説明

微生物の毒素産生抑制剤

【課題】微生物の増殖を妨げることなく毒素産生を抑制する毒素産生抑制剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を含有する、微生物の毒素産生抑制剤。
RO−[(EO)m(PO)n]−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、m及びnは平均付加モル数であり、0≦m<20、0<n≦20、及び0<m+n≦20であり、EOとPOとはブロック付加またはランダム付加である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物が産生する毒素の産生を抑制し、これに起因する危害を防止するための毒素産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物由来の毒素は微生物が増殖することによって細胞内から産生することが知られており、微生物由来の毒素が産生すると様々な分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内に存在する微生物が毒素を産生すると製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。医療の面では、医療器具の狭い隙間や空孔内に残存した微生物が産生する毒素が原因で院内感染を引き起こすことが知られている。またその他の事例としては、皮膚表面に生息する微生物が産生する毒素により、頭皮のかゆみあるいは創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、接触皮膚炎の悪化などの様々なトラブルが引き起こされることが知られている。
【0003】
これまで毒素の産生を抑制するためには、微生物を殺すことにより微生物を増殖させない考え方が一般的に検討されてきた。微生物を殺すアプローチとして、特許文献1では脂肪族アルコールなどの抗菌性油相と乳化剤でエマルジョンを調製した組成物を使用することで菌数を低減できることが開示されている。
【0004】
また微生物を殺すアプローチは、皮膚(人体)への刺激性が高いので皮膚トラブル、例えば創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化につながることや、薬剤耐性菌を出現させる原因となる。これらの問題点を改善する目的で柑橘類由来のモノテルペンを使用して微生物由来の毒素を産生抑制することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−524257号公報
【特許文献2】特開2005−314275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に代表される、微生物を殺すアプローチは、一次的な殺菌効果はあるものの、経時的な毒素産生抑制効果、例えば日単位での毒素産生抑制効果には問題があり、結果的に長期にわたる毒素の産生は抑制できていなかった。上述した問題以外にこれらの剤を用いたアプローチは皮膚への刺激性が高く、また病原微生物だけでなく生体防御としての役割を果たしている皮膚常在菌(staphylococcus epidermidisなど)に対しても作用してしまうので、皮膚トラブル、例えば頭皮のかゆみあるいは創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化につながることが知られており、そのため汎用的に使用することは難しい。
【0007】
また、特許文献2の手法も毒素産生抑制効果に問題があり、いまだ不十分である。そこで、さらに毒素産生抑制能に優れた剤が求められていた。
【0008】
従って、本発明の課題は、微生物の増殖を妨げることなく微生物が産生する毒素の産生を抑制し、これに起因する危害を防止するための毒素産生抑制剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を含有する、微生物の毒素産生抑制剤に関する。
RO−[(EO)m(PO)n]−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、m及びnは平均付加モル数であり、0≦m<20、0<n≦20、及び0<m+n≦20であり、EOとPOとはブロック付加またはランダム付加である。)
【0010】
また、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を、微生物の増殖を妨げない濃度であって、かつ、該微生物の毒素産生を抑制するために有効な濃度で、該微生物に適用する、微生物の毒素産生抑制方法に関する。
【0011】
