弾性表面波素子の製造方法
【課題】インターディジタル電極2の表層部に形成する陽極酸化膜を、該陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る膜厚に形成し、且つインターディジタル電極2によって励起される弾性表面波の周波数を、所望の周波数に調整することが出来る弾性表面波素子の製造方法を提供する。
【解決手段】インターディジタル電極2の陽極酸化処理工程において、電解液4中で陰極部材5とインターディジタル電極2の間を流れる電流の密度を制御することにより、圧電基板1に励起されることとなる弾性表面波の周波数を調整する。
【解決手段】インターディジタル電極2の陽極酸化処理工程において、電解液4中で陰極部材5とインターディジタル電極2の間を流れる電流の密度を制御することにより、圧電基板1に励起されることとなる弾性表面波の周波数を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に一対の簾状電極からなるインターディジタル電極を具えた弾性表面波素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性表面波素子の製造工程では、圧電基板上にインターディジタル電極となる一対の簾状電極をスパッタ法等により形成した後、両簾状電極の間に導電性粒子が付着した場合に両簾状電極間の短絡を防止するため、簾状電極の表層部に陽極酸化膜を形成する方法が知られている。該陽極酸化膜は、絶縁保護膜としての役割を果たすべく適切な膜厚を必要とし、その膜厚は、陽極酸化処理工程において電解液に浸漬された陰極部材と簾状電極との間に印加する電圧の大きさにより決定される。
【0003】
ところで、簾状電極により圧電基板に励起される弾性表面波の周波数は、陽極酸化処理工程の前後で変化し、その周波数の変化は、図11に示す如く、陽極酸化処理を行なった際の電圧の大きさ、即ち陽極酸化膜の膜厚に依存している。従って、陽極酸化膜が形成された状態で所望の周波数を得るためには、陽極酸化処理を行なう際の電圧の大きさを制御して、陽極酸化膜の膜厚により周波数の調整を行なう必要がある(特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開平10−107569号公報
【特許文献2】特開平11−330882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、陽極酸化膜の膜厚により弾性表面波周波数の調整を行なう方法では、所望の周波数が得られることとなる陽極酸化膜の膜厚が薄い場合には、該陽極酸化膜の絶縁性が劣化し、両簾状電極の間に導電性粒子が付着したときに両簾状電極間が短絡する虞があり、逆に所望の周波数が得られることとなる陽極酸化膜の膜厚が厚い場合には、簾状電極の電気抵抗増大により弾性表面波素子の挿入損失が増加して、弾性表面波素子の素子特性が劣化する。また、陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る膜厚の陽極酸化膜を形成したとしても所望の周波数が得られない場合があるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、簾状電極の表層部に形成する陽極酸化膜を、該陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に形成し、且つインターディジタル電極によって励起される弾性表面波の周波数を、所望の周波数に調整することが出来る弾性表面波素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって製造される弾性表面波素子は、圧電基板上に一対の簾状電極からなるインターディジタル電極(2)を配備して構成されている。
本発明に係る弾性表面波素子の製造方法は、圧電基板上にインターディジタル電極(2)を形成する第1工程と、インターディジタル電極(2)を構成する少なくとも一方の簾状電極に陽極酸化処理を施して、該簾状電極の表層部に陽極酸化膜を形成する第2工程とを有している。
該第2工程では、電解液(4)中にて陰極部材(5)と圧電基板の前記少なくとも一方の簾状電極の間を流れる電流の密度を制御することにより、圧電基板に励起されることとなる弾性表面波の周波数を調整する。
【0007】
上記本発明の弾性表面波素子の製造方法によれば、簾状電極に陽極酸化処理を施す電流の大きさを変えることによって、簾状電極に形成される陽極酸化膜の膜質を変化させ、陽極酸化膜の膜質によって圧電基板に励起される弾性表面波の周波数を調整する。ここで、簾状電極に形成される陽極酸化膜の膜厚は、簾状電極に陽極酸化処理を施す際の電流の大きさにはよらず一定である。陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化処理を施す際の電圧によって規定することが出来る。
【0008】
具体的構成において、前記第2工程の前に、インターディジタル電極(2)に交流信号を供給して圧電基板に励起される弾性表面波の周波数を測定し、第2工程では、測定された周波数と所望の周波数との差に応じて、前記陰極部材(5)と前記簾状電極の間を流れる電流の密度を制御する。
【0009】
該具体的構成によれば、弾性表面波の所望の周波数を得るために陰極部材(5)と簾状電極の間に流すべき電流の大きさを予め決定することができる。
【0010】
具体的構成において、前記第2工程では、インターディジタル電極を構成する両方の簾状電極に陽極酸化膜を形成する
【0011】
該具体的構成によれば、一方の簾状電極にのみ陽極酸化膜を形成した場合に比べて一対の簾状電極間の絶縁性が向上する。
【0012】
具体的構成において、前記第1工程では、圧電基板上に、複数のインターディジタル電極(2)と、各インターディジタル電極(2)を構成する一方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第1配線(71)と、他方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第2配線(72)とを形成すると共に、第1配線(71)及び第2配線(72)の始端位置にそれぞれ端子部(73)(74)を形成し、前記第2工程では、電解液(4)中に浸漬された陰極部材(5)と前記圧電基板上の両端子部(73)(74)に、直流電源(92)の負極と正極をそれぞれ接続する。
【0013】
