説明

微細液滴パターニングを用いたマイクロテクスチャ加工によってエラストマー材料の生体適合性を改良する方法

シリコーンエラストマー等のエラストマー材料の表面にミクロ構造を導入する単純な方法を記載する。パターンは、シリコーンエラストマー膜上に保護ポリマーの微細液滴を形成し、ポリマーを硬化させ、その後、被覆されていない材料を化学エッチングによって除去することによって形成される。細胞接着性の研究結果から、処理された材料は、未処理の対照に比べて有意に改良された生体適合性を有することが示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シリコーンエラストマー又はゴム等のエラストマー材料の表面にミクロ構造を導入する単純な方法を記載する。パターンは、エラストマー膜上に保護ポリマーの微細液滴を形成し、ポリマーを硬化させ、その後被覆されていない材料を化学エッチングによって除去することによって形成される。細胞接着性の研究結果から、処理された材料は、未処理の対照に比べて有意に改良された生体適合性を有することが示される。
【背景技術】
【0002】
シリコーンエラストマー又はゴム等のエラストマー材料は、多様な医療機器用途に広範に利用されている。シリコーンエラストマー及びシリコーンゴムは、シリコーンポリマーの種類である。具体的に言うと、構造単位R2SiO(式中、Rは有機基である)に基づく半無機ポリマーの群のいずれかである。シリコーンエラストマー又はゴム等のエラストマー材料を含む素子の性能の最適化に向けた試みは主に、2つの通常の両立できるアプローチ:化学修飾(Wang他、Nature Biotechnology 20:602-606 (2002);Hu他、Langmuir 20:5569-5574 (2004); Chen他、Biomaterials 25:2273-2282 (2005);Makamba他、Anal. Chem. 77:3971-3978 (2005);Price他、J. Biomed. Mater. Res. 74B:481-487 (2005);Huang他、Lab Chip 5:1005-1007 (2005);Yamauchi他、Macromolecules 38:8022-8027 (2005);及びZhou他、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces 41:55-62 (2005)を参照)、並びに表面トポグラフィ修飾(Yamauchi他、Macromolecules 38:8022-8027 (2005);den Braber,他、Biomaterials 17:2037-2044 (1996);Flemming他、Biomaterials 20:573-588
(1999);Wilkerson他、Polymer Preprints 42:147-148 (2001);Berglin他、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces 28:107-117 (2003);Evans他、Biomaterials 26:1703-1711 (2005);及びGoldner他、Biomaterials 27:460-472 (2006)を参照)に向けられている。シリコーンエラストマーの化学修飾のための1つの一般的な方法は、プラズマ処理、例えば、Price他の上記における、アルゴンプラズマ放電処理とフッ化シランカップリングとの組合せをシリコーンゴムに施すことにより、処理されたゴムへのカンジダ(Candida)属の接着性の低下が見出されるものである。別の既知の方法は、ポリマーのグラフト化:例えば、異なる電気泳動度特性を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)を生成する際に、帯電モノマーと電気的に中性のモノマーとを共混合させるHu他の上記のもの;N,N’−ジメチル−N−メタクリロイルオキシエチル−N−(2−カルボキシエチル)アンモニウムをシリコーンゴム膜上にグラフト化させることにより、このように処理された膜が、血小板接着性が全くなく且つタンパク質吸着が低下することによって示されるように、改良された血液適合性を有することが見出されるZhou他の上記のもの;及び、Xiao他、Anal. Chem. 76:2055-2061 (2004)の、原子移動ラジカル重合によってPDMS表面をポリアクリルアミドで修飾することにより、毛細管構造におけるこのような表面の使用が、タンパク質吸着を不要とし且つ電気泳動によるタンパク質の分離を促進させたことが見い出されるものである。別の既知の化学修飾方法は、吸着、例えばPDMSをn−ドデシル−β−D−マルトシドで被覆することにより、非特異的なタンパク質吸着を最小限とするHuang他の上記のもの、及びホスファチジルコリン膜をプラズマ酸化PDMS上に組織化させることにより、湿潤性及びタンパク質の耐性を改良させる、Phillips他、Anal. Chem. 77:327-334 (2005)である。PDMSの修飾方法の一般的な種類としては、エネルギーの曝露、荷電表面を用いた動的修飾、高分子電解質多層膜を用いた修飾、放射線グラフト重合及びセリウム(IV)によって触媒される重合並びにシラン化を含む共有結合修飾、化学蒸着、リン脂質二分子膜修飾、並びにMakamba他、Electrophoresis 24:3607-3619 (2003)において検討されているようなタンパク質修飾が挙げられる。これらの修飾は、タンパク質接着(Chen他の上記のものを参照)、細胞応答(Makamba他、Anal. Chem.、同上
