説明

循環式分散システム及び循環式分散方法

【課題】 分散装置の軸封部の構造を簡素化し且つ寿命を延ばすとともに、混合物の循環分散を実現する循環式分散システム及び循環式分散方法を提供する。
【解決手段】 スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら分散させる循環式分散システムにおいて、前記混合物を分散させるローター型且つ連続型の分散装置と、前記分散装置の出口側に接続されるタンクと、前記混合物を循環させる循環ポンプと、前記分散装置、前記タンク及び前記循環ポンプを直列的に接続する配管とを備え、前記分散装置は、該分散装置内部の前記混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら該混合物内の物質を分散させる循環式分散システム及び循環式分散方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラリー状の混合物や、液体状の混合物を循環させながら分散させるシステムとして、例えば特許文献1に記載されたものがある。このような循環式分散システムにおいて、ローター型且つ連続型の分散装置を採用するにあたり、以下のようなことを検討する必要がある。すなわち、ローター型且つ連続型の分散装置において、軸からの混合物の漏れを防ぐ軸封部として、Oリング、オイルシール、グランドパッキン、メカニカルシール等がある。固形分濃度が例えば40〜50%以上の高濃度のスラリー等を軸封する場合は、メカニカルシールを使う場合が多い。
【0003】
しかし、メカニカルシールは、構造が複雑でシール部分の寸法も大きく、コストも高いという問題がある。また、シール部に混合物が到達し、微粒子が混入するとシール面(軸封面)が傷み、機能が損なわれる可能性がある。そのため、ダブルメカニカルシール等の特別な高価で複雑な構成が必要になってしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−267991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、分散装置の軸封部の構造を簡素化し且つ寿命を延ばすとともに、混合物の循環分散を実現する循環式分散システム及び循環式分散方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る循環式分散システムは、スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら分散させる循環式分散システムにおいて、前記混合物を分散させるローター型且つ連続型の分散装置と、前記分散装置の出口側に接続されるタンクと、前記混合物を循環させる循環ポンプと、前記分散装置、前記タンク及び前記循環ポンプを直列的に接続する配管とを備え、前記分散装置は、該分散装置内部の前記混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくされる。
【0007】
本発明に係る循環式分散方法は、スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら分散させる循環式分散方法において、前記混合物をローター型且つ連続型の分散装置で分散させるとともに、該分散装置と、前記分散装置の出口側に接続されるタンクと、前記循環ポンプとを直列的に接続する配管により循環させるに際し、前記分散装置内部の前記混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくして、循環分散を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軸封部に混合物を到達させないことで、分散装置の軸封部の構造を簡素化する効果を得つつ、混合物の適切な循環分散を実現する。さらに、軸封部の寿命を延ばすことができるので、分散装置やシステム全体のメンテナンス回数も減らすことが実現できる。よって、本発明は、構成の簡素化、メンテナンスの簡素化、及び低コスト化を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用した循環式分散システムを説明するための概要図である。
【図2】図1の循環式分散システムを構成する分散装置の概略断面図である。
【図3】本発明を適用した循環式分散システムの他の例を示す概要図である。
【図4】本発明を適用した循環式分散システムの更に他の例を示す概要図である。
【図5】図4の循環式分散システムを構成する分散装置の概略断面図である。
【図6】循環式分散システムを構成する分散装置の他の例について説明する図であり、一対のローターの対向面にセラミック部材を用いた例を説明するためのローターの断面図である。
【図7】本発明を適用した循環式分散システムの更に他の例として、分散装置のローター及びステータの内いずれか一方を駆動する駆動機構を設けた例を示す概要図である。
【図8】本発明を適用した循環式分散システムを構成する分散装置の更に他の例として、バッファ部を有する分散装置を示す概略断面図である。
【図9】図8に示す分散装置の装置主要部の概略断面図である。
【図10】本発明を適用した循環式分散システムを構成する分散装置の更に他の例として、バッファ部を有する分散装置の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した循環式分散システム30について、図面を参照して説明する。以下で説明する循環式分散システム30は、スラリー状の混合物31を循環させながら分散(「固−液分散」又は「スラリー化」ともいう)させるものについて説明するが、本発明はこれに限られるものではなく液体状の混合物を循環させながら分散(「液−液分散」又は「乳化」ともいう)させるものについても同様の効果が得られるものである。また、分散とは、該混合物内の物質を分散させること、すなわち、該混合物内の各物質が均一に存在するように混ぜることを意味する。また、「混合物を循環させながら分散する」装置及び方法には、原料を循環させるとともに、添加物を加えながら循環分散を行うことを含むものとする。
【0011】
循環式分散システム30は、図1に示すように、混合物31を分散させるローター型且つ連続型の分散装置3と、分散装置3の出口側に接続されるタンク1と、タンク1の出口側に接続され混合物31を循環させる循環ポンプ2と、分散装置3、タンク1及び循環ポンプ2を直列的に接続する配管32とを備える。この分散装置3は、該分散装置3内部の混合物31が該分散装置3内部に設けられる軸封部16を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくされる。
【0012】
尚、ここで、タンク1や分散装置3や配管32内を循環する流体は、最初は原料であり、分散装置3を経由する毎に添加原料が次第に分散された混合物となり、最終的には分散処理済みの混合物となるが、上述及び以下の説明では、最初の「原料」も、処理途中の「混合物」も併せて「混合物」と呼ぶこととする。
【0013】
すなわち、循環式分散システム30は、中空の回転軸の中空部から混合物を供給する方式のローター型の連続分散装置3において、混合物を循環ポンプ2で分散装置3に供給し、分散装置3のケーシングであるローターカバー19から排出される混合物排出速度(「流出量」ともいう。)Qoutを循環ポンプ2による混合物供給速度(「流入量」ともいう。)Qinよりも大きくすることによって、ローターカバー19内に混合物を滞留させず、更に、回転するローター13,14の遠心力を利用することで、軸封部16に混合物を到達させないシステムである。
【0014】
以下、さらに具体的に説明する。図1及び図2に示すように、混合物の入っている貯蔵タンクとしてのタンク1は、その排出口が、循環ポンプ2に接続される。循環ポンプ2は、混合物を搬送して循環させる。循環途中の配管に設けられた供給装置6は、ホッパ4に貯蔵されている添加物5(液体または粉粒体)を、循環している混合物(最初は原料)に注入させる。添加物が添加された後の混合物は、タンク1の垂直(鉛直)方向の上方側に設置されたローター型の連続分散装置3内に、供給される。
【0015】
分散装置3のローター13,14は、互いに逆方向に回転するように構成されている。ローター13,14は、原料に添加物が均一に分散された状態とする。分散装置3のローター13,14間で分散処理された混合物は、分散装置3のローターカバー19内で滞留することなく重力によってタンク1に戻される。タンク1の中の混合物は、攪拌機7による攪拌で偏析などが防止される。
【0016】
ここで、添加原料5の供給装置6としては、スクリューフィーダ、ロータリーバルブ、プランジャーポンプなどを適宜用いることができる。また、供給装置6の設置場所としては、配管32中の任意の場所を選ぶことができる。また、供給装置6は、タンク1の上部等に設置してもよい。
【0017】
タンク1には、真空ポンプ8が接続される。この真空ポンプ8は、分散装置3からの排出量が不足する場合に、タンク内を減圧して、排出を補助することができる。また、この真空ポンプ8による減圧は、混合物に気泡が混入した場合の脱泡処理用としても機能する。
【0018】
以上のような循環式分散システム30において、運転時には、バルブ9は、常時開とされ、バルブ10、11は、常時閉とされている。分散処理が終了したらバルブ9は、閉とされ、バルブ10は、開とされる。これにより、バルブ10から処理物を排出・回収することができる。また、分散装置3や配管32の中に残った混合物は、バルブ11を開とすることで排出、回収される。なお、混合物の排出・回収用のバルブはタンクや配管の任意の場所に取り付けることができる。
【0019】
次に、分散装置3のローター部における混合物の流れについて、図2を用いて説明する。まず、循環ポンプ2から送られた混合物は、図1に示す電動機Mによって回転する中空軸の中心を通って一対の回転するローター13、14の隙間(せん断部)に供給される。供給された混合物は、遠心力により一対のローター13、14の隙間を通ってローター外周から放射状に放出される。このとき、混合物には、ローター13、14からせん断応力がかかり、分散が行われる。ローター13、14から放出された混合物は、ローターカバー19の内壁に衝突し、内壁に沿って流れ落ち、下部の排出口22から排出される。
