説明

微小物体を空間的に操作するための方法および前記方法を実行するための装置

本発明は、微小物体20、23、33を空間的に操作するための方法に関し、前記方法は、開口19を持つ先端と内部を長手方向に延びる微小流路15とを有し、微小流路が先端の開口に流体接続されて成るカンチレバー12を用意するステップと、カンチレバーを保持しかつカンチレバーを予め定められた空間経路に沿って移動させるための懸吊手段を用意するステップと、カンチレバー内の微小流路に予め定められた圧力を加えるための加圧手段を用意するステップと、先端の開口が微小物体に隣接するように微小物体にカンチレバーの先端を移動させるステップと、カンチレバーの先端の外側の圧力に対して微小流路内の圧力を低減させることによって、カンチレバーにより微小物体をピックアップするステップと、カンチレバーを用いて微小物体を予め定められた空間経路に沿って移動させるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、生体細胞、ニューロンのような微小物体、または、ウィルスもしくはナノ粒子のようなサブミクロン物体等の操作の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
単一細胞レベルの情報を得る能力は、多くの生物学的問題にとって中心的な重要性を持つようになりつつあり、主要な課題である。個々の細胞は、遺伝的には姉妹細胞と同一であるが、遺伝子(転写物)の異なる表現型および発現プロフィール、およびその結果として、異なるタンパク質および代謝物のレベルを示すという認識がますます高まっている。個々の細胞を取り扱うために新規な革新的技術が必要とされており、ここで「取り扱う」とは、変位、注入から分析までの範囲の広い意味を有する。以下では、単一細胞の制御された空間的変位に焦点を合わせる。
【0003】
数年前に、A.Ashkinと共同研究者らは他に先駆けて、生物学的物体を操作する手段として光ピンセットを開発した(例えば欧州特許出願公開第307940号明細書参照)。強力なコリメートされたレーザを介する放射圧による捕獲力を利用して、彼らは、ウィルス、細菌、細胞から細胞器官までを取り扱うことができることを示した。しかし、光ピンセットが捕獲された有機体をどの程度損傷するかについは、いまだに議論中である。
【0004】
単一細胞を操作するための最も古い器具であるガラスマイクロピペットは、実際には変位実験に適しない。生物学的物体を吸引するために圧力制御装置と組み合わされたマイクロマニピュレータを用いて操作されるそれらの配置は、依然として、1μm程度の固有分解能によって制限される光学顕微鏡法によって追跡される。したがって、損傷の無い有機体への接近は運任せの手順であり、吸引に成功しても、基質表面の別の位置にそれを安全に再配置することは事実上不可能である。
【0005】
原子間力顕微鏡AFM(G.Binnig、C.F.Quate、およびC.Gerber、Phys Rev Lett 56(9)、930(1986))は、pN範囲の所要力フィードバックを有する。有機体操作に関して、それはブライトスペクトルの接着実験に採用されているが、有機体はカンチレバーの下面に安定的に付着されており、基質の別の位置での有機体の解放を防止しているので、変位実験用には考えられていない。
【0006】
カンチレバーに直接組み込まれた微小流路を介して、高精度AFM力フィードバックをナノ流体と組み合わせた(欧州特許出願公開第1990626号明細書参照)、「FluidFM」の開発(A.Meister、M.Gabi、P.Behr、P.Studer、J.Voros、P.Niedermann、J.Bitterli、J.Polesel‐Maris、M.Liley、H.Heinzelmann、およびT.Zambelli、Nano Lett 9(6)、2501(2009))は、生物学的物体の空間的操作のための新規な戦略を切り開くものである。カンチレバー内の微小流路は、角錐状先端の頂点におけるサブミクロンのアパーチャで終端し、かつ他端はリザーバで終端する。流路は、AFMプローブホルダ内にも機械加工される。プローブホルダにチップを簡便に押止することによって、先端アパーチャを注射器または圧力制御装置と接続する連続流体管路が得られる。したがって、「FluidFM」を液体環境内に浸漬することができる一方、溝内の溶液に圧力を加えることができる。
【0007】
「FluidFM」の探査領域を図1に示す。図1の原子間力顕微鏡(AFM)10は、図示しないAFMの顕微操作機構に取り付けられたプローブホルダ11を備える。プローブホルダ11には、MEMS(微小電気機械システム)技術によって製作された細長いカンチレバー12が取り付けられる。カンチレバー12には、カンチレバー12の長手方向に延びる内部微小流路15が設けられる。微小流路15はその外端がカンチレバー12の角錐状先端13の開口19と液圧接続する。微小流路15の他端は、外部の制御可能な圧力源17から配管16を介して予め定められた流体圧力を受け取るように、プローブホルダ11を貫通する供給路14に接続される。図1はさらに、液体経路に接続されたインピーダンス測定手段34を示す。このインピーダンス測定手段34は周知の「FluidFM」装置の一部ではなく、以下で詳細に説明する本発明に係る装置の新規な特徴である。
