説明

後部車体構造

【課題】自車の車高と異なる車両が後面衝突した場合でも、衝突エネルギーを十分に吸収することができる後部車体構造を提供すること。
【解決手段】車体1の後部車体構造において、バンパビームエクステンション3の上壁3aは、リヤフレーム2の中心線O−Oから上壁2aまでの高さHと、中心線O−Oからバンパビーム4の上壁4aの高さH4との中間の高さH2に、バンパビームエクステンション3の上壁3aが設定されている。リヤフレーム2の下壁2bから中心線O−Oまでの高さH1と、バンパビームエクステンション3の下壁3bから中心線O−Oまでの高さH3は、同じ高さに揃えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の後部車体のリヤフレーム(リヤフロアサイドメンバ)に、後面衝突時に座屈する座屈位置をコントロールすることが可能な補強部を設けて、後面衝突時の衝突エネルギーの吸収性を高めた後部車体構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その後部車体構造は、縦断面視して凹状のリヤフレーム内に、このリヤフレームを部分的に補強する補強部材を装着して、後面衝突の際に、補強部材の前側近傍が座屈変形するようにさせた構造になっている。
【0004】
近頃、乗用車を対象としている軽衝突テスト(ドイツ保険協会(GDV)/イギリス防盗性能評価機関(THATCHAM))で、今回新たな衝突モード(OB打ち)が追加された。この衝突モードにおける目標性能を達成するためには、低速衝突時に、バンパビームが倒れる方向の曲げモーメントを軽減させる対策が必要である。
【0005】
自動車は、軽衝突時(低速での後方車両との衝突時)、車体後部に配置されたバンパビーム、バンパビームエクステンション等が潰れることによって、衝突エネルギーを吸収している。その際、潰れた箇所の修理費を安くするためには、リヤフレームが潰れないようにすることが必要である。そのためには、バンパビームエクステンションの上下・左右壁の上下左右の幅と、リヤフレームの上下左右壁の上下・左右の幅とが、一致することが望ましいとされていた。また、リヤフレームとバンパビームエクステンションとを締結する締結材は、左右方向だけではなく、あらゆる方向の衝突荷重に対応させて、その衝突荷重を支持できるように配置しなければならないので、上下方向にも締結材を配置する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−245875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載の後部車体構造は、バンパビームエクステンションの上下壁が、リヤフレームの上端及び下壁よりも上下に食み出して、ずれた状態に組み付けられている(特許文献1の図8参照)。このため、後部車体構造は、例えば、車体後方向から前方向への衝突荷重がバンパビームエクステンションにかかった際に、その衝突荷重がリヤフレームによって支持され難い配置構造になっている。
このような後部車体構造では、後面衝突した際に、バンパビームエクステンションが潰れるクラッシュストロークが小さく、完全に潰しきれないため、さらに、衝撃エネルギーの吸収性を高めることが望まれていた。
【0008】
また、特許文献1の後部車体構造は、後方車両のフロントバンパビームが自車のリヤバンパビームよりも高いか、または、低く、車高が相違している車両が後面軽衝突した場合、上下壁を締結する締結材がないので、バンパビームエクステンションにかかった衝突荷重をリヤフレームでしっかりと支持することができない。このため、他車が自車に後面軽衝突した場合には、前記同様、バンパビームエクステンションが、完全に潰しきれないので、衝突荷重が十分に吸収されないため、リヤフレームも損傷することがあった。
このような後面軽衝突の際の修理費用を削減するために、リヤフレームが損傷しないように、さらに、バンパビームエクステンションの衝撃エネルギーの吸収性を向上させることが望まれていた。
【0009】
そこで、本発明は、前記問題点を解消すべく発明されたものであり、自車の車高と異なる車両が後面衝突した場合でも、衝突エネルギーを十分に吸収することができる後部車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の後部車体構造は、リヤフレームの中心線から上壁までの高さと、前記中心線上からバンパビームの上壁の高さとの中間の高さに、バンパビームエクステンションの上壁を設定し、前記リヤフレームの下壁から前記中心線までの高さと、前記バンパビームエクステンションの下壁から前記中心線までの高さとを揃えたことを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、後部車体構造は、リヤフレームの中心線から上壁までの高さと、その中心線上からバンパビームの上壁の高さとの中間の高さに、バンパビームエクステンションの上壁が設定されている。このため、バンパビームエクステンションの上壁は、リヤフレームの上壁よりも高い位置に配置されている。バンパビームの上壁は、そのバンパビームエクステンションの上壁よりも、さらに、高い位置に配置されている。
