説明

弾性表面波素子および通信装置

【課題】 送信側フィルタおよび受信側フィルタを同一の圧電基板上に作製した弾性表面波素子ではアイソレーション特性が悪かった。
【解決手段】 圧電体からなる第1の基板2の一方主面にそれぞれ励振電極3と入力パッド部5,7と出力パッド部6,8とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13が形成されているとともに、第1の基板2の他方主面に第1の基板2より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板21の一方主面が接合され、第2の基板21の他方主面の全面に導体層22が形成されている弾性表面波素子1である。送信側フィルタ領域12の入力パッド部5および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8間に形成されていた寄生容量を、基板の実効誘電率を小さくすることにより低減することができ、アイソレーション特性を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子および通信装置に関するものである。より詳しくは、同一の圧電基板上に送信側フィルタおよび受信側フィルタの両方を配置した、分波器として使用される弾性表面波素子に関するものであり、特に送信側フィルタと受信側フィルタとの間のアイソレーション特性を改善した弾性表面波素子およびその弾性表面波素子を用いた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機端末の多機能化に伴い、実装部品はより小型・軽量化することが求められている。その中で送信側周波数帯(例えば低周波側周波数帯)の信号と受信側周波数帯(例えば高周波側周波数帯)の信号とを分離する分波器には、従来、誘電体を用いたものが使用されてきた。しかし、誘電体分波器は現状の通信規格の周波数帯では原理的に小型化できず、また、通過帯域近傍の減衰特性を急峻にできないため、送信側周波数帯と受信側周波数帯とが接近している通信規格では満足のいく特性が得られなかった。
【0003】
そこで近年、弾性表面波素子を用いたフィルタを分波器に利用する試みがなされている。従来から弾性表面波フィルタは段間のフィルタとして使用されていたが、分波器として使用するには耐電力性が低かった。しかし、近年この耐電力性の問題は励振電極の電極構造や電極材料を工夫することで解決することができるようになってきたため、誘電体分波器より小型で通過帯域近傍の減衰特性の良い弾性表面波分波器(以下ではSAW−DPXと記す。)が現れ始めている。
【特許文献1】特開平7−122961公報
【特許文献2】国際公開第99/54995号パンフレット
【非特許文献1】松田聡、斉藤康之、川内治、宮本晶規,「弾性波観測によるSAW共振子特性の改善」,第33回EMシンポジウム予稿集,2004年5月20日,p.77−82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
段間で使用される従来のSAWフィルタでは、異なる周波数帯のフィルタを同一の圧電基板に形成することにより、フィルタ全体が実装ボード上に占める割合を小さくしてきた(以下ではこのようなSAWフィルタをDual−SAWフィルタと記す。)。同様にSAW−DPXにおいても、送信側周波数帯のフィルタ(以下ではTxフィルタと記す。)と受信側周波数帯のフィルタ(以下ではRxフィルタと記す。)とを同一の圧電基板上に形成することにより小型化を図ることができる。
【0005】
しかし、実際に同一の圧電基板上にTxフィルタとRxフィルタとを形成すると、両フィルタ間でのアイソレーション特性が通信機端末における要求仕様を満足できないことが問題となっていた。このアイソレーション特性とは、一方のフィルタから他方のフィルタに漏れる信号の特性のことであり、このような信号の漏れはできるだけ小さく抑える必要がある。特に分波器においては、送信側で増幅された電力の大きい送信信号がTxフィルタからRxフィルタに漏れて受信側に漏れると、もともと電力の小さい受信信号を受信することができなくなってしまう。このため、分波器に要求されるアイソレーション特性の仕様では信号の漏れを極めて小さく抑えることが要求されており、段間で使用されるDual−SAWフィルタに要求される仕様に比べて非常に厳しくなっている。
【0006】
このフィルタ間でのアイソレーション特性の劣化の原因の一つは、弾性表面波の漏れであると考えられる。特にSAW−DPXでは、Txフィルタを形成する励振電極で励振された弾性表面波をその励振電極中に充分に閉じ込めることができず、Txフィルタの励振電極から漏れた弾性表面波が圧電基板の表面を伝搬し、これがRxフィルタを形成する励振電極によって受信されてしまうことにより、TxフィルタからRxフィルタへと信号が漏れてしまい、アイソレーション特性が劣化すると考えられる。その概念を図5にSAW−DPXの弾性表面波素子の一例を示す上面図に示す。
【0007】
図5において、1は弾性表面波素子であり、圧電基板2の一方主面にTxフィルタ領域12(破線で囲んで示す。)およびRxフィルタ領域13(破線で囲んで示す。)が設けられ、各領域にはそれぞれ複数の励振電極3および励振電極3間を接続する接続電極4からなる弾性表面波フィルタが形成されている。5はTxフィルタ12の入力パッド部、6はアンテナへ接続されるTxフィルタ12の出力パッド部、7はアンテナへ接続されるRxフィルタ13の入力パッド部、8はRxフィルタ13の出力パッド部である。また、9は接地電極であり、10はTxフィルタ12とRxフィルタ13とを個別に取り囲むように形成された環状導体である。
【0008】
この弾性表面波素子1においては、Txフィルタ12とRxフィルタ13とを個別に環状導体10で取り囲むことによって電気的に分離しているが、Txフィルタ12の励振電極3とRxフィルタ13の励振電極3とが、それぞれの弾性表面波の伝搬経路の方向とが重なるように配置されているため、Txフィルタ12の励振電極3からRxフィルタ13の励振電極3に図5中に矢印で示すように弾性表面波の漏れ14が生じてしまい、これによってアイソレーション特性が劣化してしまうという問題点があった。
【0009】
