心臓組織の変性を治療及び予防するための組成物及び方法並びにその用途
本発明は、心臓組織の生成を促進させるため、及び心臓組織の変性を治療及び予防するための、方法を提供する。さらに、本発明は、サイクリン関連薬剤を含む治療用組成物、及び当該組成物を含むキットを提供する。本発明は、さらに、サイクリンが増加された、心臓組織細胞、副集団前駆細胞、及び幹細胞を提供する。また、これらの細胞を含む細胞系、当該細胞系を用いたスクリーニング方法、及びこれらの方法により同定されたドラッグ類も提供される。本発明は、さらに、少なくとも一つの心臓毒性作用に関して、及び/又は心臓組織の変性の治療及び予防におけるサイクリンとの相乗作用に関して、候補ドラッグをスクリーニングすることにおける使用のためのインビトロシステムを提供する。最後に、本発明は、心臓組織の生成におけるサイクリン関連薬剤の用途、及び心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリン関連薬剤の使用を用途する。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
関連出願
この出願は、2003年5月19日に出願された米国仮出願番号60/471,952の利益を享受する。
【0002】
政府の利害関係の陳述
この発明は、NIH認可番号K08HL67048−01A1下で政府の支持によりなされた。
【0003】
発明の背景
心筋梗塞(心臓の組織に対する不可逆的損傷、しばしば心臓発作による)は、一般的な生命を脅かす偶発事故であり、突然死又は心不全を引き起こすかもしれない。心筋梗塞の後に起こる心室の機能不全は、主に、心筋細胞の大規模な損失(massive loss)及び損傷を受けた心筋細胞の繊維形成性収縮性(瘢痕(scar))組織により漸次の置換によりもたらされる。ほとんどの場合、心筋梗塞後の心筋細胞の損失は不可逆的である。事実、成体哺乳類の心筋細胞の増殖(即ち、再生)能力は事実上限定されていると、広く認められている(Rumyantsev and Carlson,Growth and Hyperplasia of Cardiac Muscle Cells(New York:Harwood Academic Publishers,1991)が、この総説は最近、異議を申し立てられた(Leri et al.,Mol.Cell.Cardiol.,3:385−90,2000;Kajstura et al.,Am.J.Pathol.,156:813−19.2000;Beltrami et al.,N.Engl.J.Med.,344(23):1750−57,2001)。
【0004】
心臓の疾患の診断及び治療における相当な進歩にも拘わらず、心筋梗塞に関係する心臓の損傷及び機能不全は、いまだに主要な心臓の血管の障害の中にある。従って、心筋梗塞後の心臓の機能を改善するための新規で有効なアプローチを発見するための主要な治療上の挑戦が残っている。
【0005】
仮想上の細胞制御因子の操作、又は多能性幹細胞の心筋細胞への変換を通した心筋細胞の増殖を再度活性化する能力(Orlic et al.,Nature,410:701−05,2001)は、疾患状態の間の心臓機能を増強させるための新規な治療上の介入のデザインための刺激的な起動力を提供する。過去十年間にわたり得られた証拠の大多数は、しかしながら、哺乳類の心筋細胞が胎児の分化を通して増殖して初期新生児期に入り、そのときDNA複製が素早く終焉して細胞分割が止まることを支援する(Beinlich and Morgan,Mol.Cell.Biochem.,119:3−9,1993;Casscells et al.,J.Clin.Invest.,85:433−41,1990;Speir et al.,Circ.Res.,71:251−59,1992;Parker and Schneider ,Annu.Rev.Physiol.,53:179−200,1991;Simpson,P.C.,Annu.Rev.Physiol.,51:189−202,1989)。過形成性成長(細胞分割)から過栄養性成長(細胞の大きさの増加)への遷移が、次に結果として起こる。マウスの心臓においては、心筋細胞の分割が生誕により完了すると報告されており、新生児の細胞(新生後3日を経て)におけるDNA合成は核発生(nucleation)にのみ貢献する(Soonpaa et al.,J.Mol.Biol.Cardiol.,28:1737−46,1996)。筋細胞の増殖の停止は、細胞周期の停止に帰する(Brooks et al.,Cardiovasc.Res.,39:301−11,1998)。この仮説に従うと、成体ラットの心筋細胞は二通りの細胞周期の封鎖を示すことが示され、約80%の細胞がG0/G1期に停止し、そして15%−20%の細胞がG2/M期に停止する(Poolman and Brooks,Mol.Cell.Cardiol.,29:A19(Abstract),1997;Poolman et al.,Int.J.Cardiol.,67:133−42,1998)。
【0006】
細胞周期を通した進行は、きつく制御されており、それらの触媒パートナー、サイクリン依存性キナーゼ(cdks)と複合体形成されたサイクリンを含む。サイクリンの間で、サイクリン2は、それが2つの決定的な遷移を通して進行を制御する点、及びcdk2と複合体形成されたサイクリンA2はG1/S遷移に必須であり、そしてcdk1と複合体形成されたサイクリンA2は有糸分裂に入ることを促進させる点でユニークである(Sherr and Roberts,Genes Dev.,9:1149−63,1995;Pagano et al.,EMBO J.,11:961−71,1992)。哺乳類の心筋細胞が細胞周期の停止により初期新生児期間において増殖を停止するという考えが十分に浸透した。サイクリンA2は、メッセージ及び蛋白質レベルの両方において、心臓の発生の間、ラットとヒトにおいて、細胞周期からの心筋細胞のこの撤退(withdrawal)と符合して出現する様式において、完全にダウン制御される唯一のサイクリンである(Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95:2275−80,1995)。
【0007】
以前、新たな心筋(myocardium)の先端の心外膜(leading epicardial)の端に局在する心筋の活発な増殖のために、20%の心室切除の2ヶ月以内にゼブラフィッシュは心臓を完全に再生することが示された。この損傷により誘導された心筋細胞の増殖は、傷跡の形成を克服して、心臓の筋肉の再生を可能にすることができた。ゼブラフィッシュにおけるこの心臓組織の再生はMpsI有糸分裂チェックポイントキナーゼに関連することが示唆された(Poss et al.,Heart regeneration in zebrafish.Science,298:2188−90,2002)。サイクリン及びサイクリン依存性キナーゼを活性化することにより心筋細胞は心筋梗塞に反応することも示された(Reiss et al.,Myocardial infarction is coupled with activation of cyclins and cyclin−dependent kinases in myocytes,Exp.Cell Res.,225:44−54,1996)。しかしながら、本発明の前に、細胞周期の終了のタイムライン(よって、「ターミナル」分化)がいったん超えられたなら、サイクリン、特にサイクリンA2の制御が心筋細胞の有糸分裂を誘導し得ることは直接証明されていなかった。
【0008】
発明の概要
発明者らは、サイクリンA2のダウン制御が心筋細胞周期の終了において決定的な役割を担うと仮定し、そして、逆に心臓におけるサイクリンA2の連続する発現が、変更された細胞分割、そして重要なのは、心筋細胞の過形成をもたらすと仮定した。筋細胞の有糸分裂の刺激が心筋細胞周期の撤退に衝撃を与えるか否かを決定するために、発明者らは、胚発生から成人になるまで、心筋細胞系列において構成的にサイクリンA2を発現する心臓特異的サイクリンA2トランスジェニックマウスモデルを創作した。このモデルは、分化した心筋細胞において心筋細胞有糸分裂を呈することが以前に示された。発明者らは、今、マウス、ラット及びヒトにおいて新生後の心臓においては通常は沈黙している蛋白質であるサイクリンA2の心臓内の存在(生誕後の不在)が、左前下行枝のライゲーションにより誘導された心筋の損傷を阻害することを示す。
【0009】
特に、発明者らは、サイクリンA2トランスジェニック動物において心筋梗塞の2週間以内に健康な心筋の再生が起こるが、対照動物においては起こらないことを観察した。サイクリンA2は、トランスジェニックマウスにおいて、心筋細胞の過形成のために、胚発生8日目から成人まで抗生的に発現されたときに、心臓の巨大化(enlargement)を誘導した。この過形成は、新生児後の発育を経て心筋の有糸分裂の増加と相関した。発明者らのモデルは、それが内部の細胞周期制御因子を利用すること、それが天然の心筋細胞が再生することを誘導すること、及び、それが心筋細胞の特性を完全に獲得しないかもしれない別の細胞種(例えば、幹細胞)の導入を必要としないことにおいて、心筋の損傷を予防及び治療するための既に存在する技術を超えた改善を示す。
【0010】
従って、本発明は、さらに、心臓の組織の細胞又は副集団(side−population)(SP)の前駆細胞(progenitor cell)中でサイクリンを増加させることにより心臓の組織の再生を促進させるための方法を提供する。本発明は、さらに、心臓組織の細胞中でサイクリンを増加させることにより、心臓組織の変性を阻害する方法を提供する。
【0011】
本発明は、被験者において心臓の組織の変性を治療するための方法を提供するが、(a)心臓の組織の細胞又は副集団(SP)の前駆細胞及び幹細胞から選択される細胞の集団を得るか又は再生し;(b)細胞の中のサイクリンを増加させ;そして(c)増加したサイクリンを含む細胞及びもしもあるならそれらの子孫を、心臓組織の変性を治療するのに有効な量、被験者に移植する工程を含む。
【0012】
さらに提供されるのは、心臓の組織の変性を治療するか又は予防するのに有効な量のサイクリン関連薬剤(agent)を被験者に投与することにより、被験者において心臓組織の変性を治療するか又は予防する方法である。
【0013】
さらに、本発明は、治療用組成物を提供するが、(a)サイクリン関連薬剤;及び(b)任意に、薬学上受容可能な担体を含む。また、サイクリン関連薬剤を心臓の組織細胞、副集団(SP)の前駆細胞又は幹細胞に送達することにおける使用のためのキットも提供し、治療用組成物とカテーテルを含む。
【0014】
本発明は、さらに、サイクリンA2が増加された心臓組織細胞、副集団(SP)の前駆細胞又は幹細胞を提供する。また、これらの細胞を含む細胞系、及び当該細胞系を含むインビトロ及びインビボのスクリーニング方法も提供される。
【0015】
本発明は、さらに、小児科の疾患を治療するのに有用な可能性のある候補ドラッグにおいて少なくとも一つの心臓障害性効果に関してスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、(a)小児科の疾患を治療するのに有用な可能性のある候補ドラッグに、サイクリンA2が増加した少なくとも一つの心臓組織細胞を接触させ;そして(b)少なくとも一つの心臓障害性効果に関して上記の少なくとも一つの心臓組織細胞をアッセイする工程を含む。また、この方法によりスクリーニングされるドラッグも提供される。
【0016】
さらに、本発明は、心臓の組織の変性の治療又は予防においてサイクリンによる相乗効果に関して候補薬剤をスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、(a)サイクリンA2が増加した少なくとも一つの心臓組織細胞を候補の薬剤に接触させ;そして(b)候補薬剤が心臓組織の生成を増強する能力を評価する工程を含む。また、この方法により同定される薬剤も提供され、そして、サイクリン関連薬剤と共に、心臓組織の変性を治療するか又は予防するのに有効な量のこの薬剤を被験者に投与することにより被験者において心臓組織の変性を治療又は予防する方法も提供される。
【0017】
さらに、本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防においてサイクリンの相乗効果に関して候補薬剤をスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、(a)サイクリンA2が増加した少なくとも一つの心臓組織細胞を候補の薬剤に接触させ;(b)心臓組織細胞及びもしあるならそれらの子孫を被験者に移植し;そして(c)候補薬剤が、移植後の心臓組織細胞及びその子孫の生存を増強する能力を評価する工程を含む。また、この方法により同定される薬剤も提供され、そして、サイクリン関連薬剤と共に、心臓組織の変性を治療するか又は予防するのに有効な量のこの薬剤を被験者に投与することにより被験者において心臓組織の変性を治療又は予防する方法も提供される。
【0018】
本発明は、幹細胞に対して少なくとも一つの障害性効果を有する候補ドラッグに関してスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、障害性効果は増加したサイクリンの存在下で予防されるか又は停止し、(a)本発明の幹細胞系の幹細胞を候補ドラッグと接触させ;(b)増加したサイクリンを有さない対照の幹細胞を候補ドラッグと接触させ;そして(c)工程(a)の幹細胞と工程(b)の幹細胞を少なくとも一つの障害性効果に関してアッセイするが、但し、工程(b)の対照幹細胞において障害性効果が存在して、工程(a)の幹細胞における障害性効果が不在であるか又は停止していることが、候補ドラッグが幹細胞に対して少なくとも一つの障害性効果を有することの指標であり、但し、障害性効果が増加したサイクリンの存在下で予防されるか又は停止する、ことによる。また、この方法によりスクリーニングされたドラッグも提供される。
【0019】
本発明は、さらに、小児科の障害の治療に有用な可能性のある候補ドラッグにおいて少なくとも一つの心臓障害性効果に関してスクリーニングすることにおける使用のためのインビトロシステムを提供し、サイクリンA2が増加された心臓組織細胞の集団を含む。
【0020】
本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防においてサイクリンによる相乗効果に関して候補薬剤をスクリーニングすることにおける使用のためのインビトロシステムを提供し、サイクリンA2が増加された心臓組織細胞の集団を含む。
【0021】
さらに、幹細胞に対して少なくとも一つの障害性効果を有する候補ドラッグに関してスクリーニングすることにおける使用のためのインビトロシステムが提供され、但し、障害性効果は増加されたサイクリンの存在下で予防されるか又は停止し、サイクリンA2が増加された幹細胞の集団を含む。
【0022】
さらに、本発明は、心臓組織の生成におけるサイクリン関連薬剤の用途を提供する。
最後に、本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防におけるサイクリン関連薬剤の用途を提供する。
【0023】
本発明のさらなる側面は、以下の記載に照らして明らかとなる。
発明の詳細な説明
遺伝子変調、細胞移植、及び組織工学は、心筋の損傷後の心筋再生及び組織修復のための革命的アプローチを約束する。動物モデルに由来する最近のデータは、損傷を受けた心臓へ遺伝物質又は筋原細胞を挿入することにより心不全を治療することが可能かもしれないことを示唆する。例えば、米国特許第6,534,052号及び米国特許出願番号20030022367、20030054973、及び20020197240を参照。
【0024】
心臓の再生に対する一つの可能性のあるアプローチは、心筋細胞の細胞周期再エントリー及び増殖を促進させるような細胞蛋白質のマニプレーションを含む。このアプローチは、鍵となる細胞周期制御蛋白質の同定のために、近年多大な興味を募らせており、幾つかの報告の刊行物は、これらの因子のマニプレーションがインビボ及びインビトロのDNA合成を、後−有糸分裂心室心筋において再活性化することができる(Kirshenbaum and Schneider,J.Biol.Chem.,270:7791−94,1995;Agah et al.,J.Clin.Invest.,100:2722−28,1997;Soonpaa and Field,Circ.Res.,83:15−26,1998)。本発明の前には、しかしながら、細胞周期の終了(よって、最後の分化)がいったん優った(surpassed)なら、これらの因子の制御が心筋細胞の有糸分裂を誘導し得ることを直接に証明する以前の報告はない。
【0025】
以前に、心筋細胞周期の理解における顕著なギャップが、G2/Mチェックポイントの仮想細胞制御因子の効果を探索する限定された数の研究よりもたらされた。サイクリンA2は、培養された細胞系においてG1/SとG2/M期の両方を経た遷移を制御することが示された全てのサイクリンの間ではユニークである(Sherr and Roberts,Genes Dev.,9:1149−63,1995)。細胞が細胞周期から撤退する(withdraw)につれ心筋細胞の分割が停止する場合、サイクリンA2は生誕後すぐには心臓においては通常沈黙している。これは、ラットとヒトの心臓において以前に確定され(Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95:2275−80,1995)、そして発明者らはこれをマウスにおいて確認した。サイクリンA2のmRNAと蛋白質のレベルの一時のパターンは、心筋細胞の細胞周期の終了の制御因子としてのサイクリンA2に関する決定的な役割を暗示する。
【0026】
心筋細胞の細胞周期をさらに証明するために、発明者らは、心筋内の構成的なサイクリンA2の発現のマウスのモデルを生じさせ、そして脱制御されたサイクリンA2の発現の、心筋細胞の増殖及び最後の分化に対する衝撃を試験した。表現型の分析は、成体の心臓における過形成による心臓の巨大化を明らかにした。より重要なことに、心筋細胞の有糸分裂は、正常な心臓と比較して、トランスジェニックにおいて新生後の発生の間に顕著に増強され、最も劇的な差異はPN7において起きた。しかしながら、トランスジェニックマウスにおける心臓の巨大化は、6月齢の成体の間に統計上有意になったことから、構成的なサイクリンA2の発現により誘導された過形成が、主に新生後の発生の間に上昇し、胚発生の間には上昇しなかったことが暗示される。
【0027】
初期の研究が示唆したことは、変更されたか又は不在の細胞周期蛋白質の幾つかの他のマウスモデルにおいては胚発生が過形成に必須であったことであった。例えば、Liaoら(Circ.Res.,88:443−50,2001)は、cdk2の心臓における過剰発現がPN2において心臓の巨大化を引き出したが、これは成体においては持続しないことを示した。p27KIPIノックアウトマウスの心臓の表現型は、野生型に比較して、2日齢と35日齢の間に分析されたところによれば、心臓の重量の顕著な増加を呈した(Poolman et al.,Circ.Res.,85:117−27,1999)。c−myc過剰発現のマウスは、1日齢及び15日齢において最も甚大であった心臓サイズの巨大化を呈した(それぞれ、44%及び46%);しかしながら、60日齢には、たった34%の増加しか記録されなかった(Jackson et al.,Mol.Ceell.Biol.,7:3709−16,1990)。これらの研究の全てにおいて、研究者らは、新生後の成長の加速なしに、この過形成が胎児の発生の間に起こったと結論した。
【0028】
マウスの心臓のサイクリンD1の過剰発現が成体のトランスジェニックの心臓において増加したDNA合成を促進させ、複数の核化をもたらしたことを示した;核分裂(karyokinesis)は記録されなかった(Soonpaa et al.,J.Clin.Invest.,99:2644−54,1997)。成体のトランスジェニックマウスのHW/BW比を非トランスジェニックマウスのHW/BW比と比較した場合に、約40%の巨大化が記録された(各群に関してn=4、齢は特定されない)。>60%の成体サイクリンD1トランスジェニック心筋細胞が複数核化表現型を呈したが、著者らは、これらの心筋細胞が核分裂を経る能力を保持したか否かは明らかでないと結論した。この同じグループの研究者らは、以前に(Soonpaa et al.,J.Clin.Invest.,99:2644−54,1997)、正常なマウスの心臓の心筋の分割が生誕後には起こらず、PN2とPN3を経たDNA合成が二核発生(binucleation)のみに貢献したことを証明した。
【0029】
構成的心臓サイクリンA2発現の発明者らのモデルは、核分裂がトランスジェニック心臓において生誕後に誘導されることを直接証明する。最近公表された報告は、RhoファミリーのGTPasesの阻害の効果を記載し、サイクリンA2の結合及び心筋細胞の増殖への支持をさらに与える:マウス心筋中の、Rhoファミリー蛋白質の阻害剤であるRho GDIαの発現が、サイクリンAのダウン制御に関連した胚の心臓内の細胞増殖の低下をもたらした(Wei et al.,Development,7:1705−14,2002)。
【0030】
サイクリンA2が培養された細胞系においてG1/S及びG2/Mの両方を制御することが示されたが(Sherr and Roberts,Genes Dev.,9:1149−63,1995)、発明者らは、それがインビボにおいて両ギャップ相の制御において役割を担うと仮定した。ショウジョウバエにおいては、両ギャップ相の制御因子が過剰生産されたときに(即ち、サイクリンE及びストリング)、細胞は両ギャップ相の短縮化を補償することができなかった;細胞周期は全体として短縮され、より速い世代時間の小さな細胞をもたらす(Neufeld et al.,Cell,93:1183−93,1998)。以前の研究者が示したことは、G1−からS−期の細胞周期制御蛋白質がインビトロとインビボにおいて細胞のサイズを低下させたことであった(Liao et al.,Circ.Res.,88:443−50,2001;Quelle et al.,Genes Dev.,8:1559−71,1993)。この機構は、一部には、発明者らのモデルにおいて記録された小さな細胞を伴う心筋細胞の過形成を説明するかもしれない。しかしながら、新生後の発生の間の発明者のモデルにおけるあらゆる顕著な心臓巨大化の欠如は、トランスジェニックと正常な動物の間の心臓のサイズのギャップにおける年齢に関連した増加と共に、心臓発生が正常に完了した場合には、「脱沈黙」サイクリンA2の最も劇的な効果が生誕後におこるという結論をさし示す。
【0031】
サイクリンA2が心臓の修復に貢献できるか否かを試験するため、発明者らは、トランスジェニックマウス、非トランスジェニック同腹仔、及び野生型マウス(株及び年齢適合した)において、左前下行枝(left anterior descending artery)(LAD)のライゲーションにより、心筋梗塞(MI)を誘導した。全部で89匹のマウスを梗塞させた;MIの1週間後には83%の生存率があった。
【0032】
容積放出フラクション(EF)を測定するためにfMRIを利用して機能分析を実施した;タギングを用いて局地的な壁の移動を測定した。サイクリンA2トランスジェニックマウスは、対照に比較して、MIの3週及び3ヵ月後に、顕著に増強されたEFを示した。左心室(LV)の梗塞のパーセントは、全ての群の間で一致した。トランスジェニックの心臓においては、心機能の維持が3月齢において観察され、EFの下降とフラクションの短縮化が8月齢において記録された。これは、若い動物に比較して、5−6月齢後のトランスジェニックと正常な動物の間での多大なHW/BWの違いの観察と一致する。高柔軟性(hyperplastic)心臓は、最終的に年齢と共に低収縮性(hypocontractility)へ最終的には進む高収縮性(hypercontractility)を示すことが予測される。
【0033】
発明者らは、心臓機能に寄与するかもしれない、有力な細胞機構及び分子機構も試験した。増殖のアッセイは、有糸分裂の特異的マーカーであるホスホヒストンH3(H3P)を検出するための免疫蛍光及び共焦点顕微鏡を含んだ。BRDU標識化も実施した。これらの研究において、発明者らは、トランスジェニックマウス内の梗塞ゾーン及び非梗塞心筋の中の心筋細胞に局在した有糸分裂(抗−ホスホヒストンのための免疫染色により評価された)を見出した;たった0−1のそのような有糸分裂しか非トランスジェニック心臓及び野生型心臓には記録されなかった。これは、サイクリンA2トランスジェニック心筋細胞が損傷に応答して細胞周期に再度入ることができることを示唆する。
【0034】
心臓の前駆細胞は、トランスジェニック動物と対照の両方の梗塞ゾーンに検出された。これらの前駆細胞は、「副集団」(SP)の細胞の公知のマーカーであるABCG2を発現する。SP細胞は、ヘキストエキストルージョン(extrusion)を基にして同定される前駆細胞のクラスを形成する。それらは多くの組織において観察されたが、骨格筋、骨髄、肝臓、脳、及び心臓を含む。トランスジェニック心臓のみにおいて、サイクリンA2の核局在が検出されたが、「デノボ」心筋であるらしい。これらの結果は、サイクリンA2トランスジェニックマウスが、梗塞周囲の(peri−infarct)心筋細胞の細胞周期への再侵入を通してか又は増強された増殖可能性のあるSP細胞の誘導を通して、損傷を受けた心筋を修復することができることを示す。
【0035】
「デノボ」心筋であるらしい核内のサイクリンA2の発現は、新生後のトランスジェニックモデルにおいて記録された発生の理論的枠組み(paradigm)を要約する(recapitulate)。類似の位置の細胞内のABCG2発現の発見とカップルした、核サイクリンA2の存在(連続切片を分析したところ)は、心筋に通常は存在するトランスジェニックモデルのSP細胞が「高増殖」表現型を呈することを暗示する。これは、心臓の再生のための興奮性枝分かれ(exciting ramification)を有するかもしれない。
【0036】
発明者らのトランスジェニックモデルにおいては、次に、通常は沈黙しているサイクリンA2の構成的心臓発現が新生後の心臓において心筋細胞の有糸分裂を呼び出した(revoked)が、結果の心臓巨大化(過形成による)が成体の心臓において記録された。発明者らのモデルは、それがG1/Sチェックポイントに加えて、G2/Mチェックポイントの調節に特異的に接近する、変更されたか又は不在の細胞周期制御因子を試験する以前のマウスモデルとは異なる。さらに、新生後の心筋細胞内の核分裂は、Ser10におけるヒストン−3のリン酸化の検出を通して特異的に証明され、そしてさまざまな段階の心筋細胞の有糸分裂が観察されるかもしれない。成体の間の通常の心臓に比較しての、トランスジェニック心臓における増強されたHW/BWの増加は、細胞質分裂(cytokinesis)がトランスジェニック心臓においては有糸分裂とカップリングしていることを示唆する。心筋細胞の有糸分裂の低下がPN7とPN14の間で記録され、そして分散した(scattered)有糸分裂が成体の心臓において記録されたことから、細胞周期の阻害剤は、サイクリンA2の発現にもかかわらず、チェックにおけるこの有糸分裂プロセスを維持することを示す。
【0037】
さらに、サイクリンA2トランスジェニックマウスは、非トランスジェニック同腹仔及び野生型対照に比較して、MIの3週及び3ヶ月後に、顕著に増強された心臓機能を有する。これは、サイクリンA2が有糸分裂後の心筋細胞に関して、細胞周期に再度入る能力を提供するかもしれないことを示唆する。サイクリンA2は、心筋に通常は見出される副集団の前駆細胞に対する高増殖効果も提供するらしい。
【0038】
前記の見地から、本発明は、心臓の組織の生成を促進させる方法を提供する。本明細書において使用される用語「心臓の組織の生成を促進させる」は、心臓組織の成長及び/又は増殖を、活性化、増強、促進、増加、誘導、開始又は刺激すること、並びに、心臓組織細胞の分化、成長及び/又は増殖を、活性化、増強、促進、増加、誘導、開始又は刺激することを含む。即ち、当該用語は、心臓組織生成の開始、並びに、既に進行している心臓組織生成の促進又は増強を含む。「分化」は、細胞が発生の間に構造上及び機能上特化されるようになる細胞プロセスである。本明細書にて使用される用語「増殖」及び「成長」は、心臓組織の質量、容積及び/又は厚さの増加、並びに、心臓組織細胞の直径、質量又は数の増加を意味する。さらに本明細書にて使用される、用語「生成(generation)」は、新たな心臓組織の生成及び心臓組織が以前に存在した心臓組織の再生を含む。
【0039】
本明細書にて使用される用語「心臓組織」は、限定ではないが、心臓の心筋(心臓筋肉繊維、結合組織(筋内膜(endomysium))、神経繊維、毛細管、及びリンパ液(lymphatics)を含む);心臓の心内膜(endocardium)(弾性膜(fibroelastic)結合組織、血管、リンパ液、神経繊維、脂肪組織、及び扁平上皮(squamous epithelial)細胞からなる中皮(mesothelial)膜);及びあらゆる追加の結合組織(pericardiumを含む)、血管、リンパ液、脂肪細胞、前駆細胞(例えば、副集団(SP)前駆細胞)、及び心臓に見出される神経組織を含む。心臓筋肉繊維は、連続する心臓筋肉細胞、又は「心筋細胞」の鎖からなり、末端と末端をインターカレートされたディスクにて接合している。これらのディスクは、2種類の細胞接合部を所有し:それらの貫通部分に沿って広がる拡張されたデスモゾーム、及びギャップ接合部であって、そのもっとも大きなものがそれらの縦部分に沿って横たわる。
【0040】
本発明の方法は、一つの態様において、心臓組織細胞中のサイクリンを増加させることを含む。心臓組織細胞は、上記のとおり、心臓内に見出される様々な組織の細胞の何れをも含む。例示のために、本発明の心臓組織細胞は、前駆細胞(例えば、心臓組織副集団(SP)前駆細胞)及び分化した細胞又は有糸分裂後の細胞を含んでよい。本明細書にて使用される用語「有糸分裂後」は、G0期の細胞(静止状態)であり、そしてもはや分割しないし周期には入らない。本発明の好ましい態様において、心臓組織細胞は、心筋細胞である。心臓組織の生成が、非心臓組織(例えば、脾臓、骨髄、骨格筋、脳、肝臓、腎臓、肺、小腸、等)に由来するSP前駆細胞内のサイクリンを増加させることにより促進されるかもしれないということが、本発明の境界内でもある。
【0041】
本発明の心臓組織細胞及びSP前駆細胞は、霊長類、鳥、魚、哺乳類、及び有袋類のいずれかから得てよいが、好ましくは、哺乳類から得る(例えば、ヒト、家畜、例えば、ネコ、イヌ、サル、マウス及びラット;又は市販の動物、例えば、ウシ又はブタ)。さらに、本発明の心臓組織細胞及びSP前駆細胞は、いかなる齢の動物から得てもよく、胎児、胚、子供、及び成体を含む。本発明の一つの態様において、心臓組織細胞及びSP前駆細胞は、以下に記載されるとおり、その心臓組織においてサイクリンA2を過剰発現するトランスジェニック動物から得る。本発明の一つの好ましい態様において、心臓組織細胞又はSP前駆細胞は、ヒトから得る。
【0042】
上記の通り、本発明の方法は、新たな心臓組織の生成及び/又はそのような組織が存在するように使用される心臓組織の再生をもたらす。再生の場合、本発明の心臓組織細胞は、損傷されたか又は変性された心臓組織(即ち、病原性状態を呈する心臓組織)から得るか又はその中に見出してよい。心臓組織の変性の原因は、限定ではないが、慢性の心臓の損傷、慢性の心不全、ケガ又は外傷によりもたらされる損傷、心臓の毒素によりもたらされる損傷、照射又は酸化性フリーラジカルによる損傷、低下した血流によりもたらされる損傷、及び、心筋梗塞(例えば、心臓の病気(attack))を含む。好ましくは、本発明の変性された心臓組織は、心筋梗塞又は心不全によりもたらされる。新たな心臓組織の生成及び心臓組織の再生は、公知の手法により測定又は検出してよく、心臓特異的蛋白質のウエスタンブロッティング、形態計測(morphometry)と共同した電子顕微鏡、細胞増殖の速度を測定するための単純なアッセイ(トリパンブルー染色、Promega(マジソン、WI)のCellTiter−Blue細胞生存アッセイ、ATCCのMTT細胞増殖アッセイ、フルオレセインジアセテート及びエチジウムブロミド/ヨウ化プロピジウムによる特異染色、ATPレベルの評価、フローサイトメトリーアッセイ、等を含む)、及び本明細書に開示された方法、分子手法、及びアッセイの何れかを含む。
【0043】
上で論じられたとおり、サイクリンは、本発明の方法に従い、心臓組織細胞又はSP前駆細胞内で増加される。サイクリンは特定の真核生物細胞内に見出される蛋白質であり、細胞に有糸分裂を始めさせることにより細胞周期を制御することを助ける(核分裂の形態)。当該蛋白質は、一般に、細胞周期の全部分の間に生産されるが、有糸分裂の間に破壊される。サイクリンの例は、限定ではないが、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンC、サイクリンD、及びサイクリンEを含む。哺乳類のA−タイプのサイクリンファミリーは、2つのメンバー、サイクリンA1(サイクリンAの生殖(gern)細胞バージョン)及びサイクリンA2(サイクリンAの体細胞バージョン、ヒトにおいては「サイクリンA」として知られる)からなる。このファミリーに含まれるのは、アデノウイルスのe1aに関連した蛋白質p60に同一の33−kDの蛋白質である。サイクリンA蛋白質は、p33cdk2及びp34cdc2を制御し、そして細胞周期のS期を通した進行に必要である。サイクリンA2は、G1/S及びG2/Mの遷移の両方を促進する;サイクリンA1はマウスにおいて生殖(germ)ラインの系列において独占的に発現され、そしてヒトにおいては睾丸及び特定のミエロイド白血病細胞において高レベルで発現される。サイクリンBは細胞周期において転写後及び翻訳後に制御される58−kDの蛋白質である。本発明の一つの好ましい態様において、サイクリンはサイクリンA2である。
【0044】
本明細書にて使用される用語「サイクリン」は、「サイクリン蛋白質」及び「サイクリン類似体」を含む。他に示さなければ、「蛋白質」は、蛋白質、蛋白質ドメイン、ポリペプチド、又はペプチド、及び蛋白質機能を有するそれらのあらゆる断片又はバリアントを含む。バリアントは、好ましくは、天然に生じる蛋白質配列と約75%を超える相同性、より好ましくは、蛋白質配列と、約80%を超える相同性、さらにより好ましくは約85%を超える相同性、そしてもっとも好ましくは約90%を超える相同性を有する。幾つかの態様において、相同性は、約93−95%、98%、又は99%程の高さであってよい。これらのバリアントは、置換性、挿入性又は欠失性であってよい。当該バリアントは、化学修飾された誘導体:化学修飾に供されたが天然に生じた蛋白質の生物学的特性を維持した蛋白質であってもよい。本発明の一つの態様において、上記蛋白質は、心臓組織細胞内部における長い半減期を有するように変異される(例えば、そのユビキチン結合部位において修飾される)。
【0045】
本明細書にて使用される用語「サイクリン類似体」は、サイクリン蛋白質と60%又はそれより高い(好ましくは、70%又はそれより高い)アミノ酸相同性を有する、サイクリンの生物活性を有するサイクリン蛋白質の機能バリアントである。本明細書においてさらに使用される用語「サイクリン生物活性」は、本明細書において記載されたような、心臓組織の生成を促進させる能力を示す蛋白質又はペプチド活性を意味する。
【0046】
サイクリンA2蛋白質は、図6に示されるアミノ酸配列を有し、その保存的置換体を含む。本明細書にて使用される用語「保存的置換体」は、置換されたアミノ酸残基に機能上均等なアミノ酸置換体であり、それらが類似の極性又は立体構造を有するからか、又はそれらが置換された残基と同じクラスに属するからである(例えば、疎水性、酸性又は塩基性)。用語「保存的置換体」は、心臓組織の生成を促進するサイクリンの能力に対して取るに足らない効果しか有さない置換体であって、特に、サイクリンのアゴニストの同定又はデザインに関して、分子置換分析に関して、及び/又は相同性モデリングに関しての、上記相互作用の使用に関してである。
【0047】
当業者には明らかなとおり、本発明によりカバーされる、蛋白質中、及び断片、バリアント、類似体、及びペプチド模倣物内のアミノ酸残基のナンバリングは、本明細書に示されたものと異なってよく、或いは本明細書に記載された活性と同じ心臓組織生成活性を生じる特定の保存的アミノ酸置換体を含んでよい。他のアイソフォーム又は類似体中の対応するアミノ酸及び保存的置換体は、関連するアミノ酸配列を可視的に調査することにより、又は市販の相同性ソフトウエアプログラムを用いることにより、容易に同定される。
【0048】
本明細書に記載された方法によれば、サイクリンは、細胞中のサイクリンの一つ又は複数の機能、活性、又は効果(例えば、サイクリンシグナルトランスダクション経路中のサイクリンの下流の効果)、特に心臓組織生成の促進をもたらすものを活性化するか、促進するか、誘導するか、又は刺激することによるか、又は細胞中のサイクリンの量、発現、又はレベルを増加させることにより、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞において増加させるか(augmented)又は上昇させて(increased)よい。さらに、細胞中の一つ又は複数のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及びレベルを、直接にサイクリンを標的化することによるか、又は間接にサイクリンを標的化することにより、酵素又は細胞中のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを制御するか又は変調させる他の内部分子により、増加させてよい。サイクリンの発現は、誘導可能なプロモーター上でサイクリンが発現されるようにサイクリン遺伝子を操作することにより増加させてもよい。そのような場合、サイクリン発現は、適切な誘導因子の存在下で保持されるはずであるが、誘導因子の供給が枯渇したら遮断されるはずであり、それにより、細胞中のサイクリンの量又はレベルの低下をもたらす。サイクリンは、内部サイクリンの機能、活性、効果、発現、及びレベルを活性化するか、促進するか、誘導するか又は刺激することにより、又は内部サイクリンの導入により、特にサイクリンが強いプロモーターの調節下にあるように、増加させてもよい。
【0049】
好ましくは、心臓組織細胞中のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを少なくとも10%増加させるか又は上昇させる。より好ましくは、サイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを少なくとも20%上昇させる。サイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを、心臓組織の生成を促進させるのに有効な量により心臓組織細胞又は副集団(SP)の前駆細胞中で増加させる。この量は、公知の手法に基づいて当業者により容易に決定してよく、インビボで確立されたタイトレーションの曲線分析、本明細書に開示された方法、及び当業者に公知の技術を含む。
【0050】
