微小管伸長抑制剤をスクリーニングする方法および微小管伸長抑制剤
【課題】本発明は、新規メカニズムに基づき微小管伸長抑制剤をスクリーニングする方法、および、新規微小管伸長抑制剤を提供することを課題とする。
【解決手段】AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む微小管伸長抑制剤、およびAMPKによるCLIP-170のリン酸化されるアミノ酸が変異した変異型CLIP-170のポリペプチドによる。
【解決手段】AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む微小管伸長抑制剤、およびAMPKによるCLIP-170のリン酸化されるアミノ酸が変異した変異型CLIP-170のポリペプチドによる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法、および微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む微小管伸長抑制剤、ならびにCLIP-170のAMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異した変異型CLIP-170のポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
微小管は、真核生物の細胞内に存在する線維状の構造体であり、主にチューブリンと呼ばれるタンパク質からなる細胞骨格の一種である。微小管は、α−チューブリンとβ−チューブリンの各1分子が結合したヘテロ2量体を基本単位とする。ヘテロ2量体が繊維状に繋がったものをプロトフィラメントと呼び、通常13本のプロトフィラメントからなる管状構造が微小管である。β−チューブリンが断端に位置する側をプラス端、α−チューブリンが断端に位置する側をマイナス端といい、微小管中心から放射状に伸びている遠位端がプラス端となる。
【0003】
微小管はチューブリンの2量体の付加(重合)により伸長し、解離により短縮される。微小管の伸長と短縮は、微小管のダイナミクスとも呼ばれ、微小管結合タンパク質(MAPs)によって調節されている。微小管結合タンパク質には、微小管を安定化するもの、微小管の脱重合を促進するもの、微小管同士を結合するものなどがある。伸長する微小管のプラス端に濃縮するタンパク質CLIP-170(Cytoplasmic Linker Protein of 170kDa)が微小管のダイナミクスに関連することが示唆されている(非特許文献1)。
【0004】
微小管は、細胞内小器官や細胞膜タンパク質の輸送等に重要な機能を持つと同時に、細胞分裂時に紡錘体をつくり、染色体の移動、細胞周期M期における有糸分裂の制御に関与する。また、微小管の構造に障害を与えることによって細胞増殖、細胞遊走を抑制することができることから、微小管の構造変化に影響する物質が抗癌剤として使用されている。
【0005】
微小管の構造に障害を与える作用には、微小管の重合や脱重合を抑制する作用が含まれる。コルヒチンやビンアルカロイド系の抗癌剤(ビンクリスチンなど)は、微小管の重合を抑制する作用を有する。逆に、タキサン系の抗癌剤(ドセタキセル、パクリタキセル)は微小管の脱重合を阻害し、微小管を極度に安定化する作用を有する。微小管の構造変化に影響するこれらの抗癌剤は、骨髄抑制や、発熱、嘔吐、しびれなどの副作用をきたすため、副作用の少ない抗癌剤の開発が望まれている。
【0006】
AMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)は、細胞エネルギーの恒常性の制御因子として、重要な役割を担う。AMPKの基質としては、代謝系の酵素群が数種同定されており、脂質代謝に関係する酵素ACC(アセチル CoA カルボキシラーゼ)が代表的なものとして挙げられる。AMPKは、細胞エネルギー消費を抑制し、エネルギー産生を促進させると従来より考えられており、肥満、糖尿病、癌などの治療の重要な標的と考えられている。また癌抑制因子として知られるLKB1が、AMPKを介してシグナルを伝達し、細胞の極性を調節することが報告されている(非特許文献2〜5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dragestein, K. A. et al., J Cell Biol 180, 729-737 (2008).
【非特許文献2】Watts, J. L., Morton, D. G., Bestman, J., &Kemphues, K. J., Development 127, 1467-1475 (2000).
【非特許文献3】Martin, S. G. and St Johnston, D., Nature 421, 379-384 (2003).
【非特許文献4】Baas, A. F. et al., Cell 116, 457-466 (2004).
【非特許文献5】Forcet, C. et al., Hum Mol Genet 14, 1283-1292 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規メカニズムに基づき微小管伸長抑制剤をスクリーニングする方法、および、新規微小管伸長抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために、微小管結合タンパク質の1つであるCLIP-170が、AMPKによりリン酸化されることを初めて確認し、かかるリン酸化を指標とすることで、微小管伸長抑制剤をスクリーニングすることが可能であること、および、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異した変異型CLIP-170ポリペプチドが微小管伸長を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.CLIP-170のアミノ酸配列において、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異している変異型CLIP-170のポリペプチドであって、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
2.以下の1)〜3)から選択される、前項1に記載のポリペプチド:
1)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
2)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列から選択される部分アミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド;
3)上記1)または2)に示すポリペプチドをコードするアミノ酸配列において、311番目以外の位置に1〜5個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
3.前記セリンがアラニンに置換している、前項1または2に記載のポリペプチド。
4.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法。
5.AMPKによるCLIP-170のリン酸化が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化である、前項4に記載のスクリーニング方法。
6.以下の工程を含む前項4または5に記載のスクリーニング方法:
(a)AMPKとCLIP-170とを被検物質の存在下で接触させて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を検出する工程;
(b)被検物質の非存在下と比べて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を低減させうる物質を選択する工程。
7.AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出が、AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体を用いて行われる、前項4〜6のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
8.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
9.前項4〜7のいずれか1に記載の方法を用いる、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
10.AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体。
11.前項9に記載の抗体を少なくとも含む、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質をスクリーニングするためのキット。
12.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む、微小管伸長抑制剤。
13.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化を阻害する物質である、前項12に記載の微小管伸長抑制剤。
14.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)-フェニル)]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ[1,5-a]-ピリミジンである、前項12または13に記載の微小管伸長抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明にて新規に見出されたメカニズムである、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を、本発明のスクリーニング方法により得ることができる。かかる物質は微小管伸長抑制剤として作用し得る。本発明の新規微小管伸長抑制剤は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を効果的に阻害することにより、微小管伸長を効率よく抑制することができ、抗癌剤として使用し得る。また本発明のポリペプチドは、微小管の先端に長くとどまることにより、微小管伸長を抑制する効果を有し、癌治療に使用し得ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】AMPKの基質についてのスクリーニング結果を示す図である。(実施例2)
【図2】AMPKの基質についての、さらなるスクリーニング結果を示す図である。(実施例2)
【図3】AMPKの基質がCLIP-170であることを確認する結果を示す図である。(実施例3)
【図4】AMPKによりリン酸化されたアミノ酸についての解析結果を示す図である。(実施例4)
【図5】AMPKによるCLIP-170におけるリン酸化標的部位の確認結果を示す図である(Flag融合タンパク質を使用)。(実施例4)
【図6】MPKによるCLIP-170におけるリン酸化標的部位の確認結果を示す図である(GST融合タンパク質を使用)。(実施例4)
【図7】リン酸化CLIP-170を認識する抗体を用いたウエスタンブロットを示す図である。(実施例5)
【図8】ホスファターゼ処理した試料に対して、リン酸化CLIP-170を認識する抗体を用いたウエスタンブロットを示す図である。(実施例5)
【図9】AMPKによるCLIP-170のリン酸化に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例6)
【図10】CLIP-170の局在、およびCLIP-170の局在に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例7)
【図11】微小管伸長に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例7)
【図12】微小管伸長に対するAMPK siRNAおよびCLIP-170 S311Aの影響を示す図である。(実施例8)
【図13】細胞遊走に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例9)
【図14】細胞遊走に対するCLIP-170 S311Aの影響を示す図である。(実施例10)
【図15】アクチン(Actin)およびパキシリン(Paxillin)に対するCLIP-170 S311Aの影響と他の抗癌剤の影響を比較する図である。(実施例11)
【図16】AMPKの標的となるペプチドモチーフ、およびCLIP-170部分ポリペプチドの種差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、微小管結合タンパク質の1つであるCLIP-170が、AMPKの基質として作用してリン酸化されることを確認し、さらにはCLIP-170においてAMPKによりリン酸化されるアミノ酸を特定したことに基づく。
【0014】
CLIP-170(Cytoplasmic Linker Protein of 170kDa)は、CLIP1(CAP-GLY domein containing linker protein 1)とも呼ばれ、伸長している微小管の新しく重合された伸長端に特異的に結合して集積し、古い微小管からは迅速に解離することが知られている。かかる動態を示す分子は微小管プラス端集積因子(+TIP)と呼ばれ、CLIP-170のほかに、MAST/Orbit、ダイニン(dynin)、EB1、APC等が含まれる。本発明におけるCLIP-170は全長タンパク質が約170kDaであり、微小管プラス端集積因子(+TIP)として機能するものである。
【0015】
微小管プラス端集積因子(+TIP)の機能は、Perez F, et al., Cell 96(4) 517-527 (1999)に開示された手法を参照して確認することができる。具体的には、GFP-CLIP170融合タンパク質(EGFP-CLIP-170融合タンパク質であってもよい)を用いて、アフリカミドリザルのライン化した腎細胞(Vero細胞)にて、当該融合タンパク質の挙動を解析することにより、確認することができる。
【0016】
本発明におけるCLIP-170は、マウス由来のもの(GenBank Accession No. BC007191:配列番号1)、ラット由来のもの(GenBank Accession No. NM_031745.2)、ヒト由来のもの(GenBank Accession No. NM_002956.2、NM_198240.1)、ウシ由来のもの(GenBank Accession No. XP_614458)、イヌ由来のもの(GenBank Accession No. XP_859560)、ニワトリ由来のもの(GenBank Accession No. NP_990273)、アフリカツメガエル由来のもの(GenBank Accession No. NP_001081970)、メダカ由来のもの(GenBank Accession No. NM NP_001098196)、ゼブラフィッシュ由来のもの(GenBank Accession No. XP_686943)などが例示されるが、マウス由来のもの、ラット由来のもの、またはヒト由来のものが好ましい。
【0017】
好ましくは、本発明におけるCLIP-170は以下の(i)〜(iv)より選択されるいずれか1のポリペプチドである:(i) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;(ii) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ微小管プラス端集積因子(+TIP)として機能するポリペプチド;(iii) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と40%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ微小管プラス端集積因子(+TIP)として機能するポリペプチド;(iv) 上記(i)〜(iii)のポリペプチドの部分ポリペプチドであって、CLIP-170におけるAMPKによりリン酸化されるアミノ酸を少なくとも含む部分ポリペプチド。
【0018】
本明細書における「ポリペプチド」は、複数個のアミノ酸がペプチド結合してなるものであり、タンパク質と同義に用いる場合もある。
【0019】