また、本発明は、上記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)〔以下、成分(A)という〕を、微生物の増殖を妨げない濃度であって、かつ、該微生物の毒素産生を抑制するために有効な濃度で、該微生物が付着し得る対象物に予め適用する、微生物の毒素産生予防方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微生物の増殖を妨げることなく毒素の産生を抑制することができる微生物の毒素産生抑制剤が提供される。また、これを用いた微生物の毒素産生抑制方法と微生物の毒素産生予防方法が提供される。本発明の毒素産生抑制剤は、微生物の増殖を妨げないため、殺菌剤のような、薬剤耐性菌発生による効果の減弱化や皮膚常在菌への作用の問題もない。また、一般的な殺菌剤が適用直後の殺菌力により短期的な効果を得ているのに対し、本発明の毒素産生抑制剤は、適用後、経時的に微生物の毒素産生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔毒素産生抑制剤〕
<成分(A)>
本発明の毒素産生抑制剤は成分(A)として、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物を含有する。
RO−[(EO)m(PO)n]−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、m及びnは平均付加モル数であり、0≦m<20、0<n≦20、及び0<m+n≦20であり、EOとPOとはブロック付加またはランダム付加であり、ブロック付加が好ましい。)
【0014】
ここで、Rで示される炭化水素基は、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であり、これらは直鎖でも分岐鎖でもよいが、毒素産生抑制の観点から、炭素数10〜18のものが好ましく、炭素数12〜18がより好ましく、炭素数12がさらに好ましい。また、これらの炭素数を有するアルキル基が好ましい。
【0015】
また、EOで示されるエチレンオキシ基の平均付加モル数mは、毒素産生抑制及び溶解性の観点から、0≦m<20であり、1≦m≦15が好ましく、2≦m≦10がより好ましく、2≦m≦7がさらにより好ましい。POで示されるプロピレンオキシ基の平均付加モル数nは毒素産生抑制及び溶解性の観点から、0<n≦20であり、1≦n≦10が好ましく、1≦n≦7がより好ましい。また、m+nは、毒素産生抑制及び溶解性の観点から、0<m+n≦20であり、2≦m+n≦15が好ましく、2≦m+n≦10がより好ましく、3≦m+n≦7がさらにより好ましい。
【0016】
成分(A)のうち、EOとPOがブロック付加した化合物として、下記一般式(1−1)〜(1−1)で表されるものが挙げられるが、毒素産生抑制効果の観点から、どれを用いても構わない。
RO−[(EO)m−(PO)n]−H (1−1)
RO−[(PO)n−(EO)m]−H (1−2)
RO−[(EO)m1−(PO)n−(EO)m2]−H (1−3)
(式中、R、EO、PO、m及びnは一般式(1)と同じである。m1、m2は、m1+m2=mとなる数である。)
【0017】
本発明の毒素産生抑制剤は、微生物の増殖を妨げることなく長期的な毒素産生抑制効果を発揮できる重量濃度として、成分(A)を1〜10000ppm含有することができる。経済性と毒素産生抑制効果の観点から2〜1000ppmが好ましく、3〜100ppmがより好ましく、5〜50ppmが更に好ましく、10〜20ppmが特に好ましい。この濃度で微生物に適用することで、本発明の毒素産生抑制剤が微生物と接触してから24時間以上毒素の産生を抑制する効果が持続することが好ましい。また、この濃度範囲で成分(A)を含有する場合、好ましくはこの濃度範囲の成分(A)と水とを含有する液状の形態である場合は、そのまま微生物に適用することができる。また、後述する本発明の微生物の毒素産生抑制方法や微生物の毒素産生予防方法では、微生物の増殖を妨げない濃度を、前記の濃度範囲から選択することができる。
【0018】
野菜や食器類、調理器具や、食品又は飲料製造プラントには病原微生物である黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌、セレウス菌(Bacillus cereus)などが生息している。また医療機器(内視鏡や人工透析など)や人体(皮膚や粘膜、毛髪など)、家具、窓や壁、風呂、トイレには黄色ブドウ球菌や緑膿菌などが生息している。上述したような器具や機器、人体、硬質表面などに生息する病原微生物が増殖すると毒素を産生することが知られている。この病原微生物が産生する毒素により様々なトラブルが引き起こされる。例えば、野菜や食器類、調理器具や、食品又は飲料製造プラントなどに存在する黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌が産生するエンテロトキシンやボツリヌストキシンが原因で食中毒を引き起こされる。また、医療の面では医療機器(内視鏡や人工透析など)や人体(皮膚や粘膜、毛髪など)などに存在する黄色ブドウ球菌や緑膿菌由来の様々な毒素が原因で院内感染を引き起こされる。またその他の事例としては、皮膚表面に生息する黄色ブドウ球菌由来のα−トキシンやδ−トキシン、表皮剥離毒素などにより、頭皮のかゆみあるいは創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、接触皮膚炎の悪化などの様々なトラブルが引き起こされる。
【0019】
本発明の毒素産生抑制剤の毒素産生抑制能については、後述の実施例1に示した通り、本発明の毒素産生抑制剤を黄色ブドウ球菌に対して作用させた時に産生されるδ−トキシン量(V1)が、本発明の毒素産生抑制剤を作用させない時に産生されるδ−トキシン量(V0)と比較して減少する程度〔即ち、(V0−V1)の大小〕により確認することができる。
