説明

形状測定機の公差検出方法及び装置

【課題】分割して測定して求めるしかなかった、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を、1回の計算で容易に検出可能とする。
【解決手段】連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を検出する際に、設定された複数の部分測定データを抽出し、先頭の部分測定データから基準位置を設定し、該基準位置を用いて、各部分測定データを一つのデータに結合し、該結合したデータを用いて公差を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定機の公差検出方法及び装置に係り、特に、真円度測定機に用いるのに好適な、分割して測定して求めるしかなかった、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を、1回の計算で容易に検出することが可能な形状測定機の公差検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱、円筒などの回転体状の測定対象について、真円度、同心度あるいは同軸度などの真円度に関する各種データを採取するための真円度測定機などの形状測定機が知られている。この真円度測定機においては、回転テーブル上に測定対象を載置し、測定対象の表面形状を検出ヘッドなどで検出しつつ、回転テーブルを回転させることで、測定対象の表面形状データを集積し、真円度などを測定・算出している(特許文献1)。
【0003】
即ち、検出ヘッドに取付けられている、先端に例えば球状の測定子を備えたスタイラスを、回転テーブルの半径方向(R軸方向と称する)に付勢して、測定対象の表面に接触させ、スタイラスの変位量をリニアエンコーダで検出すると共に、回転テーブルの回転角度をロータリエンコーダにより検出し、この2つの検出値をペアにして検出データとして、測定対象を一回転させる間に該検出データを収集することで、全周の形状を測定することができる。更に、収集した検出データを元に最小自乗法、最小領域法などにより厳密な平均円を求め、これを元に真円度などを計算することができる。
【0004】
しかしながら、図1に例示する如く、キー溝やセレーションなどの突起部24aや切り欠き部により、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象24の場合、倣い測定機能を有しない真円度測定機では、検出器に与える物理的影響を考慮して、測定(1)〜(4)のように、4つの部分的な円周に分割して測定せざるを得ず、個別の部分円周に対しての幾何公差しか求めることができなかった。即ち、変位を検出する検出器は、先端にスタイラスを備えているが、このスタイラスはあくまでもR軸方向のみしか動かず、変位を検出する方向もR軸方向のみである。従って、もしも突起があると、スタイラスが突起を乗り越えることが出来ず、検出器を破損する恐れがある。また、溝があると、その溝にスタイラスが入り込み、そこから這い出すことができず、やはり破損するおそれがある。
【0005】
従って、全体形状の幾何公差を求める際には、各部分円周毎に幾何公差を求め、それらの最大値、最小値から全体形状の幾何公差を推定するしかなかった。
【0006】
一方、特許文献2には、切欠部を有する断面形状の真円度を測定する際に、測定対象外の凹部の底部データや凸部の頂部データを削除し、残りの測定データに基づいて真円度を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2701141号公報
【特許文献2】特開平6−11336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、全体形状が連続して測定可能な測定対象を前提としており、分割して測定して求めるしかない、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象には適用できないという問題点を有していた。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、分割して測定して求めるしかなかった、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を、1回の計算で容易に検出可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を検出する際に、設定された複数の部分測定データを抽出し、先頭の部分測定データから基準位置を設定し、該基準位置を用いて、各部分測定データを一つのデータに結合し、該結合したデータを用いて公差を計算するようにして、前記課題を解決したものである。
