説明

弾性波素子と、これを用いた共振器、フィルタ、及び電子機器

【課題】弾性波素子が境界波素子である場合に、バルク放射による損失を抑制する。
【解決手段】そして、この目的を達成するために本発明の弾性波素子6は、圧電基板7と、この圧電基板7の上に設けられた櫛歯電極8と、圧電基板7の上にこの櫛歯電極8を覆うように設けられた第1誘電体層9と、この第1誘電体層9の上に設けられた第2誘電体層10を備え、この第2誘電体層10を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは櫛歯電極8において励振される弾性波の速度Vより速く、かつ、櫛歯電極8において励振される弾性波の速度Vは、圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbより遅く、かつ、圧電基板7における回転Y板のカット角が15度以上25度以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波素子と、これを用いた共振器、フィルタ、及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の弾性波素子を図13を用いて説明する。図13は、従来の弾性波素子の断面模式図である。
【0003】
図13において、従来の弾性波素子1は、圧電基板2と、この圧電基板2の上に設けられた櫛歯電極3と、圧電基板2の上に櫛歯電極3を覆うように設けられた第1誘電体層4と、この第1誘電体層4の上に設けられた第2誘電体層5を備える。この第2誘電体層5を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは櫛歯電極3において励振される弾性波の速度Vより速くなるように、第2誘電体層5の材料は決定されていた。
【0004】
これにより、櫛歯電極3付近に励振される弾性波を閉じ込めることができ、その結果、境界波素子としての弾性波素子1を実現していた。
【0005】
なお、この出願に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2007−267366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の弾性波素子1において、第2誘電体層5を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは櫛歯電極3において励振される横波主体の弾性波の速度Vより速くなるように、第2誘電体層5の材料は決定されていたので、この第2の誘電体層5の影響を受け、櫛歯電極3において励振される横波主体の弾性波の速度Vが速くなっていた。その結果、櫛歯電極3において励振される横波主体の弾性波の速度Vが、圧電基板2を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbよりも速くなり、櫛歯電極3において励振される弾性波がバルク波として圧電基板2内に漏洩することで、弾性波素子1を共振子として用いたときの挿入損失の劣化を招いていた。即ち、弾性波素子1が第2誘電体層2を有する境界波素子である場合に、このバルク放射による損失が大きな問題となっていたのである。
【0007】
そこで本発明は、弾性波素子が境界波素子である場合に、バルク放射による損失を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、この目的を達成するために本発明の弾性波素子は、圧電基板と、この圧電基板の上に設けられた櫛歯電極と、圧電基板の上にこの櫛歯電極を覆うように設けられた第1誘電体層と、この第1誘電体層の上に設けられた第2誘電体層を備え、この第2誘電体層を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは櫛歯電極において励振される横波主体の弾性波の速度Vより速く、かつ、櫛歯電極において励振される横波主体の弾性波の速度Vは、圧電基板を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbより遅く、かつ、圧電基板における回転Y板のカット角が15度以上25度以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この構成により、櫛歯電極において励振される横波主体の弾性波の速度Vが、圧電基板を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbよりも遅くなり、櫛歯電極において励振される弾性波がバルク波として圧電基板内に漏洩することを抑制することができる。その結果、弾性波素子を共振子として用いたときの挿入損失の劣化を防止することができる。
【0010】
また、圧電基板における回転Y板のカット角を25度以下にすることにより、櫛歯電極において励振される横波主体の弾性波の結合係数を大きくすることができる。
【0011】
さらに、圧電基板における回転Y板のカット角を15度以上にすることにより、櫛歯電極において励振される伝搬方向と圧電基板の厚み方向の変位成分を主体とし、不要波として現れるSV(shear vertical)波の結合係数を小さくすることができ、スプリアス応答の少ない弾性波素子を実現することができる。
【0012】
すなわち、上記構成において、圧電基板における回転Y板のカット角を15度以上25度以下にすることにより、櫛歯電極において励振される横波主体の弾性波の結合係数の確保とスプリアス応答の抑制とを両立することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における弾性波素子について図面を参照しながら説明する。図1は、実施の形態1における弾性波素子の断面模式図である。
【0014】
図1において、弾性波素子6は、圧電基板7と、この圧電基板7の上に設けられた櫛歯電極8と、圧電基板7の上にこの櫛歯電極8を覆うように設けられた第1誘電体層9と、この第1誘電体層9の上に設けられた第2誘電体層10を備える。また、この弾性波素子6は、この第2誘電体層10を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vより速く、かつ、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vは、圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbより遅く、圧電基板7における回転Y板のカット角が15度以上25度以下であることを特徴としている。
【0015】