【0020】
本発明において、「微生物の増殖を妨げない」とは、本発明の毒素産生抑制剤を微生物に適用し、所定の条件にて微生物(菌)を培養後、静止期(stationary phase:細菌の分裂率と死滅率が平衡に達して生菌数が一定となる、例えば、最も菌濃度が高い時期)における微生物の数(菌数)Nが、コントロールの微生物の数(菌数)N0と比べて、微生物の数(菌数)の比が0.1<N/N0<10となることである。他方、微生物の増殖を妨げるとは、N/N0≦0.1となることである。この菌数は、後述の実施例のように、便宜的に培地中の微生物に対して試験した結果であってもよい。
【0021】
本発明の毒素産生抑制剤は、黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌に対する増殖抑制効果を持たないものが好ましい。更には、前記範囲の濃度で成分(A)を含有し、黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌に対する増殖抑制効果を持たないものが好ましい。なお、ここで、「増殖抑制効果を持たない」とは、108cfu/mL以下の濃度の菌液に対して対象となるサンプルの化合物を用いた場合に、Tryptic Soy Broth No.2培地にて37℃の条件で培養した場合、静止期(stationary phase)において、グラム陽性菌の菌数が109cfu/mLに達することをいう。
【0022】
本発明の毒素産生抑制剤は液状、ペースト、粉末、タブレットなど、用途に応じて様々な形態をとることが可能である。毒素産生抑制剤は全ての成分が混在した1剤型でも良いが、使い勝手によってはそれをいくつかの分割パッケージにしてもよい。本発明の毒素産生抑制剤は成分(A)からなるものであってよく、その場合は、製剤化や使用時の取り扱いに適した形態とするために、溶媒、分散媒、可溶化剤などを用いることができる。
【0023】
本発明の毒素産生抑制剤は、成分(A)と水とを含有する液体組成物の形態で用いるのが効果的である。例えば、成分(A)と水とを含有する本発明の毒素産生抑制剤又はその水希釈物を一定量溜めて対象物を浸漬して使用することができる。また、成分(A)と水と、必要に応じて可溶化剤とを含有する本発明の毒素産生抑制剤又はその水希釈物を対象物に噴霧する、泡状にして接触させる、等の方法により適用することができる。対象物が広範に亘る場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。また、成分(A)と水とを含有する本発明の毒素産生抑制剤又はその水希釈物を、対象物に流してもよいし、はけ等により塗布してもよい。その他、タオルなどに成分(A)と水とを含有する本発明の毒素産生抑制剤又はその水希釈物を含浸させて、対象物を拭き取っても良い。微生物と接触させる条件が満足されるならば、微生物が存在しうる表面に成分(A)と水とを含有する本発明の毒素産生抑制剤又はその水希釈物を付着させたり、塗り付けたりすることも可能である。成分(A)と水とを含有する本発明の毒素産生抑制剤又はその水希釈物は、微生物の増殖を妨げることなく毒素産生抑制効果を発揮できる重量濃度として、その使用時の成分(A)の重量濃度が、1〜10000ppmとすることができる。経済性と毒素産生抑制効果の観点から2〜1000ppmとなるのがより好ましく、3〜100ppmとなるのがさらに好ましい。さらに、5〜50ppmとなるのがより好ましく、10〜20ppmとなるのが特に好ましい。この濃度範囲は、微生物がグラム陽性菌である場合に好適である。
【0024】
また、対象物によっては水希釈系にせず、アルコールなどの溶媒希釈系やクリーム状や軟膏にして塗り広げることも可能である。この場合、成分(A)は適切な溶媒に溶解、分散、乳化された形状で提供され、微生物の増殖を妨げることなく毒素産生抑制効果を発揮できる重量濃度として、使用時の成分(A)の重量濃度が1〜10000ppmとすることができる。経済性と毒素産生抑制効果の観点から2〜1000ppmとなるのがより好ましく、3〜100ppmとなるのがさらに好ましい。さらに、5〜50ppmとなるのがより好ましく、10〜20ppmとなるのが特に好ましい。この濃度範囲は、微生物がグラム陽性菌である場合に好適である。
【0025】
本発明はまた、本発明の毒素産生抑制剤を微生物と接触させて毒素の産生を抑制する方法を提供するものである。具体的には、成分(A)を、微生物の増殖を妨げない濃度であって、かつ、該微生物の毒素産生を抑制するために有効な濃度で、該微生物に適用する、毒素産生抑制方法が挙げられる。ここで毒素産生抑制剤と微生物との接触は連続して行うのが好ましく、例えば、毒素産生抑制剤と微生物の接触が持続的に継続するような手段、条件を採用することが好ましい。具体的には、本発明の毒素産生抑制剤を、成分(A)の重量濃度として1〜10000ppm含有する液体組成物(成分(A)と水とを含有する本発明の毒素産生抑制剤又はその水希釈物等)を、例えば噴霧、塗布、浸漬等により、微生物(グラム陽性菌が好ましい。)又は微生物(グラム陽性菌が好ましい。)が存在する対象物に接触させて、好ましくは拭き取り等を行わずに、放置する方法が挙げられる。
