説明

微小精留装置及び精留方法

【課題】 流体デバイスに接続して、或いは組み込んで使用することができる微小精留装置、及びマイクロ流体デバイスで取り扱い可能な微量試料の精留方法を提供すること。
【解決手段】 原液から含有成分を精留する精留装置であって、気体流通領域と液体流通領域とそれらを隔てる多孔質隔膜が設けられた精留管と、気体流通領域を原液の沸点より高い温度に加熱する温度調節器とを有し、気体流通領域に前記原液から発生させた蒸気を流し、該蒸気のうちの沸点の高い成分が前記多孔質隔膜を透過して液体流通領域で液化して該液体流通領域に充満した状態で、液化した液体が気体流通領域中の蒸気の流れ方向に対して向流で流れ、且つ沸点の低い成分が液体流通領域から多孔質隔膜を透過して気化し、気体流通領域に還流することにより成分を精留する精留装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイスに接続して、或いは組み込んで使用することができる微小精留装置、および、マイクロ流体デバイスで取り扱うような微少量の試料の精留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスは、微小な毛細管状の流路などの場で、化学や生化学の反応、混合や分離などの化学工学的処理、成分の検出や分析などを行うものであり、反応速度の向上や副生成物の減少が図れるだけでなく、実験条件を短時間毎に次々と変えてゆくことが容易なため、反応のスクリーニングや最適条件の検討に必要な時間を大幅に短縮することが出来る上、時代の要求である省エネ省資源に適合している。さらに、最適条件が求まると、スケールアップの検討を行うことなくパイルアップシステムにより、直ちに生産が可能であることなどの特徴があり、今後の化学反応装置として期待されている。
【0003】
しかしながら、これまでは、マイクロ流体デバイスを用いた微量試料の取り扱いに於いて、多くの反応で必要とされる精留を行うことが出来なかった。なぜなら、精留は垂直に設置された精留管(精留塔)内を上昇する蒸気相と下降する液相とを接触させることにより実施されるが、精留管の直径が例えば1mm以下のように細い場合には、表面張力の影響が相対的に大きくなり、また重力の影響が相対的に小さくなり、精留管が液体によって充填されてしまい、また、精留管内で液相が毛細管現象により下方に移動せず滞留してしまうため、安定した状態で蒸気相と液相を向流で接触させることが出来なかった。この困難を回避する一つの方法としては、遠心力により大きな重力加速度を付与する方法も考えられるが、使用上の制約が多く、実際的ではない。
【0004】
一方、膜蒸留(隔膜蒸留)という技術が知られている(特許文献1、2)。これは、液体は透過しないが気体は透過する多孔質隔膜で気相と液相を隔てて蒸留を行う技術であり、気液の界面がメニスカスでなく多孔質隔膜であるため、液体を沸騰温度以上の温度に加熱して蒸発させることが可能なため装置体積を小さくできることや、重力に対して任意の方向に設置することが出来るなどの特長があった。しかしながら、この膜蒸留は、いわゆる単蒸留であり、蒸留の理論段数は最大で1にしか成らなかった。そのため、溶液中の不揮発成分の濃縮や、溶液から不揮発分を除去する場合にしか、実際には使用されていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−226066号公報
【特許文献2】特開平7−768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、マイクロ流体デバイスに接続して、或いは組み込んで使用することができる微小精留装置、及び、マイクロ流体デバイスで取り扱い可能な微量試料の精留方法を提供することにある。即ち、微小な精留管内を凝縮した液体で閉塞させることなく、液相と蒸気相を向流で接触させ、精留を行う方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、沸点の相違する少なくとも2成分を含有する原液から各成分を精留する精留装置であって、
気体流通領域と液体流通領域とそれらを隔てる多孔質隔膜が設けられた精留管と、前記気体流通領域を前記原液の沸点より高い温度に加熱する温度調節器とを有し、
前記精留管中の多孔質隔膜面から対向する液体流通領域の壁までの平均距離が1μm〜300μmであり、多孔質隔膜面から対向する気体流通領域の壁までの平均距離が1μm〜10mmであり、
前記気体流通領域に前記原液から発生させた蒸気を流し、該蒸気のうちの沸点の高い成分が前記多孔質隔膜を透過して前記液体流通領域で液化して該液体流通領域に充満した状態で、液化した液体が前記気体流通領域中の蒸気の流れ方向に対して向流で流れ、且つ沸点の低い成分が前記液体流通領域から前記多孔質隔膜を透過して気化し、前記気体流通領域に還流することにより各成分を精留することを特徴とする精留装置を見いだし、鋭意検討することにより本発明に到達した。
【0008】
本発明者は、また、沸点の相違する少なくとも2成分を含有する原液から各成分を精留する精留方法であって、気体流通領域と液体流通領域とそれらを隔てる多孔質隔膜から成る精留管を使用し、
(1)前記気体流通領域に精留すべき原液由来の蒸気を流し、前記液体流通領域に精留すべき原液由来の液体を、前記気体流通領域中の蒸気に対して向流で流し、
(2)前記気体流通領域の温度を、その全領域において、前記気体流通領域内で蒸気が凝結しない温度に保ち、
(3)前記液体流通領域の温度を、その全領域において液体が沸騰しない温度であって、かつ、少なくともその長さ方向の一部の領域に於いて〔液体の沸点(Tm)−10℃〕以上の温度に保ち、
(4)前記精留すべき高沸点成分を前記多孔質隔膜を透過して前記液体流通領域中へ凝結させ、かつ、前記液体流通領域の、前記凝結させる位置より下流部分において、前記精留すべき低沸点成分を前記液体流通領域から前記多孔質隔膜を透過して気化させ、前記気体流通領域に還流させ、
(5)前記気体流通領域から低沸点成分濃縮留分を取り出し、前記液体流通領域から高沸点成分濃縮留分を取り出す
ことを特徴とする精留方法を見いだし、鋭意検討することにより本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、マイクロ流体デバイスで取り扱い可能な微量試料の精留方法とそれに使用する微小精留装置を提供する。即ち、微小な精留管内を凝縮した液体で閉塞させることなく、液相と蒸気相を向流で接触させ、精留を行う方法及び装置を提供することが出来る。
【0010】
また本発明は、マイクロ流体デバイス内で実施される合成反応や分析と連続させることにより、合成と分離が統合されたマイクロリアクタを構築することができるし、マイクロ・トータル・アナリシス・システム(μ−TAS)を構築することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の精留方式につき、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0012】
本発明の精留方法では、3成分以上の混合液体の精留も可能であるが、説明の簡略化のため、以下、特に断らない限り2成分(低沸点成分および高沸点成分)の混合液体(精留原液)の精留を例として説明する。
【0013】
[微小精留装置]
本発明の微小精留装置300は、図1に模式図を示したように、原液導入部12、低沸点成分濃縮液の取り出し部13、及び高沸点成分濃縮液の取り出し部14が設けられた微小な精留管11と、該精留管11を必要な温度に保つ温度調節器200を必須構成要素として有する。本微小精留装置300は、精留管11と温度調節器200が一体化されていても良いし、互いに独立していて、使用時に組み合わされても良い。