を参照)、及び接着(Bartzoka他、Adv. Mater. 11:257-259 (1999)を参照)に関する所望の素子挙動を促す。シリコーンエラストマーの表面トポグラフィは通常、マイクロパターニング技法によって修飾される。多くの研究では、それらの従来の対応物と比較して、テクスチャ加工された表面上への生体接着の区別可能な相違が示される。例としては、Flemming他の上記のもの(細胞アライメントの合成ミクロ構造表面及びナノ構造表面の効果及び層形成に、基底膜トポロジーを関連付ける);Goldner他の上記のもの(溝加工されたPDMS表面の溝の間に神経突起の架橋を観測する);den Braber他、J. Biomed. Mater. Res. 15:539-547 (1997)(より少ない炎症細胞及びより多くの血管を、in vivoで、微細溝加工されたシリコーンゴムインプラントを取り囲むカプセル内に有意に見い出す);Yim他、Biomaterials 26:5405-5413 (2005)(ナノパターニングされた格子を有するエラストマー表面上に播種される平滑筋細胞がその格子に整合され、且つ対照表面上に播種される細胞と比較して伸長したことが見い出される);Thapa他、Biomaterials 24:2915-2926 (2003)(膀胱平滑筋細胞が化学エッチングされた高分子膜上に多数存在すれば、ナノ構造の表面粗さが増すことが見い出される);及び、von Recum他、J. Biomater. Sci., Polym. Ed. 7:181-198 (1995)が挙げられる。
【0003】
ミクロ構造表面を製造する何種類かの方法が記載されており、これらの方法は典型的に、フォトリソグラフィに続く反応性イオンエッチング、又はシロキサン樹脂とその硬化剤との混合物の事前にパターニングした原型への鋳造に続く硬化したエラストマーの剥離(ソフトリソグラフィ)を用いた表面上へのパターン形成等のマイクロマシニング技術を用いている。これらの方法は両方とも、表面形状の正確な制御を提供するが、通常それぞれ、平らな素子表面又は未硬化材料という制限を受ける。さらに、シリコーンエラストマー(具体的にはポリジメチルシロキサン(「PDMS」))の表面再配置の観測が報告されているが、この現象は完全に時間に対応するものではなかった。例えば、Makamba他、Anal. Chem.、同上は、表面を疎水性状態へと再び転換させる、(未修飾形態では高度に疎水性である)親水性修飾されたPDMSの表面再配置の現象を報告しており、また、Batra他、Macromolecules 38:7174-7180 (2005)は、エラストマーの末端における緩和時間でのPDMS鎖の末端結合の効果を報告している。エラストマー材料の表面に導入されるミクロ構造の再配置に関するこれらの報告(observations)により、微細形状がもたらす所望の特性の付帯損失を伴い、シリコーンエラストマー等のエラストマー材料の表面が多くの場合、経時的に不安定であること、及びこの不安定性が、表面修飾によって実現される利益を取り去るかもしれないことが示される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の態様において、エラストマー表面上に、ポリマーを含む液体の微細液滴を形成すること、ポリマーの微細液滴を硬化させること、エラストマーをエッチングするが、硬化したポリマーの微細液滴はエッチングしない作用物質を用いて、表面を化学エッチングすること、及びポリマーの微細液滴を溶解させることを含む、エラストマー表面を処理する方法が提供される。
【0005】
さらなる態様では、エラストマー表面が、シリコーンエラストマーを含む。
【0006】
さらなる態様では、エラストマー表面が、ポリジメチルシロキサンを含む。
【0007】
さらなる態様では、液体が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したポリマーを含む。
【0008】
さらなる態様では、形成工程が、エラストマー表面上に液体を噴霧することを含む。
【0009】
さらなる態様では、形成工程が、液体を供給する細長いプローブを、エラストマー表面と接触させることを含む。
【0010】
さらなる態様では、硬化工程が、焼成することを含む。
【0011】
さらなる態様では、硬化工程が、微細液滴を放射線に曝すことを含む。
