説明

弾性表面波フィルタ及びそれを使用した通信機器

【課題】帯域外減衰量が大きく、低損失の性能的に優れた弾性表面波フィルタを提供する。
【解決手段】第1の入力電極6aと第1の出力電極6bとを対向して構成した第1の櫛型状電極と、その櫛型状電極の両側にそれぞれ配置した第1の反射器5aとを備えた第1の多電極弾性表面波フィルタ2aと、第2の入力電極4aと第2の出力電極4bとを対向して構成した第2の櫛型状電極と、その櫛型状電極の両側にそれぞれ配置した第2の反射器5bを備えた第2の多電極弾性表面波フィルタ2bとを、同一の圧電基板1上に、各多電極弾性表面波フィルタ2a,2bの櫛型状電極と反射器が弾性表面波伝搬方向Xに沿って設けられた弾性表面波フィルタにおいて、第1の多電極弾性表面波フィルタ2aと第2の多電極弾性表面波フィルタ2bが弾性表面波伝搬方向Xに沿って配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を用いたデバイスである弾性表面波フィルタに係り、特に多電極弾性表面波フィルタを同一圧電基板上に複数個配置した弾性表面波フィルタ及びそれを使用した通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やコ−ドレス電話等の通信機器は小型、軽量化が進み急速に普及しており、このような携帯電話などには無線信号を処理するための弾性表面波フィルタが使用されている。この弾性表面波フィルタは入力から出力までの間の挿入損失を低減するために、表面波伝搬方向に沿って多数のインタ−デジタルトランスデュ−サ(IDT)を配置し、その両側に反射器を形成した弾性表面波フィルタが知られている(例えば特開平6−204781号公報参照)。
【0003】
従来、通常は1つのパッケ−ジには1つの弾性表面波フィルタを入れて使用していた。2つの異なる機能が要求される所謂デュアル型弾性表面波フィルタにおいては、弾性表面波フィルタを有する2つの圧電基板を1つのパッケ−ジに入れる方法も用いられているが、生産性が良くない。
【0004】
又、1つの圧電基板に2つの弾性表面波フィルタを形成する方法が提案されている(例えば特開平6−104686号公報参照)。しかし、ワイヤが多いことにより電磁結合の影響で挿入損失が増加し、帯域外減衰量も小さくなるため、ワイヤが多い多電極構造では問題がある。
図5に従来の多電極弾性表面波フィルタの例を示す。同図において、1は圧電基板、2a,2bは多電極弾性表面波フィルタ、3a,3bは入力端子、4a,4bは出力端子、5a,5bは反射器、6a,6bは入力電極、7a,7bは出力電極、8a,8bはワイヤである。
【0005】
同図に示すように第1の多電極弾性表面波フィルタ2aにおいて入力IDTを構成する入力電極6aと出力IDTを構成する出力電極7aが対向して櫛型状電極6a,7aを構成し、その櫛型状電極6a,7aの両側に反射器5a,5aが配置されている。第2の多電極弾性表面波フィルタ2bも同様に入力電極6bと出力電極7bが対向して櫛型状電極6b,7bを構成し、その櫛型状電極6b,7bの両側に反射器5b,5bが配置されている。
【0006】
前記弾性表面波フィルタ2aの反射器5a−櫛型状電極6a,7a−反射器5a、ならびに弾性表面波フィルタ2bの反射器5b−櫛型状電極6b,7b−反射器5bは、ともに弾性表面波伝搬方向Xに沿って直線上に配置され、かつ2つの弾性表面波フィルタ2a,2bは弾性表面波伝搬方向Xと直交する方向に並んでいる。
【0007】
そして弾性表面波フィルタ2aのワイヤ8aは出力端子4aに接続されるものを除き全て入力端子側に配線され、また弾性表面波フィルタ2bのワイヤ8bは入力端子3bに接続されるものを除き全て出力端子側に配線されている。
【特許文献1】特開平6−204781号公報
【特許文献2】特開平6−104686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように構成された弾性表面波フィルタの周波数特性を図6に示す。同図から明らかなように前記構成の弾性表面波フィルタは、挿入損失Yの増大及び帯域外減衰量の劣化を生じている。
【0009】
この原因は、それぞれの弾性表面波フィルタの接地ワイヤが片側に集中し、直達波が増大したためと考えられる。また、入出力端子3a,3b,4a,4bに接続するワイヤ8a,8bの長さが著しく異なるため、挿入損失の増大を招いている。このように従来の弾性表面波フィルタは、互いへのワイヤによる電磁結合や弾性表面波の干渉が生じ、優れた性能を有する弾性表面波フィルタが得られていない。
【0010】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、帯域外減衰量が大きく、低損失の性能的に優れた弾性表面波フィルタ及びそれを使用した通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、
