説明

急性相反応タンパク質転写抑制活性剤。

【課題】 安全な食品素材由来である急性相反応タンパク質転写抑制剤、及び、急性相反応タンパク質の発現によって引き起こされる疾患の予防及び/又は改善・処置用組成物を提供する。
【解決手段】 本発明により、甘草疎水性抽出物を有効成分とする急性相反応タンパク質転写抑制剤が得られ、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患の予防及び/又は改善・処置用組成物が提供される。本発明の上記の組成物は、安全であり、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患の予防、及び/又は改善・処置に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘草疎水性抽出物を有効成分とする急性相反応タンパク質転写抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
急性相反応タンパク質は、急性期タンパク質とも呼ばれ、炎症の急性期に血中に増加するタンパク質の総称である。疎血再還流障害、血管狭窄、潰瘍性大腸炎、クローン病、リウマチ、糖尿病性腎症、全身性炎症応答症候群、感染症などの炎症性疾患では血液中に急性相反応タンパク質が増加してくることが知られている。また、その症状の悪化にも関与していることが知られている。
【0003】
代表的な急性相反応タンパク質として、C反応性タンパク質(C−reactive Protein:CRP)、血清アミロイドA(Serum Amyloid A:SAA)、ハプトグロビン、フィブリノーゲン、セルロプラスミンなどが挙げられる。
【0004】
CRPは、分子量約105kDaでIgMのように5つのサブユニットが環状に結合した構造をとっている。補体と協調して損傷を受けた細胞や組織に結合し、好中球や単球を活性化し損傷を広げることが確認されている(非特許文献1)。また、急性相反応タンパク質は感染症や炎症の診断にも指標として使われている。その上、CRPは冠動脈疾患の予知因子としても利用されている。
【0005】
SAAは、主に肝臓で産生される分子量12kDaの急性相反応タンパク質であり、慢性炎症性疾患に続いて発生するAAアミロイドーシスで組織に沈着するアミロイドAタンパク質の血中前駆体として発見された。SAAには4種のアイソタイプ(SAA1、SAA2、SAA3、SAA4)が存在している(ヒトではSAA3は発現しない。)。SAA1およびSAA2はIL−1、IL−6、TNFαなどの炎症性サイトカインに応答する急性相反応タンパク質であり、そのレベルは損傷、感染、炎症に応じて1000倍までにも増大しうる。また、クローン病の悪化と相関があることが知られている(非特許文献2)。
【0006】
ハプトグロビンは血液中のヘモグロビンと特異的に結合し複合体を形成する糖蛋白質である。形成した複合体はクッパー細胞などに速やかに取り込まれ、分解処理されることが知られている。また、急性の炎症性病変により血中で増加する急性相反応タンパク質である。フィブリノーゲンは、分子量約340kDaの糖蛋白で、生体内半減期は3〜4日である。約80%は血漿中に、残りが組織に分布している。フィブリノーゲンは血液凝固第I因子と呼ばれ、血液凝固の最終段階でトロンビンの作用によってフィブリンとなるフィブリノーゲンはゲル化してフィブリンとなることで、血栓生成を引き起こす。また加齢や炎症にともなって増加する傾向があることが知られている。セルロプラスミンも肝臓で合成される分子量約132kDaのα2-グロブリンに属する急性相反応タンパク質である。血清中の銅の90〜95%はこのタンパク質中に含まれている。
【0007】
以上のように、急性相反応タンパク質は炎症性疾患の悪化に関与しており、また、好中球や単球を活性化することにより発生する組織損傷等に関連する疾患を引き起こす。これらの疾患を処置するために、急性相反応タンパク質を除去する炎症性疾患治療用カラムが知られている(特許文献1)。しかし、体外循環治療であるため身体への負担が大きい。このため、日常的に摂取でき、かつ、副作用のない急性相反応タンパク質の量を減弱することのできる組成物が望まれている。
【0008】
上記に鑑み、急性相反応タンパク質転写抑制剤は、CRPやSAAなどの急性相反応タンパク質の発現を抑制することによって、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患を予防及び緩和することが期待される。
【0009】
甘草はマメ科カンゾウ属(Glycyrrhiza属)の植物であり、食用や医薬用(生薬)として利用されており、主な品種としてグリキルリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza glabra)、G.ウラレンシス(G. uralensis)、G.インフラータ(G. inflate)などが挙げられる。いずれの品種にも親水性成分であるグリチルリチン(グリチルリチン酸)は含まれているが、疎水性成分のフラボノイドは品種によって特異的な化合物が含まれている。
【0010】