【0012】
さらなる態様では、硬化した微細液滴が、0.001〜500ミクロンの範囲の最大幅を有する。
【0013】
さらなる態様では、硬化した微細液滴が、0.005〜300ミクロンの範囲の最大幅を有する。
【0014】
さらなる態様では、硬化した微細液滴が、0.05〜175ミクロンの範囲の最大幅を有する。
【0015】
さらなる態様では、硬化した微細液滴が、0.5〜100ミクロンの範囲の最大幅を有する。
【0016】
さらなる態様では、エッチング剤が酸溶液である。
【0017】
さらなる態様では、酸溶液がフッ化水素酸水溶液である。
【0018】
さらなる態様では、酸溶液が硝酸溶液である。
【0019】
さらなる態様では、エッチング剤がイオン性である。
【0020】
さらなる態様では、エッチング剤が酸素プラズマである。
【0021】
さらなる態様では、エッチング剤が、水酸化ナトリウム、アセトン、トルエン及びヘキサンから成る群から選択される。
【0022】
さらなる態様では、溶解工程が、ポリマーの微細液滴を溶解する作用物質ですすぐことを含む。
【0023】
さらなる態様では、すすぎ剤がエタノールである。
【0024】
さらなる態様では、すすぐことが、無水エタノール中での超音波処理を含む。
【0025】
さらなる態様では、方法が、エッチング工程直後に、表面を水ですすぐことをさらに含む。
【0026】
さらなる態様では、形成工程が、シャドウマスクを介してエラストマー表面上にポリマーの溶液を噴霧することを含む。
【0027】
さらなる態様では、シャドウマスクが格子形状を有する。
【0028】
さらなる態様では、シャドウマスクが、エラストマー表面の少なくとも一部上の微細液滴の形成を防止するように構成されている。
【0029】
さらなる態様では、形成工程が、固体ポリマー微細粒子を加熱して、ポリマーの微細液滴を形成することを含む。
【0030】
さらなる態様では、硬化工程が、微細液滴を冷却することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本開示は、ポリマー含有液体の細かい霧でシリコーン膜をスプレーコーティングし、その後化学処理により被覆されていないシリコーンをエッチングすることによってテクスチャ加工された、シリコーンエラストマー表面等のエラストマー表面に関する。ポリマー含有液体の例としては、ポリマー溶液及び固体ポリマー微細粒子の懸濁液が挙げられる。ポリマー液滴を取り除いた後に、微小島形状を有するミクロ構造表面が得られる。得られた材料は、細胞接着性の研究から示されるように(以下の実施形態3を参照)、その未処理の対応物に比べて有意に改良された細胞接着を有する。
【0032】
本開示の方法は、事前にパターニングした原型を必要としない(Li他、Adv. Mater. 17:1249-1250 (2005)を参照)多種多様なソフトリソグラフィ(Xia他、Angew. Chem. Int. Ed. 37:550-575 (1998)を参照)を示す。これは、ミクロンサイズ以下の粒子を制御するのに使用されているインクジェット印刷又はノズル噴霧に基づく技法に由来するものである(Okuyama他、Chem. Engr. Sci. 58:537-547 (2003)を参照)。このプロセスは、以下のように概要を示すことができる。
【0033】
初めに、ポリマーの微細液滴を、エラストマー表面上に堆積させる。好ましい実施形態では、微細液滴の堆積は、ペイントスプレーヤ等の市販の噴霧機を用いて噴霧堆積によって為されてもよいが、ポリマーの微細液滴をランダムに散布させる任意の方法を使用してもよい。加圧エアロゾル発生装置等の他の噴霧装置を使用してもよい。使用される噴霧装置は、調整可能なノズル等を介して様々なサイズの微細液滴を生成するのに使用することができるものが好ましい。エラストマー表面を何度も処理して、より複雑なミクロ構造を形成する場合に、このような噴霧装置が特に好ましい。噴霧以外の方法を使用してもよい。例えば、一実施形態では、エラストマー表面と接触し、且つポリマー含有液体を表面に供給する細長いプローブを用いて微細液滴をエラストマー表面に塗布してもよい。細長いプローブの例としては、針、スティック、又はポリマー含有液体中に浸漬される他の細長い構造体、並びにポリマー溶液を供給するカテーテル様の構造体が挙げられる。他の実施形態では、固体ポリマー微細粒子をエラストマー表面に塗布した後、続く加熱工程で表面上に溶融させることができる。この態様において、微細粒子の塗布は、エラストマー表面上に方向付けられるガス流中に微細粒子を取込むことによって為される。さらなる態様では、微細粒子を含有する懸濁液でエラストマー表面を被覆することによって、ポリマー微細粒子を塗布する。代替的に、ポリマー蒸気により、エラストマー表面が微細液滴を濃縮させ且つ形成してもよい。他の実施形態では、ポリマー含有液体をエラストマー表面に塗布してもよく、その後、液体の一部を表面から流出させるように攪拌すると、いくらかの液滴又は他のポリマー構造が表面上に残る。