説明

張力調整装置、搬送装置、及び記録装置

【課題】複数の回転体に掛け渡された無端状部材の張力を容易に調整することができる張力調整装置、この張力調整装置を備えた搬送装置及びこの搬送装置を備えた記録装置を提供する。
【解決手段】駆動力の付与に基づく駆動プーリーの回転に従って従動プーリー15が回転するように各プーリー間に掛け渡されるタイミングベルト16の張力を調整する張力調整装置Tであって、従動プーリー15と同軸配置での回転が可能に設けられると共に従動プーリー15の軸中心Oからの径方向の距離が周方向において異なるカム面23を有するカム部材21と、前記カム面23と当接可能な当接面部24を各プーリー間となる位置に有するプーリーホルダー20とを備え、従動プーリー15及びカム部材21をそれらの軸中心Oの位置が駆動プーリーに対して接近及び離間する方向への移動自在となるように配置すると共に、プーリーホルダー20を各プーリー間となる位置に固定配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無端状のベルト等の張力を調整する張力調整装置、この張力調整装置を備えた搬送装置、及びこの搬送装置を備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインクジェット式のプリンター等の記録装置では、記録ヘッドを支持したキャリッジを主走査方向に往復移動させるための搬送装置を備えている。この搬送装置は、特許文献1に示すように、駆動源と連結される駆動回転体としての駆動プーリーと、この駆動プーリーに対して前記主走査方向に離間配置された従動回転体としての従動プーリーと、前記各プーリーに掛け渡される無端状のベルト部材とを有している。そして、キャリッジは、前記主走査方向に沿って延びるガイド軸に沿ってベルト部材により牽引されることで、主走査方向への移動が可能とされている。
【0003】
ところで、上述のような搬送装置をはじめ、このように複数のプーリーに対してチェーンやベルト等の無端状部材が掛け渡される装置においては、プーリーに巻回される無端状部材(ベルト部材)の張力を適宜調整する必要がある。そのため、例えば特許文献1に開示される搬送装置においても前記ベルト部材の張力を調整するための張力調整装置を備えている。
【0004】
特許文献1の搬送装置に備えられる張力調整装置では、駆動源によって回転駆動される駆動プーリーとこれに従動回転する従動プーリーとの間にベルト部材を掛け渡し、駆動プーリーから離間する方向張り方向においてベルト部材に好適な張力を付与可能となる張力付与位置に従動プーリーを固定するようにしている。より具体的には、前記ガイド軸等が連結されるフレームに従動プーリーを保持するプーリーホルダーを配置すると共に、前記フレームには前記プーリーホルダーと当接することにより該プーリーホルダーが張力付与位置から移動することを規制するためのストッパー部材を固定ねじを用いて固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−297297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の張力調整装置の場合は、プーリーホルダーの移動を規制するストッパー部材をフレームに固定するに際して、最終的にはストッパー部材をフレームに対して固定ねじの締め付け作業を伴って固定している。そのため、その固定ねじの締め付け作業の際にプーリーホルダー及び従動プーリーの位置が若干ながら張力付与位置からずれる虞があった。この結果、無端状部材の張力が好適な状態からずれる虞があり、張力を好適な状態に調整するためには再度固定ねじの締め付け作業を要してしまい、張力調整作業が煩雑となっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の回転体に掛け渡された無端状部材の張力を容易に調整することができる張力調整装置、この張力調整装置を備えた搬送装置及びこの搬送装置を備えた記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の張力調整装置は、駆動力の付与に基づく駆動回転体の駆動回転に従って従動回転体が従動回転するように駆動回転体と従動回転体との間に掛け渡される無端状部材の張力を調整する張力調整装置であって、前記従動回転体と同軸配置での回転が可能に設けられると共に、該従動回転体の軸中心からの径方向の距離が周方向において異なるカム面を有するカム部材と、該カム部材のカム面と当接可能な当接面を前記従動回転体と前記駆動回転体との間となる位置に有する当接部材とを備え、前記従動回転体及び前記カム部材をそれらの軸中心の位置が前記駆動回転体に対して接近及び離間する方向への移動自在となるように配置すると共に、前記当接部材を前記従動回転体と前記駆動回転体との間となる位置に固定配置した。
