説明

心臓血管疾患を治療するためのTRPCチャンネルの使用

本発明は、心臓血管疾患を治療する医薬品を製造するための、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の使用、および、TRPCチャンネルまたはそれらの不活性化した突然変異体に対する調節因子のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓血管疾患を治療する医薬品を製造するための、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の使用、ならびに、TRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体の調節因子をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
西欧諸国において、アテローム性動脈硬化症は心臓血管疾患の主要な原因の1つである。2001年において、米国では、これらの病気が約1百万人の死亡原因となっている。その上、発展途上国における生活様式の変化のために、アテローム性動脈硬化症や関連する心臓血管疾患が世界的に蔓延しつつある。WHOの報告では、2010年までに、心臓血管疾患が発展途上世界における主な死亡原因になると予想している。
【0003】
従って、アテローム性動脈硬化症を予防および治療する新しい医薬品に対する莫大な医学上の必要性がある。アテローム性動脈硬化症の発生と進行は複雑であり、そのプロセスは多数の後天的な要因(例えば、生活様式、栄養、運動)、および、遺伝的な要因に依存しており、十分理解されていない。多数の臨床的な観察から、アテローム性動脈硬化症およびアテローム発生の病態生理学に、血管の内壁を覆う内皮細胞の機能不全が関与している(Ross, R.N.(1999),Engl.J.Med.340:115〜126)。
【0004】
それゆえに、内皮機能の調節に関与するタンパク質は、抗アテローム性動脈硬化症治療の一次標的となり得る。酸化窒素(NO)の生産のような重要な内皮機能は、細胞内Ca2+のレベルで制御されるために、Ca2+調節タンパク質が特に興味深いと考えられる。
【0005】
TRPCチャンネルは、イオンチャンネルタンパク質の新規のクラスであるが、これらは、Ca2+透過性の非選択的なカチオンチャンネルであり、心臓血管系などの系で発現される。配列相同性に基づき、TRPC3、TRPC6およびTRPC7は、別個のTRPCサブファミリーを構成する。発現系において、これらのチャンネルは、Gタンパク質共役受容体、または、細胞内の貯蔵Ca2+の枯渇によって活性化される(Clapham等(2001),Nat.Rev.Neurosci.2:387〜396)。また、TRPC3は、培養内皮細胞において、酸化的ストレスで活性化されたカチオン電流に寄与する可能性もある(Balzer等(1999)Cardiovasc.Res.42:543〜549)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
平滑筋細胞におけるTRPC1の機能的役割を研究するために、WO02/059155では、TRPC1の特異的なエピトープに対する抗体が用いられている。しかしながら、このエピトープは、他のTRPCチャンネルでは見出されていない。WO05/049084は、化合物2−アミノエトキシジフェニルボラート(2−APB)を用いた、単離したラット心室の筋細胞に関する機能的な研究を開示している。しかしながら、この化合物は、特にTRPC3に対して非特異的で疑わしい作用を示すことが知られている(van Rossum等(2000),J.Biol.Chem.,275,28562〜28568)。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、本発明に従って、遺伝学的なアプローチを用いて、インビボで、アテローム性動脈硬化症のウサギの内皮細胞におけるTRPC3、TRPC6およびTRPC7活性を抑制した。驚くべきことに、我々は、ドミナントネガティブのTRPC3遺伝子で処理した血管において、血管の機能の劇的な改善、および、アテローム性動脈硬化症の組織学的なマーカーの減少を見出し、これは、TRPCチャンネル(具体的には上述のチャンネル)の活性を抑制することと、抗アテローム性動脈硬化症の作用を示すことを意味する。これらの発見により、TRPCチャンネルと、アテローム性動脈硬化症のような心臓血管疾患との新規の関連が確立される。
【0008】
それゆえに、本発明の主題の一つは、心臓血管疾患、具体的にはアテローム性動脈硬化症を治療する医薬品を製造するための、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の使用に向けられる。
【0009】
好ましいTRPCチャンネルは、TRPC3チャンネル、TRPC6チャンネル、または、TRPC7チャンネルであり、具体的にはTRPC3チャンネル、または、TRPC6チャンネルであり、特にTRPC3チャンネルである。
【0010】
それに対応するアミノ酸配列は、配列番号1(TRPC3)、配列番号5(TRPC6)、および、配列番号9(TRPC7)であり、具体的には、TRPC3チャンネルをコードする配列番号1のアミノ酸配列である。それに対応するヌクレオチド配列は、配列番号2(TRPC3)、配列番号6(TRPC6)、および、配列番号10(TRPC7)であり、具体的にはTRPC3チャンネルをコードする配列番号2のヌクレオチド配列である。
【0011】
