説明

微小部品およびその製造方法

【課題】厚さが0.5mm以下のような微小な部位を有する金属製微小部品において、結晶粒の成長を抑制し、少なくとも微小な部位を多結晶で構成した微小部品を提供する。
【解決手段】少なくとも厚さが0.5mm以下の部位微小部品製造に当たり、焼結後の結晶粒の粒径を25μm以下とする。原料粉末として最大粒径が25μm以下のものを用い、原料粉末を結晶粒が成長しないよう焼結することで微小部品の結晶粒の粒径を25μm以下とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属製の微小部品およびその製造方法に係り、特に、厚さが0.5mm以下の部位を有する金属製微小部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル家電製品や先端医療機器、あるいはIT機器等の技術分野においては、デバイスの小型化・高機能化に伴い、その構成部品に対する小型化・薄肉化の要求が益々高まってきている。たとえば、小型・薄肉の微小歯車(モジュール:0.05mm、歯先径:0.5mm、厚さ:0.4mm程度)等の微小部品のような小型化・薄肉化した部品の要求が高まってきている。このような微小部品としては、金型のモールドに樹脂を射出成形した樹脂製の微小部品が一般的に用いられているが、樹脂製の微小部品は強度や耐摩耗性が低く、かつ樹脂の劣化等の問題を有しており、金属製の微小部品が望まれている。
【0003】
一般に、歯車等の金属製機械部品の製造には、プレスによる打ち抜き等の剪断加工や、切削加工が行われる。しかしながら、微小歯車等の微小部品を剪断加工により製造する場合、ダイやパンチの作製が難しく、かつ剪断加工時の圧力によりダイやパンチの微小な部分が破損し易い。また、微小歯車等の微小部品を切削加工により製造する場合、特殊な工具が必要となるとともに加工コストが高く、大量生産に不向きである。また、放電加工や、半導体デバイスの製造プロセス等により金属製微小部品を製造することもできるが、これらの製造方法は上記の機械加工に比して更に加工コストが高く、かつ大量生産に不向きである。
【0004】
歯車等の金属製機械部品の製造方法としては、上記の方法の他、粉末冶金法が用いられている。粉末冶金法は、原料粉末を押型の型孔内に充填し、これをパンチで加圧して圧粉成形して得られた粉末成形体を焼結する押型法と、原料粉末を多量のバインダとともに混練した流動状態にある原料を金型内の空隙に加圧充填し、得られた粉末成形体を加熱してバインダを除去した後、焼結する射出成形法に大別される。
【0005】
押型法では、原料粉末の流動性および金型との潤滑性を得るために、1質量%以下程度の成形潤滑剤を原料粉末に混入させることがあるが、成形潤滑剤の添加量が少ないことから、焼結工程のはじめの段階で成形潤滑剤を揮発除去することが容易で、脱脂工程が短時間で済むという利点がある。押型法では、原料粉末の金型への充填は、フィーダ(粉箱)と呼ばれる粉末供給装置より原料粉末を金型と下パンチ等で形成される空間に落とし込む方法で行われるが、この方法では充填にばらつきが生じることが避けられない。一方、狭小な部位を有する微小な製品を製造する場合、このばらつきは許容することができる範囲ではなく、また、狭小な部位を形成するために押型に微小な隙間を設けてこの隙間に原料粉末を充填しようとすると、原料粉末の粒径が小さいものを用いる必要がある。この場合、原料粉末の流動性が低下するとともに充填性が低下して、安定した原料粉末の供給を行うことができないといった不具合が生じる。
【0006】
射出成形法は、上記の押型法では造形することができないアンダーカット等を有する形状のものでも造形することができるという利点がある。しかしながら、原料の流動性を確保するため原料粉末に30〜70体積%の熱可塑性樹脂等のバインダを添加して混練するため粉末成形体に多量のバインダを含有しており、このため、バインダを除去する脱バインダ工程に時間がかかるという欠点がある。また、肉厚が0.1〜0.3mm程度の薄肉部に対しては金型のキャビティが小さくなりすぎるため、金属粉末をキャビティに均一に充填することが難しい。すなわち、射出成形法においては、原料はゲートおよびランナを介して金型内に射出されるが、原料を充填する金型の空隙が微小であると、このような空隙内部に原料を充填するためには原料を高圧で充填しなければならない。しかしながら、射出成形装置を高圧化することは現実的ではない。すなわち、高圧で射出成形を行うと、金属粉末とバインダの分離が生じたり、金型の合わせ部に原料が入り込んでバリが生じることがあるからである。一方、バインダを増量して原料の流動性を高める検討も行われているが、バインダを増量すると焼結後の寸法収縮が大きくなり製品の変形という問題が生じてくる。これらのことから、現実的に射出成形可能な肉厚の限界は0.5mmである。
