説明

心筋前駆細胞の単離方法及び単離用デバイス

【課題】 心筋前駆細胞に特有な表面マーカーの提供、並びに当該表面マーカーを用いた、心筋前駆細胞の単離方法及びその為のデバイス及び心筋前駆細胞の体内導入用デバイスの提供。
【解決手段】 中胚葉細胞を含有する細胞集団についてCD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種の蛋白質の発現を解析する工程、及びCD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種を発現している細胞を回収する工程を含む、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を単離する方法、及び当該方法を用いるデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋前駆細胞の同定に関する。より詳細には心筋前駆細胞を単離する方法、並びに単離する為のデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、幹細胞を生体組織から純化・採取するデバイスとしては、末梢血から造血幹細胞を含む単核球細胞分画を体外血液循環下で分離する血液分離装置と、さらに造血幹細胞を単離するための抗CD34抗体カラム装着装置とが知られている。このような2段階の幹細胞純化操作で幹細胞が採取されているが、現在のところ血液幹細胞以外では心筋組織になりうる心筋幹細胞も含め生体組織幹細胞を生体組織から純化・採取するデバイスは存在していない。
【0003】
心臓疾患の再生医療では、心筋幹細胞の選択的採取とそれに続く心筋幹細胞の患部への細胞移植が必要であり、心筋幹細胞を純化・採取するデバイスの開発が強く望まれている。しかしながらこのようなデバイスが存在しなかった理由としては、心筋幹細胞・心筋前駆細胞の分化過程の探索は、主に転写因子などの遺伝子やシグナル分子を心筋発生のマーカーとした場合、細胞膜を破壊して(いわば細胞を殺して)、それらの分子の挙動を検出しなければならかったことが挙げられる。一方、生きたままの細胞を峻別するために細胞の表面抗原発現様式によって心筋幹細胞の分化・成熟度を峻別する方法があるが、現在まで心筋幹細胞・心筋前駆細胞の適切なマーカー、特に表面マーカーがなかったため、表面マーカーによる心筋幹細胞・心筋前駆細胞の同定の研究が進んでいなかった。
【0004】
中胚葉はES細胞から分化誘導できる胚葉の中で最も研究されたものの一つであり、中でも心筋細胞は側部中胚葉に由来する細胞系列に含まれる。側部中胚葉に由来する細胞のうちFlk1陽性(以下、Flk1(+)とも称す)として特徴付けられる細胞(Flk1(+)細胞)から血管系細胞(血液細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞)へ分化誘導が行われたという報告がある(非特許文献1)。
【0005】
ヒトの幹細胞ソース(骨髄、臍帯血、ヒトES細胞株)から、マウスES細胞と同様なFlk1+で分画される中胚葉系前駆細胞の同定は行われていないが、日本において公開されている研究計画書(http://www.tanabe.co.jp/kenkyu/reports/shinsa/es1.pdf)等から、ヒトES細胞からの同マーカーを使用した中胚葉系分化実験として、近々予定されているものが存在すると推測される。
又、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞にて、未分化状態でCD44が陽性の細胞を、VEGF存在下、半固形培養にてFlk1+血管内皮細胞に分化誘導し得ることが報告されている(非特許文献5)。
【非特許文献1】ヤマシタ ジェイ.(Yamashita J.)ら,「ネイチャー(Nature)」,2000年,第408巻,第6808号,p.92−96
【非特許文献2】スーザン シー.(Susan C.)ら,「セル アドヒージョン アンド コミュニケーション(Cell Adhesion and Communication),1995年,第3巻,p.217−230
【非特許文献3】ノブユキ タカクラ(Nobuyuki Takakura)ら,「ザ ジャーナル オブ ヒストケミストリー アンド サイトケミストリー (The Journal of Histochemistry & Cytochemistry)」,1997年,第45巻,p.883−893
【非特許文献4】ナオキ ナカヤマ(Naoki Nakayama)ら,「ジャーナル オブ セル サイエンス(Journal of Cell Science)」,2003年,第116巻,p.2015−2028
【非特許文献5】ヨアヒム オスワルド(Joachim Oswald)ら,「ステム セルズ(Stem Cells)」,2004年,第22巻,p.377−384
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、心筋前駆細胞に特有な表面マーカーの確立及び提供を目的とし、さらに当該表面マーカーを用いた、心筋前駆細胞の単離方法及びその為のデバイス並びに心筋前駆細胞の体内導入用デバイスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、表面マーカーの発現様式の検討に、マウスES細胞を用いた心筋分化過程を選定し、未分化細胞が心筋細胞に分化する過程を経時的に解析できる培養系を用いた。すなわちES細胞を中胚葉系分化誘導条件下で培養することにより拍動能を有する心筋様細胞に分化誘導し、表面マーカーの発現様式の変化を解析した。
結果、血管系細胞への分化を特徴づける表面マーカーとして報告されているFlk1が、心筋前駆細胞においても顕著に発現上昇していることが確認された。さらに、Flk1の発現量の増加という特徴に加え、ES細胞を中胚葉分化誘導条件下で培養することによってCD44およびPDGFRαにおいてもその発現に顕著な上昇傾向が確認された。これらの知見を得て、本発明者らは、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を効率的に単離する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕(i)中胚葉細胞を含有する細胞集団についてCD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種の蛋白質の発現を解析する工程、および(ii)CD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種の蛋白質を発現している細胞を回収する工程を含む、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を単離する方法。
〔2〕(i)中胚葉細胞を含有する細胞集団についてCD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも2種の蛋白質の発現を解析する工程、および(ii)CD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも2種の蛋白質を発現している細胞を回収する工程を含む、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を単離する方法。
〔3〕少なくとも2種の蛋白質がFlk1及びPDGFRαである上記〔2〕に記載の方法。
〔4〕(i)中胚葉細胞を含有する細胞集団についてCD44、Flk1およびPDGFRαの発現を解析する工程、および(ii)CD44、Flk1およびPDGFRαを全て発現している細胞を回収する工程を含む、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を単離する方法。
〔5〕中胚葉細胞が幹細胞由来である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕幹細胞が胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、始原生殖細胞由来細胞(EG細胞)又は組織幹細胞である、上記〔5〕記載の方法。
〔7〕中胚葉細胞が、ES細胞を中胚葉系分化誘導することによって得られるものである上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕ES細胞がマウスEB5細胞である、上記〔7〕記載の方法。
〔9〕中胚葉系分化誘導が、ゼラチンコートされた培養皿上で培養することによって行われる、上記〔7〕記載の方法。
〔10〕中胚葉細胞を含有する細胞集団が、骨格筋組織、脂肪組織、末梢血、骨髄組織、および臍帯血からなる群より選択される少なくとも1種の組織より得られるものである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
【0009】
〔11〕上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法によって単離された心筋前駆細胞。
〔12〕CD44の発現を解析する工程が、CD44に特異的親和性を有する物質を用いて行うものである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕CD44に特異的親和性を有する物質が抗CD44抗体である、上記〔12〕記載の方法。
〔14〕Flk1の発現を解析する工程が、Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて行うものである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔15〕Flk1に特異的親和性を有する物質が抗Flk1抗体である、上記〔14〕記載の方法。
