説明

弾性表面波フィルタおよびそれを用いたアンテナ共用器

圧電基板(12)上に櫛型電極およびグレーティング反射器で構成された弾性表面波共振子(15〜20)を複数接続して構成であって、上記弾性表面波共振子(15〜20
)のうち、少なくとも1つの弾性表面波共振子の表面には誘電体膜(14)が形成されており、少なくとも1つの弾性表面波共振子の表面には誘電体膜(14)が形成されていない構成からなる。これにより、帯域内挿入損失が小さく、また急峻性が良好で、かつ帯域の広いSAWフィルタを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電子機器に用いる弾性表面波フィルタおよびそれを用いたアンテナ共用器に関する。
【背景技術】
近年、携帯電話に使用される通信システムは多様化している。そのうちの1つである米国のPCS(Personal Communication Services)は送信帯域と受信帯域のクロスバンドが20MHzと非常に狭く設定されている。これに伴って、通過帯域幅が広く、かつ通過帯域ごく近傍の減衰量が大きいバンドパスフィルタが強く求められている。このような用途に用いられるアンテナ共用器については、低挿入損失と相手方の帯域における充分な抑圧が必要とされている。なお、アンテナ共用器の送信フィルタに対しては、相手側の帯域は受信帯域である。また、同様に受信フィルタに対しては、相手側の帯域は送信帯域である。従って、このアンテナ共用器には、クロスバンドで急峻な周波数特性を有するフィルタ特性が必要とされる。
これに対して、弾性表面波フィルタ(以下、SAWフィルタとよぶ)は急峻なフィルタ特性を有するフィルタの一つとしてよく知られている。しかしながら、このSAWフィルタは使用する圧電基板により異なった周波数温度特性を持つ。例えば、一般的なリチウムタンタレート基板を用いたGHz帯のSAWフィルタの周波数温度特性は−40ppm/℃〜−35ppm/℃である。従って、PCSのようなクロスバンドが狭い通信システムに使用するために、SAWフィルタを用いたアンテナ共用器を実現するためには、SAWフィルタの周波数温度特性をさらに改善することが要求される。
これに対して、比較的良好な周波数温度特性と広帯域特性を有する弾性表面波装置を得るために、以下の構成が知られている。すなわち、この構成は、圧電基板上に形成した少なくとも一つのSAWフィルタに対して、このSAWフィルタを構成する弾性表面波共振子の表面に二酸化シリコン(SiO)膜を形成し、この弾性表面波共振子を直列接続および並列接続の少なくとも一方の接続方法により接続して目的の弾性表面波装置を実現したものである。
また、日本特開2003−60476号公報には、圧電基板上に構成された少なくとも1つの弾性表面波フィルタと、圧電基板上に構成されており、弾性表面波フィルタに直列および並列の少なくとも一方の方法で接続された一端子対弾性表面波共振子とを備え、そして圧電基板上において、弾性表面波フィルタが構成されている領域を除いて、上記弾性表面波共振子のうち少なくとも1つを覆うように正の周波数温度特性を有する膜が形成された弾性表面波装置が開示されている。このように正の周波数温度特性を有する膜の形成により、周波数温度特性の改善と帯域内挿入損失の悪化の抑制および広帯域化を図っている。
しかしながら、上記従来の構成の弾性表面波装置では、圧電基板上に構成されているSAWフィルタとして、縦モード結合型SAWフィルタが示されている。縦モード結合型SAWフィルタは、近年大幅に特性が改善されたが、弾性表面波共振子をインピーダンス素子として用いるラダー型SAWフィルタと比べると、挿入損失が大きい。このため、低挿入損失が求められるアンテナ共用器には、縦モード結合型SAWフィルタは適用し難い。しかも、上記開示例においては、二酸化シリコン(SiO)膜が形成された弾性表面波共振子を接続しているため、その挿入損失はさらに大きくなる。
また、縦モード結合型SAWフィルタの場合、一段で構成すると十分な抑圧を得ることが困難であり、一般的には二段以上を接続した構成とすることが多い。しかしながら、二段以上の接続を行うと挿入損失も2倍程度になり、アンテナ共用器への適用はより困難となる。さらに、縦モード結合型SAWフィルタの場合、通過帯域の高周波側の周波数では、更に抑圧度を大きくすることが困難となる。このため、PCSの送信側フィルタには、縦モード結合型SAWフィルタを用いることは困難である。