該具体的構成によれば、複数のインターディジタル電極が同時に陽極酸化され、その後、圧電基板を素子領域毎に分割することにより、複数の弾性表面波素子が同時に得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る弾性表面波素子の製造方法によれば、インターディジタル電極の表層部に形成する陽極酸化膜を、該陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に形成し、且つインターディジタル電極によって励起される弾性表面波の周波数を所望の周波数に調整することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
本発明の製造方法により製造される弾性表面波素子は、フィルタや共振器として使用されるものであって、図1に示す如く、水晶からなる圧電基板(10)上にインターディジタル電極(2)が形成され、該インターディジタル電極(2)の両側に一対の反射器(3)(3)が形成されている。
【0016】
インターディジタル電極(2)は、第1電極(20)と第2電極(21)から構成されている。第1電極(20)と第2電極(21)は共に複数本の電極指を具えた簾状電極であり、第1電極(20)の電極指と第2電極(21)の電極指が交互に配置されている。
【0017】
第1電極(20)と第2電極(21)はアルミニウム−銅合金の薄膜から形成されており、第1電極(20)と第2電極(21)の表層部にはAl2O3からなる陽極酸化膜が形成されている。該陽極酸化膜は、第1電極(20)と第2電極(21)との間に導電性粒子が付着した場合に両電極(20)(21)間の短絡を防止する絶縁保護膜としての役割を果たしている。該陽極酸化膜の絶縁性は膜厚の増大に伴って向上するが、膜厚の増大に伴って第1及び第2電極(20)(21)の導電部分が減少し、電気抵抗の増大により弾性表面波素子の挿入損失が増大して弾性表面波素子の素子特性が劣化する。そこで、第1電極(20)と第2電極(21)の表面に形成された陽極酸化膜は、陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に形成されている。
【0018】
反射器(3)は、アルミニウム−銅合金の薄膜から形成されており、表層部にはAl2O3からなる陽極酸化膜が形成されている。反射器(3)の表層部に陽極酸化膜を形成することにより、反射効率が向上して弾性表面波素子の挿入損失が低減されている。
【0019】
上記弾性表面波素子において、インターディジタル電極(2)に交流信号を供給すると、圧電基板(10)に所定周波数の弾性表面波が励起される。
【0020】
以下、上記弾性表面波素子の製造方法について説明する。
先ず、図1に示す弾性表面波素子の中間製品である集合基板を作製する。図2に示す様に、集合基板(11)は、水晶からなる圧電基板(1)の複数(図2の例では6つ)の素子領域のそれぞれに、1つのインターディジタル電極(2)を具えると共に、該インターディジタル電極(2)の両側に一対の反射器(3)(3)を具えている。
【0021】
集合基板(11)上には配線(6)が形成され、該配線(6)に対して、各インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)が接続されると共に各反射器(3)が接続されている。又、圧電基板(1)の端部には共通端子(61)が配置されており、該共通端子(61)は配線(6)に接続されている。
【0022】
上記集合基板(11)の製造工程は、圧電基板上(1)にアルミニウム−銅合金薄膜を成膜する成膜工程と、アルミニウム−銅合金薄膜にエッチングを施してインターディジタル電極(2)、反射器(3)、配線(6)及び共通端子(61)を形成するエッチング工程と、インターディジタル電極(2)と反射器(3)に陽極酸化処理を施す陽極酸化処理工程とを有している。
【0023】
成膜工程では、圧電基板(1)上にアルミニウム−銅合金薄膜をスパッタ法により形成し、該成膜工程に続くエッチング工程では、アルミニウム−銅合金薄膜にエッチングを施して、インターディジタル電極(2)、反射器(3)、配線(6)及び共通端子(61)のパターンを同時に形成する。
【0024】
陽極酸化処理工程の前に、インターディジタル電極(2)によって圧電基板(1)に励起されることとなる弾性表面波の周波数を測定する。集合基板(11)を複数作製した場合、測定される周波数は集合基板(11)毎に異なるが、その理由は、成膜工程とエッチング工程により形成されるインターディジタル電極(2)の形状寸法の精度にバラツキが生じる為である。
【0025】
次に、図3に示す陽極酸化処理工程において、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)と反射器(3)に陽極酸化処理を施して、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部と反射器(3)の表層部にそれぞれ陽極酸化膜を形成する。
【0026】
陽極酸化処理に使用する電解液(4)は、酒石酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液であり、該電解液(4)中に圧電基板(1)とステンレス鋼製の陰極部材(5)を浸漬する。圧電基板(1)の共通端子(61)と陰極部材(5)には、それぞれ直流電源(92)の負極(−)と正極(+)を接続し、直流電源(92)に対して電圧計(91)を並列に接続し、直流電源(92)の正極(+)と共通端子(61)との間には電流計(93)を介在せしめる。電解液(4)中では、インターディジタル電極(2)と反射器(3)からは酸素、陰極部材(5)からは水素が発生して電流が流れ、インターディジタル電極(2)と反射器(3)を形成するアルミニウム−銅合金のアルミニウムが酸素と化学反応を起こして、インターディジタル電極(2)と反射器(3)の表層部にAl2O3膜が形成される。
【0027】
インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)と反射器(3)の表層部に形成される陽極酸化膜は、膜厚の増大に伴って電気的絶縁性が向上するが、膜厚が増大すると、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の電気抵抗の増大により弾性表面波素子の挿入損失が増大して、弾性表面波素子の素子特性が劣化する。そこで、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成する陽極酸化膜は、陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に設定する。
