説明

弾性波フィルタ装置

【課題】整合回路をパッケージ内に備え、低背で気密性の高い弾性波フィルタ装置を構成する。
【解決手段】弾性波フィルタ装置101は、弾性波素子60、ベース基板50、バンプ72,73、気密封止枠71、外装樹脂80を備えている。弾性波フィルタ装置101は、複数の弾性表面波フィルタで構成され、圧電基板の一方の主面上にインター・ディジタル・トランスデューサ電極(IDT電極)と、このIDT電極に接続される配線電極が設けられている。また、圧電基板の外周には、全周にわたってlDT電極や配線電極を取り囲むように気密封止枠71が設けられている。ベース基板50は、上部がセラミック基板40、下部が樹脂基板30で構成されている。ベース基板50の下部をなす樹脂基板30の内部には、整合回路を構成する導体パターン33、底面には.実装端子34,35がそれぞれ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性波フィルタ装置、特にパッケージ構造に特徴を有する弾性波フィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に弾性表面波素子を備え、外装部材の気密性を高めた弾性表面波装置が特許文献1に開示されている。図1は、この特許文献1に示されている弾性表面波装置の断面図である。
図1において、弾性表面波装置1は、弾性表面波素子2、ベース基板3、ハンダバンプ部材4、ハンダ接合部材5、外装部材6を備えている。弾性表面波素子2は、圧電基板20の一方主面上に図示しないインター・ディジタル・トランスデューサ電極(IDT電極)が形成され、さらに、このIDT電極と接続する接続電極8が形成されている。また、圧電基板20の外周には全周にわたって、IDT電極や接続電極8を取り囲むように環状の外周封止電極9が形成されている。
【0003】
ベース基板3は、ガラスーセラミック材料などの多層基板で構成されていて、表面に、弾性表面波素子2の接続電極8と対向する素子接続用電極10、及び外周封止電極9と対向する環状の外周封止導体膜11が形成されている。また、ベース基板3の底面には、外部端子電極12が形成されていて、素子接続電極10と外部端子電極12とはビアホール導体13を含む内部配線パターンで接続されている。
【0004】
弾性表面波素子2は、接続電極8とベース基板3の素子接続用電極10とをハンダバンプ部材4によって、弾性表面波素子2の一方主面とベース基板3の表面との間に所定の空隙を形成すると同時に電気的接続を行う。また、外周封止電極9と外周導体膜11とをハンダ接合部材5によって接合することで、弾性表面波素子2の一方主面とベース基板3の表面との間の空隙を封止し、空隙内部を気密に保つ。
【0005】
一方、弾性表面波フィルタとインピーダンス整合回路とを備えた分波器が特許文献2に開示されている。特許文献2の分波器では、送信側フィルタ、受信側フィルタ、及びそれぞれのインピーダンス整合回路で構成されていて、インピーダンス整合回路を小型化するためにアルミナセラミックス製のパッケージ内に設けられている。
【特許文献1】特開2004−207665号公報
【特許文献2】特開平6−310979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1,2に示されているような従来の弾性波フィルタ装置においては、低背化を実現し、気密性を確保し、且つ整合回路をパッケージ内に設ける場合に、次のような問題が生じる。
【0007】
アンテナ位相整合回路は、概ね50Ωに設計する必要がある。そして、気密性を確保するためにセラミック製のパッケージを用いると、パッケージの誘電率が比較的大きいために、50Ωの特性インピーダンスを得るためには、パッケージを厚くする必要があり、低背化を実現することは困難となる。
【0008】
低背化のためには整合回路を構成する素子のライン幅を細くすればよいが、精度の問題から数10μm幅のラインを作成することは困難であり、結果として、基板を厚くしないと所定のインピーダンスが得られない。
また、素子のライン幅を細くするために、パッケージに樹脂基板を用いると、気密性が問題となる。
【0009】
このようなことから、従来構造では、低背化し、気密性を確保し、且つ整合回路をパッケージ内に設ける、といったことは困難であった。また、セラミック製のパッケージ内の電極は、厚み、幅ともにバラツキやすく、所望のインピーダンスを得ることが困難であった。特に、50Ωのインピーダンス線路を形成する場合には、線路のグランドを配置する必要があり、また漏れ分を低減させるとともにインピーダンスを安定化させるために、線路の上下面にグランド面を配置するのが好ましい。このときに如何に小さく、損失が少ない線路を形成するかが課題となる。
