説明

情報記録媒体及び情報記録媒体の製造方法

【課題】カードの平滑性を保ちながら印刷シートの印刷部分の歪みも防止し、作業効率を低下させることがない技術を提供する。
【解決手段】ICカード10は、アンテナコイル22及びICチップ23を有するインレット20と、インレット20を内部に収容するコアシート30と、文字や図形等からなる印刷層43が形成される印刷シート40と、印刷シート40を保護するオーバーシート50等とを備える。オーバーシート50や印刷シート40の線膨張係数をコアシート30の線膨張係数よりも小さくすることで、加熱圧着する際には、オーバーシート50や印刷シート40の伸びを抑えつつ、コアシート30の伸びを促進することができる。これにより、コアシート30とICチップ23等とをなじませてカードの平滑性を向上させる一方で、オーバーシート50や印刷シート40の伸びを抑制することによって、印刷シート40の印刷部分の歪みを軽減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触ICカード等の情報記録媒体及び情報記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の情報記録媒体として、専用の外部装置に近接させるだけで情報の読み込みや書き込み可能な非接触ICカードがある。
非接触ICカードは、情報の読み込みや書き込み処理を行う場合、カード自体を専用の装置に挿入する必要がなく、取り扱いが便利なこともあり、近年、急速に普及してきている。
【0003】
このような非接触ICカードとして、カード基材の中心に配置されるコアシートに、ICモジュールを嵌め込む貫通孔を形成し、その貫通孔に樹脂によってモールドされたICモジュールを嵌め込んで、オーバーシートを積層し熱圧プレスしてカードを製造する方法がある。そしてこの際に、カード基材となるコアシートとICモジュールのモールド樹脂との線膨張率(線膨張係数)の差を、一定の範囲内に限定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この技術によれば、コアシートの線膨張率とICモジュールのモールド樹脂の線膨張率の差が、一定の範囲内にあるよう設計されているので、コアシートとモールド樹脂の素材の相違に基づく熱変形が小さく、熱圧プレス時のカードの平面状態が使用時においてもそのまま保たれるため、非接触ICカードであっても、ICモジュールの形状が外部に現れない平滑性のよいカードが得られると考えられる。
【0005】
また、プラスチック製の中間シートと、この中間シートの表裏両面に装着されたプラスチック製のカバーフィルムとを備えたICカードにおいて、表裏面のカバーフィルムの線膨張係数の値をほぼ同じにする技術がある(例えば、特許文献2参照)。
この技術によれば、表裏面のカバーフィルムの線膨張係数を同じ値にすることによって、両カバーフィルムの伸縮量は同程度となり、一方のカバーフィルムの伸縮量が他方のカバーフィルムの伸縮量よりも大きいことに起因するICカードの反りを防止できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−175387号公報
【特許文献2】特開2000−242760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、非接触ICカードは、ICチップ及びアンテナが配置されたインレット、コアシート、印刷シート、オーバーシート等を積層し、それらを加熱・加圧させて完成品のカード形状とするものである。また、非接触ICカードは、非接触通信機能を実現するために、ICカードの内部にICチップやアンテナを設置する必要がある。
【0008】
このような非接触ICカードを製造する場合、インレットに配置されているICチップやアンテナのコアシートへの埋まりを向上させるために、すなわち、コアシートとICチップ等とがよくなじんで凹凸がでないようにするために、高温で熱融着(熱圧プレス)を行なうが、高温で熱融着すると印刷を行なったシート(印刷シート)の印刷部分が歪みやすいという問題がある。そこで、熱融着温度を下げることで、高温度による印刷シートへの影響を緩和させ、印刷シートの印刷部分の歪みを改善することが考えられるが、熱融着の温度を下げると、今度は熱融着時間が長くなるために、作業効率が低下するという問題がある。
ここで、上述した特許文献1の技術は、コアシートとICモジュールの線膨張率の差を一定の範囲内にするものであるが、印刷シートの印刷部分の歪みについては何ら対策はなされていない。
また、特許文献2の技術は、カバーフィルムの線膨張係数を規定するものであるが、中間シートとカバーフィルムとの線膨張係数の相関関係に関しては、開示も示唆もされていない。
【0009】