【0014】
精留管11はマイクロ流体デバイス100に組み込まれて形成されていることが、原液導入部12や精留成分採り出し口13、14などの接続口の形成が容易であり、また、マイクロ流体デバイス100中の反応槽(図示略)などと一体化することも容易であるため好ましい。さらに、本精留管11が組み込まれたマイクロ流体デバイス100は、精留した各成分を液化させたり常温付近まで冷却させたりする冷却部を有することも好ましい。
【0015】
本発明の微小精留装置300は、精留管11が例えば板状のマイクロ流体デバイス100の中に設けられており、該マイクロ流体デバイス100の下面に温度調節器200aが設けられ、該マイクロ流体デバイス100の上面に温度調節器200bが設けられた形状が好ましい。マイクロ流体デバイス100は板状が好ましく、その厚み方向に、上から順に気体流通領域1、多孔質隔膜3、液体流通領域2が形成されていて、気体流通領域1は主として温度調節器200bにより温度調節され、液体流通領域2は主として温度調節器200aにより温度調節されることが好ましい。
【0016】
本発明の精留装置300は、他の任意に組み込み可能な機構として、精留原液を供給したり各精留成分を取り出すためのポンプ、温度調節器の温度制御装置などを有していても良く、これらの任意に組み込み可能な機構は、精留管11が組み込まれたマイクロ流体デバイス100に組み込まれていても良い。
【0017】
これらの中で、本微小精留装置300は、精留管11が組み込まれたマイクロ流体デバイスを固定する固定部、温度調節器とその温度制御装置、および、ポンプ又はマイクロ流体デバイスに組み込まれたポンプ機構の駆動機構、を有する筐体と、それに着脱自在の、精留管11が組み込まれたマイクロ流体デバイス100から成ることが好ましい。このような構造にすることで、接液部である精留管11が組み込まれたマイクロ流体デバイスを使い捨てとしたり、該部分のみを置き換えて、異なる液体の精留を容易に行うことが出来る。
【0018】
原液導入部12、低沸点成分濃縮液の取り出し部13、及び高沸点成分濃縮液の取り出し部14、及び、必要に応じて設けることの出来る中間留分取り出し口は、それぞれ精留管11に接続されているが、精留管11との接続部位は後述の精留方式によって異なる。これらの導入部や取り出し部は、マイクロ流体デバイスの開口部であってもよいし、配管が接続されていてもよいし、マイクロ流体デバイス内の他の機構、例えば反応槽や検出部などに接続されていても良い。
【0019】
[精留管]
本発明の微小精留装置300の精留管11は、図2に模式図を示したように、液体310が流れる液体流通領域2、蒸気320が流れる気体流通領域1、及び該液体流通領域2と該気体流通領域2を隔てる多孔質隔膜3で構成されていて、液体310とその蒸気320を多孔質隔膜3を介して向流で接触させることにより、多孔質膜3を通して蒸発や凝縮を行うことが出来る。
【0020】
精留管11の外形(即ち、該精留管11を構成する部材の外形)は任意であり、管状であっても良いが、板状などのマイクロ流体デバイス100に組み込まれた形状であることが好ましい。精留管11は必ずしも直線状である必要は無く、曲線状、ジグザグ状、渦巻き状、螺旋状など任意の形状に形成されていても良い。本発明の微小精留装置においては、精留管11は重力方向とは無関係に設置することができる。
【0021】
精留管11の液体流通領域2と気体流通領域1の流通路壁を構成する、多孔質隔膜3以外の部分の素材は任意であり、例えば水晶などの結晶、ガラス、ステンレススチールなどの金属、シリコンなどの半導体、炭素、セラミック、有機重合体、等であり得る。精留管の上記部分は、精留管の長さ方向の熱伝導率が100wm−1−1以下であることが好ましく、10wm−1−1以下であることがさらに好ましく、1wm−1−1以下であることが最も好ましい。熱伝導率の下限は、自ずと限界はあろうが、小さいことそれ自身による不都合はないため限定することを要せず、例えば、0.01wm−1−1であり得る。
【0022】
上記のような熱伝導率の素材として、例えば有機重合体、ガラス、セラミックなどを好ましく用いることが出来、中でも、蒸留対象の液体に耐性のあるものを選べば、有機重合体が製造が容易なため好ましい。また、バルクでは高い熱伝導率を有する素材であっても、低熱伝導率素材との複合体にしたり、焼結体や発泡体などの多孔質体にして、熱伝導率を上記範囲にすることができる。このような多孔質体や複合体としては、例えば発泡ガラス、気泡を有するセラミック、金属と有機重合体との積層体を例示出来る。上記熱伝導率の下限であるような小さな熱伝導率を持つ素材としては、例えば有機重合体の発泡体を例示出来る。精留管の長さ方向の熱伝導率を上記の範囲にすることによって、各流通路における流体の流れ方向に大きな温度勾配を付けることが容易になり精留管の長さを短縮出来るため、効率の高い、即ち、精留管の長さ当たりの蒸留段数の多い精留管が得られる。
【0023】
また、精留管11の多孔質隔膜3を透過する方向、即ち、液体流通領域側2から気体流通領域側1方向の熱伝導率は、10wm−1−1以下が好ましく、3wm−1−1以下がさらに好ましく、1wm−1−1以下が最も好ましい。熱伝導率の下限は、自ずと限界はあろうが、小さいことそれ自身による不都合はないため限定することを要しない。熱伝導率の下限は、例えば、0.01wm−1−1であり得る。精留管の多孔質隔膜を透過する方向の熱伝導率をこのような範囲とすることにより、液体流通領域2と気体流通領域1方向の温度差を付けることが容易になり、温度調節器200の消費エネルギーの減少が図れる。
【0024】
この場合も、これらの熱伝導率を実現する素材については、精留管11の長さ方向の場合と同様であるが、本方向に特有の構造に起因する要素もある。即ち、本発明の精留管11がマイクロ流体デバイス100中に形成されていて、該マイクロ流体デバイス100が、液体流通領域2を構成する部材と気体流通領域1を構成する部材が多孔質隔膜3を有する層状の部材を挟持して固着又は固定された構造である場合には、液体流通領域2を構成する部材、気体流通領域1を構成する部材、及び多孔質隔膜3を有する層状の部材の内の少なくとも一つは、熱伝導率が10wm−1−1以下であるものが好ましく、3wm−1−1以下であるものがさらに好ましく、1wm−1−1以下であるものが最も好ましい。特に、多孔質隔膜3を有する層を、液体や蒸気の漏洩を防ぐ最低限の部分、例えば液体流通領域2と気体流通領域1に相当する部分の周囲のみにおいて細孔を目止めし、これを両部材の間全面に挟持させた構造が、熱伝導率の低い多孔質隔膜3が断熱材として働くため好ましい。
【0025】
精留管11がマイクロ流体デバイス100に組み込まれている場合には、該マイクロ流体デバイス100は。板状又はシート状であることが、マイクロ流体デバイス100外部に設けられた温度調節器200により温度調節することが容易であり好ましい。また、精留管11は該マイクロ流体デバイス100内において、液体流通領域2が該マイクロ流体デバイス100の表面に平行、かつ一方の面に近い側に形成され、また、気体流通領域1が該表面に平行、かつ他方の面に近い側に形成され、多孔質隔膜3が該表面に平行に成るように、液体流通領域2と気体流通領域1の間に形成された構造が、精留管11の温度調節も容易なため好ましい。このような構造は、例えば、気体流通領域1となる溝が形成された板状若しくはシート状の部材と、液体流通領域2となる溝が形成された板状若しくはシート状の部材を、多孔質隔膜3を有する部材を挟んで積層・固定することで製造できる。
【0026】
[液体流通領域]
