説明

微小物体濃縮装置、微小物体量測定装置、微小物体濃縮方法および微小物体量測定方法。

【課題】電極に交流電圧を印加して微小物体が含まれる試料溶液を濃縮する微小物体濃縮装置において、試料溶液の電気電導度や液温に関係なく、電極の洗浄状態を確認する。
【解決手段】第1の電極対5と第2の電極対6とを備えるセル4と、試料溶液をセルに供給する供給手段と、セルから液体を回収する回収手段と、第1の電極対に第1の交流電圧を印加する交流電源7と、第1の電極対の間のコンダクタンスG1と第2の電極対の間のコンダクタンスG2とを測定する測定手段8と、コンダクタンスG1とコンダクタンスG2とを比較する比較手段9と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電泳動を用いて試料溶液に含まれる微小物体を濃縮する微小物体濃縮装置および微小物体濃縮方法、試料溶液に含まれる微小物体の量を測定する微小物体量測定装置および微小物体量測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘電泳動力を用いて誘電泳動電極間に微生物を捕集した後、誘電泳動電極間のインピーダンスを測定して微生物数を定量する装置が、特許文献1に提案されている。ここには誘電泳動力によって捕集した微生物を定量分析した後に、試料溶液を自動的に排水して、さらに排水後に洗浄液を導入して測定チャンバーを洗浄することが記載されている。
【0003】
誘電泳動力とは、不均一電場中において微小物体に誘起されたダイポールモーメントに働く力である。その強度は電場強度の勾配に比例しており、微小物体の誘電率と溶媒の誘電率の大小関係および電極に印加する電圧の周波数によって、力の向きが決まる。純水中に微小物体を懸濁させた試料溶液で、微小物体がポリスチレン微粒子の場合は、周波数100kHzで強い引力が働き、周波数2MHzで斥力となる。また、微小物体が大腸菌の場合には、1MHz程度で強い引力が働き、100MHzで斥力となり、緑膿菌の場合には、100kHz程度で強い引力が働き、50MHz程度で斥力が働く。引力となる場合は、電場強度が強い電極のエッジ部近傍に微小物体が捕集され、斥力が働く場合は、電場強度が強い電極近傍から、微小物体は離れていき、電場強度が弱い位置に集まる。上記の引力の働く場合を正の誘電泳動といい、斥力が働く場合を負の誘電泳動という。このような誘電泳動極性の周波数依存特性は試料溶液の電気伝導度の影響が大きく、電気伝導度が高い硬水では強い引力が働く周波数や斥力に切り替わる周波数が高周波側にシフトするとともに、微小物体に働く力が弱くなる。
【0004】
図19に特許文献1記載の微生物活性測定装置を示す。図19において、101はDEPIM法 (Dielectrophoretic Impedance Measurement Method)で微生物中の生菌を測定するため試料液を収容する測定チャンバー、102は微生物活性を測定するためのチップ化された電極部、102a,102bは電極部2を構成する一対の電極である。
【0005】
次に、103は電極102a,102b間に誘電泳動を発生させるために交流電圧を印加する誘電泳動用電源部、104は電極102a,102b間のインピーダンスを測定することができる測定部、105はマイクロプロセッサ等から構成され、作業域に制御用のプログラムや各種データをロードして機能し、少なくとも誘電泳動用電源部103及び測定部104を制御するとともに演算を行う演算制御部、106は時計手段である。誘電泳動用電源部103は、電極102a,102b間に印加する交流電圧の電圧と周波数を演算制御部105によって制御される。
【0006】
測定部104は、電圧印加回路に直列に挿入されており、これを流れる電流を測定して電極102a,102b間のコンダクタンス(抵抗成分の逆数)を算出している。すなわち、演算制御部105は、時計手段106の計時するタイミングで、誘電泳動用電源部103の周波数と電圧を制御し、電極102a,102b間に活性度測定最適周波数の交流電圧を印加すると同時に、このとき測定部104に電圧印加回路を流れる電流の測定を行わせ、試料液中の微生物が濃縮されたことによる抵抗成分の測定を行い、逆数をとってコンダクタンスの算出をしている。
【0007】
107は演算制御部5にロードするプログラムや各種データを格納したメモリ部、107aはメモリ部107の中に設けられ、微生物のうち生菌だけを捕集して濃縮するための測定用制御データと、コンダクタンスを示す測定部104の出力(以下、DEPIM出力)から生菌数を換算するための検量線データ等を格納した活性度測定用テーブルである。
【0008】
108は微生物名や懸濁液導電率を入力するためのデータ入力部、109はデータ入力のための表示を行なったり、演算制御部105が検量線データに基づいて算出した生菌数を表示したりするためのLCD等の表示部である。また、110は微生物を含有した試料液を貯めた試料液槽、111は試料液槽110と測定チャンバー101を接続し、試料液槽110内の試料液を測定チャンバー101に導く供給管である。112は測定チャンバー101から測定後の試料液を排出するための排出管、113は供給管111に設けられた電磁弁等の供給バルブ、114は排出管112に設けられた排出バルブである。115はスターラ等の撹拌装置である。
【0009】
116は洗浄液タンク、117は洗浄管、118は洗浄バルブである。演算制御部105が洗浄バルブ118を開いて洗浄液を測定チャンバー101に供給し、試料液を排出した後測定チャンバー101内を洗浄する。時計手段106の時間管理で、排水後に洗浄液を測定チャンバー101に洗浄液を導入し、自動的に測定チャンバー101内を洗浄して次の測定に備えることができる。
【0010】
また、セルフチェック機能として、測定開始したばかりの状態で電極102a、102b間のインピーダンス測定を行なって、検出した初期値が通常値の範囲と大きく異なっていると判断すると、警告を表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−224号公報(平成15年1月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
試料溶液(特許文献1における試料液)に含まれる微小物体(特許文献1における微生物)に強い誘電泳動力を働かせて捕集すると、微小物体が電極部102に付着する。特許文献1には、微小物体含有の試料溶液を測定した後に、試料溶液を自動的に排出し、さらに洗浄液を導入して測定チャンバー101内を洗浄することが記載されている。しかしながら、洗浄液の導入は時計手段106を用いた時間管理であり、洗浄後の電極部102の状態を確認していない。そのため、電極部102に微小物体がこびり付いて付着している可能性がある。この場合、次の測定においては、測定開始時におけるコンダクタンスが高く、コンダクタンスの初期増加率が低く測定されるため、微生物濃度を実際より低く演算することとなる。