そこで本発明は、カードの平滑性を保ちながら、印刷シートの印刷部分の歪みも防止し、しかも、作業効率を低下させることがない技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は、第1に情報記録媒体を提供する。第2に本発明は、情報記録媒体の製造方法を提供する。
【0011】
[情報記録媒体]
解決手段1:本発明の情報記録媒体は、アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、インレットを内部に収容するコアシートと、コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、印刷シートに積層され、印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、オーバーシートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体である。
【0012】
解決手段1によれば、各層の配置関係は、コアシート(内部にインレットを収容している)/印刷シート/オーバーシートとなる。そして、本解決手段では、オーバーシートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴としている。ここで、線膨張係数とは、温度の上昇に対応して物体の長さが変化する割合をいい、この値が小さいほど温度が上昇しても物体の長さがあまり変化しないことを意味し、この値が大きいほど温度が上昇すれば物体の長さが長くなりやすいことを意味している。
【0013】
このように、解決手段1では、オーバーシートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴としているので、オーバーシート及びコアシートを同じ温度で加熱した場合には、オーバーシートの伸びを抑えつつ、コアシートの伸びを促進することになる。そして、コアシートが伸びることによって、コアシートの内部に配置されるインレットのICチップやアンテナとよくなじんで凹凸を無くし、カードの平滑性を向上させることができる。一方、オーバーシートの伸びを抑制することによって、オーバーシートに隣接する印刷シートの印刷部分(印刷層)の歪みを軽減させることができる。
【0014】
ここで、本願発明は、その課題のひとつとして、印刷シートの印刷部分の歪みを解決しようとするものであるが、印刷シートは、オーバーシートとコアシートとの間に挟まれるため、オーバーシートとコアシートとの線膨張係数を規定しても、あまり意味がないようにも思われる。しかし、印刷シートは、オーバーシート及びコアシートに挟まれて両者と密接に関わりあっており、しかも印刷シートに形成される印刷層は、印刷シートとオーバーシートとの境界面に形成されるため、オーバーシートの影響を受けやすい。したがって、本解決手段のように、オーバーシート及びコアシートの線膨張係数を規定することでも、印刷シートの印刷部分の歪みの問題を解決することができる。
【0015】
解決手段2:本発明の情報記録媒体は、アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、インレットを内部に収容するコアシートと、コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、印刷シートに積層され、印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、印刷シートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体である。
【0016】
解決手段2によれば、印刷シートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴としているので、印刷シート及びコアシートを同じ温度で加熱した場合には、印刷シートの伸びを抑えつつ、コアシートの伸びを促進することになる。したがって、コアシートが伸びることによって、コアシートの内部に配置されるインレットのICチップやアンテナとよくなじんで凹凸を無くし、カードの平滑性を向上させることができる。一方、印刷シートの伸びを抑制することによって、印刷シートに形成された印刷部分の歪みを軽減させることができる。
【0017】
解決手段3:本発明の情報記録媒体は、解決手段1又は2に記載の情報記録媒体において、オーバーシートの線膨張係数と印刷シートの線膨張係数とは、同一であることを特徴とする情報記録媒体である。
【0018】
解決手段3では、オーバーシートの線膨張係数と印刷シートの線膨張係数とは、同一であることを特徴としているので、オーバーシートと印刷シートとを同じ温度で加熱した場合には、オーバーシートと印刷シートとが同じ割合で伸びることになる。ここで、印刷シートに形成される印刷層は、印刷シートとオーバーシートとの境界面に形成されるため、オーバーシートと印刷シートとが同じ割合で伸びることにより、熱による膨張の影響を受けにくくなる。よって、印刷シートの印刷部分の歪みを最小限に抑えることができる。
