説明

弾性表面波素子及びその製造方法

【課題】 不要な弾性表面波を確実に吸収するとともに、小型化に寄与する。
【解決手段】 弾性表面波素子1は、圧電性基板2上に形成された入力電極部3、出力電極部4、及び遮蔽用電極部5と、中空部6を残して圧電性基板2を覆うとともにその一部が吸収部7,8として機能するモールド樹脂層9とを備えている。ここで、中空部6には、入力電極部3、出力電極部4、及び遮蔽用電極部5と、弾性表面波の伝搬領域とが収容されている。吸収部7(8)は、不要な弾性表面波を吸収する機能と、樹脂モールドとしての機能とがともに十分果たされるように、その弾性表面波の伝搬方向に沿った幅が、所定値以上となるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)等の弾性波を励振可能な弾性表面波素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性表面波素子は、例えば、共振子や、帯域フィルタ等に用いられている。図9に示すように、こうした弾性表面波素子101は、例えば、圧電性基板102上に形成された入力電極部103と、出力電極部104と、吸収部105,106とを有している(例えば、特許文献1等参照。)。
【0003】
入力電極部103は、発振器から入力された電気信号によって、弾性表面波を励振させるために用いられ、一対の櫛形電極を有している。また、出力電極部104は、入力電極部103で励振されて伝搬してきた弾性表面波w1を受信するために用いられ、入力電極部103と同様に、一対の櫛形電極から構成されている。
【0004】
吸収部105は、入力電極部103の弾性表面波素子101における端部側に配置され、入力電極部103から出力電極部104と反対の向きに伝搬してきた不要な弾性表面波w2を吸収する。また、吸収部106は、出力電極部104の弾性表面波素子101における端部側に配置され、入力電極部103から伝搬し出力電極部104を通過してきた不要な弾性表面波w3を吸収する。吸収部105,106は、スクリーン印刷やディスペンサにより形成される。弾性表面波素子101は、圧電性基板102から切り出されて、例えば、セラミックパッケージが使用されて供給される。
【0005】
なお、圧電性基板から切り出した弾性表面波素子を、基板母材上に複数フリップチップ実装した後、樹脂シートを弾性表面波素子に対してラミネートして硬化させ封止する際に、封止樹脂を弾性表面波素子の気密空間内に浸入させて、吸収部として機能させる技術が、提案されている(例えば、特許文献2等参照。)。ここで、樹脂封止した後に、基板母材をダイシングして、個片の封止された弾性表面波素子が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−77350号公報
【特許文献2】特開2008−42430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1等で開示された従来技術では、例えば、セラミックパッケージを使用することとなるが、小型化のために、弾性表面波素子をベアチップの状態で扱いたいという要請には対応できないという問題がある。また、上記特許文献2等で開示された従来技術では、吸収部の形成のための正確な制御が困難であり、吸収部としての機能が確実に保証されない上に、無用にチップサイズが大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
この発明は、前記の課題を解決し、不要な弾性表面波を確実に吸収することができるとともに、小型化に寄与することができる弾性表面波素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、圧電性基板上に電極層が形成され、樹脂封止された弾性表面波素子であって、前記電極層を収容する中空部を残して前記圧電性基板を覆うとともに、その一部が不要な弾性表面波を吸収する吸収部として機能する樹脂層を備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の弾性表面波素子であって、前記電極層は、弾性表面波を励振させるための入力電極部と、前記入力電極部で励振されて伝搬する弾性表面波を受信するための出力電極部とを含み、前記中空部には、前記入力電極部と、前記出力電極部と、弾性表面波の伝搬領域とが収容され、前記吸収部は、少なくとも前記入力電極部から前記出力電極部へ向かう方向と反対の方向に伝搬する不要な弾性表面波を吸収する入力側吸収部と、少なくとも前記入力電極部から伝搬し前記出力電極部を通過する不要な弾性表面波を吸収する出力側吸収部とからなることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2記載の弾性表面波素子であって、前記入力側吸収部及び前記出力側吸収部は、不要な弾性表面波を吸収する機能が果たされるように、その弾性表面波の伝搬方向に沿った幅が、所定値以上となるようにそれぞれ形成されることを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、圧電性基板上に電極層が形成され、樹脂封止された弾性表面波素子の製造方法であって、前記電極層を覆うように第1の樹脂層を形成する第1の工程と、前記第1の樹脂層の上を跨ぐように第2の樹脂層を形成する第2の工程と、前記第1の樹脂層を除去して、前記電極層を収容する中空部を形成する第3の工程と、前記第2の樹脂層の上から前記圧電性基板を覆うとともに、前記中空部に隣接して不要な弾性表面波を吸収する吸収部が形成されるように第3の樹脂層を形成する第4の工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧電性基板を覆う樹脂層の一部が吸収部として機能するので、不要な弾性表面波を確実に吸収することができるとともに、樹脂層で封止された状態で供給されることによって小型化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施の形態である弾性表面波素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のA部を拡大して示す拡大図である。