【0020】
ローター13、14は、ローターカバー19から流れた混合物が回転軸20、21にかかるのを防ぐ形状になっている。すなわち、ローター13,14には、互いに対向する面13a,14aと反対側の背面部分13b,14bの円周方向外側に、軸防護突起13c,14cが形成されている。また、オイルシール等の軸封部16の周囲には、シール保護部材24,25が設けられており、このシール保護部材24,25には、軸防護突起24c,25cが形成されている。尚、ここでは、シール保護部材24,25は、軸封部16を押さえる機能を有したシール押さえ部材18に一体に設けられているが、別体でもよい。
【0021】
軸防護突起13c,14cは、背面部分13b,14bの外周に沿ったリング状の立ち上がり突起である。軸防護突起13c,14cは、ローターカバー19の内壁からシール保護部材24,25を介して流れ落ちた混合物を、遠心力が加わることにより、外周面に向けて飛散させて、回転軸20,21に接液すること(かかること、付着すること)を防止できる。
【0022】
軸防護突起24c,25cは、シール保護部材24,25の端部の外周に沿ったリング状の立ち上がり突起であり、ローターカバー19の内壁から導かれた混合物が、回転軸20,21に接液することを防止する。リング状の立ち上がり突起として形成された軸防護突起24c,25cにより、回転軸20,21側に流れることを防止された混合物は、シール保護部材24,25を伝って下方側に流れ、分散装置3の排出口22からタンク1側に流出される。尚、図2中のQinは、混合物の流れを示し、Qoutは、タンク1側に向けて排出される分散処理後の混合物の流れを示す。
【0023】
また、ローター13、14には、回転によって発生する遠心力によって、混合物が外周方向に移動するような力が働く。また、シール押さえ部材18は、上述したように、ローター13、14やローターカバー19から混合物が流れてきても軸に伝わるのを防ぐ形状である。排出口22から流れる混合物の速度(流出速度)は、循環ポンプ2から送られる混合物の流入速度よりも大きくなるように構成されているため、ローターカバー19内部に滞留することはない。尚、この流出速度(流出量)を大きくするため、例えば、配管の径を大きくする等の手法がある。また、この分散装置3には、軸受15や、混合物逆流防止栓17が設けられている。
【0024】
混合物や原料の粘度が大きくなって流体抵抗のために混合物等が流れにくくなり、ローターカバー19の排出口が重力だけでは十分な流量を確保するほど大きくとれなくなって、循環ポンプ2からの供給量がローターカバー19からの排出量よりも定常的に大きくなる場合は、図1においてタンク1の内部を真空ポンプ8で引いて減圧状態にし、ローターカバー内部からの排出を促進してもよい。この真空ポンプ8は、液に混入した気泡を脱泡する機能もあり、脱泡を主な目的としてタンクを減圧状態にしてもよい。なお、この場合には、ローター軸のシール部に減圧状態を保つようなシールを設置する必要がある。このように真空ポンプ8は、タンク1内部を減圧する減圧ポンプとして機能する。
【0025】
更に、タンク1を減圧してもローターカバー19からの排出流量Qoutが十分大きくとれない場合は、図3に示すように、ローターカバー19の排出口22とタンク1の原料戻り口にポンプ12を接続し、これによって強制的に排出させてもよい。すなわち、図3は、図1に示す循環式分散システム30の変形例を示し、これを循環式分散システム40とする。循環式分散システム40は、ポンプ12が設けられていることを除いて循環式分散システム30と同様であるので、同じ符号を付して、説明は省略する。また、このポンプ12は、分散装置3の出口側とタンク1の入口側との間の配管に設けられ、分散装置3における混合物の流出量を増加させるためのポンプである。なお、この場合は、排出速度Qoutはポンプ12の能力によって決まり重力とは無関係になるため、連続分散装置3は、必ずしもタンク1の垂直方向上側に設置される必要はない。
【0026】
分散装置3は、軸を水平に設置する必要はなく、図4に示すように、垂直方向に設置した循環システムとしてもよい。すなわち、図4は、図1に示す循環式分散システム30の変形例を示し、これを循環式分散システム50とする。また、図4の循環式分散システム50に用いる分散装置は、上述の分散装置3でもよいが、図5に示すローター型且つ連続型の分散装置51が適している。循環式分散システム50及び分散装置51は、以下で説明することを除いて循環式分散システム30及び分散装置3と同様であるので、同じ部分には同じ符号を付して、説明は省略する。尚、この循環式分散システム50においても、図3で説明したポンプ12を追加しても、同様の効果を享受できる。
【0027】
換言すると、図1及び図4の循環式分散システム30,50は、分散装置3,53が、一対のローター13,14,53,54を有し、該一対のローター13,14,53,54間に中空軸を介して混合物が流入され、該一対のローター13,14,53,54の隙間から外周側に向けて放射状に混合物を放出することにより混合物を分散する点では共通する。図1及び図4の循環式分散システム30,50の違いとしては、図1における分散装置3が、一対のローター13,14が、水平方向に対向して配置されているのに対して、図4における分散装置51が、一対のローター53,54が、垂直方向に対向して配置されている点である。図1のシステム30の利点は、設備の垂直方向の寸法を抑えることができる点である。図4のシステム50の構成及び利点について、以下に詳細に説明する。
【0028】
図4の循環式分散システム50においては、混合物は上側ローター53、下側ローター54の中空軸の中空部いずれから供給してもよいが、例えば下側ローター54の中空軸の中空部からポンプによって供給することにすれば、上部ローター軸から添加物5を供給することもできる。例えばこの場合は、分散装置51の上部に、添加物5を貯留するホッパ55を設けるようにすればよい。
【0029】
図5に示すように、分散装置51のローター53,54は、分散装置3と同様に、互いに逆方向に回転するように構成されている。ローター53,54は、原料に添加物が均一に分散された状態とする。分散装置51のローター53,54間で分散処理された原料は、分散装置51のローターカバー19内で滞留することなく重力等によってタンク1に戻される。
【0030】
次に図5を用いて、垂直方向に設置した場合の例である分散装置51における原料及び添加物の流れを説明する。まず、送られた原料は、図示されない電動機によって回転する中空軸の中心を通って一対の回転するローター53、54の隙間(せん断部)に供給される。供給された原料は、遠心力により一対のローター53、54の隙間を通ってローター外周から放射状に放出される。このとき、原料には、ローター53、54からせん断応力がかかり、分散が行われる。ローター53、54から放出された原料は、ローターカバー19の内壁に衝突し、内壁に沿って下部の排出口22から排出される。
【0031】
このとき、ホッパ55内の添加物5はローター部53,54の回転による発生する負圧、あるいはタンク内部を真空ポンプによって引くことによる負圧によって管内に引き込まれるため、これらの作用による供給速度で供給量が十分であれば、図4における添加物用の供給装置6は不要となる。
【0032】
また、ローター53、54は、ローターカバー19から流れた混合物が回転軸20、21にかかるのを防ぐ形状になっている。すなわち、一対のローター53,54のうち、下側ローター54の背面外周には、軸防護突起54cが形成されている。より具体的には、軸防護突起54cは、下側ローター54の、上側ローター53に対向する面54aと反対側の背面部分54bの円周方向外側に形成されている。
【0033】
この軸防護突起54cは、背面部分54bの外周に沿ったリング状の立ち上がり突起であり、ローターカバー19等からローター53,54の外周部53d,54dに流れた混合物をローターカバー19の下部に設けた外周溝部56に落ちるように導く(下方側に導く)ことで、回転軸20,21に接液すること(かかること、付着すること)を防止できる。軸防護突起54cにより、軸20側に流れることを防止された混合物は、ローターカバー19の外周溝部56を介して排出口22に導かれ、排出口22からタンク1側に流出される。尚、図5中のQinは、混合物の流れを示し、Qoutは、タンク1側に向けて排出される分散処理後の混合物の流れを示す。また、FTは、添加物の流れを示し、Fkは、原料と添加物の混合物の流れを示す。
【0034】
尚、図2を用いて説明した分散装置3と、図5を用いて説明した分散装置51では、互いに逆方向に回転するように構成した一対のローター13,14、一対のローター53,54を設けるように構成したが、循環式分散システム30,40,50を構成する分散装置はこれに限られるものではない。すなわち、一対のローターのいずれかを、回転しないステータに換えた分散装置を用いるように構成してもよい。具体的に、かかる分散装置は、互いに対向する面を有するローター及びステータを有し、該ローター及びステータ間に中空軸を介して混合物が流入され、このローター及びステータの隙間から外周側に向けて放射状に混合物放出することにより混合物を分散する装置である。
【0035】
また、図2、図5の分散装置3,51においては、一対のローターを、互いに対向する面がセラミックにより形成されるように構成してもよい。セラミック部材を用いることにより、耐摩耗性が向上し、高い剪断力を混合物に付与する際にも耐久性が向上する。ここで、図6を用いて分散装置3,51等に適用可能な一対のローター61,62について説明する。すなわち、上述のローター13,14,53,54に換えて後述するセラミック部材を用いたローター61,62を適用することができ、これを適用した分散装置3,51やこれを備える循環式分散システム30,40,50は、メンテナンスの簡素化及びこれに伴う低コスト化を実現する。
【0036】
