説明

循環式水槽およびこれを用いた魚介類の飼育方法

【課題】
魚介類の排泄物等に由来する有機物を吸収する機構を備え、長期間にわたり魚介類の飼育を継続することができる循環式水槽を提供する。
【解決手段】
魚介類を飼育する飼育槽の排水を循環水として浄化する循環式水槽において、淡水性の珪酸塩鉱物を設けて植物が繁茂する植物槽を飼育槽の手前に設けることを特徴とする循環式水槽である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の飼育ないし養殖のための循環式水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、魚介類の飼育、特に陸上での養殖や長期畜養に適した水槽からの排水を循環させて再使用する循環式水槽を開発している(特許文献)。一般に水槽で魚介類の飼育を長期間にわたって継続すると、水中には餌の残りや老廃物などの粗粒体、塵埃等の微細物や、排泄物等に由来する有機物が残留、増加する。本発明者らは、水中の粗粒体や微細物を濾過するシステムに加えて、有機物を好気性微生物によって分解、浄化する生物濾過槽を備える循環式水槽を開発し、魚介類を飼育する効率的且つ小型化した循環式水槽を実用化している。
【0003】
【特許文献1】特許第2583495号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献の循環式水槽を用いても、長期の飼育のうちに水中にわずかな有機物が残るため、月に1回以上といった頻度で定期的に、水槽の水替えを行う必要が生じていた。
【0005】
発明者らは、この水替えの頻度や、水替えの際に生じる人為的ミスなどによる危険を減少させるため、循環式水槽をさらに改良することを目的として鋭意研究を進めていった。そして、自然の海水や淡水の環境によく似た、植物を備える水質改善システムを循環式水槽に備えることが好ましい点に想到し、本発明を得るに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成すべく、本発明に係る循環式水槽及びこれを用いた魚介類の飼育方法は、次のような手段を選択する。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の循環式水槽は、魚介類を飼育する飼育槽の排水を循環水として浄化する循環式水槽において、淡水性の珪酸塩鉱物を設けて植物が繁茂する植物槽を飼育槽の手前に設けることを特徴とする。
【0008】
そして、この循環式水槽では、植物槽では淡水性の珪酸塩鉱物が好気性微生物を繁殖させ、それを養分とする植物が生育する。さらに、その植物槽を飼育槽の手前に設けることで、循環水中に有機物が残っていたとしてもこれを植物に吸着させる。ここで植物は草類と藻類、また淡水性と海水性を含む。
【0009】
また、請求項2に記載の循環式水槽は、上記珪酸塩鉱物が細孔を有する珪藻岩であることを特徴とする。
【0010】
そして、この植物槽では、珪藻岩の表面積が大きいため、好気性微生物の増殖率が高く、植物が盛んに繁茂し、循環水の有機物が吸着される。また、その微生物と植物が生息する珪藻岩が自然の水環境での岩石に相当する役割となる。
【0011】
また、請求項3に記載の循環式水槽は、上記植物槽に通水性の床を設けて上記床の上に上記珪酸塩鉱物を配置し、循環水を上記床の下部から供給することを特徴とする。
【0012】
そして、この植物槽では、床下から珪酸塩鉱物に均等に循環水が供給され、また植物槽の下から上部へと水流が発生することで植物槽全体に循環水がゆきわたる。
【0013】
また、請求項4に記載の循環式水槽は、魚介類の飼育槽と、循環水中の粗粒体を濾過する第一濾過槽と、循環水中の有機物を除去する生物濾過槽と、上記植物槽とが夫々独立して備えられ、循環水が第一濾過槽、生物濾過槽、植物槽、飼育槽の順に循環することを特徴とする。
【0014】
そして、この循環式水槽では、独立した工程で夫々循環水が疎から密へと浄化され、最後に植物槽に循環水中の有機物を吸着させることができる。
【0015】
また、請求項5に記載の循環式水槽は、魚介類の飼育槽の排水を循環水として浄化する循環式水槽において、淡水性の珪酸塩鉱物を設けて植物が繁茂する植物槽を飼育槽の内部に配置したことを特徴とする。
【0016】
そして、この循環式水槽では、飼育槽の内部において好気性微生物と植物を生息させて自然な水中環境で魚類を飼育させるようにし、循環水中の有機物が吸着される。
【0017】
また、請求項6に記載の循環式水槽は、上記珪酸塩鉱物が細孔を有する珪藻岩であることを特徴とする。
【0018】
そして、この植物槽では好気性微生物の増殖率が高く、植物が盛んに繁茂し、飼育槽からの循環水が植物槽と行き来して有機物が吸着される。
【0019】
また、請求項7に記載の循環式水槽は、上記植物槽は上記飼育槽の循環水を通水する通水壁であることを特徴とする。
【0020】
そして、この植物槽では、循環水が恒常的に飼育槽へと行き来する状態となる。
【0021】
また、請求項8に記載の循環式水槽は、通水壁が支持材を井状に組み合わせて間隙を有していることを特徴とする。
【0022】
そして、この植物槽では、通水壁の底部の内側や外部に上記珪酸塩鉱物が配置でき、間隙を通じて通水する。
【0023】
また、請求項9に記載の循環式水槽は、上記植物槽の上部に生物濾過槽の少なくとも上部を水面より突出させ、飼育槽から生物濾過槽に上向きの水流を設けて、生物濾過槽の上部よりオーバーフローさせたことを特徴とする。
【0024】
そして、この循環式水槽によれば、上部よりオーバーフローする構造をとることで、生物濾過槽内の水圧を緩やかに設定できる。さらに、生物濾過槽から流れ落ちた循環水が下部の植物槽に広くゆきわたる。