甘草から得られる抽出物のうち、甘草フラボノイドを多く含み、グリチルリチン含有が極微量である甘草疎水性抽出物は、マルチプル・リスク・ファクター症候群の予防及び/又は改善に有用であることが見いだされている(特許文献2)。さらに最新の研究において、この甘草疎水性抽出物がPPARγリガンド活性を有し、その活性成分はフラボノイドであることが見いだされている(特許文献3)。その中でも、G.グラブラ由来の抽出物に含有される特徴的なフラボノイドであるグラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン及びヒスパグラブリジンBが高いPPARγリガンド活性を有していることが見いだされている(特許文献3)。
【0011】
一方、甘草疎水性フラボノイドを中鎖脂肪酸トリグリセライドに溶解し、その甘草疎水性フラボノイド製剤を酸化防止剤、抗菌剤、酵素阻害剤、抗腫瘍剤、抗アレルギー剤、抗ウイルス剤として利用している(特許文献4)。
【特許文献1】特開2002−35117
【特許文献2】WO02/47699
【特許文献3】特願2002−226486
【特許文献4】特許2794433号
【非特許文献1】J. Leukocyte Biol.,1992年,52巻,449〜455頁
【非特許文献2】Hepatogastroenterology,1997年,44巻,90〜107頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、天然物由来の急性相反応タンパク質転写抑制剤に関するものであり、CRPやSAAなどの急性相反応タンパク質の発現を抑制することによって、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患を予防及び緩和することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、甘草疎水性抽出物、とりわけ甘草疎水性抽出物を含有する油脂に、急性相反応タンパク質転写抑制効果があることを見いだした。さらに該甘草疎水性抽出物が、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患の予防及び緩和効果を有することを見いだし、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、甘草疎水性抽出物を有効成分とする急性相反応タンパク質転写抑制剤および該急性相反応タンパク質転写抑制剤を含有する組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、上記の急性相反応タンパク質転写抑制剤を有効成分とする、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患を予防・緩和・処置する作用を有する組成物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、天然物由来の急性相反応タンパク質転写抑制剤、及びそれを有効成分として含有する組成物が提供される。本発明の組成物は、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患を予防・緩和・処置する上で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0017】
本発明でいう急性相反応タンパク質転写抑制剤とは、急性相反応タンパク質の遺伝子の発現を抑制する活性を有している化合物を含む物質である。本発明の急性相反応タンパク質転写抑制剤は、急性相反応タンパク質の発現を低下させることで、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患を予防・緩和・処置することができる。即ち、本発明の急性相反応タンパク質転写抑制剤は、急性相反応に関わる各種遺伝子を抑制することができる。
【0018】
前記各種遺伝子とは、例えば、CRP、SAA、ハプトグロビン、フィブリノーゲン、セルロプラスミンなどの遺伝子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
急性相反応タンパク質転写抑制活性は、例えばDNAマイクロアレイ、ノーザンブロット、RT−PCRなどによって測定することができる。これらの測定系において、サンプルの活性はコントロール食摂食個体のmRNAと比較し、低い発現量を示すものを急性相反応タンパク質転写抑制活性ありと評価する。
【0020】
本発明の急性相反応タンパク質転写抑制剤は、甘草疎水性抽出物を有効成分としており、急性相反応タンパク質転写抑制活性を発揮できる範囲の有効量を含んでいればよい。
【0021】
甘草から本発明の疎水性抽出物を得る方法は、例えば、甘草を有機溶媒によって抽出による方法が挙げられる。さらに、当該抽出物は、飲食品や医薬品として不適当な不純物を含有しない限り、抽出液のまま、又は粗抽出物あるいは半精製抽出物として本発明に使用できる。抽出に用いる溶媒は、食品、食品添加物、医薬品などの製造、加工に使用できる安全なものが好ましく、例えば、炭素数1〜4のアルコールおよびそれらの水溶液、アセトン、グリセリン、酢酸エチル、プロピレングリコールなどが挙げられ、また、これらのうち2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、抽出後の溶媒除去が容易な点からメタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒が好ましく、残留溶媒の安全性の観点からエタノールがより好ましい。さらに、急性相反応タンパク質転写抑制活性の強さの点から、濃度20容量%以上のエタノールなど炭素数1〜4のアルコール水溶液が好ましく、濃度90容量%以上のエタノールなど炭素数1〜4のアルコール水溶液がさらに好ましい。また、2種以上の混合溶媒として水を用いる場合には、水は20%以下の使用が好ましい。