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、優れた周波数温度特性を有し、非常に良好な帯域内挿入損失を有するSAWフィルタを実現することを目的とする。さらに、このSAWフィルタを用いることで、クロスバンドで急峻な周波数特性と相手側の帯域で大きな抑圧度を有し、相手側の帯域に信号が洩れることがないアンテナ共用器を提供することを目的とする。
【発明の開示】
上記目的を達成するために、本発明のSAWフィルタは、圧電基板上に櫛型電極およびグレーティング反射器で構成された弾性表面波共振子を複数接続して構成であって、上記弾性表面波共振子のうち、少なくとも1つの弾性表面波共振子の表面には誘電本膜が形成されており、少なくとも1つの弾性表面波共振子の表面には誘電体膜が形成されていない構成からなる。
このような構成とすることにより、帯域内挿入損失が小さく、また急峻性が良好で、かつ帯域の広いSAWフィルタを得ることができる。
上記構成において、誘電体膜が形成された弾性表面波共振子の容量比を、誘電体膜が形成されていない弾性表面波共振子の容量比よりも大きくしてもよい。
このような構成とすれば、周波数特性がさらに急峻なフィルタ特性を実現することができる。
さらに、上記構成において、誘電体膜が形成された弾性表面波共振子の共振周波数を、誘電体膜が形成されていない弾性表面波共振子の共振周波数よりも高く設定してもよい。
このような構成とすることにより、フィルタ特性において通過帯域の高周波端側の急峻性を改善できる。
さらに、上記構成において、誘電体膜が形成された弾性表面波共振子の共振周波数を、誘電体膜が形成されていない弾性表面波共振子の共振周波数よりも低く設定してもよい。
このような構成とすることにより、フィルタ特性において通過帯域の低周波端側の急峻性を改善できる。
さらに、上記構成において、弾性表面波共振子は直列接続および並列接続されてラダー型のフィルタ構成を形成し、誘電体膜は直列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つまたは並列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に形成されている構成としてもよい。
このような構成とすることにより、フィルタ特性の通過帯域の高周波端側あるいは低周波端側で急峻性を良好にでき、かつ大きな抑圧を有するフィルタを得ることができる。
さらに、上記構成において、誘電体膜が二酸化シリコン膜であってもよい。これにより、周波数温度特性が改善できるとともに、帯域内挿入損失が小さく、急峻性が良好で、かつ広帯域のSAWフィルタを得ることができる。
また、本発明のアンテナ共用器は、上記記載のSAWフィルタを用いた構成からなる。あるいは、上記記載のラダー型のSAWフィルタを用いた構成としてもよい。このような構成とすることにより、PCSのように帯域が広く、かつクロスバンドが狭いシステムに対応できるアンテナ共用器を容易に実現できる。
さらに、本発明のアンテナ共用器は、送信側フィルタ、受信側フィルタおよび位相器を含み、送信側フィルタおよび受信側フィルタは、それぞれ弾性表面波共振子が直列接続および並列接続されたラダー型の構成からなり、かつそれぞれの通過帯域で急峻なフィルタ特性が要求される周波数端側に対応して、直列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つまたは並列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に誘電体膜が形成された構成からなる。
このような構成とすることにより、PCSのように帯域が広く、かつクロスバンドが狭いシステムに対応できるアンテナ共用器を容易に実現できる。
さらに、上記構成において、アンテナ共用器は送信帯域が低周波側で、受信帯域が高周波側にある周波数アロケーションであり、送信側フィルタは直列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に誘電体膜が形成された構成からなり、受信側フィルタは並列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に誘電体膜が形成された構成からなるようにしてもよい。
このような構成とすることにより、PCSシステムに対応できるアンテナ共用器を容易に実現できる。
