微細構造転写装置
【課題】樹脂フィルムの異方収縮が抑えられ、寸法精度の良好な樹脂スタンパが得られる微細構造転写装置を提供すること。
【解決手段】表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパ12と、前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面12aに対向するように樹脂フィルム18を挟持する挟持体24と、を有する微細構造転写装置10であって、前記挟持体24は、少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面12aの各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部18aを固定し、前記凹凸パターンを有する面12aの各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写装置10。
【解決手段】表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパ12と、前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面12aに対向するように樹脂フィルム18を挟持する挟持体24と、を有する微細構造転写装置10であって、前記挟持体24は、少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面12aの各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部18aを固定し、前記凹凸パターンを有する面12aの各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写装置10。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンパに形成された微細な凹凸パターンを樹脂フィルムに転写する微細構造転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス、ディスプレイ、電子ペーパー、記録メディア、バイオチップ、光デバイスなどの製造工程における微細な凹凸パターンを形成するための技術として、ナノインプリント技術が知られている。ナノインプリント技術は、従来のプレス技術と比較して、より微小な構造を実現するための微細加工の技術である。この技術自体には解像度に限界がなく、解像度はスタンパ(即ち金型)の作製精度によって決定される。したがって、高い精度のスタンパさえ作製できれば、従来のフォトリソグラフィーより容易に且つはるかに安価な装置を用いて、極微細構造を形成することが可能である。
【0003】
インプリント技術には転写される材料により2種類に大別される。一方は、転写される材料を加熱し、スタンパ(金型)により塑性変形させた後、冷却して凹凸パターンを形成する熱インプリント技術である。もう一方は、基板上に室温で液状の光硬化性樹脂を塗布した後、光透過性のスタンパを樹脂に押し当て、光を照射させることで基板上の樹脂を硬化させ凹凸パターンを形成する光インプリント技術である。
【0004】
インプリント技術では、パターン成形を安価に行うことができるが、マザースタンパである金型に樹脂が付着し易く、樹脂が付着した場合、その金型を補修することは極めて困難である。金型は非常に高価なため、製造全体として安価とは言えない場合が多い。
【0005】
その理由から、2工程によるインプリント法が一般に用いられている(特許文献1)。このインプリント法は、図8(a)に示すように、第1工程でマザースタンパ(金型)80の凹凸パターンが形成された表面に、加熱した熱可塑性樹脂フィルム82を押圧した後、冷却して硬化させ、マザースタンパ80の反転凹凸パターンが形成された樹脂スタンパ82aを得、次に、図8(b)に示すように、第2工程でこの樹脂スタンパ82aを、基板84上に塗布された光硬化性樹脂86に押圧して紫外線等により硬化させ、基板84上に凹凸パターン86aを得るというものである。
【0006】
即ち、2工程によるインプリント法では、第1工程において熱インプリント法により樹脂スタンパ(中間スタンパ、IPSとも呼ばれる。)を作製し、第2工程においてこの樹脂スタンパを用いる光インプリント法により基板上に所定の凹凸パターンが形成される。
【0007】
ここで、第1工程の熱インプリントに使用する微細構造転写装置として図9に示す微細構造転写装置が従来から知られている。この微細構造転写装置60は、スタンパベース72上に載置固定されたマザースタンパ62と、マザースタンパ62の微細な凹凸パターンを有する面62aに対して垂直方向(矢印方向)に可動な可動枠66と、可動枠66の上方に位置する固定枠64とを有している。樹脂フィルム68は、その周縁部が可動枠66と固定枠64によりOリング70を介して挟持することにより固定され、凹凸パターンを有する面62aに対向配置されている。
【0008】
マザースタンパ62に形成された凹凸パターンを樹脂フィルム68に転写して樹脂スタンパを得るには、まず、樹脂フィルム68をマザースタンパ62に接するように可動枠66により位置調整した後、樹脂フィルム68をそのガラス転移温度以上に加熱すると共に、マザースタンパ62に押圧する。その後、樹脂フィルム68を冷却した後、可動枠66を上方にリフトアップさせて樹脂フィルム68を脱型することにより行われる。樹脂フィルム68は一般に平面形状が矩形状のフィルムであり、その周縁部の全てが固定枠64と可動枠66とにより挟持されることにより固定され、転写が行われた後に固定が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−165812
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、加熱を行うと、樹脂フィルムが収縮してマザースタンパの設計寸法よりも全体的に小さく仕上がることがあり、樹脂フィルムへの凹凸パターンの転写精度が十分ではなかった。特に、図10に示すように、転写前の樹脂フィルム(a)に比べて、転写後の樹脂フィルム(樹脂スタンパ)(b)は、四辺の中央部で収縮が顕著である一方で、四隅付近では中央部ほど収縮量が大きくなく、フィルムの各領域によって収縮度が異なり、これが転写の精度に影響を及ぼしていた(以下、この現象を異方収縮と称する)。
【0011】
したがって、本発明の目的は、樹脂フィルムの異方収縮が改善され、得られる樹脂スタンパの寸法精度が良好な微細構造転写装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的は、その微細構造の転写に好適な樹脂フィルムを提供することにある。