〔16〕PDGFRαの発現を解析する工程が、PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて行うものである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕PDGFRαに特異的親和性を有する物質が抗PDGFRα抗体である、上記〔16〕記載の方法。
〔18〕上記〔11〕記載の心筋前駆細胞をストローマ細胞と共培養することを特徴とする、インビトロで心筋細胞を産生する方法。
〔19〕心筋前駆細胞から心筋細胞への分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法であって、
(i)上記〔11〕記載の心筋前駆細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、もう一方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した心筋前駆細胞について拍動の有無、及び/又は心筋マーカーの発現を測定する工程、
(iii)被検物質の存在下あるい非存在下で培養した心筋前駆細胞について、拍動が確認されたか、あるいは心筋マーカーの発現が確認された細胞、若しくは拍動が確認され、且つ心筋マーカーの発現が確認された細胞を心筋細胞とし、その出現率を算出する工程、および
(iv)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて有意に心筋細胞の出現率を上昇させた被検物質を心筋細胞への分化を誘導し得る因子と認定する工程
を含む方法。
〔20〕工程(i)における心筋前駆細胞の被検物質の存在下あるいは非存在下での培養を、ストローマ細胞の共存下で実施することを特徴とする、上記〔19〕記載の方法。
【0010】
〔21〕幹細胞から心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法であって、
(i)幹細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、他方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した幹細胞について、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも1種の発現状況を測定する工程、及び
(iii)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも1種の発現を有意に上昇させた被検物質を心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子と認定する工程、
を含む方法。
〔22〕幹細胞から心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法であって、
(i)幹細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、他方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した幹細胞について、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも2種の発現状況を測定する工程、及び
(iii)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも2種の発現を有意に上昇させた被検物質を心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子と認定する工程、
を含む方法。
〔23〕少なくとも2種がFlk1及びPDGFRαである上記〔22〕に記載の方法。
〔24〕工程(ii)においてCD44、Flk1及びPDGFRαの全ての発現状況を測定し、工程(iii)においてCD44、Flk1及びPDGFRαの全ての発現を有意に上昇させた被検物質を心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子として認定する、上記〔21〕記載の方法。
〔25〕幹細胞が胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、始原生殖細胞由来細胞(EG細胞)又は組織幹細胞である、上記〔21〕又は〔22〕記載の方法。
〔26〕(a)CD44に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からCD44を発現している細胞集団を回収する為の手段、(b)Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段、及び(c)PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段のうち、少なくとも2つの手段を含む、心筋前駆細胞単離用デバイス。
〔27〕少なくとも2つの手段が、Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段、及びPDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段である、上記〔26〕記載のデバイス。
〔28〕(a)CD44に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からCD44を発現している細胞集団を回収する為の手段、(b)Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段、及び(c)PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段を含む、心筋前駆細胞単離用デバイス。
〔29〕CD44に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からCD44を発現している細胞集団を回収する為の手段が、抗CD44抗体固定化固相担体である、上記〔26〕または〔28〕記載のデバイス。
〔30〕Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段が、抗Flk1抗体固定化固相担体である、上記〔26〕〜〔28〕のいずれかに記載のデバイス。
【0011】
〔31〕PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段が、抗PDGFRα抗体固定化固相担体である、上記〔26〕〜〔28〕のいずれかに記載のデバイス。
〔32〕中胚葉細胞を含有する細胞集団が、骨格筋組織、脂肪組織、末梢血、骨髄組織、および臍帯血からなる群より選択される少なくとも1種の組織より得られるものである、上記〔26〕〜〔31〕のいずれかに記載のデバイス。
〔33〕上記〔26〕〜〔32〕のいずれかに記載のデバイスと、心筋前駆細胞を患者に投与するための手段とを含む、心筋前駆細胞投与用デバイス。
〔34〕心筋前駆細胞を患者に投与するための手段がシリンジ又はカテーテルである、上記〔33〕記載のデバイス。
〔35〕心筋前駆細胞の患者への投与が、移植によって行われるものである上記〔34〕記載のデバイス。
〔36〕移植が、該細胞を体外にて培養して得られる、単層若しくは多層構造を有するシート状の組織の形態で行われるものである、上記〔35〕記載のデバイス。
〔37〕移植が、該細胞を体外にて非生物由来若しくは生物由来の支持体の上で培養して得られるシート状の組織の形態で行われるものである、上記〔35〕記載のデバイス。
【発明の効果】
【0012】
心筋前駆細胞特異的な表面マーカーを用いる本発明の方法あるいはデバイスは、治療現場において、中胚葉系組織より細胞ソースを単離し迅速に心筋前駆細胞を純化・採取することを可能とする。従って、移植細胞の培養、培養にかかるコスト、培養による他の細胞への分化誘導などの懸念が不必要になる。また、迅速な移植細胞の純化・採取により、一期的な手術が可能となり、患者への負担が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において心筋前駆細胞とは、中胚葉由来(Flk1陽性)の細胞で分化すれば自己拍動し心筋特異的遺伝子発現を有するようになる(心筋細胞になる)性状を有した細胞集団のことを指す。
本発明において中胚葉細胞を含有する細胞集団とは、中胚葉由来の組織を形成し得る細胞を含有している細胞の集合体であれば、その由来は特に問わない。例えば末梢血、骨髄組織、脂肪組織、骨格筋組織、羊膜組織、胎盤組織、臍帯血などから得られる組織幹細胞由来のものであってもよいし、また、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)あるいは始原生殖細胞由来細胞(EG細胞)から分化誘導されたものであってもよい。
【0014】
マウスES細胞としてはEB5細胞が、ヒトES細胞としては、H9.2細胞(Kehat et al.JCI,2001 vol.108 p.407-414)、HES−2細胞(Mummery et al.Journal of Anatomy,2002 vol.200 p.233-242)、H1、H7、H9細胞(Xu et al. Circulation Research,2002 vol.91 p.501-508)等が知られている。これらのヒトES細胞においてはいずれも胚葉体からの分化誘導モデルが報告されている。
【0015】
