説明

徐放性生分解性被覆剤および徐放性生分解性被覆体

【課題】 被覆剤として用いるポリ乳酸系生分解性樹脂が水分散体を形成することができるものであると、被被覆成分を水分散体に溶解または分散させ、ついで水分散体自体を噴霧し水分を蒸散させて粒子状とする等の方法によって、容易に生分解性被覆体を得ることができ、好都合である。しかも、ポリ乳酸系生分解性樹脂が界面活性剤の添加なしに水分散体を形成することができる自己乳化性のものであると、生分解の過程で界面活性剤を環境中に放出することがなく、より環境負荷が少なくなり、好ましい。
【解決手段】 ポリ乳酸セグメントとスルホン酸塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂からなる徐放性生分解性被覆剤、該被覆剤によって、被被覆成分を被覆した徐放性生分解性被覆体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸セグメントとスルホン酸塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂からなる徐放性生分解性被覆剤、およびこれにより被被覆成分を被覆した徐放性生分解性被覆体に関する。ここで徐放性生分解性被覆剤とは、土壌、河川湖沼および海洋等の表面及び内部等の自然環境中において、微生物等の生物により徐々に分解され、その過程で被被覆成分を長期間にわたって持続的に放出し続ける作用を示す被覆剤のことを指す。また、被被覆成分とは、例えば、殺生物剤、有害生物忌避剤または誘引剤、および/または植物生長調節剤である。
【背景技術】
【0002】
農薬や肥料をポリ乳酸系生分解性樹脂により被覆し徐放性農薬や緩効性肥料とすることが従来から知られている(例えば特許文献1、2)。また、生物付着防止剤とポリ乳酸系生分解性樹脂からなるバインダーを含有する塗料を用いて船底、水中構造物および魚網等の生物付着防止を行うことが知られている(例えば特許文献3、4)。しかしながら、いずれのポリ乳酸系生分解性樹脂も界面活性剤の併用なしに水分散性を示すものはなく、水分散体を形成させるためには界面活性剤の併用が必須であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−286403号公報
【特許文献2】特開2001−146570号公報
【特許文献3】特開2001−064089号公報
【特許文献4】特開平11−106304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被覆剤として用いるポリ乳酸系生分解性樹脂が水分散体を形成することができるものであると、被被覆成分を水分散体に溶解または分散させ、ついで水分散体自体を噴霧し水分を蒸散させて粒子状としたり、何らかの担体の共存下に噴霧し担体表面および/または担体内部に付着させたり、何らかの被着体に塗布し塗膜を形成させたりすることによって、容易に生分解性被覆体を得ることができ、好都合である。しかも、ポリ乳酸系生分解性樹脂が界面活性剤の添加なしに水分散体を形成することができる自己乳化性のものであると、生分解の過程で界面活性剤を環境中に放出することがなく、より環境負荷が少なくなり、好ましい。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、乳化剤を添加しなくても安定な水分散体を形成することのできる自己乳化機能を有するポリ乳酸系樹脂からなる徐放性生分解性被覆剤および徐放性生分解性被覆体を提供することである。本発明は、以下の構成からなる。
(1) ポリ乳酸セグメントとスルホン酸塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂からなる徐放性生分解性被覆剤。
(2) 前記スルホン酸塩基含有セグメントが共重合ポリエステルからなる(1)記載の徐放性生分解性被覆剤。
(3) 前記スルホン酸塩基がスルホン酸金属塩基、スルホン酸四級アンモニウム塩基またはスルホン酸四級スルホニウム塩基のいずれか1種または2種以上である(1)または(2)に記載の徐放性生分解性被覆剤。
(4) ポリ乳酸ジオール(A)、 スルホン酸塩基含有ジオール(B)、 (A)(B)以外のジオール(C)、 を、ジイソシアネート化合物(D)との重付加反応により結合した構造からなる共重合ポリウレタン樹脂からなる徐放性生分解性被覆剤。
(5) 前記スルホン酸塩基の濃度が50eq/ton以上500eq/ton以下である(1)〜(4)いずれかに記載の徐放性生分解性被覆剤。
(6) 前記ジオール(C)が2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3’−ヒドロキシプロパネートを含有する(4)に記載の徐放性生分解性被覆剤。
(7) 前記ジオール(C)がポリエーテルジオールを含有する(4)に記載の徐放性生分解性被覆剤。
(8) 前記ジオール(A)、(B)、(C)の合計の0.1モル%以上5モル%以下が3官能以上のポリオールに置換されている(4)に記載の徐放性生分解性被覆剤。
(9) 前記ジイソシアネート化合物(D)の0.1モル%以上5モル%以下が3官能以上のポリイソシアネートに置換されている(4)に記載の徐放性生分解性被覆剤。
(10) 前記ジオール(A)を構成するL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が1〜9であり、前記ジオール(A)に対するL−乳酸残基とD−乳酸残基の合計重量分率が50重量%以上である(4)に記載の徐放性生分解性被覆剤。
(11) (1)〜(10)いずれかに記載の生分解性被覆剤によって、被被覆成分を被覆した徐放性生分解性被覆体。
(12) 前記被被覆成分が、殺虫、除草、除菌、防黴、生物誘引および生物忌避のいずれか1種以上の機能を有するものである(11)に記載の徐放性生分解性被覆体。
