心臓、肺および腎臓疾患および高血圧症の治療のためのACE2活性化
本発明は、心血管疾患、腎臓疾患、肺疾患および高血圧症の予防および治療のためのACE2を活性化する化合物に関する。本発明はまた、ACE2発現の測定またはヌクレオチド多型分析により心血管疾患、腎臓疾患、肺疾患および高血圧症を診断する方法をも包含する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症、冠状動脈性心疾患、心不全、腎不全、肺浮腫、および中毒性ショックや人工換気などの肺障害を含む、心臓、肺および腎臓の疾患を診断および治療するのに用いる組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
心血管系疾患は21世紀における健康管理の負担の大きい第一のものであり、2020年までに世界中の死亡の最も一般的原因となるであろうことが予測されている。心疾患の主たるリスク因子は高血圧である。高血圧症は、遺伝的因子および環境因子の両者によって制御される多因性の定量的形質である。食事や身体活動などの高血圧に貢献しうる環境因子については多くのことがわかっているが、心血管系疾患への素因となる遺伝的因子についてはあまりわかっていない。動物モデルでの高血圧と関係のある幾つかの推定の遺伝子の定量的形質部位(quantitative trait loci; QTL)の同定にも拘わらず、これらの部位のいずれも遺伝子に翻訳されていない。それゆえ、高血圧症および他の心血管系疾患の基礎となる分子的および遺伝的メカニズムの多くは不明のままである。
【0003】
血圧のホメオスタシスの一つの重要なレギュレーターはレニン−アンジオテンシン系(RAS)である。プロテアーゼのレニンは、アンジオテンシノーゲンを不活性な十量体ペプチドであるアンジオテンシンI(AngI)に開裂する。ついで、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用は活性な八量体アンジオテンシンII(AngII)へのAngIの開裂を触媒し、このアンジオテンシンII(AngII)が血管平滑筋の血管収縮および腎細管でのナトリウムの再吸収を促進することにより高血圧症に貢献しうるのである。ACE突然変異体マウスは、突発性の高血圧症、部分的な雄の不妊、および腎臓の奇形を示す。ヒトではACE多型は腎機能および心血管機能の決定要因と関係付けられており、ACEおよびAngIIレセプターの薬理学的な抑制は血圧および腎臓疾患の低下に有効である。さらに、ACEおよびAngIIレセプターの抑制は心不全にも有利な効果を有する。
【0004】
最近、ACE2と称するACEのホモログが同定されたが、このものは腎臓および心臓の血管内皮細胞で優先的に発現される。興味深いことには、2つのACEホモログがハエにも存在する。ACEとは異なり、ACE2はカルボキシペプチダーゼとして機能し、AngIから単一残基を開裂してAng1−9を生成し、AngIIから単一残基を開裂してAng1−7を生成する。これらのインビトロでの生化学データは、ACE2がRASをモデュレートすること、それゆえ血圧制御に何らかの役割を果たしているかもしれないことを示唆している。インビボでの心血管系およびRASにおけるACE2の役割はわかっていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Actonらは米国特許第6,194,556号において、ACE2関連疾患状態の診断および治療におけるACE2の使用を記載している。この特許は、ACE2発現レベルが高血圧症で増大していること、およびACE2活性のアンタゴニストまたはインヒビターが高くなった血圧または関連する障害の治療に有用であることを述べている。カナダ特許出願第2,372,387号はACE2インヒビターの特定の例を提供しているが、これは高血圧症などの心疾患の治療に有用であることを意図したものである。この文献もACE2活性を増大させるのではなく抑制する必要があることを強調している。これら文献はACE2活性の抑制の必要性を教示するものであるが、インビトロでの実験データに基づくものにすぎない。それら文献は、ACE2を特徴付けるためのノックアウト哺乳動物のデータなどのインビボでのデータを提供していない。これまで高血圧症の治療のための医薬として承認されたACE2インヒビターはない。さらに、心血管系およびRASでのACE2のインビボでの役割は殆どわかっていないままである。心臓および腎臓の疾患の治療のための適切な診断試験および医薬をデザインすることができるように、ACE2の機能を特徴付ける必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はレニン−アンジオテンシン系の制御のための新たなパラダイムを提供するものであり、インビトロデータ(Actonの特許)に基づく予測とは対照的に、また従来技術では予期しないことに、心臓機能および血圧制御に必要なRASの重要な負のレギュレーターとしてのACE2の全く新規かつ予期しない使用を示す。ACE2の活性化は、心臓、肺および腎臓疾患の治療および予防にとって重大である。本発明は、ACE2アクチベーターの動物への投与が高血圧症および心臓および腎臓疾患、および肺障害を予防および治療することを初めて示すものである。
【0007】
発明の詳細な説明
本発明はRAS系の制御のための新たなパラダイムを提供するものであり、ACE2が心臓機能および心血管機能、腎臓機能および肺障害に必要なRASの重要な負のレギュレーターであることを示すものである。ACE2の活性化は、心臓および腎臓の疾患および高血圧症および肺の疾患の治療および予防にとって重大である。本発明は、ACE2アクチベーターの動物への投与が心不全および高血圧症、腎臓疾患および肺障害を予防および治療することを初めて教示するものである。
【0008】
この結果は、心臓疾患を治療するにはACE2活性を抑制しなければならないと教示する上記米国特許第6,194,556号やカナダ特許出願第2,372,387号などの従来技術の文献からすると全く予期しないものである。それゆえ、ACE2の発現および/または活性を活性化することによって心臓疾患が実際に治療されることは驚くべきことである。
【0009】
本発明は、ACE2機能および/またはACE2 mRNAおよびACE2タンパク質発現のアクチベーターを含む(これに限られるものではない)アクチベーター、および該アクチベーターを含む医薬組成物を包含する。本発明はまた、治療を必要とする動物に有効量のアクチベーターを投与することによる、心臓疾患、肺疾患および腎臓疾患の医学的な治療方法をも包含する。肺疾患としては、これらに限られるものではないが、慢性閉塞性肺疾患、肺炎、喘息、慢性気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、間質性肺疾患、原発性肺高血圧症、肺塞栓症、肺サルコイドーシス、結核および肺癌が挙げられる。
【0010】
本発明はまた、心臓および腎臓の疾患および高血圧症および肺疾患を治療するのに用いることのできるACE2アクチベーターを検出するためのスクリーニングアッセイをも包含する。これらアッセイはインビトロであってもインビボであってもよい。好ましい態様において、本発明は、候補化合物がACE2の発現または活性を増大させることができるか否かを評価するための内皮、腎臓、肺または心臓の細胞アッセイを包含する。細胞をACE2の発現または活性を活性化する能力について決定しようとする少なくとも1つの化合物の存在下で培養し、ACE2発現の増大について細胞を測定する。本発明の他の側面は、ACE2の喪失の効果を克服しうる化合物を同定するためのACE2ノックアウトマウスに関する。これらのアッセイにおいてポリペプチドおよび小さな有機分子を試験する。本発明は、本発明のスクリーニング法によって同定され、医薬組成物にて動物に投与するのに適した全ての化合物を包含する。
【0011】
本発明の他の側面は、心臓および/または腎臓の疾患および/または高血圧症および/または肺疾患の発症またはリスクの診断である。このことは、心臓、血清、または腎臓、または他の組織中のACE2レベルを測定することによって診断することができる。野生型レベルよりも低いレベルのACE2は「ACE2低減状態」を示し、これは本発明が心臓および/または腎臓の疾患および/または高血圧症、および/または肺疾患、または疾患のリスクと直接関係することを示すものである。ACE2の野生型レベルおよび低減レベルは当業者には明らかであろう。ACE2低減状態はまた、以下に記載する多型ACE2a〜ACE2mによっても示される。本発明は低減したACE2の発現または活性と関連する疾患を治療および診断するのに有用である。診断はまた、場合により、ACE2低減状態と関係するACE2遺伝子の上流および下流および遺伝子内の多型の分析によっても達成される。本明細書に記載する手段によって多型を識別するヌクレオチドの検出に必要な試薬はすべて、動物から単離したゲノムDNAの分析のための単一のキットにて提供することができる。該キットは、疾患のリスクまたは発症の診断のため、遺伝子型決定および表現型決定を可能とすべくACE2の多型を識別する標識プローブを含んでいるであろう。多型特異的なプローブは、唯一つの多型特異的プローブがハイブリダイズして検出することができ、それによって特異的なACE2多型を同定できるように、適当に標識し、生成DNA切片にアニーリング条件下で加えることができる。
【0012】
治療法
上記で記載したように、本発明はACE2遺伝子発現が高血圧症、心臓および腎臓疾患ではダウンレギュレーションされていることを示した。従って、本発明は、治療または予防を必要とする動物にACE2の発現を増大させうる薬剤の有効量を投与することを含む、高血圧症、心臓疾患、肺または腎臓疾患の治療または予防方法を提供する。
【0013】
本明細書で使用する「ACE2の発現を増大させうる薬剤」なる語は、該薬剤の不在下で同じ種類の細胞でのACE2遺伝子またはタンパク質のレベルまたは活性と比べてACE2遺伝子またはタンパク質のレベルまたは活性を増大させることのできるあらゆる薬剤を意味する。該薬剤はいかなる種類の物質であってもよく、核酸分子(ACE2またはその断片を含む)、タンパク質(Ace2またはその断片を含む)、ペプチド、炭水化物、小分子、または有機化合物を含むがこれらに限られるものではない。ACE2遺伝子が増大したか否かは、ウエスタンブロッティング、SDS−PAGE、免疫化学、RT−PCR、ノーザンブロッティングおよびインシトゥハイブリダイゼーションを含む公知の方法を用い、当業者により容易に決定することができる。
【0014】
本明細書で使用する「動物」の語は、動物界のあらゆる成員を含む。動物は好ましくはヒトである。
【0015】
本明細書で使用する「有効量」なる語は、ACE2のレベルを高めるのに必要な投与量および期間で有効な量を意味する。
【0016】
本明細書において使用する「治療または治療する」の語は、臨床的な結果を含む有利なまたは所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有利なまたは所望の臨床結果としては、これらに限られるものではないが、検出しうるか検出しえないかに拘わらず、1またはそれ以上の徴候の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の安定化した(すなわち、悪化しない)状態、疾患の拡散の予防、疾患の進行の遅滞、疾患状態の改善または一時的緩和、および緩解(部分的または全体的)が挙げられる。「治療」はまた、治療を施さなかった場合に予想される生存と比べて長引いた生存をも意味する。
【0017】
ACE2核酸分子の投与
一つの態様において、ACE2遺伝子の発現がACE2遺伝子またはその一部を含む核酸を投与することによって増大する。
【0018】
他の態様において、ACE2遺伝子の発現は、本明細書に開示したスクリーニングアッセイを用いて同定した薬剤を含む、ACE2遺伝子発現を増大させる薬剤を投与することによって増大させることができる。
【0019】
疾患、障害または異常な身体状態を患う動物はACE2のアップレギュレーションによって治療することができるので、ACE2発現を増大させる遺伝子療法は心臓または腎臓または肺の疾患の発生/進行を緩和するのに有用である。
【0020】
本発明は、低減したACE2発現またはACE2ポリペプチドの活性の低減したレベルを特徴とする疾患、障害または異常な身体状態の治療のためのACE2遺伝子療法を提供する方法および組成物を包含する。
【0021】
本発明は、動物の細胞でのACE2の発現が該細胞にACE2ポリペプチドの生物学的活性または表現型をもたらすように、ACE2をコードする核酸分子または機能的に同等の核酸分子を該細胞に提供する方法および組成物を包含する。該細胞にACE2ポリペプチドの生物学的活性または表現型がもたらされるように、充分な量の核酸分子を投与し、充分なレベルで発現させる。たとえば、該方法は、好ましくは、ACE2をコードするDNAを含むベクターを主体に投与することを含む、心血管または腎臓または肺の疾患を有する動物の細胞にACE2をコードする核酸分子を送達する方法を包含する。該方法はまた、ACE2をコードするDNAを投与することによって心血管または腎臓または肺の疾患を有する動物に生物学的に活性なACE2ポリペプチドをもたらす方法にも関する。該方法は、インビボまたはエクスビボ(たとえば、肺、心臓、内皮または腎臓の幹細胞、先祖細胞(progenitor cells)または他の細胞が移植細胞であってよい)で行うことができる。ACE2を単離細胞または動物に投与(遺伝子療法における場合を含む)する方法および組成物は、たとえば、米国特許第5,672,344号、同第5,645,829号、同第5,741,486号、同第5,656,465号、同第5,547,932号、同第5,529,774号、同第5,436,146号、同第5,399,346号、同第5,670,488号、同第5,240,84号、同第6,322,536号、同第6,306,830号および同第6,071,890号および米国特許出願第20010029040号(参照のためのその全体を本明細書中に引用する)に説明されている。
【0022】
本発明はまた、ACE2をコードするDNAを含む遺伝子療法に適したウイルスを産生することによる、組換えウイルスのストックを製造する方法にも関する。この方法は、好ましくは、ウイルス複製(該ウイルスは核酸分子を含む)を許容する細胞をトランスフェクションし、ついで産生したウイルスを回収することを含む。
【0023】
該方法および組成物はインビボまたはインビトロで用いることができる。本発明はまた組成物(好ましくは遺伝子療法のための医薬組成物)をも包含する。該組成物はACE2を含むベクターを含む。担体は、医薬担体またはベクターを含む宿主形質転換体であってよい。当該技術分野で知られたベクターとしては、これらに限られるものではないが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルスベクター、たとえばワクシニアウイルスベクター、HIVおよびレンチウイルスベースのベクター、またはプラスミドが挙げられる。本発明はまた、ベクターを製造するのに必要なパッケージングおよびヘルパー細胞株をも包含する。ベクターを製造する方法および該ベクターを用いた遺伝子療法の方法もまた本発明に包含される。
【0024】
本発明はまた、該ベクターおよび組換えACE2核酸分子配列を含む形質転換細胞をも包含する。
【0025】
ACE2突然変異体の使用−ポリペプチド配列の修飾
ACE2突然変異体を本発明の方法に用いることができる。化学的に同等かまたは類似のアミノ酸配列という結果となる変化は本発明の範囲に包含される。ACE2レセプターに対して配列同一性を有するポリペプチドは、本発明の方法に使用するのに適していることを確認すべく試験される。本発明のポリペプチドの突然変異体は、たとえば突然変異により天然でも存在するし、またはたとえば部位特異的突然変異誘発などのポリペプチド工学法(アミノ酸置換の技術分野でよく知られている)を用いて製造することもできる。たとえば、グリシンなどの疎水性アミノ酸残基を他の疎水性残基、たとえばアラニンで置換することができる。アラニン残基は、ロイシン、バリンまたはイソロイシンなどのさらに疎水性の残基で置換することができる。アスパラギン酸などの負に荷電したアミノ酸はグルタミン酸で置換することができる。リジンなどの正に荷電したアミノ酸はアルギニンなどの他の正に荷電したアミノ酸で置換することができる。
【0026】
それゆえ、本発明は、アミノ酸配列に保存的な変化または置換を有するポリペプチドを包含する。保存的な置換は、置換されたアミノ酸と同様の化学的性質の1またはそれ以上のアミノ酸を挿入する。本発明は、化合物の活性を損なわない保存的な置換がされている配列を包含する。
【0027】
1またはそれ以上のdアミノ酸を含むポリペプチドが本発明に包含される。1またはそれ以上のアミノ酸がN末端でアセチル化されているポリペプチドも本発明に包含される。当業者であれば、本発明の対応ポリペプチド化合物と同じかまたは類似の所望の化合物活性を有するが、溶解度、安定性、および/または加水分解およびタンパク質分解に対する感受性に関して該ポリペプチドよりも有利な活性を有するポリペプチドミメチックを構築するのに種々の技術を利用できることを認識するであろう。たとえば、MorganおよびGainor, Ann. Rep. Med. Chem., 24: 243-252 (1989)を参照。ポリペプチドミメチックの例は米国特許第5,643,873号に記載されている。ミメチックの製造および使用法を記載した他の特許としては、たとえば、米国特許第5,786,322号、同第5,767,075号、同第5,763,571号、同第5,753,226号、同第5,683,983号、同第5,677,280号、同第5,672,584号、同第5,668,110号、同第5,654,276号、同第5,643,873号が挙げられる。本発明のポリペプチドのミメチックはまた、当該技術分野で知られた他の方法に従っても製造することができる。たとえば、水素基をヒドロキシやアミノ基などの他の基に変化させることによって側鎖基を化学的に変える薬剤を用いて本発明のポリペプチドを処理することにより行うことができる。ミメチックは、すべてがアミノ酸からなる配列、またはアミノ酸と修飾アミノ酸または他の有機分子とを含むハイブリッドである配列を含んでいるのが好ましい。
【0028】
本発明はまた、たとえばヌクレオチド配列が第二の配列と組み合わされているハイブリッドおよびポリペプチドをも包含する。
【0029】
本発明はまた、ACE2のポリペプチド断片が活性を保持している場合に化合物に活性を付与するのに用いることのできる該断片の使用方法をも包含する。本発明はまた、ポリペプチドまたはその活性を特徴付けるリサーチツールとして用いることのできる本発明のポリペプチドおよび該ポリペプチドの断片をも包含する。そのようなポリペプチドは少なくとも5つのアミノ酸からなるのが好ましい。好ましい態様において、そのようなポリペプチドは、6〜10、11〜15、16〜25、26〜50、51〜75、76〜100または101〜250または250〜500アミノ酸からなっていてよい。断片は、化合物の配列において1またはそれ以上のアミノ酸、たとえばC末端アミノ酸が除去された配列を含んでいてよい。
【0030】
ACE2ポリペプチド活性の促進
ACE2の活性は、選択的な部位特異的突然変異誘発を行うことにより増大または低減する。Pharmacia BiotechからのU.S.E.(Unique site elimination)突然変異誘発キットまたは市販の他の突然変異誘発キットを用い、またはPCRを用い、該核酸分子または配列同一性を有する核酸分子を含むDNAプラスミドまたは発現ベクターをこれら研究に用いるのが好ましい。突然変異が生成されDNA配列分析によって確認されたら、突然変異体ポリペプチドを発現系を用いて発現させ、その活性をモニターする。
【0031】
本発明はまた、ヒトまたはマウスACE2(またはその部分配列)に対して少なくとも約20>%、>25%、>28%、>30%、>35%、>40%、>50%、>60%、>70%、>80%または>90%、さらに好ましくは少なくとも約>95%、>99%または>99.5%の配列同一性を有するポリペプチドの使用法をも包含する。修飾したポリペプチド分子は以下で検討する。好ましくは約1、2、3、4、5、6〜10、10〜25、26〜50または51〜100または101〜250のヌクレオチドまたはアミノ酸が修飾される。
【0032】
同一性は当該技術分野で知られた方法に従って計算する。配列同一性は、BLAST version 2.1プログラムアドバンストサーチ(上記のパラメーター)により評価するのが最も好ましい。BLASTは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTでオンラインで利用できる一連のプログラムである。アドバンストBLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi?Jform=1)はデフォルトでパラメーターを選択するようにセッティングされている。(すなわち、Matrix BLOSUM62; Gap existence cost 11; Per residue gap cost 1; Lambda ratio 0.85 default)。
【0033】
BLASTサーチに関する参照文献は以下のとおりである:Altschul, S.F., Gish, W., Miller, W., Myers, E.W. & Lipman, D.J. (1990) "Basic local alignment search tool." J. Mol. Biol. 215: 403-410; Gish, W. & States, D.J. (1993)"Identification of protein coding regions by database similarity search." Nature Genet. 3: 266-272; Madden, T.L., Tatusov, R.L. & Zhang, J. (1996) "Applications of network BLAST server" Meth. Enzymol. 266: 131-141; Altschul, S.F., Madden, T.L., Schaffer, A.A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W. & Lipman, D.J. (1997) "Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs." Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) "PowerBLAST: A new network BLAST application for interactive or automated sequence analysis and annotation." Genome Res. 7: 649-656。
【0034】
好ましくは約1、2、3、4、5、6〜10、10〜25、26〜50または51〜100または101〜250のヌクレオチドまたはアミノ酸が修飾される。本発明は、活性の付与に関与しないポリペプチドの部分でのアミノ酸変化か、またはポリペプチドの活性を増大または低減させるべく活性の付与に関与するポリペプチドの部分でのアミノ酸変化を引き起こす突然変異を有するポリペプチドを包含する。
【0035】
ACE2アクチベーターのスクリーニング
ACE2の発現または活性を増大させるか否かを決定すべく小さな有機分子をスクリーニングする。ACE2のポリペプチド断片並びにACE2との配列同一性を有するポリペプチドもまた、インビトロアッセイおよび細胞株でのインビボでACE2活性を増大させるか否かを決定すべく試験する。アクチベーターは、ACE2の特異的ドメインに向けられてACE2活性化を増大させるのが好ましい。特異性を達成するため、アクチベーターはACE2の独特の配列を標的とすべきである。
【0036】
本発明はまた、ACE2発現を増大させる物質の単離をも包含する。とりわけ、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合することのできるリガンドまたは物質を単離することができる。生物学的試料および市販のライブラリーを、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合するタンパク質などの物質について試験することができる。たとえば、ACE2タンパク質のアミノ酸配列を用いてペプチドライブラリーをプロービングすることができ、一方、ACE2をコードする核酸配列を用いて核酸ライブラリーをプロービングすることができる。さらに、ACE2に対して調製した抗体を用いてACE2への親和性を有する他のペプチドを単離することができる。たとえば、標識抗体を用いてファージディスプレイライブラリーまたは生物学的試料をプロービングすることができる。
【0037】
ある物質とACE2遺伝子またはタンパク質との複合体の生成を可能にする条件は、該物質およびACE2遺伝子またはタンパク質の性質および量などの因子を考慮したうえで選択することができる。物質−タンパク質または物質−遺伝子複合体、遊離の物質または複合体を生成していない物質の単離は、通常の単離法、たとえば、塩析、クロマトグラフィー、電気泳動、ゲル濾過、分画、吸着、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、凝集、またはそれらの組み合わせにより行うことができる。成分のアッセイを容易にするため、ACE2または該物質に対する抗体、または標識タンパク質、または標識物質を用いることができる。抗体、タンパク質、または物質は、以下に記載する検出可能な物質を用い、適切に標識することができる。
【0038】
潜在的な結合パートナーが単離されたら、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合する物質がACE2発現を促進させるための本発明の方法において有用であるか否か、従って疾患の治療に有用であるか否かを決定するため、スクリーニング法をデザインすることができる。
【0039】
それゆえ、本発明は、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合することのできる物質を同定するための方法をも提供する。とりわけ、該方法は、ACE2に結合することができ、ACE2の発現を増大または促進することのできる物質を同定するのに用いることができる。従って、本発明は、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合する物質の同定方法であって、下記工程:
(a)好ましくは固定化したACE2遺伝子またはタンパク質を被験物質と複合体の生成を可能とする条件下で反応させ、ついで
(b)複合体、遊離の物質、および複合体を生成していない遺伝子またはタンパク質についてアッセイする
を含む方法を提供する。
【0040】
タンパク質−タンパク質相互作用を検出するいかなるアッセイ系または試験方法をも用いることができ、これには同時免疫沈降(co-immunoprecipitation)、架橋および勾配またはクロマトグラフィーカラムによる同時精製(co-purification)が含まれる。さらに、X線結晶解析法を物質および分子との相互作用を評価する手段として用いることができる。たとえば、本発明の複合体中の精製した組換え分子は、適当な形状に結晶化させたときにX線結晶解析による分子内相互作用の検出に供することができる。分光法もまた相互作用の検出に用いることができ、とりわけQ−TOF装置を用いることができる。生物学的試料および市販のライブラリーをACE2結合性ペプチドについて試験することができる。さらに、ACE2に対して調製した抗体を用いてACE2結合親和性を有する他のペプチドを単離することができる。たとえば、標識抗体を用いてファージディスプレイライブラリーまたは生物学的試料をプロービングすることができる。この観点から生物学的発現系を用いてペプチドを開発することができる。これら系の使用は、ランダムペプチド配列の大きなライブラリーの作製および特定のタンパク質に結合するペプチド配列についてのこれらライブラリーのスクリーニングを可能にする。ライブラリーの作製は、ランダムなペプチド配列をコードする合成DNAを適当な発現ベクター中にクローニングすることにより行うことができる(Christianら、1992, J. Mol. Biol. 227: 711; Devlinら、1990 Science 249: 404; Cwirlaら、1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 6378を参照)。ライブラリーはまた重複するペプチドの同時合成によっても構築することができる(米国特許第4,708,871号を参照)。アクチベーターを高血圧症、心臓または腎臓疾患の動物モデルで試験する。
【0041】
一つの態様において、本発明は、ACE2発現または活性を活性化する能力について決定しようとする少なくとも1の化合物の存在下で細胞(好ましくは腎臓または心臓細胞)を培養し、その後、ACE2発現および/または活性のレベルの増大について該細胞をモニターすることにより、ある候補化合物がACE2発現または活性を増大させることができるか否かを評価するアッセイを包含する。増大したACE2発現および/または活性は、該候補化合物が心臓または腎臓疾患または高血圧症の治療に有用であることを示している。