圧電基板7は、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、又はニオブ酸カリウムからなる。例えば、圧電基板7がニオブ酸リチウムの場合、圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbは、4024m/秒である。
【0016】
櫛歯電極8は、例えば、アルミニウム、銅、銀、若しくは金からなる単体金属、又はこれらを含む合金である。
【0017】
第1誘電体層9は、例えば、酸化ケイ素、5酸化タンタル、又は2酸化テルルである。ここで、第1誘電体層9として酸化ケイ素を用いることが望ましい。これは、酸化ケイ素の温度特性係数が圧電基板7の温度特性係数と逆の符号を持つため、温度特性補償効果を得ることができるからである。また、酸化ケイ素を伝搬する横波の速度は、圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbよりも遅いため、櫛歯電極8付近に励振される横波主体の弾性波の速度を効果的に下げることにより圧電基板7内へのバルク放射を抑制する効果も期待できる。
【0018】
第2誘電体層10は、例えば、窒化ケイ素、又は窒化アルミである。例えば、この第2誘電体層10が窒化ケイ素の場合、第2誘電体層10を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは、略6100m/秒である。これは櫛歯電極8により励振される横波主体の弾性波の速度Vよりも十分速く、更に、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の波長をλとすると、第2誘電体層10の厚みを1λ以上と十分に大きくすることで、第2誘電体層10の上面に変位を持たない境界波素子を実現しているのである。
【0019】
このような弾性波素子6において、第2誘電体層10を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vより十分速くなるように、第2誘電体層10の材料は決定されていたので、この第2の誘電体層10の影響を受け、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vが速くなっていた。そこで、従来の弾性波素子1のような挿入損失の劣化を抑制するために、実施の形態1の弾性波素子6は、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vが圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbより遅くなるという特徴を有している。
【0020】
これにより、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vが、圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbよりも遅くなり、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波がバルク波として圧電基板7内に漏洩することを抑制することができる。その結果、弾性波素子6を共振子として用いたときの挿入損失の劣化を防止することができる。
【0021】
櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vが圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbより遅くなる条件について、図2を用いて説明する。ここで、圧電基板7は、ニオブ酸リチウムであり、第1誘電体9は酸化ケイ素であり、第2誘電体10は、窒化ケイ素である。また、圧電基板7の回転Y板のカット角をθ、櫛歯電極8の密度の銅密度に対する比をa、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の波長をλ、櫛歯電極8の膜厚をh、第1誘電体層9の膜厚をHとする。図2の縦軸は、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の波長λによって規格化された第1誘電体層9の規格化膜厚H/λを示す。また、図2の横軸は、圧電基板7の回転Y板のカット角θである。
【0022】
シミュレーションによって櫛歯電極8により励振される横波主体の弾性波の速度Vと、圧電基板7内を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbとが同一である第1誘電体層9の規格化膜厚H/λと圧電基板7における回転Y板のカット角θの関係を求めた。図2に示す5本の直線は、例えば、各々電極膜厚hが0.09λ/a, 0.10λ/a, 0.11λ/a, 0.12λ/a, 0.13λ/aである場合の第1誘電体層9の規格化膜厚H/λと圧電基板7における回転Y板のカット角θの関係を一次方程式で線形近似したものである。すなわち、上記条件を満たす領域は、図2中に示す各々の直線の上側の領域となる。
【0023】
図2の5つの例示のように、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vが圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbより遅くなる条件は、
0.085λ/a<h<0.095λ/aの場合、H/λ>-0.0018θ+0.1909
0.095λ/a<h<0.105λ/aの場合、H/λ>-0.0014θ+0.1376
0.0105λ/a<h<0.115λ/aの場合、H/λ>-0.0013θ+0.1017
0.115λ/a<h<0.125λ/aの場合、H/λ>-0.0011θ+0.0754
0.125λ/a<h<0.135λ/aの場合、H/λ>-0.0009θ+0.0536
である。
【0024】
これらの条件を満たす圧電基板7の回転Y板のカット角θ、櫛歯電極8の膜厚h、第1誘電体層9の膜厚Hを採用することにより、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の速度Vが、圧電基板7を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbよりも遅くなり、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波がバルク波として圧電基板7内に漏洩することを抑制することができるのである。
【0025】