【0007】
このような状況の中、押型法と射出成形法の長所を兼ね備えた造形法が提案されている(特許文献1、2等)。この造形法は、原料粉末に通常の押型法で与える以上の多量のバインダ等を与えた原料を用いて押型成形する方法である。特許文献1に記載のものは、冷陰極蛍光ランプ用電極に係る発明であり、モリブデン粉末またはタングステン粉末からなる金属粉末に、熱可塑性樹脂とワックスからなるバインダを40〜60体積%添加し、加熱混練して原料を調整する原料調整工程と、原料を所定量、押型の型孔内に充填する充填工程と、押型内の原料をパンチで加圧して有底円筒状に成形する加圧成形工程と、この加圧成形工程の後に得られた有底円筒状成形体を押型から抜き出す抜き出し工程と、押型から抜き出された有底円筒状成形体を加熱してバインダを除去する脱バインダ工程と、脱バインダされた有底円筒状成形体を加熱して粉末どうしを拡散結合する焼結工程とを行うことにより、円筒部の厚さが0.1〜0.2mmという狭小部を有する微小な焼結部品を製造することができるとしている。また、上記特許文献1においては、原料を熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度に加熱して成形工程を行い、原料を熱可塑性樹脂の軟化点以下、かつワックスの軟化点以上の温度に冷却して抜き出し工程を行うことが記載されている。そして、上記造形法を適用した微小部品および微小歯車の製造方法も提案されている(特許文献3、4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−344581号公報
【特許文献2】特開2009−091651号公報
【特許文献3】特開2011−088411号公報
【特許文献4】特開2011−089192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、金属の結晶粒は高温に曝されると、結晶粒の内あるものが隣接する結晶粒を吸収して成長し、結晶粒が増大する現象が生じる。この現象を結晶粒の成長というが、これは結晶粒界の持つ全界面のエネルギーを減少させて全体としてより安定な状態となろうとするために生じる現象である。特に、元々の結晶粒が微細であればあるほど、結晶粒界の量が多く界面の持つエネルギーが大きいことから、微細な結晶粒からの成長が生じ易い。
【0010】
粉末冶金法による機械部品の製造においては、焼結工程において原料粉末どうしの拡散による接合を生じさせる焼結を行うが、焼結による拡散駆動のエネルギーが充分に与えられる温度領域では、同時に結晶粒の界面エネルギーを減少する方向に駆動するエネルギーが与えられることとなり、焼結工程において、金属の結晶粒は成長し易い。一般の歯車部品等においては、元々の歯部の厚さが数mmと大きいため、結晶粒がある程度成長してもそれほど大きな問題とはならない。
【0011】
しかしながら、上記の特許文献3、4等に記載の製造方法により得られる金属製の微小部品のように、例えば図1に示すような歯元の厚さdおよび/またはdが0.5mm以下のような微小部品の場合、結晶粒の成長が生じて図9(a)に示すように歯部1aが一つの結晶に成長すると、歯部1aと本体1bとの結晶粒界1cが歯元近傍に位置するとともに、この結晶粒界1cが単一の結晶粒界として形成される。これは、結晶粒が界面の持つエネルギーを最小にする、すなわち結晶の界面の面積を最小となるように成長する結果、歯元近傍の最も厚さの小さい部分が結晶粒界となるよう成長するためである。歯車の歯元部分には応力が集中し、最も強度が必要となる部位であるが、図9(a)のように歯元近傍部分に単一の結晶粒界が配置されると、単一の結晶粒界から破断が生じ、歯部の折損が生じ易くなる。図9(b)は、このような結晶粒が成長した微小歯車の歯元部近傍の光学顕微鏡写真像であり、写真中左側が歯先であり、右側が歯車本体部である。図9(b)より、実際に結晶粒が成長して、歯車の歯元部近傍に結晶粒界が配置されていることがわかる。
【0012】
本発明は、上記のような例えば歯元の厚さが0.5mm以下のような微小な部位を有する金属製微小部品において、結晶粒の成長を抑制し、少なくとも微小な部位を多結晶で構成した微小部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[微小部品の金属組織]