本発明において、CLIP-170におけるAMPKによりリン酸化されるアミノ酸は、配列番号1(マウスCLIP-170)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸である。本発明において、CLIP-170におけるAMPKによりリン酸化されるアミノ酸は、配列番号1(マウスCLIP-170)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸であればよく、アミノ酸の位置は限定的なものではない。配列番号1(マウスCLIP-170)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸は、例えば、ヒトCLIP-170では312番目のセリン、ゼブラフィッシュCLIP-170では283番目のセリンである(図16参照)。配列番号1における311番目のセリン近傍のアミノ酸配列は、様々な種の動物間で高い保存性を有するため、AMPKによるCLIP-170のリン酸化のメカニズムには、種差がないと考えられる。
【0020】
AMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)は、細胞内エネルギー量の低下(AMP/ATP比の上昇)を感知して活性化される、セリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素であり、筋肉や肝臓などの生体内に広く存在する。本発明におけるAMPKは、CLIP-170リン酸化機能を有するAMPKであればいかなるものであってもよい。本発明においてAMPKによるCLIP-170リン酸化は、マウスCLIP-170(配列番号1)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸をリン酸化することをいう。
【0021】
CLIP-170リン酸化は、例えば、放射性同位体標識したATP、例えば[γ-32P]ATPを用いてAMPKによるCLIP-170のリン酸化反応を行った際に、CLIP-170において[γ-32P]の放射活性が検出されること、または、AMPKによるCLIP-170のリン酸化反応を行った際、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いたウエスタンブロッティング等により当該抗体の結合が検出されることにより確認することができる。
【0022】
本発明におけるAMPKは、マウス由来のもの、ラット由来のもの、ヒト由来のものなどが例示される。AMPKはヒト由来のものが好ましいが、以下の(i)〜(iv)より選択されるいずれか1のポリペプチドであってもよい:(i) 配列番号2(ラット由来:GenBank Accession No. NM_019142)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;(ii) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつCLIP-170リン酸化機能を有するポリペプチド;(iii) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と40%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつCLIP-170リン酸化機能を有するポリペプチド;(iv) 上記(i)〜(iii)のポリペプチドの部分ポリペプチドであり、かつCLIP-170リン酸化機能を有する部分ポリペプチド。
【0023】
本発明におけるCLIP-170またはAMPKは、他のポリペプチドと融合したCLIP-170またはAMPKを含む。他のポリペプチドはCLIP-170またはAMPKの機能に影響を与えないポリペプチドであればよく、例えばFLAG、GSTなどが挙げられる。
【0024】
本発明のAMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法では、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする。好ましくはAMPKによるCLIP-170のリン酸化は、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸のリン酸化である。
【0025】
本発明のスクリーニング方法では、AMPKとCLIP-170を被検物質の存在下で接触させ、次いでAMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を検出し、リン酸化活性が被検物質の非存在下のものと比べて低減している物質を、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質として選択する。
【0026】
前記スクリーニング方法には、in vitroアッセイ系およびin vivoアッセイ系のいずれを用いてもよい。in vitroアッセイ系を用いる場合、AMPKによるCLIP-170リン酸化をより効果的に阻害する物質をスクリーニングすることができるという利点がある。in vivoアッセイ系の場合を用いる場合、被検物質の生理的な影響を同時に確認してスクリーニングすることができるという利点がある。
【0027】
in vitroアッセイ系を用いたスクリーニング方法は、in vitroでAMPKとCLIP-170を被検物質の存在下で接触させる工程と、AMPKによるCLIP-170リン酸化活性を検出する工程を含むものであればいかなるものであってもよい。例えば、CLIP-170を支持体に結合させ、支持体にAMPKと被検物質を加えて、インキュベートした後に、洗浄して、CLIP-170のリン酸化活性を検出する方法や、支持体を用いずに溶媒中に、AMPK、CLIP-170、および被検物質を存在させてインキュベートした後に、CLIP-170のリン酸化活性を検出する方法が挙げられる。
【0028】
AMPKまたはCLIP-170は、AMPKおよび/もしくはCLIP-170を天然に発現する細胞もしくは組織、AMPKおよび/もしくはCLIP-170をコードするDNAを導入した細胞、動物もしくは植物から産生されるタンパク質を精製した状態または粗精製の状態で使用してもよいし、市販のものを使用してもよい。例えば、AMPKはUpstate社製のものを購入して使用してもよい。
【0029】
AMPKとCLIP-170のリン酸化反応の溶媒としては、緩衝液を用いればよく、緩衝液としては例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられる。緩衝液には、リン酸化反応のために、AMPおよびATPを適宜添加する必要がある。また、リン酸化反応のためのインキュベート条件としては、リン酸化反応が起こり得る条件を適宜設定可能であるが、例えば、4℃〜40℃にて、10分間〜12時間のインキュベーションが挙げられる。
【0030】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出は、放射性同位体標識したATP、例えば[γ-32P]ATPを用いてリン酸化反応を行い、CLIP-170に転移した[γ-32P]の放射活性を測定することにより検出してもよいし、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いてウエスタンブロッティング等を用いて免疫学的に検出してもよい。
【0031】
リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体は、リン酸化CLIP-170に結合し、リン酸化されていないCLIP-170に結合しない抗体を意味し、AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体である。リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体は、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されたCLIP-170に結合し、当該アミノ酸がリン酸化されていないCLIP-170に結合しない抗体、すなわち配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸のリン酸化を特異的に認識する抗体である。かかる抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体や、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体ならびにこれらの結合活性断片などであってもよい。
【0032】
配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸のリン酸化を特異的に認識するポリクローナル抗体は、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されているCLIP-170もしくはその部分ポリペプチド、好ましくは部分ポリペプチド「SLKRSPSASSLS」(下線のセリンがリン酸化されている:配列番号3)を抗原として使用して、公知の方法により、作製すればよい。例えば、通常の免疫方法に従って、前記抗原によりマウスなどの動物を免疫し、該動物から血液を採取して、血清を得ればよい。当該血清に、配列番号1の311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されたCLIP-170に結合し、当該セリンがリン酸化されていないCLIP-170に結合しない特性を有する抗体が含まれていればよい。
【0033】
目的の抗体に関する特性の確認は、後述する実施例4の手法を参照して行うことができる。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されたCLIP-170ポリペプチド、および、当該アミノ酸がリン酸化されていないCLIP-170ポリペプチドに対して、抗体を用いてウエスタンブロッティングを行い、抗体の結合性の確認を行えばよい。CLIP-170ポリペプチドは、全長タンパク質であっても、部分ポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸を含むものであればよい。CLIP-170ポリペプチドとしては、例えば配列番号1の1〜331番目のアミノ酸配列からなり、311番目のセリンがリン酸化されているものと、リン酸化されていないものとを用いることができる。
【0034】
上記のポリペプチドに加えて、野生型CLIP-115(例えばGenBank Accession No. NM_009990)の1〜339番目のアミノ酸配列を有するポリペプチド、野生型CLIP-170において配列番号1の311番目のセリンに相当するアミノ酸を含まないポリペプチド(例えば、配列番号1の340〜1012番目のアミノ酸配列を有するポリペプチド)、配列番号1の311番目のセリンに相当するアミノ酸がアラニンやアスパラギン酸に置換している変異型CLIP-170ポリペプチドなどに対する、抗体の結合性を確認して抗体の特性を確認することもできる。目的の抗体は、これらのペプチドには実質的に結合性を示さないことが、特異度の点から好ましい。
【0035】
in vivoアッセイ系を用いたスクリーニング方法では、AMPKおよびCLIP-170を発現する生体に、被検物質を接触させる工程と、AMPKによるCLIP-170リン酸化活性を検出する工程を含むものであればいかなるものであってもよい。AMPKおよびCLIP-170を発現する生体は、AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞、AMPKおよびCLIP-170を発現する動物などが例示される。AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞を用いてスクリーニングする場合は、被検物質への接触は、被検物質を細胞内に導入することによって行ってもよい。
【0036】
AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞は、AMPKおよびCLIP-170を天然に発現する細胞を用いてもよいし、AMPKおよび/またはCLIP-170を天然には発現しない細胞に、AMPKおよび/またはCLIP-170をコードするDNAを導入することによって作製した細胞を用いてもよい。導入する方法は自体公知の方法を用いればよい。AMPKおよび/またはCLIP-170の遺伝子を導入するための宿主細胞は、本発明のスクリーニング方法を実行可能であればいかなるものであってもよいが、例えばVero細胞が挙げられる。
【0037】
遺伝子工学的にAMPKおよび/またはCLIP-170を導入した細胞を作製する際、AMPKおよび/またはCLIP-170に、他のポリペプチド(例えばFLAG、GST)を融合させたものをコードするDNAを導入してもよい。導入したポリペプチドの発現の確認は、自体公知の手法により、タンパク質レベルおよび/またはmRNAレベルで行うことにより可能である。
【0038】
AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞の培養は、自体公知の培養液中でインキュベートを行えばよい。培養液は、用いる細胞に応じて選択すればよいが、例えばVero細胞を培養する際には、10%ウシ胎仔血清(Equitech-Bio, Kerrville, TX)補充Dulbecco's modified Eagle培地(Sigma-Aldrich)を用ることができる。また培養条件は、リン酸化反応が起こり得る条件を適宜設定可能であるが、例えば、4℃〜40℃にて、1時間〜24時間のインキュベーションが挙げられる。
【0039】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出は、in vitroアッセイ系と同様に行えばよい。放射性同位体標識したATPを用いる手段とリン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いる手段があり、細胞を溶解せずにそのまま検出することも可能であるが、細胞を溶解して検出することも可能である。
【0040】
放射性同位体標識したATPを用いる手段では、細胞を溶解して、電気泳動を行ってタンパク質を分離し、オートラジオグラフィーにより、放射活性を検出することが好ましい。
リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いる手段では、細胞を溶解してウエスタンブロッティングを行う、または、細胞を溶解せず、蛍光標識された抗体などを用いて、in vivo蛍光イメージング装置などにより検出を行うことができる。
【0041】
本発明は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニングをするためのキットにも及ぶ。当該キットは、AMPKとCLIP-170、または、AMPKとCLIP-170とを発現する細胞を含む。また当該キットは、CLIP-170のリン酸化を検出するための物質、例えば、[γ-32P]ATPや、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を含むが、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を含むことが好ましい。さらに当該キットは、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤等の試薬、および、試験に必要な器具やコントロール等を含むことができる。
【0042】
また本発明は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、微小管伸長抑制剤をスクリーニングする方法にも及ぶ。本発明のAMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法およびスクリーニングキットは、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法およびスクリーニングキットとして使用することが可能である。
【0043】
本発明はさらに、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む、微小管伸長抑制剤にも及ぶ。当該AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質は、本発明のスクリーニング方法によって新規に見出された物質をも含む。AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質は、好ましくは、6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)-フェニル)]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ [1,5-a]-ピリミジンであり、かかる化合物は「Compound C」として市販されている(Calbiochem社製, San Diego, CA)。
【0044】