また、図3、図4、図5、図6、図7に、各々電極膜厚hが0.09λ/a, 0.10λ/a, 0.11λ/a, 0.12λ/a, 0.13λ/aである場合の櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の結合係数の第1誘電体層9の規格化膜厚H/λと回転Y板のカット角θに対する依存性を示す。これを見ると回転Y板のカット角を25度以下とすることで結合係数は略15%以上となることがわかる。このように、圧電基板7における回転Y板のカット角を25度以下にすることにより、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の結合係数を大きくすることができる。例えば、弾性波素子6をW−CDMA等の広い帯域を有するシステムに適用する場合、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の結合係数は略15%以上が望ましい。そこで、例えば、圧電基板7がニオブ酸リチウムであり、第1誘電体9が酸化ケイ素であり、規格化した第1誘電体9の膜厚が0.09λ〜0.11/aの場合、回転Y板のカット角を25度以下とすることで櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の結合係数を略15%以上とすることができるのである。
【0026】
また図8、図9、図10、図11、図12に各々電極膜厚hが0.09λ/a, 0.10λ/a, 0.11λ/a, 0.12λ/a, 0.13λ/aである場合の櫛歯電極8において励振される伝搬方向と圧電基板7の厚み方向の変位成分を主体とし、不要波として現れるSV波の結合係数の第1誘電体層9の規格化膜厚H/λと回転Y板のカット角θに対する依存性を示す。これを見ると回転Y板のカット角が高くなるほどSV波の結合係数は減少しており、スプリアスは抑制することができることがわかる。このように、圧電基板7における回転Y板のカット角を15度以上にすることにより、櫛歯電極8において励振される伝搬方向と圧電基板7の厚み方向の変位成分を主体とし、不要波として現れるSV波の結合係数を小さくすることができ、スプリアス応答の少ない弾性波素子を実現することができるのである。
【0027】
すなわち、上記構成において、圧電基板7における回転Y板のカット角を15度以上25度以下にすることにより、櫛歯電極8において励振される横波主体の弾性波の結合係数の確保とスプリアス応答の抑制とを両立することができるのである。
【0028】
また、このバルク放射による損失を抑制する弾性波素子6を共振器(図示せず)に適用しても構わないし、ラダー型フィルタもしくはDMSフィルタ等のフィルタ(図示せず)に適応しても構わない。さらに、弾性波素子6を、このフィルタと、フィルタに接続された半導体集積回路素子(図示せず)と、半導体集積回路素子(図示せず)に接続された再生装置とを備えた電子機器に適用しても良い。これにより、共振器、フィルタ、及び電子機器における信号損失を抑制することができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかる弾性波素子は、弾性波素子が境界波素子である場合に、バルク放射による損失を抑制するという効果を有し、携帯電話等の電子機器において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1における弾性波素子を示す断面模式図
【図2】同弾性波素子の特性を示す図
【図3】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図4】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図5】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図6】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図7】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図8】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図9】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図10】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図11】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図12】同規格化膜厚とカット角の関係を示す図
【図13】従来の弾性波素子を示す断面模式図
【符号の説明】
【0031】
6 弾性波素子
7 圧電基板
8 櫛歯電極
9 第1誘電体層
10 第2誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板の上に設けられた櫛歯電極と、
前記圧電基板の上に前記櫛歯電極を覆うように設けられた第1誘電体層と、
前記第1誘電体層の上に設けられた第2誘電体層を備え、
前記第2誘電体層を伝搬するバルク波のうち横波の速度Vsは前記櫛歯電極において励振される横波主体の弾性波の速度Vより速く、かつ、
前記櫛歯電極において励振される弾性波の速度Vは、前記圧電基板を伝搬するバルク波のうち最も遅い横波の速度Vbより遅く、かつ
前記圧電基板における回転Y板のカット角が15度以上25度以下である弾性波素子。
【請求項2】
前記圧電基板は、ニオブ酸リチウムであり、前記第1誘電体は酸化ケイ素である場合、
前記圧電基板の回転Y板のカット角をθ、前記櫛歯電極の密度の銅密度に対する比をa、前記櫛歯電極において励振される横波主体の弾性波の波長をλ、前記櫛歯電極の膜厚をh、前記第1誘電体層の膜厚をHとすると、
0.085λ/a<h<0.095λ/aの場合、H/λ>-0.0018θ+0.1909
0.095λ/a<h<0.105λ/aの場合、H/λ>-0.0014θ+0.1376
0.0105λ/a<h<0.115λ/aの場合、H/λ>-0.0013θ+0.1017
0.115λ/a<h<0.125λ/aの場合、H/λ>-0.0011θ+0.0754
0.125λ/a<h<0.135λ/aの場合、H/λ>-0.0009θ+0.0536
を満たす請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
請求項1の弾性波素子を用いた共振器。
【請求項4】
請求項1の弾性波素子を用いたフィルタ。
【請求項5】
請求項4に記載のフィルタと、
前記フィルタに接続された半導体集積回路素子と、
前記半導体集積回路素子に接続された再生装置とを備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−267904(P2009−267904A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116806(P2008−116806)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】