【0025】
また、請求項10に記載の循環式水槽は、通水壁が仕切網であることを特徴とする。
【0026】
そして、この循環式水槽では、仕切網を通じて植物槽と飼育槽を循環水が行き来し、仕切網にも植物が繁茂する。
【0027】
また、請求項11に記載の魚介類の飼育方法では、請求項1から10のいずれかに記載の魚介類の循環式水槽を使用して飼育槽で魚介類を飼育することを特徴とする。
【0028】
そして、この循環式水槽では、有機物を吸着する植物が繁茂した植物槽を備えた循環式水槽で魚介類が飼育される。そして、個別独立した工程で循環水を浄化する循環式水槽、または植物を有する自然環境に近い飼育槽を備えた循環式水槽において、魚介類が飼育される。
【発明の効果】
【0029】
以上のとおり、請求項1に係る循環式水槽によれば、植物槽の中に植物が繁茂し、その植物は水中の排泄物等に由来する残留物を養分として消費し、水中の有機物の濃度を低減させることができる。また、植物の光合成によって水中に酸素も供給され、飼育に適した循環水を飼育槽に供給することができる。そのため、魚介類の飼育における水替えの頻度を植物槽を設けないシステムの場合の10〜20%へと、顕著に減少させることができる。
【0030】
また、請求項2に係る循環式水槽によれば、珪酸塩鉱物の細孔を通じて水が通るため水中の溶残酸素が珪酸塩鉱物の表面に供給されやすく、珪酸塩鉱物に好気性微生物が好適に繁殖するため、植物が繁茂しやすい植物槽を得ることができる。
【0031】
また、請求項3に係る循環式水槽によれば、床の下部の空間に対して循環水を供給することで、循環水を珪酸塩鉱物に効率的にゆきわたらせることができる。また植物槽の下部に対して循環水を供給する形になるため、循環水が植物槽の下部から上部へとまんべんに循環させ、上昇水流を起こさせることができる。
【0032】
また、請求項4に係る循環式水槽によれば、第一濾過槽によって水中の粗粒体が濾過され、濾過された循環水が生物濾過槽によって水中の有機物が除去され、有機物が除去された循環水が植物槽によってさらに有機物が残っていても吸着されるという機構が備えられ、それぞれ独立した工程で浄化された循環水が再び飼育槽へと循環することができる。
【0033】
また、請求項5に係る循環式水槽によれば、飼育槽内に有機物の吸着と光合成の効果を持つ植物槽を得られ、植物の繁茂による自然に近い環境によって、魚介類をストレスなく飼育できるようにすることができる。
【0034】
また、請求項6に係る循環式水槽によれば、多孔性の珪藻岩に微生物と植物が繁殖しやすいため、自然の環境に近い有機物の除去、吸着機能が得られる。
【0035】
また、請求項7に係る循環式水槽によれば、飼育槽の循環水に対して恒常的に植物槽の植物や好気性微生物による水質改善が行われる。
【0036】
また、請求項8に係る循環式水槽によれば、また通水壁の内部に珪酸塩鉱物を設けることで生物濾過槽からの浄化された水に曝されやすい、豊富な植物の生息スペースを設けることができる。さらに、井桁状は容易に作り設置することができる構造であり、充分な通水ができる間隔を持ち、かつ、生物濾過槽の重量に耐えられる通水壁が得られる。
【0037】
また、請求項9に係る循環式水槽によれば、生物濾過槽からオーバーフローする構造のため、生物濾過槽内の水流を緩やかにすることができるので、時間をかけて微生物による浄化が行われ、生物濾過槽の目詰まりが少ない。また、生物濾過槽による生物濾過を受けた循環水が、植物槽にゆきわたり、さらに残った有機物が吸着される。
【0038】
また、請求項10に係る循環式水槽によれば、仕切網の通水構造のために循環水が飼育槽と植物槽を恒常的に行き来することができる。また仕切り網に繁茂した植物にも有機物を吸着させることができる。
【0039】
また、請求項11に係る循環式水槽によれば、魚介類を独立した工程により浄化された水質によって魚介類の健康を保ち、または、自然の海水や淡水に近い環境によって魚介類のストレスが少なく、大量の水替えを頻繁に行う必要がなく、安全に長期間飼育することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、具体例を示して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1〜3は、実施の形態(1)を示す。図1は循環式水槽の概略図、図2は設置時の植物槽の断面図、図3は使用時の植物槽の断面図を示す。
【0041】
循環式水槽100は、魚介類を飼育ないし養殖する飼育槽1000と、飼育槽1000からの排水に接続する第一濾過槽2と、第一濾過槽2からの排水に接続する生物濾過槽4を備え、生物濾過槽4と飼育槽1000の間には、植物槽1が接続されて構成されている。この場合、生物濾過槽4の前に気泡発生槽3と、第二濾過槽5を備えることが可能である。
【0042】
植物槽1は、植物槽本体10が側壁101と底部102を有するボックス形を呈し、底部102に淡水性の珪酸塩鉱物11を設置されている。上記珪酸塩鉱物11には、珪藻岩11Aを用い、植物槽1の底部102の上に隙間12ができるよう設けた通水性の床16の上に配置されている。隙間12に循環水を供給するパイプ17、気泡供給装置14を備えて概略構成される。
【0043】
まず、淡水性の珪酸塩鉱物11について詳しく説明する。淡水性の珪酸塩鉱物11は図2に示すように、多孔質であることが好ましく、さらに一方の面から他方の面に連通する細孔111を多数有することがより好ましい。特に、微細孔は径が5〜50μm前後で、5〜15μm前後が望ましく、鉱物表面積あたりの細孔数は0.5〜1.0x10/mm前後、また珪酸塩鉱物の一方から他方へと通じるトンネル状のものを多く含むのが望ましい。
