説明

弾性表面波デバイス

【課題】 正負反射型反射器を用いた弾性表面波デバイスの耐ヒートサイクル試験を強化する手段を得る。
【解決手段】 圧電基板の主面上に表面波の伝搬方向に沿って、幅がλ/8(λは表面波の波長)の第一の電極を周期λ/2で配置し、幅がλ/8の第二の電極を周期λ/2で配置し、前記第一の電極の中心と前記第二の電極の中心との中心間間隔をλ/4とし、前記第一の電極同志を短絡電極で短絡して形成した正負反射型反射器がIDT電極の一部に配置されたIDT電極を用いて構成した弾性表面波デバイスにおいて、
前記短絡電極の幅を2μm以上としたことを特徴とする弾性表面波デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイスに関し、特にIDT電極の一部に正負反射型反射器を用いたSAWデバイスの焦電効果による電極破損を改善した弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波デバイス(SAWデバイス)は通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話、LAN等に多く用いられている。また、最近では高速道の自動料金収受システム(ETC)にもSAWフィルタが用いられるようになり、規格としては、中心周波数が40MHz、帯域幅が4MHzから5MHzのものが多い。ETCのように車載される機器は使用環境が厳しく、ヒートサイクル試験として、−55℃(5分)〜125℃(5分)の3000サイクルが課せられている。
これまで、これらのSAWフィルタには、共振器型SAWフィルタが多く採用されていた。しかし、共振器型SAWフィルタは群遅延時間特性が悪いという欠点があるので、最近では、一方向性変換器を用いた群遅延時間特性の良好なトランスバーサル型SAWフィルタの要求が強くなってきている。
【0003】
図3はトランスバーサル型SAWフィルタの基本的構成を示す平面図であって、圧電基板11の主面上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極12、13を所定の間隔を隔して配置する。IDT電極12、13はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対の櫛形電極により形成され、IDT電極12の一方の櫛形電極は入力端子INに接続されると共に、他方の櫛形電極は接地される。さらに、IDT電極13の一方の櫛形電極は出力端子OUTに接続され、他方の櫛形電極は接地されてトランスバーサル型SAWフィルタが構成される。
図3に示すようなIDT電極では、励振された表面波は左右双方に均等に伝搬するので、本質的に6dBの損失が発生することになる。そのため、挿入損失を低減すべく一方向性を有する弾性表面波変換器が開発され、用いられてきた。
【0004】
図4(a)、(b)はストリップ型グレーティング反射器(以下、グレーティング反射器と称す)の構成を示す概略平面図であって、基板(図示せず)上に金属などの薄膜ストリップ14を付着させて構成する。基板に圧電基板を用いた場合は金属ストリップの弾性的な摂動効果の他に、金属ストリップの電界短絡効果による電気的摂動が重畳される。
図4(a)に示すようにグレーティング反射器に垂直に表面波が入射し、反射される場合、周知のように、ブラッグ条件より位相整合条件は次式のように表される。
p=mλ/2 (1)
ここで、pは金属ストリップ14の周期(摂動の周期)、λは入射表面波の波長、mは整数である。式1を満たすとき、即ち、金属ストリップ11の周期pが表面波の波長の半分の整数倍となるとき、反射される表面波はすべて同位相で加わるため、強い反射が生じ、ブラッグ反射と言われている。
図4(b)に示すように金属ストリップ15を金属電極16で短絡したタイプのグレーティング反射器もSAWデバイスに多く用いられている。
【0005】
図5は特開昭60−263505号公報に開示された正負の反射係数をもつ弾性表面波反射器(以下、正負反射型反射器と称す)の構成を示す概略平面図で、圧電基板(図示せず)の表面に周期がλ/2(λは表面波の波長)で、その幅がλ/8の金属ストリップ(金属電極)21を配置し、これらの金属電極21間を金属電極22で接続する。さらに、周期がλ/2で電極幅がλ/8の金属電極23を、対になった電極21の中心位置に配設する。電極21は金属電極22によって短絡されているので、この短絡型浮き電極の圧電作用による反射波の位相を−90度とすると、いずれにも結合していない開放型の浮き電極23の圧電作用による反射波の位相は+90度となる。
入射した表面波が反射する場合、電極21と電極23との中心間距離をλ/4に設定すると、電極21による反射波と、電極23による反射波とは同相となるので、各電極からの反射波は互いに加算され、大きな反射係数を持つため、強い反射波が得られる。
【0006】
図5に示した正負反射型反射器を、図6に示すように電極の一部に組み込んだIDT電極は強い一方向性を有するので、トランスバーサル型SAWフィルタのIDT電極に用いことができる。
図7は入力側のIDT電極25にスプリット電極を、出力側のIDT26の一部に正負反射型反射器を用い、IDT電極25、26の間に遮蔽用の電極27を配して構成したトランスバーサル型SAWフィルタである。