このような問題点に対して、同一の圧電基板2に形成していたTxフィルタ12とRxフィルタ13とを別個の圧電基板に形成して分断することにより、弾性表面波の漏れ14の伝搬を遮断してアイソレーション特性を改善する試みがなされている(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、このような試みでは確かにアイソレーション特性は改善するが、もともと一体に形成していたTxフィルタ12とRxフィルタ13とを別個の圧電基板に分断して形成するので、Txフィルタ12とRxフィルタ13とを実装用基体に実装した場合に分波器として機能する領域の占める面積は、Txフィルタ12とRxフィルタ13とを同一の圧電基板2に一体に形成した場合に比べて大きくなってしまうため、小型化の要求に応えることができないという問題点がある。
【0010】
そこで、従来は図5に示すように配置していたTxフィルタ12およびRxフィルタ13の励振電極3を、弾性表面波の伝搬経路が重ならないように、例えば図6に示す弾性表面波素子の上面図におけるように配置すると、Txフィルタ12とRxフィルタ13とを別個の圧電基板に分断することなく同一の圧電基板2上に形成して小型化を図りつつ、アイソレーション特性が改善された小型のSAW−DPXとすることができるはずである。図6において図5と同様の箇所には同じ符号を付してあり、図6に示す弾性表面波素子では、Txフィルタ12およびRxフィルタ13のそれぞれの励振電極3を弾性表面波の伝搬経路が平行となるように配置しており、Txフィルタ12の励振電極3から弾性表面波が漏れても、それをRxフィルタ13の励振電極3で受けることがないので、アイソレーション特性は劣化しないというものである。
【0011】
しかし、本発明者らが詳細な実験を行なったところ、図6に示すような励振電極の配置としてもアイソレーション特性は改善されなかった。これはアイソレーション特性の劣化の原因が弾性表面波の漏れだけではないことを意味している。
【0012】
そこで、本発明者らが詳細に検討を重ねた結果、アイソレーション特性の劣化に関して従来は知られていなかった原因を見出し、その解決手段として本発明を案出するに至った。
【0013】
本発明は、以上のように従来のDual−SAWフィルタでは問題では無かったが同一の圧電基板にTxフィルタとRxフィルタとを一体に形成したSAW−DPXでは問題となっていたアイソレーション特性を改善するべく案出されたものであり、その目的は、TxフィルタとRxフィルタとを別個の圧電基板に分断することなしに、小型で優れたアイソレーション特性を有する弾性表面波装置およびその製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、TxフィルタとRxフィルタとを一体に集積したデュプレクサ以外の分波器にも適用することができる、小型で優れたアイソレーション特性を有する弾性表面波装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、詳細な実験とシミュレーションとによって、アイソレーション特性の劣化が圧電基板の一方主面に形成されたTxフィルタの入力電極とRxフィルタの出力電極とが、通常は圧電基板の他方主面(以下では裏面とも記す。)の全面にわたって形成されている裏面導体層を介して容量的に結合していることが原因であることを突き止めた。このシミュレーション結果およびシミュレーションに使用した回路の概念図を図7に示す。
【0016】
図7において、(a)は寄生容量が無い場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図であり、(b)は寄生容量がある場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図である。図7(b)で示した寄生容量はTxフィルタの入力パッド部とRxフィルタの出力パッド部との間に存在する寄生容量であり、50fF程度の非常に微小な寄生容量である。図7に示す結果から、このような非常に微小な寄生容量が存在するだけで、アイソレーション特性が劣化していることが分かる。すなわち、図7(a)および(b)の比較から分かるように、869MHzから894MHzでの信号強度が、このような寄生容量がある場合には(b)に示すように−30〜−40dBであったものが、寄生容量がない場合には(a)に示すように−50dB以下となっており、寄生容量がないことによってアイソレーション特性が大きく改善していることが分かる。
【0017】
このような50fF程度の寄生容量は、例えば圧電基板に厚み250μmのタンタル酸リチウム単結晶基板を用いた場合であれば、比誘電率を42.7として計算すると、圧電基板の表面と裏面とに一辺が約180μmの方形の電極が対向してある場合に形成される容量に相当する。通常、弾性表面波フィルタの入出力パッド部の面積はこの程度のものとなるため、シミュレーションで寄生容量として挿入した値は妥当に現実を反映した値であると言える。なお、アイソレーション特性に最も影響を与えるのは、ここで説明したTxフィルタの入力パッド部とRxフィルタの出力パッド部との間の寄生容量であるが、各フィルタの励振電極を接続する接続電極と各フィルタの入出力パッド部との間および一方のフィルタの励振電極を接続する接続電極と他方のフィルタの励振電極を接続する接続電極との間に発生する寄生容量も、同様にアイソレーション特性を劣化させる。
【0018】
弾性表面波素子は圧電基板上に作製される櫛歯状の励振電極を用いた素子である。通常、圧電体は急激な温度変化により焦電性を示すため、圧電基板を用いて素子を作製する際に急激な温度変化のある工程を通すと、圧電基板の焦電性のためスパークが発生して素子を破壊(焦電破壊)してしまうこととなる。そこで、なるべく圧電基板に電荷が蓄積しないようにするために、圧電基板の裏面の全面にわたって導体層を成膜することが一般的となっている。しかし、本発明者らは、この裏面導体層は素子作製工程中は焦電破壊防止に有効であるが、弾性表面波素子のアイソレーション特性には有害であるということを見出した。
【0019】
