説明

急速に硬化する化学的固定系及びその使用

ラジカルにより硬化するオレフィン系反応性樹脂調製物、硬化剤及び場合により添加剤を含有し、前記反応性樹脂調製物は、1種以上の硬化性オレフィン系反応性樹脂と、1種以上のアミン系促進剤と、1種以上の非フェノール系(嫌気性)抑制剤と、場合により1種以上のフェノール系抑制剤とから構成されていて、かつ硬化剤としては、開始剤としての少なくとも1種のペルオキシドを有するような硬化剤が考慮され、前記反応性樹脂調製物は1種以上のアミン系の促進剤として少なくとも1種の高活性アミン系促進剤を、前記反応性樹脂調製物の質量に対して少なくとも1.5質量%の量で有し、促進剤対フェノール系抑制剤の質量比は>5であり、かつ前記反応性樹脂調製物は、1種以上の非フェノール系抑制剤として、硬化時間にほとんど影響を与えない少なくとも1種の非フェノール系抑制剤を5質量%まで有し、かつ硬化剤中に少なくとも1%のペルオキシドが考慮されている、アンカー部材用の急速に荷重に耐える化学的固定系。この極めて急速に硬化する化学的固定系は、特に建築分野において、前記化学的固定系の導入後に短時間で固定することができるアンカー部材の固定のために適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急速に荷重に耐える化学的固定系、その使用及び他の下記の本発明の主題に関する。
【0002】
建築分野及び一般的な固定分野において、特にアンカー部材、例えばねじ又はボルトを、基材、例えば外壁の穴内で固定するための、急速に硬化するオレフィン系化合物を有する樹脂をベースとする一連の化学的固定系は公知である。例えば、相応する二液型樹脂又は相応するキットは、例えば複数の成分(例えばモノマー又は硬化剤)を別々に含有するマルチチャンバパッケージ又はマルチチャンバーカートリッジの形で存在し、前記成分はアンカー部材を穴に導入する瞬間に又は導入する直前に(例えばアンプルの破壊により又はスタティックミキサーにより)混合され、次いでその中にアンカー部材を導入し、それにより固定することができる。
【0003】
このベースの公知の化学的固定系は、温度依存性でかつ大抵は適当に長い硬化時間を必要とし、従って急速に荷重に耐えることができないという欠点がある。一般に、この硬化時間は室温で30〜45分又はそれ以上であり、これは相応する樹脂又は樹脂モルタルの導入の限られた時間的関係でアンカー部材を導入し、荷重をかけることができないことを意味している。
【0004】
急速な固定は、逆にエクスパンションアンカー又はアンダーカットアンカーの使用の場合に可能であるが、この場合常に適切なアンカー及びボルトサイズの存在並びに相応して均一な穴又は不均一な穴を補償するために費用のかかるアンカー構築を必要とする。更に、この場合、拡張圧力なしでの固定は不可能である。
【0005】
従って、本発明の課題は、今までの系の前記の及び他の欠点なしで短い硬化時間を可能にしかつほとんど急速に荷重に耐える化学的固定を達成することができる化学的固定系を見出すことである。
【0006】
本発明の場合に、前記課題は、反応性オレフィン、特に(メタ)アクリル酸エステルを有する極めて著しく促進された系、及び特に活性のアミン系促進剤と最小量のペルオキシドとの組み合わせでゲル化時間及び硬化時間に極端にわずかな影響を及ぼす抑制剤の使用により達成される。
【0007】
本発明の系を用いて、5〜180秒、例えば30〜120秒の開放時間で、23℃で及び例えば3ヶ月以上、有利に6ヶ月以上の貯蔵安定性で、−5(マイナス5)℃を上回る温度で5分よりも短い硬化時間を達成することができる。この開放時間(又はゲル化時間)は次のように決定される:モルタル及び硬化剤を試験温度(例えば21℃)で調整し、所望の混合比で混合し、混合開始から明らかな粘度上昇が生じるまでの時間を測定する。このゲル化時間又は開放時間は、つまり材料が加工のために十分に低い粘度を示す時間である(混合後に、本発明による化学的固定系がもはや自由に流動せず及び/又は部分的に硬化した部分領域を有するまでの時間)。
【0008】