【0009】
この構成によれば、カム部材を回転させると、そのカム部材の回転角度の変更に応じてカム部材及び従動回転体における軸中心の位置が駆動回転体に対して接近又は離間するように移動する。その結果、駆動回転体と従動回転体との間に無端状部材を掛け渡した状態において、従動回転体と駆動回転体との間の距離が変更されるので、無端状部材の張力を調整することが可能となる。そして、この場合の調整作業においては、従来構成のような固定ねじ等のねじ部材の締め付け作業を省略できるため、そのようなねじ部材の締め付け作業に起因する僅かな張力のずれの発生を抑制することができる。したがって、複数の回転体に掛け渡された無端状部材の張力を容易に調整することができる。
【0010】
本発明の張力調整装置において、前記カム部材の前記カム面は、前記従動回転体の軸中心からの径方向の最短距離が各々異なる複数の平面部を含んで構成されている。
この構成によれば、カム部材がカム面に有する複数の平面部のうち当接部材の当接面に対して当接した状態にある平面部が無端状部材の張力方向と直交した状態となるようにカム部材を回転させると、その回転角度に応じた位置においてカム部材及び従動回転体を移動規制した位置決め状態にできる。このため、張力調整後において従動回転体が駆動回転体に接近する方向に移動して張力が弛んでしまうことを抑制できる。
【0011】
本発明の張力調整装置において、前記カム部材は、前記従動回転体の軸方向において該従動回転体を両側から挟む各位置にそれぞれ設けられると共に、各カム部材の前記カム面は該カム面に対応して設けられた前記当接面とそれぞれ当接するように構成されている。
【0012】
この構成によれば、カム部材が軸方向の両側から従動回転体を挟む各位置で各々が対応する当接面に当接するため、従動回転体の軸方向がぶれる虞を回避できる。このため、そのような従動回転体と駆動回転体との間に掛け渡された無端状部材が捩れる虞も回避でき、より確実に且つ安定した状態で張力の調整をすることができる。
【0013】
本発明の搬送装置は、上記構成の張力調整装置と、該張力調整装置の前記無端状部材に連結されると共に該無端状部材の周回移動に伴い移動可能な搬送体とを備えた。
この構成によれば、上記張力調整装置と同様の作用効果を奏する搬送装置を提供することが可能となる。特に、搬送装置においては、搬送体の速度や重量によって張力の調整度合がより高精度に求められるため、その意義は大きい。
【0014】
本発明の記録装置は、上記構成の搬送装置と、前記搬送体に設けられると共に記録媒体に対して記録処理を施す記録手段とを備えた。
この構成によれば、上記張力調整装置と同様の作用効果を奏する記録装置を提供することが可能となる。特に、記録媒体に記録処理を施す記録装置においては、搬送体に備えられる記録手段の速度や搬送体及び記録手段の重量によって張力の調整がより高精度に求められるため、その意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態のプリンターの概略斜視図。
【図2】張力調整装置の左側面図。
【図3】(a)はカム部材の左側面部、(b)はカム部材の正面図。
【図4】カム部材の回転によるタイミングベルトの張力調整について説明するための動作説明図であり、(a)はカム部材が第2回転角度の場合の説明図であり、(b)はカム部材が第5回転角度の場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を記録装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」と略す場合もある。)に具体化した実施形態を図1〜図4に従って説明する。なお、以下の説明において、「左右方向」、「前後方向」及び「上下方向」をいう場合は、特に説明がない限り、各図において矢印で示す「左右方向」、「前後方向」及び「上下方向」をいうものとする。また、この場合における「左右方向」は搬送体に支持された記録手段の移動方向である主走査方向に相当すると共に、「前後方向」は記録媒体の搬送方向である副走査方向に相当し、「上下方向」は鉛直方向に相当する。
