説明

弾性表面波デバイスおよびその製造方法

【課題】従来の弾性表面波デバイスでは、チップサイズを小型化すると、アイソレーション等の特性が劣化するという問題があった。
【解決手段】圧電基板12の表面に複数個の弾性表面波フィルタパターン13、14と対向する弾性表面波フィルタパターン13、14間に圧電基板12の表面から上方に延伸するように設けられたシールド電極16を備えた弾性表面波デバイスで、チップサイズを小型化してもアイソレーションの向上した弾性表面波デバイスが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に携帯電話等に用いられる、弾性表面波デバイスおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年携帯電話のマルチバンド化が進展し、弾性表面波デバイスに対しても、複数の周波数のフィルタを1つにしたマルチチャンネル化、弾性表面波を用いたアンテナ共用器(以下、SAWデュプレクサと呼称する)等の複合化、およびこれらの小型化への要望が強くなってきている。しかしながら小型化していくと複数のフィルタ間で電磁的な結合が生じ、アイソレーション等の特性が劣化するという問題を有していた。これに対して、従来より入出力間の電磁的な結合を防止するために、金属キャップにシールド用電極をつけることが行われてきたが、これらの方法では、圧電基板表面付近を伝播するものに対しては十分な効果が得られなかった。
【0003】
なお、この出願に関連する先行技術文献情報としては、例えば特許文献1が知られている。
【特許文献1】実開平5−23619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、小型化してもアイソレーション特性等の劣化の少ない弾性表面波デバイスを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために本発明は、圧電基板と、この圧電基板の表面に設けた複数個の弾性表面波フィルタパターンと、対向する弾性表面波フィルタパターン間に圧電基板の表面から上方に延伸するように設けられたシールド電極と、を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、圧電基板の表面から上方に延伸するように設けられたシールド電極を設けることにより、圧電基板表面付近を伝わる電磁波による特性の劣化を防ぐことができ、小型化しても特性の優れた弾性表面波デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1を用いて、本発明について説明する。
【0008】
図1(a)は本発明の実施の形態1におけるSAWデュプレクサの内部上面図、図1(b)は同断面図である。
【0009】
図1(a)においては、移相器を内蔵したLTCC(低温焼成セラミック)よりなるパッケージ11に、39°YカットX伝播タンタル酸リチウムよりなる圧電基板12のチップを実装し、ワイヤ15により電気的接続を行ったものである。圧電基板12の表面には、通過帯域中心周波数が836.5MHzの送信フィルタパターン13、通過帯域中心周波数が881.5MHzの受信フィルタパターン14、およびシールド電極16を設けている。ここで送信フィルタパターン13と受信フィルタパターン14とは、チップ表面において電気的に独立に設けられており、送信フィルタパターン13と受信フィルタパターン14の間全体を通るようにシールド電極16を設け、シールド電極16をワイヤ15によりグランドに電気的に接続する。送信フィルタパターン13および受信フィルタパターン14の電極膜厚を約0.4μm、周波数が低い送信フィルタパターン13のピッチの2倍(すなわち弾性表面波の波長)を約4μmとし、シールド電極16の圧電基板12の表面からの高さ(図1(b)のh)を約5μmとする。以上のように構成された弾性表面波デバイスについて、発明者らは、フィルタ間のアイソレーションを確認したところ、シールド電極を設けることで、小型化とフィルタ間の十分なアイソレーションとを両立できることを確認した。
【0010】
さらに、発明者らは、シールド電極16の高さhとアイソレーションの関係を調べた結果、シールド電極16の高さhが低いとアイソレーションを向上させる効果があまり見られず、弾性表面波の波長と同程度以上とすると、その効果が大きくなることを確認した。原理的には、高いほど効果があがることになるが、その上限は、物理的な制約によって決定され、圧電基板の厚さより高くする必要はない。
【0011】
なお、図1(b)ではシールド電極16全体を金属で構成しているが、図2のように、フィルムレジスト等の絶縁物による壁17を圧電基板12の表面に設け、壁17の上面、側面の一部およびその周辺に金属膜を形成してシールド電極16を構成しても良い。
【0012】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2を用いて、本発明について説明する。本実施の形態2に係る発明は、実施の形態1にかかる発明が対向する弾性表面波フィルタパターン間に圧電基板の表面から上方に延伸するようにシールド電極を設けた構成であったのに対して、本実施の形態2にかかる発明は弾性表面波フィルタパターンもしくは弾性表面波フィルタパターンを構成する弾性表面波共振子パターンの上方空間及び周囲を覆うように設けた封止部材を有し、かつ対向する弾性表面波フィルタ間の封止部材の側壁の外側もしくは内側にシールド電極を設けた点で実施の形態1と相違する。
【0013】
図3は本発明の実施の形態2におけるSAWデュプレクサチップの断面図である。
【0014】