【0010】
この発明の目的は、整合回路をパッケージ内に備え、低背で気密性の高い弾性波フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、この発明の弾性波フィルタ装置は、次のように構成する。
(1)上部側がセラミック基板、下部側が樹脂基板で構成されたベース基板と、一方の主面に励振部が設けられた弾性波素子とを備え、前記セラミック基板に前記弾性波素子を実装し、前記樹脂基板に、前記弾性波素子に対する付加回路を内蔵する。
【0012】
このように、気密を保つ部分をセラミック基板、整合回路を形成する部分を樹脂基板で構成する。すなわち、弾性表面波素子がフリップチップ実装されるベース基板の上部をセラミック基板、下部を樹脂基板で構成する。誘電率が小さく、微細加工ができる樹脂基板を用いることにより、所定のインピーダンス線路を薄いパッケージ内に構成することができ、且つ、弾性表面波素子の実装面をセラミックス基板とすることにより、整合回路をパッケージ内に備えた、低背で気密性の高い弾性波フィルタ装置が構成できる。
【0013】
(2)前記セラミック基板の表面にキャビティを備え、該キャビティ内に前記弾性波素子を実装する。
これにより、弾性波素子の厚み分の影響を受けることなく、弾性波フィルタ装置を低背化できる。
【0014】
(3)前記付加回路は、前記弾性波素子に接続される整合回路を構成する線路、インダクタ素子、または容量素子を備える。
これにより、インピーダンス整合回路を内蔵した弾性波フィルタ装置が構成できる。
【0015】
なお、この発明に係る「弾性波フィルタ装置」は、弾性表面波フィルタ素子、弾性境界波フィルタ素子を含む。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、誘電率が小さく、微細加工ができる樹脂基板を用いることにより、所定のインピーダンス線路を低背で作成することができ、且つ、弾性表面波素子の実装面をセラミックス基板とすることにより、整合回路をパッケージ内に備え、低背で気密性の高い弾性波フィルタ装置が構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る弾性波フィルタ装置101について図2〜図4を参照して説明する。
図2(A)は、後に示す図2(B)中の一点鎖線を通る面での、弾性波フィルタ装置101の断面図である。弾性波フィルタ装置101は、弾性波素子60、ベース基板50、バンプ72,73、気密封止枠44,71、外装樹脂80を備えている。弾性波フィルタ装置101は、複数の弾性表面波フィルタで構成され、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、水晶などの圧電基板の一方の主面上に、IDT電極(インター・ディジタル・トランスデューサ電極)61と、このIDT電極61に接続される配線電極が設けられて、弾性表面波素子が構成されている。このIDT電極61が本発明の「励振部」に相当する。また、IDT電極61の形成面の外周には、全周にわたってlDT電極や配線電極を取り囲むように気密封止枠71が設けられている。
【0018】
前記IDT電極61及び配線電極は、例えばAl,Cuなどで構成され、通常のフォトリソグラフィ技術によって形成される。なお、弾性表面波素子以外に弾性境界波素子を構成してもよい。
【0019】
ベース基板50は、上部が例えばガラス−セラミック材料で構成されたセラミック基板40、下部が例えばエポキシ樹脂材料で構成された樹脂基板30で構成されている。また、ベース基板50の上部をなすセラミック基板40の表面には、素子接続用電極(電極パッド)41,42及び矩形状で環状の気密封止枠44が形成され、ベース基板50の下部をなす樹脂基板30の内部には、整合回路を構成する導体パターン33、底面には.実装端子34,35がそれぞれ形成されている。
【0020】
樹脂基板30の内部にはインピーダンス整合用の付加回路が構成されている。
また、樹脂基板30の内部の導体パターン33とセラミック基板40の表面の素子接続用電極41,42及び樹脂基板30の底面の実装端子34,35とはそれぞれビア電極36,37,43などの内部配線で接続されている。
【0021】
図2(B)は樹脂基板30の3つの層についての平面図である。図2(A)と図2(B)を対比すれば明らかなように、導体パターン33がグランド電極31,32で挟まれるように配置されていて、この導体パターン33とグランド電極31,32とによってストリップラインが構成されている。
【0022】
なお、前記導体パターン33以外にも導体パターンが形成されているが、図2(A)(B)では現れていない。
【0023】