(13) 前記被被覆成分が、生物に対する生理活性、生長促進および栄養補給のいずれか1種以上の機能を有するものである(11)に記載の徐放性生分解性被覆体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の生分解性被覆剤は、適度な生分解速度を有するので、自然環境中に放置されると長期間にわたって徐々に生分解され、それに伴って被被覆成分を環境中に徐々に放出する。このため、肥料、農薬、防黴剤、殺菌剤、生物忌避剤等の被被覆剤を本発明の生分解性被覆剤で被覆して形成した被覆体は、被被覆剤の持続放出性に優れる。また、本発明の生分解性被覆剤は、その好ましい実施態様において造膜性に優れる水分散体を形成することができ、塗膜の形態で用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<徐放性生分解性被覆体>
本発明における徐放性生分解性被覆体は、被被覆成分を本発明における徐放性生分解性被覆剤によって被覆したものである。本発明の徐放性生分解性被覆体には、被被覆成分および本発明の徐放性生分解性被覆剤以外の成分が配合されていても良く、例えば、他の生分解性樹脂、非生分解性樹脂、加水分解促進剤、加水分解抑制剤、等が配合されていてもよい。また、徐放性生分解性被覆体とは、被被覆成分が徐放性生分解性被覆剤で被覆されているものを指すが、被被覆成分と同じ成分が被覆体の内部に存在するのみならず外表面にも付着しているものをも含む。
【0008】
本発明における徐放性生分解性被覆体は、土壌、河川湖沼および海洋等の表面及び内部等の自然環境中において、微生物等の生物により徐々に分解され、その過程で被被覆成分を長期間にわたって持続的に放出し続ける作用を示す。このため、適切な被被覆成分を選択することによって、徐放性農薬、緩効性肥料、持続性防汚塗料等として用いることができる。
【0009】
<被被覆成分>
本発明における被被覆成分は、自然環境中で徐放させることが望まれる成分であれば、とくに限定されない。本発明における被被覆成分の具体例としては、殺虫、除草、除菌、防黴、生物誘引および生物忌避等の生物の駆除作用が期待できる成分、生理活性物質や肥料等の生物に対する生長促進作用および/または栄養補給作用が期待できる成分等を挙げることができる。また、被被覆成分は、単一成分に限定されず複数成分からなるものであっても良い。
【0010】
<徐放性生分解性被覆剤>
本発明の徐放性生分解性被覆剤はポリ乳酸セグメントとスルホン酸塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂からなる。前記スルホン酸塩基含有セグメントは共重合ポリエステルからなることが好ましく、前記スルホン酸塩基はスルホン酸金属塩基、スルホン酸四級アンモニウム塩基またはスルホン酸四級スルホニウム塩基のいずれか1種または2種以上であることが好ましい。また、前記共重合ポリウレタン樹脂は、ポリ乳酸ジオール(A)、 スルホン酸塩基含有ジオール(B)、 (A)(B)以外のジオール(C)、を、ジイソシアネート化合物(D)との重付加反応により結合した構造からなるものであることが好ましい。
【0011】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に共重合されるスルホン酸塩基含有セグメント(B)は、スルホン酸塩基を有する二塩基酸或いはそのジエステル化合物と、グリコール成分との縮合反応により得られる化学構造を有するポリエステルジオール化合物、であることが好ましい。前記スルホン酸塩基の好ましい例としては、スルホン酸金属塩基、スルホン酸四級アンモニウム塩基、スルホン酸四級ホスホニウム塩基を挙げることができる。前記スルホン酸金属塩基としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。スルホン酸四級アンモニウム塩基、スルホン酸四級ホスホニウム塩基としては、テトラアルキルアンモニウム塩およびテトラアルキルホスホニウム塩を挙げることができ、ここでアルキル基は炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、必ずしも1種のアルキル基から構成されている必要はない。
【0012】
前記スルホン酸塩基を有する二塩基酸としては、イソフタル酸−5−スルホン酸塩、テレフタル酸−3−スルホン酸塩、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物−4−スルホン酸塩から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0013】
前記スルホン酸塩基を有する二塩基酸のジエステル化合物としては、イソフタル酸−5−スルホン酸塩、テレフタル酸−3−スルホン酸塩、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物−4−スルホン酸塩から選ばれる1種以上である二塩基酸のジエステル化合物であることが好ましい。また、メタノール、エタノール等のモノアルコールとのジエステル化合物、あるいは、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオールとのジエステル化合物であることが好ましい。特に、下記一般式(1)に示す化合物であることが素原料の汎用性の点で特に好ましい。
【化1】

(但し、Rは炭素数2〜5の2価の飽和脂肪族炭化水素基、MはLi、Na、K、四級アンモニウムまたは四級ホスホニウム、mは正の整数、nは正の整数、m+nは2〜10の整数を示す)
なお、前記一般式(1)において、前記四級アンモニウムとしては下記一般式(2)、前記四級ホスホニウムとしては下記一般式(3)であることが好ましい。
【化2】

(但し、R1、R2、R3、R4は同一であっても異なってもよい炭素数1〜18の炭化水素基を示す)
【化3】

