説明

張力制御システム、張力制御方法、及びコンピュータプログラム

【課題】 プロセスラインを通板中の金属ストリップに生じる急激な張力の変動を抑制し、当該金属ストリップに対して張力を安定して付与する。
【解決手段】 張力検出器121aにより測定された張力実績値Fmに基づき、急激な張力の変動(張力外乱)が発生したと判定した場合には、当該急激な張力の変動分に応じた駆動ロール114c、114dの回転速度の変動分を速度指令補正値ΔVr´として導出し、この速度指令補正値ΔVr´を加算した速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)を、張力検出器121aに対し下流側直近にある駆動ロール114c、114dを制御するモータ速度制御器125c、125dに出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張力制御システム、張力制御方法、及びコンピュータプログラムに関し、特に、プロセスラインに通板される金属ストリップに対し、ブライドルロールを用いて付与される張力を制御するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属ストリップに、洗浄・加熱・冷却・めっき等の処理を連続的に施すプロセスラインでは、プロセスライン内で金属ストリップを安定して通板させるために、ブライドルロールやピンチロール等の複数の駆動ロールを直列に配置し、これらのロールを介して通板中の金属ストリップに対して所定の張力を付与している。
従来は、通板中の金属ストリップに対して張力を安定して付与するために、次のようなフィードバック制御を行うようにしている。まず、相互に隣接する2つのブライドルロールの間に設けられた張力検出器で金属ストリップに付与されている張力を検出する。次に、この張力が目標値に一致するような速度指令を、前記2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールの回転速度(回転数)を制御する速度制御器に与えて、当該上流側のブライドルロールの回転速度を変更する(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−247717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したプロセスラインでは、金属ストリップに対して付与している張力が外乱によって変動し、通板中の金属ストリップが上下に振動する現象(所謂バタつき)が生じることがある。
このような外乱の要因として、例えば、プロセスラインの上流側に配置されている洗浄装置が挙げられる。この洗浄装置では、金属ストリップの表面を洗浄するために、洗浄液をノズルにより金属ストリップに連続的に噴射しながら、ブラシロールによって金属ストリップの通板方向と反対向きになるように回転させる。その後、金属ストリップの表面に付着した洗浄液を後工程に持ち出さないようにするために、水切り用ロール(リンガーロール)を、洗浄液が付着した金属ストリップの表側と裏側とに押し当てる。これにより、金属ストリップの表面に付着した洗浄液が取り除かれる。
【0005】
ところで、金属ストリップは、相前後する金属板が溶接によって長手方向に繋げられているので、この溶接された部分にブラシロールを押し当てると金属ストリップが破断する虞がある。このため、当該溶接の部分では、ブラシロールによる金属ストリップへの圧下を開放するようにしている。このように、ブラシロールが圧下している状態から開放されると、金属ストリップにおける張力が急激に変動し、この急激な張力の変動が、プロセスラインの下流側に伝搬する。このような急激な張力の変動が、プロセスラインの下流側に伝搬すると、例えば、プロセスラインの下流側の工程である加熱炉において所望の焼鈍を行うことができず、製品の品質が低下してしまう虞や、金属ストリップの板破断が生じてしまう虞がある。
【0006】
しかしながら、前述した従来の技術では、フィードバック制御を行っているため、張力の変動に比べて、制御の応答時間が遅くなる。したがって、前述した従来の技術では、前述した洗浄装置のブラシロールの圧下と開放に起因する急激な張力の変動を十分に抑制することが困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、プロセスラインを通板中の金属ストリップに生じる急激な張力の変動を抑制し、当該金属ストリップに対して張力を安定して付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の張力制御システムは、プロセスラインを通板される金属ストリップに対し、相互に隣接する少なくとも3つのブライドルロールを用いて付与される張力を制御する張力制御システムであって、前記3つのブライドルロールのうちの相互に隣接する2つのブライドルロールの間のそれぞれで、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出する第1及び第2の張力検出手段と、前記第1の張力検出手段により検出された張力実績値と、予め設定された張力設定値との偏差である張力偏差に応じて、前記第1の張力検出手段により検出される張力実績値が前記張力設定値と等しくなるように、予め設定された通板速度基準値に対する速度変更値を導出する速度変更値導出手段と、前記通板速度基準値を前記速度変更値により変更した速度指令値を導出する速度指令値導出手段と、前記第2の張力検出手段により検出された張力実績値を時間微分した値である張力実績の時間微分値を導出する張力変動導出手段と、前記張力変動導出手段により導出された張力実績の時間微分値に応じて、前記速度指令値に対する補正値を導出する速度指令補正値導出手段と、前記速度指令値導出手段により導出された速度指令値を、前記速度指令補正値導出手段により導出された補正値を用いて補正する補正手段と、前記第1の張力検出手段を間に挟んで相互に隣接する2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールを駆動するモータの回転速度を、前記補正手段により補正された速度指令値に基づいて制御する速度制御手段と、を有し、前記速度指令補正値導出手段は、前記張力実績の時間微分値の符号が正である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を減少させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出し、前記張力実績の時間微分値の符号が負である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を増加させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とする。