【0022】
溶媒抽出する場合、甘草を、1〜20倍量の上記溶媒に浸し、攪拌又は放置し、静置分離、濾過又は遠心分離などにより抽出液を得ることができる。次いで、得られた抽出液から溶媒を除去してもよい。抽出する際の甘草は、生のまま、または乾燥させたものでもよいが、保存の点から乾燥させたものが好ましい。また、上記甘草の形態は、原型、粉砕したもの、切断したもの又は粉末のいずれを用いてもよい。抽出温度は、一般に−20〜100℃、普通1〜90℃、好ましくは20〜80℃で好適に実施できる。抽出時間は、普通0.1時間〜1ヶ月、好ましくは0.5時間〜7日間で好適に実施できる。
【0023】
本発明において、甘草の疎水性抽出物を得るために用いる植物部位は、特に限定されず、甘草の全草、葉、茎、根、花、種子等のいずれを用いてもよい。
【0024】
本発明において、甘草疎水性抽出物は抽出物のまま使用してもよいが、さらにカラム処理、脱臭処理、脱色処理などにより粗精製又は精製したものを使用してもよい。
【0025】
本発明において、甘草疎水性抽出物は、その有効成分として、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3’−ヒドロキシ−4’−O−メチルグラブリジン、4’−O−メチルグラブリジン、およびヒスパグラブリジンBからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物またその塩、エステルもしくは配糖体を含有していることが好ましい。該化合物の中でも、グラブリジンを含有し、かつグラブレン、グラブロール、3’−ヒドロキシ−4’−O−メチルグラブリジン、4’−O−メチルグラブリジン、およびヒスパグラブリジンBからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有することが好ましい。さらに、グラブリジン及びグラブレンを含有し、かつグラブロール、3’−ヒドロキシ−4’−O−メチルグラブリジン、4’−O−メチルグラブリジン、およびヒスパグラブリジンBからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を含有することが好ましい。とりわけ、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3’−ヒドロキシ−4’−O−メチルグラブリジン、4’−O−メチルグラブリジン、およびヒスパグラブリジンBをすべて含有していることが最も好ましい。
【0026】
本発明で使用されるグラブリジン(glabridin)、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン(3'-hydroxyl-4'-O-methylglabridin)、4'−O−メチルグラブリジン(4'-O-methylglabridin)、ヒスパグラブリジンB(hyspaglabridin B)はイソフラバン(isoflavan)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(1)にて表される化合物である。
【0027】
【化1】

〔グラブリジンはR1=H、R2=OH、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジンはR1=OH、R2=OCH3、4'−O−メチルグラブリジンはR1=H、R2=OCH3、ヒスパグラブリジンBはR1〜R2が−CH=CH−C(CH32−O−で六員環を構成する。〕
本発明で使用されるグラブレン(glabrene)は、イソフラブ−3−エン(isoflav-3-ene)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0028】
【化2】

本発明で使用されるグラブロール(glabrol)は、フラバノン(flavanone)に分類されるフラボノイドであり、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0029】
【化3】

グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBは、甘草の中でもグリキリーザ・グラブラ(Glycyrrhiza glabra)に特異的に含まれる成分であり、他品種にはほとんど含まれていない。ただし、G.グラブラと他品種との雑種においては含まれる場合もある。該化合物は、ODSなどの逆相カラムを用いたHPLC分析により、他のフラボノイド成分と分離して検出、定量することができる。上記化合物の脂肪酸エステルなどのエステルもまた、本発明で好適に使用しうる。該エステルは、任意の有機または無機酸とで形成することができる。本発明のために好適には、飲食用、医薬用または美容用に好適な酸を使用しうる。好ましくは脂肪酸を使用しうる。該脂肪酸は限定しないが、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸などの長鎖脂肪酸、および酢酸、酪酸などの短または中鎖脂肪酸が含まれる。