【0019】
解決手段4:本発明の情報記録媒体は、解決手段1から3のいずれかに記載の情報記録媒体において、印刷シートは、コアシートの上層に積層された上印刷シート及びコアシートの下層に積層された下印刷シートを有し、オーバーシートは、上印刷シートの上層に積層された上オーバーシート及び下印刷シートの下層に積層された下オーバーシートを有することを特徴とする情報記録媒体である。
【0020】
解決手段4によれば、各層の配置関係は、下から順に、下オーバーシート/下印刷シート/コアシート(内部にインレットを収容している)/上印刷シート/上オーバーシートとなる。また、線膨張係数の関係は、上述した解決手段で説明したように「オーバーシート」<「コアシート」の関係か、「印刷シート」<「コアシート」の関係となる。したがって、情報記録媒体の中心から外側に向かって線膨張係数が小さくなり、それだけ外側の方が加熱による伸びも小さくなる。よって、カードの中心部分ではカードの平滑性を保ちながら、カードの外側部分では印刷シートにおける印刷部分の歪みを防止することができる。
【0021】
[情報記録媒体の製造方法]
解決手段5:本発明の情報記録媒体の製造方法は、アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、インレットを内部に収容するコアシートと、コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、印刷シートに積層され、印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、オーバーシートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体を製造する情報記録媒体の製造方法であって、インレットを内部に収容しているコアシート、印刷シート、オーバーシートをこの順に積層する積層工程と、積層工程で積層した各シートを加熱及び加圧することにより、各シートを結合させる結合工程とを備える情報記録媒体の製造方法である。
【0022】
解決手段6:本発明の情報記録媒体の製造方法は、アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、インレットを内部に収容するコアシートと、コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、印刷シートに積層され、印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、印刷シートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体を製造する情報記録媒体の製造方法であって、インレットを内部に収容しているコアシート、印刷シート、オーバーシートをこの順に積層する積層工程と、積層工程で積層した各シートを加熱及び加圧することにより、各シートを結合させる結合工程とを備える情報記録媒体の製造方法である。
【0023】
解決手段7:本発明の情報記録媒体の製造方法は、解決手段5又は6に記載の情報記録媒体の製造方法において、印刷シートは、コアシートの上層に積層された上印刷シート及びコアシートの下層に積層された下印刷シートを有し、オーバーシートは、上印刷シートの上層に積層された上オーバーシート及び下印刷シートの下層に積層された下オーバーシートを有し、積層工程は、下オーバーシート、下印刷シート、インレットを内部に収容しているコアシート、上印刷シート、上オーバーシートをこの順に積層する工程であることを特徴とする情報記録媒体の製造方法である。
【0024】
解決手段5〜7によれば、上記情報記録媒体の物としての効果に加えて、線膨張係数を適宜設定した各シートを積層工程にて積層し、積層した各シートを加熱及び加圧することにより、1回の結合工程にて結合させて情報記録媒体を製造するので、情報記録媒体を効率よく製造することができる。
【0025】
また、線膨張係数を上述したように適宜設定することにより、熱融着の温度を下げずに情報記録媒体を製造しても、印刷シートの印刷部分の歪みを軽減させることができるので、熱融着の温度を高温に保ったまま高品質の情報記録媒体を提供することができる。さらに、熱融着の温度を下げる必要はないので、作業時間が長くなることはなく、作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、オーバーシートや印刷シートの線膨張係数を、コアシートの線膨張係数よりも小さくすることで、加熱時においてはコアシートを積極的に膨張させて平滑性を実現するとともに、オーバーシートや印刷シートについては熱による膨張を抑制させて印刷部分の歪みを防止することができ、製品品質を向上させることができる。