(但し、R5、R6、R7、R8は同一であっても異なってもよい炭素数1〜18の炭化水素基を示す)
【0014】
以下、本発明の共重合ポリウレタン樹脂において、分子中に有するスルホン酸塩基としてスルホン酸金属塩基を用いる場合を代表として詳述する。
【0015】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂はスルホン酸金属塩基を分子中に有し、このスルホン酸金属塩基により自己乳化機能を発現し、小さな水分散体粒子を形成する。スルホン酸金属塩基の濃度は、50eq/ton以上500eq/ton以下であることが好ましく、より好ましくは100eq/ton以上300eq/ton以下、さらに好ましくは150eq/ton以上260eq/ton以下である。スルホン酸金属塩基濃度が低すぎると形成される水分散体粒子の粒子径が大きくなり、保存安定性、及びコーティング適性が低下する。また、スルホン酸金属塩基濃度が高すぎるとポリウレタン溶液の溶液粘度が高くなり、重合反応が困難となる傾向がある。ここで言及するコーティング適性とはエマルジョン液を基材上に塗布し、引き続き乾燥させた際、透明性に優れた平滑なコート層が得られる特性を指す。コーティング適性が悪い場合、乾燥塗膜表面が粗面になり、透明性が低下する、或いは造膜特性自体が得られず、コーティング層が形成されずにぼろぼろになったフィルムの屑が形成される。
【0016】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂におけるポリ乳酸セグメントおよびスルホン酸金属塩基含有セグメントは、例えば、ポリ乳酸含有ジオールとスルホン酸金属塩基含有ジオールとジイソシアネートの重付加反応によって得ることができる。更に異なるジオール成分を共存させて重付加反応を行うことも可能であり、用いるジオール成分の選択により、種々の機能を付加したりすることができる。
【0017】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に共重合されるスルホン酸金属塩基含有セグメントは、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸或いはそのジエステル化合物と、グリコール成分との縮合反応により得られる化学構造を有するポリエステルジオール化合物であることが好ましい。前記スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、3−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−カリウムスルホ−1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物から選ばれる1種以上であることが好ましい。また前記スルホン酸金属塩基としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩を挙げることができる。このうち、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が汎用性と共重合される事により得られたスルホン酸金属塩基含有セグメントの汎用溶剤への溶解性の点で特に好ましい。また、前記グリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3’−ヒドロキシプロパネート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール類や1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族グリコール類或いはビスフェノールAの両末端水酸基へのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物の様な芳香族系グリコール類から選ばれる1種以上であることが好ましい。これらグリコール成分のうち、得られたスルホン酸金属塩基含有ポリエステルジオール化合物の汎用溶剤への溶解性の面からは、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3’−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールが好ましい。更に好ましくは2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3’−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、最も好ましくは2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3’−ヒドロキシプロパネートである。
【0018】
前記スルホン酸金属塩基含有セグメントにおいて、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸或いはそのジエステル化合物以外の二塩基酸及びそれらのジエステル化合物を、全酸性分を100モル%としたとき90モル%未満の範囲で共重合させることにより、スルホン酸金属塩基含有セグメントの溶剤溶解性を向上させる事が出来る。具体的な二塩基酸成分としてはナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族二塩基酸や、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族二塩基酸、或いは1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸及びそれらのジエステル化合物が挙げることができる。
【0019】