さらに、この場合、「微細液滴」とは、好ましくは0.001〜500ミクロン、より好ましくは0.0025〜400ミクロン、さらにより好ましくは0.005〜300ミクロン、さらにより好ましくは0.01〜250ミクロン、さらにより好ましくは0.025〜200ミクロン、さらにより好ましくは0.05〜175ミクロン、さらにより好ましくは0.1〜150ミクロン、さらにより好ましくは0.25〜125ミクロン、最も好ましくは0.5〜100ミクロンの範囲の最大幅を有する液滴を意味する。上記範囲の下端及び上端の任意の組合せは特に、本開示の範囲内であると解釈される。微細液滴は、包括的な円形形状を有していなくてもよく、実施形態によっては、液滴は、微細液滴の内容物(content)及びそれらを形成するのに使用される方法に応じて、エラストマー表面と接触する点において楕円又は不規則な形状の断面を有していてもよい。
【0034】
さらに、種々のエラストマー材料の処理が意図される。好ましい実施形態では、シリコーンエラストマーPDMSを使用する。しかしながら、他のジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、フルオロシリコーン、熱可塑性シリコーン−ウレタンコポリマー、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)、及びポリ(エーテルウレタン)等のポリウレタンを使用してもよい。
【0035】
さらに、その微細液滴を含むポリマーは、液体溶液又は懸濁液中で噴霧可能であり、且つ焼成又はいくつかの他の方法によって硬化され得るものであれば特に限定されない。好ましい実施形態では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中に溶解したポリマーの溶液(Shipley1813として市販されているもの)を使用する。この溶液は、簡便に塗布することができるという使い易さを特徴とし、水溶液に溶解せず、得られる硬化した微細液滴は、エタノール又はアセトンによって容易に除去することができる。ポリスチレン及びポリ(メチルメタクリレート)も、同様の使い易さを特徴とし、また、本発明の方法に好ましい。しかしながら、ポリウレタン及びポリエステル等の他のポリマー溶液を使用してもよい。さらに、ポリマーの微細液滴を硬化することが可能であれば、任意の既知の溶媒を使用してもよい。
【0036】
ポリマーの微細液滴は、エッチングマスクとして作用する。微細液滴は初めに、好ましくは焼成又は乾燥によって硬化されるが、任意の既知の硬化方法を使用してもよい。例えば、実施形態によっては、UV光等の放射線又は展開剤に曝すことによって微細液滴を硬化させることができる。次に、硬化したポリマーの微細液滴を上部に有するエラストマー表面を化学エッチング剤に曝す。好ましい実施形態では、エッチング剤はフッ化水素酸の水溶液であるが、関連するエラストマー表面をエッチングすることが知られている任意の作用物質を使用してもよい。例えば、エッチングは、THF溶液中のテトラブチルアンモニウムフルオリド、イオンミリング、硝酸、水酸化ナトリウム、アセトン、トルエン、ヘキサン、酸素プラズマ又はCF4ガスを用いて為され得る。イオンミリングは、真空下で試料に適用されるプロセスであり、これにより、表面の選択された領域がイオンのエネルギービームによってボンバード処理される。例えば、エラストマー表面を保護ポリマーの微細液滴で選択的に覆った後、イオンミリングをアルゴンを用いて実施し、保護されていないエラストマーを除去することでパターンを作製することができる。化学処理により、被覆されていないエラストマーをエッチングによって除去し、被覆されていない表面上にミクロ構造形状を形成する。ポリマーの液滴を除去した後に、微小島形状を有するミクロ構造表面が得られる。この微細液滴による被覆/化学エッチング方法は、エラストマー素子表面上にマイクロテクスチャを導入する単純且つ安価な技法を示す。従来の微細加工技法と本開示の微細液滴パターニング技法との比較を表1に示す。
【0037】
【表1】

【実施例】
【0038】
(実施形態1)
マイクロテクスチャ加工された膜の形成
マイクロテクスチャ加工されたシリコーンエラストマーの調製は、図1に記載のプロトコルに従う。Dow Corning Sylgard(登録商標)184シリコーンエラストマーキットを用いて、PDMS膜を調製した。詳細には、10:1の比率でDow
Corning Sylgard(登録商標)184シリコーンエラストマーを硬化剤と混合することによって、PDMS膜を調製した。この混合物を減圧し、90℃で1時間硬化させた。このキットの使用は例示に過ぎず、PDMS膜を製造する任意の既知の方法を使用してもよい。市販のペイントスプレーヤ(Preval(登録商標)スプレーガン)を用いて、Shipley1813溶液(Microchem Corp.)の細かい霧をPDMS膜上に噴霧した後、110℃で5分間ハードベーク(hard baking)した。これらの工程により、PDMS表面上に硬化した微細液滴のパターンが形成された。得られた膜を、フッ化水素酸(HF)の25%水溶液に10分間曝し、被覆されていないPDMS膜をエッチ