液体流通領域2は多孔質隔膜3を隔てて気体流通領域1に面している空洞である。液体流通領域2の断面形状は断面の一部が多孔質隔膜3となる形状であれば任意であり、矩形、台形、半円形などの形状であってよいが、マイクロ流体デバイスに組み込みやすく、また作成が容易であることから矩形形状が好ましい。多孔質隔膜3の表面から対向する液体流通領域の壁までの平均距離は、上限が300μm以下であり、好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下である。この上限を超えると、液体流通路中での拡散による混合速度が低下し、蒸発又は凝縮によって生じた、多孔質隔膜3付近の液体組成と、多孔質隔膜3に対する対向面付近の液体組成の差が大きくなって精留管の効率が低下し、ほとんど精留されなくなる。該平均距離の下限は、ゼロでなければ、本微小精留装置の処理量の設定値により任意に設定できるが、好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、最も好ましくは7μm以上である。この範囲とすることによって、圧力損失もあまり大きく成らず、十分な処理量が得られる。
【0027】
液体流通領域2の精留管11の長さ方向と直角な方向で、多孔質隔膜3と平行な方向の寸法(以下、該方向の寸法を単に幅と称する場合がある。)も任意であり、用途、目的によって設定できるが、好ましい平均幅は3μm〜10mm、更に好ましくは、10μm〜3mm、最も好ましくは30μm〜1mmである。この範囲とすることによって、製造が容易となり、圧力損失「多孔質隔膜面から液体流通領域の対向面までの平均距離」×「平均幅」)も任意であるが、10×10−12〜3×10−6の範囲にあることが、上記幅と同様の意味で好ましい。
【0028】
液体流通領域2の長さ、即ち、精留管11の長さは任意であり、用途、目的によって設定できるが、好ましくは0.5〜20cm、更に好ましくは1〜10cm、最も好ましくは2〜5cmである。この範囲とすることで、十分な精留効率が得られ、温度調節などの運転も容易になる。
【0029】
液体流通領域2の端部或いは途中は、必要に応じて連絡流路により、高沸点成分濃縮留分の取り出し部13に接続される。また、原液を液体状態で導入する場合には、液体流通領域2の端部或いは途中は、必要に応じて連絡流路により、原液導入部12に接続される。但し、これらが設けられるか否かや液体流通領域2と接続される位置は、後述の精留方式によって異なる。
【0030】
例えば、液体流通領域2の高沸点成分濃縮側の端部(以下、この端部を、精留管11、液体流通領域2、及び気体流通領域1に関して「A端」と称する)は、原液の入った貯液槽が接続されている場合、高沸点成分濃縮留分取り出し部に連絡する連絡流路23が接続されている場合、閉じられている場合、等があり得る。
【0031】
液体流通領域2の他端部(以下、この端部を、精留管11、液体流通領域2、及び気体流通領域1に関して「B端」と称する)は、還流液供給部のための或いは中間沸点成分濃縮留分取り出し口に接続される連絡流路24が接続されている場合、閉じられている場合、等があり得る。
【0032】
また、液体流通領域2のA端とB端の間に、原液導入部に接続される、或いは、特定混合比の留分や中間沸点成分濃縮留分取り出し口に接続される連絡流路26を接続しても良い。
【0033】
[気体流通領域]
気体流通領域1は多孔質隔膜3を隔てて液体流通領域2に面している空洞である。気体流通領域1の断面形状も上記液体流通領域2同様に一部が多孔質隔膜3となる任意の形状であってよいが、矩形形状であることが好ましい。多孔質隔膜3の表面から対向する気体流通領域1の壁までの距離は上限が10mm以下であり、好ましくは3mm以下、更に好ましくは1mm以下である。この上限を超えると、蒸気と液体との接触が不十分となり、精留管の効率が低下しがちとなる。該平均距離の下限は、ゼロでなければ、本微小精留装置の処理量の設定値により任意に設定できるが、好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、最も好ましくは7μm以上である。この範囲とすることによって、圧力損失もあまり大きく成らず、十分な処理量が得られる。また、該平均距離は、前記液体流通領域2の該平均距離より大きいことが、精留効率を高くするために好ましい。
【0034】
気体流通領域1の幅、即ち、精留管11の長さ方向と直角な方向で、多孔質隔膜3と平行な方向の寸法も任意であるが、液体流通領域2の幅と同じ寸法とすることが好ましい。このようにすることによって、多孔質隔膜3を隔てた蒸発や凝縮の効率が増し、高い精留効率が得られる。
【0035】
気体流通領域1の長さは精留管11の長さであり、上記液体流通領域2の場合と同様である。
【0036】
気体流通領域1の内表面は撥溶媒性(疎溶媒性)(但し、「溶媒」は「水」を含む。)とすることが、気体流通領域1が液体で充填されにくくなるため好ましい。
【0037】
気体流通領域1の端部或いは途中は、必要に応じて連絡流路により、低沸点成分濃縮留分の取り出し部14に接続される。また、原液を蒸気として導入する場合には、気体流通領域2の端部或いは途中は、必要に応じて連絡流路により、原液導入部12に接続される。但し、これらが設けられるか否かや気体流通領域1と接続される位置は、後述の精留方式によって異なる。
【0038】
例えば、気体流通領域1のA端は、原液の入った貯液槽8が接続されている場合、連絡流路21を経て原液導入部に接続されている場合、閉じられている場合、等があり得る。また、気体流通領域1のA端には、キャリアガスとして、窒素、アルゴン等の不活性なガスを導入するための連絡流路21を設けても良い。
【0039】
気体流通領域1のB端は、連絡流路22を経て低沸点成分濃縮留分取り出し口13に接続されている場合、閉じられている場合、等があり得る。
【0040】
また、気体流通領域1のA端とB端の間に、原液導入部13に接続される、或いは、特定混合比の留分や中間沸点成分濃縮留分取り出し口に接続される連絡流路25を接続しても良い。
【0041】
[多孔質隔膜]
多孔質隔膜3は、表裏を貫通する多数の細孔を有する多孔質膜で構成されている。多孔質隔膜は、液体が液体流通領域2から気体流通領域1に侵入することを阻止する隔膜として機能し、かつ、気体流通領域1と液体流通領域2は該多孔質隔膜3の細孔を通じて蒸発や凝縮が可能であれば任意である。
【0042】
多孔質隔膜3の多孔質構造は任意であり、例えば、該隔膜の表面に対してほぼ直角な貫通孔状、互いに連通した気泡状、凝集粒子の間隙、ミクロフィブリル間の空隙、微細な不織布の繊維間の空隙、等であり得る。多孔質隔膜3の平均細孔径は、気体流通領域1あるいは液体流通領域2の直径より小さいものであり、1nm〜10μmが好ましく、10nm〜1μmがさらに好ましく、50nm〜500nmが最も好ましい。この範囲の下限以上とすることで、十分な蒸気−液体間の物質移動(蒸発や凝縮)速度を得ることが出来、短い精留管長で高い理論段数が得られる。また、上記範囲の上限以下とすることで、液体が多孔質隔膜3を通って気体流通領域1を閉塞し、本精留管11が機能しなくなることを避けるための液体の圧力制御の許容範囲や温度調節器200の温度制御の許容範囲が広くなり、制御が容易になる。
【0043】
多孔質隔膜3の厚さは、多孔質隔膜3を形成する材料や細孔径、あるいは精留する対象や精留温度等に応じて十分な強度と十分な物質交換速度を満足するように適宜調整する必要があるが、本願発明においては10〜500μmの範囲であることが好ましく、15〜300μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0044】