【0009】
本発明の張力制御方法は、プロセスラインを通板される金属ストリップに対し、相互に隣接する少なくとも3つのブライドルロールを用いて付与される張力を制御する張力制御システムであって、前記3つのブライドルロールのうちの相互に隣接する2つのブライドルロールの間のそれぞれで、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出する第1及び第2の張力検出工程と、前記第1の張力検出工程により検出された張力実績値と、予め設定された張力設定値との偏差である張力偏差に応じて、前記第1の張力検出工程により検出される張力実績値が前記張力設定値と等しくなるように、予め設定された通板速度基準値に対する速度変更値を導出する速度変更値導出工程と、前記通板速度基準値を前記速度変更値により変更した速度指令値を導出する速度指令値導出工程と、前記第2の張力検出工程により検出された張力実績値を時間微分した値である張力実績の時間微分値を導出する張力変動導出工程と、前記張力変動導出工程により導出された張力実績の時間微分値に応じて、前記速度指令値に対する補正値を導出する速度指令補正値導出工程と、前記速度指令値導出工程により導出された速度指令値を、前記速度指令補正値導出工程により導出された補正値を用いて補正する補正工程と、前記第1の張力検出工程を間に挟んで相互に隣接する2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールを駆動するモータの回転速度を、前記補正工程により補正された速度指令値に基づいて制御する速度制御工程と、を有し、前記速度指令補正値導出工程は、前記張力実績の時間微分値の符号が正である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を減少させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出し、前記張力実績の時間微分値の符号が負である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を増加させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とする。
【0010】
本発明のコンピュータプログラムは、プロセスラインを通板される金属ストリップに対し、相互に隣接する少なくとも3つのブライドルロールを用いて付与される張力を、当該3つのブライドルロールのうちの相互に隣接する2つのブライドルロールの間にそれぞれ配置された第1及び第2の張力検出手段により検出された張力実績値を用いて制御することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記第1の張力検出手段により検出された張力実績値と、予め設定された張力設定値との偏差である張力偏差に応じて、前記第1の張力検出手段により検出される張力実績値が前記張力設定値と等しくなるように、予め設定された通板速度基準値に対する速度変更値を導出する速度変更値導出工程と、前記通板速度基準値を前記速度変更値により変更した速度指令値を導出する速度指令値導出工程と、前記第2の張力検出手段により検出された張力実績値を時間微分した値である張力実績の時間微分値を導出する張力変動導出工程と、前記張力変動導出工程により導出された張力実績の時間微分値に応じて、前記速度指令値に対する補正値を導出する速度指令補正値導出工程と、前記速度指令値導出工程により導出された速度指令値を、前記速度指令補正値導出工程により導出された補正値を用いて補正する補正工程と、前記補正工程により補正された速度指令値を、前記第1の張力検出手段を間に挟んで相互に隣接する2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールを駆動するモータの回転速度を制御する速度制御手段に出力するための処理を行う出力工程と、をコンピュータに実行させ、前記速度指令補正値導出工程は、前記張力実績の時間微分値の符号が正である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を減少させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出し、前記張力実績の時間微分値の符号が負である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を増加させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1の張力検出手段により検出された張力実績値と、予め設定された張力設定値との偏差である張力偏差に応じて、第1の張力検出手段で検出される張力実績値が前記張力設定値と等しくなるように、予め設定された通板速度基準値に対する速度変更値を導出し、通板速度基準値を、速度変更値を用いて変更した速度指令値を導出する。第2の張力検出手段により検出された張力実績値を時間微分した値である張力実績の時間微分値に応じて、前記速度指令値に対する補正値を導出する。そして、速度指令値を、補正値を用いて補正し、補正後の速度指令値に基づいて、第1の張力検出手段を間に挟んで相互に隣接する2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールを駆動するモータの回転速度を制御する。このとき、張力実績の時間微分値の符号が正である場合には、ブライドルロールの回転速度を減少させるように、速度指令値に対する補正値を導出し、張力実績の時間微分値の符号が負である場合には、ブライドルロールの回転速度を増加させるように、速度指令値に対する補正値を導出する。したがって、急激な張力の変動が外乱として生じた場合には、速度指令値に対する補正値を用いて速度指令値を補正しない場合よりも素早く、その変動を吸収するように、通板速度を調整することができる。よって、プロセスラインを通板中の金属ストリップに生じる急激な張力の変動を抑制し、当該金属ストリップに対して張力を安定して付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】プロセスラインを通板する鋼板の張力を制御する張力制御システムの構成の第1の例を示す図である。
【図2】張力変動補償器の機能的な構成の一例を示す図である。
【図3】張力実績の時間微分値の符号及び絶対値と、係数とを相互に関連付けて記憶しているテーブルの内容の一例を概念的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、張力変動補償器の動作の一例を説明するフローチャートである。