従って、本発明の一実施態様は、ラジカルにより硬化する(これは「硬化可能」の意味を含む)オレフィン系反応性樹脂調製物(以後、「反応性樹脂調製物」と記載する)、硬化剤を有し、かつ他の添加剤を含有しないか又は他の添加剤を含有する化学的固定系に関し、その際、前記反応性樹脂調製物は1種以上のラジカルにより硬化するオレフィン系反応性樹脂、1種以上のアミン系促進剤、1種以上の非フェノール系(嫌気性)抑制剤及びフェノール系抑制剤なしか又は有利に1種以上のフェノール系抑制剤から構成され、かつ硬化剤としては、開始剤として少なくとも1種のペルオキシドを有する硬化剤が考慮されている化学固定系において、前記反応性樹脂調製物(アミン系促進剤として)は少なくとも1種の高活性アミン系促進剤を、反応性樹脂調製物の質量に対して少なくとも1.5、有利に少なくとも2質量%の量で有し、その中の促進剤対フェノール性抑制剤の質量比は>5、有利に10以上であり(これはフェノール系抑制剤の不在の場合に前記比は「無限」であることも含有する)、かつ前記反応性樹脂調製物(1種以上の非フェノール系抑制剤として)は、反応性樹脂調製物の質量に対して5質量%まで、有利に0.0001〜5質量%の、硬化時間にほとんど影響を及ぼさない少なくとも1種の非フェノール系(嫌気性)抑制剤を有し、かつ硬化剤中に、反応性樹脂調製物の質量に対して少なくとも1%、有利に1.5〜10%のペルオキシドが考慮されている(つまり、反応性樹脂調製物の成分の合計100%に、少なくとも1%のペルオキシドが加えられる)。
【0009】
この前記及び後記で使用される表現は、本願の開示の範囲内で、他の記載がない限り、有利にそれぞれ次に挙げる意味を有し、その際、一般的な表現は、相互に無関係に、つまり単独で、複数でも、又は全ての場合でも本発明の可能な有利な実施態様を生じる特別な定義に置き換えることができる。
【0010】
「含有する」は、それぞれ記載された成分の他になお他の成分を含むことができることを意味し、「からなる」及び「から構成される」は、関連して記載された成分が確定的に列挙されることを意味する。成分が「考慮」されている場合には、相応する系が前記成分を有する(含有する)ことを意味する。
【0011】
本発明による化学的固定系とは、第一に、ラジカルにより硬化するオレフィン系反応性樹脂調製物、又はこれらの成分をベースとする1成分、有利に多成分の樹脂(樹脂モルタル、硬化性材料)及び硬化剤(硬化剤成分)の組み合わせであると解釈され、その際、他の添加剤、例えば特に充填剤は、完全な化学的固定系の構成成分であることもできる。
【0012】
ラジカルにより硬化するオレフィン系反応性樹脂とは、第一に、ラジカルにより硬化する(これは「(例えば硬化剤添加前に)硬化可能」を含む)成分として、不飽和(オレフィン系)の基を有する有機化合物を含有するか又は特に前記有機化合物からなり、特に不飽和カルボン酸基を有する硬化可能なエステル、例えば有利にビニルエステルを含有する有機化合物;例えば特にアクリラートモノマー又はアクリルアミドモノマー、例えばアクリル酸及び/又はメタクリル酸(その際、前記の酸又はその混合物は、以後(メタ)アクリル酸と記載し、相応するエステルは(メタ)アクリラートと記載する)又は有利にそのエステル又はアミド、特にモノ−、ジ−又はトリアクリラート又は−メタクリラート(ヒドロキシプロピル(メタ)アクリラート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリラート、エチレングリコールジ(メタ)アクリラート、ブタンジオールジ(メタ)アクリラート又は(有利にそれぞれエトキシ化された)ビスフェノールA、ビスフェノールF−又はノボラック−ジ(メタ)アクリラートを含む)、エポキシアクリラート(特にジ−又はポリエポキシド、例えばビスフェノールA−、ビスフェノールF−又はノボラック−ジ−及び/又は−ポリ−グリシジルエーテルと、オレフィン系カルボン酸、例えばC2〜C7−アルケンカルボン酸、例えば特に(メタ)アクリル酸との反応生成物の形)、ウレタン−及び/又は尿素アクリラート、及び/又は不飽和カルボン酸成分を有する不飽和ポリエステル樹脂等;特にモノ−、ジ−又はトリアクリラート又は−メタクリラート(特にエトキシ化されたビスフェノールA、ビスフェノールF又はノボラックのジ(メタ)アクリラート)及び/又はエポキシアクリラート;又はこれらの硬化可能なオレフィン系有機成分(有機化合物)の2種以上の混合物を含有する有機化合物を含有するか又は特に前記有機化合物からなり;その際、これとは別に又は有利に付加的に他の硬化可能なオレフィン系化合物、例えばスチレン類、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及び/又はジビニルベンゼンをラジカルにより硬化するオレフィン系反応性樹脂として又はその成分の1つとして考慮することもできる。