精留管11を有するマイクロ流体デバイス100が、気体流通領域1となる溝が表面に形成された部材と、液体流通領域となる溝が表面に形成された部材を、多孔質隔膜3を有する部材を挟んで積層・固定する構造である場合には、多孔質隔膜3を有する部材は、気体流通領域1と液体流通領域2に面する多孔質隔膜3部分以外の部分の内、少なくとも気体流通領域1と液体流通領域2に面する部分を囲む部分が非多孔質化されていることが、成分の横漏れやコンタミネーションの恐れがないため好ましい。このような構造は、例えば特開平6−192467号公報に開示されているように、多孔質部と非多孔質部からなる部分多孔質膜を使用する方法、例えば特開2000-237556号公報に開示されているように、多孔質として残す部分以外の部分に硬化した有機重合体などを充填して目止めする方法、多孔質として残す部分以外の部分を加熱して細孔をつぶす方法、多孔質として残す部分以外の部分をプレスして細孔をつぶす方法、などにより実施できる。
【0045】
多孔質隔膜3を、液体が液体流通領域2から気体流通領域1に侵入することを阻止する隔膜として機能させるに当たり、典型的な次の2つの場合とその中間の場合がある。
【0046】
その第一は、多孔質隔膜3の細孔表面特性を、液体流通領域1内の液体が細孔内に入り込まないような表面特性、即ち、撥溶媒(疎溶媒)性、即ち、液体流通領域内の液体との接触角が90度を超える値、好ましくは95度以上、更に好ましくは100度以上とし、かつ、細孔径を、該撥溶媒性を発揮できる程度に十分小さくする場合である。この場合には、精留を、液体は多孔質隔膜3の細孔に入り込まず、気液界面が液体流通領域2と多孔質隔膜3との境界面にある状態で運転する。なお、ここで言う溶媒は水などの無機物も含む。
【0047】
多孔質隔膜3の表面特性を、液体流通領域2を流れる液体に対して撥溶媒性とするには、多孔質隔膜3の素材として、例えばフッ素含有ポリマー、ポリジメチルシロキサン基含有ポリマーなどを使用する方法、細孔表面にフッ素含有基やジメチルシロキサン基などの撥溶媒基で表面修飾する方法などで実施できる。表面修飾法は、シリル化剤による表面修飾、アジド基などによる光化学的修飾、表面グラフト重合などの方法を例示できる。精留する原液が水系溶液である場合には、上記の他、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィドなどの撥水性(疎水性)ポリマーを好適に利用できる。
【0048】
多孔質隔膜3をこのような表面特性とすることによって、液体流通領域2に液体を流す際の圧力の許容範囲や、液体流通領域2の圧力損失の許容範囲や、精留管11の温度の許容範囲が広くなって精留が容易となる上、隔膜物質交換によって組成の変化した多孔質隔膜3付近の液体と、液体流通領域2を流れる液体とが混合する速度が向上し、精留効率が増す。
【0049】
第二の場合は、多孔質隔膜3の表面特性を、液体流通領域2を流れる液体が多孔質隔膜3の細孔に入り込む特性とする場合である。この場合、液体は気体流通領域1に侵入しないように設定し、実質的な気液界面が気体流通領域1と多孔質隔膜3との境界面にある状態での運転を可能とする。この場合には、多孔質隔膜3の表面特性は、親溶媒性や弱い疎溶媒性;即ち、液体流通領域中の液体に対する接触角が90度以下の多孔質隔膜3を使用できる。また、多孔質隔膜3の細孔径を、液体流通領域2や気体流通領域1の最小径より小さくすること、好ましくは1/10以下、さらに好ましくは1/100以下とすることが、細孔に入り込んだ液体が気体流通領域に入り込むために必要な圧力が上昇して、液体流通領域の圧力の許容範囲が拡大し、運転が容易となるため好ましい。
【0050】
[温度調節器]
本発明の微小精留装置300の温度調節器200は、前記精留管11の気体流通領域1を、精留すべき原液の沸点より高い温度に加熱することが可能なものである。更に詳細には、精留管11の液体流通領域2を液体の沸点付近の温度であって沸騰しない温度に保ち、かつ、気体流通領域1を蒸気が凝結しない温度に保つことが出来るものであれば任意である。例えば、精留管11の液体流通領域2側と気体流通領域1側の両側にそれぞれ温度制御された温度調節器200a、200bが設けられている場合、該2つの温度調節器間の温度差が特定の値になるように設計し、1つの温度調節器200aが制御される場合、液体流通領域2と気体流通領域1の一方の側のみに温度制御された温度調節器200が設けられていて、他方の側には一定温度に調節された温度調節器が設けられている場合、がある。さらに、例えば、液体流通領域2と気体流通領域1の一方の側のみに温度制御された温度調節器200が設けられていて、他方の側は、単に保温材を設けるか、若しくは特別な構造のない表面であって、温度制御側からの熱伝導により自動的に温度調節されてよい。
【0051】
温度調節器200は、加熱器、冷却器、放熱器、又はこれらの組み合わせであって良い。即ち、上記でいう温度調節は、低温雰囲気中に於ける加熱であっても、高温雰囲気中に於ける冷却であっても良い。又、例えば、低温雰囲気中に於ける加熱の場合に、一定量の熱量を発生する加熱器と、冷却量や放熱量が制御される冷却器や放熱器との組み合わせであっても良い。
【0052】
また、温度調節器200の温度制御は、温度センサーからのフィートバックによる電気的な制御であっても良いし、電気抵抗の非直線性などを利用して、自動的に適温に調節される発熱素子を用いたものであっても良い。
【0053】
温度調節器200は、精留管11の長さ方向に温度勾配を有することが好ましい。その勾配は、液体流通領域2のA端とB端の間の各位置における液体の沸点の曲線に合わせることが好ましい。そのため、温度調節器200は、該温度勾配の最高温部の温度を、高沸点成分が濃縮された液体の沸点以上、該温度勾配の最低温部の温度を低沸点成分が濃縮された液体の沸点以下の温度に制御出来ることが好ましく、また、精留管11のA端とB端の間で直線状又は上に凸の(即ち、直線状より中央部の温度が高い)曲線が好ましい。このような温度調節器200としては、例えばA端相当部位からB端相当部位の間に3以上の温度制御されたヒーターを有するプレート状の温度調節器200でもって実施できる。
【0054】
温度調節器200の温度勾配は近似的な温度勾配であって良く、拡大して見ればうねりを有したり階段状であっても、全体として温度勾配を示していればよい。このような近似的な温度勾配は、3以上の温度制御されたヒーターを並べた温度調節器200の場合に起こりうる。また、温度調節器200自体は滑らかな温度勾配を有していても、精留管11に階段状の温度勾配が付けられる場合もあり得る。これは例えば、マイクロ流体デバイス100中にジグザグに形成された精留管11に、一方向に温度勾配を有する温度調節器200を接触させた場合に生じ得る。
【0055】
精留管11が設けられたマイクロ流体デバイス100が板状又はシート状であって、液体流通領域2が該マイクロ流体デバイス100の一方の面に近い側に形成され、気体流通領域1が裏面に近い部分に形成されている場合には、温度調節器は、該マイクロ流体デバイス100に密着又は近接可能な平面部を有する形状とすることが好ましい。またこのとき、液体流通領域2側には温度勾配を有する温度調節器200を配し、気体流通領域1側には、実質的に温度勾配の無い温度調節器200、または液体流通領域2および自動的に一定温度だけ高く温度調節される温度調節器200が好ましい。気体流通領域1側の温度調節器200としては、ITO蒸着ガラスやZnO蒸着ガラスのような透明ガラスヒーターや、2枚のガラス間に熱媒を流す温度調節器200を設置することが、該透明ガラスを通して流路を観察できるため好ましい。
【0056】
本発明の方法の精留方式によっては、例えば精留原液を蒸気で精留管11の気体流通領域1に供給する場合には、精留原液が完全に気化する温度に調節できる気化部用の温度調節器を有していることも好ましい。