【0028】
ここで、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)と反射器(3)の表層部に形成される陽極酸化膜の膜厚は、圧電基板(1)の共通端子(61)と陰極部材(5)間の電圧の大きさに依存するため、該電圧の大きさを制御することにより所望の膜厚の陽極酸化膜を得ることが出来る。
【0029】
図4のグラフは、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した際の電圧の大きさと、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成された陽極酸化膜の膜厚との関係を示している。圧電基板(1)の端子(61)と陰極部材(5)の間に流した電流の大きさは750μAである。該グラフから明らかな様に、陽極酸化膜の膜厚は陽極酸化処理を行なった電圧に比例する。
【0030】
そこで、予め、同様のインターディジタル電極(2)について陽極酸化処理を施す際の電圧と陽極酸化膜の膜厚との関係を求めておき、図3に示す陽極酸化処理工程では、前記関係に基づいて、陽極酸化処理を行なう際の電圧を所望の膜厚に対応する値に設定する。
【0031】
また、インターディジタル電極(2)により圧電基板(1)に励起されることとなる弾性表面波の周波数は、インターディジタル電極(2)に陽極酸化処理を施す陽極酸化処理工程の前後で変化し、その変動量は、圧電基板(1)の共通端子(61)と陰極部材(5)の間に流れる電流の大きさに依存するため、該電流の大きさを制御することにより弾性表面波の周波数を所望の周波数に調整する。
【0032】
図5のグラフは、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した際の電流の大きさと、陽極酸化膜の膜厚との関係を示し、図6のグラフは、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した際の電流の大きさと、陽極酸化処理工程の前後における弾性表面波の周波数変動量との関係を示している。インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した電圧の大きさは、何れも30Vである。
【0033】
図5のグラフから明らかな様に、インターディジタル(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成される陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化処理を行なった電流の大きさに拘わらず一定(約400Å)である。
【0034】
一方、図6のグラフから明らかな様に、陽極酸化処理工程の前後における弾性表面波の周波数の変動量は、陽極酸化処理を行なった際の電流の大きさにより変化し、電流の大きさによって周波数の変動量を規定することが出来る。この様に、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成された陽極酸化膜の膜厚が一定であっても陽極酸化処理工程の前後で弾性表面波の周波数が異なるのは、陽極酸化処理を行なう電流の大きさによって陽極酸化膜の膜質が変化するためであると考えられる。
又、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさが750μA以下では、インターディジタル電極(2)によって励起される弾性表面波の周波数は陽極酸化処理後に上昇するのに対し、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさが約1125μAを超えると、弾性表面波の周波数は陽極酸化処理後に低下する。
【0035】
上述の如く、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさにより弾性表面波の周波数の変動量を調整することが可能であり、然も、陽極酸化処理後のインターディジタル電極(2)によって励起されることとなる弾性表面波の周波数を、陽極酸化処理前より上昇させることも下降させることも可能である。
【0036】
そこで、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさを決定するために、予め同様のインターディジタル電極(2)について、陽極酸化膜の膜厚をパラメータとして、陽極酸化処理を施す際の電流と陽極酸化処理工程の前後における弾性表面波の周波数の変動量との関係を求めておく。そして、図3に示す陽極酸化処理工程では、前記関係に基づいて、陽極酸化処理を行なう際の電流を所望の周波数変動量が得られる値に設定する。
【0037】
この様に、陽極酸化処理を行なう電流の大きさにより弾性表面波の周波数を調整するので、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成される陽極酸化膜の膜厚を適切な一定の膜厚に維持したまま、弾性表面波の周波数を所望の周波数に調整することが出来るのである。
【0038】
上記陽極処理工程の後、集合基板(11)を素子領域毎に分割して、図1に示す弾性表面波素子を得る。
【0039】
図7は、本発明の製造方法により得られる他の集合基板(12)を示している。図7に示す如く、集合基板(12)は、図2に示す集合基板(11)と同様、水晶からなる圧電基板(1)に複数(図7の例では6つ)の素子領域を有している。該集合基板(12)においては、反射器(3)に陽極酸化膜が形成されておらず、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の両方に陽極酸化膜が形成されている。
該集合基板(12)上には、第1及び第2配線(71)(72)と第1及び第2端子(73)(74)が形成されている。第1配線(71)には各インターディジタル電極(2)の第1電極(20)のみが接続され、第2配線(72)には各インターディジタル電極(2)の第2電極(21)のみが接続されている。
【0040】
圧電基板(1)の端部には、第1端子(73)と第2端子(74)が並設されており、該第1端子(73)と第2端子(74)には、それぞれ第1配線(71)の始端部と第2配線(72)の始端部が接続されている。
【0041】