【0013】
更に、本発明の目的は、樹脂フィルムの異方収縮が改善され、得られる樹脂スタンパの寸法精度が良好な微細構造転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記異方収縮の原因について検討した結果、図11の平面図(a)及び断面図(b)に示すように、押圧時に樹脂フィルム68の端部がスタンパ62の上面より下方に位置した場合に、樹脂フィルム68の角付近はマザースタンパ62の角部によって拘束される(図中の○印)一方で、樹脂フィルム68の各辺の中央部はマザースタンパ62による拘束力は小さいため、樹脂フィルムの中心方向に大幅に収縮していることが分かった。
【0015】
即ち、上記目的は、表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパと、前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対向するように樹脂フィルムを挟持する挟持体と、を有する微細構造転写装置であって、前記挟持体は、少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写装置により達成される。
【0016】
マザースタンパの角部によって拘束されない樹脂フィルムの縁部のみを固定することにより、転写後の樹脂フィルムの異方収縮を改善させることができ、これにより、樹脂スタンパの寸法精度を向上させることが可能となる。
【0017】
本発明の好ましい態様は以下の通りである。
【0018】
(1)前記挟持体は、前記マザースタンパのその外周外側に設けられ且つ前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対して垂直方向に可動な多角形状の可動枠と、該可動枠の上方に位置する多角形状の固定枠とを有し、
前記固定は、前記固定される樹脂フィルムの縁部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われる。
(2)前記樹脂フィルムの固定長さは、前記固定枠の各辺の固定可能長さに対して0.2以上1未満である。
(3)前記樹脂フィルムの縁部は、外方に延出して形成された固定部を有し、前記固定は該固定部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われる。
(4)前記多角形が四角形である。
【0019】
また、上記目的は、多角形状のフィルムの各辺のうち、少なくとも該各辺の中央部を含み且つ両端部を除く部分に、外方に延出して形成された延出部をそれぞれ有することを特徴とする微細構造転写用樹脂フィルムによっても達成される。
【0020】
更に、上記目的は、表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパの当該凹凸パターンを有する面に、樹脂フィルムを加熱下に押圧した後、冷却して除去する工程を含む微細構造転写方法において、遅くとも前記冷却前に、少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写方法により達成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、転写時における樹脂フィルムの異方収縮が改善されため、得られる樹脂スタンパの寸法精度を向上させることが可能となる。本発明の微細構造転写装置は、特に収縮の影響を受けやすい比較的大きなサイズのインプリント用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る微細構造転写装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に使用する樹脂フィルムとその固定部の一例を示す平面図である。
【図3】本発明に使用する樹脂フィルムとその固定部の一例を示す平面図である。
【図4】本発明に係る微細構造転写装置の一部を示す分解概略斜視図である。
【図5】樹脂フィルムの固定長さを示す説明図である。
【図6】微細構造転写装置の他の実施の形態の一部を示す分解概略斜視図である。
【図7】実施例において樹脂フィルムの収縮量の測定箇所を示す説明図である。
【図8】2工程のインプリント法を示す概略説明図である。
【図9】従来の微細構造転写装置の概略断面図である。
【図10】従来の樹脂フィルムの転写前(a)と転写後(b)の概略平面図である。
【図11】マザースタンパに樹脂フィルムを押圧した状態の平面図(a)及び断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る微細構造転写装置の概略断面図である。この微細構造転写装置10は、表面に微細な凹凸パターンが形成されたマザースタンパ12と、マザースタンパ12の凹凸パターンを有する面12a(以下、スタンパ面12aとも称する。)に対して垂直方向(矢印方向)に可動な可動枠16と、樹脂フィルム18の周縁部のうち所定箇所18aを可動枠16と挟持する固定枠14とを有している。この可動枠16と固定枠14とにより樹脂フィルム18を挟持するための挟持体24が構成されている。
【0024】
可動枠16はマザースタンパ12の外周外側に配置され、可動枠16の上方に対向する位置に固定枠14が配置されている。本実施の形態では、樹脂フィルム18は、固定枠14の下面にその枠に沿って取り付けられた緩衝部材としてのOリング20を介して、固定枠14と可動枠16とで上下から挟持されて固定され、これにより樹脂フィルム18はスタンパ面12aに対向するように配置される。Oリング20は設けなくても良いが、樹脂フィルム18を破損させずに確実に固定するためには設けられている方が好ましい。マザースタンパ12はスタンパベース22に載置固定されている。
【0025】
この微細構造転写装置10により樹脂フィルム18にスタンパ12の凹凸パターンを転写するには、まず、可動枠14を上下方向に移動させることにより樹脂フィルム18の位置設定をした後、樹脂フィルム18をそのガラス転移温度以上の温度に加熱した状態で、樹脂フィルム18をスタンパ面12aに押圧する。次に、樹脂フィルム18をガラス転移温度未満の温度に冷却した後、可動枠16を上方にリフトアップして樹脂フィルム18を脱型する。その後、樹脂フィルム18が取り付けられている固定枠14から凹凸パターンが転写された樹脂フィルム18を取り外すことにより樹脂スタンパが得られる。
【0026】