特に、エポキシアクリラート及び/又はモノ−、ジ−又はトリアクリラート又は−メタクリラート、特に上記のように正確に定義されたもの、又はこれらの成分の2種以上の混合物が有利である。
【0013】
このラジカルにより硬化可能なオレフィン系反応性樹脂(又はこれらの成分の全体量)は、有利に反応性樹脂調製物の質量に対して、例えば5〜98.5質量%、例えば10〜98.5質量%、例えば10〜89.5質量%の質量割合である。
【0014】
アミン系促進剤として、十分に高い活性を有する促進剤が挙げられる。有利なアミン系促進剤の例は、特にジメチルアニリン又はジエチルアニリンよりも高い活性を有する促進剤であり、例えば特に(有利に第3級、特にヒドロキシアルキルアミノ基で置換された)芳香族アミンであり、これはN,N−ビス(ヒドロキシ−C1〜C7−アルキル)−アニリン、−トルイジン又は−キシリジン、特にN,N−ビス(ヒドロキシメチル−又はヒドロキシエチル)−トルイジン又は−キシリジン、例えばN,N−ビス(ヒドロキシメチル−又はヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−キシリジン及び特に有利に相応する工業的生成物(これは主にN−非置換、N−モノ−、N,N−ビス−、N,N,N−トリス−及び/又はN,N,N,N−テトラキス(ヒドロキシ−C1〜C7−アルキル、特にヒドロキシエチル)置換されたアニリン、p−トルイジン又はキシリジン(例えば統計的分布で)を有する工業的生成物)、例えば工業的「エトキシ化されたp−トルイジン」からなるグループから選択される。1種以上のこの種の促進剤も可能である。この促進剤は、反応性樹脂調製物の質量に対して、有利に1.5〜10、特に2〜5質量%の割合(濃度)を有する。
【0015】
フェノール系抑制剤(これはしばしば市販のラジカルにより硬化する反応性樹脂の既に混合された成分として考慮されているが、更に含んでなくてもよい)として、ヒドロキノン類、例えばヒドロキノン、モノ−、ジ−又はトリメチルヒドロキノン、フェノール類、例えば4,4′−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−ベンゼン、ブチルピロカテキン、例えば3,5−ジ−tert−ブチル−1,2−ベンゼンジオール、又は特に4−メトキシフェノール、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらは、反応性樹脂調製物に対して、有利に1質量%まで、特に0.0001〜0.5質量%、例えば0.01〜0.1質量%の割合を有する。この場合、前記の量は、促進剤対フェノール系抑制剤の質量比が>5、有利に10以上、更に有利に15以上、特に有利に20以上(例えば15〜70又は含まれない場合には「無限」)であるように調節される。有利に、もちろんフェノール系抑制剤が考慮され、つまり、これは反応性樹脂調製物中に含まれないことはない。
【0016】
非フェノール系又は嫌気性(つまり、フェノール系抑制剤とは反対に酸素なしでも作用する)抑制剤として(これらは特に硬化時間にほとんど影響を及ぼさない)として、有利にフェノチアジン類、例えばフェノチアジン、又は有機ニトロキシルラジカルが挙げられる。有機ニトロキシルラジカルとして、例えばDE 199 56 509に記載されたもの(この場合、特に前記文献に挙げられた化合物に関して援用することにより組み込まれる)、特に1−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール(「4−OH−TEMPO」)を添加することができる。非フェノール系抑制剤の重量割合は、有利に、反応性樹脂調製物に対して、1ppm〜2%の範囲内、有利に10ppm〜1%の範囲内にある。従って、これらの成分は特に意味があり、大抵は必要である、そうでないと目指す貯蔵安定性(有利に3ヶ月以上、特に6ヶ月以上、例えば2年以上)が達成できないためである。それによりUV安定性及び特に貯蔵安定性を著しく高めることができる。