本発明の微小管伸長抑制剤は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する機能を有する。本発明の微小管伸長抑制剤は、かかるCLIP-170リン酸化阻害により、リン酸化されていないCLIP-170を微小管先端に長時間集積させる。微小管の重合には、CLIP-170の微小管先端からの解離が必要である。本発明の微小管伸長抑制剤は、CLIP-170の微小管からの解離を抑制することにより、微小管伸長抑制機能を発揮するものと考えられる。
【0045】
また本発明の微小管伸長抑制剤は、微小管形成中心(microtubule organizing center;MTOC)の再配向を阻害して、細胞の極性化に影響を与え、細胞の遊走を阻害する機能を有する。
【0046】
さらに本発明は、CLIP-170のアミノ酸配列において、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異している変異型CLIP-170のポリペプチドであって、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチドにも及ぶ。AMPKによりリン酸化されるアミノ酸は、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸である。かかる変異型CLIP-170のポリペプチドは、AMPKによるリン酸化をうけない分子である。
【0047】
前記変異型CLIP-170のポリペプチドは、好ましくは以下の1)〜3)から選択される:
1)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
2)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列から選択される部分アミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド;
3)上記1)または2)に示すアミノ酸配列において、311番目以外の位置に1〜5個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
【0048】
本発明のポリペプチドにおいて、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸はいかなるアミノ酸に置換されていてもよく、当該ポリペプチドが微小管伸長を抑制する機能を有するものであればよい。また、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸は、アラニンに置換されていることが好ましい。
【0049】
野生型CLIP-170は微小管の先端にコメット状に濃縮するのに対して、本発明の変異型CLIP-170ポリペプチドは、尾部が長いコメット状で微小管に存在する。また変異型CLIP-170ポリペプチドは、コメットの移動を遅くする。変異型CLIP-170ポリペプチドは、微小管の先端に長時間とどまることにより、効率の良い微小管の重合を阻害しているものと考えられる。
【0050】
また、本発明の変異型CLIP-170ポリペプチドは、細胞の遊走を阻害する機能を有するが、これは微小管伸長を抑制して、細胞の極性化に影響を与えることによるものと考えられる。
【0051】
本発明の変異型CLIP-170ポリペプチドは、当該ポチペプチドがトランスフェクトされた細胞が数日間生存することから、細胞の生存に対してはあまり影響を与えておらず、生体に対する副作用が低いものと考えられる。
【0052】
本発明のポリペプチドの特徴である微小管伸長を抑制する機能は、例えばVero細胞にEGFPの融合した変異型CLIP-170のポリペプチドを導入し、EGFPの蛍光によりコメットの挙動を観察して確認することができる。野生型CLIP-170を導入した場合に比べて、コメットの移動速度が遅い場合には、当該ポリペプチドが微小管伸長を抑制する機能を有するといえる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0054】
なお以下の実施例での統計的処理としては、データを平均値±s.e.mとして算出し、2群間の比較についてはt検定を用い、3以上の多群間の比較については、one-way ANOVA法を行った後、JMP 6.0.3 softwar(SAS Institute Inc., Cary, NC)によりDunnett法を行い、Post hoc多重比較検定を行った。P<0.05を統計的有意とした。
【0055】
(実施例1) タンパク質もしくはポリペプチドの調製
(1)実施例にて用いるタンパク質もしくはポリペプチドを作製するためのプラスミド:
以下の各タンパク質もしくはポリペプチドをコードするcDNA断片を、ラットまたはマウス心臓のcDNAライブラリからPCR法を用いて増幅した。
・ラットAMPKα1 (GenBank Accession No. NM_019142)
・マウスCLIP-170 (GenBank Accession No. BC007191)の全長タンパク質
・マウスCLIP-170 (GenBank Accession No. BC007191)の1〜311番目のアミノ酸配列を有する部分ポリペプチド
・マウスCLIP-115 (GenBank Accession No. NM_009990)の全長タンパク質
・マウスCLIP-115 (GenBank Accession No. NM_009990)の1〜399番目のアミノ酸配列を有する部分ポリペプチド
・マウスCLIP-115 (GenBank Accession No. NM_009990)の340〜1012番目のアミノ酸配列を有する部分ポリペプチド
その後、各増幅断片を、pENTR/D-TOPOベクターにGateway Technology(Invitrogen)を用いて挿入した。それぞれベクターをpENTR-WT AMPKα1, pENTR-WT CLIP-170, pENTR-WT CLIP-170 1-331, pENTR-WT CLIP-115, pENTR-WT CLIP-115 1-339, and pENTR-WT CLIP-115 340-1012と称する。
【0056】
また、kinase dead型(キナーゼ活性を持たない変異体:KD)のAMPKα1として、Thr172Ala突然変異体を、pENTR-WT AMPKα1を鋳型として以下のプライマーを使用してPCR法により作製した。プライマーの塩基配列中の下線部は、変異部位を示す。
5'-TTTTTAAGAGCTAGCTGTGGCTCGCC-3'(配列番号4)
5'-GCCACAGCTAGCTCTTAAAAATTCAC-3'(配列番号5)
【0057】
変異型CLIP-170であるS311A CLIP-170(311番目のセリンをアラニンに置換)およびS737A CLIP-170(737番目のセリンをアラニンに置換)を、pENTR-WT CLIP-170を鋳型として以下のプライマーを使用してPCR法により作製した。プライマーの塩基配列中の下線部は、変異部位を示す。
5'-CGAAGCCCTGCTGCCTCCTCCCTCAGCTCCATGAGC-3'(配列番号6)
5'-GGAGGAGGCAGCAGGGCTTCGCTTCAGGCTGGCGGGCG-3'(配列番号7)
5'-AAAGCCAATGCCGAAGGTAAACTGGAGCTCGAGACACTTA-3'(配列番号8)
5'-TTTACCTTCGGCATTGGCTTTCCGAAGCGCATCAAGATCC-3'(配列番号9)
【0058】
Flagタグの付いたタンパク質を作製するために、pENTR-WT AMPKα1、pENTR-KD AMPKα1、pENTR-WT CLIP-170およびpENTR-S311A CLIP-170およびpENTR-S737A CLIP-170およびpENTR-WT CLIP-115を、Gateway systemを使用して、pEF-DEST51/cFlagベクター(以下それぞれpEF-DEST51-WT AMPKα1、pEF-DEST51-KD AMPKα1、pEF-DEST51-WT CLIP-170、pEF-DEST51-S311A CLIP-170、pEF-DEST51-S737A CLIP-170、pEF-DEST51-WT CLIP-115と称する)、またはpcDNA3.1/nFlag-DESTベクター(pcDNA3.1-WT CLIP-170と称する)にサブクローン化した。
【0059】
GST融合蛋白質を作製するために、pENTR-WT CLIP-170 1-331、pENTR-WT CLIP-115 1-339およびpENTR-WT CLIP-115 340-1012を、Gateway systemを使用して、pDEST15ベクター(以下それぞれpDEST15-WT CLIP-170 1-331、pDEST15-WT CLIP-115 1-339およびpDEST15-WT CLIP-115 340-1012と称する)にサブクローン化した。
【0060】
CLIP-170-EGFPコンストラクトはFukataら(Cell 109, 873-885 (2002))に記載の方法に従って作製した。
Ser311がAla(アラニン)またはAsp(アスパラギン酸)により置換されたCLIP-170の突然変異体は、鋳型としてCLIP-170-pEGFPと以下のプライマーを使用して、PCR法により作製した(Ala:配列番号10および11、Asp:配列番号12および13)。
5'-CGCAGCCCTGCTGCCTCTTCCCTCAGCTCCATGAGC-3'(配列番号10)
5'-GGAAGAGGCAGCAGGGCTGCGCTTCAGGCTGGCGGACG-3'(配列番号11)
5'-CGCAGCCCTGATGCCTCTTCCCTCAGCTCCATGAGC-3'(配列番号12)
5'-GGAAGAGGCATCAGGGCTGCGCTTCAGGCTGGCGGACG-3'(配列番号13)
【0061】
(2)組換えタンパク質の精製
Flag融合タンパク質の精製:上記プラスミドでトランスフェクトした293T細胞を、溶解バッファーA(20 mM MOPS、10%グリセロール、0.15 M NaCl、1% CHAPS、1 mM EDTA、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque)、50 mMβ-グリセロ燐酸塩、25 mM NaFおよび1 mM Na3VO4、pH 7.4)中で溶解し、4℃で1時間、抗Flag M2アガロース(シグマ)により免疫沈降を行った。ビーズを溶解バッファーAで3回洗浄し、4℃にて1時間、溶出バッファー(20 mMトリス-HCl pH 7.4、10%グリセロール、0.3 mM NaCl、0.1% CHAPS、0.5mg/ml Flagペプチド(シグマ)および1 mM DTT)で溶出した。遠心分離後、上清を組み換えFlag融合タンパク質として使用した。
GST融合タンパク質の精製:上記プラスミドでトランスフェクトしたBL21-AI chemically competent E. coli(Invitrogen)を、20℃で12時間、0.02% L-アラビノースを用いて誘導した。遠心分離して細胞を集め、5mM EDTAおよびプロテアーゼ阻害剤カクテルを含むリン酸塩緩衝食塩水(PBS)にて超音波処理により溶解した。1% トリトンX-100を添加した後、細胞溶解物を4℃で30分間攪拌し、4℃で1.5時間、グルタチオン・セファロース 4 Fast Flow(GE Healthcare UK Ltd., Littele Chalfont, Buckighamshire, England)により吸着させた。3回洗浄後、タンパク質を10 mM 還元グルタチオンで溶出し、Nanosep 10K Device(Pall Life Science, Ann Arbor, MI)を使用して、溶離バッファー中で限外濾過を行った。
【0062】
(実施例2)AMPKの基質のスクリーニング
(1)組織からのタンパク質粗精製
C57BL/6Jマウス(雌)の心臓を、Polytronホモジナイザー(Kinematica, Bohemia, NY)を使用して、溶解バッファーB(20 mM MOPS pH 7.4、10%グリセロール、0.1% CHAPS、2 mM EDTA、1 mM DTT、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル)中で磨砕した。磨砕後、終濃度1%になるようCHAPSを加えた。また、ホモジネートは15分間攪拌しながら4℃でインキュベートし、その後10,000×gで30分間、遠心分離を行った。上清をろ過し、カラムバッファーAにより予め平衡に保たれたTSK-GEL SuperQ5PW(7.5×75 mm、TOSOH)陰イオン交換カラム上に負荷した。なおカラムバッファーAは、20 mM MOPS(pH 7.4)、10%グリセロールおよび2 mM EDTAからなる。カラムバッファーAで洗浄した後、タンパク質を0.5 ml/minの流量でNaCl 0〜1 M/60 minの直線濃度勾配(図1a参照)により溶出した。各0.5mlで画分を回収した。各画分の一部50μlをin vtro AMPK活性のアッセイに用いた。
【0063】
(2)in vitro AMPK活性のアッセイ
AMPK活性のアッセイのためのタンパク質試料を65℃で20分間予め熱し、0.2 mM AMP、0.8 mM MgCl2、10 mCi/ml [γ-32P]ATP(GE Healthcare Bio-Science Corp., Piscataway, NJ)の存在下で、30℃で60分間、kinase-dead型(KD)もしくは野生型(WT)のAMPK-cFlagタンパク質とともにインキュベートし、Nanosep 10K Device(Pall Life Science)を使用して、0.1% SDSを含むPBSで限外ろ過を行った。各画分の試料についてSDS-PAGEを行いオートラジオグラフィー(AR)によって視覚化した。
【0064】
結果を図1bに示す。画分24〜27、約170 kDaのポリペプチドにおいて、32PがWT AMPK処理された試料に確認された。
【0065】
(2)上述のようにして得た放射性標識された試料を、0.3% TFA(トリフルオロ酢酸)、0.1% OG(n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド)および20%アセトニトリル中に調製し、カラムバッファーBで予め平衡に保たれた5Ph-AR-300(4.6×250 mm(Nacalai Tesque))逆相HPLCカラムに負荷した。なおカラムバッファーBは0.1% TFAおよび0.1% OGからなる。カラムバッファーBで洗浄した後、タンパク質を0.5 ml/minの流量でアセトニトリル 30〜50%/60 minの直線濃度勾配(図2a参照)により溶出した。各画分についてSDS-PAGEを行い、銀染色法(SS)およびオートラジオグラフィー(AR)により、視覚化した。
【0066】
図2bに示すとおり、放射性同位体標識を持つ単一のバンドを得ることができた。
【0067】
(実施例3)AMPKの基質の確認
(1)スケールアップして、[γ-32P]ATPの代わりに放射性同位体標識のないATPを使用して、実施例1および2と同様の手順を行った。放射性同位体標識バンドと一致するバンドをゲルから切出し、MALDI-Qq-TOF MS/MSを使用して分析を行った。
【0068】
その結果、実施例2にて特定された単一バンドのポリペプチドを、Cytoplasmic Linker Protein of 170kDa(CLIP-170)と同定した。
【0069】
(2)CLIP-170-cFlagまたはCLIP-170-nFlagと、kinase-dead型(KD)、野生型(WT)、または内因性AMPKタンパク質(ラット肝臓由来)(Upstate, Lake Placid, NY)とを用いて、実施例2(2)と同様にしてAMPK活性についてアッセイを行った。各反応後の試料について、SDS-PAGEを行いオートラジオグラフィー(AR)によって視覚化した。
【0070】
結果を図3に示す。組み換えAMPK(WT)と内因性AMPK(E)のいずれも、組み換えCLIP-170をリン酸化することが確認された。
【0071】
(実施例4)CLIP-170中のAMPKリン酸化部位の特定
(1)リン酸化アミノ酸の分析
CLIP-170-cFlagを[γ-32P]ATPの存在下でAMPK-cFlagとともにインキュベートした。反応物をSDS-PAGEによって分離し、クマシーブリリアントブルー(CBB)により染色し、ARにより視覚化した。放射性同位体により標識されたバンドをゲルから切り出し、トリプシンにより消化した。その後試料を完全に乾燥させ、リン酸化アミノ酸標準を含む5% TFAおよび50% アセトニトリルの中に再懸濁し、薄層セルロースプレート上にスポットした。電気泳動では、pH 1.9のバッファー(0.22%ギ酸および7.8%酢酸)を1次元目に使用し、pH 3.5 バッファー(5%酢酸、0.5%ピリジンおよび0.5mM EDTA)を2次元目に使用した。その後、リン酸化アミノ酸標準をニンヒドリンで染色した。またプレートをARによって分析した。
【0072】
