説明

微粒子製造装置

【課題】高度なシール技術等を用いることなく、簡単な構造で、固体粒子を高速で衝突させて、品質の優れた微粒子製品を効率よく製造する。
【解決手段】ケーシング1の上部の導入路2に、ラバールノズル部3の出口に連続して、断面積が急拡大するフレア部4を設け、膨張により超音速気流を加速して、スラリーをミストに霧化し、フレア部4の下流側に設けた衝突部材5を、フレア部4の出口の中心方向に先端が向かう円錐状部5aと、この円錐状部5aの基端側外周に設けたフランジ部5bとから成る形状とし、円錐状部5aの側面に沿う超音速流れがフランジ部5bに衝突してミスト中の固体粒子が衝撃粉砕され、さらに、フランジ部5bから径方向へ放射状に飛び出したミストがケーシング1の周壁内面のライナー7と二次衝突して、固体粒子が衝撃粉砕されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、積層薄膜電子部品に用いられる金属微粒子やセラミック微粒子、トナーの原料として使用される顔料等の微粒子、二次電池で使用される負極・正極材等の微粒子を製造する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の微粒子製造装置として、固体粒子が液体に懸濁したスラリー中でセラミックビーズを回転・攪拌することにより、固体粒子を分散・微粒子化する湿式ビーズミルが多用されているが、この方式の装置では、ビーズの磨耗による微粒子製品の汚れ(コンタミネーション)や、ビーズと液体との分離による効率低下の問題がある。
【0003】
また、200MPaを超える圧力に加圧したスラリーを、複数方向から衝突空間に噴射して相互に衝突させることにより微粒子化を行なう方式の微粒子製造装置も開発されているが、この方式のものでは、高度なシール技術や増圧技術が必要となり、製作コストが高くつくという問題がある。
【0004】
このような問題に対処し得る微粒子製造装置として、下記特許文献1には、図5に示すように、エア供給源から送り込まれる圧縮エアを導入路52のジェットノズル53で加速すると共に、固体粒子を含む液体を貯留槽54からポンプ55の駆動により配管56を介してジェットノズル53の気流中に供給し、これにより加速されてケーシング51内に噴射された微小液滴を回転する円板状の衝突部材57に衝突させ、液滴中の固体粒子を粉砕して微粒子化するものが記載されている。
【0005】
上記ジェットノズル53は、図6に示すように、流れ方向に流路径が漸次縮小するコンバージェント部53aと、流路径が最も小さく絞られたスロート部53bと、流路径が漸次拡大するダイバージェント部53cとを設けたラバールノズル形式とされている。
【0006】
このジェットノズル53において、配管56の吐出管56aは、スロート部53bの内側壁面から離れた位置で流れ方向に延び、スロート部53bの中心から下流方向に、スロート部53bの内径の5倍の長さの範囲以内で開口するように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−154146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたような微粒子製造装置では、気流がラバールノズルでのみ加速される構造であり、固体粒子を含む液体が液滴の状態で、十分に加速されることなく衝突部材に衝突することから、効率的に固体粒子を粉砕できないという問題がある。
【0009】
また、スロート部からダイバージェント部にかけて吐出管が流路断面の一部を占有するように割り込んで設けられているため、気流の流れが膨張不足となり、速度や流量が低下して、処理能力が制限されるという問題が生じるほか、液体供給配管の吐出管の中心位置決めや清掃等が困難で、固体粒子が付着性物質である場合、長時間の連続運転ができないという問題もある。
【0010】
