説明

強化樹脂組成物

【課題】環境負荷の軽減を図り、繊維状フィラーの損傷や特性の低下を起こすことなく、マトリックス樹脂との濡れ性を向上させ、繊維状フィラーをマトリックス樹脂中に均一に分散させ、更に、マトリックス樹脂との密着性を向上させ、優れた機械的強度、耐熱性、耐久性、難燃性を有する成形体を得ることができる強化樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】繊維状フィラーとマトリックス樹脂とを含有する強化樹脂組成物であって、繊維状フィラーの表面官能基と少なくとも部分的に結合し、且つ、マトリックス樹脂と少なくとも部分的に結合する低分子量の生分解性有機化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性有機化合物を用いて繊維状フィラーをマトリックス樹脂に含有させた強化樹脂組成物に関し、更に詳述すれば、マトリックス樹脂に対する繊維状フィラーの濡れ性を向上させてその密着性を向上させ、優れた機械的強度、耐熱性、耐久性、難燃性等を有する成形体が得られる強化樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の強度や耐熱性などを向上させるために種々のフィラーが用いられている。特に、樹脂の機械的強度を向上させるには、物理的な補強効果の高い繊維状フィラーが有効であることが知られている。なかでも、炭素繊維は、ガラス繊維や有機繊維に比べ、引っ張り強度や弾性率等の物性が非常に優れており、耐熱性や耐薬品性も高く、軽量で毒性等の環境影響も少ないことから、実用性に優れた材料として注目されている。
【0003】
このように、炭素繊維は、樹脂の機械的強度の向上に優れた効果が期待される一方で、樹脂中に分散しにくいという欠点がある。これは、炭素繊維同士が非常に絡み合い易く、強力な2次凝集体を形成するためであり、このため、繊維状フィラー本来の補強効果が得られなくなるだけでなく、樹脂の流動性が大きく低下する原因となる。
【0004】
このような炭素繊維の凝集を防止する目的で、炭素繊維の表面を改質し、樹脂との親和性を高める方法が提案されている。すなわち、樹脂との濡れ性を高めることによって、樹脂中に分散させ易くする方法である。例えば、特許文献1によれば、炭素繊維を硝酸等の酸化性の強い酸で処理し、表面に酸素含有基を形成させることにより、マトリックス樹脂に対する濡れ性を向上させている。また、特許文献2には、気相中で炭素繊維を熱処理し、その表面に極性官能基を形成させることで、樹脂との親和性を改善する方法が開示されている。このような官能基の付与は、樹脂との化学親和性に乏しい不活性な表面の炭素繊維に対しては、非常に有効な手段となる。
【0005】
一方、特許文献3には、炭素繊維表面に、スチレンやアクリレート等の有機化合物をグラフト化することにより、樹脂との親和性を高める方法が開示されている。この方法によれば、上述の酸化処理のような炭素繊維の構造への損傷がないため、炭素繊維本来の特性を有効に引き出せることが記されている。
【0006】
しかし、上記で挙げた特許文献1〜3の方法には、いくつかの問題がある。特許文献1の湿式処理法は、炭素繊維中への薬液の浸透により内部構造までが損傷を受け、繊維自体の強度が低下するという問題がある。また、処理後の残留薬液や電解質等により樹脂特性への影響や品質低下の問題もあり、さらに廃液の問題なども挙げられる。
【0007】
特許文献2の方法は、気相中で炭素繊維を加熱処理するという簡易な方法であるため、洗浄や乾燥といった後処理が不要で、工業的に有利というメリットがあるものの、表面の酸化状態や官能基の制御が難しく、単独では充分な効果が得られないこともあり、湿式酸化処理の併用が必要になっている。
【0008】
また、特許文献3の方法は、低分子量の有機化合物により炭素繊維の表面を修飾するものであり、樹脂との親和性向上の点では非常に有効と考えられるが、その修飾量や修飾位置の不均一性のために必ずしも効果が充分でなかったり、修飾する有機化合物の種類や条件によっては逆効果の場合が認められたりし、実用的にも操作が煩雑で工業化は難しいという問題があった。
【0009】
更に、炭素繊維表面に存在する官能基と反応可能な官能基を有するビニル系重合体で表面を修飾し、さらに、このビニル系重合体が有する官能基と反応可能な官能基と、マトリックス樹脂と反応可能な官能基を有する化合物を用いて、炭素繊維とマトリックス樹脂との密着性を向上された炭素繊維(特許文献4)が報告されている。しかしながら、炭素繊維とマトリックス樹脂とは、ビニル系重合体と、化合物と2つの化合物を介して結合を図っており、炭素繊維とマトリックス樹脂とをより簡単に密着させることができる技術の要請がある。
【0010】
ところで、近年、プラスチックが微生物等の分解を受けないことによる廃棄プラスチックによる環境問題に対処するため、生分解性ポリマーの開発が進められている。しかしながら、これらの生分解性ポリマーを用い、環境負荷の軽減を図り、機械的強度を向上させた強化樹脂を容易に得る方法は知られていない。
【特許文献1】特開平11−256467号公報
【特許文献2】特開2004−238779
【特許文献3】特開2005−28421
【特許文献4】特開2004−316021