結果を図4に示す。AMPKがCLIP-170のセリン残基をリン酸化することがわかった。
【0073】
(2)CLIP-170変異体を用いたAMPK活性のアッセイ
WT-CLIP-170、S311A CLIP-170、S737A CLIP-170、またはWT CLIP-115と、kinase-dead型(KD)または野生型(WT)のAMPKを用いて、実施例2(2)と同様にしてAMPK活性についてアッセイを行った。各反応後の試料について、SDS-PAGEを行いオートラジオグラフィー(AR)によって視覚化した。
【0074】
結果を図5と図6に示す。CLIP-115(CLIP-170に良く似た分子)は、AMPKによりリン酸化されなかった。また、変異型S311A CLIP-170はリン酸化されず、WT CLIP-170はAMPKによってリン酸化された。哺乳類細胞によって作製したCLIP-170(図5)を使用しても、大腸菌によって作製したCLIP-170(図6)を使用しても同様の結果が得られた。CLIP-170の311番目のセリンがAMPKによる直接のリン酸化部位であることがわかった。
【0075】
(実施例5) 抗体の作製
抗原としてCLIP-170の部分ポリペプチド: SLKRSPSASSLS(下線のセリンがリン酸化されている)を使用して常法に従い、リン酸化CLIP-170を認識する抗体(抗p-CLIP-170抗体)のポリクローナル抗体を作製した。得られた抗体の特異性、感度を確認するために、以下の実験を行った。
実施例4(2)にて使用した試料を用いて、取得した抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。また、Vero細胞を溶解バッファーC(50 mMトリス-HCl pH 7.5、0.01% Brij 35、0.1M NaCl、0.1 mM EGTA、2 mM DTT、2 mM MnCl2、プロテアーゼ阻害剤カクテル、50 mMβ-グリセロリン酸塩、25 mM NaFおよび1 mM Na3VO4)を用いて溶解し、4℃で15分間攪拌して遠心分離をした上清についても、取得した抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。遠心分離後、上清に、20unit/μl λプロテインホスファターゼ(New England Biolabs, Inc., Beverly, MA)あるいは0.5のmM EDTAを添加して、30分間30℃で培養することにより、ホスファターゼ処理を行い、ホスファターゼ処理後の試料についても、取得した抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。
【0076】
結果を図7および8に示す。全細胞溶解物についてウエスタンブロッティングをした場合でも、抗p-CLIP-170抗体は特異的にリン酸化CLIP-170を検出した。またホスファターゼ処理した場合には、当該抗体の結合は見られなかった。
【0077】
(実施例6)AMPK阻害によるCLIP-170リン酸化への影響の確認
(1)Fukataら(Cell 109, 873-885 (2002))の記載に従って、安定してCLIP-170-EGFPを発現するVero細胞を作製した。Vero細胞を、一定の湿度、5% CO2雰囲気下、37℃で、10%ウシ胎仔血清(Equitech-Bio, Kerrville, TX)補充Dulbecco's modified Eagle培地(Sigma-Aldrich)で維持した。目的のVero細胞を1.5 mg/ml Geneticin存在下で選択した。得られた組み換えVero細胞を15時間血清飢餓状態とし、10分間、20μM Compound C(AMPK阻害剤:Calbiochem, San Diego, CA)または、30分間、1 mM AICAR(AMPK促進剤:5-aminoimidazole-4-carboxyamide ribonucleosid; Cell Signaling Technology, Danvers, MA)と共にインキュベートした。その後、溶解バッファーAで溶解し、15分間、4℃で攪拌した。遠心分離後、上清についてSDS-PAGEを行い、CLIP-170、ACC、AMPKのリン酸化について、ウエスタンブロッティングを行った。
【0078】
結果を、図9aに示す。Compound C(AMPK阻害剤)は、CLIP-170のリン酸化を減少させた。一方AICAR(AMPK促進剤)はCLIP-170のリン酸化に影響を与えなかった。なお、コントロールであるアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)のリン酸化は、Compound CおよびAICARのいずれによっても影響を受けた。
【0079】
(2)AMPKをノックダウンするために、組み換えVero細胞をLipofectamine 2000試薬を使用して製品プロトコルに従ってAMPKα1(センス;aggagagcuauuugauuaTT(配列番号14)、アンチセンス;uaaucaaauagcucuccucTT(配列番号15))およびAMPKα2(センス;cuguuugguguagguaaaTT(配列番号16)、アンチセンス;uuuaccuacaccaaacagcTT(配列番号17))(B-Bridge International, Inc., Mountain View, CA)の両方を標的とするターゲットsiRNAs 50 nmol/lでトランスフェクトした。ネガティブコントロールとして、siControl(B-Bridge International, Inc.)を使用した。siRNAとの40時間インキュベートした後、実施例5(1)の方法と同様にしてVero細胞を溶解し、解析を行った。
【0080】
結果を、図9bに示す。AMPKのα1もしくはα2サブユニットのいずれかに特異的なsiRNAは、CLIP-170のリン酸化を抑制した。AMPKが生体内のCLIP-170の311番目のセリンを構成的にリン酸化していることが示唆された。
【0081】
(実施例7)CLIP-170の局在と微小管伸長の確認
Vero細胞を15時間、血清飢餓状態とし、10分間、20μM Compound C(AMPK阻害剤)またはコントロールの0.2% DMSOと共にインキュベートした。これらのVero細胞を、コラーゲンコートした35 mmガラスディッシュ上に播種し、温PBSにより一旦洗浄し、-20℃で10分間、100%メタノールで固定し、その後室温(RT)で、5分間、1%パラホルムアルデヒドにより固定した。次に細胞を室温、5分間、0.01%トリトンX-100を含むPBSにより透過性にし、抗CLIP-170C抗体または抗p-CLIP-170抗体、抗αチューブリン抗体で1時間、免疫染色を行った。二次反応については、アレクサ488または568で標識した2次抗体を使用した。EGFP、アレクサ488、アレクサ568の蛍光画像を、PLAPO 100X油浸対物レンズ(オリンパス株式会社)を使用して、冷却CCD CoolSNAP-HQカメラ(Roper Scientific, Tucson, AZ)を備えたOlympus IX-81倒立型蛍光顕微鏡で記録した。
【0082】
結果を図10に示す。図10aはDMSOで処理した場合、図10bはCompound Cで処理した場合の写真である。図10a,bのいずれも、上段は抗CLIP-170C抗体による染色、下段は抗p-CLIP-170抗体による染色を示す。αチューブリン抗体を用いた免疫染色により、内因性CLIP-170は微小管の端部に局在し、微小管先端でリン酸化されていることがわかった。また、WT CLIP-170-EGFPを確認したところ、内因性CLIP-170と重複していた。ほとんどのCLIP-170分子がリン酸化されていることがわかった。AMPKがCompound Cにより阻害された場合、リン酸化されていないCLIP-170が長時間、微小管端部に蓄積することがわかった。
【0083】
図11に、Compound C 処理前(pre)または処理後(post)の写真、およびコメット移動速度とコメットの伸長速度の結果を示す。CLIP-170は微小管の端部に蓄積し、セントロメアから細胞縁部にコメットのように移動した。コメットの移動速度は微小管伸長速度と一致する。Compound CによるAMPK活性の阻害は、コントロールと比較して、コメットを長くして、CLIP-170が蓄積した部位の移動を遅くした。これらの結果は、AMPK阻害が微小管からのCLIP-170の解離を低減させ、微小管形成を阻害することを示唆するものである。対照的に、AICARによるAMPK活性化はコメットの形態にも速度にも影響を与えなかった(データは示さず)。CLIP-170のAMPKによるリン酸化が微小管ダイナミクスに必須であることが示唆された。
【0084】
(実施例8)AMPK発現阻害とCLIP-170 S311Aの微小管伸長に対する影響の確認
実施例6(2)と同様にして、AMPK siRNAs 50 nmol/lまたはCLIP-170-S311Aのプラスミドでトランスフェクトした。その後、実施例6と同様の方法で、蛍光画像を得た。
【0085】
結果を図12(a:写真、b:コメット移動速度と、コメット伸長速度)に示す。siRNAによるAMPK発現阻害およびS311A CLIP-170-EFGPの強制的発現はいずれも、コメットの移動を遅くして延長させた。この結果から、CLIP-170のリン酸化が微小管からのCLIP-170の解離に必要であることが示唆された。
【0086】
(実施例9)AMPK活性阻害の細胞遊走に対する影響の確認
Vero細胞を、スクラッチの12時間前に、コラーゲンコートした35mmガラスディッシュ上に密度3×104/cm2で播種した。スクラッチ線をピペットの先端で作り、新鮮な培地で一旦洗浄した。スクラッチ部位の観察と、0.2%コントロールDMSOまたは20μM Compound Cの添加を、2時間ごとに行い、培地を4時間ごとに交換した。実施例6と同様の方法で、12時間後に細胞を固定して、抗γチューブリン抗体で免疫染色した。細胞極性分析のため、スクラッチ線近くの100細胞について、細胞核の中心を支点として、細胞核の中心とスクラッチ線を結ぶ線と、細胞核の中心とγチューブリンとを結ぶ線とのなす角度(θ)を測定した。
【0087】
結果を図13に示す。コントロール(DMSO添加)では、スクラッチ後ほとんどの細胞が極性を持ち、スクラッチ線に向かって移動した。しかしながら、Compound C処理は細胞の移動を阻害し(図13a)、ほとんどの細胞について微小管形成中心の再配向を阻害した(図13b)。この結果は、CLIP-170による微小管先端のダイナミクスの調節による細胞移動と細胞極性形成に、AMPKが必要であることを示唆する。
【0088】
(実施例10)CLIP-170-S311Aの細胞遊走に対する影響の確認
Vero細胞を5×104/cm2の密度で、コラーゲンコートした35mmガラスディッシュ上に播種し、Lipofectamine 2000を使用して、WTかS311A CLIP-170-EGFPをトランスフェクトした。24時間後、DICイメージを、ステージ・トップインキュベータシステムONICS、温度・CO2制御ユニットINUG2(東海ヒット社)を備えた、オリンパスIX-81倒立型蛍光顕微鏡で、10分ごとに12時間記録した。細胞軌道の決定は、Time-lapsイメージングにより、MetaMorph 7.1.3.0ソフトウェアを使用して細胞核の中心小体を追跡することにより行った。
【0089】
結果を図14に示す。S311A CLIP-170発現細胞は、遊走および細胞膜伸展が、コントロールに比べて低減していた。
【0090】
(実施例11)CLIP-170 S311Aと抗癌剤の、アクチンおよびパキシリンに対する影響の確認
Vero細胞を5×103/cm2の密度でコラーゲンコートした35mmガラスディッシュ上に播種し、Lipofectamine 2000を使用してWTかS311A CLIP-170-EGFPをトランスフェクトした。翌日にアクチン、パキシリン抗体にて免疫染色した。また、同様に播種したVero細胞に、5μMのPacritaxelまたは10μMのNocodazoleを添加し、1時間後に同様の抗体にて免疫染色した。
【0091】
抗癌剤として使用されている、Pacritaxel(微小管の重合阻害)とNocodazole(微小管の脱重合阻害)と同様に、S311A CLIP-170-EGFPを強制発現したときにも、WT CLIP-170-EGFPと比較して優位にパキシリンの染色面積が大きかった(図15)。このことから、AMPKによるCLIP-170のリン酸化は、微小管先端のダイナミクスを調節し、接着斑のturnoverにも必要であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のスクリーニング方法により、本発明にて新規に見出されたメカニズムである、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を得ることができ、かかる物質は微小管伸長抑制剤として作用し得る。また、本発明の微小管伸長抑制剤は、抗癌剤としても使用することが可能と考えられる。本発明の微小管伸長抑制剤は、従来の微小管伸抑制剤とは異なるメカニズムを標的とするため、他の微小管伸長抑制剤との相加的、相乗的効果が期待され有用である。また、本発明のポリペプチドは、微小管の先端に長くとどまることにより、微小管伸長を抑制するという特有の生化学的作用を有すると考えられ、癌治療等における活用が期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法、および微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む微小管伸長抑制剤、ならびにCLIP-170のAMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異した変異型CLIP-170のポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
微小管は、真核生物の細胞内に存在する線維状の構造体であり、主にチューブリンと呼ばれるタンパク質からなる細胞骨格の一種である。微小管は、α−チューブリンとβ−チューブリンの各1分子が結合したヘテロ2量体を基本単位とする。ヘテロ2量体が繊維状に繋がったものをプロトフィラメントと呼び、通常13本のプロトフィラメントからなる管状構造が微小管である。β−チューブリンが断端に位置する側をプラス端、α−チューブリンが断端に位置する側をマイナス端といい、微小管中心から放射状に伸びている遠位端がプラス端となる。
【0003】
微小管はチューブリンの2量体の付加(重合)により伸長し、解離により短縮される。微小管の伸長と短縮は、微小管のダイナミクスとも呼ばれ、微小管結合タンパク質(MAPs)によって調節されている。微小管結合タンパク質には、微小管を安定化するもの、微小管の脱重合を促進するもの、微小管同士を結合するものなどがある。伸長する微小管のプラス端に濃縮するタンパク質CLIP-170(Cytoplasmic Linker Protein of 170kDa)が微小管のダイナミクスに関連することが示唆されている(非特許文献1)。
【0004】
微小管は、細胞内小器官や細胞膜タンパク質の輸送等に重要な機能を持つと同時に、細胞分裂時に紡錘体をつくり、染色体の移動、細胞周期M期における有糸分裂の制御に関与する。また、微小管の構造に障害を与えることによって細胞増殖、細胞遊走を抑制することができることから、微小管の構造変化に影響する物質が抗癌剤として使用されている。
【0005】
微小管の構造に障害を与える作用には、微小管の重合や脱重合を抑制する作用が含まれる。コルヒチンやビンアルカロイド系の抗癌剤(ビンクリスチンなど)は、微小管の重合を抑制する作用を有する。逆に、タキサン系の抗癌剤(ドセタキセル、パクリタキセル)は微小管の脱重合を阻害し、微小管を極度に安定化する作用を有する。微小管の構造変化に影響するこれらの抗癌剤は、骨髄抑制や、発熱、嘔吐、しびれなどの副作用をきたすため、副作用の少ない抗癌剤の開発が望まれている。
【0006】
AMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)は、細胞エネルギーの恒常性の制御因子として、重要な役割を担う。AMPKの基質としては、代謝系の酵素群が数種同定されており、脂質代謝に関係する酵素ACC(アセチル CoA カルボキシラーゼ)が代表的なものとして挙げられる。AMPKは、細胞エネルギー消費を抑制し、エネルギー産生を促進させると従来より考えられており、肥満、糖尿病、癌などの治療の重要な標的と考えられている。また癌抑制因子として知られるLKB1が、AMPKを介してシグナルを伝達し、細胞の極性を調節することが報告されている(非特許文献2〜5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dragestein, K. A. et al., J Cell Biol 180, 729-737 (2008).
