説明

弾性表面波デバイスの製造方法

【課題】本発明は弾性表面波デバイスの製造方法に関するものであり、弾性表面波デバイスにおけるデバイス特性の向上を目的とする。
【解決手段】圧電体基板1と、この圧電体基板1の表面に設けられた櫛形トランスデューサ2とからなる弾性表面波デバイスにおいて、弾性表面波デバイスの裏面に設けられる不用波対策用の複数の溝5に対して、隣り合う溝の間隔を一端側7から他端側8に向けて狭くなるように設定したのである。この構成により、溝の延伸方向と弾性表面波の伝搬方向との交差角がそれぞれの溝によって変わることとなり、各溝に対する不要波の反射条件を不均一化できるので、弾性表面波デバイスの特性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にSAWフィルタなどの弾性表面波デバイスは、圧電体基板の表面に櫛形トランスデューサが設けられ、櫛形トランスデューサを形成する一対の電極間を弾性表面波が伝搬することによりデバイス特性が形成されるものである。
【0003】
そして、弾性表面波デバイスを構成する圧電体基板においては、櫛形トランスデューサを形成する電極間を伝搬する弾性表面波信号以外に、圧電体基板の内部を伝わり基板裏面において反射される不要波信号が存在しデバイス特性に影響を及ぼすことから、この不要波信号を減少させるため、従来、圧電体基板の裏面に弾性表面波の伝搬方向に対して交差する方向に複数の溝を設け不要波信号の反射を拡散させることでその影響を低減させていた。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開昭56−132806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、不要波信号対策の溝は通常ダイヤモンドカッタやリュータによって形成されるため、複数の溝が直線的かつ等間隔に形成されてしまい、各溝に対する不要波の反射条件が一定となってしまうことから、より高度な不要波対策が困難なものとなっていた。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題を解決し、性能を向上した弾性表面波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明は、特に、弾性表面波デバイスの裏面に設けられる不要波信号対策用の複数の溝に対して、隣り合う溝の間隔を一端側から他端側に向けて狭くなるように設定したのである。
【発明の効果】
【0008】
この構成により、溝の延伸方向と弾性表面波の伝搬方向との交差角がそれぞれの溝によって変わることとなり、各溝に対する不要波の反射条件を不均一化できるので、弾性表面波デバイスの特性を向上させることができるのである。
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について図を用いて説明する。
【0010】
図1は弾性表面波デバイスの一例である弾性表面波フィルタの斜視図であり、その基本構造はLiTaO3やLiNbO3などの圧電体基板1上に櫛形トランスデューサ2を形成する所定の電極2a,2bが弾性表面波の伝搬方向に並設された構造であり、図2に示すごとく櫛形トランスデューサ2を形成する一方の電極2aに入力された信号により圧電体基板1の表面に歪みが生じこの歪みが弾性表面波3となり他方の電極2bに伝搬されフィルタ特性を構成するのである。
【0011】
そして、弾性表面波フィルタにおいては、背景技術として述べたように圧電体基板1の表面を伝搬する弾性表面波3の他にトランスデューサを形成する一方の電極2aから圧電基板1の内部を伝わり裏面で反射され他方の電極2bに伝搬される不要波4を抑制するため、圧電体基板1の裏面に複数の溝5を設けていたのであるが、この弾性表面波フィルタにおいては図3に示すように、圧電体基板1の裏面に設ける複数の溝5の延伸方向を、弾性表面波の伝搬方向と交差する向きに設定するとともに、隣り合う溝5の間隔を一端側7から他端側8に向けて狭くなるように設定することで、溝5の延伸方向と弾性表面波の伝搬方向との交差角がそれぞれの溝5によって変わることとなり、各溝5に対する不要波4の反射条件を不均一なものとでき、従来の構造のものに比べて圧電体基板1の裏面で反射された不要波4の分散度合いを大きくし、フィルタ特性への影響を抑制しているのである。
【0012】
なお、隣り合う溝5の最大ピッチは圧電体基板1の素材や厚み、使用周波数などによって適宜設定されるもので、隣り合う溝5の間隔をこの最大ピッチの範囲を超えない範囲で適宜設定すればよいものである。
【0013】
また、溝5の設け方についても、従来のように直線的に設けていたのでは、圧電体基板1の曲げ応力に対して分割用の切り込みとして作用してしまい、圧電体基板1の薄型化の妨げとなり部品の低背化が進む中においては非常に不利な構成となることから、溝5を曲線状に形成することで先に述べたフィルタ特性の向上に加えて曲げ応力に対する強度も向上できることから圧電体基板1の薄型化を可能とし、弾性表面波フィルタの低背化に寄与できるのである。
【0014】