図3は、第1の実施形態に係る弾性波フィルタ装置101の具体的な回路構成の例を示す図である。図3(A)の例では、送信フィルタTX、受信フィルタRX、及び付加回路であるインピーダンス整合用線路91を備えることによって弾性波フィルタ装置101Aを構成している。図3(B)の例では、送信フィルタTX、受信フィルタRX、及び付加回路であるインピーダンス整合用インダクタ92を備えることによって弾性波フィルタ装置101Bを構成している。
【0024】
前記送信フィルタTX及び受信フィルタRXは、図2に示した弾性波素子60によって構成されたものである。また、前記インピーダンス整合用線路91またはインピーダンス整合用インダクタ92は、図2に示した樹脂基板30に構成されたものである。
【0025】
前記インピーダンス整合用線路91は、例えば50Ωのλ/4位相回路で形成されている。
例えば800MHz帯において50Ωでλ/4の位相回路を形成する場合について考える。セラミック基板の比誘電率が8〜9、線幅加工限界が75μm程度であるとすると、50Ωでλ/4のストリップラインを形成するためには、電極の上下にあるグランド電極31,32間の間隔は0.36mm、長さは31mmとなる。
【0026】
一方、50Ωでλ/4の位相回路を樹脂基板に形成する場合、誘電率が4.5とほぼ半分になる効果に線幅加工の限界が50μm程度にまで改善される効果が加わり、グランド電極間の間隔は0.11mm、長さは44mmとなる。線路長は約1.5倍長くなるが、厚みが約1/3となって、低背化に対して非常に効果があることがわかる。
【0027】
なお、図3に示した例では、インピーダンス整合用の素子として線路またはインダクタを挙げたが、その他に容量素子を設けてもよい。
【0028】
図4は、図2に示した弾性波フィルタ装置101の製造方法について示す図である。
先ず、図4(A)に示すように、セラミック基板40の上面の周囲に気密封止枠44を形成する。セラミック基板40は比誘電率εr=8〜9のアルミナであり、気密封止枠71はハンダ等の金属材料を印刷することなどによってパターン形成する。
一方、樹脂基板30には、前記付加回路を構成しておく。
【0029】
次に、図4(B)に示すように、セラミック基板40に樹脂基板30を貼り合わせる。
その後、図4(C)に示すように、セラミック基板40上に弾性波素子60を実装する。すなわち、弾性波素子60に形成されているバンプ72,73をセラミック基板40の素子接続用電極41,42に接続する。また、弾性波素子60側の気密封止枠71をセラミック基板40側の気密封止枠44に半田等により接合する。
【0030】
このようにして、弾性波素子60の一方主面とセラミック基板40の表面との間に所定の空隙を形成すると同時に電気的接続を行う。また、気密封止枠44,71等によって、弾性波素子60の下面とセラミック基板40の上面との間の空隙を封止し、空隙内部を気密に保ち、湿気の侵入などによるIDT電極の劣化を防止する。
【0031】
その後、セラミック基板40の上面に外装樹脂80を被着形成する。
図4では、単一の弾性波フィルタ装置について示したが、実際には、樹脂基板30、及びセラミック基板40はそれぞれマザー基板の状態で接合し、図4(D)に示した外装樹脂80を被着した後に個別に分割する。
【0032】
《第2の実施形態》
第2の実施形態に係る弾性波フィルタ装置102について図5・図6を参照して説明する。
図5は弾性波フィルタ装置102の断面図である。弾性波フィルタ装置102は、弾性波素子60、ベース基板50、バンプ72,73、枠体81、蓋体82を備えている。この枠体81、蓋体82、及びセラミック基板40によってキャビティを構成している。弾性波フィルタ装置102は、複数の弾性表面波フィルタで構成され、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、水晶などの圧電基板の一方の主面上にインター・ディジタル・トランスデューサ電極(IDT電極)と、このIDT電極に接続される配線電極が設けられている。
【0033】
ベース基板50は、上部が例えばガラス−セラミック材料などで構成されたセラミック基板40、下部が例えばエポキシ樹脂材料で構成された樹脂基板30で構成されている。また、ベース基板50の上部をなすセラミック基板40の表面には、素子接続用電極(電極パッド)41,42が形成され、ベース基板50の下部をなす樹脂基板30の内部には、整合回路を構成する導体パターン33、底面には.実装端子34,35がそれぞれ形成されている。
第1の実施形態の場合と同様に、樹脂基板30の内部にはインピーダンス整合用の付加回路が構成されている。
【0034】
図6は、図5に示した弾性波フィルタ装置102の製造方法について示す図である。