【非特許文献2】Watts, J. L., Morton, D. G., Bestman, J., &Kemphues, K. J., Development 127, 1467-1475 (2000).
【非特許文献3】Martin, S. G. and St Johnston, D., Nature 421, 379-384 (2003).
【非特許文献4】Baas, A. F. et al., Cell 116, 457-466 (2004).
【非特許文献5】Forcet, C. et al., Hum Mol Genet 14, 1283-1292 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規メカニズムに基づき微小管伸長抑制剤をスクリーニングする方法、および、新規微小管伸長抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために、微小管結合タンパク質の1つであるCLIP-170が、AMPKによりリン酸化されることを初めて確認し、かかるリン酸化を指標とすることで、微小管伸長抑制剤をスクリーニングすることが可能であること、および、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異した変異型CLIP-170ポリペプチドが微小管伸長を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.CLIP-170のアミノ酸配列において、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異している変異型CLIP-170のポリペプチドであって、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
2.以下の1)〜3)から選択される、前項1に記載のポリペプチド:
1)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
2)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列から選択される部分アミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド;
3)上記1)または2)に示すポリペプチドをコードするアミノ酸配列において、311番目以外の位置に1〜5個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
3.前記セリンがアラニンに置換している、前項1または2に記載のポリペプチド。
4.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法。
5.AMPKによるCLIP-170のリン酸化が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化である、前項4に記載のスクリーニング方法。
6.以下の工程を含む前項4または5に記載のスクリーニング方法:
(a)AMPKとCLIP-170とを被検物質の存在下で接触させて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を検出する工程;
(b)被検物質の非存在下と比べて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を低減させうる物質を選択する工程。
7.AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出が、AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体を用いて行われる、前項4〜6のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
8.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
9.前項4〜7のいずれか1に記載の方法を用いる、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
10.AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体。
11.前項9に記載の抗体を少なくとも含む、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質をスクリーニングするためのキット。
12.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む、微小管伸長抑制剤。
13.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化を阻害する物質である、前項12に記載の微小管伸長抑制剤。
14.AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)-フェニル)]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ[1,5-a]-ピリミジンである、前項12または13に記載の微小管伸長抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明にて新規に見出されたメカニズムである、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を、本発明のスクリーニング方法により得ることができる。かかる物質は微小管伸長抑制剤として作用し得る。本発明の新規微小管伸長抑制剤は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を効果的に阻害することにより、微小管伸長を効率よく抑制することができ、抗癌剤として使用し得る。また本発明のポリペプチドは、微小管の先端に長くとどまることにより、微小管伸長を抑制する効果を有し、癌治療に使用し得ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】AMPKの基質についてのスクリーニング結果を示す図である。(実施例2)
【図2】AMPKの基質についての、さらなるスクリーニング結果を示す図である。(実施例2)
【図3】AMPKの基質がCLIP-170であることを確認する結果を示す図である。(実施例3)
【図4】AMPKによりリン酸化されたアミノ酸についての解析結果を示す図である。(実施例4)
【図5】AMPKによるCLIP-170におけるリン酸化標的部位の確認結果を示す図である(Flag融合タンパク質を使用)。(実施例4)
【図6】MPKによるCLIP-170におけるリン酸化標的部位の確認結果を示す図である(GST融合タンパク質を使用)。(実施例4)
【図7】リン酸化CLIP-170を認識する抗体を用いたウエスタンブロットを示す図である。(実施例5)
【図8】ホスファターゼ処理した試料に対して、リン酸化CLIP-170を認識する抗体を用いたウエスタンブロットを示す図である。(実施例5)
【図9】AMPKによるCLIP-170のリン酸化に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例6)
【図10】CLIP-170の局在、およびCLIP-170の局在に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例7)
【図11】微小管伸長に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例7)
【図12】微小管伸長に対するAMPK siRNAおよびCLIP-170 S311Aの影響を示す図である。(実施例8)
【図13】細胞遊走に対するAMPK活性阻害の影響を示す図である。(実施例9)
【図14】細胞遊走に対するCLIP-170 S311Aの影響を示す図である。(実施例10)
【図15】アクチン(Actin)およびパキシリン(Paxillin)に対するCLIP-170 S311Aの影響と他の抗癌剤の影響を比較する図である。(実施例11)
【図16】AMPKの標的となるペプチドモチーフ、およびCLIP-170部分ポリペプチドの種差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、微小管結合タンパク質の1つであるCLIP-170が、AMPKの基質として作用してリン酸化されることを確認し、さらにはCLIP-170においてAMPKによりリン酸化されるアミノ酸を特定したことに基づく。
【0014】
CLIP-170(Cytoplasmic Linker Protein of 170kDa)は、CLIP1(CAP-GLY domein containing linker protein 1)とも呼ばれ、伸長している微小管の新しく重合された伸長端に特異的に結合して集積し、古い微小管からは迅速に解離することが知られている。かかる動態を示す分子は微小管プラス端集積因子(+TIP)と呼ばれ、CLIP-170のほかに、MAST/Orbit、ダイニン(dynin)、EB1、APC等が含まれる。本発明におけるCLIP-170は全長タンパク質が約170kDaであり、微小管プラス端集積因子(+TIP)として機能するものである。
【0015】
微小管プラス端集積因子(+TIP)の機能は、Perez F, et al., Cell 96(4) 517-527 (1999)に開示された手法を参照して確認することができる。具体的には、GFP-CLIP170融合タンパク質(EGFP-CLIP-170融合タンパク質であってもよい)を用いて、アフリカミドリザルのライン化した腎細胞(Vero細胞)にて、当該融合タンパク質の挙動を解析することにより、確認することができる。
【0016】
本発明におけるCLIP-170は、マウス由来のもの(GenBank Accession No. BC007191:配列番号1)、ラット由来のもの(GenBank Accession No. NM_031745.2)、ヒト由来のもの(GenBank Accession No. NM_002956.2、NM_198240.1)、ウシ由来のもの(GenBank Accession No. XP_614458)、イヌ由来のもの(GenBank Accession No. XP_859560)、ニワトリ由来のもの(GenBank Accession No. NP_990273)、アフリカツメガエル由来のもの(GenBank Accession No. NP_001081970)、メダカ由来のもの(GenBank Accession No. NM NP_001098196)、ゼブラフィッシュ由来のもの(GenBank Accession No. XP_686943)などが例示されるが、マウス由来のもの、ラット由来のもの、またはヒト由来のものが好ましい。
【0017】
好ましくは、本発明におけるCLIP-170は以下の(i)〜(iv)より選択されるいずれか1のポリペプチドである:(i) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;(ii) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ微小管プラス端集積因子(+TIP)として機能するポリペプチド;(iii) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と40%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ微小管プラス端集積因子(+TIP)として機能するポリペプチド;(iv) 上記(i)〜(iii)のポリペプチドの部分ポリペプチドであって、CLIP-170におけるAMPKによりリン酸化されるアミノ酸を少なくとも含む部分ポリペプチド。
【0018】
本明細書における「ポリペプチド」は、複数個のアミノ酸がペプチド結合してなるものであり、タンパク質と同義に用いる場合もある。
【0019】
本発明において、CLIP-170におけるAMPKによりリン酸化されるアミノ酸は、配列番号1(マウスCLIP-170)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸である。本発明において、CLIP-170におけるAMPKによりリン酸化されるアミノ酸は、配列番号1(マウスCLIP-170)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸であればよく、アミノ酸の位置は限定的なものではない。配列番号1(マウスCLIP-170)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸は、例えば、ヒトCLIP-170では312番目のセリン、ゼブラフィッシュCLIP-170では283番目のセリンである(図16参照)。配列番号1における311番目のセリン近傍のアミノ酸配列は、様々な種の動物間で高い保存性を有するため、AMPKによるCLIP-170のリン酸化のメカニズムには、種差がないと考えられる。
【0020】
AMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)は、細胞内エネルギー量の低下(AMP/ATP比の上昇)を感知して活性化される、セリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素であり、筋肉や肝臓などの生体内に広く存在する。本発明におけるAMPKは、CLIP-170リン酸化機能を有するAMPKであればいかなるものであってもよい。本発明においてAMPKによるCLIP-170リン酸化は、マウスCLIP-170(配列番号1)のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸をリン酸化することをいう。
【0021】
CLIP-170リン酸化は、例えば、放射性同位体標識したATP、例えば[γ-32P]ATPを用いてAMPKによるCLIP-170のリン酸化反応を行った際に、CLIP-170において[γ-32P]の放射活性が検出されること、または、AMPKによるCLIP-170のリン酸化反応を行った際、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いたウエスタンブロッティング等により当該抗体の結合が検出されることにより確認することができる。
【0022】
本発明におけるAMPKは、マウス由来のもの、ラット由来のもの、ヒト由来のものなどが例示される。AMPKはヒト由来のものが好ましいが、以下の(i)〜(iv)より選択されるいずれか1のポリペプチドであってもよい:(i) 配列番号2(ラット由来:GenBank Accession No. NM_019142)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;(ii) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつCLIP-170リン酸化機能を有するポリペプチド;(iii) 配列番号2で表されるアミノ酸配列と40%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつCLIP-170リン酸化機能を有するポリペプチド;(iv) 上記(i)〜(iii)のポリペプチドの部分ポリペプチドであり、かつCLIP-170リン酸化機能を有する部分ポリペプチド。
【0023】
本発明におけるCLIP-170またはAMPKは、他のポリペプチドと融合したCLIP-170またはAMPKを含む。他のポリペプチドはCLIP-170またはAMPKの機能に影響を与えないポリペプチドであればよく、例えばFLAG、GSTなどが挙げられる。
【0024】
本発明のAMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法では、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする。好ましくはAMPKによるCLIP-170のリン酸化は、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸のリン酸化である。
【0025】
本発明のスクリーニング方法では、AMPKとCLIP-170を被検物質の存在下で接触させ、次いでAMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を検出し、リン酸化活性が被検物質の非存在下のものと比べて低減している物質を、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質として選択する。
【0026】