本発明が対象とする厚さが0.5mm以下の部位を有する微小部品の一例を図1に示す。図1の微小部品は歯車を有し、歯部の歯元の厚さdおよびdの一方もしくは両方が0.5mm以下の厚さとなっている。本発明の金属製微小部品においては、このような0.5mm以下の厚さとなる部位を、図2に示すように多結晶として構成する。このように0.5mm以下の厚さとなる部位を多結晶として構成すると、歯元が最小となる部位において、多数の結晶が存在し、結晶粒界が多数で構成されるとともに屈曲して構成される。このため、歯元強度が著しく向上する。このような効果を発揮するために、厚さが0.5mm以下の部位における最大結晶粒径は25μm以下とする。なお、本発明における「厚さが0.5mm以下の部位」とは、上記微小歯車の歯元部のように、その両側で厚さが大きくなる部位(例えばアンダーカット形状)であり、原料の流入を阻害するする部位のことを意味する。
【0014】
上記の多結晶の金属組織を得やすくするため、金属組織中に金属炭化物が分散する金属組織とすると、炭化物が結晶粒の成長を阻害するするため効果的である。なお、図2において小さな○は結晶粒界に析出した金属炭化物を示す。このような効果を得るため炭化物の結晶粒径は5μm以下とすることが好ましい。
【0015】
[微小部品の製造方法]
上記のような金属組織を示す微小部品は、特許文献1、2に記載された製造方法、すなわち、原料粉末に熱可塑性樹脂とワックスからなるバインダを35〜60体積%添加して、加熱混練して原料を調整する原料調整工程と、原料を所定量、押型の型孔内に充填する充填工程と、押型内の原料をパンチで加圧して成形する加圧成形工程と、加圧成形工程の後に得られた粉末成形体を抜き出す抜き出し工程と、抜き出された粉末成形体を加熱してバインダを除去する脱バインダ工程と、脱バインダされた粉末成形体を加熱して粉末どうしを拡散結合させる焼結工程とを備えた微小部品の製造方法において、原料粉末として粒径が25μm以下の粉末を用いることにより製造することができる。このような粒径の原料粉末を結晶粒が粗大化しないように焼結することで、上記のように多結晶となる金属組織とする。
【0016】
ここで、粉末冶金法で一般的な押型法による焼結部品の原料粉末では、押圧による緻密化のため、主原料粉末(母粉)は圧縮性を考慮して純鉄粉末を用い、鉄を強化する炭素や銅等の元素については黒鉛粉末や銅粉末等の単味粉末の形態でこれらを添加混合した混合粉末の形態で用いることが一般的であるが、本発明が対象とする微小部品の場合、上記のような混合法による原料粉末を用いると、黒鉛粉末や銅粉末等から純鉄粉末に炭素や銅等の元素が拡散する際に黒鉛粉末や銅粉末が存在していた箇所に空隙が生じるカーケンダルボイドが発生して、微小な歯元に空隙が形成される虞がある。このため、本発明の微小部品の製造方法においては、原料粉末として全成分を均一に合金化した鉄合金粉末を用いることが好ましい。このように原料粉末に炭素等の強化元素を予め合金化しておけば、焼結による元素の拡散に伴う空隙の発生を防止することができる。
【0017】
焼結後の結晶粒の粒径を25μm以下とするため、原料粉末として最大粒径が25μm以下のものを用いる。このような原料粉末を結晶粒が成長しないよう焼結することで微小部品の結晶粒の粒径を25μm以下とすることができる。
【0018】
なお、原料粉末の粒径は細かいものほど好適であるが、上記のような鉄合金粉末は、気相合成法や還元法等の微粒子製造法によって製造することが難しい。このため、鉄合金粉末は、現在のところ一般的なアトマイズ法により製造する他ないが、アトマイズ法により製造した鉄合金粉末を微粉のみ分級して使用するとコストが増大する。具体的には、最大粒径が1μmより小さい粉末は高価であるため好ましくない。この点から原料粉末の最大粒径が1〜25μmとなる原料粉末が好ましい。
【0019】
また、上記製造方法によれば微小部品の厚さが最小の部位の厚さが0.5mm以下の0.25mm、あるいは0.1mmであっても容易に製造可能であるが、微小部品の厚さが最小の部位の厚さに対して、結晶粒径が1/3よりも大きいと微小部品の厚さが最小の部位に配置される結晶の数が少なくなって、多結晶とすることによる強度向上の効果が乏しくなる。このため最大粒径が20〜25μmとなる原料粉末を用いる場合、微小部位の厚さが最小の部位の厚さは0.075mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であるとさらに好ましい。