ングした。この後、水洗を行った。Shipley1813の微細液滴を除去するために、試料を、無水エタノール(Aldrich Chemicals)中で15分間超音波処理し、何回かエタノールですすいだ。本発明の実施形態では、上記の手順を繰り返さなかったが、より良好な表面粗さの程度が望まれる場合、所望であればこれらの手順を何回でも繰り返すことができる。上記工程の繰返し効果は、形成されるミクロ構造の複雑性を上げ、このため表面粗さが増す。
【0039】
得られた膜は、走査型電子顕微鏡によって明示されるようにミクロ構造表面を有している。図2は、PDMS膜の走査型電子顕微鏡写真(二次電子)画像を示し、1つの画像は、上記の本発明の実施形態の噴霧、焼成及びエッチング手順に伴って得られたものであり、1つの画像は、これらの手順を実施せずに得られたものである。図2(a)は、エッチングしていないPDMS膜を示し、図2(b)は、噴霧及び25%HF水溶液中で10分間エッチングしたPDMS膜を示す。1kVの加速電圧で作動するHitachi4800器材を用いて、走査型電子顕微鏡画像を得た。図2に示されるように、噴霧、焼成及びエッチングによって処理されたPDMS膜は、その表面上に形成されるミクロ構造を有している。
【0040】
(実施形態2)
比較PDMS処理
PDMS膜の表面上の種々の処理プロトコルの効果を評価するために、試料膜に以下の処理:(a)110℃で5分間の焼成後、25%HF水溶液中での60分間のエッチング;(b)ポリマー溶液による噴霧、110℃で5分間の焼成後、25%HF水溶液中での60分間のエッチング;(c)110℃で5分間の焼成後、25%HF水溶液中での2分間のエッチング;及び(d)ポリマー溶液による噴霧、110℃で5分間の焼成後、25%HF水溶液での2分間のエッチングを施した。上記プロトコルを使用した。調製後68日目に撮影した、得られたPDMS膜表面の(反射光を用いた)明視野写真を、図3(a)〜図3(d)に示す。図に示されるように、噴霧工程及びエッチング工程の両方を用いて調製した試料は、同様に作製されたが噴霧工程を用いていない試料に比べて、高い安定性を示し、ミクロ構造が68日後も表面上に残存していた。このため、噴霧工程から得られる微小島形状は、ミクロ構造を表面上に導入するだけでなく、エッチングプロセスによって導入される表面形態を安定化するのにも役立つ。
【0041】
(実施形態3)
細胞接着性
高い生体適合性の尺度として、処理したPDMS膜及び処理していないPDMS膜の両方に接着する細胞の性能を評価するために、HEK293細胞(ATCC、CRL−1573(商標))を、膜上での細胞接着試験に使用した。この細胞株は、使用し易さから、また種々の基板に対する細胞接着性を評価する上で使用されることが多いことから選択された。この方法におけるHEK細胞の使用例は、Cui他、Toxicology Lett. 155:73-85 (2005)(単層カーボンナノチューブをHEK細胞に曝して、ナノチューブの生体適合性を評価する);Gumpenberger他、Lasers and Electro-Optics :CLEO/Pacific Rim 1434-1435 (2005)(HEK細胞を表面修飾ポリテトラフルオロエチレン上に播種して、細胞接着性を評価する);及びLi他、Pharmaceutical Research, 20:884-888 (2003)(HEK細胞をブロックコポリマーに曝して、その細胞毒性を評価する)に見ることができる。10%ウシ胎児血清(Invitrogen)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(Invitrogen)中に、56000細胞数/mlの濃度でHEK細胞を懸濁させた。PDMS膜を0.9cm×0.9cm四方に事前に切断し、細胞培養プレート(Costar Corp.、24ウエル細胞培養クラスタ)のウエルの底に取り付けた。1mlのHEK細胞懸濁液を各ウエルに添加した。37℃で6日間のインキュベーションの後、HEK細胞を、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Invitrogen)中に溶解させた4%パラホルムアルデヒド(Aldrich)で5分間固