前記スクリーニング方法には、in vitroアッセイ系およびin vivoアッセイ系のいずれを用いてもよい。in vitroアッセイ系を用いる場合、AMPKによるCLIP-170リン酸化をより効果的に阻害する物質をスクリーニングすることができるという利点がある。in vivoアッセイ系の場合を用いる場合、被検物質の生理的な影響を同時に確認してスクリーニングすることができるという利点がある。
【0027】
in vitroアッセイ系を用いたスクリーニング方法は、in vitroでAMPKとCLIP-170を被検物質の存在下で接触させる工程と、AMPKによるCLIP-170リン酸化活性を検出する工程を含むものであればいかなるものであってもよい。例えば、CLIP-170を支持体に結合させ、支持体にAMPKと被検物質を加えて、インキュベートした後に、洗浄して、CLIP-170のリン酸化活性を検出する方法や、支持体を用いずに溶媒中に、AMPK、CLIP-170、および被検物質を存在させてインキュベートした後に、CLIP-170のリン酸化活性を検出する方法が挙げられる。
【0028】
AMPKまたはCLIP-170は、AMPKおよび/もしくはCLIP-170を天然に発現する細胞もしくは組織、AMPKおよび/もしくはCLIP-170をコードするDNAを導入した細胞、動物もしくは植物から産生されるタンパク質を精製した状態または粗精製の状態で使用してもよいし、市販のものを使用してもよい。例えば、AMPKはUpstate社製のものを購入して使用してもよい。
【0029】
AMPKとCLIP-170のリン酸化反応の溶媒としては、緩衝液を用いればよく、緩衝液としては例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられる。緩衝液には、リン酸化反応のために、AMPおよびATPを適宜添加する必要がある。また、リン酸化反応のためのインキュベート条件としては、リン酸化反応が起こり得る条件を適宜設定可能であるが、例えば、4℃〜40℃にて、10分間〜12時間のインキュベーションが挙げられる。
【0030】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出は、放射性同位体標識したATP、例えば[γ-32P]ATPを用いてリン酸化反応を行い、CLIP-170に転移した[γ-32P]の放射活性を測定することにより検出してもよいし、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いてウエスタンブロッティング等を用いて免疫学的に検出してもよい。
【0031】
リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体は、リン酸化CLIP-170に結合し、リン酸化されていないCLIP-170に結合しない抗体を意味し、AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体である。リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体は、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されたCLIP-170に結合し、当該アミノ酸がリン酸化されていないCLIP-170に結合しない抗体、すなわち配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸のリン酸化を特異的に認識する抗体である。かかる抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体や、標識化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体ならびにこれらの結合活性断片などであってもよい。
【0032】
配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸のリン酸化を特異的に認識するポリクローナル抗体は、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されているCLIP-170もしくはその部分ポリペプチド、好ましくは部分ポリペプチド「SLKRSPSASSLS」(下線のセリンがリン酸化されている:配列番号3)を抗原として使用して、公知の方法により、作製すればよい。例えば、通常の免疫方法に従って、前記抗原によりマウスなどの動物を免疫し、該動物から血液を採取して、血清を得ればよい。当該血清に、配列番号1の311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されたCLIP-170に結合し、当該セリンがリン酸化されていないCLIP-170に結合しない特性を有する抗体が含まれていればよい。
【0033】
目的の抗体に関する特性の確認は、後述する実施例4の手法を参照して行うことができる。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸がリン酸化されたCLIP-170ポリペプチド、および、当該アミノ酸がリン酸化されていないCLIP-170ポリペプチドに対して、抗体を用いてウエスタンブロッティングを行い、抗体の結合性の確認を行えばよい。CLIP-170ポリペプチドは、全長タンパク質であっても、部分ポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸を含むものであればよい。CLIP-170ポリペプチドとしては、例えば配列番号1の1〜331番目のアミノ酸配列からなり、311番目のセリンがリン酸化されているものと、リン酸化されていないものとを用いることができる。
【0034】
上記のポリペプチドに加えて、野生型CLIP-115(例えばGenBank Accession No. NM_009990)の1〜339番目のアミノ酸配列を有するポリペプチド、野生型CLIP-170において配列番号1の311番目のセリンに相当するアミノ酸を含まないポリペプチド(例えば、配列番号1の340〜1012番目のアミノ酸配列を有するポリペプチド)、配列番号1の311番目のセリンに相当するアミノ酸がアラニンやアスパラギン酸に置換している変異型CLIP-170ポリペプチドなどに対する、抗体の結合性を確認して抗体の特性を確認することもできる。目的の抗体は、これらのペプチドには実質的に結合性を示さないことが、特異度の点から好ましい。
【0035】
in vivoアッセイ系を用いたスクリーニング方法では、AMPKおよびCLIP-170を発現する生体に、被検物質を接触させる工程と、AMPKによるCLIP-170リン酸化活性を検出する工程を含むものであればいかなるものであってもよい。AMPKおよびCLIP-170を発現する生体は、AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞、AMPKおよびCLIP-170を発現する動物などが例示される。AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞を用いてスクリーニングする場合は、被検物質への接触は、被検物質を細胞内に導入することによって行ってもよい。
【0036】
AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞は、AMPKおよびCLIP-170を天然に発現する細胞を用いてもよいし、AMPKおよび/またはCLIP-170を天然には発現しない細胞に、AMPKおよび/またはCLIP-170をコードするDNAを導入することによって作製した細胞を用いてもよい。導入する方法は自体公知の方法を用いればよい。AMPKおよび/またはCLIP-170の遺伝子を導入するための宿主細胞は、本発明のスクリーニング方法を実行可能であればいかなるものであってもよいが、例えばVero細胞が挙げられる。
【0037】
遺伝子工学的にAMPKおよび/またはCLIP-170を導入した細胞を作製する際、AMPKおよび/またはCLIP-170に、他のポリペプチド(例えばFLAG、GST)を融合させたものをコードするDNAを導入してもよい。導入したポリペプチドの発現の確認は、自体公知の手法により、タンパク質レベルおよび/またはmRNAレベルで行うことにより可能である。
【0038】
AMPKおよびCLIP-170を発現する細胞の培養は、自体公知の培養液中でインキュベートを行えばよい。培養液は、用いる細胞に応じて選択すればよいが、例えばVero細胞を培養する際には、10%ウシ胎仔血清(Equitech-Bio, Kerrville, TX)補充Dulbecco's modified Eagle培地(Sigma-Aldrich)を用ることができる。また培養条件は、リン酸化反応が起こり得る条件を適宜設定可能であるが、例えば、4℃〜40℃にて、1時間〜24時間のインキュベーションが挙げられる。
【0039】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出は、in vitroアッセイ系と同様に行えばよい。放射性同位体標識したATPを用いる手段とリン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いる手段があり、細胞を溶解せずにそのまま検出することも可能であるが、細胞を溶解して検出することも可能である。
【0040】
放射性同位体標識したATPを用いる手段では、細胞を溶解して、電気泳動を行ってタンパク質を分離し、オートラジオグラフィーにより、放射活性を検出することが好ましい。
リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を用いる手段では、細胞を溶解してウエスタンブロッティングを行う、または、細胞を溶解せず、蛍光標識された抗体などを用いて、in vivo蛍光イメージング装置などにより検出を行うことができる。
【0041】
本発明は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニングをするためのキットにも及ぶ。当該キットは、AMPKとCLIP-170、または、AMPKとCLIP-170とを発現する細胞を含む。また当該キットは、CLIP-170のリン酸化を検出するための物質、例えば、[γ-32P]ATPや、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を含むが、リン酸化CLIP-170を特異的に認識する抗体を含むことが好ましい。さらに当該キットは、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤等の試薬、および、試験に必要な器具やコントロール等を含むことができる。
【0042】
また本発明は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、微小管伸長抑制剤をスクリーニングする方法にも及ぶ。本発明のAMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法およびスクリーニングキットは、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法およびスクリーニングキットとして使用することが可能である。
【0043】
本発明はさらに、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む、微小管伸長抑制剤にも及ぶ。当該AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質は、本発明のスクリーニング方法によって新規に見出された物質をも含む。AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質は、好ましくは、6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)-フェニル)]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ [1,5-a]-ピリミジンであり、かかる化合物は「Compound C」として市販されている(Calbiochem社製, San Diego, CA)。
【0044】
本発明の微小管伸長抑制剤は、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する機能を有する。本発明の微小管伸長抑制剤は、かかるCLIP-170リン酸化阻害により、リン酸化されていないCLIP-170を微小管先端に長時間集積させる。微小管の重合には、CLIP-170の微小管先端からの解離が必要である。本発明の微小管伸長抑制剤は、CLIP-170の微小管からの解離を抑制することにより、微小管伸長抑制機能を発揮するものと考えられる。
【0045】
また本発明の微小管伸長抑制剤は、微小管形成中心(microtubule organizing center;MTOC)の再配向を阻害して、細胞の極性化に影響を与え、細胞の遊走を阻害する機能を有する。
【0046】
さらに本発明は、CLIP-170のアミノ酸配列において、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異している変異型CLIP-170のポリペプチドであって、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチドにも及ぶ。AMPKによりリン酸化されるアミノ酸は、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸である。かかる変異型CLIP-170のポリペプチドは、AMPKによるリン酸化をうけない分子である。
【0047】
前記変異型CLIP-170のポリペプチドは、好ましくは以下の1)〜3)から選択される:
1)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
2)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列から選択される部分アミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド;
3)上記1)または2)に示すアミノ酸配列において、311番目以外の位置に1〜5個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
【0048】
本発明のポリペプチドにおいて、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸はいかなるアミノ酸に置換されていてもよく、当該ポリペプチドが微小管伸長を抑制する機能を有するものであればよい。また、配列番号1のアミノ酸配列における311番目のセリンに相当するアミノ酸は、アラニンに置換されていることが好ましい。
【0049】
野生型CLIP-170は微小管の先端にコメット状に濃縮するのに対して、本発明の変異型CLIP-170ポリペプチドは、尾部が長いコメット状で微小管に存在する。また変異型CLIP-170ポリペプチドは、コメットの移動を遅くする。変異型CLIP-170ポリペプチドは、微小管の先端に長時間とどまることにより、効率の良い微小管の重合を阻害しているものと考えられる。
【0050】
また、本発明の変異型CLIP-170ポリペプチドは、細胞の遊走を阻害する機能を有するが、これは微小管伸長を抑制して、細胞の極性化に影響を与えることによるものと考えられる。
【0051】
本発明の変異型CLIP-170ポリペプチドは、当該ポチペプチドがトランスフェクトされた細胞が数日間生存することから、細胞の生存に対してはあまり影響を与えておらず、生体に対する副作用が低いものと考えられる。
【0052】
本発明のポリペプチドの特徴である微小管伸長を抑制する機能は、例えばVero細胞にEGFPの融合した変異型CLIP-170のポリペプチドを導入し、EGFPの蛍光によりコメットの挙動を観察して確認することができる。野生型CLIP-170を導入した場合に比べて、コメットの移動速度が遅い場合には、当該ポリペプチドが微小管伸長を抑制する機能を有するといえる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0054】
なお以下の実施例での統計的処理としては、データを平均値±s.e.mとして算出し、2群間の比較についてはt検定を用い、3以上の多群間の比較については、one-way ANOVA法を行った後、JMP 6.0.3 softwar(SAS Institute Inc., Cary, NC)によりDunnett法を行い、Post hoc多重比較検定を行った。P<0.05を統計的有意とした。
【0055】
(実施例1) タンパク質もしくはポリペプチドの調製
(1)実施例にて用いるタンパク質もしくはポリペプチドを作製するためのプラスミド:
以下の各タンパク質もしくはポリペプチドをコードするcDNA断片を、ラットまたはマウス心臓のcDNAライブラリからPCR法を用いて増幅した。
・ラットAMPKα1 (GenBank Accession No. NM_019142)