陽極酸化処理工程では、図8に示す様に、電解液(4)中に浸漬された陰極部材(5)と圧電基板(1)の両端子部(73)(74)に、直流電源(92)の負極と正極をそれぞれ接続して、インターディジタル電極(2)の第1電極及び第2電極(20)(21)の表層部に陽極酸化膜を形成する。
【0042】
このようにして得られた集合基板(12)においては、第1端子(73)と第2端子(74)からインターディジタル電極(2)に試験用の交流信号を供給することにより、集合基板(12)の状態で弾性表面波素子の素子特性を測定することができる。
【0043】
尚、本発明の構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、反射器(3)に陽極酸化膜を形成しない場合には、図2に示す配線(6)から反射器(3)と配線(6)とを電気的に接続する経路を省略して、図9に示す如くインターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)にのみ接続された配線(62)を形成してもよい。更に、反射器(3)を具えない弾性表面波素子の構成も採用可能である。
【0044】
また、インターディジタル電極(2)の第1電極(20)にのみ陽極酸化処理を施してもよい。この場合、図10に示す様に、圧電基板(1)上には各インターディジタル電極(2)の第1電極(20)にのみ接続された配線(63)を形成する。
【0045】
インターディジタル電極(2)の材料は、アルミニウム−銅合金に限らず、アルミニウム、マグネシウムを添加したアルミニウム合金、シリコンを添加したアルミニウム合金、チタン、チタン合金等の材料を採用することが出来る。アルミニウム系の材料からなるインターディジタル電極(2)では、陽極酸化処理により表層部にAl2O3膜が形成されるのに対し、チタン系の材料からなるインターディジタル電極(2)では、陽極酸化処理により表層部にTiO2膜が形成されるが、この場合にも上記と同様の効果を得ることが出来る。また、インターディジタル電極(2)の成膜方法はスパッタ法に限定されず、蒸着法等の成膜法を採用してもよい。
【0046】
また、圧電基板は水晶基板に限らず、例えば、リチウムタンタレート、リチウムニオブベート等の周知の材料を基板材料として採用することが出来る。
【0047】
更に、陽極酸化処理に用いる電解液は、酒石酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液に限定されず、例えば、酒石酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液、クエン酸アンモニウム水溶液、クエン酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液、アジピン酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液、リン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液等を電解液として採用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】弾性表面波素子の平面図である。
【図2】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である集合基板の平面図である。
【図3】本発明の製造方法の陽極酸化処理工程を示す図である。
【図4】陽極酸化膜厚の陽極酸化処理電圧依存性を示すグラフである。
【図5】陽極酸化膜厚の陽極酸化処理電流依存性を示すグラフである。
【図6】弾性表面波の周波数変動量の陽極酸化処理電流依存性を示すグラフである。
【図7】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である他の集合基板の平面図である。
【図8】本発明の製造方法の他の陽極酸化処理工程を示す図である。
【図9】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である更に他の集合基板の平面図である。
【図10】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である更に他の集合基板の平面図である。
【図11】弾性表面波の周波数変動量の陽極酸化処理電圧依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
(1) 圧電基板
(2) インターディジタル電極
(20) 第1電極
(21) 第2電極
(3) 反射器
(4) 電解液
(5) 陰極部材
(6) 配線
(61) 共通端子
(71) 第1配線
(72) 第2配線
(73) 第1端子
(74) 第2端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に一対の簾状電極からなるインターディジタル電極を具えた弾性表面波素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性表面波素子の製造工程では、圧電基板上にインターディジタル電極となる一対の簾状電極をスパッタ法等により形成した後、両簾状電極の間に導電性粒子が付着した場合に両簾状電極間の短絡を防止するため、簾状電極の表層部に陽極酸化膜を形成する方法が知られている。該陽極酸化膜は、絶縁保護膜としての役割を果たすべく適切な膜厚を必要とし、その膜厚は、陽極酸化処理工程において電解液に浸漬された陰極部材と簾状電極との間に印加する電圧の大きさにより決定される。
【0003】
ところで、簾状電極により圧電基板に励起される弾性表面波の周波数は、陽極酸化処理工程の前後で変化し、その周波数の変化は、図11に示す如く、陽極酸化処理を行なった際の電圧の大きさ、即ち陽極酸化膜の膜厚に依存している。従って、陽極酸化膜が形成された状態で所望の周波数を得るためには、陽極酸化処理を行なう際の電圧の大きさを制御して、陽極酸化膜の膜厚により周波数の調整を行なう必要がある(特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開平10−107569号公報