本発明の方法においては、心臓組織細胞又は副集団(SP)の前駆細胞の中のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルは、細胞をサイクリン関連薬剤に接触させる(即ち、細胞を処理する)ことにより、増加させるのが好ましい。本明細書にて使用される「薬剤(agent)」は、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、核酸(DNA,RNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む)、抗体(モノクローナル及びポリクローナル)、Fab断片、F(ab’)2断片、分子、化合物、抗生物質、ドラッグ、及びそれらのあらゆる組み合わせを含み、サイクリンと反応性の薬剤であってよい。本明細書にて使用される用語「反応性(reactive)」は、分子又は模倣物がサイクリンに親和性であるか、サイクリンに結合するか、又はサイクリンに対して向けられることを意味する。Fab断片は、抗体のユニバーサルな抗原結合断片であり、パパイン消化により生じる。F(ab’)2断片は、抗体の二価の抗原結合断片であり、ペプシン消化により生じる。
【0051】
さらに本明細書にて使用される用語「サイクリン関連薬剤」は、内部サイクリン蛋白質を含むサイクリン蛋白質;サイクリン核酸(即ち、サイクリンをコードする核酸);サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー(蛋白質又は核酸のいずれかの形態の上流及び下流の作用因子及び活性化因子を含む);及びサイクリントランスダクション経路又はシステムのメンバーの変調因子(例えば、阻害因子、活性化因子、アンタゴニスト、又はアゴニスト)(即ち、サイクリントランスダクション経路のメンバーの発現、活性、機能、及び/又は効果に影響する変調因子)であって蛋白質形態又は核酸形態の何れかであって、サイクリン発現の変調因子を含むものを含む。さらに、本明細書にて使用される用語「サイクリントランスダクション経路のメンバー」は、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内のサイクリンの下流作用因子又は上流制御因子を含む。
【0052】
例示のために、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内のサイクリンの活性は、サイクリン活性を刺激するか、及び/又はサイクリンと反応性の小さな分子又は蛋白質模倣物に上記細胞を接触させることにより増加させてよい。同様に、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内のサイクリンのレベルは、被験者内のサイクリンの発現を直接か又は間接に引き起こす(causing)か、誘導するか、又は刺激することにより、増加させてよい。従って、本発明の一つの態様において、サイクリンの活性は、サイクリン発現の変調因子を被験者に投与することにより、上昇させる。
【0053】
本発明の一つの態様において、サイクリン関連薬剤は蛋白質である。本発明における使用のための蛋白質は、限定ではないが、サイクリン蛋白質、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー(上流及び下流の作用因子及び活性化因子ポリペプチド)、サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーの変調因子(例えば、阻害剤、活性化因子、アンタゴニスト、又はアゴニスト)、サイクリン関連抗体(例えば、IgA,IgD,IgE,IgG,IgM,及び単鎖抗体、及びFab’断片、例えばscFv)であってサイクリンシグナルトランスダクション経路の負の制御因子に結合して阻害することができるもの、及びサイクリン関連リガンド(例えば、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーのリガンド、及びそれらの誘導体)を含む。好ましくは、サイクリン関連蛋白質はサイクリンA2蛋白質である。
【0054】
本発明の蛋白質が抗体である場合に、蛋白質は、好ましくは、哺乳類の抗体(例えば、ヒト抗体)又はキメラ抗体(例えば、ヒト化抗体)である。より好ましくは、抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体である。本明細書にて使用される用語「ヒト化抗体」は、その特異的機能に通常必須の動物の抗体(例えば、マウス、ラット、ブタ、ヤギ又はチキン)の最小の部分がヒト抗体に「融合」している遺伝子操作された抗体を意味する。通常、ヒト化抗体は1−25%、好ましくは5−10%が動物であり;残りがヒトである。ヒト化抗体は、通常、ヒト免疫系において、最少か又はまったく応答を開始しない。ヒト以外の生物においてヒト又はヒト化抗体を完全に発現する方法は、当業界においてよく知られており;例えば、米国特許第6,150,584号、免疫された異種マウス(xenomice)由来のヒト抗体;米国特許第16,162,963号、異種個体の(xenogenetic)抗体の生成;及び米国特許第6,479,284号、ヒト化抗体及びその使用を参照。本発明の一つの態様において、抗体は、単鎖抗体である。好ましい態様において、単鎖抗体は、ヒト又はヒト化単鎖抗体である。本発明の別の好ましい態様において、抗体はマウス抗体である。
【0055】
本発明のサイクリン関連薬剤は、核酸であってもよい。本明細書において使用される用語「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、核酸、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、及びそれらのあらゆる断片及びバリアントを含む。核酸又はポリヌクレオチドは、二重鎖、一本鎖、又は三重鎖のDNA又はRNA(cDNAを含む)、又は遺伝子オリジン又は合成オリジンのRNA−DNAハイブリッドであってよく、但し、核酸は限定ではないが、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのあらゆる組み合わせ及びアデニン、チミジン、シトシン、グアニン、ウラシル、イノシン、及びキサンチンヒポキサンチンを含む塩基のあらゆる組み合わせを含む。核酸又はポリヌクレオチドは、カルバルデヒド、脂質、蛋白質、又は他の物質を組み合わせてよい。好ましくは、核酸はサイクリンA2蛋白質をコードする。
【0056】
核酸の「相補体」は、本明細書においては、別の核酸に完全に相補な核酸分子、又は高ストリンジェンシー条件下で他の核酸にハイブリダイズする核酸分子を意味する。高ストリンジェンシー条件は、当業界で知られている;例えば、Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(コールドスプリングハーバー:コールドスプリングハーバーラボラトリー、1989)及びAusubel et al.,編纂、Current Protocols in Molecular Biology(ニューヨーク、NY,:ジョンワイリーアンドソンズ社、20010を参照。ストリンジェント条件は、配列依存性であり、そして環境に依存して変更してよい。本明細書にて使用される用語「cDNA」は、単離されたDNAポリヌクレオチド又は核酸分子、又はそのあらゆる断片、誘導体又は相補体を意味する。それは、二重鎖、一本鎖、又は三重鎖であってよく、組換え起源であるか又は合成起源であってよく、そしてコーディング及び/又は非コーディング5’及び/又は3’配列であってよい。
【0057】
本発明の核酸薬剤は、例えば、プラスミドであってよい。そのようなプラスミドは、サイクリン又は別のサイクリン関連蛋白質をコードする核酸配列を含んでよいが、他の種類の核酸、例えば、組換えウイルスベクターを本発明のために使用してもよいことが認識される。本発明の一つの態様において、核酸(例えば、プラスミド)は、少なくとも一つのサイクリン関連蛋白質をコードする。好ましくは、核酸がサイクリンA2蛋白質をコードする。
【0058】
用語「プラスミド」は、一般に、環状二重鎖DNAを意味し、染色体には結合していない。当該DNAは、例えば、染色体又はエピソーム由来のプラスミドであってよい。本発明のプラスミドは、任意に、転写ターミネーター;プロモーター;及び/又はプロモーターとターミネーターの間に位置する制限酵素認識部位の不連続(discrete)シリーズを含んでよい。プラスミド中には、目的のポリヌクレオチド挿入物(例えば、サイクリン関連蛋白質をコードする)を適切なプロモーターに作動可能なように連結するべきである。プロモーターは、その本来の(native)プロモーター又は宿主由来のプロモーターであってよい。プロモーターは、組織特異的プロモーター、例えば、心筋細胞特異的プロモーター又は他の心臓組織特異的プロモーターであってもよい。プロモーターは、さらに制御可能なプロモーターであってよく、遺伝子の発現がもはや望まれないときは、止めて(turn off)よい。本発明における使用のためのプロモーターの例は、アクチンプロモーター及びウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターは、当業者に知られている。
【0059】
本発明の別の態様において、核酸(例えば、プラスミド)は少なくとも一つの遺伝子沈黙(gene−silencing)カセットを含み、当該カセットはサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムに対して負に影響する遺伝子の発現を沈黙させることができる。当業界では、遺伝子を多くのステージにおいて沈黙化してよいことが知られており、限定ではないが、転写前沈黙化、転写沈黙化、翻訳沈黙化、転写後沈黙化、及び翻訳沈黙化を含む。本発明の一つの態様においては、遺伝子沈黙化カセットは、転写後遺伝子沈黙化構成物(composition)、例えば、アンチセンスRNA又はRNAiをコードするか又は含む。アンチセンスRNA及びRNAiの両者は、インビトロ、インビボ、エクスビボ、又はインサイチュにおいて生産してよい。
【0060】
例えば、本発明のサイクリン関連遺伝子は、アンチセンスRNAであってよい。アンチセンスRNAは、その結合がmRNAの転写又は翻訳のプロセシングをさらに阻害する、特定のRNA転写物又はmRNAに相補な配列を有するRNA分子である。アンチセンス分子は、合成によるか又は組換えにより、アンチセンス遺伝子沈黙化カセットを発現する核酸ベクターにより、生成してよい。そのようなアンチセンス分子は、一本鎖RNAs又はDNAs、15−20塩基程の長さ又は全mRNAに相補な配列と同様の長さであってよい。RNA分子はヌクレアーゼに感受性である。ヌクレアーゼ消化に対しての防御性を提供するためには、アンチセンスデオキシオリゴヌクレオチドをホスホロチオエートとして合成してよく、デオキシヌクレオチドのリン酸基を包囲する隣接酸素の一つが硫黄原子により置換されている(Stein et al.,Oligonucleotides as inhibitors of gene expressi)。
【0061】
全mRNAに結合するようにデザインされたアンチセンス分子は、反対の方向又はアンチセンスの方向に発現プラスミド中へcDNAを挿入することにより作成してよい。アンチセンス分子は、mRNAの5’キャップ部位近くで翻訳開始因子が結合するのを防ぐことによるか、又はmRNAとリボソームの相互作用を干渉することにより、機能してもよい(例えば、米国特許第6,448,080号、Antisense modulation of WRN expression;米国特許出願番号2003/0018993、Methods and composition for expressing polynucleotides specically in smooth muscle in vivo;Tavian et al.,Stable expression of antisensu urokinase mRNA inhibits the proliferation and invasion of human hepatocellular carcinoma cells.Cancer Gene Ther.,10:112−20,2003;Maxwell and Rivera,Proline oxidase induces apoptosis in tumor cells and its expression is absent or reduced in renal carcinoma.J.Biol.Chem.,278:9784−89,2003;Ghosh et al.,Role of superoxide dismutase in survival of Leishmania within the macrophage.Biochem.J.,369:447−52,2003;及びZhang et al.,An anti−sense construct of full−length ATM cDNA imposes a radiosensitive phenotype on normal cells.Oncogene,17:811−8,1998)。
【0062】
サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーに対してアンチセンスなオリゴヌクレオチドは、目的のメンバーのヌクレオチド配列を基にしてデザインしてよい。例えば、目的のヌクレオチド配列の一部の配列(通常、15−20塩基対)、又はそのバリエーション配列を、アンチセンスオリゴヌクレオチドのデザインのために選択してよい。ヌクレオチド配列のこの部分は5’ドメイン内であってよい。目的の遺伝子の選択された部分配列に対して相補なヌクレオチド配列、又は選択されたバリエーション配列を、次に、当業者に知られている様々な技術の一つを用いて合成してよく、限定ではないが、目的のヌクレオチド配列の部分配列又はそのバリエーション配列に対応する配列を有するオリゴヌクレオチドの自動化合成を含み、市販のオリゴヌクレオチド合成器、例えばアプライドバイオシステムズのモデル392 DNA/RNA合成器を使用する。
【0063】
所望のアンチセンスオリゴヌクレオチドを一度製造すれば、次に、そのサイクリンを増加させる能力をアッセイしてよい。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、心臓組織細胞又はSP前駆細胞に接触させてよく、そして細胞中のサイクリンの発現又は活性のレベルを標準技術、例えば、ウエスタンブロット分析及び免疫染色を用いて測定してよい。あるいは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、リポソーム媒体を用いて心臓の組織細胞又はSP前駆細胞に送達してよく、次に、細胞中のサイクリンの発現又は活性のレベルを標準技術、例えば、ウエスタンブロット分析及び免疫染色を用いて測定してよい。デザインされたアンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下で細胞中のサイクリン発現レベルが増加していたら、当該オリゴヌクレオチドは心臓組織細胞又はSP前駆細胞中でサイクリンを増加させることにおける使用のための適切なサイクリン関連薬剤であり得ると結論してよい。
【0064】
サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーにアンチセンスなオリゴヌクレオチドは、別の薬剤、例えばリボザイムに結合することにより、サイクリン関連薬剤を用いた処置の有効性を増大させるか、及び/又は標的化の効力を増大させてよい。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、上記のとおり、修飾塩基(例えば、ホスホロチオエート)を用いて製造することにより、オリゴヌクレオチドをより安定にし、且つ分解に良好に耐え得るようにしてよい。
【0065】
本発明のサイクリン関連薬剤は、サイクリン小干渉RNAi(siRNA)を含む干渉RNA又はRNAiであってもよい。本明細書にて使用される「RNAi」は、あらゆる長さの二重鎖RNA(dsRNA)であって、一本鎖突出を有するものも有さないものも意味し、少なくとも一方の鎖、推定上はアンチセンス鎖が、分解される標的mRNAに相同である。さらに本明細書にて使用される「二重鎖RNA」分子は、不対ヌクレオチドの一本鎖突出の存在にも拘わらず、RNA二重鎖を形成する2つの鎖を含む、あらゆるRNA分子、断片又はセグメントを含む。さらに、本明細書にて使用される、二重鎖RNA分子は、機能的ステム−ループ構造を形成する一本鎖RNA分子を含み、それにより一本鎖突出により構造上均等なRNA二重鎖を形成するようにする。本発明の二重鎖RNA分子は、極めて大きくてよく、数千ヌクレオチドを含んでよいが、好ましくは、小さく、21−25ヌクレオチドの範囲である。好ましい態様においては、本発明のRNAiは少なくとも19ヌクレオチドの二重鎖RNA二本鎖(double−stranded RNA duplex)を含む。
【0066】
本発明の一つの態様において、RNAiは、RNAiをコードする遺伝子沈黙化カセットを含む発現ベクターによりインビボにおいて生産される。例えば、米国特許第6,278,039号、C.elegans deletion mutants;米国特許出願番号2002/0006664、arrayed transfection method and uses related thereto;WO 99/32619、Genetic inhibition by double−stranded RNA:WO 01/29058、RNA interference pathway genes as tools for targeted genetic interference;WO 01/68836、Methods and composition for the control of nematodesを参照。本発明の別の態様において、RNAiはインビトロにおいて、合成によるか又は組換えにより生産し、そして標準の分子生物学の技術を用いて微生物中に移す。RNAiを作成して移す方法は、当業界でよく知られており:例えば、Ashrafi et al.,Genome−wide RNAi analysis of Caenorhabditis elegans fat regulatory genes.Nature,421:268−72,2003;Cottrell et al.,Silence of the strands:RNA interference in eukaryotic pathgens.Trends Microbiol.,11:37−43,2003;Nikolaev et al.,Parc.A Cytoplasmic Anchor for p53.Cell,112:29−40.2003;Wilda et al.,Killing of leukemic cells with a BCR/ABL fusion gene RNA interference (RNAi).Oncogene,21:5716−24,2002;Escobar et al.,RNAi−mediated oncogene silencing confers resistance to crown gall tumorigenesis.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98:13437−42,2001;及びBilly et al.,Specific interference with gene expression induced by long,double−stranded RNA in mouse embryonal teratocarcinoma cell lines.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98:14428−33,2001を参照。
【0067】
本発明のさらなる態様において、プラスミドは、発現プラスミドである。発現プラスミドは、転写開始、終止(termination)、及び任意に転写領域中に翻訳のためのリボソーム結合部位を含んでよい。プラスミドにより発現される成熟転写物のコーディング領域は、翻訳されるポリペプチドの始めに翻訳開始コドンを、及び翻訳されポリペプチドの最後に適切に配置された終止コドンを含んでよい。
【0068】
例示のために、発現プラスミドから発現されるサイクリン関連遺伝子は、特定の種類のプロモーターの特異的制御調節(specific regulatory control)下にあってよい。一つの態様において、これらのプロモーターは、構成的プロモーターである。これらの構成的プロモーターの制御下にある遺伝子は、連続して発現される。別の態様においては、プロモーターが誘導可能なプロモーターである。これらの誘導可能なプロモーターの制御下にある遺伝子は、誘導性分子の存在下又は阻害性分子の不在下でのみ発現され、それにより望まれないときには遺伝子の発現を止める(turn off)方法を提供する。また別の態様において、上記プロモーターは、細胞の種類に特異的なプロモーター又は組織に特異的な(例えば、心臓組織特異的)プロモーターである。細胞の種類に特異的なプロモーターの制御下の遺伝子は、特定の細胞種中でのみ、好ましくは、心筋細胞中でのみ発現される。
【0069】
本発明の別の態様において、サイクリン関連遺伝子は、サイクリン発現/活性の変調因子(例えば、阻害剤、活性化剤、アンタゴニスト、又はアゴニスト)であり、サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーの変調剤を含む。本発明の変調剤は、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、核酸(DNA又はRNAを含む)、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、分子、化合物、抗生物質、又はドラッグであってよく、サイクリンと反応性の薬剤、及びサイクリンの発現又は活性を誘導するか又はアップ制御する薬剤を含む。
【0070】
サイクリンの変調剤又はサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーは、単純なスクリーニングアッセイを用いて同定してよい。例えば、サイクリンの候補変調剤をスクリーニングするために、心臓組織細胞又はSP前駆細胞をマイクロタイタープレート上にプレートし、次にドラッグのライブラリーで被覆する。サイクリン発現の如何なる結果的な増加又はアップ制御も、あとで、当業界公知の、発光レポーター、核酸ハイブリダイゼーション、及び/又は免疫技術を用いて検出してよく、ELISAを含む。サイクリン発現の追加の変調剤は、当業界公知であるか又は本明細書において開示されたスクリーニング手法を用いて同定してよい。サイクリン関連薬剤を用いた処置の有効性を増大させるか、及び/又は標的化の効力を増大させるためには、別の薬剤に結合させるか、又は別の薬剤、例えばドラッグ又はリボザイムと組み合わせて投与してよい。追加のサイクリン関連薬剤は、当業界でよく知られたスクリーニング手法及び本明細書において開示された方法を用いて同定してよい。
【0071】
心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞においてサイクリンを増加させることも本発明の範囲内であり、当該細胞を、増加されたサイクリンを含む幹細胞(例えば、造血幹細胞又は心臓由来の幹細胞)に接触させることによる。当該幹細胞は、如何なる動物から得てもよいが、好ましくは、哺乳類(例えば、ヒト、家畜動物、又は市販の動物)から得る。
【0072】
この技術の効力は、例えば、サイクリンA2マウスモデルを用いて、トランスジェニック動物の全ての細胞がα−MHC−サイクリンA2トランス遺伝子を含むようにして、評価することができる(以下に記載されるとおり)。例示のため、左前下行枝(LAD)動脈のラーゲーションにより、メスの野生型マウスを心筋梗塞に供してよい。これらのマウスを次に致死量照射してよい。オスのサイクリンA2トランスジェニックマウスから精製された造血幹細胞(HSCs)を、尾部の静脈から、梗塞されたメスの野生型マウスへ注射してよい。対照群に関しては、野生型オスマウスからのHSCsを梗塞されたメスの野生型マウスの別の群に注射してよい。蛍光インサイチュハイブリダイゼーション技術を利用することにより、トランスに分化した幹細胞がドナー由来であることを確認する目的で、Y染色体を同定するのに使用してよい(Gussoni et al.,Dystrophin expression in the mdx mouse restord by stem cell transplantation.Nature,401:390−94,1999)。
【0073】
α−MHC−サイクリンA2トランスジェニックマウス由来のHSCsが天然心臓組織細胞(例えば、心筋細胞)又はSP前駆細胞との融合に際してサイクリンA2を輸送して、それにより心臓の再生に寄与することが予測される。即ち、サイクリンは上記細胞を、サイクリンが既に増加した幹細胞と接触させることにより、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内で増加させてよい。さらに、心臓組織細胞(例えば、心筋細胞)へトランス分化する幹細胞が、有糸分裂後の心臓組織細胞にトランス分化する代わりに、増殖潜在性、及び増加したサイクリンを保持すると予測される。即ち、幹細胞内でサイクリンを増加させ、そしてそのような幹細胞が増殖潜在性を保持して且つ増加した細胞を保持している心臓組織細胞に分化することを可能にさせることにより、心臓組織細胞内でサイクリンを増加させてもよい。
【0074】
上で論じられたとおり、本発明は、インビトロにおけるポリペプチドの合成、例えば、化学的手段又はmRNAのインビトロ翻訳により生じた蛋白質又は蛋白質類似体の使用を意図する。例えば、サイクリンは、当業者に普通に知られている方法により合成してよい(Modern Techniques of Peptide and Amino Acid Analysis(ニューヨーク:ジョンワイリーアンドソンズ、1981;Bodansky,M.,Principles of Peptide Synthesis(ニューヨーク:スプリンガーフェアラグ ニューユーク社、1984))。アミノ酸配列、これらのアミノ酸配列の類似体の合成において用いてよい方法の例は、限定ではないが、固相ペプチド合成、溶液法ペプチド合成、及び市販のペプチド合成機の何れかを用いた合成を含む。本発明のアミノ酸配列は、蛋白質の配列の合成において使用され、そして当業者によく知られているカップリング剤及び保護基を含んでよい。
【0075】
本発明の方法によれば、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞中のサイクリンを増加させ、そして細胞をインビトロ又はインビボの何れかにより被験者内でサイクリン関連薬剤に接触させてよい(例えば、サイクリン関連薬剤を直接に細胞中に導入することにより)−サイクリン関連薬剤を含む幹細胞を含む。細胞をインビトロにおいてサイクリン関連薬剤に接触させる場合、当該薬剤は直接に細胞培養培地に添加してよい。或いは、サイクリン関連薬剤をインビボにて被験者内で心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞と接触させてよく、薬剤を被験者に導入するか(例えば、薬剤を直接被験者の心臓組織又は心臓組織細胞に導入することによる)及び/又は薬剤を被験者に投与することによる。被験者はあらゆる動物であってよく、両生類、鳥、魚、哺乳類、及び有袋類を含むが、好ましくは哺乳類(例えば、ヒト、家畜動物、例えば、ネコ、イヌ、サル、マウス及びラット;又は市販の動物、例えば、ウシ又はブタ)である。好ましい態様において、被験者はヒトである。
【0076】
本発明のサイクリン関連薬剤(薬剤を含む幹細胞)は、心臓組織細胞又はSP前駆細胞とインビトロ又はインビボ(インサイチュを含む)にて被験者と接触させてよく、蛋白質、核酸、及び他のドラッグの導入及び投与のために使用される公知の技術による。細胞をサイクリン関連薬剤(蛋白質又は核酸の形態、そして幹細胞内に含まれる蛋白質又は核酸を含む)に接触させる(即ち、により細胞を処理する)方法の例は、限定ではないが、吸収、エレクトロポレーション、浸漬(immersion)、注射(マイクロインジェクションを含む)、導入(introduction)、リポソーム送達、幹細胞融合(胚幹細胞融合を含む)、トランスダクション、トランスフェクション、注入(transfusion)、ベクター及び他の蛋白質送達及び核酸送達のための小胞及び方法を含む。
【0077】
心臓組織細胞(心臓組織SP前駆細胞を含む)を被験者の特定の部分に局在させる場合、注射によるか、又はいくつかの他の手段(例えば、薬剤を血液又は他の体液に導入することにより)により、薬剤を直接細胞に注入することを望んでよい。好ましくは、心臓組織細胞をサイクリン関連薬剤(薬剤を含む幹細胞を含む)にインビボにて被験者内で接触させる場合、接触は被験者の心臓組織へ直接に挿入されたカテーテルを通して達成される。カテーテルは、薬剤の心臓組織細胞への標的化された送達を達成するのに有用なはずである。標的化された送達は、心筋細胞のために特に適しており、インターカレートされたディスクにより連結されている。これらのディスクは、一つの心筋細胞からの薬剤の隣接する心筋細胞への通過を可能にさせ、それにより、心臓組織を通した薬剤の分配を助ける。
【0078】
サイクリン関連薬剤が蛋白質である場合、本明細書において開示されている慣用の技術及び方法に従い、それを心臓組織細胞又はSP前駆細胞を直接に導入してよい。さらに、蛋白質薬剤の発現を許容する様式において、薬剤をコードする核酸を細胞に導入することにより、間接に心臓組織細胞又はSP前駆細胞に、蛋白質薬剤を導入してよい。サイクリン関連薬剤は、インビトロ又はインビボにて、当業界公知の慣用の手法を用いて導入してよく、限定ではないが、エレクトロポレーション、DEAEデキストラントランスフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、単価カチオンリポソーム融合、ポリカチオン性リポソーム融合、プロトプラスト融合、インビボ電場の創製、DNA−被覆マイクロ発射体砲撃、組換え体複製欠損ウイルスによる注射、相同組換え、インビボ遺伝子治療、エクスビボ遺伝子治療、ウイルスベクター及びネイキッドDNA輸送(transfer)、又はそれらの何れかの組み合わせを含む。遺伝子治療に適した組換えウイルスベクターは、限定ではないが、レトロウイルス、HSV,アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、セミリキ森林ウイルス、サイトメガロウイルス、レンチウイルス、及びワクシニアウイルスのようなウイルスのゲノム由来のベクターを含む。
【0079】
例示のため、外来サイクリンを、心臓組織細胞又はSP前駆細胞に、アデノウイルスベクター、例えば、外来サイクリン(例えば、ヒトサイクリンA2)及び強いプロモーター(例えば、構成的に活性なサイトメガロウイルス(CMV))をコードするトランス遺伝子を含む複製欠損(E1,E3欠失)アデノウイルスベクターを用いて接触させてよい。この方法の効果を評価するためには、以前に記載されたとおりに、ベクターを用意し、そして試験動物に投与してよい(Chatterjee et al.,Viral gene transfer of the antiapoptotic factor Bcl−2 protects against chronic postischemic heart failure.Circulation,106(12補遺1)I212−I217,2002)。2−,4−,又は6−週目の心機能を、次に、心電図を利用して評価し、そして局所的な壁の移動をソノメーターを利用して評価してよい(Chatterjee et al.,Viral gene transfer of the antiapoptotic factor Bcl−2 protects against chronic postischemic heart failure.Circulation,106(12補遺1)I212−I217,2002)。有糸分裂を抗ホスホヒストン−3による二重免疫蛍光染色を用いて評価することにより、有糸分裂核を同定してよく;アルファサルコメリックアクチンに対する抗体を用いて心筋細胞のサイトプラズムを同定してよい。
【0080】
本発明の方法において使用される核酸の量は、心臓組織の生成を促進させるのに有効な蛋白質の量を発現するのに十分な量である。これらの量は、当業者により容易に決定してよい。蛋白質薬剤をコードする核酸を、慣用の手法を用いて適切な心臓組織細胞又はSO前駆細胞に導入するエクスビボのアプローチを用いることにより、細胞内で蛋白質薬剤の発現を達成することも、本発明の範囲内である。蛋白質薬剤を発現する細胞を、次に、被験者に導入することにより、インビボにおいて心臓組織を生成する。
【0081】
本発明の方法によれば、薬剤を含む幹細胞を含む、サイトゾル関連薬剤は、公知の手法を用いてヒト又は動物に投与してよく、限定ではないが、経口投与、非経口投与、経皮投与、及びカテーテル経由を含む。例えば、薬剤を、頭蓋内、脊髄内、包膜内(intrathecal)又は皮下注射により、非経口投与してよい。本発明の薬剤は、心臓組織細胞又はSP前駆細胞とサイトゾル関連薬剤の間のインビボの接触を作用させるための上記の方法の何れかに従い、被験者に投与してもよい。好ましくは、薬剤を被験者へ、被験者の心臓へ挿入されたカテーテルにより、心臓組織細胞への標的化された送達経由で被験者に投与される。
【0082】
経口投与のためには、サイトゾル関連薬剤を含む製剤をカプセル、タブレット、粉末、顆粒としてか又は懸濁液として提供してよい。製剤は、慣用の付加物、例えば、ラクトース、マニト−ルコーンスターチ、又はポテトスターチを有してよい。製剤は、結合剤、例えば、結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ、又はゼラチンと共に提供してよい。さらに、製剤は、崩壊剤、例えばコーンスターチ、ポテトスターチ、又はソディウムカルボキシメチルセルロースと共に提供してよい。製剤は、二塩基カルシウムリン酸無水物又はソディウムスターチグリコレートと共に提供してよい。最後に、製剤は、潤滑剤、例えば、タルク又はステアリン酸マグネシウムと共に提供してもよい。
【0083】
非経口投与(即ち、消化管以外の経路を通した注射による投与)又はカテーテルを通した投与のためには、サイトゾル関連薬剤を被験者の血液と好ましくは等張な滅菌水性溶液と化合してよい。そのような製剤は、生理学上適合可能な物質、例えば、塩化ナトリウム、グリシン等を含み且つ生理条件に適合可能な緩衝pHを有する水に固形活性成分を溶解して水溶液を生成し、次に溶液を滅菌することにより、製造してよい。製剤は、ユニット又はマルチ投薬量コンテナー、例えば、密封されたアンプル又はバイアル内に提供してよい。製剤は、何れかの注射の様式により送達してよく、限定ではないが、エピフェイシャル、カプセル内、頭蓋内、皮内、包膜内、筋肉内、眼窩内、腹膜内、脊髄内、胸骨内、血管内(intravascular)、静脈内、柔組織、皮下、又は舌下、カテーテル経由を含む。
【0084】
経皮投与に関しては、薬剤を、皮膚浸透増強剤、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロピルアルコール、エタノール、オレイン酸、N−メチルピロリドン、等と混合してよく、薬剤に対する皮膚の浸透性を増加させそして薬剤が皮膚を通して血流に浸透することを許容する。薬剤/増強剤組成物は、ポリマー性物質、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレン/ビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、等と化合することにより、ゲル形態で組成物を提供す、溶剤、例えばメチレンクロリドに溶解し、所望の粘度まで蒸発させ、そして次にベーキング材料に適用することによりパッチを提供してもよい。
【0085】
心臓組織の生成を促進することにより、本明細書に記載された方法は、心臓組織のインビトロ生成及び続く被験者のその移植(例えば、その要求のある被験者)又は心臓組織のインビボ/インサイチュ生成/再生の何れかにより、被験者内の変性した(障害を有するか又は損傷した)心臓組織を再度集団化させる(repopulating)のに特に有用であると信じる。従って、本発明は、被験者(例えば、治療の必要のある被験者)内で心臓組織再生を治療するための方法を提供するが、本明細書に開示された方法に従い心臓組織の生成を促進させ、そして心臓組織を被験者に移植し、それにより心臓組織の変性を治療することによる。本明細書において使用される用語「心臓組織を被験者に移植する」は、特に被験者の心臓組織が変性している場合に、心臓組織を被験者の心臓に移植すること(grafting)を含む。被験者に移植された心臓組織は、必然的に、サイクリンが増加した心臓組織の幾つか又は全て、並びに本方法により生成した新しい心臓組織の幾つか又は全てを含み、心臓組織細胞、又は副集団(SP)前駆細胞、又はサイクリンが増加された幹細胞も含む。
【0086】
本明細書において使用される「心臓組織変性(degeneration)」は、心臓組織の劣化(deterioration)の状態を意味し、心臓組織が低下したか又は劣った機能活性形態に変化する。上記のとおり、心臓組織の損傷又は変性は、様々な障害、症状、及び因子により引き起こされるか又は付随し、限定ではないが、慢性心臓損傷、慢性心不全、ケガ又は外傷、心臓毒性(cardiotoxins)、照射、酸化性フリーラジカル、低下した血流、及び心筋梗塞を含む。好ましくは、本発明の心臓組織の変性は、心筋梗塞又は心不全により引き起こした。
【0087】
例示のため、本発明の方法は、以下の工程:(a)心臓組織、副集団(SP)前駆細胞、又は幹細胞の集団を得るか又は生成し;(b)細胞内でサイクリンを増加させ;そして(c)増加されたサイクリンを含む細胞又はそれらの子孫を、もしあれば(if any)、心臓組織の変性を治療するのに有効な量にて、被験者に移植することを含んでよい。上で論じられたとおり、増加したサイクリンを含む心臓組織細胞は、サイクリンが増加されたオリジナルの心臓組織細胞及び新たに生成された心臓組織の形成に寄与するあらゆる子孫を含む。即ち、心臓組織の生成は、心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞の培養液中で最初にインビトロにおいて立ち上げて(arise)よいが、被験者に移植されたらインビボにて継続させてよい。発明の一つの態様において、被験者は非ヒト動物である。別の態様においては、被験者がヒトである。好ましくは、被験者が心臓組織変性を有する。発明の一つの態様においては、被験者が心筋梗塞の候補者か又は心筋梗塞から回復しつつある。別の態様においては、被験者が慢性心不全を有するか又は候補者である。
【0088】
本発明の方法により生成された心臓組織は、当業界で知られている標準手法、並びに本明細書に記載された方法により、被験者(例えば、治療の必要のある被験者)に移植してよい。例示のため、心臓組織細胞、副集団(SP)細胞、又は幹細胞をサイクリン関連薬剤に接触させることにより、心臓組織の生成を促進してよい。接触後の適切な時間に、心臓組織/細胞を移植のために調製し(例えば、部分磨砕)、そして次に被験者に移植してよい。移植された組織を適応させるために、移植の前に被験者に吸引障害を起こさせ(suction−lesioned)てよい。
【0089】