【0011】
又、各部分測定データが結合部で一致するよう各部分測定データを結合するようにしたものである。
【0012】
又、各部分測定データが結合部で連続するよう各部分測定データを結合するようにしたものである。
【0013】
更に、各部分測定データの平均値が一致するよう各部分測定データを結合するようにしたものである。
【0014】
本発明は、又、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を検出するための形状測定機の公差検出装置であって、設定された複数の部分測定データを抽出する手段と、先頭の部分測定データから基準位置を設定する手段と、該基準位置を用いて、各部分測定データを一つのデータに結合する手段と、該結合したデータを用いて公差を計算する手段と、を備えたことを特徴とする形状測定機の公差検出装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分割して測定して求めるしかなかった、連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を、1回の計算で容易に検出することが可能になる。
【0016】
従って、ライン測定などで、複数の数値結果から全体形状の公差を推定する手間が省け、結果の確認の省力化が図れる。更に、結合した形状の幾何公差の判定が、ライン測定でも可能になり、自動測定のバリエーションが増える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】連続して測定するのが困難な形状を有する円筒の測定データの概要を示す図
【図2】同じく具体例を示す図
【図3】本発明に係る真円度測定装置の実施形態の概観を示す斜視図
【図4】同じくブロック構成図
【図5】本発明による結合処理の手順を示す流れ図
【図6】同じく複数の部分断面の円周データを一つの断面に結合するための設定画面の例を示す図
【図7】複数の部分断面の変位量を一つの断面の変位量に換算するときの処理を示す図
【図8】結合された円周データの例を示す図
【図9】結合処理の変形例を示す図
【図10】結合処理の他の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る真円度測定機の実施形態の概観を図3に示す。また、この真円度測定機のブロック構成を図4に示す。本実施形態において、基台11の上に設けられた回転テーブル12上に測定対象24が載置される。CPUからの駆動指令はモータ駆動回路33Aに入力され、モータ22を回転させる。この駆動力はベルト21Aおよびプーリーにより回転テーブル12の回転軸に伝達され、一定速度で回転テーブル12を回転させる。その回転角度θはロータリエンコーダ21で逐次検出され、デジタル信号の形でCPU31へ入力される。一方、検出ヘッド20の回転テーブル12(測定対象24)の半径方向(R軸方向)の変位検出信号は、A/D変換器35でデジタル信号に変換され、逐次CPU31へ入力される。検出ヘッド20にはスタイラス26が取り付けられていて、このスタイラス26は検出ヘッド20本体に対して常にある一定方向へばね等により変位され、かつ付勢されている。測定の際には、このスタイラス先端を測定対象24に接触させ、前記ばねの付勢力に勝ってスタイラス26を変位させ、このスタイラス26の変位量を検出ヘッド20本体内部の差動変圧器等により構成される変位検出器により検出する。通常、この変位検出器の分解能は非常に高い反面、測定可能範囲は±300μmと非常に狭くなっている。従って、この検出ヘッド20の位置の調整には、CPU31により上下方向のZ軸、半径方向のR軸各軸方向駆動を自動で制御するようにしている。すなわちCPU31からのZ軸方向の駆動指令はモータ駆動回路33Bに入力され、Z軸方向駆動装置29で検出ヘッド20をZ軸方向へ移動させ、同様に、CPU31からのR軸方向の駆動指令はモータ駆動回路33Cに入力され、R軸方向駆動装置28で検出ヘッド20をR軸方向へ移動させることが可能となっている。このR軸方向駆動装置28の中にR軸方向の位置を検出するリニアエンコーダが配設されている。
【0020】
リニアエンコーダからの変位検出信号は一旦A/D変換器35へ入力され、デジタル信号に変換されてからCPU31へ入力される。また、ロータリエンコーダ21からの回転角度θの検出信号は既にデジタル信号となっているので、そのままCPU31へ入力される。これらのデジタル信号はペアで測定データとなり記憶回路39に記憶され、適宜CPU31から呼び出されて最小自乗法、最小領域法等により真円度計算、同軸度計算等が行われ、その結果はディスプレイ40に表示されたり、プリンタ43に印字記録されたりする。どのような経路で検出ヘッド20を移動させるか、測定データにどのような幾何計算を施すか等は、キーボード41から作業者が指示するようになっている。また、必要に応じて外部への測定データあるいは幾何計算の結果を通信により出力することも可能である。