【0013】
また、セルフチェック機能により測定されるインピーダンスの初期値は、試料溶液の電気伝導度や液温によっても変化する。従って、電極の洗浄状態を正確に確認することはできない。
【0014】
また、誘電泳動力によって、試料溶液に含まれる微小物体を濃縮する従来技術の微小物体濃縮装置においては、電極に付着した付着物が、濃縮回収される試料溶液に混入して、純度が低下するという問題がある。
【0015】
また、電極に付着した付着物によって、濃縮対象物の捕集が妨げられ、濃縮効率が低下するという問題がある。
【0016】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、試料溶液の電気電導度や液温に関係なく、電極の洗浄状態を確認できる微小物体濃縮装置、微小物体量測定装置、微小物体濃縮方法および微小物体量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明に係る微小物体濃縮装置は、微小物体が含まれる試料溶液を濃縮する微小物体濃縮装置であって、第1の電極対と第2の電極対とを備えるセルと、
前記試料溶液をセルに供給する供給手段と、前記セルから前記試料溶液を排出する排出手段と、前記第1の電極対に第1の交流電圧を印加する交流電源と、前記第1の電極対の間のコンダクタンスG1と前記第2の電極対の間のコンダクタンスG2とを測定する測定手段と、前記コンダクタンスG1と前記コンダクタンスG2とを比較する比較手段と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、洗浄液を前記セルに供給する洗浄液供給手段を備え、前記セルへの液体の供給元として前記供給手段と前記洗浄液供給手段とが選択可能に構成されることを特徴とする。
【0019】
また、前記セルから前記試料溶液を回収する回収手段を備え、前記セルからの液体の排出先として前記排出手段と前記回収手段とが選択可能に構成されることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る微小物体量測定装置は、試料溶液に含まれる微小物体の量を測定する微小物体量測定装置であって、第1の電極対と第2の電極対とを備えるセルと、前記試料溶液を前記セルに供給する供給手段と、前記セルから前記試料溶液を排出する排出手段と、第1の電極対に第1の交流電圧を印加する交流電源と、第記第1の電極対の間のコンダクタンスG1および第記第2の電極対の間のコンダクタンスG2を測定する測定手段と、前記コンダクタンスG1と前記コンダクタンスG2とを比較する比較手段と前記セル内部の前記微小物体の量を測定する測定手段とを備えたことを特徴とする。
【0021】
また、前記測定手段は、第1の電極対の間のコンダクタンスG1から前記微小物体の量を演算する演算手段であることを特徴とする。
【0022】
また、前記測定手段は、表面プラズモン共鳴センサであることを特徴とする。
【0023】
また、洗浄液を前記セルに供給する洗浄液供給手段を備え、前記セルへの液体の供給元として前記供給手段と前記洗浄液供給手段とが選択可能に構成されることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る微小物体濃縮方法は、微小物体が含まれる試料溶液を濃縮する微小物体濃縮方法であって、第1の電極対の間のコンダクタンスと第2の電極対の間のコンダクタンスとが一致するまで前記第1の電極対と前記第2の電極対とを備えるセルに洗浄液を供給し、排出するステップと、前記セルに試料溶液を供給するステップと、前記第1の電極対に前記微小物体に正の誘電泳動力が働く周波数である第1の交流電圧を印加して、前記セルから試料溶液を排出するステップと、前記第1の電極対への交流電圧の印加を停止する、または前記微小物体に負の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を印加して、前記試料溶液を排出するステップと、を備えることを特徴とする。
【0025】
また、前記洗浄液を供給し、排出するステップにおいて、前記第1の電極対に付着した付着物に対し負の誘電泳動力が働く周波数である第2の交流電圧を第1の電極対に印加することを特徴とする。
【0026】
また、前記洗浄液を供給し、排出するステップにおいて、前記第1の電極対に付着した付着物および/または前記微小物体に対し負の誘電泳動力が働く周波数である第2の交流電圧を第2の電極対に印加することを特徴とする。
【0027】
また、第2の交流電圧の電圧振幅が第1の交流電圧の電圧振幅より小さいことを特徴とする。
【0028】
また、前記試料溶液のコンダクタンスを測定するステップと、前記コンダクタンスから電気伝導度を算出するステップと、を備え、前記電気伝導度において、前記微小物体に対して正の誘電泳動力が他の周波数より強く働く周波数を第1の交流電圧の周波数とすることを特徴とする。
【0029】
また、本発明に係る微小物体量測定方法は、試料溶液に含まれる微小物体の量を測定する微小物体量測定方法であって、第1の電極対の間のコンダクタンスと第2の電極対の間のコンダクタンスとが一致するまで前記第1の電極対と前記第2の電極対とを備えるセルに洗浄液を供給し、排出するステップと、前記セルに試料溶液を供給するステップと、前記第1の電極対に前記微小物体に正の誘電泳動力が働く第1の周波数である第1の交流電圧を印加するステップと、前記セル内部の前記微小物体の量を測定するステップと、を備えることを特徴とする。
【0030】
また、前記洗浄液は前記試料溶液であることを特徴とする。
【0031】
また、前記洗浄液を供給し排出するステップにおいて、前記第1の電極対に付着した付着物に対し負の誘電泳動力が働く周波数である交流電圧を第1の電極対に印加することを特徴とする。
【0032】
また、前記洗浄液を供給し排出するステップにおいて、前記第1の電極対に付着した付着物および/または前記微小物体に対し負の誘電泳動力が働く周波数である交流電圧を第2の電極対に印加することを特徴とする。
【0033】
また、前記洗浄液を供給し排出するステップにおいて印加する交流電圧の電圧振幅が前記第1の交流電圧の電圧振幅より小さいことを特徴とする。
【0034】
また、前記試料溶液のコンダクタンスを測定するステップと、前記コンダクタンスから電気伝導度を算出するステップと、を備え、前記電気伝導度において、前記微小物体に対して正の誘電泳動力が他の周波数より強く働く周波数を前記第1の周波数とすることを特徴とする。
【0035】