また、本発明によれば、オーバーシートや印刷シートの線膨張係数を、コアシートの線膨張係数よりも小さくすることで、熱融着温度を下げることなく熱融着が行えるようになり、熱融着時間を短縮させて作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る情報記録媒体を示す分解斜視図である。
【図2】図1のII−II断面を示す断面図である。
【図3】ICカード10の製造方法について説明する工程図である。
【図4】実施例及び比較例の各材料の線膨張係数の値と評価結果とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の情報記録媒体、及び情報記録媒体の製造方法の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る情報記録媒体を示す分解斜視図である。図2は、図1のII−II断面を示す断面図であって、図2(A)は、各層を分解して示した図であり、図2(B)は、各層を分解せずに結合させて示した図である。
【0029】
図1及び図2に示すように、ICカード10は、情報記録媒体の一例として挙げる非接触式のICカードである。
ICカード10は、その中心部分にインレット20が配置される。
インレット20は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET−G(非結晶性ポリエチレンテレフタレート)等で形成されたフィルム基板21を備える。
【0030】
フィルム基板21の表面には、フィルム基板21の外周に沿って数重に巻かれたアンテナコイル(アンテナ線)22が形成されている(図1中では1重巻で示している)。アンテナコイル22は、アルミ箔や銅箔をフィルム基板21に貼り付け、エッチングでコイル形状を形成する方法、スクリーン印刷にて銀ペーストを印刷してコイル形状を形成する方法、ワイヤーを引き回してコイル形状を形成する方法、アンテナコイル用の転写箔を転写させてコイル形状を形成する方法等で形成することができる。アンテナコイル22の線幅は、例えば約0.5〜1.0mm程度である。
【0031】
フィルム基板21の表面には、アンテナコイル22に接続されたICチップ23が配置されている。ICチップ23は、CPUやRAM、ROM、EEPROM等の半導体メモリを搭載したチップである。
ICチップ23の上面部分、及び、フィルム基板21の裏面であってICチップ23の真裏には、補強板24が配置される。補強板24は、ICチップ23を上下から挟み込んでICチップ23を補強する役割を果たすものであり、ステンレス等の金属材料によって構成される。なお、設計や仕様によっては、補強板24を配置しなくてもよい。
【0032】
インレット20は、コアシート30の内部に収容される。
コアシート30は、土台シート31及びふたシート33によって構成される。
土台シート31は、インレット20の上層及び下層に配置され、その一部に貫通孔32を有し、貫通孔32にICチップ23及び補強板24が挿入される。貫通孔32にICチップ23及び補強板24が挿入されることによって、土台シート31の内部にICチップ23及び補強板24が収容される(図2(A)参照)。
ふたシート33は、上側の土台シート31の上層、及び下側の土台シート31の下層に配置され、貫通孔32を封止するものである。
本実施形態では、コアシート30は、枠形状のスペーサーシート35にはめ込まれて配置されている。ここで、スペーサーシート35とは、インレット20の外形サイズがICカード10の外形サイズより小さい場合に用いる部材である。スペーサーシート35を用いる理由は、スペーサーシート35を配置しないと、その部分の厚みが薄くなってしまうからである。そこで、スペーサーシート35にインレット20の外形とほぼ同じ大きさの孔をあけてそこにインレット20をはめ込んでいる。なお、インレット20の外形サイズがICカード10の外形サイズとほぼ同じであれば、スペーサーシート35を用いる必要はない。
【0033】
コアシート30の上層及び下層には、印刷シート40が配置される。
印刷シート40は、コアシート30の上層に積層された上印刷シート41及びコアシート30の下層に積層された下印刷シート42を有し、文字や図形等からなる印刷層43が形成される。印刷シート40は、有色材料(例えば白色の顔料)が添加されて、有色のシートとなる。
本実施形態では、印刷シート40は、コアシート30の上層及び下層に直接的に積層しているが、例えばICカード10の平滑性をより向上させるための別のシートを介して間接的にコアシート30に積層させてもよい。
また、印刷層43は、必ずしも上印刷シート41と下印刷シート42との両方に形成する必要はなく、いずれか一方にのみ印刷層43を形成してもよい。
【0034】
印刷シート40の上層及び下層には、オーバーシート50が配置される。
オーバーシート50は、上印刷シート41の上層に積層された上オーバーシート51及び下印刷シート42の下層に積層された下オーバーシート52を有し、印刷シート40を保護するシートである。オーバーシート50は、無色(透明又は半透明)のシートである。