【0042】
同様のスクリーニングアッセイを心臓疾患または腎臓疾患の罹患傾向のある当該技術分野で知られた哺乳動物で行うことができる。候補化合物を該哺乳動物に投与し、ACE2発現および/または活性を測定する。増大したACE2発現および/または活性は、該候補化合物が心臓および/または腎臓疾患の治療に有用であることを示している。
【0043】
ある候補化合物がACE2の活性を増大させる(そして心血管疾患および/または腎臓疾患および/または肺、および/または高血圧症を治療するのに有用である)か否かを決定する方法はまた、下記工程:
(a)(i)ACE2、ACE2の断片または両者のいずれかの誘導体を(ii)ACE2基質と、候補化合物の存在下で接触させ、ついで
(b)該基質でのACE2活性が増大され、それによって該化合物がACE2の活性を増大させることを示すか否かを決定する
をも含んでいてよい。増大したACE2活性は、該化合物が本明細書に列記した心臓疾患または腎臓疾患または高血圧症の治療に有用であることを示している。ACE2活性の増大の決定は、該化合物がACE2のタンパク質分解活性を増大させる(基質の加水分解を増大させる)か否かを決定することを含むのが好ましい。本発明の一つの態様において、本発明のアッセイは、候補化合物がナトリウム−ハロゲン塩またはカリウム−ハロゲン塩ではないことおよびアッセイがイオン濃度の増大がACE2タンパク質加水分解に及ぼす影響を測定することに向けられないこと、を条件とする。ACE2基質としては、AngI、AngII、des−Ang、AngII、アペリン−13、ダイノルフィン13、ベータ−カソモルフィンおよびニューロテンシンが挙げられる。
【0044】
ACE2の製造法はCA2,372,387号に記載されている。ACE2活性化のインビトロアッセイの一例は、Vickersら、Hydrolysis of biological peptides by human angiotensin-converting enzyme-related carboxypeptidase. J. Biol. Chem. 2002, 277(17): 14838に示されている。他のアッセイ(並びに上記アッセイの改変したもの)は、本明細書の記載および米国特許第5,851,788号、同第5,736,337号および同第5,767,075号(その全体を参照のため本明細書中に引用する)などに記載された技術から明らかであろう。
【0045】
ノックアウト哺乳動物
マウスACE2のクローニングおよびACE2ノックアウトマウスの生成の実際の例は下記実施例に記載してある。「ノックアウト」なる語は、哺乳動物の単一の細胞、選択した細胞、またはすべての細胞のACE2遺伝子によってコードされたポリペプチドの少なくとも一部の発現の部分的または完全な低減をいう。該哺乳動物は、内生遺伝子の一方の対立遺伝子が破壊され他方の対立遺伝子がなお存在している「へテロ接合性ノックアウト」であってよい。X染色体上のACE2において、雌はへテロ接合性であってよい。雄では唯一つの対立遺伝子があるのみであり、雄はホモ接合性である。あるいは、該哺乳動物は、内生遺伝子の両対立遺伝子が破壊された「ホモ接合性ノックアウト」であってよい。
【0046】
「ノックアウト構築物」とは、哺乳動物の1またはそれ以上の細胞において内生遺伝子によってコードされたポリペプチドの発現を低減または抑制すべくデザインしたヌクレオチド配列をいう。ノックアウト構築物として用いるヌクレオチド配列は、典型的に、(1)抑制されるべき内生遺伝子のある部分(1またはそれ以上のエクソン配列、イントロン配列、および/またはプロモーター配列)からのDNA、および(2)細胞中のノックアウト構築物の存在を検出するのに用いるマーカー配列からなる。ノックアウト構築物を、ノックアウトしようとする内生遺伝子を含む細胞に挿入する。ついで、ノックアウト構築物は内生ACE2遺伝子の一方または両方の対立遺伝子内に組み込まれ、そのようなACE2ノックアウト構築物の組み込みは完全長の内生ACE2遺伝子の転写を妨害または中断させることができる。細胞の染色体DNA中へのACE2ノックアウト構築物の組み込みは、典型的には相同的組換えによって達成される(すなわち、ノックアウト構築物を細胞中に挿入したときに、内生のACE2 DNA配列に相同なまたは相補的なACE2ノックアウト構築物の領域が互いにハイブリダイズすることができる;ついで、これら領域はノックアウト構築物が内生DNAの対応位置に組み込まれるように組換えられる)。
【0047】
典型的には、ノックアウト構築物は胚性幹細胞(ES細胞)と称する未分化の細胞に挿入する。ES細胞は、通常、以下で検討するように、それを導入することのできる発生胚と同じ種の胚または胚盤胞からのものである。
【0048】
「遺伝子の破壊」、「遺伝子破壊」、「発現の抑制」および「遺伝子抑制」は、細胞での完全長ACE2分子の発現を低減または妨害するための、内生ACE2遺伝子のコード領域(通常、1またはそれ以上のエクソンを含む)および/または該遺伝子のプロモーター領域の相同領域へのACE2ヌクレオチド配列ノックアウト構築物の挿入をいう。挿入は、通常、相同的組換えによって行われる。例として、抗生物質耐性遺伝子を含むヌクレオチド配列を、破壊すべきACE2をコードする単離ヌクレオチド配列の一部に挿入することによってヌクレオチド配列ノックアウト構築物を調製することができる。ついで、このノックアウト構築物が胚性幹細胞(「ES細胞」)に挿入されたら、該構築物は少なくとも1のACE2対立遺伝子のゲノムDNA中に組み込まれることができる。かくして、ACE2の内生コード領域の少なくとも一部が今や抗生物質耐性遺伝子によって破壊されているので、該細胞の多くの子孫は少なくとも幾つかの細胞においてもはやACE2を発現しないか、または低減したレベルで、および/または末端切断された形態でACE2を発現するであろう。
【0049】
「マーカー配列」とは、(1)ACE2の発現を破壊するためのより大きなヌクレオチド配列構築物(すなわち、「ノックアウト構築物」)の一部として用いられ、(2)染色体DNA中にACE2ノックアウト構築物が組み込まれた細胞を同定する手段として用いられる、ヌクレオチド配列をいう。マーカー配列はこれら目的を達成できる限りいかなる配列であってもよいが、典型的には抗生物質耐性遺伝子や天然では細胞中に認められないアッセイしうる酵素などの細胞に検出可能な特性を付与するタンパク質をコードする配列であろう。マーカー配列はまた、典型的に、その配列を制御する同種または異種のプロモーターをも含んでいるであろう。
【0050】
本発明の範囲には、一方または両方のACE2対立遺伝子、並びに他の遺伝子の一方または両方の対立遺伝子がノックアウトされた哺乳動物が包含される。そのような哺乳動物は、ACE2ノックアウト哺乳動物を生成するための本明細書に記載した手順を繰り返すが他の遺伝子を用いることにより、またはACE2の一方または両方の対立遺伝子をノックアウトした哺乳動物と、第二の遺伝子の一方または両方の対立遺伝子をノックアウトした哺乳動物との2つの哺乳動物を互いに飼育し、二重のノックアウト遺伝子型(二重のへテロ接合性または二重のホモ接合性ノックアウト遺伝子型、またはそれらの突然変異体)を有する子孫をスクリーニングすることによって得ることができる。
【0051】
他のノックアウト動物および細胞も同様の方法を用いて作製することができる。
【0052】
医薬組成物
ACE2発現および活性のアクチベーターは、医薬組成物において担体などの他の成分と組み合わせるのが好ましい。これら組成物は、動物、好ましくはヒトに、心臓疾患、腎臓疾患または高血圧症を予防または治療するために可溶性の形態で投与することができる。心臓疾患としては、慢性心不全、左心室肥大、急性心不全、心筋梗塞、および心筋症が挙げられる。腎臓疾患としては腎不全が挙げられる。ACE2アクチベーターは、血圧および動脈の高血圧を制御するのに有用である。正常血圧は、85mmHg未満の拡張血圧を有する。高い正常血圧は、85〜89mmHgの拡張血圧を有する。穏やかな高血圧症は90〜104mmHgの拡張血圧に対応する。中程度の高血圧症は105〜114mmHgの拡張血圧に対応する。重篤な高血圧症は115mmHgよりも高い拡張血圧を有する。異常な血圧はまた、収縮血圧からも決定される(拡張血圧が90mmHg未満である場合に)。正常血圧は、140mmHg未満の収縮血圧を有する。境界領域の収縮性高血圧症は、140〜159mmHgの収縮血圧を示す。散発的な(isolated)収縮性高血圧症は160mmHgよりも高い収縮血圧を有する(Cecil: Essentials of Medicine、第3版、Andreoliら、W.B. Saunders Company (1993))。高血圧症は、年齢18歳以上の成人において、少なくとも2回の来診で2回またはそれ以上の血圧の測定の平均値が90mmHgよりも高い拡張血圧または140mmHgの収縮血圧であるときに診断される。子供や妊婦はより低い血圧を有するので、120/80(すなわち、120mmHgの収縮血圧/80mmHgの拡張血圧)を超える血圧は高血圧症であることを示す。
【0053】
医薬組成物はヒトまたは動物に、局所投与、経口投与、エアゾル投与、気管内点滴注入、腹腔内注射、および静注を含む(これらに限られるものではない)種々の方法により投与することができる。投与すべき投与量は、患者の必要性、所望とする効果および選択した投与経路による。ポリペプチドはリポソームなどの(これに限られるものではない)インビボ送達ビヒクルを用いて細胞に導入することができる。
【0054】
医薬組成物は、有効量の核酸分子またはポリペプチドが薬理学的に許容しうるビヒクルと混合物中で組み合わされるように、患者に投与することのできる薬理学的に許容しうる組成物の調製のための公知の方法により調製することができる。適当なビヒクルは、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company,イーストン、ペンシルベニア、米国)に記載されている。
【0055】
この観点から、医薬組成物は核酸分子やポリペプチドなどの活性化合物または物質を1またはそれ以上の薬理学的に許容しうるビヒクルまたは希釈剤とともに含んでいてよく、適当なpHおよび生理学的流体と等張な緩衝溶液中に含まれていてよい。活性分子をビヒクルと組み合わせる方法または活性分子を希釈剤と組み合わせる方法は当業者によく知られている。医薬組成物は活性化合物を組織内の特定の部位に輸送するための標的剤を含んでいてよい。
【0056】
ACE2の異種過剰発現
発現ベクターは高レベルのACE2発現をもたらすのに有用である。本発明の核酸分子で形質転換した細胞培養液は、とりわけACE2低減状態の研究のためのリサーチツールとして有用である。本発明は、ACE2を通常生産している心臓細胞および腎臓細胞好ましくは内皮細胞に選択的なベクターを包含する。本発明はまた、これらベクターを含むトランスフェクションした細胞をも包含する。心臓細胞および腎臓細胞のためのベクターの例は、たとえば、Rosengartら、米国特許第6,322,536号;Marchら、米国特許第6,224,584号;Hammondら、米国特許第6,174,871号;Wolfgang-M. Franzら、Analysis of tissue-specific gene delivery by recombinant adenoviruses containing cardiac-specific promoters. Cardiovascular Research 35(1997) 560-566;Rothmann T.ら、Heart muscle-specific gene expression using replication defective recombinant adnovirus. Gene Ther. 1996 Oct. 3(10): 919-26;Phillips MI.ら、Vigilant vector: heart-specific promoter in an adeno-associated virus vector for cardioprotection. Hypertension 2002, Feb. 39(2Pt2): 651-5;Herold BCら、Herpes simplex virus as a model vector system for gene therapy in renal disease. Kidney Int. 2002 Jan. 61 Suppl. 1: 3-8;Figlin RAら、Technology evaluation: interleukin-2 gene therapy for the treatment of renal cell carcinoma. Curr. Opin. Mol. Ther. 1999 Apr. 1(2): 271-8;Varda-Bloom N.ら、Tissue-specific gene therapy directed to tumor angiogenesis. Gene Ther. 2001 Jun. 8(11): 819-27;Scott-Taylor TH.ら、Adenovirus facilitated infection of human cells with ecotropic retrovirus. Gene Ther. 1998 May, 5(5): 621-9;Langer JC.ら、Adeno-associated virus gene transfer into renal cells: potential for in vivo gene delivery. Exp. Nephrol. 1998 May-Jun, 6(3): 189-94;Lien YH.ら、Gene therapy for renal diseases. Kideny Int. Suppl. 1997 Oct. 61: S85-8;およびOhno K.ら、Cell-specific targeting of Sindbis virus vectors displaying IgG-binding domains of protein A. Nat. Biotechnol. 1997 Aug. 15(8): 763-7に記載されている。
【0057】
細胞培養、好ましくは心臓および腎臓細胞培養および内皮細胞培養を、当該技術分野で知られた多くの方法に従って過剰発現および研究に用いる。たとえば、細胞株(不死化した細胞培養かまたは初代細胞培養のいずれか)をACE2核酸分子(または配列同一性を有する分子)を含むベクターでトランスフェクションして核酸分子の発現および核酸分子およびポリペプチドの活性のレベルを測定する。これら細胞はまた、該ポリペプチドに結合し活性化する化合物を同定するのにも有用である。
【0058】
ACE2活性および/または発現を測定する診断キット
ACE2発現または活性の測定はまた、(i)心臓または腎臓の疾患、肺疾患および/または高血圧症の診断、(ii)そのような疾患の発症前の疾患を発症するリスクにある患者の同定、(iii)冠状動脈疾患、慢性心不全などの心臓疾患、または腎臓疾患および/または高血圧症および/または肺障害を有する患者での治療応答の測定、および(iv)そのようなリスクにある患者での介入的疾患予防戦略の成功の測定、にも用いる。本発明は、下記工程:(a)動物から回収した検体から心臓または腎臓または肺の試料を調製し、(b)該試料中のACE2の存在について試験し、ついで(c)試料中のACE2の存在またはレベルを動物での心臓または腎臓または肺疾患などの疾患の存在(またはリスク)と相関させることを含む、動物でのACE2のレベルを評価する方法を包含する。正常未満のACE2レベルまたは低いACE2活性は疾患の存在またはリスクを示す。
【0059】
ACE2単一ヌクレオチド多型に基づく診断キット
本発明はまた、低減したヒトACE2発現がACE2遺伝子発現を制御する多型の結果であることをも示す。ラットでのQTLマッピングは、低減したACE2のレベルと高血圧症および心血管疾患および腎臓疾患との間に100%の相関関係があることを示している。以下に記載する多型のいずれもACE2コード領域には見出されていない。すべてACE2コード領域の上流または下流に存在する。これら多型あるいは心血管疾患、腎臓疾患、肺疾患および高血圧症におけるこれら多型の役割はこれまで知られていなかった。特定のSNPハプロタイプは疾患のリスクの増大と関係している。このハプロタイプは、疾患のリスクの評価のため、および適当な医療処置の決定のために重要な診断ツールである。
【0060】
これら多型は以下のとおりである:
【表1】
【表2】
【0061】
上記および図11に記載したACE2遺伝子発現を制御する多型のヌクレオチド番号は、当業者が容易に決定することができる。
【0062】
図表は、該図表中の3つの各集団(アフリカ系アメリカ人、カフカス人、アジア人)で参照塩基が見出されるパーセントを示す。たとえば、SNP rs233574では予測されたSNPはC/Tであり、参照ピークはCである。この場合、アフリカ系アメリカ人の対立遺伝子頻度は80%C;アジア人の対立遺伝子頻度は100%C(換言すると、単一形態のマーカー);およびカフカス人の対立遺伝子頻度は60%Cである。
【0063】
本発明は、動物の遺伝子型の決定、すなわち、あるヒトがこれら多型の一つまたは他方についてホモ接合性であるかあるいはこれら多型についてへテロ接合性であるか否か、敷衍すればあるヒトの表現型の決定に用いることのできるポリヌクレオチドプローブを提供する。表現型は、そのヒトの細胞でのACE2発現の量を示す。さらに、本発明は、そのような遺伝子型および表現型の決定にそのようなポリヌクレオチドを使用する方法を提供する。本発明のオリゴヌクレオチドは、当該技術分野で知られた方法(たとえば、米国特許第5,792,851号および同第5,851,788号を参照)に従って核酸分子を検出するためのプローブとして用いることができる。
【0064】
たとえば、本発明のポリヌクレオチドは、その末端をジゴキシゲニン−11−デオキシウリジン三リン酸を用いて標識することによりプローブに変換することができる。そのようなプローブは、アルカリホスファターゼをコンジュゲートしたポリクローナルヒツジ抗ジゴキシゲニンF(ab)フラグメントおよびニトロブルーテトラゾリウムを発色性基質としての5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸とともに用いて免疫学的に検出することができる。
【0065】
それゆえ、本発明の一つの側面によれば、ACEの上流または下流配列の一部に選択的にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブが提供される。プローブは、特定の多型を識別するため、一つのACE2多型にはストリンジェントな条件下でハイブリダイズするが他の多型にはハイブリダイズしないようにデザインすることができる。
【0066】
本発明の多型特異的なポリヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブは、たとえば、ゲノムDNAまたは合成DNAを含んでいてよい。そのようなオリゴヌクレオチドプローブは自動合成により合成することができ、約10〜30塩基を含んでいるのが好ましいが、オリゴヌクレオチドプローブハイブリダイゼーションアッセイの技術分野で理解されるように、標的との潜在的なミスマッチが生じるプローブ内での位置、プローブ上の標識がハイブリダイゼーションを妨害する程度、およびプローブと標的とのハイブリダイゼーションを行う物理的条件(たとえば、温度、pH、イオン強度)に依存して、わずか8のヌクレオチドも約50もの多くのヌクレオチドも有用でありうる。常法に従えば、本発明によるポリヌクレオチドプローブのデザインは、ハイブリダイゼーション条件(温度、イオン強度、暴露時間)に適合させるが多型特異性は確保すべくプローブの長さを調節することを含むのが好ましい。
【0067】
本発明の他の側面によれば、下記:
(a)ACE2の5’または3’領域の少なくとも一部を含む核酸を増幅させる手段、ここで該一部はACE2a〜ACE2mの一つに対応するヌクレオチドを含む、および
(b)一つのACE2多型を他の多型から識別する本発明のポリヌクレオチドプローブ
を含む遺伝子型決定のための試験キットが提供される。
【0068】
「増幅させる手段」は、当業者であれば容易に理解できるように、使用した増幅法に依存する。それゆえ、これら手段は、もしも増幅がPCR法によって行われるのであれば、適当なプライマー、適当なDNAポリメラーゼ、および4種の2’−デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dA、dC、dG、dT)を含んでいてよい。他の例を挙げると、増幅を3SR法などの転写に基づく方法によって行うのであれば、これら手段は、2つのプライマー(そのうち少なくとも一方は二本鎖となったときにプロモーターを提供する)、該プロモーターから転写することのできるRNAポリメラーゼ、プライマーにより開始されDNA指向(DNA-directed)およびRNA指向(RNA-directed)のDNA重合において、およびおそらくRNA/RNAハイブリッドからDNA鎖を遊離させるRNAのRNAseH分解において機能する逆転写酵素、4種のリボヌクレオシド三リン酸(A、C、GおよびU)、および4種の2’−デオキシリボヌクレオシド三リン酸を含んでいるであろう。他の例として、増幅をLCRにより行うのであれば、これら手段は、2つのオリゴヌクレオチド、および標的(該標的にはこれら両オリゴヌクレオチドがライゲート可能な方向にて互いに隣接してハイブリダイズすることができる)が存在する場合にこれら2つのオリゴヌクレオチドを連結する適当なDNAリガーゼを含んでいるであろう。
【0069】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブは標識するのが好ましいであろう。標的は、そのようなプローブの技術分野で利用できる種々の標識のいずれであってもよく、32P;35S;ビオチン(これにアビジンと結合したまたは複合体を形成したシグナル生成残基を複合させることができる);蛍光残基;アルカリホスファターゼ(発色性反応を触媒することができる)などの酵素;上記に記載したジゴキシゲニンなどが含まれるが、これらに限られるものではない。
【0070】
RFLP分析、電気泳動SSCP分析またはシークエンシング分析もまたACE2多型の検出に用いることができる。
【0071】
本発明の他の側面によれば、動物に由来するACE2核酸中のACE2多型特異的な標的配列の遺伝子型を決定する(typing)方法であって、下記工程:
(a)心臓または腎臓からのDNAに適用した標的核酸増幅法により、ACE2の上流または下流領域の部分配列(subsequence)(または部分配列の相補鎖)である配列を有するアッセイ可能な量の増幅した核酸を得、ここで該部分配列はACE2多型が存在するかもしれないヌクレオチドを含んでおり、ついで
(b)工程(a)で得た増幅核酸を分析して(たとえば、本発明によるポリヌクレオチドプローブを用いた核酸プローブハイブリダイゼーションアッセイにて)多型の位置にある1またはそれ以上の塩基を決定する
を含む方法もまた提供される。
【0072】
本発明の遺伝子型決定法の一つの応用において、これら方法は、ある個体に適用して該個体が心臓または腎臓疾患を発症するリスクにあるか否かを決定する。
【0073】
冠状動脈疾患を有しおよび/またはその後のバイパス手術を受けた患者は心臓の低酸素症を有する。それはまた、心性気絶(cardiac stunning)または心性冬眠(cardiac hibernation)としても知られる。これら患者では心臓の構造上の変化は殆どみられないが心臓の機能は低下している。構造上の変化なしに心臓の機能が変化することは非常にまれなことである。心性気絶または低酸素症のマウスモデルでは、動物はACE2マウスの表現型と正確に似通った表現型を有する。さらに、本発明者らは低酸素症のマーカーがACE2欠失マウスで誘発されることを示した。総合すると、本発明者らのデータは、これらマウスが慢性低酸素症のために心臓機能が低下しており、それゆえ冠状動脈疾患のモデルであることを示している。それゆえ、ヒトにおいてこの状態を診断するため、多型および/または低減したACE2発現または活性を用いることができる。他の例は、拡張型心筋症を有する患者の心臓の機能が該疾患の発症がACE2多型と関係することを示すか否かを試験することである。ACE2発現および活性の増大を該状態を治療するために用いることができる。
【0074】
RASの負のレギュレーターとしてのACE2の特徴付け
ACE2は高血圧の3つのラットモデルにおいて高血圧症と関係するQTLにマッピングされ、ACE2レベルはこれら高血圧症ラット株のすべてにおいて低減される。マウスでは相同的組換えを用いたACE2の遺伝子不活化は、組織中のAngIIペプチドレベルの増大、心臓での低酸素症遺伝子のアップレギュレーション、および重篤な心臓の機能不全という結果となる。
【0075】
ace2欠失背景でのACE発現の除去(ablation)は、ace2単一ノックアウトマウスの心不全表現型を完全に排除した。これらデータはRASの制御のための新たなパラダイムを提供するものであり、ACE2を心臓機能を制御するRASの負のレギュレーターとして同定するものである。
【0076】
ACE2および血圧の制御
大抵の心血管疾患は、遺伝的因子および環境因子の両者によって制御される多因性の定量的形質である。心血管疾患の一つの主たる因子はRASである。遍在的に発現されるACEとは対照的に、最近同定されたACE2は組織特異的な発現を示す。ACE2は、そのAngI基質に対してACEと競合することにより、および/またはAngIIを開裂してAng1−7を生成することにより、内生のAngIIレベルを制御している。本発明の前には心血管系におけるACE2のインビボの役割については何も知られていなかった。ACE2はAngIIの内生レベルを制御している。ACE2はまたRASの負のレギュレーターとしても機能している。
【0077】
自発的なまたは食餌により誘発した高血圧症および心血管疾患を発症している3つの異なるラット株において、ACE2はX染色体上の定められたQTL内にマッピングされる。これら高血圧症に対して罹患性のラット株のすべてにおいて、ACE2 mRNAおよびタンパク質のレベルはダウンレギュレーションされていた。SabraラットでのQTL分析において同定されたSS−X遺伝子座はまた、塩負荷(salt loading)に対して耐性を付与する遺伝子座としても同定された。塩感受性株におけるACE2の低減および耐性株におけるその発現の変化がないことは、ACE2が食餌誘発による血圧の変化に対して耐性を付与することを示している。
【0078】
その地図上の位置および低減した発現は、ACE2がX染色体上の高血圧性QTLに寄与する遺伝子であることを示している。さらに、ace2ヌルマウスにおけるAngIおよびAngIIの増大した発現は、ACE2がインビボでのRAS系のレギュレーターであることを確認している。しかしながら、本発明者らのマウスでのACE2の喪失は、ACE機能を阻止した場合でも血圧の直接的な変化という結果とはならなかった。血圧の変化は、老齢の雄マウスに極度の心臓機能不全が存在する場合にみ生じた。高血圧症に寄与する遺伝的因子は、それ自体では血圧を変化させることはない。むしろ、これらQTLは、それが他の遺伝的多型と協調して血圧の変化を促進するような血圧の単一の決定因子を定めるものである。本発明者らはヒトの集団においてACE2多型と高血圧との関係を同定した。重要なことには、本発明者らのデータはACE2が高くなった血圧の負のレギュレーターとして機能することを示している。
【0079】
ACE2および心臓機能の制御
予期しないことに、マウスでのACE2の喪失は、老齢マウスにおいて全身血圧の重篤な低下に導く重度の収縮機能不全という結果となる。重要なことに、この心臓機能不全はACEの破壊によって完全に元に戻り、ACEの触媒産物がACE2の不在下での収縮障害を駆動することが示唆される。これら収縮性欠陥は肥大または血圧の検出しうる変化の不在下でも生じうるので、本発明者らのデータはまた、RAS制御された心臓疾患表現型が血圧および心臓肥大に対するその影響とは遺伝的に切り離しうるという遺伝的な証拠をも提供するものである。
【0080】
ACE阻害剤およびAngIIレセプターブロッカーはヒトの心不全において心臓保護の役割を有することが示されており、それゆえAngIIは心臓疾患に関与している。本発明者らのace/ace2二重突然変異マウスでの心臓機能不全の完全な排除は、RASが心臓機能を直接制御していること、およびACE2はRASおよび心不全と拮抗する重要な負のレギュレーターであることを示している。本発明者らの遺伝的救済実験は、心不全を駆動するのは実際にACEの産物であること、すなわちace2ヌルマウスの心臓で認められるAngIIの増大が心臓機能不全の原因であることを強く示している。AngIIレセプターの薬理学的な抑制がace2突然変異体マウスの心臓表現型を救済するのか否かは決定する必要がある。興味深いことに、ハエにおける本発明者らの結果は、ACEホモログであるACERと関連したP因子突然変異が心臓形態形成の重篤かつ致死的な欠陥という結果となる(データは示していない)ことを示しており、これは心臓でのACE/ACE2機能が進化の過程で保存されてきたことを示している。
