説明

形状測定装置

【課題】被測定面に段差部等の急激な形状変化のある光学素子の形状測定を高精度で行う。
【解決手段】3次元方向に移動する測定軸15は、移動ステージ21を介して、プローブ1を保持するハウジング10を支持する。被測定物24の段差部の近傍では、移動ステージ21をXYステージ28による測定軸15の走査方向と逆向きに駆動することで、プローブ1の走査速度を低減する。段差部を過ぎた後は、移動ステージ21を走査方向へ移動させて、測定軸15上の元の位置へもどして、測定を続行する。段差部におけるプローブ1の飛び跳ねを防ぎ、高精度な形状測定を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズやミラー等の表面形状を精密に測定するための形状測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズやミラー等の光学素子の表面形状を精密に測定する3次元形状測定装置は、被測定物の形状をトレースするプローブと、そのプローブの位置を測定する座標測定手段の2つに分けて、構成を考えることができる。このとき、プローブにとって重要なのは、被測定物の表面(被測定面)をトレースして座標測定可能にすることである。近年、光学素子の微細化に伴い、回折格子の段差部等の急激な形状変化のある光学素子面を高精度に測定することが求められている。
【0003】
従来の光学素子の形状測定装置として、例えば特許文献1に開示されたものは、被測定面の粗度を感知する検出器を設け、表面粗度の違いを演算処理装置で判定し、XYZステージの計測速度を制御する。あるいは、被測定面の傾斜角度の違いに応じて計測速度を制御する。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、角度方向に動作可能なアクチュエータを備えたプローブ構成が提案されている。このプローブは、傾斜角度の大きさがほぼ一定になるよう制御しながら、被測定面を走査する。この構成により、Z方向にはほぼ平行で、XY方向の任意方向に傾斜した側面形状を測定することができる。なお、プローブは、スタイラス、触針子、フィーラーと呼ばれることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−146133号公報
【特許文献2】特開2006−284410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、回折格子の段差部のように急激に形状が変化する被測定面のプローブによる形状測定では、次のような課題がある。
【0007】
特許文献1に開示された装置は、被測定面をプローブで倣いながら計測を行い、検出器より得られた表面粗度の違いを段階別に判定して、プローブの走査速度を制御する。しかし、回折格子の段差部等の急激な形状変化を有する部分では、プローブを走査する直前に測定条件を変化させる必要があるが、ステージの重量のために、段差部近傍で瞬時にプローブの走査速度を低減することができない。
【0008】
特許文献2に開示されたように、壁面などをある一定の角度に制御しながらプローブを走査する方法も、段差などの急激に形状が変化する部分では、高精度な形状計測が難しい。
【0009】
本発明は、被測定面に段差部等の急激な形状変化のある部位において、プローブの走査速度を瞬時に低減することで高精度な形状測定を可能にする形状測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の形状測定装置は、被測定面に対してプローブを倣い走査させながら、前記プローブの座標位置を測定する形状測定装置において、前記プローブと、前記プローブを保持する測定軸を、被測定面に対してXY方向に走査させる走査ステージと、前記測定軸をZ方向に移動させて前記プローブを被測定面に接触させる手段と、前記プローブと前記測定軸の間に介在され、前記プローブを前記測定軸に対して相対的に移動させることで、前記プローブの走査速度を制御する移動ステージと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
段差部等の急激な形状変化のある部位では、測定軸上の移動ステージにより、プローブを走査ステージの走査方向と逆向きに移動させることで、プローブの走査速度を瞬時に低減し、高精度な形状測定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態による形状測定装置を示す模式図である。
【図2】図1の装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】図1の装置が段差部を走査する時の動作を説明するもので、(a)は、段差走査前のプローブ測定動作、(b)は、段差部直前のプローブ測定動作を示す模式図である。