【0008】
「FluidFM」は、生理学的条件下における単一生細胞の局所的液体分注および刺激に使用される。カンチレバー12のナノ流体微小流路15は、AFM先端のサブミクロンのアパーチャまたは開口19を介して可溶性分子を分注することを可能にする。レーザビーム18によって達成される高感度AFMの力フィードバックは、液体環境内の表面を極めて局所的に変化させるために、先端を試料に制御された状態で接近させることを可能にする。それはまた、細胞膜との穏やかな接触やその穿孔の間の確実な区別をも可能にする。これら2つの手順を使用して、個々の生細胞に、かつこれらの細胞の選択された細胞下構造にさえ、色素が導入されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の主目的は、上述した「FluidFM」の原理に基づく装置を使用することによって、微小物体を空間的に操作するための方法を確立することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法にしたがって微小物体を空間的に操作するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る方法は、開口を持つ先端とカンチレバー内を長手方向に延びる微小流路とを有するカンチレバーであって、前記微小流路がカンチレバーの先端の開口と流体接続されて成るカンチレバーを用意するステップと、カンチレバーを保持しかつカンチレバーを予め定められた空間経路に沿って空間的に移動させるための懸吊手段を用意するステップと、カンチレバー内の微小流路に予め定められた圧力を加えるための加圧手段を用意するステップと、先端の開口が微小物体に隣接するように、空間的に操作される微小物体にカンチレバーの先端を移動させるステップと、カンチレバーの先端の外側の圧力に対して微小流路内の圧力を低減させることによって、前記カンチレバーにより微小物体の一部分または微小物体全体をピックアップするステップと、カンチレバーを用いて微小物体の前記部分または前記微小物体全体を予め定められた空間経路に沿って移動させるステップとを含む。
【0012】
本発明の方法の実施形態は、さらなるステップにおいて、カンチレバーの先端の外側の圧力に対して微小流路内の圧力を増大させることによって、微小物体の前記部分または前記微小物体全体がカンチレバーから解放されることを特徴とする。
【0013】
本発明の方法の別の実施形態では、微小物体の前記部分または前記微小物体全体をカンチレバーの内部に、特にカンチレバーの微小流路内に導入することによって、微小物体の前記部分または前記微小物体全体をピックアップする。
【0014】
本発明の方法の別の実施形態では、微小物体の前記部分または前記微小物体全体が処理のために、処理手段の陥凹内または開口内に解放される。
【0015】
本発明の方法の別の実施形態は、カンチレバーの長手方向に対し垂直に延びるアスペクト比の高い細長い先端を持つカンチレバーを使用して、幾つかの微小物体の集合体から1個の特定の微小物体をピックアップすることを特徴とする。
【0016】
本発明の方法の別の実施形態は、カンチレバーの長手方向に対して垂直に延びる尖鋭先端を持つカンチレバーを使用して、微小物体の一部分を引きちぎることを特徴とする。
【0017】
本発明の方法の別の実施形態は、加圧手段が、ポンプによってまたは毛細管によって浸透力または電気浸透力を発生させる圧力源を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の方法の別の実施形態は、微小物体の接着を回避するように表面が特に親水性または疎水性のいずれかを持つことによって改造された、カンチレバーを使用することを特徴とする。
【0019】
本発明の方法の別の実施形態では、微小物体のピックアップ中に、前記微小物体と前記微小物体を支持する表面との間に作用する接着力によるカンチレバーの対応する変位を使用して、前記接着力を計算する。
【0020】
本発明の方法の別の実施形態では、開口を閉止する微小物体の密着性を特徴付けるために、ピックアップ中に、カンチレバーの開口を介するインピーダンスを測定する。
【0021】
本発明の方法の別の実施形態では、前記カンチレバーによってピックアップされた後、前記微小流路内に捕集された微小物体の数および/または質量を決定するために、カンチレバーの微小流路を介するインピーダンスを測定する。
【0022】
本発明の方法の全く別の実施形態は、カンチレバーによってピックアップされた後、前記微小流路内に捕集された微小物体の数および/または質量を決定するために、前記カンチレバーがレーザビームによって検知されることを特徴とする。レーザビームの代わりに、音叉もしくは圧電抵抗素子または別の適切な検知手段を使用することができる。
【0023】