そして、このような弾性表面波フィルタを形成するにあたっては、図4に示すように、先ず弾性表面波フィルタを構成する圧電体基板1を複数一括形成するウエハ9の表面に櫛形トランスデューサ2などの所定の電極2a,2bと個片分割用のハーフカット溝10を形成し、その面を保護フィルム11で覆った状態とし裏面を研削することで個片の弾性表面波フィルタを形成するものであり、特にウエハ9の裏面研削においては、図5に示されるように、自転する研削ホイル12をウエハ9の研削面に当接させて研削面を研削ホイル12の周回方向13に研削するとともに、ウエハ9を自転させることにより研削ポイントを更新することでウエハ9全体を研削するのであるが、研削ホイル12とウエハ9の当接箇所において図6に示すように、ウエハ9を研削ホイル12の周回面に対して傾斜させウエハ9の半分のみを当接するように設定することで、図7に示されるようなウエハ9の回転軸13aを中心とした渦巻き状の研削溝5が形成されることとなり、分割後の個片となった弾性表面波フィルタに対してウエハ9の中心側から外径方向に向けて隣り合う溝5の間隔が広がった曲線状の溝を形成することができるのである。
【0015】
また、ウエハ9に対してこのような溝5が形成された場合、例えば破線15で囲んだ領域で形成される溝5と破線16で囲んだ領域で形成される溝5とでは、弾性表面波の伝搬方向に対する向きが異なってしまうため、弾性表面波フィルタにおける不要波4の抑制効率に差が生じてしまうことから、図8に示されるごとくウエハ9を複数用意し、回転軸13bを中心軸としてそれぞれを回転対称に配置し、この回転軸13を軸として複数のウエハ9を回転させ先に述べたように研削することでそれぞれのウエハ9においては一定方向の溝5が形成されるようになるので、個片の弾性表面波フィルタの特性バラツキを小さくすることができる。
【0016】
さらに、図6に示されるごとく、研削ホイル12を周回方向において分割形成した研削刃12aを用いることにより、研削刃12a間にできる空隙部分12bから研削クズが外部に放出でき、さらには流水洗浄をしながらの研削が可能となり、研削クズによる目詰まりや割れを抑制でき生産性を向上できるのである。
【0017】
また、研削工法を用いた場合には図2に示される圧電体基板1の裏面側領域17に加工変質層が厚く形成される。加工変質層とは加工時の応力により基板の結晶構造が潰れた層を指し、結晶構造が不均一な為、不要波4が乱反射し、その伝搬をさらに抑制される。溝5を形成するにあたっては先に述べたような研削刃12aを用いた研削工法の他に研磨工法などが考えられるが、特にこのような弾性表面波フィルタを形成する圧電体基板1に溝を形成するにあたっては、形成時に加工変質層が厚く形成される研削工法を用いることが望ましいものとなる。
【0018】
なお、この一実施形態においては弾性表面波デバイスの一例として弾性表面波フィルタを挙げて説明したのであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、圧電体基板1の底面による不要波4の影響を抑制することが必要となる弾性表面波デバイスに対して適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明にかかる弾性表面波デバイスの製造方法は、裏面反射による特性の劣化を抑えることができるという効果を有し、特に携帯電話などのように高性能化が要望される通信機器用途において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態における弾性表面波フィルタを示す斜視図
【図2】同弾性表面波フィルタにおける信号経路を示す断面図
【図3】同弾性表面波フィルタの下面図
【図4】同弾性表面波フィルタの製造方法を示す図
【図5】同製造方法における研削工法を示す図
【図6】同研削工法を示す断面図
【図7】同研削工法によって形成された溝の状態を示す図
【図8】他の研削工法を示す図
【符号の説明】
【0021】
1 圧電体基板
2 櫛形トランスデューサ
5 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波デバイスを形成する圧電体からなるウェハの表面に複数個の弾性表面波デバイスを形成する電極を設ける第1の工程と、前記ウェハの表面に個片分割用のハーフカット溝を設ける第2の工程と、前記ウェハの裏面側を研削することにより個片に分割して前記弾性表面波デバイスを得る第3の工程とを備え、前記第3の工程は自転する研削ホイルに対して前記ウェハを回転させながら裏面を当接させて研削することにより前記ウェハを個片に分割するとともに、前記弾性表面波デバイスの裏面に弾性表面波の伝搬方向に対して交差する方向に複数の溝を並設し、前記隣り合う溝の間隔を一端側から他端側に向けて狭くなるように形成した弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−143192(P2007−143192A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37572(P2007−37572)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【分割の表示】特願2004−326189(P2004−326189)の分割
【原出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】