そこで、この発明は、高度なシール技術等を用いることなく、簡単な構造で、固体粒子を高速で衝突させて、品質の優れた微粒子製品を効率よく製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するため、この発明は、加圧した気体を導入路に供給して、導入路のラバールノズル部で超音速に加速すると共に、液体と固体粒子との懸濁液であるスラリーを導入路の気体中に供給し、これにより加速されたスラリーをケーシング内の衝突部材に衝突させ、固体粒子を粉砕して微粒子化する微粒子製造装置において、前記導入路に、ラバールノズル部の出口に連続して断面積が急拡大し、ラバールノズル部の出口との境界の角を頂点として超音速気流を膨張させることで加速し、これによりスラリーをミストに霧化するフレア部を設け、前記衝突部材を、フレア部の出口の中心方向に先端が向かい、先端部分でミストが剪断作用を受け、ミスト中の固体粒子が分散及び微粒子化作用を受ける円錐状部と、この円錐状部の基端側外周に設けられ、円錐状部の側面に沿う超音速流れが衝突して、固体粒子が衝撃粉砕されるフランジ部とから成る形状とし、さらに、前記ケーシングの周壁内面に、衝突部材のフランジ部から径方向へ放射状に飛び出したミストが二次衝突して、固体粒子が衝撃粉砕されるライナーを設けたのである。
【0012】
また、この微粒子製造装置において、前記フレア部の拡がり角及び円錐状部の拡がり角を、20°〜90°の範囲としたのである。
【0013】
また、前記フレア部に、側方からスラリーを供給するスラリー供給部の開口部を設けたのである。
【0014】
さらに、前記スラリー供給部の軸線と円錐状部の中心の鉛直線とは、円錐状部の頂部の上方で交わるようにしたのである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る微粒子製造装置では、ビーズミル等を用いず、ラバールノズル部に連続してフレア部を設けたことにより、スラリーを瞬時にミストに霧化(アトマイズ)して、衝突部材の円錐状部の側面に沿って高速でフランジ部に衝突させ、さらにケーシングのライナーに二次衝突させるので、ビーズミル等で問題となる微粒子製品への汚れの付着等の問題を生じることなく、高品質の微粒子製品を製造でき、他の方式では到達できない粒子径域まで固体粒子を粉砕できる。
【0016】
また、超高圧の液体を利用するもののように、高度なシール技術や増圧技術を用いることなく、簡素で安全性や経済性に優れた構造となり、狭隘な流路内に固体粒子を含む液体の吐出管を設ける必要もないので、固体粒子が付着性物質であっても、ノズルの詰まり等を生じることなく、連続運転することができ、装置のスケールアップも容易に行なうことができる。
【0017】
また、密閉系で粉砕処理を行なうため、高圧気体又は液体の選択範囲が広く、特に、高圧気体として音速の速いヘリウムガスを使用することにより、超音速気流をより高速化して粉砕能力を向上させ、ヘリウムガスをリサイクル使用することもできる。さらに、運転音が静かで、微粒子が装置周辺の空気中に浮遊することもなく、作業者や環境への悪影響を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の第1実施形態に係る微粒子製造装置の全体断面図
【図2】同上の要部拡大断面図
【図3】同上の配管系統図
【図4】同上の第2実施形態に係る微粒子製造装置の全体断面図
【図5】従来の微粒子製造装置の断面図
【図6】同上のジェットノズルの断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示す第1実施形態に係る微粒子製造装置では、複数の部材から構成されるケーシング1の上部に導入路2が設けられ、導入路2には、ラバールノズル部3が設けられている。ラバールノズル部3は、上端の気体供給口1aから下方への流れ方向に沿って流路径が漸次縮小するコンバージェント部3aと、流路径が最も小さく絞られたスロート部3bと、流路径が漸次拡大するダイバージェント部3cとから構成される。
【0021】
また、導入路2には、ラバールノズル部3の出口に連続して、断面積が下方へかけて急拡大するテーパー状のフレア部4が設けられている。フレア部4には、原料となる固体粒子を含んだスラリーを側方から供給する複数のスラリー供給部1bが開口している。
【0022】
ケーシング1の中間に位置する粉砕空間内には、フレア部4の下方に衝突部材5が設けられている。衝突部材5は、フレア部4の出口の中心方向に先端側が向かう円錐状部5aと、円錐状部5aの基端側外周に設けたフランジ部5bとから成る形状とされ、フランジ部5bの中心から下方へ延びる軸部を軸受に挿通し、気流を阻害しないステー部材6を介してケーシング1に回動自在に支持されている。
【0023】
ここで、スラリー供給部1bのフレア部4における開口部は、円錐状部5aの頂部よりも上方に位置し、スラリー供給部1bの軸線と円錐状部5aの中心の鉛直線とは、円錐状部5aの頂部の上方で交わるようになっている。また、円錐状部5aの頂部は、フレア部4の出口の高さに一致しているが、フレア部4の内部に入ることもある。
【0024】