さらに、上記構成において、アンテナ共用器は送信帯域が高周波側で、受信帯域が低周波側にある周波数アロケーションであり、送信側フィルタは並列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に誘電体膜が形成された構成からなり、受信側フィルタは直列接続された弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に誘電体膜が形成された構成からようにしてもよい。
このような構成とすることにより、送信帯域が高周波側、受信帯域が低周波側にある周波数アロケーションを有するシステムの場合についても、良好な特性を有するアンテナ共用器を実現することができる。
以上のように本発明のSAWフィルタは、圧電基板上にSAWフィルタを構成する弾性表面波共振子のうち少なくとも1つはその表面に誘電体膜を形成することにより、優れた周波数温度特性を有し、かつ良好な帯域内挿入損失を実現できる。このようなSAWフィルタを用いることにより狭いクロスバンドにおいても急峻性が良好で、かつ相手側の帯域において大きな抑圧を有するアンテナ共用器を実現できるという大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかるSAWフィルタの平面図
図2A〜図2Eは、同実施の形態にかかるSAWフィルタにおいて、弾性表面波共振子上に選択的に誘電体膜を形成する方法を模式的に示す断面図
図3は、同実施の形態において、実施例1のSAWフィルタおよび比較例1のSAWフィルタについてのフィルタ特性を示す図
図4は、同実施の形態において、実施例1のSAWフィルタのフィルタ特性を示す図
図5は、本発明の第2の実施の形態にかかるSAWフィルタの平面図
図6は、同実施の形態において、実施例2のSAWフィルタおよび比較例2のSAWフィルタについてのフィルタ特性を示す図
図7は、同実施の形態において、この実施例2のSAWフィルタのフィルタ特性を示す図
図8は、本発明の第3の実施の形態にかかるアンテナ共用器の回路構成を説明するための回路ブロック図
参照符号の一覧
1,5 入力端子
2,6 出力端子
3,4,7,8 グランド端子
11,31 弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)
12,32 圧電基板
13,33 配線パターン
14,34 誘電体膜
15,16,17,18,19,20,35,36,37,38,39,40 弾性表面波共振子
21 電極パターン
24 レジスト
41 送信側フィルタ
42 受信側フィルタ
43 移相器
44 送信側端子
45 受信側端子
46 アンテナ端子
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。また、SAWフィルタの平面図等については模式的なものであり、直列共振子および並列共振子の電極指の本数等については概略的に示している。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかるSAWフィルタ11の平面図である。本実施の形態では、弾性表面波共振子を複数接続してなるSAWフィルタ11として、弾性表面波共振子を直列および並列に接続したラダー型構成を例にして説明する。
図1において、SAWフィルタ11は圧電基板12として39°YカットX伝播のリチウムタンタレート(LiTaO)基板を用いた場合について説明する。この圧電基板12の上に櫛型電極およびグレーティング反射器からなる1ポート弾性表面波共振子15〜20を形成し、これらのうち、弾性表面波共振子15〜18については直列接続し、弾性表面波共振子19、20については並列接続することで、ラダー型のSAWフィルタ11を形成した。なお、本実施の形態では、櫛型電極およびグレーティング反射器を含め、1ポート弾性表面波共振子を形成する電極膜としてアルミニウム(Al)を用いた。
また、入力端子1は弾性表面波共振子15の一方の櫛形電極に接続され、出力端子2は弾性表面波共振子18の一方の櫛形電極に接続されている。また、グランド端子3、4は並列に接続した弾性表面波共振子19、20の一方の櫛型電極と接続されている。これらの弾性表面波共振子15〜20、入力端子1、出力端子2およびグランド端子3、4をそれぞれ接続するために配線パターン13が形成されている。