このような自車が、自車よりも車高が高いSUVなどの車両と後面衝突したとき、その衝突車両からの衝突荷重が入力される入力位置に対してバンパビーム、バンパビームエクステンション及びリヤフレームは、側面視して、上壁が、後上がりに段差的にオフセットしたレイアウトになっており、下壁が、直線上に揃えたレイアウトになっている。このため、後面衝突時の曲げモーメント入力によるバンパビームの倒れは、各上壁が、後上がりに段差的にオフセットした分だけ、バンパビームエクステンションの支点が、衝突車両とバンパビームとの衝突位置に近付いて配置されるため、軽減される。
また、リヤフレームの下壁から中心線までの高さと、バンパビームエクステンションの下壁から中心線までの高さとが、同じ高さに揃えてあるので、後面軽衝突時に、バンパビームエクステンションが十分潰れる。
【0012】
請求項2に記載の後部車体構造は、請求項1に記載の後部車体構造であって、前記バンパビームは、車体前後方向の縦断面形状が、日の字状または目の字状のアルミ押出材からなり、前記バンパビームエクステンション側の側壁の上部の肉厚が、下部の肉厚より厚く形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、バンパビームは、車体前後方向の縦断面形状が、日の字状または目の字状のアルミ押出材からなることにより、複数の閉断面が形成されているので、剛性が高い構造となっている。
また、バンパビームは、バンパビームエクステンション側の側壁が、その側壁の上部の肉厚が下部の肉厚より厚く形成されていることによって、車高が高い車両が後面衝突した際に、曲げモーメントが局部的に負荷される部分の強度が向上されて、その曲げモーメントにより折れ曲がるように座屈変形するのを抑制して、バンパビームとバンパビームエクステンションの双方が均等に潰れるようになる。
【0014】
請求項3に記載の後部車体構造は、請求項1または請求項2に記載の後部車体構造であって、前記バンパビームエクステンションは、左右の折曲加工した2つの金属製の板状半筒体を接合して多角筒状に構成され、車幅方向内側の稜線の数が、車幅方向外側の稜線の数よりも多いことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、バンパビームエクステンションは、車幅方向内側の稜線の数が、車幅方向外側の稜線の数よりも多くなっている。このため、自車に対して斜め後面から車両等が軽衝突した際に、衝突方向に対して遠い側(車幅方向内側)の板状半筒体は、衝突方向に近い側(車幅方向外側)の板状半筒体と比較して稜線の数が多く、折り曲げ強度がある。斜め後方からバンパビームエクステンションに衝突荷重が負荷されると、まず、車幅方向外側の板状半筒体が潰れ、車幅方向内側の板状半筒体が衝突荷重を支えて、バンパビームエクステンション全体が傾倒するのを抑制する。さらに、バンパビームエクステンションに衝突荷重がかかると、車幅方向内側の板状半筒体が、車幅方向外側の板状半筒体と共に押し潰されて、バンパビームエクステンション全体が潰れるクラッシュストロークによって、衝突荷重(衝突エネルギー)を吸収することができる。
【0016】
請求項4に記載の後部車体構造は、請求項3に記載の後部車体構造であって、前記バンパビームエクステンションは、車幅方向内側に配置された前記板状半筒体の上端部に、車幅方向外側の前記板状半筒体に重ねて接合する重合部を形成し、該上端部に外側へ行くフランジを設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、バンパビームエクステンションは、車幅方向内側の板状半筒体の上端部に、車幅方向外側の板状半筒体に重ねて接合する重合部に外側に向くフランジを有することによって、上端部の強度を向上させ、内側の稜線による強度とバラランスさせバンパビームエクステンション全体を潰すことができる。
【0018】