【0044】
上記珪酸塩鉱物11には、淡水性の珪藻岩11Aを用いる。珪藻岩(diatomite)は、主に小型のものでは珪藻石、珪藻土と通称されるものを含む。淡水性の珪藻岩11Aは、陸上の湖等で産出され、珪酸塩を50重量%以上含有している。上記珪藻岩11Aは、直径5mm〜30mm程度の大きさが好適である。なお、この珪藻岩の(シリカゲル含む)シリカ成分は、吸着性に優れ、水中に浮遊するカドミウム、水銀、亜鉛、リンといった重金属を吸着する。
【0045】
淡水性の珪藻岩11Aは、塩化ナトリウム濃度が一般的に約3重量%と低いため、循環水の塩分濃度をあまり増加させず、好適に使用される。一方で海水性の珪藻岩は、海水を処理する場合であっても、塩化ナトリウム濃度が一般的に15〜16重量%と高く、塩分濃度を増加させるため、好ましくない。なお、淡水性の珪藻岩11Aに、海水性のものが一部混入しても植物槽1に使用可能であるが、淡水性の珪藻岩11Aが90重量%以上であることが好ましい。
【0046】
上記珪藻岩11Aの総量は、好ましくは飼育槽1000の容量と魚介類の飼育規模によって、植物槽1の水質改善能力を予想して決定するのが望ましい。図に示した例では、植物槽1の容積の20〜25%前後の重量の珪酸岩11Aを用いている。
【0047】
上記珪藻岩11Aは、植物の最適な生育状況となる厚みを予想して、その一定の厚みで堆積することが望ましい。例えば、分厚く堆積すれば、好気性微生物の生育量および植物の量が増加するが、下部の珪酸塩鉱物に光があたらなくなる。図2では、植物槽1の通水性の床16の上には、直径5〜30mmの珪藻岩11Aを数層、20〜25cmの厚さになるよう積層している。
【0048】
これに対して、例えば植物槽1が循環水を下部から供給しない構造である場合、厚く堆積しても下部の珪酸塩鉱物には循環水が供給されなくなる可能性があるため、重ならないように堆積するのが望ましい。このほか珪酸塩鉱物11を堆積する厚みや量は、繁茂させたい草類、藻類のそれぞれの割合や種類に応じても調整できる。
【0049】
次に、通水性の床16は、珪藻石11Aが通過しない充分な目の細かさで、循環水からの微粒や、植物槽1の細かい植物や微生物の残骸などの塵で詰まらないような目の大きさが必要である。図に示した例では、通水性の床16は目が2〜3mmの粗さのナイロン製の網を用いている。
【0050】
通水性の床16は、植物槽本体10の側壁101に枠状に突出されたフィルター受103の上に設置される。フィルター受103は、下部に隙間12ができるように通水性の床16を保持し、下部から供給される循環水は通過可能となっているものである。図では、フィルター受枠104に目が2〜3cmの荒さの木製のスノコのフィルター受105が嵌合されている。フィルター受105の上部に、通水性の床16を設置する。
【0051】
次に、パイプ17は通水性の床16の下部の隙間12に渡され、植物槽本体10の入水口106を通じて配管31と連通している。上記パイプ17には穴18が備えられ、配管31から、ポンプ9により循環水が圧送される。排水口107は側壁102の上部に設けられ、配管32と連通している。
【0052】
植物槽本体10は、飼育の規模に応じ、循環水を連続処理するために、十分な容量をもつことが好ましい。図2に示す例では、容量50−100tの飼育槽に対して、植物槽は2−3kL前後で形状を直方体としているが、設置条件にあわせて任意の容量と形状を選択できる。植物槽本体10は、植物の光合成が可能なように、全部、又は部分的に光透過性があることが好ましい。材質は、ガラス、アクリル、FRP、その他の樹脂製品で透明度の高い材質を使用する。なお、植物槽本体10の機械的強度を向上させるために、アルミニウム、又はステンレスなどの金属又は合金で、植物槽本体10を補強することもでき、さらに、植物槽本体10を上記金属又は合金で形成し、植物槽1を照らす照明を形成することもできる。
【0053】
植物槽1の内部には気泡供給装置14が設けられる。気泡供給装置14としては微細気泡を発生するポンプが最も好ましいが、植物槽1の内部に直接にポンプを設置しなくとも、外部に設置した空気ポンプ等から配管を通じて直接空気を送り込む、微細気泡を伴った水流を送り込む、といった手段で気泡を供給することもできる。
【0054】
図に示した例では、気泡供給装置14として微細気泡を発生する曝気ポンプが、位置を保持できる台などと共に備えられている。曝気ポンプは、植物槽本体10の中の循環水を通して珪藻岩11Aに気泡を供給可能な位置に設けられる。図に示した例では、気泡が植物槽1全体にゆきわたるよう、上記フィルター受103の略々中央部に備えられる。
【0055】
次に、飼育槽1000は、魚介類の飼育の規模や種類に応じて選択できる。図1に示した例では、飼育槽1000には仕切り108を設けて複数種の魚介類の飼育に用いている。この実施例での飼育方法は浄化作用の高さによって、自然の海水により近い条件が得られる方法であるため、条件調整の困難な複数種の飼育において特に有効である。
【0056】
第一濾過槽2を構成する濾過槽2A、2Bは、排水中の魚介類排泄物等や食べカス等の粗粒体を大量に除去可能な寸法のメッシュ構造が内蔵されて構成される。メッシュ孔径は、例えば0.1〜2.0mm程度とする。この濾過槽2A、2Bの次には水位調節と粗粒体の除去を行うオーバーフロー式の二重管20を併設可能である。
【0057】
気泡発生槽3は、キャビテーション効果等によって超微粒気泡を発生させて循環水中に大量に酸素供給できるものである。なお、必要に応じて、第一濾過槽2に気泡発生槽3を組み込む形で一体化する形態をとることもできる。