【図5】ブラシロールを開放する前後の付近における「張力実績値及びブライドルロールの回転速度」と「時間」との関係を示す図である。
【図6】プロセスラインを通板する鋼板の張力を制御する張力制御システムの構成の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態を説明する。
図1は、プロセスラインを通板する鋼板の張力を制御する張力制御システムの構成の一例を示す図である。
【0014】
<プロセスライン>
まず、図1を参照しながら、プロセスラインについて説明する。
プロセスラインは、洗浄装置111と、ブライドルロール112a〜112cと、ロール駆動モータ113a〜113fとを備えている。尚、図1では、プロセスラインに備わっている設備のうち、張力制御システムの動作を説明する上で必要な設備のみを示している。よって、プロセスラインには、この他にも、製品(中間製品を含む)を製造するのに必要な設備が備わっている。例えば、プロセスラインが、亜鉛メッキ鋼板を製造するプロセスラインであれば、加熱炉等が、プロセスラインに(ブライドルロール112cよりも下流側に)備わっている。
図1において、鋼板(金属ストリップ)Sは、図に向かって左から右の方向(鋼板Sに記している矢印の方向)に通板されるものとする。
【0015】
[洗浄装置111]
洗浄装置111は、鋼板Sを洗浄するものである。洗浄装置111は、例えば、洗浄液を噴射するノズルと、洗浄能力を確保するため、通板方向とは逆方向に回転しているブラシロールと、鋼板表面に付着した洗浄液を後工程に持ち出さないための水切り用ロール(リンガーロール)とを備えている。
この洗浄装置内を通板される鋼鈑Sに、回転しているブラシロールおよび水切り用ロールが押し当てられる(圧下される)。これにより、鋼板Sに付着した洗浄液が除去される。また、鋼板Sの溶接箇所については、鋼板Sの破断を防止するために、ブラシロールを圧下させないようにする。すなわち、鋼板Sの溶接箇所がブラシロールの圧下位置に到達する少し前に、ブラシロールを開放する。このように、ブラシロールは、圧下と開放とを繰り返す。
【0016】
[ブライドルロール112]
ブライドルロール112a、112b、112cは、鋼板Sを通板させるためのロールである。相互に隣接する2つのブライドルロール112(ブライドルロール112a、112b及びブライドルロール112b、112c)の間を通板する鋼板Sには、張力が付与される。ブライドルロール112a、112b、112cは、それぞれ、2つの駆動ロール114a・114b、114c・114d、114e・114fを備えている。尚、ブライドルロール112a、112b、112cには、駆動ロール114a・114b、114c・114d、114e・114f以外のその他の装置(ハウジング等)も備わっている。また、プロセスラインに配置されるブライドルロール112a、112b、112cの数は3つに限定されるものではなく、3つを超える数のブライドルロール112がプロセスラインに配置されていてもよい。
【0017】
[ロール駆動モータ113]
ロール駆動モータ113a、113b、113c、113d、113e、113fは、それぞれ、駆動ロール114a・114b、114c・114d、114e・114fを回転させるためのモータである。ロール駆動モータ113a、113b、113c、113d、113e、113fは、それぞれ後述するモータ速度制御器(ASR)125a、125b、125c、125d、125e、125fからの速度指令に基づく回転速度(回転数)で回転する。
【0018】
<張力制御システム>
張力制御システムは、相互に隣接する2つのブライドルロール112の間を通板する鋼板Sの張力の変動が抑制されるように、ロール駆動モータ113の回転速度を調整するものである。
張力制御システムは、張力検出器121a〜121cと、減算器122a〜122cと、張力制御器(ATR)123a〜123cと、加算器124a〜124cと、モータ速度制御器(ASR)125a〜125fと、張力変動補償器126と、を備えている。
【0019】
[張力検出器121]
張力検出器121a、121b、121cは、それぞれ、ブライドルロール112aとブライドルロール112bとの間、ブライドルロール112bブライドルロール112cとの間、ブライドルロール112cと図示しないブライドルロール112cよりも下流側にあるブライドルロールとの間を通板する鋼板Sに付与されている張力実績値Fmを測定するものである。
[減算器122]
減算器122a、122b、122cは、それぞれ、予め設定されている張力設定値Frから、張力検出器121a、121b、121cにより測定された張力実績値Fmを減算して、張力偏差(Fr−Fm)を導出するものである。張力設定値Frは、鋼板Sを最適に通板させるための張力の値である。尚、張力設定値Frは、セクション(相互に隣接する2つのブライドルロール112の間の領域)で異なる(ただし、同じ場合もある)。
【0020】
[張力制御器123]
張力制御器123a、123b、123cは、それぞれ、減算器122a、122b、122cにより導出された張力偏差(Fr−Fm)に応じて、張力実績値Fmが張力設定値Frと等しくなるように、予め設定された通板速度基準値Vrに対する速度変更値ΔVrを導出する。張力制御器123a、123b、123cは、例えば、P制御器又はPI制御器を用いることにより実現される。
[加算器124]
加算器124a、124b、124cは、それぞれ、張力制御器123a、123b、123cにより導出された速度変更値ΔVrと、通板速度基準値Vrとを加算して、速度指令値(Vr+ΔVr)を導出するものである。
【0021】
[モータ速度制御器125]
モータ速度制御器125a・125bは、それぞれ、加算器124aにより導出された速度指令値(Vr+ΔVr)を入力し、入力した速度指令値(Vr+ΔVr)に基づいて、ロール駆動モータ113a、113bの回転速度を制御する。本実施形態では、ブライドルロール112aを速度基準ロールとしている。よって、モータ速度制御器125a・125bは、それぞれ、鋼板Sの通板速度が常に通板速度基準値Vrとなるように、ロール駆動モータ113a、113bの回転速度を制御する。
【0022】
また、モータ速度制御器125e・125fも、それぞれ、加算器124cにより導出された速度指令値(Vr+ΔVr)を入力し、入力した速度指令値(Vr+ΔVr)に基づいて、ロール駆動モータ113e、113fの回転速度を制御する。