図6に示すように一対のローター61,62は、互いに対向する面を有する先端部材63,64と、該先端部材63,64を交換可能に取り付ける取付部材65,66と、先端部材63,64を取付部材65,66に固定する(例えばボルト等の)固定ネジ67,68とを有している。先端部材63,64は、セラミックにより形成される。取付部材65,66は、金属等により形成される。尚、先端部材63,64と、取付部材65,66とは接着等により一体化するように構成してもよいが、固定ネジ67,68により取り付けることにより以下の効果を有する。固定ネジ67,68でセラミック部材である先端部材63,64を取り付け及び取り外し可能な一対のローター61,62は、接着方式に比べて交換が容易であり、メンテナンスの簡素化やこれに伴うコスト削減を実現する。
【0037】
さらに、図6に示す一対のローター61,62は、次の点に特徴を有する。すなわち、固定ネジ67,68は、先端部材63,64の対向する面63a,64a側から取付部材65,66に取り付けられることで、先端部材63,64を取付部材65,66に固定する。また、先端部材63,64には、固定ネジ67,68を取り付ける部分に凹部63b,64bが形成される。この凹部63b,64bは、固定ネジ67,68が先端部材63,64を固定する状態に取り付けられたときに、固定ネジ67,68の頭部67a,68aが、先端部材63,64の対向する面63a,64aより所定間隔G1,G2だけ深く位置するように、形成される。そして、この所定間隔G1,G2は、固定ネジ67,68の各頭部の高さ方向(ネジの挿入・取付方向)の寸法H1,H2との間で、それぞれ関係式0.5×H1<G1<1.5×H1、関係式0.5×H2<G2<1.5×H2を満たすようにされている。
【0038】
このように、一対のローター61,62は、取り付けたときの固定ネジ67,68の頭部67a,68aの深さ(頭部67a,68aの端面の先端部材63,64の面63a,64aに対する深さを意味するものとする。)が通常想定する深さよりも大きくされている点にも特徴を有している。この特徴は、固定ネジの頭部67a,68aと、先端部材の凹部63b,64bとの隙間(空間)に混合物内の固形分を詰まらせる(堆積させる)。この詰まった(堆積された)固形分は、取り付け部分である凹部63b,64bの外を流れるスラリー状等の混合物と接触するが、凹部63b,64b内では流れないため、固定ネジの頭部67a,68aを固形分が保護した状態である。図6中、SSは、堆積された固形分を示し、SLは、流動性を有した混合物を示す。
【0039】
換言すると、このような特徴を有する一対のローター61,62は、所定間隔G1,G2だけ深く固定ネジの頭部67a,68aを位置させ、混合物の固形分を堆積させることで、この堆積させた固形分によりネジの頭部67a,68aの磨耗を防ぐことができる。
【0040】
すなわち、一対のローター61,62は、固定ネジ67,68の締結用の溝や穴、例えば、プラス溝、マイナス溝、六角穴等がつぶれることを防止し、これにより取り外しに不具合が生じることを防止し、さらに、固定ネジの頭部67a,68aの磨耗による混合物への金属粉の異物混合(コンタミ)を防止できる。
【0041】
尚、一対のローター61,62において、0.5×H1>G1、0.5×H2>G2である場合には、上述の混合物の固形分堆積による保護効果が少なく、G1>1.5×H1、G2>1.5×H2である場合には、先端部材63,64の凹部63a,64aが大きくなり過ぎて強度的に弱くなったり、堆積物固形分の量が多すぎて取り外しが面倒になってしまうから、上述の範囲が適正な範囲である。
【0042】
分散装置3,51は、ローター13,14,53,54に換えてセラミック部材を用いるとともに特徴的な構成を有する前記ローター61,62を備えるようにすることで、セラミックを用いることの効果(耐久性向上、メンテナンスの簡素化、低コスト化)に加えて、セラミック部分取替えの簡素化や、異物混合防止を実現する。また、前記ローター61,62を用いた分散装置を備えるように循環式分散システム30,40,50を構成することで、上述及び後述する効果に加えて、このローター61,62による効果も享受できる。尚、図6では、ローター62側に混合物流入用の中空軸が取り付けられる場合の例(ローター62の先端部材64及び取付部材66に貫通孔64c、66cが設けられている)を示したが、ローター61側に中空軸を取り付けるように構成してもよく、さらに、両方に中空軸が取り付けられるようにしてもよい。
【0043】
図1、図3、図4及び後述の図7において、Mは、電動機を示し、Pはポンプを示す。以上のシステム30,40,50に使用するポンプPとしては、軸封部のないポンプ、例えばチューブポンプやホースポンプを用いることが望ましい。もしポンプに液と接する軸封部があると、この軸封部が劣化する可能性があるからである。
【0044】
以上のように、本発明を適用した循環式分散システム30,40,50は、分散装置3,51と、タンク1と、循環ポンプ2と、配管32とを備え、分散装置3,51が、該分散装置内部の混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部16を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくされる点に特徴を有している。また、本発明を適用した循環式分散方法は、スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら分散させる循環式分散方法において、混合物31をローター型且つ連続型の分散装置3で分散させるとともに、該分散装置3と、分散装置3の出口側に接続されるタンク1と、循環ポンプ2とを直列的に接続する配管32により循環させるに際し、分散装置3内部の混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくして、循環分散を行う点に特徴を有している。
【0045】
当該循環式分散システム30,40,50は、軸封部16に混合物を到達させないことで、分散装置の軸封部の構造を簡素化するとともに、混合物の循環分散を実現し、さらに、軸封部の寿命を延ばすことができるので、分散装置やシステム全体のメンテナンス回数も減らすことを実現できる。よって、該システム及び方法は、構成の簡素化、メンテナンスの簡素化、及び低コスト化を実現する。
【0046】
このように循環式分散システム30,40,50は、ローター型の連続分散機の軸封装置に混合物を到達させないものである。また、該システムは、中空の回転軸の中空部から混合物を供給する方式のローター型の連続分散装置を用いるに際して、軸やローターの回転(遠心力)を利用し、かつ、ローター部への混合物の流入量とローター部からの混合物の排出量を制御することで、ローターを収納するケーシング(ローターカバー19)の内部と外部をシールする軸封部に混合物を到達させないようにする。そして、該システムによれば、軸封部に液を到達させないことで、構造が簡単でコストの安い軸封装置を採用することができる。あるいは、軸封装置の寿命を延ばすことができる。
【0047】
また、該システムにおいて、ローターカバー19内部からの混合物排出に送液ポンプとして図3に示すポンプ12を使うことにも特徴を有する。さらに、該システムにおいて、タンク1内を例えば真空ポンプ8で減圧することによって、ローターカバー19内部からの混合物の排出量を促進させることにも特徴を有する。さらにまた、該システムにおいて、分散装置の回転軸を鉛直方向に設置し、混合物(最初は処理原料)を下ローターの軸中心から供給することによって、添加物を上ローターの軸中心から供給する点にも特徴を有する。
【0048】
以上のように、循環式分散システム30,40,50は、従来のように分散装置内部の混合物が満量とならないようにして、軸封部16に混合物を到達させないので、構造が簡単で低コストの軸封部材を用いることができ、軸封部材の寿命を延ばすことができる。
【0049】
上述した循環式分散システム30,40,50やこれを構成する分散装置3,51において、一対のローターの少なくともいずれか一方を駆動することにより、他方に対して近接及び離間する方向に駆動する駆動機構を設けるように構成してもよい。この駆動機構は、分散装置における一対のローター間や、ローター及びステータ間に混合物の詰まりが発生することにより、管内圧力が上昇して機器や配管の破損が発生することを防止することを目的として循環式分散システムに設けられるものであるが、駆動機構の具体的構成や、機能や効果については、図7の循環式分散システム130で具体的に説明するものとする。
【0050】
次に、図7を用いて本発明を適用した循環式分散システム130について、説明する。循環式分散システム130についても、上述した循環式分散システム30,40,50と同様に、スラリー状の混合物131を循環させながら分散させるものについて説明するが、これに限られるものではない。
【0051】
循環式分散システム130は、図7に示すように、混合物131を分散させるローター型且つ連続型の分散装置151と、分散装置151の出口側に接続されるタンク101と、タンク101の出口側に接続され混合物131を循環させる循環ポンプ102と、分散装置151、タンク101及び循環ポンプ102を直列的に接続する配管132とを備える。分散装置151は、ローター153及びステータ154を有する。この分散装置151は、該分散装置151内部の混合物131が該分散装置151内部に設けられる軸封部を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくされる。尚、分散装置151については、軸封部を図示しないが、図5で示した軸封部16と同様の軸封部がローター153側に設けられているものとする。
【0052】
上述した図1等の場合と同様に、タンク101や分散装置151や配管132内を循環する流体は、最初は原料であり、分散装置151を経由する毎に添加原料が次第に分散された混合物となり、最終的には分散処理済みの混合物となるが、上述及び以下の説明では、最初の「原料」も、処理途中の「混合物」も併せて「混合物」と呼ぶこととする。