【0035】
本実施形態では、コアシート30、印刷シート40、オーバーシート50については、すべてのシートにおいてPET−G(非結晶性ポリエチレンテレフタレート)を使用している。そして、熱圧着を行う際の線膨張係数を考慮して各シートの線膨張係数を決定している。各シートの線膨張係数の具体的な値については後述する実施例で詳細に説明するが、基本的には、オーバーシート50や印刷シート40の線膨張係数を、コアシート30の線膨張係数よりも小さくしている。
【0036】
次に、本実施形態に係るICカード10の製造方法について説明する。
図3は、ICカード10の製造方法について説明する工程図である。
【0037】
〔積層工程;ステップS100〕
まず、下オーバーシート52、下印刷シート42、コアシート30(内部にインレット20を収容している)、上印刷シート41、上オーバーシート51をこの順に積層する(図2(A)に示す状態)。なお実際には、各シートが多面付けされたシートを積層する。
【0038】
〔結合工程;ステップS200〕
そして、ステップS100の積層工程で積層した各シートを加熱及び加圧することにより、各シートを結合させる。具体的には、上オーバーシート51の上方及び下オーバーシート52の下方から、所定の温度と所定の圧力とで熱プレスして加熱圧着させる。
【0039】
加熱及び加圧の条件は例えば以下の通りである。なお、これらの条件はあくまで好適な一例であり、加熱及び加圧の条件は適宜変更することができる。
(1)プレス条件(加圧条件):圧力12.5kg/cm
(2)プレス温度(加熱条件):150度(℃)
(3)総プレス時間:40分
【0040】
次に、具体的な実施例を挙げて説明する。
図4は、実施例及び比較例の各材料の線膨張係数の値と評価結果とを示す図である。
まず、実施例1,2及び比較例1〜4について、各シートの線膨張係数を以下に示す。なお、図中に示される各シートについては、すべてPET−Gを使用している。線膨張係数の単位は1/℃である。また、スペーサーシート35(図1及び図2参照)の厚みは、50μmであり、素材はPET−Gであり、線膨張係数は8×10−5である。スペーサーシート35は、インレット20の外周部分に配置されているため、ICチップの埋まり等に直接影響を及ぼすものではないから評価の対象とはしていない。なお、実施例中の各線膨張係数は、JIS−K7197の試験法に則って測定された値である。
【0041】
〔実施例1〕
(1)オーバーシート :線膨張係数=4×10−5
(2)印刷シート :線膨張係数=4×10−5
(3)ふたシート(コアシート):線膨張係数=8×10−5
(4)土台シート(コアシート):線膨張係数=8×10−5
【0042】
〔実施例2〕
(1)オーバーシート :線膨張係数=4×10−5
(2)印刷シート :線膨張係数=8×10−5
(3)ふたシート(コアシート):線膨張係数=8×10−5
(4)土台シート(コアシート):線膨張係数=8×10−5
【0043】
〔比較例1〕
(1)オーバーシート :線膨張係数=8×10−5
(2)印刷シート :線膨張係数=8×10−5
(3)ふたシート(コアシート):線膨張係数=8×10−5
(4)土台シート(コアシート):線膨張係数=8×10−5
【0044】
〔比較例2〕
(1)オーバーシート :線膨張係数=8×10−5
(2)印刷シート :線膨張係数=8×10−5
(3)ふたシート(コアシート):線膨張係数=6×10−5
(4)土台シート(コアシート):線膨張係数=6×10−5
【0045】
〔比較例3〕
(1)オーバーシート :線膨張係数=4×10−5
(2)印刷シート :線膨張係数=4×10−5
(3)ふたシート(コアシート):線膨張係数=4×10−5
(4)土台シート(コアシート):線膨張係数=4×10−5
【0046】
〔比較例4〕
(1)オーバーシート :線膨張係数=8×10−5
(2)印刷シート :線膨張係数=8×10−5
(3)ふたシート(コアシート):線膨張係数=4×10−5
(4)土台シート(コアシート):線膨張係数=4×10−5
【0047】
実施例1,2及び比較例1〜4の各シートの厚みは、以下に示すように全て共通している。なお、厚みの単位はμmである。
(1)オーバーシート :厚み= 50
(2)印刷シート :厚み=100
(3)ふたシート(コアシート):厚み= 50
(4)土台シート(コアシート):厚み=175
【0048】
〔評価項目〕
そして、実施例1,2及び比較例1〜4について、上記図3の製造条件にて実際にICカードを製造し、それぞれ以下の(A)(B)の2つの観点から評価を行った。
【0049】
(A)文字歪み
完成したICカードを肉眼観察し、印刷シートに印刷された文字の歪みについて評価した。評価方法は、以下の通りである。
