説明

弾性部材

【課題】 電子写真装置に使用される各種弾性部材やローラとして、圧縮永久歪が少なく、研磨加工性や寸法安定性にも優れた部材を提供することを一の課題とする
【解決手段】 イソシアネート成分とポリオール成分とが反応してなる弾性部材であって、前記ポリオール成分が、数平均分子量3000〜5000で且つ平均官能基数2.4〜3.0の高分子量ポリオールと、数平均分子量350〜600で且つ平均官能基数3.9〜4.0の低分子量ポリオールとを含み、さらに、前記低分子量ポリオールが全ポリオール成分の1〜15重量%であることを特徴とする弾性部材による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電子写真装置等に使用される弾性部材及び電子写真装置用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置には、各種ローラに例示されるように、ポリウレタン樹脂やシリコーン樹脂などの各種材料を用いた弾性部材が使用されている。中でも、これらの弾性部材が他の部材と接触して用いられる場合にその相手材を汚染しにくいという点や、耐久性に優れるという点から、ポリウレタン樹脂が特に好適に使用されている。
【0003】
また、昨今のフルカラー化、高画質化、小型化に伴い、トナーの小粒径化やローラの小型化が進んでおり、前記ローラのような各種弾性部材に対しても、表面粗さの更なる低減(即ち、平滑化)や、高い寸法精度が要求されるようになっている。
【0004】
例えば、トナーを感光体に搬送する現像ローラにおいては、安定した画像を形成するために感光体とのニップ幅をこれまで以上の精度で一定に保つ必要があり、ニップ幅をこれまで以上の精度で一定に保つことが要求される。ニップ幅が一定でなければトナーが均一に搬送されず、画像にローラの軸方向と平行なスジが発生してしまうこととなる。
ニップ幅を不均一にする要因としては、弾性部材の圧縮永久歪が挙げられ、この圧縮永久歪が大きければローラ等が永久変形することとなる。
【0005】
従来、特許第3539027号(特許文献1)には、圧縮永久歪が少なく、切削や研磨加工により平滑な表面のローラを得る方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3539027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1のローラでは、圧縮永久歪が6%程度、実施例で3.4%程度となっており、昨今の電子写真装置に要求される弾性部材としては、未だその圧縮永久歪の低減が不十分であると考えられる。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、圧縮永久歪の少ない弾性部材を提供することを一の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題に鑑み、本発明者が圧縮永久歪を低減する方法を鋭意研究したところ、有効架橋点を増やすことで圧縮永久歪を抑制し得ることを見出した。
さらに、有効架橋点を増やすべく単に官能基数の多いポリオールを用いるだけでは材料粘度が高くなって作業性が悪化し、また、単に架橋点を増やしても架橋点間の分子鎖(分子量)が大きければその架橋点が有効なものとならず圧縮永久歪の抑制効果が得られ難いものとなるが、これに低分子量のポリオールを併用するとともに、これらのポリオールの架橋点間の分子鎖を所定の範囲内に保つことにより、圧縮永久歪が少なく、しかも作業性にも優れたポリウレタン樹脂からなる弾性部材が得られることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、イソシアネート成分とポリオール成分とが反応してなる弾性部材であって、前記ポリオール成分が、数平均分子量3000〜5000で且つ平均官能基数2.4〜3.0の高分子量ポリオールと、数平均分子量350〜600で且つ平均官能基数3.9〜4.0の低分子量ポリオールとを含み、さらに、前記低分子量ポリオールが全ポリオール成分の1〜15重量%であることを特徴とする弾性部材を提供する。
【0010】
なお、本明細書中における分子量とは、下記のごとく測定した数平均分子量を意図している。
(数平均分子量の求め方)
数平均分子量(Mn)は、JIS K 1557により求められる水酸基価(OHv)により、次の式により求められる。
Mn=(56100/OHv)・fn
なお、式中のfnは、ポリオールの名目上の官能基数を表す。
【0011】
平均官能基数(F)は、JIS K 1557により求められる水酸基価(OHv)とポリオールの総不飽和度(USV)(meq/g)により、次の式により求められる。
F=(OHv/56.1)/〔{(OHv/56.1)−USV}/fn+USV〕
なお、式中のfnは、ポリオールの名目上の官能基数(即ち、ポリオールの重合開始剤の官能基数)を表す。
【0012】
また、本発明は、前記弾性部材からなる表面層を備えたことを特徴とする電子写真装置用ローラを提供する。
本発明の電子写真装置用ローラは、好ましくは前記高分子量ポリオールが、ポリオールにプロピレンオキサイドのみを付加してなるポリオキシプロピレンポリオールである。