【0053】
すなわち、循環式分散システム130は、中空の回転軸の中空部から混合物を供給する方式のローター型の連続分散装置151において、混合物を循環ポンプ102で分散装置151に供給し、分散装置151のケーシングであるローターカバーから排出される混合物排出速度(「流出量」ともいう。)Qoutを循環ポンプ2による混合物供給速度(「流入量」ともいう。)Qinよりも大きくすることによって、ローターカバー内に混合物を滞留させないことで軸封部に混合物を到達させないシステムである。さらに、分散装置151を一対のローター方式に変更してもよく、変更することで、ローターの遠心力を利用でき、これにより軸封部に混合物を到達させない効果が得られる。
【0054】
また、循環式分散システム130は、分散装置151のローター153及びステータ154の少なくともいずれか一方を駆動することにより、他方に対して近接及び離間する方向に駆動する駆動機構171と、この駆動機構171を制御する制御部180とを備える。駆動機構171は、例えばサーボシリンダであり、ここでは、ローター153やローター153の回転軸やこれを回転駆動するモーターMを含めたユニット部分を上下に駆動して、このローター153とステータ154との隙間δを広げたり、狭めたりすることが可能である。駆動機構171を備える循環式分散システム130は、ローター153及びステータ154間に混合物の詰まりが発生した場合や、発生のおそれがある場合に隙間δを広げることで詰まりを解消して、管内圧力が上昇してポンプ等の機器や配管(特に継ぎ手部分)の破損が発生することを防止する。
【0055】
制御部180は、ローター及びステータの間の混合物の圧力を検出する圧力センサ173、及びローター及びステータ間から放出される混合物の温度を検出する温度センサ174の両方の検出結果に基づいて、ローター153及びステータ154の対向間隔を調整する。尚、制御部180は、圧力センサ173、温度センサ174の少なくとも一方の検出結果に基づいて調整するようにしてもよい。
【0056】
圧力センサ173は、配管中132で最も圧力が上昇する位置に配置され、例えば、図7に示すように、分散装置151に混合物を流入させる位置の手前に配置される。尚、駆動機構171としてサーボシリンダを用いる場合にはシリンダ先端に設けたロードセルを圧力センサとして使用してもよい。また、サーボシリンダに内蔵した圧力センサを用いてもよい。
【0057】
温度センサ174は、分散装置151から排出される混合物の温度を検出するため、図7に示すように、分散装置151の出口側の直後の配管132に取り付けられている。また、この循環式分散システム130には、ローター153の軸受部分の温度を検出する温度センサ175が設けられている。この温度センサ175の検出結果と、隙間δとの関係を事前に計測し、制御部180内の記憶部に記憶させておくことで、制御部180は、温度センサ175の検出結果に応じて駆動装置171を駆動してローター153を軸方向に移動させて、隙間δを調整することで、圧力上昇を事前に防止することをも可能とする。
【0058】
以下、さらに具体的に説明する。図7に示すように、混合物の入っている貯蔵タンクとしてのタンク101は、その排出口が、循環ポンプ102に接続される。循環ポンプ102は、混合物を搬送して循環させる。タンク101の上部に設けられた供給装置106は、ホッパ104に貯蔵されている添加物105(液体または粉粒体)を、循環している混合物(最初は原料)に注入させる。添加物が添加された後の混合物は、タンク101の垂直(鉛直)方向の上方側に設置されたローター型の連続分散装置151内に、供給される。
【0059】
分散装置151は、垂直方向に対向して配置されるローター153及びステータ154を有する。分散装置151は、軸が垂直方向に設置され、ローター153が、上側に設けられ、ステータ154が、下側に設けられる。尚、これを互いに逆方向に回転する一対のローターに変更してもよい。また、軸を水平に配置して、ローター及びステータを水平方向に対向して設置するようにしてもよい。ローター153及びステータ154は、原料に添加物が均一に分散された状態とする。分散装置151のローター153及びステータ154間で分散処理された混合物は、分散装置151のローターカバー内で滞留することなく重力によってタンク101に戻される。タンク101の中の混合物は、攪拌機107による攪拌で偏析などが防止される。
【0060】
ここで、添加原料105の供給装置106としては、スクリューフィーダ、ロータリーバルブ、プランジャーポンプなどを適宜用いることができる。また、供給装置106の設置場所としては、循環途中の配管132中に設けてもよく、配管132の任意の場所を選ぶことができる。
【0061】
タンク101には、真空ポンプ108が接続される。この真空ポンプ108は、分散装置151からの排出量が不足する場合に、タンク内を減圧して、排出を補助することができる。また、この真空ポンプ108による減圧は、混合物に気泡が混入した場合の脱泡処理用としても機能する。
【0062】
以上のような循環式分散システム130において、運転時には、バルブ109は、常時開とされ、バルブ110、111は、常時閉とされている。分散処理が終了したらバルブ109は、閉とされ、バルブ110は、開とされる。これにより、バルブ110から処理物を排出・回収することができる。また、分散装置151や配管132の中に残った混合物は、バルブ111を開とすることで排出、回収される。なお、混合物の排出・回収用のバルブはタンクや配管の任意の場所に取り付けることができる。
【0063】
分散装置151のローター部における混合物の流れについては、図5を用いて説明した分散装置51と略同様であるので詳細は省略するが、送られた混合物は、下側に配置されたステータ154側の中空軸154aの中心を通ってローター153及びステータ154の隙間に供給され、遠心力によりこの隙間を通って外周から放射状に放出される。このとき、混合部は、せん断応力により分散されローターカバーの内壁に沿って排出される。
【0064】
分散装置151のローター153及びステータ154は、図5を用いて説明したローター53、54と同様の形状であってもよい。すなわち、図7では、ステータ154は、フラットな形状として示されているが、図5のローター54と同様に、軸防護突起54cを設けてもよく、その場合には、ローター54を有する分散装置51と同様の効果を発揮できる。さらに、この分散装置151においても、図6で説明したのと同様に、ローター153及びステータ154の互いに対向する面がセラミックにより形成されるように構成してもよい。
【0065】
以上のように、本発明を適用した循環式分散システム130は、分散装置151と、タンク101と、循環ポンプ102と、配管132とを備え、分散装置151が、該分散装置内部の混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくされる点に特徴を有している。また、本発明を適用した循環式分散方法は、スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら分散させる循環式分散方法において、混合物131をローター型且つ連続型の分散装置151で分散させるとともに、該分散装置151と、分散装置151の出口側に接続されるタンク101と、循環ポンプ102とを直列的に接続する配管132により循環させるに際し、分散装置151内部の混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくして、循環分散を行う点に特徴を有している。
【0066】
当該循環式分散システム130は、軸封部に混合物を到達させないことで、分散装置の軸封部の構造を簡素化するとともに、混合物の循環分散を実現し、さらに、軸封部の寿命を延ばすことができるので、分散装置やシステム全体のメンテナンス回数も減らすことを実現できる。よって、該システム及び方法は、構成の簡素化、メンテナンスの簡素化、及び低コスト化を実現する。
【0067】
このように循環式分散システム130は、ローター型の連続分散機の軸封装置に混合物を到達させないものである。また、該システムは、中空の回転軸の中空部から混合物を供給する方式のローター型の連続分散装置を用いるに際して、軸やローターの回転(遠心力)を利用し、かつ、ローター部への混合物の流入量とローター部からの混合物の排出量を制御することで、ローターを収納するケーシング(ローターカバー)の内部と外部をシールする軸封部に混合物を到達させないようにする。そして、該システムによれば、軸封部に液を到達させないことで、構造が簡単でコストの安い軸封装置を採用することができる。あるいは、軸封装置の寿命を延ばすことができる。また、循環式分散システム130においても、図3で説明したポンプ12と同様のポンプを分散装置151とタンク101との間に設けてもよい。このポンプや真空ポンプ108により、分散装置内部の混合物が満量とならないようにすることができ、軸封部材の寿命を延ばすことができる。
【0068】
さらに、循環式分散システム130は、駆動機構171等を有することにより特有の効果を奏する。駆動機構171等を有する特有の効果の説明に先立ち、循環式分散システム130において、駆動機構171を有しないとした場合の問題となり得る点を説明する。すなわち、駆動機構を有さない循環式分散システムのトラブルとしては、管内圧力の異常上昇による機器や配管の破損が考えられる。管内圧力が異常上昇する原因としては、流動抵抗が最も大きな部分、すなわちローター及びステータ間の隙間(図7では隙間δに相当)、又は一対のローター間の隙間での固形分の詰まりが最も可能性が高い。例えば、これを防止して、装置やシステムを保護するため、あらかじめ上限圧力を設定し、最も圧力が高くなる場所で圧力センサによって圧力を検知し、上限圧力を超えたときに運転を停止させるように構成してもよい。しかし、運転を停止させる構成としても、復帰までの時間のロスがあり、上限圧力の手前の段階で圧力上昇を防止すること、すなわち、ローター及びステータ間の隙間、又は一対のローター間の隙間での詰まりを解消することが望ましい。
【0069】