【特許文献2】特開平11−330882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、陽極酸化膜の膜厚により弾性表面波周波数の調整を行なう方法では、所望の周波数が得られることとなる陽極酸化膜の膜厚が薄い場合には、該陽極酸化膜の絶縁性が劣化し、両簾状電極の間に導電性粒子が付着したときに両簾状電極間が短絡する虞があり、逆に所望の周波数が得られることとなる陽極酸化膜の膜厚が厚い場合には、簾状電極の電気抵抗増大により弾性表面波素子の挿入損失が増加して、弾性表面波素子の素子特性が劣化する。また、陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る膜厚の陽極酸化膜を形成したとしても所望の周波数が得られない場合があるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、簾状電極の表層部に形成する陽極酸化膜を、該陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に形成し、且つインターディジタル電極によって励起される弾性表面波の周波数を、所望の周波数に調整することが出来る弾性表面波素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって製造される弾性表面波素子は、圧電基板上に一対の簾状電極からなるインターディジタル電極(2)を配備して構成されている。
本発明に係る弾性表面波素子の製造方法は、圧電基板上にインターディジタル電極(2)を形成する第1工程と、インターディジタル電極(2)を構成する少なくとも一方の簾状電極に陽極酸化処理を施して、該簾状電極の表層部に陽極酸化膜を形成する第2工程とを有している。
該第2工程では、電解液(4)中にて陰極部材(5)と圧電基板の前記少なくとも一方の簾状電極の間を流れる電流の密度を制御することにより、圧電基板に励起されることとなる弾性表面波の周波数を調整する。
【0007】
上記本発明の弾性表面波素子の製造方法によれば、簾状電極に陽極酸化処理を施す電流の大きさを変えることによって、簾状電極に形成される陽極酸化膜の膜質を変化させ、陽極酸化膜の膜質によって圧電基板に励起される弾性表面波の周波数を調整する。ここで、簾状電極に形成される陽極酸化膜の膜厚は、簾状電極に陽極酸化処理を施す際の電流の大きさにはよらず一定である。陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化処理を施す際の電圧によって規定することが出来る。
【0008】
具体的構成において、前記第2工程の前に、インターディジタル電極(2)に交流信号を供給して圧電基板に励起される弾性表面波の周波数を測定し、第2工程では、測定された周波数と所望の周波数との差に応じて、前記陰極部材(5)と前記簾状電極の間を流れる電流の密度を制御する。
【0009】
該具体的構成によれば、弾性表面波の所望の周波数を得るために陰極部材(5)と簾状電極の間に流すべき電流の大きさを予め決定することができる。
【0010】
具体的構成において、前記第2工程では、インターディジタル電極を構成する両方の簾状電極に陽極酸化膜を形成する
【0011】
該具体的構成によれば、一方の簾状電極にのみ陽極酸化膜を形成した場合に比べて一対の簾状電極間の絶縁性が向上する。
【0012】
具体的構成において、前記第1工程では、圧電基板上に、複数のインターディジタル電極(2)と、各インターディジタル電極(2)を構成する一方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第1配線(71)と、他方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第2配線(72)とを形成すると共に、第1配線(71)及び第2配線(72)の始端位置にそれぞれ端子部(73)(74)を形成し、前記第2工程では、電解液(4)中に浸漬された陰極部材(5)と前記圧電基板上の両端子部(73)(74)に、直流電源(92)の負極と正極をそれぞれ接続する。
【0013】
該具体的構成によれば、複数のインターディジタル電極が同時に陽極酸化され、その後、圧電基板を素子領域毎に分割することにより、複数の弾性表面波素子が同時に得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る弾性表面波素子の製造方法によれば、インターディジタル電極の表層部に形成する陽極酸化膜を、該陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に形成し、且つインターディジタル電極によって励起される弾性表面波の周波数を所望の周波数に調整することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
本発明の製造方法により製造される弾性表面波素子は、フィルタや共振器として使用されるものであって、図1に示す如く、水晶からなる圧電基板(10)上にインターディジタル電極(2)が形成され、該インターディジタル電極(2)の両側に一対の反射器(3)(3)が形成されている。
【0016】
インターディジタル電極(2)は、第1電極(20)と第2電極(21)から構成されている。第1電極(20)と第2電極(21)は共に複数本の電極指を具えた簾状電極であり、第1電極(20)の電極指と第2電極(21)の電極指が交互に配置されている。
【0017】
第1電極(20)と第2電極(21)はアルミニウム−銅合金の薄膜から形成されており、第1電極(20)と第2電極(21)の表層部にはAl2O3からなる陽極酸化膜が形成されている。該陽極酸化膜は、第1電極(20)と第2電極(21)との間に導電性粒子が付着した場合に両電極(20)(21)間の短絡を防止する絶縁保護膜としての役割を果たしている。該陽極酸化膜の絶縁性は膜厚の増大に伴って向上するが、膜厚の増大に伴って第1及び第2電極(20)(21)の導電部分が減少し、電気抵抗の増大により弾性表面波素子の挿入損失が増大して弾性表面波素子の素子特性が劣化する。そこで、第1電極(20)と第2電極(21)の表面に形成された陽極酸化膜は、陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に形成されている。
【0018】
反射器(3)は、アルミニウム−銅合金の薄膜から形成されており、表層部にはAl2O3からなる陽極酸化膜が形成されている。反射器(3)の表層部に陽極酸化膜を形成することにより、反射効率が向上して弾性表面波素子の挿入損失が低減されている。
【0019】
上記弾性表面波素子において、インターディジタル電極(2)に交流信号を供給すると、圧電基板(10)に所定周波数の弾性表面波が励起される。
【0020】
以下、上記弾性表面波素子の製造方法について説明する。