【0081】
ace2突然変異体心臓での欠陥は、重篤な収縮性機能不全および低酸素症により制御された遺伝子のアップレギュレーション(老齢マウスではわずかなリモデリングのみ)、肥大がないこと、筋細胞喪失の徴候のないことを特徴とする。これらのace2突然変異体マウスでの機能障害の(failing)心臓の表現型および分子パラメーターは、肥大および拡張性心筋炎とは異なるものである。むしろ、興味をそそられることには、ace2突然変異体心臓は、ヒトの冠状動脈疾患の症例およびバイパス手術の症例で認められる心性気絶および冬眠に似ている。これらヒトの疾患および心性気絶/冬眠の動物モデルでは、慢性の低酸素状態が筋細胞代謝の補償的な変化、低酸素症誘発性遺伝子のアップレギュレーション、および心臓機能の低減に導く。ACE2は血管の内皮で発現され心筋細胞では発現されないので、ACE2の作用は脈管系に限定されていそうである。たとえば、AngIIの局所的な増大は血管収縮に導き、低潅流(hypoperfusion)および低酸素症という結果となる。AngIIはまた、酸化的ストレスの誘発により内皮の機能不全を引き起こすことが示されている。ACE2の喪失が低酸素症誘発性遺伝子のアップレギュレーションという結果となりうるメカニズムは決定される必要がある。重要なことに、本発明者らのデータはACE2の多型がヒトにおいて冠状心疾患の病理を引き起こすことを示している。
【0082】
実施例
ACE2は3つの高血圧症ラット株においてX染色体上のQTLにマッピングされる
高血圧症および大抵の心血管疾患は性質が多因子性であり、疾患の病因は複数の罹病性遺伝子座の影響を受ける。種々の組換えラットモデルにおいて、高血圧症の複数のQTLが同定されている。ACE2がヒトのX染色体上にマッピングされること、および高血圧症の幾つかのラットモデルにおいてQTLがX染色体上にマッピングされ、これには未だに候補遺伝子が割り当てられていないことから、ACE2がこのQTLの候補遺伝子でありうる。ラットACE2の染色体マッピングを容易にするため、ラット腎臓cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより完全長のラットACE2 cDNAをクローニングした。ラットACE2はヒトACE2と高度に相同であり、ヒトおよびマウスのACEと32%同一で42%類似である(図1a)。ヒトACE2と同様、ラット遺伝子は保存された亜鉛結合部位を含む単一のACEドメイン、シグナルペプチドおよび膜貫通ドメインを含む(図1b)。ヒトと同様、マウスおよびラットでのACE2は腎臓および心臓で優先的に発現され、肺および肝臓でも弱い発現が認められる(図1c)。
【0083】
放射線ハイブリッドマッピング(radiation hybrid mapping)は、ラットACE2遺伝子がX染色体上にマッピングされることを示し、マーカーDXRat9、DXWox14、DXWox15およびDXRat42への有意のLODスコアを有し、ace2はDXRat9とDXRat42との間に位置付けられた(図1d)。比較マッピングは、ace2マッピングの位置がマーカーDXMgh12とDXRat8との間で認められSabra塩感受性ラットで同定された高血圧症についてのQTL間隔(interval)(SS−X)と重複することを示していた。さらに、染色体ace2領域はSHRSPラット(stroke-prone spontaneously hypertensive rats)で定められたBP3 QTLにマッピングされ、以前に同定された高血圧症BB.X QTLはコンジェニック分析により自然発症高血圧症ラット(SHR)のX染色体上で同定された(図1d)。それゆえ、ACE2は自然発症および食餌誘発高血圧症の3つの別個のモデルにおいてラットX染色体上のQTLにマッピングされる。
【0084】
高血圧症ラットにおけるACE2発現のダウンレギュレーション
腎臓が血圧制御の主たる部位であるので、これら3つの高血圧症ラット株の腎臓でのACE2発現レベルを決定した。ACE2 mRNAレベルをまず塩感受性Sabra高血圧症(SBH/y)ラットおよび対照の塩耐性Sabra正常血圧(SBN/y)ラットの腎臓で測定した。塩負荷(DOCA塩による)は正常血圧SBN/yラットにおけるACE2 mRNA発現に対して影響を及ぼさなかった。興味をそそられることには、SBH/yラットでは、塩負荷および高血圧症の発症は正常血圧SBN/yラットと比較してACE2 mRNA発現の有意の低減と関係していた(図2a)。注目すべきは、通常の食餌を与えられたSBH/yラットでも同様の食餌を与えられたSBN/y対照と比較してACE2 mRNAが低かったことである。この後者の知見は、通常の食餌を与えられたSBH/yラットとSBN/yラットとの間で観察された血圧の10〜20mmHgの差異と一致する。
【0085】
ACE2タンパク質レベルを測定するため、ACE2(マウスACE2のアミノ酸206〜アミノ酸225)特異的なウサギ抗血清を生成した。この抗血清はラットACE2およびヒトACE2の両者と交差反応した(示していない)。低減したACE2 mRNA発現と一致して、通常の食餌を与えられたSBH/y動物ではACE2タンパク質の発現は顕著に低下した(図2b)。4週間DOCA塩の食餌を与えた後のSBH/yラットの血圧の上昇は、ACE2タンパク質発現のさらなる低減と相関していた(図2b)。塩耐性SBN/y対照ラットでは、塩負荷は血圧の上昇を駆動することもACE2発現を変えることもなかった(図2b)。ACE2タンパク質レベルはまた、WKY対照と比較して自然発症高血圧症SHRSPおよびSHR動物の腎臓で有意に低減した(図2b)。さらに、ACE2 mRNAのレベルは高血圧症SHRSPおよびSHRラットで顕著に低下した(示していない)。高血圧症ラット株でのACE2のコード領域のクローニングおよびシークエンシングからは配列変化が明らかにされず、低減したACE2発現はACE2遺伝子発現を制御している多型の結果によりそうであることを示していた。地図上の位置および3つの異なるラット株でのACE2の低減した発現は、ace2がX染色体上のこの高血圧QTLの強力な候補遺伝子であることを示している。さらに、3つのすべての高血圧症ラット株における低減したACE2発現は、この酵素が負のレギュレーターとして機能することを示唆していた。
【0086】
マウスACE2のクローニングおよびACE2ノックアウトマウスの生成
QTLとしてのACE2の候補性を確認するため、およびACE2が実際に心血管生理および心血管疾患の病因において本質的な役割を果たしているか否かを試験するため、マウスACE2遺伝子をクローニングした(図1a)。ラットおよびヒトACE2と同様、マウスACE2もまたX染色体上にマッピングされ(示していない)、単一のACE−ドメインを含み(図1b)、腎臓および心臓で優先的に発現された(図1c)。興味深いことに、マウスではACE2について2つのイソ型が全ての陽性の組織で観察された。COS細胞におけるマウスACE2の過剰発現はACE2がAngIをAng1−9に開裂することを示しており(示していない)、マウスACE2がヒトACE2と同じ生化学的特異性を有することを示していた。ACE2のインビボでの役割を決定するため、マウスのace2遺伝子を破壊してエクソン9をネオマイシン耐性遺伝子で置換し、亜鉛結合触媒ドメインを有効に欠失させた(方法および図3a)。ace2遺伝子座で突然変異した2つのES細胞株を用いてキメラマウスを生成し、これをC57BL/6に戻し交配して生殖細胞伝達(germ transmission)を得た。両マウス株は同一の表現型を示した。ace2突然変異の伝達はサザーンブロット分析により確認した(図3b)。ace2のヌル突然変異は、ノーザンブロット分析(示していない)およびウエスタンブロット分析(図3c)でのace2 mRNA転写物およびタンパク質の不在によって確認された。腎臓および心臓でのACE mRNA発現はace2突然変異体マウスでも変わらなかった(図3d)。
【0087】
ACE2遺伝子はX染色体上にマッピングされるので、雄の子孫はすべてACE2に関してヌル突然変異体(ace2−/y)かまたは野生型(ace2+/y)のいずれかであり、一方、雌の子孫はace2の突然変異に関して野生型(ace2+/+)、へテロ接合性(ace2+/−)、またはホモ接合性(ace2−/−)のいずれかであった。以下に記載する全ての実験において、ace2+/−雌はace2+/+雌と同様の挙動を示し、ace2+/y雄はace2のへテロ接合性の見かけの影響がないことを示していたことに注意すべきである。ACE2ヌルマウスは予期されたメンデルの法則による頻度で生まれ、健康に見え、分析した全ての臓器で肉眼的な検出しうる変化を示さなかった。さらに、有意に低減した棯性を示すace2−/−雄マウスと対照的に、雄および雌のace2ヌルマウスはいずれも棯性である。
【0088】
ace2突然変異体マウスにおける血圧
ace2突然変異体マウスは低下した血圧および腎臓の病理を示すことが以前に示されている。それゆえ、ACE2発現の喪失が血圧のホメオスタシスおよび/または腎臓の発生または機能に影響を及ぼすか否かをまず試験した。興味をそそられることには、ACE2の喪失は、対照の同腹子と比較して3ヶ月齢のace2−/y雄マウス(図4a)またはace2−/−雌マウス(示していない)で血圧の変化という結果とはならなかった。ACE2の喪失をACEが補償するということはあり得るので、本発明者らはace2欠失マウスをカプトプリル(ACE機能を阻害するがACE2機能は阻害しない)で処理した。しかしながら、カプトプリルを用いたACEのインビボでの抑制は、ace2−/y雄マウスの血圧をカプトプリル処理した野生型の同腹子で観察されるのと同程度に低下させた(図4a)。それゆえ、ACE抑制というシナリオにおいても、この定められたマウスの背景においてACE2の喪失は血圧のホメオスタシスに対して何ら明らかな直接的な影響を及ぼさない。本発明者らのRAS QTLデータに基づき、本発明者らは本発明者らの突然変異体マウスを他のマウス背景に戻し交配してヒトにおける遺伝的背景と同様に血圧制御におけるACE2の役割を示した。
【0089】
ace2突然変異体マウスにおける腎臓機能の障害
ACE2は腎臓で高度に発現されるので、本発明者らは腎臓の形態および機能を調べた。3ヶ月齢および6ヶ月齢のace2−/y雄マウスおよびace2−/−雌マウスはすべて正常な腎臓の形態を示し、腎臓のいかなる超微細構造の見かけの変化も示さなかった(図4b)。腎管系および糸球体の正常な細胞性および腎構造もまた、連続切片形態計測を用いて確認された。
【0090】
雄ace2欠失マウスおよび年齢を一致させた同腹子対照マウスからの腎臓を、光学顕微鏡(PAS染色)および電子顕微鏡(TEM)を用い、3ヶ月齢および12ヶ月齢で調べた。各糸球体の硬化の重篤度を以下のとおり盲検により0から4+までの段階で評価した:0は病変のないことを示す、1+は糸球体の<25%の硬化、2+、3+、および4+は、それぞれ糸球体の25〜50%の硬化、50〜75%の硬化、および>75%の硬化を示す。3ヶ月齢ではace2欠失マウスからの腎臓に病理学的変化の徴候は認められなかった。しかしながら、12ヶ月齢では、光学顕微鏡は糸球体硬化/障害の増大を明らかにした:1.45±0.2vs0.25±0.06;n=6;p<0.01。電子顕微鏡は、腎メサンギウム中の膠原原線維の沈着の増大および肥厚した基底膜を示した。上昇したAngIIレベルへの長期にわたる暴露は、ace2欠失マウスからの腎臓で低酸素症および酸化的ストレスに導く。ウエスタンブロット分析は、ace2欠失マウスからの腎臓において低酸素症誘発因子1α(hypoxia inducible factor-1 alpha;HIF1−α)および血管内皮増殖因子(VEGF)の上昇した発現を明らかにした。脂質過酸化産物の測定は、6ヶ月齢のace2欠失マウスでの酸化的ストレスの増大を示した:ヘキサナール(1001±161vs115±13ナノモル/g;n=5;p<0.01)およびマロンジアルデヒド(48±6.4vs24.3±2.8ナノモル/g;n=5;p<0.01)。
【0091】
これら結果は、ACE2の喪失が組織特異的な仕方でアンジオテンシンIIシグナル伝達の促進に導くこと、このシグナル伝達の促進が最終的にace2欠失マウスの腎臓での有害な作用を媒介することを示している。低減したACE2発現は、腎臓疾患において重要な病理学的役割を果たしている。
【0092】
ACE2の喪失は心臓機能の重篤な欠陥という結果となる
ACEまたはAngIIレセプターの薬理学的な抑制は、心臓機能の制御および心臓肥大におけるRASの役割を示唆した。しかしながら、aceヌルマウスもアンジオテンシノーゲンヌルマウスもともに明白な心臓疾患を発症しない。ACE2は心臓の血管で高度に発現されるので、ace2欠失マウスの心臓を分析した。ace2突然変異体マウスの心臓は、左心室壁のわずかな肉薄および心室サイズの増大を示す(図5a)。ace2欠失心臓での左心室前壁(anterior left ventricular wall;AW)の肉薄および左心室端拡張径(left ventricle end diastolic dimension;LVEDD)の増大も心エコーにより認めることができる(表1)。これらの構造的な変化は、主として6ヶ月齢の雄マウスで観察される。しかしながら、心重量比は年齢を一致させた3ヶ月齢(示していない)および6ヶ月齢のace2−/yマウスとace2+/yマウスとの間で同程度であった(図5a、図5b)。心エコーはまた、左心室重量(LVM)およびLVM/体重比が正常であることを示した(表1)。間質性心臓線維症の適応症も(図5c、図5d)ANF、BNP、a−MHC、b−MHC、および骨格筋アクチン遺伝子発現の基本型変化も(示していない)認められなかったので、拡張性心筋炎の構造的および生化学的変化の特徴は観察されなかった。さらに、ACE2ヌルマウスの個々の心筋細胞は肥大の徴候を示さず、TUNEL染色によって検出されるように(示していない)本発明者らはACE2ヌルマウスで変化した心筋細胞アポトーシスの証拠を観察しなかった。それゆえ、6ヶ月齢のACE2ヌルマウスの心臓の軽い拡張にも拘わらず、心臓肥大または拡張性心筋炎の証拠はなかった。
【0093】
興味深いことに、心エコーによる心臓機能の評価は、短縮比(fractional shortening;FS)の低減、および周辺繊維短縮の速度(velocity of circumferential fiber shortening)の低減によって決定されるように(表1および図6a、図6b)、すべてのace2−/y雄マウスおよびace2−/−雌マウスが重篤な収縮性心不全を示すことを明らかにした。機能の低減は年齢を一致させた3ヶ月齢のマウスと比較して6ヶ月齢の雄および雌マウスの方が重篤であることが認められ、表現型の進行を示唆していた(表1)。心筋収縮能の低下と一致して、6ヶ月齢ace2−/yマウスは血圧の低下を示したが(図6c)、これは年齢の一致するace2−/−雌マウスおよび3ヶ月齢の雄マウスでは認められない特徴であり、血圧の低下が重篤な心臓の機能不全の結果によるものであって全身血圧に対するACE2の喪失の直接の効果ではないことを示唆していた。これらの驚くべき結果は、ACE2が心臓の収縮能の重要な負のレギュレーターであることを示している。
【0094】
心臓機能における心エコー欠陥を確認するため、侵襲性の血行力学的測定をace2ヌルマウスで行った。重要なことに、侵襲性の血行力学的測定はdP/dT−maxおよびdP/dT−minの両者がace2突然変異体マウスで顕著に低下することを示し(表2)、収縮性の心臓機能の重篤な障害を示していた。ACE2の喪失はまた大動脈圧および心室圧の有意の低下という結果となり、観察された心筋収縮能の低下と一致していた(表2)。注目すべきことに、これらデータは、ace2突然変異体マウスの心筋収縮能の欠陥が明らかな心臓肥大がなくても起こり、血圧の変化とは遺伝的に関係がありえないことを確立するものである。
【0095】
ace2ヌルマウスにおける低酸素症誘発性遺伝子のアップレギュレーション
ace2ヌルマウスでの肥大または心臓線維症の不在下での重篤な収縮性の機能不全および軽い拡張は、ヒトおよび動物モデルでの心性気絶/冬眠と似ている。心性気絶および冬眠は、冠状動脈疾患やその後のバイパス手術などの慢性の低酸素症への適応応答である。ACE2は血管内皮細胞で高度に発現されるが収縮能は心筋細胞によって制御されるので、ACE2の喪失は心臓の低酸素症という結果となりうることが考えられた。それゆえ、BNIP325やPAI−1などの低酸素症誘発性遺伝子の発現レベルをノーザンブロッティングにより分析した。すべてのace2ヌルマウスの心臓において、BNIP3およびPAI−1のmRNA発現は野生型の同腹子と比較して顕著にアップレギュレーションしていた(図7a)。それゆえ、ACE2の喪失は低酸素症制御された遺伝子発現プロフィルの誘発という結果となる。
【0096】
ace2ヌルマウスでの増大したアンジオテンシンIIレベル
ACE2はカルボキシペプチダーゼとして機能し、AngIから単一残基を解離してAng1−9を、AngIIから単一残基を解離してAng1−7を生成するので、ACE2は基質AngIおよび/またはAngIIの開裂および不活化に対してACEと競合することによりRASの負のレギュレーターとして機能するという仮説が立てられた。もし正しければ、ACE2の喪失はインビボでAngIIレベルを増大させるに違いない。ラジオイムノアッセイを用い、AngIIレベルが実際にace2突然変異体マウスの腎臓および心臓において有意に増大することがわかった(図7b)。さらに、AngIの増大もまた観察され(図7b)、このことはAngIがACE2作用のインビボでの基質であることと一致していた。ACEのmRNAレベルは、対照と比べてace2突然変異体マウスの心臓および腎臓で差異は認められず、増大したAngIIの組織レベルが増大したACE発現によるものではないことを示していた(図3d)。これらデータは、ACE2がRASの負のレギュレーターとして機能し、AngIIの内生レベルを制御していることを示している。
【0097】
ace2欠失マウスでのACE発現の排除は心不全を救済する
もしもace2突然変異体マウスの心臓の表現型がAngIIレベルの増大によるものであるなら、ACEの遺伝的排除とACE2の破壊との組み合わせはAngIIレベルを低減させACE2突然変異体マウスで観察された表現型を救済できる。この考えを検証するため、ace/ace2二重突然変異マウスを生成した。これら二重突然変異マウスは予期されたメンデルの法則比に従って生まれ、健康にみえた。ace−ace2二重ヌルマウスでの血圧(図8a)および腎臓の欠陥(示していない)はace単一突然変異マウスのものと同様であった。ace−ace2二重突然変異マウスの棯性は問題とならなかった(not addressed)。それゆえ、ACEおよびACE2の両者の喪失はace単一突然変異マウスで認められるもの以上の明らかな疾患を引き起こすことはない。
【0098】
ACEノックアウトマウスの心臓機能はこれまでに報告されていないので、これらマウスでの心臓パラメーターをまず分析した。ace−/−マウスでは心臓は組織学的に正常であり(示していない)、心臓機能の欠陥は6ヶ月齢では検出することができなかった(図8b、図8c)。重要なことに、ace2突然変異背景上のACE発現の排除はace2単一ノックアウトマウスの心不全表現型を完全になくした(図8b、図8c)。さらに、心エコーを用い、6ヶ月齢の年齢を一致させたace−ace2二重突然変異マウスのすべての心臓機能は、ace単一突然変異同腹子および野生型同腹子のものに匹敵していた(表1)。心臓機能の回復は雄および雌の両方のace−ace2二重突然変異マウスで生じた。これら遺伝的データは、ACE2の不在下で収縮性の心不全を誘起するにはACE発現が必要であることを示している。重要なことに、aceノックアウトマウスとace/ace2ノックアウトマウスとで血圧に差異はなく(図8a)、より老齢の雄のace2マウスでの血圧の低下は心臓機能の劇的な増大によるものであることがさらに示唆された。
【0099】
ACE2は肺障害を負に制御する
成人呼吸障害症候群(ARDS)は急性肺障害の重篤な症例であり、集中治療を受けられる場合であっても致死率は40〜70%である。外傷、重度の敗血症(全身感染)、散在性(diffuse)肺炎およびショックがARDSの最も重篤な原因であり、これらのうちでも酸誘発肺障害(acid-induced lung injury)は最も一般的な原因の一つである。酸呼吸関連肺障害(acid aspiration-associated lung injury)を引き起こす潜在的なメカニズムとしては、肺胞−毛細管膜へのHClにより誘発された損傷、および多形核好中球(PMN)の付着、活性化および隔離(sequestration)(肺浮腫およびガス交換の劣化という結果となる)が挙げられる。ARDSの治療は、機械換気、および陥っている病気または障害の継続した治療からなる。肺がさらなる肺胞−毛細管膜の損傷に陥ることを防ぐ新規な薬剤を用いた支持的な治療は、患者が陥っている病気や障害を治療するためにARDS患者の肺の機能を保存し、ARDSの致死率の低下に導くであろう。
【0100】
ACE2は肺で発現されるので、本発明者らはACE2の喪失が急性肺障害において何らかの役割を果たしているか否かを評価した。図9は、HCl処理したマウスおよび対照マウスでの肺エラスタンスの3時間の間での変化を示す。HCl投与後、野生型マウスは4時間以上生存したのに対し、ACE2ノックアウトマウスは2〜3時間以内に死亡した。生存の差異を反映して、ACE2ノックアウトマウスは肺エラスタンスにおいて野生型マウスよりも有意に重篤な応答を示した。それゆえ、ACE2は急性の酸誘発障害から肺を保護するうえで顕著な役割を果たしている。かくして、ACE2の機能および/または発現を促進させることは、ARDSおよび肺障害の治療の新規かつ予期されなかった標的である。
【0101】
方法
マウスおよびラットACE2のクローニングおよび染色体QTLマッピング マウスACE2を特許(proprietary)ESTデータベースからクローニングした。マウスACE2プローブを用い、本発明者らはついでラット腎臓cDNA(Invitrogen)をスクリーニングしてDNAシークエンシングによって決定されるように完全長ラットcDNAを得た。染色体マッピングのため、ラットACE2 cDNA特異的プローブを用いてラットPACライブラリー(RPCI−31、Research Genetics)をスクリーニングし、2つの陽性クローン(6M6および125K9)を同定した。これらクローンの末端配列を決定し、ラット特異的なプライマー(mc2L:5’−TCAATTTACTGCTGAGGGGG−3’、mc2R:5’−GAGGGATAACCCAGTGCAAA−3’)をデザインして放射性ハイブリッドパネル(RH07.5、Research Genetics)をスクリーニングすることによりラットでのACE2の染色体地図上の位置を決定した。SHRおよび対照WKYラットをHarlanから入手し、Ontario Cancer Instituteの動物施設にて研究所のガイドラインに従って維持した。SHRSPラットからの組織は、Detlev Ganten博士(ドイツ)の好意により提供された。塩耐性および塩感受性のSabraラットは、Ben-Gurion University Barzilai Medical Center(イスラエル)の動物施設で飼育し保持した。Doca-塩処理は上記に記載したとおりであった。
【0102】
発現分析 全RNAをラット腎臓からトリ試薬(tri-reagent)を用いて調製した。20mgのRNAを0.8%ホルムアルデヒドゲル上で分離した。ナイロンメンブレン(Amersham)にブロットし、部分的ラットACE2 cDNAクローン(9−1)でプローブした。β−アクチンプローブおよびMultiple tissue Northern blotsはClontechから購入した。ウエスタン分析のため、腎臓を「完全」プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)および1mM Na3VO4を添加した溶解緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.4、20mM EDTA、および1%トリトン−X100)中でホモジナイズした。100mgのタンパク質を8%トリス−グリシンゲル上のSDS−PAGEにより分離した。ACE2免疫血清は、マウス特異的ACE2ペプチドDYEAEGADGYNYNRNQLIEDで免疫したウサギから得た。この血清をsulpho-link kit(Pierce)を用いて免疫ペプチドでアフィニティー精製した。市販のβ−アクチン抗体を負荷対照として用いた(Santa Cruz)。
【0103】
ACE2突然変異体マウスの生成 標的ベクター(559塩基対のショートアーム、および8.1キロベースのロングアーム)をpKO Scrambler NTKV−1907ベクター(Stratagene)を用いて構築した。ヌクレオチド+1069〜+1299を含むace2ゲノムDNAの一部をネオマイシン耐性カセットとアンチセンスの方向で置換した。ターゲティング構築物をE14K ES細胞にエレクトロポレーションにより導入し、陽性の相同組換えESクローンのスクリーニングを5’および3’フランキングプローブにハイブリダイズしたEcoRI−消化ゲノムDNAのサザーンブロッティングにより行った。2つの独立したace−/yES細胞株をC57BL/6由来胚盤胞に注入してキメラマウスを生成し、これをC57BL/6マウスに戻し交配した。2つのES細胞株は、独立した生殖細胞伝達を与えた。この原稿で報告するデータは、これら2つの突然変異体マウス株の間で一致するものである。ACE2発現の排除がRT−PCR、ノーザンブロット分析、およびウエスタンブロット分析により確認された。すべての実験に同腹子のマウスのみを用いた。すべての組織の組織学、アポトーシスアッセイ、血液の血清学、および腎臓の形態計測は文献記載によった31。完全なACE突然変異体マウスはこれまでに記載されており8、Jackson Laboratoriesから入手した。マウスはOntario Cancer Instituteの動物施設にて研究所のガイドラインに従って維持した。
【0104】
心臓の形態計測、心エコー、血行力学および血圧の測定 心臓の形態計測のため、心臓を10%緩衝ホルマリンで60mmHgにて潅流し、その後、パラフィン中に埋設した。心筋間質性線維症の決定は、Photoshop 6.0ソフトウエアと結合したImage Processing Tool Kit version 2.5を用いた色彩減算コンピューター支援造影分析(color-subtractive computer assisted image analysis)を用いた定量的な形態計測により行った。Picro-Sirius赤色染色切片を用い、全視野と比較した陽性のPSR染色を有する面積の比として間質性線維症を計算した。心エコー評価は、野生型および突然変異体の同腹子を用いて文献記載に従って行った32。マウスをイソフルオラン/酸素で麻酔し、15MHz一次変換器を備えたAcusonR Sequoia C256を用いた経胸腔的心エコーにより調べた。FSは、FS=[(EDD−ESD)/EDD]*100として計算した。Vcfcは心拍数について補正したFS/拍出時間として計算した。血行力学的測定は文献記載に従って行った。簡単に説明すると、マウスを麻酔し、右頸動脈を単離し、増幅器(TCP-500、Millar Inc. 、ヒューストン)につないだ1.4 French Millarカテーテル(Millar Inc.)を用いてカニューレを挿入した。カテーテルを頸動脈に挿入した後、カテーテルを大動脈ついで左心室まで進め、大動脈圧および心室圧を記録した。測定および分析したパラメーターは、心拍数、大動脈圧、左心室(LV)収縮期圧、LV拡張期圧、およびLV圧の最大および最小一次導関数(first derivatives)(それぞれ+dP/dtmaxおよびdP/dtmax)であった。Visitech Systems(アペックス、ノース・カロライナ)によって製造されたVisitech BP-2000 Blood Pressure Analysis Systemを用い、テール−カフ(tail-cuff)血圧測定法を採用した。カプトプリル処理にあたっては、血圧測定前に2週間にわたって400mg/Lのカプトプリル(Sigma)を飲水に添加した。
【0105】
組織のアンジオテンシンペプチドレベル 心臓および腎臓を、フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF、100μM)を含む上記ペプチダーゼインヒビターを含有する80%エタノール/0.1N HCl中、氷上でホモジナイズした。タンパク質ホモジネートを30,000gで20分間遠心分離にかけ、上澄みをデカントし、1%(v/v)ヘプタフルオロ酪酸(HFBA、Pierce、ロックフォード、イリノイ)で酸性にした。上澄みをSavant真空遠心管(Savant、ファーミングデール、ニューヨーク)で5mlに濃縮し、濃縮した抽出物を活性化Sep-Paksに適用し、0.1%HFBAで洗浄し、5mlの80%メタノール/0.1%HFBAで溶出した。心臓および腎臓組織からの抽出物中のアンジオテンシンペプチド含量のラジオイムノアッセイ分析を行った。AngIIおよびAngI RIAについての検出限界は、それぞれ0.5フェムトモル/管およびAngI 5フェムトモル/管であった。