【0017】
このフェノール系の抑制剤と非フェノール系の抑制剤との組み合わせは、この場合、反応性樹脂調製物のゲル化時間の主にドリフトなしの(driftfrei)調節をも示すような相乗効果を可能にする。反応性樹脂調製物も、上記又は後記又は請求項に記載された化学的固定系のために挙げられたような調製物として、本発明の主題である。
【0018】
この硬化剤は、少なくとも1種のペルオキシドを本来の開始剤として含有する。「硬化剤」の概念は、この場合、有利に前記及び後記の純粋な開始剤又は充填剤あり又はなしで及び/又は溶剤添加物あり又はなしで鈍感化された開始剤を意味し、換言すると、完全な硬化剤成分を意味する。この硬化剤は、別々の成分として及び/又は(特に保護された形、つまり例えばマイクロカプセル化された形で)、反応性樹脂調製物中にも(硬化可能な成分として、つまり硬化剤との混合後にラジカル重合により硬化するような成分として)混入されていてもよい。鈍感化のために、通常の添加物、例えば石膏、チョーク、熱分解ケイ酸、フタラート、クロロパラフィン等を添加することもできる。その他に、なお充填物及び/又は(特にペースト又はエマルションの製造のための)溶剤、特に水を添加することもできる。
【0019】
硬化剤成分に関して、本発明の可能な有利な実施態様の場合に開始剤の割合が1〜90質量%、特に10〜60質量%である。
【0020】
本発明による反応性樹脂調製物の硬化のための開始剤として、ラジカル重合の場合に、ラジカル生成するペルオキシド、例えば有機ペルオキシド、例えばジアシルペルオキシド、例えばジアセチルペルオキシド、ジベンゾイル−又はビス(4−クロロベンゾイル)ペルオキシド、ケトンペルオキシド、例えばメチルエチルケトンペルオキシド又はシクロヘキサノンペルオキシド、又はアルキル過酸エステル、例えば過安息香酸tert−ブチル、無機ペルオキシド、例えば過硫酸塩又は過ホウ酸塩、並びにこれらの混合物が使用される。
【0021】
本発明による化学的固定系に関する前記硬化剤の割合は、この場合、有利に、所属する反応性樹脂調製物の質量に対して、1.2〜50質量%の範囲内にあり、この場合、ペルオキシドの割合は、同様に所属する反応性樹脂調製物の質量(100%)に対して、(付加的に)1質量%以上、有利に1.5〜10質量%である。
【0022】
本発明による化学的固定系中に存在することができる他の添加剤は、特に充填剤、又は他の添加剤、例えば可塑剤、非反応性希釈剤、柔軟剤、安定剤、硬化触媒、流動助剤、チキソトロープ剤、湿潤剤、着色添加剤、染料又は、例えば成分の十分な混合をより良好に制御するための成分の異なる着色のための顔料等、又はこれらの2つ以上の混合物も可能である。この種の他の添加剤は、有利に、全体で、化学的固定系の全質量に対して、例えば0〜40質量%の充填剤の場合の他に合計で0〜90質量%の質量割合で添加される。
【0023】
充填剤として、通常の充填剤、特にセメント、チョーク、砂、石英砂、石英粉等が使用され、これらは粉末として、粒体の形又は成形品の形で添加することができるか、又は他の、例えばWO 02/079341及びWO 02/079293に挙げられたもの(ここではこれに関して援用により取り入れられる)、又はこれらの混合物が使用される。この充填剤は、一方の成分中に、多液型キットの場合には、本発明による多液型キットの複数の成分中に、例えば相応する二液型キットの一方の成分又は両方の成分中に存在することができ;充填剤の割合は、本発明による化学的固定系の全質量に対して、有利に0〜90質量%、例えば10〜90質量%である(この場合、アンカー部材の導入の際に破壊される被覆材料(例えば破壊されるガラス又は破壊されるプラスチック)、例えばカートリッジからの破片も充填剤と見なすことができ、有利である)。
【0024】
本発明による固定系は、一液系(例えば硬化剤が保護される、例えばカプセル化されている場合)又は有利に多液系(多液型キット)を考慮することができ、かつ使用することもできる。
