弾性表面波共振子の製造方法
【課題】各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子の製造方法を提供すること。
【解決手段】弾性表面波共振子1は、いわゆる1ポート型と呼ばれるタイプの素子であり、圧電体基板2と、圧電体基板2上に設けられたIDT(櫛歯電極)3と、IDT3の両側に設けられた1対の反射器4、5とを有している。IDT3は、複数の電極指31a、31bを有しており、また、圧電体基板2の電極指31a、31b間には第2の溝25が形成されている。一方、反射器4、5は、複数の導体ストリップ41、51を有しており、また、圧電体基板2の導体ストリップ41、51間には第2の溝25より深い第1の溝26が形成されている。このような深さの異なる第1の溝26および第2の溝25は、特性の異なる2種類のレジスト材料からなるレジスト層を用い、これらの剥離液に対する剥離性の違いを利用して形成される。
【解決手段】弾性表面波共振子1は、いわゆる1ポート型と呼ばれるタイプの素子であり、圧電体基板2と、圧電体基板2上に設けられたIDT(櫛歯電極)3と、IDT3の両側に設けられた1対の反射器4、5とを有している。IDT3は、複数の電極指31a、31bを有しており、また、圧電体基板2の電極指31a、31b間には第2の溝25が形成されている。一方、反射器4、5は、複数の導体ストリップ41、51を有しており、また、圧電体基板2の導体ストリップ41、51間には第2の溝25より深い第1の溝26が形成されている。このような深さの異なる第1の溝26および第2の溝25は、特性の異なる2種類のレジスト材料からなるレジスト層を用い、これらの剥離液に対する剥離性の違いを利用して形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波共振子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用した弾性表面波共振子は、一般に、圧電体で構成された圧電体基板と、この圧電体基板上に設けられた櫛歯電極(Interdigital Transducer:IDT)とを備えている。また、圧電体基板上には、IDTから発生した弾性表面波の伝播方向においてIDTを挟み込むように、複数の導体ストリップ(ストリップ電極)を備えた一対の反射器が設けられる。
【0003】
弾性表面波共振子では、櫛歯電極に周期的な電圧が印加されることにより、圧電体基板の表面付近に集中して伝播する波(弾性表面波)が発生する。発生した弾性表面波は、一対の反射器間を往復し、共振を発生させる。
このような弾性表面波共振子の特性として、共振先鋭度Q(Q値)がある。このQ値を高めることは、弾性表面波共振子の発振安定性(信頼性)の観点から重要であるため、弾性表面波共振子のQ値を高める様々な試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、圧電体基板の櫛歯電極間および導体ストリップ間に対応する部位に溝を設け、IDTにおける溝の深さより、反射器における溝の深さを深くすることで、Q値の向上を図る技術が開示されている。この技術では、上記のような異なる深さの溝を設けることで、反射器の反射特性を向上させ、Q値の向上が試みられている。
従来、このような溝は、リアクティブスパッタエッチング等のドライエッチング法により形成されていた。
しかしながら、ドライエッチング法により溝を形成すると、溝の底部に荒れ(微細な凹凸)が生じ、得られる弾性表面波共振子の特性に悪影響を及ぼすことが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−7207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法は、圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、前記圧電体基板の前記電極指間に形成された前記第1の溝よりも浅い第2の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝および前記第2の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝と前記第2の溝の深さを異ならせるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0008】
[適用例2]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成するための仮の溝を形成する工程と、
前記第2の保護膜を除去した後、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝とを形成する工程と、を有することが好ましい。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0009】
[適用例3]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記第1の溝を形成するための仮の溝とを形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝を形成する工程と、を有することが好ましい。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0010】
[適用例4]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法は、圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝が前記導体ストリップ間にのみ形成されるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0011】
[適用例5]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成する工程と、を有することが好ましい。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0012】
[適用例6]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶解可能な溶媒の種類が互いに異なるものであることが好ましい。
これにより、溶媒の種類を変えることで、第1の保護膜および第2の保護膜が、現像および剥離の際に、相互に干渉し合うことがなくなるので、第2の保護膜を現像したり剥離したりしても、そのプロセスが第1の保護膜に悪影響を及ぼすことが防止される。その結果、第1の保護膜がマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0013】
[適用例7]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶媒に対する溶解性が互いに異なるものであることが好ましい。
これにより、同一の溶媒を使用して現像および剥離を行ったとしても、マスクの機能が失われるまでの時間に差が生じるので、それを利用することで、第2の保護膜を現像したり剥離したりする際に、そのプロセスが第1の保護膜に悪影響を及ぼすことが防止される。その結果、第1の保護膜がマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0014】
[適用例8]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、アッシング処理に対する耐久性が互いに異なるものであることが好ましい。
これにより、第2の保護膜をアッシングする際に、そのプロセスが第1の保護膜に悪影響を及ぼすことが防止される。その結果、第1の保護膜がマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0015】
[適用例9]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記電極指間に位置しないよう成膜されることが好ましい。
これにより、電極指間に不本意な段差が生じるのを防止して、弾性表面波共振子の特性に悪影響が及ぶのを防止することができる。
【0016】
[適用例10]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記複数の電極指のうち、最も外側に位置する前記電極指は、その他の電極指に比べて幅が広くなるよう形成され、
前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記最も外側に位置する電極指の上方に位置するよう成膜されることが好ましい。
これにより、第2の保護膜のパターニングを行う際、その位置ズレの許容範囲が電極指の幅が広がった分だけ緩和されるため、弾性表面波共振子の製造を容易に行うことができる。
【0017】
[適用例11]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜および前記第2の保護膜は、それぞれ有機材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、第1の保護膜および第2の保護膜を介してドライエッチング処理を行った際、これらの保護膜が気化して除去されるため、意図しない副生成物が生じ、これが溝の形成に悪影響を及ぼすことが防止される。
【0018】
[適用例12]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記有機材料は、フォトレジスト材料であることが好ましい。
これにより、第1の保護膜および第2の保護膜のパターニングを露光によって正確に行うことができる。
【0019】
[適用例13]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜を構成するフォトレジスト材料は、ノボラック系樹脂を含むものであることが好ましい。
これにより、高精度なパターニングが可能であり、かつ、ドライエッチングに対して比較的高い耐性を有する保護膜が得られる。
【0020】
[適用例14]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記エッチングは、ドライエッチングであることが好ましい。
ドライエッチングによれば、ウェットエッチングに比べて工数を大幅に削減することができるので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0021】
[適用例15]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板は、水晶で構成されていることが好ましい。
水晶は、弾性表面波素子に用いる圧電体として様々な優れた特性を有する。したがって、圧電体基板を水晶で構成することで、優れた特性を有する弾性表面波素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す弾性表面波共振子に備えられた圧電体基板のカット角および弾性表面波の伝播方向を説明するための図である。
【図3】図1に示す弾性表面波共振子の部分拡大断面図である。
【図4】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図5】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図6】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図7】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図8】図3に示す弾性表面波共振子の他の構成例を示す部分拡大断面図である。
【図9】図8に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図10】本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。
【図11】本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。
【図12】本発明の第3実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す部分拡大断面図である。
【図13】図12に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図14】実施例1(本発明)および比較例(従来)のそれぞれにおける溝の底面の状態を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の弾性表面波共振子の製造方法を好適な実施形態を用いて説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第1実施形態について説明する。
(弾性表面波共振子)
ここでは、製造方法の説明に先立って、本実施形態にかかる弾性表面波共振子の構造について説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す平面図、図2は、図1に示す弾性表面波共振子に備えられた圧電体基板のカット角および弾性表面波の伝播方向を説明するための図、図3は、図1に示す弾性表面波共振子の部分拡大断面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0025】
図1および図2に示す弾性表面波共振子1は、いわゆる1ポート型と呼ばれるタイプの素子であり、圧電体基板2と、圧電体基板2上に設けられたIDT(櫛歯電極)3と、IDT3の両側に設けられた1対の反射器4、5とを有している。
この弾性表面波共振子1は、IDT3(後述する各電極3a、3b間)に周期的に変化する電圧が入力されると、圧電体基板2の圧電効果により圧電体基板2の表面付近において弾性表面波が励振される。励振された弾性表面波は、1対の反射器4、5間で反射を繰り返して、これらの間に封じ込められる。
【0026】
以下、このような弾性表面波共振子1を構成する各部を順次詳細に説明する。
圧電体基板2は、弾性表面波の伝搬媒体として機能するものである。
本実施形態では、圧電体基板2は、水晶で構成されている。水晶は、弾性表面波共振子1に用いる圧電体として様々な優れた特性を有する。したがって、圧電体基板2を水晶で構成することで、優れた特性を有する弾性表面波共振子1を提供することができる。
【0027】
圧電体材料(水晶)の結晶軸は、図2に示すように、互いに直交するX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)およびZ軸(光学軸)によって表現される。そして、圧電体材料(水晶)のカット角は、オイラー角(φ,θ,ψ)で表現されるが、Z軸に直角な主面を有するZカット基板のカット角は、オイラー角(0°,0°,0°)で表わされる。
ここで、オイラー角のφは、Zカット基板の第1の回転に関するものであり、Z軸を回転軸とし、+X軸側から+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第1の回転角度である。また、オイラー角のθは、Zカット基板の第1の回転後に行う第2の回転に関するものであり、第1の回転後のX軸(座標軸X’軸)を回転軸とし、第1の回転後の+Y軸(座標軸+Y’軸)側から+Z軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第2の回転角度である。また、オイラー角のψは、Zカット基板の第2の回転後に行う第3の回転に関するものであり、第2の回転後のZ軸(座標軸Z’軸)を回転軸とし、第2の回転後の+X軸(座標軸+X’軸)側から第2の回転後の+Y軸(座標軸+Y”軸)側へ回転する方向を正の回転角度とした第3の回転角度である。
【0028】
圧電体基板2のカット面は、前述した第1の回転角度φおよび第2の回転角度θで決定される。また、圧電体基板2における弾性表面波の伝播方向は、前述した第2の回転後のX軸(座標軸X’軸)に対する第3の回転角度ψで表わされる。
特に、本実施形態では、圧電体基板2は、図2に示すように、STカット水晶板10をZ’軸周りにψ°回転させたカット角となる面内回転STカット水晶板20を用いて形成されている。このような圧電体基板2のカット角は、オイラー角(φ°,θ°,ψ°)による表示で(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))となる。圧電体基板2のカット角および弾性表面波の伝播方向をこの範囲にすると、周波数温度特性に優れた弾性表面波共振子1を得ることができる。
【0029】