文字の歪みがまったく認められない場合:評価結果「きわめて良好(◎)」
文字の歪みがほとんど認められない場合:評価結果「良好(○)」
文字の歪みが若干認められる場合 :評価結果「やや不良(△)」
文字の歪みが認められる場合 :評価結果「不良(×)」
【0050】
(B)チップ埋まり
完成したICカードを肉眼観察し、ICチップ(補強板も含む)が土台シートの貫通孔にしっかりと埋まっているか、ICチップが設置されている周辺に出っ張りや凹み等がないか等について評価した。なお、チップの埋まり具合については、完成したICカードを分解して確認することもできる。チップ評価方法は、以下の通りである。
ICチップの凹凸が完全にない場合 :評価結果「きわめて良好(◎)」
ICチップの凹凸がほとんどない場合 :評価結果「良好(○)」
ICチップの凹凸が若干認められる場合 :評価結果「やや不良(△)」
ICチップの凹凸が認められる場合 :評価結果「不良(×)」
【0051】
図4から以下の点が明らかである。
(1)実施例1,2はいずれも、2つの評価項目(A)(B)の両方について「きわめて良好(◎)」又は「良好(○)」との評価結果を得ることができた。
(2)これに対し、比較例1〜4は、2つの評価項目(A)(B)のうち、いずれかの評価項目で「やや不良(△)」又は「不良(×)」と評価されていることから、完成品のICカードとして適切でないことが分かる。以下、この点について具体的に検証する。
【0052】
〔実施例1〕
実施例1は、2つの評価項目(A)(B)の両方について「きわめて良好(◎)」との評価を得ている。
実施例1の線膨張係数の値の関係は、簡単な関係式を用いて説明すると、「オーバーシート(4×10−5)」=「印刷シート(4×10−5)」<「コアシート(8×10−5)」となる。すなわち、印刷シートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴としているので、印刷シート及びコアシートを同じ温度で加熱した場合には、印刷シートの伸びを抑えつつ、コアシートの伸びを促進することになる。したがって、コアシートが伸びることによって、コアシートの内部に配置されるインレットのICチップやアンテナ等とよくなじみ、なおかつ、コアシートの伸びによってコアシートの土台シートに形成された貫通孔を埋めることとなり、カードの平滑性を向上させることができる。これにより、「チップ埋まり」の評価項目(B)が「きわめて良好(◎)」になったものと考えられる。
【0053】
一方、印刷シートの伸びを抑制することによって、印刷シートに形成された印刷部分の歪みを軽減させることができる。さらに、実施例1では、オーバーシートの線膨張係数と印刷シートの線膨張係数とが同一であることを特徴としているので、オーバーシートと印刷シートとを同じ温度で加熱した場合には、オーバーシートと印刷シートとが同じ割合で伸びることになる。ここで、印刷シートに形成される文字等の印刷層は、印刷シートとオーバーシートとの境界面に形成されるため、オーバーシートと印刷シートとが同じ割合で伸びることにより、熱による膨張の影響を受けにくい。よって、印刷シートに印刷された文字の歪みを最小限に抑えることができる。これにより、「文字歪み」の評価項目(A)も「きわめて良好(◎)」になったものと考えられる。
【0054】
〔実施例2〕
実施例2は、評価項目(A)については「良好(○)」、評価項目(B)については「きわめて良好(◎)」との評価を得ている。
実施例2の線膨張係数の値の関係は、簡単な関係式を用いて説明すると、「オーバーシート(4×10−5)」<「印刷シート(8×10−5)」=「コアシート(8×10−5)」となる。すなわち、オーバーシートの線膨張係数は、コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴としているので、オーバーシート及びコアシートを同じ温度で加熱した場合には、オーバーシートの伸びを抑えつつ、コアシートの伸びを促進することになる。このように、コアシートが伸びることによって、実施例1と同様に、コアシートの内部に配置されるインレットのICチップやアンテナ等とよくなじみ、なおかつ、コアシートの伸びによってコアシートの土台シートに形成された貫通孔を埋めることとなり、カードの平滑性を向上させることができる。これにより、「チップ埋まり」の評価項目が「きわめて良好(◎)」になったものと考えられる。
【0055】
一方、オーバーシートの伸びを抑制することによって、オーバーシートに隣接する印刷シートの印刷部分の歪みを軽減させることができる。ここで、実施例2は、実施例1のものと異なり、オーバーシートの線膨張係数が、印刷シートの線膨張係数よりも小さい。したがって、オーバーシート及び印刷シートを同じ温度で加熱した場合には、両者の伸び率も異なってくる。これにより、印刷シートとオーバーシートとの境界面に形成される文字等の印刷層はごくわずかではあるが少々歪んで「文字歪み」の評価項目が「良好(○)」になったものと考えられる。