請求項5に記載の後部車体構造は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の後部車体構造であって、前記バンパビームエクステンションの前端部と、リヤフレームの後端部とは、左右上下のうちの少なくとも三箇所をそれぞれ締結材で締結していることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、バンパビームエクステンションの前端部と、リヤフレームの後端部とは、左右上下のうちの少なくとも三箇所をそれぞれ締結材で締結していることによって、あらゆる方向の後面衝突に対して、バンパビームエクステンションに負荷がかかるため、バンパビームエクステンションが潰れて衝突時の衝突荷重を吸収することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る後部車体構造によれば、自車の車高と異なる車両が後面衝突した場合でも、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る後部車体構造を示す要部概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る後部車体構造を示す要部概略分解斜視図である。
【図3】図1のX−X線の拡大端面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る後部車体構造を示す図であり、バンパビームエクステンションの構造を示す要部拡大斜視図である。
【図5】図4のY−Y線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図5を参照して、本発明の実施形態に係る後部車体構造を説明する。
なお、本発明の実施形態では、「前」は車両Cのフロント側、「後」は車両Cのリア側、「上」は鉛直上方側、「下」は鉛直下方側、「左右」は車幅方向側とする。
【0023】
≪車両の構成≫
まず、本発明の実施形態に係る後部車体構造を説明する前に、本発明が採用される車両Cについて説明する。
図1に示すように、車両Cは、例えば、車体1の後端部にバンパビーム4を有する乗用車等であり、特に、車両Cの種類や形状等は限定されない。車両Cは、SUV(Sports Utility Vehicle)や、ワンボックス車や、ミニバン等の車高が高い自動車よりも、車高が一般的に低い自動車が望ましく、以下、乗用車を例に挙げて説明する。
【0024】
≪車体の構成≫
図1に示すように、車体1は、車両Cの全体を形成するためのものであって、例えば、リヤフレーム2等の種々の金属製車体フレームと、リヤフロアパネル7等の金属製車体パネルと、樹脂製または金属製からなるバンパ(図示省略)等を備えている。車体後部1aには、例えば、車両Cの前後方向に沿って設けられる左右一対のリヤフレーム2,2と、この左右一対のリヤフレーム2,2の後端部2cにそれぞれ設けられた左右一対のバンパビームエクステンション3,3と、この左右一対のバンパビームエクステンション3,3の後端部3dに架設されたバンパビーム4と、このバンパビーム4の後側に設置されたバンパ(図示省略)と、左右のリヤフレーム2,2間に亘って設けられたリヤフロアパネル7と、を備えている。
車体後部1aは、左右対称であるため、以下、車体1の左側を主に説明して、車体1の右側の説明を適宜省略する。
【0025】
≪リヤフレームの構成≫
図1に示すように、リヤフレーム2,2は、車体1の骨格の一部を形成する車体フレーム部材であり、例えば、前後方向に縦断面視してロ字状の厚板鋼板製の角パイプ材等から形成されている。
図3に示すように、この左右のリヤフレーム2は、それぞれ前後方向に向けて延設された中空状の筒体21と、この左右の筒体21の後端部2cに接合されたフランジ部22と、このフランジ部22から筒体21の前側の内壁に接合された補強部材23と、が主に形成されている。
【0026】
そのリヤフレーム2の後端部2cには、バンパビームエクステンション3を介してバンパビーム4が取り付けられている。リヤフレーム2の前端部側には、サイドフレーム(図示省略)が車体前方向に連続して延設されると共に、左右のリヤフレーム2,2間に、クロスメンバ(図示省略)が架設されている。また、左右のリヤフレーム2,2間には、リヤフロアパネル7が掛け渡すように載設されている。
【0027】
図3に示すように、筒体21は、四角筒状に形成されたフレーム部材であり、前端側に、僅かに拡径して形成された外嵌21aが形成されている。
フランジ部22には、前記外嵌21aに嵌入されて溶接等で接合される接合部22aと、後記するバンパビームエクステンション3のフランジ部材32に当接した状態に締結される上下左右の4つの鍔部22bと、各鍔部22bに穿設された締結材挿入用の締結材取付孔22cと、が形成されている。
【0028】