【0025】
多液型キットとは、特に二液型又は多液型キット(有利に、他の下記するような他の添加物、例えば充填剤を付加的に含有することができる反応性樹脂調製物(成分a)と硬化剤(成分b)との成分を有する2液型キット)であると解釈され、その際、他の添加剤は、一方又は両方の成分中に考慮されてていてもよい、有利に2チャンバ装置又は更にマルチチャンバ装置であると解釈され、その際、相互に反応性の成分a)及びb)及び場合による別個の成分は、貯蔵の間に相互に反応できないように含まれ、有利に、適用の前に相互に接触しないように含まれるが、前記接触は、成分a)及びb)及び場合による他の成分が、所望の箇所で固定するために、例えば穴の直前で又は穴の中で混合することができ、必要な場合にはそこで硬化反応を引き起こすことができるように導入することができる。特に適しているのは、例えばプラスチック、セラミック又は特にガラスからなるカートリッジ(これは特に有利である)であり、その中に複数の成分が(例えばアンカー部材を開口部、例えば穿孔中へ導入する際に)破壊可能な分離壁により又は組み込まれた別個に破壊可能な容器により相互に別個に配置されていて、例えば、相互に入り組んだカートリッジ、アンプル;瓶;プラスチック袋、2つ以上の室を備えたシート袋、又は容器、例えば複数の室を有するバケット又は槽又は2つ以上のこの種の容器のセット(例えばコンテナ)として配置されていて、その際、それぞれの硬化可能な材料の2つ以上の成分、特に上記で定義されたような2つの成分a)及びb)は、それぞれ空間的に隔てて、キット又はセットとして存在し、その際、内容物は混合後に又は混合下で、適用箇所に、(特にへら、筆、チューブ、注入器又はスタティックミキサーの用な塗布のための装置を用いて)開口部(穴)、例えば穿孔中へ、アンカー部材、例えばアンカーロッド、ボルト、ねじ等を固定するために導入され;並びに多液型カートリッジ又は特に2液型カートリッジ(これは同様に特に有利である)であり、前記カートリッジの室内に上記又は後記の組成物を有する本発明による固定系の複数の有利に2つの成分(特にa)及びb))が使用の前に保管するために含まれていて、その際、有利にスタティックミキサーも相応するキットに属する。シート袋及び多液型カートリッジの場合に、空にする装置も多液型キットに所属していてもよいが、この装置は有利に(例えば複数回の使用のため又は有利に別個に交換可能であるために)キットから独立していてもよい。
【0026】
本発明による化学的固定系の所望の使用箇所での使用(特に本発明の特別な実施態様として、上記又は後記の量での硬化剤と一緒の上記の及び後記のような反応性樹脂調製物の使用でもある)は、所属する成分、特に反応性樹脂調製物(その際、反応性樹脂調製物を含有する成分は、既に他の添加剤、例えば特に充填剤をも含有することができる)と、上記に定義されたような硬化剤との所望の箇所での混合により、特に穴の付近又は穴の直前で又は(例えば特にスタティックミキサーの使用で又は相応するカートリッジの破壊で)穴の内部、例えば穿孔の内部で行われる。この混合は、穴の外側で、例えば容器中で、例えばボウル中で、又は有利にマルチチャンバーカートリッジ、特に2チャンバ−又は更に3チャンバカートリッジのスタティックミキサー中で、又は例えばマルチチャンバーカートリッジの使用の場合、特に3チャンバ又は有利に2チャンバカートリッジの場合にその内部で行うことができる。前記した有利な特性を有する樹脂モルタルが得られる。
【0027】
固定とは、特に、金属からなるアンカー手段(例えば、アンダーカットアンカー、スレッドロッド、ねじ、穿孔アンカー、ボルト)又は更に他の材料、例えばプラスチック又は木材からなるアンカー手段を用いた、固体の収容材料中での固定、特に前記材料が人工的に達成される建材の構成要素である限り、特に外壁、天井、壁、床、プレート、柱等(例えばコンクリート、天然石、中実な石材又は気孔を有する石材からなる外壁、更にプラスチック又は木材)、特に穴、例えば穿孔中での固定であると解釈される。このアンカー手段を用いて、例えば手すり、カバー部材、例えばプレート、ファッサード又は他の部材を固定することができる。
【0028】