本発明の一つの態様において、移植された心臓組織細胞、副集団(SP)細胞、又は幹細胞は、誘導可能なプロモーター上でサイクリン関連薬剤を発現するように操作されたトランス遺伝子を含む。本発明のこの態様において、薬剤は、適切なプロモーターの存在下で発現されて、それにより心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞のインビトロにおける増殖を許容する。細胞が被験者に移植されたなら、しかしながら、誘導剤はやめて(withdrawn)、薬剤の低下した発現をもたらし、そしてそれにより過形成を妨害する。薬剤の発現は、誘導剤の存在下で保持され、そして誘導剤の供給が枯渇したら(例えば、被験者に移植された際)遮断されるはずである。
【0090】
本発明の方法においては、心臓組織の変性を治療するのに有効な量にて心臓組織を被験者(治療の必要のある被験者)に移植する。本明細書において使用される句「心臓組織の変性を治療するのに有効な」は、心臓組織の変性の臨床上の欠陥又は兆候を改善するか又は最小にするのに有効なことを意味する。例えば、心臓組織の変性が心筋梗塞によりもたらされた場合、心筋梗塞の臨床上の欠陥又は兆候は、被験者の心筋細胞の数を増加させ、筋肉の萎縮を低下させ、そして心機能(心室機能を含む)を回復させることにより改善させるか又は最小にしてよい。被験者(例えば、治療の必要のある被験者)の神経組織の変性を治療するのに有効な心臓組織の量は、各ケースの特定の因子に依存して変更されるが、心臓組織変性の種類、被験者の重量、被験者の症状の重度、心臓組織内の細胞の種類、及び移植の方法を含む。この量は、公知の手法に基づいて当業者により容易に決定してよく、臨床試験、及び本明細書に開示された方法を含む。
【0091】
本発明の方法は、インビボにおいて被験者において心臓組織変性を治療するか、又はインビボにおいて被験者において心臓組織変性を予防するために使用してもよい。発明者らが証明したとおり、心臓組織細胞又はSP前駆細胞中の増加されたサイクリンは、サイクリンが心臓組織の変性の前に増加するか後に増加するか否かに拘わらず、ケガ又は変性後の心臓組織の生成(再生を含む)を促進させる能力を有する。さらに、発明者らは、心臓組織内の増加したサイクリンが細胞に対して防御効果を有することを証明したことから、サイクリンが細胞中で増加した後に発生する心臓組織の変性(例えば、心筋のケガによる変性)の予防を助ける。特に、心臓組織細胞中の増加されたサイクリンは、それらを、変性、例えば障害又はケガに対して応答するように、本質的にはそれら自体を修復することにより仕向ける(conditions)らしい。
【0092】
従って、本発明は、幹細胞、又は副集団(SP)前駆細胞においてか、又は心臓組織の細胞において、インビトロ又はインビボにて、被験者においてサイクリンを増加させることを含む、将来の心臓組織の変性を予防するための方法を提供する。さらに、本発明は、被験者(例えば、必要のある被験者)において心臓組織の変性を治療又は予防する方法を提供し、心臓組織の生成を促進することにより、本明細書に開示された方法に従い、被験者の心臓組織細胞(例えば、心筋細胞、心臓組織−SP前駆細胞、等)中のサイクリンのインビボ増加による。例示のため、本発明の方法は、心臓組織の変性を治療又は予防するのに有効なサイクリン関連薬剤(サイクリン関連薬剤を含む幹細胞を含む)の量を被験者に投与することを含んでよい。この量は、当業者により決定してよい。
【0093】
発明の一つの態様においては、被験者が心臓組織変性を有する。好ましくは、被験者が心筋梗塞から回復しつつあるか、又は慢性心不全を有する。発明の別の態様においては、被験者が将来心臓組織の変性の候補者であるか、又は発症する危険にあると信じられる(例えば、家族の履歴及び/又は個人の履歴、例えば喫煙、アルコール消費量、高脂肪摂取、高コレステロール等に基づく健康指標を含む、特定の健康指標に基づく)。好ましくは、被験者が心筋梗塞又は慢性心不全の候補者である。
【0094】
上記の方法に鑑み、本発明は、心臓組織の生成におけるサイクリン関連薬剤の用途も提供する。さらに、本発明は、心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリン関連薬剤の用途を提供する。
【0095】
本発明は、サイクリン関連薬剤、及び任意に薬学上受容可能な担体を含む薬学組成物も提供する。上記のとおり、サイクリン関連薬剤は、サイクリン蛋白質又は核酸、サイクリン関連蛋白質、サイクリン関連核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー(蛋白質又は核酸形態の上流及び下流のエフェクター及び活性化因子を含む)、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムの変調因子(例えば、阻害剤、活性化因子、アンタゴニスト、又はアゴニスト)(即ち、サイクリン又はサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーの発現及び/又は活性に影響する変調因子)を含んでよい。好ましい態様において、サイクリン関連薬剤はサイクリンA2をコードする核酸である。
【0096】
本発明の治療用組成物によれば、薬学上受容可能な担体は、組成物の他の成分と適合可能であり、且つその賦形剤に有害ではないという意味で「受容可能」でなければならない。本明細書において使用される薬学上受容可能な担体は、薬学製剤のための物質として使用される様々な有機又は無機物質から選択され、鎮痛薬、バッファー、結合剤、崩壊剤、希釈剤、乳化剤、賦形剤、増量剤、流動促進剤(glidants)、溶解剤、安定剤、懸濁剤、強壮剤(tonicity agent)、小胞、及び増粘剤として取込まれてよい。必要なら、薬学付加物、例えば、抗酸化剤、芳香剤、発色剤、風味改善剤、保存剤、及び甘味料を加えてもよい。受容可能な薬学上の担体の例は、限定ではないが、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース、グリセリン、アラビアゴム、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、粉末、塩溶液、アルギン酸ナトリウム、蔗糖、スターチ等及び特に水を含む。
【0097】
本発明の治療用組成物の製剤は、薬学業界においてよく知られた方法により製造してよい。例えば、サイクリン関連薬剤は、懸濁液又は溶液として担体又は希釈剤と共にもたらしてよい。任意に、ひとつ又はそれより多い成分(例えば、バッファー、風味剤、界面活性剤、及びなどなど)を含んでもよい。担体の選択は、投与の経路に依存する。治療用組成物は本発明のサイクリン関連薬剤を被験者に投与することにより、上で論じられたように、心臓組織の変性を治療するか又は予防するのに有用なはずである。サイクリン関連薬剤は、治療用組成物が投与される被験者において心臓組織変性を治療するか又は予防するのに有効な量にて提供される。この量は、当業者により容易に決定してよい。
【0098】
本発明の一つの態様によれば、サイクリン関連薬剤は、発現構築物を用いて標的の心臓組織細胞又は幹細胞内で発現される蛋白質である。当該蛋白質の発現は、当業界において知られている方法により制御してよく、アテニュエーター、ダウン制御因子、阻害剤又は蛋白質発現を阻害することが知られている他の分子の使用を含む。例示のため、本発明の治療用組成物が被験者内でサイクリン関連薬剤を発現するようにして被験者に投与される場合、この発現は、アテニュエーター、ダウン制御因子、阻害剤又は外来分子の発現を阻害する他の分子を被験者にあとで投与することにより、インビボにおいて遮断してよい。サイクリン関連蛋白質の発現の制御も有利であり、望まれる場合に蛋白質の発現を遮断させることが可能なように、それにより組成物が投与される被験者に有害な副作用を最小化するようにする。適切な期限を超えてのそのような蛋白質の連続発現は被験者に有害かもしれない。例えば、サイクリン関連シグナルトランスダクション経路による顕著な干渉が、腫瘍形成またはアポトーシスを引き起こすかもしれない。
【0099】
本発明の治療用組成物は、さらに、心臓組織細胞、SP前駆細胞、または幹細胞を標的とするように組成物の送達において補助するための小胞を含んでよい。様々な生物学上の送達系(例えば、抗体、細菌、リポソーム、及びウイルスベクター)がドラッグ、遺伝子、免疫刺激因子、プロドラッグ変換酵素、放射性化学物質、及び他の治療剤を標的細胞の付近に送達するために現在存在する;例えば、Ng et al.,An anti−transferrin receptor−avidin fusion protein exhibits both strong proapoptotic activity and the ability to deliver various molecules into cancer cells.Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,99:10706−11,2002;Mastrobattista et al.,Functional characterization of an endosome−disruptive peptide and its application in cytosolic delivery of immunoliposome−entrapped proteins.J.Biol.Chem.,277:27135−43,2002;Fefer,”Special delivery” to cancer cells.Blood,99:1503−04,2002;Kwong et al.,The suppression of colon cancer cell growth in nude mice by targeting β−catenin/TCF pathway.Oncogene,21:8340−46,2002;Huser et al.,Incorporation of decay−accelerating factor into the baculovirus envelope generates complement−resistant gene transfer vectors.Nat.Biotechnol.,19:451−55,2001;Lu et al.,Polymerization Fab’ antibody fragments for targeting of anticancer drugs.Nat.Biotechnol.,17:1101−04,1999;及びChu et al.,Toward highly efficient cell−type−specific gene transfer with retroviral vectors displaying single−chain antibodies.J.Virol.,71:720−25,1997を参照。例えば、米国特許第6,491,905号は、プリンヌクレオチドホスホリラーゼまたはヒドロラーゼをコードするDNA配列を含むベクターを安定に有する原核細胞、そのような細胞の用途を、腫瘍を治療するためのプリンプロドラッグと共に提供する。
【0100】
本発明の一つの態様によれば、媒体(vehicle)はリポソームである。リポソーム小胞(vesicles)は当業界において公知の様々な方法により製造してよく、そしてリポソーム組成物は当業者に知られているリポソーム製造のための慣用の様々な技術の何れか一つを用いて製造してよい。そのような方法及び技術の例は、限定ではないが、キレート透析、押出し(extrusion)(凍結解凍有り又は無し)、フレンチプレス、ホモジェナイゼーション、マイクロ乳化(microemulsification)、逆相エバポレーション、単純な凍結解凍、溶剤透析、溶剤注入(infusion)、溶剤蒸発(vaporization)、音波処理、及び自発形成を含む。リポソームの製造は、溶液中、例えば、水性塩溶液、水性リン酸バッファー溶液、又は滅菌水中にて実施してよい。リポソーム組成物は、振動すること又は渦巻き振動することを含む様々なプロセスにより製造してよい。
【0101】
本発明の治療用組成物は、リポソームの層に取込むか、又はリポソームの内部に封入してよい。組成物を含むリポソームは、次に、場合により、リポソームの細胞膜への融合の公知の方法に従い、組成物蛋白質が細胞膜又は細胞の内部へ送達されるように、標的の心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞と融合させてよい。
【0102】
本発明は、心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞、特に被験者内の細胞に、サイクリン関連薬剤を送達することにおける使用のためのキットも提供する。当該キットは、治療用組成物とカテーテルを含む。上記のとおり、治療用組成物は、サイクリン関連薬剤;任意に薬学上受容可能な担体;及び、任意に、リポソーム、ウイルスベクター、又は他の媒体を含んでよい。
【0103】
本発明は、さらに、少なくとも一つのサイクリンの発現/レベル、及び/又は少なくとも一つのサイクリンの少なくとも一つの機能、活性、又は作用が増加した細胞(例えば、心臓組織細胞、副集団(SP)前駆細胞、幹細胞等)を提供する。好ましくは、上記細胞は、心臓組織細胞(例えば、心筋細胞、心臓組織SP前駆細胞等)又は非心臓組織中に見いだされる副集団(SP)前駆細胞である。当該細胞は、あらゆる動物から得てよいか又はあらゆる動物内に存在してよい。好ましい態様において、細胞はヒト細胞である。別の好ましい態様においては、細胞を以下に記載されたとおり、その心臓組織内においてサイクリンA2を過剰発現するトランスジェニック動物、から得るか、又は、の中に存在する。さらに、本発明の一つの態様において、サイクリンはサイクリンA2である。別の態様においては、細胞が少なくとも一つのサイクリン、特にサイクリンA2を過剰発現する。本発明のさらなる態様において、心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞は、上記の治療用組成物を含む。
【0104】
本発明の心臓組織細胞は、上記のとおり、心臓組織内に見出されるあらゆる細胞であってよい。本発明の一つの態様において、心臓組織細胞は心筋細胞である。心筋細胞は、成体起源のものであってよい;即ち、最初には、それがサイクリンを含まないか又はサイクリンを有意な量含まないが、操作する前には含まなかった実質的な量のサイクリンか、又は実質上より多くのサイクリンを含むように操作される。心筋細胞は、前成体(pre−adult)か又は出生前(prenatal)の起源であってもよく;即ち、最初には、それが基底レベルのサイクリンしか含まないが、増加した機能、活性、作用、発現、及び/又はレベルのサイクリンを含むように操作される。同様に、本発明のSP前駆細胞又は幹細胞は、最初は基底レベルのサイクリンしか含まなくてよい。しかしながら、それは、増加した機能、活性、作用、発現、及び/又はレベルのサイクリンを含むように操作される。本発明の一つの態様において、細胞中の増加した機能、活性、作用、発現、及び/又はレベルのサイクリンは、細胞を、サイクリン関連薬剤と接触させることにより、増加される。発明の好ましい態様において、サイクリンはサイクリンA2であり、そして細胞はサイクリンA2関連薬剤と接触させる。当該薬剤は、心臓組織細胞、SP細胞、又は幹細胞に、インビトロ、インビボ、エクスビボ、又はインサイチュにおいて、上記の方法に従い送達してよい。一つの好ましい態様において、当該薬剤は、インサイチュにおいて、カテーテルにより心臓組織細胞に送達される。本発明は、本発明の細胞及びその子孫を含む細胞系も提供する。
【0105】
心臓毒性は、抗癌剤及び他のドラッグによる処置の後に起こり得る副作用であり、重度の臨床上の影響(implications)を有するかもしれない。本発明の心臓組織細胞系は、小児科の(pediatric)傷害の処置に潜在的に有用な候補ドラッグの心臓毒性作用(即ち、心臓に対しての毒性作用又は有害作用)をスクリーニングするインビトロアッセイにおいて有用かもしれない細胞の集団を提供する。特定のサイクリンレベルは胎児の心臓において高いが、生誕後に減少し(しばしば迅速に)、そして最終的に成体では消失することが知られている(Kim et al.,Korean J.Intern.Med.,13(2):77−82,1998;Kang and Koh,J.Mol.Cell Cardiol.,33(10):1769−71,1997;Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95(5):2275−80,1995)。発明者ら自身は、サイクリンA2のレベルが胎児心臓において高いが、出産前後の(perinatal)段階において生誕後に迅速に減少することを証明した。即ち、増加したサイクリン、特にサイクリンA2を有する心臓組織細胞は、生誕前の心臓細胞の便利なモデルを提供し、そして新生児及び初期年齢の子供に対して心臓毒性かもしれないドラッグを同定するための有用なアッセイを提供する。
【0106】
本発明の心臓組織細胞系は、心臓組織の変性の治療においてサイクリンと相乗作用する候補薬剤をスクリーニングするインビトロアッセイにおいて有用かもしれない。そのようなシステムにおいては、増加したサイクリン、特にサイクリンA2の組織生成作用がそのような相乗性薬剤の存在下で増強されるかまたは改善されるはずである。
【0107】
従って、本発明は、さらに、小児科の傷害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグ中の少なくとも一つの心臓毒性作用に関してスクリーニングする用途のためのインビトロシステムを提供する。このインビトロシステムは、サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞の集団を含む。発明の一つの態様において、心臓組織細胞は、上記の心臓組織細胞系から得られる。さらに、本発明は、心臓組織変性の治療におけるサイクリンとの相乗作用に関しての候補薬剤をスクリーニングすることの用途のためのインビトロシステムを提供する。このインビトロシステムは、サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞の集団を含む。この発明の一つの態様において、心臓組織細胞は、上記の心臓組織細胞系から得られる。
【0108】
さらに、本発明の幹細胞系は、毒性作用が増加したサイクリンの存在下で減少した、幹細胞に対する毒性作用に関する候補治療剤をスクリーニングするインビトロアッセイにおいて有用かもしれない。従って、本発明は、さらに、毒性作用が増加したサイクリンの存在下で妨害されたか又は停止した、幹細胞に対して少なくとも一つの毒性作用を有する候補治療剤をスクリーニングするインビトロアッセイを提供する。このインビトロアッセイは、サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した幹細胞の集団を含む。発明の一つの態様において、幹細胞は、上記の幹細胞系から得られる。
【0109】
本発明のインビトロアッセイ及び細胞系は、上記の様々なスクリーニングにおいて有用かもしれない。即ち、本発明は、小児科の傷害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグの少なくとも一つの心臓毒性作用に関してスクリーニングするインビトロ方法も提供し、(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞(例えば、上記の心臓組織細胞系から得られる細胞)を、小児科の傷害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグと接触させ;そして(b)もしあるなら、一つ又はそれより多い心臓毒性作用に関して心臓組織細胞をアッセイする工程を含む。心臓毒性作用の例は、限定ではないが、心臓組織変性、乳酸デヒドロゲナーゼの漏れ(leakage)、細胞形態の変化、細胞膜の溶解、細胞生存性、自発的拍動(beating)活性の変化(Mbugua et al.,In vitro Cell Dev.Biol.,24(8):743−52,1988)、細胞膜の脱分極、心臓組織細胞の減少した収縮性機能、心臓組織細胞の数の低下、及びサイクリンのダウン制御を含んでよい。細胞毒性作用は、公知の技術により測定するか又は検出してよく、心臓特異的蛋白質のウエスタンブロッティング、形態計測に関連した電子顕微鏡、細胞増殖を測定するための単純なアッセイを含み、上で記載されたもの、及び本明細書で開示された方法、分子手法、及びアッセイの何れをも含む。本発明は、この方法によりスクリーニングされるか又は同定されるドラッグも提供する。
【0110】
さらに、本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用に関して候補薬剤をスクリーニングするためにインビトロ方法を提供し、(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞(例えば、上記の心臓組織細胞系から得られる細胞)を、候補薬剤と接触させ;そして(b)候補薬剤が心臓組織の生成(例えば、サイクリン関連心臓組織の生成)を増強する能力を評価する工程を含む。候補薬剤が心臓組織の生成を増強することが示された場合、それは、心臓組織の変性の治療又は予防においてサイクリンと相乗作用を有するかもしれない。増強された心臓組織の生成は、例えば、心臓組織細胞の増加した増殖を検出することによるか、又は心臓組織細胞の分割の増加した速度を検出することにより、検出してよい。本発明は、この方法により同定される薬剤も提供する。本発明は、さらに、被験者(例えば、必要のある被験者)において心臓組織の変性を治療又は予防するための方法を提供し、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて、上記スクリーニング方法により同定された薬剤と組み合わせてサイクリン関連薬剤を被験者に投与することによる。そのような量は、当業者により容易に決定してよい。
【0111】
本発明は、心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用に関して候補薬剤をスクリーニングするインビボ方法も提供し、(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞(例えば、上記の心臓組織細胞系から得られる細胞)を、候補薬剤と接触させ;(b)心臓組織細胞及びもしあるならその子孫を被験者に移植し;そして(c)候補薬剤が移植後に細胞及びその子孫の生存性を増強する能力を評価する工程を含む。候補薬剤が移植後の心臓組織細胞の生存性を増強する能力は、候補薬剤の存在下で上記細胞系からの細胞がより容易に移植されるか、又は被験者の心臓組織により容易に取り込まれるか否かを決定することにより評価してよい。移植又は取り込みが候補薬剤の存在下で増強されたなら、候補薬剤が心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用を有すると結論してよい。本発明は、このスクリーニング方法により同定された薬剤も提供する。本発明は、さらに、被験者(例えば、必要のある被験者)において心臓組織変性を治療又は予防する方法を提供し、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて、上記スクリーニング方法により同定された薬剤と組み合わせてサイクリン関連薬剤を被験者に投与することによる。そのような量は、当業者により容易に決定してよい。
【0112】
本発明は、さらに、幹細胞に対して少なくとも一つの毒性作用を有する候補ドラッグをスクリーニングするインビトロ方法を提供し、その際、増加したサイクリンの存在下で毒性作用が妨害されるか又は停止し、工程:(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した幹細胞(例えば、上記の幹細胞系から得られる細胞)を、候補ドラッグと接触させ;(b)増加したサイクリンを有さない対照の幹細胞を、候補ドラッグと接触させ;そして(c)工程(a)の幹細胞と工程(b)の対照幹細胞を少なくとも一つの毒性作用に関してアッセイするが、その際、工程(b)の対照幹細胞の毒性作用が存在するが、工程(a)中の毒性作用が存在しないか又は停止していることが、幹細胞に対する少なくとも一つの毒性作用を候補ドラッグが有することの指標であり、その際、増加したサイクリンの存在下で毒性作用が妨害されたか又は停止することを含む。幹細胞に対する毒性作用は、限定ではないが、細胞形態の変化、細胞膜の溶解、細胞生存性の変化、及び細胞膜の脱分極を含んでよい。そのような毒性作用は、公知の技術により測定するか又は検出してよく、心臓特異的蛋白質のウエスタンブロッティング、形態計測に関連した電子顕微鏡、細胞増殖を測定するための単純なアッセイを含み、上で記載されたもの、及び本明細書で開示された方法、分子手法、及びアッセイの何れをも含む。本発明は、この方法によりスクリーニングされるか又は同定されるドラッグも提供する。
【0113】
本発明は以下の実施例において記載され、発明の理解において助けとなり、以下の特許請求の範囲において規定されるとおりに発明の範囲を如何なる様式においても限定することを意図しないべきである。
【0114】
実施例
以下の実施例においては、データは平均±s.e.mにより表される。データの比較のためにスチューデントt試験を用い、P<0.05の有意レベルを用いた。
【0115】
実施例1−トランスジェニックマウスの生成
マウスサイクリンA2のcDNAを、アルファ−ミオシン重鎖プロモーター及びヒト成長ホルモンのポリアデニレーション部位を含むベクター(Dr.Jeffrey Robins,シンシナチ大学、シンシナチ、OH)にサブクローン化した(Subramaniam et al.,J.Biol.Chem.,266:24613−20,1991)。次に、トランスジェニックマウスを、B6CBAバックグラウンドに対する以前のプロトコルに従い生成した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。特定すれば、精製された挿入DNAを、発明者の以前のプロトコルに従い、C57B16/J卵母細胞にマイクロインジェクションした(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。簡単に言えば、トランス遺伝子を、5ng/μlの濃度にて、受精卵のオスの前核に注入した。マイクロインジェクションされた胚を、次に、インビトロにおいて2細胞期まで培養し、そして次に、偽妊娠CD−1のメスのマウスに再移植した。全ての操作は、Institutional Animal Care and Use Guidelinesに従い実施した。マイクロインジェクションされた胚由来の子(pups)を、トランス遺伝子の存在に関して、ゲノミックDNA−ブロットハイブリダイゼーションにより、サイクリンA2 のcDNAをプローブとして利用してスクリーニングした(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。陽性の動物を次に、トランスジェニックマウスの6つの系を確立するために使用して、B6CBAバックグラウンド上で保持した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。この研究における表現型上の特性決定はF1世代を用いて実施した。
【0116】
実施例2−心臓サイズ/体重比の評価
各マウスの体重測定後に、アベルチンによる麻酔の後に心臓を取りだした。KCl(3.0M)を拍動する心臓に注射することにより、拡張期(diastolic)停止を誘導した。心臓を1X PBSにより穏やかに潅流し、そして心臓の重量の測定を行う前に全ての脂肪組織を除去した。心臓対体重の比を、新生(PN7,PN14)及び成体(3−18月)のトランスジェニックマウス、及び正常な同腹仔対照に関して測定した。
【0117】
実施例3−細胞サイズの評価
成体(6月)トランスジェニック及び正常同腹仔対照からの全心室切片を4%パラホルムアルデヒド中に固定してパラフィンに埋めた。連続的な横断(transverse)切片(4μm)を切断して、ヘマトキシリンとエオシンで染色した。これらの切片のデジタル写真を用いて、細胞分析ソフトウエア(UTHSCSAイメージツール)を用いて心筋の断面積を測定した。トランスジェニック及び非トランスジェニック切片の両方に関して40xの倍率にて、同様な視野を利用した。少なくとも200細胞/心臓が、6月齢において、2つの系の各々に関して(系1と系58)、トランスジェニックと正常な同腹仔対照の両方において測定された。透明に輪郭描写された(delineated)境界線をもつ細胞のみがこれらの測定において使用された。
【0118】
同じプログラムを用いて、パン−カドヘリン(シグマ、セントルイス、MO)、インターカレートされたディスク内に見出される構造蛋白質に対する抗体(Bianchi et al.,Circulation,104(12 Suppl.1):I319−24,2001)に関する免疫染色を実施した後に、同じプログラムを利用して細胞の長さを測定した。長辺セクションにおいて、トランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓の両方に関して40xの倍率で、心筋の類似のセクションを用いた。末端から末端まで可視化できた心筋のみを、この測定において用いた。少なくとも200細胞長/心臓が、6月齢において、系1及び系58に関して、トランスジェニックマウスと正常同腹仔の対照において測定された。
【0119】
実施例4−心筋数の評価
10匹のトランスジェニックと10匹の非トランスジェニックマウス(6月齢のオス)の重量を測定した。心室をこれらの心臓から分離用顕微鏡を用いて分離し、そして心室の重量を測定した。平均心室重量/全心臓重量をトランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓に関してコンピューター処理した。この測定のために、心室の重量を、心筋の断面積及び長さの測定において使用された心臓に関してコンピューター処理した。心室の重量に筋肉組織の比重に関する公知の値(1.06gm/ml)を掛けることにより、心室容積を得た(Mendez and Keys,Metabolism,9:184−88,1960)。計算された心室の容積に0.82を掛けることにより、心筋により占められるフラクションを測定した(Jackson et al.,Mol.Cell.Biol.,7:3709−16,1990)。各心筋の平均容積は、心筋の断面積に長さを掛けることにより計算した。心室の容積の心筋フラクションを、平均心筋容積で割ることにより、心室あたりの心筋の数をコンピューター処理した。
【0120】
実施例5−心筋細胞DNA合成の評価
胚、出生後、及び成体トランスジェニック及び正常同腹仔対照からの全心室セクションを、上記のとおりに、固定化し、そしてパラフィン中に埋め込んだ。分析されたステージは、E18,PN2,PN7,PN14及び6月を含んだ。発明者の実験室において以前に実施されたとおりに、連続横断(4μm)セクションを切断し、そして免疫組織化学により分析した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。増殖する細胞の核抗原(PCNA)に対する抗体による免疫染色(1:100)(Pharmingen,サンディエゴ、CA)をDNA合成のインディケーターとして使用した(Haracska et al.,Mol.Cell.Biol.,3:784−91,2002)。セクションをニコン顕微鏡上で明視野光学機(optics)を用いて分析した。各トランスジェニック対正常同腹仔対照に関する類似の視野を40x倍率にて比較し、そしてPCNAに関して陽性染色の核の数を16,800μm2あたりで計数した。
【0121】
実施例6−ユニット面積あたりの心筋細胞核の評価
系1及び系58からの6月齢のトランスジェニック及び非トランスジェニックマウスからの全心室セクションを上記のとおりに調製した。心筋細胞を輪郭描写するためのα−サルコメリックアクチンに対する抗体による(1:200)免疫蛍光染色は、上記のとおりに実施した;核をDAPI(Molecular Probes,ユージーン、OR)により染色した。トランスジェニック及び非トランスジェニックマウスからの類似のセクションにおいて、心筋細胞中の核を各視野(16,800μm2)に関して計数した。
【0122】
実施例7−有糸分裂の評価
様々な分化のステージにおける全心室セクションを上記のとおりに調製した。リン酸化されたヒストン−3(H3P,Upstate Biotechnology,レイクプラシッド、NY)に対する抗体による免疫蛍光染色(1:50)を実施した。リン酸化されたヒストン−3は有糸分裂特異的マーカーである(Wei et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,95:7480−84,1998)。α−サルコメリックアクチンに対する抗体(Sigma,セントルイス、MO)により心筋細胞を染色した(1:200)。抗−ウサギローダミン(Molecular Probes,ユージーン、OR)をH3Pに関する二次抗体として用い、そして抗−マウスIgG FITC(Sigma,セントルイス、MO)をα−サルコメリックアクチンに対する二次抗体として用いた。各トランスジェニック対正常な同腹仔対照に関して、心室の心筋細胞の類似の視野を40x倍率において比較し、そしてH3Pに関して陽性染色の心筋細胞核の数を16,800μm2あたりで計数した。少なくとも10の視野に関する測定値を、分析された各分化ステージに関して平均化した。蛍光視野光学機(optics)下でのニコン光学顕微鏡上で観察したとおりに、直接計数した。共焦点顕微鏡を用いて、10ミクロン厚のセクションにより、心筋細胞に対する局在に関しての回転(rotational)分析を実施した。
【0123】
実施例8−心機能の評価:MRIイメージ獲得及び分析
全てのイメージング実験は、9.4 Tesla Bruker WB400マイクロイメージングシステム上で、30mmのものさし(quadrature)RFコイル(Bruker NMR Inc.,ベレリカ、MA)を用いて実施した。マウスをイソフラン(2L/分の空気流中で1.5%体積)により麻酔した。心臓の拍動は約450bpmであった。心室の定量は、ECGゲートされた速い勾配のエコーシネ(cine)配列を用いて獲得された透明(bright)血液2Dイメージスタックに基づいた。獲得パラメーターは250ms繰り返し時間、1.8msエコー時間、30°フリップアングル、0.1mm インプレーン(in−plane)解析、1mmスライス厚、及び4分/スライススキャン時間であった。8つの心臓の点を心臓サイクルにわたりサンプルした。局地的成長アルゴリズムとヒストグラムに基づく閾値設定(thresholding)を用いて左心室と心筋を半自動でセグメント化した、短軸のイメージを獲得した(Tang et al.,Ann.NY Acad.Sci.,904:32−41,2000)。
【0124】
以下に論じられるのは、実施例1−8の実験に関連して発明者らが得た結果である。
生誕後すぐに、有糸分裂からの撤退(withdrawal)と一致して、サイクリンA2がマウスの心臓において沈黙していることを証明するため、サイクリンA2のmRNAと蛋白質発現の相対レベルを、マウスの心臓分化の間の選択された時間にアッセイした。ノーザンブロット分析が明らかにしたのは、3.0kbと1.7kbのサイクリンA2転写物が、胚の12日目(E12)、E18及びPN2において観察されたが、その発現は6週齢に存在しなかったことであった(図1A)。イムノブロット分析は、PN2、及び後の時間点において、マウスの心臓の全蛋白質の溶解物においてサイクリンA2を検出できなかった(図1B)。免疫組織化学分析により検出したところ、サイクリンA2蛋白質を発現する心室の心筋細胞の核の数はE14において高く、E18において顕著な低下があり、PN2においてさらなる減少があり、そして2週齢では完全に存在しなかった(図1C)。サイクリンA2のmRNAの低下した発現のこの一時的なパターンと蛋白質レベルは、生誕後すぐのラットとヒトの心臓におけるサイクリンA2の以前に記載された沈黙化と一致しており(Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95:2275−80,1995)、心筋細胞の周期の撤退とも一致する。
【0125】
保持されたサイクリンA2の発現が心筋細胞の増殖を変調するという仮説を試験するため、心筋細胞系列においてサイクリンA2構成的に発現するトランスジェニックマウスを生成した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。α−ミオシン重鎖(MHC)プロモーターが選択されたのは、E7.5から胚発生を通して発現されて、成体を通して発現され続けるからである(Subramaniam et al.,J.Biol.Chem.,36:24613−620,1991)(図2A)。マイクロインジェクションされた胚に由来する60の子(pups)をスクリーニングした後で8人の発見者が同定した;6人がトランスジェニック系列を生じさせた。MHC−CYCA2発見者のマウスには明らかな罹病率(morbidity)がなかった。5−7月齢において、初期の系列からの少なくとも3つに心臓においてサイクリンA2の発現をノーザンブロットにより評価した。代表的なブロットを図2Bに示す。
【0126】
系1,2、44、及び58はサイクリンA2のmRNAを構成的に発現したが、同じ系列の動物と動物とでは発現レベルにいくらかのバリエーションがあった。サイクリンA2発現が検出されなかった他の成体の器官、例えば、腎臓(Ravnik and Wolgemuth,Dev.Biol.,173(1):69−78,1996)は、トランスジェニックマウスにおいてサイクリンA2発現を示さず、以前に記載された心筋特異性と一致した(Subramaniam et al.,J.Biol.Chem.,36:24613−620,1991)。トランスジェニックのmRNA転写物の予測されたサイズは2.3kbであり、発明者らのトランス遺伝子は0.6kbのヒト成長ホルモンポリアデニル化シグナルを、1.7−kbのサイクリンA2 mRNAの3’末端に連結されて有した。興味を引くのは、3.0−kbのバンドも、トランスジェニックの心臓mRNAを含むレーンにおいて可視化された。イムノブロット分析によりアッセイしたところによると、サイクリンA2蛋白質は、系58から、2週及び8週齢においてトランスジェニックの心臓中で発現され、そして両時間点において非トランスジェニックの心臓からは不在であった(図2C)。
【0127】
サイクリンA2の連続する発現がcdk1とcdk2の発現を変えたか否かを決定するため、対照とトランスジェニックの溶解物をイムノブロットにより2週及び8週齢において分析した(図2C)。それぞれ2週及び8週齢において平均1.6倍及び1.2倍のcdk1蛋白質のレベルの増加が全トランスジェニックの心臓の溶解物において観察された。これらのレベルは、対照の同腹仔内のcdk1の構成的発現の低レベルとは顕著に異なった。イムノブロット分析は、非トランスジェニックの心臓内のcdk2の発現の低レベルを証明し、他の研究者により報告された以前の研究と一致した(Oh et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,98(18):10308−313,2001)。興味を引くのは、トランスジェニックの心臓内のcdk2の発現における平均2.5倍及び2.1倍の増加が、それぞれ2週及び8週齢において観察されたことであった。
【0128】