【0030】
上記化合物の塩もまた、本発明で好適に使用しうる。上記化合物の溶液を、公的な飲食用、医薬用または美容用に許容される酸、例えば塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、またはそのリン酸の溶液と混合することによって形成しうる。さらに、上記成分が酸性部分を有する場合、好適な飲食用、医薬用または美容用に許容されるその塩は、アルカリ金属塩、例えばナトリウム、カリウム塩;アルカリ土類金属塩、例えばカルシウムまたはマグネシウム塩;および好適な有機配意子、例えば第四級アンモニウム塩とで形成される塩を含む。
【0031】
上記化合物の1または2以上の水酸基を介して糖部分に結合されたその配糖体も、本発明で好適に使用しうる。該配糖体の糖成分は、任意の糖であり得る。該糖部分は限定されないが、単糖類、二糖類、三糖類、オリゴ糖類および多糖類を含みうる。
【0032】
上記化合物は、少なくとも1つの不斉中心を有する場合、それらはエナンチオマーとして存在し得る。上記化合物が少なくとも2以上の不斉中心を有する場合、それらは、ジアステレオ異性体として存在し得る。そのような異性体およびその任意の割合の混合物は、本発明の範囲内に包含される。上記化合物は必要に応じて置換されていても良い。
【0033】
本発明において、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBを得る方法は、特に限定されないが、G.グラブラ種の甘草より得ることができる。該化合物を甘草から得る場合、その方法は特に限定されないが、エタノール、酢酸エチル、アセトンなどの有機溶媒による抽出で得られる甘草疎水性抽出物に該化合物は含まれる。得られた甘草疎水性抽出物をそのまま用いてもよいし、該化合物の含有量を高めるためにさらに精製を行ってもよい。
【0034】
また、該化合物は、その他植物等の天然由来、化学合成あるいは培養細胞などにより生合成した化合物のいずれも甘草疎水性抽出物に準じて本発明において使用することができる。また、該化合物は、精製したものを使用することができるが、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などとして不適当な不純物を含有しない限り粗精製したものを使用することもできる。
【0035】
本発明において、上記甘草疎水性抽出物はそのまま使用することも出来るが、好ましくは油脂に溶解した油脂組成物として用いられる。
【0036】
本発明で使用される油脂は、好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセライドを含むグリセリン脂肪酸エステルであって、より好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセライドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステル、さらに好ましくは中鎖脂肪酸トリグリセライドを70重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルである。ここでの中鎖脂肪酸トリグリセライドは、炭素原子数6〜12の脂肪酸を構成脂肪酸とし、その脂肪酸の構成比率は特に限定されないが、炭素原子数8〜10の脂肪酸の構成比率は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。とりわけ、20℃での比重が0.94〜0.96、20℃での粘度が23〜28cPの中鎖脂肪酸トリグリセライドがさらに好ましい。また、中鎖脂肪酸トリグリセライドは、天然由来のものやエステル交換などにより調製したものなど、いずれも使用することができる。
【0037】
また、本発明で使用される油脂は、好ましくは部分グリセライドを含むグリセリン脂肪酸エステルであって、より好ましくは部分グリセライドを50重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステル、さらに好ましくは部分グリセライドを70重量%以上含むグリセリン脂肪酸エステルである。ここでの部分グリセライドとは、ジグリセライド(1,2−ジアシルグリセロール、1,3−ジアシルグリセロール)又はモノグリセライド(1−モノアシルグリセロール、2−モノアシルグリセロール)であり、いずれを用いても良いし、両者が混合されたものを用いても良いが、加工性の観点からジグリセライドが好ましい。また、部分グリセライドは、天然由来のものやエステル交換などにより調製したものなど、いずれも使用することができる。
【0038】
さらに、本発明で使用される油脂は、上記の中鎖脂肪酸トリグリセライドと部分グリセライドが混合されたものを用いても良いし、中鎖脂肪酸の部分グリセライドを用いることもできる。
【0039】