【図3】同弾性表面波素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図4】同弾性表面波素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図5】同弾性表面波素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図6】同弾性表面波素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図7】同弾性表面波素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図8】同弾性表面波素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図9】従来技術を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、この発明の実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0016】
図1は、この発明の一実施の形態である弾性表面波素子の構成を模式的に示す断面図、図2は、図1のA部を拡大して示す拡大図、図3乃至図8は、同弾性表面波素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【0017】
図1に示すように、この実施の形態の弾性表面波素子1は、例えば、LiNbO等からなる圧電性基板2上に形成され、アルミニウム等からなる入力電極部3、出力電極部4、及び遮蔽用電極部5と、中空部6を残して圧電性基板2を覆うとともにその一部が吸収部7,8として機能するモールド樹脂層9とを備えている。ここで、中空部6には、入力電極部3、出力電極部4、及び遮蔽用電極部5と、弾性表面波の伝搬領域とが収容されている。また、圧電性基板2上には、入力電極部3に、配線13a(13b)を介して接続された電極パッド(端子)12a(12b)と、出力電極部4に、配線13c(13d)を介して接続された電極パッド12c(12d)とが形成されている。
【0018】
入力電極部3は、発振器から入力された電気信号によって、弾性表面波を励振させるために用いられ、図2に示すように、一対の櫛形電極15,16を有し、櫛形電極15(16)は、複数の電極指15a,15a,…(16a,16a,…)からなっている。また、出力電極部4は、入力電極部3で励振されて伝搬してきた弾性表面波を受信するために用いられ、入力電極部3と同様に、一対の櫛形電極から構成されている。
【0019】
吸収部7,8は、モールド樹脂層9を構成し、感光性樹脂(例えば、SU−8(化薬マイクロケム社製)等のエポキシ系樹脂)を用いて、圧電性基板2の表面に密着するようにモールド樹脂層9の他の部位と一体的に形成される。吸収部7は、入力電極部3の弾性表面波素子1における端部側に形成され、吸収部8は、出力電極部4の弾性表面波素子1における端部側に形成されている。
【0020】
吸収部7は、入力電極部3から出力電極部4へ向かう方向と反対の方向に伝搬し、吸収部7に入射してきた不要な弾性表面波を吸収するともに、吸収部7で吸収しきれずに通過し、圧電性基板2の端部で反射して再入射する不要な弾性表面波を吸収する。また、吸収部8は、入力電極部3から伝搬し出力電極部4を通過し、吸収部8に入射してきた不要な弾性表面波を吸収するともに、吸収部8で吸収しきれずに通過し、圧電性基板2の端部で反射して再入射する不要な弾性表面波を吸収する。
【0021】
この実施の形態では、吸収部7(8)は、不要な弾性表面波を吸収する機能と、樹脂モールドとしての機能との両機能がともに十分果たされるように、その弾性表面波の伝搬方向に沿った幅が、所定値以上となるように形成される。弾性表面波の伝搬方向に沿った吸収部7(8)の必要とされる幅は、弾性表面波の周波数に依存する。例えば、圧電性基板2として、128度回転YカットLiNbOを用いた場合には、上記周波数が略300MHz以上のとき、必要な吸収部7(8)の幅は、略200μm以下となる。一方、樹脂モールドのために必要な幅は、略200μmである。
【0022】
したがって、吸収部7(8)の幅は、200μm以上(例えば、略200μm)に設定される。吸収部7(8)の幅を、略200μmに設定する場合に、上記機能を果たすと同時に、樹脂モールドに必要なサイズがチップサイズに一致して、小型化に一段と寄与する。このため、上記周波数が略300MHz以上での用途を想定する場合に適用して好適である。
【0023】
次に、この実施の形態の弾性表面波素子の製造方法について説明する。まず、圧電性基板2上に、マスク蒸着や、フォトリソグラフィ法等によって、入力電極部3、出力電極部4、及び遮蔽用電極部5等を形成した後、図3に示すように、フォトリソグラフィ法等によって、犠牲層17を形成する。すなわち、圧電性基板2を覆うように樹脂を塗布した後、所定の部位を硬化させて、未硬化の余分な樹脂を除去し、入力電極部3、出力電極部4、及び遮蔽用電極部5と、弾性表面波の伝搬領域とを覆う犠牲層17を形成する。ここで、犠牲層17の厚さ(高さ)は、例えば、略1μm〜10μmとされる。
【0024】
次に、図4に示すように、フォトリソグラフィ法等によって、犠牲層17を跨ぐように、樹脂層18を形成する。すなわち、圧電性基板2を覆うようにフォトレジストとしての感光性樹脂を塗布した後、加熱してソフトべーク処理を施し、露光装置を用いてフォトマスクを介して紫外線を照射して、被照射部位を硬化させる。この後、未硬化部位を除去する。ここで、感光性樹脂としては、上述したエポキシ系感光樹脂ベースのネガレジストを用いる。また、樹脂層18の高さとしては、例えば、略5μm〜100μmとされる。