さらに、圧電基板12の上に形成された弾性表面波共振子15〜20のうち直列に接続された弾性表面波共振子15〜18のみを覆うように、誘電体膜14として二酸化シリコン(SiO)膜を形成した。このSiO膜の膜厚は、SAWフィルタ11の波長の20%とした。ただし、SiO膜の膜厚は、要求されるフィルタ特性により最適値が異なるので、上記の値に限定されるものではない。また、この誘電体膜14は、上記SiO膜に限定されない。例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化珪素(Si)、五酸化タンタル(Ta)等を誘電体膜14として用いてもよい。これらの中で、特にSiO膜を用いれば周波数温度特性を大幅に改善できるので、より望ましい材料である。
次に、本実施の形態にかかるSAWフィルタ11の製造方法について、図2A〜図2Eを用いて説明する。なお、図2A〜図2Eは、SAWフィルタ11において、弾性表面波共振子上に選択的に誘電体膜14を形成する方法を模式的に示す断面図である。
初めに、図2Aに示すように、圧電基板12の上に電極膜としてアルミニウム(Al)をスパッタリングもしくは電子ビーム(EB)蒸着で形成し、フォトリソグラフィとエッチングプロセスを行い、櫛型電極およびグレーティング反射器の電極パターン21を形成した。
次に、図2Bに示すように、高周波(RF)スパッタリング法を用いて、全面に誘電体膜14としてSiO膜を形成する。
この後、図2Cに示すように、SAWフィルタ11を構成する弾性表面波共振子15〜20のうち、並列に接続された弾性表面波共振子19、20のみをレジスト24で被覆する。
その後、図2Dに示すように、レジスト24で被覆されていない領域の誘電体膜14をドライエッチングによりエッチングして除去する。
次に、図2Eに示すように、レジスト24をアッシング等により除去する。以上の工程により、図1に示すSAWフィルタ11を作製することができる。
なお、本実施の形態では、誘電体膜14としてSiO膜をRFスパッタリングにより形成したが、この方法に限定されない。例えば、化学気相成長(CVD)法、イオンプレーティング等の作製法を用いてもよい。RFスパッタリング法は、成膜レートが安定していることから膜厚の制御が容易である特徴を有し、誘電体膜14の作製には望ましい成膜法である。
また、本実施の形態では、誘電体膜14であるSiO膜をドライエッチングした例について説明したが、ウェットエッチング等により除去してもよい。ドライエッチングは乾式プロセスであるので、SiO膜をエッチングするときに液体に電極パターン21のAl膜等が曝されることがない。このため、Al膜の腐食等が起こり難く、歩留まりよくSAWフィルタ11を作製することができる。
以下、本実施の形態のSAWフィルタ11の特性を従来構成のSAWフィルタと比較した結果について説明する。一般にラダー型のSAWフィルタは、弾性表面波共振子の特性を重ね合わせることで所望の特性を実現している。このために、図1に示す構成で、弾性表面波共振子15〜20の表面に誘電体膜14であるSiO膜を形成しないSAWフィルタと本実施の形態のSAWフィルタ11とについて、特性を比較した。
本実施の形態のSAWフィルタ11は、以下の構成を特徴とする。すなわち、第1は、誘電体膜14であるSiO膜を弾性表面波共振子15〜18の表面に形成していることである。第2は、これらの弾性表面波共振子15〜18の共振周波数を、誘電体膜14が形成されていない弾性表面波共振子19、20の共振周波数よりも高く設定していることである。
以下、本実施の形態のSAWフィルタ11を実施例1のSAWフィルタとよび、誘電体膜14が形成されていない従来構成のSAWフィルタを比較例1のSAWフィルタとよぶ。
図3は、実施例1のSAWフィルタおよび比較例1のSAWフィルタについてのフィルタ特性を示す図である。なお、図3には、実施例1のSAWフィルタおよび比較例1のSAWフィルタの構成において、直列に接続される弾性表面波共振子15〜18のうちの弾性表面波共振子15および並列に接続される弾性表面波共振子19、20のうちの弾性表面波共振子19のアドミタンス特性をそれぞれ示している。実施例1のSAWフィルタおよび比較例1のSAWフィルタは、直列に接続される弾性表面波共振子19については、誘電体膜14の有無の差異があるが、並列に接続される弾性表面波共振子15については、同じ構成である。なお、横軸は周波数で、縦軸はアドミタンスである。