・マウスCLIP-170 (GenBank Accession No. BC007191)の全長タンパク質
・マウスCLIP-170 (GenBank Accession No. BC007191)の1〜311番目のアミノ酸配列を有する部分ポリペプチド
・マウスCLIP-115 (GenBank Accession No. NM_009990)の全長タンパク質
・マウスCLIP-115 (GenBank Accession No. NM_009990)の1〜399番目のアミノ酸配列を有する部分ポリペプチド
・マウスCLIP-115 (GenBank Accession No. NM_009990)の340〜1012番目のアミノ酸配列を有する部分ポリペプチド
その後、各増幅断片を、pENTR/D-TOPOベクターにGateway Technology(Invitrogen)を用いて挿入した。それぞれベクターをpENTR-WT AMPKα1, pENTR-WT CLIP-170, pENTR-WT CLIP-170 1-331, pENTR-WT CLIP-115, pENTR-WT CLIP-115 1-339, and pENTR-WT CLIP-115 340-1012と称する。
【0056】
また、kinase dead型(キナーゼ活性を持たない変異体:KD)のAMPKα1として、Thr172Ala突然変異体を、pENTR-WT AMPKα1を鋳型として以下のプライマーを使用してPCR法により作製した。プライマーの塩基配列中の下線部は、変異部位を示す。
5'-TTTTTAAGAGCTAGCTGTGGCTCGCC-3'(配列番号4)
5'-GCCACAGCTAGCTCTTAAAAATTCAC-3'(配列番号5)
【0057】
変異型CLIP-170であるS311A CLIP-170(311番目のセリンをアラニンに置換)およびS737A CLIP-170(737番目のセリンをアラニンに置換)を、pENTR-WT CLIP-170を鋳型として以下のプライマーを使用してPCR法により作製した。プライマーの塩基配列中の下線部は、変異部位を示す。
5'-CGAAGCCCTGCTGCCTCCTCCCTCAGCTCCATGAGC-3'(配列番号6)
5'-GGAGGAGGCAGCAGGGCTTCGCTTCAGGCTGGCGGGCG-3'(配列番号7)
5'-AAAGCCAATGCCGAAGGTAAACTGGAGCTCGAGACACTTA-3'(配列番号8)
5'-TTTACCTTCGGCATTGGCTTTCCGAAGCGCATCAAGATCC-3'(配列番号9)
【0058】
Flagタグの付いたタンパク質を作製するために、pENTR-WT AMPKα1、pENTR-KD AMPKα1、pENTR-WT CLIP-170およびpENTR-S311A CLIP-170およびpENTR-S737A CLIP-170およびpENTR-WT CLIP-115を、Gateway systemを使用して、pEF-DEST51/cFlagベクター(以下それぞれpEF-DEST51-WT AMPKα1、pEF-DEST51-KD AMPKα1、pEF-DEST51-WT CLIP-170、pEF-DEST51-S311A CLIP-170、pEF-DEST51-S737A CLIP-170、pEF-DEST51-WT CLIP-115と称する)、またはpcDNA3.1/nFlag-DESTベクター(pcDNA3.1-WT CLIP-170と称する)にサブクローン化した。
【0059】
GST融合蛋白質を作製するために、pENTR-WT CLIP-170 1-331、pENTR-WT CLIP-115 1-339およびpENTR-WT CLIP-115 340-1012を、Gateway systemを使用して、pDEST15ベクター(以下それぞれpDEST15-WT CLIP-170 1-331、pDEST15-WT CLIP-115 1-339およびpDEST15-WT CLIP-115 340-1012と称する)にサブクローン化した。
【0060】
CLIP-170-EGFPコンストラクトはFukataら(Cell 109, 873-885 (2002))に記載の方法に従って作製した。
Ser311がAla(アラニン)またはAsp(アスパラギン酸)により置換されたCLIP-170の突然変異体は、鋳型としてCLIP-170-pEGFPと以下のプライマーを使用して、PCR法により作製した(Ala:配列番号10および11、Asp:配列番号12および13)。
5'-CGCAGCCCTGCTGCCTCTTCCCTCAGCTCCATGAGC-3'(配列番号10)
5'-GGAAGAGGCAGCAGGGCTGCGCTTCAGGCTGGCGGACG-3'(配列番号11)
5'-CGCAGCCCTGATGCCTCTTCCCTCAGCTCCATGAGC-3'(配列番号12)
5'-GGAAGAGGCATCAGGGCTGCGCTTCAGGCTGGCGGACG-3'(配列番号13)
【0061】
(2)組換えタンパク質の精製
Flag融合タンパク質の精製:上記プラスミドでトランスフェクトした293T細胞を、溶解バッファーA(20 mM MOPS、10%グリセロール、0.15 M NaCl、1% CHAPS、1 mM EDTA、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Nacalai Tesque)、50 mMβ-グリセロ燐酸塩、25 mM NaFおよび1 mM Na3VO4、pH 7.4)中で溶解し、4℃で1時間、抗Flag M2アガロース(シグマ)により免疫沈降を行った。ビーズを溶解バッファーAで3回洗浄し、4℃にて1時間、溶出バッファー(20 mMトリス-HCl pH 7.4、10%グリセロール、0.3 mM NaCl、0.1% CHAPS、0.5mg/ml Flagペプチド(シグマ)および1 mM DTT)で溶出した。遠心分離後、上清を組み換えFlag融合タンパク質として使用した。
GST融合タンパク質の精製:上記プラスミドでトランスフェクトしたBL21-AI chemically competent E. coli(Invitrogen)を、20℃で12時間、0.02% L-アラビノースを用いて誘導した。遠心分離して細胞を集め、5mM EDTAおよびプロテアーゼ阻害剤カクテルを含むリン酸塩緩衝食塩水(PBS)にて超音波処理により溶解した。1% トリトンX-100を添加した後、細胞溶解物を4℃で30分間攪拌し、4℃で1.5時間、グルタチオン・セファロース 4 Fast Flow(GE Healthcare UK Ltd., Littele Chalfont, Buckighamshire, England)により吸着させた。3回洗浄後、タンパク質を10 mM 還元グルタチオンで溶出し、Nanosep 10K Device(Pall Life Science, Ann Arbor, MI)を使用して、溶離バッファー中で限外濾過を行った。
【0062】
(実施例2)AMPKの基質のスクリーニング
(1)組織からのタンパク質粗精製
C57BL/6Jマウス(雌)の心臓を、Polytronホモジナイザー(Kinematica, Bohemia, NY)を使用して、溶解バッファーB(20 mM MOPS pH 7.4、10%グリセロール、0.1% CHAPS、2 mM EDTA、1 mM DTT、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル)中で磨砕した。磨砕後、終濃度1%になるようCHAPSを加えた。また、ホモジネートは15分間攪拌しながら4℃でインキュベートし、その後10,000×gで30分間、遠心分離を行った。上清をろ過し、カラムバッファーAにより予め平衡に保たれたTSK-GEL SuperQ5PW(7.5×75 mm、TOSOH)陰イオン交換カラム上に負荷した。なおカラムバッファーAは、20 mM MOPS(pH 7.4)、10%グリセロールおよび2 mM EDTAからなる。カラムバッファーAで洗浄した後、タンパク質を0.5 ml/minの流量でNaCl 0〜1 M/60 minの直線濃度勾配(図1a参照)により溶出した。各0.5mlで画分を回収した。各画分の一部50μlをin vtro AMPK活性のアッセイに用いた。
【0063】
(2)in vitro AMPK活性のアッセイ
AMPK活性のアッセイのためのタンパク質試料を65℃で20分間予め熱し、0.2 mM AMP、0.8 mM MgCl2、10 mCi/ml [γ-32P]ATP(GE Healthcare Bio-Science Corp., Piscataway, NJ)の存在下で、30℃で60分間、kinase-dead型(KD)もしくは野生型(WT)のAMPK-cFlagタンパク質とともにインキュベートし、Nanosep 10K Device(Pall Life Science)を使用して、0.1% SDSを含むPBSで限外ろ過を行った。各画分の試料についてSDS-PAGEを行いオートラジオグラフィー(AR)によって視覚化した。
【0064】
結果を図1bに示す。画分24〜27、約170 kDaのポリペプチドにおいて、32PがWT AMPK処理された試料に確認された。
【0065】
(2)上述のようにして得た放射性標識された試料を、0.3% TFA(トリフルオロ酢酸)、0.1% OG(n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド)および20%アセトニトリル中に調製し、カラムバッファーBで予め平衡に保たれた5Ph-AR-300(4.6×250 mm(Nacalai Tesque))逆相HPLCカラムに負荷した。なおカラムバッファーBは0.1% TFAおよび0.1% OGからなる。カラムバッファーBで洗浄した後、タンパク質を0.5 ml/minの流量でアセトニトリル 30〜50%/60 minの直線濃度勾配(図2a参照)により溶出した。各画分についてSDS-PAGEを行い、銀染色法(SS)およびオートラジオグラフィー(AR)により、視覚化した。
【0066】
図2bに示すとおり、放射性同位体標識を持つ単一のバンドを得ることができた。
【0067】
(実施例3)AMPKの基質の確認
(1)スケールアップして、[γ-32P]ATPの代わりに放射性同位体標識のないATPを使用して、実施例1および2と同様の手順を行った。放射性同位体標識バンドと一致するバンドをゲルから切出し、MALDI-Qq-TOF MS/MSを使用して分析を行った。
【0068】
その結果、実施例2にて特定された単一バンドのポリペプチドを、Cytoplasmic Linker Protein of 170kDa(CLIP-170)と同定した。
【0069】
(2)CLIP-170-cFlagまたはCLIP-170-nFlagと、kinase-dead型(KD)、野生型(WT)、または内因性AMPKタンパク質(ラット肝臓由来)(Upstate, Lake Placid, NY)とを用いて、実施例2(2)と同様にしてAMPK活性についてアッセイを行った。各反応後の試料について、SDS-PAGEを行いオートラジオグラフィー(AR)によって視覚化した。
【0070】
結果を図3に示す。組み換えAMPK(WT)と内因性AMPK(E)のいずれも、組み換えCLIP-170をリン酸化することが確認された。
【0071】
(実施例4)CLIP-170中のAMPKリン酸化部位の特定
(1)リン酸化アミノ酸の分析
CLIP-170-cFlagを[γ-32P]ATPの存在下でAMPK-cFlagとともにインキュベートした。反応物をSDS-PAGEによって分離し、クマシーブリリアントブルー(CBB)により染色し、ARにより視覚化した。放射性同位体により標識されたバンドをゲルから切り出し、トリプシンにより消化した。その後試料を完全に乾燥させ、リン酸化アミノ酸標準を含む5% TFAおよび50% アセトニトリルの中に再懸濁し、薄層セルロースプレート上にスポットした。電気泳動では、pH 1.9のバッファー(0.22%ギ酸および7.8%酢酸)を1次元目に使用し、pH 3.5 バッファー(5%酢酸、0.5%ピリジンおよび0.5mM EDTA)を2次元目に使用した。その後、リン酸化アミノ酸標準をニンヒドリンで染色した。またプレートをARによって分析した。
【0072】
結果を図4に示す。AMPKがCLIP-170のセリン残基をリン酸化することがわかった。
【0073】
(2)CLIP-170変異体を用いたAMPK活性のアッセイ
WT-CLIP-170、S311A CLIP-170、S737A CLIP-170、またはWT CLIP-115と、kinase-dead型(KD)または野生型(WT)のAMPKを用いて、実施例2(2)と同様にしてAMPK活性についてアッセイを行った。各反応後の試料について、SDS-PAGEを行いオートラジオグラフィー(AR)によって視覚化した。
【0074】
結果を図5と図6に示す。CLIP-115(CLIP-170に良く似た分子)は、AMPKによりリン酸化されなかった。また、変異型S311A CLIP-170はリン酸化されず、WT CLIP-170はAMPKによってリン酸化された。哺乳類細胞によって作製したCLIP-170(図5)を使用しても、大腸菌によって作製したCLIP-170(図6)を使用しても同様の結果が得られた。CLIP-170の311番目のセリンがAMPKによる直接のリン酸化部位であることがわかった。
【0075】
(実施例5) 抗体の作製
抗原としてCLIP-170の部分ポリペプチド: SLKRSPSASSLS(下線のセリンがリン酸化されている)を使用して常法に従い、リン酸化CLIP-170を認識する抗体(抗p-CLIP-170抗体)のポリクローナル抗体を作製した。得られた抗体の特異性、感度を確認するために、以下の実験を行った。
実施例4(2)にて使用した試料を用いて、取得した抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。また、Vero細胞を溶解バッファーC(50 mMトリス-HCl pH 7.5、0.01% Brij 35、0.1M NaCl、0.1 mM EGTA、2 mM DTT、2 mM MnCl2、プロテアーゼ阻害剤カクテル、50 mMβ-グリセロリン酸塩、25 mM NaFおよび1 mM Na3VO4)を用いて溶解し、4℃で15分間攪拌して遠心分離をした上清についても、取得した抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。遠心分離後、上清に、20unit/μl λプロテインホスファターゼ(New England Biolabs, Inc., Beverly, MA)あるいは0.5のmM EDTAを添加して、30分間30℃で培養することにより、ホスファターゼ処理を行い、ホスファターゼ処理後の試料についても、取得した抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。
【0076】
結果を図7および8に示す。全細胞溶解物についてウエスタンブロッティングをした場合でも、抗p-CLIP-170抗体は特異的にリン酸化CLIP-170を検出した。またホスファターゼ処理した場合には、当該抗体の結合は見られなかった。
【0077】
(実施例6)AMPK阻害によるCLIP-170リン酸化への影響の確認
(1)Fukataら(Cell 109, 873-885 (2002))の記載に従って、安定してCLIP-170-EGFPを発現するVero細胞を作製した。Vero細胞を、一定の湿度、5% CO2雰囲気下、37℃で、10%ウシ胎仔血清(Equitech-Bio, Kerrville, TX)補充Dulbecco's modified Eagle培地(Sigma-Aldrich)で維持した。目的のVero細胞を1.5 mg/ml Geneticin存在下で選択した。得られた組み換えVero細胞を15時間血清飢餓状態とし、10分間、20μM Compound C(AMPK阻害剤:Calbiochem, San Diego, CA)または、30分間、1 mM AICAR(AMPK促進剤:5-aminoimidazole-4-carboxyamide ribonucleosid; Cell Signaling Technology, Danvers, MA)と共にインキュベートした。その後、溶解バッファーAで溶解し、15分間、4℃で攪拌した。遠心分離後、上清についてSDS-PAGEを行い、CLIP-170、ACC、AMPKのリン酸化について、ウエスタンブロッティングを行った。
【0078】
結果を、図9aに示す。Compound C(AMPK阻害剤)は、CLIP-170のリン酸化を減少させた。一方AICAR(AMPK促進剤)はCLIP-170のリン酸化に影響を与えなかった。なお、コントロールであるアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)のリン酸化は、Compound CおよびAICARのいずれによっても影響を受けた。
【0079】