ローター及びステータ間の隙間、又は一対のローター間の隙間での固形分の詰まりを解消する手法としては、第1に、この隙間を増大する手法があり、第2に、ローター回転数を増大する手法があり、第3に、ポンプ流量を減少する手法がある。すなわち、検知圧力があらかじめ設定した閾値以上となったときに、例えば第1の手法の場合には、隙間を増大することで、詰まった固形物を流動させるものである。また第2の手法の場合には、ローターの回転数を上げて剪断力を増大させ、隙間に詰まった固形物を破壊する。さらに第3の手法の場合には、ポンプ流量を下げて管内圧力を下げ、現状のローターの回転による剪断力で固形分が破壊され、詰まりがなくなるまでの時間を稼ぐというものである。この中で、第1の手法は、詰まりの解消を考えた上では最も直接的であり、優れており、循環式分散システム130ではこれを採用している。尚、第2及び第3の手法は、詰まった固形物を破壊するという観点では本質的な方法であるが、詰まった固形物の破壊強度が大きければ、即座に破壊され、取り除かれるとは限らない。上述及び後述では、第1の手法を採用するものとしてその機能や効果を説明するが、第1の手法に換えて若しくは加えて第2、第3の手法を取り入れることも可能である。すなわち、隙間を広げて詰まった固形物を流し、圧力上昇を解消した後に、必要に応じて回転数を増加し、あるいは流量を減少させ、循環運転の中で徐々に隙間、回転数、流量を本来の設定値(通常運転値)に復帰させるのが、効率的な方法である。この制御は、制御部180により行わせるようにすればよい。
【0070】
上述したように、循環式分散システム130では、ローター153及びステータ154間の隙間δを調整するために、サーボシリンダである駆動機構171を設けている。また、循環式分散システム130は、高濃度且つ高粘度のスラリー状混合物を分散処理可能とするものである。上側のディスク状部材にモーターMを接続してローター153として構成し、このローター153を含む上側のユニット部分を、駆動機構171(サーボシリンダ)により、上下に移動させてステータ154との隙間δを調整する。スラリーに対する耐久性を向上させるため、下側のディスク状部材は、ステータ154として軸封部のない構造(回転部分がないため軸封部を必要としない)とし、ステータ154の中心軸を介して分散部(ローター153及びステータ154の間)に分散中のスラリー状混合物を供給することとしている。尚、圧力の検知は、配管中の最も圧力が上昇する位置に設けた圧力センサ173で行うようにしたが、駆動機構171(サーボシリンダ)に内蔵若しくはシリンダ先端に設けたロードセルで行うようにしてもよい。さらに、ローター回転数の制御や、ポンプ流量の制御は、制御部180により、それぞれ駆動モータに接続したインバーターを介して行うことができる。
【0071】
このような循環式分散システム130における分散過程において、混合物の特性が予想可能な場合は、あらかじめローター153及びステータ154間の隙間δ等や、ローター回転数や、流量の制御プログラムを準備することで、効率的な分散を実現できる。例えば、液体状の処理原料を循環させ、これに粉末状の添加物を徐々に投入してスラリー状の混合物を製造する工程において、運転初期に固形分が凝集しやすく、ローター及びステータ間の隙間等に詰まりやすい場合がある。このとき、運転初期ではこの隙間をあらかじめ広くし、ローター回転数を上げておく。粉末状の添加物の投入が完了し、液体状の処理原料及び粉末状の添加物からなる混合物が循環する間に凝集固形分が破壊され、スラリーの性質が安定し、詰まる恐れがなくなった段階で、この隙間とローター回転数を本来の設定値(通常運転値)に戻して、所望の分散処理を行うようにしてもよい。この場合、流量を減少させることは、剪断(分散)領域を通過する液の頻度が減少することを意味するため、処理時間が延びることになるため、この手法を採用しなくてもよい。
【0072】
また、循環式分散システム130におけるスラリー作成工程において、複数の粉末状の添加物を順次投入する場合には、それぞれの段階で最適なローター及びステータ間の隙間、ローター回転数、流量が異なるときには、あらかじめ制御プログラムを準備することで、効率的な分散処理を実現できる。
【0073】
また、循環式分散システム130において分散処理が完了し、分散処理後の混合物(製品)の排出工程においても、制御によって効率的な処理が可能である。排出工程においては、分散工程の後に運転を停止することなく継続実施されるが、この際、バルブ109を閉じて、バルブ110,111を開とすることで、バルブ110,111から混合物(製品)を排出して回収できる。このとき、過分散を防止するため、分散装置151は運転が停止され、すなわち、ローター153の回転が停止されているため、ローター153及びステータ154間の混合物(製品)は、この隙間の流動抵抗が大きいため排出されにくい。このとき、隙間を広げることで、流動抵抗を下げ、排出速度を促進することができる。これは、混合物の粘度が高い場合や、分散装置のローターやステータ部分にバッファ部を設けた場合(図8〜図10を用いて後述する)には排出すべき混合物が多いため効果が大きい。
【0074】
また、上述した分散装置151等のディスク型の分散装置は、高速回転によって、大きな剪断応力を発生させ、分散させるため、摩擦によりディスク状部材であるローター153及びステータ154の対向部分が発熱する。対向部分や軸部分やその他の関連部品の熱膨張によって、ローター153及びステータ154の隙間が減少する場合がある。
【0075】
ローター153及びステータ154の隙間が減少すると、流動抵抗が増加し、異常圧力発生の原因となる。そのため、圧力の検出とともに原料温度も検出し、圧力上昇の予測と防止に利用することにより、システムの安全性を増すことができる。原料温度が最も上昇する箇所は、ローター153及びステータ154の隙間であり、この部分が高速回転部であることから、この部分の混合物の温度検出は、難しいが、この直後の配管に温度センサ174を配置することで、ほぼ同等の温度が検出できる。
【0076】
また、必要であれば、軸受部の温度も温度センサ175で検出しておくようにしてもよい。あらかじめ、温度と、ローター153及びステータ154の隙間との関係を調べておくことで、温度上昇により、この隙間の減少をサーボシリンダ(駆動機構171)等の手段で補正し、適正な隙間に制御することで、圧力上昇を防止することができる。尚、この制御の目的は、圧力上昇の解消であるが、結果的に温度上昇の解消をも実現する。
【0077】
更に、検出温度による運転制御は、次の2つの目的にも利用できる。第1の目的は、熱膨張による隙間の減少は、ローター153及びステータ154(一対のローターの場合も同様)の接触による過負荷、異音(騒音)、対向部分(ディスク状部分)の破損の原因となることに鑑みたものである。すなわち、第1の目的は、これらを防止することであり、隙間の適正制御を行うというものである。第2の目的は、原料の温度上昇による変質防止等のために、より積極的な温度管理のための運転制御を行うというものである。すなわち、検出した混合物の温度が規定値を超えた場合、圧力とは関係なく、ローター153及びステータ154の隙間の増大、ローター153の回転数の減少を行い、混合物に発生する摩擦熱を抑えることができる。
【0078】
以上のように、駆動機構171を備える循環式分散システム130は、分散装置151におけるローター153及びステータ154間の隙間δに混合物の詰まりが発生することを防止し、管内圧力が上昇することにより機器や配管の破損が発生することを防止することを実現できる。尚、駆動機構151は、ローター及びステータ方式の分散装置のみならず、例えば分散装置3,51のような一対のローター方式の分散装置にも用いることができ、一対のローター間の隙間に混合物の詰まりが発生することを防止し、管内圧力が上昇することにより機器や配管の破損が発生することを防止できる。
【0079】
また、循環式分散システム130は、制御部180が、圧力センサ173、温度センサ174の一方又は両方の検出結果に基づいて、ローター153及びステータ154の対向間隔(隙間δ)を調整する構成であるので、混合物の詰まりが発生しうる状態であることを事前に検知して防止し、機器や配管の破損等の発生を確実に防止することを実現できる。
【0080】
さらに、この駆動機構171は、バッファ部を有する分散装置にも適用可能であり、同様の作用効果を奏するとともに、バッファ部を有する場合に特有の効果も奏する。次にバッファ部を有する分散装置の一例として、図8〜図10に示す分散装置200について説明する。
【0081】
次に上述した循環式分散システム1及び循環式分散方法で用いられるに適する分散装置200について図8〜図10を用いて具体的に説明する。図8等に示す分散装置200は、効率よく複数の液体またはスラリー(粉末状の物質と液体の混合物)中の粉末状の物質を分散する連続分散装置である。この分散装置200は、全ての原料に剪断エネルギーを確実に与えることにより、また、剪断作用による局所的な分散機能と大きなスケールの分散機能とを組み込むことにより、効率的な分散を行うものである。
【0082】
具体的に分散装置200は、例えば図8及び図9に示すように、第1のローター201と第2のローター202とを対面に組み合わせ、2つのローター201、202間の空間に原料を外周方向に通過させて原料を分散する剪断式分散装置であって、第1のローター201を第1の方向R1に回転する第1の回転手段208と、第2のローター202を第1の方向R1とは逆の第2の方向R2に回転する第2の回転手段209とを備え、第1又は第2のローターの回転中心に前記原料が供給される原料排出口220が設けられている。
【0083】
このように構成すると、分散装置200は、第1のローターと第2のローターとが逆の方向に回転するので、全ての原料に剪断エネルギーを確実に与えることができ、効率的な分散を行うことができる。
【0084】