本発明に係る微細構造転写装置において特徴的なことは、挟持体24は、少なくともマザースタンパ12の凹凸パターンを有する面12aの各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部18aを固定し、前記凹凸パターンを有する面12aの各頂点(角部)近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部は固定しないことである。
【0027】
樹脂フィルム18をこのように固定することにより、従来、マザースタンパの角部によって拘束されていた樹脂フィルム18の部分は拘束されなくなるので収縮が起こる一方、中央付近は固定されて収縮が抑えられるため、角部付近と中央付近の収縮率のばらつきを抑えることができ、異方収縮が改善される。
【0028】
また、異方収縮が改善されれば、収縮量を正確に予測することが可能になるので、事前にその予測収縮量をマザースタンパの設計に反映させることができ、得られる樹脂スタンパの寸法精度が向上する。なお、収縮は冷却及び脱型段階で起こるので、遅くとも冷却する前に上記部分を固定していればよい。
【0029】
本発明において、マザースタンパ12は平面形状が多角形状のものを使用する。本実施の形態では、平面形状が矩形であるマザースタンパを例として説明する。固定枠14及び可動枠16もそれに対応して矩形状の枠として形成されている。
【0030】
図2は、本発明に使用する好適な樹脂フィルムとその固定部の一例を示す平面図である。この樹脂フィルム18は、略矩形状のフィルムの各四辺のうち、その各四辺の中央部を含み且つ両端部を除く部分に、外方に延出して形成された固定部(延出部)18aをそれぞれ有している。この固定部18aを固定枠14と可動枠16により挟持することにより樹脂フィルム18の固定が行われる。固定部18aは、辺の中央から直近の2つの角方向に均等長さ分、外方に延出形成されていることが好ましい。
【0031】
図3は、本発明に好適な樹脂フィルムとその固定部の他の例を示す平面図である。この樹脂フィルム18は、平面形状が八角形の樹脂フィルムであり、その八辺のうちそれぞれ互いに対向する四辺がマザースタンパ12から平面視ではみ出している。このはみ出し部が固定枠14と可動枠16とで挟持される固定部18aとなる。なお、この例では、マザースタンパ12のスタンパ面12aに対して樹脂フィルム18が平面視で重なっている領域に、マザースタンパ12の凹凸パターンが形成されている必要がある。
【0032】
図4は、本実施の形態に係る微細構造転写装置の一部の分解概略斜視図である。上から順に固定枠14、樹脂フィルム18、可動枠16、スタンパ12を図示しており、樹脂フィルム18は図2の例で示した樹脂フィルムを用いた例を示している。このように、樹脂フィルム18の固定部18aが固定枠16及び可動枠14により挟持されることにより固定される。可動枠14と固定枠16はボルト等の接続手段(図示せず)で接続される。
【0033】
ここで、樹脂フィルム18の固定部18aの固定長さは、固定枠14の各辺の固定可能長さに対して、0.2以上1未満、好ましくは0.3〜0.75であることが好ましい。0.2未満であると、十分に樹脂フィルムを固定できなくなり、樹脂フィルムの破損が生じる場合がある。
【0034】
固定枠14の固定可能長さとは、図5(a)に示す長さLであり、固定枠14の中心線(破線で図示)14aにより形成される枠線の一辺の長さである。樹脂フィルム18の固定長さとは、図5(b)に示す長さlであり、固定枠14と可動枠16とで挟持される長さである。固定部18aの延出幅wは、固定枠14と可動枠16とで挟持できる長さだけあればよく、例えば、辺の長さに対して1〜10%程度である。
【0035】
上述したように、樹脂フィルム18は遅くとも冷却する前に上記所定箇所が固定されていればよい。そのため、加熱押圧時には周縁部を全て固定しておき、冷却直前にスタンパ面12aの各頂点近傍に位置する樹脂フィルム18の縁部の固定を解除してもよい。
【0036】
図6は、本発明の他の実施の形態を示す微細構造転写装置の一部の分解概略斜視図である。本実施の形態では、固定枠14の各辺の中央部から下方に突出形成された突出部15を有しており、突出部15はその下面が樹脂フィルム18の表面と平行に形成されている。本実施の形態に使用する樹脂フィルム18は上述したような延出形成された固定部18aは有しておらず、通常の樹脂フィルムを使用する。そして、固定枠14の突出部15と可動枠16とで樹脂フィルム18を挟持することにより、突出部15と接することとなる樹脂フィルム18の各辺の中央部のみが固定される。突出部15の辺方向の長さは、上記の実施の形態と同様の長さ範囲であればよく、固定枠14の平面視中心線により形成される想定枠線の一辺の長さに対して、0.2以上1未満、好ましくは0.3〜0.75である。
【0037】
樹脂フィルム18の材質としては、熱可塑性の樹脂であればどのようなフィルムでもよく、好ましくは離型性の高いフィルムを用いることが有利である。また、作製した樹脂スタンパを光インプリントに使用する場合には、透明性に優れる樹脂を使用することが好ましい。
【0038】
具体的には、樹脂フィルムの樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0039】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等を使用することができる。
【0040】
樹脂フィルム18の厚さは特に限定されず、一般に50〜1000μmである。樹脂フィルムの大きさは、マザースタンパ12の微細な凹凸パターンが形成された領域よりも少なくとも大きければよい。上述した固定部18aを有する樹脂フィルムは、矩形状のフィルムを作製した後、角部を三角形状やL字状に切欠する等して作製することができる。
【0041】
マザースタンパ12としては一般に、ニッケル、石英等からなるスタンパを使用することができる。耐久性の点からニッケル製のスタンパを用いることが好ましい。マザースタンパ12に形成される微細な凹凸パターンは一般にナノ〜マイクロメートルオーダーの凹凸パターンである。マザースタンパ12の厚さは特に限定されないが、一般に0.1〜2.0mmである。本実施の形態においてマザースタンパ12は平板状に形成されている。
【0042】
本発明に係る微細構造転写装置10は、図示しない加熱手段を有している。加熱手段は、熱インプリント法で従来から用いられている方法であればよく、例えば、図1に示すスタンパベース22内にヒータを設置して、マザースタンパ12を介して加熱する方法や、熱風を送風して加熱する方法が挙げられる。加熱温度は、樹脂フィルム18のガラス転移温度(Tg)以上の温度であればよい。具体的には、使用する樹脂フィルムによって異なるが、一般に100〜200℃である。
【0043】