一方、モータ速度制御器125c、125dは、それぞれ、加算器124bにより導出された速度指令値(Vr+ΔVr)と、後述する張力変動補償器126により導出された速度指令補正値ΔVr´とが加算された(最終的な)速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)を入力し、入力した速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)に基づいて、ロール駆動モータ113c、113dの回転速度を制御する。
【0023】
[張力変動補償器126]
張力変動補償器126は、相互に隣接する3つのブライドルロール112a、112b、112cのうち、相対的に上流側で相互に隣接する2つのブライドルロール112a、112bの間に配置された張力検出器121aで測定された張力実績値Fmを入力し、当該2つのブライドルロール112a、112bのうち、相対的に下流側にあるブライドルロール112bに対する速度指令値(Vr+ΔVr)を補正するための速度指令補正値ΔVr´を導出する。この速度指令補正値ΔVr´は、上流側にある洗浄装置111のブラシロールが開放されること等により発生する急激な張力の変動を抑制するように、ブライドルロール112b(駆動ロール114c、114d)の回転速度を調整するためのものである。このように張力変動補償器126は、フィードフォワード補償器である。尚、以下の説明では、「洗浄装置111のブラシロールが開放されること等により発生する急激な張力の変動」を必要に応じて「張力外乱」と称する。
【0024】
図2は、張力変動補償器126の機能的な構成の一例を示す図である。張力変動補償器126のハードウェアは、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)や、コンピュータ(例えばパーソナルコンピュータ)を用いることにより実現される。そして、後述する図4のフローチャートに示す処理を実行するコンピュータソフトウェアをこれらのハードウェアにロードして実行することにより張力変動補償器126の機能が実現される。
【0025】
図2において、張力変動補償器126は、微分部126aと、遮断部126bと、乗算部126cと、速度換算部126dと、加算部126eと、を有する。
[[微分部126a]]
微分部126aは、張力検出器121aにより測定された張力実績値Fmを入力すると、張力実績値Fmを時間微分する微分器としての機能を有する。尚、以下の説明では、「張力実績値Fmを時間微分した値(dFm/dt)」を必要に応じて「張力実績の時間微分値」と称する。
【0026】
[[遮断部126b]]
遮断部126bは、微分部126aで得られた張力実績の時間微分値の信号から、ノイズ成分等、張力外乱とは無関係な成分を除去するものである。
具体的に、遮断部126bは、微分部126aで得られた張力実績の時間微分値の信号の高周波成分を遮断するフィルタとしての機能を有する。尚、通過を遮断する信号の周波数は、張力外乱とは無関係な成分を除去する観点から適宜設定される。
さらに、遮断部126bは、前回の張力実績の時間微分値と、今回の張力実績の時間微分値との何れかを選択する機能を有する。
【0027】
この選択を行うために遮断部126bは、まず、張力実績の時間微分値と、その取得時刻とを(次回の計算のために)記憶する。
次に、遮断部126bは、今回の張力実績の時間微分値から前回の張力実績の時間微分値を減算した値を、今回の張力実績の時間微分値を取得した時刻から前回の張力実績の時間微分値を取得した時刻を減算した値で割ることにより張力変化速度量を算出する。すなわち、張力変化速度量は、以下の(1)式で表される。
張力変化速度量=(今回の張力実績の時間微分値−前回の張力実績の時間微分値)÷(今回の張力実績の時間微分値を取得した時刻−前回の張力実績の時間微分値を取得した時刻) ・・・(1)
【0028】
次に、遮断部126bは、張力変化速度量の絶対値が閾値を超えたか否かを判定する。張力変化速度量の符号が正(+)であれば、前回の張力実績の時間微分値に対し今回の張力実績の時間微分値が増加していることになる。一方、張力変化速度量の符号が負(−)であれば、前回の張力実績の時間微分値に対し今回の張力実績の時間微分値が減少していることになる。ここで、ノイズの影響等により、張力実績値Fmが瞬間的に極大値(又は極小値)をとる場合がある。そこで、本実施形態では、張力変化速度量の絶対値が閾値を超えたか否かを判定することにより、張力実績値Fmが瞬間的に極大値(又は極小値)をとっているかどうかを判定するようにしている。
【0029】
遮断部126bは、張力変化速度量の絶対値が閾値を超えたと判定すると、張力実績値Fmが瞬間的に極大値(又は極小値)をとっていると判定し、今回の張力実績の時間微分値を採用せずに、前回の張力実績の時間微分値を選択する。このような場合に今回の張力実績の時間微分値を選択すると、制御が不安定になり、却って外乱の要因になり得るからである。ただし、前回の張力実績の時間微分値も閾値を超えている場合には、その前に選択した張力実績の時間微分値のうち最新のものを選択する。すなわち、遮断部126bは、張力変化速度量の絶対値が閾値を超えたと判定すると、既に選択した張力実績の時間微分値のうち最新のものを選択する。
一方、張力変化速度量の絶対値が閾値を超えていないと判定すると、遮断部126bは、今回の張力実績の時間微分値を選択する。
尚、張力変化速度量の絶対値と比較される閾値は、張力外乱とは無関係な成分を除去する観点から適宜設定される。
【0030】
[[乗算部126c]]
乗算部126cは、遮断部126bにより選択された「張力実績の時間微分値」の符号及び絶対値に対応する係数Kを抽出する。
図3は、張力実績の時間微分値の符号及び絶対値と、係数Kとを相互に関連付けて記憶しているテーブルの内容の一例を概念的に示す図である。
【0031】
本実施形態では、張力変動補償器126は、図3に示すテーブル300を予め記憶している。乗算部126cは、このテーブル300を参照して、遮断部126bにより選択された「張力実績の時間微分値」の符号及び値に対応する係数Kを抽出する。
ここで、張力実績の時間微分値の符号が正(+)である場合には、回転速度の制御対象であるブライドルロール112bの回転速度を減速させる必要がある。そこで、図3に示すように、本実施形態では、張力実績の時間微分値の符号が正(+)である場合には、係数Kの符号は負(−)とする。
【0032】
一方、張力実績の時間微分値の符号が負(−)である場合には、回転速度の制御対象であるブライドルロール112bの回転速度を増速させる必要がある。そこで、張力実績の時間微分値の符号が負(−)である場合には、係数Kの符号は正(+)とする。また、本実施形態では、張力実績の時間微分値の絶対値が大きいほど、係数Kの絶対値も大きくなるようにしている。
【0033】
