説明

弱酸性下の消臭組成物

【課題】食品に対して安心して使用できる安全性の高い天然植物抽出物を有効成分として含有する消臭組成物であって、弱酸性条件下においても高い消臭効果を有する消臭組成物及び飲食品を提供する。
【解決手段】バラ科キイチゴ属(Rubus)植物、ラッカーゼおよび酸を含有することを特徴とする消臭組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弱酸性条件下でラッカーゼとバラ科キイチゴ属(Rubus)植物抽出物とを含有することを特徴とする消臭組成物及びそれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、悪臭の消臭および脱臭方法として、芳香性物質によるマスキングや、酸化剤、中和剤、固定剤等による化学的消臭、あるいは活性炭等による吸着により悪臭を除去する方法が用いられてきたが、これらの方法はいずれも使用目的により著しい制約を受ける場合が多い。特に食品分野においては、これまでにサイクロデキストリン、クロロフィル類および幾つかの植物抽出物を有効成分とする消臭剤について特許化がなされているが、それぞれの特有の色や臭い、苦味、渋味等の面で、食品等に添加した場合、添加対象物の風味や使用感に対する影響が大きすぎ、また、その効果についても十分であるとはいえないという問題点があった。かかる問題点を解決した消臭効果の優れた消臭剤として副作用がなく安全性が高く古来より利用されている生薬及びハーブ等の天然物抽出物が注目され、それらの中から強力な消臭効果を示すバラ科キイチゴ属植物抽出物が見出されその適用が開発されている。
【0003】
バラ科キイチゴ属植物は、チオール化合物であるメチルメルカプタン及び窒素化合物であるトリメチルアミン、さらにモノスルフィド化合物であるアリルメチルモノスルフィドに対して強力な消臭効果を示すことが知られており、また、同属植物である甜茶を有効成分とする消臭用組成物も消臭素材として知られている。バラ科キイチゴ属植物抽出物は、高い消臭効果を示し、かつその安全性の観点からも菓子類などを含むさまざまな飲食品に適用されている。
しかしながら、弱酸性条件下では、バラ科キイチゴ属植物抽出物の消臭効果が著しく低下してしまうという欠点を有していた。弱酸性条件下での飲食品中のバラ科キイチゴ属植物抽出物の消臭効果を高めるためには、バラ科キイチゴ属植物抽出物を通常の適用量よりもはるかに多く使用することが必要となり、その結果消臭組成物が高価なものとなり、実用的な使用の観点からは望ましくない。
そこで、本発明者らが鋭意研究した結果、弱酸性条件下(pH4.0〜7.0)で酵素であるラッカーゼとバラ科キイチゴ層植物抽出物(甜茶、ブラックベリー、ラズベリー)の併用により消臭活性が顕著に向上することを見出した。
【0004】
従来から、植物抽出物と酵素との併用による消臭効果に関する研究が多数なされている。
例えば、植物抽出物とポリフェノールオキシダーゼの併用による消臭効果に関する論文として非特許文献1乃至4がある。非特許文献1、2、3、4は野菜、果物、キノコと酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の併用による消臭効果および消臭メカニズムについて開示している。しかしながらいずれの論文もバラ科キイチゴ属植物抽出物とラッカーゼの併用による消臭効果は記載されていない。
【非特許文献1】Food Science and Technology Research, 5(2), 176−180, 1999
【非特許文献2】日本食生活学会誌、10(3)、15−19、1999
【非特許文献3】高砂香料時報 No.133、p6−14(1999.12.05)
【非特許文献4】Biosci. Biotech. Biochem., 61(12), 2080-2084, 1997
【0005】
さらに植物抽出物とポリフェノールオキシダーゼの併用による消臭効果に関する論文として、上記非特許文献1乃至4のほかに非特許文献5がある。非特許文献5は、ローズマリー抽出物とラッカーゼの併用による消臭効果向上に関する論文で、上記組み合わせはpH4.5〜6.0の範囲で消臭力が増強したと記載されている。しかしながら、バラ科キイチゴ属植物抽出物とラッカーゼの組み合わせによる消臭効果は記載されていない。