先ず、図1に示す弾性表面波素子の中間製品である集合基板を作製する。図2に示す様に、集合基板(11)は、水晶からなる圧電基板(1)の複数(図2の例では6つ)の素子領域のそれぞれに、1つのインターディジタル電極(2)を具えると共に、該インターディジタル電極(2)の両側に一対の反射器(3)(3)を具えている。
【0021】
集合基板(11)上には配線(6)が形成され、該配線(6)に対して、各インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)が接続されると共に各反射器(3)が接続されている。又、圧電基板(1)の端部には共通端子(61)が配置されており、該共通端子(61)は配線(6)に接続されている。
【0022】
上記集合基板(11)の製造工程は、圧電基板上(1)にアルミニウム−銅合金薄膜を成膜する成膜工程と、アルミニウム−銅合金薄膜にエッチングを施してインターディジタル電極(2)、反射器(3)、配線(6)及び共通端子(61)を形成するエッチング工程と、インターディジタル電極(2)と反射器(3)に陽極酸化処理を施す陽極酸化処理工程とを有している。
【0023】
成膜工程では、圧電基板(1)上にアルミニウム−銅合金薄膜をスパッタ法により形成し、該成膜工程に続くエッチング工程では、アルミニウム−銅合金薄膜にエッチングを施して、インターディジタル電極(2)、反射器(3)、配線(6)及び共通端子(61)のパターンを同時に形成する。
【0024】
陽極酸化処理工程の前に、インターディジタル電極(2)によって圧電基板(1)に励起されることとなる弾性表面波の周波数を測定する。集合基板(11)を複数作製した場合、測定される周波数は集合基板(11)毎に異なるが、その理由は、成膜工程とエッチング工程により形成されるインターディジタル電極(2)の形状寸法の精度にバラツキが生じる為である。
【0025】
次に、図3に示す陽極酸化処理工程において、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)と反射器(3)に陽極酸化処理を施して、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部と反射器(3)の表層部にそれぞれ陽極酸化膜を形成する。
【0026】
陽極酸化処理に使用する電解液(4)は、酒石酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液であり、該電解液(4)中に圧電基板(1)とステンレス鋼製の陰極部材(5)を浸漬する。圧電基板(1)の共通端子(61)と陰極部材(5)には、それぞれ直流電源(92)の負極(−)と正極(+)を接続し、直流電源(92)に対して電圧計(91)を並列に接続し、直流電源(92)の正極(+)と共通端子(61)との間には電流計(93)を介在せしめる。電解液(4)中では、インターディジタル電極(2)と反射器(3)からは酸素、陰極部材(5)からは水素が発生して電流が流れ、インターディジタル電極(2)と反射器(3)を形成するアルミニウム−銅合金のアルミニウムが酸素と化学反応を起こして、インターディジタル電極(2)と反射器(3)の表層部にAl2O3膜が形成される。
【0027】
インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)と反射器(3)の表層部に形成される陽極酸化膜は、膜厚の増大に伴って電気的絶縁性が向上するが、膜厚が増大すると、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の電気抵抗の増大により弾性表面波素子の挿入損失が増大して、弾性表面波素子の素子特性が劣化する。そこで、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成する陽極酸化膜は、陽極酸化膜の絶縁性と弾性表面波素子の素子特性を両立させることが出来る適切な膜厚に設定する。
【0028】
ここで、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)と反射器(3)の表層部に形成される陽極酸化膜の膜厚は、圧電基板(1)の共通端子(61)と陰極部材(5)間の電圧の大きさに依存するため、該電圧の大きさを制御することにより所望の膜厚の陽極酸化膜を得ることが出来る。
【0029】
図4のグラフは、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した際の電圧の大きさと、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成された陽極酸化膜の膜厚との関係を示している。圧電基板(1)の端子(61)と陰極部材(5)の間に流した電流の大きさは750μAである。該グラフから明らかな様に、陽極酸化膜の膜厚は陽極酸化処理を行なった電圧に比例する。
【0030】
そこで、予め、同様のインターディジタル電極(2)について陽極酸化処理を施す際の電圧と陽極酸化膜の膜厚との関係を求めておき、図3に示す陽極酸化処理工程では、前記関係に基づいて、陽極酸化処理を行なう際の電圧を所望の膜厚に対応する値に設定する。
【0031】
また、インターディジタル電極(2)により圧電基板(1)に励起されることとなる弾性表面波の周波数は、インターディジタル電極(2)に陽極酸化処理を施す陽極酸化処理工程の前後で変化し、その変動量は、圧電基板(1)の共通端子(61)と陰極部材(5)の間に流れる電流の大きさに依存するため、該電流の大きさを制御することにより弾性表面波の周波数を所望の周波数に調整する。
【0032】
図5のグラフは、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した際の電流の大きさと、陽極酸化膜の膜厚との関係を示し、図6のグラフは、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した際の電流の大きさと、陽極酸化処理工程の前後における弾性表面波の周波数変動量との関係を示している。インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)に陽極酸化処理を施した電圧の大きさは、何れも30Vである。
【0033】
図5のグラフから明らかな様に、インターディジタル(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成される陽極酸化膜の膜厚は、陽極酸化処理を行なった電流の大きさに拘わらず一定(約400Å)である。
【0034】