また、このような面内回転STカット水晶板を用いた圧電体基板2においては、結晶の異方性のため、IDT3への通電により弾性表面波を発生させた場合、弾性表面波の位相の伝播方向である位相速度の方向Bと、波群の伝播方向である群速度の方向Aが異なる。より具体的には、圧電体基板2は、図1に示すように、弾性表面波の位相速度の方向BがX”軸に沿っている。そして、群速度の方向Aは、弾性表面波のエネルギーが進む方向となっていて、位相速度の方向Bと角度PFAをもって交差する。位相速度の方向Bと群速度の方向Aとのなす角度PFAは、パワーフロー角と言う。
【0030】
したがって、本実施形態では、群速度の方向Aに伝播する波群(波束)を効率的に反射し、高いQ値が得られるように、後述するIDT3と反射器4、5とを群速度の方向Aに沿って配列している。また、IDT3の電極指31a、31bおよび反射器4、5の導体ストリップ41、51は、それぞれ、長手方向が位相速度の方向B(X”軸)に直交した方向、すなわちY'''軸に沿って形成されている。また、圧電体基板2は、平面視にて、長方形をなし、対向する一対の辺(長辺)21、22がIDT3および反射器4、5の配列方向に沿っており、他の一対の辺(短辺)23、24は、弾性表面波の群速度の方向Aと直交している。これにより、圧電体基板2は、小型化を図るとともに、水晶ウエハーに対する収率を向上することができる。また、圧電体基板2は、二辺(短辺)23、24が弾性表面波の位相速度の方向Bと直交していないため、反射器4、5から漏れた波群が各辺23、24で反射された場合でも、反射波の位相をずらして反射器4、5ひいてはIDT3に戻すことができる。これにより、圧電体基板2の端面からの反射波に起因するスプリアスの影響を抑圧することができる。
【0031】
なお、圧電体基板2は、前述したオイラー角をカット角とする水晶基板に限定されるものではない。また、圧電体基板2は、水晶に限定されず、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、4ホウ酸リチウム(Li2B4O7)等で構成されていてもよい。
このような圧電体基板2の一方の面(上面)には、IDT(櫛歯電極)3および1対の反射器4、5が接合されている。
【0032】
IDT3は、電気信号を受け(電圧が印加され)、これにより、圧電体基板2に弾性表面波を励振させる機能を有するものである。
IDT3は、1対の電極3a、3bで構成されている。そして、電極3aは、複数の電極指31aを備え、電極3bは、複数の電極指31bを備えている。このようなIDT3は、電極3aの複数の電極指31aと、電極3bの複数の電極指31bとが互いに噛み合うように構成されている。このようなIDT3の電極指31a、31bの幅、間隔、厚さ等を調整することにより、弾性表面波の発振周波数の特性を所望のものに設定することができる。
このような電極3a、3b間に周期的に変化する電圧を印加すると、圧電体基板2の上面付近に、電極指31a、31bの配列方向に伝播する弾性表面波が励振される。
【0033】
IDT3の構成材料としては、導電性を有する材料であれば、特に限定されないが、金属材料が好適に用いられる。特に、IDT3の構成材料としては、AlまたはAlを主材料とした合金(Al系合金)を用いるのが好ましい。Alは、導電性に優れている(電気抵抗が小さい)ため、IDT3をAlまたはAl系合金を主材料として構成することにより、エネルギー損失が小さくなる。その結果、弾性表面波共振子1の弾性表面波の共振をより鋭くすることができる。
【0034】
また、AlまたはAlを主材料とする合金は、水晶と比重(密度)が同程度であり、前述したような水晶で構成された圧電体基板2の電極指31a、31b同士の間の部分に第2の溝25を形成した構成において、良好な特性を得ることができる。
また、Alは比重が小さいので、IDT3の膜厚に依存した音速変化が小さく抑えられる。したがって、弾性表面波共振子1の中心周波数のばらつきを抑えることができる。
【0035】
また、IDT3の膜厚の制御が容易となるので、精度の高い弾性表面波共振子1を得ることができる。
また、IDT3をAl系合金を主材料として構成する場合、Alに、Cu、Si、Ti、Mo、Sc等の金属を添加することにより、IDT3のマイグレーション耐性を改善することもできる。Alに添加する前記金属の含有割合は、重量比で10%以下であればよい。
このようなIDT3を介して対向するように、1対の反射器4、5が配置されている。
1対の反射器4、5は、それぞれ、圧電体基板2を伝播する弾性表面波を反射して、反射器4と反射器5との間に封じ込める機能を有する。
【0036】
また、反射器4は、所定間隔で並設された複数の導体ストリップ41を有し、全体としてグレーティング状をなしている。これと同様に、反射器5は、所定間隔で並設された複数の導体ストリップ51を有し、全体としてグレーティング状をなしている。このような構造の各反射器4、5は、それぞれ、弾性表面波を効率よく反射することができる。
このような導体ストリップ41、51の幅、間隔、ピッチ、厚さ等を調整することにより、弾性表面波共振子1において励振される弾性表面波の発振周波数等の特性を所望のものに設定することができる。
【0037】
また、圧電体基板2の上面のうち、IDT3の電極指31a、31b間に対応する部分には、第2の溝25が形成されている。
この第2の溝25は、その横断面形状が矩形状をなしていて、電極指31a、31bの見かけ上の厚さを厚くすることができる。すなわち、第2の溝25の深さをHgTとし、電極指31a、31bの厚さをHmTとしたとき、見かけ上の電極指31a、31bの厚さHTは、(HgT+HmT)となる。
【0038】
そのため、第2の溝25を設けることにより、実際の電極指31a、31bの厚さ(IDT3の厚さ)HmTを相対的に薄くすることができる。これにより、振動損失に相当するCI(Crystal Impedance)値が低下するため、発振安定性を高めることができる。また、IDT3の通電によるストレスマイグレーション等に起因する周波数変動を抑制することができる。さらに、第2の溝25の深さHgTを調整することで、弾性表面波共振子1の所望の特性に設定することができる。
このような第2の溝25の底面は、後述する製造方法によって、平坦に形成されている。これにより、エネルギー損失の少ない優れた特性を有する弾性表面波共振子1を提供することができる。
【0039】
一方、圧電体基板2の上面のうち、反射器4、5の導体ストリップ41、51間に対応する部分には、第1の溝26が形成されている。
この第1の溝26は、その横断面形状が矩形状をなしていて、導体ストリップ41、51の見かけ上の厚さを厚くすることができる。すなわち、第1の溝26の深さをHgRとし、導体ストリップ41、51の厚さをHmRとしたとき、見かけ上の導体ストリップ41、51の厚さHRは、(HgR+HmR)となる。
そのため、第1の溝26を設けることにより、反射器4、5の反射特性が向上し、Q値を高めることができる。その結果、発振安定性の高い弾性表面波共振子1が得られる。
ここで、弾性表面波共振子1のCI値の低下とQ値の向上とを両立するという観点から、IDT3で励振される弾性表面波の波長をλとしたとき、HgTおよびHgRは、HgT/λ<HgR/λの関係を満たし、かつ、HTおよびHRは、HT/λ<HR/λの関係を満たすことが好ましい。
【0040】
弾性表面波共振子1が上記のような関係を満たすことにより、反射器4、5の反射特性が向上してストップバンド上端モードのSAWのエネルギー閉じ込め効果がより顕著になり、Q値のさらなる向上が図られる。また、相対的にIDT3の電極指31a、31bの膜厚が減少するため、IDT3の電気機械結合係数を高めることができ、CI値をさらに下げることができる。
また、Q値の向上等の観点からは、さらに、電極指31a、31bの厚さ(IDT3の厚さ)HmTと、導体ストリップ41、51の厚さHmRとが、HmT/λ<HmR/λの関係を満たすことが好ましい。
【0041】
(弾性表面波共振子の製造方法)
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法について、図3に示す弾性表面波共振子1を製造する場合を例に説明する。
図4〜7は、それぞれ、図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図4〜7の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0042】
弾性表面波共振子1の製造方法は、[A]圧電体基板2A上に導体層3Aを形成する工程と、[B]導体層3Aにエッチングを施してIDT3および反射器4、5を形成する工程と、[C]圧電体基板2Aの反射器4、5の導体ストリップ41、51間にエッチングを施して溝26Aを形成する工程と、[D]圧電体基板2Aのうち、IDT3の電極指31a、31b間にエッチングを施して第2の溝25を形成するとともに、反射器4、5の導体ストリップ41、51間にエッチングを施し、溝26Aをさらに深くすることで第1の溝26を形成する工程と、を有する。以下、各工程を順次説明する。
【0043】
[A]導体層3Aの形成
−A1−
まず、図4(a)に示すように、圧電体基板2Aを用意する。
この圧電体基板2Aは、例えば、前述した第1の溝26および第2の溝25を形成する前の水晶基板である。
【0044】
−A2−
そして、図4(b)に示すように、圧電体基板2Aの一方の面上に、導体層3Aを形成する。
導体層3Aの構成材料としては、前述したIDT3の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0045】
また、導体層3Aの形成方法としては、特に限定されず、例えば、ディッピング法、印刷法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、導体箔の接合等を用いることができるが、中でも、乾式メッキ法が好適に用いられる。
【0046】
[B]IDT3および反射器4、5の形成
−B1−
次いで、図4(c)に示すように、導体層3Aの圧電体基板2Aとは反対側の面上にレジスト材料を塗布し、レジスト層6Aを成膜する。レジスト材料としては、露光された部分が現像によって除去されるポジ型(例えば、ノボラック系樹脂を主とするフォトレジスト材料)のものと、露光された部分が現像液に対して不溶になり残存するネガ型(例えば、ゴム系材料を主とするフォトレジスト材料)のものがあるが、いずれのものも用いることができる。
【0047】
−B2−
次いで、レジスト層6Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の電極指31a、31bに対応する領域のレジスト層6Aを残存させる。また、同様に、反射器4、5の導体ストリップ41、51に対応する領域のレジスト層6Aを残存させる。これにより、図5(d)に示す第1のレジスト層(第1の保護膜)6を得る。
【0048】
−B3−
次いで、第1のレジスト層6をマスクとして導体層3Aをエッチングする。これにより、図5(e)に示すIDT3および反射器4、5が得られる。なお、得られたIDT3が有する電極指31a、31bおよび反射器4、5が有する導体ストリップ41、51は、横断面形状が矩形状をなしており、それぞれの上面には第1のレジスト層6が積層された状態となる。また、形成されたIDT3の電極指31a、31b間、および、反射器4、5の導体ストリップ41、51間では、それぞれ圧電体基板2Aの上面が露出している。
本工程で用いるエッチングとしては、特に限定されないが、リアクティブイオンエッチング(RIE)、プラズマエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等のドライエッチングが好適に用いられる。ドライエッチングによれば、ウェットエッチングに比べて工数を大幅に削減することができるので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0049】
[C]仮の溝26Aの形成
−C1−
次いで、図5(f)に示すように、第1のレジスト層6の上面および露出した圧電体基板2Aの上面を覆うようにレジスト材料を塗布し、レジスト層7Aを成膜する。本工程で用いるレジスト材料としては、レジスト層6Aを構成するレジスト材料と特性の異なるものが用いられる。
【0050】
−C2−
次いで、レジスト層7Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域および電極指31a、31b間の領域のレジスト層7Aを残存させる。これにより、図6(g)に示す第2のレジスト層(第2の保護膜)7を得る。なお、この現像の結果、反射器4、5の形成領域、すなわち、導体ストリップ41、51に対応する領域および導体ストリップ41、51間において圧電体基板2Aの上面が露出した領域では、レジスト層7Aが除去され、露出した状態となる。
【0051】
ここで、第2のレジスト層7は、図6(g)に示すように、その縁部の一部が、電極指31a、31bの間に位置しないよう成膜される。換言すれば、第2のレジスト層7は、その縁部の一部が、最も外側にある電極指31a、31bの形成領域(電極指31a、31b上)に位置するようパターニングされる。仮に第2のレジスト層7がこの領域からはみ出して電極指31a、31bの間に位置してしまうと、後述する工程C3においてエッチングを行う際、この位置にエッチング領域と非エッチング領域との境界ができてしまい、溝の底面に不本意な段差が生じる。この段差は、弾性表面波共振子1の特性に悪影響を及ぼす。したがって、第2のレジスト層7の縁部の一部が電極指31a、31bの形成領域(電極指31a、31b上)に位置していれば、上述したような不本意な段差の形成が防止される。
【0052】
−C3−
次いで、第2のレジスト層7をマスクとして、導体ストリップ41、51間において露出した圧電体基板2Aの上面をエッチングする。これにより、図6(h)に示す圧電体基板2Aの上面の導体ストリップ41、51間に溝(仮の溝)26Aが形成される。
この際、溝26Aの深さは、形成しようとする第1の溝26の深さと第2の溝25の深さとの差に相当する深さとされる。すなわち、例えば第1の溝26の深さが第2の溝25の深さよりDだけ深い場合、本工程において形成する溝26Aの深さをDとすればよい。
【0053】
[D]第1の溝26および第2の溝25の形成
−D1−
次いで、第2のレジスト層7を除去する。これにより、図6(i)に示すように、第2のレジスト層7で覆われていたIDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域に積層された第1のレジスト層6と、圧電体基板2Aの上面の電極指31a、31b間とがそれぞれ露出する。
【0054】
−D2−
次いで、IDT3の電極指31a、31b上、および、反射器4、5の導体ストリップ41、51上に積層された第1のレジスト層6をマスクとして、露出している圧電体基板2Aの上面をエッチングする。これにより、電極指31a、31b間に露出している圧電体基板2Aの上面がエッチングされ、図7(j)に示す第2の溝25が形成される。また、導体ストリップ41、51間に露出している圧電体基板2Aの上面がエッチングされ、溝26Aがさらに深くなる。その結果、図7(j)に示す、第2の溝25より深い第1の溝26が形成される。
なお、本工程においては、第2の溝25が形成される際のエッチング量と、第1の溝26が形成される際のエッチング量とは、ほぼ同じである。したがって、第1の溝26の深さと第2の溝25の深さとの差は、前述した溝26Aの深さDがそのまま保持されることとなる。
【0055】
−D3−
次いで、IDT3上および反射器4、5上に残存した第1のレジスト層6を除去する。これにより、図7(k)に示す弾性表面波共振子1が得られる。
以上のような本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、圧電体基板2Aの上面をエッチングする際、圧電体基板2Aが露出した領域がエッチングされる一方、それ以外の領域はレジスト材料からなる層で覆われている。例えば、工程C3では、圧電体基板2Aの上面がエッチングされて溝26Aを形成するが、この際、溝26Aを形成する領域以外は、第1のレジスト層6または第2のレジスト層7で覆われている。
【0056】
一方、従来の製造方法では、IDT3や反射器4、5をマスクとして利用していた。このため、IDT3や反射器4、5が直接エッチングに曝されることになり、膜厚が減少する等して特性が低下することがあった。また、IDT3や反射器4、5がエッチングされると、これらを構成する導体成分(主に金属)が飛散し、飛散物粒子が周囲の圧電体基板2の表面に付着、堆積する。このようにして付着、堆積した導体成分は、その領域における圧電体基板2Aのエッチングを局所的に阻害するため、エッチングが阻害される領域と阻害されない領域とでエッチングレートに差が生じてしまう。その結果、第1の溝26や第2の溝25の底面に荒れが生じていた。
【0057】