≪バンパビームエクステンションの構成≫
図2に示すように、バンパビームエクステンション3は、リヤフレーム2の後端部2cにバンパビーム4を取り付けるための取付部材であり、例えば、鋼板製の箱状部材からなる。このバンパビームエクステンション3は、後面衝突時の衝撃を緩和する衝撃緩和材としての機能も果たす。バンパビームエクステンション3は、筒状のエクステンション本体31と、このエクステンション本体31の前側開口端31aに溶接等によって固定されたフランジ部材32と、このエクステンション本体31の後側開口端31bに溶接等によって固定された取付プレート33と、フランジ部材32をリヤフレーム2のフランジ部22に固定するための締結材5と、バンパビーム4を取付プレート33に固定するための締結材6と、を備えてなる。
【0029】
バンパビームエクステンション3の前端部3cに配置されたフランジ部材32と、リヤフレーム2の後端部2cに配置されたフランジ部22とは、左右上下のうちの少なくとも三箇所をそれぞれ締結材5で締結している。その締結する三箇所とは、例えば、フランジ部材32及びフランジ部22の上下の2箇所と、車幅方向外側の一箇所である。
【0030】
<エクステンション本体の構成>
図4に示すように、エクステンション本体31は、折曲加工した左右2つの金属製の板状半筒体31A,31Bを接合して六角筒状体(多角筒状体)に形成されている。
エクステンション本体31は、分割構成された2つの板状半筒体31A,31Bと、当該エクステンション本体31の前端に形成された前側開口端31aと、当該エクステンション本体31の後端に形成された後側開口端31bと、左右側面に適宜な大きさに穿設された丸孔31eと、この丸孔31eを有する側壁31c,31dと、車幅方向内側の板状半筒体31Aに、車幅方向外側の板状半筒体31Bが重ねて接合される重合部31f,31gと、折曲加工した各部に形成された稜線31Aa,31Ab,31Ba,31Bbと、補強用の折曲片31Ae,31Afと、を有している。
【0031】
図2に示すように、エクステンション本体31は、左右方向に縦断面視して略コ字状の車幅方向内側の板状半筒体31A内に、この板状半筒体31Aに対して略対称形状の車幅方向外側の板状半筒体31Bを横方向から内嵌させて、左右方向に縦断面視して略ロ字状に形成されて、その内嵌させた上下の重合部31f,31gの周辺を溶接することにより角筒状に形成されている。
【0032】
重合部31f,31gは、前記車幅方向内側の板状半筒体31Aと、前記車幅方向外側の板状半筒体31Bとを角筒状になるように嵌合した際に、重なり合う重ね代(溶接代)であり、板状半筒体31A,31Bの上下端部に形成されている。重なり合った重合部31f,31gの車幅方向の端部は、2つの板状半筒体31A,31Bを接合するための溶接箇所となっている。なお、重合部31f,31gは、エクステンション本体31の折れ曲がり易さを抑制するための補強部や、補強ビードの機能も果たす。
【0033】
図4及び図5に示すように、稜線31Aa,31Ab,31Ba,31Bbは、略六角筒状体のエクステンション本体31の各折曲加工部分に形成されている。車幅方向内側の板状半筒体31Aの稜線31Aa,31Abの数は、車幅方向外側(左側)の板状半筒体31Bの稜線31Ba,31Bbの数よりも多く形成されている。この稜線31Aa,31Ab,31Ba,31Bbは、後面衝突の際のエクステンション本体31の折れ曲がり易さを抑制して、強度を高める補強部の機能を果たす。
【0034】
折曲片31Ae,31Afは、車幅方向内側の板状半筒体31Aの重合部31f,31gの外側端部を上方向または下方向へ起こすように折曲形成されて、エクステンション本体31の強度を高めた補強部位である。この折曲片31Ae,31Afは、エクステンション本体31の上面及び下面の車幅方向の外側寄りに配置されている。
【0035】
<フランジ部材の構成>
図4及び図5に示すように、フランジ部材32は、エクステンション本体31をリヤフレーム2のフランジ部22に連結するための部材である。このフランジ部材32は、中央部に六角形の孔32aを有する鍔状の金属製板部材であり、エクステンション本体31の前端部3cに溶接で固定されている。
図5に示すように、フランジ部材32には、外周部及び内周部を後側に向かって膨らませたように折曲成形して強度を向上させた補強部32b,32cと、前記3つの締結材5(図1及び図2参照)をそれぞれ挿入させるための締結材挿入孔32dと、が形成されている。フランジ部材32は、前記リヤフレーム2のフランジ部22に略合致する大きさに形成されると共に、内周部の補強部32cが角筒状のエクステンション本体31内に配置される大きさに形成されている。