また、前記第1の電極対に前記第1の交流電圧を印加するステップにおいて、第1の電極対の間のコンダクタンスを複数回測定し、前記コンダクタンスの上昇速度が速い場合に、前記微小物体の量が多いと演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、試料溶液の電気電導度や液温に関係なく、電極の洗浄状態を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施の形態に係る微小物体量測定装置の上面図である。
【図2】本実施の形態に係る微小物体量測定方法の処理フロー図である。
【図3】本実施の形態に係る微小物体量測定装置の上面図である。
【図4】本実施の形態に係るコンダクタンスの測定方法に係る処理フロー図である。
【図5】本実施の形態に係る印加する電圧および流れる電流を時間軸上にプロットしたグラフである。
【図6】インピーダンスに係るベストル図である。
【図7】電極間の電気的状態を表現した等価回路の回路図である。
【図8】本実施の形態に係る微小物体量測定装置の上面図である。
【図9】本実施の形態に係る微小物体濃縮装置の上面図である。
【図10】本実施の形態に係る微小物体濃縮方法の処理フロー図である。
【図11】本実施の形態に係る微小物体濃縮装置の上面図である。
【図12】本実施の形態に係る微小物体濃縮装置の上面図である。
【図13】本実施の形態に係る微小物体濃縮装置の上面図である。
【図14】本実施の形態に係る微小物体濃縮装置の上面図である。
【図15】本実施の形態に係る微小物体量測定装置の上面図である。
【図16】本実施の形態に係る微小物体量測定方法の処理フロー図である。
【図17】本実施の形態に係る微小物体量測定装置の上面図である。
【図18】本実施の形態に係る微小物体量測定装置の上面図である。
【図19】従来技術の微生物活性測定装置である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
図1は本実施例に係る微小物体量測定装置100の上面図である。本実施例に係る微小物体量測定装置100は、試料溶液に含まれる微小物体の量を測定する。本実施例に係る微小物体量測定装置は、試料溶液タンク1、試料溶液供給管2、セル4、第1の電極対5、第2の電極対6、交流電源7、測定手段8、比較手段9、試料溶液排出管11、演算手段19とから構成される。
【0040】
試料溶液タンク1と試料溶液供給管2とは試料溶液をセル4に供給する供給手段を構成する。試料溶液タンク1は測定対象物20を含む試料溶液を保持することができる。試料溶液タンク1は第1バルブ3を備える試料溶液供給管2を介してセル4と接続されており、第1バルブ3を開放することによりセル4に試料溶液を供給することができる。
【0041】
試料溶液排出管11は、セル4から液体を排出する排出手段である。セル4は第2バルブ10を備える試料溶液排出管11と接続されており、第2バルブ10を開放することによりセル4から試料溶液を排出することができる。
【0042】
セル4の内部に、電極5aと電極5bとで構成される第1の電極対5と、電極6aと電極6bとで構成される第2の電極対6とがフォトマスクを用いたパターニングによって形成されている。第1の電極対5は試料溶液に含まれる測定対象物20を電極5aと電極5bとの間に捕捉する誘電泳動電極として使用される。第2の電極対6は第1の電極対5の洗浄状態を確認するための参照信号を検出するためのリファレンス電極である。第1の電極対5と第2の電極対6とは同一の形状であることが望ましい。本実施の形態では、第1の電極対5と第2の電極対6とは配線幅が60μmでギャップ(電極間隔)が60μmの櫛歯パターンの電極を用いているが、他の電極パターンであってもよい。ギャップが狭くなるほど、電界が強くなるため、強い誘電泳動力を働かせることが可能になる。電極5a、電極5b、電極6a、電極6bは下地層としてTi薄膜を1〜5nm程度形成した上に、50〜300nm程度のAu薄膜として形成される。成膜方法には、蒸着などの手法が用いられる。また、Au薄膜の上にさらに撥水膜を形成してもよい。撥水膜を形成すると付着物のこびりつきを抑制することができる。
【0043】
第1の電極対5と第2の電極対6とはそれぞれ交流電源7に接続される。交流電源7は第1の電極対5に印加する交流電圧の周波数と電圧振幅を独立制御できる。また、第2の電極対6に印加する交流電圧の周波数と電圧振幅を独立制御できることが望ましい。
【0044】
また、第1の電極対5と第2の電極対6とは、測定手段8に接続されている。測定手段8は電極間に印加した電圧と、電極間に流れる電流と、電流と電圧の位相差を測定し、これらの測定結果に基づいて電極間のコンダクタンスを測定することができる。
【0045】
演算手段19は第1の電極対の間のコンダクタンスに基づき微小物体の濃度の演算を行ない、セル4内部の測定対象物20の量を測定する測定手段である。演算手段19は、コンダクタンスの時間変化に基づき、測定対象物20の量を演算することができる。
【0046】
比較手段9は第1の電極対5で計測したコンダクタンスG1と第2の電極対6で計測したコンダクタンスG2とを比較する手段である。この比較結果に基づいて第1の電極対5の洗浄状態を判定することができる。
【0047】
図2は本実施例の微小物体量測定方法に係る処理フロー図である。以下、図2に基づき、本実施例の処理フローを説明する。本処理フロー開始時において、試料溶液タンク1に微小物体である測定対象物20を含む試料溶液が保持されている。
【0048】
以下の説明では、図3に示すように、電極5aと電極5bとの間に付着物21が付着した状態であることを前提として説明する。発明者らの実験によれば、純水中に直径1μm程度のカオリン(粘土)が10^6個/ml程度の濃度で含まれている試料溶液をセル4に供給したのちに、第1バルブ3と第2バルブ10を閉鎖して静水状態にして、周波数100kHz電圧振幅20Vppの正弦波交流電圧を第1の電極対5に5分間印加した場合、正の誘電泳動が強く働いて電極5aと電極5bとの間にカオリンが捕集された。その後、電圧印加を停止すると大部分のカオリンは周辺に流れていったが、一部のカオリンが電極5a周辺および電極5b周辺に付着したままであった。
【0049】
本実施例の微小物体量測定方法では、まず初めに、第1バルブ3を開放して試料溶液タンク1から試料溶液をセル4に供給する(ステップS1)。
【0050】
次に、測定手段8が第1の電極対5の間のコンダクタンスG1を測定する(ステップS2)。測定のために第1の電極対5の間に印加する電圧の電圧振幅v2はコンダクタンスが測定可能な範囲で出来るだけ小さいことが好ましい。例えば、1Vppの正弦波に設定する。また、付着物21に対して強い正の誘電泳動力が働かない周波数とすべきである。
【0051】
図4に示す処理フロー図を用いて、コンダクタンスの測定方法について詳しく説明する。初めに第1の電極対5に交流電圧Vを印加して(ステップS21)、電極5aと電極5bの間に流れる電流Iを測定する(ステップS22)。
【0052】