ところで、この裏面導体層を実装用基体の接地電極と導通させることにより各フィルタの入出力パッド部間の容量的な結合はある程度小さくすることができるが、この対策ではアイソレーション特性の改善は充分ではない。また、圧電基板の裏面(裏面導体層の形成面)と実装用基体の主面とを対向させて弾性表面波素子を実装する場合には実装用基体の主面に接地電極を設ければよいが、この場合は改めて圧電基板の表面側に振動空間を確保して励振電極を外部から守るために、リッドやカバーを取着することによって圧電基板の表面を保護する必要がある。しかし、この場合にはリッドやカバーを取着する面積が別途必要なため、弾性表面波装置の小型化には不利である。また、圧電基板の表面(励振電極の形成面)と実装用基体の主面とを対向させてその間に振動空間を確保して実装(フリップチップ実装)する場合は、小型化には有利であるが、圧電基板の裏面の裏面導体層が接地電位のとれる実装用基体の主面と空間的に離れてしまうので、裏面導体層から実装用基体の主面上の接地電極まで接地を取るには余分な工程を必要とするため製造コストが高くなってしまうという問題点がある。
【0020】
また、SAW−DPXの励振電極で励振された弾性表面波は、一部バルク波に変換されて圧電基板中を伝搬し、圧電基板の裏面で反射されて再び圧電基板の表面に到達する。そのため、特に分波器においては、送信側で増幅された電力の大きい送信信号がTxフィルタで発生したバルク波がRxフィルタに漏れて受信側に漏れると、もともと電力の小さい受信信号を受信することができなくなってしまう。このように、バルク波が原因となり、弾性表面波装置のアイソレーション特性を劣化させることがある。
【0021】
そこで本発明では以下のような弾性表面波素子とし、上記の課題を解決するものである。
【0022】
本発明の弾性表面波素子は、圧電体からなる第1の基板の一方主面にそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域が形成されているとともに、前記第1の基板の他方主面に前記第1の基板より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板の一方主面が接合され、前記第2の基板の他方主面の全面に導体層が形成されていることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の弾性表面波素子は、上記構成において、前記第2の基板が多層基板であることを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の弾性表面波素子は、上記各構成において、前記第2の基板は接着層を介して前記第1の基板に接合されていることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の弾性表面波素子は、上記構成において、前記第1の基板の前記他方主面が前記第1の基板の前記一方主面より粗面であることを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の弾性表面波素子は、上記各構成において、前記第2の基板がシリコン、ガラス、サファイア、石英、水晶、樹脂およびセラミックスから選択された材料からなることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波素子を分波器として用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の弾性表面波素子によれば、圧電体からなる第1の基板の一方主面にそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域が形成されているとともに、前記第1の基板の他方主面に前記第1の基板より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板の一方主面が接合され、前記第2の基板の他方主面の全面に導体層が形成されていることにより、従来のように、圧電基板を単独で用い圧電基板の他方主面の全面にわたって導体層が形成されている場合に比べて、励振電極が形成される基板自体の実効的な比誘電率を大幅に小さくすることができるため、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量を大幅に小さくすることができ、その寄生容量に起因するアイソレーション特性の劣化を抑えることができ、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。さらに、第2の基板の他方主面の全面に導体層が形成されていることにより、製造プロセスにおける急激な温度変化により発生する電荷を効率的に逃がすことが可能となり、圧電基板の焦電性に起因する焦電破壊等の電極ダメージを防止する効果を得ることができる。従って、本発明の弾性表面波素子によれば、焦電破壊を良好に防止する効果と基板の実効誘電率を小さくしてアイソレーション特性の劣化を防止する効果との両方を得ることができる。
【0029】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、第2の基板が多層基板であるときには、圧電体からなる第1の基板と接合させる第2の基板の比誘電率を多層の材料を多様に組み合わせて設定することが可能となり、基板の比誘電率の組み合わせの自由度が増し、それによって励振電極が形成される基板自体の比誘電率を大幅に小さくすることができるため、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量を大幅に小さくすることができ、その寄生容量に起因するアイソレーション特性の劣化を抑えることができ、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0030】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、前記第2の基板は接着層を介して前記第1の基板に接合されているときには、直接接合で圧電基板である第1の基板と第2の基板を接合した場合には、第1の基板と第2の基板との熱膨張係数が大きく異なると、素子の製造工程中や素子を実装ボードに実装する際に高い温度がかかったときに脆い圧電基板に大きな応力が印加され、圧電基板にクラックが入ったり、端部が剥離したりといった不具合が起こることがあるが、接着層を介して接合することによりその接着層によって圧電基板にかかる応力を緩和することができるため、直接接合の場合のような不具合を回避することができる。従って、第2の基板と第1の基板との接合状態を良好に保つことができ、アイソレーション特性の良い弾性表面波素子を安定して提供することができる。