前記スルホン酸金属塩基含有セグメントの数平均分子量は200〜2000であることが好ましく、より好ましくは250〜1500、更に好ましくは300〜1100の範囲である。数平均分子量が低すぎると、スルホン酸塩基含有セグメントの極性が高くなりすぎて他の原料との相溶性が悪くなり均一な反応が起こりにくくなる、或いはスルホン酸塩基含有セグメントの分子末端に水酸基を有さない成分が多くなり共重合性が悪くなる、といった傾向がある。一方、数平均分子量が高すぎると共重合ポリウレタン樹脂に占めるスルホン酸金属塩基含有セグメントの共重合比率が高くなりポリ乳酸ジオール成分の共重合比率が低下してしまうという弊害がある。
【0020】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に共重合されるポリ乳酸セグメントは、ポリオールを開始剤としてラクチドを開環付加することによって得ることができる化学構造を有するポリエステルジオールであることが好ましい。前記ポリオールはジオールであることが好ましく、更に好ましくは脂肪族ジオールである。
【0021】
また本発明のポリ乳酸セグメント中のL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)は1〜9であることが好ましく、この範囲ではポリウレタン重合時の反応溶媒への良好な溶解性とウレタン反応性が得られる。L−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が上記範囲を外れると、ポリ乳酸セグメントの汎用溶剤への溶解性が悪くなり、共重合反応性が低下する。
【0022】
また、本発明のポリ乳酸セグメントにおいて、バイオマス度を高くするとの観点からは、乳酸残基の含有量を高くすることが好ましい。具体的には、ポリ乳酸セグメントに占めるL−乳酸残基とD−乳酸残基の合計重量分率を50重量%以上とすることが好ましく、70重量%以上とすることがより好ましく、90重量%以上とすることがさらに好ましい。
【0023】
本発明のポリ乳酸セグメントの合成方法としては以下2種の方法を例示できる。
<第1の合成法>スルホン酸金属塩基を含有しないジオールを開始剤としてラクチドモノマーを開環付加重合させる方法。
<第2の合成法>スルホン酸金属塩基を含有するジオールを開始剤としてラクチドモノマーを開環付加重合させる方法。
【0024】
前記<第1の合成法>で使用される開始剤は、前記スルホン酸金属塩基含有セグメントの構成成分として例示した種々のグリコール類を用いる事が出来る。これらのうち、エチレングリコール、2−メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の比較的分子量の低いグリコール類を用いることにより、バイオマス度を比較的高く保つことができ、好ましい。この場合得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸ジオールと前記スルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合する事で本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0025】
前記<第2の合成法>で使用される開始剤は、前記スルホン酸金属塩基含有セグメントおよび/または5−ナトリウムスルホイソフタル酸への2倍モルのエチレングリコール縮合付加物等のスルホン酸金属塩基含有ジオールを用いる事が出来る。この場合、得られたポリ乳酸セグメントにはスルホン酸金属塩基が含有されているのでスルホン酸金属塩基含有セグメントでもあり、これをウレタン共重合させる事で本発明の共重合ポリウレタン樹脂が得られる。
【0026】
また、前記<第2の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントと前記<第1の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸セグメントをウレタン共重合させる事によっても、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。さらには、前記<第2の合成方法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントとポリ乳酸成分を含有しないスルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合すること、前記<第2の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントと前記<第1の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸セグメントとポリ乳酸成分を含有しないスルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合することによっても本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。これらの方法は、共重合ポリウレタン樹脂のスルホン酸金属塩基の濃度の制御が容易である点で優れている。
【0027】
前記ポリ乳酸セグメントの数平均分子量は400〜10000であることが好ましく、より好ましくは800〜5000、更に好ましくは1000〜3000の範囲である。数平均分子量が400未満では開始剤に開環付加させるラクチドモノマー量が少なく、得られる共重合ポリウレタン樹脂のバイオマス度を上げる事が出来ない。一方、数平均分子量が10000を越える場合、分子末端の水酸基の数が少ないのでポリ乳酸ジオールの反応性が低くなり、ウレタン共重合による高分子量化反応が進みにくくなる。
【0028】
