面との間に摩擦材を配置することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の引張型免震支承装置。
【請求項6】
前記第2部材が配置された構造部側に嵌合凹部を形成した鋼板を固定し、前記嵌合凹部内にその側面部が膨張可能なスペースを有し上下面が水平面なゴム層を配置し、前記嵌合凹部に前記第2部材の一部を前記ゴム層と接触するように嵌合し、前記鋼板又は前記第2部材の前記ゴム層と接する少なくとも一方の面に前記ゴム層の膨張を許容する貫通孔又は凹部を形成することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の引張型免震支承装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2192(P2013−2192A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135934(P2011−135934)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(391051256)株式会社美和テック (29)
【Fターム(参考)】