また、好ましくはDBP吸油量が60cm3/100g以下であるカーボンブラックが添加されてなるものであり、さらに好ましくは前記カーボンブラックが、前記弾性部材中に1〜10重量%添加されてなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧縮永久歪の少ない弾性部材および電子写真装置用ローラを得ることができる。加えて、本発明によれば、これら弾性部材および電子写真装置用ローラを、作業性の良い工程によって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る弾性部材は、イソシアネート成分とポリオール成分とが反応してなるポリウレタン製の弾性部材である。
【0015】
ポリオール成分は、数平均分子量が350〜600であり且つ平均官能基数が3.9〜4.0である低分子量ポリオールと、数平均分子量が3000〜5000であり且つ平均官能基数が2.4〜3.0である高分子量ポリオールとを含む。
【0016】
低分子量ポリオールの数平均分子量が350未満である場合には、該低分子ポリオールを少量添加するだけで成形品が硬くなりすぎて加工性が悪化してしまい、600を超える場合には架橋点間の分子鎖が長くなりすぎて架橋による圧縮永久歪低減効果が十分に得られないこととなる。
また、平均官能基数が3.9未満である場合には架橋点の数が少なく架橋による圧縮永久歪低減効果が十分に得られないこととなり、逆に4.0よりも大きい場合には成形品が硬くなりすぎ、かえって脆くなってしまう。
【0017】
一方、高分子量ポリオールの数平均分子量が3000未満である場合には、架橋点の間が短くなりすぎ、成形品が硬くなりすぎて加工性が悪化してしまい、5000を超える場合には架橋点間の分子鎖が長くなりすぎて架橋による圧縮永久歪低減効果が十分に得られないこととなる。
また、高分子量ポリオールの平均官能基数が2.4未満である場合には架橋点の数が少なく架橋による圧縮永久歪低減効果が十分に得られないこととなり、逆に3.0よりも大きい場合には該ポリオールの粘性が高くなりすぎ、作業性に劣るものとなる。
【0018】
前記低分子量ポリオールは、全ポリオール成分のうち1〜15重量%とし、好ましくは3〜10重量%とする。低分子量ポリオールが1重量%未満であれば、圧縮永久歪低減効果や加工性改善効果が得られず、逆に15重量%を超えると硬くなりすぎて電子写真装置用の弾性部材としては適さない。また、前記低分子量ポリオールが全ポリオール成分のうち3〜10重量%であれば、圧縮永久歪低減効果と加工性改善効果とが十分に発揮され、しかも電子写真装置用として適度な柔軟性を備え、特に、該弾性部材をローラに使用した際には、優れたローラ特性を発揮するものとなる。
【0019】
一方、高分子量ポリオールの含有量については特に限定されないが、通常、低分子量ポリオール以外を全て高分子量ポリオールとし、好ましくは、全ポリオール成分のうち、90〜97重量%とする。高分子量ポリオールが90重量%であれば、得られる弾性部材の硬度を電子写真装置用ローラに適度なものとし得るという効果がある。
【0020】
また、高分子量ポリオールの組成としては、ポリオールにプロピレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシプロピレンポリオールが好ましく、特に、プロピレンオキサイドのみを付加したポリオキシプロピレンポリオールがより好ましい。
通常、ポリエーテルポリオールは粘度が低く作業性に優れる反面、ポリプロピレンのみを付加するだけでは末端のヒドロキシル基が2級となり、反応性が著しく低下してしまうため、一般的にはポリエチレンオキサイドを付加して末端のヒドロキシル基を1級にして用いられることが多い。しかしながら、エチレンオキサイドは親水性が高く、成形品も親水性の高いものになってしまい、高温高湿の状態で使用すると吸水によってローラの外径が大きくなるという問題が発生しやすい。
これに対し、プロピレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシプロピレンポリオールは、側鎖メチレン基を有するため、エーテル結合があっても比較的疎水性を保つことができ、高温高湿の条件下で使用された場合であってもローラの外径が変化することがない。
【0021】
また、本発明において用いられるイソシアネート成分については、公知の如何なるものを使用しても良いが、低硬度化という観点からは、折れ曲がり構造があるものが好ましい。好ましいイソシアネート成分の具体例としては、トリレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、2,4−メチレンジイソシアネート、4,4−メチレンジイソシアネート、又はこれらの異性体等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0022】
これらポリオール成分とジイソシアネート成分とを反応させる際には、有機スズ等の触媒を用いて反応を促進させることが好ましく、これによって生産性を高めることができる。該有機スズとしては、ジブチルスズジラウレートなどの公知のものを使用することができる。
【0023】
また、前記ポリオール成分とイソシアネート成分に加え、カーボンブラック等の導電性充填材を添加することにより、前記弾性部材に導電性を付与することができる。
使用するカーボンブラックは、如何なるものでもよいが、中でも、DBP吸油量が60cm3/100g以下であるものが好ましく、特に45〜60cm3/100gであるものがより好ましい。このようなカーボンブラックを用いることにより、ポリオールの粘度をあまり高くすることなく少量のカーボンブラックを添加するだけで極めて良好な導電性を発揮させることができる。また、粘度が高くなりにくいために該カーボンブラックの添加量を増やすことが可能となり、これによってポリマーの伸びを低減するとともに耐熱性をも向上させ、延いては該弾性部材を加工する際の研磨加工性に優れたものとなる。