【0036】
<取付プレートの構成>
図2に示すように、取付プレート33は、エクステンション本体31とバンパビーム4とを連結させるための金属製の蓋状部材である。取付プレート33は、エクステンション本体31の後側開口端31bを閉塞するようにして外嵌させ、溶接等によってエクステンション本体31に固定される。取付プレート33には、略六角形に形成された蓋板部33aと、この蓋板部33aの周縁に折曲形成された周縁部33bと、ボルト61の雄ねじ部が挿入される締結材取付孔33cと、その他の貫通孔33dと、掛止片33eと、が形成されている。
【0037】
蓋板部33aは、エクステンション本体31をバンパビーム4に固定するためのボルト61及びナット62を取り付けるための平板状部分である(図3参照)。
周縁部33bは、エクステンション本体31の後側開口端31bの外周縁に外嵌すると共に、取付プレート33をエクステンション本体31に溶接する溶接代を形成する。
締結材取付孔33cは、蓋板部33aの上下中央部の二箇所に穿設されている。この締結材取付孔33c,33cは、バンパビーム4の締結材挿入孔4i,4iに係合されたボルト61,61を挿入させて、蓋板部33aの前面側に配置されたナット62,62に螺着させることにより、蓋板部33aをバンパビーム4の傾斜部4gに当接させた状態に保持する。
掛止片33eは、側面視してL字状にプレス加工されたフックであり、バンパビーム4の掛止孔4kが掛け止めされる箇所である。
【0038】
≪バンパビームの構成≫
図1に示すように、バンパビーム4は、車体前後方向の縦断面形状が、略日の字状に形成されたアルミ押出材からなり、左右のバンパビームエクステンション3の取付プレート33の後面側に架設されている。バンパビーム4には、それぞれ後記する上壁4aと、下壁4bと、前側側壁4cと、後側側壁4dと、傾斜部4gと、締結材挿通孔4hと、締結材挿入孔4i(図2及び図3参照)と、中壁4jと、掛止孔4k(図2参照)と、が形成されている。なお、前記バンパビーム4は、車体前後方向の縦断面形状が、略目の字状のものであってもよい。
【0039】
上壁4aは、略角筒状に形成されたバンパビーム4の上面を形成する水平な平板状部分であり、平面視して略弓状に形成されている。
下壁4bは、バンパビーム4の底面を形成する水平な平板状部分であり、下面視して略弓状に形成されている。
【0040】
図2に示すように、前側側壁4cは、バンパビーム4の前面(バンパビームエクステンション3側の側壁)を形成する垂直な平板状部分であって、取付プレート33がボルト締めされる固定面を形成する壁である。この前側側壁4cには、左右端部側にそれぞれ傾斜部4gが形成され、その左右端部側の上下に締結材挿入孔4iがそれぞれ形成されている。図3に示すように、前側側壁4cは、この前側側壁4cの上部4eの肉厚t1が、下部4fの肉厚t2より厚く形成されて、上部4eが下部4fよりも強度がある。
【0041】
図2に示すように、後側側壁4dは、バンパビーム4の後面を形成する略垂直な平板状部分であり、左右端部側に締結材挿通孔4h,4hがそれぞれ形成されている。
締結材挿通孔4hは、後側側壁4dの左右端部の上下二箇所にそれぞれ穿設された孔であり、バンパビーム4をバンパビームエクステンション3に固定するボルト61を前側側壁4cの締結材挿入孔4iに挿入する際に、そのボルト61を通すための孔である。この締結材挿通孔4hは、ボルト61の座金部の外径よりも大きな径の丸孔からなる。
締結材挿入孔4iは、ボルト61の雌ねじ部が挿入される孔であり、前側側壁4cの左右端部の上下二箇所にそれぞれ穿設されている。
【0042】
中壁4jは、上壁4aと下壁4bとの間に前側側壁4cから後側側壁4dに亘って水平に架設された平板状の補強部分である。
掛止孔4kは、バンパビーム4をバンパビームエクステンション3に取り付ける際に、この掛止孔4kを掛止片33eに掛止させることによって、バンパビーム4をバンパビームエクステンション3に掛止させるための孔である。この掛止孔4kは、前側側壁4cの上部4eの左右にそれぞれ穿設されている。
【0043】
≪リヤフレームとバンパビームエクステンションとバンパビームとの長さ関係について≫
図3に示すように、リヤフレーム2は、リヤフレーム2の中心線O−Oからリヤフレーム2の上壁2aまでの高さHと、その中心線O−Oからリヤフレーム2の下壁2bまでの高さH1と、が略同一の高さに形成されている。
【0044】
バンパビームエクステンション3の上壁3aの位置は、リヤフレーム2の中心線O−Oから上壁2aまでの高さHと、その中心線O−Oからバンパビーム4の上壁4aの高さH4との中間の高さH2に設定されている。