また、分散装置200は、例えば図8に示すように、原料排出口220の外周側に第1のローター201の平面221と第2のローター202の平面231とにより隙間203が形成され、隙間203の外周側に、隙間203よりも第1のローター201と第2のローター202との間隔が広くなったバッファ部206が形成され、バッファ部206の外周に、第1のローター201と第2のローター202との間隔をバッファ部206より狭くする外周側面232が第2のローター202に形成される。
【0085】
このように構成すると、分散装置200は、隙間が剪断作用による局所的な分散機能を有し、バッファ部が大きなスケールの分散機能を有するので、効率的な分散を行うことができる。
【0086】
また、分散装置200は、例えば図8に示すように、外周側面232が、第1のローター201の回転軸208と平行に、あるいは、回転中心方向に傾斜して形成される。
このように構成すると、分散装置200において、外周側面が第1のローターの回転軸と平行に、あるいは、回転中心方向に傾斜して形成されるので、バッファ部の容量を超える量の原料が流入しない限り、バッファ部から原料が外周側に流れず、バッファ部に滞留する。よって、バッファ部に滞留している原料に向かって、隙間から新たな原料が高速流入し激しく混ざり合うため、原料がバッファ部で、より均一に分散される。
【0087】
また、分散装置200は、例えば図10に示すように、外周側面232の先端が、回転中心方向に延伸した張り出し262としてもよい。
このように構成すると、外周側面の先端が、回転中心方向に延伸した張り出しとなっているので、バッファ部の容量を超える量の原料が流入しない限り、バッファ部から原料が外周側に流れず、バッファ部に滞留する。よって、バッファ部に滞留している原料に向かって、隙間から新たな原料が高速流入し激しく混ざり合うため、原料がバッファ部で、より均一に分散される。
【0088】
また、分散装置200は、例えば図8に示すように、隙間203が、原料排出口220に隣接して配置される。
このように構成すると、隙間にある原料に第1のローターおよび第2のローターの回転による遠心力が作用して原料は外周側に流れようとして流速が増し、その内側には負圧が生じ、原料を原料排出口から隙間に吸引する。
【0089】
また、分散装置200は、例えば図8に示すように、バッファ部206の外周側に、第1のローター201の平面223と第2のローター2の平面233とにより、隙間203の間隔以下の間隔の第2の隙間204が形成され、第2の隙間204の外周側に、第2の隙間204より第1のローター201と第2のローター202との間隔が広くなった第2のバッファ部207が形成され、第2のバッファ部207の外周に、第1のローター201と第2のローター202との間隔を第2のバッファ部207より狭くする第2の外周側面224が第1のローター201に形成される。
このように構成すると、隙間およびバッファ部に加えて、第2の隙間が剪断作用による局所的な分散機能を有し、第2のバッファ部が大きなスケールの分散機能を有するので、繰り返し分散処理を効率的に行う連続式分散装置となる。
【0090】
また、分散装置200は、例えば図8に示すように、バッファ部206は第1のローター201が窪むことにより形成され、外周側面232は、第2のローター202に形成され、第2のバッファ部207は第2のローター202が窪むことにより形成され、第2の外周側面224は第1のローター201に形成される。
このように構成すると、第1のローターと第2のローターとに交互の窪みを形成することにより、隙間、バッファ部、外周側面、第2の隙間、第2のバッファ部および第2の外周側面が形成されるので、局所的な剪断と、これよりも大きなスケールの平均化混合を、交互に連続的に行う分散装置の製造が容易となる。
【0091】
次に、分散装置200について図8〜図10を用いて更に具体的に説明する。分散装置200は、高速回転する2つのローターを互いに逆方向に回転するように組み合わせ、その間の狭い空間に原料を遠心力によって通過させ、複数の原料を均一に分散させる装置である。図8に示すように、凹凸を有する2枚のローター201,202を、回転中心軸を同一にして、鉛直方向に対向するように設置すると、それぞれの凹凸部の組み合わせによって、狭い隙間203〜205と広い空間206,207が交互に配列される構造となる。ここで、高い剪断力を発生させる狭い空間203〜205を剪断力発生部、これより大きなスケールの混合を行う広い空間206,207をバッファ部と呼ぶことにする。図9に示すように、ローター201,202はそれぞれ中空の回転軸208,209に接続され、これらの回転軸208,209は、軸受215を介し強固に固定された軸受箱216で支えられ(固定方法は図示せず)、ベルト、チェーン、歯車などと接続された電動機(図示せず)で駆動され、その回転方向R1・R2は互いに逆となる。ここでは、回転軸208,209をそれぞれ原料供給口212,214の側から見て、時計方向に回転することとする。回転数は、対象原料や目標とする分散の度合によって、任意に設定することができる。原料供給口212,214に供給された原料は、中空回転軸の中空部を貫流してローター201,202の回転中心に設けられた原料排出口220から2枚のローター201,202の間に供給される。なお、ここでは中空回転軸209の原料排出口は栓210によって原料が流入・流出しないようになっている。
【0092】
本分散装置200においては、図8でローター201,202の外径Dは200mmであり、高さh1及びh2はそれぞれ55、15mmである。剪断力発生部203〜205の隙間は0.05〜2mmまで調整が可能である。なお、剪断力発生部203〜205の隙間は同一である必要はなく、ローター201,202の形状・寸法の設計により、目的に応じ適宜変更することができる。たとえば、剪断力発生部203、剪断力発生部204、剪断力発生部205と隙間の間隔を順次狭くすることにより、原料の凝集粒子を順次細かく分解すると、均一に分散しやすくなる。バッファ部206,207の外周側面232,224の角度α・βはそれぞれ50度・70度であるが、この角度に限定されるものではなく、ローター201,202の形状・寸法の設計により、鋭角あるいは直角として、すなわち、回転中心方向(中空回転軸208,209の方向)に傾斜してあるいは中空回転軸208,209と平行に、適宜選定することができる。また、本分散装置の場合の回転数はインバーター制御により0〜1720rpmの間で設定ができるが、電動機、プーリー、ギヤなどの選定によって適宜変更することができる。
【0093】
ここで、図8を参照して、剪断力発生部203,204,205とバッファ部206,207の構成を説明する。上部ローター201の、下部ローター202と対面する面は、原料排出口220の外周に回転軸に垂直な平面221として形成される。平面221の外周側に内周側面222と平面221に平行な平面223と外周側面224とで構成された窪みが形成される。外周側面224は、平面221の面よりも下部ローター202側に延伸し、その先端に平面221に平行な平面225が形成される。下部ローター202の上部ローター201と対面する面には、平面221と平行に対向する平面231が形成され、平面231は内周側面222を越えて外周側に延伸する。平面231から外周側面232が上部ローター201に向けて形成され、外周側面232の先端から平面223に平行に対面する平面233が形成される。平面233は、外周側面224よりも内周側に位置する内周側面234と平面225に平行に対面する平面235とで窪みを形成する。
【0094】
上記の面を有する上部ローター201と下部ローター202とを組み合わせることにより、平面221と平面231とで剪断力発生部203を形成し、平面223と平面233とで剪断力発生部204を形成し、平面225と平面235とで剪断力発生部205を形成する。また、内周側面222と平面223と外周側面232と平面231とで囲まれた領域がバッファ部206を、内周側面234と平面223と外周側面224と平面235とで囲まれた領域がバッファ部207を形成する。外周側面224は、平面221の面よりも下部ローター202側に延伸してバッファ部207を形成するので、バッファ部207の容量が大きくなり、より大きなスケールでの分散による均一化が行われる。
【0095】
なお、上記の例では、外周側面224が平面221の面より下部ローター202側に延伸するものとして説明したが、外周側面224は平面221の面と同じ位置までしか延伸せず、すなわち、平面221と平面225とが同一平面上であってもよい。このように構成すると、上部ローター201に1つの窪みを形成し、下部ローター202に1つの突起(外周側面232と平面233と内周側面234で囲まれた部分)を形成することにより、3つの剪断力発生部203〜205と2つのバッファ部206,207を形成することができ、局所的な剪断と、この局所的部分よりも大きなスケールの平均化混合を、交互に連続的に行う分散装置の製造が容易となる。また、外周側面224は平面221の面の手前側までしか延伸していなくてもよい。
【0096】
また、平面221、223、225、231、233、235は、回転軸に垂直で、互いに平行であるとして説明したが、それぞれ回転軸に垂直ではなく、また、互いに平行でなくてもよい。さらに、剪断力発生部203〜205を形成するために対面する平面同士も平行でなくてもよい。剪断力発生部203〜205の隙間が外周側に向けて狭くなるようにすることにより、原料の凝集粒子を順次細かく分解する構造とすることができる。
【0097】
バッファ部206,207は、剪断力発生部203,204にて局所的な分散を受けた原料を混合するために液を貯留する領域であり、大きな容量を有する。そのために、たとえば、バッファ部206を形成するための平面231の半径方向の長さL1は、平面221と対向して剪断力発生部203を形成する半径方向の長さL2の、少なくとも0.5倍以上、通常は1倍以上の長さとする。また、バッファ部206の高さ(剪断力発生部203の隙間の間隔と内周側面222の高さの和)は、剪断力発生部203の隙間の間隔の、少なくとも3倍以上、通常は5倍以上の高さとする。
【0098】