図5に、印加する電圧V26および流れる電流I27を時間軸24上にプロットしたグラフを示す。グラフの縦軸25は電圧または電流である。図に示すように、印加した電圧26と回路に流れる電流27との間に位相差が現れる。この位相差に係る位相角θを求める(ステップS23)。位相角θは、電圧26の位相に対する電流27の位相の遅れT1を周期T2で除して2πを乗じた値である。
【0053】
インピーダンスZは、印加電圧Vを電流Iで除算して算出する(ステップS24)。
【0054】
交流回路において、インピーダンスZは、レジスタンス成分rとリアクタンス成分xとの合成として表現できる。これを数式で表すと、Z=r+jxとなる。なお、jは虚数単位とする。
【0055】
従って、図6に示すように、インピーダンスZは、レジスタンス成分rと位相角θを持つベクトルとして表現できる。これにより、レジスタンスr=Zcosθ、リアクタンスx=Zsinθとして算出することができる(ステップS25、ステップS26)。
【0056】
図7は、電極5a,電極5b間の電気的状態を表現した等価回路の回路図である。電極5a,電極5b間の試料溶液は、抵抗およびコンデンサとして働く。従って、電極5a,5b間の電気的状態は、コンデンサ32と抵抗33とが、並列に電極5aと電極5b間を結んでいる見なすことができる(これをCR等価回路と呼ぶ)。以下では、抵抗Rを、レジスタンスr、リアクタンスxより算出する。
【0057】
式(1)はCR並列等価回路の合成インピーダンスZを表す式である。
【0058】
【数1】

【0059】
式(1)とZ=r+jxとより、式(2)、式(3)が求まる。
【0060】
【数2】

【0061】
【数3】

【0062】
式(2)、式(3)を、RとCとに関する連立方程式として解くと、式(4)、式(5)が求まる。
【0063】
【数4】

【0064】
【数5】

【0065】
従って、式(4)にレジスタンスr、リアクタンスxの値を代入することにより、抵抗Rを求めることができる。また、コンダクタンスGは抵抗Rの逆数として求めることができる(ステップS27)。
【0066】
図4の処理フロー用いて説明したコンダクタンスの測定方法と同様の測定方法を用いて、測定手段8が第2の電極対6の間のコンダクタンスG2を測定する(ステップS3)。なお、本ステップをステップS2より前または同時に実施しても良く、望ましくは同時とする。
【0067】
続いて、比較手段9がコンダクタンスG1とコンダクタンスG2とを比較する(ステップS4)。コンダクタンスの差があらかじめ定めた設定値より大きい場合は、電極5aと電極5bとの間に付着物21が付着していると判断することができる。
【0068】
図3に示すように、電極5aと電極5bとの間に付着物21が付着している場合、コンダクタンスG1とコンダクタンスG2との差があらかじめ定めた設定値より大きくなる(ステップS4でNo)。この場合、ステップS1に戻り、試料溶液の供給を継続する。第2バルブ10は開放されており、試料溶液の流れに伴い、付着物21が電極5aと電極5bとの間から乖離し、試料溶液排出管11を経由して外部に排出される。以降、ステップS1からステップS4までの処理ループを、コンダクタンスG1とコンダクタンスG2との差があらかじめ定めた設定値以下になる(ステップS4でYes)まで繰り返す。
【0069】
コンダクタンスの差が設定値より小さくなった場合、電極5aと電極5bとの間の付着物21が除去され、図1に示すように付着物21が無くなったと判断できる。
【0070】
次に、第1バルブ3と第2バルブ10とを閉鎖して、第1の電極対5に第1の周波数f1で電圧振幅v1の交流電圧を印加する。第1の周波数f1は微小物体である測定対象物20に正の誘電泳動が強く働く周波数とする。例えば、測定対象物20が大腸菌の場合は1MHzに設定する。電圧振幅v1は10Vpp〜20Vpp程度の正弦波を印加して測定対象物20を第1の電極対5で捕集する(ステップS5)。
【0071】
図8は、測定対象物20が第1の電極対5に正の誘電泳動力によって、捕集された状態を示す。また、図示しないタイマー手段で時間を計測して予め設定した所定時間(例えば1分間)だけ電圧を印加しても良く、この場合、濃縮率を一定とすること可能になる。
【0072】
また、第1の電極対5で微小物体を捕集するステップS5の間に、測定手段8が第1の電極対5の間のコンダクタンスを複数回測定する。電極5aと電極5bとの間に測定対象物20が引き寄せられて、測定対象物20は電気力線に沿って整列してパールチェーンを形成する。そのため、ステップS5において、コンダクタンスの上昇が測定される。上昇速度は、測定対象物20の試料溶液における量、すなわち濃度と正の相関がある。
【0073】
そして、セル4内部の測定対象物20の量を測定する。本実施例においては、演算手段19がコンダクタンスの上昇速度に基づき測定対象物の量を演算する(ステップS6)。具体的には、コンダクタンスの上昇速度が速い場合に、測定対象物の量が多いと演算し、コンダクタンスの上昇速度が遅い場合に、測定対象物の量が小ないと演算する。
【0074】
最後に、第2バルブ10を開放して試料溶液排出管11から試料溶液を排出する(ステップS7)。試料溶液を排出した後に、測定対象物20を付着物21と見なしてステップS1からステップS4までの作業を行い、第1の電極対5と第2の電極対と6を洗浄しておくことが好ましい。
【0075】
本実施例によれば、第1の電極対5と第2の電極対6との形状が同一であるため、同一状態におけるコンダクタンスは同一となる。したがって、第1の電極対5の間のコンダクタンスと第2の電極対6の間のコンダクタンスとを比較することにより、第1の電極対5の状態と第2の電極対6の状態とが一致しているかどうかを判断することができる。
【0076】
本実施例によれば、付着物21を確実に除去することができるので、付着物21を原因とする誤差を解消し、測定誤差を小さくすることができる。また、付着物21を除去したのちまで洗浄を行なうことが無いので、処理時間を短縮することができる。
【0077】
また、洗浄状態を確認する目的で具備された測定手段8を用いて測定したコンダクタンスに基づいて測定対象物20の量を演算するので、測定対象物20の量に関連する信号を別途検出するためのセンサが不要であり、微小物体量測定装置の構成が簡素である。
【0078】
また、ステップS1〜S4において、洗浄液として試料溶液を用いて付着物21を洗浄するので、洗浄液を供給する手段が別途必要なく、構成が簡素である。また、ステップ5において、セル4内の洗浄液を試料溶液と置き換える必要が無いので、工程が簡易である。
【0079】
また、第2の交流電圧の電圧振幅v2を第1の交流電圧の電源振幅v1より小さくすることが望ましい。第2の交流電圧の電圧振幅v2が第1の交流電圧v1の電圧振幅より小さければ、ステップS2、S3において、流れる電流が小さい。従って、消費電力および発熱量を低下させ、かつ発熱にともなう測定誤差を小さくすることができる。