【0106】
急性肺障害モデル ACE2ノックアウトマウスおよびその同腹子(8〜12週齢)をこの研究に用いた。吸引攻撃の1分前に2回の深い吸入(1回呼吸量の3倍)を送達して容積歴(volume history)を標準化し、測定をベースラインとして行った。麻酔し機械換気したマウスに2mL/kgのHCl(pH=1.5)、ついで空気ボーラス(a bolus of air)を気管内注射した。対照群ではマウスに食塩水注射をするかまたは注射をしなかった。すべての群で測定は30分間隔で3時間行った。肺障害を生理的に評価するため、気管の最大圧、流量、および容積を測定することにより肺エラスタンス(EL;肺コンプライアンスの逆数)を評価した。ELは気管最大圧を容積で除することにより計算した。ELの変化は肺実質の変化および肺の硬化(stiffening)を反映している。
【0107】
本発明を詳細に且つ好ましい態様に特に言及しながら記載した;しかしながら、当業者であれば本発明の意図および範囲から逸脱することなく改変を行いうることが理解されるであろう。たとえば、本願がタンパク質について言及しているときはペプチドおよびポリペプチドもしばしば用いられることが明らかである。同様に、遺伝子を本願において記載している場合は核酸分子または遺伝子断片もしばしば用いられることが明らかである。
【0108】
すべての刊行物(ジーンバンクの収録項目を含む)、特許および特許出願は、それぞれの個々の刊行物、特許または特許出願がその全体において参照のため引用されると明確かつ個別に示されているのと同程度に、その全体において参照のため引用される。
【0109】
参照文献
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
【表7】
【0114】
表1:ace2ヌルマウスの心臓機能
【表8】
*p<0.05;ace2−/y対ace2+/yまたはace2−/−対ace2+/−
**p<0.01;ace2−/y対ace2+/yまたはace2−/−対ace2+/−
Bpm=1分間当たりの心拍数;AW=前壁の肉薄;LVEDD=左心室端拡張径;LVESD=左心室端収縮径;%FS=パーセント短縮比;PAV=最大大動脈流出速度(peak aortic outflow velocity);Vcfc=周辺繊維短縮の速度;LVM=計算した左心室重量;BW=体重
【0115】
表2:6ヶ月齢ace2−/yマウスの侵襲性血行力学パラメーター
【表9】
**p<0.01;ace2−/y対ace2+/y
SBP=収縮血圧;DBP=拡張血圧;MBP=平均動脈血圧;LVSBP=左心室収縮血圧;LVEDBP=左心室端拡張血圧;dP/dTmax=左心室圧の変化/時間の最大一次導関数;dP/dTmin=左心室圧の変化/時間の最小一次導関数
【0116】
表3:6ヶ月齢aceヌルマウスおよびace/ace2ヌルマウスの心臓機能
【表10】
AW=前壁の肉薄;LVEDD=左心室端拡張径;LVESD=左心室端収縮径;%FS=パーセント短縮比;PAV=最大大動脈流出速度;Vcfc=周辺繊維短縮の速度
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】ラットACE2の配列および染色体マッピングを示す。(a)ラット、マウスおよびヒトACE2のマウスおよびヒト精巣−ACE(T−ACE)とのタンパク質アラインメント。黒い陰影はアミノ酸の同一性を示し、灰色の陰影はアミノ酸の類似性の程度を示す。(b)ACEおよびACE2のドメイン構造の模式図。ACE2は共通亜鉛結合部位HEMGHを含むACEドメインを一つしか含まないことに注意。触媒中心は黒色で、シグナルペプチドは灰色で、膜貫通ドメインは斜線で示す。(c)種々の成体組織および胚発生の種々の日数(E7=胚の第7日目)でのマウスおよびラットACE2遺伝子の発現パターン。ACE2の2つのイソ型がマウスには存在するがラットまたはヒトには存在しない(示していない)ことに注意(これはACEについて認められるのと同様の特徴である15)。(d)Sabra塩感受性(Sabra salt-sensitive)動物(SS−X)、SHRSP(BP3)、およびSHRラット(BB.X)で同定したQTLのマッピングと比較した、ラットACE2の放射性ハイブリッドマッピングの結果。多型マーカー名を表意文字の左に示す。ACE2と関連するマーカーのLODスコアおよびシータ値を示す。cR=センチラド。
【0118】
【図2a】高血圧症のラットモデルにおけるACE2の発現を示す。Sabra SBH/yおよびSBN/yラットの腎臓からのACE2 mRNAのノーザンブロット分析を示す。上段はアクチン対照レベルとともにノーザンブロットの表示を示す。下のパネルはアクチンレベルに標準化したace2メッセージの相対レベルを示す。
【0119】
【図2b】高血圧症のラットモデルにおけるACE2の発現を示す。Sabra SBH/yおよびその対照SBN/yラット並びにSHRおよびSHRSPおよびその対照WKYラットの腎臓からのACE2タンパク質レベルのウエスタンブロット分析を示す。上段は代表的なウエスタンブロットを示す。各Sabraラットでの収縮血圧(BP)をmmHgで示す。下のパネルはアクチンレベルに補正したACE2の相対的なタンパク質レベルを示す。棒グラフは平均値±SEMを示す。*=p<0.05、**=p<0.01(n=4、全ての群について)。
【0120】
【図3a】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。遺伝子ターゲティング戦略。マウスace2野生型遺伝子座の一部(最上段)を示す。黒塗りはエクソンを示す。亜鉛結合触媒ドメインをコードするエクソン9を、アンチセンス方向に置いたネオマイシン(neo)耐性遺伝子カセットで置換すべくターゲティングベクターをデザインした。チミジンキナーゼ(TK)を負の選択のために用いた。サザーン分析に用いた3'および5'フランキングプローブを斜線の四角で示す。
【0121】
【図3b】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。ace+/yおよびace−/yEC細胞のサザーンブロット分析。ゲノムDNAをEcoRIで消化し、(a)に示した3'および5'フランキングプローブにハイブリダイズさせた。
【0122】
【図3c】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。ace+/yおよびace−/yマウスの腎臓でのACE2タンパク質発現のウエスタンブロット分析。抗ACE2抗体を欠失のN末端側の領域に反応させる。
【0123】
【図3d】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。ace2+/yおよびace2−/yマウスの心臓および腎臓におけるACE mRNA発現のRT−PCR分析。線状増幅および対照としてのGAPDH mRNAレベルについての種々のPCRサイクルを示す。
【0124】
【図4】正常血圧および腎臓の機能を示す。(a)ACE阻害剤であるカプトプリルの不在下(左のパネル)または存在下での3ヶ月齢ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスでの血圧測定。尾の平手打ち(tail cuffing)を用いて血圧を測定し、平均値±SDを示す。方法の欄に示すように、血圧を測定する2週間前にカプトプリルを投与した。これらの血圧を、侵襲性の血行力学的ランゲンドルフ測定法(示していない)を用いて確認した。カプトプリル処理したace2+/yおよびace2−/yマウスの両者での差異は、それぞれの未処理群の差異よりも有意の差異があった(**p<0.01)。(b)正常な腎臓組織が6ヶ月齢のace2+/yおよびace2−/yマウスで観察された。矢印は糸球体を示している。
【0125】
【図5a】心臓の形態を示す。6ヶ月齢のace2+/yおよびace2−/yマウスから単離した心臓のH&E染色切片。大きくなった左心室(LV)および右心室(RV)がace2−/yマウスで観察された。しかしながら、全体としての心臓の大きさは両遺伝子型で同様であり、肉眼でも単離した心筋細胞でも心肥大の証拠はなかった。
【0126】
【図5b】心臓の形態を示す。心肥大の指標としての6ヶ月齢ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスからの心重量/体重比の定量。体重、心重量、脛骨長、および心重量/脛骨長の比もまた、分析した全ての年齢での種々の遺伝子型群で変化が認められなかった(示していない)ことに注意すべきである。
【0127】
【図5c】心臓の形態を示す。ace2−/yマウスで間質性線維症は存在しなかった。拡張型心筋症の顕著な特徴の一つは、間質性線維症である。しかしながら、間質性線維症はace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスの心臓で同様であった。個々の心臓のPSR染色を示す。通常の脈管周辺の線維症は、野生型および突然変異動物の両者において赤く染色されることに注意。
【0128】
【図5d】心臓の形態を示す。ace2−/yマウスで間質性線維症は存在しなかった。拡張型心筋症の顕著な特徴の一つは、間質性線維症である。しかしながら、間質性線維症はace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスの心臓で同様であった。間隙における線維症変化の定量。
【0129】
【図6a】ACE2の喪失は重篤な収縮性心不全という結果となることを示す。6ヶ月齢のace2+/yおよび2匹のace2−/yマウスでの収縮期心臓の心エコー測定。ピークおよび谷は個々の心拍数の収縮期および拡張期を示す。矢印は、短縮比のパーセント(%FS)を決定する値である収縮期の収縮(LVESD)と拡張期の弛緩(LVEDD)との距離を示す。ace2−/yマウスでの拡張期および収縮期の大きさの増大は心臓の拡張を示すことに注意。実験データは表1に見出すことができる。
【0130】
【図6b】ACE2の喪失は重篤な収縮性心不全という結果となることを示す。心臓収縮の2つの顕著なパラメーターであるパーセント短縮比および周辺繊維短縮の速度が、6ヶ月齢ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスおよび6ヶ月齢ace2+/−(n=5)およびace2−/−(n=5)雌マウスで認められた。値は心エコーにより決定した。平均値±SDを示す。*遺伝子型群間でのp<0.05および**遺伝子型群間でのp<0.01。実験データは表1に見出すことができる。
【0131】
【図6c】ACE2の喪失は重篤な収縮性心不全という結果となることを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスおよび6ヶ月齢雌ace2+/−(n=5)およびace2−/−(n=5)雌マウスでの血圧測定。平均値±SDを示す。血圧は、表2からわかるように、侵襲性の血行力学的測定を用いて確認した。*p<0.05。
【0132】
【図7a】ACE2不在下での低酸素マーカーのアップレギュレーションおよびアンジオテンシンIIレベルの増大。2つの低酸素誘発性遺伝子であるBNIP3およびPAI−1のmRNA発現レベルの6ヶ月齢雄ace2+/y(n=5)およびace2−/y(n=5)マウスでのノーザンブロット分析。個々のノーザンブロットデータを示す。**p<0.01。
【0133】
【図7b】ACE2不在下での低酸素マーカーのアップレギュレーションおよびアンジオテンシンIIレベルの増大。2つの低酸素誘発性遺伝子であるBNIP3およびPAI−1のmRNA発現レベルの6ヶ月齢雄ace2+/y(n=5)およびace2−/y(n=5)マウスでのノーザンブロット分析。gapdh対照に対して標準化したBNIP3およびPAI−1のmRNAレベルの相対レベルを示す。**p<0.01。
【0134】
【図7c】ACE2不在下での低酸素マーカーのアップレギュレーションおよびアンジオテンシンIIレベルの増大。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)同腹子マウスの心臓および腎臓におけるアンジオテンシンI(AngI)およびアンジオテンシンII(AngII)ペプチドレベル。AngIおよびAngIIの組織レベルはラジオイムノアッセイにより決定した。平均値ペプチドレベル±SDを示す。**p<0.01。
【0135】
【図8a】ACE−ACE2二重突然変異マウスは心不全を起こさないことを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)、ace−/−(n=8)、およびace−/−ace2−/y二重突然変異(n=6)マウスでの血圧測定。平均値±SDを示す。血圧は、侵襲性の血行力学的測定を用いて確認した。**野生型マウスと比べて突然変異体のp<0.01。
【0136】
【図8b】ACE−ACE2二重突然変異マウスは心不全を起こさないことを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)、ace2−/y(n=8)、ace−/−(n=8)およびace−/−ace2−/y二重突然変異(n=6)同腹子におけるパーセント短縮比および周辺繊維短縮の速度。値は心エコーにより決定した。平均値±SDを示す。**遺伝子型群間でのp<0.01。実験データは表3に見出すことができる。
【0137】
【図8c】ACE−ACE2二重突然変異マウスは心不全を起こさないことを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y、ace2−/y、ace−/−およびace−/−ace2−/y二重突然変異同腹子マウスにおける収縮期心臓の心エコー測定。心エコーを図6aの記載と同様にして分析し、標識した。ace2ヌルバックグラウンドでのACEの除去がace2−/y単一突然変異マウスで観察された収縮期の心臓の障害を完全に救済することに注意。
【0138】
【図9】ベースラインからのエラスタンスの変化のパーセントを経時的に計算した。肺のエラスタンスは気管の最大圧を容積で除することにより計算した。
【0139】
【図10】(a)ヒトACE2 DNA(配列番号1)。(b)ヒトACE2ポリペプチド(配列番号2)。
【0140】
【図11】(a)マウスACE2 DNA(配列番号3)。(b)マウスACE2ポリペプチド(配列番号4)。
【0141】
【図12】ACE2ヌクレオチド多型および配列。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症、冠状動脈性心疾患、心不全、腎不全、肺浮腫、および中毒性ショックや人工換気などの肺障害を含む、心臓、肺および腎臓の疾患を診断および治療するのに用いる組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
心血管系疾患は21世紀における健康管理の負担の大きい第一のものであり、2020年までに世界中の死亡の最も一般的原因となるであろうことが予測されている。心疾患の主たるリスク因子は高血圧である。高血圧症は、遺伝的因子および環境因子の両者によって制御される多因性の定量的形質である。食事や身体活動などの高血圧に貢献しうる環境因子については多くのことがわかっているが、心血管系疾患への素因となる遺伝的因子についてはあまりわかっていない。動物モデルでの高血圧と関係のある幾つかの推定の遺伝子の定量的形質部位(quantitative trait loci; QTL)の同定にも拘わらず、これらの部位のいずれも遺伝子に翻訳されていない。それゆえ、高血圧症および他の心血管系疾患の基礎となる分子的および遺伝的メカニズムの多くは不明のままである。
【0003】
血圧のホメオスタシスの一つの重要なレギュレーターはレニン−アンジオテンシン系(RAS)である。プロテアーゼのレニンは、アンジオテンシノーゲンを不活性な十量体ペプチドであるアンジオテンシンI(AngI)に開裂する。ついで、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用は活性な八量体アンジオテンシンII(AngII)へのAngIの開裂を触媒し、このアンジオテンシンII(AngII)が血管平滑筋の血管収縮および腎細管でのナトリウムの再吸収を促進することにより高血圧症に貢献しうるのである。ACE突然変異体マウスは、突発性の高血圧症、部分的な雄の不妊、および腎臓の奇形を示す。ヒトではACE多型は腎機能および心血管機能の決定要因と関係付けられており、ACEおよびAngIIレセプターの薬理学的な抑制は血圧および腎臓疾患の低下に有効である。さらに、ACEおよびAngIIレセプターの抑制は心不全にも有利な効果を有する。
【0004】
最近、ACE2と称するACEのホモログが同定されたが、このものは腎臓および心臓の血管内皮細胞で優先的に発現される。興味深いことには、2つのACEホモログがハエにも存在する。ACEとは異なり、ACE2はカルボキシペプチダーゼとして機能し、AngIから単一残基を開裂してAng1−9を生成し、AngIIから単一残基を開裂してAng1−7を生成する。これらのインビトロでの生化学データは、ACE2がRASをモデュレートすること、それゆえ血圧制御に何らかの役割を果たしているかもしれないことを示唆している。インビボでの心血管系およびRASにおけるACE2の役割はわかっていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Actonらは米国特許第6,194,556号において、ACE2関連疾患状態の診断および治療におけるACE2の使用を記載している。この特許は、ACE2発現レベルが高血圧症で増大していること、およびACE2活性のアンタゴニストまたはインヒビターが高くなった血圧または関連する障害の治療に有用であることを述べている。カナダ特許出願第2,372,387号はACE2インヒビターの特定の例を提供しているが、これは高血圧症などの心疾患の治療に有用であることを意図したものである。この文献もACE2活性を増大させるのではなく抑制する必要があることを強調している。これら文献はACE2活性の抑制の必要性を教示するものであるが、インビトロでの実験データに基づくものにすぎない。それら文献は、ACE2を特徴付けるためのノックアウト哺乳動物のデータなどのインビボでのデータを提供していない。これまで高血圧症の治療のための医薬として承認されたACE2インヒビターはない。さらに、心血管系およびRASでのACE2のインビボでの役割は殆どわかっていないままである。心臓および腎臓の疾患の治療のための適切な診断試験および医薬をデザインすることができるように、ACE2の機能を特徴付ける必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はレニン−アンジオテンシン系の制御のための新たなパラダイムを提供するものであり、インビトロデータ(Actonの特許)に基づく予測とは対照的に、また従来技術では予期しないことに、心臓機能および血圧制御に必要なRASの重要な負のレギュレーターとしてのACE2の全く新規かつ予期しない使用を示す。ACE2の活性化は、心臓、肺および腎臓疾患の治療および予防にとって重大である。本発明は、ACE2アクチベーターの動物への投与が高血圧症および心臓および腎臓疾患、および肺障害を予防および治療することを初めて示すものである。
【0007】
発明の詳細な説明
本発明はRAS系の制御のための新たなパラダイムを提供するものであり、ACE2が心臓機能および心血管機能、腎臓機能および肺障害に必要なRASの重要な負のレギュレーターであることを示すものである。ACE2の活性化は、心臓および腎臓の疾患および高血圧症および肺の疾患の治療および予防にとって重大である。本発明は、ACE2アクチベーターの動物への投与が心不全および高血圧症、腎臓疾患および肺障害を予防および治療することを初めて教示するものである。
【0008】
この結果は、心臓疾患を治療するにはACE2活性を抑制しなければならないと教示する上記米国特許第6,194,556号やカナダ特許出願第2,372,387号などの従来技術の文献からすると全く予期しないものである。それゆえ、ACE2の発現および/または活性を活性化することによって心臓疾患が実際に治療されることは驚くべきことである。
【0009】
本発明は、ACE2機能および/またはACE2 mRNAおよびACE2タンパク質発現のアクチベーターを含む(これに限られるものではない)アクチベーター、および該アクチベーターを含む医薬組成物を包含する。本発明はまた、治療を必要とする動物に有効量のアクチベーターを投与することによる、心臓疾患、肺疾患および腎臓疾患の医学的な治療方法をも包含する。肺疾患としては、これらに限られるものではないが、慢性閉塞性肺疾患、肺炎、喘息、慢性気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、間質性肺疾患、原発性肺高血圧症、肺塞栓症、肺サルコイドーシス、結核および肺癌が挙げられる。
【0010】
本発明はまた、心臓および腎臓の疾患および高血圧症および肺疾患を治療するのに用いることのできるACE2アクチベーターを検出するためのスクリーニングアッセイをも包含する。これらアッセイはインビトロであってもインビボであってもよい。好ましい態様において、本発明は、候補化合物がACE2の発現または活性を増大させることができるか否かを評価するための内皮、腎臓、肺または心臓の細胞アッセイを包含する。細胞をACE2の発現または活性を活性化する能力について決定しようとする少なくとも1つの化合物の存在下で培養し、ACE2発現の増大について細胞を測定する。本発明の他の側面は、ACE2の喪失の効果を克服しうる化合物を同定するためのACE2ノックアウトマウスに関する。これらのアッセイにおいてポリペプチドおよび小さな有機分子を試験する。本発明は、本発明のスクリーニング法によって同定され、医薬組成物にて動物に投与するのに適した全ての化合物を包含する。
【0011】
本発明の他の側面は、心臓および/または腎臓の疾患および/または高血圧症および/または肺疾患の発症またはリスクの診断である。このことは、心臓、血清、または腎臓、または他の組織中のACE2レベルを測定することによって診断することができる。野生型レベルよりも低いレベルのACE2は「ACE2低減状態」を示し、これは本発明が心臓および/または腎臓の疾患および/または高血圧症、および/または肺疾患、または疾患のリスクと直接関係することを示すものである。ACE2の野生型レベルおよび低減レベルは当業者には明らかであろう。ACE2低減状態はまた、以下に記載する多型ACE2a〜ACE2mによっても示される。本発明は低減したACE2の発現または活性と関連する疾患を治療および診断するのに有用である。診断はまた、場合により、ACE2低減状態と関係するACE2遺伝子の上流および下流および遺伝子内の多型の分析によっても達成される。本明細書に記載する手段によって多型を識別するヌクレオチドの検出に必要な試薬はすべて、動物から単離したゲノムDNAの分析のための単一のキットにて提供することができる。該キットは、疾患のリスクまたは発症の診断のため、遺伝子型決定および表現型決定を可能とすべくACE2の多型を識別する標識プローブを含んでいるであろう。多型特異的なプローブは、唯一つの多型特異的プローブがハイブリダイズして検出することができ、それによって特異的なACE2多型を同定できるように、適当に標識し、生成DNA切片にアニーリング条件下で加えることができる。
【0012】
治療法
上記で記載したように、本発明はACE2遺伝子発現が高血圧症、心臓および腎臓疾患ではダウンレギュレーションされていることを示した。従って、本発明は、治療または予防を必要とする動物にACE2の発現を増大させうる薬剤の有効量を投与することを含む、高血圧症、心臓疾患、肺または腎臓疾患の治療または予防方法を提供する。
【0013】
本明細書で使用する「ACE2の発現を増大させうる薬剤」なる語は、該薬剤の不在下で同じ種類の細胞でのACE2遺伝子またはタンパク質のレベルまたは活性と比べてACE2遺伝子またはタンパク質のレベルまたは活性を増大させることのできるあらゆる薬剤を意味する。該薬剤はいかなる種類の物質であってもよく、核酸分子(ACE2またはその断片を含む)、タンパク質(Ace2またはその断片を含む)、ペプチド、炭水化物、小分子、または有機化合物を含むがこれらに限られるものではない。ACE2遺伝子が増大したか否かは、ウエスタンブロッティング、SDS−PAGE、免疫化学、RT−PCR、ノーザンブロッティングおよびインシトゥハイブリダイゼーションを含む公知の方法を用い、当業者により容易に決定することができる。
【0014】
本明細書で使用する「動物」の語は、動物界のあらゆる成員を含む。動物は好ましくはヒトである。
【0015】
本明細書で使用する「有効量」なる語は、ACE2のレベルを高めるのに必要な投与量および期間で有効な量を意味する。
【0016】
本明細書において使用する「治療または治療する」の語は、臨床的な結果を含む有利なまたは所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有利なまたは所望の臨床結果としては、これらに限られるものではないが、検出しうるか検出しえないかに拘わらず、1またはそれ以上の徴候の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の安定化した(すなわち、悪化しない)状態、疾患の拡散の予防、疾患の進行の遅滞、疾患状態の改善または一時的緩和、および緩解(部分的または全体的)が挙げられる。「治療」はまた、治療を施さなかった場合に予想される生存と比べて長引いた生存をも意味する。
【0017】
ACE2核酸分子の投与
一つの態様において、ACE2遺伝子の発現がACE2遺伝子またはその一部を含む核酸を投与することによって増大する。
【0018】
他の態様において、ACE2遺伝子の発現は、本明細書に開示したスクリーニングアッセイを用いて同定した薬剤を含む、ACE2遺伝子発現を増大させる薬剤を投与することによって増大させることができる。
【0019】
疾患、障害または異常な身体状態を患う動物はACE2のアップレギュレーションによって治療することができるので、ACE2発現を増大させる遺伝子療法は心臓または腎臓または肺の疾患の発生/進行を緩和するのに有用である。
【0020】
本発明は、低減したACE2発現またはACE2ポリペプチドの活性の低減したレベルを特徴とする疾患、障害または異常な身体状態の治療のためのACE2遺伝子療法を提供する方法および組成物を包含する。
【0021】
本発明は、動物の細胞でのACE2の発現が該細胞にACE2ポリペプチドの生物学的活性または表現型をもたらすように、ACE2をコードする核酸分子または機能的に同等の核酸分子を該細胞に提供する方法および組成物を包含する。該細胞にACE2ポリペプチドの生物学的活性または表現型がもたらされるように、充分な量の核酸分子を投与し、充分なレベルで発現させる。たとえば、該方法は、好ましくは、ACE2をコードするDNAを含むベクターを主体に投与することを含む、心血管または腎臓または肺の疾患を有する動物の細胞にACE2をコードする核酸分子を送達する方法を包含する。該方法はまた、ACE2をコードするDNAを投与することによって心血管または腎臓または肺の疾患を有する動物に生物学的に活性なACE2ポリペプチドをもたらす方法にも関する。該方法は、インビボまたはエクスビボ(たとえば、肺、心臓、内皮または腎臓の幹細胞、先祖細胞(progenitor cells)または他の細胞が移植細胞であってよい)で行うことができる。ACE2を単離細胞または動物に投与(遺伝子療法における場合を含む)する方法および組成物は、たとえば、米国特許第5,672,344号、同第5,645,829号、同第5,741,486号、同第5,656,465号、同第5,547,932号、同第5,529,774号、同第5,436,146号、同第5,399,346号、同第5,670,488号、同第5,240,84号、同第6,322,536号、同第6,306,830号および同第6,071,890号および米国特許出願第20010029040号(参照のためのその全体を本明細書中に引用する)に説明されている。
【0022】
本発明はまた、ACE2をコードするDNAを含む遺伝子療法に適したウイルスを産生することによる、組換えウイルスのストックを製造する方法にも関する。この方法は、好ましくは、ウイルス複製(該ウイルスは核酸分子を含む)を許容する細胞をトランスフェクションし、ついで産生したウイルスを回収することを含む。
【0023】
該方法および組成物はインビボまたはインビトロで用いることができる。本発明はまた組成物(好ましくは遺伝子療法のための医薬組成物)をも包含する。該組成物はACE2を含むベクターを含む。担体は、医薬担体またはベクターを含む宿主形質転換体であってよい。当該技術分野で知られたベクターとしては、これらに限られるものではないが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルスベクター、たとえばワクシニアウイルスベクター、HIVおよびレンチウイルスベースのベクター、またはプラスミドが挙げられる。本発明はまた、ベクターを製造するのに必要なパッケージングおよびヘルパー細胞株をも包含する。ベクターを製造する方法および該ベクターを用いた遺伝子療法の方法もまた本発明に包含される。