本発明者は、上述したような底面の荒れの原因を突き止めるとともに、かかる底面の荒れが弾性表面波共振子1の特性を悪化させていることを見出し、底面の荒れを防止し得る製造方法について鋭意検討を重ねた。そして、エッチングの際のマスクにその原因があることを突き止めるとともに、第1の溝26や第2の溝25の底面に荒れを生じさせない方法を見出し、本発明を完成するに至った。
また、本実施形態では、溝を形成するにあたり、深さの異なる溝を形成する必要があることから、それを実現する手段も見出したものである。
【0058】
本発明によれば、ドライエッチングを施した際に、例えばIDT3や反射器4、5等がエッチングされてしまうことを防止するとともに、第1の溝26や第2の溝25の底面が荒れるのを防止して、設計通りの本来の特性を発揮する弾性表面波共振子1を効率よく製造することができる。
また、第1のレジスト層6および第2のレジスト層7として、有機材料を主材料とするレジスト層を用いることにより、これらのレジスト層6、7は、ドライエッチングによって気体となるという特徴を有するものとなる。そのため、前述した飛散物粒子のような副生成物の生成が確実に防止され、これにより第1の溝26や第2の溝25の底面が荒れるのを確実に防止される。
また、樹脂材料は、有機材料の中でもドライエッチングに対して比較的高い耐性を有する。したがって、第1のレジスト層6および第2のレジスト層7は、IDT3や反射器4、5を確実に保護することができる。
【0059】
ここで、本発明では、2種類のレジスト層を用いて深さの異なる溝を形成している。このため、2種類のレジスト層の間では、現像プロセス、剥離プロセスが相互に影響を及ぼさないよう、レジスト材料の特性が異なっている。具体的には、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と第2のレジスト層7を構成するレジスト材料とは、(i)溶解可能な溶媒(例えば現像液、剥離液等)の種類が異なる、(ii)同じ溶媒(例えば現像液、剥離液等)に対する溶解性が異なる、(iii)アッシング(剥離)処理に対する耐久性が異なる、といった特性の違いが存在している。
【0060】
第1のレジスト層6と第2のレジスト層7との間に上述したような差異が存在していると、工程[C]のC2や、工程[D]のD1において、レジスト層7Aを現像したり、第2のレジスト層7をアッシング(剥離)したりする際に、第1のレジスト層6に損傷を及ぼすおそれがなくなる。したがって、このような特性の違いを利用することで、各レジスト層6、7のマスクとしての機能がそれぞれ確実に保持され、その後のエッチング処理において処理領域の正確な制御が可能になる。すなわち、各レジスト層6、7の現像および剥離に際して、その独立性が確保されることで、各レジスト層6、7による処理領域の制御が確実に行われる。
【0061】
(i)の場合、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7とで溶解可能な現像液の種類を変えることにより、例えば、工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6は、レジスト層7A用の現像液に対する溶解性がなくなる。このため、レジスト層7Aを現像している間も、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
またこの場合、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際、下地の第1のレジスト層6は、第2のレジスト層7用の剥離液に対する剥離性がなくなる。このため、第2のレジスト層7を剥離している間も、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0062】
上記の観点から、(i)の場合、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料は、それを現像可能な現像液および剥離可能な剥離液に対して溶解し、第2のレジスト層7用の現像液および剥離液に対しては不溶となるよう、その組成が適宜選択される。同様に、第2のレジスト層7を構成するレジスト材料は、第2のレジスト層7用の現像液および剥離液に対して溶解し、第1のレジスト層6用の現像液および剥離液に対しては不溶となるよう、その組成が適宜選択される。
【0063】
なお、工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6はすでに現像済みであるため、多くの現像液に対して十分な耐久性を有している。したがって、この第1のレジスト層6がレジスト層7A用の現像液に触れたとしても、溶解する可能性は非常に低いといえる。かかる観点から、(i)の場合、少なくとも、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際に、下地の第1のレジスト層6が剥離してしまわないようにすることの方が重要である。
【0064】
ここで、溶解可能な溶媒(剥離液)の種類が異なるレジスト材料の組み合わせとしては、例えば、ポジ型レジスト材料とネガ型レジスト材料の組み合わせが挙げられる。このうち、ポジ型レジスト材料としては、例えば、ノボラック系樹脂を含むフォトレジスト材料が好ましく用いられる。フォトレジスト材料を用いることにより、レジスト層6A、7Aのパターニングを正確に行うことができる。
【0065】
また、ノボラック系樹脂には、例えば、フェノールまたはo−、m−またはp−クレゾール、キシレノールまたはこれらのフェノール系化合物の混合物とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られるノボラック系樹脂が好ましく用いられる。ノボラック系樹脂は、高精度なパターニングが可能であり、かつ、ドライエッチングに対して比較的高い耐性を有することから、レジスト材料として好適である。
また、用いられるノボラック系樹脂としては、その重量平均分子量が、2,000〜20,000程度であるものが好ましく、5,000〜15,000程度であるものがより好ましい。
【0066】
一方、ネガ型レジスト材料としては、例えば、ゴム系レジスト材料が好ましく用いられる。このゴム系レジスト材料は、環化ポリイソプレンや環化ポリブタジエン等のゴム成分および芳香族ビスアジド等の感光剤を、キシレンなどの芳香族炭化水素等の溶媒に溶解したものであり、露光により感光剤から発生するラジカルによりゴム成分が架橋、不溶化するものである。
これらのポジ型レジスト材料およびネガ型レジスト材料では、これらの材料からなるレジスト層を剥離する際に用いる剥離液の種類が互いに異なっている。
具体的には、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液としては、例えば、エタノールアミン類のような有機アミンと極性溶媒との混合物が挙げられる。
【0067】
一方、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸などを成分とした有機酸系の薬液が用いられる。
ポジ型レジスト材料は、上述したネガ型レジスト材料用の剥離液に対して比較的不溶であり、ネガ型レジスト材料は、上述したポジ型レジスト材料に対して比較的不溶であることから、これらのレジスト材料からなるレジスト層は、それぞれ選択的な剥離が可能になり、本発明の効果が発生する。
なお、上記不溶とは、全くの溶解しないことを必要とするものではなく、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7との間で溶解性に十分な差ができていれば、ある程度の溶解は許容される。
【0068】
また、例えば、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液と、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液とは、その剥離性の強さを考慮して適用する工程を適宜選択する。例えば、前者の剥離液は、後者の剥離液に比べてその剥離性が比較的弱いことから、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層を第1のレジスト層6とし、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層を第2のレジスト層7とすれば、第2のレジスト層7を除去する際に、それに伴って第1のレジスト層6が剥離してしまうのをより確実に防止することができる。
【0069】
また、ポジ型レジスト材料は露光部が除去される性質のものであり、ネガ型レジスト材料は露光部が残存する性質のものであることから、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層を第1のレジスト層6とし、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層を第2のレジスト層7とすれば、第2のレジスト層7を形成する際の露光の際に、仮に第1のレジスト層6に光が当たったとしても、悪影響を及ぼすおそれがないという利点がある。
【0070】
(ii)の場合、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と、第2のレジスト層7を構成するレジスト材料については、同じ溶媒(現像液および剥離液)に対して溶解性が互いに異なるよう、その組成を適宜選択すればよい。これにより、例えば工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6を、レジスト層7A用の現像液に対する溶解性が相対的に小さいものにすることができる。これにより、レジスト層7Aの現像を終えた時点でも第1のレジスト層6を溶解せずに残存させ、この時点で速やかに現像液を除去することにより、第1のレジスト層6を失うことなくレジスト層7Aの現像を行うことができる。
【0071】
またこの場合、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際、下地の第1のレジスト層6は、第2のレジスト層7用の剥離液に対する溶解性が小さい。このため、第2のレジスト層7を剥離している間も、第1のレジスト層6はわずかしか溶解しないので、第2のレジスト層7を剥離し終えた後でも、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0072】
なお、(i)の場合と同様、工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6はすでに現像済みであるため、多くの現像液に対して十分な耐久性を有している。したがって、この第1のレジスト層6がレジスト層7A用の現像液に触れたとしても、溶解する可能性は非常に低いといえる。かかる観点から、(ii)の場合も、少なくとも、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際に、下地の第1のレジスト層6が剥離してしまわないようにすることの方が重要である。
【0073】
このような溶解性の差を生じるレジスト材料の組み合わせとしては、例えば、同一組成のレジスト材料であって、その分子量、ガラス転移点、溶解性を左右する官能基の含有量が互いに異なるレジスト材料の組み合わせ等が挙げられる。このようなレジスト材料からなるレジスト層は、それぞれ同じ溶媒に対して溶解性が異なることから、それを利用することで、選択的な溶解が可能になる。
【0074】
なお、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7とで、その厚さを大きく異ならせることで、各々が完全に剥離に至るまでの時間を大きく異ならせることができる。例えば、第2のレジスト層7に比べて第1のレジスト層6の厚さを十分に厚くすることで、第2のレジスト層7を剥離し終えた後でも、第1のレジスト層6を十分に残存させることができる。このようにしても、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7の選択的な剥離が可能になる。
【0075】
(iii)の場合、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と、第2のレジスト層7を構成するレジスト材料については、同じアッシング処理(特にドライアッシング)に対してアッシング耐性(耐久性)が互いに異なるよう、その組成を適宜選択すればよい。例えば工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際、下地の第1のレジスト層6を、第2のレジスト層7を剥離する際のアッシング処理に対するアッシング耐性よりも相対的に大きくすればよい。これにより、第2のレジスト層7を剥離している間も、第1のレジスト層6はわずかしか剥離しないので、第2のレジスト層7を剥離し終えた後でも、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
このようなアッシング耐性の異なるレジスト材料の組み合わせとしては、例えば、ポジ型フォトレジスト材料と、これに水素イオンを照射することによってドライアッシング耐性を高め、これによりアッシング耐性に差を設けたレジスト材料との組み合わせ等が挙げられる。
【0076】
なお、ドライアッシング耐性の向上は、例えば、水素プラズマから放出されるイオン流にレジスト層を暴露することにより行うことができる。
ここで、図3に示す弾性表面波共振子の他の構成例を説明する。
図8は、図3に示す弾性表面波共振子の他の構成例を示す部分拡大断面図である。
図8に示す弾性表面波共振子1は、IDT3の構成が異なる以外、図3に示す弾性表面波共振子1と同様である。
【0077】
図8に示すIDT3は、それに含まれる複数の電極指31a、31bのうち、最も外側に位置するものが、その他のものに比べて幅が広くなるよう形成されている点で、図3に示す弾性表面波共振子1と異なっている。
このような弾性表面波共振子1は、その製造時に第2のレジスト層7を成膜する際、成膜領域の制御が容易になるという点で有用なものである。
図9は、図8に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
図8に示す弾性表面波共振子1を成膜する際、まず、前述したように、IDT3および反射器4、5とその上に積層された第1のレジスト層6とを形成する(図9(a)参照)。
【0078】
次いで、前述したように、第1のレジスト層6の上面および露出した圧電体基板2の上面を覆うようにレジスト材料を塗布し、レジスト層7Aを成膜する(図9(b)参照)。レジスト材料としては、前述したレジスト層6Aの構成材料と同様のものが用いられる。
そして、レジスト層7Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域および電極指31a、31b間の領域のレジスト層7Aを残存させる。これにより、図9(c)に示す第2のレジスト層(第2の保護膜)7を得る。
【0079】
第2のレジスト層7は、その縁部の一部が、最も外側に位置する電極指31a、31bの形成領域に位置するようパターニングされるが、この際、パターニングの境界は前記形成領域に合わせられる。前述したように、最も外側に位置する電極指31a、31bは、その幅が相対的に広くなっていることから、この形成領域にパターニングの境界を合わせることは、図3に示す弾性表面波共振子1の場合に比べて容易である。すなわち、パターニングの位置ズレの許容範囲Sが緩和されるという点で、図8に示す弾性表面波共振子1は、製造容易性の高いものであるといえる。このようにして第2のレジスト層7の位置が制御されることにより、圧電体基板2の上面に不本意な段差が形成されてしまうのを防止し、弾性表面波共振子1の特性に悪影響が及ぶのを防止することができる。
【0080】
<第2実施形態>
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態について説明する。
以下、第2実施形態について説明するが、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
(弾性表面波共振子の製造方法)
図10、11は、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図10、11中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0081】
第2実施形態にかかる弾性表面波共振子の製造方法は、工程の順序が異なる以外は、第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態では、まず第1実施形態と同様にして、IDT3および反射器4、5とその上に積層された第1のレジスト層6とを形成する(図10(a)、(b)参照)。