【0017】
図1に示すように記録装置としてのプリンター1は、記録用紙P(記録媒体)に対してインク(液体)を噴射する記録手段としての記録ヘッド2と、この記録ヘッド2を搭載すると共に左右方向Xにおいて搬送装置Mによって往復移動するキャリッジ3とを備えている。すなわち、記録ヘッド2は、プリンター1が有するフレーム11内を左右方向Xにキャリッジ3と共に移動する。
【0018】
箱体形状の長手方向が左右方向Xとなるように延設されたフレーム11内には、前記キャリッジ3を左右方向Xに往復移動させるための搬送装置Mが備えられている。搬送装置Mは、フレーム11に架設される主ガイド軸12及び副ガイド軸13と、フレーム11内における左右方向Xの両端部に回転自在に設けられる駆動プーリー(駆動回転体)14及び従動プーリー(従動回転体)15と、これら各プーリー14,15に掛け渡される無端状のタイミングベルト(無端状部材)16とを有している。
【0019】
搬送装置Mを構成する各ガイド軸12,13は、左右方向Xに延設された軸部材であって、キャリッジ3はこれらのガイド軸12,13を介してフレーム11に支持されている。
【0020】
搬送装置Mを構成する駆動プーリー14及び従動プーリー15は、前記主ガイド軸12の左右方向Xにおける両端部と対応する位置に回転自在に設けられている。駆動プーリー14には、この駆動プーリー14を回転駆動させるための駆動力を出力する駆動源としての電動モーター17が図示しない動力伝達機構(例えばギア機構など)を介して接続されている。
【0021】
そして、上述したような構成により、キャリッジ3は、駆動源としての電動モーター17から付与される駆動力に基づき駆動プーリー14が駆動回転することにより従動プーリー15が従動回転すると共にタイミングベルト16が周回移動すると、各ガイド軸12,13にガイドされながら主走査方向である左右方向Xに往復移動する。
【0022】
また、主ガイド軸12の下方には、記録用紙Pを支持する支持部材18が架設されている。記録用紙Pは、プリンター1が備える紙送り機構(図示略)により前方に向けて搬送されて、図1に示すように支持部材18上に給送される。
【0023】
また、インクタンクがキャリッジ3上に設けられていない所謂オフキャリッジタイプのプリンター1は、キャリッジ3外の固定位置に設けられたインクタンク4と、インクタンク4からキャリッジ3に支持された記録ヘッド2内へインクを供給する可撓性のインク供給チューブ5とを備えている。インクタンク4は、メンテナンス容易性の観点から交換可能なインクカートリッジにより構成されることが好ましい。
【0024】
インクタンク4は、複数色のインクを貯蔵するための複数のインク貯蔵空間を有している。また、インク供給チューブ5には、インクタンク4から記録ヘッド2内に供給される複数色のインクに応じて、各色のインクを供給するための複数のインク供給路が設けられている。
【0025】
記録用紙Pに印刷を施す場合には、インクタンク4からインク供給チューブ5を介して記録ヘッド2内へインクが供給される。そして、記録ヘッド2が、その下面に設けられる多数のノズル(図示略)からインクを記録用紙Pに対して噴射する。このときに、キャリッジ3が主走査方向である左右方向Xに移動すると共に、記録用紙Pが副走査方向である前後方向Yに逐次搬送されることにより、記録ヘッド2は記録用紙P上に二次元の画像を記録する。
【0026】
次に、本実施形態のプリンター1における特徴部位である搬送装置Mに備えられる張力調整装置Tについて説明する。
搬送装置Mには、各プーリー14,15の間に掛け渡される無端状のタイミングベルト16の張力を調整する張力調整装置Tが備えられる。本実施形態の張力調整装置Tは、駆動プーリー14に対する従動プーリー15の距離を変更することでタイミングベルト16の張力を調整するものである。
【0027】
図1及び図2に示すように、張力調整装置Tは、従動プーリー15を回転自在に且つ駆動プーリー14に対して接近及び離間する方向への移動自在に保持するプーリーホルダー20を備えている。プーリーホルダー20は、フレーム11の前面11aに固定される板状のベース部20aを備えている。ベース部20aにおける上下方向Zの両端部からは、それぞれ前方へ向けて上側延出部20b及び下側延出部20cが延出されている。また、各延出部20b,20cの前端には、各延出部20b,20cの間を連結するように、ベース部20aよりも左右方向Xの幅が小さい板状の連結部20dが設けられている。さらに、連結部20d及び前記ベース部20aの各左端縁における上下方向Zの略中間位置からは、上下方向Zの幅が互いに同一である矩形状の凹溝からなる軸受部20eが右方向に向けて各々切り欠き形成されている。そして、この軸受部20eには図3に示すようなカム部材21が回転可能に且つ左右方向Xへの移動自在に保持されている。