一方、図6のグラフから明らかな様に、陽極酸化処理工程の前後における弾性表面波の周波数の変動量は、陽極酸化処理を行なった際の電流の大きさにより変化し、電流の大きさによって周波数の変動量を規定することが出来る。この様に、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成された陽極酸化膜の膜厚が一定であっても陽極酸化処理工程の前後で弾性表面波の周波数が異なるのは、陽極酸化処理を行なう電流の大きさによって陽極酸化膜の膜質が変化するためであると考えられる。
又、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさが750μA以下では、インターディジタル電極(2)によって励起される弾性表面波の周波数は陽極酸化処理後に上昇するのに対し、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさが約1125μAを超えると、弾性表面波の周波数は陽極酸化処理後に低下する。
【0035】
上述の如く、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさにより弾性表面波の周波数の変動量を調整することが可能であり、然も、陽極酸化処理後のインターディジタル電極(2)によって励起されることとなる弾性表面波の周波数を、陽極酸化処理前より上昇させることも下降させることも可能である。
【0036】
そこで、陽極酸化処理を行なう際の電流の大きさを決定するために、予め同様のインターディジタル電極(2)について、陽極酸化膜の膜厚をパラメータとして、陽極酸化処理を施す際の電流と陽極酸化処理工程の前後における弾性表面波の周波数の変動量との関係を求めておく。そして、図3に示す陽極酸化処理工程では、前記関係に基づいて、陽極酸化処理を行なう際の電流を所望の周波数変動量が得られる値に設定する。
【0037】
この様に、陽極酸化処理を行なう電流の大きさにより弾性表面波の周波数を調整するので、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の表層部に形成される陽極酸化膜の膜厚を適切な一定の膜厚に維持したまま、弾性表面波の周波数を所望の周波数に調整することが出来るのである。
【0038】
上記陽極処理工程の後、集合基板(11)を素子領域毎に分割して、図1に示す弾性表面波素子を得る。
【0039】
図7は、本発明の製造方法により得られる他の集合基板(12)を示している。図7に示す如く、集合基板(12)は、図2に示す集合基板(11)と同様、水晶からなる圧電基板(1)に複数(図7の例では6つ)の素子領域を有している。該集合基板(12)においては、反射器(3)に陽極酸化膜が形成されておらず、インターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)の両方に陽極酸化膜が形成されている。
該集合基板(12)上には、第1及び第2配線(71)(72)と第1及び第2端子(73)(74)が形成されている。第1配線(71)には各インターディジタル電極(2)の第1電極(20)のみが接続され、第2配線(72)には各インターディジタル電極(2)の第2電極(21)のみが接続されている。
【0040】
圧電基板(1)の端部には、第1端子(73)と第2端子(74)が並設されており、該第1端子(73)と第2端子(74)には、それぞれ第1配線(71)の始端部と第2配線(72)の始端部が接続されている。
【0041】
陽極酸化処理工程では、図8に示す様に、電解液(4)中に浸漬された陰極部材(5)と圧電基板(1)の両端子部(73)(74)に、直流電源(92)の負極と正極をそれぞれ接続して、インターディジタル電極(2)の第1電極及び第2電極(20)(21)の表層部に陽極酸化膜を形成する。
【0042】
このようにして得られた集合基板(12)においては、第1端子(73)と第2端子(74)からインターディジタル電極(2)に試験用の交流信号を供給することにより、集合基板(12)の状態で弾性表面波素子の素子特性を測定することができる。
【0043】
尚、本発明の構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、反射器(3)に陽極酸化膜を形成しない場合には、図2に示す配線(6)から反射器(3)と配線(6)とを電気的に接続する経路を省略して、図9に示す如くインターディジタル電極(2)の第1及び第2電極(20)(21)にのみ接続された配線(62)を形成してもよい。更に、反射器(3)を具えない弾性表面波素子の構成も採用可能である。
【0044】
また、インターディジタル電極(2)の第1電極(20)にのみ陽極酸化処理を施してもよい。この場合、図10に示す様に、圧電基板(1)上には各インターディジタル電極(2)の第1電極(20)にのみ接続された配線(63)を形成する。
【0045】
インターディジタル電極(2)の材料は、アルミニウム−銅合金に限らず、アルミニウム、マグネシウムを添加したアルミニウム合金、シリコンを添加したアルミニウム合金、チタン、チタン合金等の材料を採用することが出来る。アルミニウム系の材料からなるインターディジタル電極(2)では、陽極酸化処理により表層部にAl2O3膜が形成されるのに対し、チタン系の材料からなるインターディジタル電極(2)では、陽極酸化処理により表層部にTiO2膜が形成されるが、この場合にも上記と同様の効果を得ることが出来る。また、インターディジタル電極(2)の成膜方法はスパッタ法に限定されず、蒸着法等の成膜法を採用してもよい。
【0046】
また、圧電基板は水晶基板に限らず、例えば、リチウムタンタレート、リチウムニオブベート等の周知の材料を基板材料として採用することが出来る。
【0047】
更に、陽極酸化処理に用いる電解液は、酒石酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液に限定されず、例えば、酒石酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液、クエン酸アンモニウム水溶液、クエン酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液、アジピン酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液、リン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液とエチレングリコールの混合液等を電解液として採用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】弾性表面波素子の平面図である。