本発明の好ましい実施態様において、共重合ポリウレタン樹脂にポリエーテルセグメントを共重合させる事により、フィルム等へのコーティング適性を向上させることが出来る。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられるが、これらのうち、ポリエチレングリコールがコーティング適性改善効果の点で最も好ましい。本発明の共重合ポリウレタン樹脂中への共重合率は5重量%〜20重量%が好ましい。5重量%未満ではフィルム等へのコーティング適性を向上する効果があまり発現されず、20重量%を越えると共重合ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が低下し、フィルム用コーティング剤として用いた場合、耐ブロッキング特性が低下する傾向にあり好ましくない。また共重合されるポリエーテルセグメント鎖の数平均分子量は200〜6000のものが好適であるが、共重合反応性とコーティング適性を高める効果からより好ましくは400〜2000、更に好ましくは400〜1000である。
【0029】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂にポリエーテルセグメントを共重合させる場合、ポリエーテル化合物としてポリプロピレングリコールおよび/またはポリテトラメチレングリコールを用いることも好ましい実施態様である。これらの実施態様では耐水性に優れるコーティング塗膜が得られる傾向にある。
【0030】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物(D)としては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート、またはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびm−キシレンジイソシアネートの水添物等の脂肪族、脂環族系ジイソシアネートが挙げられるが、これらの内、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが汎用性の面から好ましい。
【0031】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物の一部を3官能以上のポリイソシアネートで置換することにより、共重合ポリウレタン樹脂の分子量を上げやすくすること、また硬化剤との反応性を向上させることが可能である。但し、3官能ポリイソシアネートの置換比率が低すぎるとこれらの効果が発揮されず、置換比率が高すぎると共重合ポリウレタン樹脂のゲル化が生じるので、3官能以上のポリイソシアネートへの置換率は0.1モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以上3モル%以下であることが更に好ましい。好ましい3官能以上のポリイソシアネートとしては、トリメチロールプロパン或いはグリセリン各々1分子に対し、3分子のトリレンジイソシアネートもしくは3分子の1,6−ヘキサンジイソシアネートの付加物、さらには3分子の1,6−ヘキサンジイソシアネートで形成されるイソシアヌレート環を有する化合物を挙げることができる。
【0032】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂にジオール化合物やアミノアルコール化合物、ジアミン化合物を共重合させることにより、塗膜の強靭性を向上させることが出来る場合がある。ジオール化合物としては例えば前記スルホン酸金属塩基含有セグメントの構成成分として例示した種々のグリコール類を挙げることができる。エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2−メチルプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、N−メチルモノエタノールアミン、エチレンジアミン等の比較的低分子量の化合物が、バイオマス度を比較的高く保つことができ、好ましい。
【0033】
また本発明の共重合ポリウレタン樹脂に、トリメタノールプロパン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール等のポリオール化合物を、得られる共重合ポリウレタン樹脂がゲル化しない範囲で共重合させることにより、共重合ポリウレタン樹脂の分子量を上げやすくする、或いは硬化剤との反応性を向上させる事が可能である。これらポリオールの中ではバイオマス度を比較的高く保つことができるので、分子量の小さいトリメチロールプロパンが好ましい。ポリオール化合物の共重合比率は、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を構成するポリ乳酸ジオール(A)、スルホン酸金属塩基含有ジオール(B)、(A)(B)以外のジオール(C)の合計に対し、0.1モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以上3モル%以下であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂により形成される水系エマルジョン粒子の平均粒子径は200nm以下であることが好ましい。平均粒子径が200nmを越えるとエマルジョン液の保存安定性が悪く、保存中に樹脂が沈殿し易い。また、コーティング適性も低下し、透明で平滑なコート層が形成されにくい。
【0035】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂の数平均分子量は5000以上40000未満である事が好ましい。より好ましくは8000以上30000未満、更に好ましくは10000以上25000未満である。5000未満では一分子中のスルホン酸金属塩基濃度が低く、安定なエマルジョン粒子を形成出来ない。また、コートして得られるコート膜も脆くなる。一方40000を越える場合、エマルジョンのコーティング適性が低下し、平滑なコート層が形成されにくくなる。
【0036】
<徐放性生分解性被覆体の製造方法>