【0026】
本発明の毒素産生抑制剤は、食中毒や感染の予防または疾患の予防や治療などに有用である。例えば、本発明の毒素産生抑制剤を野菜や食器類、調理器具や、食品又は飲料製造プラントなどへ事前に適用しておくことで微生物由来の毒素は産生が抑制され、結果的に食中毒リスクの低減が期待できる。また、本発明の毒素産生抑制剤を人体(皮膚や粘膜、毛髪など)や医療機器(内視鏡や人工透析など)、家具、窓や壁、風呂、トイレなどへ事前に適用しておくことで微生物由来の毒素は産生が抑制され、結果的に感染リスクの低減が期待できる。更に、本発明の毒素産生抑制剤を人体(皮膚や粘膜、毛髪など)に適用することにより、微生物が関与する様々な疾患(にきび、頭皮のかゆみ、アトピー性皮膚炎、う食、歯周病など)を予防または治療・改善作用なども期待できる。従って、本発明は、成分(A)を、微生物の増殖を妨げない濃度であって、かつ、該微生物の毒素産生を抑制するために有効な濃度で、該微生物が付着し得る対象物に予め適用する、毒素産生予防方法にも有効である。この方法では、微生物はグラム陽性菌、更に黄色ブドウ球菌が好ましく、また毒素はδ−トキシンが好ましい。また、成分(A)の濃度は前述の使用時の濃度範囲から選択できる。
【0027】
本発明の毒素産生抑制剤は、微生物による毒素の危害が懸念される広い分野に使用することが可能である。例えば、菌汚染リスクの高い食品又は飲料製造プラント用洗浄剤に応用することができる。また、医療機器、例えば内視鏡や人工透析機等の洗浄剤にも応用できる。更に、高い安全性を有することから、皮膚外用剤、身体用洗浄剤、身体用消毒剤、スキンケア剤、歯磨き剤、口腔ケア剤、入れ歯ケア剤などに使用することも可能である。このうち、皮膚外用剤は好適な応用例である。
【0028】
具体的な使用方法としては、例えば、本発明の毒素産生抑制剤、好ましくは成分(A)を1〜10000ppm含有させた手指用アルコール消毒剤を患者や医療スタッフの手指によく擦り込むようにつけてアルコールを蒸発させ、手指全体に毒素産生抑制剤を残すことが挙げられる。このような使用方法により、手指に存在するグラム陽性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌など)が産生する毒素量を長期的に減少させ、院内感染リスクの低減効果が期待できる。本発明の毒素産生抑制剤の応用例として、成分(A)を1〜10000ppm、アルコール(好ましくはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等)を20〜75重量%、及び水を含有する身体用消毒剤組成物(例えば、手指用アルコール消毒剤組成物)が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下の実施例で用いた成分を示す。
【0030】
<成分(A)>
(A−1) 一般式(1)において、R=炭素数8の直鎖アルキル基、m=0、n=3の化合物〔すなわち、炭素数8の直鎖1級アルコールにエチレンオキシド(以下、EOと表記する)とプロピレンオキシド(以下、POと表記する)をそれぞれ平均0モル、平均3モル付加させた化合物〕
(A−2) 一般式(1)において、R=炭素数8の直鎖アルキル基、m=0、n=10の化合物〔すなわち、炭素数8の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均10モル付加させた化合物〕
(A−3) 一般式(1)において、R=炭素数10の直鎖アルキル基、m=0、n=3の化合物〔すなわち、炭素数10の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均3モル付加させた化合物〕
(A−4) 一般式(1)において、R=炭素数10の直鎖アルキル基、m=0、n=7の化合物〔すなわち、炭素数10の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均7モル付加させた化合物〕
(A−5) 一般式(1)において、R=炭素数10の直鎖アルキル基、m=0、n=10の化合物〔すなわち、炭素数10の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均10モル付加させた化合物〕
(A−6) 一般式(1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=0、n=3の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均3モル付加させた化合物〕
(A−7) 一般式(1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=0、n=7の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均7モル付加させた化合物〕
(A−8) 一般式(1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=0、n=10の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均10モル付加させた化合物〕