【非特許文献5】歯科審美 Vol.17, No.1, p90−94(2004.09)
【0006】
キノコ抽出物、苦丁茶とポリフェノールオキシダーゼの併用による消臭効果に関する文献として非特許文献6及び7がある。非特許文献6は、ポリフェノールを含有するキノコ抽出物のメチルメルカプタン捕捉能に関する論文であり、非特許文献7は、苦丁茶抽出物、緑茶抽出物、紅茶抽出物、ウーロン茶抽出物と果物由来のポリフェノールオキシダーゼの併用による消臭効果に関する論文である。しかしながらいずれの文献もバラ科キイチゴ属植物抽出物とラッカーゼの組み合わせによる消臭効果は記載していない。
【非特許文献6】J. Agric. Food Chem. 2001, 49(11), 5509-5514
【非特許文献7】J. Agric. Food Chem. 2004, 52(17), 5513-5518
【0007】
バラ科キイチゴ属植物の消臭効果に関する文献として、特許文献1、2および3がある。特許文献1および2は、バラ科キイチゴ属植物である甜茶、ラズベリー、ブラックベリー抽出物のトリメチルアミン、メチルメルカプタン及びアリルメチルモノスルフィドに対する消臭について開示し、特許文献3は、甜茶抽出物のメチルメルカプタン、トリメチルアミンに対する消臭剤について開示している。しかしながらいずれの特許も弱酸性条件下でバラ科キイチゴ属植物抽出物がラッカーゼとの組み合わせにより消臭効果が顕著に向上することは記載していない。
【特許文献1】特公平05−36061号公報
【特許文献2】特開2003−335647号公報
【特許文献3】特許3633634号
【0008】
ポリフェノールオキシダーゼまたはラッカーゼなどの酵素の消臭効果に関連する文献として特許文献4乃至9がある。特許文献4は、可溶性リグニンとポリフェノールオキシダーゼの併用による消臭剤組成物について開示し、特許文献5はフェノール性化合物とポリフェノールオキシダーゼの併用による消臭剤組成物について開示し、特許文献6および7は、茶、ローズマリー、ヒマワリ種子、生コーヒー豆等の各抽出物とポリフェノールオキシダーゼの併用による消臭剤組成物について開示し、特許文献8は、フェノール性化合物の配糖体とラッカーゼの併用による消臭用組成物について開示し、特許文献9は、酸化還元酵素活性を有する植物破砕液から得られるパルプを含有することを特徴とする消臭効果を有する飲食品について開示している。しかしながらいずれの文献も弱酸性条件下でバラ科キイチゴ属植物抽出物がラッカーゼとの組み合わせにより消臭効果が顕著に向上することは記載していない。
【特許文献4】特開2004−148046号公報
【特許文献5】特開平09−038183号公報(特許第3562668号)
【特許文献6】特開2003−175095号公報(特許第3766375号)
【特許文献7】特開平10−212221号公報(特許第3625976号)
【特許文献8】特開2001−095910号公報(特許第3741914号)
【特許文献9】特開2003−009784号公報
【0009】
ラッカーゼをガム、キャンディ、タブレット、またはグミなどの種々の菓子類に適用させた文献として、特許文献10がある。特許文献10は、ラッカーゼを封入したカプセルとローズマリー抽出物を含有することを特徴とするチューインガムについて開示している。しかしながら弱酸性条件下でバラ科キイチゴ属植物抽出物がラッカーゼとの組み合わせにより消臭効果が顕著に向上することは記載されていない。
【特許文献10】特開2004−148046号公報
【0010】