【0082】
次いで、第1のレジスト層6をマスクとして、電極指31a、31b間および導体ストリップ41、51間において露出した圧電体基板2Aの上面をエッチングする。これにより、図10(c)に示すように、圧電体基板2Aの上面の電極指31a、31b間に第2の溝25が形成される。また、図10(c)に示すように、圧電体基板2Aの上面の導体ストリップ41、51間に溝(仮の溝)26Aが形成される。
【0083】
次いで、図11(d)に示すように、第1のレジスト層6の上面および露出した圧電体基板2Aの上面を覆うようにレジスト材料を塗布し、レジスト層7Aを成膜する。本工程で用いるレジスト材料としては、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と特性の異なるものが用いられる。
次いで、レジスト層7Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域および電極指31a、31b間の領域のレジスト層7Aを残存させる。これにより、図11(e)に示す第2のレジスト層(第2の保護膜)7を得る。なお、この現像の結果、反射器4、5の形成領域、すなわち、導体ストリップ41、51に対応する領域および導体ストリップ41、51間において圧電体基板2Aの上面が露出した領域では、レジスト層7Aが除去され、露出した状態となる。
【0084】
次いで、第2のレジスト層7をマスクとして、導体ストリップ41、51間において露出した溝26Aをさらにエッチングする。これにより、溝26Aがさらに掘り込まれ、図11(f)に示す、第2の溝25より深い第1の溝26が形成される。
その後、第2のレジスト層7および第1のレジスト層6を順次除去する。これにより、弾性表面波共振子1が得られる。
以上のような製造方法においても、前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0085】
<第3実施形態>
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第3実施形態について説明する。
以下、第3実施形態について説明するが、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
(弾性表面波共振子)
まず、本実施形態にかかる弾性表面波共振子の構造について説明する。
【0086】
図12は、本発明の第3実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図12中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図12に示す弾性表面波共振子1’は、IDT3の電極指31a、31b間に設けられる第2の溝25が省略された以外は、第1実施形態にかかる弾性表面波共振子1と同様である。すなわち、図12に示す弾性表面波共振子1’は、溝として第1の溝26のみを有している。このような弾性表面波共振子1’は、構造が簡単であるため、製造容易性が高いものとなる一方、反射器4、5の反射特性は第1実施形態とあまり変わらないので、Q値の低下は抑制される。その結果、構造が簡単でかつ発振安定性の高い弾性表面波共振子1’が得られる。
【0087】
(弾性表面波共振子の製造方法)
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法について、図12に示す弾性表面波共振子1を製造する場合を例に説明する。
図13は、図12に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図13中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0088】
第3実施形態にかかる弾性表面波共振子の製造方法は、第2の溝25の形成、および溝(仮の溝)26Aをさらに深くするエッチング処理を省略した以外は、第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態では、図13(a)に示すように第2のレジスト層7を形成した後、図13(b)に示すように第1の溝26を形成し、続いて図13(c)に示すように第2のレジスト層7を除去する。これにより、第2の溝25を有さず、第1の溝26のみを有する弾性表面波共振子1’が得られる。
【0089】
以上のように、本発明では、第1の溝26を形成する領域以外は、常に第1のレジスト層6または第2のレジスト層7で覆われているので、IDT3や反射器4、5等がエッチングされてしまうことが防止されるとともに、第1の溝26の底面が荒れるのを防止して、設計通りの本来の特性を発揮する弾性表面波共振子1’を効率よく製造することができる。
また、本実施形態では、溝を形成するにあたり、部分的に溝を形成する必要があることから、それを実現する手段も見出したものである。
以上説明したような弾性表面波共振子1、1’は、各種の電子機器に適用することができ、得られる電子機器は、信頼性の高いものとなる。
【0090】
弾性表面波共振子1、1’を備える電子機器としては、特に限定されないが、例えば、パーソナルコンピューター(モバイル型パーソナルコンピューター)、携帯電話機、ディジタルスチルカメラ、インクジェット式吐出装置(例えばインクジェットプリンター)、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター等が挙げられる。
以上、本発明の弾性表面波共振子の製造方法について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0091】
また、本発明を適用する弾性表面波共振子は、用途に応じて反射器、櫛歯電極の数を変更してもよい。
また、櫛歯電極および反射器を圧電体基板とは反対側から覆うように、SiO2、Al2O3等で構成された保護膜(温度補償膜)を設けてもよい。この場合、保護膜は、IDT3上と反射器4、5上のみに設けられていてもよいし、第1の溝26および第2の溝25の底面も覆うように設けられていてもよい。
【0092】
また、本発明を適用する弾性表面波共振子には、各種機能を有する半導体素子が複合化されていてもよい。
また、保護膜の構成材料は、レジスト材料に限定されず、エッチングのマスクとして機能し得る材料であれば、いかなる材料であってもよい。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のケイ素化合物が用いられる。また、保護膜の形成には、露光・現像を伴う方法以外に、例えばインクジェット法等の局所的に材料を供給する方法を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0093】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.弾性表面波共振子の作製
(実施例1)
まず、圧電体基板として、平均厚さ:0.4mmの水晶基板(面内回転STカット水晶基板)を用意した。この水晶基板のカット角は、オイラー角(0°,127°,45°)である。
【0094】
次に、水晶基板上に、真空蒸着法によりアルミニウムを被着させ、アルミニウム膜(導体層)を形成した。このとき、アルミニウム膜の厚さは、200nm(2000Å)であった。
次に、フォトリソグラフィー法により、IDT(櫛歯電極)および反射器に対応する形状の第1のマスク(第1のレジスト層)を形成した。このとき、レジスト材料としてゴム系のネガ型フォトレジスト材料を用いた。また、現像液としてキシレン系現像液を用い、第1のマスクの厚さは、900nm(9000Å)であった。
【0095】
次に、この第1のマスクを用いてドライエッチングを行うことにより、アルミニウム膜の不要部分を除去することにより、IDTおよび反射器を形成した。このとき、ドライエッチングのエッチングガスとしてCF4を用いた。
次に、フォトリソグラフィー法により、IDTの電極指に対応する領域および電極指間の領域に第2のマスク(第2のレジスト層)を形成した。このとき、レジスト材料としてノボラック樹脂系のポジ型フォトレジスト材料を用いた。また、現像液としてアルカリ系現像液を用い、第2のマスクの厚さは、900nm(9000Å)であった。
【0096】
次に、この第2のマスクを用いてドライエッチングを行うことにより、水晶基板のうち、反射器の導体ストリップ間に対応する部分に溝(仮の溝)を形成した。このとき、形成された溝の深さは500nm(5000Å)であった。また、ドライエッチングのエッチングガスとしてCF4を用いた。
次いで、アルキルベンゼンスルホン酸を含む有機酸系剥離液を用いて、第2のマスクを選択的に剥離・除去した。この際、この剥離液は、第1のマスクに対する剥離性は比較的小さいので、第1のマスクを侵すことはなかった。
【0097】
次に、第1のマスクを介してドライエッチングを行うことにより、IDTの電極指間に対応する部分に第2の溝を形成した。このとき、形成された第2の溝の深さは500nm(5000Å)であった。また、先に形成していた溝(仮の溝)をさらに掘り込むことにより、第1の溝を形成した。その結果、形成された第1の溝の深さは1μm(10000Å)であった。なお、ドライエッチングのエッチングガスとしてCF4を用いた。
次に、モノエタノールアミンを含む有機アミン系剥離液を用いて、第1のマスクを除去した。これにより、図1に示すような弾性表面波共振子を得た。
【0098】
(実施例2)
アルカリベンゼンスルホン酸を含む有機酸系剥離液に対して相対的に剥離性が低いノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料を用いて第1のレジスト層を形成するとともに、前記有機酸系剥離液に対して相対的に剥離性が高いノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料を用いて第2のレジスト層を形成するようにした以外は、実施例1と同様にして弾性表面波共振子を得た。
【0099】
(実施例3)
第1のレジスト層として、ノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料からなるレジスト層に水素イオンを照射(注入)してなるレジスト層を用い、第2のレジスト層として、水素イオンの照射を省略したノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料からなるレジスト層を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして弾性表面波共振子を得た。
【0100】
(比較例)
IDTおよび反射器の形成後、第1のレジスト層を除去し、IDTおよび反射器をマスクとして溝を形成した。これにより、電極指間に第2の溝を形成するとともに、反射器の導体ストリップ間に仮の溝を形成した。
次いで、その上から、IDTの形成領域に第2のレジスト層を形成し、反射器をマスクとして溝を形成した。これにより、導体ストリップ間の溝をさらに掘り下げ、第1の溝を形成した。
上記のようにした以外は、実施例1と同様にして弾性表面波共振子を得た。
【0101】
2.評価
実施例1および比較例の弾性表面波共振子について、それぞれ、圧電体基板の溝の底面付近をSEMにより観察した。そのSEM写真を図14に示す。
【0102】
図14から明らかなように、比較例(図14(a))の弾性表面波共振子における溝の底面には、荒れ(微細な凹凸)が生じていた。これに対し、実施例1(図14(b))の弾性表面波共振子における溝の底面は、極めて平坦であった。
【0103】
なお、図示しないものの、実施例2、3の弾性表面波共振子についても、溝の底面は平坦であった。
また、各実施例および比較例の弾性表面波共振子についてQ値を測定した。
その結果、実施例1の弾性表面波共振子のQ値は17000であったのに対し、比較例の弾性表面波共振子のQ値は12000であった。また、実施例2、3の弾性表面波共振子のQ値についても実施例1と同様であった。
以上のことから、本発明によれば、溝の底面の平坦性が高く、かつQ値の高い弾性表面波共振子を製造し得ることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0104】
1、1’‥‥弾性表面波共振子 10、20‥‥STカット水晶板 2、2A‥‥圧電体基板 21、22、23、24‥‥辺 25‥‥第2の溝 26‥‥第1の溝 26A‥‥溝 3‥‥IDT(櫛歯電極) 3a、3b‥‥電極 3A‥‥導体層 31a、31b‥‥電極指 4、5‥‥反射器 41、51‥‥導体ストリップ 6‥‥第1のレジスト層(第1の保護膜) 6A‥‥レジスト層 7‥‥第2のレジスト層(第2の保護膜) 7A‥‥レジスト層
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波共振子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用した弾性表面波共振子は、一般に、圧電体で構成された圧電体基板と、この圧電体基板上に設けられた櫛歯電極(Interdigital Transducer:IDT)とを備えている。また、圧電体基板上には、IDTから発生した弾性表面波の伝播方向においてIDTを挟み込むように、複数の導体ストリップ(ストリップ電極)を備えた一対の反射器が設けられる。
【0003】
弾性表面波共振子では、櫛歯電極に周期的な電圧が印加されることにより、圧電体基板の表面付近に集中して伝播する波(弾性表面波)が発生する。発生した弾性表面波は、一対の反射器間を往復し、共振を発生させる。
このような弾性表面波共振子の特性として、共振先鋭度Q(Q値)がある。このQ値を高めることは、弾性表面波共振子の発振安定性(信頼性)の観点から重要であるため、弾性表面波共振子のQ値を高める様々な試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、圧電体基板の櫛歯電極間および導体ストリップ間に対応する部位に溝を設け、IDTにおける溝の深さより、反射器における溝の深さを深くすることで、Q値の向上を図る技術が開示されている。この技術では、上記のような異なる深さの溝を設けることで、反射器の反射特性を向上させ、Q値の向上が試みられている。
従来、このような溝は、リアクティブスパッタエッチング等のドライエッチング法により形成されていた。
しかしながら、ドライエッチング法により溝を形成すると、溝の底部に荒れ(微細な凹凸)が生じ、得られる弾性表面波共振子の特性に悪影響を及ぼすことが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−7207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法は、圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、前記圧電体基板の前記電極指間に形成された前記第1の溝よりも浅い第2の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝および前記第2の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝と前記第2の溝の深さを異ならせるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0008】
[適用例2]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成するための仮の溝を形成する工程と、
前記第2の保護膜を除去した後、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝とを形成する工程と、を有することが好ましい。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0009】
[適用例3]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記第1の溝を形成するための仮の溝とを形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝を形成する工程と、を有することが好ましい。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0010】
[適用例4]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法は、圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝が前記導体ストリップ間にのみ形成されるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0011】