【0031】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、前記第1の基板の前記他方主面が前記第1の基板の前記一方主面より粗面であるときには、アイソレーション特性の劣化のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分をも、その粗面によってバルク波を散乱させて低減することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善することができる。
【0032】
アイソレーション特性の劣化の主要因はこれまでに述べてきたように寄生容量によるものであるが、アイソレーション特性は、共振器の励振電極で弾性表面波に変換されずにバルク波となってしまった音響波が、一方のフィルタ領域から圧電基板の内部を伝搬し、圧電基板の他方主面で反射され、他方のフィルタ領域に形成されている共振器の励振電極に結合することによっても劣化する。このバルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化は寄生容量による劣化に比べると小さいが、アイソレーション特性に求められる厳しい要求を完全に満たすためにはこのバルク波による劣化も抑制することが好ましい。
【0033】
これに対し、第1の基板の他方主面が第1の基板の一方主面より粗面であることにより、その粗面でバルク波が散乱されるため、一方のフィルタ領域の励振電極から発生したバルク波が他方のフィルタ領域に形成されている励振電極に十分に結合しないようにすることができるので、アイソレーション特性をさらに改善することができる。また、バルク波に起因する弾性表面波素子の周波数特性におけるスプリアスを抑制することができ、所望の周波数特性を得ることが可能となる。
【0034】
ところで、バルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化は、圧電基板を単独で用いる場合でも元々表面を大きく荒らした圧電基板を使用すれば抑制することができるが、弾性表面波を伝搬させる励振電極を形成している一方主面は鏡面である必要があるため、他方主面のみが大きく荒れた単独の圧電基板は温度変化により大きく反ってしまい、弾性表面波素子の作製工程中に破損しやすいという問題点がある。一方、近年の電子部品への小型化・低背化の要求から、弾性表面波素子の圧電基板の厚みが次第に薄くされているが、圧電基板の厚みが薄くなるとますます破損する確率は大きくなってしまう。
【0035】
これに対し、本発明の弾性表面波素子によれば、圧電基板である第1の基板の他方主面が第1の基板の一方主面より粗面であり、圧電体からなる第1の基板が補強用基板としても機能する第2の基板と接合されているので、薄型化が進められている圧電基板についても破損する危険性を大きくせずに、バルク波の伝搬によるアイソレーション特性の劣化を効率良く抑えることができる。また、これを寄生容量によるアイソレーション特性の劣化に対する対策と同時に行なえるため、効率的である。
【0036】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、前記第2の基板がシリコン、ガラス、サファイア、石英、水晶、樹脂およびセラミックスから選択された材料からなるときには、圧電体からなる第1の基板より比誘電率が大幅に小さい第2の基板を接合させて、基板自体の比誘電率を大幅に小さくすることができるため、送信側フィルタ領域の入力パッド部および受信側フィルタ領域の出力パッド部の間に形成される寄生容量を大幅に小さくすることができ、その寄生容量に起因するアイソレーション特性の劣化を抑えることができ、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0037】
さらに、シリコン、ガラス、サファイア、石英、水晶、樹脂等の、圧電体からなる第1の基板より熱膨張率が小さい材料からなる第2の基板を接合した場合には、温度変化による基板の歪み等に起因する弾性表面波素子の周波数温度特性を改善することも可能となる。また、さらに、サファイア、石英、セラミックス等の、圧電体からなる第1の基板よりも熱伝導率の高い材料から成る第2の基板を接合させた場合には、フィルタ領域で発生した熱を効率的に逃がすことが可能となるため基板自身の昇温を抑えることができ、これによって周波数温度特性を改善することができるとともに、温度により加速される電極の劣化を抑えることもできる。
【0038】
以上のように、本発明の弾性表面波素子によれば、同一の圧電基板上に送信側フィルタと受信側フィルタとを、アイソレーション特性を大幅に改善して、一体に形成することができる。従って、送信側フィルタと受信側フィルタとを別個の圧電基板に作製したものよりも小型のSAW−DPXを作製することができる。また、1枚の圧電基板から多数個の弾性表面波素子を得ることができるので、弾性表面波素子の低価格化を実現することができる。また、圧電基板の一方主面(励振電極の形成面)を実装用基体の主面に対向させた実装(フリップチップ実装)を行なっても、Txフィルタの入力電極とRxフィルタの出力電極とが他方主面の導体層を介する容量結合を低減させることができるので、小型のSAW−DPXでありながらアイソレーション特性を劣化させない弾性表面波装置を得ることができ、しかも、第2の基板の他方主面の全面に導体層が形成されているので焦電破壊を防止することができる。
【0039】
また、分波器等に用いられる励振電極に大きな電力を印加すると、電極の抵抗によるジュール熱や、振動の熱への変換により、弾性表面波素子自体が発熱し高温状態となり、高温状態における弾性表面波装置の周波数特性の安定性が問題となるが、シリコン、ガラス、サファイア、石英、水晶、樹脂基板等、タンタル酸リチウム等の、圧電体からなる第1の基板より熱膨張係数の小さい材料からなる第2の基板を接合させることにより、周波数温度特性が良好で、焦電性による電極破壊が防止でき、かつ良好なアイソレーション特性を有する弾性表面波装置を得ることができる。また、サファイア、石英、水晶、セラミックス等の、圧電体からなる第1の基板よりも熱伝導率の高い材料から成る第2基板を接合させることにより、フィルタ領域で発生した熱を効率的に逃がすことが可能となるため、周波数温度特性および電極の耐電力性が良好で、かつ、焦電性による電極破壊が防止でき、かつ、良好なアイソレーション特性を有する弾性表面波装置を得ることができる。