【0080】
また、第2の周波数f2が付着物21に対し正の誘電泳動力が働く周波数であったとしてもその力は小さいため、付着物21の第1の電極5または第2の電極6からの乖離を妨げることが無い。
【0081】
また、第2の周波数f2が測定対象物20に対し正の誘電泳動力が働く周波数であったとしてもその力は小さいため、測定対象物20が第1の電極5および第2の電極6に付着する可能性は低く、ステップS4における判断を誤ることが無い。
【0082】
なお、ステップS1および/またはステップS2においては、付着物21に対し負の誘電泳動力が働く第2の周波数f2の交流電圧を第1の電極対5に印加することが望ましい。負の誘電泳動力は、電極5aと電極5bとの間より付着物21を乖離させる方向に働き、付着物21を除去することに寄与する。
【0083】
また、ステップS1、ステップS3、ステップS5の少なくとも1つのステップ、望ましくは全てのステップにおいて、付着物21および/または測定対象物20に対し正の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を第2の電極対6に印加しないことが望ましい。この場合、第2の電極対6の間に付着物21および/または測定対象物20が付着することを防止することができる。そのため、ステップS4において、第2の電極対6は、付着物21の有無の判断の基準となる正確な参照信号を提供することができる。従って、付着物21を確実に除去することができる。
【0084】
また、ステップS1、ステップS3、ステップS5の少なくとも1つのステップ、望ましくは全てのステップにおいて、付着物21および/または測定対象物20に対し負の誘電泳動力が働く第2の周波数f2の交流電圧を、第2の電極対6に印加しても良い。この場合、負の誘電泳動力は、第2の電極対6の間から付着物21および/または測定対象物20を乖離させる方向に働くため、第2の電極対6の間に付着物21および/または測定対象物20が付着することを防止することができる。そのため、ステップS4において、第2の電極対6は、付着物21の有無の判断の基準となる正確な参照信号を提供することができる。従って、ステップS1からステップS4までの処理ループによって、付着物21を確実に除去することができる。
【0085】
また、ステップS5において、コンダクタンスG1および/またはコンダクタンスG2の値を用いて試料溶液の電気伝導度d1を算出し、電気伝導度d1の場合に測定対象物20に対し正の誘電泳動力が他の周波数より強く働く周波数を第1の周波数f1としても良い。
【0086】
電気伝導度d1の算出方法は、電気伝導度が既知の試料溶液を用いてコンダクタンスの測定を行い、電気伝導度とコンダクタンスとを対応させたテーブルを予め作成しておき、この変換テーブルの値を用いて換算する方法とする。より正確な電気伝導度測定を行うために、温度測定手段を備えて、液温の影響を補正できるようにすることが望ましい。これにより、短時間でより多くの測定対象物20を捕集できるので、測定時間を短縮し、、測定感度および測定精度を向上させることができる。また、電気伝導度d1が高い場合に電圧振幅v1を高くすることにより、時間あたりの捕集量を電気伝導度d1に関わらず一定としても良い。
【0087】
また、電圧V、電流I、位相角θから測定対象物20の量を演算する計算を本実施例の微小物体量測定方法開始前に予め行ない、電圧V、電流I、位相角θと、対応する測定対象物20の量とをテーブルにして測定手段8が備えるメモリに記憶させておき、ステップS5およびステップS6において、測定された電圧V、電流I、位相角θに対応する測定対象物20の量を参照して、測定対象物20の量を演算しても良い。この場合、コンダクタンスの算出が不要となるので、測定時間を短くしたり、測定手段8を簡易な構造にしたりすることができる。
【0088】
また、ステップS2、ステップS3における測定手段8によるコンダクタンスの測定を抵抗の測定としても良い。ステップ4における比較手段9によるコンダクタンスの比較を抵抗の比較としても良い。ステップ5における演算手段19によるコンダクタンスに基づく微小物体の濃度の演算を抵抗に基づく演算としても良い。コンダクタンスと抵抗とは、逆数の関係にあり、算術的に可逆であるため、コンダクタンスを用いるか抵抗を用いるかは発明の定義において均等の範囲である。
【実施例2】
【0089】
図9は本実施例に係る微小物体濃縮装置200の上面図である。本実施例に係る微小物体濃縮装置200は、微小物体が含まれる試料溶液を濃縮する。以下、実施例1に係る微小物体量測定装置100と共通する構成要素については説明を省略し、異なる構成要素について説明する。
【0090】
本実施例の微小物体濃縮装置200は、実施例1の構成の他に、洗浄液タンク12、洗浄液供給管13、濃縮液回収管16、回収部17を備える。
【0091】
洗浄液タンク12と洗浄液供給管13とはセル4に洗浄液を供給する洗浄液供給手段を構成する。洗浄液タンク12が第3バルブ14を備える洗浄液供給管13を介してセル4と接続されている。第3バルブ14を開放することによりセル4に洗浄液を供給することができる。第1バルブ3と第3バルブ14とのうち、一方のバルブを開き、他方のバルブを閉じることにより、セル4への液体の供給元として前記供給手段と前記洗浄液供給手段とが選択可能である。
【0092】
また、濃縮液回収管16と回収部17とはセルから液体を回収する回収手段を構成する。セル4は第4バルブ15を備える濃縮液回収管16を介して回収部17と接続されている。第4バルブ15を開放することにより、セル4内部の液体を排出させて、回収部17に回収することができる。第2バルブ10と第4バルブ15とのうち、一方のバルブを開き、他方のバルブを閉じることにより、セル4からの液体の排出先として前記排出手段と前記回収手段とが選択可能である。
【0093】
なお、本実施例においては、実施例1に係る演算手段19を備えなくとも良い。
【0094】
図10に本実施例に係る微小物体が含まれる試料溶液を濃縮する微小物体濃縮方法の処理フロー図を示す。本処理フロー開始時において、試料溶液タンク1には微小物体である濃縮対象物22を含む試料溶液が保持されており、洗浄液タンク12には、洗浄液が保持されている。
【0095】
また、図11に示すように、実施例1と同様に、電極5aと電極5bとのギャップ部に付着物21が付着している。
【0096】
本実例では、ステップS1に代えて、ステップS31を実施する。ステップS31およびステップS2〜ステップS4は、第1の電極対5の間のコンダクタンスG1と第2の電極対6の間のコンダクタンスG2とが一致するまで第1の電極対5と第2の電極対6とを備えるセル4に洗浄液を供給し、排出するステップである。
【0097】