【0024】
本発明はまた、該ベクターおよび組換えACE2核酸分子配列を含む形質転換細胞をも包含する。
【0025】
ACE2突然変異体の使用−ポリペプチド配列の修飾
ACE2突然変異体を本発明の方法に用いることができる。化学的に同等かまたは類似のアミノ酸配列という結果となる変化は本発明の範囲に包含される。ACE2レセプターに対して配列同一性を有するポリペプチドは、本発明の方法に使用するのに適していることを確認すべく試験される。本発明のポリペプチドの突然変異体は、たとえば突然変異により天然でも存在するし、またはたとえば部位特異的突然変異誘発などのポリペプチド工学法(アミノ酸置換の技術分野でよく知られている)を用いて製造することもできる。たとえば、グリシンなどの疎水性アミノ酸残基を他の疎水性残基、たとえばアラニンで置換することができる。アラニン残基は、ロイシン、バリンまたはイソロイシンなどのさらに疎水性の残基で置換することができる。アスパラギン酸などの負に荷電したアミノ酸はグルタミン酸で置換することができる。リジンなどの正に荷電したアミノ酸はアルギニンなどの他の正に荷電したアミノ酸で置換することができる。
【0026】
それゆえ、本発明は、アミノ酸配列に保存的な変化または置換を有するポリペプチドを包含する。保存的な置換は、置換されたアミノ酸と同様の化学的性質の1またはそれ以上のアミノ酸を挿入する。本発明は、化合物の活性を損なわない保存的な置換がされている配列を包含する。
【0027】
1またはそれ以上のdアミノ酸を含むポリペプチドが本発明に包含される。1またはそれ以上のアミノ酸がN末端でアセチル化されているポリペプチドも本発明に包含される。当業者であれば、本発明の対応ポリペプチド化合物と同じかまたは類似の所望の化合物活性を有するが、溶解度、安定性、および/または加水分解およびタンパク質分解に対する感受性に関して該ポリペプチドよりも有利な活性を有するポリペプチドミメチックを構築するのに種々の技術を利用できることを認識するであろう。たとえば、MorganおよびGainor, Ann. Rep. Med. Chem., 24: 243-252 (1989)を参照。ポリペプチドミメチックの例は米国特許第5,643,873号に記載されている。ミメチックの製造および使用法を記載した他の特許としては、たとえば、米国特許第5,786,322号、同第5,767,075号、同第5,763,571号、同第5,753,226号、同第5,683,983号、同第5,677,280号、同第5,672,584号、同第5,668,110号、同第5,654,276号、同第5,643,873号が挙げられる。本発明のポリペプチドのミメチックはまた、当該技術分野で知られた他の方法に従っても製造することができる。たとえば、水素基をヒドロキシやアミノ基などの他の基に変化させることによって側鎖基を化学的に変える薬剤を用いて本発明のポリペプチドを処理することにより行うことができる。ミメチックは、すべてがアミノ酸からなる配列、またはアミノ酸と修飾アミノ酸または他の有機分子とを含むハイブリッドである配列を含んでいるのが好ましい。
【0028】
本発明はまた、たとえばヌクレオチド配列が第二の配列と組み合わされているハイブリッドおよびポリペプチドをも包含する。
【0029】
本発明はまた、ACE2のポリペプチド断片が活性を保持している場合に化合物に活性を付与するのに用いることのできる該断片の使用方法をも包含する。本発明はまた、ポリペプチドまたはその活性を特徴付けるリサーチツールとして用いることのできる本発明のポリペプチドおよび該ポリペプチドの断片をも包含する。そのようなポリペプチドは少なくとも5つのアミノ酸からなるのが好ましい。好ましい態様において、そのようなポリペプチドは、6〜10、11〜15、16〜25、26〜50、51〜75、76〜100または101〜250または250〜500アミノ酸からなっていてよい。断片は、化合物の配列において1またはそれ以上のアミノ酸、たとえばC末端アミノ酸が除去された配列を含んでいてよい。
【0030】
ACE2ポリペプチド活性の促進
ACE2の活性は、選択的な部位特異的突然変異誘発を行うことにより増大または低減する。Pharmacia BiotechからのU.S.E.(Unique site elimination)突然変異誘発キットまたは市販の他の突然変異誘発キットを用い、またはPCRを用い、該核酸分子または配列同一性を有する核酸分子を含むDNAプラスミドまたは発現ベクターをこれら研究に用いるのが好ましい。突然変異が生成されDNA配列分析によって確認されたら、突然変異体ポリペプチドを発現系を用いて発現させ、その活性をモニターする。
【0031】
本発明はまた、ヒトまたはマウスACE2(またはその部分配列)に対して少なくとも約20>%、>25%、>28%、>30%、>35%、>40%、>50%、>60%、>70%、>80%または>90%、さらに好ましくは少なくとも約>95%、>99%または>99.5%の配列同一性を有するポリペプチドの使用法をも包含する。修飾したポリペプチド分子は以下で検討する。好ましくは約1、2、3、4、5、6〜10、10〜25、26〜50または51〜100または101〜250のヌクレオチドまたはアミノ酸が修飾される。
【0032】
同一性は当該技術分野で知られた方法に従って計算する。配列同一性は、BLAST version 2.1プログラムアドバンストサーチ(上記のパラメーター)により評価するのが最も好ましい。BLASTは、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTでオンラインで利用できる一連のプログラムである。アドバンストBLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/blast.cgi?Jform=1)はデフォルトでパラメーターを選択するようにセッティングされている。(すなわち、Matrix BLOSUM62; Gap existence cost 11; Per residue gap cost 1; Lambda ratio 0.85 default)。
【0033】
BLASTサーチに関する参照文献は以下のとおりである:Altschul, S.F., Gish, W., Miller, W., Myers, E.W. & Lipman, D.J. (1990) "Basic local alignment search tool." J. Mol. Biol. 215: 403-410; Gish, W. & States, D.J. (1993)"Identification of protein coding regions by database similarity search." Nature Genet. 3: 266-272; Madden, T.L., Tatusov, R.L. & Zhang, J. (1996) "Applications of network BLAST server" Meth. Enzymol. 266: 131-141; Altschul, S.F., Madden, T.L., Schaffer, A.A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W. & Lipman, D.J. (1997) "Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs." Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) "PowerBLAST: A new network BLAST application for interactive or automated sequence analysis and annotation." Genome Res. 7: 649-656。
【0034】
好ましくは約1、2、3、4、5、6〜10、10〜25、26〜50または51〜100または101〜250のヌクレオチドまたはアミノ酸が修飾される。本発明は、活性の付与に関与しないポリペプチドの部分でのアミノ酸変化か、またはポリペプチドの活性を増大または低減させるべく活性の付与に関与するポリペプチドの部分でのアミノ酸変化を引き起こす突然変異を有するポリペプチドを包含する。
【0035】
ACE2アクチベーターのスクリーニング
ACE2の発現または活性を増大させるか否かを決定すべく小さな有機分子をスクリーニングする。ACE2のポリペプチド断片並びにACE2との配列同一性を有するポリペプチドもまた、インビトロアッセイおよび細胞株でのインビボでACE2活性を増大させるか否かを決定すべく試験する。アクチベーターは、ACE2の特異的ドメインに向けられてACE2活性化を増大させるのが好ましい。特異性を達成するため、アクチベーターはACE2の独特の配列を標的とすべきである。
【0036】
本発明はまた、ACE2発現を増大させる物質の単離をも包含する。とりわけ、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合することのできるリガンドまたは物質を単離することができる。生物学的試料および市販のライブラリーを、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合するタンパク質などの物質について試験することができる。たとえば、ACE2タンパク質のアミノ酸配列を用いてペプチドライブラリーをプロービングすることができ、一方、ACE2をコードする核酸配列を用いて核酸ライブラリーをプロービングすることができる。さらに、ACE2に対して調製した抗体を用いてACE2への親和性を有する他のペプチドを単離することができる。たとえば、標識抗体を用いてファージディスプレイライブラリーまたは生物学的試料をプロービングすることができる。
【0037】
ある物質とACE2遺伝子またはタンパク質との複合体の生成を可能にする条件は、該物質およびACE2遺伝子またはタンパク質の性質および量などの因子を考慮したうえで選択することができる。物質−タンパク質または物質−遺伝子複合体、遊離の物質または複合体を生成していない物質の単離は、通常の単離法、たとえば、塩析、クロマトグラフィー、電気泳動、ゲル濾過、分画、吸着、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、凝集、またはそれらの組み合わせにより行うことができる。成分のアッセイを容易にするため、ACE2または該物質に対する抗体、または標識タンパク質、または標識物質を用いることができる。抗体、タンパク質、または物質は、以下に記載する検出可能な物質を用い、適切に標識することができる。
【0038】
潜在的な結合パートナーが単離されたら、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合する物質がACE2発現を促進させるための本発明の方法において有用であるか否か、従って疾患の治療に有用であるか否かを決定するため、スクリーニング法をデザインすることができる。
【0039】
それゆえ、本発明は、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合することのできる物質を同定するための方法をも提供する。とりわけ、該方法は、ACE2に結合することができ、ACE2の発現を増大または促進することのできる物質を同定するのに用いることができる。従って、本発明は、ACE2遺伝子またはタンパク質に結合する物質の同定方法であって、下記工程:
(a)好ましくは固定化したACE2遺伝子またはタンパク質を被験物質と複合体の生成を可能とする条件下で反応させ、ついで
(b)複合体、遊離の物質、および複合体を生成していない遺伝子またはタンパク質についてアッセイする
を含む方法を提供する。
【0040】
タンパク質−タンパク質相互作用を検出するいかなるアッセイ系または試験方法をも用いることができ、これには同時免疫沈降(co-immunoprecipitation)、架橋および勾配またはクロマトグラフィーカラムによる同時精製(co-purification)が含まれる。さらに、X線結晶解析法を物質および分子との相互作用を評価する手段として用いることができる。たとえば、本発明の複合体中の精製した組換え分子は、適当な形状に結晶化させたときにX線結晶解析による分子内相互作用の検出に供することができる。分光法もまた相互作用の検出に用いることができ、とりわけQ−TOF装置を用いることができる。生物学的試料および市販のライブラリーをACE2結合性ペプチドについて試験することができる。さらに、ACE2に対して調製した抗体を用いてACE2結合親和性を有する他のペプチドを単離することができる。たとえば、標識抗体を用いてファージディスプレイライブラリーまたは生物学的試料をプロービングすることができる。この観点から生物学的発現系を用いてペプチドを開発することができる。これら系の使用は、ランダムペプチド配列の大きなライブラリーの作製および特定のタンパク質に結合するペプチド配列についてのこれらライブラリーのスクリーニングを可能にする。ライブラリーの作製は、ランダムなペプチド配列をコードする合成DNAを適当な発現ベクター中にクローニングすることにより行うことができる(Christianら、1992, J. Mol. Biol. 227: 711; Devlinら、1990 Science 249: 404; Cwirlaら、1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 6378を参照)。ライブラリーはまた重複するペプチドの同時合成によっても構築することができる(米国特許第4,708,871号を参照)。アクチベーターを高血圧症、心臓または腎臓疾患の動物モデルで試験する。
【0041】
一つの態様において、本発明は、ACE2発現または活性を活性化する能力について決定しようとする少なくとも1の化合物の存在下で細胞(好ましくは腎臓または心臓細胞)を培養し、その後、ACE2発現および/または活性のレベルの増大について該細胞をモニターすることにより、ある候補化合物がACE2発現または活性を増大させることができるか否かを評価するアッセイを包含する。増大したACE2発現および/または活性は、該候補化合物が心臓または腎臓疾患または高血圧症の治療に有用であることを示している。
【0042】
同様のスクリーニングアッセイを心臓疾患または腎臓疾患の罹患傾向のある当該技術分野で知られた哺乳動物で行うことができる。候補化合物を該哺乳動物に投与し、ACE2発現および/または活性を測定する。増大したACE2発現および/または活性は、該候補化合物が心臓および/または腎臓疾患の治療に有用であることを示している。
【0043】
ある候補化合物がACE2の活性を増大させる(そして心血管疾患および/または腎臓疾患および/または肺、および/または高血圧症を治療するのに有用である)か否かを決定する方法はまた、下記工程:
(a)(i)ACE2、ACE2の断片または両者のいずれかの誘導体を(ii)ACE2基質と、候補化合物の存在下で接触させ、ついで
(b)該基質でのACE2活性が増大され、それによって該化合物がACE2の活性を増大させることを示すか否かを決定する
をも含んでいてよい。増大したACE2活性は、該化合物が本明細書に列記した心臓疾患または腎臓疾患または高血圧症の治療に有用であることを示している。ACE2活性の増大の決定は、該化合物がACE2のタンパク質分解活性を増大させる(基質の加水分解を増大させる)か否かを決定することを含むのが好ましい。本発明の一つの態様において、本発明のアッセイは、候補化合物がナトリウム−ハロゲン塩またはカリウム−ハロゲン塩ではないことおよびアッセイがイオン濃度の増大がACE2タンパク質加水分解に及ぼす影響を測定することに向けられないこと、を条件とする。ACE2基質としては、AngI、AngII、des−Ang、AngII、アペリン−13、ダイノルフィン13、ベータ−カソモルフィンおよびニューロテンシンが挙げられる。
【0044】
ACE2の製造法はCA2,372,387号に記載されている。ACE2活性化のインビトロアッセイの一例は、Vickersら、Hydrolysis of biological peptides by human angiotensin-converting enzyme-related carboxypeptidase. J. Biol. Chem. 2002, 277(17): 14838に示されている。他のアッセイ(並びに上記アッセイの改変したもの)は、本明細書の記載および米国特許第5,851,788号、同第5,736,337号および同第5,767,075号(その全体を参照のため本明細書中に引用する)などに記載された技術から明らかであろう。
【0045】
ノックアウト哺乳動物
マウスACE2のクローニングおよびACE2ノックアウトマウスの生成の実際の例は下記実施例に記載してある。「ノックアウト」なる語は、哺乳動物の単一の細胞、選択した細胞、またはすべての細胞のACE2遺伝子によってコードされたポリペプチドの少なくとも一部の発現の部分的または完全な低減をいう。該哺乳動物は、内生遺伝子の一方の対立遺伝子が破壊され他方の対立遺伝子がなお存在している「へテロ接合性ノックアウト」であってよい。X染色体上のACE2において、雌はへテロ接合性であってよい。雄では唯一つの対立遺伝子があるのみであり、雄はホモ接合性である。あるいは、該哺乳動物は、内生遺伝子の両対立遺伝子が破壊された「ホモ接合性ノックアウト」であってよい。
【0046】
「ノックアウト構築物」とは、哺乳動物の1またはそれ以上の細胞において内生遺伝子によってコードされたポリペプチドの発現を低減または抑制すべくデザインしたヌクレオチド配列をいう。ノックアウト構築物として用いるヌクレオチド配列は、典型的に、(1)抑制されるべき内生遺伝子のある部分(1またはそれ以上のエクソン配列、イントロン配列、および/またはプロモーター配列)からのDNA、および(2)細胞中のノックアウト構築物の存在を検出するのに用いるマーカー配列からなる。ノックアウト構築物を、ノックアウトしようとする内生遺伝子を含む細胞に挿入する。ついで、ノックアウト構築物は内生ACE2遺伝子の一方または両方の対立遺伝子内に組み込まれ、そのようなACE2ノックアウト構築物の組み込みは完全長の内生ACE2遺伝子の転写を妨害または中断させることができる。細胞の染色体DNA中へのACE2ノックアウト構築物の組み込みは、典型的には相同的組換えによって達成される(すなわち、ノックアウト構築物を細胞中に挿入したときに、内生のACE2 DNA配列に相同なまたは相補的なACE2ノックアウト構築物の領域が互いにハイブリダイズすることができる;ついで、これら領域はノックアウト構築物が内生DNAの対応位置に組み込まれるように組換えられる)。
【0047】
典型的には、ノックアウト構築物は胚性幹細胞(ES細胞)と称する未分化の細胞に挿入する。ES細胞は、通常、以下で検討するように、それを導入することのできる発生胚と同じ種の胚または胚盤胞からのものである。
【0048】
「遺伝子の破壊」、「遺伝子破壊」、「発現の抑制」および「遺伝子抑制」は、細胞での完全長ACE2分子の発現を低減または妨害するための、内生ACE2遺伝子のコード領域(通常、1またはそれ以上のエクソンを含む)および/または該遺伝子のプロモーター領域の相同領域へのACE2ヌクレオチド配列ノックアウト構築物の挿入をいう。挿入は、通常、相同的組換えによって行われる。例として、抗生物質耐性遺伝子を含むヌクレオチド配列を、破壊すべきACE2をコードする単離ヌクレオチド配列の一部に挿入することによってヌクレオチド配列ノックアウト構築物を調製することができる。ついで、このノックアウト構築物が胚性幹細胞(「ES細胞」)に挿入されたら、該構築物は少なくとも1のACE2対立遺伝子のゲノムDNA中に組み込まれることができる。かくして、ACE2の内生コード領域の少なくとも一部が今や抗生物質耐性遺伝子によって破壊されているので、該細胞の多くの子孫は少なくとも幾つかの細胞においてもはやACE2を発現しないか、または低減したレベルで、および/または末端切断された形態でACE2を発現するであろう。
【0049】
「マーカー配列」とは、(1)ACE2の発現を破壊するためのより大きなヌクレオチド配列構築物(すなわち、「ノックアウト構築物」)の一部として用いられ、(2)染色体DNA中にACE2ノックアウト構築物が組み込まれた細胞を同定する手段として用いられる、ヌクレオチド配列をいう。マーカー配列はこれら目的を達成できる限りいかなる配列であってもよいが、典型的には抗生物質耐性遺伝子や天然では細胞中に認められないアッセイしうる酵素などの細胞に検出可能な特性を付与するタンパク質をコードする配列であろう。マーカー配列はまた、典型的に、その配列を制御する同種または異種のプロモーターをも含んでいるであろう。
【0050】
本発明の範囲には、一方または両方のACE2対立遺伝子、並びに他の遺伝子の一方または両方の対立遺伝子がノックアウトされた哺乳動物が包含される。そのような哺乳動物は、ACE2ノックアウト哺乳動物を生成するための本明細書に記載した手順を繰り返すが他の遺伝子を用いることにより、またはACE2の一方または両方の対立遺伝子をノックアウトした哺乳動物と、第二の遺伝子の一方または両方の対立遺伝子をノックアウトした哺乳動物との2つの哺乳動物を互いに飼育し、二重のノックアウト遺伝子型(二重のへテロ接合性または二重のホモ接合性ノックアウト遺伝子型、またはそれらの突然変異体)を有する子孫をスクリーニングすることによって得ることができる。
【0051】
他のノックアウト動物および細胞も同様の方法を用いて作製することができる。
【0052】
医薬組成物
ACE2発現および活性のアクチベーターは、医薬組成物において担体などの他の成分と組み合わせるのが好ましい。これら組成物は、動物、好ましくはヒトに、心臓疾患、腎臓疾患または高血圧症を予防または治療するために可溶性の形態で投与することができる。心臓疾患としては、慢性心不全、左心室肥大、急性心不全、心筋梗塞、および心筋症が挙げられる。腎臓疾患としては腎不全が挙げられる。ACE2アクチベーターは、血圧および動脈の高血圧を制御するのに有用である。正常血圧は、85mmHg未満の拡張血圧を有する。高い正常血圧は、85〜89mmHgの拡張血圧を有する。穏やかな高血圧症は90〜104mmHgの拡張血圧に対応する。中程度の高血圧症は105〜114mmHgの拡張血圧に対応する。重篤な高血圧症は115mmHgよりも高い拡張血圧を有する。異常な血圧はまた、収縮血圧からも決定される(拡張血圧が90mmHg未満である場合に)。正常血圧は、140mmHg未満の収縮血圧を有する。境界領域の収縮性高血圧症は、140〜159mmHgの収縮血圧を示す。散発的な(isolated)収縮性高血圧症は160mmHgよりも高い収縮血圧を有する(Cecil: Essentials of Medicine、第3版、Andreoliら、W.B. Saunders Company (1993))。高血圧症は、年齢18歳以上の成人において、少なくとも2回の来診で2回またはそれ以上の血圧の測定の平均値が90mmHgよりも高い拡張血圧または140mmHgの収縮血圧であるときに診断される。子供や妊婦はより低い血圧を有するので、120/80(すなわち、120mmHgの収縮血圧/80mmHgの拡張血圧)を超える血圧は高血圧症であることを示す。
【0053】
医薬組成物はヒトまたは動物に、局所投与、経口投与、エアゾル投与、気管内点滴注入、腹腔内注射、および静注を含む(これらに限られるものではない)種々の方法により投与することができる。投与すべき投与量は、患者の必要性、所望とする効果および選択した投与経路による。ポリペプチドはリポソームなどの(これに限られるものではない)インビボ送達ビヒクルを用いて細胞に導入することができる。
【0054】
医薬組成物は、有効量の核酸分子またはポリペプチドが薬理学的に許容しうるビヒクルと混合物中で組み合わされるように、患者に投与することのできる薬理学的に許容しうる組成物の調製のための公知の方法により調製することができる。適当なビヒクルは、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company,イーストン、ペンシルベニア、米国)に記載されている。
【0055】
この観点から、医薬組成物は核酸分子やポリペプチドなどの活性化合物または物質を1またはそれ以上の薬理学的に許容しうるビヒクルまたは希釈剤とともに含んでいてよく、適当なpHおよび生理学的流体と等張な緩衝溶液中に含まれていてよい。活性分子をビヒクルと組み合わせる方法または活性分子を希釈剤と組み合わせる方法は当業者によく知られている。医薬組成物は活性化合物を組織内の特定の部位に輸送するための標的剤を含んでいてよい。
【0056】
ACE2の異種過剰発現
発現ベクターは高レベルのACE2発現をもたらすのに有用である。本発明の核酸分子で形質転換した細胞培養液は、とりわけACE2低減状態の研究のためのリサーチツールとして有用である。本発明は、ACE2を通常生産している心臓細胞および腎臓細胞好ましくは内皮細胞に選択的なベクターを包含する。本発明はまた、これらベクターを含むトランスフェクションした細胞をも包含する。心臓細胞および腎臓細胞のためのベクターの例は、たとえば、Rosengartら、米国特許第6,322,536号;Marchら、米国特許第6,224,584号;Hammondら、米国特許第6,174,871号;Wolfgang-M. Franzら、Analysis of tissue-specific gene delivery by recombinant adenoviruses containing cardiac-specific promoters. Cardiovascular Research 35(1997) 560-566;Rothmann T.ら、Heart muscle-specific gene expression using replication defective recombinant adnovirus. Gene Ther. 1996 Oct. 3(10): 919-26;Phillips MI.ら、Vigilant vector: heart-specific promoter in an adeno-associated virus vector for cardioprotection. Hypertension 2002, Feb. 39(2Pt2): 651-5;Herold BCら、Herpes simplex virus as a model vector system for gene therapy in renal disease. Kidney Int. 2002 Jan. 61 Suppl. 1: 3-8;Figlin RAら、Technology evaluation: interleukin-2 gene therapy for the treatment of renal cell carcinoma. Curr. Opin. Mol. Ther. 1999 Apr. 1(2): 271-8;Varda-Bloom N.ら、Tissue-specific gene therapy directed to tumor angiogenesis. Gene Ther. 2001 Jun. 8(11): 819-27;Scott-Taylor TH.ら、Adenovirus facilitated infection of human cells with ecotropic retrovirus. Gene Ther. 1998 May, 5(5): 621-9;Langer JC.ら、Adeno-associated virus gene transfer into renal cells: potential for in vivo gene delivery. Exp. Nephrol. 1998 May-Jun, 6(3): 189-94;Lien YH.ら、Gene therapy for renal diseases. Kideny Int. Suppl. 1997 Oct. 61: S85-8;およびOhno K.ら、Cell-specific targeting of Sindbis virus vectors displaying IgG-binding domains of protein A. Nat. Biotechnol. 1997 Aug. 15(8): 763-7に記載されている。
【0057】
細胞培養、好ましくは心臓および腎臓細胞培養および内皮細胞培養を、当該技術分野で知られた多くの方法に従って過剰発現および研究に用いる。たとえば、細胞株(不死化した細胞培養かまたは初代細胞培養のいずれか)をACE2核酸分子(または配列同一性を有する分子)を含むベクターでトランスフェクションして核酸分子の発現および核酸分子およびポリペプチドの活性のレベルを測定する。これら細胞はまた、該ポリペプチドに結合し活性化する化合物を同定するのにも有用である。
【0058】
ACE2活性および/または発現を測定する診断キット