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、環境負荷の軽減を図り、繊維状フィラーの損傷や特性の低下を起こすことなく、マトリックス樹脂との濡れ性を向上させ、繊維状フィラーをマトリックス樹脂中に均一に分散させ、更に、マトリックス樹脂との密着性を向上させ、優れた機械的強度、耐熱性、耐久性、難燃性を有する成形体を得ることができる強化樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み、繊維状フィラーと樹脂との界面相互作用に着目し、機械的強度等との関係を詳しく調べた結果、フィラー表面の官能基やこれと結合する分子化合物の性質、分子量、含有量、結合状態等を備えた化合物を生分解性有機化合物から選択することにより、繊維状フィラーと樹脂との密着性を向上させることができることを見い出した。特に、特定の気相熱処理を施して所望の表面状態を形成させた繊維状フィラーを用いることにより、繊維状フィラーの損傷や特性を低下させることなくフィラーの分散性を著しく向上させることができ、かかる繊維状フィラーと、特定の分子構造及び分子量を有する生分解性有機化合物とを用いることにより、これらとマトリックス樹脂との強力な相互作用により、界面の密着性を充分に保つことができ、従来に比べて機械的強度を著しく向上させることが可能であることの知見を得た。これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、繊維状フィラーとマトリックス樹脂とを含有する強化樹脂組成物であって、繊維状フィラーの表面官能基と少なくとも部分的に結合し、且つ、マトリックス樹脂と少なくとも部分的に結合する低分子量の生分解性有機化合物を含むことを特徴とする強化樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の強化樹脂組成物によれば、環境負荷の軽減を図り、繊維状フィラーの損傷や特性の低下を起こすことなく、マトリックス樹脂との濡れ性を向上させ、繊維状フィラーをマトリックス樹脂中に均一に分散させ、更に、マトリックス樹脂と密着性を向上させ、優れた機械的強度、耐熱性、耐久性、難燃性を有する成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の強化樹脂組成物は、繊維状フィラーとマトリックス樹脂とを含有する強化樹脂組成物であって、繊維状フィラーの表面官能基と少なくとも部分的に結合し、且つ、マトリックス樹脂と少なくとも部分的に結合する低分子量の生分解性有機化合物を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の強化樹脂組成物に用いられる繊維状フィラーとしては、繊維状であればよく、種々の材料を用いることができる。具体的には、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維のような無機材料や木粉、紙粉、竹粉、ケナフなどの天然由来の有機材料の中から選ばれる繊維を用いることができる。これらのうち、樹脂成形体に強度、弾性率等の優れた機械的強度、耐熱性、難燃性や、耐久性、耐薬品性を付与することができ、軽量であり、環境負荷の軽減を図ることができる炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、カーボンナノチューブを含むものを好ましいものとして挙げることができる。
【0017】
上記繊維状フィラーは、気相熱酸化処理することにより、繊維状フィラーの表面に官能基を導入したものであることが好ましい。繊維状フィラーの気相熱酸化処理を行うことにより、繊維状フィラー自体の強度や弾性率を高めることができ、その上、溶液中で行う処理と比較して穏やかな酸化方法であるため、繊維状フィラーの内部構造の損傷や特性の低下を抑制し、表面のみに生分解性有機化合物と反応性を有する官能基を導入することができる。
【0018】
上記気相熱酸化処理としては、繊維状フィラーを酸素濃度15質量%以上の気相酸化雰囲気中で行うことが、高温での処理を不要とし、効率よく繊維状フィラー表面の酸化を行うことができることから好ましい。一方、気相酸化雰囲気の酸素濃度は、繊維状フィラーの内部構造の酸化分解の進行を抑制し、その損傷を抑制するため、30質量%以下であることが好ましい。気相酸化雰囲気としては、酸素濃度が20質量%前後の大気雰囲気が、酸素濃度の管理が容易であり好ましい。
【0019】
更に、上記気相熱酸化処理は、繊維状フィラーに導入する官能基に応じて、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、アンモニア等の気体が存在する雰囲気中で行うこともできる。
【0020】
上記気相熱酸化処理温度としては、300〜800℃の範囲が好ましく、より好ましくは350〜500℃の範囲である。気相酸化雰囲気の温度が300℃以上であれば、効率よく繊維状フィラーの酸化を進行させることができ、800℃以下であれば、繊維状フィラーの内部構造の酸化分解の進行を抑制し、その損傷を抑制することができる。
【0021】
上記繊維状フィラーの気相熱酸化処理時間としては、0.5〜2時間を挙げることができる。この気相熱酸化処理時間が0.5時間以上であれば、繊維状フィラーの表面への官能基導入を充分に行うことができ、2時間以下であれば、フィラーの内部構造まで酸化が進行し、繊維状フィラーの内部構造の酸化分解の進行を抑制し、繊維状フィラー自体の機械的強度の低下を抑制することができる。