本発明に係る微細構造転写装置10は、加熱により軟化した樹脂フィルムを硬化させるための冷却手段を備えていてもよい。自然に冷却させてもよいが、冷却手段によって冷却することにより、冷却に要する時間が短縮され、樹脂スタンパの生産性が向上する。冷却手段としては、冷風を送風して冷却する方法や、スタンパベース22内に冷却媒体を流す管を設ける方法等がある。
【0044】
本発明に係る微細構造転写装置10は、上記加熱手段によって加熱した後又は加熱と共に、樹脂フィルム18をマザースタンパ12に押圧するための押圧手段(図示せず)を備えている。押圧手段は、従来から用いられている方法であればよく、例えば、樹脂フィルム18上の空間を密閉した後、その密閉空間に、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の不活性ガス等の流体を供給することによって押圧する方法や、平板を用いて機械的に押圧する方法が挙げられる。流体により押圧することが、樹脂フィルム18を均一に押圧することができる点で好ましい。流体により押圧する場合には、ポリエチレン等の可撓性を有する膜を樹脂フィルム18の上面に載置して、その可撓性を有する膜の上部に耐圧性の板状部材を設けると共に膜と板状部材との間に密閉空間を形成し、その空間に流体を供給する方法等を用いることができる。押圧は、一般に、0.5〜5MPa、0.5〜10分で行われる。
【0045】
なお、本発明において、多角形とは、通常の多角形だけでなく、各辺と辺の延長線上に角を形成するものも含む概念であり、例えば、多角形の各頂点が円弧状や線状に切欠された形状も含む。本発明は上記実施の形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。上記実施の形態では、平面形状が矩形状のマザースタンパを例として示したが、多角形、特に三角形〜六角形状であってもよい。
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0047】
<実施例1〜3、比較例1>
各実施例及び比較例において、図5(b)に示す樹脂フィルムの固定長さlを表1に示す各長さに変更して作製したフィルムを使用し、図1に示す微細構造転写装置を用いてそれぞれ凹凸パターンの転写を行い、樹脂スタンパを作製した。比較例1は、樹脂フィルムの周縁部を全て固定した場合の実験例である。
【0048】
具体的には、まず、矩形状の固定枠と可動枠とで樹脂フィルムの固定部を挟持して樹脂フィルムを固定し、次に、樹脂フィルムを160℃に加熱して2.0MPaで押圧した後、50℃に冷却して硬化させ、脱型した。使用した樹脂フィルムは、210mm×210mm(固定部含まず)であり、厚さは188μmである。また、樹脂フィルムの材質は、ポリシクロオレフィンである。使用したマザースタンパはニッケル製であり、その矩形状の面(200mm×200mm)に微細な凹凸パターンが形成されている。凹凸パターンは線幅20μm、高さ40μmの正方格子状(格子部分が凸部)のパターンであり、線幅の間隔は300μmである。
【0049】
<評価方法>
(1)異方収縮量の測定
図7に示すように、得られた樹脂スタンパの上下左右の任意のラインについてそれぞれ9点の座標(X軸、Y軸)を測定し、各ラインにおける各測定ポイントのうち最大収縮点と最小収縮点の差(絶対値)を異方収縮量とした。また、上下左右の異方収縮量の平均を算出した。異方収縮量の測定にはミツトヨ社製画像測定機(型番:QV STREAM 404)を使用した。
(2)樹脂フィルムの破損の有無
得られた樹脂スタンパについて破損の有無を目視で調べた。
【0050】
結果を表1に示す。なお、表1の固定枠の固定可能長さは図5に示すLであり、樹脂フィルムの固定長さは図5に示すlである。
【0051】
【表1】
【0052】
<評価結果>
上記表に示されているように、樹脂フィルムの四辺の全てを固定した比較例1と比較して、固定長さをそれぞれ変更した実施例1〜3は、上下左右平均全てにおいて異方収縮量が低下していた。以上により、樹脂フィルムの上述した箇所のみを固定すれば、異方収縮が抑えられることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば寸法精度が良好な樹脂スタンパを得ることができ、これにより電子ディスプレイ、電子ペーパー等の情報表示用パネルの隔壁や電子デバイス(リソグラフィ、トランジスタ)、光学部品(マイクロレンズアレイ、導波路、光学フィルタ、フォトニックス結晶)、バイオ関連材料(DNAチップ、マイクロリアクタ)、記録媒体(凹凸パターンドメディア、DVD)等を有利に得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 微細構造転写装置
12 マザースタンパ
14 固定枠
15 突出部
16 可動枠
18 樹脂フィルム
18a 固定部
20 Oリング
22 スタンパベース
24 挟持体
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンパに形成された微細な凹凸パターンを樹脂フィルムに転写する微細構造転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス、ディスプレイ、電子ペーパー、記録メディア、バイオチップ、光デバイスなどの製造工程における微細な凹凸パターンを形成するための技術として、ナノインプリント技術が知られている。ナノインプリント技術は、従来のプレス技術と比較して、より微小な構造を実現するための微細加工の技術である。この技術自体には解像度に限界がなく、解像度はスタンパ(即ち金型)の作製精度によって決定される。したがって、高い精度のスタンパさえ作製できれば、従来のフォトリソグラフィーより容易に且つはるかに安価な装置を用いて、極微細構造を形成することが可能である。
【0003】
インプリント技術には転写される材料により2種類に大別される。一方は、転写される材料を加熱し、スタンパ(金型)により塑性変形させた後、冷却して凹凸パターンを形成する熱インプリント技術である。もう一方は、基板上に室温で液状の光硬化性樹脂を塗布した後、光透過性のスタンパを樹脂に押し当て、光を照射させることで基板上の樹脂を硬化させ凹凸パターンを形成する光インプリント技術である。
【0004】
インプリント技術では、パターン成形を安価に行うことができるが、マザースタンパである金型に樹脂が付着し易く、樹脂が付着した場合、その金型を補修することは極めて困難である。金型は非常に高価なため、製造全体として安価とは言えない場合が多い。
【0005】