図3においては、圧電基板12の表面に、送信フィルタパターン13、受信フィルタパターン14を設け、それぞれのパターンを中空構造で封止するように天面と側壁を有する酸化ケイ素等からなる封止部材18を設け、この2つのフィルタパターンの互いに対向する封止部材18の側面および封止部材の天面の外側、および圧電基板12の表面にシールド電極16を設け、これらをグランドに接続したものである。ここで重要なことは、圧電基板12の表面から封止部材18の側面の外側にシールド電極16を設けることにより、シールド電極16の圧電基板12の表面からの高さhを十分に確保することである。さらにシールド電極16を封止部材18の天面まで伸ばすことによりパターンの上方空間をも覆う方がより好ましい。
【0015】
なお、図3では、送信フィルタパターン13、受信フィルタパターン14の両方にシールド電極16を設けて繋げているが、いずれか一方に設ける、あるいは電気的に分離して両方に設け、別々のグランド端子に接続するものであっても構わない。
【0016】
また、ここでは送信フィルタパターン13、受信フィルタパターン14全体をそれぞれ一つの中空構造の中に封止しているが、たとえばラダー型フィルタのように共振子を組み合わせてフィルタを構成する場合、それぞれの共振子ごともしくは直列腕の共振子と並列腕の共振子ごとに中空構造を作っても良く、この場合にも、少なくとも2つのフィルタが対向する部分の封止部材18の側面にシールド電極16を設けていれば、同様の効果が得られる。
【0017】
図4においては、圧電基板12の表面に、送信フィルタパターン13、受信フィルタパターン14を設け、それぞれのパターンを中空構造で封止するように天面と側壁を有する酸化ケイ素等からなる封止部材18を設け、この2つのパターンの対向する封止部材18の側面および天面の内側、および圧電基板12の表面にシールド電極16を設け、グランドに接続したものである。この場合も図3の場合と同様に、圧電基板12の表面からシールド電極16が上方に伸び、その高さhを十分に確保することが重要である。このようにすることにより、シールド電極16を、よりパターンに近づけることができ、さらにアイソレーション抑圧の効果を上げることができる。
【0018】
次にこれらの製造方法について説明する。
【0019】
図5は本発明の実施の形態2におけるSAWデュプレクサウェハの製造方法を説明するための図である。
【0020】
図5(a)においては、39°YカットX伝播タンタル酸リチウムよりなる圧電基板21のウェハの表面に、弾性表面波フィルタパターン22を通常のフォトリソグラフィー技術を用いて形成するものであり、電極材料としてはTiと、AlにMg、Cuをドーピングしたものを積層して、約0.4μmの厚さで形成する。
【0021】
図5(b)においては、弾性表面波フィルタパターン22を含む領域にポリシリコン等からなる犠牲層23を形成するものであり、犠牲層23の厚さは、約10μmの厚さで形成する。
【0022】
図5(c)においては、犠牲層23を囲む領域に酸化シリコン等からなる封止部材24を形成するものであり、封止部材24の厚さは、約20μmの厚さで形成する。
【0023】
図5(d)においては、封止部材24の天面の一部に穴25をあけて、犠牲層23を除去するものであり、穴25をあけるためには、レジストパターンを形成したのち、CF4等のエッチングガスによりドライエッチングを行い、犠牲層23を除去するためには、XeF2等のガスを用いる。ここで穴25をあけるときにエッチング条件をコントロールすることにより、犠牲層23に近づくほど穴の径が小さくなるようにテーパをつけることが望ましい。
【0024】
図5(e)においては、Al等の金属あるいは酸化シリコン等の絶縁物を、蒸着あるいはスパッタ等により、穴25を塞ぎ、弾性表面波フィルタパターン22を含む領域を気密封止するものであり、封止するのに金属を用いる場合、弾性表面波フィルタパターン22の上に保護膜として、酸化シリコン等の絶縁物の層を形成しておくことが望ましい。
【0025】
図5(f)においては、封止部材24の側面および天面、およびその周辺の圧電基板21の表面に所定のパターンでシールド電極26を設けるものであり、シールド電極26の材料は、金属であれば何でも構わないが、Alあるいはその合金が加工性も含めて望ましい。これを所定の位置で切断することにより、弾性表面波デバイスの素子を得ることができる。
【0026】
なお、穴25を塞ぐ材料として金属を用いる場合、穴を塞ぐ工程と、シールド電極26の層を形成する工程とを同時に行っても良い。
【0027】
このようにすることにより、弾性表面波フィルタパターン22を気密封止し、かつ圧電基板21の表面から上方に伸びるシールド電極26を形成することができ、アイソレーション特性の優れたSAWデュプレクサを得ることができる。
【0028】
図6は本発明の実施の形態2におけるSAWデュプレクサウェハの別の製造方法を説明するための図である。
【0029】
図6(a)、図6(b)においては、図5(a)、図5(b)と同様である。
【0030】
図6(c)においては、犠牲層23および圧電基板21の表面に所定のパターンでシールド電極26を設けるものであり、シールド電極26の材料としては、弾性表面波フィルタパターン22と主成分が同じあるいは同じエッチングガスで加工できるものであることが望ましい。
【0031】
図6(d)においては、犠牲層23を囲む領域に酸化シリコン等からなる封止部材24を形成するものである。
【0032】
図6(e)においては、封止部材24の天面の一部に穴25をあけて、犠牲層23を除去するものである。
【0033】
図6(f)においては、Al等の金属あるいは酸化シリコン等の絶縁物を、蒸着あるいはスパッタ等により、穴25を塞ぎ、弾性表面波フィルタパターン22を含む領域を気密封止するものである。これを所定の位置で切断することにより、弾性表面波デバイスの素子を得ることができる。
【0034】