【図4】図1の装置が段差部を走査する時の動作を説明するもので、(a)は、段差部を乗り越えた直後のプローブ測定動作、(b)は、段差部走査後のプローブ測定動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、接触式のプローブ1は、プローブ球1aを取り付けるための円錐状の先端を持ったプローブチップ2を、スペーサ3を挟んで、プローブシャフト4の下端にねじ込み固定している。プローブシャフト4の上側には、ミラー固定駒5を介してミラー6を接着固定し、針圧制御機構7によって、プローブ1に所定の押付け力を発生させる。
【0014】
プローブシャフト4は、ハウジング10に対して、空気軸受11を介して上下方向に移動可能に支持されており、ハウジング10には、空気軸受11に圧縮空気を導くための圧縮空気穴12が穿設されている。圧縮空気穴12は、ドリルで片面からあけ、必要に応じて穴の表面部分を塞いだりすれば、ハウジング10の内部を自由に引き回すことができる。圧縮空気穴12は圧縮空気配管13に接続され、さらに図示しない圧縮空気源に接続されている。この構成により、プローブシャフト4は上下方向に摩擦なしに自由に移動することができる。
【0015】
ハウジング10にはその下面部に突起状の下側ストッパー10bが設けられており、スペーサ3と衝突することによってプローブシャフト4の上方向への過剰な動きを抑えることができる。下方向への過剰な動きに対しても同様に、突起状の上側ストッパー10aがハウジング10の上面部に設けられており、プローブシャフト4に設けられた突起4aに突き当たることによって過剰な動きを抑えることができる。
【0016】
測定軸15は、XYZの3軸方向に移動可能である。ハウジング10は支持部材20に固定され、支持部材20は、測定軸15との間に移動ステージ21を介して、測定軸15に保持されている。
【0017】
移動ステージ21には、プローブ1の走査速度を制御するためのコントローラ22が接続されている。コントローラ22には、後述のポジションセンサ23からの出力を電気信号に変換するセンサーアンプ14からの出力が一部分岐して接続され、ハウジング10とプローブシャフト4の間の位置決め制御が可能なようになっている。コントローラ22は、被測定物24の設計形状、もしくは予め測定によって取得した形状情報(測定形状)に基づき、移動ステージ21に指令を出して、測定軸15に対してプローブ1を相対的に移動させる。
【0018】
測定軸15は、プローブシャフト4と同じ方向、すなわち上下方向(Z方向)に、ガイド31によって移動可能である。測定軸15は、ガイド31を介してプローブ1をXY方向に走査する走査ステージであるXYステージ28に支持され、ボールネジ36とサーボモータ29によってZ方向に駆動される。XYステージ28は、図示しない定盤に対してX方向およびY方向に移動可能である。測定軸15を駆動するサーボモータ29は、サーボアンプ32に接続され、サーボアンプ32は、制御系切り替え装置33に接続されている。サーボモータ29の回転軸にはエンコーダ30が接続され、その出力を位置制御補償回路35に接続する。制御系切り替え装置33が位置制御系に接続している時は、測定軸15の位置を制御することができる。この制御系切り替え装置33は図示していないコントローラで自動制御され、図2に示すフローチャートにしたがって測定動作が行われる。
【0019】
干渉計27は、測定軸15に保持され、その上方に、フレーム25に固定された基準ミラー26を配置する。この構成により、干渉計27は、ミラー6と基準ミラー26の間の距離を測定することができる。フレーム25の下方部分には載置台(不図示)が設けられ、この載置台に被測定物24が固定される。
【0020】
ポジションセンサ23は、センサーアンプ14に接続され、プローブシャフト4とハウジング10の相対位置を電気信号に変換する。センサーアンプ14は針圧制御補償回路34に接続され、さらに制御系切り替え装置33に接続されている。この制御系切り替え装置33が針圧制御系に接続されているときは、センサーアンプ14の出力が一定になるように、サーボモータを制御する。
【0021】
以上のように構成された形状測定装置を用いて行う測定動作を図2のフローチャートを用いて説明する。
【0022】
最初に、制御系切り替え装置33を位置制御系に設定する。すなわち、測定軸15の位置が一定になるようにフィードバック制御系を選択し、安全位置、すなわち、プローブ1が最も被測定物24から離れる方向に測定軸15を退避させる(S11)。そして、プローブ1が最初の測定点の上に来るようにXYステージ28を移動させる(S12)。次に、測定軸15を下げて、プローブ1と被測定物24を接触させる(S13)。
【0023】
プローブ1と被測定物24が接触したら、プローブ1の接触判定モードを解除し(S14)、測定軸15を針圧制御に切り替え、ポジションセンサ23が所定の位置になるまで測定軸15を下げる(S15)。
【0024】
プローブ球1aと被測定物24の接触は、プローブ1の変位測定信号、すなわち、センサーアンプ14の信号をモニタしていれば判別できる。プローブ1の押付け力は、変位信号をモニタして、ポジションセンサ23の値が一定の値になるようにすれば所望の押付け力にすることができる。