その理由から、2工程によるインプリント法が一般に用いられている(特許文献1)。このインプリント法は、図8(a)に示すように、第1工程でマザースタンパ(金型)80の凹凸パターンが形成された表面に、加熱した熱可塑性樹脂フィルム82を押圧した後、冷却して硬化させ、マザースタンパ80の反転凹凸パターンが形成された樹脂スタンパ82aを得、次に、図8(b)に示すように、第2工程でこの樹脂スタンパ82aを、基板84上に塗布された光硬化性樹脂86に押圧して紫外線等により硬化させ、基板84上に凹凸パターン86aを得るというものである。
【0006】
即ち、2工程によるインプリント法では、第1工程において熱インプリント法により樹脂スタンパ(中間スタンパ、IPSとも呼ばれる。)を作製し、第2工程においてこの樹脂スタンパを用いる光インプリント法により基板上に所定の凹凸パターンが形成される。
【0007】
ここで、第1工程の熱インプリントに使用する微細構造転写装置として図9に示す微細構造転写装置が従来から知られている。この微細構造転写装置60は、スタンパベース72上に載置固定されたマザースタンパ62と、マザースタンパ62の微細な凹凸パターンを有する面62aに対して垂直方向(矢印方向)に可動な可動枠66と、可動枠66の上方に位置する固定枠64とを有している。樹脂フィルム68は、その周縁部が可動枠66と固定枠64によりOリング70を介して挟持することにより固定され、凹凸パターンを有する面62aに対向配置されている。
【0008】
マザースタンパ62に形成された凹凸パターンを樹脂フィルム68に転写して樹脂スタンパを得るには、まず、樹脂フィルム68をマザースタンパ62に接するように可動枠66により位置調整した後、樹脂フィルム68をそのガラス転移温度以上に加熱すると共に、マザースタンパ62に押圧する。その後、樹脂フィルム68を冷却した後、可動枠66を上方にリフトアップさせて樹脂フィルム68を脱型することにより行われる。樹脂フィルム68は一般に平面形状が矩形状のフィルムであり、その周縁部の全てが固定枠64と可動枠66とにより挟持されることにより固定され、転写が行われた後に固定が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−165812
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、加熱を行うと、樹脂フィルムが収縮してマザースタンパの設計寸法よりも全体的に小さく仕上がることがあり、樹脂フィルムへの凹凸パターンの転写精度が十分ではなかった。特に、図10に示すように、転写前の樹脂フィルム(a)に比べて、転写後の樹脂フィルム(樹脂スタンパ)(b)は、四辺の中央部で収縮が顕著である一方で、四隅付近では中央部ほど収縮量が大きくなく、フィルムの各領域によって収縮度が異なり、これが転写の精度に影響を及ぼしていた(以下、この現象を異方収縮と称する)。
【0011】
したがって、本発明の目的は、樹脂フィルムの異方収縮が改善され、得られる樹脂スタンパの寸法精度が良好な微細構造転写装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的は、その微細構造の転写に好適な樹脂フィルムを提供することにある。
【0013】
更に、本発明の目的は、樹脂フィルムの異方収縮が改善され、得られる樹脂スタンパの寸法精度が良好な微細構造転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記異方収縮の原因について検討した結果、図11の平面図(a)及び断面図(b)に示すように、押圧時に樹脂フィルム68の端部がスタンパ62の上面より下方に位置した場合に、樹脂フィルム68の角付近はマザースタンパ62の角部によって拘束される(図中の○印)一方で、樹脂フィルム68の各辺の中央部はマザースタンパ62による拘束力は小さいため、樹脂フィルムの中心方向に大幅に収縮していることが分かった。
【0015】
即ち、上記目的は、表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパと、前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対向するように樹脂フィルムを挟持する挟持体と、を有する微細構造転写装置であって、前記挟持体は、少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写装置により達成される。
【0016】
マザースタンパの角部によって拘束されない樹脂フィルムの縁部のみを固定することにより、転写後の樹脂フィルムの異方収縮を改善させることができ、これにより、樹脂スタンパの寸法精度を向上させることが可能となる。
【0017】
本発明の好ましい態様は以下の通りである。
【0018】
(1)前記挟持体は、前記マザースタンパのその外周外側に設けられ且つ前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対して垂直方向に可動な多角形状の可動枠と、該可動枠の上方に位置する多角形状の固定枠とを有し、
前記固定は、前記固定される樹脂フィルムの縁部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われる。
(2)前記樹脂フィルムの固定長さは、前記固定枠の各辺の固定可能長さに対して0.2以上1未満である。
(3)前記樹脂フィルムの縁部は、外方に延出して形成された固定部を有し、前記固定は該固定部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われる。
(4)前記多角形が四角形である。
【0019】
また、上記目的は、多角形状のフィルムの各辺のうち、少なくとも該各辺の中央部を含み且つ両端部を除く部分に、外方に延出して形成された延出部をそれぞれ有することを特徴とする微細構造転写用樹脂フィルムによっても達成される。
【0020】
更に、上記目的は、表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパの当該凹凸パターンを有する面に、樹脂フィルムを加熱下に押圧した後、冷却して除去する工程を含む微細構造転写方法において、遅くとも前記冷却前に、少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写方法により達成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、転写時における樹脂フィルムの異方収縮が改善されため、得られる樹脂スタンパの寸法精度を向上させることが可能となる。本発明の微細構造転写装置は、特に収縮の影響を受けやすい比較的大きなサイズのインプリント用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る微細構造転写装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に使用する樹脂フィルムとその固定部の一例を示す平面図である。