ACE2発現または活性の測定はまた、(i)心臓または腎臓の疾患、肺疾患および/または高血圧症の診断、(ii)そのような疾患の発症前の疾患を発症するリスクにある患者の同定、(iii)冠状動脈疾患、慢性心不全などの心臓疾患、または腎臓疾患および/または高血圧症および/または肺障害を有する患者での治療応答の測定、および(iv)そのようなリスクにある患者での介入的疾患予防戦略の成功の測定、にも用いる。本発明は、下記工程:(a)動物から回収した検体から心臓または腎臓または肺の試料を調製し、(b)該試料中のACE2の存在について試験し、ついで(c)試料中のACE2の存在またはレベルを動物での心臓または腎臓または肺疾患などの疾患の存在(またはリスク)と相関させることを含む、動物でのACE2のレベルを評価する方法を包含する。正常未満のACE2レベルまたは低いACE2活性は疾患の存在またはリスクを示す。
【0059】
ACE2単一ヌクレオチド多型に基づく診断キット
本発明はまた、低減したヒトACE2発現がACE2遺伝子発現を制御する多型の結果であることをも示す。ラットでのQTLマッピングは、低減したACE2のレベルと高血圧症および心血管疾患および腎臓疾患との間に100%の相関関係があることを示している。以下に記載する多型のいずれもACE2コード領域には見出されていない。すべてACE2コード領域の上流または下流に存在する。これら多型あるいは心血管疾患、腎臓疾患、肺疾患および高血圧症におけるこれら多型の役割はこれまで知られていなかった。特定のSNPハプロタイプは疾患のリスクの増大と関係している。このハプロタイプは、疾患のリスクの評価のため、および適当な医療処置の決定のために重要な診断ツールである。
【0060】
これら多型は以下のとおりである:
【表1】
【表2】
【0061】
上記および図11に記載したACE2遺伝子発現を制御する多型のヌクレオチド番号は、当業者が容易に決定することができる。
【0062】
図表は、該図表中の3つの各集団(アフリカ系アメリカ人、カフカス人、アジア人)で参照塩基が見出されるパーセントを示す。たとえば、SNP rs233574では予測されたSNPはC/Tであり、参照ピークはCである。この場合、アフリカ系アメリカ人の対立遺伝子頻度は80%C;アジア人の対立遺伝子頻度は100%C(換言すると、単一形態のマーカー);およびカフカス人の対立遺伝子頻度は60%Cである。
【0063】
本発明は、動物の遺伝子型の決定、すなわち、あるヒトがこれら多型の一つまたは他方についてホモ接合性であるかあるいはこれら多型についてへテロ接合性であるか否か、敷衍すればあるヒトの表現型の決定に用いることのできるポリヌクレオチドプローブを提供する。表現型は、そのヒトの細胞でのACE2発現の量を示す。さらに、本発明は、そのような遺伝子型および表現型の決定にそのようなポリヌクレオチドを使用する方法を提供する。本発明のオリゴヌクレオチドは、当該技術分野で知られた方法(たとえば、米国特許第5,792,851号および同第5,851,788号を参照)に従って核酸分子を検出するためのプローブとして用いることができる。
【0064】
たとえば、本発明のポリヌクレオチドは、その末端をジゴキシゲニン−11−デオキシウリジン三リン酸を用いて標識することによりプローブに変換することができる。そのようなプローブは、アルカリホスファターゼをコンジュゲートしたポリクローナルヒツジ抗ジゴキシゲニンF(ab)フラグメントおよびニトロブルーテトラゾリウムを発色性基質としての5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸とともに用いて免疫学的に検出することができる。
【0065】
それゆえ、本発明の一つの側面によれば、ACEの上流または下流配列の一部に選択的にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブが提供される。プローブは、特定の多型を識別するため、一つのACE2多型にはストリンジェントな条件下でハイブリダイズするが他の多型にはハイブリダイズしないようにデザインすることができる。
【0066】
本発明の多型特異的なポリヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブは、たとえば、ゲノムDNAまたは合成DNAを含んでいてよい。そのようなオリゴヌクレオチドプローブは自動合成により合成することができ、約10〜30塩基を含んでいるのが好ましいが、オリゴヌクレオチドプローブハイブリダイゼーションアッセイの技術分野で理解されるように、標的との潜在的なミスマッチが生じるプローブ内での位置、プローブ上の標識がハイブリダイゼーションを妨害する程度、およびプローブと標的とのハイブリダイゼーションを行う物理的条件(たとえば、温度、pH、イオン強度)に依存して、わずか8のヌクレオチドも約50もの多くのヌクレオチドも有用でありうる。常法に従えば、本発明によるポリヌクレオチドプローブのデザインは、ハイブリダイゼーション条件(温度、イオン強度、暴露時間)に適合させるが多型特異性は確保すべくプローブの長さを調節することを含むのが好ましい。
【0067】
本発明の他の側面によれば、下記:
(a)ACE2の5’または3’領域の少なくとも一部を含む核酸を増幅させる手段、ここで該一部はACE2a〜ACE2mの一つに対応するヌクレオチドを含む、および
(b)一つのACE2多型を他の多型から識別する本発明のポリヌクレオチドプローブ
を含む遺伝子型決定のための試験キットが提供される。
【0068】
「増幅させる手段」は、当業者であれば容易に理解できるように、使用した増幅法に依存する。それゆえ、これら手段は、もしも増幅がPCR法によって行われるのであれば、適当なプライマー、適当なDNAポリメラーゼ、および4種の2’−デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dA、dC、dG、dT)を含んでいてよい。他の例を挙げると、増幅を3SR法などの転写に基づく方法によって行うのであれば、これら手段は、2つのプライマー(そのうち少なくとも一方は二本鎖となったときにプロモーターを提供する)、該プロモーターから転写することのできるRNAポリメラーゼ、プライマーにより開始されDNA指向(DNA-directed)およびRNA指向(RNA-directed)のDNA重合において、およびおそらくRNA/RNAハイブリッドからDNA鎖を遊離させるRNAのRNAseH分解において機能する逆転写酵素、4種のリボヌクレオシド三リン酸(A、C、GおよびU)、および4種の2’−デオキシリボヌクレオシド三リン酸を含んでいるであろう。他の例として、増幅をLCRにより行うのであれば、これら手段は、2つのオリゴヌクレオチド、および標的(該標的にはこれら両オリゴヌクレオチドがライゲート可能な方向にて互いに隣接してハイブリダイズすることができる)が存在する場合にこれら2つのオリゴヌクレオチドを連結する適当なDNAリガーゼを含んでいるであろう。
【0069】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブは標識するのが好ましいであろう。標的は、そのようなプローブの技術分野で利用できる種々の標識のいずれであってもよく、32P;35S;ビオチン(これにアビジンと結合したまたは複合体を形成したシグナル生成残基を複合させることができる);蛍光残基;アルカリホスファターゼ(発色性反応を触媒することができる)などの酵素;上記に記載したジゴキシゲニンなどが含まれるが、これらに限られるものではない。
【0070】
RFLP分析、電気泳動SSCP分析またはシークエンシング分析もまたACE2多型の検出に用いることができる。
【0071】
本発明の他の側面によれば、動物に由来するACE2核酸中のACE2多型特異的な標的配列の遺伝子型を決定する(typing)方法であって、下記工程:
(a)心臓または腎臓からのDNAに適用した標的核酸増幅法により、ACE2の上流または下流領域の部分配列(subsequence)(または部分配列の相補鎖)である配列を有するアッセイ可能な量の増幅した核酸を得、ここで該部分配列はACE2多型が存在するかもしれないヌクレオチドを含んでおり、ついで
(b)工程(a)で得た増幅核酸を分析して(たとえば、本発明によるポリヌクレオチドプローブを用いた核酸プローブハイブリダイゼーションアッセイにて)多型の位置にある1またはそれ以上の塩基を決定する
を含む方法もまた提供される。
【0072】
本発明の遺伝子型決定法の一つの応用において、これら方法は、ある個体に適用して該個体が心臓または腎臓疾患を発症するリスクにあるか否かを決定する。
【0073】
冠状動脈疾患を有しおよび/またはその後のバイパス手術を受けた患者は心臓の低酸素症を有する。それはまた、心性気絶(cardiac stunning)または心性冬眠(cardiac hibernation)としても知られる。これら患者では心臓の構造上の変化は殆どみられないが心臓の機能は低下している。構造上の変化なしに心臓の機能が変化することは非常にまれなことである。心性気絶または低酸素症のマウスモデルでは、動物はACE2マウスの表現型と正確に似通った表現型を有する。さらに、本発明者らは低酸素症のマーカーがACE2欠失マウスで誘発されることを示した。総合すると、本発明者らのデータは、これらマウスが慢性低酸素症のために心臓機能が低下しており、それゆえ冠状動脈疾患のモデルであることを示している。それゆえ、ヒトにおいてこの状態を診断するため、多型および/または低減したACE2発現または活性を用いることができる。他の例は、拡張型心筋症を有する患者の心臓の機能が該疾患の発症がACE2多型と関係することを示すか否かを試験することである。ACE2発現および活性の増大を該状態を治療するために用いることができる。
【0074】
RASの負のレギュレーターとしてのACE2の特徴付け
ACE2は高血圧の3つのラットモデルにおいて高血圧症と関係するQTLにマッピングされ、ACE2レベルはこれら高血圧症ラット株のすべてにおいて低減される。マウスでは相同的組換えを用いたACE2の遺伝子不活化は、組織中のAngIIペプチドレベルの増大、心臓での低酸素症遺伝子のアップレギュレーション、および重篤な心臓の機能不全という結果となる。
【0075】
ace2欠失背景でのACE発現の除去(ablation)は、ace2単一ノックアウトマウスの心不全表現型を完全に排除した。これらデータはRASの制御のための新たなパラダイムを提供するものであり、ACE2を心臓機能を制御するRASの負のレギュレーターとして同定するものである。
【0076】
ACE2および血圧の制御
大抵の心血管疾患は、遺伝的因子および環境因子の両者によって制御される多因性の定量的形質である。心血管疾患の一つの主たる因子はRASである。遍在的に発現されるACEとは対照的に、最近同定されたACE2は組織特異的な発現を示す。ACE2は、そのAngI基質に対してACEと競合することにより、および/またはAngIIを開裂してAng1−7を生成することにより、内生のAngIIレベルを制御している。本発明の前には心血管系におけるACE2のインビボの役割については何も知られていなかった。ACE2はAngIIの内生レベルを制御している。ACE2はまたRASの負のレギュレーターとしても機能している。
【0077】
自発的なまたは食餌により誘発した高血圧症および心血管疾患を発症している3つの異なるラット株において、ACE2はX染色体上の定められたQTL内にマッピングされる。これら高血圧症に対して罹患性のラット株のすべてにおいて、ACE2 mRNAおよびタンパク質のレベルはダウンレギュレーションされていた。SabraラットでのQTL分析において同定されたSS−X遺伝子座はまた、塩負荷(salt loading)に対して耐性を付与する遺伝子座としても同定された。塩感受性株におけるACE2の低減および耐性株におけるその発現の変化がないことは、ACE2が食餌誘発による血圧の変化に対して耐性を付与することを示している。
【0078】
その地図上の位置および低減した発現は、ACE2がX染色体上の高血圧性QTLに寄与する遺伝子であることを示している。さらに、ace2ヌルマウスにおけるAngIおよびAngIIの増大した発現は、ACE2がインビボでのRAS系のレギュレーターであることを確認している。しかしながら、本発明者らのマウスでのACE2の喪失は、ACE機能を阻止した場合でも血圧の直接的な変化という結果とはならなかった。血圧の変化は、老齢の雄マウスに極度の心臓機能不全が存在する場合にみ生じた。高血圧症に寄与する遺伝的因子は、それ自体では血圧を変化させることはない。むしろ、これらQTLは、それが他の遺伝的多型と協調して血圧の変化を促進するような血圧の単一の決定因子を定めるものである。本発明者らはヒトの集団においてACE2多型と高血圧との関係を同定した。重要なことには、本発明者らのデータはACE2が高くなった血圧の負のレギュレーターとして機能することを示している。
【0079】
ACE2および心臓機能の制御
予期しないことに、マウスでのACE2の喪失は、老齢マウスにおいて全身血圧の重篤な低下に導く重度の収縮機能不全という結果となる。重要なことに、この心臓機能不全はACEの破壊によって完全に元に戻り、ACEの触媒産物がACE2の不在下での収縮障害を駆動することが示唆される。これら収縮性欠陥は肥大または血圧の検出しうる変化の不在下でも生じうるので、本発明者らのデータはまた、RAS制御された心臓疾患表現型が血圧および心臓肥大に対するその影響とは遺伝的に切り離しうるという遺伝的な証拠をも提供するものである。
【0080】
ACE阻害剤およびAngIIレセプターブロッカーはヒトの心不全において心臓保護の役割を有することが示されており、それゆえAngIIは心臓疾患に関与している。本発明者らのace/ace2二重突然変異マウスでの心臓機能不全の完全な排除は、RASが心臓機能を直接制御していること、およびACE2はRASおよび心不全と拮抗する重要な負のレギュレーターであることを示している。本発明者らの遺伝的救済実験は、心不全を駆動するのは実際にACEの産物であること、すなわちace2ヌルマウスの心臓で認められるAngIIの増大が心臓機能不全の原因であることを強く示している。AngIIレセプターの薬理学的な抑制がace2突然変異体マウスの心臓表現型を救済するのか否かは決定する必要がある。興味深いことに、ハエにおける本発明者らの結果は、ACEホモログであるACERと関連したP因子突然変異が心臓形態形成の重篤かつ致死的な欠陥という結果となる(データは示していない)ことを示しており、これは心臓でのACE/ACE2機能が進化の過程で保存されてきたことを示している。
【0081】
ace2突然変異体心臓での欠陥は、重篤な収縮性機能不全および低酸素症により制御された遺伝子のアップレギュレーション(老齢マウスではわずかなリモデリングのみ)、肥大がないこと、筋細胞喪失の徴候のないことを特徴とする。これらのace2突然変異体マウスでの機能障害の(failing)心臓の表現型および分子パラメーターは、肥大および拡張性心筋炎とは異なるものである。むしろ、興味をそそられることには、ace2突然変異体心臓は、ヒトの冠状動脈疾患の症例およびバイパス手術の症例で認められる心性気絶および冬眠に似ている。これらヒトの疾患および心性気絶/冬眠の動物モデルでは、慢性の低酸素状態が筋細胞代謝の補償的な変化、低酸素症誘発性遺伝子のアップレギュレーション、および心臓機能の低減に導く。ACE2は血管の内皮で発現され心筋細胞では発現されないので、ACE2の作用は脈管系に限定されていそうである。たとえば、AngIIの局所的な増大は血管収縮に導き、低潅流(hypoperfusion)および低酸素症という結果となる。AngIIはまた、酸化的ストレスの誘発により内皮の機能不全を引き起こすことが示されている。ACE2の喪失が低酸素症誘発性遺伝子のアップレギュレーションという結果となりうるメカニズムは決定される必要がある。重要なことに、本発明者らのデータはACE2の多型がヒトにおいて冠状心疾患の病理を引き起こすことを示している。
【0082】
実施例
ACE2は3つの高血圧症ラット株においてX染色体上のQTLにマッピングされる
高血圧症および大抵の心血管疾患は性質が多因子性であり、疾患の病因は複数の罹病性遺伝子座の影響を受ける。種々の組換えラットモデルにおいて、高血圧症の複数のQTLが同定されている。ACE2がヒトのX染色体上にマッピングされること、および高血圧症の幾つかのラットモデルにおいてQTLがX染色体上にマッピングされ、これには未だに候補遺伝子が割り当てられていないことから、ACE2がこのQTLの候補遺伝子でありうる。ラットACE2の染色体マッピングを容易にするため、ラット腎臓cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより完全長のラットACE2 cDNAをクローニングした。ラットACE2はヒトACE2と高度に相同であり、ヒトおよびマウスのACEと32%同一で42%類似である(図1a)。ヒトACE2と同様、ラット遺伝子は保存された亜鉛結合部位を含む単一のACEドメイン、シグナルペプチドおよび膜貫通ドメインを含む(図1b)。ヒトと同様、マウスおよびラットでのACE2は腎臓および心臓で優先的に発現され、肺および肝臓でも弱い発現が認められる(図1c)。
【0083】
放射線ハイブリッドマッピング(radiation hybrid mapping)は、ラットACE2遺伝子がX染色体上にマッピングされることを示し、マーカーDXRat9、DXWox14、DXWox15およびDXRat42への有意のLODスコアを有し、ace2はDXRat9とDXRat42との間に位置付けられた(図1d)。比較マッピングは、ace2マッピングの位置がマーカーDXMgh12とDXRat8との間で認められSabra塩感受性ラットで同定された高血圧症についてのQTL間隔(interval)(SS−X)と重複することを示していた。さらに、染色体ace2領域はSHRSPラット(stroke-prone spontaneously hypertensive rats)で定められたBP3 QTLにマッピングされ、以前に同定された高血圧症BB.X QTLはコンジェニック分析により自然発症高血圧症ラット(SHR)のX染色体上で同定された(図1d)。それゆえ、ACE2は自然発症および食餌誘発高血圧症の3つの別個のモデルにおいてラットX染色体上のQTLにマッピングされる。
【0084】
高血圧症ラットにおけるACE2発現のダウンレギュレーション
腎臓が血圧制御の主たる部位であるので、これら3つの高血圧症ラット株の腎臓でのACE2発現レベルを決定した。ACE2 mRNAレベルをまず塩感受性Sabra高血圧症(SBH/y)ラットおよび対照の塩耐性Sabra正常血圧(SBN/y)ラットの腎臓で測定した。塩負荷(DOCA塩による)は正常血圧SBN/yラットにおけるACE2 mRNA発現に対して影響を及ぼさなかった。興味をそそられることには、SBH/yラットでは、塩負荷および高血圧症の発症は正常血圧SBN/yラットと比較してACE2 mRNA発現の有意の低減と関係していた(図2a)。注目すべきは、通常の食餌を与えられたSBH/yラットでも同様の食餌を与えられたSBN/y対照と比較してACE2 mRNAが低かったことである。この後者の知見は、通常の食餌を与えられたSBH/yラットとSBN/yラットとの間で観察された血圧の10〜20mmHgの差異と一致する。
【0085】
ACE2タンパク質レベルを測定するため、ACE2(マウスACE2のアミノ酸206〜アミノ酸225)特異的なウサギ抗血清を生成した。この抗血清はラットACE2およびヒトACE2の両者と交差反応した(示していない)。低減したACE2 mRNA発現と一致して、通常の食餌を与えられたSBH/y動物ではACE2タンパク質の発現は顕著に低下した(図2b)。4週間DOCA塩の食餌を与えた後のSBH/yラットの血圧の上昇は、ACE2タンパク質発現のさらなる低減と相関していた(図2b)。塩耐性SBN/y対照ラットでは、塩負荷は血圧の上昇を駆動することもACE2発現を変えることもなかった(図2b)。ACE2タンパク質レベルはまた、WKY対照と比較して自然発症高血圧症SHRSPおよびSHR動物の腎臓で有意に低減した(図2b)。さらに、ACE2 mRNAのレベルは高血圧症SHRSPおよびSHRラットで顕著に低下した(示していない)。高血圧症ラット株でのACE2のコード領域のクローニングおよびシークエンシングからは配列変化が明らかにされず、低減したACE2発現はACE2遺伝子発現を制御している多型の結果によりそうであることを示していた。地図上の位置および3つの異なるラット株でのACE2の低減した発現は、ace2がX染色体上のこの高血圧QTLの強力な候補遺伝子であることを示している。さらに、3つのすべての高血圧症ラット株における低減したACE2発現は、この酵素が負のレギュレーターとして機能することを示唆していた。
【0086】
マウスACE2のクローニングおよびACE2ノックアウトマウスの生成
QTLとしてのACE2の候補性を確認するため、およびACE2が実際に心血管生理および心血管疾患の病因において本質的な役割を果たしているか否かを試験するため、マウスACE2遺伝子をクローニングした(図1a)。ラットおよびヒトACE2と同様、マウスACE2もまたX染色体上にマッピングされ(示していない)、単一のACE−ドメインを含み(図1b)、腎臓および心臓で優先的に発現された(図1c)。興味深いことに、マウスではACE2について2つのイソ型が全ての陽性の組織で観察された。COS細胞におけるマウスACE2の過剰発現はACE2がAngIをAng1−9に開裂することを示しており(示していない)、マウスACE2がヒトACE2と同じ生化学的特異性を有することを示していた。ACE2のインビボでの役割を決定するため、マウスのace2遺伝子を破壊してエクソン9をネオマイシン耐性遺伝子で置換し、亜鉛結合触媒ドメインを有効に欠失させた(方法および図3a)。ace2遺伝子座で突然変異した2つのES細胞株を用いてキメラマウスを生成し、これをC57BL/6に戻し交配して生殖細胞伝達(germ transmission)を得た。両マウス株は同一の表現型を示した。ace2突然変異の伝達はサザーンブロット分析により確認した(図3b)。ace2のヌル突然変異は、ノーザンブロット分析(示していない)およびウエスタンブロット分析(図3c)でのace2 mRNA転写物およびタンパク質の不在によって確認された。腎臓および心臓でのACE mRNA発現はace2突然変異体マウスでも変わらなかった(図3d)。
【0087】
ACE2遺伝子はX染色体上にマッピングされるので、雄の子孫はすべてACE2に関してヌル突然変異体(ace2−/y)かまたは野生型(ace2+/y)のいずれかであり、一方、雌の子孫はace2の突然変異に関して野生型(ace2+/+)、へテロ接合性(ace2+/−)、またはホモ接合性(ace2−/−)のいずれかであった。以下に記載する全ての実験において、ace2+/−雌はace2+/+雌と同様の挙動を示し、ace2+/y雄はace2のへテロ接合性の見かけの影響がないことを示していたことに注意すべきである。ACE2ヌルマウスは予期されたメンデルの法則による頻度で生まれ、健康に見え、分析した全ての臓器で肉眼的な検出しうる変化を示さなかった。さらに、有意に低減した棯性を示すace2−/−雄マウスと対照的に、雄および雌のace2ヌルマウスはいずれも棯性である。
【0088】
ace2突然変異体マウスにおける血圧
ace2突然変異体マウスは低下した血圧および腎臓の病理を示すことが以前に示されている。それゆえ、ACE2発現の喪失が血圧のホメオスタシスおよび/または腎臓の発生または機能に影響を及ぼすか否かをまず試験した。興味をそそられることには、ACE2の喪失は、対照の同腹子と比較して3ヶ月齢のace2−/y雄マウス(図4a)またはace2−/−雌マウス(示していない)で血圧の変化という結果とはならなかった。ACE2の喪失をACEが補償するということはあり得るので、本発明者らはace2欠失マウスをカプトプリル(ACE機能を阻害するがACE2機能は阻害しない)で処理した。しかしながら、カプトプリルを用いたACEのインビボでの抑制は、ace2−/y雄マウスの血圧をカプトプリル処理した野生型の同腹子で観察されるのと同程度に低下させた(図4a)。それゆえ、ACE抑制というシナリオにおいても、この定められたマウスの背景においてACE2の喪失は血圧のホメオスタシスに対して何ら明らかな直接的な影響を及ぼさない。本発明者らのRAS QTLデータに基づき、本発明者らは本発明者らの突然変異体マウスを他のマウス背景に戻し交配してヒトにおける遺伝的背景と同様に血圧制御におけるACE2の役割を示した。
【0089】
ace2突然変異体マウスにおける腎臓機能の障害
ACE2は腎臓で高度に発現されるので、本発明者らは腎臓の形態および機能を調べた。3ヶ月齢および6ヶ月齢のace2−/y雄マウスおよびace2−/−雌マウスはすべて正常な腎臓の形態を示し、腎臓のいかなる超微細構造の見かけの変化も示さなかった(図4b)。腎管系および糸球体の正常な細胞性および腎構造もまた、連続切片形態計測を用いて確認された。
【0090】
雄ace2欠失マウスおよび年齢を一致させた同腹子対照マウスからの腎臓を、光学顕微鏡(PAS染色)および電子顕微鏡(TEM)を用い、3ヶ月齢および12ヶ月齢で調べた。各糸球体の硬化の重篤度を以下のとおり盲検により0から4+までの段階で評価した:0は病変のないことを示す、1+は糸球体の<25%の硬化、2+、3+、および4+は、それぞれ糸球体の25〜50%の硬化、50〜75%の硬化、および>75%の硬化を示す。3ヶ月齢ではace2欠失マウスからの腎臓に病理学的変化の徴候は認められなかった。しかしながら、12ヶ月齢では、光学顕微鏡は糸球体硬化/障害の増大を明らかにした:1.45±0.2vs0.25±0.06;n=6;p<0.01。電子顕微鏡は、腎メサンギウム中の膠原原線維の沈着の増大および肥厚した基底膜を示した。上昇したAngIIレベルへの長期にわたる暴露は、ace2欠失マウスからの腎臓で低酸素症および酸化的ストレスに導く。ウエスタンブロット分析は、ace2欠失マウスからの腎臓において低酸素症誘発因子1α(hypoxia inducible factor-1 alpha;HIF1−α)および血管内皮増殖因子(VEGF)の上昇した発現を明らかにした。脂質過酸化産物の測定は、6ヶ月齢のace2欠失マウスでの酸化的ストレスの増大を示した:ヘキサナール(1001±161vs115±13ナノモル/g;n=5;p<0.01)およびマロンジアルデヒド(48±6.4vs24.3±2.8ナノモル/g;n=5;p<0.01)。
【0091】
これら結果は、ACE2の喪失が組織特異的な仕方でアンジオテンシンIIシグナル伝達の促進に導くこと、このシグナル伝達の促進が最終的にace2欠失マウスの腎臓での有害な作用を媒介することを示している。低減したACE2発現は、腎臓疾患において重要な病理学的役割を果たしている。
【0092】
ACE2の喪失は心臓機能の重篤な欠陥という結果となる
ACEまたはAngIIレセプターの薬理学的な抑制は、心臓機能の制御および心臓肥大におけるRASの役割を示唆した。しかしながら、aceヌルマウスもアンジオテンシノーゲンヌルマウスもともに明白な心臓疾患を発症しない。ACE2は心臓の血管で高度に発現されるので、ace2欠失マウスの心臓を分析した。ace2突然変異体マウスの心臓は、左心室壁のわずかな肉薄および心室サイズの増大を示す(図5a)。ace2欠失心臓での左心室前壁(anterior left ventricular wall;AW)の肉薄および左心室端拡張径(left ventricle end diastolic dimension;LVEDD)の増大も心エコーにより認めることができる(表1)。これらの構造的な変化は、主として6ヶ月齢の雄マウスで観察される。しかしながら、心重量比は年齢を一致させた3ヶ月齢(示していない)および6ヶ月齢のace2−/yマウスとace2+/yマウスとの間で同程度であった(図5a、図5b)。心エコーはまた、左心室重量(LVM)およびLVM/体重比が正常であることを示した(表1)。間質性心臓線維症の適応症も(図5c、図5d)ANF、BNP、a−MHC、b−MHC、および骨格筋アクチン遺伝子発現の基本型変化も(示していない)認められなかったので、拡張性心筋炎の構造的および生化学的変化の特徴は観察されなかった。さらに、ACE2ヌルマウスの個々の心筋細胞は肥大の徴候を示さず、TUNEL染色によって検出されるように(示していない)本発明者らはACE2ヌルマウスで変化した心筋細胞アポトーシスの証拠を観察しなかった。それゆえ、6ヶ月齢のACE2ヌルマウスの心臓の軽い拡張にも拘わらず、心臓肥大または拡張性心筋炎の証拠はなかった。
【0093】
興味深いことに、心エコーによる心臓機能の評価は、短縮比(fractional shortening;FS)の低減、および周辺繊維短縮の速度(velocity of circumferential fiber shortening)の低減によって決定されるように(表1および図6a、図6b)、すべてのace2−/y雄マウスおよびace2−/−雌マウスが重篤な収縮性心不全を示すことを明らかにした。機能の低減は年齢を一致させた3ヶ月齢のマウスと比較して6ヶ月齢の雄および雌マウスの方が重篤であることが認められ、表現型の進行を示唆していた(表1)。心筋収縮能の低下と一致して、6ヶ月齢ace2−/yマウスは血圧の低下を示したが(図6c)、これは年齢の一致するace2−/−雌マウスおよび3ヶ月齢の雄マウスでは認められない特徴であり、血圧の低下が重篤な心臓の機能不全の結果によるものであって全身血圧に対するACE2の喪失の直接の効果ではないことを示唆していた。これらの驚くべき結果は、ACE2が心臓の収縮能の重要な負のレギュレーターであることを示している。