図3において、比較例1のSAWフィルタは実線で示し、実施例1のSAWフィルタは点線で示している。低周波側のアドミタンス特性は、並列に接続された弾性表面波共振子19の特性である。また、高周波側のアドミタンス特性は、直列に接続された弾性表面波共振子15の特性である。実施例1のSAWフィルタ11は、直列に接続された弾性表面波共振子15〜18のみに誘電体膜14であるSiO膜が形成されている。図3からわかるように、実施例1のSAWフィルタ11のように誘電体膜14を形成することにより高周波側のアドミタンス特性の急峻性が改善される。これは、誘電体膜14であるSiO膜が形成された弾性表面波共振子15の容量比が、誘電体膜14の形成されていない弾性表面波共振子19の容量比よりも大きくなるからである。一般的に、共振子の容量比をγ、共振周波数をfr、反共振周波数をfarとしたとき、これらの間にはγ=1/[(far/fr)−1]の関係がある。
すなわち、容量比が大きくなることにより共振周波数と反共振周波数の周波数差が小さくなり、急峻なアドミタンス特性が得られる。また、直列に接続された弾性表面波共振子15〜18のみに誘電体膜14であるSiO膜を形成する場合には、これらの弾性表面波共振子15〜18の共振周波数を誘電体膜14が形成されていない弾性表面波共振子19、20の共振周波数よりも高く設定する。このように設定することで、高周波側のアドミタンス特性が急峻になり、SAWフィルタ11のフィルタ特性において通過帯域内の高周波側を急峻になるように制御することができる。
図4は、実施例1のSAWフィルタのフィルタ特性を示す図である。なお、縦軸は挿入損失で、横軸は周波数である。図4からわかるように、通過帯域内の高周波側の極が急峻になることが見出された。また、容量比の増加に伴い、フィルタの帯域幅が狭帯域化する傾向を有するが、実施例1のSAWフィルタ11は65MHzと十分な帯域を確保することができている。これは、ラダー型を構成する弾性表面波共振子15〜20のうち、直列に接続された弾性表面波共振子15〜18のみに誘電体膜14であるSiO膜を形成したことによる。
また、実施例1のSAWフィルタは弾性表面波共振子15〜20をインピーダンス素子として用いたフィルタであるため、通過帯域内の挿入損失も2.43dBとなり、低挿入損失を実現している。
また、この実施例1のSAWフィルタの周波数温度特性は、−22ppm/℃が得られた。一方、比較例1のSAWフィルタの周波数温度特性は、−40ppm/℃〜−35ppm/℃であった。この結果、実施例1のSAWフィルタでは、周波数温度特性が大きく改善されることが確認された。
なお、本実施の形態では、直列に接続された弾性表面波共振子15〜18のすべてに誘電体膜14であるSiO膜を形成しているが、直列に接続された弾性表面波共振子15〜18のうちいくつかの共振子に誘電体膜14を形成してもよい。このようにすることによって、高周波側に極を複数形成することができるので、相手側の帯域で充分な減衰量を確保することが容易にできる。
また、図1においては、直列に接続した弾性表面波共振子15〜18が4つ、並列に接続した弾性表面波共振子19,20が2つの合計6つの弾性表面波共振子15〜20からなるラダー型のSAWフィルタ11を例として説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、直列と並列にそれぞれ接続される弾性表面波共振子の数およびその構成は要求されるフィルタ特性により異なるが、いずれの場合においても本発明の構成を適用することで本実施の形態のSAWフィルタ11と同様な効果を得ることが可能である。
なお、本実施の形態ではラダー型のSAWフィルタを例として説明したが、モード結合型のSAWフィルタ等でも同様な効果を得ることができる。
(第2の実施の形態)
図5は、本発明の第2の実施の形態にかかるSAWフィルタ31の平面図である。本実施の形態のSAWフィルタ31では、第1の実施の形態と同様に弾性表面波共振子35〜40を直列および並列に接続したラダー型構成を例にして説明する。
本実施の形態のSAWフィルタ31では、圧電基板32として39°YカットX伝播のLiTaO基板を用いた。この圧電基板32上に櫛型電極およびグレーティング反射器からなる1ポート弾性表面波共振子35〜40を形成し、これらのうち弾性表面波共振子35〜38を直列に接続し、弾性表面波共振子39、40を並列に接続することで、ラダー型のSAWフィルタ31を形成した。
なお、本実施の形態では、櫛型電極およびグレーティング反射器を含め、1ポート弾性表面波共振子を形成する電極膜としてアルミニウム(Al)を用いた。