【0028】
図3(a)に示すようにカム部材21は、その軸方向の両端寄りに位置して前記軸受部20eにそれぞれ保持される小径部21aと、この小径部21a間に位置する小径部21aよりも径方向長さが長い大径部21bとを有している。カム部材21の大径部21bの径方向外側には、図3(a)に示すように、その軸方向両側にベアリング22が設けられると共に、各ベアリング22の径方向外側には、これらのベアリング22にて前記従動プーリー15が回転可能に保持されている。したがって、従動プーリー15及びベアリング22は、カム部材21の小径部21aがプーリーホルダー20の軸受部20eに回転自在に支持されることよって、カム部材21と共に軸中心Oを基準とする同軸配置で回転可能に構成されている。
【0029】
また、カム部材21の軸方向(長手方向)において各小径部21aよりも端部側となる部位の外周面、具体的にはカム部材21の軸方向両端部の外周面には、軸中心Oからの径方向の距離が小径部21aの外周面よりも大きいカム面23がそれぞれ形成されている。このカム面23は、カム部材21の軸中心Oからの径方向における最短距離L1〜L5が周方向においてそれぞれ異なる複数(本実施形態では5つ)の平面部23a〜23eにて構成されている。そしてカム部材21は、軸中心Oからの径方向における最短の距離L1が最も短い第1平面部23aから径方向における最短の距離L5が最も長い第5平面部23eまで順に周方向において徐々にその軸中心Oからの径方向における最短距離が長くなるように設定されている。
【0030】
また、これらの平面部23a〜23eには、前記駆動プーリー14と従動プーリー15との間となる位置において前記プーリーホルダー20のベース部20a及び連結部20dにそれぞれ上下方向Zに沿って形成される当接面部24が、左右方向Xにおいてタイミングベルト16の張力によって当接される。この時、カム部材21は、第1平面部23aが当接する角度となる第1回転角度、第2平面部23bが当接する角度となる第2回転角度、第3平面部23cが当接する角度となる第3回転角度、第4平面部23dが当接する角度となる第4回転角度、及び第5平面部23eが当接する角度となる第5回転角度のいずれかの状態で当接面部24と当接する。
【0031】
また、カム部材21の軸方向における少なくとも前方の端面25には、前記カム部材21の軸方向と直交する方向に延びる直線状の溝部25aが形成されている。そのため、溝部25aにマイナスドライバー等の器具を挿入して、カム部材21を容易に回動することができるようになっている。これによって、複数の平面部23a〜23eのうちから当接面部24と当接させる平面部23a〜23eを選択して各プーリー14,15間の距離を調整でき、これによってタイミングベルト16の張力を調整することができるようになっている。なお、前記溝部25aはマイナスドライバー等を挿入可能な直線状の溝以外にも十字状としてプラスドライバーにてカム部材21を回動させる構成などを採用してもよい。
【0032】
ここで、図4(a)(b)を用いてタイミングベルト16の張力調整方法について説明する。
図4(a)は、カム部材21を第2回転角度とし、図3(b)に示すカム部材21の平面部23a〜23eの内でカム部材21の軸中心Oからの径方向における最短距離が2番目に近い第2平面部23bをプーリーホルダー20の当接面部24とタイミングベルト16の張力によって左右方向Xにおいて当接させた状態を示す。この時、例えばタイミングベルト16の張力が所望の張力よりも小さい場合、作業者がマイナスドライバー等を用いてカム部材21を所定方向(図4において時計方向)に回転させる。この回転操作によってカム部材21を第5回転角度とした場合には、図4(b)に示すようにカム部材21におけるカム面23の平面部23a〜23eの内でカム部材21の軸中心Oからの径方向における最短距離が最も長い第5平面部23eと当接面部24とが左右方向Xにおいて当接される。すると、カム部材21の軸中心Oが駆動プーリー14から離間する方向に移動させられるため、各プーリー14,15間に掛け渡されるタイミングベルト16の張力は大きくなる。