本発明に係る用語「不活性化した突然変異体」は、カチオンチャンネルとして機能的に不活性だが、相同な天然に存在するTRPCチャンネルのチャンネル活性を抑制することができる突然変異体を意味する。天然の多量体チャンネルからなる集合体において、細胞膜中の実質的に全ての天然に存在するTRPCチャンネルに、突然変異体チャンネルのサブユニットを含ませるか、または、突然変異体チャンネルで全て置換させるような作用によって、相同なTRPCチャンネルのサブユニットを置換することにより抑制が達成されると思われる。チャンネルのサブユニットを不活性にする突然変異は、好ましくは、TRPC3の孔領域(配列番号1におけるアミノ酸603〜645)、TRPC6の孔領域(配列番号5におけるアミノ酸660〜705)、および、TRPC7の孔領域(配列番号9におけるアミノ酸610〜650)内に位置するものが可能である。具体的な例は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する突然変異体TRPC3チャンネル(TRPC3DN)、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有する突然変異体TRPC6チャンネル(TRPC6DN)、および、配列番号11に記載のアミノ酸配列を有する突然変異体TRPC7チャンネル(TRPC7DN)である。TRPC3DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4に記載のヌクレオチド配列であり;TRPC6DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号8に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC7DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号12に記載のヌクレオチド配列である。特に好ましい例は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するドミナントネガティブ突然変異体TRPC3DNである。TRPC3DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4に記載のヌクレオチド配列である。
【0012】
さらに、「不活性化した突然変異体」は、タンパク質合成、または、原形質膜への輸送のあらゆる工程で、天然に存在するTRPCチャンネルと相互作用することによって天然に存在するTRPCチャンネルの機能抑制する能力を保持するTRPC3、TRPC6またはTRPC7のいずれか一部分からなっていてもよい。このような部分は、例えばTRPC3のアミノ酸0〜302(配列番号1)であり得る(Balzer等(1999)Cardiovasc.Res.42:543〜549を参照)。
【0013】
不活性化した突然変異体は、全細胞のパッチ・クランプ法を用いて(例証として実施例で説明した)、検出および/または解析することができる。
【0014】
本発明のその他の主題は、心臓血管疾患、具体的にはアテローム性動脈硬化症を治療するための医薬品として、TRPCチャンネルの調節因子、具体的には阻害因子を発見するための、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の使用に向けられる。
【0015】
好ましいTRPCチャンネルは、上記で詳述したような、TRPC3チャンネル、TRPC6チャンネル、または、TRPC7チャンネルであり、具体的にはTRPC3チャンネル、または、TRPC6チャンネルであり、特にTRPC3チャンネルである。
【0016】
一般的に、TRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列と、試験化合物とを接触させ、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列に対する試験化合物の影響を測定するか、または、検出する。
【0017】
本発明に係る用語「TRPCチャンネルの調節因子」は、TRPCチャンネルを調節する分子(「調節因子」)を意味し、具体的には、阻害分子または活性化分子(「阻害因子」または「活性化因子」)であり、特に、本発明の分析に従って同定可能なTRPCチャンネルの阻害因子である。阻害因子とは、一般的には、例えば、結合して、好ましくは上記で詳述したようなTRPCチャンネルの少なくとも1種の活性または発現を、部分的もしくは完全にブロックする。減少する、抑制する、活性化を遅延する、不活性化する、脱感作する、または、ダウンレギュレートする化合物である。活性化因子とは、一般的に、例えば、好ましくは上記で詳述したようなTRPCチャンネルの少なくとも1種の活性または発現を高める、開口する、活性化する、促進する、活性化を強化する、感度を高める、作動させる、または、アップレギュレートする化合物である。このような調節因子としては、TRPCチャンネルの遺伝子組換え的変換型、好ましくはTRPCチャンネルの不活性化した突然変異体、例えばTRPC3DM、加えて、天然または合成のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、ペプチド、環状ペプチド、核酸、抗体、アンチセンス分子、リボザイム、有機小分子などが挙げられる。
【0018】
TRPCチャンネル活性を測定するための例としては、以下の工程を含む分析が挙げられる:
(a)TRPCチャンネルを発現する蛍光細胞を接触させる工程、
(b)該蛍光細胞と調節因子または試験化合物とを接触させる前に、それと同時に、または、その後に、チャンネルの活性化因子によって、Ca2+流入を刺激する工程、および、
(c)蛍光の変化を測定または検出する工程。
【0019】
このような分析のさらなる詳細および代替法、または、好ましい実施形態を以下で説明し、加えて実施例でも説明する。
【0020】
それゆえに、本発明のその他の主題は、TRPC、もしくは、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPC、もしくは、不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の調節因子のスクリーニング方法に向けられ、ここにおいて、本方法は、以下の工程を含む:
(a)TRPCチャンネルまたはそれらの不活性化した突然変異体を発現する細胞を接触させる工程、
(b)該細胞と試験化合物とを接触させる前に、それと同時に、または、その後に、チャンネルの活性化因子によって、Ca2+流入を刺激する工程、および、