また、入力端子5は弾性表面波共振子35の一方の櫛形電極に接続され、出力端子6は弾性表面波共振子38の一方の櫛形電極に接続されている。また、グランド端子7、8は並列に接続した弾性表面波共振子39、40の一方の櫛型電極と接続されている。これらの弾性表面波共振子35〜40、入力端子5、出力端子6およびグランド端子7、8をそれぞれ接続するために配線パターン33が形成されている。
さらに、本実施の形態では、圧電基板32上に形成された弾性表面波共振子35〜40のうち、並列に接続された弾性表面波共振子39、40のみを覆うように、誘電体膜34としてSiO膜を形成した。このSiO膜の膜厚は、SAWフィルタの波長の20%とした。ただし、SiO膜の膜厚は、要求されるフィルタ特性により最適値が異なるので、上記の値に限定されるものではない。なお、この誘電体膜34は、上記SiO膜に限定されず、第1の実施の形態で説明した材料を用いてもよい。
また、本実施の形態のSAWフィルタ31は、第1の実施の形態で説明した製造方法と同様の方法で作製することができる。したがって、本実施の形態では、製造方法についての説明を省略する。
以下、本実施の形態のSAWフィルタ31の特性を従来構成のSAWフィルタと比較した結果について説明する。図5に示す構成で、弾性表面波共振子35〜40の表面に誘電体膜34であるSiO膜を形成しないSAWフィルタと、本実施の形態のSAWフィルタ31とについて、特性を比較した。本実施の形態のSAWフィルタ31は、誘電体膜34であるSiO膜を弾性表面波共振子39、40の表面に形成するとともに、これらの弾性表面波共振子39、40の共振周波数を誘電体膜34が形成されていない弾性表面波共振子35〜38の共振周波数よりも低く設定した構成からなる。
以下、本実施の形態のSAWフィルタ31を実施例2のSAWフィルタとよび、誘電体膜34が形成されていない従来構成のSAWフィルタを比較例2のSAWフィルタとよぶ。
図6は、実施例2のSAWフィルタ31および比較例2のSAWフィルタについてのフィルタ特性を示す図である。また、図6には、実施例2のSAWフィルタおよび比較例2のSAWフィルタの構成において、直列に接続される弾性表面波共振子35〜38のうちの弾性表面波共振子35および並列に接続される弾性表面波共振子39、40のうちの弾性表面波共振子39のアドミタンス特性も示している。実施例2のSAWフィルタ31および比較例2のSAWフィルタは、直列に接続される弾性表面波共振子35については、同じ構成であるが、並列に接続される弾性表面波共振子15については、誘電体膜34の有無による差異がある。なお、横軸は周波数で、縦軸はアドミタンスである。
図6において、比較例2のSAWフィルタは実線で示し、実施例2のSAWフィルタは点線で示している。低周波側のアドミタンス特性は、並列に接続された弾性表面波共振子39の特性である。また、高周波側のアドミタンス特性は、直列に接続された弾性表面波共振子35の特性である。
実施例2のSAWフィルタでは、並列に接続された弾性表面波共振子39、40のみに誘電体膜34であるSiO膜を形成している。図6からわかるように、誘電体膜34を形成することで、低周波側のアドミタンス特性の急峻性が改善されることが見出された。これは、誘電体膜34であるSiO膜が形成された弾性表面波共振子39、40の容量比が、誘電体膜34の形成されていない弾性表面波共振子35〜38の容量比よりも大きくなるからである。一般的に、共振子の容量比をγ、共振周波数をfr、反共振周波数をfarとしたとき、これらの間にはγ=1/[(far/fr)−1]の関係がある。
すなわち、容量比が大きくなることにより共振周波数と反共振周波数の周波数差が小さくなり、急峻なアドミタンス特性が得られる。また、並列に接続された弾性表面波共振子39、40のみに誘電体膜34であるSiO膜を形成した場合には、これらの弾性表面波共振子39、40の共振周波数を誘電体膜34が形成されていない弾性表面波共振子35〜38の共振周波数よりも低く設定する。このように設定することで、低周波側のアドミタンス特性が急峻になり、SAWフィルタ31のフィルタ特性において通過帯域内の低周波側を急峻になるように制御することができる。図7は、この実施例2のSAWフィルタのフィルタ特性を示す図である。縦軸は挿入損失であり、横軸は周波数である。図7からわかるように、通過帯域内の低周波側の極が急峻になることが見出された。
また、容量比の増加に伴い、SAWフィルタの帯域幅が狭帯域化する傾向を有するが、実施例2のSAWフィルタは60MHzと十分な帯域を確保することができている。また、実施例2のSAWフィルタは弾性表面波共振子35〜40をインピーダンス素子として用いたフィルタであるため、通過帯域内の挿入損失も3.43dBと低挿入損失を実現できた。