定し、PBS溶液で3回洗浄した。次に、試料を0.5%メチルグリーン(Aldrich Chemicals)溶液で10分間染色した後、H2Oで3回洗浄し、空気乾燥させた。図4は、細胞接着試験の結果を示す、得られたPDMS膜の明視野(図4(a)及び図4(c))写真並びに蛍光(図4(b)及び図4(d))写真を示す。蛍光顕微鏡画像は、内部Zモータを備えるOlympus BX 61蛍光顕微鏡を用いて得た。図4(a)及び図4(b)は、HF溶液によるエッチングを行わなかった以外図4(c)及び図4(d)に示される膜(実施例1に記載したように調製されたもの)と同様に調製した、エッチングされていない対照PDMS膜の写真を示す。図4(c)及び図4(d)は、噴霧し且つHFの25%水溶液中で膜を10分間エッチングすることによって調製したPDMS膜の写真を示す。図に示されるように、明視野顕微鏡及び蛍光顕微鏡の研究の両方により、エッチングされていない対照膜への細胞接着性はほとんど又は全く存在しないが、HFエッチングによって膜上にミクロ構造が作製されたPDMS膜への有意に大きな細胞接着性が存在することが確認された。
【0042】
(実施形態4)
平らでない表面への利用可能性
平らでない表面上における微細液滴パターニング技法の利用可能性を試験するために、3mmの直径を有するシリコーンチューブを、実施形態1のプロセスを用いて噴霧及びエッチングした。図5は、微細液滴パターニング技法を用いた加工前(a)及び加工後(b)のこのシリコーンチューブの明視野写真を示す。図に示されるように、マイクロテクスチャ加工された表面が、シリコーンチューブの表面に形成された。
【0043】
(実施形態5)
マスクを用いた二次パターニング
また、本発明の方法は、従来のマスク技術を用いて使用され、さらなるレベルのディテール又は規則性を、エラストマー表面上に形成されるミクロ構造に与えることができる。特に、噴霧機と試料との間に設けられる多孔質フィルタ又はスクリーンにより、パターンが全体に形成される付加的な対照が提供される。
【0044】
この実施形態では、50μm四方の幅のパターンが、噴霧機と膜との間に設けられる、膜から2mm離れた銅製格子状シャドウマスク(Ted PellaのTEM格子)を用いてPDMS膜上に形成された。マスクの使用以外、使用されるプロトコルは、上記の実施形態1に記載のものと同様であった。図6は、銅製格子状シャドウマスクを用いて形成される50μm四方の幅のパターンを有するPDMS膜の明視野顕微鏡画像を示す。図に示されるように、エラストマー表面は、使用される格子のパターンだけでなく、噴霧工程、焼成工程及びエッチング工程によって導入される微細形状も示す。この場合には、格子状マスクを使用したが、他の形状も考慮される。特に、或る特定の領域における微細液滴の形成を有意に減らすか又は不要にするマスクを使用することは、或る特定の用途において有益となり得る。これは、このようなマスクの使用が、様々なミクロ構造特徴を実現することにより、所望のパターンにおける細胞接着性に影響を与えるためである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】エラストマー膜上にミクロ構造を形成する本開示の方法を概略的に示す図である。
【図2】(a)対照PDMS膜の走査型電子顕微鏡写真である。(b)本発明の方法に従って処理したPDMS膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】(a)60分間エッチングしたが、ポリマーの微細液滴を噴霧しなかった対照PDMS膜の、処理後68日目に撮影した明視野写真画像である。(b)ポリマーの微細液滴を噴霧した後に60分間エッチングしたPDMS膜の、処理後68日目に撮影した明視野写真画像である。(c)2分間エッチングしたが、ポリマーの微細液滴を噴霧しなかった対照PDMS膜の、処理後68日目に撮影した明視野写真画像である。(d)ポリマーの微細液滴を噴霧した後に2分間エッチングしたPDMS膜の、処理後68日目に撮影した明視野写真画像である。
【図4】(a)エッチングを施さずに、引き続き、細胞接着試験においてHEK細胞に曝した対照PDMS膜の明視野写真画像である。(b)図4(a)の対照PDMS膜の蛍光画像である。(c)エッチングを施した後、細胞接着試験においてHEK細胞に曝したPDMS膜の明視野写真画像である。(d)図4(c)の処理されたPDMS膜の蛍光画像である。
【図5】(a)本開示の方法を用いて処理する前のシリコーンチューブの明視野写真画像である。(b)本開示の方法を用いて処理した後のシリコーンチューブの明視野写真画像である。
【図6】格子状シャドウマスクと共に本開示の方法を用いて処理した膜の明視野写真画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー表面を処理する方法であって、
前記エラストマー表面上に、ポリマーを含む液体の微細液滴を形成すること、
前記ポリマーの微細液滴を硬化させること、
前記エラストマーをエッチングするが、前記硬化したポリマーの微細液滴はエッチングしない物質を用いて、前記表面を化学エッチングすること、及び
前記ポリマーの微細液滴を溶解させること
を含む、エラストマー表面を処理する方法。
【請求項2】