【0033】
一方、前述の図4(a)の状態、つまりカム部材21を第2回転角度とし、カム部材21の第2平面部23bをプーリーホルダー20の当接面部24と左右方向Xにおいて当接させた状態において、タイミングベルト16の張力が所望の張力より若干大きい場合には、作業者によりマイナスドライバー等を用いてカム部材21が所定方向(図において反時計方向)に回転される。この回転操作によって、カム部材21を第1回転角度とした場合には、各平面部23a〜23eの内でカム部材21の軸中心Oからの径方向における最短距離が最も短い第1平面部23aと当接面部24とが左右方向Xにおいて当接される。すると、カム部材21の軸中心Oが駆動プーリーに近接する方向に移動させられるため、各プーリー14,15間に掛け渡されるタイミングベルト16の張力は小さくなる。したがって、カム部材21を第1回転角度と第5回転角度の間で回転操作することにより、タイミングベルト16の張力を所望の張力とすることが可能となる。ちなみに、図4(b)に示す状態では、図4(a)に示す状態よりも、カム部材21の軸中心Oが駆動プーリー14から距離L(=L5−L2)だけ遠く離れた状態になるため、その分、張力が強く調整される。
【0034】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)カム部材21を回転させると、そのカム部材21の回転角度の変更に応じてカム部材21及び従動プーリー15における軸中心Oの左右方向Xにおける位置が駆動プーリー14に対して接近又は離間するように移動する。その結果、駆動プーリー14と従動プーリー15との間に無端状のタイミングベルト16を掛け渡した状態において、従動プーリー15と駆動プーリー14との間の距離が変更されるので、タイミングベルト16の張力を調整することが可能となる。そして、この場合の調整作業においては、従来構成のような固定ねじ等のねじ部材の締め付け作業を省略できるため、そのようなねじ部材の締め付け作業に起因する僅かな張力のずれの発生を抑制することができる。したがって、複数の回転体である駆動プーリー14及び従動プーリー15に掛け渡された無端状のタイミングベルト16の張力を容易に調整することができる。
【0035】
(2)カム部材21がカム面23に有する複数の平面部23a〜23eのうち当接部材としてのプーリーホルダー20の当接面部24に対して当接した状態にある平面部がタイミングベルト16の張力方向と直交した状態となるようにカム部材21を回転させると、その回転角度に応じた位置においてカム部材21及び従動プーリー15を移動規制した位置決め状態にできる。このため、張力調整後において従動プーリー15が駆動プーリー14に接近する方向に移動して張力が弛んでしまうことを抑制できる。
【0036】
(3)カム部材21が軸方向の両側から従動プーリー15を挟む各位置で各々が対応する当接面部24に当接するため、従動プーリー15の軸方向がぶれる虞を回避できる。このため、そのような従動プーリー15と駆動プーリー14との間に掛け渡された無端状のタイミングベルト16が捩れる虞も回避でき、より確実に且つ安定した状態で張力の調整をすることができる。
【0037】
(4)カム部材21の軸方向における前方側の端面25には、この軸方向と直交する方向に直線状に延びる溝部25aが形成されているため、マイナスドライバー等の器具を用いてカム部材21を容易に回動させて、タイミングベルト16の張力調整作業を容易に行うことができる。
【0038】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、カム部材21の軸方向両側にカム面23を設ける構成としたが、いずれか一方にカム面23を設ける構成を採用してもよい。
【0039】
・上記実施形態では、カム面23には、カム部材21の軸中心Oからの径方向の距離が異なる5つの平面部23a〜23eを設ける構成としたが、2つ以上(複数)の平面部を有する構成であればよい。また、複数の平面部でなく、カム部材21の軸中心Oからの距離が周方向において次第に異なる曲面(連続面)を有する構成としてもよい。
【0040】
・上記実施形態では、タイミングベルト16にて各プーリー14,15に掛け渡す無端状部材を構成したが、これに限らず、例えばチェーン状の部材にて無端状部材を構成してもよい。