この導入及び混合(使用)は、特に有利に使用されるカートリッジの場合に、マルチチャンバ系として、有利にアンカー手段と一緒に、特に最後の段落に記載されたアンカー手段と一緒に、別個の容器の使用の場合に又は特にスタティックミキサー中で複数の成分が混合されるカートリッジを備えたインジョクションガンの場合に、特に前記アンカー手段の導入の直前に行われる。1つ又は複数のアンカー手段の導入は、有利に、化学的固定系の複数の成分の混合の後に、既に極めて短時間で、有利に5分以内で行われる。詳細のために:複数の成分を、アンカー手段と固定すべき所望の箇所で又は所望の箇所中で、特に穴、例えば穿孔に混合及び導入することで、複数の、ほぼ並行の及び/又は時間的にわずかにだけずれて進行する反応、特に連鎖重合が開始される。この最終的な硬化はin situで行われる。
【0029】
この反応系から、上記に記載されているように又は上記と実施例とに記載されているように、室温でのそれぞれ考慮された硬化剤を用いた開始による硬化によるゲル化時間を測定することができる。
【0030】
アンカー部材に荷重をかけることが5分後又はそれ以内に、例えば特に1〜3分(特に室温で)行なわれることは、アンカー部材が固定すべき部分、例えばプレート、手すりなどに固定され、前記アンカー部材が状態の変化を生じずに荷重をかけられることを意味する。
【0031】
本発明は、特に請求項及び有利に引用形式請求項に記載された本発明の実施態様に関し、そのためこれらはここに援用により取り込まれる。極めて有利な実施態様は実施例に記載する。
【0032】
破壊荷重及び/又は結合応力、ゲル化時間(上記に定義したように)及び固定部材のアンカーのために十分に硬化するまでの時間は、一般に実施例に記載したように測定することができる。破損荷重=破壊荷重は、この試験(穿孔深さ、アンカーロッド直径、特にそれぞれ実施例に挙げられている)の周囲条件下で示すことができるか、又は結合応力は破壊荷重とアンカーロッドの結合した部分の周面の面積との商から算出される。硬化時間とは、破壊荷重が最大達成可能な荷重の80%に達する時間であると解釈される。
【0033】
次の実施例は、本発明の説明に用いられるが、本発明の範囲を制限するものではなく、その際、%表示は、常に質量%に関する:
実施例1:急速に硬化する2液系及びその使用
a) ラジカルによる硬化のための反応性樹脂調製物の製造
エトキシ化したビスフェノールA−ジメチルアクリラート87%、2.8%のエトキシ化トルイジン及び0.05%の4−メトキシフェノールを有するヒドロキシプロピルメタクリラート(Bisomer 2、Cognis Deutschland GmbH & Co KG社のHPMA、デュッセルドルフ、ドイツ国)10%、並びにフェノチアジン0.15%からなる混合物を製造し、その際、%表示は反応性樹脂調製物(成分a))の全質量に関する。
【0034】
b) カートリッジの製造:
成分a)4g、石英砂8g及びジベンゾイルペルオキシド(50%)0.3gを有する硬化剤スティックを、カートリッジM12中に充填した。前記カートリッジを密閉した。
【0035】
c) アンカーボルトの固定のために、1b)からのカートリッジを壁内の穴に導入し、前記穴中へアンカーボルトを回転により及び/又は衝撃により振動させて挿入し、それにより前記カートリッジを破壊し、硬化剤とモノマーとを相互に接触させた。ゲル化時間は21℃で40秒であった。
【0036】
充填剤を有する前記カートリッジの貯蔵安定性は2年を越える。結合応力は、95mmの設置深さでコンクリート(C20/C25)からアンカーロッドM12の引抜試験によって測定される。14mmの穿孔直径で、必要な設置時間(アンカーロッドを実際に全体の設置深さに振動により挿入するための時間)は6.5秒であり、硬化時間は単に2分であった。