【図3】本発明に使用する樹脂フィルムとその固定部の一例を示す平面図である。
【図4】本発明に係る微細構造転写装置の一部を示す分解概略斜視図である。
【図5】樹脂フィルムの固定長さを示す説明図である。
【図6】微細構造転写装置の他の実施の形態の一部を示す分解概略斜視図である。
【図7】実施例において樹脂フィルムの収縮量の測定箇所を示す説明図である。
【図8】2工程のインプリント法を示す概略説明図である。
【図9】従来の微細構造転写装置の概略断面図である。
【図10】従来の樹脂フィルムの転写前(a)と転写後(b)の概略平面図である。
【図11】マザースタンパに樹脂フィルムを押圧した状態の平面図(a)及び断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る微細構造転写装置の概略断面図である。この微細構造転写装置10は、表面に微細な凹凸パターンが形成されたマザースタンパ12と、マザースタンパ12の凹凸パターンを有する面12a(以下、スタンパ面12aとも称する。)に対して垂直方向(矢印方向)に可動な可動枠16と、樹脂フィルム18の周縁部のうち所定箇所18aを可動枠16と挟持する固定枠14とを有している。この可動枠16と固定枠14とにより樹脂フィルム18を挟持するための挟持体24が構成されている。
【0024】
可動枠16はマザースタンパ12の外周外側に配置され、可動枠16の上方に対向する位置に固定枠14が配置されている。本実施の形態では、樹脂フィルム18は、固定枠14の下面にその枠に沿って取り付けられた緩衝部材としてのOリング20を介して、固定枠14と可動枠16とで上下から挟持されて固定され、これにより樹脂フィルム18はスタンパ面12aに対向するように配置される。Oリング20は設けなくても良いが、樹脂フィルム18を破損させずに確実に固定するためには設けられている方が好ましい。マザースタンパ12はスタンパベース22に載置固定されている。
【0025】
この微細構造転写装置10により樹脂フィルム18にスタンパ12の凹凸パターンを転写するには、まず、可動枠14を上下方向に移動させることにより樹脂フィルム18の位置設定をした後、樹脂フィルム18をそのガラス転移温度以上の温度に加熱した状態で、樹脂フィルム18をスタンパ面12aに押圧する。次に、樹脂フィルム18をガラス転移温度未満の温度に冷却した後、可動枠16を上方にリフトアップして樹脂フィルム18を脱型する。その後、樹脂フィルム18が取り付けられている固定枠14から凹凸パターンが転写された樹脂フィルム18を取り外すことにより樹脂スタンパが得られる。
【0026】
本発明に係る微細構造転写装置において特徴的なことは、挟持体24は、少なくともマザースタンパ12の凹凸パターンを有する面12aの各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部18aを固定し、前記凹凸パターンを有する面12aの各頂点(角部)近傍に対応する位置の樹脂フィルム18の縁部は固定しないことである。
【0027】
樹脂フィルム18をこのように固定することにより、従来、マザースタンパの角部によって拘束されていた樹脂フィルム18の部分は拘束されなくなるので収縮が起こる一方、中央付近は固定されて収縮が抑えられるため、角部付近と中央付近の収縮率のばらつきを抑えることができ、異方収縮が改善される。
【0028】
また、異方収縮が改善されれば、収縮量を正確に予測することが可能になるので、事前にその予測収縮量をマザースタンパの設計に反映させることができ、得られる樹脂スタンパの寸法精度が向上する。なお、収縮は冷却及び脱型段階で起こるので、遅くとも冷却する前に上記部分を固定していればよい。
【0029】
本発明において、マザースタンパ12は平面形状が多角形状のものを使用する。本実施の形態では、平面形状が矩形であるマザースタンパを例として説明する。固定枠14及び可動枠16もそれに対応して矩形状の枠として形成されている。
【0030】
図2は、本発明に使用する好適な樹脂フィルムとその固定部の一例を示す平面図である。この樹脂フィルム18は、略矩形状のフィルムの各四辺のうち、その各四辺の中央部を含み且つ両端部を除く部分に、外方に延出して形成された固定部(延出部)18aをそれぞれ有している。この固定部18aを固定枠14と可動枠16により挟持することにより樹脂フィルム18の固定が行われる。固定部18aは、辺の中央から直近の2つの角方向に均等長さ分、外方に延出形成されていることが好ましい。
【0031】
図3は、本発明に好適な樹脂フィルムとその固定部の他の例を示す平面図である。この樹脂フィルム18は、平面形状が八角形の樹脂フィルムであり、その八辺のうちそれぞれ互いに対向する四辺がマザースタンパ12から平面視ではみ出している。このはみ出し部が固定枠14と可動枠16とで挟持される固定部18aとなる。なお、この例では、マザースタンパ12のスタンパ面12aに対して樹脂フィルム18が平面視で重なっている領域に、マザースタンパ12の凹凸パターンが形成されている必要がある。
【0032】
図4は、本実施の形態に係る微細構造転写装置の一部の分解概略斜視図である。上から順に固定枠14、樹脂フィルム18、可動枠16、スタンパ12を図示しており、樹脂フィルム18は図2の例で示した樹脂フィルムを用いた例を示している。このように、樹脂フィルム18の固定部18aが固定枠16及び可動枠14により挟持されることにより固定される。可動枠14と固定枠16はボルト等の接続手段(図示せず)で接続される。
【0033】
ここで、樹脂フィルム18の固定部18aの固定長さは、固定枠14の各辺の固定可能長さに対して、0.2以上1未満、好ましくは0.3〜0.75であることが好ましい。0.2未満であると、十分に樹脂フィルムを固定できなくなり、樹脂フィルムの破損が生じる場合がある。
【0034】
固定枠14の固定可能長さとは、図5(a)に示す長さLであり、固定枠14の中心線(破線で図示)14aにより形成される枠線の一辺の長さである。樹脂フィルム18の固定長さとは、図5(b)に示す長さlであり、固定枠14と可動枠16とで挟持される長さである。固定部18aの延出幅wは、固定枠14と可動枠16とで挟持できる長さだけあればよく、例えば、辺の長さに対して1〜10%程度である。
【0035】
上述したように、樹脂フィルム18は遅くとも冷却する前に上記所定箇所が固定されていればよい。そのため、加熱押圧時には周縁部を全て固定しておき、冷却直前にスタンパ面12aの各頂点近傍に位置する樹脂フィルム18の縁部の固定を解除してもよい。