【0058】
前記第二濾過槽5A、5Bには循環水が第二循環ポンプ91によって圧送される。上記第二濾過槽5A、5Bは第一濾過槽2よりも細かいメッシュのフィルタが用いられ、微生物が除去される。
【0059】
生物濾過槽4は、酸素供給され微細物を除去された後に、水中有機物を除去するためのもので、好気性微生物を繁殖させ易いメッシュの粗い素材の一種又は数種で一定厚みに形成された濾過材40が、本体の内部で多段重ねされて成る。濾過材40としては、好気性微生物を多孔内にきわめて繁殖させやすい素材として、植物槽1に用いられているのと同じ淡水性の珪藻岩11Aが特に好適である。他にも、他の珪酸塩鉱物や、同様に微生物が繁殖しやすい多孔性のセラミックや活性炭などの素材も組み合わせて用いることもできる。
【0060】
上記生物濾過槽4で処理された循環水は、配管30、31、バルブ21、及びポンプ9を通って、植物槽1に供給可能に構成されている。
【0061】
上記植物槽1で処理された循環水は、配管32、バルブ22を介して、飼育槽1000に供給可能に構成されている。
【0062】
さらに、上記植物槽1には、水の交換用に配管33及びバルブ23がバイパス接続されている。
【0063】
植物槽1と飼育槽1000の間には、冷却装置7とpH調整槽8とを付加できる。これらは主に、循環水を飼育槽1000の外に引き出しているため、循環水を飼育槽1000に戻す際にふたたび飼育槽1000内の水に近い条件へと調整するためのものである。上記冷却槽には殺菌装置や酸素供給装置をも付随させることが可能である。
【0064】
前記循環水は、配管34から飼育槽1000の縁部に還流可能に供給されて循環するが、配管35によって飼育槽中央部にも供給可能となっている。
【0065】
次に、植物槽1の機能について説明する。飼育槽からの循環水には、食べ残された餌や魚介類の排泄物等に由来する有機物が含まれている。
【0066】
植物槽1の使用法は、図3に示すように、植物槽本体10に天然の海水又は淡水を供給し、気泡供給装置14で水に気泡15を与え放置する。
【0067】
この状態に置かれると、珪藻岩11Aの表面外部および細孔111には、海水又は淡水由来の好気性微生物112が繁殖する。特に、図3の拡大図に示す例では、細孔111が他方の面に連通している珪藻石11を用いているため、珪藻岩内の水流113によって溶残酸素が細孔111内に供給され、また好気性微生物112が移動可能になる。従って、珪藻岩11Aの表面における好気性微生物112の繁殖がより効果的になされる。
【0068】
この状態で、例えば1週間ほど放置することで、水中に含まれる草類、藻類の種子、胞子をもとに、珪藻岩11Aに発生する好気性微生物112と循環水中の有機物などを養分として、珪藻岩11Aに草類13A、藻類13Bが繁殖する。この状態になった植物槽1を通った循環水は、上記草類13A又は藻類13Bの繁殖によって有機物が吸着される。さらに、上記草類13A又は藻類13Bは、光合成を行ない、循環水に酸素を供給することで、魚介類の養殖に適した水質を作る効果もある。なお、迅速に植物13を繁殖させるために、珪藻岩11Aには予め好気性微生物112が繁殖したものを用いることも可能である。
【0069】
草類13Aの種子、又は藻類13Bの胞子は、天然の海水あるいは淡水中に含まれているため、特に種子や胞子を加えなくても、植物槽1の内部で草類13Aや藻類13Bの繁殖は始まり得る。なお、より早く草類13A又は藻類13Bを繁殖させるために、以下に述べるような草類13Aの種子、又は藻類13Bの胞子を加えておくことも可能である。
【0070】
草類13Aは、海草又は淡水草のいずれでもよいが、花を咲かせ、種子を作って繁殖するものである。海草としては、スガモ、アマモ、コアマモ、イトモなどが、淡水草としては、アヌビアス・ナナ、ロタラ・インディカ、スクリューバリスネリア、ウォーターウィステリア、ピグミーチェーンサジタリア、ウィローモスなどが挙げられる。
【0071】
藻類13Bは、海藻又は淡水藻のいずれでもよいが、藻類を指し、花は咲かず、胞子によって増殖するものである。海藻としては、緑藻類のアオサ、アオノリ、褐藻類のコンブ、ワカメ、ヒジキ、モズク、紅藻類のアサクサノリ、テングサなどが、淡水藻としては、藍藻、珪藻、緑藻、鞭毛藻などが挙げられる。
【0072】
上記草類13A又は藻類13Bの種類としては、一般的な魚の飼育温度18〜20℃程度に対応して、15〜20℃くらいで繁殖するものが好ましい。
【0073】
草類13A又は藻類13Bの繁殖に必要な、珪藻岩11Aに生息する好気性微生物112は、気泡供給装置14から供給される気泡15、魚介類の排泄物等に由来する有機物などによっても増殖を続け、植物13の繁茂を助けるほか、微生物自体による浄化作用も維持する。
【0074】
また、この実施の形態(1)では、循環水が通水性の床16を通して植物槽1に供給され、植物槽1の下部から上部への水流が発生するため、循環水は植物槽1において、最初に珪藻岩11Aの好気性微生物や植物13による作用を経る。また、配置された珪酸塩鉱物11にむらなく循環水が供給され、珪藻岩11Aによる好気性微生物や植物13による作用が効率的に発揮できる。
【0075】
気泡供給装置14は、微細な気泡を発生することで、植物槽1内に好気性微生物112の繁殖を促すことの他に、水底に溶残酸素量の増加、水のクラスター分子の細分化、pHの調整、また、マイナスの電位を帯びたヒドロキシルイオンの効果によってヘドロ、アオコを分解すること、貪酸素水塊をなくし、いわゆる赤潮の原因を解消すること、魚介類の寄生虫を駆除し病気の予防をすることなどの役割も果たし、薬浴に頼ることを必要としない。