(c)TRPCチャンネルの活性の変化を測定または検出する工程。
【0021】
好ましい実施形態において、本方法は、以下の工程をさらに含む:
(d)該試験化合物の非存在下におけるTRPCチャンネルの活性の変化を比較することによって、心臓血管疾患に対して活性を有する試験化合物を選択する工程。
【0022】
その他の好ましい実施形態において、上記細胞におけるTRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体の発現は、誘導性プロモーター、好ましくはテトラサイクリン誘導性プロモーターから選択されるプロモーターによって制御される。
【0023】
具体的な好ましい実施形態において、上記細胞は、蛍光細胞であり、例えば以下でさらに説明される細胞が挙げられる。
【0024】
本発明に係る好ましい細胞または細胞系は、MDCK、HEK293、HEK293T、BHK、COS、NIH3T3、Swiss3T3、または、CHO細胞であり、具体的にはHEK293細胞系である。
【0025】
TRPCチャンネルの活性は、イオンの流れ、具体的にはCa2+の流れにおける変化を測定または検出することによって測定または検出することができ、このような測定または検出は、例えばパッチクランプ技術、全細胞電流、放射標識したイオンの流れ、または、具体的には蛍光、例えば電位感受性色素またはイオン感受性色素を用いた蛍光によってなされる(Vestergarrd−Bogind等(1988),J.Membrane Biol.,88:67〜75;Daniel等(1991)J.Pharmacol.Meth.25:185〜193;Hoevinsky等(1994)J.Membrane Biol.,137:59〜70;Ackerman等(1997),New Engl.J.Med.,336:1575〜1595;Hamil等(1981),Pflugers.Archiv.,391:185)。
【0026】
このような色素の例は、ジ−4−ANEPPS(ピリジニウム4−(2(6−(ジブチルアミノ)−2−ナフタレニル)エテニル)−1−(3−スルホプロピル)水酸化物)、CC−2−DMPE(1,2−ジテトラデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミントリエチルアンモニウム)、DiSBAC2(ビス−(1,2−ジバルビツール酸)−トリメチンオキサノール、DisBAC3((ビス−(1,3−ジバルビツール酸)−トリメチンオキサノール))、SBFI−AM(1,3−ベンゼンジカルボン酸,4,4’−[1,4,10−トリオキサ−7,13−ジアザシクロペンタデカン−7,13−ジイルビス(5−メトキシ−6,12−ベンゾフランジイル)]ビス−(テトラキス−[(アセチルオキシ)メチル]エステル))、fluo3am(1−[2−アミノ−5−(2,7−ジクロロ−6−ヒドロキシ−3−オキシ−9−キサンテニル)フェノキシ]−2−(2’−アミノ−5’−メチルフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸)、fluo4am(1−[2−アミノ−5−(2,7−ジクロロ−6−ヒドロキシ−4−オキシ−9−キサンテニル)フェノキシ]−2−(2’−アミノ−5’−メチルフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸)、または、fura2am(1−[2−(5’−カルボキシオキサゾール−2’−イル)−6−アミノベンゾフラン−5−オキシ]−2−(2’−アミノ−5’−メチル−フェノキシ)−エタン−N,N,N’,N’−四酢酸)である。
【0027】
上記チャンネルの活性化因子の例は、ジアシルグリセロール、具体的には1−オレイル−2アセチル−sn−グリセロール(OAG)、Gq共役受容体アゴニスト、例えばフェニレフリン、具体的にはトリプシン、受容体チロシンキナーゼを刺激するアゴニスト、例えば上皮増殖因子(EGF)、または、ジアシルグリセロールを生成する酵素、例えばホスホリパーゼ、もしくはそれらの活性化因子である。
【0028】
上記チャンネルの活性化因子、具体的にはOAGを、TRPCチャンネルを直接刺激するのに用いることができ、これは、例えば本発明の分析において偽陽性の結果の割合が実質的に減少するために、本発明の分析において受容体が介在する間接的なチャンネル活性化に比べてさらに利点がある。
【0029】
一般的に、例えば上述したような誘導性プロモーター下でTRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体を発現する細胞が提供される。このような細胞は、当業者既知の遺伝学的な方法(さらに実施例で説明されている)を用いて生産することができる。TRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体の発現を誘導した後、このような細胞は通常、例えばマイクロタイタープレートで平板培養し、増殖させる。通常、このような細胞はマルチウェルプレートの底部で増殖し、固定される。その後、一般的に、これらの細胞は洗浄され、適切なローディング緩衝液中で色素(好ましくはfluo4amのような蛍光色素)をローディングされる。ローディング緩衝液を除去した後、これらの細胞を、例えば化学物質ライブラリーの形態で、試験化合物または調節因子と、具体的には上述のような生化学的または化学的な試験化合物とインキュベートする。Ca2+測定は、例えば蛍光イメージングプレートリーダー(FLIPR)を用いて行うことができる。TRPCチャンネルを介したCa2+流入を刺激するために、一般的に、OAGのようなチャンネルの活性化因子が適用されるべきである。
【0030】
TRPCチャンネルを活性化する代替の様式として、Gq共役受容体アゴニストとしてのトリプシンが適用可能である。
【0031】
予想される阻害因子の作用は、例えば蛍光の増加が少なくなることであり得る。活性化因子は、例えば活性化因子によって誘発された蛍光のさらなる増加を起こすか、または、例えば活性化因子非依存性の蛍光の増加を誘導する可能性がある。