また供給源として臍帯血を用いる場合、以下のような利点がある。
現状では、骨髄移植への利用(臍帯血バンク)が普及しており、公的組織が既に構築されているため、臍帯血採取における倫理面、技術面、社会的認知性において基盤となる問題が克服されている。同種非血縁者間の移植において、移植片対宿主反応、いわゆるGVHD(graft-versus-host disease)の発現が、頻度、強度とも、臍帯血では骨髄片移植に比し、少ないことが知られており、免疫的寛容が期待できる。新生児組織である臍帯血では、成人組織(骨髄等)に比して、細胞老化が少ないため、多分化能を有する未熟細胞の効率的な分離、増殖が期待できる。
【0016】
ES細胞から中胚葉細胞への分化誘導は、通常当分野で実施されている手法を用いて行えばよい(Yamashita J: Nature 2000: 408(6808):92-6、Nishikawa SI: Development 1998 125(9) 1747)。例えばマウスEB5を用いた場合について記載する。EB5細胞はゼラチン(好ましくは0.1%程度)コートした培養皿で、培養液(例えば、1%ウシ胎児血清(EQUITECH, Cotton Gin Lane Kerrville, TX)、10%ノックアウト血清リプレースメント(GIBCO/BRL)、1%L−グルタミン(GIBCO/BRL)、1%非必須アミノ酸(GIBCO/BRL)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO/BRL)、100μM 2−メルカプトエタノール(SIGMA, St. Louis, MO)、1000U/ml白血病抑制因子(Leukemia inhibitory factor; Chemicon International Inc. Temecula, CA)及び10μg/mlブラストサイジン(FUNAKOSHI,Tokyo, Japan)を添加したGlasgow最小必須培地(GIBCO/BRL, Long Island, NY等が例示される)中で培養する。分化誘導条件としては、以下のようなプロトコールが挙げられるが、最終的にFlk1、CD44及びPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種、より好ましくは3種全ての有意な発現上昇が確認されれば、その詳細は特に限定されるものではない。また、細胞の状況等の要因によっても適宜変更され得る。
(分化誘導プロトコール)
10cm培養皿(0.1%ゼラチンコート)あたり1×10個のEB5細胞を分化培地(10%ウシ胎児血清(EQUITECH, Cotton Gin Lane Kerrville, TX)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO/BRL)及び100μM 2−メルカプトエタノール(SIGMA)を添加した最小必須培地α培地(GIBCO/BRL))中で37℃、5%CO雰囲気下で5日間培養する。
【0017】
中胚葉細胞への分化は細胞表面マーカーの発現様式を解析することによって確認することができる。すなわち、分化誘導前には検出されないか、あるいは検出されても僅かであって、分化誘導後に顕著にその発現量が増加する細胞表面抗原(細胞表面マーカー)であるFlk1、CD44及びPDGFRαの発現状況を単独で、あるいは組み合わせて測定する。中胚葉細胞のソースとしてES細胞を用いる場合には、中胚葉分化誘導条件下で培養した後の細胞(細胞集団)における細胞表面マーカーの発現を測定し、Flk1、CD44及びPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種、特に好ましくはFlk1、CD44及びPDGFRαの3種全てを発現している細胞を回収することによって心筋前駆細胞を単離することができる。中胚葉細胞のソースとして末梢血、骨髄組織、脂肪組織、骨格筋組織、羊膜組織、胎盤組織、臍帯血などから得られる組織幹細胞を用いる場合には、当該細胞(細胞集団)におけるFlk1、CD44及びPDGFRαの発現状況を単独で、あるいは組み合わせて測定し、Flk1、CD44及びPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種、特に好ましくはFlk1、CD44及びPDGFRαの3種全てを発現している細胞を回収することによって心筋前駆細胞を単離することができる。
【0018】
Flk1、CD44及びPDGFRαの発現を解析する工程は、細胞の表面マーカーであるこれらの蛋白質の発現が解析できれば特にその手法は限定されないが、一般的に免疫反応を用いた方法が簡便であり、また細胞を傷つけることなく好ましい。細胞を傷つけないという利点は心筋前駆細胞の体内導入という本発明の目的において特に有利である。具体的にはFlk1に特異的親和性を有する物質、CD44に特異的親和性を有する物質、並びにPDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて行う。
【0019】
Flk1は、血管内皮増殖因子受容体VEGFの受容体として機能し、膜1回貫通型のチロシンキナ−ゼで、細胞外には7つの免疫グロブリン様構造をもち、細胞内にはキナーゼドメインとこれを二分するキナーゼインサートをもつことが特徴である(Developmental Biology S.F.Gilbert 7th Edition Chapter 15 Lateral Plate Mesoderm. Sinauer)。正常血管や腫瘍血管の新生、血管透過性に極めて重要な役割を果たすことが明らかになりつつある。また、血管内皮前駆細胞のマーカー、中胚葉のマーカーと考えられている(Cortes et al. 1999, Mech Dev. 83(1-2):161-4、Ogawa et al. Blood 1999 93;(4):1168-77)
【0020】
CD44は、細胞接着機能をもつI型膜貫通糖蛋白質の1つで、ヒアルロン酸レセプターである。選択的スプライシングによってさまざまなアイソフォームが作り出され種々の分子サイズを有するCD44が特定の細胞に発現することが知られている。胎児性癌細胞(EC細胞)や胚幹細胞(ES細胞)の分化過程でその発現が誘導されることが報告されている(非特許文献2)。
【0021】
PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)は、種々の間葉系細胞に発現している分子量約18万の糖鎖を有する膜蛋白質でチロシンキナーゼ活性を有する。アミノ酸残基配列の類似したα及びβ受容体が存在する。
マウス発生の原腸陥入期に、沿軸中胚葉に強い発現がみられ、発生の進行とともに間葉系組織に広く分布すること(非特許文献3)、マウスES細胞よりBMP4刺激により誘導されるPDGFRα陽性細胞群から、中胚葉組織の軟骨形成が効率的に分化誘導されること(非特許文献4)が報告されている。
【0022】
本発明はこれらの蛋白質が心筋前駆細胞においてその発現量が顕著に増加するという新たな知見に基づいている。本明細書中、「マーカー(又は表面マーカー)」とは特にことわりのない限り、上記した心筋前駆細胞に特有な発現様式を示す一連の蛋白質から構成される群の各々を意味する。かかるマーカー蛋白質は哺乳動物の種類等によってそのアミノ酸配列が異なる場合があり、また特にCD44のように多彩なスプライシングにより幾つかのアイソフォームを有する場合がある。本発明においてはその心筋前駆細胞における発現様式が同じである限り、そのような蛋白質もマーカー蛋白質として使用することができ、本発明の範囲内である。
【0023】
本明細書中、「用いて」という用語について、その方法は特に限定されず、具体的には、例えばマーカー蛋白質と特異的親和性を有する物質を用いる場合であれば該マーカー蛋白質の抗体との抗原抗体反応を利用する方法が挙げられる(詳細な手順については後述する)。
【0024】
マーカー蛋白質と特異的な親和性を有する物質としては例えば当該蛋白質に特異的親和性を有する抗体又はその断片が挙げられ、その特異的親和性とは抗原・抗体反応により該蛋白質を特異的に認識し、結合する能力のことである。該抗体又はその断片は、当該蛋白質と特異的に結合可能なものであれば特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及びそれらの機能的断片のいずれであってもよい。これらの抗体あるいはその機能的断片は、通常当分野で行なわれている方法によって製せられる。例えばポリクローナル抗体を用いる場合であれば、該蛋白質をマウスやウサギといった動物の背部皮下あるいは腹腔内あるいは静脈等に注射して免疫し、抗体価が上昇するのを待った後に抗血清を採取する方法が挙げられ、またモノクローナル抗体を用いる場合であれば、常法に従いハイブリドーマを作製して、その分泌液を採取する方法が挙げられる。抗体断片を製造する方法としてはクローニングした抗体遺伝子断片を微生物等に発現させる方法がよく用いられている。当該抗体、抗体断片等の純度は、当該蛋白質との特異的親和性を保持している限り、特に限定されない。これらの抗体又はその断片は、蛍光物質、酵素やラジオアイソトープ等で標識されていてもよい。
さらに、これらは市販されているものを用いても良い。
【0025】
本発明の心筋前駆細胞を単離する方法はあるいはその為のデバイス、当該方法又はデバイスを用いる心筋前駆細胞投与用デバイスは、マーカー蛋白質、即ちFlk1、CD44及びPDGFRαとそれぞれ特異的親和性を有する物質のうち1種、好ましくは2種、特に好ましくは3種全てを用いることを特徴とする。また、2種としてはFlk1とPDGFRαとの組み合わせが特に好ましい。本発明の単離方法において、あるいはデバイスを用いて当該マーカー蛋白質の発現を解析する。各蛋白質を発現している場合、それぞれ「+」と表現することもあり、また、発現していない場合には、それぞれ「−」と表現することもある。例えば本発明の心筋前駆細胞の好適な態様であるFlk1及びPDGFRαを共発現している細胞は、[Flk1+,PDGFRα+]と記載することができる。