【0021】
次に、図5を用いて、本発明による結合処理を詳細に説明する。
【0022】
まず、ステップ100で、設定された複数の部分測定データを抽出する。
【0023】
次いでステップ110で、結合する断面の検出器の測定基準位置を先頭の部分測定データから設定する。
【0024】
次いでステップ120で、図6に例示する如く、ディスプレイ40に表示される設定画面を見ながら、個々の部分測定データの配列から、結合する断面データ配列の測定位置に対応するインデックスにコピーする。具体的には、図6の左側のリストには、断面に結合できる候補となる部分円周がリストアップされるので、例えば画面中央の「→」ボタンで右側のリストに断面を構成する円周として登録する。
【0025】
この時、測定基準位置が測定データに与える差分を加味する。具体的には、図7に示す如く、各断面データのずれを修正し、図7の右側に示すように一つの断面とする。図7において、Rnは、n番目の断面の測定半径値、Δrn-1は、i番目の断面の測定半径値と先頭の1番目の測定半径値の差である。
【0026】
例えば1番目の断面の測定データがx(i)1であったとすると、2番目の断面の測定データは、x(i)2+Δr2-1とし、3番目の断面の測定データは、x(i)3+Δr3-1とし、4番目の断面の測定データは、x(i)4+Δr4-1とする。ここで、Δr2-1は、2番目の最初のデータが1番目の最後のデータと一致し、Δr3-1は、3番目の最初のデータが2番目の最後のデータと一致し、Δr4-1は、4番目の最初のデータが3番目の最後のデータと一致するように決定することができる。ここで各グループ間の区間A、B、Cは、直線で結ぶことができる。
【0027】
図5のステップ120終了後、ステップ130に進み、図7の右側のように結合された断面データで幾何公差を計算する。
【0028】
次いでステップ140で、幾何公差の計算結果を、例えばディスプレイ40上に数値や図面として表示して、処理を終了する。
【0029】
結合された断面データの例を図8に示す。
【0030】
このようにして、分割された円周を一つの断面として認識することで、円筒断面の幾何公差を一度に求めることができる。
【0031】
なお、データを結合する方法は前記実施形態に限定されず、図9に例示するように、端部データの延長線が一致するようにしても良い。又、各グループの最初と最後のデータに大きな偶然誤差が載ってしまっていることもあるので、図10に例示するように、各グループのデータの平均値を一致させるようにして、平均誤差レベルで合わせることもできる。
【0032】
なお、測定対象は円周や円筒に限定されず、形状測定機も真円度測定機に限定されない。
【符号の説明】
【0033】
11…基台
12…回転テーブル
20…検出ヘッド
21…ロータリエンコーダ
22…モータ
24…測定対象
26…スタイラス
28…R軸方向駆動装置
29…Z軸方向駆動装置
31…CPU
40…ディスプレイ
41…キーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を検出する際に、
設定された複数の部分測定データを抽出し、
先頭の部分測定データから基準位置を設定し、
該基準位置を用いて、各部分測定データを一つのデータに結合し、
該結合したデータを用いて公差を計算することを特徴とする形状測定機の公差検出方法。
【請求項2】
各部分測定データが結合部で一致するよう各部分測定データを結合することを特徴とする形状測定機の公差検出方法。
【請求項3】
各部分測定データが結合部で連続するよう各部分測定データを結合することを特徴とする形状測定機の公差検出方法。
【請求項4】
各部分測定データの平均値が一致するよう各部分測定データを結合することを特徴とする形状測定機の公差検出方法。
【請求項5】
連続して測定するのが困難な形状を有する測定対象の形状の公差を検出するための形状測定機の公差検出装置であって、
設定された複数の部分測定データを抽出する手段と、
先頭の部分測定データから基準位置を設定する手段と、
該基準位置を用いて、各部分測定データを一つのデータに結合する手段と、
該結合したデータを用いて公差を計算する手段と、
を備えたことを特徴とする形状測定機の公差検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図6】
image rotate