【0076】
次に、循環式水槽100の機能について説明する。飼育槽1000からの排水は、第一循環ポンプ90により第一濾過槽2A又は2Bに供給されるので、食べカス等の粗粒体が大部分除去される。第一濾過槽2A、2Bと2個設けることにより、第一濾過槽のメンテナンスが容易となる。次いで、二重管20のオーバーフローによって、水槽の水位調節と粗粒体の除去とが行われる。
【0077】
第一濾過槽2A又は2Bからの循環水は、気泡発生槽3で酸素供給される。溶存酸素は生物濾過を行う好気性微生物に十分な飽和量が望ましい。その際、気泡によってその界面に微細物のほかに油や有機物が除去される。有機物は約30〜40%程度除去される。
【0078】
気泡発生槽3からの循環水は、必要に応じて第二濾過槽5A又は5Bに供給される。第二濾過槽槽5A又は5Bでは微細物が除去される。
【0079】
生物濾過槽4で、循環水は濾過材40の好気性微生物によって、溶残酸素が消費されてアンモニア等の有機物が処理される。
【0080】
循環水は生物濾過槽4を通った後に、植物槽1によってさらに有機物が吸着され、光合成により酸素が供給される。
【0081】
さらに、冷却装置7による冷却殺菌と合わせて酸素供給を行うと同時に、pH調整槽8で最適なpH状態として再度飼育用水槽1に還流する。
【0082】
この実施の形態では、各浄化機能を持つ槽の配置により、循環水から粗粒と微細粒、アンモニア等、さらに残った有機物の順に除去されることで、それぞれの作用が最大限発揮できるようになっている。
【0083】
特に、生物濾過槽4の直後に植物槽1が設けられていることで、生物濾過槽4の好気性微生物による分解作用を経た循環水が供給され、植物槽1の植物の繁茂が盛んに起こる。ここには、微生物の作用によって植物に吸着される形となった有機物が、植物に栄養として吸着されるといった働きも含まれると考えられる。
【0084】
また、植物槽1は最後に設けられていることで、透明度が高くなった水が供給されるため、植物の光合成が活発に行われる点でも好適である。加えて、植物槽1は飼育槽の手前に設けられており、植物槽1で処理された循環水は有機物が吸着され、酸素を多く含むため、魚介類の成育に好ましい。
【0085】
なお、本発明の循環式水槽は、ここでは主な産業上の利用目的として陸上での魚介類養殖である養殖用をはじめ、成魚の比較的長期間の畜養の目的など、魚介類の飼育一般に広く用いることができる。
【0086】
この実施の形態では、淡水性の珪酸塩鉱物11として淡水性の珪藻岩11Aを用いているが、それ以外の珪酸塩鉱物には、カンラン石、花崗岩、長石、堆積岩、火成岩などがあげられる。
【0087】
植物槽1には、通水性の床16を用いずに、植物槽1の下部から珪酸塩鉱物11にゆきわたるように循環水を供給する方法として、パイプ18を一ないし複数、植物槽1の底の珪酸塩鉱物11の積み重なった層の中に直接、底部に張り巡らせるように埋めるといった手段もある。
【0088】
植物槽1には、淡水性の珪酸塩鉱物11の設置に加えて、カンラン石19を、循環水に各種イオンを供給可能となるよう備えることもできる。カンラン石19は、フィルター16を通過しないで、かつ325メッシュ(目開き:45μm)のふるいを通過する粉体〜50mm程度の大きさが好適に用いられる。
【0089】
カンラン石は遠赤外線の放射率が高く、その育成光線は、植物の光合成を促進し、カルシウムイオンの増加を促す。また、このカンラン石の主成分には、鉄分、アルミナ、マグネシウムなどがバランス良く含まれ、これらが循環水に供給される。これらのミネラルは珪酸塩鉱物からの珪素に加えて草類、藻類の生育、生命活動に有益な役割を果たす。また循環水へのミネラルの供給は飼育する魚介類の栄養としても効果が期待できる。さらに、カンラン石以外に、玄武岩、黒鉛珪石、電気石、石英、または珪石などを使用することができる。
【0090】
図4、5は実施の形態(2)を示す。図4は、植物槽を飼育槽の内部に設ける植物槽内蔵型循環式水槽の平面図、図5はそのA−A’断面の側面図を示す。なお、図1〜3とは同一符号は同等部分を示すので、重複説明を省略する。
【0091】
植物槽内蔵型循環式水槽120は、魚介類の飼育槽1000と、飼育槽の内部に配置された内蔵式植物槽50から概略構成されている。飼育槽1000には、排水に接続する第一濾過槽2、第一濾過槽2からの排水に接続する気泡発生槽3を付設することができる。
【0092】
まず、内蔵式植物槽50は、珪藻岩11Aを設けられ、飼育槽1000の循環水を通水する通水壁として、支持材122、123を井状に組み合わせて間隙124を有する井桁状構造体121を持つ。植物槽50の上部には生物濾過槽4が少なくとも上部を水面より突出する形で設けられ、生物濾過槽4には上部よりオーバーフローする水流125を生じさせている。通水壁として別に、仕切網126も備える。
【0093】
通水壁は、内蔵式植物槽50を構成する通水性の構造体について呼ぶものである。上記珪酸塩鉱物11を配置するための構造、植物を繁茂させる構造、植物が飼育する魚介類から干渉されずに繁茂できるよう内蔵式植物槽50を飼育槽の中で分断する構造などを設けることができるが、いずれも、飼育槽内の循環水が恒常的に内蔵式植物槽50と行き来し、水質が改善されるよう、通水性の構造である必要がある。
【0094】
図に示した例では、通水壁として、まず井桁状構造体121を内蔵式植物槽50の中に配置している。井桁状構造体121は、防水塗装された金属の角柱による2本ずつの縦の支持材122と横の支持材123を交差して交互に積み重ね、隙間1203が構成されるようにしてある。この井桁状構造体121は、内蔵式植物槽50内に一ないし複数設けることが可能で、飼育の規模に応じた内蔵式植物槽50の浄化能力の規模にあわせて選択することが望ましい。図に示した例では2箇所に設置している。