以上のように、植物抽出物と酵素との併用による消臭効果の向上に関連する文献は存在しているが、バラ科キイチゴ属植物抽出物の消臭効果が酵素であるラッカーゼとの組み合わせにより弱酸性条件下でも顕著に向上することを開示も示唆もする文献は依然として存在していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、弱酸性条件下においてバラ科キイチゴ属植物抽出物の消臭活性が顕著に低下するという技術的課題を解消することを目的としている。さらに本発明は、酸味と消臭機能を併せ持つ飲食品を提供できる。また本発明は、消臭機能を持った弱酸性のオーラルケア製品、消臭機能を持った弱酸性のスキンケア製品、ヘアケア製品、消臭剤を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これまで酸を添加したフルーツガム、キャンディ及びタブレット(弱酸性条件下)では消臭素材(甜茶)の活性が著しく低下するため、弱酸性条件下で消臭効果が期待される素材を探索した結果、弱酸性条件下(pH4〜pH7)でラッカーゼとバラ科キイチゴ属植物抽出物(甜茶、ブラックベリー、ラズベリー)の併用により消臭活性が顕著に向上することを確認した。
本発明によれば、バラ科キイチゴ属(Rubus)植物とラッカーゼと酸とを含有する消臭組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、前記バラ科キイチゴ属植物が、甜茶、ブラックベリー、およびラズベリーの各抽出物からなる群から選択される1種または2種以上の抽出物であることを特徴とする上記に記載の消臭組成物が提供される。
また、本発明によれば、前記酸が、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、および酢酸からなる群から選択される上記に記載の消臭組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、前記消臭組成物摂取後の唾液中のpHが4.0以上7.0以下の範囲であることを特徴とする上記に記載の消臭組成物が提供される。
また、本発明によれば、上記に記載の消臭組成物からなるチューインガム、キャンディ、タブレット、またはグミが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明の消臭組成物は、バラ科キイチゴ属(Rubus)植物を主原料とする。
バラ科キイチゴ属(Rubus)植物としては、ラズベリー(Rubus idaeus)、ブラックベリー(Rubus fruticosus)、カジイチゴ(Rubus trifidus)、クロミキイチゴ(Rubus occidentalis)、甜茶(Rubus suavissimus)等が挙げられる。バラ科キイチゴ属(Rubus)植物は、果皮、葉、果肉、果実、材、樹皮、根、好ましくはその葉を乾燥させたものを使用する。本発明の有効成分である上記植物の抽出物を得る方法については特に限定しないが、上記植物を適当な粉砕手段で粉砕し、二段階抽出を含む溶媒抽出等の方法により抽出物を調製する。抽出溶媒としては、水及びメタノール、エタノール、n−プロパノール並びにn−ブタノール等の低級アルコール、エーテル、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶媒の1種または2種以上を混合して使用するが、好ましくは水または親水性の有機溶媒を使用する。さらに、本発明の抽出物は、人にまたは飲食品として用いられことが多いことを考慮すると、抽出溶媒としては安全性の面から水とエタノールとの組み合わせを用いるのが好ましい。
【0014】
抽出条件としては、高温、室温、低温のいずれかの温度で抽出することが可能であるが、50〜90℃で1〜5時間程度抽出するのが好ましい。得られた抽出物は、濾過し、抽出溶媒を留去した後、減圧下において濃縮または凍結乾燥してもよい。また、これらの抽出物を有機溶剤、カラムクロマトグラフィ等により分画精製したものも使用することができる。
【0015】