しかし、IDT電極の内部に正負反射型反射器を配置すると、図6に示すように、短絡電極22’の幅と、短絡電極22’とバスバー24との間隔とが余分に必要となり、表面波の回折を避けるためには、短絡電極22’の幅は1μm以下に設定するのが一般的であった。なお、特開昭2000−278075号公報、特開昭2001−144573号公報等の先行出願にも一方向性変換器が開示され、図面が示されているが、これはあくまでも概念図であり、短絡電極の幅は1μm以下に設定するのが一般的である。
【特許文献1】特開昭60−263505号公報
【特許文献2】特開昭2000−278075号公報
【特許文献3】特開昭2001−144573号公報
【非特許文献1】柴山幹夫他著 「弾性波素子技術ハンドブック」 オーム社出版 平成3年11月30日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電基板に128度YカットLiNbOを用い、図7に示したようにIDT電極の一部に正負反射型反射器を用いて、短絡電極の幅を1μmにして構成した、中心周波数が40MHz(表面波の波長λは約100μm、電極指の幅12.5μm)、帯域幅が4MHzのトランスバーサル型SAWフィルタは通過帯域、減衰傾度とも良好な特性が得られた。
しかしながら、このトランスバーサル型SAWフィルタを、1000サイクル、3000サイクル、6000サイクルのヒートサイクル試験(−55℃(5分)〜125℃(5分))を行うと、図8に示すように15個中、それぞれ7個、9個、10個の故障が発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の弾性表面波デバイスは、焦電効果による電極の破損を低減るため、請求項1の発明は、圧電基板上に配置したIDT電極が励起する表面波の波長をλとするとき、幅がλ/8である第1乃至第4のグレイティング電極を中心間間隔がλ/4となるように順番に配列し、第1と第3のグレイティング電極を開放型とし、第2と第4のグレイティング電極を短絡電極にて導通接続して短絡型とした正負反射型反射器を、前記IDT電極を構成する電極指の一部と置換して配置した構造の弾性表面波デバイスであって、前記短絡電極の幅を2μm以上として構成した弾性表面波デバイスであることを特徴とする。
請求項2の発明は、前記第2と第4のグレイティング電極の両端同士をそれぞれ短絡電極にて接続したことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイスである。
請求項3の発明は、前記IDT電極を入力もしくは出力IDT電極として用いて構成したトランスバーサル型弾性表面波フィルタであることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波デバイスである。
請求項4の発明は、前記IDT電極を構成する電極指はスプリット電極であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性表面波デバイスである。
請求項5の発明は、圧電基板が回転Yカットニオブ酸リチウム或いは回転Yカットタンタル酸リチウムのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性表面波デバイスである。
請求項6の発明は、圧電基板上に幅がλ/8(λは圧電基板上を伝搬する弾性表面波の波長)である第1乃至第4のグレイティング電極を中心間間隔がλ/4となるように弾性表面波の伝搬方向に沿って順番に配列し、第1と第3のグレイティング電極を開放型とし、第2と第4のグレイティング電極を短絡電極にて導通接続して短絡型とした正負反射型反射器を備えた弾性表面波デバイスであって、前記短絡電極の幅を2μm以上として構成した弾性表面波デバイスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の弾性表面波デバイスは、正負反射型反射器の短絡電極を幅広として設計したため、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の焦電効果の大きな圧電材料を用いてSAWデバイスを構成しても、ヒートサイクル試験における故障を大幅に低減できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明に係るSAWデバイスの実施の形態を示す図であって、IDT電極の要部を示す概略平面図である。IDT電極の要部は、1λ(λは表面波の波長)の中に正の電極指2本と負の電極指2をそれぞれ配置したスプリット電極αと、βで示す正負反射型反射器とを備えている。正負反射型反射器βの構成は、圧電基板(図示せず)上に配置したIDT電極が励起する表面波の波長をλとするとき、幅がλ/8である第1乃至第4のグレイティング電極1、2、3、4を中心間間隔がλ/4となるように順番に配列し、第1と第3のグレイティング電極1、3を開放型とし、第2と第4のグレイティング電極2、4を短絡電極5にて導通接続して正負反射型反射器を構成する。
第2の電極2を短絡することにより短絡型浮き電極2の圧電作用による反射波の位相を−90度とすると、第1の電極の開放型浮き電極1の圧電作用による反射波の位相は+90度となり、第1の電極1による反射波と、第2の電極2による反射波とは同相となるので、強い反射波が得られる。そして、図1に示すように、IDT電極の一部に正負反射型反射器を設けることにより、IDT電極は一方向性変換器として機能し、このIDT電極を用いてトランスバーサル型SAWフィルタを構成すれば、挿入損失の少ないフィルタが得られる。