この一時的に及び異所性に(ectopically)発現されるサイクリンA2がその正常なcdk1又はcdk2パートナーと実際に複合体を形成するか否かを確かめるために、免疫沈殿、続くイムノブロット分析を全心臓溶解物を用いて実施した(図2D)。サイクリンA2/cdk1及びサイクリンA2/cdk2の両複合体は、トランスジェニックの心臓において2週齢で明らかに検出されたが、非トランスジェニックの心臓においては検出されなかった。サイクリンA2/cdk2複合体は、トランスジェニックの心臓において8週齢でもまだ検出されたが、非トランスジェニックの心臓においては検出されなかった。
【0129】
サイクリンA2トランスジェニックマウスは稔性(fertile)であり、健康に見え、そして1年の観察にわたり、罹病率及び死亡率に変化の傾向はなかった。トランスジェニックの心臓において全体的な形態上の異常さはなかった。しかしながら、成体のトランスジェニックマウスの体重に対する心臓の重量(HW/BW)比は正常の心臓に比較して顕著に増加した。心臓の巨大化は、サイクリンA2のmRNAを発現した全ての系列において実際に記録された。しかしながら、この表現型の密接な分析が、系1及び58において企てられた(undertaken)。HW/BW比は生誕後の分化から成体まで選択された齢において決定された(特に、PN7から1.5年齢まで)。PN7及びPN14において記録された顕著な心臓の巨大化はなかった。しかしながら、トランスジェニック対非トランスジェニックマウスのHW/BW比は齢と共に増加し、統計上の有意さが6月齢後に記録された。
【0130】
マイクロアレイ磁気共鳴イメージング(MRI)は、心臓の重量及び機能の評価のために現在利用可能な最も技術状進化した物理療法(modality)であり、そして左心室の重量と機能をマウスにおいて非侵入的に定量するための現在もっとも正確で信頼できる方法である(Wiesmann et al.,Am.J.Physiol.,278:H653−57,2000;Slawson et al.,Magn.Reson.Med.,39:980−87,1998)。拡張後期(end−diastole)における(中部心室(mid−ventricular)レベルにおける)MRIイメージは、よって、トランスジェニック及び正常な性(gender)適合された同腹仔において、系58にて、8月齢にて心臓サイズの評価のために利用された。正常(n=3)マウスの心臓により占められた30.5±0.01%(p=0.0083)に比較して、トランスジェニック(n=3)マウスの心臓は平均41.0±0.01%の胸部面積を占めた。即ち、MRI分析は、心臓により占められる胸部の腔(cavity)の面積が正常同腹仔よりも生きているトランスジェニックマウスにおいて大きいことを証明した。
【0131】
発明者らは、MHC−CYC2マウスにおける心臓サイズの増加が結合組織の含有率の増加によったという可能性を試験することを続けた。系1及び58からの成体(6月)のトランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓からの横断セクションをマッソントリクロームにより染色することにより、繊維性(fibrotic)組織を同定した。組織学試験は、サイクリン−A2−発現心臓において増加した繊維症(fibrosis)の証拠を明らかにはしなかった(データは示さず)。よって、トランスジェニックの心臓の増加した心臓サイズは、心臓の結合組織の含有率における変化に対して二次的ではなかった。
【0132】
巨大化された心臓の表現型に寄与するはずの、過形成をもたらしたサイクリンA2の継続する発現を測定するため、発明者らは、6月齢のトランスジェニック対対照の心臓内に存在する心室の心筋細胞の全数を計算した。第1の工程は、6月齢の系1及び58の、トランスジェニック及び正常のマウスの断面積及び心筋の長さを測定することであった(図3B,3C)。心筋の断面積は、事実、統計上有意な様式において、正常な心臓に比較して、トランスジェニックの心臓においてわずかに減少し、系1のトランスジェニックにおいて平均209.7±2.32μm2であり、そして系1の非トランスジェニックマウスにおいて228.2±2.29μm2、P<0.0001であった。系58においては、トランスジェニックにおいて平均193.2±2.04μm2の平均断面積であり、そして非トランスジェニックにおいて231.0±2.26μm2の平均、P<0.0001であった。心筋の長さは、正常な心臓に比較して、トランスジェニックの心臓においてわずかに短いことがわかり、系1のトランスジェニックにおいて平均48.4±0.599μm2であり、そして系1の非トランスジェニックにおいて51.9±0.583μm2、P<0.0001であった。系58においては、トランスジェニックマウスにおいて平均46.2±0.522μm2の平均長であり、そして非トランスジェニックマウスにおいて50.2±0.567μm2の平均、P<0.0001であった。
【0133】
心筋細胞の断面積及び長さの測定を利用することにより、オリジナルの測定を行った系1及び58の代表的な心臓の平均心筋容積を計算した(表1)。全心室容積の平均心筋容積に対する商(quotient)は、各心室内に存在する心筋の数の評価を与えた。6月齢において、その正常な同腹仔対照に比較して、系58のトランスジェニックの心臓に存在する心筋の数における67.3%の平均の増加があった。対照的に、43.4%の平均の増加が、6月齢において、その正常な同腹仔対照に比較して、系1のトランスジェニックの心臓において記録された。トランスジェニックマウスの心臓における心筋細胞のサイズの低下は、心臓サイズの全体的な増加と共役して、サイクリンA2の構成的発現が心筋細胞の過形成を引き出す(elicit)ことを証明する。
【0134】
【表1】
【0135】
過形成がDNA合成の増加と共役するべきであるように、発明者らは、免疫組織分析により、異なるステージにおいて、正常及びトランスジェニックマウスの増殖する細胞の核抗原(PCNA)の発現をアッセイした。PCNAは、DNA複製フォークの成分であり、そしてDNAの合成と修復の両方に必要である(Haracska et al.,Mol.Cell.Biol.,3:784−91,2002)。ユニット面積あたりのPCNA染色された核の数は、E18まで、正常及びトランスジェニックのマウスの両方において類似しており;しかしながら、PN2までは、正常の心臓よりもトランスジェニックマウスにおいて顕著に高いレベルの発現があった(図3D)。トランスジェニックの心臓におけるPCNA発現のこの上昇は、6月齢まで保持され(PCNA発現が非トランスジェニックの心臓において理想的に検出されなかったステージ)、より穏やかなレベルにもかかわらずである。これらの結果は、サイクリンA2発現がDNA合成の増加と相関していることを示唆した。
【0136】
DNA合成の増加がトランスジェニックの心筋の増加した複数核形成をもたらし得た可能性を試験するために、系1及び58からのトランスジェニック及び非トランスジェニック同腹仔から採取された、成体(6月)心筋細胞からの横断心室セクション内のユニット面積あたりの心筋細胞の核を計数することにより、心筋細胞の核の密度を測定した。α−サルコメリックアクチンに対する抗体による染色により心筋細胞を同定し、そしてDAPIを用いて核を強調した。系1及び58の両方に関して、正常な心臓に比較して、トランスジェニックの心臓におけるユニット面積あたりの心筋細胞の核の数に顕著な変化はなかった。系1の数は、トランスジェニックマウスにおいて32.70±1.86及び正常マウスにおいて31.60±1.80であった。系58の対応する数は、トランスジェニックにおいて30.60±1.76及び正常マウスにおいて32.20±2.05であった。これらのデータは、さらに、トランスジェニックの心臓における増加したDNA合成が心筋の過形成をもたらすとの結論を支持する。
【0137】
サイクリンA2が細胞周期のG1/Sチェックポイントに加えてG2/M遷移を通しての進行を制御するため、発明者らは、発明者らのトランスジェニックモデルにおいて心筋細胞の有糸分裂において増加があったか否かを決定しようとした。有糸分裂特異的マーカーであるリン酸化されたヒストン−3の発現を、分化を通して、トランスジェニック及び正常の心臓において、抗−リン酸ヒストン−3抗体を利用してアッセイした。Ser10におけるリン酸化ヒストン−3は、動物細胞における有糸分裂の間の染色体凝縮の確立されたマーカーである(Wei et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,95:7480−84,1998)。ヒストン−3のリン酸化は後期G3において開始し、そして初期相において終了する;対照的に、その脱リン酸化が分裂期(anaphase)において開始し、そして初期終期(telophase)において終了する(Hendzel et al.,Chromosoma,106:348−60,1997)。
【0138】
E18,PN2,PN7,PN14,及び6月齢における、トランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓からの組織セクションを、α−サルコメリックアクチンに対する抗体により同時染色して、抗−リン酸ヒストン−3−染色された有糸分裂核の心筋細胞に対する位置決定をした。正常の同腹仔の心臓に比較して、トランスジェニックの心臓(系58)において試験された全ての分化時間点(生誕後のステージを通した胚形成)を通して記録された心筋細胞の有糸分裂の有意に増加した数が存在した(図3E)。トランスジェニックの心臓においては記録された散乱する有糸分裂が僅かしかなく、そして非トランスジェニックの心臓においては存在しなかったため、6ヶ月の時間点からのデータは示さない。正常の心臓に比較しての、トランスジェニックの心臓における有糸分裂の数のもっとも劇的な上昇はPN7において記録され、有糸分割の数において8倍の増加があった点である。
【0139】
共焦点顕微鏡を用いて得られたイメージ(非トランスジェニック(図4A)及びトランスジェニック(図4B)のマウスにおけるPN7の類似の心室セクション)は、トランスジェニック心筋細胞において記録された有糸分裂の核の数の劇的な増加を証明した。共焦点顕微鏡を用いた密接な分析は、有糸分裂の幾つかのステージ−前期(prophase)、前中期(prometaphase)、(ほぼ)分裂期−がトランスジェニックの心筋細胞において観察できたことを証明し、図4C−4Eに示されるとおりである。10ミクロン厚の組織セクションの回転分析は、有糸分裂の前中期の核の局在をさらに証明し、そしてそれがα−サルコメリックアクチン染色された心筋細胞に埋め込まれたことを保証する(データは示さず)。
【0140】
心臓機能の分析を、MRIを用いて、8月齢の系58のオスからのトランスジェニック(n=3)及び非トランスジェニック同腹仔対照(n=3)において企てた(図5A,5B;データ示さず)。半−心室レベルにおいて末端の拡張期の腔の面積と心臓収縮末期の腔の面積の間の差異から放出(ejection)フラクションをコンピューター処理した。心臓収縮期の間の心内膜(endocardium)の厚さを測定することにより、フラクションの短縮化を評価した(図5C)。これらの指標は、マウスMRI分析において容易に測定され、血液と心内膜(endocardial)の境界の間の明確な輪郭描写(deliniation)を与えた。この時間点において、それらの同腹仔対照の心臓に比較して、トランスジェニックの心臓において、放出(ejectioin)フラクションとフラクション短縮化の両方において、穏やかであるが統計上有意な低下が存在した。初期時間点(3月齢)における心エコー図(echocardiographic)分析を、トランスジェニック(n=6)及び非トランスジェニック(n=6)マウスの3系列に実施し、そしてフラクション短縮化において観察された差異はなかった(データは示さず)。
【0141】
実施例9−外科手術手法
以下の外科手術手法を実施例10−12において研究されたマウスに対して用いた。サイクリンA2トランスジェニックマウスをB6CBAバックグラウンドにおいて保持した。非トランスジェニック同腹仔と野生型マウスを2つの独立した対照群として用いた。8週齢において、マウスはLADライゲーションを経ることにより、前側索(anterolateral)MIを誘導した。これはブラインド様式において実施した。各マウスを麻酔して、挿管して、次に外科手術顕微鏡下でLADライゲーションにより開胸をした。30匹のトランスジェニックマウス、31匹の非トランスジェニックマウス、及び28匹の野生型マウスが、梗塞1週後に全体で83%の生存率で梗塞された(infarcted)。上記の群の間に死亡率における統計上有意な差異はなかった。全ての操作は、Institutional Animal Care and Use Guidelinesに従って実施した。
【0142】
実施例10−分子分析
実施例9からの梗塞されたマウスに、週ごとに継続して静脈内にブロモデオキシウリジン(BRDU)注射を、100μgのBRDU/gマウスの濃度にて各々に与えた。異なる群において誘導されたMIに対する応答を試験するために、1週、2週、3週、及び3月齢において以下のとおりにマウスを犠牲にした。各マウスはアベルチンで麻酔した。3MのKClを拍動する心臓に注射することにより、拡張期停止を誘導した。心臓を1Xリン酸緩衝化塩溶液(PBS)で潅流し、そして脂肪組織を除去した。次に、心臓を4%パラホルムアルデヒドにより一晩固定化した。心房を分離用顕微鏡下で除去した。以後、心室を連続の1mm厚のスライスに切り出し(LADのライゲーションのレベルにおいて最初のスライスと共に)、エタノールのシリーズを通して無水化し、そしてパラフィンに埋め込んだ。連続横断セクション(5μm)を次に切断した。
【0143】
抗−アルファ−サルコメリックアクチン抗体を抗−リン酸化ヒストン−3、抗−BRDU、抗−サイクリンA2、又は抗−ABCG2抗体の何れかと共に用いて、同時免疫蛍光染色を実施した。心筋細胞の核に対する核蛋白質を位置決定するためにアルファ−サルコメリックアクチンに対する二次抗体として抗−マウスIgM FITCを用いた。ローダミンをコンジュゲートされた抗体を全ての他の抗体に対する二次抗体として用いた。核はDAPIにより染色した。分析は40x及び100xの倍率にて蛍光視野光学機下で行った。シグナルの心筋細胞に対する決定的な位置決定のための3−D分析を共焦点顕微鏡を用いて実施した。
【0144】
発明者らは、梗塞されたトランスジェニック心臓のみにおいて心筋細胞の有糸分裂を検出し、そしてアルファ−サルコメリックアクチンに対する抗体を利用することにより、これらの有糸分裂の心筋細胞に対して位置決定することができた。発明者らは、BRDU標識化を通して梗塞されたトランスジェニックの心臓におけるDNA合成の増加も観察した。
【0145】
さらに、発明者らは、ABCG2−陽性(副集団前駆)細胞が幾つかのトランスジェニック及び対照のマウスにおいて梗塞領域に帰った(home)ことを記録した。これらのABCG2−陽性細胞はアルファ−サルコメリックアクチンを発現もするらしいことから、それらが心臓系列において分化することが暗示される。これらの細胞はトランスジェニック及び対照において記録されたが、サイクリンA2の核局在はトランスジェニック心筋細胞においてのみ観察された。正常な心臓においては、ラット、ヒト及びマウスにおいて生後のメッセージ及び蛋白質のレベルの両方においてサイクリンA2は完全に沈黙している。サイクリンA2トランスジェニックマウスにおいては、サイクリンA2トランスジェニック蛋白質産物が生後の最初の2週間のみに核内で発現され、そして以後は細胞質に局在する。結果を図12−14に示す。
【0146】
実施例11−心臓機能の評価
MRIイメージ獲得を(ブラインド様式にて)9.4 Tesla Bruker WB400マイクロイメージングシステム上で、30mmものさしRFコイル(Brucker NMR Inc.,ベレリカ、MA)を用いて実施した。マウスをイソフラン(2L/分の空気流中で1.5%体積)により麻酔した。心臓の拍動は約450bpmであった。心室の定量は、ECGゲートされた速い勾配のエコーシネ配列を用いて獲得された透明(bright)血液2Dイメージスタックに基づいた。機能性磁気共鳴イメージング(fMRI)を、1週、3週、及び3月のMI後において行った。体積放出フラクションの計算のために、連続横断セクションを水平軸に対して垂直の3レベルにおいて撮り(心臓の頂端から大動脈(aorta)に)、そしてサジタルセクション(sagittal−section)イメージングを実施した。タギング技術を用いて中点のfMRIスライスもスキャンすることにより、時間をかけた局地的な壁移動を評価した。
【0147】
それらのMI研究に基づいて、発明者らは、サイクリンA2トランスジェニックマウスが3週及び3月の時間点において、対照に比較して、有意に良好な放出フラクション(EF)を有することを決定した。発明者らは、トランスジェニックマウスにおいて良好な局地的な壁移動が存在することも観察した;これはMRIタギング技術を用いて定量してよい。結果を図8−11に示す。
【0148】
実施例12−梗塞サイズの評価
梗塞の範囲を決定するために、心臓の5μmの連続パラフィン埋包セクションにマッソンのトリクローム染色を行った。イメージツール(UTHSCSA、テキサス)を利用することにより、各セクション中の非梗塞LVに対する梗塞差心室(LV)の状況を測定した。これらの測定及びセクションを生成するのに使用された各スライスの質量に基づいて、梗塞のパーセントを各心臓に関して計算した。
【0149】
梗塞サイズの評価をガドリニウム−増強されたマルチスライスMRイメージングを用いて繰り返した。ガドリニウム(0.1ml 1:5ガドリニウム:塩溶液0.9%)を静脈内に注入し、そして拡張後期における心臓のイメージを、梗塞サイズの評価のために、水平軸に対して垂直の5レベルにおいて撮った。梗塞領域を、fMRIシネ(cine)イメージ内に示される低下した局地的な壁移動に基づいて決定した;梗塞された壁の状況と非梗塞壁の状況の間の比を用いた梗塞サイズの評価を5つのイメージを基にして作成した。結果を図7に示す。
【0150】
明確化及び理解のためにいくらか詳細に前記の発明を記載してきたが、この開示を読んだ当業者により、請求の範囲における発明の真の範囲を逸脱することなく、形態及び詳細において様々な変化がなされ得ることが認識されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は、サイクリンA2のmRNAと蛋白質の発現が正常なマウスにおいて発生上制御されていることを示す。(A)正常マウス心臓におけるサイクリンA2のmRNA発現がノーザンブロット分析により検出された。RNAは、以下の組織:6週の心臓(HA)、6週の腎臓(KA)、E12心臓(HE12)、E18心臓(HE18)、及びPN2心臓(HPN2)から抽出された。エチジウムブロミドにより染色されたリボソームRNAのバンドを負荷対照として底のパネルに示す。(B)正常マウスにおけるサイクリンA2蛋白質の発現のイムノブロット分析。蛋白質を、E17.5,PN2,PN7,及び8週齢(「成体」と標記)におけるマウス心臓から抽出し、10%PAGE上で電気泳動し、そしてα−サイクリンA2抗体により検出した(上部)。α−GAPDH抗体を均等な負荷に関する対照として使用した。(C)発生する心臓におけるサイクリンA2蛋白質の発現の細胞局在。選択されたステージからの心室組織切片においてα−サイクリンA2抗体を利用したイムノヒストケミカル染色(14日胚(E14)から新生後14日(PN14))。褐色の染色は陽性染色された心筋の核を示す。
【図2】図2は、サイクリンA2のmRNAと蛋白質の発現がトランスジェニックマウスの心臓に制限されることを示す。(A)MHC−CYCA2トランスジェニック構築物のダイアグラム。発明者らは、マウスcDNAをクローン化し、そしてこの発明のために標準構築物を使用した。(B)対照とトランスジェニックサンプルの代表的ノーザンブロット分析。RNAをトランスジェニックマウス(t23とt27)及び正常マウス(n1とn2)から単離した。「H」と「K」は、それぞれ心臓と腎臓を示す。エチジウムブロミドにより染色されたリボソームRNAのバンドを負荷対照として底のパネルに示す。(C)トランスジェニック(Tg)及び正常(N)マウスにおける、2週及び8週の、細胞周期蛋白質発現のイムノブロット分析。上部パネル:α−サイクリンA2;上から2番目のパネル:cdk1;上から3番目のパネル:cdk2;底のパネル:GAPDHサンプルを負荷する対照。HeLa細胞の溶解物を陽性対照として用いた。(D)2週及び8週におけるトランスジェニック及び対照の心臓におけるサイクリンA2複合体の免疫沈殿分析。α−サイクリンA2免疫沈殿された複合体(星印により示される)をα−cdk1(上部)又はα−cdk2(底)によるイムノブロットにより分析した。29kDにおいて可視化されたバンドがイムノグロブリン軽鎖を表す。HeLa細胞溶解物を陽性対照として使用した。
【図3】図3は、サイクリンA2トランスジェニックマウスが新生後の有糸分裂の増加により心臓過形成を示すことを示す。正常マウス及びトランスジェニックマウスの心臓重量・体重(HW/BW)比を、発生を通して、PN7から1.5年齢までプロットした。各年において試験されたトランスジェニック(Tg)及び正常(N)マウスの数は以下のとおりである:PN7及びPN14−16Tg,15N;3−4月−5Tg,5N;6月−10Tg,10N;8−12月−5Tg,5N;1/5年−1Tg,1N。星印は、トランスジェニックト正常の間のHW/BWの際が統計上有意である齢を示す。(B)筋細胞の断面積を正常対トランスジェニック同腹仔にて測定した(系1及び58、齢6月)。正常(N)及びトランスジェニック(Tg)の心室の心筋のヘマトキシリン−及びエオシン−で染色された切片を、断面積に関して、イメージツールソフトウエアを利用して分析した。(C)正常対トランスジェニック同腹仔において測定された心筋の長さ(系1及び58、齢6月)。心室の心筋内のインターカレートされたディスク(disk)のパン−カドヘリン染色を、イメージツールソフトウエアを利用した縦切片の細胞長の測定のために実施した。(D)発生を通しての選択された時間点におけるトランスジェニック及び対照内の増殖する細胞の核の抗原(PCNA)の発現。ユニット面積あたりの陽性染色された核の数を少なくとも10の視野にわたり評価して平均化した(視野サイズ=16,800μm2)。E18を除いて、トランスジェニックマウス内で分析された各発生段階におけるユニット面積あたりのPCNA−染色された核に有意な増加があった。(E)トランスジェニック及びマウス心筋内のリン酸化されたヒストンH3の検出。視野あたりの有糸分裂核の数(リン酸化されたヒストン−3(H3P)により評価された)は、正常心臓に比較して、各発生段階において、トランスジェニック心臓において有意に増強された。少なくとも10の視野を各値に関して分析した。緑のバーはトランスジェニックマウスを示し、青のバーは正常対照を示す。P値を各セットの下方に示す。トランスジェニック対正常マウスのPN7における有糸分裂核の8倍増加に注目。
【図4】図4は、PN7の正常及びトランスジェニックマウスからの心室心筋内の有糸分裂核の可視化を描写する。(A),(B)H3P染色(赤)及びα−サルコメリックアクチン(緑)の場所をつきとめるために免疫蛍光を用いた。有糸分裂の異なる段階を心筋細胞において観察した:(C)前期、(D)前中期、及び(E)おそらく後期。
【図5】図5は、心臓機能のMRI分析を示す。(A)8ヶ月齢のトランスジェニックマウスの中部心室の横断面におけるトランスジェニック心臓のMRIイメージ。(B)放出(ejection)フラクション及びフラクショナルショートニングの測定のための心臓周期内の異なる点において採取された中部心室の横断面における心臓のMRIイメージ。赤の心室は末期(end)心臓拡張期を示し、そして黄色の心室は末期(end)心臓収縮期を示す。(C)正常(n=3)及びトランスジェニク(n=3)の心臓から計算された、放出(ejection)フラクション及びフラクショナルショートニング。
【図6】図6は、マウスのサイクリンA2のアミノ酸配列を示す。
【図7】図7は、全ての群に関する左心室−梗塞されたマウスのパーセントを示す。このパーセンテージは、各梗塞された心臓を(ライゲーション部位から頂端(appex)へ)5つの切片にスライスし、各スライスの質量を測定し、各スライスから薄い切片を取り(約5μm)、そして当該スライスをマッソントリクロームにより繊維症(fibrosis)のもっとも明るいエリアに染色することにより計算した。梗塞したエリアの円周の全円周に対する比に、各スライスの質量を掛けて、これらの生成物を全5スライスに関して加えることにより、梗塞体積パーセンテージを得た。梗塞した左心室のパーセンテージは群の間で一致しており;即ち、発明者らの外科手術手法は再現性が高かった。
【図8】図8は、心筋梗塞の3週後及び3ヵ月後に連続MRIスキャンされて評価された全ての群に関しての、梗塞されたマウスの放出(ejection)フラクション(EF)を示す。トランスジェニックマウスのEFは、野生型対照及び非トランスジェニック同腹仔対照のEFに比較して、有意に増強された。EFは、新生後3週及び3ヵ月後の両方において、トランスジェニックにて増強された。P−値を野生型対照との比較のために提供する。
【図9】図9は、3匹のトランスジェニックマウス(上部3パネル)と3つのトランスジェニック心臓(低分パネル)からの代表的なMRIスキャンを示す。当該スキャンは、トランスジェニック心臓における、下方左心室(LV)の腔(cavity)肥大症(dilation)、及び高い放出(ejection)フラクション(EFs)を示す。スキャンを中部心室レベルにおいて採ることにより、LVの腔サイズがトランスジェニックマウスにおいて顕著に小さいことを証明した。より小さな腔サイズは、野生型動物において観察されたよりも有意に小さなリモデリングの指標である。容積測定されて(volumetrically)コンピューター処理されたEFsを各スキャンの下の各マウスに関して提供する。
【図10】図10は、3つの横断(transverse)イメージ及び1つのサジタルイメージを用いてコンピューター処理された、容積測定(volumetric)EFsを示す。3つの横断イメージを、サジタルスキャンから測定して、心臓の縦軸の中間点から等距離においてスキャンした。楕円面=4/3Ahの容積を推測したが、式中、Aは面積であり、そしてhは高さであり;よって、全部容積=2/3A1h1+1.5A1+1.5A2+1.5A3+2/3A3h2であった。各面積(1,2,3)に関して、左心室、末端心臓収縮期面積を左心室末端心臓拡張期面積から差し引くことにより、容積EFを得た。
【図11】図11は、MRIタギングを梗塞された群の局地的な壁の移動における変化を分析するために定量的に利用してよいことを証明する。中部心室スキャンに関しては、スキャンを採る間、不在のシグナルのグリッドを適用した。負荷(strain)の歪みを、次に、心臓収縮期と心臓拡張期の間に、このグリッドのクロスヘアーの上の特定の点に関して測定した。連続イメージの試験は、局地的な壁の移動が時間を掛けて収縮性の改善を呈するか否かに関する測定を許容する。
【図12】図12は、心筋梗塞の結果を描写する。(A)野生型の梗塞された細胞においては有糸分裂が検出されなかった。青はDAPIを示す;緑はアルファ−サルコメリックアクチンを示す。(B)トランスジェニックの梗塞された心臓の心筋においては、豊富な有糸分裂が検出された。有糸分裂心筋細胞のクラスターをトランスジェニックの梗塞された心筋中に示す。赤はホスホヒストン−H3−陽性核を示す。ホスホヒストン−H3(H3P)は、有糸分裂の特異的マーカーである。青は核のDAPI染色を示す。緑はアルファ−サルコメリックアクチンの存在を示し、心筋細胞の細胞質に特異的である。(C,D)梗塞周囲の(peri−infarct)ゾーンの有糸分裂。(E,F)梗塞ゾーン自体の中の小さな未成熟心筋細胞。写真は、高い核対細胞質比を示す:核は有糸分裂であるらしく、そして細胞質の緑の蛍光はアルファ−サルコメリックアクチンの存在を示す。全ての写真は共焦点顕微鏡上で撮られた;即ち、シグナルは極めて特異的であった。
【図13】図13は、ABCG2を用いたマウス心筋中の副集団(SP)前駆細胞の検出を示す。蛋白質のATP−カセット輸送体ファミリーのメンバーであるABCG2は、マウスの心筋内に見出される副集団前駆細胞のマーカーである。当該蛋白質は心筋細胞が分化し続けるにつれて偏在化する(ubiquitinated)が、ABCG2は一般に発現の膜パターンを示し、そして細胞質に局在するかもしれない。発明者らは、これらの写真において赤くしるされたABCG2に対する抗体を利用することにより、梗塞されたマウスにおいてSP前駆細胞を検出した。SP細胞は、トランスジェニックと野生型のマウスの等しい数を記録した。しかしながら、ABCG2は、いくつかの写真において膜染色パターンを有すること、及び他の写真において細胞質局在を有することが示された。これは、トランスジェニック細胞が対照細胞とは異なる挙動をするらしいことを示唆する。(A,E,F)ABCG2は膜染色パターンを示す。(B,C)ABCG2は細胞質局在を有する。(D)ABCG2は、細胞質局在を有することが示される。非特異的な自己蛍光シグナルが検出されつつなかったことを確認するために、この明るい顕微鏡写真は、ABCG2に対するカウンター染色としてDABを用いた。
【図14】図14は、トランスジェニックの梗塞された細胞の「デノボ」心筋におけるサイクリンA2の核局在を示す。サイクリンA2は、トランスジェニックマウスの梗塞ゾーンにおいて「デノボ」心筋であるらしい何かの核の中に記録され;これは対照においては観察されなかった。さらに、トランスジェニックマウスにおいてさえ、初期新生後発生の後(新生14日)、サイクリンA2の核局在は典型的には観察されなかった;トランスジェニック蛋白質生成物は、この点の細胞質においてのみ記録された。(A)赤はサイクリンA2を示す;緑はアルファ−サルコメリックアクチンを示す。(B)(A)からの切片は青のフィルターにより観察されたことから、サイクリンA2の赤シグナルは核に位置決定することができる。青のフィルターからのシグナルは緑のフィルターからのイメージにより溶け込まれた(merge)。青は核のDAPI染色を示す;緑はアルファ−サルコメリックアクチンを示す。
【発明の開示】
【0001】
関連出願
この出願は、2003年5月19日に出願された米国仮出願番号60/471,952の利益を享受する。
【0002】
政府の利害関係の陳述
この発明は、NIH認可番号K08HL67048−01A1下で政府の支持によりなされた。
【0003】
発明の背景
心筋梗塞(心臓の組織に対する不可逆的損傷、しばしば心臓発作による)は、一般的な生命を脅かす偶発事故であり、突然死又は心不全を引き起こすかもしれない。心筋梗塞の後に起こる心室の機能不全は、主に、心筋細胞の大規模な損失(massive loss)及び損傷を受けた心筋細胞の繊維形成性収縮性(瘢痕(scar))組織により漸次の置換によりもたらされる。ほとんどの場合、心筋梗塞後の心筋細胞の損失は不可逆的である。事実、成体哺乳類の心筋細胞の増殖(即ち、再生)能力は事実上限定されていると、広く認められている(Rumyantsev and Carlson,Growth and Hyperplasia of Cardiac Muscle Cells(New York:Harwood Academic Publishers,1991)が、この総説は最近、異議を申し立てられた(Leri et al.,Mol.Cell.Cardiol.,3:385−90,2000;Kajstura et al.,Am.J.Pathol.,156:813−19.2000;Beltrami et al.,N.Engl.J.Med.,344(23):1750−57,2001)。
【0004】
心臓の疾患の診断及び治療における相当な進歩にも拘わらず、心筋梗塞に関係する心臓の損傷及び機能不全は、いまだに主要な心臓の血管の障害の中にある。従って、心筋梗塞後の心臓の機能を改善するための新規で有効なアプローチを発見するための主要な治療上の挑戦が残っている。
【0005】
仮想上の細胞制御因子の操作、又は多能性幹細胞の心筋細胞への変換を通した心筋細胞の増殖を再度活性化する能力(Orlic et al.,Nature,410:701−05,2001)は、疾患状態の間の心臓機能を増強させるための新規な治療上の介入のデザインための刺激的な起動力を提供する。過去十年間にわたり得られた証拠の大多数は、しかしながら、哺乳類の心筋細胞が胎児の分化を通して増殖して初期新生児期に入り、そのときDNA複製が素早く終焉して細胞分割が止まることを支援する(Beinlich and Morgan,Mol.Cell.Biochem.,119:3−9,1993;Casscells et al.,J.Clin.Invest.,85:433−41,1990;Speir et al.,Circ.Res.,71:251−59,1992;Parker and Schneider ,Annu.Rev.Physiol.,53:179−200,1991;Simpson,P.C.,Annu.Rev.Physiol.,51:189−202,1989)。過形成性成長(細胞分割)から過栄養性成長(細胞の大きさの増加)への遷移が、次に結果として起こる。マウスの心臓においては、心筋細胞の分割が生誕により完了すると報告されており、新生児の細胞(新生後3日を経て)におけるDNA合成は核発生(nucleation)にのみ貢献する(Soonpaa et al.,J.Mol.Biol.Cardiol.,28:1737−46,1996)。筋細胞の増殖の停止は、細胞周期の停止に帰する(Brooks et al.,Cardiovasc.Res.,39:301−11,1998)。この仮説に従うと、成体ラットの心筋細胞は二通りの細胞周期の封鎖を示すことが示され、約80%の細胞がG0/G1期に停止し、そして15%−20%の細胞がG2/M期に停止する(Poolman and Brooks,Mol.Cell.Cardiol.,29:A19(Abstract),1997;Poolman et al.,Int.J.Cardiol.,67:133−42,1998)。
【0006】
細胞周期を通した進行は、きつく制御されており、それらの触媒パートナー、サイクリン依存性キナーゼ(cdks)と複合体形成されたサイクリンを含む。サイクリンの間で、サイクリン2は、それが2つの決定的な遷移を通して進行を制御する点、及びcdk2と複合体形成されたサイクリンA2はG1/S遷移に必須であり、そしてcdk1と複合体形成されたサイクリンA2は有糸分裂に入ることを促進させる点でユニークである(Sherr and Roberts,Genes Dev.,9:1149−63,1995;Pagano et al.,EMBO J.,11:961−71,1992)。哺乳類の心筋細胞が細胞周期の停止により初期新生児期間において増殖を停止するという考えが十分に浸透した。サイクリンA2は、メッセージ及び蛋白質レベルの両方において、心臓の発生の間、ラットとヒトにおいて、細胞周期からの心筋細胞のこの撤退(withdrawal)と符合して出現する様式において、完全にダウン制御される唯一のサイクリンである(Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95:2275−80,1995)。
【0007】
以前、新たな心筋(myocardium)の先端の心外膜(leading epicardial)の端に局在する心筋の活発な増殖のために、20%の心室切除の2ヶ月以内にゼブラフィッシュは心臓を完全に再生することが示された。この損傷により誘導された心筋細胞の増殖は、傷跡の形成を克服して、心臓の筋肉の再生を可能にすることができた。ゼブラフィッシュにおけるこの心臓組織の再生はMpsI有糸分裂チェックポイントキナーゼに関連することが示唆された(Poss et al.,Heart regeneration in zebrafish.Science,298:2188−90,2002)。サイクリン及びサイクリン依存性キナーゼを活性化することにより心筋細胞は心筋梗塞に反応することも示された(Reiss et al.,Myocardial infarction is coupled with activation of cyclins and cyclin−dependent kinases in myocytes,Exp.Cell Res.,225:44−54,1996)。しかしながら、本発明の前に、細胞周期の終了のタイムライン(よって、「ターミナル」分化)がいったん超えられたなら、サイクリン、特にサイクリンA2の制御が心筋細胞の有糸分裂を誘導し得ることは直接証明されていなかった。
【0008】
発明の概要
発明者らは、サイクリンA2のダウン制御が心筋細胞周期の終了において決定的な役割を担うと仮定し、そして、逆に心臓におけるサイクリンA2の連続する発現が、変更された細胞分割、そして重要なのは、心筋細胞の過形成をもたらすと仮定した。筋細胞の有糸分裂の刺激が心筋細胞周期の撤退に衝撃を与えるか否かを決定するために、発明者らは、胚発生から成人になるまで、心筋細胞系列において構成的にサイクリンA2を発現する心臓特異的サイクリンA2トランスジェニックマウスモデルを創作した。このモデルは、分化した心筋細胞において心筋細胞有糸分裂を呈することが以前に示された。発明者らは、今、マウス、ラット及びヒトにおいて新生後の心臓においては通常は沈黙している蛋白質であるサイクリンA2の心臓内の存在(生誕後の不在)が、左前下行枝のライゲーションにより誘導された心筋の損傷を阻害することを示す。
【0009】
特に、発明者らは、サイクリンA2トランスジェニック動物において心筋梗塞の2週間以内に健康な心筋の再生が起こるが、対照動物においては起こらないことを観察した。サイクリンA2は、トランスジェニックマウスにおいて、心筋細胞の過形成のために、胚発生8日目から成人まで抗生的に発現されたときに、心臓の巨大化(enlargement)を誘導した。この過形成は、新生児後の発育を経て心筋の有糸分裂の増加と相関した。発明者らのモデルは、それが内部の細胞周期制御因子を利用すること、それが天然の心筋細胞が再生することを誘導すること、及び、それが心筋細胞の特性を完全に獲得しないかもしれない別の細胞種(例えば、幹細胞)の導入を必要としないことにおいて、心筋の損傷を予防及び治療するための既に存在する技術を超えた改善を示す。
【0010】
従って、本発明は、さらに、心臓の組織の細胞又は副集団(side−population)(SP)の前駆細胞(progenitor cell)中でサイクリンを増加させることにより心臓の組織の再生を促進させるための方法を提供する。本発明は、さらに、心臓組織の細胞中でサイクリンを増加させることにより、心臓組織の変性を阻害する方法を提供する。
【0011】
本発明は、被験者において心臓の組織の変性を治療するための方法を提供するが、(a)心臓の組織の細胞又は副集団(SP)の前駆細胞及び幹細胞から選択される細胞の集団を得るか又は再生し;(b)細胞の中のサイクリンを増加させ;そして(c)増加したサイクリンを含む細胞及びもしもあるならそれらの子孫を、心臓組織の変性を治療するのに有効な量、被験者に移植する工程を含む。
【0012】
さらに提供されるのは、心臓の組織の変性を治療するか又は予防するのに有効な量のサイクリン関連薬剤(agent)を被験者に投与することにより、被験者において心臓組織の変性を治療するか又は予防する方法である。
【0013】
さらに、本発明は、治療用組成物を提供するが、(a)サイクリン関連薬剤;及び(b)任意に、薬学上受容可能な担体を含む。また、サイクリン関連薬剤を心臓の組織細胞、副集団(SP)の前駆細胞又は幹細胞に送達することにおける使用のためのキットも提供し、治療用組成物とカテーテルを含む。