【0040】
そして、本発明の弾性表面波素子は、良好なアイソレーション特性を有するものでありながら小型である、分波器として用いるのに好適なものであるので、他部品の実装面積を大きく取れる等により、高機能を実現できる通信装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同じ符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、あるいは電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものであるので、これらに限定されるものではない。
【0042】
<実施の形態の例1>
本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例1における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図は、図5と同様である。また、この例1における弾性表面波素子の断面図を図1に示す。また、この例1の弾性表面波素子を実装した弾性表面波装置の断面図を図2に示す。
【0043】
図5に示すように、弾性表面波素子1の圧電基板2上には送信側フィルタ領域12(破線で囲んで示す。)および受信側フィルタ領域13(破線で囲んで示す。)が形成されている。送信側フィルタ領域12には、共振器を構成する複数の励振電極3およびこれらを接続する接続電極4と、弾性表面波素子1と実装用基体(図示せず)とを接続するための励振電極3に電気的に接続された入力パッド部5および出力パッド部6が形成されている。同様に受信側フィルタ領域13には、共振器を構成する複数の励振電極3およびこれらを接続する接続電極4と、弾性表面波素子1と実装用基体とを接続するための励振電極3に電気的に接続された入力パッド部7および出力パッド部8が形成されている。
【0044】
また、環状導体10は半田等を用いて実装用基体の上面にこれに対応させて形成された、接地電極としても機能する基体側環状導体と接続される。この例では、環状導体10は送信側フィルタ領域12と受信側フィルタ領域13とを個別に取り囲むようにして一体に形成されており、受信側フィルタ領域13のRxフィルタの接地電極として機能するとともに圧電基板2と実装用基体との間で送信側フィルタ領域12と受信側フィルタ領域13とを封止する役割を持つ。なお、この例では、送信側フィルタ領域12のTxフィルタの接地は、接地電極パッド11を実装用基体の接地電極と接続することでとっており、圧電基板2上では環状導体10に接続していない。
【0045】
図1に示すように、圧電体からなる第1の基板2の一方主面に励振電極3が形成され、第1の基板2の他方主面に第1の基板2より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板21の一方主面が接合され、第2の基板21の他方主面の全面に導体層22が形成されている。
【0046】
ここで、圧電体からなる第1の基板2としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
【0047】
また、たとえば圧電体からなる第1の基板2として比誘電率42.7のタンタル酸リチウム圧電基板を用いた場合であれば、第1の基板2より比誘電率が小さい第2の基板21として、シリコン(比誘電率3.4),サファイア(比誘電率9.4),石英(比誘電率3.8),水晶(比誘電率3.8),ガラス基板(比誘電率3.8程度),アルミナ(比誘電率8.5程度)等のセラミック基板、ポリイミド,液晶ポリマー(いずれも比誘電率が10以下のものが存在する)等の樹脂基板を用いることができる。第2の基板21は、これらの基板に限定されるものではなく、第1の基板2より比誘電率が小さければよく、本発明のアイソレーション特性の劣化を防止する効果を発生させるものであればよい。第1の基板2と第2の基板21とは、それぞれの基板表面を機械研磨および化学研磨することにより鏡面化した後、洗浄により表面を清浄化し、親水化処理を行なった後、直接接合によって接合することができる。
【0048】
また、第1の基板2の一方主面上の励振電極3にはアルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料から成る層との積層膜を用いることができる。導体層の成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0049】
この励振電極3をパターニングする方法としては、励振電極3の成膜後にフォトリソグラフィを行ない、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行なう方法がある。または、励振電極3の成膜前に圧電基板の一方主面にレジストを形成しフォトリソグラフィを行なって所望のパターンを開口した後、導体層を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層ごと除去するリフトオフプロセスを行なってもよい。
【0050】
次に、第2の基板21の他方主面の全面に導体層22を形成する。第2の基板21の他方主面の導体層22の材料としてはアルミニウム,アルミニウム合金等を用いることができる。その成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0051】
次に、励振電極3を保護するための保護膜30を成膜する。保護膜30の材料としてはシリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。この保護膜成膜工程においては、良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合において第2の基板21の他方主面の導体層22は焦電破壊の防止に有効に機能する。