【0095】
井桁状構造体121の支持材122、123で囲まれた内部の床面、および井桁状構造体121の周囲の外部の床面には、珪藻岩11Aを配置する。図に示した例では、丈の長い海草が繁茂した場合の水面との距離を考慮し、床面や井桁状構造体121の最下部の支持材123にのみ配置している。井桁状構造体121の周囲の外部の床面には、繁茂柵126に囲まれた範囲内に珪藻石11Aを配置している。
【0096】
なお、井桁状構造体121は樹脂、金属、コンクリートなどで構成することもでき、また井桁以外にも同様の作用を有するものとして、充分に隙間のある骨組状、枠状、檻状、網棚、孔の多い直方体といった形状で構成することもでき、生物濾過槽4の重量や飼育槽1000の規模に応じて、強度や通水性などから選択する。
【0097】
内蔵式植物槽50の上辺に設けられた生物濾過槽4は、生物濾過槽4で生物濾過された水が、内蔵式植物槽50に流れ落ちるようにしているものである。開口部が水面127よりも上であればよく、生物濾過槽4全体が水上でも、上部のみが突出していてもよい。内蔵式植物槽50の床には、生物濾過槽4の下部を通じて飼育槽1000からの循環水を引き込み、生物濾過槽4内に上向きの水流を発生させるポンプ92が配置されている。
【0098】
次に、別の通水壁である仕切網126は、井桁状構造体121の外側周囲を囲むように水底から水面まで渡して配置されている。仕切網126は循環水を通すが魚介類を通さないもので、内蔵式植物槽50を魚介類が回遊する部分または貝類の飼育や魚類の産卵を行う部分と分断し、植物を密集させると同時に魚介類に干渉されないように繁茂させる、といった目的がある。しかし、飼育槽1000の規模等によっては内蔵式植物槽50に仕切網126を設けない構成も可能である。また仕切網126を一部のみに設ける、繁茂柵1000の外部にも珪藻岩11Aを配置する構成も可能である。
【0099】
仕切網126には、樹脂や細い金属のネットおよびメッシュの他に、金属や樹脂や木製の柵や檻を基礎として、繊維製のネットやメッシュ、麻や綿や藁製の縄などを絡み付けたものなども使用できる。繁茂柵の網の目は、飼育する魚介類の大きさにより、魚介類を通さない目の粗さを選択すればよく、目の大きさが飼育する魚介類の通過可能な大きさよりも若干小さいくらいのものが好適に用いられる。目の大きさはおよそ1〜12cm前後のものが選択でき、5〜10cmが望ましい。
【0100】
図に示した例では、仕切網126には合成繊維の撚り縄によって編まれた漁網を、水槽中に浮き129で設置したものを用いている。浮き129は飼育槽1000の水底に沈めた重り130で位置を保持している。図に示した例では、魚網はナイロン製で目の大きさがおよそ5cmのものを用いている。
【0101】
図に示した例では、気泡供給装置14には微細気泡を発生する曝気ポンプを、井桁状構造体121の周囲に配置されている。この曝気ポンプのかわりに、配管を通じて直接空気や微細気泡を伴った水流を送り込む、といった手段で気泡を供給することもできる。
【0102】
この実施の形態(2)では、飼育槽1000からポンプ92により引き込まれた循環水が、生物濾過槽4の上部の開口部41から出水し、循環するようになっている。この際、魚類排泄物などに由来する有機物を含んだ飼育槽1000の循環水は、気泡供給装置14から発生する気泡により充分に酸素が供給されて、生物濾過槽4に吸入されることとなる。そのため、生物濾過槽4内の好気性微生物の繁殖が盛んに起こり、生育も活性化され、有機物の生物濾過も盛んに起こる。
【0103】
さらに、生物濾過槽4の循環水は、水流125として飼育槽1000内の周囲一体へ流れ込む形となっている。そのため、生物濾過された循環水が周囲一帯、特に井桁状構造物121の周囲に配置された珪藻岩11Aへと充分にゆきわたる。
【0104】
図6に示すように、この状態で放置することで、水中に含まれる植物の種子や胞子をもとに、生物濾過された循環水中の有機物を養分として、珪藻石11Aには植物13が繁殖する。さらに、仕切網126にも種子や胞子が付着、循環水中の養分によって、植物13が繁茂する。
【0105】
なお、配置時に草類、藻類をあらかじめ珪藻岩11Aや仕切網126に繁茂させ、あるいはそれらの種子、胞子を付着させておくことで、迅速に植物が繁茂するようにしておくことも可能である。その際は、養殖する魚の種類に合わせて水質を予想し、植物の種類や繁茂させる量を選択するのが望ましい。
【0106】
また、このとき、仕切網126の草類または藻類は、魚の産卵場となり得、稚魚を孵化させ、飼育することが可能となる。仕切網126には漁網を用いているので、繁茂する草類や藻類は飼育槽1000内の水流によって、海流によるのと同様に微動する。また合成繊維の撚り縄には凹凸が多いので、草類の根や藻類が定着しやすく、また魚が産卵しやすい。さらに、魚類の飼育と同時に、アワビ等の貝類及び稚貝類を飼育することが可能となる。
【0107】
また、飼育によって成魚となったもの、または成魚の長期間の飼育に、この飼育槽1000を用いることで、成魚によって仕切網126に産卵させることもできる。そのあと、飼育槽1000内から親魚を取り出し、その後は飼育槽1000を稚魚を飼育するためのシステムとして用いることができる。すなわち、外から成魚や魚卵を追加しなくとも、恒久的に稚魚、成魚の世代を重ね養殖を続けることが可能な、養殖システムとすることもできる。
【0108】