【0014】
本発明は、さらに、サイクリンA2が増加された心臓組織細胞、副集団(SP)の前駆細胞又は幹細胞を提供する。また、これらの細胞を含む細胞系、及び当該細胞系を含むインビトロ及びインビボのスクリーニング方法も提供される。
【0015】
本発明は、さらに、小児科の疾患を治療するのに有用な可能性のある候補ドラッグにおいて少なくとも一つの心臓障害性効果に関してスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、(a)小児科の疾患を治療するのに有用な可能性のある候補ドラッグに、サイクリンA2が増加した少なくとも一つの心臓組織細胞を接触させ;そして(b)少なくとも一つの心臓障害性効果に関して上記の少なくとも一つの心臓組織細胞をアッセイする工程を含む。また、この方法によりスクリーニングされるドラッグも提供される。
【0016】
さらに、本発明は、心臓の組織の変性の治療又は予防においてサイクリンによる相乗効果に関して候補薬剤をスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、(a)サイクリンA2が増加した少なくとも一つの心臓組織細胞を候補の薬剤に接触させ;そして(b)候補薬剤が心臓組織の生成を増強する能力を評価する工程を含む。また、この方法により同定される薬剤も提供され、そして、サイクリン関連薬剤と共に、心臓組織の変性を治療するか又は予防するのに有効な量のこの薬剤を被験者に投与することにより被験者において心臓組織の変性を治療又は予防する方法も提供される。
【0017】
さらに、本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防においてサイクリンの相乗効果に関して候補薬剤をスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、(a)サイクリンA2が増加した少なくとも一つの心臓組織細胞を候補の薬剤に接触させ;(b)心臓組織細胞及びもしあるならそれらの子孫を被験者に移植し;そして(c)候補薬剤が、移植後の心臓組織細胞及びその子孫の生存を増強する能力を評価する工程を含む。また、この方法により同定される薬剤も提供され、そして、サイクリン関連薬剤と共に、心臓組織の変性を治療するか又は予防するのに有効な量のこの薬剤を被験者に投与することにより被験者において心臓組織の変性を治療又は予防する方法も提供される。
【0018】
本発明は、幹細胞に対して少なくとも一つの障害性効果を有する候補ドラッグに関してスクリーニングするためのインビトロの方法を提供するが、障害性効果は増加したサイクリンの存在下で予防されるか又は停止し、(a)本発明の幹細胞系の幹細胞を候補ドラッグと接触させ;(b)増加したサイクリンを有さない対照の幹細胞を候補ドラッグと接触させ;そして(c)工程(a)の幹細胞と工程(b)の幹細胞を少なくとも一つの障害性効果に関してアッセイするが、但し、工程(b)の対照幹細胞において障害性効果が存在して、工程(a)の幹細胞における障害性効果が不在であるか又は停止していることが、候補ドラッグが幹細胞に対して少なくとも一つの障害性効果を有することの指標であり、但し、障害性効果が増加したサイクリンの存在下で予防されるか又は停止する、ことによる。また、この方法によりスクリーニングされたドラッグも提供される。
【0019】
本発明は、さらに、小児科の障害の治療に有用な可能性のある候補ドラッグにおいて少なくとも一つの心臓障害性効果に関してスクリーニングすることにおける使用のためのインビトロシステムを提供し、サイクリンA2が増加された心臓組織細胞の集団を含む。
【0020】
本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防においてサイクリンによる相乗効果に関して候補薬剤をスクリーニングすることにおける使用のためのインビトロシステムを提供し、サイクリンA2が増加された心臓組織細胞の集団を含む。
【0021】
さらに、幹細胞に対して少なくとも一つの障害性効果を有する候補ドラッグに関してスクリーニングすることにおける使用のためのインビトロシステムが提供され、但し、障害性効果は増加されたサイクリンの存在下で予防されるか又は停止し、サイクリンA2が増加された幹細胞の集団を含む。
【0022】
さらに、本発明は、心臓組織の生成におけるサイクリン関連薬剤の用途を提供する。
最後に、本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防におけるサイクリン関連薬剤の用途を提供する。
【0023】
本発明のさらなる側面は、以下の記載に照らして明らかとなる。
発明の詳細な説明
遺伝子変調、細胞移植、及び組織工学は、心筋の損傷後の心筋再生及び組織修復のための革命的アプローチを約束する。動物モデルに由来する最近のデータは、損傷を受けた心臓へ遺伝物質又は筋原細胞を挿入することにより心不全を治療することが可能かもしれないことを示唆する。例えば、米国特許第6,534,052号及び米国特許出願番号20030022367、20030054973、及び20020197240を参照。
【0024】
心臓の再生に対する一つの可能性のあるアプローチは、心筋細胞の細胞周期再エントリー及び増殖を促進させるような細胞蛋白質のマニプレーションを含む。このアプローチは、鍵となる細胞周期制御蛋白質の同定のために、近年多大な興味を募らせており、幾つかの報告の刊行物は、これらの因子のマニプレーションがインビボ及びインビトロのDNA合成を、後−有糸分裂心室心筋において再活性化することができる(Kirshenbaum and Schneider,J.Biol.Chem.,270:7791−94,1995;Agah et al.,J.Clin.Invest.,100:2722−28,1997;Soonpaa and Field,Circ.Res.,83:15−26,1998)。本発明の前には、しかしながら、細胞周期の終了(よって、最後の分化)がいったん優った(surpassed)なら、これらの因子の制御が心筋細胞の有糸分裂を誘導し得ることを直接に証明する以前の報告はない。
【0025】
以前に、心筋細胞周期の理解における顕著なギャップが、G2/Mチェックポイントの仮想細胞制御因子の効果を探索する限定された数の研究よりもたらされた。サイクリンA2は、培養された細胞系においてG1/SとG2/M期の両方を経た遷移を制御することが示された全てのサイクリンの間ではユニークである(Sherr and Roberts,Genes Dev.,9:1149−63,1995)。細胞が細胞周期から撤退する(withdraw)につれ心筋細胞の分割が停止する場合、サイクリンA2は生誕後すぐには心臓においては通常沈黙している。これは、ラットとヒトの心臓において以前に確定され(Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95:2275−80,1995)、そして発明者らはこれをマウスにおいて確認した。サイクリンA2のmRNAと蛋白質のレベルの一時のパターンは、心筋細胞の細胞周期の終了の制御因子としてのサイクリンA2に関する決定的な役割を暗示する。
【0026】
心筋細胞の細胞周期をさらに証明するために、発明者らは、心筋内の構成的なサイクリンA2の発現のマウスのモデルを生じさせ、そして脱制御されたサイクリンA2の発現の、心筋細胞の増殖及び最後の分化に対する衝撃を試験した。表現型の分析は、成体の心臓における過形成による心臓の巨大化を明らかにした。より重要なことに、心筋細胞の有糸分裂は、正常な心臓と比較して、トランスジェニックにおいて新生後の発生の間に顕著に増強され、最も劇的な差異はPN7において起きた。しかしながら、トランスジェニックマウスにおける心臓の巨大化は、6月齢の成体の間に統計上有意になったことから、構成的なサイクリンA2の発現により誘導された過形成が、主に新生後の発生の間に上昇し、胚発生の間には上昇しなかったことが暗示される。
【0027】
初期の研究が示唆したことは、変更されたか又は不在の細胞周期蛋白質の幾つかの他のマウスモデルにおいては胚発生が過形成に必須であったことであった。例えば、Liaoら(Circ.Res.,88:443−50,2001)は、cdk2の心臓における過剰発現がPN2において心臓の巨大化を引き出したが、これは成体においては持続しないことを示した。p27KIPIノックアウトマウスの心臓の表現型は、野生型に比較して、2日齢と35日齢の間に分析されたところによれば、心臓の重量の顕著な増加を呈した(Poolman et al.,Circ.Res.,85:117−27,1999)。c−myc過剰発現のマウスは、1日齢及び15日齢において最も甚大であった心臓サイズの巨大化を呈した(それぞれ、44%及び46%);しかしながら、60日齢には、たった34%の増加しか記録されなかった(Jackson et al.,Mol.Ceell.Biol.,7:3709−16,1990)。これらの研究の全てにおいて、研究者らは、新生後の成長の加速なしに、この過形成が胎児の発生の間に起こったと結論した。
【0028】
マウスの心臓のサイクリンD1の過剰発現が成体のトランスジェニックの心臓において増加したDNA合成を促進させ、複数の核化をもたらしたことを示した;核分裂(karyokinesis)は記録されなかった(Soonpaa et al.,J.Clin.Invest.,99:2644−54,1997)。成体のトランスジェニックマウスのHW/BW比を非トランスジェニックマウスのHW/BW比と比較した場合に、約40%の巨大化が記録された(各群に関してn=4、齢は特定されない)。>60%の成体サイクリンD1トランスジェニック心筋細胞が複数核化表現型を呈したが、著者らは、これらの心筋細胞が核分裂を経る能力を保持したか否かは明らかでないと結論した。この同じグループの研究者らは、以前に(Soonpaa et al.,J.Clin.Invest.,99:2644−54,1997)、正常なマウスの心臓の心筋の分割が生誕後には起こらず、PN2とPN3を経たDNA合成が二核発生(binucleation)のみに貢献したことを証明した。
【0029】
構成的心臓サイクリンA2発現の発明者らのモデルは、核分裂がトランスジェニック心臓において生誕後に誘導されることを直接証明する。最近公表された報告は、RhoファミリーのGTPasesの阻害の効果を記載し、サイクリンA2の結合及び心筋細胞の増殖への支持をさらに与える:マウス心筋中の、Rhoファミリー蛋白質の阻害剤であるRho GDIαの発現が、サイクリンAのダウン制御に関連した胚の心臓内の細胞増殖の低下をもたらした(Wei et al.,Development,7:1705−14,2002)。
【0030】
サイクリンA2が培養された細胞系においてG1/S及びG2/Mの両方を制御することが示されたが(Sherr and Roberts,Genes Dev.,9:1149−63,1995)、発明者らは、それがインビボにおいて両ギャップ相の制御において役割を担うと仮定した。ショウジョウバエにおいては、両ギャップ相の制御因子が過剰生産されたときに(即ち、サイクリンE及びストリング)、細胞は両ギャップ相の短縮化を補償することができなかった;細胞周期は全体として短縮され、より速い世代時間の小さな細胞をもたらす(Neufeld et al.,Cell,93:1183−93,1998)。以前の研究者が示したことは、G1−からS−期の細胞周期制御蛋白質がインビトロとインビボにおいて細胞のサイズを低下させたことであった(Liao et al.,Circ.Res.,88:443−50,2001;Quelle et al.,Genes Dev.,8:1559−71,1993)。この機構は、一部には、発明者らのモデルにおいて記録された小さな細胞を伴う心筋細胞の過形成を説明するかもしれない。しかしながら、新生後の発生の間の発明者のモデルにおけるあらゆる顕著な心臓巨大化の欠如は、トランスジェニックと正常な動物の間の心臓のサイズのギャップにおける年齢に関連した増加と共に、心臓発生が正常に完了した場合には、「脱沈黙」サイクリンA2の最も劇的な効果が生誕後におこるという結論をさし示す。
【0031】
サイクリンA2が心臓の修復に貢献できるか否かを試験するため、発明者らは、トランスジェニックマウス、非トランスジェニック同腹仔、及び野生型マウス(株及び年齢適合した)において、左前下行枝(left anterior descending artery)(LAD)のライゲーションにより、心筋梗塞(MI)を誘導した。全部で89匹のマウスを梗塞させた;MIの1週間後には83%の生存率があった。
【0032】
容積放出フラクション(EF)を測定するためにfMRIを利用して機能分析を実施した;タギングを用いて局地的な壁の移動を測定した。サイクリンA2トランスジェニックマウスは、対照に比較して、MIの3週及び3ヵ月後に、顕著に増強されたEFを示した。左心室(LV)の梗塞のパーセントは、全ての群の間で一致した。トランスジェニックの心臓においては、心機能の維持が3月齢において観察され、EFの下降とフラクションの短縮化が8月齢において記録された。これは、若い動物に比較して、5−6月齢後のトランスジェニックと正常な動物の間での多大なHW/BWの違いの観察と一致する。高柔軟性(hyperplastic)心臓は、最終的に年齢と共に低収縮性(hypocontractility)へ最終的には進む高収縮性(hypercontractility)を示すことが予測される。
【0033】
発明者らは、心臓機能に寄与するかもしれない、有力な細胞機構及び分子機構も試験した。増殖のアッセイは、有糸分裂の特異的マーカーであるホスホヒストンH3(H3P)を検出するための免疫蛍光及び共焦点顕微鏡を含んだ。BRDU標識化も実施した。これらの研究において、発明者らは、トランスジェニックマウス内の梗塞ゾーン及び非梗塞心筋の中の心筋細胞に局在した有糸分裂(抗−ホスホヒストンのための免疫染色により評価された)を見出した;たった0−1のそのような有糸分裂しか非トランスジェニック心臓及び野生型心臓には記録されなかった。これは、サイクリンA2トランスジェニック心筋細胞が損傷に応答して細胞周期に再度入ることができることを示唆する。
【0034】
心臓の前駆細胞は、トランスジェニック動物と対照の両方の梗塞ゾーンに検出された。これらの前駆細胞は、「副集団」(SP)の細胞の公知のマーカーであるABCG2を発現する。SP細胞は、ヘキストエキストルージョン(extrusion)を基にして同定される前駆細胞のクラスを形成する。それらは多くの組織において観察されたが、骨格筋、骨髄、肝臓、脳、及び心臓を含む。トランスジェニック心臓のみにおいて、サイクリンA2の核局在が検出されたが、「デノボ」心筋であるらしい。これらの結果は、サイクリンA2トランスジェニックマウスが、梗塞周囲の(peri−infarct)心筋細胞の細胞周期への再侵入を通してか又は増強された増殖可能性のあるSP細胞の誘導を通して、損傷を受けた心筋を修復することができることを示す。
【0035】
「デノボ」心筋であるらしい核内のサイクリンA2の発現は、新生後のトランスジェニックモデルにおいて記録された発生の理論的枠組み(paradigm)を要約する(recapitulate)。類似の位置の細胞内のABCG2発現の発見とカップルした、核サイクリンA2の存在(連続切片を分析したところ)は、心筋に通常は存在するトランスジェニックモデルのSP細胞が「高増殖」表現型を呈することを暗示する。これは、心臓の再生のための興奮性枝分かれ(exciting ramification)を有するかもしれない。
【0036】
発明者らのトランスジェニックモデルにおいては、次に、通常は沈黙しているサイクリンA2の構成的心臓発現が新生後の心臓において心筋細胞の有糸分裂を呼び出した(revoked)が、結果の心臓巨大化(過形成による)が成体の心臓において記録された。発明者らのモデルは、それがG1/Sチェックポイントに加えて、G2/Mチェックポイントの調節に特異的に接近する、変更されたか又は不在の細胞周期制御因子を試験する以前のマウスモデルとは異なる。さらに、新生後の心筋細胞内の核分裂は、Ser10におけるヒストン−3のリン酸化の検出を通して特異的に証明され、そしてさまざまな段階の心筋細胞の有糸分裂が観察されるかもしれない。成体の間の通常の心臓に比較しての、トランスジェニック心臓における増強されたHW/BWの増加は、細胞質分裂(cytokinesis)がトランスジェニック心臓においては有糸分裂とカップリングしていることを示唆する。心筋細胞の有糸分裂の低下がPN7とPN14の間で記録され、そして分散した(scattered)有糸分裂が成体の心臓において記録されたことから、細胞周期の阻害剤は、サイクリンA2の発現にもかかわらず、チェックにおけるこの有糸分裂プロセスを維持することを示す。
【0037】
さらに、サイクリンA2トランスジェニックマウスは、非トランスジェニック同腹仔及び野生型対照に比較して、MIの3週及び3ヶ月後に、顕著に増強された心臓機能を有する。これは、サイクリンA2が有糸分裂後の心筋細胞に関して、細胞周期に再度入る能力を提供するかもしれないことを示唆する。サイクリンA2は、心筋に通常は見出される副集団の前駆細胞に対する高増殖効果も提供するらしい。
【0038】
前記の見地から、本発明は、心臓の組織の生成を促進させる方法を提供する。本明細書において使用される用語「心臓の組織の生成を促進させる」は、心臓組織の成長及び/又は増殖を、活性化、増強、促進、増加、誘導、開始又は刺激すること、並びに、心臓組織細胞の分化、成長及び/又は増殖を、活性化、増強、促進、増加、誘導、開始又は刺激することを含む。即ち、当該用語は、心臓組織生成の開始、並びに、既に進行している心臓組織生成の促進又は増強を含む。「分化」は、細胞が発生の間に構造上及び機能上特化されるようになる細胞プロセスである。本明細書にて使用される用語「増殖」及び「成長」は、心臓組織の質量、容積及び/又は厚さの増加、並びに、心臓組織細胞の直径、質量又は数の増加を意味する。さらに本明細書にて使用される、用語「生成(generation)」は、新たな心臓組織の生成及び心臓組織が以前に存在した心臓組織の再生を含む。
【0039】
本明細書にて使用される用語「心臓組織」は、限定ではないが、心臓の心筋(心臓筋肉繊維、結合組織(筋内膜(endomysium))、神経繊維、毛細管、及びリンパ液(lymphatics)を含む);心臓の心内膜(endocardium)(弾性膜(fibroelastic)結合組織、血管、リンパ液、神経繊維、脂肪組織、及び扁平上皮(squamous epithelial)細胞からなる中皮(mesothelial)膜);及びあらゆる追加の結合組織(pericardiumを含む)、血管、リンパ液、脂肪細胞、前駆細胞(例えば、副集団(SP)前駆細胞)、及び心臓に見出される神経組織を含む。心臓筋肉繊維は、連続する心臓筋肉細胞、又は「心筋細胞」の鎖からなり、末端と末端をインターカレートされたディスクにて接合している。これらのディスクは、2種類の細胞接合部を所有し:それらの貫通部分に沿って広がる拡張されたデスモゾーム、及びギャップ接合部であって、そのもっとも大きなものがそれらの縦部分に沿って横たわる。
【0040】
本発明の方法は、一つの態様において、心臓組織細胞中のサイクリンを増加させることを含む。心臓組織細胞は、上記のとおり、心臓内に見出される様々な組織の細胞の何れをも含む。例示のために、本発明の心臓組織細胞は、前駆細胞(例えば、心臓組織副集団(SP)前駆細胞)及び分化した細胞又は有糸分裂後の細胞を含んでよい。本明細書にて使用される用語「有糸分裂後」は、G0期の細胞(静止状態)であり、そしてもはや分割しないし周期には入らない。本発明の好ましい態様において、心臓組織細胞は、心筋細胞である。心臓組織の生成が、非心臓組織(例えば、脾臓、骨髄、骨格筋、脳、肝臓、腎臓、肺、小腸、等)に由来するSP前駆細胞内のサイクリンを増加させることにより促進されるかもしれないということが、本発明の境界内でもある。
【0041】
本発明の心臓組織細胞及びSP前駆細胞は、霊長類、鳥、魚、哺乳類、及び有袋類のいずれかから得てよいが、好ましくは、哺乳類から得る(例えば、ヒト、家畜、例えば、ネコ、イヌ、サル、マウス及びラット;又は市販の動物、例えば、ウシ又はブタ)。さらに、本発明の心臓組織細胞及びSP前駆細胞は、いかなる齢の動物から得てもよく、胎児、胚、子供、及び成体を含む。本発明の一つの態様において、心臓組織細胞及びSP前駆細胞は、以下に記載されるとおり、その心臓組織においてサイクリンA2を過剰発現するトランスジェニック動物から得る。本発明の一つの好ましい態様において、心臓組織細胞又はSP前駆細胞は、ヒトから得る。
【0042】
上記の通り、本発明の方法は、新たな心臓組織の生成及び/又はそのような組織が存在するように使用される心臓組織の再生をもたらす。再生の場合、本発明の心臓組織細胞は、損傷されたか又は変性された心臓組織(即ち、病原性状態を呈する心臓組織)から得るか又はその中に見出してよい。心臓組織の変性の原因は、限定ではないが、慢性の心臓の損傷、慢性の心不全、ケガ又は外傷によりもたらされる損傷、心臓の毒素によりもたらされる損傷、照射又は酸化性フリーラジカルによる損傷、低下した血流によりもたらされる損傷、及び、心筋梗塞(例えば、心臓の病気(attack))を含む。好ましくは、本発明の変性された心臓組織は、心筋梗塞又は心不全によりもたらされる。新たな心臓組織の生成及び心臓組織の再生は、公知の手法により測定又は検出してよく、心臓特異的蛋白質のウエスタンブロッティング、形態計測(morphometry)と共同した電子顕微鏡、細胞増殖の速度を測定するための単純なアッセイ(トリパンブルー染色、Promega(マジソン、WI)のCellTiter−Blue細胞生存アッセイ、ATCCのMTT細胞増殖アッセイ、フルオレセインジアセテート及びエチジウムブロミド/ヨウ化プロピジウムによる特異染色、ATPレベルの評価、フローサイトメトリーアッセイ、等を含む)、及び本明細書に開示された方法、分子手法、及びアッセイの何れかを含む。
【0043】
上で論じられたとおり、サイクリンは、本発明の方法に従い、心臓組織細胞又はSP前駆細胞内で増加される。サイクリンは特定の真核生物細胞内に見出される蛋白質であり、細胞に有糸分裂を始めさせることにより細胞周期を制御することを助ける(核分裂の形態)。当該蛋白質は、一般に、細胞周期の全部分の間に生産されるが、有糸分裂の間に破壊される。サイクリンの例は、限定ではないが、サイクリンA、サイクリンB、サイクリンC、サイクリンD、及びサイクリンEを含む。哺乳類のA−タイプのサイクリンファミリーは、2つのメンバー、サイクリンA1(サイクリンAの生殖(gern)細胞バージョン)及びサイクリンA2(サイクリンAの体細胞バージョン、ヒトにおいては「サイクリンA」として知られる)からなる。このファミリーに含まれるのは、アデノウイルスのe1aに関連した蛋白質p60に同一の33−kDの蛋白質である。サイクリンA蛋白質は、p33cdk2及びp34cdc2を制御し、そして細胞周期のS期を通した進行に必要である。サイクリンA2は、G1/S及びG2/Mの遷移の両方を促進する;サイクリンA1はマウスにおいて生殖(germ)ラインの系列において独占的に発現され、そしてヒトにおいては睾丸及び特定のミエロイド白血病細胞において高レベルで発現される。サイクリンBは細胞周期において転写後及び翻訳後に制御される58−kDの蛋白質である。本発明の一つの好ましい態様において、サイクリンはサイクリンA2である。
【0044】
本明細書にて使用される用語「サイクリン」は、「サイクリン蛋白質」及び「サイクリン類似体」を含む。他に示さなければ、「蛋白質」は、蛋白質、蛋白質ドメイン、ポリペプチド、又はペプチド、及び蛋白質機能を有するそれらのあらゆる断片又はバリアントを含む。バリアントは、好ましくは、天然に生じる蛋白質配列と約75%を超える相同性、より好ましくは、蛋白質配列と、約80%を超える相同性、さらにより好ましくは約85%を超える相同性、そしてもっとも好ましくは約90%を超える相同性を有する。幾つかの態様において、相同性は、約93−95%、98%、又は99%程の高さであってよい。これらのバリアントは、置換性、挿入性又は欠失性であってよい。当該バリアントは、化学修飾された誘導体:化学修飾に供されたが天然に生じた蛋白質の生物学的特性を維持した蛋白質であってもよい。本発明の一つの態様において、上記蛋白質は、心臓組織細胞内部における長い半減期を有するように変異される(例えば、そのユビキチン結合部位において修飾される)。
【0045】
本明細書にて使用される用語「サイクリン類似体」は、サイクリン蛋白質と60%又はそれより高い(好ましくは、70%又はそれより高い)アミノ酸相同性を有する、サイクリンの生物活性を有するサイクリン蛋白質の機能バリアントである。本明細書においてさらに使用される用語「サイクリン生物活性」は、本明細書において記載されたような、心臓組織の生成を促進させる能力を示す蛋白質又はペプチド活性を意味する。
【0046】
サイクリンA2蛋白質は、図6に示されるアミノ酸配列を有し、その保存的置換体を含む。本明細書にて使用される用語「保存的置換体」は、置換されたアミノ酸残基に機能上均等なアミノ酸置換体であり、それらが類似の極性又は立体構造を有するからか、又はそれらが置換された残基と同じクラスに属するからである(例えば、疎水性、酸性又は塩基性)。用語「保存的置換体」は、心臓組織の生成を促進するサイクリンの能力に対して取るに足らない効果しか有さない置換体であって、特に、サイクリンのアゴニストの同定又はデザインに関して、分子置換分析に関して、及び/又は相同性モデリングに関しての、上記相互作用の使用に関してである。
【0047】
当業者には明らかなとおり、本発明によりカバーされる、蛋白質中、及び断片、バリアント、類似体、及びペプチド模倣物内のアミノ酸残基のナンバリングは、本明細書に示されたものと異なってよく、或いは本明細書に記載された活性と同じ心臓組織生成活性を生じる特定の保存的アミノ酸置換体を含んでよい。他のアイソフォーム又は類似体中の対応するアミノ酸及び保存的置換体は、関連するアミノ酸配列を可視的に調査することにより、又は市販の相同性ソフトウエアプログラムを用いることにより、容易に同定される。
【0048】
本明細書に記載された方法によれば、サイクリンは、細胞中のサイクリンの一つ又は複数の機能、活性、又は効果(例えば、サイクリンシグナルトランスダクション経路中のサイクリンの下流の効果)、特に心臓組織生成の促進をもたらすものを活性化するか、促進するか、誘導するか、又は刺激することによるか、又は細胞中のサイクリンの量、発現、又はレベルを増加させることにより、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞において増加させるか(augmented)又は上昇させて(increased)よい。さらに、細胞中の一つ又は複数のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及びレベルを、直接にサイクリンを標的化することによるか、又は間接にサイクリンを標的化することにより、酵素又は細胞中のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを制御するか又は変調させる他の内部分子により、増加させてよい。サイクリンの発現は、誘導可能なプロモーター上でサイクリンが発現されるようにサイクリン遺伝子を操作することにより増加させてもよい。そのような場合、サイクリン発現は、適切な誘導因子の存在下で保持されるはずであるが、誘導因子の供給が枯渇したら遮断されるはずであり、それにより、細胞中のサイクリンの量又はレベルの低下をもたらす。サイクリンは、内部サイクリンの機能、活性、効果、発現、及びレベルを活性化するか、促進するか、誘導するか又は刺激することにより、又は内部サイクリンの導入により、特にサイクリンが強いプロモーターの調節下にあるように、増加させてもよい。
【0049】
好ましくは、心臓組織細胞中のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを少なくとも10%増加させるか又は上昇させる。より好ましくは、サイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを少なくとも20%上昇させる。サイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルを、心臓組織の生成を促進させるのに有効な量により心臓組織細胞又は副集団(SP)の前駆細胞中で増加させる。この量は、公知の手法に基づいて当業者により容易に決定してよく、インビボで確立されたタイトレーションの曲線分析、本明細書に開示された方法、及び当業者に公知の技術を含む。
【0050】
本発明の方法においては、心臓組織細胞又は副集団(SP)の前駆細胞の中のサイクリンの機能、活性、効果、発現、及び/又はレベルは、細胞をサイクリン関連薬剤に接触させる(即ち、細胞を処理する)ことにより、増加させるのが好ましい。本明細書にて使用される「薬剤(agent)」は、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、核酸(DNA,RNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む)、抗体(モノクローナル及びポリクローナル)、Fab断片、F(ab’)2断片、分子、化合物、抗生物質、ドラッグ、及びそれらのあらゆる組み合わせを含み、サイクリンと反応性の薬剤であってよい。本明細書にて使用される用語「反応性(reactive)」は、分子又は模倣物がサイクリンに親和性であるか、サイクリンに結合するか、又はサイクリンに対して向けられることを意味する。Fab断片は、抗体のユニバーサルな抗原結合断片であり、パパイン消化により生じる。F(ab’)2断片は、抗体の二価の抗原結合断片であり、ペプシン消化により生じる。
【0051】
さらに本明細書にて使用される用語「サイクリン関連薬剤」は、内部サイクリン蛋白質を含むサイクリン蛋白質;サイクリン核酸(即ち、サイクリンをコードする核酸);サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー(蛋白質又は核酸のいずれかの形態の上流及び下流の作用因子及び活性化因子を含む);及びサイクリントランスダクション経路又はシステムのメンバーの変調因子(例えば、阻害因子、活性化因子、アンタゴニスト、又はアゴニスト)(即ち、サイクリントランスダクション経路のメンバーの発現、活性、機能、及び/又は効果に影響する変調因子)であって蛋白質形態又は核酸形態の何れかであって、サイクリン発現の変調因子を含むものを含む。さらに、本明細書にて使用される用語「サイクリントランスダクション経路のメンバー」は、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内のサイクリンの下流作用因子又は上流制御因子を含む。
【0052】
例示のために、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内のサイクリンの活性は、サイクリン活性を刺激するか、及び/又はサイクリンと反応性の小さな分子又は蛋白質模倣物に上記細胞を接触させることにより増加させてよい。同様に、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内のサイクリンのレベルは、被験者内のサイクリンの発現を直接か又は間接に引き起こす(causing)か、誘導するか、又は刺激することにより、増加させてよい。従って、本発明の一つの態様において、サイクリンの活性は、サイクリン発現の変調因子を被験者に投与することにより、上昇させる。
【0053】
本発明の一つの態様において、サイクリン関連薬剤は蛋白質である。本発明における使用のための蛋白質は、限定ではないが、サイクリン蛋白質、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー(上流及び下流の作用因子及び活性化因子ポリペプチド)、サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーの変調因子(例えば、阻害剤、活性化因子、アンタゴニスト、又はアゴニスト)、サイクリン関連抗体(例えば、IgA,IgD,IgE,IgG,IgM,及び単鎖抗体、及びFab’断片、例えばscFv)であってサイクリンシグナルトランスダクション経路の負の制御因子に結合して阻害することができるもの、及びサイクリン関連リガンド(例えば、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーのリガンド、及びそれらの誘導体)を含む。好ましくは、サイクリン関連蛋白質はサイクリンA2蛋白質である。
【0054】
本発明の蛋白質が抗体である場合に、蛋白質は、好ましくは、哺乳類の抗体(例えば、ヒト抗体)又はキメラ抗体(例えば、ヒト化抗体)である。より好ましくは、抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体である。本明細書にて使用される用語「ヒト化抗体」は、その特異的機能に通常必須の動物の抗体(例えば、マウス、ラット、ブタ、ヤギ又はチキン)の最小の部分がヒト抗体に「融合」している遺伝子操作された抗体を意味する。通常、ヒト化抗体は1−25%、好ましくは5−10%が動物であり;残りがヒトである。ヒト化抗体は、通常、ヒト免疫系において、最少か又はまったく応答を開始しない。ヒト以外の生物においてヒト又はヒト化抗体を完全に発現する方法は、当業界においてよく知られており;例えば、米国特許第6,150,584号、免疫された異種マウス(xenomice)由来のヒト抗体;米国特許第16,162,963号、異種個体の(xenogenetic)抗体の生成;及び米国特許第6,479,284号、ヒト化抗体及びその使用を参照。本発明の一つの態様において、抗体は、単鎖抗体である。好ましい態様において、単鎖抗体は、ヒト又はヒト化単鎖抗体である。本発明の別の好ましい態様において、抗体はマウス抗体である。
【0055】
本発明のサイクリン関連薬剤は、核酸であってもよい。本明細書において使用される用語「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、核酸、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、及びそれらのあらゆる断片及びバリアントを含む。核酸又はポリヌクレオチドは、二重鎖、一本鎖、又は三重鎖のDNA又はRNA(cDNAを含む)、又は遺伝子オリジン又は合成オリジンのRNA−DNAハイブリッドであってよく、但し、核酸は限定ではないが、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのあらゆる組み合わせ及びアデニン、チミジン、シトシン、グアニン、ウラシル、イノシン、及びキサンチンヒポキサンチンを含む塩基のあらゆる組み合わせを含む。核酸又はポリヌクレオチドは、カルバルデヒド、脂質、蛋白質、又は他の物質を組み合わせてよい。好ましくは、核酸はサイクリンA2蛋白質をコードする。
【0056】
核酸の「相補体」は、本明細書においては、別の核酸に完全に相補な核酸分子、又は高ストリンジェンシー条件下で他の核酸にハイブリダイズする核酸分子を意味する。高ストリンジェンシー条件は、当業界で知られている;例えば、Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版(コールドスプリングハーバー:コールドスプリングハーバーラボラトリー、1989)及びAusubel et al.,編纂、Current Protocols in Molecular Biology(ニューヨーク、NY,:ジョンワイリーアンドソンズ社、20010を参照。ストリンジェント条件は、配列依存性であり、そして環境に依存して変更してよい。本明細書にて使用される用語「cDNA」は、単離されたDNAポリヌクレオチド又は核酸分子、又はそのあらゆる断片、誘導体又は相補体を意味する。それは、二重鎖、一本鎖、又は三重鎖であってよく、組換え起源であるか又は合成起源であってよく、そしてコーディング及び/又は非コーディング5’及び/又は3’配列であってよい。
【0057】
本発明の核酸薬剤は、例えば、プラスミドであってよい。そのようなプラスミドは、サイクリン又は別のサイクリン関連蛋白質をコードする核酸配列を含んでよいが、他の種類の核酸、例えば、組換えウイルスベクターを本発明のために使用してもよいことが認識される。本発明の一つの態様において、核酸(例えば、プラスミド)は、少なくとも一つのサイクリン関連蛋白質をコードする。好ましくは、核酸がサイクリンA2蛋白質をコードする。
【0058】
用語「プラスミド」は、一般に、環状二重鎖DNAを意味し、染色体には結合していない。当該DNAは、例えば、染色体又はエピソーム由来のプラスミドであってよい。本発明のプラスミドは、任意に、転写ターミネーター;プロモーター;及び/又はプロモーターとターミネーターの間に位置する制限酵素認識部位の不連続(discrete)シリーズを含んでよい。プラスミド中には、目的のポリヌクレオチド挿入物(例えば、サイクリン関連蛋白質をコードする)を適切なプロモーターに作動可能なように連結するべきである。プロモーターは、その本来の(native)プロモーター又は宿主由来のプロモーターであってよい。プロモーターは、組織特異的プロモーター、例えば、心筋細胞特異的プロモーター又は他の心臓組織特異的プロモーターであってもよい。プロモーターは、さらに制御可能なプロモーターであってよく、遺伝子の発現がもはや望まれないときは、止めて(turn off)よい。本発明における使用のためのプロモーターの例は、アクチンプロモーター及びウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターは、当業者に知られている。
【0059】
本発明の別の態様において、核酸(例えば、プラスミド)は少なくとも一つの遺伝子沈黙(gene−silencing)カセットを含み、当該カセットはサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムに対して負に影響する遺伝子の発現を沈黙させることができる。当業界では、遺伝子を多くのステージにおいて沈黙化してよいことが知られており、限定ではないが、転写前沈黙化、転写沈黙化、翻訳沈黙化、転写後沈黙化、及び翻訳沈黙化を含む。本発明の一つの態様においては、遺伝子沈黙化カセットは、転写後遺伝子沈黙化構成物(composition)、例えば、アンチセンスRNA又はRNAiをコードするか又は含む。アンチセンスRNA及びRNAiの両者は、インビトロ、インビボ、エクスビボ、又はインサイチュにおいて生産してよい。
【0060】
例えば、本発明のサイクリン関連遺伝子は、アンチセンスRNAであってよい。アンチセンスRNAは、その結合がmRNAの転写又は翻訳のプロセシングをさらに阻害する、特定のRNA転写物又はmRNAに相補な配列を有するRNA分子である。アンチセンス分子は、合成によるか又は組換えにより、アンチセンス遺伝子沈黙化カセットを発現する核酸ベクターにより、生成してよい。そのようなアンチセンス分子は、一本鎖RNAs又はDNAs、15−20塩基程の長さ又は全mRNAに相補な配列と同様の長さであってよい。RNA分子はヌクレアーゼに感受性である。ヌクレアーゼ消化に対しての防御性を提供するためには、アンチセンスデオキシオリゴヌクレオチドをホスホロチオエートとして合成してよく、デオキシヌクレオチドのリン酸基を包囲する隣接酸素の一つが硫黄原子により置換されている(Stein et al.,Oligonucleotides as inhibitors of gene expressi)。