【0052】
次に、入力パッド部5,7および出力パッド部6,8の上に新たな導体層を積層して、入力パッドおよび出力パッドを形成する。この新たな導体層は弾性表面波素子1と実装用基体とを高い信頼性で電気的および/または構造的に接続するためのものであり、例えば接続に半田を用いる場合であれば、半田の濡れ性を確保し拡散を防止する機能を持ち、また接続に金バンプを用いる場合であれば、パッドの硬度を、金を超音波等を用いて接着できるように調整する機能を持つ。このような新たな導体層の材料・構造としては、クロム/ニッケル/金あるいはクロム/銀/金の積層膜や、金やアルミニウムの厚膜を用いることができる。成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。なお、この新たな導体層成膜工程においても良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合においても第2の基板21の他方主面の導体層22は焦電破壊の防止に有効に機能する。
【0053】
ここまでの工程で作製した圧電基板の一方主面の励振電極3や入力パッド部5,7および出力パッド部6,8等のパターンは図5に示したものと同様である。ただし、図5では保護膜30は図示していない。
【0054】
次に、ここまで1枚の圧電基板に多数個の弾性表面波素子領域を形成したいわゆる多数個取りの方法で作製を行なってきた場合は、圧電基板を弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子1を得る。分離する方法としては、例えばダイシングブレードを用いたダイシング法やレーザ加工によるレーザカッティング法等を用いることができる。
【0055】
次に、弾性表面波素子1を実装用基体31上に一方主面を対面させて実装する。
【0056】
実装用基体31は弾性表面波素子1が上面に実装される回路基板であり、この実装用基体31の上面には、入力パッド部5,7および出力パッド部6,8に対応した入力端子および出力端子ならびに接地端子(いずれも図示せず)と、環状導体10に対応した基体側環状導体32とが形成されている。
【0057】
このような弾性表面波素子1および実装用基体31を用いた弾性表面波装置の例によれば、弾性表面波素子1の第1の基板2の一方主面に送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13を取り囲んで環状導体10が形成されており、弾性表面波素子1の各パッドが実装用基体31の各端子に導体バンプを介して接続されるとともに、この環状導体10が実装用基体31の上面にこれに対応させて形成された基体側環状導体32に、例えば半田等のろう材33を用いて、内側を環状に封止するようにして接続されていることにより、弾性表面波素子1の動作面側の気密性を保つことができるので、弾性表面波素子1を外装保護材等による影響なく安定して動作させることができるとともにその動作を長期間にわたって安定して行なわせることができ、高信頼性の弾性表面波装置とすることが可能となる。
【0058】
また、これら環状導体10および基体側環状導体32により環状に気密封止された内部に、さらに例えば不活性ガスである窒素ガス等を封入することにより、各励振電極3や各パッド,各端子の酸化等による劣化を効果的に防止することができるので、さらに高信頼性とすることが可能となる。
【0059】
そして、図2に示すように、実装用基体31上に実装された弾性表面波素子1を封止樹脂34を用いて樹脂モールドし、実装用基体31を弾性表面波素子1毎に封止樹脂34とともにダイシング等により分断して、本発明の弾性表面波素子1を用いた弾性表面波装置を得る。封止樹脂34は、窒化アルミニウム,銀,ニッケル等からなるフィラーを含んでいてもよい。このようなフィラーを含むことにより封止樹脂34の熱伝導率が上がり、これにより弾性表面波素子1の放熱性が改善されるため、励振電極3の耐電力性が改善される。
【0060】
以上のようにして本発明の弾性表面波素子1は、圧電体からなる第1の基板2の一方主面にそれぞれ励振電極3と入力パッド部5,7と出力パッド部6,8とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13が形成されているとともに、第1の基板2の他方主面に第1の基板2より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板21の一方主面が接合され、第2の基板21の他方主面の全面に導体層22が形成されていることにより、従来のように、圧電基板を単独で使用し、圧電基板の他方主面の全面にわたって導体層が形成されている場合に比べて励振電極が形成される基板自体の比誘電率を大幅に小さくすることができるため、送信側フィルタ領域12の入力パッド部5および受信側フィルタ領域13の出力パッド部8の間に形成される寄生容量を大幅に小さくすることができ、その寄生容量に起因するアイソレーション特性の劣化を抑えることができ、アイソレーション特性を大幅に改善することができる。
【0061】
さらに、第2の基板21の他方主面の全面に導体層22が形成されていることにより、製造プロセスにおける急激な温度変化により発生する電荷を効率的に逃がすことが可能となり、圧電基板の焦電性に起因する焦電破壊等の電極ダメージを防止する効果を得ることができる。従って、本例1によれば、焦電破壊を良好に防止する効果と基板の実効誘電率を小さくしてアイソレーション特性の劣化を防止する効果との両方を合わせ持つ弾性表面波素子1およびそれを用いた弾性表面波装置を提供することができる。
【0062】
<実施の形態の例2>
図3に本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例2における弾性表面波素子の断面図を示す。この例2の弾性表面波素子1’では、圧電体からなる第1の基板2の一方主面に励振電極3が形成され、第1の基板2の他方主面に第1の基板2より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板21の一方主面が接着層23を介して接合され、第2の基板21の他方主面の全面に導体層22が形成されている。接着層23としてダイボンド材の役割をする材料としては、ホウケイ酸ガラス,石英ガラスやガラスセラミックス等から成るガラス質体や、有機物または有機物を含む接着剤を用いることができる。接着層23による第1の基板2と第2の基板21との接合状態を良好に保つためには、接着した後、熱処理を加えてもよい。