また、この実施例2のSAWフィルタの周波数温度特性を測定したところ、−22ppm/℃であった。一方、比較例2のSAWフィルタでは、周波数温度特性は−40ppm/℃〜−35ppm/℃であった。この結果、実施例2のSAWフィルタでは、周波数温度特性が大きく改善されることが確認された。
また、本実施の形態では、並列に接続された2つの弾性表面波共振子39、40の両方ともに誘電体膜34であるSiO膜が形成されている。しかし、並列に接続された弾性表面波共振子39、40のうち一方のみに誘電体膜34を形成してもよい。このようにすることによって、低周波側に極を複数形成することができるので、相手側の帯域で充分な減衰量を確保することが容易にできる。
さらに、並列に接続する弾性表面波共振子の数は2つに限定されることはなく、さらに多く設けてもよい。この場合、並列に設けられた複数の弾性表面波共振子のうち1つ以上の弾性表面波共振子の表面に誘電体膜34を設けてもよい。
なお、本実施の形態においては、直列に接続した弾性表面波共振子が4つ、並列に接続した弾性表面波共振子が2つで、合計6つの弾性表面波共振子からなるラダー型のSAWフィルタを例として説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、直列と並列にそれぞれ接続される弾性表面波共振子の数およびその構成は要求されるフィルタ特性により異なるが、いずれの場合においても本発明の構成を適用することで本実施の形態のSAWフィルタ31と同様な効果を得ることが可能である。
(第3の実施の形態)
図8は、本発明の第3の実施の形態にかかるアンテナ共用器の回路構成を説明するための回路ブロック図である。このアンテナ共用器の基本構成は、送信側フィルタ41、受信側フィルタ42および位相器43からなり、さらに送信側フィルタ41に送信側端子44が接続され、受信側フィルタ42に受信側端子45が接続されており、送信側フィルタ41と受信側フィルタ45との間にアンテナ端子46が設けられている。
このようなアンテナ共用器を実現するためには、クロスバンドで周波数特性を急峻にする必要がある。例えば、PCS等のように、送信帯域が低周波側で、受信帯域が高周波側にある周波数アロケーションの場合には、送信側フィルタ41には高周波側が急峻なフィルタ特性が要求される。一方、受信側フィルタ42には、低周波側が急峻なフィルタ特性が要求される。したがって、送信側フィルタ41には、第1の実施の形態にかかるSAWフィルタを用い、受信側フィルタ42には第2の実施の形態にかかるSAWフィルタを用いれば、このような要求を満たすことができる。
このような構成とすることにより、図4から分かるように送信側フィルタ41として用いるSAWフィルタ11の挿入損失は2.43dBと小さく、かつ高周波側の減衰量は約50dBであり、相手側の帯域において大きな抑圧を実現できる。この結果、アンテナ共用器の送信側フィルタ41として充分な特性を有している。また、図7から分かるように受信側フィルタとして用いるSAWフィルタ31の挿入損失は3.43dBと小さく、かつ低周波側の減衰量は50dBであり、相手側の帯域において大きな抑圧を実現できる。この結果、アンテナ共用器の受信側フィルタ42として充分な特性を有している。
以上のように、第1の実施の形態および第2の実施の形態のSAWフィルタを用いることで、クロスバンドが狭い場合でも良好な特性を有するアンテナ共用器を実現することができる。
なお、本実施の形態においては、特にPCSなどのように、送信帯域が低周波側、受信帯域が高周波側にある周波数アロケーションの場合について説明した。しかし、送信帯域が高周波側、受信帯域が低周波側にある周波数アロケーションを有するシステムの場合についても、送信側フィルタ41には低周波側が急峻なフィルタ特性が要求され、受信側フィルタ42には高周波側が急峻なフィルタ特性が求められる。このようなシステムに対しては、送信側フィルタ41には、第2の実施の形態のSAWフィルタを用い、受信側フィルタ42には第1の実施の形態のSAWフィルタを用いれば、良好な特性を有するアンテナ共用器を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明のSAWフィルタおよびそれを用いたアンテナ共用器は、優れた周波数温度特性を有し、かつ良好な帯域内挿入損失を有することから、このSAWフィルタを用いることにより狭いクロスバンドにおいても急峻かつ相手側の帯域において大きな抑圧を有する高性能なアンテナ共用器を実現することもでき、携帯電話等の移動体通信分野に有用である。