【0061】
全mRNAに結合するようにデザインされたアンチセンス分子は、反対の方向又はアンチセンスの方向に発現プラスミド中へcDNAを挿入することにより作成してよい。アンチセンス分子は、mRNAの5’キャップ部位近くで翻訳開始因子が結合するのを防ぐことによるか、又はmRNAとリボソームの相互作用を干渉することにより、機能してもよい(例えば、米国特許第6,448,080号、Antisense modulation of WRN expression;米国特許出願番号2003/0018993、Methods and composition for expressing polynucleotides specically in smooth muscle in vivo;Tavian et al.,Stable expression of antisensu urokinase mRNA inhibits the proliferation and invasion of human hepatocellular carcinoma cells.Cancer Gene Ther.,10:112−20,2003;Maxwell and Rivera,Proline oxidase induces apoptosis in tumor cells and its expression is absent or reduced in renal carcinoma.J.Biol.Chem.,278:9784−89,2003;Ghosh et al.,Role of superoxide dismutase in survival of Leishmania within the macrophage.Biochem.J.,369:447−52,2003;及びZhang et al.,An anti−sense construct of full−length ATM cDNA imposes a radiosensitive phenotype on normal cells.Oncogene,17:811−8,1998)。
【0062】
サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーに対してアンチセンスなオリゴヌクレオチドは、目的のメンバーのヌクレオチド配列を基にしてデザインしてよい。例えば、目的のヌクレオチド配列の一部の配列(通常、15−20塩基対)、又はそのバリエーション配列を、アンチセンスオリゴヌクレオチドのデザインのために選択してよい。ヌクレオチド配列のこの部分は5’ドメイン内であってよい。目的の遺伝子の選択された部分配列に対して相補なヌクレオチド配列、又は選択されたバリエーション配列を、次に、当業者に知られている様々な技術の一つを用いて合成してよく、限定ではないが、目的のヌクレオチド配列の部分配列又はそのバリエーション配列に対応する配列を有するオリゴヌクレオチドの自動化合成を含み、市販のオリゴヌクレオチド合成器、例えばアプライドバイオシステムズのモデル392 DNA/RNA合成器を使用する。
【0063】
所望のアンチセンスオリゴヌクレオチドを一度製造すれば、次に、そのサイクリンを増加させる能力をアッセイしてよい。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、心臓組織細胞又はSP前駆細胞に接触させてよく、そして細胞中のサイクリンの発現又は活性のレベルを標準技術、例えば、ウエスタンブロット分析及び免疫染色を用いて測定してよい。あるいは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、リポソーム媒体を用いて心臓の組織細胞又はSP前駆細胞に送達してよく、次に、細胞中のサイクリンの発現又は活性のレベルを標準技術、例えば、ウエスタンブロット分析及び免疫染色を用いて測定してよい。デザインされたアンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下で細胞中のサイクリン発現レベルが増加していたら、当該オリゴヌクレオチドは心臓組織細胞又はSP前駆細胞中でサイクリンを増加させることにおける使用のための適切なサイクリン関連薬剤であり得ると結論してよい。
【0064】
サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーにアンチセンスなオリゴヌクレオチドは、別の薬剤、例えばリボザイムに結合することにより、サイクリン関連薬剤を用いた処置の有効性を増大させるか、及び/又は標的化の効力を増大させてよい。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、上記のとおり、修飾塩基(例えば、ホスホロチオエート)を用いて製造することにより、オリゴヌクレオチドをより安定にし、且つ分解に良好に耐え得るようにしてよい。
【0065】
本発明のサイクリン関連薬剤は、サイクリン小干渉RNAi(siRNA)を含む干渉RNA又はRNAiであってもよい。本明細書にて使用される「RNAi」は、あらゆる長さの二重鎖RNA(dsRNA)であって、一本鎖突出を有するものも有さないものも意味し、少なくとも一方の鎖、推定上はアンチセンス鎖が、分解される標的mRNAに相同である。さらに本明細書にて使用される「二重鎖RNA」分子は、不対ヌクレオチドの一本鎖突出の存在にも拘わらず、RNA二重鎖を形成する2つの鎖を含む、あらゆるRNA分子、断片又はセグメントを含む。さらに、本明細書にて使用される、二重鎖RNA分子は、機能的ステム−ループ構造を形成する一本鎖RNA分子を含み、それにより一本鎖突出により構造上均等なRNA二重鎖を形成するようにする。本発明の二重鎖RNA分子は、極めて大きくてよく、数千ヌクレオチドを含んでよいが、好ましくは、小さく、21−25ヌクレオチドの範囲である。好ましい態様においては、本発明のRNAiは少なくとも19ヌクレオチドの二重鎖RNA二本鎖(double−stranded RNA duplex)を含む。
【0066】
本発明の一つの態様において、RNAiは、RNAiをコードする遺伝子沈黙化カセットを含む発現ベクターによりインビボにおいて生産される。例えば、米国特許第6,278,039号、C.elegans deletion mutants;米国特許出願番号2002/0006664、arrayed transfection method and uses related thereto;WO 99/32619、Genetic inhibition by double−stranded RNA:WO 01/29058、RNA interference pathway genes as tools for targeted genetic interference;WO 01/68836、Methods and composition for the control of nematodesを参照。本発明の別の態様において、RNAiはインビトロにおいて、合成によるか又は組換えにより生産し、そして標準の分子生物学の技術を用いて微生物中に移す。RNAiを作成して移す方法は、当業界でよく知られており:例えば、Ashrafi et al.,Genome−wide RNAi analysis of Caenorhabditis elegans fat regulatory genes.Nature,421:268−72,2003;Cottrell et al.,Silence of the strands:RNA interference in eukaryotic pathgens.Trends Microbiol.,11:37−43,2003;Nikolaev et al.,Parc.A Cytoplasmic Anchor for p53.Cell,112:29−40.2003;Wilda et al.,Killing of leukemic cells with a BCR/ABL fusion gene RNA interference (RNAi).Oncogene,21:5716−24,2002;Escobar et al.,RNAi−mediated oncogene silencing confers resistance to crown gall tumorigenesis.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98:13437−42,2001;及びBilly et al.,Specific interference with gene expression induced by long,double−stranded RNA in mouse embryonal teratocarcinoma cell lines.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98:14428−33,2001を参照。
【0067】
本発明のさらなる態様において、プラスミドは、発現プラスミドである。発現プラスミドは、転写開始、終止(termination)、及び任意に転写領域中に翻訳のためのリボソーム結合部位を含んでよい。プラスミドにより発現される成熟転写物のコーディング領域は、翻訳されるポリペプチドの始めに翻訳開始コドンを、及び翻訳されポリペプチドの最後に適切に配置された終止コドンを含んでよい。
【0068】
例示のために、発現プラスミドから発現されるサイクリン関連遺伝子は、特定の種類のプロモーターの特異的制御調節(specific regulatory control)下にあってよい。一つの態様において、これらのプロモーターは、構成的プロモーターである。これらの構成的プロモーターの制御下にある遺伝子は、連続して発現される。別の態様においては、プロモーターが誘導可能なプロモーターである。これらの誘導可能なプロモーターの制御下にある遺伝子は、誘導性分子の存在下又は阻害性分子の不在下でのみ発現され、それにより望まれないときには遺伝子の発現を止める(turn off)方法を提供する。また別の態様において、上記プロモーターは、細胞の種類に特異的なプロモーター又は組織に特異的な(例えば、心臓組織特異的)プロモーターである。細胞の種類に特異的なプロモーターの制御下の遺伝子は、特定の細胞種中でのみ、好ましくは、心筋細胞中でのみ発現される。
【0069】
本発明の別の態様において、サイクリン関連遺伝子は、サイクリン発現/活性の変調因子(例えば、阻害剤、活性化剤、アンタゴニスト、又はアゴニスト)であり、サイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーの変調剤を含む。本発明の変調剤は、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、核酸(DNA又はRNAを含む)、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、分子、化合物、抗生物質、又はドラッグであってよく、サイクリンと反応性の薬剤、及びサイクリンの発現又は活性を誘導するか又はアップ制御する薬剤を含む。
【0070】
サイクリンの変調剤又はサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーは、単純なスクリーニングアッセイを用いて同定してよい。例えば、サイクリンの候補変調剤をスクリーニングするために、心臓組織細胞又はSP前駆細胞をマイクロタイタープレート上にプレートし、次にドラッグのライブラリーで被覆する。サイクリン発現の如何なる結果的な増加又はアップ制御も、あとで、当業界公知の、発光レポーター、核酸ハイブリダイゼーション、及び/又は免疫技術を用いて検出してよく、ELISAを含む。サイクリン発現の追加の変調剤は、当業界公知であるか又は本明細書において開示されたスクリーニング手法を用いて同定してよい。サイクリン関連薬剤を用いた処置の有効性を増大させるか、及び/又は標的化の効力を増大させるためには、別の薬剤に結合させるか、又は別の薬剤、例えばドラッグ又はリボザイムと組み合わせて投与してよい。追加のサイクリン関連薬剤は、当業界でよく知られたスクリーニング手法及び本明細書において開示された方法を用いて同定してよい。
【0071】
心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞においてサイクリンを増加させることも本発明の範囲内であり、当該細胞を、増加されたサイクリンを含む幹細胞(例えば、造血幹細胞又は心臓由来の幹細胞)に接触させることによる。当該幹細胞は、如何なる動物から得てもよいが、好ましくは、哺乳類(例えば、ヒト、家畜動物、又は市販の動物)から得る。
【0072】
この技術の効力は、例えば、サイクリンA2マウスモデルを用いて、トランスジェニック動物の全ての細胞がα−MHC−サイクリンA2トランス遺伝子を含むようにして、評価することができる(以下に記載されるとおり)。例示のため、左前下行枝(LAD)動脈のラーゲーションにより、メスの野生型マウスを心筋梗塞に供してよい。これらのマウスを次に致死量照射してよい。オスのサイクリンA2トランスジェニックマウスから精製された造血幹細胞(HSCs)を、尾部の静脈から、梗塞されたメスの野生型マウスへ注射してよい。対照群に関しては、野生型オスマウスからのHSCsを梗塞されたメスの野生型マウスの別の群に注射してよい。蛍光インサイチュハイブリダイゼーション技術を利用することにより、トランスに分化した幹細胞がドナー由来であることを確認する目的で、Y染色体を同定するのに使用してよい(Gussoni et al.,Dystrophin expression in the mdx mouse restord by stem cell transplantation.Nature,401:390−94,1999)。
【0073】
α−MHC−サイクリンA2トランスジェニックマウス由来のHSCsが天然心臓組織細胞(例えば、心筋細胞)又はSP前駆細胞との融合に際してサイクリンA2を輸送して、それにより心臓の再生に寄与することが予測される。即ち、サイクリンは上記細胞を、サイクリンが既に増加した幹細胞と接触させることにより、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞内で増加させてよい。さらに、心臓組織細胞(例えば、心筋細胞)へトランス分化する幹細胞が、有糸分裂後の心臓組織細胞にトランス分化する代わりに、増殖潜在性、及び増加したサイクリンを保持すると予測される。即ち、幹細胞内でサイクリンを増加させ、そしてそのような幹細胞が増殖潜在性を保持して且つ増加した細胞を保持している心臓組織細胞に分化することを可能にさせることにより、心臓組織細胞内でサイクリンを増加させてもよい。
【0074】
上で論じられたとおり、本発明は、インビトロにおけるポリペプチドの合成、例えば、化学的手段又はmRNAのインビトロ翻訳により生じた蛋白質又は蛋白質類似体の使用を意図する。例えば、サイクリンは、当業者に普通に知られている方法により合成してよい(Modern Techniques of Peptide and Amino Acid Analysis(ニューヨーク:ジョンワイリーアンドソンズ、1981;Bodansky,M.,Principles of Peptide Synthesis(ニューヨーク:スプリンガーフェアラグ ニューユーク社、1984))。アミノ酸配列、これらのアミノ酸配列の類似体の合成において用いてよい方法の例は、限定ではないが、固相ペプチド合成、溶液法ペプチド合成、及び市販のペプチド合成機の何れかを用いた合成を含む。本発明のアミノ酸配列は、蛋白質の配列の合成において使用され、そして当業者によく知られているカップリング剤及び保護基を含んでよい。
【0075】
本発明の方法によれば、心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞中のサイクリンを増加させ、そして細胞をインビトロ又はインビボの何れかにより被験者内でサイクリン関連薬剤に接触させてよい(例えば、サイクリン関連薬剤を直接に細胞中に導入することにより)−サイクリン関連薬剤を含む幹細胞を含む。細胞をインビトロにおいてサイクリン関連薬剤に接触させる場合、当該薬剤は直接に細胞培養培地に添加してよい。或いは、サイクリン関連薬剤をインビボにて被験者内で心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞と接触させてよく、薬剤を被験者に導入するか(例えば、薬剤を直接被験者の心臓組織又は心臓組織細胞に導入することによる)及び/又は薬剤を被験者に投与することによる。被験者はあらゆる動物であってよく、両生類、鳥、魚、哺乳類、及び有袋類を含むが、好ましくは哺乳類(例えば、ヒト、家畜動物、例えば、ネコ、イヌ、サル、マウス及びラット;又は市販の動物、例えば、ウシ又はブタ)である。好ましい態様において、被験者はヒトである。
【0076】
本発明のサイクリン関連薬剤(薬剤を含む幹細胞)は、心臓組織細胞又はSP前駆細胞とインビトロ又はインビボ(インサイチュを含む)にて被験者と接触させてよく、蛋白質、核酸、及び他のドラッグの導入及び投与のために使用される公知の技術による。細胞をサイクリン関連薬剤(蛋白質又は核酸の形態、そして幹細胞内に含まれる蛋白質又は核酸を含む)に接触させる(即ち、により細胞を処理する)方法の例は、限定ではないが、吸収、エレクトロポレーション、浸漬(immersion)、注射(マイクロインジェクションを含む)、導入(introduction)、リポソーム送達、幹細胞融合(胚幹細胞融合を含む)、トランスダクション、トランスフェクション、注入(transfusion)、ベクター及び他の蛋白質送達及び核酸送達のための小胞及び方法を含む。
【0077】
心臓組織細胞(心臓組織SP前駆細胞を含む)を被験者の特定の部分に局在させる場合、注射によるか、又はいくつかの他の手段(例えば、薬剤を血液又は他の体液に導入することにより)により、薬剤を直接細胞に注入することを望んでよい。好ましくは、心臓組織細胞をサイクリン関連薬剤(薬剤を含む幹細胞を含む)にインビボにて被験者内で接触させる場合、接触は被験者の心臓組織へ直接に挿入されたカテーテルを通して達成される。カテーテルは、薬剤の心臓組織細胞への標的化された送達を達成するのに有用なはずである。標的化された送達は、心筋細胞のために特に適しており、インターカレートされたディスクにより連結されている。これらのディスクは、一つの心筋細胞からの薬剤の隣接する心筋細胞への通過を可能にさせ、それにより、心臓組織を通した薬剤の分配を助ける。
【0078】
サイクリン関連薬剤が蛋白質である場合、本明細書において開示されている慣用の技術及び方法に従い、それを心臓組織細胞又はSP前駆細胞を直接に導入してよい。さらに、蛋白質薬剤の発現を許容する様式において、薬剤をコードする核酸を細胞に導入することにより、間接に心臓組織細胞又はSP前駆細胞に、蛋白質薬剤を導入してよい。サイクリン関連薬剤は、インビトロ又はインビボにて、当業界公知の慣用の手法を用いて導入してよく、限定ではないが、エレクトロポレーション、DEAEデキストラントランスフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、単価カチオンリポソーム融合、ポリカチオン性リポソーム融合、プロトプラスト融合、インビボ電場の創製、DNA−被覆マイクロ発射体砲撃、組換え体複製欠損ウイルスによる注射、相同組換え、インビボ遺伝子治療、エクスビボ遺伝子治療、ウイルスベクター及びネイキッドDNA輸送(transfer)、又はそれらの何れかの組み合わせを含む。遺伝子治療に適した組換えウイルスベクターは、限定ではないが、レトロウイルス、HSV,アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、セミリキ森林ウイルス、サイトメガロウイルス、レンチウイルス、及びワクシニアウイルスのようなウイルスのゲノム由来のベクターを含む。
【0079】
例示のため、外来サイクリンを、心臓組織細胞又はSP前駆細胞に、アデノウイルスベクター、例えば、外来サイクリン(例えば、ヒトサイクリンA2)及び強いプロモーター(例えば、構成的に活性なサイトメガロウイルス(CMV))をコードするトランス遺伝子を含む複製欠損(E1,E3欠失)アデノウイルスベクターを用いて接触させてよい。この方法の効果を評価するためには、以前に記載されたとおりに、ベクターを用意し、そして試験動物に投与してよい(Chatterjee et al.,Viral gene transfer of the antiapoptotic factor Bcl−2 protects against chronic postischemic heart failure.Circulation,106(12補遺1)I212−I217,2002)。2−,4−,又は6−週目の心機能を、次に、心電図を利用して評価し、そして局所的な壁の移動をソノメーターを利用して評価してよい(Chatterjee et al.,Viral gene transfer of the antiapoptotic factor Bcl−2 protects against chronic postischemic heart failure.Circulation,106(12補遺1)I212−I217,2002)。有糸分裂を抗ホスホヒストン−3による二重免疫蛍光染色を用いて評価することにより、有糸分裂核を同定してよく;アルファサルコメリックアクチンに対する抗体を用いて心筋細胞のサイトプラズムを同定してよい。
【0080】
本発明の方法において使用される核酸の量は、心臓組織の生成を促進させるのに有効な蛋白質の量を発現するのに十分な量である。これらの量は、当業者により容易に決定してよい。蛋白質薬剤をコードする核酸を、慣用の手法を用いて適切な心臓組織細胞又はSO前駆細胞に導入するエクスビボのアプローチを用いることにより、細胞内で蛋白質薬剤の発現を達成することも、本発明の範囲内である。蛋白質薬剤を発現する細胞を、次に、被験者に導入することにより、インビボにおいて心臓組織を生成する。
【0081】
本発明の方法によれば、薬剤を含む幹細胞を含む、サイトゾル関連薬剤は、公知の手法を用いてヒト又は動物に投与してよく、限定ではないが、経口投与、非経口投与、経皮投与、及びカテーテル経由を含む。例えば、薬剤を、頭蓋内、脊髄内、包膜内(intrathecal)又は皮下注射により、非経口投与してよい。本発明の薬剤は、心臓組織細胞又はSP前駆細胞とサイトゾル関連薬剤の間のインビボの接触を作用させるための上記の方法の何れかに従い、被験者に投与してもよい。好ましくは、薬剤を被験者へ、被験者の心臓へ挿入されたカテーテルにより、心臓組織細胞への標的化された送達経由で被験者に投与される。
【0082】
経口投与のためには、サイトゾル関連薬剤を含む製剤をカプセル、タブレット、粉末、顆粒としてか又は懸濁液として提供してよい。製剤は、慣用の付加物、例えば、ラクトース、マニト−ルコーンスターチ、又はポテトスターチを有してよい。製剤は、結合剤、例えば、結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ、又はゼラチンと共に提供してよい。さらに、製剤は、崩壊剤、例えばコーンスターチ、ポテトスターチ、又はソディウムカルボキシメチルセルロースと共に提供してよい。製剤は、二塩基カルシウムリン酸無水物又はソディウムスターチグリコレートと共に提供してよい。最後に、製剤は、潤滑剤、例えば、タルク又はステアリン酸マグネシウムと共に提供してもよい。
【0083】
非経口投与(即ち、消化管以外の経路を通した注射による投与)又はカテーテルを通した投与のためには、サイトゾル関連薬剤を被験者の血液と好ましくは等張な滅菌水性溶液と化合してよい。そのような製剤は、生理学上適合可能な物質、例えば、塩化ナトリウム、グリシン等を含み且つ生理条件に適合可能な緩衝pHを有する水に固形活性成分を溶解して水溶液を生成し、次に溶液を滅菌することにより、製造してよい。製剤は、ユニット又はマルチ投薬量コンテナー、例えば、密封されたアンプル又はバイアル内に提供してよい。製剤は、何れかの注射の様式により送達してよく、限定ではないが、エピフェイシャル、カプセル内、頭蓋内、皮内、包膜内、筋肉内、眼窩内、腹膜内、脊髄内、胸骨内、血管内(intravascular)、静脈内、柔組織、皮下、又は舌下、カテーテル経由を含む。
【0084】
経皮投与に関しては、薬剤を、皮膚浸透増強剤、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロピルアルコール、エタノール、オレイン酸、N−メチルピロリドン、等と混合してよく、薬剤に対する皮膚の浸透性を増加させそして薬剤が皮膚を通して血流に浸透することを許容する。薬剤/増強剤組成物は、ポリマー性物質、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレン/ビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、等と化合することにより、ゲル形態で組成物を提供す、溶剤、例えばメチレンクロリドに溶解し、所望の粘度まで蒸発させ、そして次にベーキング材料に適用することによりパッチを提供してもよい。
【0085】
心臓組織の生成を促進することにより、本明細書に記載された方法は、心臓組織のインビトロ生成及び続く被験者のその移植(例えば、その要求のある被験者)又は心臓組織のインビボ/インサイチュ生成/再生の何れかにより、被験者内の変性した(障害を有するか又は損傷した)心臓組織を再度集団化させる(repopulating)のに特に有用であると信じる。従って、本発明は、被験者(例えば、治療の必要のある被験者)内で心臓組織再生を治療するための方法を提供するが、本明細書に開示された方法に従い心臓組織の生成を促進させ、そして心臓組織を被験者に移植し、それにより心臓組織の変性を治療することによる。本明細書において使用される用語「心臓組織を被験者に移植する」は、特に被験者の心臓組織が変性している場合に、心臓組織を被験者の心臓に移植すること(grafting)を含む。被験者に移植された心臓組織は、必然的に、サイクリンが増加した心臓組織の幾つか又は全て、並びに本方法により生成した新しい心臓組織の幾つか又は全てを含み、心臓組織細胞、又は副集団(SP)前駆細胞、又はサイクリンが増加された幹細胞も含む。
【0086】
本明細書において使用される「心臓組織変性(degeneration)」は、心臓組織の劣化(deterioration)の状態を意味し、心臓組織が低下したか又は劣った機能活性形態に変化する。上記のとおり、心臓組織の損傷又は変性は、様々な障害、症状、及び因子により引き起こされるか又は付随し、限定ではないが、慢性心臓損傷、慢性心不全、ケガ又は外傷、心臓毒性(cardiotoxins)、照射、酸化性フリーラジカル、低下した血流、及び心筋梗塞を含む。好ましくは、本発明の心臓組織の変性は、心筋梗塞又は心不全により引き起こした。
【0087】
例示のため、本発明の方法は、以下の工程:(a)心臓組織、副集団(SP)前駆細胞、又は幹細胞の集団を得るか又は生成し;(b)細胞内でサイクリンを増加させ;そして(c)増加されたサイクリンを含む細胞又はそれらの子孫を、もしあれば(if any)、心臓組織の変性を治療するのに有効な量にて、被験者に移植することを含んでよい。上で論じられたとおり、増加したサイクリンを含む心臓組織細胞は、サイクリンが増加されたオリジナルの心臓組織細胞及び新たに生成された心臓組織の形成に寄与するあらゆる子孫を含む。即ち、心臓組織の生成は、心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞の培養液中で最初にインビトロにおいて立ち上げて(arise)よいが、被験者に移植されたらインビボにて継続させてよい。発明の一つの態様において、被験者は非ヒト動物である。別の態様においては、被験者がヒトである。好ましくは、被験者が心臓組織変性を有する。発明の一つの態様においては、被験者が心筋梗塞の候補者か又は心筋梗塞から回復しつつある。別の態様においては、被験者が慢性心不全を有するか又は候補者である。
【0088】
本発明の方法により生成された心臓組織は、当業界で知られている標準手法、並びに本明細書に記載された方法により、被験者(例えば、治療の必要のある被験者)に移植してよい。例示のため、心臓組織細胞、副集団(SP)細胞、又は幹細胞をサイクリン関連薬剤に接触させることにより、心臓組織の生成を促進してよい。接触後の適切な時間に、心臓組織/細胞を移植のために調製し(例えば、部分磨砕)、そして次に被験者に移植してよい。移植された組織を適応させるために、移植の前に被験者に吸引障害を起こさせ(suction−lesioned)てよい。
【0089】
本発明の一つの態様において、移植された心臓組織細胞、副集団(SP)細胞、又は幹細胞は、誘導可能なプロモーター上でサイクリン関連薬剤を発現するように操作されたトランス遺伝子を含む。本発明のこの態様において、薬剤は、適切なプロモーターの存在下で発現されて、それにより心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞のインビトロにおける増殖を許容する。細胞が被験者に移植されたなら、しかしながら、誘導剤はやめて(withdrawn)、薬剤の低下した発現をもたらし、そしてそれにより過形成を妨害する。薬剤の発現は、誘導剤の存在下で保持され、そして誘導剤の供給が枯渇したら(例えば、被験者に移植された際)遮断されるはずである。
【0090】
本発明の方法においては、心臓組織の変性を治療するのに有効な量にて心臓組織を被験者(治療の必要のある被験者)に移植する。本明細書において使用される句「心臓組織の変性を治療するのに有効な」は、心臓組織の変性の臨床上の欠陥又は兆候を改善するか又は最小にするのに有効なことを意味する。例えば、心臓組織の変性が心筋梗塞によりもたらされた場合、心筋梗塞の臨床上の欠陥又は兆候は、被験者の心筋細胞の数を増加させ、筋肉の萎縮を低下させ、そして心機能(心室機能を含む)を回復させることにより改善させるか又は最小にしてよい。被験者(例えば、治療の必要のある被験者)の神経組織の変性を治療するのに有効な心臓組織の量は、各ケースの特定の因子に依存して変更されるが、心臓組織変性の種類、被験者の重量、被験者の症状の重度、心臓組織内の細胞の種類、及び移植の方法を含む。この量は、公知の手法に基づいて当業者により容易に決定してよく、臨床試験、及び本明細書に開示された方法を含む。
【0091】
本発明の方法は、インビボにおいて被験者において心臓組織変性を治療するか、又はインビボにおいて被験者において心臓組織変性を予防するために使用してもよい。発明者らが証明したとおり、心臓組織細胞又はSP前駆細胞中の増加されたサイクリンは、サイクリンが心臓組織の変性の前に増加するか後に増加するか否かに拘わらず、ケガ又は変性後の心臓組織の生成(再生を含む)を促進させる能力を有する。さらに、発明者らは、心臓組織内の増加したサイクリンが細胞に対して防御効果を有することを証明したことから、サイクリンが細胞中で増加した後に発生する心臓組織の変性(例えば、心筋のケガによる変性)の予防を助ける。特に、心臓組織細胞中の増加されたサイクリンは、それらを、変性、例えば障害又はケガに対して応答するように、本質的にはそれら自体を修復することにより仕向ける(conditions)らしい。
【0092】
従って、本発明は、幹細胞、又は副集団(SP)前駆細胞においてか、又は心臓組織の細胞において、インビトロ又はインビボにて、被験者においてサイクリンを増加させることを含む、将来の心臓組織の変性を予防するための方法を提供する。さらに、本発明は、被験者(例えば、必要のある被験者)において心臓組織の変性を治療又は予防する方法を提供し、心臓組織の生成を促進することにより、本明細書に開示された方法に従い、被験者の心臓組織細胞(例えば、心筋細胞、心臓組織−SP前駆細胞、等)中のサイクリンのインビボ増加による。例示のため、本発明の方法は、心臓組織の変性を治療又は予防するのに有効なサイクリン関連薬剤(サイクリン関連薬剤を含む幹細胞を含む)の量を被験者に投与することを含んでよい。この量は、当業者により決定してよい。
【0093】
発明の一つの態様においては、被験者が心臓組織変性を有する。好ましくは、被験者が心筋梗塞から回復しつつあるか、又は慢性心不全を有する。発明の別の態様においては、被験者が将来心臓組織の変性の候補者であるか、又は発症する危険にあると信じられる(例えば、家族の履歴及び/又は個人の履歴、例えば喫煙、アルコール消費量、高脂肪摂取、高コレステロール等に基づく健康指標を含む、特定の健康指標に基づく)。好ましくは、被験者が心筋梗塞又は慢性心不全の候補者である。
【0094】
上記の方法に鑑み、本発明は、心臓組織の生成におけるサイクリン関連薬剤の用途も提供する。さらに、本発明は、心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリン関連薬剤の用途を提供する。
【0095】
本発明は、サイクリン関連薬剤、及び任意に薬学上受容可能な担体を含む薬学組成物も提供する。上記のとおり、サイクリン関連薬剤は、サイクリン蛋白質又は核酸、サイクリン関連蛋白質、サイクリン関連核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー(蛋白質又は核酸形態の上流及び下流のエフェクター及び活性化因子を含む)、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムの変調因子(例えば、阻害剤、活性化因子、アンタゴニスト、又はアゴニスト)(即ち、サイクリン又はサイクリンシグナルトランスダクション経路/システムのメンバーの発現及び/又は活性に影響する変調因子)を含んでよい。好ましい態様において、サイクリン関連薬剤はサイクリンA2をコードする核酸である。
【0096】
本発明の治療用組成物によれば、薬学上受容可能な担体は、組成物の他の成分と適合可能であり、且つその賦形剤に有害ではないという意味で「受容可能」でなければならない。本明細書において使用される薬学上受容可能な担体は、薬学製剤のための物質として使用される様々な有機又は無機物質から選択され、鎮痛薬、バッファー、結合剤、崩壊剤、希釈剤、乳化剤、賦形剤、増量剤、流動促進剤(glidants)、溶解剤、安定剤、懸濁剤、強壮剤(tonicity agent)、小胞、及び増粘剤として取込まれてよい。必要なら、薬学付加物、例えば、抗酸化剤、芳香剤、発色剤、風味改善剤、保存剤、及び甘味料を加えてもよい。受容可能な薬学上の担体の例は、限定ではないが、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース、グリセリン、アラビアゴム、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、粉末、塩溶液、アルギン酸ナトリウム、蔗糖、スターチ等及び特に水を含む。
【0097】
本発明の治療用組成物の製剤は、薬学業界においてよく知られた方法により製造してよい。例えば、サイクリン関連薬剤は、懸濁液又は溶液として担体又は希釈剤と共にもたらしてよい。任意に、ひとつ又はそれより多い成分(例えば、バッファー、風味剤、界面活性剤、及びなどなど)を含んでもよい。担体の選択は、投与の経路に依存する。治療用組成物は本発明のサイクリン関連薬剤を被験者に投与することにより、上で論じられたように、心臓組織の変性を治療するか又は予防するのに有用なはずである。サイクリン関連薬剤は、治療用組成物が投与される被験者において心臓組織変性を治療するか又は予防するのに有効な量にて提供される。この量は、当業者により容易に決定してよい。
【0098】
本発明の一つの態様によれば、サイクリン関連薬剤は、発現構築物を用いて標的の心臓組織細胞又は幹細胞内で発現される蛋白質である。当該蛋白質の発現は、当業界において知られている方法により制御してよく、アテニュエーター、ダウン制御因子、阻害剤又は蛋白質発現を阻害することが知られている他の分子の使用を含む。例示のため、本発明の治療用組成物が被験者内でサイクリン関連薬剤を発現するようにして被験者に投与される場合、この発現は、アテニュエーター、ダウン制御因子、阻害剤又は外来分子の発現を阻害する他の分子を被験者にあとで投与することにより、インビボにおいて遮断してよい。サイクリン関連蛋白質の発現の制御も有利であり、望まれる場合に蛋白質の発現を遮断させることが可能なように、それにより組成物が投与される被験者に有害な副作用を最小化するようにする。適切な期限を超えてのそのような蛋白質の連続発現は被験者に有害かもしれない。例えば、サイクリン関連シグナルトランスダクション経路による顕著な干渉が、腫瘍形成またはアポトーシスを引き起こすかもしれない。
【0099】
本発明の治療用組成物は、さらに、心臓組織細胞、SP前駆細胞、または幹細胞を標的とするように組成物の送達において補助するための小胞を含んでよい。様々な生物学上の送達系(例えば、抗体、細菌、リポソーム、及びウイルスベクター)がドラッグ、遺伝子、免疫刺激因子、プロドラッグ変換酵素、放射性化学物質、及び他の治療剤を標的細胞の付近に送達するために現在存在する;例えば、Ng et al.,An anti−transferrin receptor−avidin fusion protein exhibits both strong proapoptotic activity and the ability to deliver various molecules into cancer cells.Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,99:10706−11,2002;Mastrobattista et al.,Functional characterization of an endosome−disruptive peptide and its application in cytosolic delivery of immunoliposome−entrapped proteins.J.Biol.Chem.,277:27135−43,2002;Fefer,”Special delivery” to cancer cells.Blood,99:1503−04,2002;Kwong et al.,The suppression of colon cancer cell growth in nude mice by targeting β−catenin/TCF pathway.Oncogene,21:8340−46,2002;Huser et al.,Incorporation of decay−accelerating factor into the baculovirus envelope generates complement−resistant gene transfer vectors.Nat.Biotechnol.,19:451−55,2001;Lu et al.,Polymerization Fab’ antibody fragments for targeting of anticancer drugs.Nat.Biotechnol.,17:1101−04,1999;及びChu et al.,Toward highly efficient cell−type−specific gene transfer with retroviral vectors displaying single−chain antibodies.J.Virol.,71:720−25,1997を参照。例えば、米国特許第6,491,905号は、プリンヌクレオチドホスホリラーゼまたはヒドロラーゼをコードするDNA配列を含むベクターを安定に有する原核細胞、そのような細胞の用途を、腫瘍を治療するためのプリンプロドラッグと共に提供する。