また、そのような微小部位の厚さが0.075mmよりも小さい場合には、原料粉末の最大粒径が小さいもの、例えば最大粒径が16μm以下のものを用いることが好ましい。一方、原料粉末の粒径が小さくなるほど、焼結時の結晶粒成長が顕著となるが、最大粒径が1μm程度の原料粉末を用いる場合、微小部位の厚さは0.01mm程度まで小さくても製造可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の微小部品は、例えば歯元の厚さが0.5mm以下のような、厚さが0.5mm以下の部位を有する金属製微小部品であっても、少なくとも厚さが0.5mm以下の部位における結晶粒径を25μm以下として、多結晶としたため、歯元の強度が確保される。また、本発明の微小部品の製造方法では、上記の微小部品を低コストで量産可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】微小部品の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の微小部品の歯部の金属組織の模式図である。
【図3】本発明の実施形態で製造する微小部品の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態で製造する微小部品の成形工程を説明する模式図である。
【図5】本発明の実施形態で製造する微小部品の成形工程を説明する模式図である。
【図6】本発明の実施形態を実施するための成形金型装置を構成する上下のダイの一部断面図である。
【図7】本発明の実施形態で製造した微小部品の外観を示すSEM写真像である。
【図8】本発明の実施例で製造した微小部品の断面を金属組織観察した光学顕微鏡写真像である。
【図9】(a)は従来の微小部品の歯部の金属組織の一例を示す模式図であり、(b)は歯元の光学顕微鏡写真像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)微小部品
本実施形態では、例えば図3に示すような微小歯車Gを製造する。図3に示す微小歯車Gは、外径1mm、厚さ0.1mmの円板部4の上部に、歯先径0.5mm、歯数10、歯元の厚さ0.05mmの平歯車部8が形成され、平歯車部8の上面の中央に軸部5が形成され、円板部4の下面の中央に軸部6が形成された構成である。
【0023】
(2)原料粉末
原料粉末は、カーケンダルボイドの発生を防止するため、全成分を均一に合金化した鉄合金粉末を用いることが好ましい。原料粉末の大きさは上述のとおり、最大粒径が25μm以下のものを用いる。鉄合金粉末の製造には通常のアトマイズ(噴霧)法が用いられるが、微粉のみ製造できるよう、溶湯を微細に噴霧(アトマイズ)して製造してもよく、通常の噴霧を行って得られた合金粉末を分級して用いてもよい。分級は、通常行われる篩分級や、気流による空気分級等により行う。
【0024】
前述のように、原料粉末は、鉄合金粉末中に、炭素とともに炭素と金属炭化物を容易に形成する元素(Cr、Mo、V等)を合金化しておくことが好ましい。この場合、鉄基地中に金属炭化物が分散する金属組織となるが、金属炭化物が結晶粒の成長を抑制して結晶粒径の制御が容易となる。例えば、Cr:0.8〜20質量%、Mo:0.5〜5質量%、V:0.5〜3質量%1種または2種以上を含有するとともに、C:0.6〜2.2質量%を含有する鉄合金粉末を用いることができる。
【0025】
上記の原料粉末となる鉄合金粉末はステンレス合金粉末組成を有するとともに必要な量の炭素も合金化した鉄合金粉末を用いることが好ましい。このような原料粉末を用いて微小部品を製造すると、得られる微小部品は炭化物が分散するステンレス鋼から構成される。ここで、JIS規格に規定されるSUS440相当の合金粉末は、炭化物形成元素としてクロム等の元素を含有するとともに炭素を含有するため、本発明の微小部品の原料粉末として好適である。これを原料粉末として用いて微小部品を製造すると、得られる微小部品はJIS規格に規定されるSUS440相当の合金から構成される。
【0026】
(3)原料調整工程
バインダは、熱可塑性樹脂とワックスからなる。熱可塑性樹脂は、原料に可塑性を付与するために用いられ、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリエチレンビニルアセテート等が用いられる。ワックスは原料、特に金属粉末と金型(ダイおよびパンチを含む)との間の金属接触を防止して加圧成形時に金属粉末の均一な流動を実現するとともに、抜き出し時の粉末成形体と金型間の摩擦を低減して抜き出しやすくするために添加され、パラフィンワックス、ウレタンワックス、カルナバワックス等が用いられる。このような作用を有する熱可塑性樹脂とワックスは、20:80〜60:40の範囲で構成すると好適なバインダとなる。このようなバインダを原料全体に対する割合が35〜60体積%となるように鉄合金粉末等の原料粉末に混合して原料を調整する。