なお、この実施の形態(2)では、内蔵式植物槽50と生物濾過槽4が水槽内に設けられているため、水槽外部の浄化装置へと循環水を引き出す構造に比べて、水温の変化が少なく、飼育環境の恒常制が保持される。
【0109】
図4では、珪藻岩11Aや仕切網126などに繁茂する植物が浄化の働きを持つため、飼育槽1000の外部には実施の形態(1)のような植物槽1は設けられていないが、外部にも植物槽を配置することはでき、あるいは、水槽内部に植物が充分に繁茂する前は外部に配置しておいて、必要に応じて取り除くこともできる。
【0110】
なお、この実施の形態では、内蔵式植物槽50と生物濾過槽4が水槽の内部に設けられているため、水槽外部には第一濾過槽2と気泡発生槽3のみが設けられている。この2槽の設置は、図4に示した例では、飼育槽1000の一部が出っ張り、通水性の分離柵131によって区分けされた部分が、第一濾過槽2になっている。気泡発生槽3は第一濾過槽2に対して配管の接続ではなく、分離柵131を設けられて互いの壁面を連通された形になっている。第一濾過槽2の濾過フィルタ2Cは、飼育槽1000から気泡発生槽3に向かって仕切りを設ける形で、目が粗いものから細かいものへと順に設置されている。このため最も細かいフィルタで濾過された循環水が気泡発生槽3に届く。気泡発生槽3で気泡を供給された循環水は、ポンプ9によって取水口132より飼育槽1000に戻される。
【0111】
この形態によって、第一濾過槽2と気泡発生槽3の間に水圧を設けるポンプなどを用いていないこと、一体化している部分が多いことで、システム全体の規模を小さくすることが可能となっている。各々の槽が小型の場合は特に、スペースを節約することができ、また水流も頻繁となる。これらの装置の選択は循環式水槽の立地規模や飼育の規模などにあわせて、適宜行うことができる。
【0112】
この実施の形態(2)は、飼育槽1000内に循環水を浄化、水質を改善し循環し続ける機構を備え、なおかつそれらが微生物、植物といった生物生命科学(バイオテクノロジー)の機能によるものであり、自然の淡水、海水環境に近い状態を作っていることに大きな特色がある。従来技術による比較的長期の魚介類の飼育においては、飼育する魚介類の性質にあわせた、また飼育用水を長期間再利用するための水質成分の調整が人為的に行われており、特に食用の魚介類の養殖においては、それが品質に影響していることが考えられたが、この実施の形態(2)では基本的にそれらの人為的な調整を要さず、自然の環境に近い水質が長期間保たれ、その環境内で魚介類の飼育を行うことができる。
【0113】
また、飼育槽1000中に植物の繁茂する部分があることによって、循環水中の微生物や微量成分が自然の水環境により近づき、飼育される魚介類の生態に良影響を与えていると考えられる。
【0114】
続いて図7、8は実施の形態(3)を示す。図7は植物槽を多数配置した大規模循環式水槽の形態の平面図、図8はそのA−A’断面の側面図を示す。
【0115】
この実施の形態の大規模循環式水槽150は、金網式植物槽60を、図7に示すように、生物濾過槽4と珪藻岩11Aを通水壁を用いずに設置し、生物濾過槽4の開口部41が水槽の水面上になるようにし、四方を囲む金網状仕切網151で囲ったのみの単純な構造としており、この構造を図7のように大型の飼育槽1000内に多数配置している。
【0116】
金網状仕切網151は、配置や撤去が簡易な定型性の柵で生物濾過槽4の側面周囲を囲んだものである。図に示した例では、最初に直方体状で上部の蓋のみがない金網の檻を飼育槽1000に配置し、その檻の底部の金網に、生物濾過槽4や珪藻岩11A、ポンプ92、気泡発生装置14を配置している。他に、生物濾過槽4の周囲に長方形の枠状に金網を組み、金網を重りや杭などを介して飼育槽1000の底面に固定する、金網の枠を生物濾過槽4に対してロープ等で保持するといった手段がある。
【0117】
この実施の形態(3)では、金網式植物槽60を多数配置すると、柵の間を飼育している魚類が泳ぎ回る回遊路152などが生じ、さらに魚介類の自然の繁殖環境に近い、大規模な飼育が可能である。
【実施例】
【0118】
図3に示す装置を用い、ヒラメの養殖試験を行うために、まず、植物槽1に草類13Aおよび藻類13Bの繁殖を行った。内容積が約2.4kLの植物槽1に大きさが2.5cm程度のオーストラリア産淡水性オレイ型珪藻岩を約20kgと、大きさが325メッシュの粉体の韓国産希土類アルカリカンラン石を約6kg入れ、海水を約2kL入れた。その後、気泡供給装置14で気泡15を供給し続けたところ、約1週間後にアマモ、イトモが繁殖を開始した。繁殖を始めたアマモ、イトモは、繁殖開始後約数週間で、槽内の略々全体に繁殖した。この状態で、植物槽1の使用を開始した。
【0119】
上記植物槽1を備えた循環式水槽100を用いて、ヒラメの養殖試験を行った。飼育槽1000には内容積が約50kL、第一濾過槽2には内容積が約1kL、気泡発生槽3には内容積が約2kL、第二濾過槽5には内容積が約2kL、生物濾過槽4には内容積が約2kL、植物槽1には上記内容積約2kLのものを使用し、飼育槽1000には約1万匹のヒラメの稚魚を入れた。
【0120】
飼育槽100には、揮発した分の海水を定期的に補給するだけで、水の取替えが年間2〜3回程度まで減少した。従来の植物槽1を設けていない循環式水槽の水の取替え頻度と比較して、1/5〜1/10程度となり、大幅に水の取替え頻度を改良することができた。
【0121】
また、植物槽1を供えることにより、ヒラメの餌の摂取量が1.2〜1.3倍程度増加し、1.0〜1.2kgまで成長するために、従来は1年3ヶ月〜1年半程度を要していたが、3ヶ月程度短縮することが可能となった。また、従来の循環式水槽で1年半程度飼育されたヒラメには養殖魚独特の臭いが発生していたが、本発明に係る循環式水槽100で養殖されたヒラメには、異臭が感じられず、肉質も味覚も良くなり、十分に成長したヒラメを出荷することが可能となった。