【0100】
本発明の一つの態様によれば、媒体(vehicle)はリポソームである。リポソーム小胞(vesicles)は当業界において公知の様々な方法により製造してよく、そしてリポソーム組成物は当業者に知られているリポソーム製造のための慣用の様々な技術の何れか一つを用いて製造してよい。そのような方法及び技術の例は、限定ではないが、キレート透析、押出し(extrusion)(凍結解凍有り又は無し)、フレンチプレス、ホモジェナイゼーション、マイクロ乳化(microemulsification)、逆相エバポレーション、単純な凍結解凍、溶剤透析、溶剤注入(infusion)、溶剤蒸発(vaporization)、音波処理、及び自発形成を含む。リポソームの製造は、溶液中、例えば、水性塩溶液、水性リン酸バッファー溶液、又は滅菌水中にて実施してよい。リポソーム組成物は、振動すること又は渦巻き振動することを含む様々なプロセスにより製造してよい。
【0101】
本発明の治療用組成物は、リポソームの層に取込むか、又はリポソームの内部に封入してよい。組成物を含むリポソームは、次に、場合により、リポソームの細胞膜への融合の公知の方法に従い、組成物蛋白質が細胞膜又は細胞の内部へ送達されるように、標的の心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞と融合させてよい。
【0102】
本発明は、心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞、特に被験者内の細胞に、サイクリン関連薬剤を送達することにおける使用のためのキットも提供する。当該キットは、治療用組成物とカテーテルを含む。上記のとおり、治療用組成物は、サイクリン関連薬剤;任意に薬学上受容可能な担体;及び、任意に、リポソーム、ウイルスベクター、又は他の媒体を含んでよい。
【0103】
本発明は、さらに、少なくとも一つのサイクリンの発現/レベル、及び/又は少なくとも一つのサイクリンの少なくとも一つの機能、活性、又は作用が増加した細胞(例えば、心臓組織細胞、副集団(SP)前駆細胞、幹細胞等)を提供する。好ましくは、上記細胞は、心臓組織細胞(例えば、心筋細胞、心臓組織SP前駆細胞等)又は非心臓組織中に見いだされる副集団(SP)前駆細胞である。当該細胞は、あらゆる動物から得てよいか又はあらゆる動物内に存在してよい。好ましい態様において、細胞はヒト細胞である。別の好ましい態様においては、細胞を以下に記載されたとおり、その心臓組織内においてサイクリンA2を過剰発現するトランスジェニック動物、から得るか、又は、の中に存在する。さらに、本発明の一つの態様において、サイクリンはサイクリンA2である。別の態様においては、細胞が少なくとも一つのサイクリン、特にサイクリンA2を過剰発現する。本発明のさらなる態様において、心臓組織細胞、SP前駆細胞、又は幹細胞は、上記の治療用組成物を含む。
【0104】
本発明の心臓組織細胞は、上記のとおり、心臓組織内に見出されるあらゆる細胞であってよい。本発明の一つの態様において、心臓組織細胞は心筋細胞である。心筋細胞は、成体起源のものであってよい;即ち、最初には、それがサイクリンを含まないか又はサイクリンを有意な量含まないが、操作する前には含まなかった実質的な量のサイクリンか、又は実質上より多くのサイクリンを含むように操作される。心筋細胞は、前成体(pre−adult)か又は出生前(prenatal)の起源であってもよく;即ち、最初には、それが基底レベルのサイクリンしか含まないが、増加した機能、活性、作用、発現、及び/又はレベルのサイクリンを含むように操作される。同様に、本発明のSP前駆細胞又は幹細胞は、最初は基底レベルのサイクリンしか含まなくてよい。しかしながら、それは、増加した機能、活性、作用、発現、及び/又はレベルのサイクリンを含むように操作される。本発明の一つの態様において、細胞中の増加した機能、活性、作用、発現、及び/又はレベルのサイクリンは、細胞を、サイクリン関連薬剤と接触させることにより、増加される。発明の好ましい態様において、サイクリンはサイクリンA2であり、そして細胞はサイクリンA2関連薬剤と接触させる。当該薬剤は、心臓組織細胞、SP細胞、又は幹細胞に、インビトロ、インビボ、エクスビボ、又はインサイチュにおいて、上記の方法に従い送達してよい。一つの好ましい態様において、当該薬剤は、インサイチュにおいて、カテーテルにより心臓組織細胞に送達される。本発明は、本発明の細胞及びその子孫を含む細胞系も提供する。
【0105】
心臓毒性は、抗癌剤及び他のドラッグによる処置の後に起こり得る副作用であり、重度の臨床上の影響(implications)を有するかもしれない。本発明の心臓組織細胞系は、小児科の(pediatric)傷害の処置に潜在的に有用な候補ドラッグの心臓毒性作用(即ち、心臓に対しての毒性作用又は有害作用)をスクリーニングするインビトロアッセイにおいて有用かもしれない細胞の集団を提供する。特定のサイクリンレベルは胎児の心臓において高いが、生誕後に減少し(しばしば迅速に)、そして最終的に成体では消失することが知られている(Kim et al.,Korean J.Intern.Med.,13(2):77−82,1998;Kang and Koh,J.Mol.Cell Cardiol.,33(10):1769−71,1997;Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95(5):2275−80,1995)。発明者ら自身は、サイクリンA2のレベルが胎児心臓において高いが、出産前後の(perinatal)段階において生誕後に迅速に減少することを証明した。即ち、増加したサイクリン、特にサイクリンA2を有する心臓組織細胞は、生誕前の心臓細胞の便利なモデルを提供し、そして新生児及び初期年齢の子供に対して心臓毒性かもしれないドラッグを同定するための有用なアッセイを提供する。
【0106】
本発明の心臓組織細胞系は、心臓組織の変性の治療においてサイクリンと相乗作用する候補薬剤をスクリーニングするインビトロアッセイにおいて有用かもしれない。そのようなシステムにおいては、増加したサイクリン、特にサイクリンA2の組織生成作用がそのような相乗性薬剤の存在下で増強されるかまたは改善されるはずである。
【0107】
従って、本発明は、さらに、小児科の傷害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグ中の少なくとも一つの心臓毒性作用に関してスクリーニングする用途のためのインビトロシステムを提供する。このインビトロシステムは、サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞の集団を含む。発明の一つの態様において、心臓組織細胞は、上記の心臓組織細胞系から得られる。さらに、本発明は、心臓組織変性の治療におけるサイクリンとの相乗作用に関しての候補薬剤をスクリーニングすることの用途のためのインビトロシステムを提供する。このインビトロシステムは、サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞の集団を含む。この発明の一つの態様において、心臓組織細胞は、上記の心臓組織細胞系から得られる。
【0108】
さらに、本発明の幹細胞系は、毒性作用が増加したサイクリンの存在下で減少した、幹細胞に対する毒性作用に関する候補治療剤をスクリーニングするインビトロアッセイにおいて有用かもしれない。従って、本発明は、さらに、毒性作用が増加したサイクリンの存在下で妨害されたか又は停止した、幹細胞に対して少なくとも一つの毒性作用を有する候補治療剤をスクリーニングするインビトロアッセイを提供する。このインビトロアッセイは、サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した幹細胞の集団を含む。発明の一つの態様において、幹細胞は、上記の幹細胞系から得られる。
【0109】
本発明のインビトロアッセイ及び細胞系は、上記の様々なスクリーニングにおいて有用かもしれない。即ち、本発明は、小児科の傷害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグの少なくとも一つの心臓毒性作用に関してスクリーニングするインビトロ方法も提供し、(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞(例えば、上記の心臓組織細胞系から得られる細胞)を、小児科の傷害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグと接触させ;そして(b)もしあるなら、一つ又はそれより多い心臓毒性作用に関して心臓組織細胞をアッセイする工程を含む。心臓毒性作用の例は、限定ではないが、心臓組織変性、乳酸デヒドロゲナーゼの漏れ(leakage)、細胞形態の変化、細胞膜の溶解、細胞生存性、自発的拍動(beating)活性の変化(Mbugua et al.,In vitro Cell Dev.Biol.,24(8):743−52,1988)、細胞膜の脱分極、心臓組織細胞の減少した収縮性機能、心臓組織細胞の数の低下、及びサイクリンのダウン制御を含んでよい。細胞毒性作用は、公知の技術により測定するか又は検出してよく、心臓特異的蛋白質のウエスタンブロッティング、形態計測に関連した電子顕微鏡、細胞増殖を測定するための単純なアッセイを含み、上で記載されたもの、及び本明細書で開示された方法、分子手法、及びアッセイの何れをも含む。本発明は、この方法によりスクリーニングされるか又は同定されるドラッグも提供する。
【0110】
さらに、本発明は、心臓組織の変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用に関して候補薬剤をスクリーニングするためにインビトロ方法を提供し、(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞(例えば、上記の心臓組織細胞系から得られる細胞)を、候補薬剤と接触させ;そして(b)候補薬剤が心臓組織の生成(例えば、サイクリン関連心臓組織の生成)を増強する能力を評価する工程を含む。候補薬剤が心臓組織の生成を増強することが示された場合、それは、心臓組織の変性の治療又は予防においてサイクリンと相乗作用を有するかもしれない。増強された心臓組織の生成は、例えば、心臓組織細胞の増加した増殖を検出することによるか、又は心臓組織細胞の分割の増加した速度を検出することにより、検出してよい。本発明は、この方法により同定される薬剤も提供する。本発明は、さらに、被験者(例えば、必要のある被験者)において心臓組織の変性を治療又は予防するための方法を提供し、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて、上記スクリーニング方法により同定された薬剤と組み合わせてサイクリン関連薬剤を被験者に投与することによる。そのような量は、当業者により容易に決定してよい。
【0111】
本発明は、心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用に関して候補薬剤をスクリーニングするインビボ方法も提供し、(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した心臓組織細胞(例えば、上記の心臓組織細胞系から得られる細胞)を、候補薬剤と接触させ;(b)心臓組織細胞及びもしあるならその子孫を被験者に移植し;そして(c)候補薬剤が移植後に細胞及びその子孫の生存性を増強する能力を評価する工程を含む。候補薬剤が移植後の心臓組織細胞の生存性を増強する能力は、候補薬剤の存在下で上記細胞系からの細胞がより容易に移植されるか、又は被験者の心臓組織により容易に取り込まれるか否かを決定することにより評価してよい。移植又は取り込みが候補薬剤の存在下で増強されたなら、候補薬剤が心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用を有すると結論してよい。本発明は、このスクリーニング方法により同定された薬剤も提供する。本発明は、さらに、被験者(例えば、必要のある被験者)において心臓組織変性を治療又は予防する方法を提供し、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて、上記スクリーニング方法により同定された薬剤と組み合わせてサイクリン関連薬剤を被験者に投与することによる。そのような量は、当業者により容易に決定してよい。
【0112】
本発明は、さらに、幹細胞に対して少なくとも一つの毒性作用を有する候補ドラッグをスクリーニングするインビトロ方法を提供し、その際、増加したサイクリンの存在下で毒性作用が妨害されるか又は停止し、工程:(a)サイクリン(好ましくは、サイクリンA2)が増加した幹細胞(例えば、上記の幹細胞系から得られる細胞)を、候補ドラッグと接触させ;(b)増加したサイクリンを有さない対照の幹細胞を、候補ドラッグと接触させ;そして(c)工程(a)の幹細胞と工程(b)の対照幹細胞を少なくとも一つの毒性作用に関してアッセイするが、その際、工程(b)の対照幹細胞の毒性作用が存在するが、工程(a)中の毒性作用が存在しないか又は停止していることが、幹細胞に対する少なくとも一つの毒性作用を候補ドラッグが有することの指標であり、その際、増加したサイクリンの存在下で毒性作用が妨害されたか又は停止することを含む。幹細胞に対する毒性作用は、限定ではないが、細胞形態の変化、細胞膜の溶解、細胞生存性の変化、及び細胞膜の脱分極を含んでよい。そのような毒性作用は、公知の技術により測定するか又は検出してよく、心臓特異的蛋白質のウエスタンブロッティング、形態計測に関連した電子顕微鏡、細胞増殖を測定するための単純なアッセイを含み、上で記載されたもの、及び本明細書で開示された方法、分子手法、及びアッセイの何れをも含む。本発明は、この方法によりスクリーニングされるか又は同定されるドラッグも提供する。
【0113】
本発明は以下の実施例において記載され、発明の理解において助けとなり、以下の特許請求の範囲において規定されるとおりに発明の範囲を如何なる様式においても限定することを意図しないべきである。
【0114】
実施例
以下の実施例においては、データは平均±s.e.mにより表される。データの比較のためにスチューデントt試験を用い、P<0.05の有意レベルを用いた。
【0115】
実施例1−トランスジェニックマウスの生成
マウスサイクリンA2のcDNAを、アルファ−ミオシン重鎖プロモーター及びヒト成長ホルモンのポリアデニレーション部位を含むベクター(Dr.Jeffrey Robins,シンシナチ大学、シンシナチ、OH)にサブクローン化した(Subramaniam et al.,J.Biol.Chem.,266:24613−20,1991)。次に、トランスジェニックマウスを、B6CBAバックグラウンドに対する以前のプロトコルに従い生成した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。特定すれば、精製された挿入DNAを、発明者の以前のプロトコルに従い、C57B16/J卵母細胞にマイクロインジェクションした(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。簡単に言えば、トランス遺伝子を、5ng/μlの濃度にて、受精卵のオスの前核に注入した。マイクロインジェクションされた胚を、次に、インビトロにおいて2細胞期まで培養し、そして次に、偽妊娠CD−1のメスのマウスに再移植した。全ての操作は、Institutional Animal Care and Use Guidelinesに従い実施した。マイクロインジェクションされた胚由来の子(pups)を、トランス遺伝子の存在に関して、ゲノミックDNA−ブロットハイブリダイゼーションにより、サイクリンA2 のcDNAをプローブとして利用してスクリーニングした(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。陽性の動物を次に、トランスジェニックマウスの6つの系を確立するために使用して、B6CBAバックグラウンド上で保持した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。この研究における表現型上の特性決定はF1世代を用いて実施した。
【0116】
実施例2−心臓サイズ/体重比の評価
各マウスの体重測定後に、アベルチンによる麻酔の後に心臓を取りだした。KCl(3.0M)を拍動する心臓に注射することにより、拡張期(diastolic)停止を誘導した。心臓を1X PBSにより穏やかに潅流し、そして心臓の重量の測定を行う前に全ての脂肪組織を除去した。心臓対体重の比を、新生(PN7,PN14)及び成体(3−18月)のトランスジェニックマウス、及び正常な同腹仔対照に関して測定した。
【0117】
実施例3−細胞サイズの評価
成体(6月)トランスジェニック及び正常同腹仔対照からの全心室切片を4%パラホルムアルデヒド中に固定してパラフィンに埋めた。連続的な横断(transverse)切片(4μm)を切断して、ヘマトキシリンとエオシンで染色した。これらの切片のデジタル写真を用いて、細胞分析ソフトウエア(UTHSCSAイメージツール)を用いて心筋の断面積を測定した。トランスジェニック及び非トランスジェニック切片の両方に関して40xの倍率にて、同様な視野を利用した。少なくとも200細胞/心臓が、6月齢において、2つの系の各々に関して(系1と系58)、トランスジェニックと正常な同腹仔対照の両方において測定された。透明に輪郭描写された(delineated)境界線をもつ細胞のみがこれらの測定において使用された。
【0118】
同じプログラムを用いて、パン−カドヘリン(シグマ、セントルイス、MO)、インターカレートされたディスク内に見出される構造蛋白質に対する抗体(Bianchi et al.,Circulation,104(12 Suppl.1):I319−24,2001)に関する免疫染色を実施した後に、同じプログラムを利用して細胞の長さを測定した。長辺セクションにおいて、トランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓の両方に関して40xの倍率で、心筋の類似のセクションを用いた。末端から末端まで可視化できた心筋のみを、この測定において用いた。少なくとも200細胞長/心臓が、6月齢において、系1及び系58に関して、トランスジェニックマウスと正常同腹仔の対照において測定された。
【0119】
実施例4−心筋数の評価
10匹のトランスジェニックと10匹の非トランスジェニックマウス(6月齢のオス)の重量を測定した。心室をこれらの心臓から分離用顕微鏡を用いて分離し、そして心室の重量を測定した。平均心室重量/全心臓重量をトランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓に関してコンピューター処理した。この測定のために、心室の重量を、心筋の断面積及び長さの測定において使用された心臓に関してコンピューター処理した。心室の重量に筋肉組織の比重に関する公知の値(1.06gm/ml)を掛けることにより、心室容積を得た(Mendez and Keys,Metabolism,9:184−88,1960)。計算された心室の容積に0.82を掛けることにより、心筋により占められるフラクションを測定した(Jackson et al.,Mol.Cell.Biol.,7:3709−16,1990)。各心筋の平均容積は、心筋の断面積に長さを掛けることにより計算した。心室の容積の心筋フラクションを、平均心筋容積で割ることにより、心室あたりの心筋の数をコンピューター処理した。
【0120】
実施例5−心筋細胞DNA合成の評価
胚、出生後、及び成体トランスジェニック及び正常同腹仔対照からの全心室セクションを、上記のとおりに、固定化し、そしてパラフィン中に埋め込んだ。分析されたステージは、E18,PN2,PN7,PN14及び6月を含んだ。発明者の実験室において以前に実施されたとおりに、連続横断(4μm)セクションを切断し、そして免疫組織化学により分析した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。増殖する細胞の核抗原(PCNA)に対する抗体による免疫染色(1:100)(Pharmingen,サンディエゴ、CA)をDNA合成のインディケーターとして使用した(Haracska et al.,Mol.Cell.Biol.,3:784−91,2002)。セクションをニコン顕微鏡上で明視野光学機(optics)を用いて分析した。各トランスジェニック対正常同腹仔対照に関する類似の視野を40x倍率にて比較し、そしてPCNAに関して陽性染色の核の数を16,800μm2あたりで計数した。
【0121】
実施例6−ユニット面積あたりの心筋細胞核の評価
系1及び系58からの6月齢のトランスジェニック及び非トランスジェニックマウスからの全心室セクションを上記のとおりに調製した。心筋細胞を輪郭描写するためのα−サルコメリックアクチンに対する抗体による(1:200)免疫蛍光染色は、上記のとおりに実施した;核をDAPI(Molecular Probes,ユージーン、OR)により染色した。トランスジェニック及び非トランスジェニックマウスからの類似のセクションにおいて、心筋細胞中の核を各視野(16,800μm2)に関して計数した。
【0122】
実施例7−有糸分裂の評価
様々な分化のステージにおける全心室セクションを上記のとおりに調製した。リン酸化されたヒストン−3(H3P,Upstate Biotechnology,レイクプラシッド、NY)に対する抗体による免疫蛍光染色(1:50)を実施した。リン酸化されたヒストン−3は有糸分裂特異的マーカーである(Wei et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,95:7480−84,1998)。α−サルコメリックアクチンに対する抗体(Sigma,セントルイス、MO)により心筋細胞を染色した(1:200)。抗−ウサギローダミン(Molecular Probes,ユージーン、OR)をH3Pに関する二次抗体として用い、そして抗−マウスIgG FITC(Sigma,セントルイス、MO)をα−サルコメリックアクチンに対する二次抗体として用いた。各トランスジェニック対正常な同腹仔対照に関して、心室の心筋細胞の類似の視野を40x倍率において比較し、そしてH3Pに関して陽性染色の心筋細胞核の数を16,800μm2あたりで計数した。少なくとも10の視野に関する測定値を、分析された各分化ステージに関して平均化した。蛍光視野光学機(optics)下でのニコン光学顕微鏡上で観察したとおりに、直接計数した。共焦点顕微鏡を用いて、10ミクロン厚のセクションにより、心筋細胞に対する局在に関しての回転(rotational)分析を実施した。
【0123】
実施例8−心機能の評価:MRIイメージ獲得及び分析
全てのイメージング実験は、9.4 Tesla Bruker WB400マイクロイメージングシステム上で、30mmのものさし(quadrature)RFコイル(Bruker NMR Inc.,ベレリカ、MA)を用いて実施した。マウスをイソフラン(2L/分の空気流中で1.5%体積)により麻酔した。心臓の拍動は約450bpmであった。心室の定量は、ECGゲートされた速い勾配のエコーシネ(cine)配列を用いて獲得された透明(bright)血液2Dイメージスタックに基づいた。獲得パラメーターは250ms繰り返し時間、1.8msエコー時間、30°フリップアングル、0.1mm インプレーン(in−plane)解析、1mmスライス厚、及び4分/スライススキャン時間であった。8つの心臓の点を心臓サイクルにわたりサンプルした。局地的成長アルゴリズムとヒストグラムに基づく閾値設定(thresholding)を用いて左心室と心筋を半自動でセグメント化した、短軸のイメージを獲得した(Tang et al.,Ann.NY Acad.Sci.,904:32−41,2000)。
【0124】
以下に論じられるのは、実施例1−8の実験に関連して発明者らが得た結果である。
生誕後すぐに、有糸分裂からの撤退(withdrawal)と一致して、サイクリンA2がマウスの心臓において沈黙していることを証明するため、サイクリンA2のmRNAと蛋白質発現の相対レベルを、マウスの心臓分化の間の選択された時間にアッセイした。ノーザンブロット分析が明らかにしたのは、3.0kbと1.7kbのサイクリンA2転写物が、胚の12日目(E12)、E18及びPN2において観察されたが、その発現は6週齢に存在しなかったことであった(図1A)。イムノブロット分析は、PN2、及び後の時間点において、マウスの心臓の全蛋白質の溶解物においてサイクリンA2を検出できなかった(図1B)。免疫組織化学分析により検出したところ、サイクリンA2蛋白質を発現する心室の心筋細胞の核の数はE14において高く、E18において顕著な低下があり、PN2においてさらなる減少があり、そして2週齢では完全に存在しなかった(図1C)。サイクリンA2のmRNAの低下した発現のこの一時的なパターンと蛋白質レベルは、生誕後すぐのラットとヒトの心臓におけるサイクリンA2の以前に記載された沈黙化と一致しており(Yoshizumi et al.,J.Clin.Invest.,95:2275−80,1995)、心筋細胞の周期の撤退とも一致する。
【0125】
保持されたサイクリンA2の発現が心筋細胞の増殖を変調するという仮説を試験するため、心筋細胞系列においてサイクリンA2構成的に発現するトランスジェニックマウスを生成した(Behringer et al.,Development,117:823−33,1993)。α−ミオシン重鎖(MHC)プロモーターが選択されたのは、E7.5から胚発生を通して発現されて、成体を通して発現され続けるからである(Subramaniam et al.,J.Biol.Chem.,36:24613−620,1991)(図2A)。マイクロインジェクションされた胚に由来する60の子(pups)をスクリーニングした後で8人の発見者が同定した;6人がトランスジェニック系列を生じさせた。MHC−CYCA2発見者のマウスには明らかな罹病率(morbidity)がなかった。5−7月齢において、初期の系列からの少なくとも3つに心臓においてサイクリンA2の発現をノーザンブロットにより評価した。代表的なブロットを図2Bに示す。
【0126】
系1,2、44、及び58はサイクリンA2のmRNAを構成的に発現したが、同じ系列の動物と動物とでは発現レベルにいくらかのバリエーションがあった。サイクリンA2発現が検出されなかった他の成体の器官、例えば、腎臓(Ravnik and Wolgemuth,Dev.Biol.,173(1):69−78,1996)は、トランスジェニックマウスにおいてサイクリンA2発現を示さず、以前に記載された心筋特異性と一致した(Subramaniam et al.,J.Biol.Chem.,36:24613−620,1991)。トランスジェニックのmRNA転写物の予測されたサイズは2.3kbであり、発明者らのトランス遺伝子は0.6kbのヒト成長ホルモンポリアデニル化シグナルを、1.7−kbのサイクリンA2 mRNAの3’末端に連結されて有した。興味を引くのは、3.0−kbのバンドも、トランスジェニックの心臓mRNAを含むレーンにおいて可視化された。イムノブロット分析によりアッセイしたところによると、サイクリンA2蛋白質は、系58から、2週及び8週齢においてトランスジェニックの心臓中で発現され、そして両時間点において非トランスジェニックの心臓からは不在であった(図2C)。
【0127】
サイクリンA2の連続する発現がcdk1とcdk2の発現を変えたか否かを決定するため、対照とトランスジェニックの溶解物をイムノブロットにより2週及び8週齢において分析した(図2C)。それぞれ2週及び8週齢において平均1.6倍及び1.2倍のcdk1蛋白質のレベルの増加が全トランスジェニックの心臓の溶解物において観察された。これらのレベルは、対照の同腹仔内のcdk1の構成的発現の低レベルとは顕著に異なった。イムノブロット分析は、非トランスジェニックの心臓内のcdk2の発現の低レベルを証明し、他の研究者により報告された以前の研究と一致した(Oh et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,98(18):10308−313,2001)。興味を引くのは、トランスジェニックの心臓内のcdk2の発現における平均2.5倍及び2.1倍の増加が、それぞれ2週及び8週齢において観察されたことであった。
【0128】
この一時的に及び異所性に(ectopically)発現されるサイクリンA2がその正常なcdk1又はcdk2パートナーと実際に複合体を形成するか否かを確かめるために、免疫沈殿、続くイムノブロット分析を全心臓溶解物を用いて実施した(図2D)。サイクリンA2/cdk1及びサイクリンA2/cdk2の両複合体は、トランスジェニックの心臓において2週齢で明らかに検出されたが、非トランスジェニックの心臓においては検出されなかった。サイクリンA2/cdk2複合体は、トランスジェニックの心臓において8週齢でもまだ検出されたが、非トランスジェニックの心臓においては検出されなかった。
【0129】
サイクリンA2トランスジェニックマウスは稔性(fertile)であり、健康に見え、そして1年の観察にわたり、罹病率及び死亡率に変化の傾向はなかった。トランスジェニックの心臓において全体的な形態上の異常さはなかった。しかしながら、成体のトランスジェニックマウスの体重に対する心臓の重量(HW/BW)比は正常の心臓に比較して顕著に増加した。心臓の巨大化は、サイクリンA2のmRNAを発現した全ての系列において実際に記録された。しかしながら、この表現型の密接な分析が、系1及び58において企てられた(undertaken)。HW/BW比は生誕後の分化から成体まで選択された齢において決定された(特に、PN7から1.5年齢まで)。PN7及びPN14において記録された顕著な心臓の巨大化はなかった。しかしながら、トランスジェニック対非トランスジェニックマウスのHW/BW比は齢と共に増加し、統計上の有意さが6月齢後に記録された。
【0130】
マイクロアレイ磁気共鳴イメージング(MRI)は、心臓の重量及び機能の評価のために現在利用可能な最も技術状進化した物理療法(modality)であり、そして左心室の重量と機能をマウスにおいて非侵入的に定量するための現在もっとも正確で信頼できる方法である(Wiesmann et al.,Am.J.Physiol.,278:H653−57,2000;Slawson et al.,Magn.Reson.Med.,39:980−87,1998)。拡張後期(end−diastole)における(中部心室(mid−ventricular)レベルにおける)MRIイメージは、よって、トランスジェニック及び正常な性(gender)適合された同腹仔において、系58にて、8月齢にて心臓サイズの評価のために利用された。正常(n=3)マウスの心臓により占められた30.5±0.01%(p=0.0083)に比較して、トランスジェニック(n=3)マウスの心臓は平均41.0±0.01%の胸部面積を占めた。即ち、MRI分析は、心臓により占められる胸部の腔(cavity)の面積が正常同腹仔よりも生きているトランスジェニックマウスにおいて大きいことを証明した。
【0131】
発明者らは、MHC−CYC2マウスにおける心臓サイズの増加が結合組織の含有率の増加によったという可能性を試験することを続けた。系1及び58からの成体(6月)のトランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓からの横断セクションをマッソントリクロームにより染色することにより、繊維性(fibrotic)組織を同定した。組織学試験は、サイクリン−A2−発現心臓において増加した繊維症(fibrosis)の証拠を明らかにはしなかった(データは示さず)。よって、トランスジェニックの心臓の増加した心臓サイズは、心臓の結合組織の含有率における変化に対して二次的ではなかった。
【0132】
巨大化された心臓の表現型に寄与するはずの、過形成をもたらしたサイクリンA2の継続する発現を測定するため、発明者らは、6月齢のトランスジェニック対対照の心臓内に存在する心室の心筋細胞の全数を計算した。第1の工程は、6月齢の系1及び58の、トランスジェニック及び正常のマウスの断面積及び心筋の長さを測定することであった(図3B,3C)。心筋の断面積は、事実、統計上有意な様式において、正常な心臓に比較して、トランスジェニックの心臓においてわずかに減少し、系1のトランスジェニックにおいて平均209.7±2.32μm2であり、そして系1の非トランスジェニックマウスにおいて228.2±2.29μm2、P<0.0001であった。系58においては、トランスジェニックにおいて平均193.2±2.04μm2の平均断面積であり、そして非トランスジェニックにおいて231.0±2.26μm2の平均、P<0.0001であった。心筋の長さは、正常な心臓に比較して、トランスジェニックの心臓においてわずかに短いことがわかり、系1のトランスジェニックにおいて平均48.4±0.599μm2であり、そして系1の非トランスジェニックにおいて51.9±0.583μm2、P<0.0001であった。系58においては、トランスジェニックマウスにおいて平均46.2±0.522μm2の平均長であり、そして非トランスジェニックマウスにおいて50.2±0.567μm2の平均、P<0.0001であった。
【0133】
心筋細胞の断面積及び長さの測定を利用することにより、オリジナルの測定を行った系1及び58の代表的な心臓の平均心筋容積を計算した(表1)。全心室容積の平均心筋容積に対する商(quotient)は、各心室内に存在する心筋の数の評価を与えた。6月齢において、その正常な同腹仔対照に比較して、系58のトランスジェニックの心臓に存在する心筋の数における67.3%の平均の増加があった。対照的に、43.4%の平均の増加が、6月齢において、その正常な同腹仔対照に比較して、系1のトランスジェニックの心臓において記録された。トランスジェニックマウスの心臓における心筋細胞のサイズの低下は、心臓サイズの全体的な増加と共役して、サイクリンA2の構成的発現が心筋細胞の過形成を引き出す(elicit)ことを証明する。
【0134】
【表1】
【0135】
過形成がDNA合成の増加と共役するべきであるように、発明者らは、免疫組織分析により、異なるステージにおいて、正常及びトランスジェニックマウスの増殖する細胞の核抗原(PCNA)の発現をアッセイした。PCNAは、DNA複製フォークの成分であり、そしてDNAの合成と修復の両方に必要である(Haracska et al.,Mol.Cell.Biol.,3:784−91,2002)。ユニット面積あたりのPCNA染色された核の数は、E18まで、正常及びトランスジェニックのマウスの両方において類似しており;しかしながら、PN2までは、正常の心臓よりもトランスジェニックマウスにおいて顕著に高いレベルの発現があった(図3D)。トランスジェニックの心臓におけるPCNA発現のこの上昇は、6月齢まで保持され(PCNA発現が非トランスジェニックの心臓において理想的に検出されなかったステージ)、より穏やかなレベルにもかかわらずである。これらの結果は、サイクリンA2発現がDNA合成の増加と相関していることを示唆した。
【0136】
DNA合成の増加がトランスジェニックの心筋の増加した複数核形成をもたらし得た可能性を試験するために、系1及び58からのトランスジェニック及び非トランスジェニック同腹仔から採取された、成体(6月)心筋細胞からの横断心室セクション内のユニット面積あたりの心筋細胞の核を計数することにより、心筋細胞の核の密度を測定した。α−サルコメリックアクチンに対する抗体による染色により心筋細胞を同定し、そしてDAPIを用いて核を強調した。系1及び58の両方に関して、正常な心臓に比較して、トランスジェニックの心臓におけるユニット面積あたりの心筋細胞の核の数に顕著な変化はなかった。系1の数は、トランスジェニックマウスにおいて32.70±1.86及び正常マウスにおいて31.60±1.80であった。系58の対応する数は、トランスジェニックにおいて30.60±1.76及び正常マウスにおいて32.20±2.05であった。これらのデータは、さらに、トランスジェニックの心臓における増加したDNA合成が心筋の過形成をもたらすとの結論を支持する。
【0137】
サイクリンA2が細胞周期のG1/Sチェックポイントに加えてG2/M遷移を通しての進行を制御するため、発明者らは、発明者らのトランスジェニックモデルにおいて心筋細胞の有糸分裂において増加があったか否かを決定しようとした。有糸分裂特異的マーカーであるリン酸化されたヒストン−3の発現を、分化を通して、トランスジェニック及び正常の心臓において、抗−リン酸ヒストン−3抗体を利用してアッセイした。Ser10におけるリン酸化ヒストン−3は、動物細胞における有糸分裂の間の染色体凝縮の確立されたマーカーである(Wei et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,95:7480−84,1998)。ヒストン−3のリン酸化は後期G3において開始し、そして初期相において終了する;対照的に、その脱リン酸化が分裂期(anaphase)において開始し、そして初期終期(telophase)において終了する(Hendzel et al.,Chromosoma,106:348−60,1997)。
【0138】
E18,PN2,PN7,PN14,及び6月齢における、トランスジェニック及び非トランスジェニックの心臓からの組織セクションを、α−サルコメリックアクチンに対する抗体により同時染色して、抗−リン酸ヒストン−3−染色された有糸分裂核の心筋細胞に対する位置決定をした。正常の同腹仔の心臓に比較して、トランスジェニックの心臓(系58)において試験された全ての分化時間点(生誕後のステージを通した胚形成)を通して記録された心筋細胞の有糸分裂の有意に増加した数が存在した(図3E)。トランスジェニックの心臓においては記録された散乱する有糸分裂が僅かしかなく、そして非トランスジェニックの心臓においては存在しなかったため、6ヶ月の時間点からのデータは示さない。正常の心臓に比較しての、トランスジェニックの心臓における有糸分裂の数のもっとも劇的な上昇はPN7において記録され、有糸分割の数において8倍の増加があった点である。
【0139】
共焦点顕微鏡を用いて得られたイメージ(非トランスジェニック(図4A)及びトランスジェニック(図4B)のマウスにおけるPN7の類似の心室セクション)は、トランスジェニック心筋細胞において記録された有糸分裂の核の数の劇的な増加を証明した。共焦点顕微鏡を用いた密接な分析は、有糸分裂の幾つかのステージ−前期(prophase)、前中期(prometaphase)、(ほぼ)分裂期−がトランスジェニックの心筋細胞において観察できたことを証明し、図4C−4Eに示されるとおりである。10ミクロン厚の組織セクションの回転分析は、有糸分裂の前中期の核の局在をさらに証明し、そしてそれがα−サルコメリックアクチン染色された心筋細胞に埋め込まれたことを保証する(データは示さず)。
【0140】