【0056】
〔比較例1〕
比較例1は、評価項目(A)については「不良(×)」の評価結果であり、評価項目(B)については「きわめて良好(◎)」の評価結果を得ている。
評価項目(A)が「不良(×)」となった原因としては、三層(コアシート、印刷シート、オーバーシート)全ての線膨張係数が高いため、各シートが伸びやすく、また、オーバーシートと印刷シートとの線膨張係数が同じであることが考えられる。一方、評価項目(B)が「きわめて良好(◎)」となった原因は、コアシートの線膨張係数が実施例1,2と同じであるため、実施例1,2と同じ結果が得られたものと考えられる。したがって、全ての層の線膨張係数が高い値に設定されている場合も、本発明の課題の解決はできないことが分かった。
【0057】
〔比較例2〕
比較例2は、評価項目(A)については「不良(×)」の評価結果であり、評価項目(B)については「やや不良(△)」の評価結果を得ている。
原因としては、コアシートの線膨張係数の値(6×10−5)が、オーバーシートの線膨張係数の値(8×10−5)や、印刷シートの線膨張係数の値(8×10−5)よりも小さいことがあげられる。コアシートの線膨張係数の値(6×10−5)が小さいので、ICチップの埋まりが「やや不良(△)」となり、それによってICカードが平滑にならず、文字の歪みも「不良(×)」になってしまったものと考えられる。
【0058】
〔比較例3〕
比較例3は、評価項目(A)については「やや不良(△)」の評価結果であり、評価項目(B)については「不良(×)」の評価結果を得ている。
比較例3は、オーバーシート、印刷シート、コアシートの線膨張係数がすべて共通の値値(4×10−5)である。この例では、各シートに線膨張係数の相違を持たせていないため、全てのシートが同じ割合で伸びてしまい、印刷シートの印刷層が若干歪んでしまったものと考えられる。また、土台シート(コアシート)の線膨張係数が小さすぎたため、プレス(加熱圧着)によってICチップが土台シートの貫通孔にうまく埋まらず、それによって文字の歪みも発生したものと考えられる。コアシートについては、比較例3のように線膨張係数が小さいと柔軟点(加熱により材料がやわらかくなり始める温度)が高くなってしまい、ICチップ付近の埋まりが悪くなってしまうことが分かった。
【0059】
〔比較例4〕
比較例4は、2つの評価項目(A)(B)の両方について「不良(×)」との評価を得ている。
比較例4は、印刷シートの線膨張係数の値(8×10−5)や、オーバーシートの線膨張係数の値(8×10−5)が、コアシートの線膨張係数の値(4×10−5)よりも大きいため、印刷シートがプレス時(加熱及び加圧時)にながれてしまい(伸びすぎてしまい)、文字が歪んでしまったと考えられる。また、コアシートの線膨張係数も小さいため、加熱圧着によってICチップが土台シートの貫通孔にうまく埋まらなかったものと考えられる。
【0060】
ここで、比較例1〜4のものについては、加熱圧着する際に、加熱する温度を120℃まで低下させることによって、いずれかの評価項目(A)又は(B)を「良好(○)」にすることもできたが、この場合、熱融着時間が長くなるために、作業効率が低下してしまった。図3のステップS200の例では、総合して40分程度の製造時間で済んだが、加熱する温度を低下させて熱融着時間を長くした場合には、その1.5倍程度の60分程度の製造時間がかかってしまった。
【0061】
これら実施例と比較例との対比から以下の事項が明らかである。
(1)印刷シートの線膨張係数をコアシートの線膨張係数よりも小さくすると、文字歪み及びチップ埋まりが良好となる。
(2)オーバーシートの線膨張係数をコアシートの線膨張係数よりも小さくすると、文字歪み及びチップ埋まりが良好となる。
(3)上記(1)又は(2)の条件の下で、オーバーシートの線膨張係数と印刷シートの線膨張係数とを同一にすると、文字歪みがきわめて良好となり、品質のよいICカードを提供することができる。
【0062】
本発明は、上述した一実施形態に制約されることなく、各種の変形や置換を伴って実施することができる。本発明の情報記録媒体は、ICカードの例で説明したが、ICタグ等であってもよい。また、コアシート30、印刷シート40、オーバーシート50については、すべてにPET−Gを使用する例で説明したが、これに限らず、PETやPEN、PBT等を使用してもよい。さらに、一実施形態で挙げたインレット及びICカードの構成はいずれも好ましい例示であり、これらを適宜変形して実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
10 ICカード
20 インレット
21 フィルム基板
22 アンテナコイル
23 ICチップ
24 補強板
30 コアシート
31 土台シート
32 貫通孔
33 ふたシート
35 スペーサーシート
40 印刷シート
41 上印刷シート
42 下印刷シート