【0027】
(4)成形工程
(4−1)成形金型装置
図4(a)〜(d)、図5(a)〜(d)は、図3に示す微小歯車Gの粉末成形体7Aを成形するための成形金型装置と成形工程を示している。まず、図4により成形金型装置の構成を説明する。同図で符号10は押し型であり、この押し型10は、上ダイ20と下ダイ30とから構成されている。上下のダイ20,30は、いずれも上下方向に移動可能に設けられ、上下方向に互いに離接可能に配設されている。
【0028】
上ダイ20は、外側ダイ21と内側ダイ25とから構成されている。これら外側ダイ21と内側ダイ25は、それぞれ水平な下面21a,25aを有している。外側ダイ21には、上下方向に貫通する円筒状孔22が形成されており、この円筒状孔22に、円筒状の内側ダイ25が摺動自在に挿入されている。そして、外側ダイ21の円筒状孔22の下端部により、微小歯車Gの円板部4を形成する。
【0029】
内側ダイ25の内部には、上下方向に延び、上方に開口する原料貯留部26が形成されている。原料貯留部26は円筒状の内周面を有しており、その下端部内周面は、下方に向かうに従って先細りとなる円錐状のテーパ部26aに形成されている。そして内側ダイ25の内部には、テーパ部26aの下端から下方に延び、内側ダイ25の下面25aに開口する上パンチ孔27が形成されている。上パンチ孔27は原料貯留部26と同心状で、この上パンチ孔27と原料貯留部26との間が、ゲート28として形成されている。上パンチ孔27の内径は、微小歯車Gの軸部5,6の直径と同等に設定されている。
【0030】
内側ダイ25の原料貯留部26には、上方の開口から、可塑性を有する原料Pが投入されて貯留される。原料Pとしては、上記の鉄合金粉等の金属粉末に、熱可塑性樹脂とワックスからなるバインダを35〜60体積%程度の比率で添加し混練したもの等が用いられる。
【0031】
原料貯留部26には、上方の開口からプランジャ40が摺動自在に挿入されている。プランジャ40の軸心には、上パンチ50が、プランジャ40の摺動方向である上下方向に沿って貫通されている。上パンチ50は、下降すると下端部が上パンチ孔27に摺動しながら挿入される。この時、ゲート28は上パンチ50で閉じられる。また、ゲート28が閉じた状態から上パンチ50を上昇させると、図4(b)に示すように上パンチ50は上パンチ孔27から抜けてゲート28が開くようになっている。
【0032】
下ダイ30は、上ダイ20の外側ダイ21の下面21a、および内側ダイ25の下面25aが当接する水平な上面30aを有している。下ダイ30には、微小歯車Gの平歯車部8の外径よりも小さい内径の円筒状孔31が上下に開口して形成されており、この円筒状孔31に、内側ダイ32が上下方向に摺動自在に挿入されている。図6に示すように、円筒状孔31の上端部の内周面には、微小歯車Gの平歯車部8の歯列を造形する内歯列31aが形成されている。内側ダイ32の中心には下パンチ孔33が形成されており、この下パンチ孔33には、下パンチ60が摺動自在に挿入されている。内側ダイ32および下パンチ60は、上ダイ20側のプランジャ40および上パンチ50と同軸的に配設されている。
【0033】
(4−2)充填工程
上記成形金型装置を用いて微小歯車Gの粉末成形体7Aを成形する工程を説明する。始めに、上ダイ20の内側ダイ25を、外側ダイ21に対して、内側ダイ25の下面25aと下ダイ30の上面30aとの間に微小歯車Gの円板部4の厚さに等しい隙間を設けた状態とし、外側ダイ21の下面21aと下ダイ30の上面30aとを当接させて型締めする。そして、上ダイ20側において、上パンチ50を、下端面が内側ダイ25の下面25aと面一になる状態まで挿入してゲート28を閉じる。下ダイ30側においては、内側ダイ32を、円筒状孔31の上端部の内歯列31aが露出するまで下ダイ30の上面30aよりも下方に位置付け、さらに、下パンチ60を内側ダイ32の上面よりも下降させる。これにより、押し型10内に、上ダイ20側に微小歯車Gの円板部4に対応する部分を有し、下ダイ30側に微小歯車Gの平歯車部8と軸部5に対応する部分を有するキャビティ11を形成する。一方、上ダイ20側の内側ダイ25の原料貯留部26に原料Pをほぼ充満させ、プランジャ40の先端を原料貯留部26に挿入する(図4(a))。