(A−9) 一般式(1)において、R=炭素数18の直鎖アルキル基、m=0、n=15の化合物〔すなわち、炭素数18の直鎖1級アルコールにEOとPOをそれぞれ平均0モル、平均15モル付加させた化合物〕
(A−10) 一般式(1−1)において、R=炭素数8の直鎖アルキル基、m=3、n=2.5の化合物〔すなわち、炭素数8の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均3モル、PO平均2.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−11) 一般式(1−1)において、R=炭素数8の直鎖アルキル基、m=7、n=5の化合物〔すなわち、炭素数8の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均5モルの順で付加させた化合物〕
(A−12) 一般式(1−2)において、R=炭素数8の直鎖アルキル基、m=7、n=10の化合物〔すなわち、炭素数8の直鎖1級アルコールにEOとPOを、PO平均10モル、EO平均7モルの順で付加させた化合物〕
(A−13) 一般式(1−1)において、R=炭素数8の直鎖アルキル基、m=15、n=2.5の化合物〔すなわち、炭素数8の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均15モル、PO平均2.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−14) 一般式(1−3)において、R=炭素数8の直鎖アルキル基、m1=7.5、n=2.5、m2=7.5の化合物〔すなわち、炭素数8の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7.5モル、PO平均2.5モル、EO平均7.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−15) 一般式(1−1)において、R=炭素数10の直鎖アルキル基、m=7、n=2.5の化合物〔すなわち、炭素数10の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均2.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−16) 一般式(1−3)において、R=炭素数10の直鎖アルキル基、m1=7、n=2、m2=3の化合物〔すなわち、炭素数10の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均2モル、EO平均3モルの順で付加させた化合物〕
(A−17) 一般式(1−2)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=1、n=3.5の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOを、PO平均3.5モル、EO平均1モルの順で付加させた化合物〕
(A−18) 一般式(1−1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=3、n=3.5の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均3モル、PO平均3.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−19) 一般式(1−1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=8、n=4の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均8モル、PO平均4モルの順で付加させた化合物〕
(A−20) 一般式(1−3)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m1=5、n=2、m2=5の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均5モル、PO平均2モル、EO平均5モルの順で付加させた化合物〕
(A−21) 一般式(1−1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=14、n=1の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均14モル、PO平均1モルの順で付加させた化合物〕
(A−22) 一般式(1−1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=15、n=2.5の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均15モル、PO平均2モルの順で付加させた化合物〕