また、本発明の消臭組成物は、香り、呈味性に優れ、安全性が高いことから、例えば、含そう剤、練り歯磨き、消臭スプレー等の消臭組成物、或いはチューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット、スナック等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、パン、ホットケーキ、乳製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品類、カマボコ、チクワ等の魚肉製品、惣菜類、プリン、スープ並びにジャム等の飲食品に配合し、日常的に利用することが可能である。口中に入れる製品以外にも本発明の消臭組成物を石鹸、シャンプー、リンス、クリーム、化粧水、ペット消臭剤、室内消臭剤、室内洗浄フィルター、トイレ消臭剤等に配合すれば消臭活性に優れた酸性の製品を作ることが可能である。
その配合量としては、種々の製造条件によって変わり得るが、消臭組成物に対して、バラ科キイチゴ属植物を0.01重量%以上1.0重量%以下、好ましくは0.05重量%以上0.4重量%以下、ラッカーゼの添加量はラッカーゼ製剤の力価によって異なるが0.01重量%以上1.0重量%以下、好ましくは0.015重量%以上0.12重量%以下配合させることが好適である。
また、上記ラッカーゼの添加量を力価で示すと消臭組成物100gに対してラッカーゼ5.90×10U以上5.9×10U以下、好ましくは3.0×103U以上2.4×10U以下配合させることが好適である。
ここで、ラッカーゼの力価は、37℃において、該ラッカーゼが触媒する、クロロゲン酸の酸化縮合反応により生成される縮合物の420nmにおける吸光度を30秒間に0.001増加させる酵素活性を1U単位とする。1U単位は、酵素溶液(0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0))500μl中に、100μlの50mMクロロゲン酸溶液(0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0))を加えて、37℃で5分間反応を行った。その後 500μlの0.1N硫酸を加えて反応を停止し、420nmの吸光度を測定した。反応開始30秒後の420nmの吸光度を0.001増加させる酵素活性を1U単位と定義した。
【0016】
(実施例)
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、それらによって本発明の範囲を制限するものではない。
(実施例1)
試料の調整方法
【0017】
(実施例1−1)
ラッカーゼ製剤:
ラッカーゼ製剤として「ラッカーゼダイワY120」(商標名、大和化成株式会社製、力価5.9×10U/ g以上)をそのままの粉末状態またはリン酸緩衝溶液に溶解させて使用した。ラッカーゼダイワY120中の酵素量は30%であり、残りはデキストリンである。
【0018】
(実施例1−2)
使用植物:
本願の以下に示す実施例においては、バラ科キイチゴ属植物として甜茶(Rubus suavissimus)、ブラックベリー(Rubus fruticosus)、ラズベリー(Rubus idaeus)を使用し、対照植物として緑茶を使用した。
【0019】
(実施例1−3)
甜茶抽出物の調製法:
甜茶抽出物は、以下の方法により得られた二段階抽出品を使用した。
甜茶葉乾燥粉末30gに、前処理剤として100%エタノール300mlを加え、還流冷却器をつけて、60℃で1時間還流しながら抽出した。濾別により得られた抽出残渣に続けて水300mlを加え、還流冷却器をつけて、90℃で1時間還流しながら抽出した。得られた抽出液を濾別し、溶媒を除去した後、凍結乾燥することにより甜茶抽出物を6.4g(収率21%)得た。
【0020】
(実施例1−4)
ブラックベリー、ラズベリー、緑茶抽出物の調製法:
ブラックベリー葉乾燥粉末30gに、水300mlを加え、還流冷却器をつけて、90℃で1時間還流しながら抽出した。得られた抽出液を濾別し、溶媒を除去した後、凍結乾燥することによりブラックベリー抽出物を5.2g(収率17.3%)得た。
上記と同様な方法で、ラズベリー葉乾燥粉末30g、緑茶葉乾燥粉末30gをそれぞれ使用して、ラズベリー抽出物を5.2g(収率17.3%)、緑茶抽出物を9.8g(収率32.7%)得た。
【0021】
(実施例1−5)
甜茶抽出物、クエン酸、およびラッカーゼ含有タブレットの作製:
下記表1の処方例記載の原料を混合し、常法によりタブレットを得た。
【表1】

【0022】