本発明において、甘草疎水性抽出物を油脂に溶解する方法は、特に限定されず、通常の撹拌又は混合などの操作により実施できる。甘草疎水性抽出物中の不純物の種類やその含有量によっては、撹拌又は混合などの操作により該化合物を油脂に溶解した後に、濾過又は遠心分離などの操作により油脂に不溶な不純物を除去することが望ましい。また、甘草疎水性抽出物を用いる場合、予めエタノールなどの有機溶媒に溶解し、その溶液と油脂を混合した後に、有機溶媒を留去することもできる。甘草疎水性抽出物として、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBなどが高純度に含まれるものを用いる場合や、該化合物の精製品を用いる場合、容易に均一な溶液を得ることができる。
【0040】
本発明の油脂組成物中における甘草疎水性抽出物の割合は特に限定されないが、その有効成分として、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBを含む場合には、該化合物が総量として約0.01〜30重量%含有されていることが好ましく、さらに約0.1〜30重量%含有されていることがより好ましく、とりわけ約1〜10重量%含有されていることが特に好ましい。約30重量%以上では該化合物を油脂に溶解できない場合がある。また、約0.01重量%以下では本発明の効果が充分に発揮されない場合がある。
【0041】
本発明の急性相反応タンパク質転写抑制活性を有する組成物は、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患を予防するために有用であるが、これらの疾患を改善・処置することも可能である。
【0042】
本発明の急性相反応タンパク質転写抑制剤及び該急性相反応タンパク質転写抑制剤を含有する組成物は、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患の予防・処置用組成物であり、飲食用及び医薬用として利用することができ、その形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、機能性食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいはOTCなど容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品などとして利用できる。
【0043】
本発明の組成物における前記急性相反応タンパク質転写抑制剤の含有量は、特に限定されないが、抽出された固形分重量として、組成物重量基準で好ましくは0.001〜99.999重量%、より好ましくは0.01〜99.9重量%である。
【0044】
本発明の急性相反応タンパク質転写抑制剤および、これを有効成分とする急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患の予防及び/又は改善・処置用組成物は、そのまま直接摂取することもできるし、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用しやすい形態に成型して摂取することもできる。また、栄養強化を目的として、ビタミンA、C、D、Eなどの各種ビタミン類を添加、併用して用いることもできる。これらの成型剤における本発明の急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患の予防作用を有する組成物の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは10〜90重量%である。さらに、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。これら飲食用の、炎症応答から生じる病的様態の予防作用を有する組成物を摂取する場合、その摂取量は当該抽出物として成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは1〜300mg/kg体重である。
【0045】
医薬品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。これら製剤の投与量としては、当該抽出物換算で成人一人一日当たり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【0046】
医薬部外品として用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
アフガン産甘草(G.グラブラ)9.85kgからエタノール抽出(濃度99.5%容量のエタノール49.25L使用、45℃、2時間、2回抽出)、次いで濃縮により濃縮液4.4Lを得た。そのうち3Lをさらに濃縮して、活性炭処理、濃縮により甘草疎水性抽出物を含有したエタノール溶液811.2gを得た。濃縮液の残り1.4Lは比較例1に使用した。
【0049】
上記のエタノール溶液629.2g(甘草疎水性抽出物125.8gを含有する)と中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)であるアクターM−2(理研ビタミン(株):脂肪酸組成はC8:C10=99:1)187.6gを混合し、約80℃に保温しながら約1時間撹拌した後、減圧濃縮によりエタノールを除去した。吸引ろ過により不溶分を分離し、ろ別後のろ液にMCT45.7gを更に添加して、MCT溶液を297.0g得た。