ケーシング1の粉砕空間の周壁内面には、ライナー7が嵌められている。上記衝突部材5及びライナー7の材質としては、耐摩耗性に優れるセラミックス焼結体又は超硬合金を用いることが好ましい。
【0025】
ケーシング1の下部は、下方へかけてテーパー状に窄まり、下端に液滴とミストが排出される排出口1cが形成されている。
【0026】
ここで、図2に示すように、寸法関係について整理すると、ケーシング1の上部において、スロート部3bの直径Dよりも、ダイバージェント部3cの出口の直径Dは大きく、フレア部4の出口の直径よりも、衝突部材5のフランジ部5bの直径Dは大きくなっている。
【0027】
また、ダイバージェント部3c長さが加速距離Lとされ、フレア部4の長さが加速距離Lとされている。
【0028】
そして、ダイバージェント部3cの拡がり角θよりも、フレア部4の拡がり角θは大きく、この拡がり角θと、衝突部材5の円錐状部5aの頂角である拡がり角θとが同程度の大きさとなっている。
【0029】
具体的には、θは3°〜10°の範囲とし、4°前後とするのが好ましく、θ及びθは20°〜90°の範囲とし、60°前後とするのが好ましい。
【0030】
このような微粒子製造装置には、図3に示すような系統で配管が接続される。この配管系統において、0.6MPa程度に加圧された圧縮エアは、配管10を経て気体供給口1aへ送り込まれ、粉砕する固体粒子を含んだスラリーは、スラリー貯留槽から配管11を経て、ポンプの駆動によりスラリー供給部1bへ送り込まれる。
【0031】
そして、微粒子製造装置において、図1及び図2に示すように、気体供給口1aから導入路2へ送り込まれた亜音速の気流は、コンバージェント部3aを経てスロート部3bで臨界状態となり、音速に達する。すなわち、その位置の流速をマッハ数で表すと、M1=1となる。そして、下流側のダイバージェント部3cで加速距離Lにわたって等エントロピ的に膨張加速され、ダイバージェント部3cでのマッハ数M2は、スロート部3bでのマッハ数M1より大きい超音速となる。
【0032】
次に、この超音速の気流は、ラバールノズル部3の出口とフレア部4の入口との境界の角を頂点として発生する膨張波により、加速距離Lにわたってさらに加速され、フレア部4に流入した気流のマッハ数M3は、ダイバージェント部3cでのマッハ数M2よりさらに大きくなる。
【0033】
これに伴い、フレア部4の壁面沿いの圧力が急激に降下して、スラリー供給部1bからフレア部4へスラリーがスムーズに供給され、スラリーは、M3の超音速気流と衝突することにより、液滴から直径数ミクロン以下のミストに霧化される。
【0034】
そして、フレア部4からケーシング1の粉砕空間に噴出したミストは、衝突部材5の円錐状部5aの先端部分で形成される斜め衝撃波により、剪断作用を受けると共に、ミスト中の固体粒子が分散及び微粒子化作用を受ける。
【0035】
また、粉砕空間での気流は、流速が若干低下して、そのマッハ数M4はフレア部4でのマッハ数M3より小さくなるが、円錐状部5aの側面近傍では超音速を維持し、円錐状部5aの側面に沿って垂直方向の背圧を受けることなくスムーズに流れ、この超音速流れがフランジ部5bに衝突して、ミスト中の固体粒子が衝撃粉砕される。
【0036】
さらに、フランジ部5bから径方向へ放射状に飛び出した微粒子を含むミストは、速度を失うことなく、ライナー7の壁面に再度高速で衝突し、微粒子が一層微粒子化される。
【0037】
ここで、衝突部材5を回転させると、ミストがフランジ部5bへ均一に衝突するため、フランジ部5bの偏磨耗を防止することができ、フランジ部5bの表面で液膜が生じて衝撃力が低減されることを防止することができる。衝突部材5を回転させる手段としては、超音速気流を羽根車に衝突させて回転力を得る機構のほか、電動モーターにより回転させる機構を設けてもよい。
【0038】
その後、壁面との衝突で生じた液滴及びミストを含む気流は、下方へ流れ、排出口1cを介してケーシング1から排出される。
【0039】
このように微粒子製造装置から排出された液滴及びミストは、図3に示すように、配管12を経てサイクロンへ送られるが、ミストは、配管12の内部でほとんど液滴となり、サイクロンで液滴と気体とが分離される。そして、分離された気体は、配管13を介し乾燥装置を経てバグフィルタへ送られ、バグフィルタで微粒子が製品として取り出され、微粒子が除去された気体が排気される。
【0040】