[適用例5]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成する工程と、を有することが好ましい。
これにより、各種特性(特にQ値)に優れる弾性表面波共振子を効率よく製造することができる。
【0012】
[適用例6]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶解可能な溶媒の種類が互いに異なるものであることが好ましい。
これにより、溶媒の種類を変えることで、第1の保護膜および第2の保護膜が、現像および剥離の際に、相互に干渉し合うことがなくなるので、第2の保護膜を現像したり剥離したりしても、そのプロセスが第1の保護膜に悪影響を及ぼすことが防止される。その結果、第1の保護膜がマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0013】
[適用例7]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶媒に対する溶解性が互いに異なるものであることが好ましい。
これにより、同一の溶媒を使用して現像および剥離を行ったとしても、マスクの機能が失われるまでの時間に差が生じるので、それを利用することで、第2の保護膜を現像したり剥離したりする際に、そのプロセスが第1の保護膜に悪影響を及ぼすことが防止される。その結果、第1の保護膜がマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0014】
[適用例8]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、アッシング処理に対する耐久性が互いに異なるものであることが好ましい。
これにより、第2の保護膜をアッシングする際に、そのプロセスが第1の保護膜に悪影響を及ぼすことが防止される。その結果、第1の保護膜がマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0015】
[適用例9]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記電極指間に位置しないよう成膜されることが好ましい。
これにより、電極指間に不本意な段差が生じるのを防止して、弾性表面波共振子の特性に悪影響が及ぶのを防止することができる。
【0016】
[適用例10]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記複数の電極指のうち、最も外側に位置する前記電極指は、その他の電極指に比べて幅が広くなるよう形成され、
前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記最も外側に位置する電極指の上方に位置するよう成膜されることが好ましい。
これにより、第2の保護膜のパターニングを行う際、その位置ズレの許容範囲が電極指の幅が広がった分だけ緩和されるため、弾性表面波共振子の製造を容易に行うことができる。
【0017】
[適用例11]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜および前記第2の保護膜は、それぞれ有機材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、第1の保護膜および第2の保護膜を介してドライエッチング処理を行った際、これらの保護膜が気化して除去されるため、意図しない副生成物が生じ、これが溝の形成に悪影響を及ぼすことが防止される。
【0018】
[適用例12]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記有機材料は、フォトレジスト材料であることが好ましい。
これにより、第1の保護膜および第2の保護膜のパターニングを露光によって正確に行うことができる。
【0019】
[適用例13]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記第1の保護膜を構成するフォトレジスト材料は、ノボラック系樹脂を含むものであることが好ましい。
これにより、高精度なパターニングが可能であり、かつ、ドライエッチングに対して比較的高い耐性を有する保護膜が得られる。
【0020】
[適用例14]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記エッチングは、ドライエッチングであることが好ましい。
ドライエッチングによれば、ウェットエッチングに比べて工数を大幅に削減することができるので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0021】
[適用例15]
本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、前記圧電体基板は、水晶で構成されていることが好ましい。
水晶は、弾性表面波素子に用いる圧電体として様々な優れた特性を有する。したがって、圧電体基板を水晶で構成することで、優れた特性を有する弾性表面波素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す弾性表面波共振子に備えられた圧電体基板のカット角および弾性表面波の伝播方向を説明するための図である。
【図3】図1に示す弾性表面波共振子の部分拡大断面図である。
【図4】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図5】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図6】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図7】図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図8】図3に示す弾性表面波共振子の他の構成例を示す部分拡大断面図である。
【図9】図8に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図10】本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。
【図11】本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。
【図12】本発明の第3実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す部分拡大断面図である。
【図13】図12に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
【図14】実施例1(本発明)および比較例(従来)のそれぞれにおける溝の底面の状態を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の弾性表面波共振子の製造方法を好適な実施形態を用いて説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第1実施形態について説明する。
(弾性表面波共振子)
ここでは、製造方法の説明に先立って、本実施形態にかかる弾性表面波共振子の構造について説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す平面図、図2は、図1に示す弾性表面波共振子に備えられた圧電体基板のカット角および弾性表面波の伝播方向を説明するための図、図3は、図1に示す弾性表面波共振子の部分拡大断面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0025】
図1および図2に示す弾性表面波共振子1は、いわゆる1ポート型と呼ばれるタイプの素子であり、圧電体基板2と、圧電体基板2上に設けられたIDT(櫛歯電極)3と、IDT3の両側に設けられた1対の反射器4、5とを有している。
この弾性表面波共振子1は、IDT3(後述する各電極3a、3b間)に周期的に変化する電圧が入力されると、圧電体基板2の圧電効果により圧電体基板2の表面付近において弾性表面波が励振される。励振された弾性表面波は、1対の反射器4、5間で反射を繰り返して、これらの間に封じ込められる。
【0026】
以下、このような弾性表面波共振子1を構成する各部を順次詳細に説明する。
圧電体基板2は、弾性表面波の伝搬媒体として機能するものである。
本実施形態では、圧電体基板2は、水晶で構成されている。水晶は、弾性表面波共振子1に用いる圧電体として様々な優れた特性を有する。したがって、圧電体基板2を水晶で構成することで、優れた特性を有する弾性表面波共振子1を提供することができる。
【0027】
圧電体材料(水晶)の結晶軸は、図2に示すように、互いに直交するX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)およびZ軸(光学軸)によって表現される。そして、圧電体材料(水晶)のカット角は、オイラー角(φ,θ,ψ)で表現されるが、Z軸に直角な主面を有するZカット基板のカット角は、オイラー角(0°,0°,0°)で表わされる。
ここで、オイラー角のφは、Zカット基板の第1の回転に関するものであり、Z軸を回転軸とし、+X軸側から+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第1の回転角度である。また、オイラー角のθは、Zカット基板の第1の回転後に行う第2の回転に関するものであり、第1の回転後のX軸(座標軸X’軸)を回転軸とし、第1の回転後の+Y軸(座標軸+Y’軸)側から+Z軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第2の回転角度である。また、オイラー角のψは、Zカット基板の第2の回転後に行う第3の回転に関するものであり、第2の回転後のZ軸(座標軸Z’軸)を回転軸とし、第2の回転後の+X軸(座標軸+X’軸)側から第2の回転後の+Y軸(座標軸+Y”軸)側へ回転する方向を正の回転角度とした第3の回転角度である。
【0028】
圧電体基板2のカット面は、前述した第1の回転角度φおよび第2の回転角度θで決定される。また、圧電体基板2における弾性表面波の伝播方向は、前述した第2の回転後のX軸(座標軸X’軸)に対する第3の回転角度ψで表わされる。
特に、本実施形態では、圧電体基板2は、図2に示すように、STカット水晶板10をZ’軸周りにψ°回転させたカット角となる面内回転STカット水晶板20を用いて形成されている。このような圧電体基板2のカット角は、オイラー角(φ°,θ°,ψ°)による表示で(0°,113°〜135°,±(40°〜49°))となる。圧電体基板2のカット角および弾性表面波の伝播方向をこの範囲にすると、周波数温度特性に優れた弾性表面波共振子1を得ることができる。
【0029】
また、このような面内回転STカット水晶板を用いた圧電体基板2においては、結晶の異方性のため、IDT3への通電により弾性表面波を発生させた場合、弾性表面波の位相の伝播方向である位相速度の方向Bと、波群の伝播方向である群速度の方向Aが異なる。より具体的には、圧電体基板2は、図1に示すように、弾性表面波の位相速度の方向BがX”軸に沿っている。そして、群速度の方向Aは、弾性表面波のエネルギーが進む方向となっていて、位相速度の方向Bと角度PFAをもって交差する。位相速度の方向Bと群速度の方向Aとのなす角度PFAは、パワーフロー角と言う。
【0030】
したがって、本実施形態では、群速度の方向Aに伝播する波群(波束)を効率的に反射し、高いQ値が得られるように、後述するIDT3と反射器4、5とを群速度の方向Aに沿って配列している。また、IDT3の電極指31a、31bおよび反射器4、5の導体ストリップ41、51は、それぞれ、長手方向が位相速度の方向B(X”軸)に直交した方向、すなわちY'''軸に沿って形成されている。また、圧電体基板2は、平面視にて、長方形をなし、対向する一対の辺(長辺)21、22がIDT3および反射器4、5の配列方向に沿っており、他の一対の辺(短辺)23、24は、弾性表面波の群速度の方向Aと直交している。これにより、圧電体基板2は、小型化を図るとともに、水晶ウエハーに対する収率を向上することができる。また、圧電体基板2は、二辺(短辺)23、24が弾性表面波の位相速度の方向Bと直交していないため、反射器4、5から漏れた波群が各辺23、24で反射された場合でも、反射波の位相をずらして反射器4、5ひいてはIDT3に戻すことができる。これにより、圧電体基板2の端面からの反射波に起因するスプリアスの影響を抑圧することができる。
【0031】
なお、圧電体基板2は、前述したオイラー角をカット角とする水晶基板に限定されるものではない。また、圧電体基板2は、水晶に限定されず、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、4ホウ酸リチウム(Li2B4O7)等で構成されていてもよい。
このような圧電体基板2の一方の面(上面)には、IDT(櫛歯電極)3および1対の反射器4、5が接合されている。
【0032】
IDT3は、電気信号を受け(電圧が印加され)、これにより、圧電体基板2に弾性表面波を励振させる機能を有するものである。
IDT3は、1対の電極3a、3bで構成されている。そして、電極3aは、複数の電極指31aを備え、電極3bは、複数の電極指31bを備えている。このようなIDT3は、電極3aの複数の電極指31aと、電極3bの複数の電極指31bとが互いに噛み合うように構成されている。このようなIDT3の電極指31a、31bの幅、間隔、厚さ等を調整することにより、弾性表面波の発振周波数の特性を所望のものに設定することができる。
このような電極3a、3b間に周期的に変化する電圧を印加すると、圧電体基板2の上面付近に、電極指31a、31bの配列方向に伝播する弾性表面波が励振される。
【0033】
IDT3の構成材料としては、導電性を有する材料であれば、特に限定されないが、金属材料が好適に用いられる。特に、IDT3の構成材料としては、AlまたはAlを主材料とした合金(Al系合金)を用いるのが好ましい。Alは、導電性に優れている(電気抵抗が小さい)ため、IDT3をAlまたはAl系合金を主材料として構成することにより、エネルギー損失が小さくなる。その結果、弾性表面波共振子1の弾性表面波の共振をより鋭くすることができる。
【0034】
また、AlまたはAlを主材料とする合金は、水晶と比重(密度)が同程度であり、前述したような水晶で構成された圧電体基板2の電極指31a、31b同士の間の部分に第2の溝25を形成した構成において、良好な特性を得ることができる。
また、Alは比重が小さいので、IDT3の膜厚に依存した音速変化が小さく抑えられる。したがって、弾性表面波共振子1の中心周波数のばらつきを抑えることができる。
【0035】
また、IDT3の膜厚の制御が容易となるので、精度の高い弾性表面波共振子1を得ることができる。
また、IDT3をAl系合金を主材料として構成する場合、Alに、Cu、Si、Ti、Mo、Sc等の金属を添加することにより、IDT3のマイグレーション耐性を改善することもできる。Alに添加する前記金属の含有割合は、重量比で10%以下であればよい。
このようなIDT3を介して対向するように、1対の反射器4、5が配置されている。
1対の反射器4、5は、それぞれ、圧電体基板2を伝播する弾性表面波を反射して、反射器4と反射器5との間に封じ込める機能を有する。
【0036】
また、反射器4は、所定間隔で並設された複数の導体ストリップ41を有し、全体としてグレーティング状をなしている。これと同様に、反射器5は、所定間隔で並設された複数の導体ストリップ51を有し、全体としてグレーティング状をなしている。このような構造の各反射器4、5は、それぞれ、弾性表面波を効率よく反射することができる。
このような導体ストリップ41、51の幅、間隔、ピッチ、厚さ等を調整することにより、弾性表面波共振子1において励振される弾性表面波の発振周波数等の特性を所望のものに設定することができる。
【0037】
また、圧電体基板2の上面のうち、IDT3の電極指31a、31b間に対応する部分には、第2の溝25が形成されている。
この第2の溝25は、その横断面形状が矩形状をなしていて、電極指31a、31bの見かけ上の厚さを厚くすることができる。すなわち、第2の溝25の深さをHgTとし、電極指31a、31bの厚さをHmTとしたとき、見かけ上の電極指31a、31bの厚さHTは、(HgT+HmT)となる。
【0038】
そのため、第2の溝25を設けることにより、実際の電極指31a、31bの厚さ(IDT3の厚さ)HmTを相対的に薄くすることができる。これにより、振動損失に相当するCI(Crystal Impedance)値が低下するため、発振安定性を高めることができる。また、IDT3の通電によるストレスマイグレーション等に起因する周波数変動を抑制することができる。さらに、第2の溝25の深さHgTを調整することで、弾性表面波共振子1の所望の特性に設定することができる。