(実施例1−6)
ブラックベリー抽出物、クエン酸、およびラッカーゼ含有タブレットの作製:
下記表2の処方例記載の原料を混合し、常法によりタブレットを得た。
【表2】

【0023】
(実施例1−7)
甜茶抽出物、クエン酸、およびラッカーゼ含有チューインガムの作製:
調製した甜茶抽出物、ラッカーゼ製剤、クエン酸を含む下記表3の処方例記載の原料を混合し、常法により、実施例チューインガムを得た。
さらに、ラッカーゼ製剤、クエン酸を含有させず調製した甜茶抽出物のみを消臭素材として含有させた対照例チューインガムを、常法により得た。
【表3】

【0024】
(実施例2)
消臭試験方法
(実施例2−1)
ラッカーゼによる酵素的消臭試験法:
バイアル瓶に、試料としてのバラ科キイチゴ属植物抽出物1〜2.5mgを精密に量り取り、リン酸緩衝溶液(pH4.0〜7.0)を1ml加えてよく溶解または分散させた後、ラッカーゼ溶液を100μl加え、さらに25ppmメチルメルカプタンナトリウム溶液を500μl加えて、テフロン(登録商標)コートされたゴム栓で封をし、37℃で5分間反応させた。反応後のバイアル中のヘッドスペースガス150μlをFPD検出器付きのガスクロマトグラフに注入し、得られたピーク高さからメチルメルカプタン量を算出した。
(消臭活性評価)
試料としてのバラ科キイチゴ属植物抽出物を添加した時のメチルメルカプタン量(M)と無添加時のメチルメルカプタン量(M)を求め、次式によりメチルメルカプタン消臭率を算出した。
メチルメルカプタン消臭率(%)=(M − M)/ M × 100
【0025】
(実施例2−2)
作製タブレットの消臭試験法1:
バイアル瓶に試料として作製タブレット2gを精密に量り取り、0.2Mリン酸緩衝溶液(pH7.5)を8ml加えてよく溶解させ試験液とした。試験液1mlに25ppmメチルメルカプタンナトリウム溶液を500μl加えて、テフロン(登録商標)コートされたゴム栓で封をし、37℃で5分間反応させた。反応後のバイアル中のヘッドスペースガス150μlをFPD検出器付きのガスクロマトグラフに注入し、得られたピーク高さからメチルメルカプタン量を算出した。
【0026】
(実施例2−3)
作製タブレットの消臭試験法2:
被験者は起床後から試験終了時まで、サンプル以外の飲食、歯間清掃、喫煙を禁止した。呼気の採取は9時から9時30分の間に開始した。被検者には口に呼気採取用のシリンジを加えた状態で30秒間安静に鼻呼吸を指示し、0.5mlの呼気を採取し、オーラルクロマ(ABIMEDICAL社製)にてVSC量(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルモノスルフィド)を分析した。起床時口臭測定後、水洗口(15ml、1分間)または作製タブレット(1粒)を摂取後再び呼気中のVSC量を計測した。その後30分毎に呼気を測定し、サンプル摂取から120分後まで呼気を採取し呼気中のVSC量を測定した。
【0027】
(実施例3)
官能評価法:
官能評価法は、試験10分前に5名の被験者の口臭を採取したあと、餃子6個を2分間で摂取し、作製した実施例及び対照例のチューインガム摂取(5分間咀嚼)、もしくはうがい(20mlの水で2回洗浄)を行ない、摂取直後の呼気を臭い袋にて採取し、口臭の程度を評価した。官能評価値は、下記表4に従い評価し、5名のパネラーの値を平均化し、数値化した。
【表4】

【0028】
(実施例4)
バラ科キイチゴ属植物抽出物と緑茶抽出物の消臭率:
弱酸性下におけるバラ科キイチゴ属植物抽出物と緑茶抽出物とのメチルメルカプタン消臭率の比較試験を、実施例2−1の試験法に従い実施した。なお、本実施例において、バラ科キイチゴ属植物抽出物はそれぞれ1mg、ラッカーゼ製剤量は1mg(59U)であり、37℃で5分間反応させた。
その結果、以下の表5から明らかなように、バラ科キイチゴ属植物はpH4〜7の範囲でラッカーゼ添加によるメチルメルカプタン消臭率の増加が認められた。さらに、バラ科キイチゴ属植物はpH4〜6の範囲でラッカーゼ添加により顕著なメチルメルカプタン消臭率の増加が認められた。また、バラ科キイチゴ属植物は対照例として用いた緑茶よりpH5−7の範囲で消臭活性により優れていることが確認された。