50 オーバーシート
51 上オーバーシート
52 下オーバーシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、
前記インレットを内部に収容するコアシートと、
前記コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、
前記印刷シートに積層され、前記印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、
前記オーバーシートの線膨張係数は、前記コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項2】
アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、
前記インレットを内部に収容するコアシートと、
前記コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、
前記印刷シートに積層され、前記印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、
前記印刷シートの線膨張係数は、前記コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の情報記録媒体において、
前記オーバーシートの線膨張係数と前記印刷シートの線膨張係数とは、同一であることを特徴とする情報記録媒体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の情報記録媒体において、
前記印刷シートは、
前記コアシートの上層に積層された上印刷シート及び前記コアシートの下層に積層された下印刷シートを有し、
前記オーバーシートは、
前記上印刷シートの上層に積層された上オーバーシート及び前記下印刷シートの下層に積層された下オーバーシートを有することを特徴とする情報記録媒体。
【請求項5】
アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、
前記インレットを内部に収容するコアシートと、
前記コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、
前記印刷シートに積層され、前記印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、
前記オーバーシートの線膨張係数は、前記コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体を製造する情報記録媒体の製造方法であって、
前記インレットを内部に収容している前記コアシート、前記印刷シート、前記オーバーシートをこの順に積層する積層工程と、
前記積層工程で積層した各シートを加熱及び加圧することにより、前記各シートを結合させる結合工程とを備える情報記録媒体の製造方法。
【請求項6】
アンテナコイル及びそのアンテナコイルに接続されたICチップを有するインレットと、
前記インレットを内部に収容するコアシートと、
前記コアシートに対して直接的に積層されるか、若しくは所定のシートを介して間接的に積層され、所定の印刷層が形成される印刷シートと、
前記印刷シートに積層され、前記印刷シートを保護するオーバーシートとを備え、
前記印刷シートの線膨張係数は、前記コアシートの線膨張係数よりも小さいことを特徴とする情報記録媒体を製造する情報記録媒体の製造方法であって、
前記インレットを内部に収容している前記コアシート、前記印刷シート、前記オーバーシートをこの順に積層する積層工程と、
前記積層工程で積層した各シートを加熱及び加圧することにより、前記各シートを結合させる結合工程とを備える情報記録媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の情報記録媒体の製造方法において、
前記印刷シートは、
前記コアシートの上層に積層された上印刷シート及び前記コアシートの下層に積層された下印刷シートを有し、
前記オーバーシートは、
前記上印刷シートの上層に積層された上オーバーシート及び前記下印刷シートの下層に積層された下オーバーシートを有し、
前記積層工程は、
前記下オーバーシート、前記下印刷シート、前記インレットを内部に収容している前記コアシート、前記上印刷シート、前記上オーバーシートをこの順に積層する工程であることを特徴とする情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−33125(P2012−33125A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174312(P2010−174312)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】