63kNの破壊荷重が測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカルにより硬化する(これは「硬化可能」を含む)オレフィン系反応性樹脂調製物と、硬化剤とを含有し、かつ他の添加剤を含有しないか又は他の添加剤を含有し、前記反応性樹脂調製物は1種以上の硬化するオレフィン系反応性樹脂と、1種以上のアミン系促進剤と、1種以上の非フェノール系(嫌気性)抑制剤と、フェノール系抑制剤なしか又は1種以上のフェノール系抑制剤とから構成されていて、かつ硬化剤としては、開始剤として少なくとも1種のペルオキシドを有するような硬化剤が考慮される、アンカー部材用の急速に荷重に耐える化学的固定系において、前記反応性樹脂調製物は、1種以上のアミン系促進剤として少なくとも1種の高活性アミン系促進剤を、前記反応性樹脂調製物の質量に対して少なくとも1.5質量%の量で有し、その中の促進剤対フェノール系抑制剤の質量比は>5であり、かつ前記反応性樹脂調製物は1種以上の非フェノール系抑制剤として、前記反応性樹脂調製物の質量に対して5質量%まで、硬化時間にほとんど影響を与えない少なくとも1種の非フェノール系抑制剤を有し、かつ硬化剤中に、反応性樹脂調製物の質量に対して少なくとも1%のペルオキシドが考慮されることを特徴とする、アンカー部材用の急速に荷重に耐える化学的固定系。
【請求項2】
前記反応性樹脂調製物中に少なくとも1種のフェノール系抑制剤が考慮されていて、その中の促進剤対抑制剤の質量比が>5であることを特徴とする、請求項1記載の化学的固定系。
【請求項3】
前記反応性樹脂調製物は、ビニルエステル樹脂;アクリラートモノマー、アクリルアミドモノマー、モノ−、ジ−又はトリアクリラート又は−メタクリラート、エポキシアクリラート、ウレタン−又は尿素アクリラート、不飽和カルボン酸成分とスチレンとを有する不飽和ポリエステル、又はこれらの化合物の2種以上の混合物からなるグループから選択される、ラジカルにより硬化する反応性樹脂のための少なくとも1種の硬化性成分を含有することを特徴とする、請求項1又は2記載の化学的固定系。
【請求項4】
前記反応性樹脂調製物は、前記反応性樹脂調製物の質量に対してアミン系促進剤2質量%以上を含有し、有利に少なくとも1種のフェノール系抑制剤2〜5質量%を有し、アミン系促進剤対フェノール系抑制剤の質量比は10以上、有利に15〜70、特に有利に20〜70であり、硬化剤中に、前記反応性樹脂調製物の質量に対して少なくとも1.5質量%、有利に少なくとも2質量%、特に2〜10質量%のペルオキシドが考慮されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項5】
前記反応性樹脂調製物の質量に対して、ラジカルにより硬化するオレフィン系反応性樹脂又はそれを生じるモノマー又はモノマー混合物は5〜98.5%、特に10〜98.5質量%の質量割合で考慮されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項6】
前記反応性樹脂調製物中に、アミン系促進剤として、N,N−ビス(ヒドロキシC1〜C7−アルキル)−アニリン、−トルイジン又は−キシリジン、特にN,N−ビス(ヒドロキシメチル−又はヒドロキシエチル)−トルイジン又は−キシリジン、有利にN,N−ビス(ヒドロキシメチル−又はヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−キシリジン、及び主にそれぞれN−非置換の、N−モノ−、N,N−ビス−、N,N,N−トリス−及び/又はN,N,N,N−テトラキス(ヒドロキシ−C1〜C7−アルキル、特にヒドロキシエチル)置換されたアニリン、p−トルイジン又はキシリジンを有する工業的生成物、例えば工業的エトキシ化されたp−トルイジンからなるグループから選択される芳香族アミン、又は前記のアミン系抑制剤の2種以上の混合物が考慮されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項7】
前記反応性樹脂調製物中に、フェノール系抑制剤として、ヒドロキノン、ヒドロキノン誘導体、モノ−、ジ−又はトリメチルヒドロキノン、フェノール、特に4,4′−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ブチルピロカテキン、特に3,5−ジ−tert−ブチル−1,2−ベンゼンジオール、又は4−メトキシフェノール、又はこれらの2種以上の混合物が考慮されていて、その際、前記反応性樹脂調製物の質量に対して、前記割合は1%を上回らない、特に0.0001〜1質量%にあるような量に調節され、ただし、アミン系促進剤対フェノール系抑制剤の質量比は>5、有利に10以上、特に15以上、例えばそれぞれ70までである、請求項1から6までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項8】