【図1】


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に櫛型電極およびグレーティング反射器で構成された弾性表面波共振子を複数接続して構成した弾性表面波フィルタであって、前記弾性表面波共振子のうち、少なくとも1つの前記弾性表面波共振子の表面には誘電体膜が形成されており、少なくとも1つの前記弾性表面波共振子の表面には前記誘電体膜が形成されていないことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記誘電体膜が形成された前記弾性表面波共振子の容量比を、前記誘電体膜が形成されていない前記弾性表面波共振子の容量比よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体膜が形成された前記弾性表面波共振子の共振周波数を、前記誘電体膜が形成されていない前記弾性表面波共振子の共振周波数よりも高く設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
前記誘電体膜が形成された前記弾性表面波共振子の共振周波数を、前記誘電体膜が形成されていない前記弾性表面波共振子の共振周波数よりも低く設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項5】
前記弾性表面波共振子は直列接続および並列接続されてラダー型のフィルタ構成を形成し、前記誘電体膜は直列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つまたは並列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ
【請求項6】
前記誘電体膜が、二酸化シリコン膜であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項7】
請求項1に記載の弾性表面波フィルタを用いたアンテナ共用器。
【請求項8】
請求項5に記載のラダー型弾性表面波フィルタを用いたアンテナ共用器。
【請求項9】
送信側フィルタ、受信側フィルタおよび位相器を含むアンテナ共用器であって、前記送信側フィルタおよび前記受信側フィルタは、それぞれ弾性表面波共振子が直列接続および並列接続されたラダー型の構成からなり、かつそれぞれの通過帯域で急峻なフィルタ特性が要求される周波数端側に対応して、直列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つまたは並列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に誘電体膜が形成されていることを特徴とするアンテナ共用器。
【請求項10】
前記アンテナ共用器は送信帯域が低周波側で、受信帯域が高周波側にある周波数アロケーションであり、前記送信側フィルタは直列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に前記誘電体膜が形成された構成からなり、前記受信側フィルタは並列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に前記誘電体膜が形成された構成からなることを特徴とする請求項9に記載のアンテナ共用器。
【請求項11】
前記アンテナ共用器は送信帯域が高周波側で、受信帯域が低周波側にある周波数アロケーションであり、前記送信側フィルタは並列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に前記誘電体膜が形成された構成からなり、前記受信側フィルタは直列接続された前記弾性表面波共振子のうちの少なくとも1つの表面に前記誘電体膜が形成された構成からなることを特徴とする請求項9に記載のアンテナ共用器。

【国際公開番号】WO2005/076473
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517794(P2005−517794)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001859
【国際出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】