【0057】
[精留方法]
本発明の精留方法は、上記の微小精留装置300を用い、液体流通領域2に流す原液由来の液体と気体流通領域1に流す原液由来の蒸気を多孔質隔膜3を介して向流で接触させることにより精留を行う方法である。本発明の精留方法の対象となる原液に含まれる成分は特に制約はなく、有機物、無機物、常温以上の沸点を持つ物質、常温未満の沸点を持つ物質、等であって良いし、精留は常圧蒸留、減圧蒸留、加圧蒸留であって良い。
【0058】
ここで、「原液由来の液体」とは、原液そのもの、又は、原液を精留処理する途中で生じる、構成成分の組成比が変化した液体を言い、「原液由来の蒸気」とは、原液の完全気化物、又は、原液を精留処理する途中で生じる、構成成分の組成比が変化した蒸気を言う。
【0059】
〔液体相〕
液体流通領域2には上記B端7からA端6方向に液体を流し、温度調節器200によって該液体流通領域2を液体の沸点付近の温度に温度調節することによって、気体流通領域1から高沸点成分を多孔質隔膜3を通って凝縮させると共に、それより下流領域に於いて、液体中の低沸点成分を多孔質隔膜3を通って蒸発させるようにする。勿論、上記高沸点成分の凝縮において、蒸気相と液体相の各組成と各温度によって決められる割合の低沸点成分も凝縮するし、また、上記低沸点成分の蒸発において、蒸気相と液体相の各組成と各温度によって決められる割合の高沸点成分も蒸発する。
【0060】
液体流通領域2の温度が高すぎると液体流通領域2内で全ての液体が気化し、液体流通領域2全体が蒸気相となって単蒸留になってしまい、本発明の精留が行われなくなる。但し、液体流通領域2内に多少の蒸気の気泡や、溶存気体が析出した気泡が形成されても、液体の流れに乗って移動する状態であれば、精留可能であるため、許容される。また、本発明の液体流通領域2のように微細な流路中に於いては、沸点を超えても沸騰しない例があることが知られている。本発明に於いては、沸騰しなければ、温度は沸点以上にしても良い。逆に、液体流通領域の温度が低すぎると、低沸点成分の気化が不十分となり、精留効率が悪化する。
【0061】
液体は液体流通領域1を流れる間に高沸点成分の組成比が増加し、沸点も上昇する。従って、液体流通領域1をその長さ方向の各部に於いて液体の沸点に出来るだけ近く保ち、かつ、液体を沸騰させないようにするためには、液体の流れ方向に対して、順次温度が高くなる温度勾配を設けることが好ましい。本発明に於いては、液体流通領域1各部の温度を、該部分に存在する液体の沸点をTbとしたとき、(Tb−5℃)〜Tbに保つことが好ましく、(Tb−3℃)〜Tbに保つことがさらに好ましく、(Tb−1℃)〜Tbに保つことが最も好ましい。また、液体流通領域2の長さ方向の位置(横軸)対温度(縦軸)の曲線(又は直線)は上に凸であること、即ち、任意の2つの位置の中点の温度は該2点に於ける温度の平均値より高い曲線とすることが、精留効率を増すために好ましい。
【0062】
但し、上記に於いて、液体流通領域2の一部に、例えばB端7付近に、前記範囲より温度の低い部分が存在してもかまわないし、また、液体流通領域2の一部に、例えばA端付近に、前記範囲より温度の高いい部分が存在してもかまわない。ここで言う沸点は、運転圧力に於ける沸騰温度を言う。
【0063】
〔蒸気相〕
一方、気体流通領域1には、前記液体流通領域2中の液体と向流になる向き、即ち、上記A端4からB端5方向に蒸気を流し、精留管11の長さ方向の各位置に於いて多孔質隔膜3を介して液体と接触させる。気体流通領域1は温度調節器200にて、蒸気が凝縮して液体とならない温度に温度調節する。但し、本発明の効果をなくさない程度に時々、気体流通領域1の一部を閉塞する形状に凝縮した液体が蒸気の移動方向に移動することが許容されるし、流路壁に付着した薄い液膜が存在することも許容される。気体流通領域1の温度が低すぎると、凝縮した液体が気体流通領域に充満すると共に多孔質隔膜3の細孔内にも充満して、気体流通領域1と液体流通領域2が液体によって結ばれ、蒸留不能になる。一方、気体流通領域1の温度が高くても、液体流通領域2の温度が上記のように制御されている限り問題なく精留可能である。しかし、気体流通領域1の温度を過度に高くすると、熱伝導によって液体流通領域2の温度が影響を受けて、液体流通領域2内で蒸気が発生するなどの不都合が生じがちである。気体流通領域1の温度の上限は、精留管11の寸法、構造、素材の熱伝導率などによって変わるため一概に限定できないが、好ましくは[高沸点成分の沸点+30℃]以下、更に好ましくは[高沸点成分の沸点+20℃]以下、最も好ましくは[高沸点成分の沸点+10℃]以下である。
【0064】
蒸気が気体流通領域1を流れる間に、高沸点成分は多孔質隔膜3の細孔を通ると共に凝縮して液体流通領域2中の液体に加わり、液体流通領域2中の液体から低沸点成分が蒸発して気体流通領域1中の蒸気に加わる。よって、液体流通領域2中の液体は液体流通領域2中をB端7からA端6方向に流れる間に徐々に沸点が上昇し、気体流通領域1中を流れる蒸気は気体流通領域1中をA端4からB端5方向に流れる間に徐々に凝結温度が低下する。従って、液体流通領域2、気体流通領域1共にA端からB端方向に徐々に温度が低くなる温度勾配を設けることが好ましい。しかしながら、気体流通領域1に関しては、温度は多少高くても問題ないため、該温度分布は設けなくても良い。
【0065】
気体流通領域1には、窒素、アルゴン等の不活性な気体をキャリアガスとして少量流しても良い。気体流通領域1の温度が過剰に低い部分があったり、低くなる時があると、気体流通領域1内で蒸気が凝縮するが、このような場合にもキャリアガスを流すと、該キャリアガスにより凝結液体が押し流されるため、運転の安定度と信頼性が増す。また、液体は多孔質隔膜3の細孔には入り込むが気体流通領域1には入り込まないような、実質的な気液界面が気体流通領域1と多孔質隔膜3との境界面にある状態で運転する場合には、キャリアガスによって気体流通流路1の全圧を液体流通流路2の圧力より高くすることで、上記の状態を安定に維持することが容易になる。
【0066】
精留原液を精留管11に導入する部位や方法、精留成分の取り出し部位や方法は、後述のように、精留の方式によって異なる。
【0067】
〔隔膜気液接触〕
本発明の精留方法に於いて、液体は多孔質隔膜3の細孔に入り込まないような、実質的な気液界面が液体流通領域2と多孔質隔膜3との境界面にある状態としても良いし、液体は多孔質隔膜3の細孔には入り込むが気体流通領域1には入り込まないような、実質的な気液界面が気体流通領域1と多孔質隔膜3との境界面にある状態としても良い。
【0068】
しかし、液体が多孔質隔膜3の細孔に入り込まない条件で運転することが好ましい、このような条件とすることにより、隔膜気液接触による物質交換によって組成の変化した多孔質隔膜3付近の液体と、液体流通領域2中を流れる液体とが混合する速度が向上し、精留効率が増す。
【0069】
液体を多孔質隔膜3の細孔には入り込まないようにするには、多孔質隔膜3に撥溶媒性のものを使用すること、細孔孔径が小さめのものを使用すること、多孔質隔膜3の温度を沸点以上に保つこと、気体流通領域1にキャリアガスを流して気体流通流路1の全圧を液体流通流路2の圧力より高くすること、などの方法で実施できる。これにより、原液を液体流通領域に流す際の圧力の許容範囲が広くなり、操作が容易となる。
【0070】