【0025】
次に、図5に示すように、有機溶剤からなるエッチング液を用いて犠牲層17を除去して、中空部6を形成する。次に、図6に示すように、フォトリソグラフィ法等によって、モールド樹脂層9を形成する。ここで、圧電性基板2を覆うように塗布される樹脂は、樹脂層18の形成に用いたのと同種の感光性樹脂が用いられる。また、電極パッド12a,12b,…の位置に対応した部位には、開口部9a,9b,…が形成され、開口部9a,9b,…には、図7に示すように、バンプ下地金属層22a,22b,…が形成される。
【0026】
バンプ下地金属層22a(22b,22c,…)は、アルミニウム(Al)層22pと、ニッケル(Ni)層22qと、金(Au)層22rとが積層されてなっている。なお、図7において、モールド樹脂層9、樹脂層18の図示を省略している。次に、図8に示すように、バンプ下地金属層22a,22b,…に、半田ボールからなるバンプ23a,23b,…を形成する。この後、圧電性基板2から個片の樹脂封止された弾性表面波素子1が切り出され、ベアチップとして供給される。
【0027】
こうして、この実施の形態の構成によれば、中空部6を残して圧電性基板2を覆うとともにその一部が吸収部7,8として機能するモールド樹脂層9が形成され、かつ、吸収部7(8)は、不要な弾性表面波を吸収する機能と、樹脂モールドとしての機能との両機能がともに十分果たされるように、その弾性表面波の伝搬方向に沿った幅が、所定値以上となるように形成されるので、不要な弾性表面波を確実に吸収することができるとともに、確実に封止を行うことができる。
【0028】
例えば、吸収部7(8)の幅を、略200μmに設定する場合に、上記機能を果たすと同時に、樹脂モールドに必要なサイズがチップサイズに一致して一段と小型化に寄与する。このため、上記周波数が略300MHz以上での用途を想定する場合に適用して好適である。
【0029】
しかも、樹脂封止によって、ベアチップの状態で供給できるので、小型化及び低コスト化に寄与することができる。
【0030】
以上、この発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。例えば、上述した実施の形態では、圧電性基板の材料として、LiNbOを用いる場合について述べたが、LiNbOのほか、LiTaOや、Li、水晶等を用いても良い。
【0031】
また、吸収部7,8として、モールド樹脂層9の一部に加えて、又は代えて、樹脂層18の一部を用いても良い。また、半田バンプに代えて、金バンプを形成しても良い。また、バンプが未形成の状態で供給するようにしても良い。
【0032】
また、圧電性基板から弾性表面波素子を切り出して、ベアチップとして供給しても良いし、複数の弾性表面波素子をPC板に搭載してから樹脂を塗布して切り出しても良いし、他の電子部品とともにPC板に搭載した後に樹脂により全体をモールドしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0033】
電極の材料として、アルミニウムのほか、例えば、アルミニウムを含む合金や、銅(Cu)等を用いる場合に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 弾性表面波素子
2 圧電性基板
3 入力電極部(電極層)
4 出力電極部(電極層)
6 中空部
7 吸収部(入力側吸収部)
8 吸収部(出力側吸収部)
9 モールド樹脂層(樹脂層、第3の樹脂層)
17 犠牲層(第1の樹脂層)
18 樹脂層(第2の樹脂層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性基板上に電極層が形成され、樹脂封止された弾性表面波素子であって、
前記電極層を収容する中空部を残して前記圧電性基板を覆うとともに、その一部が不要な弾性表面波を吸収する吸収部として機能する樹脂層を備えた
ことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記電極層は、弾性表面波を励振させるための入力電極部と、前記入力電極部で励振されて伝搬する弾性表面波を受信するための出力電極部とを含み、前記中空部には、前記入力電極部と、前記出力電極部と、弾性表面波の伝搬領域とが収容され、前記吸収部は、少なくとも前記入力電極部から前記出力電極部へ向かう方向と反対の方向に伝搬する不要な弾性表面波を吸収する入力側吸収部と、少なくとも前記入力電極部から伝搬し前記出力電極部を通過する不要な弾性表面波を吸収する出力側吸収部とからなることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記入力側吸収部及び前記出力側吸収部は、不要な弾性表面波を吸収する機能が果たされるように、その弾性表面波の伝搬方向に沿った幅が、所定値以上となるようにそれぞれ形成されることを特徴とする請求項2記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
圧電性基板上に電極層が形成され、樹脂封止された弾性表面波素子の製造方法であって、
前記電極層を覆うように第1の樹脂層を形成する第1の工程と、
前記第1の樹脂層の上を跨ぐように第2の樹脂層を形成する第2の工程と、
前記第1の樹脂層を除去して、前記電極層を収容する中空部を形成する第3の工程と、
前記第2の樹脂層の上から前記圧電性基板を覆うとともに、前記中空部に隣接して不要な弾性表面波を吸収する吸収部が形成されるように第3の樹脂層を形成する第4の工程とを含む
ことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−151525(P2011−151525A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9750(P2010−9750)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】