このような第2の溝25の底面は、後述する製造方法によって、平坦に形成されている。これにより、エネルギー損失の少ない優れた特性を有する弾性表面波共振子1を提供することができる。
【0039】
一方、圧電体基板2の上面のうち、反射器4、5の導体ストリップ41、51間に対応する部分には、第1の溝26が形成されている。
この第1の溝26は、その横断面形状が矩形状をなしていて、導体ストリップ41、51の見かけ上の厚さを厚くすることができる。すなわち、第1の溝26の深さをHgRとし、導体ストリップ41、51の厚さをHmRとしたとき、見かけ上の導体ストリップ41、51の厚さHRは、(HgR+HmR)となる。
そのため、第1の溝26を設けることにより、反射器4、5の反射特性が向上し、Q値を高めることができる。その結果、発振安定性の高い弾性表面波共振子1が得られる。
ここで、弾性表面波共振子1のCI値の低下とQ値の向上とを両立するという観点から、IDT3で励振される弾性表面波の波長をλとしたとき、HgTおよびHgRは、HgT/λ<HgR/λの関係を満たし、かつ、HTおよびHRは、HT/λ<HR/λの関係を満たすことが好ましい。
【0040】
弾性表面波共振子1が上記のような関係を満たすことにより、反射器4、5の反射特性が向上してストップバンド上端モードのSAWのエネルギー閉じ込め効果がより顕著になり、Q値のさらなる向上が図られる。また、相対的にIDT3の電極指31a、31bの膜厚が減少するため、IDT3の電気機械結合係数を高めることができ、CI値をさらに下げることができる。
また、Q値の向上等の観点からは、さらに、電極指31a、31bの厚さ(IDT3の厚さ)HmTと、導体ストリップ41、51の厚さHmRとが、HmT/λ<HmR/λの関係を満たすことが好ましい。
【0041】
(弾性表面波共振子の製造方法)
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法について、図3に示す弾性表面波共振子1を製造する場合を例に説明する。
図4〜7は、それぞれ、図3に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図4〜7の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0042】
弾性表面波共振子1の製造方法は、[A]圧電体基板2A上に導体層3Aを形成する工程と、[B]導体層3Aにエッチングを施してIDT3および反射器4、5を形成する工程と、[C]圧電体基板2Aの反射器4、5の導体ストリップ41、51間にエッチングを施して溝26Aを形成する工程と、[D]圧電体基板2Aのうち、IDT3の電極指31a、31b間にエッチングを施して第2の溝25を形成するとともに、反射器4、5の導体ストリップ41、51間にエッチングを施し、溝26Aをさらに深くすることで第1の溝26を形成する工程と、を有する。以下、各工程を順次説明する。
【0043】
[A]導体層3Aの形成
−A1−
まず、図4(a)に示すように、圧電体基板2Aを用意する。
この圧電体基板2Aは、例えば、前述した第1の溝26および第2の溝25を形成する前の水晶基板である。
【0044】
−A2−
そして、図4(b)に示すように、圧電体基板2Aの一方の面上に、導体層3Aを形成する。
導体層3Aの構成材料としては、前述したIDT3の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0045】
また、導体層3Aの形成方法としては、特に限定されず、例えば、ディッピング法、印刷法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、導体箔の接合等を用いることができるが、中でも、乾式メッキ法が好適に用いられる。
【0046】
[B]IDT3および反射器4、5の形成
−B1−
次いで、図4(c)に示すように、導体層3Aの圧電体基板2Aとは反対側の面上にレジスト材料を塗布し、レジスト層6Aを成膜する。レジスト材料としては、露光された部分が現像によって除去されるポジ型(例えば、ノボラック系樹脂を主とするフォトレジスト材料)のものと、露光された部分が現像液に対して不溶になり残存するネガ型(例えば、ゴム系材料を主とするフォトレジスト材料)のものがあるが、いずれのものも用いることができる。
【0047】
−B2−
次いで、レジスト層6Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の電極指31a、31bに対応する領域のレジスト層6Aを残存させる。また、同様に、反射器4、5の導体ストリップ41、51に対応する領域のレジスト層6Aを残存させる。これにより、図5(d)に示す第1のレジスト層(第1の保護膜)6を得る。
【0048】
−B3−
次いで、第1のレジスト層6をマスクとして導体層3Aをエッチングする。これにより、図5(e)に示すIDT3および反射器4、5が得られる。なお、得られたIDT3が有する電極指31a、31bおよび反射器4、5が有する導体ストリップ41、51は、横断面形状が矩形状をなしており、それぞれの上面には第1のレジスト層6が積層された状態となる。また、形成されたIDT3の電極指31a、31b間、および、反射器4、5の導体ストリップ41、51間では、それぞれ圧電体基板2Aの上面が露出している。
本工程で用いるエッチングとしては、特に限定されないが、リアクティブイオンエッチング(RIE)、プラズマエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等のドライエッチングが好適に用いられる。ドライエッチングによれば、ウェットエッチングに比べて工数を大幅に削減することができるので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0049】
[C]仮の溝26Aの形成
−C1−
次いで、図5(f)に示すように、第1のレジスト層6の上面および露出した圧電体基板2Aの上面を覆うようにレジスト材料を塗布し、レジスト層7Aを成膜する。本工程で用いるレジスト材料としては、レジスト層6Aを構成するレジスト材料と特性の異なるものが用いられる。
【0050】
−C2−
次いで、レジスト層7Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域および電極指31a、31b間の領域のレジスト層7Aを残存させる。これにより、図6(g)に示す第2のレジスト層(第2の保護膜)7を得る。なお、この現像の結果、反射器4、5の形成領域、すなわち、導体ストリップ41、51に対応する領域および導体ストリップ41、51間において圧電体基板2Aの上面が露出した領域では、レジスト層7Aが除去され、露出した状態となる。
【0051】
ここで、第2のレジスト層7は、図6(g)に示すように、その縁部の一部が、電極指31a、31bの間に位置しないよう成膜される。換言すれば、第2のレジスト層7は、その縁部の一部が、最も外側にある電極指31a、31bの形成領域(電極指31a、31b上)に位置するようパターニングされる。仮に第2のレジスト層7がこの領域からはみ出して電極指31a、31bの間に位置してしまうと、後述する工程C3においてエッチングを行う際、この位置にエッチング領域と非エッチング領域との境界ができてしまい、溝の底面に不本意な段差が生じる。この段差は、弾性表面波共振子1の特性に悪影響を及ぼす。したがって、第2のレジスト層7の縁部の一部が電極指31a、31bの形成領域(電極指31a、31b上)に位置していれば、上述したような不本意な段差の形成が防止される。
【0052】
−C3−
次いで、第2のレジスト層7をマスクとして、導体ストリップ41、51間において露出した圧電体基板2Aの上面をエッチングする。これにより、図6(h)に示す圧電体基板2Aの上面の導体ストリップ41、51間に溝(仮の溝)26Aが形成される。
この際、溝26Aの深さは、形成しようとする第1の溝26の深さと第2の溝25の深さとの差に相当する深さとされる。すなわち、例えば第1の溝26の深さが第2の溝25の深さよりDだけ深い場合、本工程において形成する溝26Aの深さをDとすればよい。
【0053】
[D]第1の溝26および第2の溝25の形成
−D1−
次いで、第2のレジスト層7を除去する。これにより、図6(i)に示すように、第2のレジスト層7で覆われていたIDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域に積層された第1のレジスト層6と、圧電体基板2Aの上面の電極指31a、31b間とがそれぞれ露出する。
【0054】
−D2−
次いで、IDT3の電極指31a、31b上、および、反射器4、5の導体ストリップ41、51上に積層された第1のレジスト層6をマスクとして、露出している圧電体基板2Aの上面をエッチングする。これにより、電極指31a、31b間に露出している圧電体基板2Aの上面がエッチングされ、図7(j)に示す第2の溝25が形成される。また、導体ストリップ41、51間に露出している圧電体基板2Aの上面がエッチングされ、溝26Aがさらに深くなる。その結果、図7(j)に示す、第2の溝25より深い第1の溝26が形成される。
なお、本工程においては、第2の溝25が形成される際のエッチング量と、第1の溝26が形成される際のエッチング量とは、ほぼ同じである。したがって、第1の溝26の深さと第2の溝25の深さとの差は、前述した溝26Aの深さDがそのまま保持されることとなる。
【0055】
−D3−
次いで、IDT3上および反射器4、5上に残存した第1のレジスト層6を除去する。これにより、図7(k)に示す弾性表面波共振子1が得られる。
以上のような本発明の弾性表面波共振子の製造方法では、圧電体基板2Aの上面をエッチングする際、圧電体基板2Aが露出した領域がエッチングされる一方、それ以外の領域はレジスト材料からなる層で覆われている。例えば、工程C3では、圧電体基板2Aの上面がエッチングされて溝26Aを形成するが、この際、溝26Aを形成する領域以外は、第1のレジスト層6または第2のレジスト層7で覆われている。
【0056】
一方、従来の製造方法では、IDT3や反射器4、5をマスクとして利用していた。このため、IDT3や反射器4、5が直接エッチングに曝されることになり、膜厚が減少する等して特性が低下することがあった。また、IDT3や反射器4、5がエッチングされると、これらを構成する導体成分(主に金属)が飛散し、飛散物粒子が周囲の圧電体基板2の表面に付着、堆積する。このようにして付着、堆積した導体成分は、その領域における圧電体基板2Aのエッチングを局所的に阻害するため、エッチングが阻害される領域と阻害されない領域とでエッチングレートに差が生じてしまう。その結果、第1の溝26や第2の溝25の底面に荒れが生じていた。
【0057】
本発明者は、上述したような底面の荒れの原因を突き止めるとともに、かかる底面の荒れが弾性表面波共振子1の特性を悪化させていることを見出し、底面の荒れを防止し得る製造方法について鋭意検討を重ねた。そして、エッチングの際のマスクにその原因があることを突き止めるとともに、第1の溝26や第2の溝25の底面に荒れを生じさせない方法を見出し、本発明を完成するに至った。
また、本実施形態では、溝を形成するにあたり、深さの異なる溝を形成する必要があることから、それを実現する手段も見出したものである。
【0058】
本発明によれば、ドライエッチングを施した際に、例えばIDT3や反射器4、5等がエッチングされてしまうことを防止するとともに、第1の溝26や第2の溝25の底面が荒れるのを防止して、設計通りの本来の特性を発揮する弾性表面波共振子1を効率よく製造することができる。
また、第1のレジスト層6および第2のレジスト層7として、有機材料を主材料とするレジスト層を用いることにより、これらのレジスト層6、7は、ドライエッチングによって気体となるという特徴を有するものとなる。そのため、前述した飛散物粒子のような副生成物の生成が確実に防止され、これにより第1の溝26や第2の溝25の底面が荒れるのを確実に防止される。
また、樹脂材料は、有機材料の中でもドライエッチングに対して比較的高い耐性を有する。したがって、第1のレジスト層6および第2のレジスト層7は、IDT3や反射器4、5を確実に保護することができる。
【0059】
ここで、本発明では、2種類のレジスト層を用いて深さの異なる溝を形成している。このため、2種類のレジスト層の間では、現像プロセス、剥離プロセスが相互に影響を及ぼさないよう、レジスト材料の特性が異なっている。具体的には、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と第2のレジスト層7を構成するレジスト材料とは、(i)溶解可能な溶媒(例えば現像液、剥離液等)の種類が異なる、(ii)同じ溶媒(例えば現像液、剥離液等)に対する溶解性が異なる、(iii)アッシング(剥離)処理に対する耐久性が異なる、といった特性の違いが存在している。
【0060】
第1のレジスト層6と第2のレジスト層7との間に上述したような差異が存在していると、工程[C]のC2や、工程[D]のD1において、レジスト層7Aを現像したり、第2のレジスト層7をアッシング(剥離)したりする際に、第1のレジスト層6に損傷を及ぼすおそれがなくなる。したがって、このような特性の違いを利用することで、各レジスト層6、7のマスクとしての機能がそれぞれ確実に保持され、その後のエッチング処理において処理領域の正確な制御が可能になる。すなわち、各レジスト層6、7の現像および剥離に際して、その独立性が確保されることで、各レジスト層6、7による処理領域の制御が確実に行われる。
【0061】
(i)の場合、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7とで溶解可能な現像液の種類を変えることにより、例えば、工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6は、レジスト層7A用の現像液に対する溶解性がなくなる。このため、レジスト層7Aを現像している間も、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
またこの場合、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際、下地の第1のレジスト層6は、第2のレジスト層7用の剥離液に対する剥離性がなくなる。このため、第2のレジスト層7を剥離している間も、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0062】
上記の観点から、(i)の場合、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料は、それを現像可能な現像液および剥離可能な剥離液に対して溶解し、第2のレジスト層7用の現像液および剥離液に対しては不溶となるよう、その組成が適宜選択される。同様に、第2のレジスト層7を構成するレジスト材料は、第2のレジスト層7用の現像液および剥離液に対して溶解し、第1のレジスト層6用の現像液および剥離液に対しては不溶となるよう、その組成が適宜選択される。
【0063】
なお、工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6はすでに現像済みであるため、多くの現像液に対して十分な耐久性を有している。したがって、この第1のレジスト層6がレジスト層7A用の現像液に触れたとしても、溶解する可能性は非常に低いといえる。かかる観点から、(i)の場合、少なくとも、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際に、下地の第1のレジスト層6が剥離してしまわないようにすることの方が重要である。
【0064】
ここで、溶解可能な溶媒(剥離液)の種類が異なるレジスト材料の組み合わせとしては、例えば、ポジ型レジスト材料とネガ型レジスト材料の組み合わせが挙げられる。このうち、ポジ型レジスト材料としては、例えば、ノボラック系樹脂を含むフォトレジスト材料が好ましく用いられる。フォトレジスト材料を用いることにより、レジスト層6A、7Aのパターニングを正確に行うことができる。
【0065】
また、ノボラック系樹脂には、例えば、フェノールまたはo−、m−またはp−クレゾール、キシレノールまたはこれらのフェノール系化合物の混合物とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られるノボラック系樹脂が好ましく用いられる。ノボラック系樹脂は、高精度なパターニングが可能であり、かつ、ドライエッチングに対して比較的高い耐性を有することから、レジスト材料として好適である。