心臓機能の分析を、MRIを用いて、8月齢の系58のオスからのトランスジェニック(n=3)及び非トランスジェニック同腹仔対照(n=3)において企てた(図5A,5B;データ示さず)。半−心室レベルにおいて末端の拡張期の腔の面積と心臓収縮末期の腔の面積の間の差異から放出(ejection)フラクションをコンピューター処理した。心臓収縮期の間の心内膜(endocardium)の厚さを測定することにより、フラクションの短縮化を評価した(図5C)。これらの指標は、マウスMRI分析において容易に測定され、血液と心内膜(endocardial)の境界の間の明確な輪郭描写(deliniation)を与えた。この時間点において、それらの同腹仔対照の心臓に比較して、トランスジェニックの心臓において、放出(ejectioin)フラクションとフラクション短縮化の両方において、穏やかであるが統計上有意な低下が存在した。初期時間点(3月齢)における心エコー図(echocardiographic)分析を、トランスジェニック(n=6)及び非トランスジェニック(n=6)マウスの3系列に実施し、そしてフラクション短縮化において観察された差異はなかった(データは示さず)。
【0141】
実施例9−外科手術手法
以下の外科手術手法を実施例10−12において研究されたマウスに対して用いた。サイクリンA2トランスジェニックマウスをB6CBAバックグラウンドにおいて保持した。非トランスジェニック同腹仔と野生型マウスを2つの独立した対照群として用いた。8週齢において、マウスはLADライゲーションを経ることにより、前側索(anterolateral)MIを誘導した。これはブラインド様式において実施した。各マウスを麻酔して、挿管して、次に外科手術顕微鏡下でLADライゲーションにより開胸をした。30匹のトランスジェニックマウス、31匹の非トランスジェニックマウス、及び28匹の野生型マウスが、梗塞1週後に全体で83%の生存率で梗塞された(infarcted)。上記の群の間に死亡率における統計上有意な差異はなかった。全ての操作は、Institutional Animal Care and Use Guidelinesに従って実施した。
【0142】
実施例10−分子分析
実施例9からの梗塞されたマウスに、週ごとに継続して静脈内にブロモデオキシウリジン(BRDU)注射を、100μgのBRDU/gマウスの濃度にて各々に与えた。異なる群において誘導されたMIに対する応答を試験するために、1週、2週、3週、及び3月齢において以下のとおりにマウスを犠牲にした。各マウスはアベルチンで麻酔した。3MのKClを拍動する心臓に注射することにより、拡張期停止を誘導した。心臓を1Xリン酸緩衝化塩溶液(PBS)で潅流し、そして脂肪組織を除去した。次に、心臓を4%パラホルムアルデヒドにより一晩固定化した。心房を分離用顕微鏡下で除去した。以後、心室を連続の1mm厚のスライスに切り出し(LADのライゲーションのレベルにおいて最初のスライスと共に)、エタノールのシリーズを通して無水化し、そしてパラフィンに埋め込んだ。連続横断セクション(5μm)を次に切断した。
【0143】
抗−アルファ−サルコメリックアクチン抗体を抗−リン酸化ヒストン−3、抗−BRDU、抗−サイクリンA2、又は抗−ABCG2抗体の何れかと共に用いて、同時免疫蛍光染色を実施した。心筋細胞の核に対する核蛋白質を位置決定するためにアルファ−サルコメリックアクチンに対する二次抗体として抗−マウスIgM FITCを用いた。ローダミンをコンジュゲートされた抗体を全ての他の抗体に対する二次抗体として用いた。核はDAPIにより染色した。分析は40x及び100xの倍率にて蛍光視野光学機下で行った。シグナルの心筋細胞に対する決定的な位置決定のための3−D分析を共焦点顕微鏡を用いて実施した。
【0144】
発明者らは、梗塞されたトランスジェニック心臓のみにおいて心筋細胞の有糸分裂を検出し、そしてアルファ−サルコメリックアクチンに対する抗体を利用することにより、これらの有糸分裂の心筋細胞に対して位置決定することができた。発明者らは、BRDU標識化を通して梗塞されたトランスジェニックの心臓におけるDNA合成の増加も観察した。
【0145】
さらに、発明者らは、ABCG2−陽性(副集団前駆)細胞が幾つかのトランスジェニック及び対照のマウスにおいて梗塞領域に帰った(home)ことを記録した。これらのABCG2−陽性細胞はアルファ−サルコメリックアクチンを発現もするらしいことから、それらが心臓系列において分化することが暗示される。これらの細胞はトランスジェニック及び対照において記録されたが、サイクリンA2の核局在はトランスジェニック心筋細胞においてのみ観察された。正常な心臓においては、ラット、ヒト及びマウスにおいて生後のメッセージ及び蛋白質のレベルの両方においてサイクリンA2は完全に沈黙している。サイクリンA2トランスジェニックマウスにおいては、サイクリンA2トランスジェニック蛋白質産物が生後の最初の2週間のみに核内で発現され、そして以後は細胞質に局在する。結果を図12−14に示す。
【0146】
実施例11−心臓機能の評価
MRIイメージ獲得を(ブラインド様式にて)9.4 Tesla Bruker WB400マイクロイメージングシステム上で、30mmものさしRFコイル(Brucker NMR Inc.,ベレリカ、MA)を用いて実施した。マウスをイソフラン(2L/分の空気流中で1.5%体積)により麻酔した。心臓の拍動は約450bpmであった。心室の定量は、ECGゲートされた速い勾配のエコーシネ配列を用いて獲得された透明(bright)血液2Dイメージスタックに基づいた。機能性磁気共鳴イメージング(fMRI)を、1週、3週、及び3月のMI後において行った。体積放出フラクションの計算のために、連続横断セクションを水平軸に対して垂直の3レベルにおいて撮り(心臓の頂端から大動脈(aorta)に)、そしてサジタルセクション(sagittal−section)イメージングを実施した。タギング技術を用いて中点のfMRIスライスもスキャンすることにより、時間をかけた局地的な壁移動を評価した。
【0147】
それらのMI研究に基づいて、発明者らは、サイクリンA2トランスジェニックマウスが3週及び3月の時間点において、対照に比較して、有意に良好な放出フラクション(EF)を有することを決定した。発明者らは、トランスジェニックマウスにおいて良好な局地的な壁移動が存在することも観察した;これはMRIタギング技術を用いて定量してよい。結果を図8−11に示す。
【0148】
実施例12−梗塞サイズの評価
梗塞の範囲を決定するために、心臓の5μmの連続パラフィン埋包セクションにマッソンのトリクローム染色を行った。イメージツール(UTHSCSA、テキサス)を利用することにより、各セクション中の非梗塞LVに対する梗塞差心室(LV)の状況を測定した。これらの測定及びセクションを生成するのに使用された各スライスの質量に基づいて、梗塞のパーセントを各心臓に関して計算した。
【0149】
梗塞サイズの評価をガドリニウム−増強されたマルチスライスMRイメージングを用いて繰り返した。ガドリニウム(0.1ml 1:5ガドリニウム:塩溶液0.9%)を静脈内に注入し、そして拡張後期における心臓のイメージを、梗塞サイズの評価のために、水平軸に対して垂直の5レベルにおいて撮った。梗塞領域を、fMRIシネ(cine)イメージ内に示される低下した局地的な壁移動に基づいて決定した;梗塞された壁の状況と非梗塞壁の状況の間の比を用いた梗塞サイズの評価を5つのイメージを基にして作成した。結果を図7に示す。
【0150】
明確化及び理解のためにいくらか詳細に前記の発明を記載してきたが、この開示を読んだ当業者により、請求の範囲における発明の真の範囲を逸脱することなく、形態及び詳細において様々な変化がなされ得ることが認識されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は、サイクリンA2のmRNAと蛋白質の発現が正常なマウスにおいて発生上制御されていることを示す。(A)正常マウス心臓におけるサイクリンA2のmRNA発現がノーザンブロット分析により検出された。RNAは、以下の組織:6週の心臓(HA)、6週の腎臓(KA)、E12心臓(HE12)、E18心臓(HE18)、及びPN2心臓(HPN2)から抽出された。エチジウムブロミドにより染色されたリボソームRNAのバンドを負荷対照として底のパネルに示す。(B)正常マウスにおけるサイクリンA2蛋白質の発現のイムノブロット分析。蛋白質を、E17.5,PN2,PN7,及び8週齢(「成体」と標記)におけるマウス心臓から抽出し、10%PAGE上で電気泳動し、そしてα−サイクリンA2抗体により検出した(上部)。α−GAPDH抗体を均等な負荷に関する対照として使用した。(C)発生する心臓におけるサイクリンA2蛋白質の発現の細胞局在。選択されたステージからの心室組織切片においてα−サイクリンA2抗体を利用したイムノヒストケミカル染色(14日胚(E14)から新生後14日(PN14))。褐色の染色は陽性染色された心筋の核を示す。
【図2】図2は、サイクリンA2のmRNAと蛋白質の発現がトランスジェニックマウスの心臓に制限されることを示す。(A)MHC−CYCA2トランスジェニック構築物のダイアグラム。発明者らは、マウスcDNAをクローン化し、そしてこの発明のために標準構築物を使用した。(B)対照とトランスジェニックサンプルの代表的ノーザンブロット分析。RNAをトランスジェニックマウス(t23とt27)及び正常マウス(n1とn2)から単離した。「H」と「K」は、それぞれ心臓と腎臓を示す。エチジウムブロミドにより染色されたリボソームRNAのバンドを負荷対照として底のパネルに示す。(C)トランスジェニック(Tg)及び正常(N)マウスにおける、2週及び8週の、細胞周期蛋白質発現のイムノブロット分析。上部パネル:α−サイクリンA2;上から2番目のパネル:cdk1;上から3番目のパネル:cdk2;底のパネル:GAPDHサンプルを負荷する対照。HeLa細胞の溶解物を陽性対照として用いた。(D)2週及び8週におけるトランスジェニック及び対照の心臓におけるサイクリンA2複合体の免疫沈殿分析。α−サイクリンA2免疫沈殿された複合体(星印により示される)をα−cdk1(上部)又はα−cdk2(底)によるイムノブロットにより分析した。29kDにおいて可視化されたバンドがイムノグロブリン軽鎖を表す。HeLa細胞溶解物を陽性対照として使用した。
【図3】図3は、サイクリンA2トランスジェニックマウスが新生後の有糸分裂の増加により心臓過形成を示すことを示す。正常マウス及びトランスジェニックマウスの心臓重量・体重(HW/BW)比を、発生を通して、PN7から1.5年齢までプロットした。各年において試験されたトランスジェニック(Tg)及び正常(N)マウスの数は以下のとおりである:PN7及びPN14−16Tg,15N;3−4月−5Tg,5N;6月−10Tg,10N;8−12月−5Tg,5N;1/5年−1Tg,1N。星印は、トランスジェニックト正常の間のHW/BWの際が統計上有意である齢を示す。(B)筋細胞の断面積を正常対トランスジェニック同腹仔にて測定した(系1及び58、齢6月)。正常(N)及びトランスジェニック(Tg)の心室の心筋のヘマトキシリン−及びエオシン−で染色された切片を、断面積に関して、イメージツールソフトウエアを利用して分析した。(C)正常対トランスジェニック同腹仔において測定された心筋の長さ(系1及び58、齢6月)。心室の心筋内のインターカレートされたディスク(disk)のパン−カドヘリン染色を、イメージツールソフトウエアを利用した縦切片の細胞長の測定のために実施した。(D)発生を通しての選択された時間点におけるトランスジェニック及び対照内の増殖する細胞の核の抗原(PCNA)の発現。ユニット面積あたりの陽性染色された核の数を少なくとも10の視野にわたり評価して平均化した(視野サイズ=16,800μm2)。E18を除いて、トランスジェニックマウス内で分析された各発生段階におけるユニット面積あたりのPCNA−染色された核に有意な増加があった。(E)トランスジェニック及びマウス心筋内のリン酸化されたヒストンH3の検出。視野あたりの有糸分裂核の数(リン酸化されたヒストン−3(H3P)により評価された)は、正常心臓に比較して、各発生段階において、トランスジェニック心臓において有意に増強された。少なくとも10の視野を各値に関して分析した。緑のバーはトランスジェニックマウスを示し、青のバーは正常対照を示す。P値を各セットの下方に示す。トランスジェニック対正常マウスのPN7における有糸分裂核の8倍増加に注目。
【図4】図4は、PN7の正常及びトランスジェニックマウスからの心室心筋内の有糸分裂核の可視化を描写する。(A),(B)H3P染色(赤)及びα−サルコメリックアクチン(緑)の場所をつきとめるために免疫蛍光を用いた。有糸分裂の異なる段階を心筋細胞において観察した:(C)前期、(D)前中期、及び(E)おそらく後期。
【図5】図5は、心臓機能のMRI分析を示す。(A)8ヶ月齢のトランスジェニックマウスの中部心室の横断面におけるトランスジェニック心臓のMRIイメージ。(B)放出(ejection)フラクション及びフラクショナルショートニングの測定のための心臓周期内の異なる点において採取された中部心室の横断面における心臓のMRIイメージ。赤の心室は末期(end)心臓拡張期を示し、そして黄色の心室は末期(end)心臓収縮期を示す。(C)正常(n=3)及びトランスジェニク(n=3)の心臓から計算された、放出(ejection)フラクション及びフラクショナルショートニング。
【図6】図6は、マウスのサイクリンA2のアミノ酸配列を示す。
【図7】図7は、全ての群に関する左心室−梗塞されたマウスのパーセントを示す。このパーセンテージは、各梗塞された心臓を(ライゲーション部位から頂端(appex)へ)5つの切片にスライスし、各スライスの質量を測定し、各スライスから薄い切片を取り(約5μm)、そして当該スライスをマッソントリクロームにより繊維症(fibrosis)のもっとも明るいエリアに染色することにより計算した。梗塞したエリアの円周の全円周に対する比に、各スライスの質量を掛けて、これらの生成物を全5スライスに関して加えることにより、梗塞体積パーセンテージを得た。梗塞した左心室のパーセンテージは群の間で一致しており;即ち、発明者らの外科手術手法は再現性が高かった。
【図8】図8は、心筋梗塞の3週後及び3ヵ月後に連続MRIスキャンされて評価された全ての群に関しての、梗塞されたマウスの放出(ejection)フラクション(EF)を示す。トランスジェニックマウスのEFは、野生型対照及び非トランスジェニック同腹仔対照のEFに比較して、有意に増強された。EFは、新生後3週及び3ヵ月後の両方において、トランスジェニックにて増強された。P−値を野生型対照との比較のために提供する。
【図9】図9は、3匹のトランスジェニックマウス(上部3パネル)と3つのトランスジェニック心臓(低分パネル)からの代表的なMRIスキャンを示す。当該スキャンは、トランスジェニック心臓における、下方左心室(LV)の腔(cavity)肥大症(dilation)、及び高い放出(ejection)フラクション(EFs)を示す。スキャンを中部心室レベルにおいて採ることにより、LVの腔サイズがトランスジェニックマウスにおいて顕著に小さいことを証明した。より小さな腔サイズは、野生型動物において観察されたよりも有意に小さなリモデリングの指標である。容積測定されて(volumetrically)コンピューター処理されたEFsを各スキャンの下の各マウスに関して提供する。
【図10】図10は、3つの横断(transverse)イメージ及び1つのサジタルイメージを用いてコンピューター処理された、容積測定(volumetric)EFsを示す。3つの横断イメージを、サジタルスキャンから測定して、心臓の縦軸の中間点から等距離においてスキャンした。楕円面=4/3Ahの容積を推測したが、式中、Aは面積であり、そしてhは高さであり;よって、全部容積=2/3A1h1+1.5A1+1.5A2+1.5A3+2/3A3h2であった。各面積(1,2,3)に関して、左心室、末端心臓収縮期面積を左心室末端心臓拡張期面積から差し引くことにより、容積EFを得た。
【図11】図11は、MRIタギングを梗塞された群の局地的な壁の移動における変化を分析するために定量的に利用してよいことを証明する。中部心室スキャンに関しては、スキャンを採る間、不在のシグナルのグリッドを適用した。負荷(strain)の歪みを、次に、心臓収縮期と心臓拡張期の間に、このグリッドのクロスヘアーの上の特定の点に関して測定した。連続イメージの試験は、局地的な壁の移動が時間を掛けて収縮性の改善を呈するか否かに関する測定を許容する。
【図12】図12は、心筋梗塞の結果を描写する。(A)野生型の梗塞された細胞においては有糸分裂が検出されなかった。青はDAPIを示す;緑はアルファ−サルコメリックアクチンを示す。(B)トランスジェニックの梗塞された心臓の心筋においては、豊富な有糸分裂が検出された。有糸分裂心筋細胞のクラスターをトランスジェニックの梗塞された心筋中に示す。赤はホスホヒストン−H3−陽性核を示す。ホスホヒストン−H3(H3P)は、有糸分裂の特異的マーカーである。青は核のDAPI染色を示す。緑はアルファ−サルコメリックアクチンの存在を示し、心筋細胞の細胞質に特異的である。(C,D)梗塞周囲の(peri−infarct)ゾーンの有糸分裂。(E,F)梗塞ゾーン自体の中の小さな未成熟心筋細胞。写真は、高い核対細胞質比を示す:核は有糸分裂であるらしく、そして細胞質の緑の蛍光はアルファ−サルコメリックアクチンの存在を示す。全ての写真は共焦点顕微鏡上で撮られた;即ち、シグナルは極めて特異的であった。
【図13】図13は、ABCG2を用いたマウス心筋中の副集団(SP)前駆細胞の検出を示す。蛋白質のATP−カセット輸送体ファミリーのメンバーであるABCG2は、マウスの心筋内に見出される副集団前駆細胞のマーカーである。当該蛋白質は心筋細胞が分化し続けるにつれて偏在化する(ubiquitinated)が、ABCG2は一般に発現の膜パターンを示し、そして細胞質に局在するかもしれない。発明者らは、これらの写真において赤くしるされたABCG2に対する抗体を利用することにより、梗塞されたマウスにおいてSP前駆細胞を検出した。SP細胞は、トランスジェニックと野生型のマウスの等しい数を記録した。しかしながら、ABCG2は、いくつかの写真において膜染色パターンを有すること、及び他の写真において細胞質局在を有することが示された。これは、トランスジェニック細胞が対照細胞とは異なる挙動をするらしいことを示唆する。(A,E,F)ABCG2は膜染色パターンを示す。(B,C)ABCG2は細胞質局在を有する。(D)ABCG2は、細胞質局在を有することが示される。非特異的な自己蛍光シグナルが検出されつつなかったことを確認するために、この明るい顕微鏡写真は、ABCG2に対するカウンター染色としてDABを用いた。
【図14】図14は、トランスジェニックの梗塞された細胞の「デノボ」心筋におけるサイクリンA2の核局在を示す。サイクリンA2は、トランスジェニックマウスの梗塞ゾーンにおいて「デノボ」心筋であるらしい何かの核の中に記録され;これは対照においては観察されなかった。さらに、トランスジェニックマウスにおいてさえ、初期新生後発生の後(新生14日)、サイクリンA2の核局在は典型的には観察されなかった;トランスジェニック蛋白質生成物は、この点の細胞質においてのみ記録された。(A)赤はサイクリンA2を示す;緑はアルファ−サルコメリックアクチンを示す。(B)(A)からの切片は青のフィルターにより観察されたことから、サイクリンA2の赤シグナルは核に位置決定することができる。青のフィルターからのシグナルは緑のフィルターからのイメージにより溶け込まれた(merge)。青は核のDAPI染色を示す;緑はアルファ−サルコメリックアクチンを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)サイクリン関連薬剤;及び
(b)任意に、薬学上受容可能な担体
を含む治療用組成物。
【請求項2】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
サイクリン関連薬剤がサイクリンA2蛋白質又はサイクリンA2をコードする核酸である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
さらにリポソーム又はウイルスベクターを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
請求項1記載の治療用組成物及びカテーテルを含む、被験者内でサイクリン関連薬剤を心臓組織細胞に送達することにおける使用のためのキット。
【請求項6】
心臓組織細胞及び副集団(SP)前駆細胞からなる群から選択される、サイクリンA2が増加された細胞。
【請求項7】
心筋細胞である、請求項6記載の細胞。
【請求項8】
サイクリンA2を過剰発現する、請求項6記載の細胞。
【請求項9】
サイクリンA2関連薬剤を含む、請求項6記載の細胞。
【請求項10】
請求項6記載の細胞を含む細胞系。
【請求項11】
小児科の障害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグにおける少なくとも一つの心臓毒性作用をスクリーニングするためのインビトロ方法であって、
(a)サイクリンA2が増加された少なくとも一つの心臓組織細胞に、小児科の障害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグを接触させ;そして
(b)少なくとも一つの心臓毒性作用に関して少なくとも一つの心臓組織細胞をアッセイする
工程を含む方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法によりスクリーニングされたドラッグ。
【請求項13】
心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンの相乗作用に関して候補ドラッグをスクリーニングするためのインビトロ方法であって、
(a)サイクリンA2が増加された少なくとも一つの心臓組織細胞に、候補ドラッグを接触させ;そして
(b)候補薬剤が心臓組織生成を増強する能力を評価する
工程を含む方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法によりスクリーニングされたドラッグ。
【請求項15】
被験者において心臓組織変性を治療又は予防するための方法であって、被験者に、サイクリン関連薬剤を、請求項14記載の薬剤と組み合わせて、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて投与することを含む方法。
【請求項16】
心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンの相乗作用に関して候補ドラッグをスクリーニングするためのインビボ方法であって、
(a)サイクリンA2が増加された少なくとも一つの心臓組織細胞に、候補ドラッグを接触させ;そして
(b)心臓組織細胞及びそれらの子孫を、もしあれば、被験者に移植し;そして
(c)候補薬剤が移植後に心臓組織細胞及びそれらの子孫の生存性を増強する能力を評価する
工程を含む方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法によりスクリーニングされたドラッグ。
【請求項18】
被験者において心臓組織変性を治療又は予防するための方法であって、被験者に、サイクリン関連薬剤を、請求項17記載の薬剤と組み合わせて、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて投与することを含む方法。
【請求項19】
小児科の障害の治療に潜在的に有用な候補薬剤の少なくとも一つの心臓毒性作用に関してスクリーニングすることにおいて有用なインビトロシステム。
【請求項20】
サイクリンA2が増加された心臓組織細胞の集団を含む、心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用に関して候補薬剤をスクリーニングすることにおいて有用なインビトロシステム。
【請求項21】
心臓組織の生成におけるサイクリン関連薬剤の使用。
【請求項22】
心臓組織の変性の治療又は予防におけるサイクリン関連薬剤の使用。
【請求項23】
細胞内のサイクリンを増加させることを含む心臓組織の生成を促進させる方法であって、但し、細胞は心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞からなる群から選択される、方法。
【請求項24】
サイクリンがサイクリンA2である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
サイクリン関連薬剤に細胞を接触させることによりサイクリンが増加した、請求項23記載の方法。
【請求項26】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
核酸が心臓組織特異的プロモーター又は誘導可能なプロモーターに作動可能に連結している、請求項26記載の方法。
【請求項28】
心臓組織細胞が心筋細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項29】
サイクリンがインビトロにおいて細胞内で増加される、請求項23記載の方法。
【請求項30】
生成された心臓組織を被験者に移植することをさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
被験者がヒトである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
被験者が心筋梗塞の候補であるか又は心筋梗塞から回復中である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
被験者が慢性心不全を有するか又は心不全の候補である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項23記載の方法。
【請求項35】
サイクリン関連薬剤を被験者に投与することにより、被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
サイクリン関連薬剤をカテーテルにより被験者に投与する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
被験者が心臓組織変性を有する、請求項34記載の方法。
【請求項38】
サイクリンを心臓組織細胞中で増加させることを含む、心臓組織変性を予防するための方法。
【請求項39】
サイクリンがサイクリンA2である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
サイクリン関連薬剤に細胞を接触させることによりサイクリンが増加した、請求項38記載の方法。
【請求項41】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
核酸が心臓組織特異的プロモーター又は誘導可能なプロモーターに作動可能に連結している、請求項41記載の方法。
【請求項43】
心臓組織細胞が心筋細胞又は心臓組織副集団前駆細胞である、請求項38記載の方法。
【請求項44】
被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項38記載の方法。
【請求項45】
サイクリン関連薬剤を被験者に投与することにより、被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
サイクリン関連薬剤をカテーテルにより被験者に投与する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
被験者がヒトである、請求項44記載の方法。
【請求項48】
被験者が心筋梗塞の候補である、請求項47記載の方法。
【請求項49】
被験者が心不全の候補である、請求項47記載の方法。
【請求項50】
被験者において心臓組織の変性を治療するための方法であって、
(a)心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞からなる群から選択される細胞の集団を得るか又は生成し;
(b)細胞内のサイクリンを増加させ;そして
(c)増加されたサイクリンを含む細胞、及びそれらの子孫を、もしあれば、被験者に、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて移植する
工程を含む方法。
【請求項51】
サイクリンがサイクリンA2である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
サイクリン関連薬剤に細胞を接触させることによりサイクリンが増加した、請求項50記載の方法。
【請求項53】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量のサイクリン関連薬剤を被験者に投与することを含む、被験者において心臓組織変性を治療又は予防するための方法。
【請求項55】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項54記載の方法。
【請求項1】
(a)サイクリン関連薬剤;及び
(b)任意に、薬学上受容可能な担体
を含む治療用組成物。
【請求項2】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
サイクリン関連薬剤がサイクリンA2蛋白質又はサイクリンA2をコードする核酸である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
さらにリポソーム又はウイルスベクターを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
請求項1記載の治療用組成物及びカテーテルを含む、被験者内でサイクリン関連薬剤を心臓組織細胞に送達することにおける使用のためのキット。
【請求項6】
心臓組織細胞及び副集団(SP)前駆細胞からなる群から選択される、サイクリンA2が増加された細胞。
【請求項7】
心筋細胞である、請求項6記載の細胞。
【請求項8】
サイクリンA2を過剰発現する、請求項6記載の細胞。
【請求項9】
サイクリンA2関連薬剤を含む、請求項6記載の細胞。
【請求項10】
請求項6記載の細胞を含む細胞系。
【請求項11】
小児科の障害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグにおける少なくとも一つの心臓毒性作用をスクリーニングするためのインビトロ方法であって、
(a)サイクリンA2が増加された少なくとも一つの心臓組織細胞に、小児科の障害の治療に潜在的に有用な候補ドラッグを接触させ;そして
(b)少なくとも一つの心臓毒性作用に関して少なくとも一つの心臓組織細胞をアッセイする
工程を含む方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法によりスクリーニングされたドラッグ。
【請求項13】
心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンの相乗作用に関して候補ドラッグをスクリーニングするためのインビトロ方法であって、
(a)サイクリンA2が増加された少なくとも一つの心臓組織細胞に、候補ドラッグを接触させ;そして
(b)候補薬剤が心臓組織生成を増強する能力を評価する
工程を含む方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法によりスクリーニングされたドラッグ。
【請求項15】
被験者において心臓組織変性を治療又は予防するための方法であって、被験者に、サイクリン関連薬剤を、請求項14記載の薬剤と組み合わせて、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて投与することを含む方法。
【請求項16】
心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンの相乗作用に関して候補ドラッグをスクリーニングするためのインビボ方法であって、
(a)サイクリンA2が増加された少なくとも一つの心臓組織細胞に、候補ドラッグを接触させ;そして
(b)心臓組織細胞及びそれらの子孫を、もしあれば、被験者に移植し;そして
(c)候補薬剤が移植後に心臓組織細胞及びそれらの子孫の生存性を増強する能力を評価する
工程を含む方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法によりスクリーニングされたドラッグ。
【請求項18】
被験者において心臓組織変性を治療又は予防するための方法であって、被験者に、サイクリン関連薬剤を、請求項17記載の薬剤と組み合わせて、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて投与することを含む方法。
【請求項19】
小児科の障害の治療に潜在的に有用な候補薬剤の少なくとも一つの心臓毒性作用に関してスクリーニングすることにおいて有用なインビトロシステム。
【請求項20】
サイクリンA2が増加された心臓組織細胞の集団を含む、心臓組織変性の治療又は予防におけるサイクリンとの相乗作用に関して候補薬剤をスクリーニングすることにおいて有用なインビトロシステム。
【請求項21】
心臓組織の生成におけるサイクリン関連薬剤の使用。
【請求項22】
心臓組織の変性の治療又は予防におけるサイクリン関連薬剤の使用。
【請求項23】
細胞内のサイクリンを増加させることを含む心臓組織の生成を促進させる方法であって、但し、細胞は心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞からなる群から選択される、方法。
【請求項24】
サイクリンがサイクリンA2である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
サイクリン関連薬剤に細胞を接触させることによりサイクリンが増加した、請求項23記載の方法。
【請求項26】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
核酸が心臓組織特異的プロモーター又は誘導可能なプロモーターに作動可能に連結している、請求項26記載の方法。
【請求項28】
心臓組織細胞が心筋細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項29】
サイクリンがインビトロにおいて細胞内で増加される、請求項23記載の方法。
【請求項30】
生成された心臓組織を被験者に移植することをさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
被験者がヒトである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
被験者が心筋梗塞の候補であるか又は心筋梗塞から回復中である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
被験者が慢性心不全を有するか又は心不全の候補である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項23記載の方法。
【請求項35】
サイクリン関連薬剤を被験者に投与することにより、被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
サイクリン関連薬剤をカテーテルにより被験者に投与する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
被験者が心臓組織変性を有する、請求項34記載の方法。
【請求項38】
サイクリンを心臓組織細胞中で増加させることを含む、心臓組織変性を予防するための方法。
【請求項39】
サイクリンがサイクリンA2である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
サイクリン関連薬剤に細胞を接触させることによりサイクリンが増加した、請求項38記載の方法。
【請求項41】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
核酸が心臓組織特異的プロモーター又は誘導可能なプロモーターに作動可能に連結している、請求項41記載の方法。
【請求項43】
心臓組織細胞が心筋細胞又は心臓組織副集団前駆細胞である、請求項38記載の方法。
【請求項44】
被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項38記載の方法。
【請求項45】
サイクリン関連薬剤を被験者に投与することにより、被験者内においてインビボにてサイクリンが心臓組織細胞中で増加される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
サイクリン関連薬剤をカテーテルにより被験者に投与する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
被験者がヒトである、請求項44記載の方法。
【請求項48】
被験者が心筋梗塞の候補である、請求項47記載の方法。
【請求項49】
被験者が心不全の候補である、請求項47記載の方法。
【請求項50】
被験者において心臓組織の変性を治療するための方法であって、
(a)心臓組織細胞又は副集団(SP)前駆細胞からなる群から選択される細胞の集団を得るか又は生成し;
(b)細胞内のサイクリンを増加させ;そして
(c)増加されたサイクリンを含む細胞、及びそれらの子孫を、もしあれば、被験者に、心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量にて移植する
工程を含む方法。
【請求項51】
サイクリンがサイクリンA2である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
サイクリン関連薬剤に細胞を接触させることによりサイクリンが増加した、請求項50記載の方法。
【請求項53】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
心臓組織変性を治療又は予防するのに有効な量のサイクリン関連薬剤を被験者に投与することを含む、被験者において心臓組織変性を治療又は予防するための方法。
【請求項55】
サイクリン関連薬剤が、サイクリン蛋白質、サイクリンをコードする核酸、サイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバー、及びサイクリンシグナルトランスダクション経路のメンバーの変調因子からなる群から選択される、請求項54記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−516230(P2007−516230A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533215(P2006−533215)
【出願日】平成16年5月18日(2004.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/015691
【国際公開番号】WO2005/000403
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505019998)トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月18日(2004.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/015691
【国際公開番号】WO2005/000403
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505019998)トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (7)
【Fターム(参考)】
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