次に、乗算部126cは、遮断部126bにより選択された「張力実績の時間微分値」に、前述したようにして抽出した係数Kを掛ける。尚、以下の説明では、「張力実績の時間微分値に係数Kを掛けた値」を、必要に応じて「張力実績の時間微分の係数乗算値」と称する。張力実績の時間微分の係数乗算値は、以下の(2)式で表される。
張力実績の時間微分の係数乗算値=K×(張力実績の時間微分値) ・・・(2)
尚、図3では、説明の都合上、「張力実績の時間微分値」の符号及び絶対値をテーブル300に記憶させるようにしたが、これらの代わりに、「張力実績の時間微分値」そのもの(符号を含めた値)をテーブル300に記憶させるようにしてもよい。
【0034】
[[速度換算部126d]]
乗算部126cにより算出された「張力実績の時間の係数乗算値」は、鋼板Sの張力の変動分に対応する。速度換算部126dは、この張力の変動分に対応する「張力実績値Fmの時間微分の係数乗算値」を、鋼板Sの通板速度の変動分に換算する。そのために、本実施形態では、速度換算部126dは、「張力実績の時間微分の係数乗算値」を、回転速度の制御対象であるブライドルロール112bの駆動ロール114c、114dの直径で割ることにより、速度指令補正値ΔVr´を算出する。すなわち、速度換算部126dは、以下の(3)式の計算を行って、速度指令補正値ΔVr´を算出する。
速度指令補正値ΔVr´=(張力実績の時間微分の係数乗算値)÷(駆動ロール114c、114dの直径) ・・・(3)
尚、ここでは、鋼板Sの張力の変動分を、鋼板Sの通板速度の変動分に近似換算するものであるので、速度指令補正値ΔVr´の単位を必ずしも速度の単位に合わせる必要はない。
【0035】
[[加算部126e]]
加算部126eは、速度換算部126dにより導出された速度指令補正値ΔVr´を、加算器124bにより導出された速度指令値(Vr+ΔVr)に加算する加算器としての機能を有する。この加算値が(最終的な)速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)としてモータ速度制御器125c、125dに出力される。
【0036】
<動作フローチャート>
次に、図4のフローチャートを参照しながら、張力変動補償器126の動作の一例を説明する。
まず、ステップS401において、微分部126aは、張力検出器121aにより測定された張力実績値Fmを入力したか否かを判定する。この判定の結果、張力実績値Fmを入力していない場合には、図4のフローチャートによる処理を終了する。
【0037】
一方、張力実績値Fmを入力すると、ステップS402に進む。ステップS402に進むと、微分部126aは、ステップS401で入力された張力実績値Fmを時間微分して、張力実績の時間微分値(dFm/dt)を算出する。
次に、ステップS403において、遮断部126bは、微分部126aで得られた張力実績の時間微分値の信号の高周波成分を遮断する。
次に、ステップS404において、遮断部126bは、張力実績の時間微分値を記憶する。そして、遮断部126bは、(1)式の計算を行って、張力変化速度量を算出する。
【0038】
次に、ステップS405において、遮断部126bは、ステップS404で算出された張力変化速度量の絶対値が閾値を超えたか否かを判定する。この判定の結果、張力変化速度量の絶対値が閾値を超えていない場合には、ステップS406に進む。ステップS406に進むと、遮断部126bは、今回の張力実績の時間微分値(ステップS402で算出された最新の張力実績の時間微分値)を選択する。
一方、張力変化速度量の絶対値が閾値を超えている場合には、ステップS407に進む。ステップS407に進むと、遮断部126bは、これまでにステップS406で選択された張力実績の時間微分値のうち最新のものを選択する。
【0039】
以上のようにして張力実績の時間微分値が選択されると、ステップS408に進む。ステップS408に進むと、乗算部126cは、ステップS406又はS407で選択された「張力実績の時間微分値」の符号及び絶対値に対応する係数Kを、テーブル300を参照して抽出する。
次に、ステップS409において、乗算部126cは、ステップS406又はS407で選択された「張力実績の時間微分値」に、ステップS408で抽出された係数Kを掛け合わせて、「張力実績の時間微分の係数乗算値」を算出する。
【0040】
次に、ステップS410において、速度換算部126dは、ステップS408で算出された「張力実績の時間の係数乗算値」を、回転速度の制御対象であるブライドルロール112bの駆動ロール114c、114dの直径で割って、速度指令補正値ΔVr´を導出する。
次に、ステップS411において、加算部126eは、ステップS410で導出された速度指令補正値ΔVr´を、加算器124bにより導出された速度指令値(Vr+ΔVr)に加算して(最終的な)速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)を導出する。
次に、ステップS412において、加算部126eは、速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)をモータ速度制御器125c、125dに出力する。以上のステップS401〜S412の処理が繰り替えし実行される。モータ速度制御器125c、125dは、この速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)に基づいて、ロール駆動モータ113c、113dの回転速度を制御する。
【0041】
<実施例>
次に、本発明の実施例について説明する。
ここでは、以下の条件で図1に示すプロセスラインを操業した際に、洗浄装置111のブラシロールを開放する前後で、張力検出器121a、121bで検出される張力実績値Fmとブライドルロール112bの回転速度とがどのように変更するかを調査した。本実施例の張力制御システムとして、図1に示す張力制御システムを用い、比較例の張力制御システムとして、図1に示す張力制御システムから張力変動補償器126を除いた他は本実施例と同じ張力制御システムを用いた。
【0042】
鋼板:電磁鋼板(幅=1213[mm]、厚み=0.27[mm])
ライン速度:50[m/分]
張力設定値Fr:2300[N]
尚、ライン速度と、張力設定値Frは、それぞれブライドルロール112a、112bの間のセクションにおける値である。
【0043】
図5は、ブラシロールを開放する前後の付近における「張力検出器121a、121bの測定値(張力実績値Fm)及びブライドルロール112bの回転速度」と「時間」との関係を示す図である。図5(a)は本実施例における関係を示し、図5(b)は比較例における関係を示す。