【0094】
心臓機能における心エコー欠陥を確認するため、侵襲性の血行力学的測定をace2ヌルマウスで行った。重要なことに、侵襲性の血行力学的測定はdP/dT−maxおよびdP/dT−minの両者がace2突然変異体マウスで顕著に低下することを示し(表2)、収縮性の心臓機能の重篤な障害を示していた。ACE2の喪失はまた大動脈圧および心室圧の有意の低下という結果となり、観察された心筋収縮能の低下と一致していた(表2)。注目すべきことに、これらデータは、ace2突然変異体マウスの心筋収縮能の欠陥が明らかな心臓肥大がなくても起こり、血圧の変化とは遺伝的に関係がありえないことを確立するものである。
【0095】
ace2ヌルマウスにおける低酸素症誘発性遺伝子のアップレギュレーション
ace2ヌルマウスでの肥大または心臓線維症の不在下での重篤な収縮性の機能不全および軽い拡張は、ヒトおよび動物モデルでの心性気絶/冬眠と似ている。心性気絶および冬眠は、冠状動脈疾患やその後のバイパス手術などの慢性の低酸素症への適応応答である。ACE2は血管内皮細胞で高度に発現されるが収縮能は心筋細胞によって制御されるので、ACE2の喪失は心臓の低酸素症という結果となりうることが考えられた。それゆえ、BNIP325やPAI−1などの低酸素症誘発性遺伝子の発現レベルをノーザンブロッティングにより分析した。すべてのace2ヌルマウスの心臓において、BNIP3およびPAI−1のmRNA発現は野生型の同腹子と比較して顕著にアップレギュレーションしていた(図7a)。それゆえ、ACE2の喪失は低酸素症制御された遺伝子発現プロフィルの誘発という結果となる。
【0096】
ace2ヌルマウスでの増大したアンジオテンシンIIレベル
ACE2はカルボキシペプチダーゼとして機能し、AngIから単一残基を解離してAng1−9を、AngIIから単一残基を解離してAng1−7を生成するので、ACE2は基質AngIおよび/またはAngIIの開裂および不活化に対してACEと競合することによりRASの負のレギュレーターとして機能するという仮説が立てられた。もし正しければ、ACE2の喪失はインビボでAngIIレベルを増大させるに違いない。ラジオイムノアッセイを用い、AngIIレベルが実際にace2突然変異体マウスの腎臓および心臓において有意に増大することがわかった(図7b)。さらに、AngIの増大もまた観察され(図7b)、このことはAngIがACE2作用のインビボでの基質であることと一致していた。ACEのmRNAレベルは、対照と比べてace2突然変異体マウスの心臓および腎臓で差異は認められず、増大したAngIIの組織レベルが増大したACE発現によるものではないことを示していた(図3d)。これらデータは、ACE2がRASの負のレギュレーターとして機能し、AngIIの内生レベルを制御していることを示している。
【0097】
ace2欠失マウスでのACE発現の排除は心不全を救済する
もしもace2突然変異体マウスの心臓の表現型がAngIIレベルの増大によるものであるなら、ACEの遺伝的排除とACE2の破壊との組み合わせはAngIIレベルを低減させACE2突然変異体マウスで観察された表現型を救済できる。この考えを検証するため、ace/ace2二重突然変異マウスを生成した。これら二重突然変異マウスは予期されたメンデルの法則比に従って生まれ、健康にみえた。ace−ace2二重ヌルマウスでの血圧(図8a)および腎臓の欠陥(示していない)はace単一突然変異マウスのものと同様であった。ace−ace2二重突然変異マウスの棯性は問題とならなかった(not addressed)。それゆえ、ACEおよびACE2の両者の喪失はace単一突然変異マウスで認められるもの以上の明らかな疾患を引き起こすことはない。
【0098】
ACEノックアウトマウスの心臓機能はこれまでに報告されていないので、これらマウスでの心臓パラメーターをまず分析した。ace−/−マウスでは心臓は組織学的に正常であり(示していない)、心臓機能の欠陥は6ヶ月齢では検出することができなかった(図8b、図8c)。重要なことに、ace2突然変異背景上のACE発現の排除はace2単一ノックアウトマウスの心不全表現型を完全になくした(図8b、図8c)。さらに、心エコーを用い、6ヶ月齢の年齢を一致させたace−ace2二重突然変異マウスのすべての心臓機能は、ace単一突然変異同腹子および野生型同腹子のものに匹敵していた(表1)。心臓機能の回復は雄および雌の両方のace−ace2二重突然変異マウスで生じた。これら遺伝的データは、ACE2の不在下で収縮性の心不全を誘起するにはACE発現が必要であることを示している。重要なことに、aceノックアウトマウスとace/ace2ノックアウトマウスとで血圧に差異はなく(図8a)、より老齢の雄のace2マウスでの血圧の低下は心臓機能の劇的な増大によるものであることがさらに示唆された。
【0099】
ACE2は肺障害を負に制御する
成人呼吸障害症候群(ARDS)は急性肺障害の重篤な症例であり、集中治療を受けられる場合であっても致死率は40〜70%である。外傷、重度の敗血症(全身感染)、散在性(diffuse)肺炎およびショックがARDSの最も重篤な原因であり、これらのうちでも酸誘発肺障害(acid-induced lung injury)は最も一般的な原因の一つである。酸呼吸関連肺障害(acid aspiration-associated lung injury)を引き起こす潜在的なメカニズムとしては、肺胞−毛細管膜へのHClにより誘発された損傷、および多形核好中球(PMN)の付着、活性化および隔離(sequestration)(肺浮腫およびガス交換の劣化という結果となる)が挙げられる。ARDSの治療は、機械換気、および陥っている病気または障害の継続した治療からなる。肺がさらなる肺胞−毛細管膜の損傷に陥ることを防ぐ新規な薬剤を用いた支持的な治療は、患者が陥っている病気や障害を治療するためにARDS患者の肺の機能を保存し、ARDSの致死率の低下に導くであろう。
【0100】
ACE2は肺で発現されるので、本発明者らはACE2の喪失が急性肺障害において何らかの役割を果たしているか否かを評価した。図9は、HCl処理したマウスおよび対照マウスでの肺エラスタンスの3時間の間での変化を示す。HCl投与後、野生型マウスは4時間以上生存したのに対し、ACE2ノックアウトマウスは2〜3時間以内に死亡した。生存の差異を反映して、ACE2ノックアウトマウスは肺エラスタンスにおいて野生型マウスよりも有意に重篤な応答を示した。それゆえ、ACE2は急性の酸誘発障害から肺を保護するうえで顕著な役割を果たしている。かくして、ACE2の機能および/または発現を促進させることは、ARDSおよび肺障害の治療の新規かつ予期されなかった標的である。
【0101】
方法
マウスおよびラットACE2のクローニングおよび染色体QTLマッピング マウスACE2を特許(proprietary)ESTデータベースからクローニングした。マウスACE2プローブを用い、本発明者らはついでラット腎臓cDNA(Invitrogen)をスクリーニングしてDNAシークエンシングによって決定されるように完全長ラットcDNAを得た。染色体マッピングのため、ラットACE2 cDNA特異的プローブを用いてラットPACライブラリー(RPCI−31、Research Genetics)をスクリーニングし、2つの陽性クローン(6M6および125K9)を同定した。これらクローンの末端配列を決定し、ラット特異的なプライマー(mc2L:5’−TCAATTTACTGCTGAGGGGG−3’、mc2R:5’−GAGGGATAACCCAGTGCAAA−3’)をデザインして放射性ハイブリッドパネル(RH07.5、Research Genetics)をスクリーニングすることによりラットでのACE2の染色体地図上の位置を決定した。SHRおよび対照WKYラットをHarlanから入手し、Ontario Cancer Instituteの動物施設にて研究所のガイドラインに従って維持した。SHRSPラットからの組織は、Detlev Ganten博士(ドイツ)の好意により提供された。塩耐性および塩感受性のSabraラットは、Ben-Gurion University Barzilai Medical Center(イスラエル)の動物施設で飼育し保持した。Doca-塩処理は上記に記載したとおりであった。
【0102】
発現分析 全RNAをラット腎臓からトリ試薬(tri-reagent)を用いて調製した。20mgのRNAを0.8%ホルムアルデヒドゲル上で分離した。ナイロンメンブレン(Amersham)にブロットし、部分的ラットACE2 cDNAクローン(9−1)でプローブした。β−アクチンプローブおよびMultiple tissue Northern blotsはClontechから購入した。ウエスタン分析のため、腎臓を「完全」プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)および1mM Na3VO4を添加した溶解緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.4、20mM EDTA、および1%トリトン−X100)中でホモジナイズした。100mgのタンパク質を8%トリス−グリシンゲル上のSDS−PAGEにより分離した。ACE2免疫血清は、マウス特異的ACE2ペプチドDYEAEGADGYNYNRNQLIEDで免疫したウサギから得た。この血清をsulpho-link kit(Pierce)を用いて免疫ペプチドでアフィニティー精製した。市販のβ−アクチン抗体を負荷対照として用いた(Santa Cruz)。
【0103】
ACE2突然変異体マウスの生成 標的ベクター(559塩基対のショートアーム、および8.1キロベースのロングアーム)をpKO Scrambler NTKV−1907ベクター(Stratagene)を用いて構築した。ヌクレオチド+1069〜+1299を含むace2ゲノムDNAの一部をネオマイシン耐性カセットとアンチセンスの方向で置換した。ターゲティング構築物をE14K ES細胞にエレクトロポレーションにより導入し、陽性の相同組換えESクローンのスクリーニングを5’および3’フランキングプローブにハイブリダイズしたEcoRI−消化ゲノムDNAのサザーンブロッティングにより行った。2つの独立したace−/yES細胞株をC57BL/6由来胚盤胞に注入してキメラマウスを生成し、これをC57BL/6マウスに戻し交配した。2つのES細胞株は、独立した生殖細胞伝達を与えた。この原稿で報告するデータは、これら2つの突然変異体マウス株の間で一致するものである。ACE2発現の排除がRT−PCR、ノーザンブロット分析、およびウエスタンブロット分析により確認された。すべての実験に同腹子のマウスのみを用いた。すべての組織の組織学、アポトーシスアッセイ、血液の血清学、および腎臓の形態計測は文献記載によった31。完全なACE突然変異体マウスはこれまでに記載されており8、Jackson Laboratoriesから入手した。マウスはOntario Cancer Instituteの動物施設にて研究所のガイドラインに従って維持した。
【0104】
心臓の形態計測、心エコー、血行力学および血圧の測定 心臓の形態計測のため、心臓を10%緩衝ホルマリンで60mmHgにて潅流し、その後、パラフィン中に埋設した。心筋間質性線維症の決定は、Photoshop 6.0ソフトウエアと結合したImage Processing Tool Kit version 2.5を用いた色彩減算コンピューター支援造影分析(color-subtractive computer assisted image analysis)を用いた定量的な形態計測により行った。Picro-Sirius赤色染色切片を用い、全視野と比較した陽性のPSR染色を有する面積の比として間質性線維症を計算した。心エコー評価は、野生型および突然変異体の同腹子を用いて文献記載に従って行った32。マウスをイソフルオラン/酸素で麻酔し、15MHz一次変換器を備えたAcusonR Sequoia C256を用いた経胸腔的心エコーにより調べた。FSは、FS=[(EDD−ESD)/EDD]*100として計算した。Vcfcは心拍数について補正したFS/拍出時間として計算した。血行力学的測定は文献記載に従って行った。簡単に説明すると、マウスを麻酔し、右頸動脈を単離し、増幅器(TCP-500、Millar Inc. 、ヒューストン)につないだ1.4 French Millarカテーテル(Millar Inc.)を用いてカニューレを挿入した。カテーテルを頸動脈に挿入した後、カテーテルを大動脈ついで左心室まで進め、大動脈圧および心室圧を記録した。測定および分析したパラメーターは、心拍数、大動脈圧、左心室(LV)収縮期圧、LV拡張期圧、およびLV圧の最大および最小一次導関数(first derivatives)(それぞれ+dP/dtmaxおよびdP/dtmax)であった。Visitech Systems(アペックス、ノース・カロライナ)によって製造されたVisitech BP-2000 Blood Pressure Analysis Systemを用い、テール−カフ(tail-cuff)血圧測定法を採用した。カプトプリル処理にあたっては、血圧測定前に2週間にわたって400mg/Lのカプトプリル(Sigma)を飲水に添加した。
【0105】
組織のアンジオテンシンペプチドレベル 心臓および腎臓を、フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF、100μM)を含む上記ペプチダーゼインヒビターを含有する80%エタノール/0.1N HCl中、氷上でホモジナイズした。タンパク質ホモジネートを30,000gで20分間遠心分離にかけ、上澄みをデカントし、1%(v/v)ヘプタフルオロ酪酸(HFBA、Pierce、ロックフォード、イリノイ)で酸性にした。上澄みをSavant真空遠心管(Savant、ファーミングデール、ニューヨーク)で5mlに濃縮し、濃縮した抽出物を活性化Sep-Paksに適用し、0.1%HFBAで洗浄し、5mlの80%メタノール/0.1%HFBAで溶出した。心臓および腎臓組織からの抽出物中のアンジオテンシンペプチド含量のラジオイムノアッセイ分析を行った。AngIIおよびAngI RIAについての検出限界は、それぞれ0.5フェムトモル/管およびAngI 5フェムトモル/管であった。
【0106】
急性肺障害モデル ACE2ノックアウトマウスおよびその同腹子(8〜12週齢)をこの研究に用いた。吸引攻撃の1分前に2回の深い吸入(1回呼吸量の3倍)を送達して容積歴(volume history)を標準化し、測定をベースラインとして行った。麻酔し機械換気したマウスに2mL/kgのHCl(pH=1.5)、ついで空気ボーラス(a bolus of air)を気管内注射した。対照群ではマウスに食塩水注射をするかまたは注射をしなかった。すべての群で測定は30分間隔で3時間行った。肺障害を生理的に評価するため、気管の最大圧、流量、および容積を測定することにより肺エラスタンス(EL;肺コンプライアンスの逆数)を評価した。ELは気管最大圧を容積で除することにより計算した。ELの変化は肺実質の変化および肺の硬化(stiffening)を反映している。
【0107】
本発明を詳細に且つ好ましい態様に特に言及しながら記載した;しかしながら、当業者であれば本発明の意図および範囲から逸脱することなく改変を行いうることが理解されるであろう。たとえば、本願がタンパク質について言及しているときはペプチドおよびポリペプチドもしばしば用いられることが明らかである。同様に、遺伝子を本願において記載している場合は核酸分子または遺伝子断片もしばしば用いられることが明らかである。
【0108】
すべての刊行物(ジーンバンクの収録項目を含む)、特許および特許出願は、それぞれの個々の刊行物、特許または特許出願がその全体において参照のため引用されると明確かつ個別に示されているのと同程度に、その全体において参照のため引用される。
【0109】
参照文献
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
【表7】
【0114】
表1:ace2ヌルマウスの心臓機能
【表8】
*p<0.05;ace2−/y対ace2+/yまたはace2−/−対ace2+/−
**p<0.01;ace2−/y対ace2+/yまたはace2−/−対ace2+/−
Bpm=1分間当たりの心拍数;AW=前壁の肉薄;LVEDD=左心室端拡張径;LVESD=左心室端収縮径;%FS=パーセント短縮比;PAV=最大大動脈流出速度(peak aortic outflow velocity);Vcfc=周辺繊維短縮の速度;LVM=計算した左心室重量;BW=体重
【0115】
表2:6ヶ月齢ace2−/yマウスの侵襲性血行力学パラメーター
【表9】
**p<0.01;ace2−/y対ace2+/y
SBP=収縮血圧;DBP=拡張血圧;MBP=平均動脈血圧;LVSBP=左心室収縮血圧;LVEDBP=左心室端拡張血圧;dP/dTmax=左心室圧の変化/時間の最大一次導関数;dP/dTmin=左心室圧の変化/時間の最小一次導関数
【0116】
表3:6ヶ月齢aceヌルマウスおよびace/ace2ヌルマウスの心臓機能
【表10】
AW=前壁の肉薄;LVEDD=左心室端拡張径;LVESD=左心室端収縮径;%FS=パーセント短縮比;PAV=最大大動脈流出速度;Vcfc=周辺繊維短縮の速度
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】ラットACE2の配列および染色体マッピングを示す。(a)ラット、マウスおよびヒトACE2のマウスおよびヒト精巣−ACE(T−ACE)とのタンパク質アラインメント。黒い陰影はアミノ酸の同一性を示し、灰色の陰影はアミノ酸の類似性の程度を示す。(b)ACEおよびACE2のドメイン構造の模式図。ACE2は共通亜鉛結合部位HEMGHを含むACEドメインを一つしか含まないことに注意。触媒中心は黒色で、シグナルペプチドは灰色で、膜貫通ドメインは斜線で示す。(c)種々の成体組織および胚発生の種々の日数(E7=胚の第7日目)でのマウスおよびラットACE2遺伝子の発現パターン。ACE2の2つのイソ型がマウスには存在するがラットまたはヒトには存在しない(示していない)ことに注意(これはACEについて認められるのと同様の特徴である15)。(d)Sabra塩感受性(Sabra salt-sensitive)動物(SS−X)、SHRSP(BP3)、およびSHRラット(BB.X)で同定したQTLのマッピングと比較した、ラットACE2の放射性ハイブリッドマッピングの結果。多型マーカー名を表意文字の左に示す。ACE2と関連するマーカーのLODスコアおよびシータ値を示す。cR=センチラド。
【0118】
【図2a】高血圧症のラットモデルにおけるACE2の発現を示す。Sabra SBH/yおよびSBN/yラットの腎臓からのACE2 mRNAのノーザンブロット分析を示す。上段はアクチン対照レベルとともにノーザンブロットの表示を示す。下のパネルはアクチンレベルに標準化したace2メッセージの相対レベルを示す。
【0119】
【図2b】高血圧症のラットモデルにおけるACE2の発現を示す。Sabra SBH/yおよびその対照SBN/yラット並びにSHRおよびSHRSPおよびその対照WKYラットの腎臓からのACE2タンパク質レベルのウエスタンブロット分析を示す。上段は代表的なウエスタンブロットを示す。各Sabraラットでの収縮血圧(BP)をmmHgで示す。下のパネルはアクチンレベルに補正したACE2の相対的なタンパク質レベルを示す。棒グラフは平均値±SEMを示す。*=p<0.05、**=p<0.01(n=4、全ての群について)。
【0120】
【図3a】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。遺伝子ターゲティング戦略。マウスace2野生型遺伝子座の一部(最上段)を示す。黒塗りはエクソンを示す。亜鉛結合触媒ドメインをコードするエクソン9を、アンチセンス方向に置いたネオマイシン(neo)耐性遺伝子カセットで置換すべくターゲティングベクターをデザインした。チミジンキナーゼ(TK)を負の選択のために用いた。サザーン分析に用いた3'および5'フランキングプローブを斜線の四角で示す。
【0121】
【図3b】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。ace+/yおよびace−/yEC細胞のサザーンブロット分析。ゲノムDNAをEcoRIで消化し、(a)に示した3'および5'フランキングプローブにハイブリダイズさせた。
【0122】
【図3c】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。ace+/yおよびace−/yマウスの腎臓でのACE2タンパク質発現のウエスタンブロット分析。抗ACE2抗体を欠失のN末端側の領域に反応させる。
【0123】
【図3d】相同的組換えによるマウスACE2のターゲティングした破壊を示す。ace2+/yおよびace2−/yマウスの心臓および腎臓におけるACE mRNA発現のRT−PCR分析。線状増幅および対照としてのGAPDH mRNAレベルについての種々のPCRサイクルを示す。
【0124】
【図4】正常血圧および腎臓の機能を示す。(a)ACE阻害剤であるカプトプリルの不在下(左のパネル)または存在下での3ヶ月齢ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスでの血圧測定。尾の平手打ち(tail cuffing)を用いて血圧を測定し、平均値±SDを示す。方法の欄に示すように、血圧を測定する2週間前にカプトプリルを投与した。これらの血圧を、侵襲性の血行力学的ランゲンドルフ測定法(示していない)を用いて確認した。カプトプリル処理したace2+/yおよびace2−/yマウスの両者での差異は、それぞれの未処理群の差異よりも有意の差異があった(**p<0.01)。(b)正常な腎臓組織が6ヶ月齢のace2+/yおよびace2−/yマウスで観察された。矢印は糸球体を示している。
【0125】
【図5a】心臓の形態を示す。6ヶ月齢のace2+/yおよびace2−/yマウスから単離した心臓のH&E染色切片。大きくなった左心室(LV)および右心室(RV)がace2−/yマウスで観察された。しかしながら、全体としての心臓の大きさは両遺伝子型で同様であり、肉眼でも単離した心筋細胞でも心肥大の証拠はなかった。
【0126】
【図5b】心臓の形態を示す。心肥大の指標としての6ヶ月齢ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスからの心重量/体重比の定量。体重、心重量、脛骨長、および心重量/脛骨長の比もまた、分析した全ての年齢での種々の遺伝子型群で変化が認められなかった(示していない)ことに注意すべきである。
【0127】
【図5c】心臓の形態を示す。ace2−/yマウスで間質性線維症は存在しなかった。拡張型心筋症の顕著な特徴の一つは、間質性線維症である。しかしながら、間質性線維症はace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスの心臓で同様であった。個々の心臓のPSR染色を示す。通常の脈管周辺の線維症は、野生型および突然変異動物の両者において赤く染色されることに注意。
【0128】
【図5d】心臓の形態を示す。ace2−/yマウスで間質性線維症は存在しなかった。拡張型心筋症の顕著な特徴の一つは、間質性線維症である。しかしながら、間質性線維症はace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスの心臓で同様であった。間隙における線維症変化の定量。
【0129】
【図6a】ACE2の喪失は重篤な収縮性心不全という結果となることを示す。6ヶ月齢のace2+/yおよび2匹のace2−/yマウスでの収縮期心臓の心エコー測定。ピークおよび谷は個々の心拍数の収縮期および拡張期を示す。矢印は、短縮比のパーセント(%FS)を決定する値である収縮期の収縮(LVESD)と拡張期の弛緩(LVEDD)との距離を示す。ace2−/yマウスでの拡張期および収縮期の大きさの増大は心臓の拡張を示すことに注意。実験データは表1に見出すことができる。
【0130】
【図6b】ACE2の喪失は重篤な収縮性心不全という結果となることを示す。心臓収縮の2つの顕著なパラメーターであるパーセント短縮比および周辺繊維短縮の速度が、6ヶ月齢ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスおよび6ヶ月齢ace2+/−(n=5)およびace2−/−(n=5)雌マウスで認められた。値は心エコーにより決定した。平均値±SDを示す。*遺伝子型群間でのp<0.05および**遺伝子型群間でのp<0.01。実験データは表1に見出すことができる。
【0131】
【図6c】ACE2の喪失は重篤な収縮性心不全という結果となることを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)マウスおよび6ヶ月齢雌ace2+/−(n=5)およびace2−/−(n=5)雌マウスでの血圧測定。平均値±SDを示す。血圧は、表2からわかるように、侵襲性の血行力学的測定を用いて確認した。*p<0.05。
【0132】
【図7a】ACE2不在下での低酸素マーカーのアップレギュレーションおよびアンジオテンシンIIレベルの増大。2つの低酸素誘発性遺伝子であるBNIP3およびPAI−1のmRNA発現レベルの6ヶ月齢雄ace2+/y(n=5)およびace2−/y(n=5)マウスでのノーザンブロット分析。個々のノーザンブロットデータを示す。**p<0.01。
【0133】
【図7b】ACE2不在下での低酸素マーカーのアップレギュレーションおよびアンジオテンシンIIレベルの増大。2つの低酸素誘発性遺伝子であるBNIP3およびPAI−1のmRNA発現レベルの6ヶ月齢雄ace2+/y(n=5)およびace2−/y(n=5)マウスでのノーザンブロット分析。gapdh対照に対して標準化したBNIP3およびPAI−1のmRNAレベルの相対レベルを示す。**p<0.01。
【0134】
【図7c】ACE2不在下での低酸素マーカーのアップレギュレーションおよびアンジオテンシンIIレベルの増大。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)およびace2−/y(n=8)同腹子マウスの心臓および腎臓におけるアンジオテンシンI(AngI)およびアンジオテンシンII(AngII)ペプチドレベル。AngIおよびAngIIの組織レベルはラジオイムノアッセイにより決定した。平均値ペプチドレベル±SDを示す。**p<0.01。
【0135】
【図8a】ACE−ACE2二重突然変異マウスは心不全を起こさないことを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)、ace−/−(n=8)、およびace−/−ace2−/y二重突然変異(n=6)マウスでの血圧測定。平均値±SDを示す。血圧は、侵襲性の血行力学的測定を用いて確認した。**野生型マウスと比べて突然変異体のp<0.01。
【0136】
【図8b】ACE−ACE2二重突然変異マウスは心不全を起こさないことを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y(n=8)、ace2−/y(n=8)、ace−/−(n=8)およびace−/−ace2−/y二重突然変異(n=6)同腹子におけるパーセント短縮比および周辺繊維短縮の速度。値は心エコーにより決定した。平均値±SDを示す。**遺伝子型群間でのp<0.01。実験データは表3に見出すことができる。
【0137】
【図8c】ACE−ACE2二重突然変異マウスは心不全を起こさないことを示す。6ヶ月齢雄ace2+/y、ace2−/y、ace−/−およびace−/−ace2−/y二重突然変異同腹子マウスにおける収縮期心臓の心エコー測定。心エコーを図6aの記載と同様にして分析し、標識した。ace2ヌルバックグラウンドでのACEの除去がace2−/y単一突然変異マウスで観察された収縮期の心臓の障害を完全に救済することに注意。
【0138】
【図9】ベースラインからのエラスタンスの変化のパーセントを経時的に計算した。肺のエラスタンスは気管の最大圧を容積で除することにより計算した。
【0139】
【図10】(a)ヒトACE2 DNA(配列番号1)。(b)ヒトACE2ポリペプチド(配列番号2)。
【0140】
【図11】(a)マウスACE2 DNA(配列番号3)。(b)マウスACE2ポリペプチド(配列番号4)。
【0141】
【図12】ACE2ヌクレオチド多型および配列。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ACE2低減状態を治療する方法であって、当該状態を有する哺乳動物に治療学的有効量のACE2アゴニストを投与することを含む方法。
【請求項2】
該哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低減したACE2状態が、高血圧症、収縮性心不全、慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、動脈硬化症および腎不全および肺疾患よりなる群から選ばれた疾患と関連する、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