【0050】
得られたMCT溶液1gをHPLC用メタノールに溶解し、全量を100mlとした。この溶液を試料として下記の条件にてHPLC分析を行った結果、MCT溶液1gあたりにグラブレン、グラブリジン、グラブロール、4'−O−メチルグラブリジンがそれぞれ6.6mg、30.8mg、12.6mg、3.7mg含まれていた。
【0051】
HPLC分析条件
分析カラムは、J’sphere ODS−H80,4.6×250mm(ワイエムシィ)をカラム温度40℃にて使用した。移動相は、20mMリン酸水溶液に対してアセトニトリルの比率を分析開始から20minまで35%で一定とし、20min以降75min後に70%となるように一定の比率で上昇させ、75minから80minまで80%で一定とするグラジエント条件で、流速1ml/minとした。注入量は20μlとし、検出波長は254nmとした。各化合物の保持時間は、グラブレンが40.0min、グラブリジンが50.2min、グラブロールが58.3min、4'−O−メチルグラブリジンが66.8minであった。
【0052】
(比較例1)
実施例1にて使用した濃縮液を乾固・粉砕して得られた甘草疎水性抽出物100mgをHPLC用メタノールに溶解し、全量を100mlとした。この溶液を試料としてHPLC分析を行った結果、甘草疎水性抽出物1g当たりグラブレン、グラブリジン、グラブロール、4'−O−メチルグラブリジンはそれぞれ16.5mg、90.4mg、34.1mg、9.3mg含まれていた。
【0053】
(比較例2)
実施例1にて使用したエタノール溶液100mgをHPLC用メタノールに溶解し、全量を20mlとした。この溶液を試料としてHPLC分析を行った結果、エタノール溶液1gあたりグラブレン、グラブリジン、グラブロール、4'−O−メチルグラブリジンはそれぞれ3.4mg、18.7mg、7.1mg、1.9mg含まれていた。
【0054】
(実施例2)
動物試験
C57BL/6Jマウス(雌、8週齢)に脂肪分を30%含む餌(高脂肪・高糖分食)を自由摂取にて8週間与えた。なお餌には、カゼイン25重量%、コーンスターチ14.869重量%、シュークロース20重量%、大豆油2重量%、ラード14重量%、牛脂14重量%、セルロースパウダー5重量%、AIN−93ミネラル混合3.5重量%、AIN−93ビタミン混合1重量%、重酒石酸コリン0.25重量%、第三ブチルヒドロキノン0.006重量%、L−シスチン0.375重量%、の組成である半固形化精製試料(オリエンタル酵母(株))を用いた。
【0055】
その後、マウスを2群(各群10匹)に分け、1群(サンプル投与群)には実施例1のMCT溶液を添加した粉末高脂肪食・高糖分食(成分は上記と同様)を試料として、他の群(コントロール群)にはMCTのみを添加した粉末高脂肪食・高糖分食(成分は上記と同様)を試料として、それぞれ自由摂取にて8週間与えた。
【0056】
サンプル投与後、約16時間絶食した後エーテル麻酔下で全採血した。その後解剖し、肝臓の一部をRNAlater(Ambion社)中に浸し−80℃にて保管した。サンプル投与群とコントロール群から任意の3個体の肝臓から以下の方法によりトータルRNAを得た。
【0057】
トータルRNAの調製
凍結したRNAlater中の組織片を氷中で解凍後、半量をTRIzol試薬(Invitrogen社)の入った1.5mlチューブに移してホモジナイズを行った。沈殿物を除去した後、クロロホルムを添加して、RNAが溶解している水層を分離した。次にイソプロパノールによりRNAを析出させ、そのペレットを75%エタノールで洗浄した。その後、ペレットをRNase Free Waterで溶解した。抽出したトータルRNAのうち、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。それぞれ3個体のトータルRNAを等量混合し、コントロール群とサンプル投与群の遺伝子発現量の差異をMouse Oligo Microarray(Agilent社)を用いた競合ハイブリダイゼーションで解析した。
【0058】
競合ハイブリダイゼーション
上記の方法によって得たトータルRNA(10μg)を、aminoallyl−dUTP存在下で逆転写酵素反応を行い、aminoallyl−dUTPが導入されたcDNAを得た。得られたcDNAとCy−dyeとのカップリング反応にてcDNAを蛍光標識した。なお、コントロール群由来のcDNAをCy3にて、サンプル投与群由来のcDNAをCy5にて標識した。Cy3またはCy5で標識したcDNAを等量ずつ、60℃で17時間DNAマイクロアレイ(Agilent Mouse Oligo Microarray G4121A)に結合させ、DNA Microarray Scanner(Agilent社)にてスキャニングを行った。
【0059】
遺伝子発現解析
スキャニングにて得られた画像データから数値データへの変換は専用ソフトFeature Extraction(Agilent社)を用いて行った。negative controlの蛍光値をバックグラウンドとし各スポットの蛍光値から差し引いた。有効スポットの判定基準としては、Agilent社の基準に従い、シグナル値がバックグラウンドの標準偏差の2.6倍以上であり、かつスポットの蛍光強度が十分均一であるスポットを有意と判定した。コントロール群とサンプル投与群のノーマリゼーションは、全体のスポットを用いて正規化する方法(グローバルノーマリゼーション)を用いた。