第1の入力電極と第1の出力電極とを対向して構成した第1の櫛型状電極と、その櫛型状電極の両側にそれぞれ配置した第1の反射器とを備えた第1の多電極弾性表面波フィルタと、
第2の入力電極と第2の出力電極とを対向して構成した第2の櫛型状電極と、その櫛型状電極の両側にそれぞれ配置した第2の反射器を備えた第2の多電極弾性表面波フィルタとを、
同一の圧電基板上に、各多電極弾性表面波フィルタの櫛型状電極と反射器が弾性表面波伝搬方向に沿って設けられた弾性表面波フィルタを対象とするものである。
【0012】
そして前記第1の多電極弾性表面波フィルタと第2の多電極弾性表面波フィルタが、弾性表面波伝搬方向に沿って、例えば直線上にまたは前記弾性表面波伝搬方向と直交する方向に若干ずれて配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は前述のように、第1の多電極弾性表面波フィルタと第2の多電極弾性表面波フィルタを弾性表面波伝搬方向に沿って配置することにより、互いの特性への干渉が抑制され、各々の弾性表面波フィルタの入出力ワイヤの長さがほぼ均等となり、最適インピーダンス整合がとれる。そのために挿入損失の低減、ならびに帯域外減衰量の向上が図れ、性能的に優れた弾性表面波フィルタ及びそれを使用した通信機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明の実施の形態を図とともに説明する。図1は第1の実施の形態に係る弾性表面波フィルタの概略構成図、図2はそれの周波数特性図である。
【0015】
図1に示すように1つの圧電基板1上に、2つの異なる周波数帯域を利用する機能を備えた第1の多電極弾性表面波フィルタ2aと第2の多電極弾性表面波フィルタ2bが配置されている。
前記圧電基板1として、64°回転Y軸カットX軸伝搬のニオブ酸リチウムからなる圧電基板を使用した。第1の弾性表面波フィルタ2aの中心周波数は818MHz、第2の弾性表面波フィルタ2bの中心周波数は872.5MHzで、弾性表面波フィルタ2aの波長λは5.5μmである。
【0016】
この実施の形態では低い方の中心周波数は818MHz、高い方の中心周波数は872.5MHzであるが、低い方の周波数は810〜826MHz、高い方の周波数は870〜885MHzの帯域から適宜に選択可能である。
【0017】
同図に示すように第1の弾性表面波フィルタ2aと第2の弾性表面波フィルタ2bは、図5に示す従来例とは異なり弾性表面波伝搬方向Xに沿って配置され、かつその伝搬方向Xに対して直交する方向に若干ずらせている。なお、具体的なずれ量については後述する。
【0018】
第1の弾性表面波フィルタ2aにおいて、入力IDTを構成する5個の入力電極6aと、出力IDTを構成する4個の出力電極7aが対向して反復数が4回の櫛型状電極6a,7aを形成し、その櫛型状電極6a,7aの両側に反射器5a,5aがそれぞれ配置されている。
【0019】
第2の多電極弾性表面波フィルタ2bも同様に、入力IDTを構成する5個の入力電極6bと、出力IDTを構成する4個の出力電極7bが対向して反復数が4回の櫛型状電極6b,7bを形成し、その櫛型状電極6b,7bの両側に反射器5b,5bがそれぞれ配置されている。
【0020】
前記第1の多電極弾性表面波フィルタ2aの反射器5a−櫛型状電極6a,7a−反射器5a、ならびに第2の多電極弾性表面波フィルタ2bの反射器5b−櫛型状電極6b,7b−反射器5bは、ともに弾性表面波伝搬方向Xに沿って直線上に配置されている。
【0021】
そして前記櫛型状電極6a,7aと櫛型状電極6b,7bの間の距離d1を82.5μm(15λ)とし、さらに第1の弾性表面波フィルタ2aと第2の弾性表面波フィルタ2bの隣合わせの反射器5a,5bの間の距離d2を137.5μm(25λ)とした。
【0022】
このような配置構成にすると、相手側のIDTによる反射で干渉されることがなく、また入出力のワイヤ8a,8bの長さもほぼ均等となるため、図2に示すように低損失でかつ大きな帯域外減衰量の周波数特性が得られる。
【0023】
本実施の形態では、2つの弾性表面波フィルタの櫛型状電極の干渉を抑圧するため、前記距離d1を15λとしている(但し、λは低い方の周波数帯域を利用する波長)。この干渉はd1を特定の距離以上にすると十分無視出来る大きさに抑圧され、本発明者らの実験により50λより大きくしても相互干渉は変化しないことが判った。むしろd1を大きくしすぎると、入出力のワイヤの長さが著しく異なることによりインピ−ダンス整合がとれないという問題が生じる。
【0024】
一方、2つの弾性表面波フィルタ間の距離d2はワイヤが交差しない範囲で小さくすることができ、小さい方がチップの長さを短くできるという利点がある。反射器5a,5bの本数が少ない場合d2を約0とすることができる。本実施例では4回反復構造のため、反射器を5aは31本,5bは19本としている。反復数を減らして反射器の本数が200本程度の場合には、d2を約200λとすれば実現できる。
【0025】