【0032】
その後、適切な調節因子、具体的には阻害因子を解析し、および/または、単離することができる。化学物質ライブラリーをスクリーニングするためには、ハイスループット分析の使用が好ましく、これは当業者既知であるか、または、市販されている。
【0033】
本発明に係る用語「化学物質ライブラリー」は、数々のあらゆる源から集められた多数の化学物質を意味し、例えば、化学合成された分子、および、天然物質、または、コンビナトリアル化学物質ライブラリーが含まれる。
【0034】
有利には、本発明の方法は、アレイ上で、および/または、ロボットシステムで行われ、このようなシステムとしては、例えばロボット式プレーティングシステム、および、例えばマイクロフルイディクス(すなわち流体導路構造)を用いたロボット式液体トランスファーシステムが挙げられる。
【0035】
本発明のその他の実施形態において、本方法は、ハイスループットスクリーニングシステムの形態で行われる。このようなシステムにおいて、有利には、スクリーニング方法は自動化、小型化されており、具体的には小型化されたウェル、および、ロボット制御されたマイクロフルイディクスを利用する。
【0036】
特に好ましい実施形態において、本発明の分析/方法は、上記で詳述したような誘導性プロモーターの制御下にTRPCチャンネルの遺伝子を含む細胞系で行われ、ここにおいて、チャンネルの活性化因子は可溶化されている。例えば、好ましくは、活性化因子OAGは、血清アルブミン、例えばウシ血清アルブミン、または、プルロニック酸(plutonic acid)の存在下で可溶化される。
【0037】
本発明のその他の主題は、アテローム性動脈硬化症を治療するための医薬品の製造方法に向けられ、ここにおいて、本方法は、以下の工程を含む:
(a)上記方法を行う工程、
(b)心臓血管疾患、具体的にはアテローム性動脈硬化症を治療するのに適した検出された試験化合物を単離する工程、および、
(c)検出された試験化合物を、1またはそれ以上の製薬上許容できるキャリアーまたは補助剤と共に製剤化する工程。
【0038】
製薬上許容できるキャリアーまたは補助剤は、例えば生理学的な緩衝溶液、例えば塩化ナトリウム溶液、脱塩水、安定剤、例えばプロテアーゼもしくはヌクレアーゼ阻害剤、または、金属イオン封鎖剤、例えばEDTAである。
【0039】
以下の図、配列および実施例は本発明を説明するものであり、本発明の範囲を制限することはない。
【0040】
図面の説明
図1Aおよび1Bは、TRPC3DNは、機能的なイオン電流を運搬しないことを示す。
図2AおよびBは、TRPC3DNのTRPC3およびTRPC6に対するドミナントネガティブ作用を示す。
図3は、アテローム性動脈硬化症のウサギの頚動脈におけるアセチルコリンで誘導された血管反応性に対するTRPC3DNの作用を示す。
図4は、TRPC3DNを発現する頚動脈部分における流動によって誘導された血管反応性の音波検査による評価を示す。
図5は、TRPC3DNを発現する頚動脈部分におけるアテローム斑の大きさを示す。
図6は、アテローム性動脈硬化症の頚動脈における平均マクロファージ密度に対するTRPC3DN発現の作用を示す。
図7Aおよび7Bは、FLIPR技術を用いた、誘導性のTRPC3およびTRPC6細胞系におけるOAGで活性化されたCa2+シグナルの検出を示す。
図8Aおよび8Bは、FLIPR分析によって、ドキシサイクリンで誘導された細胞系におけるSKF96365によるTRPC3およびTRPC6阻害に関するIC50を説明する。
【0041】
配列の説明
配列番号1は、TRPC3のアミノ酸配列を示す。
配列番号2は、TRPC3をコードするヌクレオチド配列を示す。
配列番号3は、ドミナントネガティブTRPC3チャンネル(TRPC3DN)の完全なアミノ酸配列を示す(突然変異したアミノ酸は太字で示す)。
配列番号4は、TRPC3DNのヌクレオチドの完全な配列を示す(突然変異したヌクレオチドは太字で示す)。
配列番号5は、TRPC6のアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、TRPC6をコードするヌクレオチド配列を示す。
配列番号7は、ドミナントネガティブTRPC6チャンネル(TRPC6DN)のアミノ酸配列を示す(突然変異したアミノ酸は太字で示す)。
配列番号8は、TRPC6DNのヌクレオチドの完全な配列を示す(突然変異したヌクレオチドは太字で示す)。
配列番号9は、TRPC7のアミノ酸配列を示す。
配列番号10は、TRPC7をコードするヌクレオチド配列を示す。
配列番号11は、ドミナントネガティブTRPC7チャンネル(TRPC7DN)のアミノ酸配列を示す(突然変異したアミノ酸は太字で示す)。
配列番号12は、TRPC7DNのヌクレオチドの完全な配列を示す(突然変異したヌクレオチドは太字で示す)。
【実施例】
【0042】
1.TRPC3DNの構築および機能的な特性
インビトロおよびインビボでのTRPCチャンネルの機能を研究するために、我々は、天然型のTRPCチャンネル活性を調節するためにドミナントネガティブのチャンネル突然変異体を使用した。TRPCチャンネルに関するこのアプローチの適用性はこれまでに実証されている(Hofmann等(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.−U.S.A.,99,7461〜7466)。我々は、部位特異的変異誘発によって、野生型ヒトTRPC3(NP_003296)のアミノ酸621〜623をアラニンに置換することによって、ドミナントネガティブTRPC3チャンネル(TRPC3DN)を作製した。このインサートを、ゲートウェイ(gateway)技術(インビトロジェン(Invitrogen),カールスルーエ,ドイツ)を用いて改変pcDNA3ベクター主鎖にクローニングした。
【0043】