【0011】
電気機械結合係数の大きく、強誘電体の圧電材料であるニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムは焦電効果も大きいので、ヒートサイクル試験の際の焦電効果によって短絡電極5とバスバー6や周辺の電極との間でスパークが生じ、電極の一部が破損することが、図8に示したトランスバーサル型SAWフィルタの故障の原因であると推定した。
そこで、図1に示す短絡電極3の幅を2μm、4μmと幅広にし、図7に示したような電極パターンを用いてトランスバーサル型SAWフィルタを試作し、ヒートサイクル試験を行った。図2は短絡電極3の幅を幅広にしたトランスバーサル型SAWフィルタ15個のヒートサイクル試験の結果である。短絡電極3の幅が2μm、4μmとしたとき、1000サイクル、3000サイクル、6000サイクルのヒートサイクル試験を行った後で、いずれの場合も故障したものは1個も無かった。
【0012】
以上ではトランスバーサル型SAWフィルタのIDT電極の一部に正負反射型反射器を設けた実施例について述べたが、SAW共振子、共振器型SAWフィルタ、例えば縦結合二重モードSAWフィルタ等のIDT電極の一部に正負反射型反射器を配置してSAWデバイスを構成すると、SAWデバイスのロスを軽減することができと共に、焦電効果に強いSAWデバイスを構成することができる。
【0013】
図1に示した短絡電極3の膜厚をh、幅をwとしたとき、積h・wが0.8μm以上、408μm以下とすることにより、短絡電極3が強化されるので焦電効果の影響である短絡電極3の破損を避けることができた。
【0014】
以上では、圧電基板として128度YカットLiNbOを用いた例について説明したが、他の回転Yカットニオブ酸リチウムについても同様である。また、焦電効果の大きい回転Yカットタンタル酸リチウム等の他の圧電材料についても同様に本発明が適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るIDT電極の要部の構造を示した概略構成図である。
【図2】本発明に係るトランスバーサル型SAWフィルタのヒートサイクル試験の結果である。
【図3】従来のトランスバーサル型SAWフィルタの構成を示す平面図である。
【図4】(a)、(b)は従来の反射器を説明する図である。
【図5】正負反射型反射器の原理を説明する図である。
【図6】IDT電極の一部に正負反射型反射器を備えた電極パターンの要部の平面図である。
【図7】IDT電極の一部に正負反射型反射器を配置したトランスバーサル型SAWフィルタの概略平面図である。
【図8】従来のトランスバーサル型SAWフィルタのヒートサイクル試験の結果である。
【符号の説明】
【0016】
1、2、3、4 電極指
5 短絡電極
6 バスバー
α スプリット電極
β 正負反射型反射器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に配置したIDT電極が励起する表面波の波長をλとするとき、幅がλ/8である第1乃至第4のグレイティング電極を中心間間隔がλ/4となるように順番に配列し、第1と第3のグレイティング電極を開放型とし、第2と第4のグレイティング電極を短絡電極にて導通接続して短絡型とした正負反射型反射器を、前記IDT電極を構成する電極指の一部と置換して配置した構造の弾性表面波デバイスであって、前記短絡電極の幅を2μm以上としたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記第2と第4のグレイティング電極の両端同士をそれぞれ短絡電極にて接続したことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記IDT電極を入力もしくは出力IDT電極として用いて構成したトランスバーサル型弾性表面波フィルタであることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記IDT電極を構成する電極指はスプリット電極であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
圧電基板が回転Yカットニオブ酸リチウム或いは回転Yカットタンタル酸リチウムのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
圧電基板上に幅がλ/8(λは圧電基板上を伝搬する弾性表面波の波長)である第1乃至第4のグレイティング電極を中心間間隔がλ/4となるように弾性表面波の伝搬方向に沿って順番に配列し、第1と第3のグレイティング電極を開放型とし、第2と第4のグレイティング電極を短絡電極にて導通接続して短絡型とした正負反射型反射器を備えた弾性表面波デバイスであって、前記短絡電極の幅を2μm以上としたことを特徴とする弾性表面波デバイス。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−253784(P2006−253784A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63778(P2005−63778)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】