先ず、図6(A)に示すように、セラミック基板40の上面に枠体81を形成する。
一方、樹脂基板30には、前記付加回路を構成しておく。
【0035】
次に、図6(B)に示すように、セラミック基板40に樹脂基板30を貼り合わせる。
その後、図6(C)に示すように、セラミック基板40上に弾性波素子60をフリップチップボンディングする。すなわち、弾性波素子60に形成されているバンプをセラミック基板40の素子接続用電極に接続する。
その後、枠体81の上面に蓋体82を被着形成する。
【0036】
このようにして、弾性波素子60の周囲をセラミック基板40、枠体81、及び蓋体82によって気密に保ち、湿気の侵入などによるIDT電極の劣化を防止する。
【0037】
図6では、単一の弾性波フィルタ装置について示したが、樹脂基板30、及びセラミック基板40をそれぞれマザー基板の状態で接合し、図6(D)に示した蓋体82を被着した後に個別に分割するようにしてもよい。
【0038】
以上に示した第1・第2の実施形態によれば、次のような効果を奏する。
・セラミックス基板と樹脂基板を接合したベース基板に、弾性波素子を実装することにより、気密性を確保するセラミックス基板を薄くしても、所定のインピーダンスを確保できる。
【0039】
・ベース基板に必要な強度を保つことができるため、製品高さを低くできる。
・整合回路を内蔵したデバイスを作成できるため、付加回路をつけた製品として検査ができる。
・セラミックス基板と樹脂基板の接合にバンプなどを用いることなく作成できるために低背化が可能となる。
・セラミック基板と樹脂基板とを同時にカットできるため、実装時のずれのマージンがなく、小型が可能となる。
・樹脂基板に付加回路の導体パターンを形成するので、断面形状が矩形で且つ微細なパターンを導電率のよい材料で形成できるので、小型でありながら低損失化が図れる。
・最外層が樹脂基板であるため、セラミック基板のみを用いる場合に比べて、割れや欠けなどが発生しにくい。
【0040】
なお、以上に示した実施形態では、セラミック基板は1層であったが、セラミック基板を2層以上設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】特許文献1に示されている弾性表面波装置の断面図である。
【図2】図2(A)は弾性波フィルタ装置101の断面図である。図2(B)は樹脂基板30の3つの層についての平面図である。
【図3】第1の実施形態に係る弾性波フィルタ装置101の具体的な回路構成の例を示す図である。
【図4】図2に示した弾性波フィルタ装置101の製造方法について示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る弾性波フィルタ装置102の断面図である。
【図6】図5に示した弾性波フィルタ装置102の製造方法について示す図である。
【符号の説明】
【0042】
101…弾性波フィルタ装置
101A…弾性波フィルタ装置
101B…弾性波フィルタ装置
102…弾性波フィルタ装置
30…樹脂基板
31,32…グランド電極
33…導体パターン
34,35…実装端子
36,37,43…ビア電極
40…セラミック基板
41,42…素子接続用電極
44…気密封止枠
50…ベース基板
60…弾性波素子
61…IDT電極
71…気密封止枠
72,73…バンプ
80…外装樹脂
81…枠体
82…蓋体
91…インピーダンス整合用線路
92…インピーダンス整合用インダクタ
RX…受信フィルタ
TX…送信フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部側がセラミック基板、下部側が樹脂基板で構成されたベース基板と、一方の主面に励振部が設けられた弾性波素子とを備え、前記セラミック基板に前記弾性波素子が実装され、前記樹脂基板に、前記弾性波素子に対する付加回路が内蔵されている弾性波フィルタ装置。
【請求項2】
前記セラミック基板の表面にキャビティを備え、該キャビティ内に前記弾性波素子が実装された、請求項1に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項3】
前記付加回路は、前記弾性波素子に接続される整合回路を構成する線路、インダクタ素子、または容量素子を備える、請求項1または2に記載の弾性波フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−118828(P2010−118828A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289721(P2008−289721)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】