ACE2低減状態の遺伝子療法の方法であって、有効量のコードするトランスジーンを臓器に送達することを含む方法。
【請求項5】
罹患している臓器が心臓または腎臓または肺または血管である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ACE2トランスジーンを遺伝子療法ベクター中にて患者に投与する、請求項4または5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
遺伝子療法ベクターがウイルスベクターを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
患者がヒトである、請求項4ないし7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
ACE2低減状態が、高血圧症、収縮性心不全、慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、動脈硬化症および腎不全および肺疾患よりなる群から選ばれた疾患と関連する、請求項4ないし8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
遺伝子ACE2の対立遺伝子の一方が破壊されている非ヒト哺乳動物。
【請求項11】
ACE2をコードする遺伝子の両対立遺伝子が破壊されている非ヒト哺乳動物。
【請求項12】
破壊されたACE2の突然変異を含み、該破壊がACE2をコードする遺伝子のヌル突然変異という結果となる、非ヒト哺乳動物。
【請求項13】
齧歯類である、請求項10ないし12のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項14】
マウスである請求項13に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項15】
高血圧症または心筋収縮能の欠陥または腎臓の欠陥、または肺障害への増大した感受性を特徴とする、請求項10ないし14に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項16】
ACE2ノックアウト構築物を含む核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸を含むベクター。
【請求項18】
請求項17に記載の核酸を含むマウス胚性幹細胞株。
【請求項19】
高血圧症および心筋収縮能および腎不全および肺障害をモデュレートする化合物をスクリーニングする方法であって、請求項11ないし14のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物に化合物を導入し、ついで血圧および/または心筋収縮能および/または腎臓機能および/または肺感染における増大または低減を決定することを含む方法。
【請求項20】
ACE2活性のアゴニストである化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)(i)ACE2を含む精製した調製物、(ii)基質、および(iii)被験化合物を用意し、
(b)該ACE2および該基質を該ACE2が該基質に作用して生成物を生成しうる条件下で混合し、その際、該混合は該被験化合物の存在下および不在下で行い、ついで
(c)該被験化合物の存在下または不在下で生成した生成物の量を直接または間接に測定する
ことを含む方法。
【請求項21】
該基質がアンジオテンシンIまたはアンジオテンシンIIである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
該生成物がAng1−9またはAng1−7を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
請求項20ないし22に従って単離した化合物。
【請求項24】
ACE2アクチベーターの医薬物質としての使用。
【請求項25】
心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患の治療のためのACE2アクチベーターの使用。
【請求項26】
心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患の治療用医薬の製造のためのACE2アクチベーターの使用。
【請求項27】
哺乳動物における心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患の医学的治療方法であって、当該治療を必要とする哺乳動物に有効量のACE2アクチベーターを投与することを含む方法。
【請求項28】
ACE2アクチベーターをACEインヒビターとともに投与する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ACE2ポリペプチドをコードする単離核酸分子であって、該核酸はACE2核酸コード領域の上流または下流にヌクレオチド多型を含み、該多型が野生型ACE2に比べてACE2発現を低減させるものである、単離核酸分子。
【請求項30】
該多型がACE2a〜ACE2mの少なくとも一つよりなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の単離核酸分子。
【請求項31】
動物でACE2低減状態を検出する方法であって、該動物からDNA試料を得、ついで該DNA試料中で請求項29または30に記載の核酸を同定することを含む方法。
【請求項32】
動物でACE2低減状態を特徴とする疾患または疾患の素因を診断する方法であって、該動物からのDNA試料中で請求項29または30に記載の核酸を同定することを含む方法。
【請求項33】
該動物が該ヌクレオチド多型についてホモ接合性であるかまたはへテロ接合性であるかを決定することを含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
ACE2低減状態が、高血圧症、収縮性心不全、慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、動脈硬化症および腎不全よりなる群から選ばれた心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患と関連する、請求項31ないし33のいずれか一つに記載の方法。
【請求項35】
(i)ACE2核酸コード領域の上流または下流の領域に特異的に結合する配列を含み、該領域がACE2発現を低減させるヌクレオチド多型に近接している、ポリヌクレオチド。
【請求項36】
8〜10、8〜15、8〜20、8〜25、25〜50、50〜75、50〜100、100〜200、200〜500または500〜1000のヌクレオチドを含む、請求項35に記載のポリヌクレオチド。
【請求項37】
該核酸がACE2a〜ACE2mの一つに近接して高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下で特異的に結合する、請求項35または36に記載のポリヌクレオチド。
【請求項38】
該ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が65℃で0.1×SSC、0.1%SDSを含む、請求項37に記載のポリヌクレオチド。
【請求項39】
ACE2多型に相補的な配列を含む、請求項35に記載のポリヌクレオチド。
【請求項40】
(a)ヌクレオチド多型に近接しているACE2の上流または下流領域の8〜50ヌクレオチド、ここで配列はACE2a〜ACE2mの一つ含み、図11に示す配列の全部または一部を含む、
(b)(a)で特定した配列に相補的な配列、および
(c)(a)または(b)の配列と少なくとも70%の配列同一性を有し、ACE2に高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることのできる配列
よりなる群から選ばれた配列を含む、請求項39に記載のポリヌクレオチド。
【請求項41】
該核酸がハイブリダイゼーションアッセイにおいてプローブとして使用できる、請求項35に記載のポリヌクレオチド。
【請求項42】
該核酸配列を検出可能なように標識してある、請求項41に記載のポリヌクレオチド。
【請求項43】
検出可能な標識が、
(a)蛍光原性染料、および/または
(b)ビオチン化修飾、および/または
(c)放射性標識
を含む、請求項42に記載のポリヌクレオチド。
【請求項44】
動物からの核酸試料中のACE2多型の存在を検出するための検出用試薬を含む、ACE2遺伝子型決定キット。
【請求項45】
検出試薬が核酸および/または制限酵素を含む、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
検出試薬を保持するための生物学的試料容器をさらに含む、請求項44に記載のキット。
【請求項47】
プレートをさらに含み、該プレートが複数のウエルを有し、該プレートにACE2多型を含むACE2配列に特異的に結合する核酸配列を有するプローブが結合している、請求項44に記載のキット。
【請求項48】
核酸を増幅するための増幅試薬をさらに含む、請求項44に記載のキット。
【請求項49】
該増幅試薬が、ACE2a〜ACE2mよりなる群から選ばれたACE2単一ヌクレオチド多型に近接したACE2核酸の領域を増幅させる、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
該増幅試薬がプライマーのセットを含み、各プライマーが、ACE2a〜ACE2mの一つに近接して特異的に結合するか、またはACE2a〜ACE2mの一つを通って伸長を引き起こす、請求項48に記載のキット。
【請求項51】
動物がACE2低減状態の疾患を有するかまたはそのリスクにあることを検出するための、請求項144に記載のキット。
【請求項52】
該疾患が心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患を含むかまたは血管に罹患する、請求項51に記載のキット。
【請求項53】
該疾患が、高血圧症、収縮性および拡張性の慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、冠状動脈疾患、動脈硬化症および腎不全および肺疾患よりなる群から選ばれる、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
動物のACE2遺伝子型を決定する方法であって、
(a)ACE2コード領域の上流および下流の領域を含む動物からのACE2核酸試料を得、ついで
(b)ACE2単一ヌクレオチド多型を含むACE2核酸の領域を検出する
ことを含む方法。
【請求項55】
該ヌクレオチド多型がACE2a〜ACE2mよりなる群から選ばれる、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
動物がACE2多型についてホモ接合性であるかまたはへテロ接合性であるかを決定することを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
該動物がヒトであり、該ACE2遺伝子型を用いて該動物がACE2低減状態の疾患を有するかまたはそのリスクにあるか否かを決定する、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
該疾患が心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患を含むかまたは血管に罹患する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
動物からの該核酸を増幅することによって該核酸を得る、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
請求項7ないし15のいずれかに記載のポリヌクレオチドの全部または一部で増幅することによって該核酸を得る、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
検出工程がACE2核酸のヌクレオチド配列を決定することを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
検出工程が、該核酸を請求項7ないし15のいずれかに記載のポリヌクレオチドと高ストリンジェンシー条件下で接触させることを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項63】
該ポリヌクレオチドが、(i)ACE2多型とは区別される単一多型を含むACE2核酸の領域に近接して選択的にハイブリダイズする、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
検出工程が、
(a)該核酸の制限エンドヌクレアーゼ消化を行い、それによって核酸消化物を生成させ、ついで
(b)該消化物を該ポリヌクレオチドと接触させる
ことを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項65】
ハイブリダイゼーションがPCR増幅の際またはPCR増幅後のいずれかで起こり、分析を「即時」PCR分析、または蛍光測光分析により行う、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
検出工程が該核酸のサイズ分析を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項1】
ACE2低減状態を治療する方法であって、当該状態を有する哺乳動物に治療学的有効量のACE2アゴニストを投与することを含む方法。
【請求項2】
該哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低減したACE2状態が、高血圧症、収縮性心不全、慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、動脈硬化症および腎不全および肺疾患よりなる群から選ばれた疾患と関連する、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
ACE2低減状態の遺伝子療法の方法であって、有効量のコードするトランスジーンを臓器に送達することを含む方法。
【請求項5】
罹患している臓器が心臓または腎臓または肺または血管である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ACE2トランスジーンを遺伝子療法ベクター中にて患者に投与する、請求項4または5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
遺伝子療法ベクターがウイルスベクターを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
患者がヒトである、請求項4ないし7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
ACE2低減状態が、高血圧症、収縮性心不全、慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、動脈硬化症および腎不全および肺疾患よりなる群から選ばれた疾患と関連する、請求項4ないし8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
遺伝子ACE2の対立遺伝子の一方が破壊されている非ヒト哺乳動物。
【請求項11】
ACE2をコードする遺伝子の両対立遺伝子が破壊されている非ヒト哺乳動物。
【請求項12】
破壊されたACE2の突然変異を含み、該破壊がACE2をコードする遺伝子のヌル突然変異という結果となる、非ヒト哺乳動物。
【請求項13】
齧歯類である、請求項10ないし12のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項14】
マウスである請求項13に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項15】
高血圧症または心筋収縮能の欠陥または腎臓の欠陥、または肺障害への増大した感受性を特徴とする、請求項10ないし14に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項16】
ACE2ノックアウト構築物を含む核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸を含むベクター。
【請求項18】
請求項17に記載の核酸を含むマウス胚性幹細胞株。
【請求項19】
高血圧症および心筋収縮能および腎不全および肺障害をモデュレートする化合物をスクリーニングする方法であって、請求項11ないし14のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物に化合物を導入し、ついで血圧および/または心筋収縮能および/または腎臓機能および/または肺感染における増大または低減を決定することを含む方法。
【請求項20】
ACE2活性のアゴニストである化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)(i)ACE2を含む精製した調製物、(ii)基質、および(iii)被験化合物を用意し、
(b)該ACE2および該基質を該ACE2が該基質に作用して生成物を生成しうる条件下で混合し、その際、該混合は該被験化合物の存在下および不在下で行い、ついで
(c)該被験化合物の存在下または不在下で生成した生成物の量を直接または間接に測定する
ことを含む方法。
【請求項21】
該基質がアンジオテンシンIまたはアンジオテンシンIIである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
該生成物がAng1−9またはAng1−7を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
請求項20ないし22に従って単離した化合物。
【請求項24】
ACE2アクチベーターの医薬物質としての使用。
【請求項25】
心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患の治療のためのACE2アクチベーターの使用。
【請求項26】
心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患の治療用医薬の製造のためのACE2アクチベーターの使用。
【請求項27】
哺乳動物における心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患の医学的治療方法であって、当該治療を必要とする哺乳動物に有効量のACE2アクチベーターを投与することを含む方法。
【請求項28】
ACE2アクチベーターをACEインヒビターとともに投与する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ACE2ポリペプチドをコードする単離核酸分子であって、該核酸はACE2核酸コード領域の上流または下流にヌクレオチド多型を含み、該多型が野生型ACE2に比べてACE2発現を低減させるものである、単離核酸分子。
【請求項30】
該多型がACE2a〜ACE2mの少なくとも一つよりなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の単離核酸分子。
【請求項31】
動物でACE2低減状態を検出する方法であって、該動物からDNA試料を得、ついで該DNA試料中で請求項29または30に記載の核酸を同定することを含む方法。
【請求項32】
動物でACE2低減状態を特徴とする疾患または疾患の素因を診断する方法であって、該動物からのDNA試料中で請求項29または30に記載の核酸を同定することを含む方法。
【請求項33】
該動物が該ヌクレオチド多型についてホモ接合性であるかまたはへテロ接合性であるかを決定することを含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
ACE2低減状態が、高血圧症、収縮性心不全、慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、動脈硬化症および腎不全よりなる群から選ばれた心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患と関連する、請求項31ないし33のいずれか一つに記載の方法。
【請求項35】
(i)ACE2核酸コード領域の上流または下流の領域に特異的に結合する配列を含み、該領域がACE2発現を低減させるヌクレオチド多型に近接している、ポリヌクレオチド。
【請求項36】
8〜10、8〜15、8〜20、8〜25、25〜50、50〜75、50〜100、100〜200、200〜500または500〜1000のヌクレオチドを含む、請求項35に記載のポリヌクレオチド。
【請求項37】
該核酸がACE2a〜ACE2mの一つに近接して高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下で特異的に結合する、請求項35または36に記載のポリヌクレオチド。
【請求項38】
該ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が65℃で0.1×SSC、0.1%SDSを含む、請求項37に記載のポリヌクレオチド。
【請求項39】
ACE2多型に相補的な配列を含む、請求項35に記載のポリヌクレオチド。
【請求項40】
(a)ヌクレオチド多型に近接しているACE2の上流または下流領域の8〜50ヌクレオチド、ここで配列はACE2a〜ACE2mの一つ含み、図11に示す配列の全部または一部を含む、
(b)(a)で特定した配列に相補的な配列、および
(c)(a)または(b)の配列と少なくとも70%の配列同一性を有し、ACE2に高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることのできる配列
よりなる群から選ばれた配列を含む、請求項39に記載のポリヌクレオチド。
【請求項41】
該核酸がハイブリダイゼーションアッセイにおいてプローブとして使用できる、請求項35に記載のポリヌクレオチド。
【請求項42】
該核酸配列を検出可能なように標識してある、請求項41に記載のポリヌクレオチド。
【請求項43】
検出可能な標識が、
(a)蛍光原性染料、および/または
(b)ビオチン化修飾、および/または
(c)放射性標識
を含む、請求項42に記載のポリヌクレオチド。
【請求項44】
動物からの核酸試料中のACE2多型の存在を検出するための検出用試薬を含む、ACE2遺伝子型決定キット。
【請求項45】
検出試薬が核酸および/または制限酵素を含む、請求項44に記載のキット。
【請求項46】
検出試薬を保持するための生物学的試料容器をさらに含む、請求項44に記載のキット。
【請求項47】
プレートをさらに含み、該プレートが複数のウエルを有し、該プレートにACE2多型を含むACE2配列に特異的に結合する核酸配列を有するプローブが結合している、請求項44に記載のキット。
【請求項48】
核酸を増幅するための増幅試薬をさらに含む、請求項44に記載のキット。
【請求項49】
該増幅試薬が、ACE2a〜ACE2mよりなる群から選ばれたACE2単一ヌクレオチド多型に近接したACE2核酸の領域を増幅させる、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
該増幅試薬がプライマーのセットを含み、各プライマーが、ACE2a〜ACE2mの一つに近接して特異的に結合するか、またはACE2a〜ACE2mの一つを通って伸長を引き起こす、請求項48に記載のキット。
【請求項51】
動物がACE2低減状態の疾患を有するかまたはそのリスクにあることを検出するための、請求項144に記載のキット。
【請求項52】
該疾患が心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患を含むかまたは血管に罹患する、請求項51に記載のキット。
【請求項53】
該疾患が、高血圧症、収縮性および拡張性の慢性心不全、急性心不全、心筋梗塞、冠状動脈疾患、動脈硬化症および腎不全および肺疾患よりなる群から選ばれる、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
動物のACE2遺伝子型を決定する方法であって、
(a)ACE2コード領域の上流および下流の領域を含む動物からのACE2核酸試料を得、ついで
(b)ACE2単一ヌクレオチド多型を含むACE2核酸の領域を検出する
ことを含む方法。
【請求項55】
該ヌクレオチド多型がACE2a〜ACE2mよりなる群から選ばれる、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
動物がACE2多型についてホモ接合性であるかまたはへテロ接合性であるかを決定することを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
該動物がヒトであり、該ACE2遺伝子型を用いて該動物がACE2低減状態の疾患を有するかまたはそのリスクにあるか否かを決定する、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
該疾患が心血管疾患または腎臓疾患または肺疾患を含むかまたは血管に罹患する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
動物からの該核酸を増幅することによって該核酸を得る、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
請求項7ないし15のいずれかに記載のポリヌクレオチドの全部または一部で増幅することによって該核酸を得る、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
検出工程がACE2核酸のヌクレオチド配列を決定することを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
検出工程が、該核酸を請求項7ないし15のいずれかに記載のポリヌクレオチドと高ストリンジェンシー条件下で接触させることを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項63】
該ポリヌクレオチドが、(i)ACE2多型とは区別される単一多型を含むACE2核酸の領域に近接して選択的にハイブリダイズする、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
検出工程が、
(a)該核酸の制限エンドヌクレアーゼ消化を行い、それによって核酸消化物を生成させ、ついで
(b)該消化物を該ポリヌクレオチドと接触させる
ことを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項65】
ハイブリダイゼーションがPCR増幅の際またはPCR増幅後のいずれかで起こり、分析を「即時」PCR分析、または蛍光測光分析により行う、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
検出工程が該核酸のサイズ分析を含む、請求項64に記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3b】
【図3d】
【図4】
【図5b】
【図5d】
【図6b】
【図6c】
【図7b】
【図7c】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図11】
【図12】
【図2a】
【図2b】
【図3b】
【図3d】
【図4】
【図5b】
【図5d】
【図6b】
【図6c】
【図7b】
【図7c】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2006−504637(P2006−504637A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−514460(P2004−514460)
【出願日】平成15年6月19日(2003.6.19)
【国際出願番号】PCT/CA2003/000882
【国際公開番号】WO2004/000367
【国際公開日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【出願人】(500501546)ユニバーシティー ヘルス ネットワーク (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年6月19日(2003.6.19)
【国際出願番号】PCT/CA2003/000882
【国際公開番号】WO2004/000367
【国際公開日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【出願人】(500501546)ユニバーシティー ヘルス ネットワーク (3)
【Fターム(参考)】
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