(A−23) 一般式(1−1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=7、n=4.5の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖2級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均4.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−24) 一般式(1−1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=7、n=8.5の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖2級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均8.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−25) 一般式(1−1)において、R=炭素数12の直鎖アルキル基、m=12、n=3の化合物〔すなわち、炭素数12の直鎖2級アルコールにEOとPOを、EO平均12モル、PO平均3モルの順で付加させた化合物〕
(A−26) 一般式(1−1)において、R=炭素数14の直鎖アルキル基、m=7、n=2.5の化合物〔すなわち、炭素数14の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均2.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−27) 一般式(1−3)において、R=炭素数14の直鎖アルキル基、m1=7、n=2、m2=7の化合物〔すなわち、炭素数14の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均2モル、EO平均7モルの順で付加させた化合物〕
(A−28) 一般式(1−1)において、R=炭素数16の直鎖アルキル基、m=7、n=2.5の化合物〔すなわち、炭素数16の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均2.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−29) 一般式(1−1)において、R=炭素数18の直鎖アルキル基、m=5、n=1.5の化合物〔すなわち、炭素数18の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均5モル、PO平均1.5モルの順で付加させた化合物〕
(A−30) 一般式(1−1)において、R=炭素数18の直鎖アルキル基、m=7、n=2.5の化合物〔すなわち、炭素数18の直鎖1級アルコールにEOとPOを、EO平均7モル、PO平均2.5モルの順で付加させた化合物〕
【0031】
なお、上述した(A−1)〜(A−30)の化合物のEOのモル数とPOのモル数はH1 NMRにより確認した。また、EOとPOの付加位置はC13 NMRにより確認した。
【0032】
<成分(A’)(比較化合物)>
(比較化合物A’−1〜A’−4は特許文献2記載の化合物)
(A’−1) (R)−(+)−リモネン〔(R)−(+)−Limonene〕
(A’−2) ゲラニオール〔geraniol〕
(A’−3) シトロネラール〔citronellal〕
(A’−4) α−ピネン〔α-pinene〕
【0033】
実施例1<毒素産生抑制剤の毒素産生抑制能及び成長阻害効果の検定>
まず、成分(A)の可溶化剤として働くモノドデカン酸ポリエチレングリコール0.02gに成分(A)0.01gとTryptic Soy Broth No.2培地〔TSB No.2培地、シグマアルドリッチジャパン(株)〕0.97gを添加して1重量%の成分(A)溶液を調製した。同様に、モノドデカン酸ポリエチレングリコール0.02gに成分(A’)0.02gとTryptic Soy Broth No.2培地〔TSB No.2培地、シグマアルドリッチジャパン(株)〕0.96gを添加して2重量%の成分(A’)溶液を調製した。また、黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus NCTC8325株)をTryptic Soy Broth No.2培地〔TSB No.2培地、シグマアルドリッチジャパン(株)〕中で、37℃、18時間振とう培養(前培養)した。
【0034】
次に、TSB No.2培地とモノドデカン酸ポリエチレングリコール、前記1重量%溶液、及び前記菌液を用いて、成分(A)の濃度が10ppmであり、モノドデカン酸ポリエチレングリコール濃度が20ppm、菌濃度が103cfu/mLの溶液(全体体積:15mL)を調製した。同様に、TSB No.2培地とモノドデカン酸ポリエチレングリコール、前記2重量%溶液、及び前記菌液を用いて、成分(A’)の濃度が20ppmであり、モノドデカン酸ポリエチレングリコール濃度が20ppm、菌濃度が103cfu/mLの溶液(全体体積:15mL)も調製した後、37℃の条件で振とう培養を行い、36時間培養後の静止期(stationary phase)おける菌数及びδ−トキシン量を定量した。
【0035】
菌数の定量方法としては、寒天平板希釈法に従い、36時間培養の培養液または生理食塩水で10倍、102倍、103倍、104倍、105倍、106倍、107倍に希釈した培養液をSMA培地〔日本製薬(株)製〕に100μL撒いた後24時間静置培養し、培地上に形成したコロニーをカウントした。結果を表1に示す。