【0026】
各特異的親和性を有する物質を用いて、それぞれのマーカー蛋白質を発現している細胞を単離、回収する方法は、通常、当分野で行われている方法及びそれらを組み合わせた方法が用いられる。CD44に特異的親和性を有する物質として抗CD44抗体を、Flk1に特異的親和性を有する物質として抗Flk1抗体を、PDGFRαに特異的親和性を有する物質として抗PDGFRα抗体をそれぞれ用いた場合の具体的手法について以下に述べるが、本発明はかかる例示に何ら限定されるものではない。
【0027】
(1)抗CD44抗体固定化固相担体、抗Flk1抗体固定化固相担体並びに抗PDGFRα抗体固定化固相担体を調製する工程
抗CD44抗体、抗Flk1抗体あるいは抗PDGFRα抗体を用いて通常当分野で実施されているような方法によって行う。具体的には固相担体を臭化シアン処理等によって活性化し、そこにアミノ基あるいはヒドロキシル基を有する抗体を結合させる方法等によって行う。各抗体は商業的に入手可能であり、また、上記したような手順によって適宜調製することもできる。本発明において用いられる固相担体は、その上で抗CD44抗体とCD44抗原との抗原抗体反応(あるいは抗Flk1抗体とFlk1抗原との抗原抗体反応若しくは抗PDGFRα抗体とPDGFRα抗原との抗原抗体反応)が生じるものであれば特に限定されず、当分野で通常使用されるものが利用できる。材質としては、例えば、樹脂(ポリスチレン、メタクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド等)、ガラス等が用いられる。これらの固相担体は、いかなる形状のものであってもよく、また上記した材質の種類や、その後の工程等に応じて適宜決定される。例えば板状、ビーズ状、薄膜状、糸状、コイル状等が挙げられるが、樹脂からなるビーズであればカラムに充填することによりその後の操作を簡便にし得る。
【0028】
(2−1)抗CD44抗体固定化固相担体を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からCD44を発現している細胞集団を回収する工程
まず、上記(1)で調製した抗CD44抗体固定化固相担体(以下、単に抗CD44抗体固定化カラムともいう)と中胚葉細胞を含有する細胞集団とを接触させる。中胚葉細胞を含有する細胞集団とは上記したような、骨格筋組織、脂肪組織、末梢血、骨髄組織あるいは臍帯血などの組織由来のものであってもよいし未分化なES細胞、EC細胞あるいはEG細胞を中胚葉系分化誘導条件下で培養することによって得られるものであってもよい。組織を可溶化して得られた試料、あるいは分化誘導後の細胞懸濁液を抗CD44抗体固定化カラムに通す。試料を通したカラムを1回〜数回、好ましくは複数回、リン酸緩衝生理食塩水(以下PBSともいう)等の細胞に悪影響を与えない緩衝液で洗浄する。洗浄後のカラムを緩衝液の極性を変える、あるいは過剰のCD44抗原を加える等の処理によって抗CD44抗体固定化固相担体に結合している細胞を固相担体から分離し、CD44を発現している細胞集団([CD44+]細胞)を回収する([CD44+]細胞懸濁液)。
【0029】
(2−2)抗Flk1抗体固定化固相担体を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する工程
まず、上記(1)で調製した抗Flk1抗体固定化固相担体(以下、単に抗Flk1抗体固定化カラムともいう)と中胚葉細胞を含有する細胞集団とを接触させる。中胚葉細胞を含有する細胞集団とは上記したような、骨格筋組織、脂肪組織、末梢血、骨髄組織あるいは臍帯血などの組織由来のものであってもよいし未分化なES細胞、EC細胞あるいはEG細胞を中胚葉分化誘導条件下で培養することによって得られるものであってもよい。組織を可溶化して得られた試料あるいは分化誘導後の細胞懸濁液を抗Flk1抗体固定化カラムに通す。試料を通したカラムを1回〜数回、好ましくは複数回、PBS等の細胞に悪影響を与えない緩衝液で洗浄する。洗浄後のカラムを緩衝液の極性を変える、あるいは過剰のFlk1抗原を加える等の処理によって抗Flk1抗体固定化固相担体に結合している細胞を固相担体から分離し、Flk1を発現している細胞集団([Flk1+]細胞)を回収する([Flk1+]細胞懸濁液)。
【0030】
(2−3)抗PDGFRα抗体固定化固相担体を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する工程
まず、上記(1)で調製した抗PDGFRα抗体固定化固相担体(以下、単に抗PDGFRα抗体固定化カラムともいう)と中胚葉細胞を含有する細胞集団とを接触させる。中胚葉細胞を含有する細胞集団とは上記したような、骨格筋組織、脂肪組織、末梢血、骨髄組織あるいは臍帯血などの組織由来のものであってもよいし未分化なES細胞、EC細胞あるいはEG細胞を中胚葉分化誘導条件下で培養することによって得られるものであってもよい。組織を可溶化して得られた試料あるいは分化誘導後の細胞懸濁液を抗PDGFRα抗体固定化カラムに通す。試料を通したカラムを1回〜数回、好ましくは複数回、PBS等の細胞に悪影響を与えない緩衝液で洗浄する。洗浄後のカラムを緩衝液の極性を変える、あるいは過剰のPDGFRα抗原を加える等の処理によって抗PDGFRα抗体固定化固相担体に結合している細胞を固相担体から分離し、PDGFRαを発現している細胞集団([PDGFRα+]細胞)を回収する([PDGFRα+]細胞懸濁液)。
【0031】
上記工程(2−1)〜(2−3)はそれぞれ単独で実施することもできるが、より効率良く心筋前駆細胞を取得するには2工程、好ましくは3工程全てを組み合わせて行うことが好ましい。2工程の例として工程(2−2)と工程(2−3)を組み合わせた場合の態様は以下のとおりである。工程(2−3)において、中胚葉細胞を含有する細胞集団として工程(2−2)で調製された[Flk+]細胞懸濁液を用いた場合、最終的に回収される細胞は[Flk1+,PDGFRα+]細胞であり、工程(2−2)で抗Flk+抗体固定化カラムを素通りした画分(即ち[Flk1−]細胞懸濁液)を用いた場合には得られる細胞は[Flk1−,PDGFRα+]細胞である。勿論その逆、すなわち工程(2−2)において、中胚葉細胞を含有する細胞集団として工程(2−3)で調製された[PDGFRα+]細胞懸濁液を用いた場合、最終的に回収される細胞は[PDGFRα+,Flk1+]細胞であり、工程(2−2)で抗PDGFRα抗体固定化カラムを素通りした画分(即ち[PDGFRα−]細胞懸濁液)を用いた場合には得られる細胞は[PDGFRα−,Flk1+]細胞である。
【0032】
さらに3工程全てを実施する場合には上述の如く2工程を経て得られた各種の表現型を有する細胞(細胞懸濁液)を残るもう1工程に付すことによって行われる。例えば[PDGFRα+,Flk1+]細胞の懸濁液を中胚葉細胞を含有する細胞集団として工程(2−1)に付すことによって[PDGFRα+,Flk1+,CD44+]細胞あるいは[PDGFRα+,Flk1+,CD44−]細胞が得られる。
CD44、Flk1、PDGFRαの順に、あるいはCD44、PDGFRα、Flk1の順に回収工程を行うことが好ましい。
【0033】
分離、回収には種々の公知の手段が適用できるが、膜を用いた濾過処理等が好ましい。例えば各工程を経て得られる心筋前駆細胞の懸濁液を、例えば内部にフィルターを仕込んだシリンジ等を用いて、まずシリンジ内のフィルターに細胞をトラップさせ、次いでシリンジ内のプランジャーを押してフィルターから前駆細胞をはずして回収する。2工程を用いた心筋前駆細胞の回収の為のデバイスの一例を図1に示すが、何ら限定されるものではない。
図1中、「試料」は中胚葉細胞を含有する細胞集団であり、抗体カラム1及び2は抗CD44抗体固定化カラム、抗Flk1抗体固定化カラム、抗PDGFRα抗体固定化カラムから選ばれる2種のカラムである。好ましくは抗Flk1抗体固定化カラム及び抗PDGFRα抗体固定化カラムであり、その順番は特に限定されない。三方活栓を使用することにより所望の細胞画分を容易に得ることができる。
【0034】
各種の表現型を有する細胞の回収は磁気細胞分離法によっても実施することができる。例えば磁気細胞分離法による〔Flk1+,PDGFRα+〕細胞の分離は以下のようにして行われる。概略図を図2に示す。
基本的にCD34陽性細胞を効率よく回収することができる市販の「アイソレックスTM300i」(米国Nexell Therapeutics社製)(医療用具承認番号 21300BZY00469000)と同じ原理で〔Flk1+,PDGFRα+〕細胞を分離・回収する。
<構造・原理>
モノクローナル抗体(抗Flk1抗体及び抗PDGFRα抗体)を固定化した磁気ビーズをFlk1及びPDGFRα陽性細胞と特異的に結合させ、磁石を使って選別(免疫磁気ビーズ法)し、最後に磁気ビーズを切り離してFlk1及びPDGFRα陽性細胞のみを回収するシステムである。Flk1陽性細胞の分離とPDGFRα陽性細胞の分離は別々に行う。順序についてはどちらが先でも構わない。
分離装置に加え、ディスポーザブルセット及び/又は幹細胞分離キットの構成品を含むことができる。
幹細胞を含む細胞群からFlk1(PDGFRα)細胞を分離採取する目的で、分離装置にディスポーザブルセットを装着し、幹細胞分離キットを用いてFlk1(PDGFRα)細胞を磁気的に分離する磁気細胞分離システムである。