図8において、原料の流れが矢印で示されている。便宜上、一つの流れしか示していないが、実際にはローター201,202によって構成される空間の至るところで同様の流れが発生している。ここで、再び図9も参照する。ローター201,202が回転している状態で、中空回転軸208に接続され回り止め(図示せず)が施された回転継手211の原料供給口212より原料を供給すると、原料は原料排出口220から、2つのローター201,202の間に供給される。原料は2つのローター201,202から構成される剪断力発生部203、バッファ部206、剪断力発生部204、バッファ部207、剪断力発生部205の順に、遠心力の方向に沿って通過し、ローターの外周の原料排出部213から排出される。原料が遠心力により外周方向に流れ、流速が増すので、原料排出口220は負圧となり、原料排出口220からの原料の流れは促進される。
【0099】
なお、中空回転軸209の排出口の栓210を除去し、原料供給口214から別の原料を供給し、原料供給口212から供給した原料とローター部で混合することもできるが、この場合はローター及び中空軸の中心軸を水平に設置するか、または原料供給用のポンプが必要となる。原料排出口220における負圧は、通常、原料を中空回転軸209の高さだけ吸引するほどに大きくはないからである。
【0100】
また、本分散装置200では2つの回転軸はそれぞれ別個の電動機から駆動されるが、歯車などで動力を分配し、1台の電動機で駆動してもよい。これらの電動機、ベルト、チェーン、歯車などと、中空回転軸208,209が回転手段を構成する。
【0101】
次に、この分散装置200単体を用いた原料の分散プロセス(分散方法)について、図8を用いて説明する。まず原料は、1段目の剪断力発生部203を通過するときに高い剪断力を受け、乳化あるいは微粒子の凝集物の分解がなされる。剪断力発生部で高い剪断力を受けて局所的に乳化あるいは微粒子の凝集物の分解および/あるいは分散がなされた原料は、剪断力発生部203から排出されたあと、1段目のバッファ部206に流入する。バッファ部206には、外周側にローター201,202間の間隔を狭くする外周側面232が形成されているため、バッファ部206に流入した原料はバッファ部の容量を超える量の原料が流入しない限り、バッファ部から流出せず、滞留する。バッファ部206内の原料は、遠心力によってバッファ部206内の外周側面232に押し付けられるが、バッファ部206の外周側面232は図8に示すように流れに対し抵抗となるように傾斜がついているため、原料がこのバッファ部206から排出されるにはバッファ部の容量を超える原料がバッファ部206に流入する必要がある。このとき、先にバッファ部206に流入し滞留している原料は、後に剪断力発生部203からバッファ部206に高速流入してくる原料と激しく混じり合うことになり、局所的に乳化・分散した原料は、この局所的部分よりも大きなスケールでの混合によって平均化される。続いて、原料は2段目の剪断力発生部204とバッファ部207を通過して1段目と同様の分散が行われ、最終の3段目の剪断力発生部205を通過し、さらに分散が行われる。
【0102】
ここで、原料の均一な混合を実現するには、本装置に供給される原料は、前工程の予備混合によって、剪断発生部の最小隙間のスケール以下の乳化や凝集物への分解がなされ、かつ、少なくとも最小剪断部の容量(体積=剪断面積×隙間の大きさ)の単位以下の均一な混合がなされているのが好ましい。剪断発生部203の隙間を通過するスケールで液の乳化や凝集物の分解がなされていないと、剪断発生部203への流入時に、隙間よりも大きなスケールの液滴や凝集物が剪断発生部203の隙間に入り込みにくくなるため不均一な分散や詰まりの原因となったり、過大な応力の発生によって装置に損傷を与える原因ともなる。また、最小剪断部の体積単位の均一な混合とは、予備混合された原料を、最小剪断部と同等の体積分だけ任意に取り出した場合、その体積中の複数の原料の割合が一定ということであり、乳化や微粒子の凝集物の分解には無関係な状態である。たとえば、図8においては最小剪断部の容量は隙間203の部分となり、隙間203が0.1mmのとき、その体積は約0.3mlとなる。なお、ここで説明した具体的条件は、分散装置200の単体の性能を高める際の条件であり、上述した循環式分散システムに用いられる分散装置としては、この分散装置200自体は非常に適したものであるが、必ずしもこの条件を全て満たす必要はない。
【0103】
なお、バッファ部206,207の形状は、図8に示すような外周側面232,224が傾斜する形状に限定されるわけではなく、バッファ部206,207の容量をより増加させるためには、図9のように、バッファ部206,207の外周側面232,224の先端に、回転中心方向(中空回転軸208,209方向)に延伸する張り出し部262,254を有する構造にしてもよい。また、張り出し部262の上部ローター241の平面223と対面する平面263も剪断力発生部204を形成するので、剪断力発生部204の半径方向の長さを長くでき、局所的な分散をより多く行うことができる。同様に、張り出し部254の下部ローター242の平面235と対面する平面255もより大きな剪断力発生部205を形成して、局所的な分散をより多く行うことができる。
【0104】
また、本説明では剪断力発生部は3段、バッファ部は2段の構成となっているが、この段数の組み合わせに限定されるわけではなく、対象原料や目標とする分散の度合によって任意の組み合わせをとることができる。
【0105】
以上のような構成とされた分散装置200によれば、第1のローターと第2のローターとを対面に組み合わせ、2つのローター間の空間に原料を外周方向に通過させて原料を分散する剪断式分散装置であって、第1のローターを第1の方向に回転する第1の回転手段と、第2のローターを第1の方向とは逆の第2の方向に回転する第2の回転手段とを備え、第1のローターの回転中心に前記原料が供給される原料排出口が設けられているので、全ての原料に剪断エネルギーを効率的に与えることにより効率的な分散を行う剪断式分散装置となる。
【0106】
また、原料排出口の外周側に第1のローターの平面と第2のローターの平面とにより隙間が形成され、隙間の外周側に、隙間よりも第1のローターと第2のローターとの間隔が広くなったバッファ部が形成され、バッファ部の外周に、第1のローターと第2のローターとの間隔をバッファ部より狭くする外周側面が第1のローターおよび/または第2のローターに形成されるので、局所的な剪断作用の後に大きなスケールの平均化混合作用を発生させ、局所的な剪断作用とこれよりも大きなスケールの平均化混合機能を組み込むことで、効率的な分散が可能になる。
【0107】
また、図8〜図10を用いて説明した分散装置200にも、ローター201及びローター202の隙間を調整するための駆動機構171及び制御部180が設けられており、この駆動機構171がローター201を駆動することにより、一対のローター201,202間の隙間δに混合物の詰まりが発生することや、管内圧力が上昇することにより機器や配管の破損が発生することを防止でき、さらに上述した駆動機構171のその他の効果をも併せ持つこととなる。さらに、駆動機構171を有する分散装置200は、運転終了後にローター201,202間の隙間を広げることでそのバッファ部に溜まった混合物を排出しやすくできる。また、この分散装置200は、上述した循環式分散システム30,40,50,130に用いられることを可能とし、該システムは、分散装置200自体の剪断作用が高いというのに加えて、循環式分散システムとしての特徴として軸封部に混合物を到達させないことで、分散装置の軸封部の構造を簡素化する効果を得つつ、混合物の適切な循環分散を実現する。
【符号の説明】
【0108】
1 タンク
2 循環ポンプ
3 分散装置
16 軸封部
30 循環式分散システム
32 配管
171 駆動機構
173 圧力センサ
174 温度センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら分散させる循環式分散システムにおいて、
前記混合物を分散させるローター型且つ連続型の分散装置と、
前記分散装置の出口側に接続されるタンクと、
前記混合物を循環させる循環ポンプと、
前記分散装置、前記タンク及び前記循環ポンプを直列的に接続する配管とを備え、
前記分散装置は、該分散装置内部の前記混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくされる循環式分散システム。
【請求項2】
前記分散装置は、前記タンクより上側に配置されている請求項1記載の循環式分散システム。
【請求項3】
前記分散装置の出口側と前記タンクの入口側との間の配管には、前記分散装置における混合物の流出量を増加させるためのポンプが設けられている請求項1記載の循環式分散システム。
【請求項4】
前記タンクには、前記タンク内部を減圧する減圧ポンプが設けられている請求項1又は請求項3記載の循環式分散システム。
【請求項5】
前記分散装置は、一対のローターを有し、該一対のローター間に中空軸を介して前記混合物が流入され、該一対のローターの隙間から外周側に向けて放射状に前記混合物を放出することにより前記混合物を分散する請求項1記載の循環式分散システム。
【請求項6】
前記一対のローターは、水平方向に対向して配置されている請求項5記載の循環式分散システム。
【請求項7】
前記一対のローターは、垂直方向に対向して配置されている請求項5記載の循環式分散システム。
【請求項8】
前記混合物は、処理原料と添加物とが混合されてなり、
当該循環式分散システムは、配管内に前記処理原料を循環させ、該処理原料に前記添加物を添加させながら前記分散装置による分散を行う装置であり、
前記分散装置は、前記一対のローターのうち、下側ローターの中空軸を介して前記循環される処理原料が供給され、前記一対のローターのうち、上側ローターの中空軸を介して前記添加物が供給される請求項7記載の循環式分散システム。
【請求項9】
前記一対のローターの少なくともいずれか一方を駆動することにより、他方に対して近接及び離間する方向に駆動する駆動機構を備える請求項5乃至請求項8の内いずれか1項に記載の循環式分散システム。
【請求項10】