【図2】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である集合基板の平面図である。
【図3】本発明の製造方法の陽極酸化処理工程を示す図である。
【図4】陽極酸化膜厚の陽極酸化処理電圧依存性を示すグラフである。
【図5】陽極酸化膜厚の陽極酸化処理電流依存性を示すグラフである。
【図6】弾性表面波の周波数変動量の陽極酸化処理電流依存性を示すグラフである。
【図7】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である他の集合基板の平面図である。
【図8】本発明の製造方法の他の陽極酸化処理工程を示す図である。
【図9】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である更に他の集合基板の平面図である。
【図10】図1に示す弾性表面波素子の中間製品である更に他の集合基板の平面図である。
【図11】弾性表面波の周波数変動量の陽極酸化処理電圧依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
(1) 圧電基板
(2) インターディジタル電極
(20) 第1電極
(21) 第2電極
(3) 反射器
(4) 電解液
(5) 陰極部材
(6) 配線
(61) 共通端子
(71) 第1配線
(72) 第2配線
(73) 第1端子
(74) 第2端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に一対の簾状電極からなるインターディジタル電極(2)が配備された弾性表面波素子の製造方法において、
圧電基板上にインターディジタル電極(2)を形成する第1工程と、
インターディジタル電極(2)を構成する少なくとも一方の簾状電極に陽極酸化処理を施して、該簾状電極の表層部に陽極酸化膜を形成する第2工程
とを有し、該第2工程では、電解液(4)中にて陰極部材(5)と圧電基板の前記少なくとも一方の簾状電極の間を流れる電流の密度を制御することにより、圧電基板に励起されることとなる弾性表面波の周波数を調整することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程の前に、インターディジタル電極(2)に交流信号を供給して圧電基板に励起される弾性表面波の周波数を測定し、第2工程では、測定された周波数と所望の周波数との差に応じて、前記陰極部材(5)と前記簾状電極の間を流れる電流の密度を制御する請求項1に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程では、インターディジタル電極を構成する両方の簾状電極に陽極酸化膜を形成する請求項1又は請求項2に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程では、圧電基板上に、複数のインターディジタル電極(2)と、各インターディジタル電極(2)を構成する一方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第1配線(71)と、他方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第2配線(72)とを形成すると共に、第1配線(71)及び第2配線(72)の始端位置にそれぞれ端子部(73)(74)を形成し、前記第2工程では、電解液(4)中に浸漬された陰極部材(5)と前記圧電基板上の両端子部(73)(74)に、直流電源(92)の負極と正極をそれぞれ接続する請求項1乃至請求項3の何れかに記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項1】
圧電基板上に一対の簾状電極からなるインターディジタル電極(2)が配備された弾性表面波素子の製造方法において、
圧電基板上にインターディジタル電極(2)を形成する第1工程と、
インターディジタル電極(2)を構成する少なくとも一方の簾状電極に陽極酸化処理を施して、該簾状電極の表層部に陽極酸化膜を形成する第2工程
とを有し、該第2工程では、電解液(4)中にて陰極部材(5)と圧電基板の前記少なくとも一方の簾状電極の間を流れる電流の密度を制御することにより、圧電基板に励起されることとなる弾性表面波の周波数を調整することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程の前に、インターディジタル電極(2)に交流信号を供給して圧電基板に励起される弾性表面波の周波数を測定し、第2工程では、測定された周波数と所望の周波数との差に応じて、前記陰極部材(5)と前記簾状電極の間を流れる電流の密度を制御する請求項1に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程では、インターディジタル電極を構成する両方の簾状電極に陽極酸化膜を形成する請求項1又は請求項2に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程では、圧電基板上に、複数のインターディジタル電極(2)と、各インターディジタル電極(2)を構成する一方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第1配線(71)と、他方の簾状電極どうしを互いに電気的に接続する第2配線(72)とを形成すると共に、第1配線(71)及び第2配線(72)の始端位置にそれぞれ端子部(73)(74)を形成し、前記第2工程では、電解液(4)中に浸漬された陰極部材(5)と前記圧電基板上の両端子部(73)(74)に、直流電源(92)の負極と正極をそれぞれ接続する請求項1乃至請求項3の何れかに記載の弾性表面波素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−134753(P2007−134753A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322935(P2005−322935)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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