ステップS31において、第3バルブ14を開放して洗浄タンク12から洗浄液をセル4に供給する。ステップS31およびステップS2〜ステップS4の処理ループによれば、洗浄液によって付着物21を除去することができる。
【0098】
図12は、除去された付着物21が、洗浄液とともに、試料溶液排出管11から排出される様子を示す上面図である。
【0099】
続いて、第3バルブ14を閉じたのちに、第1の電極対5に第1の周波数f1で電圧振幅v2の交流電圧を印加した状態で、第1バルブ1を開放して試料溶液タンク1から試料溶液をセル4に供給し、セル4から試料溶液を排出する(ステップS35)。セル4に供給された試料溶液に含まれる濃縮対象物22は誘電泳動力によって第1の電極対5に捕集され、それ以外は試料溶液排出管11を経由して外部に排出される。
【0100】
図13は、濃縮対象物22が、第1の電極対5に捕集される様子を示す上面図である。
【0101】
最後に、第1バルブ3を閉じて試料溶液のセル4への供給を停止し、第1の電極対5への交流電圧の印加を停止または濃縮対象物22に負の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を印加する。そして、第2バルブ10を閉じて、第4のバルブ15を開く。第1の電極対5に捕集されていた濃縮対象物22は第1の電極対5から開放され、セル4内部の試料溶液とともに排出され、回収部17に回収される(ステップS36)。
【0102】
図14は、回収部17に濃縮対象物22が回収された状態を示す。回収部17に回収される液体は、濃縮対象物22が濃縮された試料溶液となる。
【0103】
本実施例によれば、付着物21が回収部17に回収されることがないので、回収される試料溶液の純度が高い。
【0104】
また、第1の電極対5に付着物21が付着していない状態から捕集を開始するので、付着物21によって、濃縮対象物22の捕集を妨げられることがない。そのため、より多くの濃縮対象物22を濃縮ができる。また、短時間で濃縮対象物22を濃縮することができる。
【0105】
また、試料溶液を回収する回収手段を備え、セル4からの液体の排出先として排出手段と回収手段とが選択可能であるため、濃縮対象物22を、ステップS35において排出される試料溶液と分離して回収することができる。
【0106】
また、洗浄液によって、第1の電極対5を洗浄するので、付着物21を乖離させる能力の高い液体を洗浄液として適宜選択でき、ステップS4までの処理時間を短縮することができる。
【0107】
なお、ステップS4において、コンダクタンスG1とコンダクタンスG2との差が設定値近傍になった時点で、次のステップS31において、第3バルブ14を閉じて第1バルブ3を開き、洗浄液の代わりに試料溶液をセル4に供給しても良い。これにより、第1の電極5に付着する付着物21が多い場合は、洗浄力の強い洗浄液を用いて短時間で洗浄することができ、第1の電極5に付着する付着物21が少ない場合には試料溶液を用いて洗浄しつつ、セル4内の洗浄液を試料溶液に置き換えることができる。これにより、処理時間を短縮することができる。また、ステップS31において常に洗浄液を供給する場合と比較して洗浄液の消費量が少なくすることができる。
【0108】
また、洗浄液供給管14からセル4に供給する洗浄液の流速を、セル4内において乱流や気泡が発生する程度に速くすることが望ましい。この場合、洗浄効果を高め、ステップS31に係る処理時間の短縮を図ることができる。
【0109】
また、ステップS36において、濃縮対象物22に負の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を印加しても良い、この場合、濃縮対象物22が第1の電極対5から乖離する方向に力を及ぼすので、処理時間の短縮、濃縮対象物22の回収率の向上、処理後の第1の電極対5に対する濃縮対象物22のこびり付きの防止をすることができる。
【0110】
また、回収部17に濃縮対象物22の量を測定する測定手段を設置して、濃縮対象物22の濃度を測定しても良い。濃縮率は、濃縮条件(ステップS35に係る交流電圧印加時間、周波数f1、電圧振幅v1等)に依存するので、測定手段により測定した濃度を濃縮率で除して、試料溶液タンク1から供給された試料溶液中の濃縮対象物の濃度を定量することができる。濃縮対象物22の量の測定方法としては、コンダクタンスの変化を用いる方法、散乱光や表面プラズモン共鳴を用いて光学的に検出する方法、蛍光物質と反応させて光学的に検出する方法、抗原抗体反応を用いる方法、試料溶液の電気抵抗の変化を測定するコールターカウンター法などが適宜選択可能である。
【実施例3】
【0111】
図15は本実施例に係る微小物体量測定装置300の構成説明図である。図15(a)は上面図、図15(b)が側方断面図である。以下、実施例1に係る微小物体量測定置100と共通する構成要素については説明を省略し、異なる構成要素についてのみ説明する。
【0112】
本実施例において、セル4は底面基板49とカバー部材50とを貼り合わせて作製される。セル4の内部は、所定の方向に試料溶液を流すことができるよう流路が形成されている。セル4の上流には試料供給管2が接続され、下流には試料排出管11が接続されている。セル4は、図15(a)に示すように、上流側が広く、下流側が狭い流路が形成される。上流路の幅は1000μm程度、下流路の幅は、上流路の幅より狭く200μm程度である。ガラスまたはシリコーンゴムの一種であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)などが材料に用いられ、成型やエッチングなどにより流路が形成される。
【0113】
上流路には、第1の電極対5および第2の電極対6が配置されている。下流路には、第3の電極対40が配置される。
【0114】
本実施例に係る微小物体量測定装置300は、表面プラズモン共鳴センサを備える。表面プラズモン共鳴センサは、セル4内部の測定対象物20の量を測定する測定手段である。本実施例に係る表面プラズモン共鳴センサは、第3の電極対40、光源41、コリメートレンズ42、集光レンズ43、プリズム44、集光レンズ47、光検出手段48、演算手段19を備える。
【0115】
第3の電極対40は、電極40aと電極40bとから構成される。電極40aおよび電極40bは交流電源7に配線され、第3の電極対40の間に交流電圧を印加可能に構成される。
【0116】
電極40aは下流方向に頂点を有する菱形形状であり、その中央は測定点Sである。また、交流電源7と配線接続するため、長方形の配線部が上流側に設けられている。電極40bは、電極40aの下流側に設けられる。
【0117】
センサ部40aはセル4の底面基板49上に形成されている。プリズム44とセル4の底面基板49とはガラスまたはプラスチックなどの透明材料が使用される。表面プラズモン共鳴角を小さくして検出手段としての検出精度を向上させるため、プリズム44の屈折率および底面基板49の屈折率は高い方が好ましい。