【0063】
これにより、第2の基板21は接着層23を介して第1の基板2に接合されていることにより、接合層23により応力が緩和されるため、第2の基板21と第1の基板2との接合状態を良好に保つことができ、アイソレーション特性の良い弾性表面波素子1’およびそれを用いた弾性表面波装置を提供することができる。
【0064】
<実施の形態の例3>
図4に本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例3における弾性表面波素子の断面図を示す。この例3の弾性表面波素子1”では、圧電体からなる第1の基板2’の一方主面に励振電極3が形成され、第1の基板2’の他方主面に第1の基板2’より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板21の一方主面が例2と同様に接着層23を介して接合され、第2の基板21の他方主面の全面に導体層22が形成されている。また、第1の基板2の他方主面が一方主面より粗面であるものとしている。第1の基板2’の他方主面を一方主面より粗面であるものとするには、例えば砥粒を用いて他方主面を研磨することにより所望の粗面化を実現することができる。
【0065】
このように第1の基板2’の他方主面が一方主面より粗面であるものにしていることにより、粗くした圧電基板の他方主面でバルク波が散乱されるため、一方のフィルタ領域の励振電極3から発生したバルク波が他方のフィルタ領域に形成されている励振電極3に十分に結合しないようにすることができるので、励振された弾性表面波がモード変換されたバルク波の伝搬をより確実に抑制することができ、アイソレーション特性の劣化のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分も効果的に低減することができるので、アイソレーション特性をさらに大幅に改善するのに有利なものとなる。
【実施例】
【0066】
図3および図5に示す弾性表面波素子1’を用いて図2に示す弾性表面波装置である弾性表面波フィルタを具体的に試作した実施例について説明する。
【0067】
まず、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム(LT)単結晶から成る圧電体の第1の基板2(厚みは125μm)の一方主面にスパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の導体層を成膜した。各導体層の厚みはそれぞれ6nm/209nm/6nm/209nmである。次に、この導体層をフォトリソグラフィとRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)とによりパターニングして、それぞれ励振電極3と入力パッド部5,7と出力パッド部6,8とを具備する送信側フィルタ領域12および受信側フィルタ領域13を有する多数の弾性表面波素子領域を形成した。このときのエッチングガスにはBClおよびClの混合ガスを用いた。なお、励振電極3を形成する櫛歯状電極の線幅および隣り合う櫛歯状電極間の距離はどちらも約1μmである。
【0068】
次に、第2の基板21としては、比誘電率εrが4.5と38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板の比誘電率εrの42.7より小さい石英基板を用いた。そして、接着層23として石英ガラスから成るガラス質体を用いて、第1の基板2の他方主面と第2の基板21の一方主面とを接合した。
【0069】
次に、スパッタリング法により第2の基板21の他方主面に純Alから成る導体層22を形成した。この導体層22の厚みは200nmである。
【0070】
次に、入力パッド部5,7および出力パッド部6,8の上に新たなCr/Ni/Auからなる導体層を積層して入力パッドおよび出力パッドを形成した。この新たな導体層の厚みはそれぞれ6nm/1000nm/100nmである。
【0071】
次に、第1の基板2と第2の基板21とを貼り合わせた基板を弾性表面波素子領域毎にダイシングによって分離して多数個の弾性表面波素子1’を得た。
【0072】
次に、弾性表面波素子1’をLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板からなる実装用基体31上に一方主面を対面させて実装した。ここで、LTCC基板は弾性表面波素子1’の一方主面に形成した環状導体10に対応する基体側環状導体32および弾性表面波素子1’の入出力パッドと接続されるパッド電極を有しており、予めこれら基体側環状導体31およびパッド電極にはろう材33として半田を印刷しておいた。これに弾性表面波素子1’を実装するにおいては、これら半田パターンに一致するように弾性表面波素子1’を配置して超音波を印加することにより仮固定し、その後、加熱することにより半田を溶融することによって環状導体10と基体側環状導体32とを、および入出力パッドとパッド電極とを接続した。これにより、弾性表面波素子1’はLTCC基板の基体側環状導体32とこれに接続された環状導体10とによって完全に気密封止される。なお、弾性表面波素子1’の実装工程は窒素雰囲気下で行なった。
【0073】
次に、封止樹脂34による樹脂モールドを行ない、弾性表面波素子1’の他方主面(裏面)を封止樹脂34で保護し、最後に実装用基体31を各弾性表面波素子1’間でダイシングすることにより、本発明の弾性表面波素子1’を用いた弾性表面波フィルタとしての弾性表面波装置を得た。
【0074】
また、比較例として従来のように圧電基板の一方主面に励振電極を形成し、他方主面に導体層を形成した弾性表面波素子を用いた弾性表面波装置を作製した。両者の比較のため、表1に本発明の実施例と比較例とにおける基板の比誘電率εrおよび基板の厚さd(単位:mm)と、励振電極と他方主面の導体層との間の寄生容量をシミュレーションした結果とを示す。
【表1】

【0075】