【0122】
また、ヒラメの免疫力が高まり、病気になるヒラメが従来の養殖に比べて約1/100に減った。
【0123】
さらに、上記循環式水槽100では、ヒラメとアワビとの共栄が可能となり、また、トラフグ、ナマコ、カサゴなどの複数種の魚類とサザエ、ツブ貝などの複数種の貝類との共栄も可能となった。
【0124】
比較例として、植物槽1に、淡水性の珪酸塩鉱物の変わりに、市販の燃料用炭を用いた。上記炭から、海草、海藻の発生は確認されたが、海草、海藻は槽の略々全体まで繁殖することはなく、約1/100程度であった。さらに、約2ヵ月後に、海草及び海藻は減少傾向に転じていった。上記墨の細孔は他方の面に連通しておらず、炭中に発生した好気性微生物が、炭中の穴である程度死滅し、海草及び海藻の栄養分が十分に供給されなくなったためと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】実施の形態(1)の概略図
【図2】配置時の植物槽の断面図
【図3】使用時の植物槽の断面図
【図4】実施の形態(2)の配置時の平面図
【図5】実施の形態(2)の配置時のA−A’ 断面の側面図
【図6】実施の形態(2)の使用時のA−A’ 断面の側面図
【図7】実施の形態(3)の配置時の平面図
【図8】実施の形態(3)の配置時のB−B’断面の側面図
【符号の説明】
【0126】
1 植物槽
10 植物槽本体
11 珪酸塩鉱物
11A 珪藻岩
12 植物槽の下部の隙間
13 植物
13A 草類
13B 藻類
14 気泡供給装置
15 気泡
16 通水性の床
17 パイプ
18 穴
19 カンラン石
100 循環式水槽A
101 側壁
102 底面
103 フィルター受
104 フィルター受枠
105 フィルター受
106 入水口
107 排水口
108 仕切り
111 細孔
112 好気性微生物
113 珪藻岩内の水流
120 植物槽内蔵型循環式水槽
121 井桁状構造物
122 縦の支持材
123 横の支持材
124 支持材の間隙
125 水流
126 仕切網
127 水面
129 浮き
130 重り
131 分離柵
132 取水口
150 大規模循環式水槽
151 金網状仕切網
152 回遊路
20 二重管
21〜24 バルブ
30〜35 配管
1000 飼育槽
2(2A,2B) 濾過槽
3 気泡発生槽
4 生物濾過槽
40 生物濾過材
41 開口部
5(5A、5B) 第二濾過槽
50 内蔵式植物槽
60 金網式植物槽
7 冷却装置
8 pH調整槽
9、90、91、92 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類の飼育槽からの排水を循環水として浄化する循環式水槽において、
淡水性の珪酸塩鉱物を設けて植物が繁茂する植物槽を上記飼育槽の手前に設けることを特徴とする循環式水槽。
【請求項2】
上記珪酸塩鉱物が細孔を有する珪藻岩であることを特徴とする請求項1に記載の循環式水槽。
【請求項3】
上記植物槽に通水性の床を設けて上記床の上に上記珪酸塩鉱物を配置し、循環水を上記床の下部から供給することを特徴とする請求項1または2に記載の循環式水槽。
【請求項4】
魚介類の飼育槽と、
循環水中の粗粒体を濾過する第一濾過槽と、
循環水中の有機物を除去する生物濾過槽と、
上記植物槽とが夫々独立して備えられ、循環水が第一濾過槽、生物濾過槽、植物槽、飼育槽の順に循環することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の循環式水槽。
【請求項5】
魚介類の飼育槽の排水を循環水として浄化する循環式水槽において、
淡水性の珪酸塩鉱物を設けて植物が繁茂する植物槽を飼育槽の内部に配置したことを特徴とする循環式水槽。
【請求項6】
上記珪酸塩鉱物が細孔を有する珪藻岩であることを特徴とする請求項5に記載の循環式水槽。
【請求項7】
上記植物槽は上記飼育槽の循環水を通水する通水壁であることを特徴とする請求項5または6に記載の循環式水槽。
【請求項8】
通水壁が支持材を井状に組み合わせて間隙を有していることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の循環式水槽。
【請求項9】
上記植物槽の上部に生物濾過槽の少なくとも上部を水面より突出させ、飼育槽から生物濾過槽に上向きの水流を設けて、生物濾過槽の上部よりオーバーフローさせたことを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の循環式水槽。
【請求項10】
通水壁が仕切網であることを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の循環式水槽。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の魚介類の循環式水槽を使用して飼育槽で魚介類を飼育することを特徴とする魚介類の飼育方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−60830(P2009−60830A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230844(P2007−230844)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(507298658)
【Fターム(参考)】