前記反応性樹脂調製物中に、非フェノール系抑制剤として、フェノチアジン、特にフェノチアジン自体、又は有機ニトロキシルラジカル、特に1−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール、又はこれらの混合物を、前記反応性樹脂調製物の質量に対して、1ppm〜2%、有利に10ppm〜1%の範囲内の質量割合で有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項9】
硬化剤として、開始剤として有機ペルオキシド、特にジアシルペルオキシド、有利にジアセチルペルオキシド、ジベンゾイル−又はビス(4−クロロベンゾイル)ペルオキシド、ケトンペルオキシド、有利にメチルエチルケトンペルオキシド又はシクロヘキサノンペルオキシド、又はアルキル過酸エステル、有利に過安息香酸tert−ブチル、及び他の無機ペルオキシド、例えば過硫酸塩又は過ホウ酸塩から選択される少なくとも1種のペルオキシドを有する硬化剤が考慮され、その際、硬化剤中に、反応性樹脂調製物の質量に対してそれぞれペルオキシド少なくとも2%、有利に2〜15%、特に2〜10%が考慮されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項10】
反応性樹脂調製物及び/又は硬化剤の他に、1種以上の添加剤、特に充填剤及び/又は他の添加剤、例えば可塑剤、非反応性希釈剤、柔軟剤、安定剤、硬化触媒、流動助剤、チキソトロープ剤、湿潤剤、又は着色添加剤、例えば染料又は顔料を含有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項11】
多液型キット、特に二液型キットの形の、請求項1から10までのいずれか1項記載の化学的固定系。
【請求項12】
多液型キットがカートリッジであり、前記カートリッジは反応性樹脂調製物を、場合により1種以上の充填剤、及び硬化剤と空間的に互に隔てられた形で含有することを特徴とする、多液型キットの形の請求項11記載の化学的固定系。
【請求項13】
請求項1から12までに記載された反応性樹脂調製物及び硬化剤を相互に混合し、引き続き又は同時に少なくとも1つの穴に導入し、同時に又は引き続き少なくとも1つのアンカー部材を前記の少なくとも1つの穴に導入する、1つ又は複数のアンカー部材を固定するための請求項1から12までのいずれか1項記載の化学的固定系の使用。
【請求項14】
前記アンカー部材に5分後又はそれ以下で、特に1〜3分後に荷重をかけることを特徴とする、請求項13記載の使用。
【請求項15】
穴が、建造物の構成要素であるか又は建造物の構成要素になる基材、特に外壁、天井、壁、床、プレート又は柱の基材中に存在する、請求項13又は14記載の使用。
【請求項16】
反応性樹脂調製物を、硬化剤及び場合により他の添加剤と混合する、建築分野における固定目的の化学的固定系を製造するための請求項1から8まで又は10のいずれか1項記載の反応性樹脂調製物の使用。

【公表番号】特表2009−541540(P2009−541540A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516982(P2009−516982)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005671
【国際公開番号】WO2008/000452
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(509003117)フィッシャーヴェルケ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (14)
【氏名又は名称原語表記】fischerwerke GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Weinhalde 14−18, D−72178 Waldachtal, Germany
【Fターム(参考)】