<操作方法・使用方法>
Flk1陽性細胞の分離とPDGFRα陽性細胞の分離は別々に行う。順序についてはどちらが先でも構わない(以下Flk1→PDGFRαの順の場合を例示する)。
(A)Flk1陽性細胞の分離法
1.分離装置にディスポーザブルセットを装着する。
2.バッグ内で幹細胞を含む細胞群中のFlk1陽性細胞と抗Flk1モノクローナル抗体(マウス)を結合させ、ディスポ一ザブルセットに接続する。
3.洗浄用のバッファーを入れたバッグ、分離したFlk1陽性細胞を採取するバッグ及び廃液バッグをディスボーザブルセットに接続する。
4.Flk1陽性細胞を含む細胞浮遊液をバッグから一次側分離チヤンバーへ移し、抗マウス抗体結合常磁性ビーズを加え、ローテーターを作動させて混合する。
5.常磁性ビーズと結合したFlk1陽性細胞を一次マグネットで保持し、保持されない細胞は廃液バッグヘ流す。
6.分離された常磁性ビーズと結合しているFlk1陽性細胞を洗浄した後、ペプチド9069N(競合反応によりビーズからFlk1陽性細胞を遊離)を添加して再びローテーターを作動させ、Flk1陽性細胞を常磁性ビーズから遊離させる。
7.抗マウス抗体(ヒツジ)常磁性ビーズを一次マグネットで保持し、遊離したFlk1陽性細胞を二次側分離チャンバーをとおして、採取バッグに収集する。一次マグネットで保持されなかった常磁性ビーズは二次マグネットで保持される。
8.収集したFlk1陽性細胞は遠心分離、洗浄をくり返し、余剰のペプチド9069Nを除去し、最終Flk1陽性細胞を得る。
(B)〔Flk1+,PDGFRα+〕細胞の分離法
(A)で得たFlk1陽性細胞群について、(A)の操作においてFlk1をPDGFRαと読み替えた方法を施すことによって、〔Flk1+,PDGFRα+〕細胞を得る。
【0035】
上記デバイスに、さらに得られた心筋前駆細胞を患者に投与するための手段を含めて心筋前駆細胞投与用デバイスを構築することができる。心筋前駆細胞を患者に投与するための手段としては、通常細胞を用いた治療に利用されるような手段、用具等が用いられ、例えばシリンジやカテーテル等が挙げられる。シリンジは図1で示した回収用のシリンジと同一のものであっても構わないし、回収した細胞を別の新しいシリンジに充填して患者に投与することもできる。同様にカテーテルも回収用に用いたものと同一のものであってもよいし、別途用意されるものであってもよい。
【0036】
さらに、本発明の心筋前駆細胞を体外にて培養して、単層若しくは多層構造を有するシート状の組織とした後そのシートを投与対象(患者)に移植してもよいし、又、該細胞を体外にて非生物由来若しくは生物由来の支持体の上で培養して得られるシート状の組織を投与対象(患者)に移植してもよい。支持体は当分野で通常用いられるものが利用できるが、非生物由来の支持体としては(1)ポリグリコール酸(Poly glycolic acid(PGA))、(2)ポリ乳酸(Poly lactic acid(PLA))、(3)ポリ乳酸・ポリグリコール酸共重合体(Poly lactic−co−glycolic acid(PLGA)、(4)ポリカプロラクトン(Polycaprolactone)等が、生物由来の支持体としては(1)界面活性剤、リボヌクレアーゼ等を用いて脱細胞化処理を施すことによって得た、コラーゲンやエラスチン等の細胞外マトリックスからなる組織、(2)コラーゲン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分を用いて人工的に構成した組織等が挙げられる。
【0037】
本発明の心筋前駆細胞のヒトへの治療における適用は、例えば心筋梗塞亜急性期、あるいは心筋症慢性期患者への移植が想定される。治療評価としては、一般的な心不全治療に対する効果判定基準に、現在、既に実用化されている血液疾患領域における同種臍帯血幹細胞移植の治療評価基準(特に、GVHD等の有害副反応の評価基準)を加味したものが適当と考えられる。より具体的には、既に公開されている大規模臨床試験プロトコールの治療効果評価を参照することができる(例えばhttp://poppy.ac/j-chf/doc/jchfplot_ver2_030925.pdf等)。
【0038】
実施例で後述するが、本発明の心筋前駆細胞は特定の培養条件下、好ましくはストローマ細胞との共培養条件下で心筋細胞へと分化し得る。このような本発明の心筋前駆細胞を用いる分化誘導系を利用して、心筋前駆細胞から心筋細胞への分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法を構築することができる。具体的には以下のような工程からなる方法が挙げられる。
(i)上述のように、本発明の方法によって得られた本発明の心筋前駆細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、もう一方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した心筋前駆細胞について拍動の有無、及び/又は心筋マーカーの発現を測定する工程、
(iii)被検物質の存在下あるい非存在下で培養した心筋前駆細胞について、拍動が確認されたか、あるいは心筋マーカーの発現が確認された細胞、若しくは拍動が確認され、且つ心筋マーカーの発現が確認された細胞を心筋細胞とし、その出現率を算出する工程、および
(iv)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて有意に心筋細胞の出現率を上昇させた被検物質を心筋細胞への分化を誘導し得る因子と認定する工程。
【0039】
本スクリーニング方法で用いる被検物質は、新規のものであっても既知のものであってもよく、その調製方法や使用濃度等の条件は各物質の特性に応じて適宜決定される。また、被検物質を段階希釈して用い至適濃度を予め決定しておくことが好ましい。工程(i)における細胞の培養時間は、心筋前駆細胞から心筋細胞への分化が誘導され得る期間であれば特に限定されないが、通常、心筋前駆細胞をストローマ細胞と共培養した場合に心筋細胞の発生が確認される7日間程度を目安とする。工程(i)は好ましくはストローマ細胞との共培養条件下で行うが、心筋細胞への誘導が可能であれば必須ではない。ストローマ細胞非存在下での心筋細胞への誘導を可能とする物質を得ることも本発明のスクリーニング方法の目的の一つである。
【0040】
工程(i)を経て得られた心筋前駆細胞について拍動の有無及び/又は心筋マーカーの発現を測定する。拍動の有無は光学顕微鏡下、目視にて観察し、培養皿中の拍動を観察したコロニー数を測定する。また対象となる心筋マーカーとしては、Nlkx2.5、GATA4、αMHC、MLC2v、MLC2a、Tbx5、cTnT、HAND1、HAND2、VE−Cadherin、c−Kit、PCAM等が挙げられる。蛋白質レベルでの発現であっても遺伝子レベルでの発現であっても構わない。蛋白質レベルでの発現を測定する場合には各蛋白質の特異抗体を用いてウェスタンブロット等により、遺伝子レベルでの発現を測定する場合には各遺伝子の特異プローブを用いてノザンブロット等を行うことにより実施する。
【0041】
被検物質の存在下及び非存在下でそれぞれ培養した心筋前駆細胞について拍動の有無及び/又は心筋マーカーの発現、好ましくは拍動の有無及び心筋マーカーの発現を測定し、拍動及び/又は心筋マーカーの発現を確認した細胞の出現率を算出し(分化誘導する前の時点をベースとする)被検物質存在下の場合と非存在下の場合とで比較する。被検物質の非存在下で培養した場合に比べて出現率を顕著に上昇させた被検物質を、心筋前駆細胞から心筋細胞への分化を誘導し得る因子と認定することができる。
【0042】
さらに本発明は幹細胞から心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法を提供する。即ち、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種を、心筋前駆細胞への中胚葉系分化のマーカーとして用いる。具体的には以下のような工程からなる方法が例示される。
(i)幹細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、他方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した幹細胞について、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも1種の発現状況を測定する工程、及び
(iii)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも1種の発現を有意に上昇させた被検物質を心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子と認定する工程。
【0043】
幹細胞としては、心筋前駆細胞への中胚葉系分化し得る細胞であれば、特に限定されないが、多能性であることが好ましく、例えばES細胞や組織幹細胞が用いられる。
本スクリーニング方法で用いる被検物質は、新規のものであっても既知のものであってもよく、その調製方法や使用濃度等の条件は各物質の特性に応じて適宜決定される。また、被検物質を段階希釈して用い至適濃度を予め決定しておくことが好ましい。工程(i)における細胞の培養時間は、幹細胞から心筋前駆細胞への分化が誘導され得る期間であれば特に限定されないが、通常、EB5細胞を中胚葉系分化誘導した場合に各マーカーの発現が確認される5日間程度を目安とする。
【0044】