【0036】
図6は、本発明の他の実施の形態を示す微細構造転写装置の一部の分解概略斜視図である。本実施の形態では、固定枠14の各辺の中央部から下方に突出形成された突出部15を有しており、突出部15はその下面が樹脂フィルム18の表面と平行に形成されている。本実施の形態に使用する樹脂フィルム18は上述したような延出形成された固定部18aは有しておらず、通常の樹脂フィルムを使用する。そして、固定枠14の突出部15と可動枠16とで樹脂フィルム18を挟持することにより、突出部15と接することとなる樹脂フィルム18の各辺の中央部のみが固定される。突出部15の辺方向の長さは、上記の実施の形態と同様の長さ範囲であればよく、固定枠14の平面視中心線により形成される想定枠線の一辺の長さに対して、0.2以上1未満、好ましくは0.3〜0.75である。
【0037】
樹脂フィルム18の材質としては、熱可塑性の樹脂であればどのようなフィルムでもよく、好ましくは離型性の高いフィルムを用いることが有利である。また、作製した樹脂スタンパを光インプリントに使用する場合には、透明性に優れる樹脂を使用することが好ましい。
【0038】
具体的には、樹脂フィルムの樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0039】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等を使用することができる。
【0040】
樹脂フィルム18の厚さは特に限定されず、一般に50〜1000μmである。樹脂フィルムの大きさは、マザースタンパ12の微細な凹凸パターンが形成された領域よりも少なくとも大きければよい。上述した固定部18aを有する樹脂フィルムは、矩形状のフィルムを作製した後、角部を三角形状やL字状に切欠する等して作製することができる。
【0041】
マザースタンパ12としては一般に、ニッケル、石英等からなるスタンパを使用することができる。耐久性の点からニッケル製のスタンパを用いることが好ましい。マザースタンパ12に形成される微細な凹凸パターンは一般にナノ〜マイクロメートルオーダーの凹凸パターンである。マザースタンパ12の厚さは特に限定されないが、一般に0.1〜2.0mmである。本実施の形態においてマザースタンパ12は平板状に形成されている。
【0042】
本発明に係る微細構造転写装置10は、図示しない加熱手段を有している。加熱手段は、熱インプリント法で従来から用いられている方法であればよく、例えば、図1に示すスタンパベース22内にヒータを設置して、マザースタンパ12を介して加熱する方法や、熱風を送風して加熱する方法が挙げられる。加熱温度は、樹脂フィルム18のガラス転移温度(Tg)以上の温度であればよい。具体的には、使用する樹脂フィルムによって異なるが、一般に100〜200℃である。
【0043】
本発明に係る微細構造転写装置10は、加熱により軟化した樹脂フィルムを硬化させるための冷却手段を備えていてもよい。自然に冷却させてもよいが、冷却手段によって冷却することにより、冷却に要する時間が短縮され、樹脂スタンパの生産性が向上する。冷却手段としては、冷風を送風して冷却する方法や、スタンパベース22内に冷却媒体を流す管を設ける方法等がある。
【0044】
本発明に係る微細構造転写装置10は、上記加熱手段によって加熱した後又は加熱と共に、樹脂フィルム18をマザースタンパ12に押圧するための押圧手段(図示せず)を備えている。押圧手段は、従来から用いられている方法であればよく、例えば、樹脂フィルム18上の空間を密閉した後、その密閉空間に、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の不活性ガス等の流体を供給することによって押圧する方法や、平板を用いて機械的に押圧する方法が挙げられる。流体により押圧することが、樹脂フィルム18を均一に押圧することができる点で好ましい。流体により押圧する場合には、ポリエチレン等の可撓性を有する膜を樹脂フィルム18の上面に載置して、その可撓性を有する膜の上部に耐圧性の板状部材を設けると共に膜と板状部材との間に密閉空間を形成し、その空間に流体を供給する方法等を用いることができる。押圧は、一般に、0.5〜5MPa、0.5〜10分で行われる。
【0045】
なお、本発明において、多角形とは、通常の多角形だけでなく、各辺と辺の延長線上に角を形成するものも含む概念であり、例えば、多角形の各頂点が円弧状や線状に切欠された形状も含む。本発明は上記実施の形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。上記実施の形態では、平面形状が矩形状のマザースタンパを例として示したが、多角形、特に三角形〜六角形状であってもよい。
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0047】
<実施例1〜3、比較例1>
各実施例及び比較例において、図5(b)に示す樹脂フィルムの固定長さlを表1に示す各長さに変更して作製したフィルムを使用し、図1に示す微細構造転写装置を用いてそれぞれ凹凸パターンの転写を行い、樹脂スタンパを作製した。比較例1は、樹脂フィルムの周縁部を全て固定した場合の実験例である。
【0048】
具体的には、まず、矩形状の固定枠と可動枠とで樹脂フィルムの固定部を挟持して樹脂フィルムを固定し、次に、樹脂フィルムを160℃に加熱して2.0MPaで押圧した後、50℃に冷却して硬化させ、脱型した。使用した樹脂フィルムは、210mm×210mm(固定部含まず)であり、厚さは188μmである。また、樹脂フィルムの材質は、ポリシクロオレフィンである。使用したマザースタンパはニッケル製であり、その矩形状の面(200mm×200mm)に微細な凹凸パターンが形成されている。凹凸パターンは線幅20μm、高さ40μmの正方格子状(格子部分が凸部)のパターンであり、線幅の間隔は300μmである。
【0049】
<評価方法>
(1)異方収縮量の測定
図7に示すように、得られた樹脂スタンパの上下左右の任意のラインについてそれぞれ9点の座標(X軸、Y軸)を測定し、各ラインにおける各測定ポイントのうち最大収縮点と最小収縮点の差(絶対値)を異方収縮量とした。また、上下左右の異方収縮量の平均を算出した。異方収縮量の測定にはミツトヨ社製画像測定機(型番:QV STREAM 404)を使用した。
(2)樹脂フィルムの破損の有無
得られた樹脂スタンパについて破損の有無を目視で調べた。
【0050】
結果を表1に示す。なお、表1の固定枠の固定可能長さは図5に示すLであり、樹脂フィルムの固定長さは図5に示すlである。
【0051】