本発明の徐放性生分解性被覆体の製造方法は特に限定されないが、本発明の共重合ポリウレタン樹脂の水分散体を経由して製造されることが好ましい。被被覆成分を水分散体に溶解または分散させ、ついで水分散体自体を噴霧し水分を蒸散させて粒子状としたり、何らかの担体の共存下に噴霧し担体表面および/または担体内部に付着させたり、何らかの被着体に塗布し塗膜を形成させたりすることによって、容易に生分解性被覆体を得ることができ、好都合だからである。しかも、ポリ乳酸系生分解性樹脂が界面活性剤の添加なしに水分散体を形成することができる自己乳化性のものであると、生分解の過程で界面活性剤を環境中に放出することがなく、より環境負荷が少なくなり、より好ましい。また、有機溶剤を含有しないまたは有機溶剤の使用量が少ない水分散体であれば、被覆体の製造工程および被覆体の使用の両方の場面において、有機溶剤を環境中に放出することがないまたは少なく、より環境負荷が少なくなり、より好ましい。
【0037】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂の水分散体は、例えば、まず第一段階においてメチルエチルケトン(以下、MEKと略記する場合がある)溶液中で共重合ポリウレタン樹脂を重合し、次いで第二段階で得られた樹脂のMEK溶液に水を混合し、次いで系からMEKを留去させる方法で調製することができるが、この方法に限ったものではない。
【0038】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂は水100%中にポリマー粒子が分散した分散液として安定に保存かつ基材に塗布可能であるが、共溶剤としてメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級モノアルコール類、或いはエチルアセテート、ブチルアセテート等のアセテート類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤を任意の濃度で配合し、特定基材へのコーティング適性を更に改善させても良い。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例、比較例において、特記しないかぎり、部は重量部をあらわすものとする。
【0040】
尚、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
(1)数平均分子量
ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)150Cを用い、テトラヒドロフランをキャリアー溶剤とし、示差屈折計(RI)検出器を用いて流速1ml/分で測定した。カラムとして昭和電工(株)製 Shodex KF−802、KF−804、KF−806を3本連結しカラム温度は30℃に設定した。分子量標準サンプルとしてはポリスチレン標準物質を用いた
【0041】
(2)スルホン酸塩基含有ジオールオリゴマーの酸価
80%トルエン溶液0.2gを20mlのテトラヒドロフランに溶解後、0.1N−NaOHエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値を樹脂固形分10g中の当量で示した。
【0042】
(3)ポリ乳酸オリゴマーの酸価
樹脂0.5gをクロロホルム/メタノール=3/1混合溶液20mlに溶解後、0.1N−ナトリウムメトキシドメタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値を樹脂固形分10g中の当量で示した。
【0043】
(4)ガラス転移温度
サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0044】
(5)ポリマー組成
試料をクロロホルム−dに樹脂を溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)“ジェミニ−200”を用い、H−NMRにより樹脂組成比を求めた。
【0045】
(6)エマルジョン粒子の平均粒子径
HORIBA LB−500を用いて体積粒子径基準の算術平均径を測定し、エマルジョン粒子の平均粒子径として採用した。
【0046】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。
NPG:ネオペンチルグリコール
TMP:トリメチロールプロパン
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
PEG#1000:ポリエチレングリコール、数平均分子量1000
MEK:メチルエチルケトン
IPA:イソプロピルアルコール
【0047】
ポリ乳酸ジオールN1の製造例
撹拌棒、温度計、リービッヒ冷却管を具備した容積2Lのガラス製4つ口フラスコにL−ラクチド900部、D−ラクチド100部、ネオペンチルグリコール55部、及び触媒としてオクチル酸錫0.14部を仕込み、常温下の乾燥窒素ガス気流中で30分乾燥させた後、更に30分間減圧乾燥し、フラスコを180℃に昇温した。180℃で均一撹拌しつつ3時間反応させた後、同温度で系を減圧し、未反応モノマーを溜去した。30分で減圧を終了し、内容物を離型耐熱バットに流し出した。得られたポリ乳酸ジオールN1の酸価は12当量/ton、数平均分子量は2300であった。
【0048】
スルホン酸塩基含有ポリエステルジオールS1の製造例
撹拌棒、温度計、リービッヒ冷却管を具備した容積2Lのガラス製4つ口フラスコに291部の5−ナトリウムスルホイソフタル酸、918部の2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3’−ヒドロキシプロパネート、触媒として0.16部のテトラブチルチタネート及び安定剤として15部のトリエチルアミンを添加し、180℃に昇温した。発生するメタノールを溜去しつつ反応温度を徐々に昇温し、3時間で230℃まで昇温した。メタノールの溜出が終了したことを確認し、ついで反応温度を更に250℃まで昇温した。250℃に温度が到達後、系を10分間減圧し反応を終了した。得られた反応物を乾燥窒素ガス気流下に冷却し100℃以下になったところで、生成ポリマー成分の濃度が80重量%となる様にトルエンで希釈し、均一に撹拌溶解させた。冷却後、吸湿を避け、密閉容器に保存した。