本発明に係る装置は、開口を持つ先端とカンチレバー内をその長手方向に延びる微小流路とを有するカンチレバーであって、前記微小流路がカンチレバーの先端の開口に流体接続されて成るカンチレバーと、カンチレバーを保持しかつカンチレバーを予め定められた空間経路に沿って空間的に移動させるための懸吊手段と、カンチレバー内の微小流路に予め定められた圧力を加えるための加圧手段とを備え、それによって前記加圧手段が、カンチレバーの先端の外側の圧力より低い圧力を微小流路内に発生させるように構成され、かつそれによってカンチレバー内の液圧インピーダンスを測定するために液圧インピーダンス測定手段が設けられる。
【0024】
本発明の装置の実施形態では、カンチレバーの開口は、カンチレバーの外面と面一である。
【0025】
本発明の装置の別の実施形態では、カンチレバーは、カンチレバーの長手方向に対し垂直に延びる、高いアスペクト比の細長い、特に円筒状の先端を有する。
【0026】
本発明の装置の別の実施形態では、カンチレバーは、カンチレバーの長手方向に対し垂直に延びる尖鋭先端を有する。
【0027】
本発明の装置の別の実施形態では、カンチレバーは、カンチレバーの長手方向に対し垂直に延びる角錐状先端を有する。先端の他の幾何学的形状が可能であるが、カンチレバーに組み込むのはおそらく容易ではない。
【0028】
本発明の装置の全く別の実施形態では、カンチレバーの微小流路は、前記微小物体の1つ以上を受容するように構成される。
【0029】
次に本発明を図面に関連して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】「FluidFM」設計に基づいており、かつ流路付きカンチレバー内の液圧インピーダンスを測定するための手段を備えた、本発明の実施形態に係る装置の探査領域を示す。
【図2】本発明に係る方法に従って、カンチレバー内部に負圧を加えることによって微小物体をピックアップする中空カンチレバーの拡大図を示す。
【図3】本発明の実施形態に従って、カンチレバーの変位を利用して微小物体をピックアップし、それにより接着力を測定するカンチレバーを示す。
【図4】本発明に係る操作手順の種々のステップを示し、(a)はカンチレバーの力制御接近に関し、(b)は負圧を加え微小物体をピックアップするステップに関し、(c)はx‐y面内の変位に関し、(d)は所望の位置における力制御着地および過圧パルスによる微小物体の解放に関する。
【図5】本発明の実施形態に従って、凸凹のある表面の中空内に埋め込まれた微小物体をピックアップする、アスペクト比の高い例えば中空円筒状の先端を持つカンチレバーの使用を示す。
【図6】本発明の実施形態に従って、物体の集合体、例えば組織の中から単一の微小物体をピックアップする、アスペクト比の高い例えば中空円筒状の先端を持つカンチレバーの使用を示す。
【図7】本発明の実施形態に従って、負圧または押力を加えることによって物体の一部を切り取り(a)、かつ物体の内部にアクセスするため、または前記部分をさらなる分析に使用するために前記部分を除去する(b)、尖鋭先端を持つカンチレバーの使用を示す。
【図8】本発明の実施形態に従って、カンチレバーの微小流路内に微小物体を吸い込むプロセスを示す。
【図9】本発明の実施形態に従って、カンチレバーの微小流路から解放された微小物体を、反応管として働く陥凹内に配置するプロセスを示す。
【図10】本発明の実施形態に従って、カンチレバーの微小流路から解放された微小物体を、分析装置の吸引ノズルの一部である開口内に配置するプロセスを示す。
【図11】本発明の実施形態に係る、平坦/鈍先端を持つカンチレバーの斜視図を示す。
【図12】本発明の実施形態に係る、円アスペクト比の高い筒状先端を持つカンチレバーの斜視図を示す。
【図13】本発明の別の実施形態に係る、角錐状先端を持つカンチレバーの斜視図を示す。
【図14】空間的に操作される前の種々の酵母細胞(円で囲んだ部分)の写真を示す。
【図15】本発明に係る方法を用いて1列に並べられた後の図14の酵母細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
これまで、微小物体を変位させるために使用することができるのは、物体に加えられる力を制御できないという不利点を持つプルドガラス(pulled glass)製のマイクロピペットまたは光ピンセットだけである。原子間力顕微鏡(AFM)に基づき、かつ機械的ピンセットを使用する、別の種類の試料操作装置は、米国特許出願公開第2008/0314131号明細書に開示されている。
【0032】
細胞の接着力は今日、手間のかかる工程によって測定されている。細胞または細菌をカンチレバー棒上で約30分間成長させ、次いで表面と接触させる。そこで、カンチレバーを後退させることができ、かつ接着力を測定することができるようになる前に、細胞はさらに30分間接着されなければならない。または逆に、細胞は最初に表面に付着される。これもこの方法の限界である。その理由は、カンチレバーへの細胞の付着が細胞の変化または表面特性の変化を誘発することがあるため、追加接着分子を導入しなければならないため、あるいは細胞がすでに他の生物学的プロセスを経験して細胞の接着性を変化させているためである。
【0033】