(2)AMPKをノックダウンするために、組み換えVero細胞をLipofectamine 2000試薬を使用して製品プロトコルに従ってAMPKα1(センス;aggagagcuauuugauuaTT(配列番号14)、アンチセンス;uaaucaaauagcucuccucTT(配列番号15))およびAMPKα2(センス;cuguuugguguagguaaaTT(配列番号16)、アンチセンス;uuuaccuacaccaaacagcTT(配列番号17))(B-Bridge International, Inc., Mountain View, CA)の両方を標的とするターゲットsiRNAs 50 nmol/lでトランスフェクトした。ネガティブコントロールとして、siControl(B-Bridge International, Inc.)を使用した。siRNAとの40時間インキュベートした後、実施例5(1)の方法と同様にしてVero細胞を溶解し、解析を行った。
【0080】
結果を、図9bに示す。AMPKのα1もしくはα2サブユニットのいずれかに特異的なsiRNAは、CLIP-170のリン酸化を抑制した。AMPKが生体内のCLIP-170の311番目のセリンを構成的にリン酸化していることが示唆された。
【0081】
(実施例7)CLIP-170の局在と微小管伸長の確認
Vero細胞を15時間、血清飢餓状態とし、10分間、20μM Compound C(AMPK阻害剤)またはコントロールの0.2% DMSOと共にインキュベートした。これらのVero細胞を、コラーゲンコートした35 mmガラスディッシュ上に播種し、温PBSにより一旦洗浄し、-20℃で10分間、100%メタノールで固定し、その後室温(RT)で、5分間、1%パラホルムアルデヒドにより固定した。次に細胞を室温、5分間、0.01%トリトンX-100を含むPBSにより透過性にし、抗CLIP-170C抗体または抗p-CLIP-170抗体、抗αチューブリン抗体で1時間、免疫染色を行った。二次反応については、アレクサ488または568で標識した2次抗体を使用した。EGFP、アレクサ488、アレクサ568の蛍光画像を、PLAPO 100X油浸対物レンズ(オリンパス株式会社)を使用して、冷却CCD CoolSNAP-HQカメラ(Roper Scientific, Tucson, AZ)を備えたOlympus IX-81倒立型蛍光顕微鏡で記録した。
【0082】
結果を図10に示す。図10aはDMSOで処理した場合、図10bはCompound Cで処理した場合の写真である。図10a,bのいずれも、上段は抗CLIP-170C抗体による染色、下段は抗p-CLIP-170抗体による染色を示す。αチューブリン抗体を用いた免疫染色により、内因性CLIP-170は微小管の端部に局在し、微小管先端でリン酸化されていることがわかった。また、WT CLIP-170-EGFPを確認したところ、内因性CLIP-170と重複していた。ほとんどのCLIP-170分子がリン酸化されていることがわかった。AMPKがCompound Cにより阻害された場合、リン酸化されていないCLIP-170が長時間、微小管端部に蓄積することがわかった。
【0083】
図11に、Compound C 処理前(pre)または処理後(post)の写真、およびコメット移動速度とコメットの伸長速度の結果を示す。CLIP-170は微小管の端部に蓄積し、セントロメアから細胞縁部にコメットのように移動した。コメットの移動速度は微小管伸長速度と一致する。Compound CによるAMPK活性の阻害は、コントロールと比較して、コメットを長くして、CLIP-170が蓄積した部位の移動を遅くした。これらの結果は、AMPK阻害が微小管からのCLIP-170の解離を低減させ、微小管形成を阻害することを示唆するものである。対照的に、AICARによるAMPK活性化はコメットの形態にも速度にも影響を与えなかった(データは示さず)。CLIP-170のAMPKによるリン酸化が微小管ダイナミクスに必須であることが示唆された。
【0084】
(実施例8)AMPK発現阻害とCLIP-170 S311Aの微小管伸長に対する影響の確認
実施例6(2)と同様にして、AMPK siRNAs 50 nmol/lまたはCLIP-170-S311Aのプラスミドでトランスフェクトした。その後、実施例6と同様の方法で、蛍光画像を得た。
【0085】
結果を図12(a:写真、b:コメット移動速度と、コメット伸長速度)に示す。siRNAによるAMPK発現阻害およびS311A CLIP-170-EFGPの強制的発現はいずれも、コメットの移動を遅くして延長させた。この結果から、CLIP-170のリン酸化が微小管からのCLIP-170の解離に必要であることが示唆された。
【0086】
(実施例9)AMPK活性阻害の細胞遊走に対する影響の確認
Vero細胞を、スクラッチの12時間前に、コラーゲンコートした35mmガラスディッシュ上に密度3×104/cm2で播種した。スクラッチ線をピペットの先端で作り、新鮮な培地で一旦洗浄した。スクラッチ部位の観察と、0.2%コントロールDMSOまたは20μM Compound Cの添加を、2時間ごとに行い、培地を4時間ごとに交換した。実施例6と同様の方法で、12時間後に細胞を固定して、抗γチューブリン抗体で免疫染色した。細胞極性分析のため、スクラッチ線近くの100細胞について、細胞核の中心を支点として、細胞核の中心とスクラッチ線を結ぶ線と、細胞核の中心とγチューブリンとを結ぶ線とのなす角度(θ)を測定した。
【0087】
結果を図13に示す。コントロール(DMSO添加)では、スクラッチ後ほとんどの細胞が極性を持ち、スクラッチ線に向かって移動した。しかしながら、Compound C処理は細胞の移動を阻害し(図13a)、ほとんどの細胞について微小管形成中心の再配向を阻害した(図13b)。この結果は、CLIP-170による微小管先端のダイナミクスの調節による細胞移動と細胞極性形成に、AMPKが必要であることを示唆する。
【0088】
(実施例10)CLIP-170-S311Aの細胞遊走に対する影響の確認
Vero細胞を5×104/cm2の密度で、コラーゲンコートした35mmガラスディッシュ上に播種し、Lipofectamine 2000を使用して、WTかS311A CLIP-170-EGFPをトランスフェクトした。24時間後、DICイメージを、ステージ・トップインキュベータシステムONICS、温度・CO2制御ユニットINUG2(東海ヒット社)を備えた、オリンパスIX-81倒立型蛍光顕微鏡で、10分ごとに12時間記録した。細胞軌道の決定は、Time-lapsイメージングにより、MetaMorph 7.1.3.0ソフトウェアを使用して細胞核の中心小体を追跡することにより行った。
【0089】
結果を図14に示す。S311A CLIP-170発現細胞は、遊走および細胞膜伸展が、コントロールに比べて低減していた。
【0090】
(実施例11)CLIP-170 S311Aと抗癌剤の、アクチンおよびパキシリンに対する影響の確認
Vero細胞を5×103/cm2の密度でコラーゲンコートした35mmガラスディッシュ上に播種し、Lipofectamine 2000を使用してWTかS311A CLIP-170-EGFPをトランスフェクトした。翌日にアクチン、パキシリン抗体にて免疫染色した。また、同様に播種したVero細胞に、5μMのPacritaxelまたは10μMのNocodazoleを添加し、1時間後に同様の抗体にて免疫染色した。
【0091】
抗癌剤として使用されている、Pacritaxel(微小管の重合阻害)とNocodazole(微小管の脱重合阻害)と同様に、S311A CLIP-170-EGFPを強制発現したときにも、WT CLIP-170-EGFPと比較して優位にパキシリンの染色面積が大きかった(図15)。このことから、AMPKによるCLIP-170のリン酸化は、微小管先端のダイナミクスを調節し、接着斑のturnoverにも必要であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のスクリーニング方法により、本発明にて新規に見出されたメカニズムである、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を得ることができ、かかる物質は微小管伸長抑制剤として作用し得る。また、本発明の微小管伸長抑制剤は、抗癌剤としても使用することが可能と考えられる。本発明の微小管伸長抑制剤は、従来の微小管伸抑制剤とは異なるメカニズムを標的とするため、他の微小管伸長抑制剤との相加的、相乗的効果が期待され有用である。また、本発明のポリペプチドは、微小管の先端に長くとどまることにより、微小管伸長を抑制するという特有の生化学的作用を有すると考えられ、癌治療等における活用が期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLIP-170のアミノ酸配列において、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異している変異型CLIP-170のポリペプチドであって、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
【請求項2】
以下の1)〜3)から選択される、請求項1に記載のポリペプチド:
1)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
2)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列から選択される部分アミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド;
3)上記1)または2)に示すポリペプチドをコードするアミノ酸配列において、311番目以外の位置に1〜5個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
【請求項3】
前記セリンがアラニンに置換している、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法。
【請求項5】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化である、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
以下の工程を含む請求項4または5に記載のスクリーニング方法:
(a)AMPKとCLIP-170とを被検物質の存在下で接触させて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を検出する工程;
(b)被検物質の非存在下と比べて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を低減させうる物質を選択する工程。
【請求項7】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出が、AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体を用いて行われる、請求項4〜6のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか1に記載の方法を用いる、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体。
【請求項11】
請求項9に記載の抗体を少なくとも含む、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質をスクリーニングするためのキット。
【請求項12】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む、微小管伸長抑制剤。
【請求項13】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化を阻害する物質である、請求項12に記載の微小管伸長抑制剤。
【請求項14】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)-フェニル)]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ[1,5-a]-ピリミジンである、請求項12または13に記載の微小管伸長抑制剤。
【請求項1】
CLIP-170のアミノ酸配列において、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が変異している変異型CLIP-170のポリペプチドであって、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
【請求項2】
以下の1)〜3)から選択される、請求項1に記載のポリペプチド:
1)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
2)CLIP-170のアミノ酸配列が、配列番号1に示すアミノ酸配列から選択される部分アミノ酸配列であり、AMPKによりリン酸化されるアミノ酸が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンであるアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド;
3)上記1)または2)に示すポリペプチドをコードするアミノ酸配列において、311番目以外の位置に1〜5個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列からなり、かつ、微小管伸長を抑制する機能を有するポリペプチド。
【請求項3】
前記セリンがアラニンに置換している、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質のスクリーニング方法。
【請求項5】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化である、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
以下の工程を含む請求項4または5に記載のスクリーニング方法:
(a)AMPKとCLIP-170とを被検物質の存在下で接触させて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を検出する工程;
(b)被検物質の非存在下と比べて、AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性を低減させうる物質を選択する工程。
【請求項7】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化活性の検出が、AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体を用いて行われる、請求項4〜6のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を指標とする、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか1に記載の方法を用いる、微小管伸長抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
AMPKによりリン酸化されたCLIP-170を特異的に認識する抗体。
【請求項11】
請求項9に記載の抗体を少なくとも含む、AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質をスクリーニングするためのキット。
【請求項12】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質を有効成分として含む、微小管伸長抑制剤。
【請求項13】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、配列番号1に示すアミノ酸配列の311番目のセリンのリン酸化を阻害する物質である、請求項12に記載の微小管伸長抑制剤。
【請求項14】
AMPKによるCLIP-170のリン酸化を阻害する物質が、6-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)-フェニル)]-3-ピリジン-4-イル-ピラゾロ[1,5-a]-ピリミジンである、請求項12または13に記載の微小管伸長抑制剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−16730(P2011−16730A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160508(P2009−160508)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】
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