【0049】
共重合ポリウレタン樹脂P1の製造例
撹拌棒、温度計、コンデンサーを具備した容積1Lのガラス製4つ口フラスコに、100部のポリ乳酸ジオールN1、32.5部のスルホン酸塩基含有ポリエステルジオールS1及び100部のMEKを仕込み、均一に溶解した。ついで50℃に加熱し、40部の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を添加した。70℃で更に30分反応させた後、19部のポリエチレングリコール(PEG#1000)を追加した。30分後に触媒として0.04部のジブチルチンジラウレートを添加し、70℃で更に2時間反応させた後、184部のMEKで希釈し、次いで4部のトリメチロールプロパンを加えた。2時間後、152部のMEKを加えて固形分濃度30重量%に希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂P1の数平均分子量は23700であった。
【0050】
実施例1
撹拌棒、温度計、リービッヒ冷却管を具備した2Lガラス製4つ口フラスコに共重合ポリウレタン樹脂P1の30重量%MEK溶液500部とイソプロピルアルコール(IPA)90部を仕込み、40℃で撹拌し溶解した。次に脱イオン水300部を徐々に注入し、40℃で系が均一になるまで撹拌した。ついで系を40℃に保ちつつ減圧し、MEK、IPA及び水を合計460部溜去した。得られた水分散体E1の固形分濃度は35重量%、平均粒子径は71nm、数平均分子量は20600、ガラス転移温度(Tg)は44℃であった。次いで、平均粒径4mmの窒素系粒状肥料成分に、噴流被覆装置を用いて水分散体E1を噴霧被覆し、高温の熱風により水分を蒸発乾燥して被覆粒状の徐放性生分解性被覆体H1を得た。
平均粒径4mmの窒素系粒状肥料成分に、噴流被覆装置を用いて水分散体E1を噴霧被覆し、高温の熱風により水分を蒸発乾燥して被覆粒状の徐放性生分解性被覆体H1を得た。
水分散体E1をポリプロピレンフィルムに塗工し60℃の熱風乾燥機中で乾燥し、ついでポリプロピレンシートから剥離させ、乾燥厚み約20μmの共重合ポリウレタン樹脂P1からなるシートを作成した。このシートを用いて、好気性暗所下での生分解性を評価した。具体的な評価方法はASTM−D5338に準拠した。評価結果を表1に示した。このシートの分解速度は、後述する共重合ポリウレタン樹脂P2からなるシートと比較すれば速いものの、セルロースよりは遅いことが判明した。共重合ポリウレタン樹脂P1は、徐放性を示し、かつ、比較的短期間で被被覆成分の放出を終了させたい場合の被覆剤および被覆体に適する。
【0051】
ポリ乳酸ジオールN2の製造例
ポリ乳酸ジオールN1と同様にして、但し、ネオペンチルグリコールの仕込み量を36部に変更して、ポリ乳酸ジオールN2を得た。N2の酸価は14当量/ton、数平均分子量は3400であった。
【0052】
共重合ポリウレタン樹脂P2の製造例
撹拌棒、温度計、コンデンサーを具備したガラス製4つ口フラスコに50部のポリカロラクトンジオール(PCL)、21部のスルホン酸塩基含有ポリエステルジオールS1及び100部のMEKを仕込み、均一に溶解した。ついで50℃に加熱し、22部のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を添加した。70℃で更に30分反応させた後、100部のポリ乳酸ジオールN2を加えた。30分後に触媒として0.04部のジブチルチンジラウレートを添加し、70℃で更に2時間反応後、194部のMEKで希釈して3部のトリメチロールプロパンを加えた。2時間後158部のMEKを加えて固形分濃度30重量%に希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂P2の数平均分子量は23900であった。
【0053】
実施例2
撹拌棒、温度計、リービッヒ冷却管を具備した2Lガラス製4つ口フラスコに共重合ポリウレタン樹脂P2の30重量%MEK溶液500部とイソプロピルアルコール(IPA)90部を仕込み40℃で均一に溶解した。次に脱イオン水300部を徐々に注入し、40℃で系が均一になるまで撹拌した。ついで系を40℃に保ちつつ減圧し、MEK、IPA及び水を合計470部を溜去した。得られた水分散体E2の固形分濃度は36重量%、平均粒子径は108nm、数平均分子量は22500、ガラス転移温度(Tg)は0℃であった。
平均粒径4mmの窒素系粒状肥料成分に、噴流被覆装置を用いて水分散体E2を噴霧被覆し、高温の熱風により水分を蒸発乾燥して被覆粒状の徐放性生分解性被覆体H2を得た。
水分散体E2をポリプロピレンフィルムに塗工し60℃の熱風乾燥機中で乾燥し、ついでポリプロピレンシートから剥離させ、乾燥厚み約20μmの共重合ポリウレタンP2からなるシートを作成した。このシートを用いて、好気性暗所下での生分解性を評価した。具体的な評価方法はASTM−D5338に準拠した。評価結果を表1に示した。このシートの生分解速度は比較的遅く、比較的長期間にわたる被被覆成分の放出が必要な場合の被覆剤および被覆体に適する。
【0054】
共重合ポリウレタン樹脂P3の製造例