図5において、グラフ501a、501bは、ブライドルロール112bの回転速度を示す。また、グラフ502a、502bは、張力検出器121aで検出される張力実績値Fmを示し、グラフ503a、503bは、張力検出器121bで検出される張力実績値Fmを示す。
【0044】
図5の横軸の目盛りは30[秒/1マス]である。また、図5の縦軸の張力の目盛りは250[N/1マス]である。また、図5の縦軸の回転速度の目盛りは4[回転/分/1マス]である。
また、図5において、破線504a、504bは、洗浄装置111のブラシロールを開放したタイミング(張力外乱が発生したタイミング)を表す。
【0045】
図5(a)のグラフ503aに示すように、本実施例では、張力検出器121bで検出された張力実績値Fmの「張力外乱に起因する変動幅Wa」は、100[N]未満であり、且つ、張力外乱が発生してから、張力検出器121bで検出された張力実績値Fmが一定値に収束するまでの収束時間Taは、20秒程度であった。これに対し、図5(b)のグラフ503bに示すように、比較例では、張力検出器121bで検出された張力実績値Fmの「張力外乱に起因する変動幅Wa」は、500[N]程度であり、且つ、張力外乱が発生してから、張力検出器121bで検出された張力実績値Fmが一定値に収束するまでの収束時間Taは、60秒程度であった。
このように、本実施例の方が比較例よりも、変動幅W及び収束時間Tの双方が小さくなっており、張力制御の有効性が高いことが分かる。
【0046】
<まとめ>
以上のように、本実施形態では、張力検出器121aにより測定された張力実績値Fmに基づき、急激な張力の変動(張力外乱)が発生したと判定した場合には、当該急激な張力の変動分に応じた駆動ロール114c、114dの回転速度の変動分を速度指令補正値ΔVr´として導出し、この速度指令補正値ΔVr´を加算した速度指令値(Vr+ΔVr+ΔVr´)を、張力検出器121aに対し下流側直近にある駆動ロール114c、114dを制御するモータ速度制御器125c、125dに出力する。したがって、急激な張力の変動(張力外乱)が発生しても、当該張力の変動を吸収するように、可及的に素早く(遅延なく)駆動ロール114c、114dの回転速度を修正することができる。
【0047】
これに対し、張力変動補償器126を設けていない従来の技術のように、張力偏差(Fr−Fm)に応じて、張力検出器121aに対し下流側直近にある駆動ロール114c・114dの回転速度を受動的に補正する方法は、低周波(変化の周期が長い)張力の変動に対しては、当該張力の変動を抑制する効果を発揮するが、張力の変動に対する応答が遅い。このため、高周波の(変化の周期が短い)張力の変動に対しては、当該張力の変動を抑制する効果を発揮しない。すなわち、張力変動補償器126を設けていない従来の手法よりも、本実施形態の方法の方が、張力外乱が発生した場合に、鋼板Sに対して張力を安定して付与することができ、安定的に通板操業を継続させることができる。
【0048】
<変形例>
本実施形態では、金属ストリップが鋼板である場合を例に挙げて説明する。しかしながら、金属ストリップは、鋼板に限定されない。例えば、アルミ、銅等のその他の金属ストリップであってもよい。
また、張力外乱の要因は、洗浄装置111のブラシロールの圧下の開放に限定されるものではなく、プロセスラインにより異なるものである。
また、本実施形態では、遮断部126bにより選択された「張力実績の時間微分値」の符号及び値に対応する係数Kを抽出するようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、遮断部126bにより選択された「張力実績の時間微分値」の符号(のみ)に応じて係数Kを抽出するようにしてもよい。このようにする場合には、2つの係数Kの何れかが、張力実績の時間微分値の符号に応じて抽出されることになる。
また、本実施形態では、乗算部126cで「張力実績の時間微分値」に「係数K」を掛けて「張力実績の時間微分の係数乗算値」を導出し、速度換算部126dで「張力実績の時間微分の係数乗算値」を「駆動ロール114c、114dの直径」で割ることにより「速度指令補正値ΔVr´」を導出した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、「係数K」を「駆動ロール114c、114dの直径」で割った値を、「張力実績の時間微分値」に掛けることにより「速度指令補正値ΔVr´」を導出するようにしてもよい。
【0049】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態では、速度基準ロールをブライドルロール112aとして、相互に隣接する2つのブライドルロール112a、112bのうち、相対的に下流側にあるブライドルロール112bに対する速度指令値(Vr+ΔVr)を張力変動補償器126により導出された速度指令補正値ΔVr´で補正するようにした場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、速度基準ロールをブライドルロール112bとして、相互に隣接する2つのブライドルロール112a、112bのうち、相対的に上流側にあるブライドルロール112aに対する速度指令値(Vr+ΔVr)を張力変動補償器126により導出された速度指令補正値ΔVr´で補正するようにした場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1の実施形態とは、張力変動補償器126を適用する場所が主として異なる。よって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図5に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0050】
図6は、プロセスラインを通板する鋼板の張力を制御する張力制御システムの構成の一例を示す図である。
図6に示すように、本実施形態では、張力変動補償器126は、相互隣接する3つのブライドルロール112a、112bのうち、相対的に下流側で相互に隣接する2つのブライドルロール112b、112cの間に配置された張力検出器121bで測定された張力実績値Fmを入力し、当該3つのブライドルロール112b〜112cのうち、最も上流側にあるブライドルロール112aに対する速度指令値(Vr+ΔVr)を補正するための速度指令補正値ΔVr´を導出する。張力変動補償器126の処理の内容は、第1の実施形態で説明したものと同じである。
以上のようにしても第1の実施形態で説明した効果と同等の効果を得ることができる。
尚、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を適用することができる。
【0051】
<請求項との関係>