液体流通領域2中を流れる液体が多孔質隔膜3の細孔には入り込むが気体流通領域1には入り込まない条件で運転する場合は、気体流通領域1の表面を撥溶媒性にし、液体流通領域1の圧力を細孔には入り込むが気体流通領域1には入り込まない圧力で運転すること、気体流通領域1各部の温度を、該部分に相当する液体流通領域2内の液体の沸点(Tb)より十分高い温度、好ましくは(Tb+3℃)以上、更に好ましくは(Tb+5℃)以上の温度に調節する方法、気体流通領域1にキャリアガスを流して気体流通流路1の全圧を液体流通流路2の圧力より高くすること、などにより実施できる。しかしながら、前記第一の場合である、液体が多孔質隔膜1の細孔に入り込まない条件とすることが、上記理由で好ましい、
【0071】
〔理論段数〕
本発明の精留方法は、蒸留の理論段数が単蒸留より高い蒸留方法であり、蒸留の理論段数が好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上であるような蒸留方法である。本発明は、このような理論段数となるよう、精留管の長さなど各部寸法の選定、液体と蒸気の流速、温度条件などの精留条件を制御することにより実施できる。理論段数の上限は、精留管を長くすることにより任意に設定でき、例えば1000段であり得る。
【0072】
[精留方式]
以下、本発明の微小精留装置と精留方法の代表的な精留方式を説明する。
1.回分式精留
〔精留方式1〕
図3は本発明に成る回分式の微小精留装置の、精留管近傍部の模式図である。本精留方式の精留管11は、気体流通領域1のA端4及び液体流通領域2のA端6は共に貯液槽8に接続されている。液体流通領域2のA端6は、連絡流路23により、貯液槽8の、気体流通領域1のA端4から離れた位置に接続されていることも好ましい。液体流通領域2のB端7は閉じられている。気体流通領域1のB端5は、連絡流路22を経て低沸点成分濃縮留分の取り出し部13に接続されている。連絡流路22の途中に冷却部(図示略)を設けることも好ましい。即ち、本方式に於いては、原液導入部12は気体流通領域1のA端4であり、高沸点成分濃縮留分の取り出し部14は貯液槽8となる。
【0073】
温度調節器200aは精留管11のA端部付近が最も高くB端側が低い温度勾配を付けることが出来、温度調節器200bは全体を同一温度に調節できる。
【0074】
貯液槽8に原液を注入し、温度調節器200a、200bの温度を徐々に昇温し、貯液槽8中の原液を、端部4近傍部分から順次沸騰させて、その蒸気をA端4から気体流通領域1に送り込む、気体流通領域1は、温度調節器200bの温度を調節して、その全範囲で蒸気が凝結しない温度に保っておく。一方、温度調節器200aの温度を調節して、液体流通領域2の全範囲で液体の沸点近傍ではあるが沸騰しない温度にする。
【0075】
このとき、貯液槽8中の原液の量が減少するに従い、液体流通領域2の各部における液体の沸点や、気体流通領域1各部における蒸気の凝結点が変化するが、温度調節器200a、200bを調節して、上記の状態を保つようにする。
【0076】
そのようにすると、A端4から気体流通領域1に送り込まれた蒸気は多孔質隔膜3を透過して、液体流通領域2のB端7付近で凝結し、次々と凝結する液体が、以前に凝結した液体を順次押して、液体流通領域2をA端6側に流れ、貯液槽8に戻る。一方、気体流通領域1中を蒸気がA端4からB端5方向に流れ、蒸気と凝結液体は精留管11内で多孔質隔膜3を介して互いに接触しつつ向流で流れる状態を保ち、B端7付近で凝結しなかった余剰の蒸気はB端5から連絡流路22に入り、低沸点成分濃縮留分の取り出し部13から取り出される。連絡流路22の途中を冷却しておくと、該成分は液体として取り出される。連絡流路22に配管を接続して、取り出し部13を精留管11より低い位置に設けると、ポンプ機構を設けなくても低沸点成分濃縮留分は該端部12から自発的に滴下する。なお、本精留方式に於いて、精留原液が3種以上の沸点の異なる成分を含むときは、取り出し部13から、経時的に順次低沸点成分から流出する。
【0077】
本精留方式において、一度に精留する原液の量は任意であるが、例えば1mm〜1cm、さらに好ましくは1mm〜100mm程度の微少量の試料の精留が容易であり、また、3種以上の沸点の異なる液体の混合物を互いに分離精製することが容易である。
【0078】
2.連続式精留
以下の本発明の連続精留方式は、精留原液の処理速度は任意であるが、例えば100μm/分〜1000mm/分、さらに好ましく井は1000μm/分〜100mm/分のような微少流量での連続精留が可能である。そのため、連続反応マイクロリアクタに好適に組み込むことが出来る。また、精留する液体の量に制約がない上、定常状態になった後は精留管各部の温度は時間変化しないため、温度調節が容易である。
【0079】
〔精留方式2−1〕(原液を蒸気で供給する方式)
図4は本精留方式の微小精留装置300の精留管11近傍部の模式図である。本精留方式に於いては、気体流通領域1のA端4が、連絡流路21を経て原液導入部12に接続されていること、及び、液体流通領域2のA端6が、連絡流路23を経て高沸点成分濃縮留分の取り出し部14に接続されていること、以外は上述の精留方式1における微小精留装置300と同様である。
【0080】
本精留方式における精留方法は、貯液槽8中の原液を沸騰させる代わりに、ポンプなどによって原液導入口12から連絡流路21に原液を送り、連絡流路21中又は気体流通領域1のA端4にて気化させ、蒸気状態の原液を気体流通領域1に連続的に送り込むこと、液体流通領域2のA端6から流出する液体、連絡流路23を経て高沸点成分濃縮留分の取り出し部14から取り出すこと、以外は上述の精留方式1の精留方法と同様である。連絡流路23からは、ポンプ機構を設けなくても、高沸点成分濃縮留分は自発的に流出する。
本方式は濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分を得ることが可能である。
【0081】
〔精留方式2−2〕(原液を蒸気で気体流通領域の途中に供給する方式)
図5は本精留方式の微小精留装置300の精留管11近傍部の模式図である。本精留方式に於いては、原液導入部12が、気体流通領域1の途中、即ち、A端4とB端5の中間のいずれかの部分に接続された連絡流路25に接続されていること、気体流通領域1のA端4は、閉じられているか、或いは、不活性気体の導入路21が接続されていること、以外は前記精留方式2−1と同様である。連絡流路25が気体流通領域1に接続される位置は、原液中の低沸点成分が多いほどB端5に近い部分とすることが好ましい。
【0082】
本精留方式の精留方法は、蒸気化された原液を連絡流路25から気体流通領域1の途中に供給すること以外は前記精留方式2−1の場合と同様である。
本方式は、濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分と、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を共に得ることが出来る。
【0083】
〔精留方式2−3〕(原液を液体で供給する方式)
図6は本精留方式における微小精留装置300の精留管11近傍部の模式図である。本精留方式に於ける精留管11は、気体流通領域のA端4が閉じられていること、液体流通領域2のB端7に原液導入部12に接続された連絡流路24が接続されていること、以外は上述の精留方式2−1における微小精留装置300と同様である。
【0084】
本精留方式の精留方法は、原液を、連絡流路24を経てB端7から液体流通領域2に導入すること以外は上述の精留方式2−1の精留方法と同様である。本方式に於いては、気体流通領域1のA端4付近で多孔質隔膜3を通って蒸気を発生させ、次々と発生する蒸気をA端4からB端5方向に自動的に流して、液体流通領域2の液体と向流で物質交換させる。
本方式は、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を得ることが可能である。