この研究では、ムスカリン性M1受容体を安定して発現するHEK293系(HM1細胞)を用いた(Peralta等(1988)Nature,334,434〜437)。10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(インビトロジェン,カールスルーエ,ドイツ)が添加されたDMEM/F12(1:1)培地中で、5.5%CO2中37℃で細胞を増殖させた。この増殖培地に、G418(0.5mg/ml)を添加した。hTRPC3(U47050)、hTRPC6(AF080394)、TRPC3DN、および、eGFP(pEGFP−N1,BDバイオサイエンス(BD Biosciences),パロアルト,カリフォルニア州)、または、上記チャンネルタンパク質のYFP−タグを有する型に関するcDNAを、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン,カールスルーエ,ドイツ)を製造元の説明書に従って用いてトランスフェクションした。
【0044】
電気生理学的試験のために、35mmの培養皿中で、細胞を指定された量のcDNAでトランスフェクションし、トランスフェクションの12〜24時間後にカバーガラス上で平板培養した。平板培養して24〜48時間後の細胞を用いた。特に他の指定がなければ、パッチクランプ実験のための発現マーカーとしてeGFP(0.4μg)を共にトランスフェクションした。
【0045】
HEKA EPC10パッチクランプ増幅器、および、パルスソフトウェア(HEKA,ラムブレヒト,ドイツ)を用いて、蛍光細胞から全細胞電流を室温で記録した。標準的な細胞外の緩衝液中で2〜5M(の抵抗を有するパッチピペットを、ホウケイ酸ガラスから引き出した。保持電位を−70mVに設定し、電圧が−100から+60mVに上昇する160msの間の電流を6.6kHzでサンプリングした。全ての記録を2kHzでフィルタリングした。
【0046】
標準的な外部緩衝液は、NaClを140mM、KClを5.4mM、CaCl2を2mM、MgCl2を1mM、グルコースを10mM、HEPESを10mM含み、pHは、NaOHで7.4に調節した。標準的なピペット緩衝液は、CsOHを120mM、グルコン酸を120mM、MgCl2を2mM、CaCl2を3mM、Cs4−BAPTAを5mM、HEPESを10mM含み、pHは、グルコン酸で7.3に調節した。遊離の[Ca2+]は、CaBufプログラム(G.Droogmans,KU Leuven)を用いて〜200nMと計算された。10μMカルバコールを適用することによって、HM1細胞において受容体で活性化された電流を誘発した。
【0047】
全ての統計データを、平均±SEMとして示した。統計的分析を、シグマスタット(SigmaStat,SPSS,シカゴ,イリノイ州)を用いて行った。結果をプールし、マン・ホイットニーの順位和検定を用いて解析した。有意差のレベルをp<0.05に設定した。
【0048】
1.1:TRPC3DNは、機能的なイオン電流を運搬しない
TRPC3DNがTRPCチャンネルの負の調節因子として作用することを確立するために、全細胞パッチクランプによってチャンネル突然変異体の機能的な特性を調査した。
図1Aおよび1Bに、TRPC3またはTRPC3DN(3μg)でトランスフェクションされたHM1細胞から得られた代表的な電流の記録を示す。アセチルコリン受容体アゴニストのカルバコール(10μM)によってTRPCの電流を誘発した。カルバコール存在前(con)、および、カルバコール存在下(carb)の電流を記録した。
【0049】
平均して、TRPC3DNを発現する細胞の電流密度(1.3pA/pF,n=11)は、ネガティブコントロールとしてのLacZでトランスフェクションされた細胞(1.2pA/pF,n=10)と差がなかった。図1Aおよび1Bに示される記録によれば、ポジティブコントロールとしてのTRPC3でトランスフェクションされた細胞は、より有意に大きい電流密度(11.2pA/pF,n=11;p<0.001)を示した。従って、TRPC3DNは、注目するほどのイオン電流は運搬しなかった。
【0050】
以前の研究によれば、TRPC3は、それ自身と直接相互作用すること、さらに、TRPC6とTRPC7とも同様であることが示唆されている(Hofmann等(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,99,7461〜7466)。従って、TRPC3DNの調節作用を、野生型TRPC3とTRPC6チャンネルとを共に発現させることによって試験した。
【0051】
1.2:TRPC3DNのTRPC3およびTRPC6に対するドミナントネガティブ作用
図2Aによれば、HM1細胞を、TRPC3−YFP(7μg)、および、コントロールとしてLacZ(7μg)(白いバー)またはTRPC3DN(7μg)(灰色のバー)と共にトランスフェクションした。図2Bによれば、図2Aと同様に、HM1細胞を、TRPC6−YFP(7μg)、および、LacZまたはTRPC3DNで共にトランスフェクションした。
カルバコールで誘導された電流を−70mVで測定し、細胞の静電容量に標準化した。TRPC3DNは、TRPC3およびTRPC6のいずれによっても電流を有意に抑制した(***p<0.001)。
【0052】
2.インビボにおけるTRPC3DNの抗アテローム性動脈硬化症の作用
図2Aおよび2Bで示されるように、TRPC3DNは、TRPC3およびTRPC6チャンネルにドミナントネガティブ作用を与える。配列相同性とこれまでの報告に基づき(Hofmann等(2002),上記)、相同なTRPC7チャンネルもTRPC3DNによって抑制されると考えられる。TRPC3DN発現の作用、従って、アテローム性動脈硬化症に対するTRPC3、TRPC6およびTRPC7の阻害の作用を調査するために、アテローム性動脈硬化症のウサギの血管へのTRPC3DNのウイルス遺伝子移入を用いた。
頚動脈を、TRPC3DN、または、コントロールとしてeGFPを保持するウイルスで感染させた。遺伝子移入の8週間後、機能的および組織学的なパラメーターによって疾病状態を評価した。
【0053】
2.1:ウイルス作製および動物実験