【表1】
【0052】
<評価結果>
上記表に示されているように、樹脂フィルムの四辺の全てを固定した比較例1と比較して、固定長さをそれぞれ変更した実施例1〜3は、上下左右平均全てにおいて異方収縮量が低下していた。以上により、樹脂フィルムの上述した箇所のみを固定すれば、異方収縮が抑えられることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば寸法精度が良好な樹脂スタンパを得ることができ、これにより電子ディスプレイ、電子ペーパー等の情報表示用パネルの隔壁や電子デバイス(リソグラフィ、トランジスタ)、光学部品(マイクロレンズアレイ、導波路、光学フィルタ、フォトニックス結晶)、バイオ関連材料(DNAチップ、マイクロリアクタ)、記録媒体(凹凸パターンドメディア、DVD)等を有利に得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 微細構造転写装置
12 マザースタンパ
14 固定枠
15 突出部
16 可動枠
18 樹脂フィルム
18a 固定部
20 Oリング
22 スタンパベース
24 挟持体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパと、
前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対向するように樹脂フィルムを挟持する挟持体と、
を有する微細構造転写装置であって、
前記挟持体は、
少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、
前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項2】
前記挟持体は、前記マザースタンパのその外周外側に設けられ且つ前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対して垂直方向に可動な多角形状の可動枠と、該可動枠と対向して位置する多角形状の固定枠とを含み、
前記固定は、前記固定される樹脂フィルムの縁部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の微細構造転写装置。
【請求項3】
前記樹脂フィルムの固定長さは、前記固定枠の各辺の固定可能長さに対して0.2以上1未満であることを特徴とする請求項2に記載の微細構造転写装置。
【請求項4】
前記樹脂フィルムの縁部は外方に延出して形成された固定部を有し、前記固定は該固定部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われることを特徴とする請求項2又は3に微細構造転写装置。
【請求項5】
前記マザースタンパを有する面が四角形であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の微細構造転写装置。
【請求項6】
多角形状のフィルムの各辺のうち、少なくとも該各辺の中央部を含み且つ両端部を除く部分に、外方に延出して形成された延出部をそれぞれ有することを特徴とする微細構造転写用樹脂フィルム。
【請求項7】
表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパの当該凹凸パターンを有する面に、樹脂フィルムを加熱下に押圧した後、冷却して除去する工程を含む微細構造転写方法において、
遅くとも前記冷却前に、少なくとも前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写方法。
【請求項1】
表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパと、
前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対向するように樹脂フィルムを挟持する挟持体と、
を有する微細構造転写装置であって、
前記挟持体は、
少なくとも、前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、
前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項2】
前記挟持体は、前記マザースタンパのその外周外側に設けられ且つ前記マザースタンパの微細な凹凸パターンを有する面に対して垂直方向に可動な多角形状の可動枠と、該可動枠と対向して位置する多角形状の固定枠とを含み、
前記固定は、前記固定される樹脂フィルムの縁部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の微細構造転写装置。
【請求項3】
前記樹脂フィルムの固定長さは、前記固定枠の各辺の固定可能長さに対して0.2以上1未満であることを特徴とする請求項2に記載の微細構造転写装置。
【請求項4】
前記樹脂フィルムの縁部は外方に延出して形成された固定部を有し、前記固定は該固定部を前記可動枠と前記固定枠とにより挟持することにより行われることを特徴とする請求項2又は3に微細構造転写装置。
【請求項5】
前記マザースタンパを有する面が四角形であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の微細構造転写装置。
【請求項6】
多角形状のフィルムの各辺のうち、少なくとも該各辺の中央部を含み且つ両端部を除く部分に、外方に延出して形成された延出部をそれぞれ有することを特徴とする微細構造転写用樹脂フィルム。
【請求項7】
表面に微細な凹凸パターンが形成された多角形状のマザースタンパの当該凹凸パターンを有する面に、樹脂フィルムを加熱下に押圧した後、冷却して除去する工程を含む微細構造転写方法において、
遅くとも前記冷却前に、少なくとも前記マザースタンパの凹凸パターンを有する面の各辺の中央部乃至その近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部を固定し、前記凹凸パターンを有する面の各頂点近傍に対応する位置の樹脂フィルムの縁部は固定しないことを特徴とする微細構造転写方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−18257(P2013−18257A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155378(P2011−155378)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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