【0034】
次いで、上パンチ50を上昇させて上パンチ孔27から抜き、ゲート28を開ける。これにより、上パンチ孔27を介してキャビティ11と原料貯留部26とが連通する。上パンチ孔27はキャビティ11の一部を構成し、この状態からプランジャ40を押し込んで下降させ、原料Pを、ゲート28から上パンチ孔27を含むキャビティ11に必要量(2mg)注入する(図4(b))。このときのプランジャの圧力は例えば5〜8MPa程度で充分である。
【0035】
(4−3)加圧成形工程
次いで、上パンチ50を下方に押し込んでゲート28を閉じ、さらに上パンチ50を押し込むことにより、キャビティ11内の原料Pを例えば0.1MPa程度の圧力で圧縮する(図4(c)〜(d))。これにより、原料Pは塑性流動して金型に密着することで、上ダイ20側に円板部4と軸部6が造形され、下ダイ30側に平歯車部8と軸部5が造形されて、微小歯車Gの粉末成形体7Aが成形される。
【0036】
(4−4)抜き出し工程
次に、押し型10の型開きに移り、まず、上ダイ20の外側ダイ21を上昇させて円板部4を露出させてから(図5(a))、上パンチ50で粉末成形体7Aを押さえながら、外側ダイ21と内側ダイ25を上昇させて軸部6を露出させる(図5(b))。次いで、下ダイ30を下降させて平歯車部8を露出させ(図5(c))、さらに下ダイ30および内側ダイ32を下降させて軸部5を下パンチ孔33から抜き出す(図5(d))。この後、上ダイ20側の全体を上昇させれば粉末成形体7Aを取り出すことができる。以上が1つの粉末成形体7Aを圧縮成形するサイクルであり、この後、再び図4(a)の状態に戻して上記工程を繰り返し、粉末成形体7Aを複数得る。
【0037】
上記の成形工程は一例であり、上記のように原料粉末にバインダを添加、混練した可塑性の原料を用い、金型装置のキャビティに充填した後、金型(例えばパンチ)を駆動して原料を押圧して塑性流動させて金型内壁に原料を密着させて粉末成形体を造形する方法であれば差し支えなく、他に特許文献3、4等の成形金型装置および成形方法により成形することができる。
【0038】
同じ可塑性の原料を用いる射出成形法においては、ランナ部およびゲート部を介してキャビティに原料を導くため、これらのランナ部およびゲート部の壁面における接触抵抗によりキャビティに原料を充填するための圧力が損失し、微小なキャビティに原料を充填する際に、過大な圧力(例えば100〜200MPa)が必要となる。しかも微小なキャビティに原料を充満しようと射出圧力を増加すると、流動しやすいバインダ成分のみが微小なキャビティに流動してしまい、健全な粉末成形体を得ることが難しい。
【0039】
しかしながら、上記の可塑性の原料を金型装置のキャビティに充填した後、金型(例えばパンチ)を駆動して原料を押圧して塑性流動させ、金型内壁に原料を密着させて粉末成形体を造形する方法では、定量に充填された原料を金型を駆動して所望の形状へ成形するため、金型のキャビティへの充填の圧力は低圧でよく、また、原料に加圧圧力が均等に加わるため微小なキャビティへバインダ成分が分離することなく原料が充填され、効率的に微小な粉末成形体を成形することができる。
【0040】
(5)脱バインダ工程
上記のようにして得られた粉末成形体は、バインダ成分が含まれるため、これを除去するため粉末成形体をバインダ成分の熱分解温度以上の温度に加熱して脱バインダ工程を行う。バインダは、熱可塑性樹脂とワックスからなるが、熱可塑性樹脂およびワックスの熱分解温度近傍の昇温速度が速いと、熱可塑性樹脂およびワックスが急激にガス化して膨張し、粉末成形体の型くずれを引き起こすので、少なくとも熱可塑性樹脂およびワックスの熱分解温度近傍の昇温は緩やかに行う。この観点から脱バインダ工程は、第1段階としてワックスの昇華温度近辺で一旦保持してバインダ成分中のワックス分を除去した後、第2段階として熱可塑性樹脂の熱分解温度近辺で再度保持して熱可塑性樹脂分を除去する、2段階の加熱保持工程とすることが好ましい。また、熱分解に伴うガス発生を徐々に行うために、熱可塑性樹脂およびワックスは熱分解温度の異なる複数のものを配合して用いることが好ましい。
【0041】
(6)焼結工程
上記のバインダの除去を行った後の粉末成形体では、金属粉末どうしは未だ拡散しておらず、金属的に結合していない状態であり、極めて脆い。そこで、金属粉末どうしを金属的に拡散結合させるため焼結を行う。焼結温度は鉄の拡散が生じる800℃以上の温度で、かつ結晶粒が成長して結晶粒径が25μmを越えないような温度範囲で行う。原料粉末として炭素および炭素と炭化物を形成する元素を含んだ鉄合金粉末を用いる場合は炭化物が結晶粒の成長を抑制するので1000〜1200℃程度の温度で30〜60分間保持しするのが好適である。上記のように焼結することにより密度比90%以上の微小部品を製造することができる。