また、用いられるノボラック系樹脂としては、その重量平均分子量が、2,000〜20,000程度であるものが好ましく、5,000〜15,000程度であるものがより好ましい。
【0066】
一方、ネガ型レジスト材料としては、例えば、ゴム系レジスト材料が好ましく用いられる。このゴム系レジスト材料は、環化ポリイソプレンや環化ポリブタジエン等のゴム成分および芳香族ビスアジド等の感光剤を、キシレンなどの芳香族炭化水素等の溶媒に溶解したものであり、露光により感光剤から発生するラジカルによりゴム成分が架橋、不溶化するものである。
これらのポジ型レジスト材料およびネガ型レジスト材料では、これらの材料からなるレジスト層を剥離する際に用いる剥離液の種類が互いに異なっている。
具体的には、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液としては、例えば、エタノールアミン類のような有機アミンと極性溶媒との混合物が挙げられる。
【0067】
一方、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸などを成分とした有機酸系の薬液が用いられる。
ポジ型レジスト材料は、上述したネガ型レジスト材料用の剥離液に対して比較的不溶であり、ネガ型レジスト材料は、上述したポジ型レジスト材料に対して比較的不溶であることから、これらのレジスト材料からなるレジスト層は、それぞれ選択的な剥離が可能になり、本発明の効果が発生する。
なお、上記不溶とは、全くの溶解しないことを必要とするものではなく、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7との間で溶解性に十分な差ができていれば、ある程度の溶解は許容される。
【0068】
また、例えば、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液と、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層の剥離液とは、その剥離性の強さを考慮して適用する工程を適宜選択する。例えば、前者の剥離液は、後者の剥離液に比べてその剥離性が比較的弱いことから、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層を第1のレジスト層6とし、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層を第2のレジスト層7とすれば、第2のレジスト層7を除去する際に、それに伴って第1のレジスト層6が剥離してしまうのをより確実に防止することができる。
【0069】
また、ポジ型レジスト材料は露光部が除去される性質のものであり、ネガ型レジスト材料は露光部が残存する性質のものであることから、ネガ型レジスト材料からなるレジスト層を第1のレジスト層6とし、ポジ型レジスト材料からなるレジスト層を第2のレジスト層7とすれば、第2のレジスト層7を形成する際の露光の際に、仮に第1のレジスト層6に光が当たったとしても、悪影響を及ぼすおそれがないという利点がある。
【0070】
(ii)の場合、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と、第2のレジスト層7を構成するレジスト材料については、同じ溶媒(現像液および剥離液)に対して溶解性が互いに異なるよう、その組成を適宜選択すればよい。これにより、例えば工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6を、レジスト層7A用の現像液に対する溶解性が相対的に小さいものにすることができる。これにより、レジスト層7Aの現像を終えた時点でも第1のレジスト層6を溶解せずに残存させ、この時点で速やかに現像液を除去することにより、第1のレジスト層6を失うことなくレジスト層7Aの現像を行うことができる。
【0071】
またこの場合、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際、下地の第1のレジスト層6は、第2のレジスト層7用の剥離液に対する溶解性が小さい。このため、第2のレジスト層7を剥離している間も、第1のレジスト層6はわずかしか溶解しないので、第2のレジスト層7を剥離し終えた後でも、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
【0072】
なお、(i)の場合と同様、工程C2におけるレジスト層7Aの現像の際、下地の第1のレジスト層6はすでに現像済みであるため、多くの現像液に対して十分な耐久性を有している。したがって、この第1のレジスト層6がレジスト層7A用の現像液に触れたとしても、溶解する可能性は非常に低いといえる。かかる観点から、(ii)の場合も、少なくとも、工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際に、下地の第1のレジスト層6が剥離してしまわないようにすることの方が重要である。
【0073】
このような溶解性の差を生じるレジスト材料の組み合わせとしては、例えば、同一組成のレジスト材料であって、その分子量、ガラス転移点、溶解性を左右する官能基の含有量が互いに異なるレジスト材料の組み合わせ等が挙げられる。このようなレジスト材料からなるレジスト層は、それぞれ同じ溶媒に対して溶解性が異なることから、それを利用することで、選択的な溶解が可能になる。
【0074】
なお、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7とで、その厚さを大きく異ならせることで、各々が完全に剥離に至るまでの時間を大きく異ならせることができる。例えば、第2のレジスト層7に比べて第1のレジスト層6の厚さを十分に厚くすることで、第2のレジスト層7を剥離し終えた後でも、第1のレジスト層6を十分に残存させることができる。このようにしても、第1のレジスト層6と第2のレジスト層7の選択的な剥離が可能になる。
【0075】
(iii)の場合、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と、第2のレジスト層7を構成するレジスト材料については、同じアッシング処理(特にドライアッシング)に対してアッシング耐性(耐久性)が互いに異なるよう、その組成を適宜選択すればよい。例えば工程D1における第2のレジスト層7の剥離の際、下地の第1のレジスト層6を、第2のレジスト層7を剥離する際のアッシング処理に対するアッシング耐性よりも相対的に大きくすればよい。これにより、第2のレジスト層7を剥離している間も、第1のレジスト層6はわずかしか剥離しないので、第2のレジスト層7を剥離し終えた後でも、第1のレジスト層6はマスクとしての機能を確実に維持することができる。
このようなアッシング耐性の異なるレジスト材料の組み合わせとしては、例えば、ポジ型フォトレジスト材料と、これに水素イオンを照射することによってドライアッシング耐性を高め、これによりアッシング耐性に差を設けたレジスト材料との組み合わせ等が挙げられる。
【0076】
なお、ドライアッシング耐性の向上は、例えば、水素プラズマから放出されるイオン流にレジスト層を暴露することにより行うことができる。
ここで、図3に示す弾性表面波共振子の他の構成例を説明する。
図8は、図3に示す弾性表面波共振子の他の構成例を示す部分拡大断面図である。
図8に示す弾性表面波共振子1は、IDT3の構成が異なる以外、図3に示す弾性表面波共振子1と同様である。
【0077】
図8に示すIDT3は、それに含まれる複数の電極指31a、31bのうち、最も外側に位置するものが、その他のものに比べて幅が広くなるよう形成されている点で、図3に示す弾性表面波共振子1と異なっている。
このような弾性表面波共振子1は、その製造時に第2のレジスト層7を成膜する際、成膜領域の制御が容易になるという点で有用なものである。
図9は、図8に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。
図8に示す弾性表面波共振子1を成膜する際、まず、前述したように、IDT3および反射器4、5とその上に積層された第1のレジスト層6とを形成する(図9(a)参照)。
【0078】
次いで、前述したように、第1のレジスト層6の上面および露出した圧電体基板2の上面を覆うようにレジスト材料を塗布し、レジスト層7Aを成膜する(図9(b)参照)。レジスト材料としては、前述したレジスト層6Aの構成材料と同様のものが用いられる。
そして、レジスト層7Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域および電極指31a、31b間の領域のレジスト層7Aを残存させる。これにより、図9(c)に示す第2のレジスト層(第2の保護膜)7を得る。
【0079】
第2のレジスト層7は、その縁部の一部が、最も外側に位置する電極指31a、31bの形成領域に位置するようパターニングされるが、この際、パターニングの境界は前記形成領域に合わせられる。前述したように、最も外側に位置する電極指31a、31bは、その幅が相対的に広くなっていることから、この形成領域にパターニングの境界を合わせることは、図3に示す弾性表面波共振子1の場合に比べて容易である。すなわち、パターニングの位置ズレの許容範囲Sが緩和されるという点で、図8に示す弾性表面波共振子1は、製造容易性の高いものであるといえる。このようにして第2のレジスト層7の位置が制御されることにより、圧電体基板2の上面に不本意な段差が形成されてしまうのを防止し、弾性表面波共振子1の特性に悪影響が及ぶのを防止することができる。
【0080】
<第2実施形態>
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態について説明する。
以下、第2実施形態について説明するが、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
(弾性表面波共振子の製造方法)
図10、11は、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図10、11中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0081】
第2実施形態にかかる弾性表面波共振子の製造方法は、工程の順序が異なる以外は、第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態では、まず第1実施形態と同様にして、IDT3および反射器4、5とその上に積層された第1のレジスト層6とを形成する(図10(a)、(b)参照)。
【0082】
次いで、第1のレジスト層6をマスクとして、電極指31a、31b間および導体ストリップ41、51間において露出した圧電体基板2Aの上面をエッチングする。これにより、図10(c)に示すように、圧電体基板2Aの上面の電極指31a、31b間に第2の溝25が形成される。また、図10(c)に示すように、圧電体基板2Aの上面の導体ストリップ41、51間に溝(仮の溝)26Aが形成される。
【0083】
次いで、図11(d)に示すように、第1のレジスト層6の上面および露出した圧電体基板2Aの上面を覆うようにレジスト材料を塗布し、レジスト層7Aを成膜する。本工程で用いるレジスト材料としては、第1のレジスト層6を構成するレジスト材料と特性の異なるものが用いられる。
次いで、レジスト層7Aの所定の領域に露光した後、現像を行い、IDT3の形成領域、すなわち、電極指31a、31bに対応する領域および電極指31a、31b間の領域のレジスト層7Aを残存させる。これにより、図11(e)に示す第2のレジスト層(第2の保護膜)7を得る。なお、この現像の結果、反射器4、5の形成領域、すなわち、導体ストリップ41、51に対応する領域および導体ストリップ41、51間において圧電体基板2Aの上面が露出した領域では、レジスト層7Aが除去され、露出した状態となる。
【0084】
次いで、第2のレジスト層7をマスクとして、導体ストリップ41、51間において露出した溝26Aをさらにエッチングする。これにより、溝26Aがさらに掘り込まれ、図11(f)に示す、第2の溝25より深い第1の溝26が形成される。
その後、第2のレジスト層7および第1のレジスト層6を順次除去する。これにより、弾性表面波共振子1が得られる。
以上のような製造方法においても、前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0085】
<第3実施形態>
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法の第3実施形態について説明する。
以下、第3実施形態について説明するが、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
(弾性表面波共振子)
まず、本実施形態にかかる弾性表面波共振子の構造について説明する。
【0086】
図12は、本発明の第3実施形態にかかる弾性表面波共振子を模式的に示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図12中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図12に示す弾性表面波共振子1’は、IDT3の電極指31a、31b間に設けられる第2の溝25が省略された以外は、第1実施形態にかかる弾性表面波共振子1と同様である。すなわち、図12に示す弾性表面波共振子1’は、溝として第1の溝26のみを有している。このような弾性表面波共振子1’は、構造が簡単であるため、製造容易性が高いものとなる一方、反射器4、5の反射特性は第1実施形態とあまり変わらないので、Q値の低下は抑制される。その結果、構造が簡単でかつ発振安定性の高い弾性表面波共振子1’が得られる。
【0087】
(弾性表面波共振子の製造方法)
次に、本発明の弾性表面波共振子の製造方法について、図12に示す弾性表面波共振子1を製造する場合を例に説明する。
図13は、図12に示す弾性表面波共振子の製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図13中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0088】
第3実施形態にかかる弾性表面波共振子の製造方法は、第2の溝25の形成、および溝(仮の溝)26Aをさらに深くするエッチング処理を省略した以外は、第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態では、図13(a)に示すように第2のレジスト層7を形成した後、図13(b)に示すように第1の溝26を形成し、続いて図13(c)に示すように第2のレジスト層7を除去する。これにより、第2の溝25を有さず、第1の溝26のみを有する弾性表面波共振子1’が得られる。
【0089】
以上のように、本発明では、第1の溝26を形成する領域以外は、常に第1のレジスト層6または第2のレジスト層7で覆われているので、IDT3や反射器4、5等がエッチングされてしまうことが防止されるとともに、第1の溝26の底面が荒れるのを防止して、設計通りの本来の特性を発揮する弾性表面波共振子1’を効率よく製造することができる。
また、本実施形態では、溝を形成するにあたり、部分的に溝を形成する必要があることから、それを実現する手段も見出したものである。
以上説明したような弾性表面波共振子1、1’は、各種の電子機器に適用することができ、得られる電子機器は、信頼性の高いものとなる。
【0090】
弾性表面波共振子1、1’を備える電子機器としては、特に限定されないが、例えば、パーソナルコンピューター(モバイル型パーソナルコンピューター)、携帯電話機、ディジタルスチルカメラ、インクジェット式吐出装置(例えばインクジェットプリンター)、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター等が挙げられる。
以上、本発明の弾性表面波共振子の製造方法について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0091】
また、本発明を適用する弾性表面波共振子は、用途に応じて反射器、櫛歯電極の数を変更してもよい。
また、櫛歯電極および反射器を圧電体基板とは反対側から覆うように、SiO2、Al2O3等で構成された保護膜(温度補償膜)を設けてもよい。この場合、保護膜は、IDT3上と反射器4、5上のみに設けられていてもよいし、第1の溝26および第2の溝25の底面も覆うように設けられていてもよい。
【0092】
また、本発明を適用する弾性表面波共振子には、各種機能を有する半導体素子が複合化されていてもよい。