【0022】
上記気相熱酸化処理により得られる繊維状フィラーは、その酸化処理によって、当該表面に酸素含有官能基が付与される。ここで、酸素含有官能基としては、カルボキシル基、フェノール基、カルボニル基、ラクトン基等を挙げることができる。このような官能基を有する繊維状フィラーは、マトリックス樹脂に対する濡れ性が高まるばかりでなく、生分解性有機化合物との結合に好適な表面を形成することができる。
【0023】
本発明の強化樹脂組成物における生分解性有機化合物は、上記繊維状フィラー表面に導入された官能基と反応性を有する官能基と、マトリックス樹脂と反応性を有する官能基とを有するものから選ばれる。このような生分解性有機化合物は、繊維状フィラーとマトリックス樹脂の間でカップリング剤の役割を果たすため、それぞれの結合によって各成分間の相互作用が高められ、優れた界面強度が得られる。このような生分解性有機化合物の、繊維状フィラーとマトリックス樹脂とのそれぞれに対する相互作用により、良好な界面の密着性が得られるばかりでなく、樹脂成形体に特有の伸びや粘りのような強度特性が付与される。
【0024】
生分解性有機化合物とマトリックス樹脂との結合、生分解性有機化合物と繊維状フィラーとの結合の形態としては、共有結合、配位結合、水素結合、イオン結合、ファン・デル・ワールス結合等の化学結合に加え、物理結合、静電吸着、疎水性相互作用、磁性吸着、幾何学的要因による接合等のいずれであってもよい。何れの場合においても、相互作用の向上により、優れた強度特性が得られる。
【0025】
かかる生分解性有機化合物としては、具体的には、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、酢酸セルロース、澱粉樹脂等のバイオマス由来樹脂や、これらの誘導体を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)は強度向上の点で特に好ましい。これらのバイオマス由来樹脂を用いることにより、環境負荷を大幅に削減できる効果が得られる。
【0026】
ここで、バイオマス由来樹脂とは、バイオマスを原料として作られる樹脂を主成分に含む樹脂のことをいい、これらの誘導体とは、分子構造の一部が、他の化合物や官能基で置換あるいは変性されたものをいう。
【0027】
上記生分解性有機化合物は、重量平均分子量が4000〜70000であることが好ましく、より好ましくは10000〜30000が好適である。重量平均分子量が4,000以上であれば、表面改質の効果を得て、マトリックス樹脂との濡れ性が十分となる。また、重量平均分子量が70000以下であれば、生分解性有機化合物同士の凝集力が増加するのを抑制し、分散性が低下するのを抑制することができる。4000〜10000であることが、繊維状フィラー間、マトリックス樹脂間との界面の密着性を向上させ、強度の向上を図ることができることから、好ましい。
【0028】
上記生分解性有機化合物は、繊維状フィラーに対し10〜50質量%の範囲で結合されることが好ましく、より好ましくは30〜40質量%である。生分解性有機化合物の結合量が10質量%以上であれば、マトリックス樹脂への繊維状フィラーの濡れ性が十分となり、50質量%以下であれば、繊維状フィラーをその凝集を抑制してマトリックス樹脂へ均一分散させることが容易になる。
【0029】
上記生分解性有機化合物及び繊維状フィラーは、樹脂組成物の総量に対して0.5質量%以上30質量%以下で含有されることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%である。生分解性有機化合物及び繊維状フィラーの含有量が0.5質量%以上であれば、樹脂成形体において機械的強度効果を得ることができ、30質量%以下であれば、繊維状フィラーをその凝集を抑制してマトリックス樹脂中へ均一分散させることが容易になり、樹脂成形体において強化効果を得ることができる。
【0030】
本発明の強化樹脂組成物に用いられるマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性、これらの混合物またはアロイ等いずれでもよく、樹脂成形分野における汎用樹脂を適用することができる。
【0031】
上記熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル(LCP)等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテンー1(PB−1)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール(ノボラック型など)フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂や、これらの共重合体、変性体、又は2種類以上ブレンドした樹脂であってもよい。
【0032】
上述した熱可塑性樹脂は、本発明の強化樹脂組成物を用いて成形する成形体に要求される特性に応じて、特定のものを選択して用いることができる。具体的には、例えば、ポリエステル樹脂は、耐熱性、耐摩擦性、耐薬品性、加工性等の実用面での特性に優れているばかりでなく、種々のフィラーや他の樹脂との配合が容易であるとの特性を有し、これらの特性が要求される成形体用としてのマトリックス樹脂として好適である。
【0033】