相互に隣接する少なくとも3つのブライドルロールは、例えば、ブライドルロール112a、112b、112cを用いることにより実現される。
第1の張力検出手段は、第1の実施形態では、例えば、張力検出器121bを用いることにより実現され、第2の実施形態では、例えば、張力検出器121aを用いることにより実現される。
第2の張力検出手段は、第1の実施形態では、例えば、張力検出器121aを用いることにより実現され、第2の実施形態では、例えば、張力検出器121bを用いることにより実現される。
速度変更値導出手段は、第1の実施形態では、例えば、減算器122b、張力制御器123b、及び加算器124bを用いることにより実現され、第2の実施形態では、減算器122a、張力制御器123a、及び加算器124aを用いることにより実現される。ここで、速度変更値は、例えば、速度変更値ΔVrに対応する。
速度指令値導出手段は、第1の実施形態では、加算器124bを用いることにより実現され、第2の実施形態では、加算器124aを用いることにより実現される。ここで、速度指令値、例えば、速度指令値(Vr+ΔVr)に対応する。
張力変動導出手段は、例えば、張力変動補償器126の微分部126aを用いることにより実現される。
速度指令補正値導出手段は、例えば、張力変動補償器126の乗算部126cを用いることにより実現される。ここで、速度指令値に対する補正値、例えば、速度指令補正値ΔVr´を用いることにより実現される。
補正手段は、例えば、張力変動補償器126の加算部126eを用いることにより実現される。
速度制御手段は、第1の実施形態では、モータ速度制御器125c、125dを用いることにより実現され、第2の実施形態では、モータ速度制御器125a、125bを用いることにより実現される。
3つのブライドルロールのうち、相対的に下流側で相互に隣接する2つのブライドルロールは、例えば、ブライドルロール112b、112cを用いることにより実現される。
3つのブライドルロールのうち、相対的に上流側で相互に隣接する2つのブライドルロールは、例えば、ブライドルロール112a、112bを用いることにより実現される。
【0052】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
111 洗浄装置
112 ブライドルロール
113 ロール駆動モータ
114 駆動ロール
121 張力検出器
122 減算器
123 張力制御器
124 加算器
125 モータ速度制御器
126 張力変動補償器
126a 微分部
126b 遮断部
126c 乗算部
126d 速度換算部
126e 加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスラインを通板される金属ストリップに対し、相互に隣接する少なくとも3つのブライドルロールを用いて付与される張力を制御する張力制御システムであって、
前記3つのブライドルロールのうちの相互に隣接する2つのブライドルロールの間のそれぞれで、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出する第1及び第2の張力検出手段と、
前記第1の張力検出手段により検出された張力実績値と、予め設定された張力設定値との偏差である張力偏差に応じて、前記第1の張力検出手段により検出される張力実績値が前記張力設定値と等しくなるように、予め設定された通板速度基準値に対する速度変更値を導出する速度変更値導出手段と、
前記通板速度基準値を前記速度変更値により変更した速度指令値を導出する速度指令値導出手段と、
前記第2の張力検出手段により検出された張力実績値を時間微分した値である張力実績の時間微分値を導出する張力変動導出手段と、
前記張力変動導出手段により導出された張力実績の時間微分値に応じて、前記速度指令値に対する補正値を導出する速度指令補正値導出手段と、
前記速度指令値導出手段により導出された速度指令値を、前記速度指令補正値導出手段により導出された補正値を用いて補正する補正手段と、
前記第1の張力検出手段を間に挟んで相互に隣接する2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールを駆動するモータの回転速度を、前記補正手段により補正された速度指令値に基づいて制御する速度制御手段と、を有し、
前記速度指令補正値導出手段は、前記張力実績の時間微分値の符号が正である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を減少させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出し、前記張力実績の時間微分値の符号が負である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を増加させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とする張力制御システム。
【請求項2】
前記第1の張力検出手段は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に下流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出し、
前記第2の張力検出手段は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に上流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出することを特徴とする請求項1に記載の張力制御システム。
【請求項3】
前記第1の張力検出手段は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に上流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出し、
前記第2の張力検出手段は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に下流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出することを特徴とする請求項1に記載の張力制御システム。
【請求項4】
前記速度指令補正値導出手段は、前記張力変動導出手段で導出された張力実績の時間微分値の符号に応じた係数を張力実績の時間微分値に掛けた値を用いて、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の張力制御システム。
【請求項5】
前記速度指令補正値導出手段は、前記張力変動導出手段で導出された張力実績の時間微分値の符号及び絶対値に応じた係数を張力実績の時間微分値に掛けた値を、前記速度指令値に対する補正値として導出することを特徴とする請求項4に記載の張力制御システム。