また、保護膜の構成材料は、レジスト材料に限定されず、エッチングのマスクとして機能し得る材料であれば、いかなる材料であってもよい。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のケイ素化合物が用いられる。また、保護膜の形成には、露光・現像を伴う方法以外に、例えばインクジェット法等の局所的に材料を供給する方法を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0093】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.弾性表面波共振子の作製
(実施例1)
まず、圧電体基板として、平均厚さ:0.4mmの水晶基板(面内回転STカット水晶基板)を用意した。この水晶基板のカット角は、オイラー角(0°,127°,45°)である。
【0094】
次に、水晶基板上に、真空蒸着法によりアルミニウムを被着させ、アルミニウム膜(導体層)を形成した。このとき、アルミニウム膜の厚さは、200nm(2000Å)であった。
次に、フォトリソグラフィー法により、IDT(櫛歯電極)および反射器に対応する形状の第1のマスク(第1のレジスト層)を形成した。このとき、レジスト材料としてゴム系のネガ型フォトレジスト材料を用いた。また、現像液としてキシレン系現像液を用い、第1のマスクの厚さは、900nm(9000Å)であった。
【0095】
次に、この第1のマスクを用いてドライエッチングを行うことにより、アルミニウム膜の不要部分を除去することにより、IDTおよび反射器を形成した。このとき、ドライエッチングのエッチングガスとしてCF4を用いた。
次に、フォトリソグラフィー法により、IDTの電極指に対応する領域および電極指間の領域に第2のマスク(第2のレジスト層)を形成した。このとき、レジスト材料としてノボラック樹脂系のポジ型フォトレジスト材料を用いた。また、現像液としてアルカリ系現像液を用い、第2のマスクの厚さは、900nm(9000Å)であった。
【0096】
次に、この第2のマスクを用いてドライエッチングを行うことにより、水晶基板のうち、反射器の導体ストリップ間に対応する部分に溝(仮の溝)を形成した。このとき、形成された溝の深さは500nm(5000Å)であった。また、ドライエッチングのエッチングガスとしてCF4を用いた。
次いで、アルキルベンゼンスルホン酸を含む有機酸系剥離液を用いて、第2のマスクを選択的に剥離・除去した。この際、この剥離液は、第1のマスクに対する剥離性は比較的小さいので、第1のマスクを侵すことはなかった。
【0097】
次に、第1のマスクを介してドライエッチングを行うことにより、IDTの電極指間に対応する部分に第2の溝を形成した。このとき、形成された第2の溝の深さは500nm(5000Å)であった。また、先に形成していた溝(仮の溝)をさらに掘り込むことにより、第1の溝を形成した。その結果、形成された第1の溝の深さは1μm(10000Å)であった。なお、ドライエッチングのエッチングガスとしてCF4を用いた。
次に、モノエタノールアミンを含む有機アミン系剥離液を用いて、第1のマスクを除去した。これにより、図1に示すような弾性表面波共振子を得た。
【0098】
(実施例2)
アルカリベンゼンスルホン酸を含む有機酸系剥離液に対して相対的に剥離性が低いノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料を用いて第1のレジスト層を形成するとともに、前記有機酸系剥離液に対して相対的に剥離性が高いノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料を用いて第2のレジスト層を形成するようにした以外は、実施例1と同様にして弾性表面波共振子を得た。
【0099】
(実施例3)
第1のレジスト層として、ノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料からなるレジスト層に水素イオンを照射(注入)してなるレジスト層を用い、第2のレジスト層として、水素イオンの照射を省略したノボラック系樹脂を含むポジ型フォトレジスト材料からなるレジスト層を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして弾性表面波共振子を得た。
【0100】
(比較例)
IDTおよび反射器の形成後、第1のレジスト層を除去し、IDTおよび反射器をマスクとして溝を形成した。これにより、電極指間に第2の溝を形成するとともに、反射器の導体ストリップ間に仮の溝を形成した。
次いで、その上から、IDTの形成領域に第2のレジスト層を形成し、反射器をマスクとして溝を形成した。これにより、導体ストリップ間の溝をさらに掘り下げ、第1の溝を形成した。
上記のようにした以外は、実施例1と同様にして弾性表面波共振子を得た。
【0101】
2.評価
実施例1および比較例の弾性表面波共振子について、それぞれ、圧電体基板の溝の底面付近をSEMにより観察した。そのSEM写真を図14に示す。
【0102】
図14から明らかなように、比較例(図14(a))の弾性表面波共振子における溝の底面には、荒れ(微細な凹凸)が生じていた。これに対し、実施例1(図14(b))の弾性表面波共振子における溝の底面は、極めて平坦であった。
【0103】
なお、図示しないものの、実施例2、3の弾性表面波共振子についても、溝の底面は平坦であった。
また、各実施例および比較例の弾性表面波共振子についてQ値を測定した。
その結果、実施例1の弾性表面波共振子のQ値は17000であったのに対し、比較例の弾性表面波共振子のQ値は12000であった。また、実施例2、3の弾性表面波共振子のQ値についても実施例1と同様であった。
以上のことから、本発明によれば、溝の底面の平坦性が高く、かつQ値の高い弾性表面波共振子を製造し得ることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0104】
1、1’‥‥弾性表面波共振子 10、20‥‥STカット水晶板 2、2A‥‥圧電体基板 21、22、23、24‥‥辺 25‥‥第2の溝 26‥‥第1の溝 26A‥‥溝 3‥‥IDT(櫛歯電極) 3a、3b‥‥電極 3A‥‥導体層 31a、31b‥‥電極指 4、5‥‥反射器 41、51‥‥導体ストリップ 6‥‥第1のレジスト層(第1の保護膜) 6A‥‥レジスト層 7‥‥第2のレジスト層(第2の保護膜) 7A‥‥レジスト層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、前記圧電体基板の前記電極指間に形成された前記第1の溝よりも浅い第2の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝および前記第2の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝と前記第2の溝の深さを異ならせるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項2】
前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成するための仮の溝を形成する工程と、
前記第2の保護膜を除去した後、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝とを形成する工程と、を有する請求項1に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項3】
前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記第1の溝を形成するための仮の溝とを形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝を形成する工程と、を有する請求項1に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項4】
圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝が前記導体ストリップ間にのみ形成されるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項5】
前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成する工程と、を有する請求項4に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項6】
前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶解可能な溶媒の種類が互いに異なるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶媒に対する溶解性が互いに異なるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項8】
前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、アッシング処理に対する耐久性が互いに異なるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項9】
前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記電極指間に位置しないよう成膜される請求項1ないし8のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項10】
前記複数の電極指のうち、最も外側に位置する前記電極指は、その他の電極指に比べて幅が広くなるよう形成され、
前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記最も外側に位置する電極指の上方に位置するよう成膜される請求項1ないし9のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項11】
前記第1の保護膜および前記第2の保護膜は、それぞれ有機材料を主材料として構成されている請求項1ないし10のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項12】
前記有機材料は、フォトレジスト材料である請求項11に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項13】
前記第1の保護膜を構成するフォトレジスト材料は、ノボラック系樹脂を含むものである請求項12に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項14】
前記エッチングは、ドライエッチングである請求項1ないし13のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項15】
前記圧電体基板は、水晶で構成されている請求項1ないし14のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項1】
圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、前記圧電体基板の前記電極指間に形成された前記第1の溝よりも浅い第2の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝および前記第2の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝と前記第2の溝の深さを異ならせるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項2】
前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成するための仮の溝を形成する工程と、
前記第2の保護膜を除去した後、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝とを形成する工程と、を有する請求項1に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項3】
前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第2の溝と、前記第1の溝を形成するための仮の溝とを形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして、前記工程で得られた仮の溝をさらに深くしてなる前記第1の溝を形成する工程と、を有する請求項1に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項4】
圧電体基板の一方の面上に設けられた複数の電極指を備える櫛歯電極と、前記面上に設けられた複数の導体ストリップを備える反射器と、前記圧電体基板の前記導体ストリップ間に形成された第1の溝と、を有する弾性表面波共振子を製造する方法であって、
エッチングにより前記圧電体基板を加工して前記第1の溝を形成する際に、互いに特性の異なる前記第1の保護膜と第2の保護膜とを併用し、これらの特性の差を利用して、前記櫛歯電極および前記反射器を保護しつつ、前記第1の溝が前記導体ストリップ間にのみ形成されるよう前記圧電体基板を部分的に加工することを特徴とする弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項5】
前記圧電体基板の一方の面上に導体層を形成する工程と、
前記導体層上のうち、前記電極指を形成する領域および前記導体ストリップを形成する領域にそれぞれ前記第1の保護膜を成膜するとともに、露出している前記導体層をエッチングして前記櫛歯電極および前記反射器を形成する工程と、
前記電極指および前記電極指間を覆うように、前記第2の保護膜を成膜するとともに、露出している前記圧電体基板をエッチングして前記第1の溝を形成する工程と、を有する請求項4に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項6】
前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶解可能な溶媒の種類が互いに異なるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、溶媒に対する溶解性が互いに異なるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項8】
前記第1の保護膜と前記第2の保護膜は、アッシング処理に対する耐久性が互いに異なるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項9】
前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記電極指間に位置しないよう成膜される請求項1ないし8のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項10】
前記複数の電極指のうち、最も外側に位置する前記電極指は、その他の電極指に比べて幅が広くなるよう形成され、
前記第2の保護膜は、その縁部の一部が、前記最も外側に位置する電極指の上方に位置するよう成膜される請求項1ないし9のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項11】
前記第1の保護膜および前記第2の保護膜は、それぞれ有機材料を主材料として構成されている請求項1ないし10のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項12】
前記有機材料は、フォトレジスト材料である請求項11に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項13】
前記第1の保護膜を構成するフォトレジスト材料は、ノボラック系樹脂を含むものである請求項12に記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項14】
前記エッチングは、ドライエッチングである請求項1ないし13のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【請求項15】
前記圧電体基板は、水晶で構成されている請求項1ないし14のいずれかに記載の弾性表面波共振子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−9946(P2012−9946A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141817(P2010−141817)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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