【0085】
〔精留方式2−4〕(原液を液体で液体流通領域の途中に供給する方式)
図7は本精留方式における微小精留装置300の精留管11近傍部の模式図である。本精留方式においては、原液導入部12が、液体流通領域2のA端6とB端7の間のいずれかの部分に接続された連絡流路26に接続されていること、液体流通領域2のB端7は閉じられていること、以外は前記精留方式2−3と同様である。連絡流路24が液体流通領域2に接続される位置は、原液中の低沸点成分が多いほどB端7に近い部分とすることが好ましい。
【0086】
本精留方式の精留方法は、原液を液体流通領域2の途中に供給すること、及び、液体流通領域2のB端7が閉じられていること、以外は前記精留方式2−3と同様である。
本方式は、濃縮率の高い低沸点成分濃縮留分と、濃縮率の高い高沸点成分濃縮留分を共に得ることが出来る。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0088】
本実施例で使用する紫外線硬化樹脂組成物の調製方法、および、紫外線照射方法を以下に示す。なお、以下の実施例において、「部」及び「%」は、特に断りがない限り「質量部」及び「質量%」を表わす。
【0089】
[紫外線硬化性の組成物(X1)の調製]
活性エネルギー線重合性化合物としてジシクロペンタニルジアクリレート「DCA−200」(大日本インキ化学工業株式会社製)80部および平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー「ユニディックV−4263」(大日本インキ化学工業株式会社製)20部、光重合開始剤としてチバガイギー社製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュア184」5部、及び、重合遅延剤として関東化学株式会社製2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.1部を均一に混合して紫外線硬化性の組成物(X1)を調製した。
【0090】
[紫外線硬化性の組成物(X2)の調製]
2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを添加しなかったこと以外は紫外線硬化性組成物(X1)と同様にして紫外線硬化性の組成物(X2)を調製した。
【0091】
[紫外線の照射]
250W高圧水銀ランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト250Wシリーズ露光装置用光源ユニットを用い、365nmにおける紫外線強度が50mW/cmの紫外線を、特に指定が無い限り室温、大気中で照射した。
【0092】
(実施例1)
精留方式2−1の精留方式の例を示す。
〔気体流通領域側部材の作製〕
厚さ1mmのアクリル板製の基材51上にスピンコーターを用いて組成物(X2)を塗工し、該塗膜に紫外線を5秒照射して、重合性官能基がまだ残存する程度に前記組成物(X2)が半硬化した樹脂層52を形成した。
【0093】
樹脂層52の上に、スピンコーターにて組成物(X1)を塗工し、フォトマスクを通して気体流通領域1、連絡流路21、及び連絡流路22となるべき部分以外の部分に紫外線照射を40秒行い、重合性官能基がまだ残存する程度に前記組成物(X1)が半硬化した樹脂層53を形成し、非照射部分の未硬化の組成物(X1)を50重量%エタノール水溶液で洗浄除去して、気体流通領域1、連絡流路21及び連絡流路22となるべき溝1、21、22を形成した。
【0094】
一方、厚さ60μmの二軸延伸ポリプロピレンシート(OPPシート)(二村化学社製)を一時的な支持体(図示略)として、その上に組成物(X1)をスピンコートし、フォトマスクを通して気体流通領域1、連絡流路21、及び連絡流路22に相当する部分のみに紫外線を60秒間照射して照射部を硬化させ、位置を合わせて前記樹脂層53上に積層した後剥離して、未硬化の組成物(X1)を樹脂層53の気体流通領域1、連絡流路21、及び連絡流路22以外の部分に転写し、接着剤層56とした。以上のようにして、気体流通領域側部材201を形成した。
【0095】
〔多孔質隔膜層の作製と接着〕
平均孔径0.2μmのポリ四フッ化エチレン(PTFE)製の多孔質膜(アドバンテック社)を組成物(X1)中に浸漬し、真空に減圧した後常圧に戻して、該多孔質膜の細孔中に組成物X1を充満させた。これを、前記OPPシートを一時的な支持体(図示略)として、その上に広げ、ガラス棒にて多孔質膜の細孔に含浸している部分以外の余剰の組成物(X1)を掻き取り、フォトマスクを通して気体流通領域1に相当する部分以外の部分に紫外線を40秒間照射して照射部を半硬化状態とし、n−ヘキサンで洗浄して、未照射部分の未硬化の組成物X1を洗浄除去して、前記一時的な支持体上に、気体流通領域1に相当する部分が連通多孔質膜であり、他の部分の細孔には半硬化状態の組成物(X1)が充填された多孔質隔膜層55を形成した。
【0096】
次いで、前記多孔質隔膜層55を、前記気体流通領域側部材201の前記樹脂層53の上に、位置を合わせて積層し、その状態で紫外線を20秒間照射して接着した後、一時的な支持体(図示略)を剥離除去した。以上のようにして、気体流通領域側部材201と多孔質隔膜層55の積層体を形成した。
【0097】
〔液体流通領域側部材の作製〕
別途、基材51の代わりに一時的な支持体(図示略)として前記OPPシートを用いたこと以外は前記気体流通領域側部材201の作製と同様にして、基材51が無く、樹脂層52の代わりに樹脂層62が形成され、気体流通領域1の代わりに液体流通領域2が形成され、連絡流路21となるべき溝の代わりに連絡流路23となるべき溝が形成され、連絡流路22は無く、樹脂層53の代わりに樹脂層63が形成され、接着剤層56の代わりに接着剤層66が形成された液体流通領域側部材202を、前記一時的な支持体(図示略)の上に作製した。
【0098】
〔精留管を有するマイクロ流体デバイスの作製〕
先に作製した気体流通領域側部材201と多孔質隔膜層55の積層体に、液体流通領域側部材202を位置を合わせて積層し、紫外線を120秒間照射して、接着剤層66を硬化させると共に、基材51上の全ての組成物(X1)を硬化させた後、前記液体流通領域側部材202が乗っている一時的な支持体(図示略)を剥離除去し、精留管11を有するマイクロ流体デバイス100前駆体を作製した。
【0099】
マイクロ流体デバイス100前駆体の基材51側から、連絡流路21の端部、連絡流路22の端部、および連絡流路23の端部において、各連絡流路に届く直径0.5mmの孔をドリルで開け、原液導入部12、低沸点成分濃縮留分取り出し部13、及び高沸点成分濃縮留分取り出し部14を形成し、各開口部に配管接続用のフィッティング67,68、69を接着して図8に示したマイクロ流体デバイス100を得た。
【0100】
〔デバイスの構造観察〕
上記工程1で作製したデバイスを切断して走査型電子顕微鏡にてデバイス各部の寸法を測定したところ、基材51の厚みは1mm、樹脂層52及び樹脂層62の厚みは100μm、樹脂層53及び樹脂層63の厚みは60μm、硬化した接着剤層56、66の厚みは約7μm、多孔質隔膜層55及び多孔質隔膜3の厚みは約100μmであった。また、気体流通領域1、液体流通領域2、多孔質隔膜5、及び連絡流路21、22、23は幅が500μmであった。上記全ての流路及び流通領域は高さが60μmであった。精留管の長さは5cmであった。
【0101】
〔温度調節器の作製〕
10cm×6cm×4mmの鉄板72に3つの電気ヒーター73、74、75及び30mm×30mmの角パイプ状の放熱器76を無機接着剤で接着した。また、該鉄板75の側面には直径2mm、深さ10mmの穴を開け、この穴に熱電対78、79、80を無機接着接着剤を用いて埋め込んだ。また、放熱器76の一方の端にファン77を接着した。以上のようにして図9に示した温度調節器200aを作製した。