バンパビームエクステンション3の上壁3aの高さである前記中間の高さH2は、例えば、リヤフレーム2の上壁2aの高さHよりも、高さH5(H5=1/2H)高く形成されている。また、前記中間の高さH2は、バンパビーム4の上壁4aの高さH4よりも、高さH6(H6=H5=1/2H)低く形成されている。
また、リヤフレーム2の下壁2bから中心線O−Oまでの高さH1と、バンパビームエクステンション3の下壁3bから中心線O−Oまでの高さH3とは、同じ高さに揃っている。
【0045】
図2に示すように、エクステンション本体31は、後記するバンパビーム4の傾斜部4gに合わせて、車幅方向内側の側壁31cの前後方向の長さL1が、車幅方向外側の側壁31dの前後方向の長さL2よりも長く形成されている。このため、後側開口端31bは、平面視して、車幅方向外側の側壁31dの前端から車幅方向内側の側壁31cの後端に亘って斜め後方向に傾いて形成されている。
【0046】
≪バンパの構成≫
不図示のバンパは、後面衝突時の衝撃を緩和する衝撃緩和材であり、車体1の最後端部に左右方向に向けて延設されている。バンパは、弾性を有する合成樹脂、あるいは、弾性を有し比較的薄肉の金属等によって形成されている。バンパは、バンパビーム4を覆うようにして、バンパビーム4の後側に取り付けられている。
【0047】
≪締結材の構成≫
図2に示すように、前記締結材5,6は、例えば、座金を備えたボルト51,61と、ナット52,62と、を備えて構成されている。締結材5は、フランジ部材32の上側、下側及び左側(車幅方向外側)の三箇所にある締結材挿入孔32dと、この三つの締結材挿入孔32dに対向して形成されたフランジ部22の締結材取付孔22cとにそれぞれボルト51を挿入して、そのボルト51にナット52を螺合させることにより、バンパビームエクステンション3をリヤフレーム2に固定するための固定具である。
締結材6は、バンパビーム4の左右の上下二箇所に穿設された締結材挿入孔4iと、この締結材挿入孔4iに対向して形成された取付プレート33の締結材取付孔33cとにそれぞれボルト61を挿入して、そのボルト61にナット62を螺合させることにより、バンパビームエクステンション3にバンパビーム4を固定するための固定具である。
【0048】
≪リヤフロアパネルの構成≫
図1に示すように、リヤフロアパネル7は、左右のリヤフレーム2,2の上部に載設するように固定された鋼板であり、両リヤフレーム2,2間に架設されている。リヤフロアパネル7のリヤフレーム2,2間には、縦断面視して凹状の収納空間7aが形成されている。その収納空間7aは、各種部品等を収納するための空間である。
【0049】
≪衝突バリアの構成≫
図3に示す衝突バリアBは、自車に衝突する他車(衝突車両)のバンパ、または、自車がバックしたときに衝突する他車のバンパや障害物や障壁等である。
【0050】
≪車体後部構造の作用≫
次に、図1〜図5を参照して本発明の実施形態に係る車体後部構造の作用を後面衝突した場合を例に挙げて説明する。
なお、後面軽衝突とは、例えば、走行速度がノロノロの渋滞中に後続車(衝突バリアB)が自車に追突するなどして低速走行で後面衝突した場合や、車庫入れなどでバックした際に、障害物(衝突バリアB)に後面衝突した場合などである。
【0051】
<車高の高い自動車が後面軽衝突した場合>
図3に示すように、車両Cの車体後部1aは、車体1の高い自動車のフロントビームを想定した衝突バリアBからの衝突荷重が入力される入力位置に対して、バンパビーム4の上壁4aと、バンパビームエクステンション3の上壁3aと、リヤフレーム2の上壁2aとが段階状に下がるようにオフセットして連続配置されている。
【0052】
つまり、バンパビームエクステンション3の上壁3aの高さH2は、リヤフレーム2の上壁2aの高さHよりも、高さH5(1/2H)分だけ高くなっている。このため、バンパビームエクステンション3の重心の位置は、中心線O−Oよりも高い位置にあって、上側に片寄った位置にある。
【0053】
また、バンパビーム4の上壁4aの高さH4は、そのバンパビームエクステンション3の上壁3aの高さH2よりも、高さH6(1/2H)分だけ高くなっている。さらに、バンパビーム4の前側側壁4cの上部4eは、肉厚t1が下部4fの肉厚t2よりも局部的に厚く形成されて、後面軽衝突時の負荷に対して耐えるように強度が向上させていると共に、この上部4eが、他の部分よりも厚さが厚くなっている分だけ重くなっている。その結果、バンパビーム4は、重心の位置が中心線O−Oよりも高い位置にある。
【0054】