更に、生分解性のポリエステル樹脂として知られるポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、酢酸セルロース、澱粉樹脂等のバイオマス由来樹脂及びこれらの誘導体は、微生物により分解され、環境負荷を大幅に削減できる特性を有し、マトリックス樹脂として好ましい。特に、ポリ乳酸は強度向上の点から好ましい。これらのポリエステル樹脂は、他の熱可塑性樹脂と任意に混合して用いることができる。
【0034】
上記熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、又は、2種類以上ブレンドした樹脂を使用することができる。
【0035】
また、上記樹脂と共に、耐衝撃性向上のために、エラストマーや、ゴムを用いることができる。エラストマーとしては、EPRやEPDMのようなオレフィン系エラストマー、スチレンとブタジエンの共重合体からなるSBR等のスチレン系エラストマー、シリコン系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ブタジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ナイロン系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、天然ゴム、これらのエラストマーに反応部位(二重結合、無水カルボキシル基等)を導入した変性物を挙げることができる。
【0036】
また、上記強化樹脂組成物には、上記組成物の機能を損なわない範囲で、目的に応じて、各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、補強剤、難燃剤、発泡剤、劣化防止剤、耐熱性向上剤、耐光剤、加工安定剤、防かび剤、可塑剤等を挙げることができる。補強剤としては、マイカやタルク等の充填剤、アラミドやポリアリレート等の有機繊維やガラス繊維、更にケナフのような植物繊維を使用することができる。また、難燃剤としては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、メラミンやイソシアヌル酸化合物等の窒素系難燃剤、リン酸化合物等のリン系難燃剤等を挙げることができる。その他、種々の無機系あるいは有機系結晶核剤、酸化チタン等の着色剤、ラジカルトラップ剤、酸化防止剤、加水分解抑制剤等の安定剤、銀イオン等の抗菌剤を、適宜、配合することができる。
【0037】
上記強化樹脂組成物を製造する方法としては、まず、表面に官能基を導入した繊維状フィラーと上記生分解性有機化合物とを結合させ、これとマトリックス樹脂とを混合する方法を挙げることができる。
【0038】
上記生分解性有機化合物と繊維状フィラーとを結合する方法としては、上記気相熱酸化処理等により官能基を導入した炭素繊維の存在下で、生分解性有機化合物のモノマーを重合させる方法を挙げることができる。また、上記生分解性有機化合物が共重合体である場合、単量体重合体を得た後、上記気相熱酸化処理等により官能基を導入した繊維状フィラーの存在下において、共重合を行い、繊維状フィラーの結合した生分解性有機化合物を得る方法を挙げることができる。かかる重合方法としては、開環重合法、直接重縮合法、ラジカル重合法等の重合方法を用いることができる。これらのうち、重合後の後処理や工程が容易な直接重縮合方法は、作業工程をより簡易化できるため、工業的にも有利である。
【0039】
生分解性有機化合物と繊維状フィラーとの結合体とマトリックス樹脂との混合は、例えば、ハンドルミキシングによる混合に加え、公知の混合機、例えば、タンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸や多軸混合押出機、ロール等による溶融混合を用いることができる。これらの中で、タンブルーミキサー、リボンブレンダー、単軸押出機等の比較的混合力が弱いものを用いることにより、混合中における繊維状フィラーの破断や粉砕が抑制され本来の機械的強度を有する繊維状フィラーを含む強化樹脂組成物を製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の強化樹脂組成物を、具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
[炭素繊維の気相酸化処理]
繊維状フィラーとして炭素繊維(VGCF:昭和電工社製)(平均径150nm、アスペクト比100〜200)を、大気雰囲気中で350℃、1時間加熱して酸化処理し、表面に酸素含有官能基を形成させた。炭素繊維の表面を、X線光電子分光法(ESCA)分析することにより、酸素含有官能基が形成していることを確認した。炭素繊維のSEM画像を図1に示す。
【0042】
[炭素繊維と生分解性有機化合物の結合]
容量500mlのフラスコにコハク酸(関東化学製)118g(1mol)と、1,4−ブタンジオール(関東化学製)108g(1.2mol)とを仕込み、脱水触媒として塩化すず(II)二水和物(ナカライ製)0.67gとp−トルエンスルホン酸(ナカライ製)0.57gとを添加し、攪拌下、オイルバス温度190℃〜250℃で、10〜30Torrまで減圧し脱水反応を行った。同条件で更に攪拌を5時間行い、PBSを得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により求めた重量平均分子量(Mw)は4000であった。