工程(i)を経て得られた心筋前駆細胞についてCD44、Flk1及びPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種(特にFlk1及びPDGFRα)、特に好ましくは3種の発現を測定する。本発明はスクリーニング方法が目的であるので心筋前駆細胞の回収を伴わない。従って、蛋白質レベルで、特に膜表面で各蛋白質の特異抗体を用いる方法に加え、遺伝子レベルでの発現によって測定することもできる。その場合には各遺伝子の特異プローブを用いてノザンブロット等を行うことにより実施する。
【0045】
被検物質の存在下及び非存在下でそれぞれ培養した幹細胞についてCD44、Flk1及びPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種(特にFlk1及びPDGFRα)、特に好ましくは3種の発現を測定し、その程度を算出し(分化誘導する前の時点をベースとする)被検物質存在下の場合と非存在下の場合とで比較する。被検物質の非存在下で培養した場合に比べて発現の程度を顕著に上昇させた被検物質を、幹細胞から心筋前駆細胞への分化を誘導し得る因子と認定することができる。
【0046】
本発明はCD44、Flk1及びPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種(特にFlk1及びPDGFRα)、特に好ましくは3種を発現している中胚葉細胞を含有する細胞集団が、心筋前駆細胞であり得、特定の条件下で心筋前駆細胞へ分化誘導され得るという知見に基づく。またBIT9500培地でこのような表現型の細胞集団を培養すると管構造を持つ血管内皮細胞と浮遊細胞である血液細胞が誘導される。即ち本発明のFlk1+,PDGFRa+の心筋前駆細胞群には同じく側板中胚葉起源で血管・血液前駆細胞であるhemangioblast(血管芽細胞)も含まれることが示された。
【実施例】
【0047】
以下実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
実施例1:Flk1+細胞,CD44+細胞,PDGFRα+細胞からの心筋細胞への分化の検討
ES細胞としてEB5細胞を用いた。EB5細胞は0.1%ゼラチンコートした6cm培養皿で、培養液(1%ウシ胎児血清(EQUITECH, Cotton Gin Lane Kerrville, TX)、10%ノックアウト血清リプレースメント(GIBCO/BRL)、1%L−グルタミン(GIBCO/BRL)、1%非必須アミノ酸(GIBCO/BRL)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO/BRL)、100μM 2−メルカプトエタノール(SIGMA, St. Louis, MO)、1000U/ml白血病抑制因子(Leukemia inhibitory factor; Chemicon International Inc. Temecula, CA)及び10μg/mlブラストサイジン(FUNAKOSHI,Tokyo, Japan)を添加したGlasgow最小必須培地(GIBCO/BRL, Long Island, NY等が例示される)中で培養した。0.1%ゼラチンコートは、0.1%ゼラチン(Nakarai Japan)/蒸留水を培養皿上に積層し常温で固相化することによって行った。
【0048】
分化誘導は、10cm培養皿(0.1%ゼラチンコート)あたり1×10個のEB5細胞を分化培地(10%ウシ胎児血清(EQUITECH, Cotton Gin Lane Kerrville, TX)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO/BRL)及び100μM 2−メルカプトエタノール(SIGMA)を添加した最小必須培地α培地(GIBCO/BRL))中で37℃、5%CO雰囲気下で5日間培養することによって行った。分化誘導後、経時的にフローサイトメトリー解析(FACS解析)を行うことによってFlk1、CD44及びPDGFRαの発現を測定した。
Flk1抗体としてはマウスモノクローナル抗体「AVAS12α1」(理化学研究所、西川氏より供与された)を用い、ビオチン標識した後、FACS解析を行った。該解析は「calibur」及び「Aria」(ともにBDバイオサイエンス(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社))を使用して行った。CD44抗体は、BDバイオサイエンス社のClone IM7を、PDGFRα抗体は、理化学研究所 西川氏より供与されたClone APA5をBiotin標識したものを使用した。Flk1抗体についてはShin-Ichi Nishikawa et al. Development, 1998 vol. 125 p.1747-1757及びKataoka H et al. Dev Growth Differ. 1997 vol. 39, p.729-740等に詳述されている。
結果を図3に示す。
分化誘導5日目の細胞からFlk1+細胞をソーティングした。得られたFlk1+細胞をストローマ細胞OP9上で共培養した。
ストローマ細胞OP9と共培養することによりES細胞が血液細胞、神経細胞、リンパ球等へと分化誘導されることは既に知られており(Nishikawa SI: Development 1998 125(9) 1747、Yamashita J: Nature 2000: 408(6808):92-6、Ogawa et al. Blood 1999 93;(4):1168-77)、本実施例においても心筋細胞への分化を期待してストローマ細胞OP9との共培養を行った。尚、OP9細胞はATCC等の公的機関からも入手可能であり、本実施例においてはコダマ氏より供与された。
またコントロールとしてFlk1−細胞についても同様にストローマOP9細胞との共培養を行い、心筋細胞への分化を検討した。
セルソーターにて分離した細胞群(3.6×104細胞ずつ)をOP9と6cm培養皿上で分化培地(上述)にて7日間培養した。
OP9との共培養から7日経過した時点で心筋細胞の出現率(拍動細胞のコロニー数)について確認した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
さらに、7日目に拍動している細胞集団(コロニー)をカルチャーリング(culture ring)にて採取し、定量的RT−PCR(QRT−PCR;quantitative reverse transcriptional−PCR)解析に供し、Flk1+細胞由来の拍動細胞コロニーについて心筋分化マーカーの発現を確認した。合成したプライマーは以下の通り。
・Nkx2−5
Foward:cgggcggataaaaaagagct(配列番号1)
Reverse:ccatccgtctcggctttgt(配列番号2)
・GATA4
Foward:ggaagacaccccaatctcgat(配列番号3)
Reverse:ggccccacaattgacacact(配列番号4)
・αMHC
Foward:gctgacagatcgggagaatcag(配列番号5)
Reverse:gctggcaaagtactggatgaca(配列番号6)
・MLC2v
Foward:gaccattctcaacgcattcaag(配列番号7)
Reverse:gtcagcatctcccggacatagt(配列番号8)
・MLC2a
Foward:tcagctgcattgaccagaaca(配列番号9)
Reverse:cgagctgggaataggtctcctt(配列番号10)
・Tbx5
Foward:tgaacgtgaactgtggctgaa(配列番号11)
Reverse:tcctccctgccttggtgat(配列番号12)
・cTnT
Foward:tccctcaaagacaggatcgaa(配列番号13)
Reverse:gcggttctgcctttccttct(配列番号14)
・Flk1
Foward:tcgagacagaaatacgttgagaac(配列番号15)
Reverse:gcaaactggtgtgagtgattcg(配列番号16)
・c−Kit
Foward:ggaagcgtgactcgtttattttc(配列番号17)
Reverse:ctccgttgagtgcagaaggtt(配列番号18)
・HAND1
Foward:ctccctcgttgcctacagaaa(配列番号19)
Reverse:cgagcaaggctggagatgac(配列番号20)
・HAND2
Foward:ccagctacatcgcctacctcat(配列番号21)
Reverse:ctttcacgtcggtcttcttgatc(配列番号22)
・VE−Cadherin
Foward:gtggccaaagaccctgacaa(配列番号23)
Reverse:tcggaagaattggcctctgt(配列番号24)
・PCAM1
Foward:tctgcagaagtctttcaggattca(配列番号25)
Reverse:gcatagagcaccagcgtgagt(配列番号26)
いずれのマーカーの発現も他のコロニー群に比べて顕著に増加していた。
【0051】
Flk1+細胞をOP9と共培養するとFlk1−細胞をOP9と共培養したときよりも高頻度に拍動細胞が認められ。この拍動細胞は心筋マーカーを発現していることから、心筋細胞であることが確認できた。
【0052】
以下さらに実施例を挙げて本発明を説明するが、細胞培養技術や細胞の単離技術等は特に言及しない限り実施例1に準じて行う。
【0053】
実施例2:中胚葉分化誘導系における表面抗原の検討