このようにして、気密封止した封止部材の内側の面にシールド電極の層を形成することができる。以上のように構成された弾性表面波デバイスについて、発明者らは、フィルタ間のアイソレーションを確認したところ、シールド電極を設けることで、小型化とフィルタ間の十分なアイソレーションとを両立できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、複数個のフィルタを1チップ上に形成した弾性表面波デバイスで、チップサイズを小さくしてもアイソレーション特性の劣化の少ない弾性表面波デバイスを実現するものであり、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)本発明の実施の形態1におけるSAWデュプレクサの内部上面図、(b)本発明の実施の形態1におけるSAWデュプレクサの断面図
【図2】本発明の実施の形態1における別のSAWデュプレクサの断面図
【図3】本発明の実施の形態2におけるSAWデュプレクサチップの断面図
【図4】本発明の実施の形態2における別のSAWデュプレクサチップの断面図
【図5】本発明の実施の形態2におけるSAWデュプレクサウェハの製造方法を説明するための図
【図6】本発明の実施の形態2における別のSAWデュプレクサウェハの製造方法を説明するための図
【符号の説明】
【0037】
11 パッケージ
12 圧電基板
13 送信フィルタパターン
14 受信フィルタパターン
15 ワイヤ
16 シールド電極
17 壁
18 封止部材
21 圧電基板
22 弾性表面波フィルタパターン
23 犠牲層
24 封止部材
25 穴
26 シールド電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、この圧電基板の表面に設けた複数個の弾性表面波フィルタパターンと、対向する前記弾性表面波フィルタパターン間に前記圧電基板の表面から上方に延伸するように設けられたシールド電極と、を備えた弾性表面波デバイス。
【請求項2】
シールド電極の圧電基板表面からの高さを、複数個の弾性表面波フィルタパターンのうち最も周波数が低いパターンのピッチの2倍より高くした請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
シールド電極は、少なくとも1つの弾性表面波フィルタパターンの上方空間をも覆う請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
圧電基板と、この圧電基板の表面に設けた複数個の弾性表面波フィルタパターンと、この弾性表面波フィルタパターンもしくは弾性表面波フィルタパターンを構成する弾性表面波共振子パターンの上方空間及び周囲を覆うように設けた天面と側壁とを有する封止部材と、前記弾性表面波フィルタパターン間に設けたシールド電極とを備え、前記シールド電極は少なくとも対向する弾性表面波フィルタパターン間の前記封止部材の側壁の内側に設けた請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
圧電基板と、この圧電基板の表面に設けた複数個の弾性表面波フィルタパターンと、この弾性表面波フィルタパターンもしくは弾性表面波フィルタパターンを構成する弾性表面波共振子パターンの上方空間及び周囲を覆うように設けた天面と側壁とを有する封止部材と、前記弾性表面波フィルタパターン間に設けたシールド電極とを備え、前記シールド電極は少なくとも対向する弾性表面波フィルタパターン間の前記封止部材の側壁の外側に設けた請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
ウェハ状の圧電基板の表面に複数個の弾性表面波フィルタパターンからなる弾性表面波デバイスパターンを複数個形成する電極形成工程と、少なくとも前記弾性表面波フィルタパターンもしくは前記弾性表面波フィルタパターンを構成する弾性表面波共振子パターンの上に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、前記犠牲層の上および周囲に封止部材の層を形成する封止部材形成工程と、前記封止部材の一部に穴をあけ犠牲層を除去する空間形成工程と、前記封止部材の一部にあけた穴を塞ぐ封止工程と、少なくとも対向する前記弾性表面波フィルタパターン間の前記封止部材の側壁の外側にシールド電極を形成するシールド電極形成工程と、前記ウェハ状の圧電基板を切断して個々の弾性表面波デバイスを得る切断工程と、を備える弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項7】
ウェハ状の圧電基板の表面に複数個の弾性表面波フィルタパターンからなる弾性表面波デバイスパターンを複数個形成する電極形成工程と、少なくとも前記弾性表面波フィルタパターンもしくは前記弾性表面波フィルタパターンを構成する弾性表面波共振子パターンの上に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、前記犠牲層の上面及び側面の一部およびその周辺の前記圧電基板表面の一部にシールド電極を形成するシールド電極形成工程と、前記犠牲層の上および周囲に封止部材の層を形成する封止部材形成工程と、前記封止部材の一部に穴をあけ犠牲層を除去する空間形成工程と、前記ウェハ状の圧電基板を切断して個々の弾性表面波デバイスを得る切断工程と、を備える弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−60747(P2006−60747A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243358(P2004−243358)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】