このため、自車よりも車高が高い他車(自車のバンパビーム4よりも高い位置にフロントバンパビームがある自動車)が後面軽衝突した際、図3に示すように、衝突バリアBがバンパビーム4の上側部位を前方向(矢印a方向)に押圧する衝突荷重が作用する。その衝突荷重が作用する位置(高さ位置)のバンパビーム4の上壁4aには、前側側壁4cの上部4eの根本(中心線O−O上)Xを支点とする曲げモーメントM1が発生する。
【0055】
その曲げモーメントM1の支点より上方の前側側壁4cの上部4eの前後には、中心線O−OからH2+H6の高さの肉厚t1より薄いバンパビーム4の上壁4aと、中心線O−Oから高さH2のバンパビームエクステンション3の上壁3aとが配置されて、肉厚t1が厚く剛性を備えている。このため、バンパビーム4の上壁4aとバンパビームエクステンション3の上壁3aは、全体が均等に前方向に押し潰れるように変形し、クラッシュストロークにより、衝突荷重が吸収される。
【0056】
残りの衝突荷重は、左右のリヤフレーム2,2にそれぞれ伝えられて支えられる。また、後面軽衝突して軽荷重が作用された場合にも、車体後部1aに設けられたバンパビーム4と、バンパビームエクステンション3とで軽荷重を吸収して確実に保護することができる。
【0057】
このように本発明の車体後部構造は、後面軽衝突時に、バンパビーム4とバンパビームエクステンション3とがクラッシュゾーンとなって押し潰されることにより、軽衝突の軽荷重がそのクラッシュストロークで緩衝されるため、バンパビームエクステンション3の前側に隣設されたリヤフレーム2や、リヤフロアパネル7が損傷したり、変形したりするのを抑制することができる。
このため、リヤフレーム2の修理費用が不要となるので、後面軽衝突時の修理費を低減することが可能となる。
【0058】
また、車高が高い後方車両のフロントバンパビーム(衝突バリアB)の重心の高さと、バンパビーム4の上壁4aの高さH4(衝突位置)とに、バンパビームエクステンション3の上壁3a(支点側)の位置を近付けたことによって、近付いた分だけモーメントが小さくなる。このため、衝突時の曲げモーメントM1の負荷によるバンパビーム4の倒れを軽減させることができる。
その結果、目標としている衝撃を吸収するクラッシュストロークを確保でき、車体沈み込みを抑制することができる。
【0059】
<車高の高さが普通の自動車が後面軽衝突した場合>
図1に示すように、車高の高さが普通の自動車が後面軽衝突した場合は、衝突バリアBが図3に示す位置(矢印aの位置)よりも下側のバンパビーム4の中央部分の位置(図4に示す矢印bの位置)に衝突荷重がかかる。
この場合、衝突バリアBがバンパビーム4の中央部分を前方向(矢印b方向)に押圧する衝突荷重が作用すると、バンパビーム4の上壁4a、中壁4j及び下壁4bにその衝突荷重が作用する。
【0060】
このため、車高の高さが普通の自動車が後面軽衝突した場合、バンパビーム4の上壁4aとバンパビームエクステンション3の上壁3aは、その間にある前側側壁4cの上部4eを介在して略全体が均等に前方向に押し潰されて、車高が高い自動車が後面軽衝突したときと同様に、衝突荷重を吸収する。
【0061】
<斜めの方向から後面軽衝突した場合>
図4に示すように、例えば、自車に他車が斜め左後方(矢印d方向)から後面軽衝突した場合、衝突バリアBが、バンパビーム4の車幅方向外側(左側)からバンパビームエクステンション3に車幅方向外側の板状半筒体31B側に衝突荷重がかかる。
【0062】
バンパビーム4は、その衝突荷重で押圧された箇所が局部的に押し潰されて衝撃を吸収する。さらに、その衝突荷重は、取付プレート33を介して車幅方向外側の板状半筒体31B側を図4に示すように外側から内側へ向け斜め前方方向に押圧する。エクステンション本体31は、車幅方向内側の板状半筒体31Aが、車幅方向外側の板状半筒体31Bの稜線31Ba,31Bbの本数よりも多い本数からなる稜線31Aa,31Abと、を有していることによって、車幅方向内側の板状半筒体31Aの強度が車幅方向外側の板状半筒体31Bの強度よりも強化されて頑丈に形成されている。
【0063】
このため、バンパビームエクステンション3は、斜め後方から衝突荷重が作用すると、まず、強度の弱い車幅方向外側の板状半筒体31B側が前方向に局部的に押し潰れて衝突荷重を吸収する。このとき、車幅方向内側の板状半筒体31Aは、衝突荷重を支えてバンパビームエクステンション3全体が傾倒するのを抑制する。
その後、さらに、バンパビームエクステンション3に衝突荷重がかかると、その車幅方向外側の板状半筒体31Bの衝突変形に連動するようにして、車幅方向内側の板状半筒体31Aが、車幅方向外側の板状半筒体31Bと共に前方向に押し潰れて、バンパビームエクステンション3全体が潰れるクラッシュストロークにより、衝突荷重(衝突エネルギー)を吸収することができる。