【表5】

【0029】
(実施例5)
メチルメルカプタン消臭率と酵素相対活性:
メチルメルカプタン消臭率と酵素の相対活性との関係を、実施例2−1の試験法に従い実施した。
なお、本実施例では、試験系に含まれる甜茶抽出物量は2.5mg、ラッカーゼ製剤量は1mg(59U)であり、37℃で5分間反応させた。
pH4、4.5、5、6、7において、ラッカーゼ添加した場合の消臭率と、ラッカーゼ無添加の場合の消臭率とをプロットし、さらに、pH3.5〜6までのラッカーゼ単独の酵素活性をプロットした。
その結果、図1に示すような結果が得られた。図1から明らかなように、pH4〜7までの弱酸性下では、ラッカーゼの添加によりメチルメルカプタン消臭率が顕著に増加することが判った。さらに、酵素活性の低いpH6.0においても顕著なメチルメルカプタン消臭率の増加が確認された。これは、メチルメルカプタン消臭に対し、甜茶抽出物とラッカーゼによる相乗効果があることを示している。
【0030】
(実施例6)
酵素濃度とメチルメルカプタン消臭率:
酵素濃度とメチルメルカプタン消臭率との関係を、実施例2−1の試験法に従い実施した。
なお、本実施例においては、試験系に含まれる甜茶抽出物量は1.0mg、ラッカーゼ製剤量は0mg(0U)〜3.0mg(177U)であり、37℃、pH4.5で5分間反応させた。
その結果、以下の表6から明らかなように、甜茶抽出物の添加量を1.0mgに固定した場合、ラッカーゼ製剤添加量の増加に伴いメチルメルカプタン消臭率の増加が認められた。特にラッカーゼ製剤添加量を0.1mgから1.0mgに徐々に増やすに従いメチルメルカプタン消臭率も増加していくことが認められた。しかしながら、ラッカーゼ製剤添加量を2.0mg以上に増やしてもメチルメルカプタン消臭率のさらなる顕著な増加は認められなかった。
【表6】

【0031】
(実施例7)
作製タブレットでの消臭効果試験I:
実施例1−5の試験法で調製したタブレットを用いて、実施例2−2の試験法に従ってメチルメルカプタン消臭率を評価した。
その結果、以下の表7から明らかなように、本試験において用いられるバラ科キイチゴ属抽出物(甜茶抽出物)の組成物中への配合量としては、0.01〜1.0重量%、好ましくは0.05〜0.4重量%が望ましいことが判った。バラ科キイチゴ属抽出物の組成物中への配合量が0.05重量%以下では十分な消臭効果が得られず、0.4重量%を超えて配合しても添加量の増加に見合った消臭効果の上昇が見られない。また、本試験において用いられるラッカーゼの組成物中への配合量としては、組成物の物性にもよるが、ラッカーゼの添加量は0.01〜1.0重量%、好ましくは0.015〜0.12重量%が望ましいことが判った。また、上記ラッカーゼの組成物への添加量を力価で示すと組成物100gに対してラッカーゼ5.9×10U以上5.9×10U以下、好ましくは3.0×10U以上2.4×10U以下が望ましいことが判った。
ラッカーゼの組成物中への配合量が0.003重量%(5.9×102U/組成物100g)以下では十分な消臭効果が得られず、0.12重量%(2.4×10U/組成物100g)を超えて配合しても添加量の増加に見合った消臭効果の上昇が見られない。
【表7】

【0032】
(実施例8)
作製タブレットでの消臭効果試験II:
実施例1−6の試験法で調製したタブレットを用いて、実施例2−3の試験法に従い口臭抑制効果を評価した。
実施例タブレットおよび水洗口摂取後90分の間、30分毎に呼気中の総VSC量の相対量(%)をそれぞれプロットした。
その結果、図2に示すような結果が得られた。図2において、実施例タブレット摂取後に採取した唾液のpHは5.2であった。さらに呼気中の総VSC量の相対量は、試験開始時の呼気中の総VSC量(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルモノスルフィド)を100%とした時の相対量を示す。図2から明らかなように、実施例タブレットは90分後まで口臭を顕著に抑制するが、水洗口では90分後には試験開始時の口臭に戻ることを確認した。