撹拌棒、温度計、コンデンサーを具備した容積1Lのガラス製4つ口フラスコに100部のポリ乳酸ジオールN1と100部のMEKを仕込み、均一に溶解した。ついで50℃で23部の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を添加し、70℃で30分反応させた後、20部のポリエチレングリコール(PEG#1000)を追加した。30分後に触媒として0.02部のジブチルチンジラウレートを添加し、70℃で更に2時間反応後、122部のMEKで希釈し、ついで4部のトリメチロールプロパンを加えた。2時間後124部のMEKを加えて固形分濃度30重量%に希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂P3の数平均分子量は24200であった。
【0055】
共重合ポリウレタン樹脂P4の製造例
撹拌棒、温度計、コンデンサーを具備したガラス製4つ口フラスコに75部のポリカロラクトンジオール(PCL)と50部のMEKを仕込み、均一に溶解した。ついで50℃でヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を20部添加し、70℃で30分反応させた後、100部のMEKと100部のポリ乳酸ジオールN2を追加した。30分後に触媒として0.05部のジブチルチンジラウレートを添加し、70℃で更に2時間反応後、225部のMEKで希釈し、ついで4.5部のトリメチロールプロパンを加えた。2時間後208部のMEKで固形分濃度30重量%に希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂P4の数平均分子量は26300であった。
【0056】
比較例1、2
撹拌棒、温度計、リービッヒ冷却管を具備した2Lガラス製4つ口フラスコに共重合ポリウレタン樹脂P3、P4の30重量%MEK溶液500部とイソプロピルアルコール(IPA)90部を仕込み、40℃で溶解した。次に脱イオン水300部を徐々に注入し、40℃で撹拌したが系が均一にはならず、水分散体を得ることができなかった。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明における徐放性生分解性被覆体は、土壌、河川湖沼および海洋等の表面及び内部等の自然環境中において、微生物等の生物により徐々に分解され、その過程で被被覆成分を長期間にわたって持続的に放出し続ける作用を示す。このため、適切な被被覆成分を選択することによって、徐放性農薬、緩効性肥料、耐生物付着性コーティング剤等として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸セグメントとスルホン酸塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂からなる徐放性生分解性被覆剤。
【請求項2】
前記スルホン酸塩基含有セグメントが共重合ポリエステルからなる請求項1記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項3】
前記スルホン酸塩基がスルホン酸金属塩基、スルホン酸四級アンモニウム塩基またはスルホン酸四級スルホニウム塩基のいずれか1種または2種以上である請求項1または2に記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項4】
ポリ乳酸ジオール(A)、
スルホン酸塩基含有ジオール(B)、
(A)(B)以外のジオール(C)、
を、ジイソシアネート化合物(D)との重付加反応により結合した構造からなる共重合ポリウレタン樹脂からなる徐放性生分解性被覆剤。
【請求項5】
前記スルホン酸塩基の濃度が50eq/ton以上500eq/ton以下である請求項1〜4いずれかに記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項6】
前記ジオール(C)が2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3’−ヒドロキシプロパネートを含有する請求項4に記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項7】
前記ジオール(C)がポリエーテルジオールを含有する請求項4に記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項8】
前記ジオール(A)、(B)、(C)の合計の0.1モル%以上5モル%以下が3官能以上のポリオールに置換されている請求項4に記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項9】
前記ジイソシアネート化合物(D)の0.1モル%以上5モル%以下が3官能以上のポリイソシアネートに置換されている請求項4に記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項10】
前記ジオール(A)を構成するL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が1〜9であり、前記ジオール(A)に対するL−乳酸残基とD−乳酸残基の合計重量分率が50重量%以上である請求項4に記載の徐放性生分解性被覆剤。
【請求項11】
請求項1〜10いずれかに記載の生分解性被覆剤によって、被被覆成分を被覆した徐放性生分解性被覆体。
【請求項12】
前記被被覆成分が、殺虫、除草、除菌、防黴、生物誘引および生物忌避のいずれか1種以上の機能を有するものである請求項11に記載の徐放性生分解性被覆体。
【請求項13】
前記被被覆成分が、生物に対する生理活性、生長促進および栄養補給のいずれか1種以上の機能を有するものである請求項11に記載の徐放性生分解性被覆体。


【公開番号】特開2012−233023(P2012−233023A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100423(P2011−100423)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】