【0043】
容量300mlのフラスコに、得られた炭素繊維5gとPBS30gとを仕込み、徐々に減圧し10torrにした。更に、オイルバスの温度を190℃まで昇温し、PBSを完全に溶融させた後、攪拌しながら5時間反応を行った。反応終了後、得られた生成物を室温に戻し、ソックスレー抽出器(クロロフォルム溶媒中)により十分洗浄した。洗浄により炭素繊維表面上に結合していない未反応PBSを完全に除去した。引続き、生成物を60℃に設定した減圧乾燥機で24時間乾燥させ、PBSが結合した炭素繊維を得た。
【0044】
得られたPBSが結合した炭素繊維をクロロフォルム溶出液、ポリスチレン標準分析により炭素繊維から分離したPBSの重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津社製)により測定したところ、10000程度であった。更に、電子顕微鏡SEM(日立社製)観察により炭素繊維表面に結合したPBSを確認した。PBS結合炭素繊維の表面のSEM画像を図2に示す。熱重量分析装置(TGA(島津製))により求めた炭素繊維表面に結合したPBSの重量比は、炭素繊維に対し40質量%であった。
【0045】
[成形体の調製]
得られたPBS結合炭素繊維をポリ乳酸(PLA、ユニチカ製、テラマック)に1質量%で配合し、185℃の条件で2軸混練機(MiniLab:Haake社製)を用いて溶融混練し、得られた強化樹脂組成物を、ホットプレス機により180℃の温度条件下で圧縮成型し、70mmx 20mm x 2mmの平板サンプルを得た。更に、この、サンプルを110℃で2時間加熱し十分結晶化させ試験片とした。
【0046】
[成形体の機械的強度の評価]
得られた試験片について、JIS7203に準拠した方法により、平板3点曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率について評価した。結果を表2に示す。更に、試験片の破断断面のSEM画像を図3に示す。
【0047】
[実施例2、3]
PBS結合炭素繊維のポリ乳酸への配合量を、表1に示すように、それぞれ3質量%、5質量%に変えたこと以外は、実施例1と同様に試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
[比較例1〜3]
熱酸化処理を行わない炭素繊維をそのまま用い、ポリ乳酸への配合量を、表1に示すように用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
[比較例4]
熱酸化処理、その後の生分解性有機化合物の結合反応に替えて、体積比が硝酸(98%):硫酸(70%)=3:1(括弧内は濃度(質量)を示す。)の強酸による酸化処理(70℃、1時間)を行った炭素繊維を用いた他は、実施例3と同様に試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
[比較例5]
炭素繊維とPBSを添加せず、PLLA単独の試験片を実施例1と同様に調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
[実施例4]
容量500mlのフラスコにε−カプロラクトン(関東化学製)100gとエチレングリコール(関東化学製)2gとを仕込み、触媒としてオクチル酸すず(ナカライ製)0.03gを添加し、攪拌下、オイルバス温度150℃で、10torrまで減圧し反応を行った。同条件で更に攪拌を5時間行い、PCLを得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により求めた重量平均分子量(Mw)は6000であった。
【0052】
得られたPCLを用い、PBSをPCLに替え、炭素繊維を5質量%、反応温度を190℃から150℃に替えた他は、実施例1と同様にしてPCL結合炭素繊維を得た。得られたPCL結合炭素繊維のPCLの重量平均分子量を実施例1と同様にして測定したところ、12000程度であった。
【0053】
得られたPCL結合炭素繊維をポリ乳酸への配合量を5質量%として用いた以外は、実施例1と同様にして、マトリックス樹脂と混合し、強化樹脂組成物を得て、試験片を作製した。得られた試験片について、実施例1と同様に機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
[実施例5]
炭素繊維の気相酸化処理における大気雰囲気中の温度を500℃に変更したこと以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
[実施例6、7]
炭素繊維の気相酸化処理における大気雰囲気中の温度を500℃に変更し、PBS結合炭素繊維のポリ乳酸への配合量を、表1に示すように、それぞれ3質量%、5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様に試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
[実施例8、9]
PBS結合炭素繊維のポリ乳酸への配合量を、表1に示すように、それぞれ3質量%、5質量%に変更したこと以外は、実施例4と同様に試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
[実施例10]