TRPC3のドミナントネガティブ変異体をコードするアデノウイルスを作製し、増幅し、ラージスケールで精製した。その後、配列の正確さをDNA配列解析(メディジェノミクス,マルティンスリート,ドイツ)でチェックし、上記タンパク質の特異的な発現をウェスタンブロッティングで確認した。
【0054】
20週齢のニュージーランドホワイトウサギ(White New Zealand rabbit)に、1%コレステロール+5%トウモロコシ油を含む餌を供給した。給餌の1週間後、トランスジーン発現を、カテーテルを用いたウイルス遺伝子移入により誘導した(以下を参照)。実験の全経過中、コレステロール給餌を続けた。各グループにおいて少なくとも8匹の動物を個別に調査した。
【0055】
給餌を開始する前に、遺伝子移入の直前に、ならびに、遺伝子移入の2、4および8週間後に、血清コレステロール濃度を評価した。この測定は、獣医師用の血清測定(Synlab,アウグスブルグ,ドイツ)に特化した、検証済みの実験室で行った。また、LDLおよびHDLの亜分画も標準的な技術によって測定した。血清コレステロール、LDLまたはHDLコレステロールに関しては、測定された全てのタイムポイントで(各グループにおいてn=8)、コントロールとTRPC3DNを移入された動物との間で有意差は観察されなかった(p>0.05)。
【0056】
2.2:頚動脈への内皮の遺伝子移入
頚動脈への遺伝子移入のために、頚部の中線切開を行い、左総頸動脈を露出させた。2個の小さい組織を傷つけないクリップ(BIEMERの血管クリップ,FD561R)で4cmの区分を分離した。分離した区分に、TRPC3DNまたはeGFPウイルス溶液(タイターは1010pfu)の約0.2mlを小注射針(0.4×20)で注射した。インキュベート時間は20分間であった。次に、クリップを除去し、血液循環を回復させた。頚部の創傷を縫合し、これら動物を回復させた。術後の72時間は、ウサギを無痛化にした(12時間毎に、テムジェシク(R)、ブプレノルフィンを0.01mg/kg皮下注射した)。
【0057】
2.3:内皮の血管反応性の測定
実験の最後に、遺伝子移入の8週間後に、基礎的な血管の直径とアセチルコリンで誘導された血管反応性を、頚動脈の高解像度の超音波像によって測定した。
インビボで、TRPC3DN(斜線のバー)またはeGFP(白いバー)で形質導入されたアテローム性動脈硬化症のウサギ、および、健康な(アテローム性動脈硬化症に罹っていない)ウサギ(黒いバー)の頚動脈区分の管腔の血管直径の測定を行った(図3)。所定用量のアセチルコリンを注射した後、アセチルコリンで誘導された血管反応性を1分毎に4回測定した。TRPC3DNの発現は、eGFPを発現する区間に比べて、アセチルコリンで誘導された血管反応性を有意に改善した(***p<0.001)。eGFPを発現する区間では、健康なコントロールに比べて、血管反応性の減少が観察された(#p<0.01)。
【0058】
第二の実験の設定では、塩化ナトリウム溶液投与に応答して、流動によって誘導される血管反応性を試験した(図4)。
TRPC3DN(斜線のバー)またはeGFP(白いバー)で形質導入されたアテローム性動脈硬化症のウサギ、および、健康な(アテローム性動脈硬化症に罹っていない)ウサギ(黒いバー)の頚動脈部分の管腔の血管直径を測定した。塩化ナトリウム溶液100mlを投与している間(5分間かけて投与)、流動によって誘導される血管反応性を試験した。輸液80mlを投与した後、および、全ての容量が投与されてから1〜2分後に行った測定を示す。TRPC3DNの発現は、eGFPを発現する区間に比べて、流動によって誘導される血管反応性を有意に改善した(**p<0.01)。
【0059】
2.4:アテローム性動脈硬化症の組織学的なマーカーの測定
病気の進行を組織学的に評価するために、動物にヘパリンを注射しそして犠牲にした胸骨から1cmの近位で、かつ喉頭蓋からは遠位の位置で、頚動脈を切り出した。血管を生理食塩水で洗い流し、慎重に乾燥させ、衝撃凍結させた。GFP発現、HEおよびファン・ギーソン染色、ならびに、免疫組織化学の調査のために、中央領域からの動脈片を切り出した。
【0060】
残りの動脈は、脂質プラークを検出するためのスダンのマクロ染色に用いた。この目的のために、血管を生理食塩水で2分間潅流し、中央部で縦方向に切断した後に、スダンレッド染色を直接行った。その後、血管を、スダン染色溶液(アルコールおよびアセトンに溶解させたスダンIII)に移した。
【0061】
相対的なプラークの大きさを、スダンレッド染色の後、TRPC3DNまたはeGFPで形質導入された頚動脈区分の組織学的な画像解析によって測定した(図5)。TRPC3DNを(左の動脈に)投与したウサギから得た右の頚動脈を未処理コントロールとして評価した。TRPC3DNは、eGFP(**p<0.01)、および、未処理(*p<0.05)コントロールの両方に比べて、プラークの大きさを減少させた。
【0062】
アテローム性動脈硬化症の進行のその他のマーカーとして、血管内膜のマクロファージの浸潤を免疫細胞化学によって調べた。組織染色のために、脂肪を除去して調製された全ての血管の中央部から6μmの切片を切り出した。これら切片を、アセトンで、室温で10分間固定し、空気乾燥させた。次に、これらを100%メタノール中の0.6%H22で5分間浸透させ、PBSで3回洗浄し、20%ウサギ血清とインキュベートした。次に、これら切片を、抗マクロファージモノクローナル抗体(1:100,クローンRAM−11,ダコ,ハンブルグ,ドイツ)と20℃で20〜30分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。次に、これらを、適切にビオチン標識された二次抗体と20℃で30分間インキュベートし、再度PBSで3回洗浄した。その後、切片を、ABC試薬と30分間インキュベートし、PBSで洗浄し、ジアミノベンジジンとH22で10分間染色した。その後、ハリス/ヘマトキシリン/エオシンでの対比染色を行った。各スライドの血管内膜中の単独の陽性細胞を、標準的な計数手順によって、高倍率で(典型的には600倍)直接計数することによって解析を行った(図6)。