【0060】
サンプル投与によって発現量が変動した急性相反応関連遺伝子の発現比を求めた。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

表1より明らかなように、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3'−ヒドロキシ−4'−O−メチルグラブリジン、4'−O−メチルグラブリジン、ヒスパグラブリジンBを含むMCT溶液摂取により急性相反応タンパク質(CRP・SAA・ハプトグロビン・フィブリノーゲン・セルロプラスミン)の発現が抑制された。
【0062】
(実施例3) ソフトカプセル剤の製造(1)
実施例1のMCT溶液を、ロータリー式ソフトカプセル製造装置を用いてゼラチン皮膜に圧入し、内容量350mgのソフトカプセル剤を得た。このカプセル当たりグラブレン、グラブリジン、グラブロール、4'−O−メチルグラブリジンはそれぞれ2.3mg、10.8mg、4.4mg、1.3mg含まれていた(総量18.8mg、含有量5.4重量%)。
【0063】
(実施例4) ソフトカプセル剤の製造(2)
MCT(アクターM−2、理研ビタミン)57重量部にジグリセリンモノオレイン酸エステル(DO−100V、理研ビタミン)3重量部を溶解し、これに実施例1のMCT溶液40重量部を撹拌しながら添加して溶液を調製した。
【0064】
この溶液を、ロータリー式ソフトカプセル製造装置を用いてゼラチン皮膜に圧入し、内容量350mgのソフトカプセル剤を得た。このカプセル当たりグラブレン、グラブリジン、グラブロール、4'−O−メチルグラブリジンはそれぞれ0.9mg、4.3mg、1.8mg、0.5mg含まれていた(総量7.5mg、含有量2.1重量%)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は、医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる急性相反応タンパク質転写抑制剤および該急性相反応タンパク質転写抑制剤を含有する組成物を得ることができる。
【0066】
本発明の急性相反応タンパク質転写抑制剤は、優れた急性相反応タンパク質転写抑制活性を有しており、急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷等に関連する疾患の予防及び/又は改善・処置に有効である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草疎水性抽出物を有効成分として含有することを特徴とする組織損傷惹起性急性相反応タンパク質転写抑制剤。
【請求項2】
甘草疎水性抽出物が、甘草を濃度90容量%以上のエタノール水溶液で抽出して得られる抽出物であることを特徴とする請求項1記載の組織損傷惹起性急性相反応タンパク質転写抑制剤。
【請求項3】
甘草疎水性抽出物が、グラブレン、グラブリジン、グラブロール、3’−ヒドロキシ−4’−O−メチルグラブリジン、4’−O−メチルグラブリジン、及びヒスパグラブリジンBからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物、またはその塩、またはそのエステル、もしくはその配糖体を有効成分として含有することを特徴とする請求項1又は2記載の組織損傷惹起性急性相反応タンパク質転写抑制剤。
【請求項4】
急性相反応タンパク質が、血清アミロイドA1及び/又は血清アミロイドA2であることを特徴とする請求項1〜3記載の組織損傷惹起性急性相反応タンパク質転写抑制剤。
【請求項5】
急性相反応タンパク質が、C反応性タンパク質であることを特徴とする請求項1〜3記載の組織損傷惹起性急性相反応タンパク質転写抑制剤。
【請求項6】
急性相反応タンパク質が、ハプトグロビン、フィブリノーゲン及びセルロプラスミンからなる群より選ばれた1種以上のタンパク質であることを特徴とする請求項1〜3記載の組織損傷惹起性急性相反応タンパク質転写抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜6記載の組織損傷惹起性急性相反応タンパク質転写抑制剤を含有する油脂組成物。
【請求項8】
油脂が中鎖脂肪酸トリグリセライド及び/または部分グリセライドを含むグリセリン脂肪酸エステルである請求項7項記載の油脂組成物。
【請求項9】
急性相反応タンパク質によって引き起こされる組織損傷に関連する疾患の予防又は改善に用いられることを特徴とする請求項7又は8記載の油脂組成物。
【請求項10】
組織損傷に関連する疾患が、疎血再還流障害、血管狭窄、潰瘍性大腸炎、クローン病、リウマチ、糖尿病性腎症、全身性炎症応答症候群及び感染症からなる群より選ばれる1つ以上の疾患である請求項9記載の油脂組成物。



【公開番号】特開2007−63161(P2007−63161A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249103(P2005−249103)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】