さらに、残りの衝突荷重は、フランジ部材32を介してリヤフレーム2に伝えられて、支えられる。このため、斜め方向の後面軽衝突の場合は、リヤフレーム2が衝突変形することがない。
【0064】
<重度の後面衝突の場合>
自車に衝突する衝突バリアBが、前記した後面軽衝突のときよりも高速で、重度の後面衝突である場合は、バンパビーム4が衝突バリアBによって前側方向に押圧されると、バンパビーム4及びバンパビームエクステンション3が前記同様に押し潰されて変形し、さらに、リヤフレーム2が押し潰されて変形することにより、クラッシュストロークにより衝突荷重が適宜に吸収される。
このように、リヤフレーム2は、軽度の後面衝突時に衝突変形しないが、衝突荷重が大きい重度の後面衝突時に押し潰されながら衝突荷重を緩衝して吸収する。
【0065】
以上のように、本発明に係る後部車体構造は、自車に他車等の衝突バリアBがあらゆる方向からの後面衝突した場合や、自車が障害物等の衝突バリアBに後面衝突した場合に、効率よく衝撃エネルギーを吸収できるように対応した構造になっている。
【0066】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造及び変更が可能であり、本発明はこれら改造及び変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0067】
前記実施形態では、バンパビームエクステンション3は、縦断面視して略六角形のものを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、バンパビームエクステンション3は、車幅方向内側の板状半筒体31Aの稜線31Aa,31Abの本数が、板状半筒体31Bの稜線31Ba,31Bbの本数よりも多くあれば、略六角形以上の多角形でも構わない。
【0068】
また、バンパビームエクステンション3は、鋼板から形成されたものを例に挙げて説明したが、材料等は特に限定されない。バンパビームエクステンション3は、鋼板以外のアルミニウム等の他の金属や、樹脂等の他の材料で形成しても構わない。
【符号の説明】
【0069】
1 車体
2 リヤフレーム
2a,3a,4a 上壁
2b,3b 下壁
2c 後端部
3 バンパビームエクステンション
3c 前端部
4 バンパビーム
4c 側壁
4e 上部
4f 下部
5,6 締結材
31A,31B 板状半筒体
31Aa,31Ab,31Ba,31Bb 稜線
31Ac 上端部
31f、31g 重合部
H,H1,H2,H3,H4 高さ
t1,t2 肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヤフレームの中心線から上壁までの高さと、前記中心線上からバンパビームの上壁の高さとの中間の高さに、バンパビームエクステンションの上壁を設定し、
前記リヤフレームの下壁から前記中心線までの高さと、前記バンパビームエクステンションの下壁から前記中心線までの高さとを揃えたことを特徴とする後部車体構造。
【請求項2】
前記バンパビームは、車体前後方向の縦断面形状が、日の字状または目の字状のアルミ押出材からなり、前記バンパビームエクステンション側の側壁の上部の肉厚が、下部の肉厚より厚く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の後部車体構造。
【請求項3】
前記バンパビームエクステンションは、左右の折曲加工した2つの金属製の板状半筒体を接合して多角筒状に構成され、車幅方向内側の稜線の数が、車幅方向外側の稜線の数よりも多いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の後部車体構造。
【請求項4】
前記バンパビームエクステンションは、車幅方向内側に配置された前記板状半筒体の上端部に、車幅方向外側の前記板状半筒体に重ねて接合する重合部を形成し、該上端部に外側へ行くフランジを設けたことを特徴とする請求項3に記載の後部車体構造。
【請求項5】
前記バンパビームエクステンションの前端部と、リヤフレームの後端部とは、左右上下のうちの少なくとも三箇所をそれぞれ締結材で締結していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−51454(P2012−51454A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195359(P2010−195359)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】