【0063】
免疫細胞化学によって、TRPC3DNまたはeGFPを発現する頚動脈の内膜層におけるマクロファージを同定した。TRPC3DNは、eGFPを発現する血管と比べて、マクロファージ浸潤の有意な減少を引き起こした(*p<0.05)。
【0064】
3.TRPC3、TRPC6およびTRPC7の調節因子のハイスループット同定のためのアッセイ方法
TRPCチャンネルの調節因子を同定するアッセイ方法を開発するために、組換えHEK293細胞系を、誘導性プロモーターの制御下でTRPC3(登録番号U47050)、または、TRPC6(登録番号AF080394)のcDNAを発現するFlp−In
T−REx系(インビトロジェン,カールスルーエ,ドイツ)を用いて作成した。チャンネルのcDNAを標準的な技術で増幅し、pcDNA5/FRT/TO(インビトロジェン,カールスルーエ,ドイツ)にクローニングした。Flp−In T−Rex293細胞をチャンネルのコンストラクトでトランスフェクションした後、安定な細胞系をハイグロマイシンで選択した。製造元の説明書に従って細胞を維持し、チャンネルの発現を、1μg/mlのドキシサイクリンの添加によって20〜30時間誘導した。実験の20〜30時間前に、96ウェルのポリ−d−リシンで被覆した黒色のウェルを含む透明な底のマイクロタイタープレート(BDバイオサイエンス,ベッドフォード,マサチューセッツ州)に、細胞を40000〜50000細胞/ウェルの密度で平板培養した。次に、細胞を洗浄し、1×HBSS(番号14065〜049,インビトロジェン)、1mMのCaCl2、20mMのHEPES、0.02%プルロニック(Pluronic)F−127(モレキュラープローブス)、および、0.05%ウシ血清アルブミンを含む緩衝液(pH=7.4)中で、2μMのfluo4am(モレキュラープローブス(Molecular Probes),ユージーン,オレゴン州)を、室温で30〜45分間ローディングした。ローディング緩衝液を除去し、細胞を試験化合物と室温で10分間インキュベートした。96ウェルの蛍光イメージングプレートリーダー(FLIPR)(モレキュラー・デバイス社、サニーベール,カリフォルニア州)を用いて、Ca2+測定を行った。TRPC3またはTRPC6を介したCa2+流入を刺激するために、我々は、チャンネルの活性化因子1−オレイル−2−アセチル−sn−グリセロール(OAG)(Hofmann等,1999)を最終濃度30〜50μMで適用した。OAGを、1×HBSS(番号14065〜049,インビトロジェン)、1mMのCaCl2、20mMのHEPES、0.02%プルロニックF−127(モレキュラープローブス)を含む緩衝液(pH=7.4)に溶解させ、細胞に添加した。あるいは、OAGを、1×HBSS(番号14065〜049,インビトロジェン)、1mMのCaCl2、20mMのHEPES、および、0.1%ウシ血清アルブミンを含む緩衝液(pH=7.4)に溶解させてもよい。
【0065】
図7Aおよび7Bによれば、ドキシサイクリン処理された細胞だけでなく、誘導されていない細胞でもOAGに対する応答が観察されたことが示される。従って、この結果は、OAGで活性化されたCa2+シグナルに、TRPC3またはTRPC6それぞれが特異的に介在していることを実証する。
【0066】
FLIPR IIを用いて、fluo−4をローディングした細胞における蛍光の変化を測定した。バーは、50μMのOAGの適用を示す。それぞれ9ウェルの平均の蛍光値±SEMを示した。蛍光値を、平均の基準の蛍光(F0)に標準化した。
【0067】
上述のアッセイ方法を用いてTRPC3またはTRPC6の調節因子を同定するために、誘導された細胞を用い、OAG適用の前に、または、その後に、ウェルに試験化合物を添加した。阻害因子の予想される作用は、蛍光の増加が少なくなることと予想された。チャンネルの活性化因子により、OAGで誘発されたシグナルのさらなる増加が生じるか、または、OAG非依存性の蛍光の増加が誘導されると予想された。SKF96365(1−(β−[3−(4−メトキシフェニル)プロポキシ]−4−メトキシフェネチル)−1H−イミダゾール−HCl)は、TRPC3およびTRPC6などのカチオンチャンネルの非選択的な阻害因子と記載されている(Boulay等(1997),J.Biol.Chem.,272,29672〜29680;Zhu等(1998),J.Biol.Chem.,273,133〜142)。
【0068】
図8Aおよび8Bで示されるように、SKF96365は、TRPC3を発現する細胞では、IC50が1.8±0.12μM(n=8)で、OAGで活性化された蛍光の応答を阻害し、TRPC6を発現する細胞では、IC50が5.04±0.17μM(n=8)で阻害した。従って、示された実施例により、TRPC3およびTRPC6調節因子を同定する本分析の能力が実証された。
【0069】
TRPC3およびTRPC6を発現する細胞において30μMのOAGにより誘導された蛍光の変化は、既定濃度のSKF96365の存在下で測定された。平均阻害値±SEMが示される。阻害は、SKF96365非存在下でのコントロールの蛍光に対する%として示される。用量応答曲線を、標準的な用量応答の方程式にフィッティングした。スプライン曲線から、複合データに対して最良の適合が示された。
【0070】
TRPC3およびTRPC6チャンネルの活性化の代替の様式として、プロテアーゼで活性化された受容体アゴニストのトリプシン(200nM)を適用して、Flp−In T−REx−TRPC3、および、Flp−In T−REx−TRPC6細胞を誘導した。この処理は、TRPC3またはTRPC6を刺激するためのGq共役受容体アゴニストの使用の例示である。適用後、時間60秒で、トリプシンは、誘導されたFlp−In T−REx−TRPC3、および、Flp−In T−REx−TRPC6細胞において、誘導されていないコントロールより有意に大きい蛍光の増加を誘導した(表1)。従って、Gq共役受容体アゴニスト(例えばトリプシン)はまた、TRPC3およびTRPC6応答を刺激する分析で用いてもよい。
【0071】
【表1】