一方、微粒子を含む液滴は、配管14へ排出され、スラリー貯留槽に戻されて、攪拌された後、ポンプにより再度配管11を経て微粒子製造装置へ送り込まれ、繰り返し粉砕される。そして、所定の粒径に達した時点で、バルブの切替により、配管15を経て微粒子を含むスラリーが製品として取り出される。このようなプロセスにより、所望の粒径まで微粒子化することができる。
【0041】
上記配管11,12,14で構成されるプロセスは、密閉状態で行なわれるので、液体として発火性の高い溶媒を使用する場合、固体粒子が微粒子化することで活性を帯びる危険性があっても、適宜液体又は高圧気体を選択して、微粒子を安全に製造することができる。
【0042】
また、高圧気体としてヘリウムガスを使用することもできる。この場合、ヘリウムガスは気体密度が小さく、音速が約1000m/sであることから、容易に空気の3倍程度の流速を得ることができる。また、高価なヘリウムガスをほぼ全量を回収して再使用することができる。
【0043】
なお、上述の第1実施形態に係る微粒子製造装置では、フレア部4に側方からスラリーを供給するようにスラリー供給部1bが配置されているが、図4に示す第2実施形態のように、導入路2において、ラバールノズル部3のスロート部3bより上流側に、ラバールノズル部3と軸線を一致させてスラリー供給部1bを配置し、気体供給口1aをコンバージェント部3aより上流側で側方から圧縮エアを供給するように設けてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 ケーシング
1a 気体供給口
1b スラリー供給部
1c 排出口
2 導入路
3 ラバールノズル部
3a コンバージェント部
3b スロート部
3c ダイバージェント部
4 フレア部
5 衝突部材
5a 円錐状部
5b フランジ部
6 ステー部材
7 ライナー
10〜15 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧した気体を導入路(2)に供給して、導入路(2)のラバールノズル部(3)で超音速に加速すると共に、液体と固体粒子との懸濁液であるスラリーを導入路(2)の気体中に供給し、これにより加速されたスラリーをケーシング(1)内の衝突部材(5)に衝突させ、固体粒子を粉砕して微粒子化する微粒子製造装置において、
前記導入路(2)に、ラバールノズル部(3)の出口に連続して断面積が急拡大し、ラバールノズル部(3)の出口との境界の角を頂点として超音速気流を膨張させることで加速し、これによりスラリーをミストに霧化するフレア部(4)を設け、
前記衝突部材(5)を、フレア部(4)の出口の中心方向に先端が向かい、先端部分でミストが剪断作用を受け、ミスト中の固体粒子が分散及び微粒子化作用を受ける円錐状部(5a)と、この円錐状部(5a)の基端側外周に設けられ、円錐状部(5a)の側面に沿う超音速流れが衝突して、固体粒子が衝撃粉砕されるフランジ部(5b)とから成る形状とし、
さらに、前記ケーシング(1)の周壁内面に、衝突部材(5)のフランジ部(5b)から径方向へ放射状に飛び出したミストが二次衝突して、固体粒子が衝撃粉砕されるライナー(7)を設けたことを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微粒子製造装置において、前記フレア部(4)の拡がり角(θ)及び円錐状部(5a)の拡がり角(θ)を、20°〜90°の範囲としたことを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の微粒子製造装置において、前記フレア部(4)に、側方からスラリーを供給するスラリー供給部(1b)の開口部を設けたことを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の微粒子製造装置において、前記スラリー供給部(1b)の軸線と円錐状部(5a)の中心の鉛直線とは、円錐状部(5a)の頂部の上方で交わるようにしたことを特徴とする微粒子製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−255268(P2011−255268A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129929(P2010−129929)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000229450)日本ニューマチック工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】