【0041】
・上記実施形態では、張力調整装置Tをインクジェット式のプリンター1に備える構成としたが、これに限らない。要は駆動回転体としての駆動プーリー14及び従動回転体としての従動プーリー15に掛け渡される無端状のベルトやチェーンの張力を調整する必要がある器具において本実施形態の張力調整装置Tを用いる構成を採用してもよい。
【0042】
・上記実施形態では、従動回転体としての従動プーリー15を1つ設ける構成としたが、複数設ける構成を採用してもよい。この場合、少なくとも1つの従動プーリー15を前記カム部材21によって各プーリー14,15間の中央側に近接させたり、離間させたりする構成とすることで、各プーリー14,15に掛け渡されるベルトやチェーン等の駆動無端状部材の張力を調整することが可能となる。
【0043】
・上記実施形態では、駆動プーリー14を電動モーター17の駆動力によって駆動回転される構成としたが、これに限らず、例えば人力(手動)によって駆動プーリー14に駆動力を付与する構成を採用してもよい。
【0044】
・上記実施形態では、記録媒体としての記録用紙Pに記録処理を施すように構成したが、この記録用紙Pの代わりにプラスチックフィルムや金属の薄板などを記録媒体として用いてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、記録装置をインクジェット式プリンター1に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…プリンター(記録装置)、2…記録ヘッド(記録手段)、3…キャリッジ(搬送体)、14…駆動プーリー(駆動回転体)、15…従動プーリー(従動回転体)、16…タイミングベルト(無端状部材)、20…プーリーホルダー(当接部材)、21…カム部材、23…カム面、23a〜23e…平面部、24…当接面部(当接面)、L,L1〜L5…距離、M…搬送装置、O…軸中心、P…記録用紙(記録媒体)、T…張力調整装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力の付与に基づく駆動回転体の駆動回転に従って従動回転体が従動回転するように駆動回転体と従動回転体との間に掛け渡される無端状部材の張力を調整する張力調整装置であって、
前記従動回転体と同軸配置での回転が可能に設けられると共に、該従動回転体の軸中心からの径方向の距離が周方向において異なるカム面を有するカム部材と、
該カム部材のカム面と当接可能な当接面を前記従動回転体と前記駆動回転体との間となる位置に有する当接部材とを備え、
前記従動回転体及び前記カム部材をそれらの軸中心の位置が前記駆動回転体に対して接近及び離間する方向への移動自在となるように配置すると共に、前記当接部材を前記従動回転体と前記駆動回転体との間となる位置に固定配置したことを特徴とする張力調整装置。
【請求項2】
前記カム部材の前記カム面は、前記従動回転体の軸中心からの径方向の最短距離が各々異なる複数の平面部を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項3】
前記カム部材は、前記従動回転体の軸方向において該従動回転体を両側から挟む各位置にそれぞれ設けられると共に、各カム部材の前記カム面は該カム面に対応して設けられた前記当接面とそれぞれ当接するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の張力調整装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の張力調整装置と、該張力調整装置の前記無端状部材に連結されると共に該無端状部材の周回移動に伴い移動可能な搬送体とを備えたことを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項4に記載の搬送装置と、前記搬送体に設けられると共に記録媒体に対して記録処理を施す記録手段とを備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−57659(P2012−57659A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199069(P2010−199069)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】