【0118】
本実施例の表面プラズモン共鳴センサは、光源41から発せられた光ビームが、コリメートレンズ42により平行光となり、集光レンズ43によりプリズム44を透過してプリズム44に密着して配置された電極40a中央の測定点Sに集光されるよう構成される。また、測定点Sに集光された光ビームは、測定点Sで反射され、光検出手段48に受光されるよう構成される。
【0119】
光源41は、半導体レーザ、外部共振半導体レーザ、固体レーザ、ガスレーザのいずれを用いてもよい。また、単色性の良いものであれば、LEDであってもよい。本実施例では波長660nmの赤色半導体レーザを用いる。この場合、視認性がよいため組み立て調整が容易になる。
【0120】
プリズム44は、ガラス、プラスチック、いずれの材料でもよい。光源41が出射する光に対して吸収率が低い材料を用いれば測定感度が良くなり、また屈折率の高い材料を用いれば測定精度が良くなるので、光源41が発する光量と波長、試料溶液およびその濃度、要求する測定精度、測定感度等に応じて適切な材料を選択すれば良い。
【0121】
プリズム44と底面基板49との界面からの反射光の影響を除去するために、プリズム44及び底面基板49と略等しい屈折率の接着剤またはマッチングオイルの塗布によりプリズム44と底面基板49とが密着している。
【0122】
光検出手段48はCCDやCMOSの1次元センサが適している。CCDやCMOSの2次元のセンサでもよい。また、検出面が複数に分割されたフォトダイオードであってもよい。
【0123】
演算手段19は、光検出手段48と配線される。本実施例においては、演算手段19は、光検出手段48が検出した信号から測定対象物20の量を算出する。演算手段19は測定手段8と配線されなくても良い。
【0124】
本実施例の表面プラズモン共鳴センサは、測定点S近傍の測定対象物の量を測定することができる。
【0125】
図16は、本実施例の微小物体量測定方法に係る処理フロー図である。以下、処理フロー図に則り、本実施例の微小物体量測定方法を説明する。本処理フローは、ステップS5に代えてステップS45を実施すること、ステップS6に代えてステップS46、ステップS47を実施することを除いて、実施例1に係るフローと同じであるので、ステップS45、ステップS46およびステップS47について説明する。
【0126】
ステップS45は、コンダクタンスの測定を行なわない点を除き、ステップS5と同じである。
【0127】
ステップS46においては、第1の電極対5に捕捉された測定対象物20を検出部Sに誘導して、凝集する。具体的には、第1の電極対5への電流の印加を停止または測定対象物20に負の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を印加して、第3の電極対40に第1の周波数f1の交流電圧を印加する。
【0128】
図17に、電極40aと電極40bとの間に測定対象物20が捕捉された様子を示す。
【0129】
次に、第3の電極対40に印加する交流電圧の周波数を、電気浸透流を発生させる第3の周波数f3に変更する。測定対象物20が大腸菌、試料溶液が純水の場合、第3の周波数f3は10kHz程度に設定される。
【0130】
図18は電気浸透流により測定点Sに測定対象物20が誘導された様子を示した模式図である。電気浸透流では、電極の中央部に向かって力が働く。これにより、電極40aと電極40bとの間に捕捉された測定対象物20が検出部Sへ誘導され、凝集する。
【0131】
この状態で、表面プラズモン共鳴センサにより、測定対象物の量を測定する(ステップS47)。具体的には、光源41が光ビームを出射し、コリメートレンズ42が光ビームを平行光とし、集光レンズ43がプリズム44に密着して配置された電極40a中央の測定点Sに集光させる。光検出手段48は、測定点Sで反射した光ビームを受光し入射角毎の強度を測定し、強度が低下する共鳴角を表面プラズモン共鳴角として出力する。表面プラズモン共鳴角は測定点S近傍の液体の誘電率に依存する。試料溶液に含まれる測定対象物20の量に誘電率は依存するので、表面プラズモン共鳴角は、測定点S近傍の試料溶液に含まれる測定対象物20の量と関係を有する。
【0132】
演算手段19は、表面プラズモン共鳴角に基づき、試料溶液における測定対象物20の量を演算する。
【0133】
本実施例によれば、表面プラズモン共鳴センサを用いて測定するので、測定感度および/または測定精度が高い。
【0134】
また、ステップS46において、測定対象物20に負の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を第1の電極対5に印加した場合、測定対象物20が第1の電極対5から乖離する方向に力を及ぼすので、処理時間の短縮、測定感度および/または測定精度の向上、処理後の第1の電極対5に対する測定対象物20のこびり付きの防止をすることができる。
【0135】
また、ステップS46において、測定対象物20に負の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を第2の電極対6に印加した場合、測定対象物20が第2の電極対6から乖離する方向に力を及ぼすので、処理時間の短縮、測定感度および/または測定精度の向上、処理後の第2の電極対6に対する測定対象物20のこびり付きの防止をすることができる。
【0136】
また、電気浸透流によって測定点Sに測定対象物20を凝集させるので、凝集した状態で測定することができ、測定感度および/または測定精度を向上させることができる。
【0137】
また、図15(a)に示すように、上流路の幅を広くすることで、ステップS1において、セル4を通過する試料溶液の流速を速くせずに、流量を増やすことができるので、短時間で多くの測定対象物20を捕集することができる。これにより、短時間で高感度かつ/または高精度の測定が可能である。
【0138】
なお、本実施例の微小物体量測定装置は、実施例2に記載の洗浄液供給手段を備え、セル4への液体の供給元として試料液の供給手段と洗浄液供給手段とを選択可能に構成し、ステップS1に代えて、実施例2に記載のステップS31を実施しても良い。この場合、付着物20を乖離させる能力の高い液体を洗浄液として適宜選択できるので、ステップS4までの処理時間を短縮することができる。また、洗浄能力が高くなるように、洗浄液供給管13を適宜構成することができるので、ステップS4までの処理時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
上記実施例1および3に記載の微小物体量測定装置および実施例2に記載の微小物体濃縮装置は、家庭用浄水器の浄水タンク内の微生物量検査や浄水タンクから浄水を一部誘導して微生物量を検出することに用いることができる。また、洗浄機用水質センサ、洗浄機、分析装置や純水装置、浄水プラントに利用することができる。