表1に示す結果より、本発明の実施例の場合には、励振電極と他方主面の導体層との間の寄生容量が比較例の約1/5に低減できていることが分かる。
【0076】
また、このようにして作製した本発明の実施例による弾性表面波装置について、図8(a)にそのアイソレーション特性を、また図8(b)に周波数特性をそれぞれ線図で示す。それぞれの線図において、横軸は周波数(単位:MHz)を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、破線の特性曲線はLT基板を単独で用いた比較例の結果を示し、実線の特性曲線はLTからなる第1の基板と石英からなる第2の基板とを用いた実施例の結果を示している。このアイソレーション特性は、図8に回路図を示す構成(寄生容量がある場合)において、Txフィルタの入力端子にRF信号を印加し、Rxフィルタの出力端子からの信号を測定することによって求めた(なお、回路図に示すように、通常は分波器として使用されるときにTxフィルタとRxフィルタとの間に挿入されるマッチングネットワークを組み込んだ状態で測定した。)。
【0077】
図8(a)に示す結果から分かるように、この本発明の実施例による弾性表面波装置は、比較例のものに比べて非常に良好なアイソレーション特性を有している。またその結果、図8(b)に示す結果から分かるように、比較例のものと比べて、通過帯域近傍の通過帯域外減衰量も大幅に改善されている。
【0078】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、2組以上の分波器を第1の基板および第2の基板からなる同一の基板上に設けてもよいし、また、分波器のアイソレーション特性には影響しない他のフィルタを同じ基板上に設けてもよい。その場合には複数の弾性表面波素子を別々に作製した場合に比べて全体の占める面積を小型にすることができる。
【0079】
また、図5ではラダー型フィルタを用いた場合を示したが、本発明はフィルタの構造を限定するものではなく、DMS型やIIDT型のフィルタを用いてもよい。また、入出力端子の配置も図5に示したものに限定されるものではなく、アンテナに接続される端子が基板の対角上に位置していても構わない。この場合は、共振器の励振電極から漏洩した弾性表面波による各フィルタ間でのアイソレーション特性の劣化を小さくすることができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例1を示す断面図である。
【図2】本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例1を実装した弾性表面波装置の断面図である。
【図3】本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例2を示す断面図である。
【図4】本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例3を示す断面図である。
【図5】アイソレーション特性の劣化の原因の概念を示す、SAW−DPXの弾性表面波素子の一例を示す上面図である。
【図6】SAW−DPXの弾性表面波素子の他の例を示す上面図である。
【図7】(a)は寄生容量が無い場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図であり、(b)は寄生容量がある場合の回路図およびアイソレーション特性の例を示す線図である。
【図8】本発明の実施例の特性を評価した構成の回路図ならびに、(a)および(b)は、それぞれ本発明の実施例で作製した弾性表面波装置のアイソレーション特性および周波数特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0081】
1,1’,1”:弾性表面波素子
2,2’:第1の基板
3:励振電極
4:接続電極
5:送信側フィルタの入力パッド部
6:送信側フィルタの出力パッド部
7:受信側フィルタの入力パッド部
8:受信側フィルタの出力パッド部
9:接地電極
10:環状導体
11:接地電極パッド
12:送信側フィルタ領域
13:受信側フィルタ領域
14:弾性表面波の漏れ
21:第2の基板
22:導体層
23:接着層
30:保護膜
31:実装用基体
32:基体側環状導体
33:ろう材
34:封止樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体からなる第1の基板の一方主面にそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備する送信側フィルタ領域および受信側フィルタ領域が形成されているとともに、前記第1の基板の他方主面に前記第1の基板より比誘電率が小さい材料からなる第2の基板の一方主面が接合され、前記第2の基板の他方主面の全面に導体層が形成されていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記第2の基板が多層基板であることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記第2の基板は接着層を介して前記第1の基板に接合されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記第1の基板の前記他方主面が前記第1の基板の前記一方主面より粗面であることを特徴とする請求項3記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記第2の基板がシリコン、ガラス、サファイア、石英、水晶、樹脂およびセラミックスから選択された材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の弾性表面波素子を分波器として用いたことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−42008(P2006−42008A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220060(P2004−220060)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】