本発明により、この測定全体を1分未満で実行することができる。図2に示す通り、中空カンチレバー12はその先端開口19が、細胞を損傷するリスクを冒すことなく力を制御して、表面22に載っている微小物体または細胞20に接近する。カンチレバー12の流体環境に対して負圧(<1バール)を加えることによって、物体または細胞20は部分的に開口19内に吸い込まれ、吸着カップの場合と同様にそこに維持される。物体20と開口19の内縁との間の密封の品質は、インピーダンス測定手段34(図1参照)によりカンチレバー先端開口19を介してインピーダンスを同時に測定することによって、制御かつ監視することができる。これを電気的に行なうために、電極35をカンチレバー12の内側および外側の適切な位置に配置することができる(図3参照)。
【0034】
物体または細胞20はここで、カンチレバー12を後退させ、同時に(ばねによって象徴される)接着力21を測定することによって、簡単に表面から引き離すことができる(図3)。接着力21は、カンチレバー12の変位によって測定される。
【0035】
物体または細胞20は次いで、カンチレバー12をすぐに次の接着力測定に再使用することができるように、負圧を解除するかあるいは小さい過圧を加えることによって、先端から降ろすことができる。これは接着力の高速かつ全自動連続測定を可能にする。さらに、該システムは、細胞または他の微小物体20を空間的に操作するために、簡単に使用することができる。
【0036】
中空カンチレバー12の開口19は、単なる単純な穴(平坦/鈍先端、図11参照)とするか、あるいは円筒状または角錐状先端構造の端部(図12における24および図13における32)に設けることができる。加えられた力は、偏向レーザビーム(図1の18)またはカンチレバー12に取り付けられた音叉もしくは圧電抵抗性材料により、カンチレバーの撓みを測定することによって検出される。
【0037】
完全な一連の空間的操作ステップを図4に示す。第1ステップで、カンチレバー12は操作対象の物体23にz方向に接近する。このステップ中に、先端によって物体20にかかる力は、レーザビーム18(図4(a)における反射光線)を用いて監視される。物体23がカンチレバー12の微小流路15内の負圧によって先端に接着すると、物体23はz方向に持ち上げられて表面から離れる(図4(b))。離昇後に、AFMのカンチレバー平行移動手段によりカンチレバー12を移動させることによって、物体はそれに応じてx‐y面内を移動することができる(図4(c))。このステップ中に、微小流路15内の負圧は維持される。最後に、物体20は、表面にz方向に接近しかつ微小流路15に正圧を加えることによって、他の場所に配置することができる(図4(d))。再び、このステップ中に先端によって物体20にかかる力は、反射レーザビーム18を用いて監視される。
【0038】
ピックアップ対象の微小物体20が、凸凹のある表面25の中空内に埋め込まれている場合(図5)、アスペクト比の高い例えば中空円筒の形の先端24を備えたカンチレバー12を使用することができる。同じカンチレバー構成を〜に使用することができる。
【0039】
そのような先端は、物体の集合体26(図6)、例えば組織の中から単一の物体をピックアップすることもできる。
【0040】
上述したやり方で空間的に操作することのできる微小物体20は、真核細胞、酵母菌、細菌、もしくは小胞のような生きた生体細胞、ウィルス、またはナノ粒子、結晶、繊維、もしくは高分子材料のような固体材料とすることができる。
【0041】
同じ手順を適応して、適切な先端形状、穴の大きさを選択し、かつ物体を表面から引き離すときのカンチレバー12の歪み、例えば物体‐表面相互作用または物体‐物体相互作用を測定することによって、任意物体の表面に対する接着力を測定することができる。
【0042】
付着力が引張り力より強いときに、同じ手順を使用して、物体の一部を除去することができる。
【0043】
尖鋭先端27を持つカンチレバー12がプローブホルダ11(図7)に取り付けられたときに、該手順を使用して、負圧によって生じる力によって、またはカンチレバー12を物体20内に押し込むことによって、開口の鋭利な端縁を利用して、物体20に切り込むことができる(図7(a))。切取り片28は取り外して、切欠き部29を介して物体20の内部にアクセスするか、または前記切取り片28をさらなる分析のために使用することができる(図7(b))。
【0044】
開口19(および微小流路15の断面)が物体20より大きい場合、1つ以上の物体を中空カンチレバー12の内部に捕集し、別の位置に分配することができる(図8、図9、および図10)。例えば、物体20は表面22上であるいは陥凹または穴30内に移動/分配することができる(図9)。特に、穴は、質量分析計、PCR機械、またはUV/VIS IR分光計のような分析ツールに接続された呼吸穴またはノズル31とすることができ、あるいは穴は、さらなる分析、例えばPCR、ELISA用の反応管とすることができる(図10)。
【0045】
図14および図15は、単一生存細胞の例示的な空間的操作の写真(微分干渉コントラスト画像)を示す。図14は、カンチレバー12による空間的操作の前の不規則な構成における5つの酵母細胞33を示す(円で囲んだ部分)。図15では、これら5つの酵母細胞33が、本発明に従って操作された後、一直線を形成している。