【0033】
(実施例9)
作製チューインガムのニンニク臭抑制効果(ヒト試験):
実施例1−7の試験法で調製したチューインガムを用いて、実施例3の試験法に従って官能評価法を実施した。
その結果、以下の表8から明らかなように、実施例チューインガムはガム摂取後も最も強くニンニク臭を抑えることが確認された。なお、実施例チューインガム摂取後の唾液pHは約6.0であった。
【表8】

【0034】
(実施例10)
実施例1−3および1−4で示した方法により調製した抽出物を用いて、以下の処方により、キャンディ、グミゼリー、トローチを製造した。
【0035】
(実施例10−1)
キャンディの処方
砂糖 50.0重量%
水あめ 34.0
クエン酸 2.0
ラズベリー抽出物 0.2
ラッカーゼ製剤 0.1
(5.9×10U/g)
香料 0.2
水 残
100.0
【0036】
(実施例10−2)
グミゼリーの処方
ゼラチン 60.0重量%
水あめ 21.0
砂糖 8.5
植物油脂 4.5
マンニトール 3.0
リンゴ酸 2.0
甜茶抽出物 0.2
ラッカーゼ製剤 0.2
(5.9×104U/g)
香料 0.6
100.0
【0037】
(実施例10−3)
トローチの処方
ブドウ糖 72.3重量%
乳糖 15.0
アラビアガム 6.0
香料 1.0
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7
ブラックベリー抽出物 2.0
ラッカーゼ製剤 1.0
(5.9×104U/g)
乳酸 2.0
100.0
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、酸を添加したチューインガム、キャンディ、タブレット、グミゼリー等の種々の菓子を含む飲食品に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】メチルメルカプタン消臭率と酵素相対活性の関係を示す。
【図2】実施例タブレットの消臭効果試験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラ科キイチゴ属植物とラッカーゼと酸とを含有する消臭組成物。
【請求項2】
前記バラ科キイチゴ属植物が、甜茶、ブラックベリー、およびラズベリーの各抽出物からなる群から選択される1種または2種以上の抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の消臭組成物。
【請求項3】
前記酸が、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、および酢酸からなる群から選択される請求項1または2に記載の消臭組成物。
【請求項4】
前記消臭組成物摂取後の唾液中のpHが4.0以上7.0以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の消臭組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の消臭組成物からなるチューインガム、キャンディ、タブレット、またはグミゼリー。
【請求項6】
前記バラ科キイチゴ属植物の消臭組成物中の含有量が、0.01重量%以上1.0重量%以下であり、前記ラッカーゼの消臭組成物中の含有量が0.01重量%以上1.0重量%以下である請求項1乃至5に記載の消臭組成物。
【請求項7】
前記バラ科キイチゴ属植物の消臭組成物中の含有量が、0.01重量%以上1.0重量%以下であり、前記ラッカーゼの添加量が消臭組成物100gに対して5.9×10U以上5.9×10U以下の力価である請求項1乃至5記載の消臭組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−190990(P2009−190990A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31382(P2008−31382)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】