【符号の説明】
【0140】
1 試料溶液タンク
2 試料溶液供給管
4 セル
5 第1の電極対
6 第2の電極対
7 交流電源
8 測定手段
9 比較手段
11 試料溶液排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小物体が含まれる試料溶液を濃縮する微小物体濃縮装置であって、
第1の電極対と第2の電極対とを備えるセルと、
前記試料溶液をセルに供給する供給手段と、
前記セルから液体を回収する回収手段と、
前記第1の電極対に第1の交流電圧を印加する交流電源と、
前記第1の電極対の間のコンダクタンスG1と前記第2の電極対の間のコンダクタンスG2とを測定する測定手段と、
前記コンダクタンスG1と前記コンダクタンスG2とを比較する比較手段と、
を備えたことを特徴とする微小物体濃縮装置。
【請求項2】
洗浄液を前記セルに供給する洗浄液供給手段を備え、
前記供給手段と前記洗浄液供給手段とから1つの手段を選択して、選択された手段から前記セルへ液体を供給することを特徴とする請求項1記載の微小物体濃縮装置。
【請求項3】
前記セルから液体を排出する排出手段を備え、
前記排出手段と前記回収手段とから1つの手段を選択して、前記セルから前記選択された手段に液体を排出することを特徴とする請求項1記載の微小物体濃縮装置。
【請求項4】
試料溶液に含まれる微小物体の量を測定する微小物体量測定装置であって、
第1の電極対と第2の電極対とを備えるセルと、
前記試料溶液を前記セルに供給する供給手段と、
前記セルから液体を排出する排出手段と、
第1の電極対に第1の交流電圧を印加する交流電源と、
第記第1の電極対の間のコンダクタンスG1および第記第2の電極対の間のコンダクタンスG2を測定する測定手段と、
前記コンダクタンスG1と前記コンダクタンスG2とを比較する比較手段と
前記セル内部の前記微小物体の量を演算する演算手段と
を備えたことを特徴とする微小物体量測定装置。
【請求項5】
前記測定手段は、第1の電極対の間のコンダクタンスG1から前記微小物体の量を演算する演算手段であることを特徴とする請求項4記載の微小物体量測定装置。
【請求項6】
前記測定手段は、表面プラズモン共鳴センサであることを特徴とする請求項4記載の微小物体量測定装置。
【請求項7】
洗浄液を前記セルに供給する洗浄液供給手段を備え、
前記セルへの液体の供給元として前記供給手段と前記洗浄液供給手段とが選択可能に構成されることを特徴とする請求項4記載の微小物体量測定装置。
【請求項8】
微小物体が含まれる試料溶液を濃縮する微小物体濃縮方法であって、
第1の電極対の間のコンダクタンスと第2の電極対の間のコンダクタンスとが一致するまで前記第1の電極対と前記第2の電極対とを備えるセルに洗浄液を供給し排出するステップと、
前記セルに試料溶液を供給するステップと、
前記第1の電極対に前記微小物体に正の誘電泳動力が働く周波数である第1の交流電圧を印加して、前記セルから試料溶液を排出するステップと、
前記第1の電極対への交流電圧の印加を停止する、または前記微小物体に負の誘電泳動力が働く周波数の交流電圧を印加して、前記試料溶液を排出するステップと、
を備えることを特徴とする微小物体濃縮方法。
【請求項9】
前記洗浄液を供給し排出するステップにおいて、
前記第1の電極対に付着した付着物に対し負の誘電泳動力が働く周波数である交流電圧を第1の電極対に印加することを特徴とする請求項8記載の微小物体濃縮方法。
【請求項10】
前記洗浄液を供給し排出するステップにおいて、
前記第1の電極対に付着した付着物および/または前記微小物体に対し負の誘電泳動力が働く周波数である交流電圧を第2の電極対に印加することを特徴とする請求項8記載の微小物体濃縮方法。
【請求項11】
前記洗浄液を供給し排出するステップにおいて印加する交流電圧の電圧振幅が第1の交流電圧の電圧振幅より小さいことを特徴とする
請求項9または10記載の微小物体濃縮方法。
【請求項12】
前記試料溶液のコンダクタンスを測定するステップと、
前記コンダクタンスから電気伝導度を算出するステップと、
を備え、
前記電気伝導度において、前記微小物体に対して正の誘電泳動力が他の周波数より強く働く周波数を第1の交流電圧の周波数とすることを特徴とする請求項8記載の微小物体濃縮方法。
【請求項13】
試料溶液に含まれる微小物体の量を測定する微小物体量測定方法であって、
第1の電極対の間のコンダクタンスと第2の電極対の間のコンダクタンスとが一致するまで前記第1の電極対と前記第2の電極対とを備えるセルに洗浄液を供給し、排出するステップと、
前記セルに試料溶液を供給するステップと、
前記第1の電極対に前記微小物体に正の誘電泳動力が働く第1の周波数である第1の交流電圧を印加するステップと、
前記セル内部の前記微小物体の量を測定するステップと、
を備えることを特徴とする微小物体量測定方法。
【請求項14】
前記洗浄液は前記試料溶液であることを特徴とする請求項13記載の微小物体量測定方法。
【請求項15】
前記洗浄液を供給し、排出するステップにおいて、
前記第1の電極対に付着した付着物に対し負の誘電泳動力が働く周波数である第2の交流電圧を第1の電極対に印加することを特徴とする請求項13記載の微小物体量測定方法。
【請求項16】
前記洗浄液を供給し、排出するステップにおいて、
前記第1の電極対に付着した付着物および/または前記微小物体に対し負の誘電泳動力が働く周波数である第2の交流電圧を第2の電極対に印加することを特徴とする請求項13記載の微小物体量測定方法。
【請求項17】
前記第2の交流電圧の電圧振幅が前記第1の交流電圧の電圧振幅より小さいことを特徴とする請求項15または16記載の微小物体量測定方法。
【請求項18】
前記試料溶液のコンダクタンスを測定するステップと、
前記コンダクタンスから電気伝導度を算出するステップと、
を備え、
前記電気伝導度において、前記微小物体に対して正の誘電泳動力が他の周波数より強く働く周波数を前記第1の周波数とすることを特徴とする請求項13記載の微小物体量測定方法。
【請求項19】
前記第1の電極対に前記第1の交流電圧を印加するステップにおいて、第1の電極対の間のコンダクタンスを複数回測定し、
前記コンダクタンスの上昇速度が速い場合に、前記微小物体の量が多いと演算することを特徴とする請求項13記載の微小物体量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−68192(P2012−68192A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215012(P2010−215012)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】