【0046】
「FluidFM」技術は、AFMプローブホルダに固定された微小流路付きAFMカンチレバーを使用する。外部被制御圧力源を中空カンチレバーの先端のアパーチャと接続する連続流体回路が達成される。このようにして、流体回路内部の液体に、過圧および負圧の両方を加えることができる。本発明は、力制御接近を加圧を組み合わせて、ガラススライド上で培養されている生きた有機体を把持し、単純かつ再現可能なやり方でそれらを微細精度で変位させる。このようにして、筋芽細胞、ニューロン、酵母菌、および細菌、または他の微小物体を高精度で操作することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 原子間力顕微鏡(AFM)
11 プローブホルダ
12 カンチレバー
13、24、27、32 先端
14 供給路
15 微小流路
16 配管
17 圧力源(被制御圧力源)
18 レーザビーム
19 開口
20、23 物体(微小物体)
21 接着力
22、25 表面(基質)
26 (物体の)集合体
28 切取り片
29 切欠き部
30 陥凹
31 吸引ノズル
33 酵母細胞
34 インピーダンス測定手段
35 電極
36 変位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小物体(20、23、33)を空間的に操作するための方法であって、
開口(19)を持つ先端(13、24、27、32)と、内部を長手方向に延びる微小流路(15)とを有するカンチレバー(12)であって、前記微小流路(15)が前記カンチレバー(12)の前記先端(13、24、27、32)の前記開口(19)と流体接続して成る、カンチレバー(12)を用意するステップと、
前記カンチレバー(12)を保持しかつ前記カンチレバー(12)を予め定められた空間経路に沿って空間的に移動させるための懸吊手段(11)を用意するステップと、
予め定められた圧力を前記カンチレバー内の前記微小流路(15)に加えるための加圧手段(14、16、17)を用意するステップと、
前記先端(13、24、27、32)の前記開口(19)が前記微小物体(20、23、33)に隣接するように、空間的に操作される前記微小物体(20、23、33)に前記カンチレバー(12)の先端(13、24、27、32)を移動させるステップと、
前記カンチレバー(12)の前記先端(13、24、27、32)の外側に対して前記微小流路(15)内の圧力を低減させることによって、前記カンチレバー(12)で、前記微小物体(20、23、33)の一部分(28)または前記微小物体(20、23、33)全体をピックアップするステップと、
前記カンチレバー(12)を用いて前記微小物体(20、23、33)の前記一部分(28)または前記微小物体(20、23、33)全体を予め定められた空間経路に沿って移動させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
さらなるステップで、前記カンチレバー(12)の前記先端(13、24、27、32)の外側の圧力に対して前記微小流路(15)内の圧力を増大させることによって、前記微小物体(20、23、33)の前記一部分(28)または前記微小物体(20、23、33)全体が前記カンチレバー(12)から解放されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微小物体(20、23、33)の前記一部分(28)または前記微小物体(20、23、33)全体を前記カンチレバー(12)の内部に、特に前記カンチレバー(12)の前記微小流路(15)内に導入することによって、前記微小物体(20、23、33)の前記一部分(28)または前記微小物体(20、23、33)全体がピックアップされることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記微小物体(20、23、33)の前記一部分(28)または前記微小物体(20、23、33)全体が、処理対象の処理手段の陥凹(30)内または開口(31)内に解放されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記カンチレバー(12)の長手方向に対し垂直に延びる、アスペクト比の高い細長い先端(24)を持つ前記カンチレバー(12)が、幾つかの微小物体(20)の凝集体(26)から1つの特定の微小物体(20)をピックアップするために使用されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カンチレバー(12)の長手方向に対し垂直に延びる尖鋭先端(27)を持つ前記カンチレバー(12)が、微小物体(20、23、33)の一部分(28)を引きちぎるために使用されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記加圧手段(14、16、17)が、ポンプによってまたは毛細管によって浸透力または電気浸透力を発生させる圧力源(17)を備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