前記エラストマー表面が、シリコーンエラストマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エラストマー表面が、ポリジメチルシロキサンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記液体が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記形成工程が、前記エラストマー表面上に前記液体を噴霧することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記形成工程が、前記液体を供給する細長いプローブを、前記エラストマー表面と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記硬化工程が、焼成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記硬化工程が、前記微細液滴を放射線に曝すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記硬化した微細液滴が、0.001〜500ミクロンの範囲の最大幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記硬化した微細液滴が、0.005〜300ミクロンの範囲の最大幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記硬化した微細液滴が、0.05〜175ミクロンの範囲の最大幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記硬化した微細液滴が、0.5〜100ミクロンの範囲の最大幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記エッチング剤が酸溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記酸溶液がフッ化水素酸水溶液である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸溶液が硝酸溶液である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記エッチング剤がイオン性である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記エッチング剤が酸素プラズマである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記エッチング剤が、水酸化ナトリウム、アセトン、トルエン及びヘキサンから成る群
から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記溶解工程が、前記ポリマーの微細液滴を溶解する物質ですすぐことを含む、請求項1に記載の溶解の方法。
【請求項20】
前記すすぎ剤がエタノールである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記すすぐことが、無水エタノール中での超音波処理を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記エッチング工程直後に、前記表面を水ですすぐことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記形成工程が、シャドウマスクを介して前記エラストマー表面上に前記ポリマーの溶液を噴霧することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項24】
前記シャドウマスクが格子形状を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記シャドウマスクが、前記エラストマー表面の少なくとも一部が微細液滴の形成を防止するように構成されている、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記形成工程が、固体ポリマー微細粒子を加熱して、前記ポリマーの微細液滴を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記硬化工程が、前記微細液滴を冷却することを含む、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−516026(P2009−516026A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540219(P2008−540219)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/043823
【国際公開番号】WO2007/058954
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(500294958)ヒタチ ケミカル リサーチ センター インコーポレイテッド (27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】