炭素繊維の気相酸化処理における大気雰囲気中の温度を500℃に変更したこと以外は、実施例4と同様に試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
[比較例6]
気相酸化処理を行った炭素繊維をそのまま、ポリ乳酸への配合量を5質量%として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
[比較例7]
気相酸化処理における大気雰囲気中の温度を500℃に変更して得られた炭素繊維をそのまま、ポリ乳酸への配合量を5質量%として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を調製し、試験片の機械的強度の評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
結果から、実施例1〜10では、生分解性有機化合物を用いない比較例1〜7に比べて、機械的強度が大きく改善された。その理由としては、繊維状フィラーの損傷や特性を低下させることなく繊維状フィラーの分散性を著しく向上でき、さらに繊維状フィラーと生分解性有機化合物とマトリックス樹脂との強力な相互作用により、界面の密着性が向上されたと考えられる。
【0063】
また、強酸処理を行った炭素繊維を用いた比較例4では、機械的強度が低下した。その原因としては、強酸処理では炭素繊維自体の損傷が生じ強度が著しく低下したことが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の強化樹脂組成物の一例である実施例1の炭素繊維のSEM画像を示す図である。
【図2】本発明の強化樹脂組成物の一例である実施例1のPBS結合炭素繊維のSEM画像を示す図である。
【図3】本発明の強化樹脂組成物の一例である実施例1のPBS結合炭素繊維強化樹脂組成物を用いて得られた試験片のSEM画像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状フィラーとマトリックス樹脂とを含有する強化樹脂組成物であって、繊維状フィラーの表面官能基と少なくとも部分的に結合し、且つ、マトリックス樹脂と少なくとも部分的に結合する低分子量の生分解性有機化合物を含むことを特徴とする強化樹脂組成物。
【請求項2】
繊維状フィラーの表面官能基が、繊維状フィラーを気相熱酸化処理して得られる酸素含有基であることを特徴する請求項1記載の強化樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱酸化処理が、大気雰囲気中で行う処理であることを特徴する請求項2記載の強化樹脂組成物。
【請求項4】
繊維状フィラーと生分解性有機化合物との結合、生分解性有機化合物とマトリックス樹脂との結合が共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合、分子間力や磁力による物理結合、幾何学的要因による結合から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項5】
繊維状フィラーが、炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項6】
生分解性有機化合物が、重量平均分子量が4000〜70000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項7】
生分解性有機化合物が、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、酢酸セルロース、澱粉樹脂又はこれらの変性物のいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項8】
生分解性有機化合物が、ポリブチレンサクシネート又はポリカプロラクトンのいずれか1種又は2種を含むことを特徴とする請求項7記載の強化樹脂組成物。
【請求項9】
生分解性有機化合物が、繊維状フィラーに対して10質量%以上50質量%以下の範囲で用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項10】
生分解性有機化合物及び繊繊維状フィラーが、樹脂組成物の総量に対して0.5質量%以上30質量%以下で含有されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項11】
マトリックス樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項12】
マトリックス樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシアルカノエート、酢酸セルロース、又は澱粉樹脂のいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の強化樹脂組成物。
【請求項13】
マトリックス樹脂が、ポリ乳酸を含むことを特徴とする請求項12記載の強化樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274228(P2008−274228A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53304(P2008−53304)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】