特に親水性または疎水性のいずれかを有することによって前記微小物体(20、23、33)の接着を回避するように改造された表面を持つカンチレバー(12)を使用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
微小物体(20、23、33)をピックアップ中に、前記微小物体(20、23、33)と前記微小物体(20、23、33)を支持する前記表面(22)との間に作用する接着力(21)による前記カンチレバー(12)の対応する変位(d)を使用して前記接着力(21)を計算することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ピックアップ中に、前記開口(19)を閉止する前記微小物体(20、23、33)の密着性を特徴付けるために、前記カンチレバーの前記開口(19)を介するインピーダンスを測定することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記カンチレバー(12)によってピックアップされた後、前記微小流路(15)内に捕集された微小物体(20、23、33)の個数および/または質量を決定するために、前記カンチレバーの前記微小流路(15)を介するインピーダンスを測定することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記カンチレバー(12)によってピックアップされた後、前記微小流路(15)に捕集された微小物体(20、23、33)の個数および/または質量を決定するために、前記カンチレバー(12)がレーザビーム(18)によって検知されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
開口(19)を持つ先端(13、24、27、32)と、内部をその長手方向に延びる微小流路(15)とを有するカンチレバー(12)であって、前記微小流路(15)が前記カンチレバー(12)の前記先端(13、24、27、32)の前記開口(19)に流体接続されて成る、カンチレバー(12)と、
前記カンチレバー(12)を保持しかつ前記カンチレバー(12)を予め定められた空間経路に沿って空間的に移動させるための懸吊手段(11)と、
前記カンチレバー内の前記微小流路(15)に予め定められた圧力を加えるための加圧手段(14、16、17)と
を備えた、請求項1〜9のいずれか一項に従って微小物体(20、23、33)を空間的に操作するための装置において、
前記加圧手段(14、16、17)が、前記微小流路(15)内に前記カンチレバー(12)の前記先端(13、24、27、32)の外側の圧力より低い圧力を発生させるように構成され、かつ前記カンチレバー(12)内の液圧インピーダンスを測定するためのインピーダンス測定手段(34、35)が設けられることを特徴とする装置。
【請求項14】
前記カンチレバー(12)の前記開口(19)が前記カンチレバー(12)の外面と面一であることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記カンチレバー(12)が、前記カンチレバー(12)の長手方向に対し垂直に延びる、高アスペクト比の細長い、特に円筒状の先端(24)を有することを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記カンチレバー(12)が、前記カンチレバー(12)の長手方向に対し垂直に延びる尖鋭先端(27)を有することを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
前記カンチレバー(12)が、前記カンチレバー(12)の長手方向に対し垂直に延びる角錐状先端(32)を有することを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
前記カンチレバー(12)の前記微小流路(15)が前記微小物体(20、23、33)の1つ以上を受容するように構成されることを特徴とする、請求項13または14に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【図6】
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【図7a)】
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【図7b)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2013−520659(P2013−520659A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554183(P2012−554183)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国際出願番号】PCT/CH2011/000020
【国際公開番号】WO2011/103691
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(506110634)
【Fターム(参考)】