【0042】
ここで、原料粉末として炭素および炭素と炭化物を形成する元素を含んだ鉄合金粉末を用いる場合において、焼結雰囲気が酸素を含有すると鉄合金粉末に含まれる炭素が雰囲気中の酸素と結合し脱炭されて炭化物が析出せず、炭化物による結晶粒成長抑制の作用が得られなくなるため、還元雰囲気とすることが好ましい。また、焼結雰囲気が真空雰囲気(減圧雰囲気)であると、鉄合金粉末表面に吸着している水分および酸素が鉄合金粉末に含まれる炭素と結合して脱炭されて炭化物が析出せず、炭化物による結晶粒成長抑制の作用が得られなくなるため、大気圧下とすることが好ましい。
【0043】
(7)微小部品焼結体
上記の工程により得られた微小部品(焼結体)の外観のSEM写真像を図7に示す。図7(a)は右側に米国の10セント硬貨を比較として並べたSEM写真像であり、図7(b)は図7(a)の微小部品(焼結体)を拡大したSEM写真像である。また、図7(c)は同じ微小部品(焼結体)を米粒と比較して米粒の写真下側に3個角度を変えて並べたSEM写真像である。なお、図7(c)においては、米粒の左に別の微小部品を3個並べてある。このように、上記の製造方法によれば、従来にない微小な金属製の部品を製造することが可能である。なお、上記の製造方法により、得られる微小部品の質量は5mg以下(上記例は2mg)とすることができる。ただし、金属粉末を原料として用いることから、好適に製造できる質量は0.1mg以上である。
【0044】
本発明は上記のような微小歯車Gに限定されるものではなく、微小カム、コンタクトプローブ、微小バランサーおよび内視鏡用等の微小鉗子等あらゆる微小部品に適用可能である。
【実施例】
【0045】
(1)原料粉末
JIS規格のSUS440C相当の組成を有するガスアトマイズ鉄合金粉末を用意し、空気分級して最大粒径が20μmのものを原料粉末として用意した。
【0046】
(2)原料調整工程
熱可塑性樹脂としてポリアセタール(軟化点:110℃、融点:180℃)、ワックスとしてパラフィンワックス(軟化点:39℃、融点61℃)を用意し、熱可塑性樹脂とワックスを4:6の比で混合したバインダを用意した。上記の原料粉末に、このバインダを原料全体に対して40体積%添加し、配合、混練して原料を調整した。
【0047】
(3)成形工程
図4および図5の成形金型装置を用い、上述のように充填工程、成形工程および抜き出し工程を経て図3に示す形状の粉末成形体の成形を行った。原料のキャビティへの充填時の圧力は5MPa、成形圧力は0.1MPaとして行った。
【0048】
(4)焼結工程
得られた圧粉体をバインダが熱分解する500℃まで加熱して120分間保持して脱バインダ工程を行った。このときの雰囲気ガスはアンモニア分解ガス雰囲気を用いた。脱バインダ工程の後、表1に示す焼結温度および焼結雰囲気をアンモニア分解ガス雰囲気(表中の「AX」)と、アンモニア分解ガス雰囲気(表中の「AX」)に少量の酸素ガスを混合した酸素混合ガス雰囲気(表中の「AX+O」)として焼結を行った。焼結時間(焼結温度での保持時間)は60分である。
【0049】
得られた焼結体試料の歯車部で軸に対して鉛直方向に切断し、観察のため樹脂に埋め込んだ後、鏡面研磨し、ピクリン酸飽和水溶液で腐食し、光学顕微鏡で金属組織を観察し、結晶粒の最大径を測定した。この結果を表1に併せて示す。また、図8に試料番号04(図8(a))と試料番号05(図8(b))の断面光学顕微鏡写真像を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より、焼結雰囲気としてアンモニア分解ガス雰囲気(AX)を用いた試料(試料番号01〜04、06)は、焼結温度を高くするに従って結晶粒の最大径が大きくなる傾向を示すが、いずれの場合も結晶粒は25μm以下の範囲となっている。これは析出分散したクロム炭化物が結晶粒の成長を抑制した結果と考えられる。
【0052】
その一方で、焼結雰囲気として酸素混合ガス雰囲気(AX+O)を用いた試料(試料番号05)は炭素が雰囲気ガス中の酸素と反応して脱炭され、クロム炭化物が析出せず、このため結晶粒が粗大に成長している。特に本実施例の場合、焼結体が微小であるため容易に鉄合金中の炭素が脱炭されたものと考えられる。
【0053】