【0025】
そして、制御系切り替えスイッチ33を針圧制御系に切り替えて、ポジションセンサ23の値が一定になるように制御する。そのまま、被測定物24の被測定面を倣い走査(トレース)し、同時に測定軸15の座標位置を図示しない座標測定装置で測定する(S16)。
【0026】
プローブ1の上下方向については、ミラー6と基準ミラー26の間の距離を測定する干渉計27で直接測定する。全測定領域を走査したら、制御系切り替え装置33を再び位置制御系に切り替え、測定軸15を安全位置に退避させ(S17)、測定を終了する。
【0027】
次に、段差部などの急激な形状変化を測定するときの動作について、図3及び図4を用いて説明する。
【0028】
図3(a)に示すように、測定軸15とプローブ1の間に移動ステージ21が介在され、移動ステージ21にプローブ1が取り付けられている。プローブ1を被測定物24に対して走査して、被測定物24の座標位置を測定することで、被測定物24の面形状を測定する。通常、段差などがない自由曲面上を走査する時は、測定軸15と移動ステージ21の被測定物24に対する走査速度は同じである。
【0029】
段差部の近傍では、図3(b)に示すように、測定軸15の走査方向と逆向きに移動ステージ21を移動させることで、プローブ1の走査速度を低減する。プローブ1による形状計測を行う前に、予め被測定物24の段差位置と形状情報を設計形状から取得しておく。または、予め被測定物24をプローブ1で走査して、その測定形状から段差位置と形状情報を取得しておいてもよい。予め取得した段差位置と形状情報に基づき、コントローラ22からの指令により、段差部の近傍で移動ステージ21を走査方向と逆向きに駆動することで、瞬時に被測定物24に対するプローブ1の走査速度を低減する。このように被測定物24に対するプローブ1の走査速度を瞬時に落とすことで、段差部を低速で倣い走査し、飛び跳ねなく安定して段差形状の計測を行うことができる。
【0030】
図4(a)に示すように、段差を駆け上がった直後のプローブ1は、通常の形状測定を行うときのプローブ位置からずれていることになる。そこで、段差を乗り越えた後は、図4(b)に示すように、移動ステージ21を走査方向に駆動することで、プローブ1を素早く元の位置に戻す。段差を降りる場合も同様に、段差部の近傍で移動ステージ21を走査方向と逆向きに駆動することで、被測定物24に対するプローブ1の走査速度を低減すればよい。
【0031】
測定軸15上で移動ステージ21を移動させることで、被測定物24に対するプローブ1の走査速度を低減し、飛び跳ねなく被測定物24を倣い走査することができる。測定中のプローブ1は、平行移動しても傾いてもよい。
【0032】
このように、段差部の近傍で、移動ステージ21をXYステージ28の走査方向と逆向きに駆動し、プローブ1の走査速度を瞬時に低減することで、段差部におけるプローブ1の飛び跳ねを防ぎ、高精度な形状測定を可能にする。
【符号の説明】
【0033】
1 プローブ
2 プローブチップ
3 スペーサ
4 プローブシャフト
7 針圧制御機
10 ハウジング
15 測定軸
17 針圧制御機構
21 移動ステージ
23 ポジションセンサ
28 XYステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定面に対してプローブを倣い走査させながら、前記プローブの座標位置を測定する形状測定装置において、
前記プローブと、
前記プローブを保持する測定軸を、被測定面に対してXY方向に走査させる走査ステージと、
前記測定軸をZ方向に移動させて前記プローブを被測定面に接触させる手段と、
前記プローブと前記測定軸の間に介在され、前記プローブを前記測定軸に対して相対的に移動させることで、前記プローブの走査速度を制御する移動ステージと、を有することを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
前記移動ステージは、被測定面の設計形状に基づき、段差部の近傍で前記プローブを前記走査ステージと逆向きに移動させることで、前記プローブの走査速度を低減することを特徴とする請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記移動ステージは、予め被測定面を走査して得られた測定形状に基づき、段差部の近傍で前記プローブを前記走査ステージと逆向きに移動させることで、前記プローブの走査速度を低減することを特徴とする請求項1に記載の形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−64464(P2011−64464A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212715(P2009−212715)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】