Flk1の発現がピークになる分化誘導5日目の中胚葉系細胞の表面抗原の解析を行った。解析は各表面抗原に対する特異抗体を用い、免疫細胞染色を行った。表面抗原に対する特異抗体のうち、抗Flk1抗体、抗PDGFRα抗体以外はすべてBDバイオサイエンス社より入手した。抗Flk1抗体、抗PDGFRα抗体は理化学研究所 西川氏より供与されたものを用いた。抗Gr1抗体及び抗Mac1抗体については400倍希釈、それ以外の抗体は200倍希釈にて反応に供した。抗PDGFRα、Flk1、Integrin a2,ICAM−1,ICAM−2,Integrin b1,Integrin b7抗体はbiotinラベルされていたので2次抗体としてストレプトアビジン−APC−Cy7を400倍希釈で使用した。
分化誘導は概ね実施例1と同様な手法に基づくが、実験プロトコールを図4に示す。
PDGFRα、CD24、CD44、Flk1抗原等が、分化とともにその発現量を増強させた。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例3:Flk1/PDGFRαと心筋細胞出現率の関係の検討
細胞集団をFlk1+/−,PDGFRα+/−の4つの分画にそれぞれソーティングし、実施例1と同様にして心筋分化誘導を行い、拍動コロニーの出現率を測定した。実験プロトコールを模式的に示し(図4)、結果を図5に示す。
PDGFRα及びFlk1を共発現している心筋前駆細胞をストローマ細胞OP9と共培養した場合に拍動コロニー数が顕著に増加した。
【0056】
実施例4:ヒト臍帯血からの心筋前駆細胞分離
<プロトコール>
臍帯血全血を、生理食塩水にて2倍希釈し、LymphoprepTMTube(www.axis−shield−poc.com)による比重遠心分離法にて、単核球分画を得、MACS(登録名)ビーズ−抗ヒトCD34モノクローナル抗体(www.miltenyi.com)と反応後、自動細胞分離装置autoMACSTMにて、CD34陽性単核球を得る。心筋前駆細胞群を、メチルセルロース培養(培養条件以下)にて、培養皿底に付着する細胞コロニー群を集めることによって得た。本細胞群について定量的RT−PCR解析を行った。臍帯血CD34陽性細胞を未分化増殖培地(培養条件以下)にて5日間培養した細胞群をコントロールとした。
<心筋前駆細胞を得るための「メチルセルロース培養」の条件>
・MethoCult GF+H4435 (Stem Cell Technologies)(http://www.veritastk.co.jp/productdb/sho_detail.asp?t=1&Sho=0200&Chu=0100#MethoCultGF+H4435参照)を使用。
・αMEM 10%FCS(GIBCO)にサイトカインカクテル(100ng/ml hr SCF, 50ng/ml hr IL−6, 50ng/ml hr sIL−6R, 10ng rh TPO, 30ng/ml rh Flt2/3L;「rh」はヒト組み換え体であることを示す)を混合したものにて3日間培養した100個のCD34+細胞を1.2mlのMethoCult GF+H4435とともに3cm培養皿に播く。
<「未分化増殖培地」を用いた培養の条件>
・2×10CD34+細胞(純度98%)を、αMEM 10%FCS(GIBCO)にサイトカインカクテル(100ng/ml hr SCF, 50ng/ml hr IL−6, 50ng/ml hr sIL−6R, 10ng rh TPO, 30ng/ml rh Flt2/3L;「rh」はヒト組み換え体であることを示す)を混合したものにて5日間培養する。
<データ>
得られた臍帯血CD34陽性細胞由来の付着細胞の表面マーカー(PDGFRα、KDR(ヒトのFlk−1))についてreal−time RT−PCR(Quantification based on GAPDH control)により解析した。両表面マーカーともに心筋前駆細胞群で発現の増加がみられた(図6)。
【0057】
配列表フリーテキスト
配列番号1:Nkx2−5のPCR用プライマー(フォワード)
配列番号2:Nkx2−5のPCR用プライマー(リバース)
配列番号3:GATA4のPCR用プライマー(フォワード)
配列番号4:GATA4のPCR用プライマー(リバース)
配列番号5:αMHCのPCR用プライマー(フォワード)
配列番号6:αMHCのPCR用プライマー(リバース)
配列番号7:MLC2vのPCR用プライマー(フォワード)
配列番号8:MLC2vのPCR用プライマー(リバース)
配列番号9:MLC2aのPCR用プライマー(フォワード)
配列番号10:MLC2aのPCR用プライマー(リバース)
配列番号11:Tbx5のPCR用プライマー(フォワード)
配列番号12:Tbx5のPCR用プライマー(リバース)
配列番号13:cTnTのPCR用プライマー(フォワード)
配列番号14:cTnTのPCR用プライマー(リバース)
配列番号15:Flk1のPCR用プライマー(フォワード)
配列番号16:Flk1のPCR用プライマー(リバース)
配列番号17:c−KitのPCR用プライマー(フォワード)
配列番号18:c−KitのPCR用プライマー(リバース)
配列番号19:HAND1のPCR用プライマー(フォワード)
配列番号20:HAND1のPCR用プライマー(リバース)
配列番号21:HAND2のPCR用プライマー(フォワード)
配列番号22:HAND2のPCR用プライマー(リバース)
配列番号23:VE−CadherinのPCR用プライマー(フォワード)
配列番号24:VE−CadherinのPCR用プライマー(リバース)
配列番号25:PCAM1のPCR用プライマー(フォワード)
配列番号26:PCAM1のPCR用プライマー(リバース)
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明の心筋前駆細胞単離用デバイスあるいは心筋前駆細胞投与用デバイスの一例を示す模式図である。
【図2】図2は、磁気細胞分離法による〔Flk1+,PDGFRα+〕細胞の分離方法の概略図である。
【図3】図3はEB5細胞の分化誘導におけるFlk1、CD44及びPDGFRαの経時的発現の結果を示す図である。
【図4】図4はEB5細胞の中胚葉分化誘導系における表面抗原を検討する際の実験プロトコールを模式化したものである。
【図5】ソーティングしたFlk1+/PDGFRα+細胞について心筋分化誘導(OP9上での共培養)を行い、得られた拍動コロニーの数を示すグラフである。
【図6】臍帯血CD34陽性細胞をメチルセルロース培養して培養皿底に付着した細胞について、その表面マーカー(PDGFRα及びKDR(ヒトのFlk1))の発現を調べた結果を示す図である。白カラムがメチルセルロース培養前の細胞、黒カラムがメチルセルロース培養後の培養皿底に付着した細胞の結果を示す。メチルセルロース培養後に得られる心筋前駆細胞群で両表面マーカーの発現の増加が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)中胚葉細胞を含有する細胞集団についてCD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種の蛋白質の発現を解析する工程、および(ii)CD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも1種の蛋白質を発現している細胞を回収する工程を含む、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を単離する方法。
【請求項2】
(i)中胚葉細胞を含有する細胞集団についてCD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも2種の蛋白質の発現を解析する工程、および(ii)CD44、Flk1およびPDGFRαからなる群より選択される少なくとも2種の蛋白質を発現している細胞を回収する工程を含む、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を単離する方法。
【請求項3】
少なくとも2種の蛋白質がFlk1及びPDGFRαである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(i)中胚葉細胞を含有する細胞集団についてCD44、Flk1およびPDGFRαの発現を解析する工程、および(ii)CD44、Flk1およびPDGFRαを全て発現している細胞を回収する工程を含む、中胚葉細胞を含有する細胞集団から心筋前駆細胞を単離する方法。
【請求項5】
中胚葉細胞が幹細胞由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
幹細胞が胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、始原生殖細胞由来細胞(EG細胞)又は組織幹細胞である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
中胚葉細胞が、ES細胞を中胚葉系分化誘導することによって得られるものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ES細胞がマウスEB5細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
中胚葉系分化誘導が、ゼラチンコートされた培養皿上で培養することによって行われる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
中胚葉細胞を含有する細胞集団が、骨格筋組織、脂肪組織、末梢血、骨髄組織、および臍帯血からなる群より選択される少なくとも1種の組織より得られるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法によって単離された心筋前駆細胞。