以上より、結晶粒径を25μm以下に抑制して焼結するためには、鉄を主成分として含むとともに、炭素および炭素と炭化物を形成する元素を含んだ鉄合金粉末を使用して、金属組織中に炭化物を分散させると、結晶粒を容易に制御できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の微小部品は、金属製であり強度が高く、デジタル家電製品や先端医療機器、あるいはIT機器等に使用される微小部品に好適である。
【符号の説明】
【0055】
4…円板部、5…軸部、7A…粉末成形体、8…平歯車部、6…軸部、10…押し型、11…キャビティ、20…上ダイ、21…外側ダイ、25…内側ダイ、26…原料貯留部、27…上パンチ孔、28…ゲート、30…下ダイ、33…下パンチ孔、40…プランジャ、50…上パンチ、60…下パンチ、G…微小歯車(微小部品)、P…原料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.5mm以下の部位を有する金属製微小部品であって、少なくとも前記0.5mm以下の部位における結晶粒径が25μm以下であることを特徴とする微小部品。
【請求項2】
少なくとも前記厚さが0.5mm以下の部位において、鉄基合金基地中に結晶粒径が5μm以下の炭化物が分散した金属組織を示すことを特徴とする、請求項1に記載の微小部品。
【請求項3】
ステンレス鋼合金からなることを特徴とする請求項2に記載の微小部品。
【請求項4】
前記ステンレス鋼合金が、JIS規格に規定されるSUS440相当の合金であることを特徴とする請求項3に記載の微小部品。
【請求項5】
前記微小部品の質量が5mg以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微小部品。
【請求項6】
前記微小部品の密度比が90%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微小部品。
【請求項7】
前記微小部品の厚さが最小の部位に対して、結晶粒径が前記厚さの1/3以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の微小部品。
【請求項8】
前記微小部品が、歯車形状を有し、前記厚さが0.5mm以下の部位が歯部の歯元であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の微小部品。
【請求項9】
原料粉末に熱可塑性樹脂とワックスからなるバインダを35〜60体積%添加し加熱混練して原料を調整する原料調整工程と、
前記原料を所定量、押型の型孔内に充填する充填工程と、
前記押型内の前記原料をパンチで加圧して成形する加圧成形工程と、
前記加圧成形工程の後に得られた成形体を抜き出す抜き出し工程と、
抜き出された成形体を加熱してバインダを除去する脱バインダ工程と、
脱バインダされた成形体を加熱して粉末どうしを拡散結合させる焼結工程とを備えた微小部品の製造方法において、
前記成形体が厚さが0.5mm以下の部位を有しており、
前記原料粉末として粒径が25μm以下の粉末を用いることを特徴とする微小部品の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉末が、鉄を主成分として含むとともに炭素および炭素と炭化物を形成する元素を含んだ合金粉末であることを特徴とする請求項9に記載の微小部品の製造方法。
【請求項11】
前記合金粉末として、ステンレス鋼合金粉末を使用することを特徴とする請求項10に記載の微小部品の製造方法。
【請求項12】
前記合金粉末として、JIS規格に規定されるSUS440相当の合金粉末を使用することを特徴とする請求項11に記載の微小部品の製造方法。
【請求項13】
前記脱バインダ工程を、大気圧の還元雰囲気中で行うことを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の微小部品の製造方法。
【請求項14】
前記焼結工程を、大気圧の還元雰囲気中で行うことを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の微小部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−87361(P2013−87361A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232524(P2011−232524)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】