【実施例】
【0024】
下記表1に示す配合に従い、80℃にて脱水した低分子量ポリオールおよび高分子量ポリオールと、イソシアネート、並びにカーボンブラックを混合し、触媒としてジブチルスズジラウレートを100ppm添加した。そして、該混合物を130℃に加熱したローラ用金型に流し込み、30分間保持して型内にて架橋させた後に取り出し、さらに80℃で12時間アフターキュアして成形品を得た。使用した材料の一覧を下記に示す。
【0025】
(低分子量ポリオール:実施例で用いたもの)
f=3.99、MW=370、商品名「SBUポリオール0516」(住化バイエルウレタン製)
f=3.95、MW=550、商品名「エクセノール410NE」(旭硝子製)
(低分子量ポリオール:比較例で用いたもの)
f=2.99、MW=400、商品名「スミフェンTM」(住化バイエルウレタン製)
f=4、MW=300、商品名「エクセノール750ED」(旭硝子製)
f=5.99、MW=600、商品名「エクセノール500SO」(旭硝子製)
(高分子量ポリオール:実施例で用いたもの)
f=2.43、MW=5000、商品名「エクセノール5030」(旭硝子製)
f=2.97、MW=5000、商品名「プレミノールS3006」(旭硝子製)
f=2.79、MW=3000、商品名「スミフェン3086」(住化バイエルウレタン製)
(高分子量ポリオール:比較例で用いたもの)
f=2.28、MW=6000、PO+エチレンオキサイド付加物 商品名「エクセノール837」(旭硝子製)
f=2.78、MW=6000、商品名「プレミノール7001」(旭硝子製)
f=2.92、MW=1500、商品名「スミフェン1500」(住化バイエルウレタン製)
(イソシアネート)
m−キシレンジイソシアネート、商品名「タケネートT500」(三井武田ケミカル製)
カーボンブラック(CB)
DBP吸油量=45、商品名「#45L」(三菱化学製)
DBP吸油量=57、商品名「#MA8」(三菱化学製)
DBP吸油量=65、商品名「#50」(三菱化学製)
【0026】
(研磨試験)
得られた実施例および比較例の成形品を研磨装置(ノリタケカンパニー製、#GC80)にて送り速度20mm/sec、砥石回転数2000rpm、ワーク回転数200rpm、切り込み量200μmの条件で直径φ16mm、ゴム肉厚3mmのローラに研磨加工した。
【0027】
(表面粗度の測定)
研磨加工した後のローラの表面を、非接触式3次元表面形状測定装置(Veeco社製、WYKO NT1100、25倍のレンズを使用)を用いて算術平均粗さ(Ra)の測定を行った。
【0028】
(圧縮永久歪の測定)
圧縮永久歪については、JIS K6262に準じ、試験温度70℃、圧縮ひずみ25%、試験時間24時間として測定した。
【0029】
(硬度の測定)
硬度については、厚さ5mmに成形したシート体を用い、アスカーC硬度計によって1000gfの荷重で測定した。
(その他の評価)
さらに、研磨加工した後のローラの外径の変化を測定するとともに、該ローラを電子写真装置の現像ローラとして使用し、得られた画像によって電子写真装置におけるローラ特性を評価した。
測定結果を表1および表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1および表2に示した結果より、本発明に係る電子写真装置用ローラは、比較例のローラと比べて圧縮永久歪が少なく、成形性(作業性)や研磨加工性に優れ、しかもローラの外径変化も少なく、優れたローラ特性を備えたものであることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る弾性部材は、プリンター、複写機、ファクシミリなど電子写真装置における各種弾性部材として使用することができ、本発明に係る電子写真装置用ローラは、現像ローラ、転写ローラ、帯電ローラなどの導電性ローラや、中間転写ドラムのような転写部材としても好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート成分とポリオール成分とが反応してなる弾性部材であって、前記ポリオール成分が、数平均分子量3000〜5000で且つ平均官能基数2.4〜3.0の高分子量ポリオールと、数平均分子量350〜600で且つ平均官能基数3.9〜4.0の低分子量ポリオールとを含み、さらに、前記低分子量ポリオールが全ポリオール成分の1〜15重量%であることを特徴とする弾性部材。
【請求項2】
前記弾性部材からなる表面層を備えたことを特徴とする電子写真装置用ローラ。
【請求項3】
前記高分子量ポリオールが、ポリオールにプロピレンオキサイドのみを付加してなるポリオキシプロピレンポリオールであることを特徴とする請求項2記載の電子写真装置用ローラ。
【請求項4】
DBP吸油量が60cm3/100g以下であるカーボンブラックが添加されてなることを特徴とする請求項2又は3記載の電子写真装置用ローラ。
【請求項5】
前記カーボンブラックが、前記弾性部材中に1〜10重量%添加されてなることを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載の電子写真装置用ローラ。

【公開番号】特開2006−330229(P2006−330229A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151971(P2005−151971)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】