【0102】
一方、7cm×6cm×1mmのITO蒸着ガラス板82の、長手方向の両端部のITOコート面に、長さ6cm、幅3mmの銅板を銀ペーストで接着して電極86、87とし、そこに銅線88、89を接着した。また、ITO蒸着面の中心部に無機系接着剤にて熱電対90を接着した。さらに、ITO蒸着面の裏面に、外寸7cm×6cm、幅3mmの角環状で、厚さ1mmの耐熱性ゴム系のスペーサー91を無機系接着剤で接着した。以上のようにして図10に示した温度調節器200bを作製した。
【0103】
〔精留装置の作製〕
マイクロ流体デバイス100の原液導入部12のフィッティング67にシリンジポンプ(図示略)を接続し、低沸点成分濃縮留分の取り出し部13のフィッティング68、及び、高沸点成分濃縮留分の取り出し部14のフィッティング69に内径500μmのPTFE製のチューブ85を接続した。
【0104】
マイクロ流体デバイス100の液体流通領域側部材202表面に温度調節器200aを密着させて固定し、マイクロ流体デバイス100の気体流通領域側部材201の表面に、スペーサー90、91により1mmの間隔を空けて温度調節器200bを固定した。以上のようにして、微小精留装置300を作製した。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明になるで使用する微小精留装置の模式図である。
【図2】本発明の微小精留装置の精留管周辺部の模式図である。
【図3】本発明の回分式精留の精留方式を示す精留管周辺部の模式図である。
【図4】本発明の連続式精留の精留方式を示す精留管周辺部の模式図である。
【図5】本発明の連続式精留の精留方式を示す精留管周辺部の模式図である。
【図6】本発明の連続式精留の精留方式を示す精留管周辺部の模式図である。
【図7】本発明の連続式精留の精留方式を示す精留管周辺部の模式図である。
【図8】本発明の実施例で作製した微小精留装置の分解見取り図である。
【図9】本発明の実施例で作製した温度調節器の見取り図である。
【図10】本発明の実施例で作製した温度調節器の見取り図である。
【符号の説明】
【0106】
1 気体流通領域
2 液体流通領域
3 多孔質隔膜
4 気体流通領域のA端
5 気体流通領域のB端
6 液体流通領域のA端
7 液体流通領域のB端
8 貯液槽
11 精留管
12 原液導入部
13 低沸点成分濃縮留分の取り出し部
14 高沸点成分濃縮留分の取り出し部
21、22、23、24、25、26 連絡流路
51 基材
52、53、62、63 樹脂層
55 多孔質隔膜層
56、66 接着剤層
67,68、69 フィッティング
72 プレート
73、74、75 電気ヒーター
76 放熱器
77 ファン
78、79、80 熱電対
82 ITOコート・ガラス板
86、87 電極
88、89 銅線
90 熱電対
91 スペーサー
95 チューブ
100 マイクロ流体デバイス
200、200a、200b 温度調節器
201 気体流通領域側部材
202 液体流通領域側部材
300 微小精留装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点の相違する少なくとも2成分を含有する原液から各成分を精留する精留装置であって、
気体流通領域と液体流通領域とそれらを隔てる多孔質隔膜が設けられた精留管と、前記気体流通領域を前記原液の沸点より高い温度に加熱する温度調節器とを有し、
前記精留管中の多孔質隔膜面から対向する液体流通領域の壁までの平均距離が1μm〜300μmであり、多孔質隔膜面から対向する気体流通領域の壁までの平均距離が1μm〜10mmであり、
前記気体流通領域に前記原液から発生させた蒸気を流し、該蒸気のうちの沸点の高い成分が前記多孔質隔膜を透過して前記液体流通領域で液化して該液体流通領域に充満した状態で、液化した液体が前記気体流通領域中の蒸気の流れ方向に対して向流で流れ、且つ沸点の低い成分が前記液体流通領域から前記多孔質隔膜を透過して気化し、前記気体流通領域に還流することにより各成分を精留することを特徴とする精留装置。
【請求項2】
前記精留管が板状のマイクロ流体デバイス中に形成されており、
該マイクロ流体デバイスが、前記気体流通領域となる溝を有する板状の気体流通領域側部材と、前記液体流通領域となる溝を有する板状の液体流通領域側部材とで、前記多孔質隔膜を有する多孔質隔膜部材を挟持して互いに積層固着された構造を有する請求項1に記載の精留装置。
【請求項3】
前記温度調節器が、前記マイクロ流体デバイスの前記気体流通領域側部材側及び/又は前記液体流通領域側部材側に設けられた請求項2に記載の精留装置。
【請求項4】
前記精留管の長さが5〜100mmである請求項1〜3のいずれかに記載の精留装置。
【請求項5】
精留管が組み込まれたマイクロ流体デバイスの液体流通領域側から気体流通領域側方向の熱伝導率が0.01〜10wm−1−1である請求項1〜4のいずれかに記載の精留装置。[疎水性多孔質膜は、従来の膜蒸留(単蒸留)で使用された例があり、拒絶査定の場合の歯止めには成らないため、変更致したく。]
【請求項6】
前記温度調節器が、前記精留管の長さ方向に温度勾配を形成できるものである請求項1〜5のいずれかに記載の精留装置。
【請求項7】
前記多孔質隔膜の厚さが10〜500μmの範囲である請求項1〜6のいずれかに記載の精留装置。
【請求項8】
沸点の相違する少なくとも2成分を含有する原液から各成分を精留する精留方法であって、気体流通領域と液体流通領域とそれらを隔てる多孔質隔膜から成る精留管を使用し、
(1)前記気体流通領域に精留すべき原液由来の蒸気を流し、前記液体流通領域に精留すべき原液由来の液体を、前記気体流通領域中の蒸気に対して向流で流し、
(2)前記気体流通領域の温度を、その全領域において、前記気体流通領域内で蒸気が凝結しない温度に保ち、
(3)前記液体流通領域の温度を、その全領域において液体が沸騰しない温度であって、かつ、少なくともその長さ方向の一部の領域に於いて〔液体の沸点(Tm)−10℃〕以上の温度に保ち、
(4)前記精留すべき高沸点成分を前記多孔質隔膜を透過して前記液体流通領域中へ凝結させ、かつ、前記液体流通領域の、前記凝結させる位置より下流部分において、前記精留すべき低沸点成分を前記液体流通領域から前記多孔質隔膜を透過して気化させ、前記気体流通領域に還流させ、
(5)前記気体流通領域から低沸点成分濃縮留分を取り出し、前記液体流通領域から高沸点成分濃縮留分を取り出す
ことを特徴とする精留方法。
【請求項9】
前記液体流通領域に、液体の流れ方向に順次温度が高くなる温度勾配を設けてなる請求項8に記載の精留方法。
【請求項10】
前記温度勾配が、前記液体流通領域の長さ方向の位置に対する温度の曲線が上に凸であるような温度勾配である請求項9に記載の精留方法。
【請求項11】
精留が、精留する原液の量が1mm〜1cmである回分式の精留である請求項8〜10のいずれかに記載の精留方法。
【請求項12】
精留が、精留原液の処理速度が100μm/分〜1000mm/分である連続式の精留である請求項8〜11のいずれかに記載の精留方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−198542(P2006−198542A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13984(P2005−13984)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】