すなわち、0<d1<50λかつ0<d2<200λとすることにより、この種の弾性表面波フィルタとして優れた特性を発揮することができる。
【0026】
図3は本発明の第2の実施の形態に係る弾性表面波フィルタの概略構成図で、前記第1の実施の形態と相違する点は、第1の弾性表面波フィルタ2aと第2の弾性表面波フィルタ2bが、圧電基板1のほぼ中央部において、弾性表面波伝搬方向Xに沿ってほぼ直線上に配置されている点である。
【0027】
この弾性表面波フィルタの周波数特性は図4に示すように、図6の従来のものと比較すると帯域外減衰量Yが大幅に減少している。これは接地用ワイヤを入出力それぞれの両側に分離して配置しているため、直達波が減少していることによる。また、入出力端子に接続するワイヤの長さをほぼ同じとすることができ、最適インピ−ダンス整合がとれるため、挿入損失が低減している。
【0028】
なお、この第2の実施の形態に係る弾性表面波フィルタでは、帯域内のリップルが増大するという新たな問題が生じることが判った。この原因は、2つの弾性表面波フィルタを同一直線上に配置したためである。また漏れ損失を低減するために櫛型状電極の両側に反射器を設けているが、この反射器を通過して漏れた波が僅かではあるがもう一方の弾性表面波フィルタに影響を与えるためである。さらに一方の弾性表面波フィルタが動作する周波数において、他方の弾性表面波フィルタの櫛型状電極が反射器として動作することも原因となっている。
【0029】
このような問題を解決するために、第1の実施の形態では前述のように、櫛型状電極を次のように配置した。
【0030】
0<d1<50λ かつ 0<d2<200λ
この範囲外だと、ワイヤによるアイソレ−ションなどの悪さや、一方の多電極弾性表面波フィルタからもれた波が、もう一方の多電極弾性表面波フィルタのIDTにより反射され影響を及ぼすことがある。
【0031】
本発明に係る弾性表面波フィルタは、携帯電話やコ−ドレス電話等の通信機器に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る弾性表面波フィルタの概略構成図である。
【図2】その弾性表面波フィルタの周波数特性図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る弾性表面波フィルタの概略構成図である。
【図4】その弾性表面波フィルタの周波数特性図である。
【図5】従来の弾性表面波フィルタの概略構成図である。
【図6】その弾性表面波フィルタの周波数特性図である。
【符号の説明】
【0033】
1:圧電基板、2a:第1の多電極弾性表面波フィルタ、2b:第2の多電極弾性表面波フィルタ、3a:第1の入力端子、3b:第2の入力端子、4a:第1の出力端子、4b:第2の出力端子、5a:第1の反射器、5b:第2の反射器、6a:第1の入力電極、6b:第2の入力電極、7a:第1の出力電極、7b:第2の出力電極、8a:ワイヤ、8b:ワイヤ、X:弾性表面波伝搬方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の入力電極と第1の出力電極とを対向して構成した第1の櫛型状電極と、その櫛型状電極の両側にそれぞれ配置した第1の反射器とを備えた第1の多電極弾性表面波フィルタと、
第2の入力電極と第2の出力電極とを対向して構成した第2の櫛型状電極と、その櫛型状電極の両側にそれぞれ配置した第2の反射器を備えた第2の多電極弾性表面波フィルタとを、
同一の圧電基板上に、各多電極弾性表面波フィルタの櫛型状電極と反射器が弾性表面波伝搬方向に沿って設けられた弾性表面波フィルタにおいて、
前記第1の多電極弾性表面波フィルタと第2の多電極弾性表面波フィルタが、弾性表面波伝搬方向に沿って配置されていることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
請求項1記載において、前記第1の多電極弾性表面波フィルタと第2の多電極弾性表面波フィルタが、弾性表面波伝搬方向と直交する方向にずれて配置されていることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
弾性表面波フィルタを使用した通信機器において、前記弾性表面波フィルタが請求項1又は2記載の弾性表面波フィルタであることを特徴とする通信機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−68211(P2007−68211A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291142(P2006−291142)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【分割の表示】特願平8−284098の分割
【原出願日】平成8年10月25日(1996.10.25)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】