【請求項12】
CD44の発現を解析する工程が、CD44に特異的親和性を有する物質を用いて行うものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
CD44に特異的親和性を有する物質が抗CD44抗体である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
Flk1の発現を解析する工程が、Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて行うものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
Flk1に特異的親和性を有する物質が抗Flk1抗体である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
PDGFRαの発現を解析する工程が、PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて行うものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
PDGFRαに特異的親和性を有する物質が抗PDGFRα抗体である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項11記載の心筋前駆細胞をストローマ細胞と共培養することを特徴とする、インビトロで心筋細胞を産生する方法。
【請求項19】
心筋前駆細胞から心筋細胞への分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法であって、
(i)請求項11記載の心筋前駆細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、もう一方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した心筋前駆細胞について拍動の有無、及び/又は心筋マーカーの発現を測定する工程、
(iii)被検物質の存在下あるい非存在下で培養した心筋前駆細胞について、拍動が確認されたか、あるいは心筋マーカーの発現が確認された細胞、若しくは拍動が確認され、且つ心筋マーカーの発現が確認された細胞を心筋細胞とし、その出現率を算出する工程、および
(iv)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて有意に心筋細胞の出現率を上昇させた被検物質を心筋細胞への分化を誘導し得る因子と認定する工程
を含む方法。
【請求項20】
工程(i)における心筋前駆細胞の被検物質の存在下あるいは非存在下での培養を、ストローマ細胞の共存下で実施することを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
幹細胞から心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法であって、
(i)幹細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、他方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した幹細胞について、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも1種の発現状況を測定する工程、及び
(iii)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも1種の発現を有意に上昇させた被検物質を心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子と認定する工程、
を含む方法。
【請求項22】
幹細胞から心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子のスクリーニング方法であって、
(i)幹細胞を2群にわけ、一方を被検物質の存在下で培養し、他方を被検物質の非存在下で培養する工程、
(ii)被検物質の存在下あるいは非存在下で培養した幹細胞について、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも2種の発現状況を測定する工程、及び
(iii)被検物質の非存在下で培養した場合に比べて、CD44、Flk1及びPDGFRαからなる少なくとも2種の発現を有意に上昇させた被検物質を心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子と認定する工程、
を含む方法。
【請求項23】
少なくとも2種がFlk1及びPDGFRαである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程(ii)においてCD44、Flk1及びPDGFRαの全ての発現状況を測定し、工程(iii)においてCD44、Flk1及びPDGFRαの全ての発現を有意に上昇させた被検物質を心筋前駆細胞への中胚葉系分化を誘導し得る因子として認定する、請求項21記載の方法。
【請求項25】
幹細胞が胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、始原生殖細胞由来細胞(EG細胞)又は組織幹細胞である、請求項21又は22記載の方法。
【請求項26】
(a)CD44に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からCD44を発現している細胞集団を回収する為の手段、(b)Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段、及び(c)PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段のうち、少なくとも2つの手段を含む、心筋前駆細胞単離用デバイス。
【請求項27】
少なくとも2つの手段が、Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段、及びPDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段である、請求項26記載のデバイス。
【請求項28】
(a)CD44に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からCD44を発現している細胞集団を回収する為の手段、(b)Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段、及び(c)PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段を含む、心筋前駆細胞単離用デバイス。
【請求項29】
CD44に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からCD44を発現している細胞集団を回収する為の手段が、抗CD44抗体固定化固相担体である、請求項26または28記載のデバイス。
【請求項30】
Flk1に特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からFlk1を発現している細胞集団を回収する為の手段が、抗Flk1抗体固定化固相担体である、請求項26〜28のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項31】
PDGFRαに特異的親和性を有する物質を用いて中胚葉細胞を含有する細胞集団からPDGFRαを発現している細胞集団を回収する為の手段が、抗PDGFRα抗体固定化固相担体である、請求項26〜28のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項32】
中胚葉細胞を含有する細胞集団が、骨格筋組織、脂肪組織、末梢血、骨髄組織、および臍帯血からなる群より選択される少なくとも1種の組織より得られるものである、請求項26〜31のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項33】
請求項26〜32のいずれか1項に記載のデバイスと、心筋前駆細胞を患者に投与するための手段とを含む、心筋前駆細胞投与用デバイス。
【請求項34】
心筋前駆細胞を患者に投与するための手段がシリンジ又はカテーテルである、請求項33記載のデバイス。
【請求項35】
心筋前駆細胞の患者への投与が、移植によって行われるものである請求項34記載のデバイス。
【請求項36】
移植が、該細胞を体外にて培養して得られる、単層若しくは多層構造を有するシート状の組織の形態で行われるものである、請求項35記載のデバイス。
【請求項37】
移植が、該細胞を体外にて非生物由来若しくは生物由来の支持体の上で培養して得られるシート状の組織の形態で行われるものである、請求項35記載のデバイス。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−50974(P2006−50974A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235425(P2004−235425)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(502100138)株式会社カルディオ (13)
【出願人】(300061835)財団法人先端医療振興財団 (28)
【Fターム(参考)】