【0036】
また、δ−トキシン量の定量方法としては、遠心分離機〔日立(株)〕を使用して、菌数定量試験に使用しなかった残りの培養液を菌と上清に分け、さらにcellulose acetate 0.2μmフィルター〔アドバンテック(株)製〕を用いて上清から菌を除外した。そして逆相-HPLCを用いてこの上清中に含まれるδ−トキシン量つまり、黄色ブドウ球菌が産生したδ−トキシン量を定量した。δ−トキシン量の定量は、Michael Ottoらの文献(Michael Otto , Friedrich. 2000. BioTechniques 28: 1088-1096.)を参考にして測定を行った。また、検量線は人工的に合成したδ−トキシン(東レリサーチセンター(株)製)を使用して作成した。結果を表1に示す。なお、表1中、濃度で(20)とあるのは、モノドデカン酸ポリエチレングリコールの濃度である。
【0037】
尚、表1において、毒素産生抑制剤を作用させない時に産生されるδ−トキシン量(V0)は、TSB No.2培地のみを用いたブランク、またはモノドデカン酸ポリエチレングリコールを配合した液を作用させた場合のδ−トキシン産生量(312.0μg/mL又は318.4μg/mL)である。これに対して、成分(A)を作用させた場合に産生されるδ−トキシン量(V1)は表に示されたδ−トキシン産生量である。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から成分(A)10ppmのすべての系で黄色ブドウ球菌が産生するδ−トキシンを長期的に抑制できることが明らかになったが、成分(A’)(比較化合物:特許文献2記載の化合物)20ppmの系では顕著なδ−トキシン産生抑制効果は認められなかった。また黄色ブドウ球菌数が成分(A)使用のすべての系で109cfu/mL以上になったことから、菌の増殖を妨げてはいないと判断した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を含有する、微生物の毒素産生抑制剤。
RO−[(EO)m(PO)n]−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、m及びnは平均付加モル数であり、0≦m<20、0<n≦20、及び0<m+n≦20であり、EOとPOとはブロック付加またはランダム付加である。)
【請求項2】
微生物に対する増殖抑制効果を持たない、請求項1記載の微生物の毒素産生抑制剤。
【請求項3】
微生物がグラム陽性菌である請求項1又は2記載の微生物の毒素産生抑制剤。
【請求項4】
グラム陽性菌が黄色ブドウ球菌である請求項3記載の微生物の毒素産生抑制剤。
【請求項5】
毒素がδ−トキシンである、請求項3又は4記載の微生物の毒素産生抑制剤。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を、微生物の増殖を妨げない濃度であって、かつ、該微生物の毒素産生を抑制するために有効な濃度で、該微生物に適用する、微生物の毒素産生抑制方法。
RO−[(EO)m(PO)n]−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、m及びnは平均付加モル数であり、0≦m<20、0<n≦20、及び0<m+n≦20であり、EOとPOとはブロック付加またはランダム付加である。)
【請求項7】
前記微生物がグラム陽性菌である、請求項6記載の微生物の毒素産生抑制方法。
【請求項8】
グラム陽性菌が黄色ブドウ球菌である請求項7記載の微生物の毒素産生抑制方法。
【請求項9】
毒素がδ−トキシンである、請求項7又は8記載の微生物の毒素産生抑制方法。
【請求項10】
下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(A)を、微生物の増殖を妨げない濃度であって、かつ、該微生物の毒素産生を抑制するために有効な濃度で、該微生物が付着し得る対象物に予め適用する、微生物の毒素産生予防方法。
RO−[(EO)m(PO)n]−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜18の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示し、m及びnは平均付加モル数であり、0≦m<20、0<n≦20、及び0<m+n≦20であり、EOとPOとはブロック付加またはランダム付加である。)
【請求項11】
前記微生物がグラム陽性菌である、請求項8記載の微生物の毒素産生予防方法。
【請求項12】
グラム陽性菌が黄色ブドウ球菌である請求項11記載の微生物の毒素産生予防方法。
【請求項13】
毒素がδ−トキシンである、請求項11又は12記載の微生物の毒素産生予防方法。

【公開番号】特開2013−71896(P2013−71896A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210420(P2011−210420)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】