【請求項6】
プロセスラインを通板される金属ストリップに対し、相互に隣接する少なくとも3つのブライドルロールを用いて付与される張力を制御する張力制御システムであって、
前記3つのブライドルロールのうちの相互に隣接する2つのブライドルロールの間のそれぞれで、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出する第1及び第2の張力検出工程と、
前記第1の張力検出工程により検出された張力実績値と、予め設定された張力設定値との偏差である張力偏差に応じて、前記第1の張力検出工程により検出される張力実績値が前記張力設定値と等しくなるように、予め設定された通板速度基準値に対する速度変更値を導出する速度変更値導出工程と、
前記通板速度基準値を前記速度変更値により変更した速度指令値を導出する速度指令値導出工程と、
前記第2の張力検出工程により検出された張力実績値を時間微分した値である張力実績の時間微分値を導出する張力変動導出工程と、
前記張力変動導出工程により導出された張力実績の時間微分値に応じて、前記速度指令値に対する補正値を導出する速度指令補正値導出工程と、
前記速度指令値導出工程により導出された速度指令値を、前記速度指令補正値導出工程により導出された補正値を用いて補正する補正工程と、
前記第1の張力検出工程を間に挟んで相互に隣接する2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールを駆動するモータの回転速度を、前記補正工程により補正された速度指令値に基づいて制御する速度制御工程と、を有し、
前記速度指令補正値導出工程は、前記張力実績の時間微分値の符号が正である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を減少させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出し、前記張力実績の時間微分値の符号が負である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を増加させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とする張力制御方法。
【請求項7】
前記第1の張力検出工程は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に下流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出し、
前記第2の張力検出工程は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に上流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出することを特徴とする請求項6に記載の張力制御方法。
【請求項8】
前記第1の張力検出工程は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に上流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出し、
前記第2の張力検出工程は、前記3つのブライドルロールのうち、相対的に下流側で相互に隣接する2つのブライドルロールの間で、前記金属ストリップに付与されている張力の値である張力実績値を検出することを特徴とする請求項6に記載の張力制御方法。
【請求項9】
前記速度指令補正値導出工程は、前記張力変動導出工程で導出された張力実績の時間微分値の符号に応じた係数を張力実績の時間微分値に掛けた値を用いて、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の張力制御方法。
【請求項10】
前記速度指令補正値導出工程は、前記張力変動導出工程で導出された張力実績の時間微分値の符号及び絶対値に応じた係数を張力実績の時間微分値に掛けた値を、前記速度指令値に対する補正値として導出することを特徴とする請求項9に記載の張力制御方法。
【請求項11】
プロセスラインを通板される金属ストリップに対し、相互に隣接する少なくとも3つのブライドルロールを用いて付与される張力を、当該3つのブライドルロールのうちの相互に隣接する2つのブライドルロールの間にそれぞれ配置された第1及び第2の張力検出手段により検出された張力実績値を用いて制御することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記第1の張力検出手段により検出された張力実績値と、予め設定された張力設定値との偏差である張力偏差に応じて、前記第1の張力検出手段により検出される張力実績値が前記張力設定値と等しくなるように、予め設定された通板速度基準値に対する速度変更値を導出する速度変更値導出工程と、
前記通板速度基準値を前記速度変更値により変更した速度指令値を導出する速度指令値導出工程と、
前記第2の張力検出手段により検出された張力実績値を時間微分した値である張力実績の時間微分値を導出する張力変動導出工程と、
前記張力変動導出工程により導出された張力実績の時間微分値に応じて、前記速度指令値に対する補正値を導出する速度指令補正値導出工程と、
前記速度指令値導出工程により導出された速度指令値を、前記速度指令補正値導出工程により導出された補正値を用いて補正する補正工程と、
前記補正工程により補正された速度指令値を、前記第1の張力検出手段を間に挟んで相互に隣接する2つのブライドルロールのうち、相対的に上流側のブライドルロールを駆動するモータの回転速度を制御する速度制御手段に出力するための処理を行う出力工程と、をコンピュータに実行させ、
前記速度指令補正値導出工程は、前記張力実績の時間微分値の符号が正である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を減少させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出し、前記張力実績の時間微分値の符号が負である場合には、前記ブライドルロールの回転速度を増加させるように、前記速度指令値に対する補正値を導出することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−224456(P2012−224456A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94935(P2011−94935)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】