前記駆動機構を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記一対のローターの間の混合物の圧力を検出する圧力センサ、及び前記一対のローター間から放出される混合物の温度を検出する温度センサの一方又は両方の検出結果に基づいて、前記一対のローターの対向間隔を調整する請求項9記載の循環式分散システム。
【請求項11】
前記駆動機構は、サーボシリンダである請求項10記載の循環式分散システム。
【請求項12】
前記分散装置は、互いに対向して配置されるローター及びステータを有し、該ローター及びステータ間に中空軸を介して前記混合物が流入され、該ローター及びステータの隙間から外周側に向けて放射状に前記混合物を放出することにより前記混合物を分散する請求項1記載の循環式分散システム。
【請求項13】
前記ローター及びステータは、水平方向に対向して配置されている請求項12記載の循環式分散システム。
【請求項14】
前記ローター及びステータは、垂直方向に対向して配置されている請求項12記載の循環式分散システム。
【請求項15】
前記混合物は、処理原料と添加物とが混合されてなり、
当該循環式分散システムは、前記処理原料を循環させ、該処理原料に前記添加物を添加させながら前記分散装置による分散を行う装置であり、
前記分散装置には、前記ローター及びステータのうち、下側に配置されたステータの中空軸を介して前記循環される処理原料が供給され、
前記タンクには、タンク内の処理原料に添加物を供給する供給装置が設けられる請求項14記載の循環式分散システム。
【請求項16】
前記ローター及びステータの少なくともいずれか一方を駆動することにより、他方に対して近接及び離間する方向に駆動する駆動機構を備える請求項12乃至請求項15の内いずれか1項に記載の循環式分散システム。
【請求項17】
前記駆動機構を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記ローター及びステータの間の混合物の圧力を検出する圧力センサ、及び前記ローター及びステータ間から放出される混合物の温度を検出する温度センサの一方又は両方の検出結果に基づいて、前記ローター及びステータの対向間隔を調整する請求項16記載の循環式分散システム。
【請求項18】
前記駆動機構は、サーボシリンダである請求項17記載の循環式分散システム。
【請求項19】
前記分散装置は、前記一対のローターのうち、下側ローターの外周に混合物を下方側に導く突起部が設けられている請求項7又は請求項8記載の循環式分散システム。
【請求項20】
前記下側ローターに設けられる突起部は、該下側ローターの下面の外周側にリング状に形成されている請求項19記載の循環式分散システム。
【請求項21】
前記一対のローターは、互いに対向する面がセラミックにより形成されている請求項5記載の循環式分散システム。
【請求項22】
前記一対のローターは、互いに対向する面を有する先端部材と、該先端部材を交換可能に取り付ける取付部材とを有し、
前記先端部材は、セラミックにより形成され、前記取付部材は、金属により形成されている請求項5記載の循環式分散システム。
【請求項23】
前記一対のローターは、互いに対向する面を有する先端部材と、該先端部材を交換可能に取り付ける取付部材と、前記先端部材を該取付部材に固定する固定ネジとを有し、
前記固定ネジは、前記先端部材の前記対向する面側から前記取付部材に取り付けられることで、前記先端部材を前記取付部材に固定し、
前記先端部材は、セラミックにより形成され、
前記先端部材には、前記固定ネジを取り付ける部分に凹部が形成され、
前記凹部は、前記固定ネジが前記先端部材を固定する状態に取り付けられたときに、前記固定ネジの頭部が、前記先端部材の前記対向する面より深く位置するように、形成されている請求項5記載の循環式分散システム。
【請求項24】
スラリー状又は液体状の混合物を循環させながら分散させる循環式分散方法において、
前記混合物をローター型且つ連続型の分散装置で分散させるとともに、該分散装置と、前記分散装置の出口側に接続されるタンクと、前記循環ポンプとを直列的に接続する配管により循環させるに際し、
前記分散装置内部の前記混合物が該分散装置内部に設けられる軸封部を浸漬させない程度の量となるように、混合物の流出量が流入量よりも大きくして、循環分散を行う循環式分散方法。
【請求項25】
前記分散装置は、前記タンクより上側に配置されている請求項24記載の循環式分散方法。
【請求項26】
前記分散装置の出口側と前記タンクの入口側との間の配管には、前記分散装置における混合物の流出量を増加させるためのポンプが設けられている請求項24記載の循環式分散方法。
【請求項27】
前記タンクには、前記タンク内部を減圧する減圧ポンプが設けられている請求項24又は請求項26記載の循環式分散方法。
【請求項28】
前記分散装置は、一対のローターを有し、該一対のローター間に中空軸を介して前記混合物が流入され、該一対のローターの隙間から外周側に向けて放射状に前記混合物を放出することにより前記混合物を分散する請求項24記載の循環式分散方法。
【請求項29】
前記一対のローターは、水平方向に対向して配置されている請求項28記載の循環式分散方法。
【請求項30】
前記一対のローターは、垂直方向に対向して配置されている請求項28記載の循環式分散方法。
【請求項31】
前記混合物は、処理原料と添加物とが混合されてなり、
当該循環式分散方法は、配管内に前記処理原料を循環させ、該処理原料に前記添加物を添加させながら前記分散装置による分散を行う方法であり、
前記分散装置は、前記一対のローターのうち、下側ローターの中空軸を介して前記循環される処理原料が供給され、前記一対のローターのうち、上側ローターの中空軸を介して前記添加物が供給される請求項30記載の循環式分散方法。
【請求項32】
前記一対のローターの少なくともいずれか一方を駆動することにより、他方に対して近接及び離間する方向に駆動する駆動機構を備える請求項28乃至請求項31の内いずれか1項に記載の循環式分散方法。
【請求項33】
前記駆動機構を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記一対のローターの間の混合物の圧力を検出する圧力センサ、及び前記一対のローター間から放出される混合物の温度を検出する温度センサの一方又は両方の検出結果に基づいて、前記一対のローターの対向間隔を調整する請求項32記載の循環式分散方法。
【請求項34】
前記駆動機構は、サーボシリンダである請求項33記載の循環式分散方法。
【請求項35】
前記分散装置は、互いに対向して配置されるローター及びステータを有し、該ローター及びステータ間に中空軸を介して前記混合物が流入され、該ローター及びステータの隙間から外周側に向けて放射状に前記混合物を放出することにより前記混合物を分散する請求項24記載の循環式分散方法。
【請求項36】
前記ローター及びステータは、水平方向に対向して配置されている請求項35記載の循環式分散方法。
【請求項37】
前記ローター及びステータは、垂直方向に対向して配置されている請求項35記載の循環式分散方法。
【請求項38】
前記混合物は、処理原料と添加物とが混合されてなり、
当該循環式分散システムは、前記処理原料を循環させ、該処理原料に前記添加物を添加させながら前記分散装置による分散を行う装置であり、
前記分散装置には、前記ローター及びステータのうち、下側に配置されたステータの中空軸を介して前記循環される処理原料が供給され、
前記タンクには、タンク内の処理原料に添加物を供給する供給装置が設けられる請求項37記載の循環式分散方法。
【請求項39】
前記ローター及びステータの少なくともいずれか一方を駆動することにより、他方に対して近接及び離間する方向に駆動する駆動機構を備える請求項35乃至請求項38の内いずれか1項に記載の循環式分散方法。
【請求項40】
前記駆動機構を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記ローター及びステータの間の混合物の圧力を検出する圧力センサ、及び前記ローター及びステータ間から放出される混合物の温度を検出する温度センサの一方又は両方の検出結果に基づいて、前記ローター及びステータの対向間隔を調整する請求項39記載の循環式分散方法。
【請求項41】
前記駆動機構は、サーボシリンダである請求項40記載の循環式分散方法。
【請求項42】
前記分散装置は、前記一対のローターのうち、下側ローターの外周に混合物を下方側に導く突起部が設けられている請求項30又は請求項31記載の循環式分散方法。
【請求項43】
前記下側ローターに設けられる突起部は、該下側ローターの下面の外周側にリング状に形成されている請求項42記載の循環式分散方法。
【請求項44】
前記一対のローターは、互いに対向する面がセラミックにより形成されている請求項28記載の循環式分散方法。
【請求項45】
前記一対のローターは、互いに対向する面を有する先端部材と、該先端部材を交換可能に取り付ける取付部材とを有し、
前記先端部材は、セラミックにより形成され、前記取付部材は、金属により形成されている請求項28記載の循環式分散方法。
【請求項46】
前記一対のローターは、互いに対向する面を有する先端部材と、該先端部材を交換可能に取り付ける取付部材と、前記先端部材を該取付部材に固定する固定ネジとを有し、
前記固定ネジは、前記先端部材の前記対向する面側から前記取付部材に取り付けられることで、前記先端部材を前記取付部材に固定し、
前記先端部材は、セラミックにより形成され、
前記先端部材には、前記固定ネジを取り付ける部分に凹部が形成され、
前記凹部は、前記固定ネジが前記先端部材を固定する状態に取り付けられたときに、前記固定ネジの頭部が、前記先端部材の前記対向する面より深く位置するように、形成されている請求項28記載の循環式分散方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−36862(P2011−36862A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−255170(P2010−255170)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】