【0072】
値は平均±SEMとして示される。誘導グループと非誘導なしグループとでは、有意に異なっていた(p<0.001,t検定)。
【0073】
【化1】

【0074】
【化2】

【0075】
【化3】

【0076】
【化4】

【0077】
【化5】

【0078】
【化6】

【0079】
【化7】

【0080】
【化8】

【0081】
【化9】

【0082】
【化10】

【0083】
【化11】

【0084】
【化12】

【0085】
【化13】

【0086】
【化14】

【0087】
【化15】

【0088】
【化16】

【0089】
【化17】

【0090】
【化18】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】TRPC3DNは、機能的なイオン電流を運搬しないことを示す図である。
【図2】TRPC3DNのTRPC3およびTRPC6に対するドミナントネガティブ作用を示す図である。
【図3】アテローム性動脈硬化症のウサギの頚動脈におけるアセチルコリンで誘導された血管反応性に対するTRPC3DNの作用を示す図である。
【図4】TRPC3DNを発現する頚動脈部分における流動によって誘導された血管反応性の音波検査による評価を示す図である。
【図5】TRPC3DNを発現する頚動脈部分におけるアテローム斑の大きさを示す図である。
【図6】アテローム性動脈硬化症の頚動脈における平均マクロファージ密度に対するTRPC3DN発現の作用を示す図である。
【図7】FLIPR技術を用いた、誘導性のTRPC3およびTRPC6細胞系におけるOAGで活性化されたCa2+シグナルの検出を示す図である。
【図8】FLIPR分析によって、ドキシサイクリンで誘導された細胞系におけるSKF96365によるTRPC3およびTRPC6阻害に関するIC50を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓血管疾患を治療する医薬品を製造するための、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の使用。
【請求項2】
TRPCチャンネルは、TRPC3チャンネル、TRPC6チャンネル、および/または、TRPC7チャンネルから選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
TRPC3のアミノ酸配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列であり、TRPC6のアミノ酸配列は、配列番号5に記載のアミノ酸配列であり、TRPC7のアミノ酸配列は、配列番号9に記載のアミノ酸配列である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
不活性化した突然変異体は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するTRPC3DN、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するTRPC6DN、または、配列番号11に記載のアミノ酸配列を有するTRPC7DNである、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
TRPC3をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC6のヌクレオチドの配列は、配列番号6に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC7のヌクレオチドの配列は、配列番号10に記載のヌクレオチド配列である、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
TRPC3DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC6DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号8に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC7DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号12に記載のヌクレオチド配列である、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
心臓血管疾患を治療するための医薬品としてのTRPCチャンネルの調節因子を発見するための、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の使用。
【請求項8】
TRPCチャンネルは、TRPC3チャンネル、TRPC6チャンネル、および/または、TRPC7チャンネルから選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
TRPC3のアミノ酸配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列であり、TRPC6のアミノ酸配列は、配列番号5に記載のアミノ酸配列であり、TRPC7のアミノ酸配列は、配列番号9に記載のアミノ酸配列である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
不活性化した突然変異体は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するTRPC3DN、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するTRPC6DN、または、配列番号11に記載のアミノ酸配列を有するTRPC7DNである、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
TRPC3をコードするヌクレオチド配列は、配列番号2に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC6のヌクレオチドの配列は、配列番号6に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC7のヌクレオチドの配列は、配列番号10に記載のヌクレオチド配列である、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
TRPC3DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC6DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号8に記載のヌクレオチド配列であり、TRPC7DNをコードするヌクレオチド配列は、配列番号12に記載のヌクレオチド配列である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列と、試験化合物とを接触させ、TRPCチャンネル、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルもしくは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列に対する試験化合物の影響を測定するか、または、検出する、請求項5〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
心臓血管疾患は、アテローム性動脈硬化症である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
TRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体、または、TRPCチャンネルまたは不活性化した突然変異体をコードするヌクレオチド配列の調節因子をスクリーニングする方法であって、
(a)TRPCまたはそれらの不活性化した突然変異体を発現する細胞を接触させる工程、
(b)該細胞と試験化合物とを接触させる前に、それと同時に、または、その後に、チャンネルの活性化因子によって、Ca2+流入を刺激する工程、および、
(c)TRPCチャンネルの活性の変化を測定または検出する工程、
を含む、上記方法。
【請求項16】
(d)試験化合物の非存在下でTRPCチャンネルの活性の変化を比較することによって、心臓血管疾患に対する活性を有する試験化合物を選択する工程
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞におけるTRPCチャンネル、または、それらの不活性化した突然変異体の発現は、誘導性プロモーターによって制御される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
誘導性プロモーターは、テトラサイクリン誘導性プロモーターから選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
細胞は、蛍光細胞である、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
細胞は、MDCK、HEK293、HEK293T、BHK、COS、NIH3T3、Swiss3T3、または、CHO細胞から選択される、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
TRPCチャンネルの活性は、イオンの流れ、特にCa2+の流れにおける変化を測定または検出することによって測定または検出され、該測定または検出は、好ましくはパッチクランプ技術、全細胞電流、放射標識したイオンの流れ、または、特に蛍光、好ましくは電位感受性色素またはイオン感受性色素を用いた蛍光によってなされる、請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
チャンネルの活性化因子は、ジアシルグリセロール、特に1−オレイル−2アセチル−sn−グリセロール(OAG)、Gq共役受容体アゴニスト、特にフェニレフリン、特にトリプシン、受容体チロシンキナーゼを刺激するアゴニスト、特に上皮増殖因子(EGF)、または、ジアシルグリセロールを生成する酵素、特にホスホリパーゼ、または、それらの活性化因子から選択される化合物である、請求項15〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
TRPCは、TRPC3、TRPC6、TRPC7、または、それらの不活性化した突然変異体から選択される、請求項15〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
不活性化した突然変異体は、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するTRPC3DN、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するTRPC6DN、または、配列番号11に記載のアミノ酸配列を有するTRPC7DNである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
試験化合物は、化学物質ライブラリーの形態で提供される、請求項15〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
方法は、アレイ上で行われる、請求項15〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
方法は、ロボットシステムで行われる、請求項15〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
方法は、試験化合物をハイスループットスクリーニングする方法である、請求項15〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
検出された試験化合物は、阻害因子である、請求項15〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
細胞は、マルチウェルの試験プレートのウェル上にシーディングされる、請求項15〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
心臓血管疾患を治療するための医薬品の製造方法であって:
(a)請求項15〜30のいずれか一項に記載の方法を行う工程、
(b)心臓血管疾患を治療するのに適した検出された試験化合物を単離する工程、および、
(c)該検出された試験化合物を、1またはそれ以上の製薬上許容できるキャリアーまたは補助剤と共に製剤化する工程、
を含む、上記方法。
【請求項32】
心臓血管疾患は、アテローム性動脈硬化症である、請求項15〜31のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−526905(P2008−526905A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550707(P2007−550707)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/013977
【国際公開番号】WO2006/074802
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(399050909)サノフィ−アベンティス (225)
【Fターム(参考)】